学術出版にゴースト(幽霊)出没?!
学術出版において、オーサーシップ(著者資格)を持っているのに著者として名前が論文に記載されない「 ゴースト オーサー(幽霊著者)」が増えていると言われています。論文として不適切であり、倫理違反が行われる可能性も高く、信頼性を傷つけかねないのにも関わらず、なぜゴーストオーサーが増えているのでしょうか。
学術出版において、オーサーシップ(著者資格)を持っているのに著者として名前が論文に記載されない「 ゴースト オーサー(幽霊著者)」が増えていると言われています。論文として不適切であり、倫理違反が行われる可能性も高く、信頼性を傷つけかねないのにも関わらず、なぜゴーストオーサーが増えているのでしょうか。
研究者は、自らの研究成果を少しでもインパクトの高い学術雑誌(ジャーナル)に投稿しようと日々研鑽を重ねています。しかし、論文出版には困難が伴い、せっかく投稿した論文が却下(リジェクト)されることも少なくありません。多くの研究者がキャリアの中で一度はリジェクトを経験し、失敗から学んだ経験を次の論文投稿に生かしていることでしょう。今回は、一般的にリジェクトにされる12の理由と注意すべき点について考えてみます。 1. 内容とタイトルのミスマッチ タイトルは論文内容にあったものにします。タイトルで論文の内容を適切に示せていないと読者の興味を引けないだけでなく、論文の検索にも影響します。また、ジャーナルの投稿規程に反したタイトルがついている場合はリジェクトの対象となります。 2. 要約が要約になっていない(アブストラクトの不備) 要約(アブストラクト)はそれだけ読んでも論文の内容を把握できるように書かれているべきであり、論文の内容を正確に反映させるものです。読者の誤解を招く恐れのある記述であってはなりません。 3. 序論が本文とあっていない(イントロダクションの不備) 論文の頭である序論(イントロダクション)が、論文全体の内容がわかるように書かれていないと、本文を読み進む気力を削ぐことになってしまいます。イントロダクションには、研究における論点、仮定、研究の目的が示されていなければなりません。 4. 不適切な方法(メソッド)の記載 適切な引用説明もなく以前書いた他の論文から方法をコピーするのは自己盗用に該当します。実際の実験で利用した方法を正確に記載しましょう。また、データの収集方法や、解析方法が不適切と判断された場合もリジェクトの対象となります。そして、研究が再現できるかどうかを確認しておくことが大切です。 5. 記載もれ…
学術、特に学術出版の世界は、この数十年の間に多くの変化に見舞われました。デジタル化の波に押され、学術雑誌(ジャーナル)の購読料問題やオープンアクセスへの流れなどが大きく取り上げられていますが、研究論文の中身についても、第三者や自分自身の研究結果を再現しようとして失敗する「再現性の危機(Replication Crisis)」や、研究結果に不都合な傾向が見られた場合に報告されない「出版バイアス(Publication Bias)」などが、対処すべき深刻な問題として挙げられています。 今、これらへの対応策として研究者の間で広がりつつあるのが、研究の 事前登録 (Pre-registration)です。事前登録とはどのようなもので、どのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか。 ■ 事前登録(Pre-registration)とは? 事前登録とは、実験、つまり実際にデータを収集し始める前に、第三者に研究の仮説とデータの収集・分析計画を提出しておくことです。論文の序論(Introduction)と手法(Method)に書かれるべき内容を事前に提出しておくことで、集めたデータから統計的に有意な結果だけを拾うのを防ぐアプローチです。 2004年にニューヨーク州当局が英国系大手製薬会社グラクソ・スミスクライン(GSK)を提訴した事件がきっかけとなり、研究者の間で臨床試験の事前登録を行うことが一般的になりました。この訴訟は、GSK社が行った研究の5つの結果のうち、4つに抗うつ剤パキシルを処方した小児や青少年に効果がないばかりか、自殺傾向を高めるリスクがあることが示されていたにもかかわらず、GSK社が隠蔽していたことに対するものでした。ニューヨーク州当局は、同社がパキシルの有効性と安全性を宣伝して販促を行ったことで不当に得た利益を、州に差し出すよう求めたのです。患者への悪影響を重くみた米国と英国は、この薬を小児や青年に投与しないように呼びかけ、同年、医学雑誌編集者国際委員会(International Committee of Medical Journal Editors)は臨床試験の事前登録を義務づけました。以降、事前登録は、心理学と政治学の分野で広く採用されるようになり、ライフサイエンスの分野でも徐々に浸透しつつあります。ちなみに、無料のオープンサービスを提供している非営利組織Center for…
読者から購読料を徴収する従来の定期購読式の学術雑誌(ジャーナル)とは異なる出版形態である、オープンアクセス(OA)ジャーナルが広まっています。OAジャーナルは、購読料をとらずに掲載に必要なコストを回収するため、論文掲載料(Article Processing Charge : APC)を論文執筆者から徴収しています。OAジャーナルの新たな類型として存在を増しているのが ハイブリッド・ジャーナル 。これは、定期購読式のジャーナルが一部のコンテンツを無料で公開する、あるいは著者が投稿論文を出版する形式として従来の定期購読式かOAのいずれかを選択するという形態です。ハイブリッド・ジャーナルの場合、論文をOAで公開するコストについては執筆者が追加料金を支払うものが多くなっています。 ハイブリッド・ジャーナルは出版料の二重取りか ハイブリッド・ジャーナルでは出版料の二重取りが発生するケースがあることが議論されています。 執筆者から論文をOAにするための掲載料を徴収 さらに大学図書館などの購読者から、OAジャーナルの購読料を徴収 このケースでは、執筆者と購読者両方から料金をとっていることになるため、二重取りになります。つまり、出版社は著者や研究助成機関に論文掲載料を課金する一方で、大学図書館や読者にも購読料を課金する――「ダブルディッピング」とも言われる二重払い問題です。これに対する出版社の反論は、OA論文の掲載料相当分については購読料を割引しているというもの。しかし、この割引が適正に行われていることを確かめるのは、実際には難しいのが現状です。というのは、大学をはじめとする大規模な研究機関は多数のジャーナルを購読しており、多くの場合はそれらを「一括」する特別料金で購読契約しているのです。この場合、ひとつのジャーナルの料金を正確に特定することが可能でしょうか?大学図書館などが年間購読料を支払っている場合、ハイブリッド・ジャーナルの中でOAを希望した著者にAPCを課すことは二重取りになってしまうのではないでしょうか? ハイブリッド・ジャーナルは高いのか 論文をハイブリッド・ジャーナルでOA化する場合、出版社は著者に対しても論文掲載料を請求します。その額はタイトルや出版社によって違いがありますが、一般的には1論文あたりUS$1,500~5,200とも言われ、フルOA(すべての論文をOAで公開)にする場合の掲載料に比べてはるかに高いと指摘されています。さらに、投稿した論文が複数の一括契約に含まれている場合、大学図書館などは知らないうちに該当の論文に対して二重払いをしたことになりかねません。ダブルディッピングは余計なコスト負担を強いるものであり、研究成果へのアクセスにも影響を及ぼすことにつながっているのです。 著者に追加費用の負担を課すだけでなく、ハイブリッドOA論文に対する読者のアクセスが十分に保証されていないケースがあることも問題視されています。過去には、論文が完全に公開されるまでに数ケ月から一年かかるものもありました。一定期間経過すれば掲載論文を無料でアクセス可能にするジャーナルもあることも考えあわせると、公開までに時間を要するハイブリッド・ジャーナルへの論文掲載は利用者にとって「無駄なコスト」を要するものです。…
自分の研究の間違いに気づいた時、沈みこむような思いを感じた経験はありますか?例えば、実験を続けてきたサンプルのラベルに付け間違いが起こってしまい、細胞株が想定していたものとは異なっていたとしたら・・・・・・既に論文にして発表した実験の結論は、正しくなかったことになります。まったく想定外のこととは言え、自分の研究成果が学術界を意図せずミスリードしてしまうだけでなく、自分の実験を再現するために他の研究者の時間と労力を無駄にさせてしまうことになることでしょう。さらなる悪影響が生じる前に、論文を自主的に撤回しますか?論文を撤回すると、誤った研究結果を発表したことが学術界の知るところとなるほか、研究者としての経歴にどのような影響を及ぼすのでしょうか。 論文撤回の影響 研究結果を発表・報告することを目的に出版された論文を修正する方法には、訂正と撤回があります。訂正はあくまでも修正のレベルであり、論文に記された実験の結果の信頼性が疑われるような深刻な間違いなどが見つかった場合には、撤回となります。過去における論文の撤回の多くは研究者による不正に伴うものであり、学術雑誌(ジャーナル)の編集者が撤回を行います。一方、研究者が自分の間違いや重大な問題に気づき、自ら編集者に論文撤回を申請することもあります。自分の非を認めて自主的に論文を撤回することが歓迎されたとしても、不名誉な印象はつきまといます。今後、撤回論文の研究者が発表する論文を他の研究者は信頼して引用してくれるでしょうか? 研究資金の獲得に影響する恐れはあるのでしょうか?学術界で職を得ることができるでしょうか?論文撤回が否定的に見られる以上、不安は山積みです。 有難いことに学術界は、意図しない誤りによる撤回には寛容な姿勢を示す傾向があります。撤回を通じて研究者は誤りから学ぶことができ、同時に、ジャーナルは不適切な論文を除外することができるので、関係者にとっては有益です。従って、長期的に見れば、自主撤回を推奨することは学術界のためになるのです。 研究履歴に「論文を自主撤回した」記録が残ることで疑念を持たれるとしても、逆に自分の長所に変えてしまうこともできます。つまり、自主撤回は、その研究論文の執筆者が次のような資質を備えていると言えるのです。 誠実であること 自分を省みることができ(自省的)、自分の研究も批判的にみることができること 自分の考えに対し、批判を聞く耳があること 自分の誤りから学べること 自主撤回は推奨されるべき 発表した論文の間違いを執筆者が認めて撤回しなければ、その誤りは修正されないままとなってしまいます。そう考えれば、論文の撤回は推奨されてしかるべきことでしょう。とはいえ、研究不正を隠すため、あるいは不正行為に基づく研究を発表したとの疑惑を回避するために自主撤回することも考えられます。一、二度程度であれば自主撤回を悪用して不正を切り抜ける不誠実な執筆者がいるかもしれませんが、度重なれば学術界から疑念を持たれることになります。 不適切な研究論文が淘汰されることは望ましいことです。そして、学術誌は確実に自主撤回の悪用を最小限に抑える仕組みを考慮しつつ撤回に関する方針を作成することでしょう。学術界にとって自主撤回は確かな利益となりえるのです。 自主撤回するには ほとんどの著者は論文の撤回を自ら率先して行いたいと思いません。それでも間違いに気づいたら、学術雑誌の定める撤回のガイドラインに従って申請を行いましょう。ガイドラインとは、学術出版に従事する人たちが一定の質を確保し、その分野での一貫性を保持することに資するものです。学術雑誌により多少の違いはありますが、全般的な考え方は同じです。撤回の場合の手順は次の通りとなります。 共著者がいれば、その全員に、間違いと自主撤回の意向を伝える。…
研究者が実績を積み、経歴を高めていくために、論文の発表は必須です。しかし、論文を発表するには、査読プロセスで採択されなければなりません。査読の結果、学術雑誌(ジャーナル)の編集部がどのように掲載論文を選定しているのか疑問を感じている研究者が多かったことから、一部のジャーナルは査読の結果を「査読レポート」として公表することで応えています。 査読レポートは、査読の依頼を受けた研究者が、専門家の立場から投稿論文に対する意見や所見を示すもので、編集部が該当論文を出版するかどうかの判定を左右します。編集部が査読レポートを著者に送り、必要な修正を求めることもありますが、通常は非公開とされてきた査読レポートをプロセスの透明性向上のために公表することは、査読者の推薦判断に影響を及ぼすのではないかという新たな疑問が生じています。 今回は、査読レポートの公開に関する調査研究の結果を紹介します。 査読レポートの公表に関する調査研究 エルゼビアが発行する5誌を対象に、2010年から2017年にかけて査読レポートの公表が査読者の対応に影響するかを調査した結果がNature Communicationsに掲載されました。この調査にあたったのは、スウェーデンのリンネ大学、スペインのバレンシア大学、イタリアのミラノ大学、オランダのエルゼビア社の研究者のチームです。調査は次の4項目への査読レポートの影響に重点が置かれました。 1. 査読者が査読を引き受けるか否かの傾向 2. 論文を査読した結果の推薦判断 3. 査読に要する期間 4. 査読レポートの論調 この調査では、偏り(バイアス)を極力抑えるため、以下に配慮しています。…
研究の遂行には、動物あるいは、ヒトを対象とする実験が欠かせない場合もあります。生体実験を行う際に問題となるのが、「 研究倫理 」です。例えば、ある特定の病気を研究しているような場合、その治療法や治療薬が本当にヒトに有効なのか――動物実験で有効性が確認されたとしても、どこかで必ずヒト(人)での実験を行う必要が出てきます。実験に参加する人は、被験者あるいは研究対象者と呼ばれますが、実験である以上、すべての人によい結果がもたらされるとは限りません。そのため、実験に参加してもらう場合には、正確かつ十分な説明を行い、本人の意思による同意を得ておかなければならないと決められています。しかし、時に、研究者が被験者に関する倫理規定に従わず、問題となることがあります。今回は、被験者に関する倫理問題について学んでみましょう。 ■ HeLa(ヒーラ)細胞が提起した倫理問題 ヒトを対象とする研究は、研究倫理および被験者の自発的な合意に基づいて行われるべきとされています。医学研究における科学的な透明性と被験者の同意の重要性は、ヒト由来の細胞株である「HeLa(ヒーラ)細胞」によって注目されることとなりました。 HeLa細胞とは、1951年に子宮頸がんで亡くなったアフリカ系アメリカ人女性のヘンリエッタ・ラックス(Henrietta Lacks)の腫瘍病変から分離され、細胞株として樹立された(細胞株として培養に成功した)ものです。この細胞の名称は、原患者の名前から2文字ずつ取って命名されました。培養細胞株であるため、無限に分裂を繰り返すことが可能であり、ヘンリエッタの死後も、不死化した彼女の細胞は、継代培養されて生き続けています。HeLa細胞は、世界で初めて樹立されたヒト細胞株として、ポリオワクチンの開発やヒトテロメラーゼの発見などにつながる研究に貢献したことも含め、現在に至るまでさまざまな細胞を用いる試験や研究に幅広く使われているのです。実際、2013年に発表された論文だけ見ても、74,000を超えるPubMedの要約に、HeLa細胞を使用した実験であることが示されています。 しかし、HeLa細胞が問題となったのは、患者であるヘンリエッタ・ラックスに断りなく培養されたものであるためです。1950年代当時は、切除された組織や細胞を研究に利用することにつき、患者や家族に対して説明し、同意を得る必要がなかったのです。ヘンリエッタの遺族は、30年以上もの間、基礎科学におけるHeLa細胞の重要性について説明を求めてきましたが、対応されてきませんでした。2013年になって、ようやくゲノムデータの開示を条件付きで許可することが了承され、研究者が被験者に対する倫理と科学研究の透明性についての考えを変える大きなきっかけとなったのです。 ■ 被験者への科学的成果の開示 米国政府は、政府が助成するヒト試料を扱う研究と臨床試験について「コモン・ルール(Common Rule)」と呼ばれる規則を適用しています。そして、米国科学工学医学アカデミー(NASEM: The National Academy of…
査読は論文と学術雑誌(ジャーナル)の質を保証するためのきわめて重要なプロセスです。査読の目的は、著者に対して論文の採択可否とその根拠をコメント・論評の形式で提供することにあります。慎重に考察し、明解で建設的、かつ親しみやすいフィードバックができると、著者の研究の質を高め、独自性を保証する手助けになり、何よりも著者のキャリアアップにもつながります。ここでは、著者にとって有益なフィードバックをするためのポイントを5つご紹介します。 1. 丁寧に伝える まず、査読を行う上での大前提として、著者には論文を意欲的に執筆してもらう必要があります。研究者は、自分の書いた論文に対する有益なフィードバックと適正な評価を望んでいます。よって、査読者からのコメントは、前向きで、研究者が意欲的に論文を修正し、研究を推進させるために役立つものであるべきです。まずその原稿の良い点を見つけ、その後に不十分な点を丁寧に指摘するのがよいでしょう。研究者がフィードバックを読むことで、修正するために必要なステップがわかる書き方が望まれます。 2. 具体的なアドバイスを行う 次に、研究者へのフィードバックは具体的であるべきです。コメントには、根拠や具体例、改善のための提案を含めるようにしてください。査読には、専門家としての明解な分析が求められます。論文をじっくりと読みこみ、研究成果の強み、重要性、論文の簡潔さ、一貫性を検証してください。そして、検証の結果、必要と判断した改善点を一覧化し、具体的なアドバイスに落とし込んでください。 3. 推測で行動しない 査読依頼を受けたら、プロフェッショナルとして、研究者に論文を改善してもらうための建設的な論評を行うことが求められます。初めて査読を行う若手の研究者の場合、自分の指導者や抄読会の仲間、オンラインのガイドラインから査読の審査方法を学ぼうとするケースが見られます。それらが悪いということではありませんが、まずは査読依頼状をしっかり読み、納期と指示を細部まで確認するようにしてください。これから査読を行う研究者に向けたガイドラインも入手可能ですので、それらを参照するのもよいでしょう。 査読のプロセスは、論文を精読することと適切なコメントを書くことに分けられます。両方が終わったら対象の学術雑誌などが提供している査読チェックリスト(PLOS Peer Review Checklistなど)を参照し、求められている一般的な基準を満たしているかを確認します。 4.…
科学研究において「再現性」は、基本中の基本です。誰がその研究を試みても同様の結果を導くことができなければ、成果を信頼してもらうことは難しいでしょう。2014年に話題になったSTAP細胞。「STAP細胞はあります」との発言が記憶に新しいですが、他の研究者が論文に書かれた通りの方法で実験を行っても、STAP細胞の存在を確かめることはできず、最終的にnatureに投稿された論文も撤回された――。このように、再現性がない研究は認められないのです。 実は、別の研究者あるいは論文の著作者本人が、論文に書いてある通りの方法で実験をしても同じ結果が出ないことは、しばしば問題となり、この「再現性の危機」が、科学界の信頼性を脅かしています。 研究者自身が失敗を認めた 研究にとって重要な再現性を担保するためには、研究計画や方法の透明性、データの収集・分析・保存が不可欠です。当然、研究者は細心の注意を払って実験計画を作り、方法を熟考し、データを処理します。それでも再現できない場合があるとは、どういうことなのでしょう? 学術雑誌(ジャーナル)Natureのある調査が、驚きの結果を示しました。53の主要な癌(がん)研究のうち、再現可能であったものは6に過ぎなかったのです。要因の一つとして、情報共有の不足が考えられます。どの論文の著者も、自身の研究計画や方法、データ処理・分析の仕方であれば熟知していますが、それらの詳細情報が他の研究者や学会と共有されていない限り、他者が研究成果の価値を客観的に評価し、あるいはそれをうまく再現することは困難です。研究者が自ら好んで再現研究に関わることは稀なので、結果として再現できないという事態が生じてしまうのでしょう。 もし、自身の論文に対して誰かが疑問を呈したら、どうすべきでしょうか。自己弁護をする、というのが一般的な回答かもしれませんが、中には意外な反応を示す研究者もいます。 2010年、わざと自信があるような姿勢(パワーポーズ)をとることでなぜか自信がわくという心理現象の研究が行われました。不安な時でも自信のあるパワーポーズを2分間とるだけで、勇気を捻出するホルモン「テストステロン」が増加する、という彼女たちの研究。論文著者であるAmy Cuddy博士が、この研究の心理テクニックを『〈パワーポーズ〉が最高の自分を創る』という書籍としても出版したので話題となりましたが、2015年の追試では、同じ現象がほとんど再現されなかったため、パワーポーズの効果が疑問視されるようになりました。Cuddy博士は反論しましたが、2016年、オリジナル論文の共同研究者であったDana Carney博士が、自分たちの研究結果に対して自信が持てないことを表明。パワーポーズの信頼性は地に落ちたのです。 Loss of Confidence Project(自信喪失プロジェクト) Carney博士が勇気を出して自身の研究の不完全さを公表したことは、学術界に衝撃を与えたと同時に、新たな示唆を投げかけました。誤りや再現性のなさを隠すのではなく、公にすることが、逆に研究の透明性を確保することになるのではないか、と。 Carney博士による表明をきっかけにして、Loss…
知的財産権とは、発明、文学作品、芸術作品、画像、シンボルマークなど、知的創造活動によって生み出された無体物を財産として専有できる権利です。この権利により、知的創造活動の成果から利益を得ることが認められると同時に、他人が不当に「財産」を使用することを防ぐことができます。研究者にとっては、自分の成果を守ると共に、他者の成果を侵害しないためにも押さえておくべき内容です。知的財産権がどう研究活動に関わってくるのかを見てみましょう。 ■ 知的財産と知的財産権 国によって知的財産に含まれるもの、知的財産を管理する法および監督官庁は異なります。日本の場合、知的財産権は、次の2つに大別されます。 著作権およびその他の知的創造物についての権利 文学、学術、芸術、音楽などの創作的活動を保護するための権利です。著作権には、データベース、参考文献、コンピュータプログラム、建築物、出版書籍、製図などの精神的作品の保護も含まれています。 産業財産権 商標権や商号など営業活動に関わる権利です。知的財産権のうち、特許権、実用新案権、意匠権および商標権の4つがこれに該当します。 ・特許権 発明者に一定の期間、独占的・排他的な権利を与えて、発明を保護しようとするものです。特許を取得していれば、その製品の製造、頒布、販売、商業的使用などを独占的に行うことができます。通常、期間は出願から20年間が対象とされていますが、一部25年に延長可能なものもあります。 ・実用新案権 物品の形状、構造などの考案を保護するものです。出願から10年間が対象です。 ・意匠権 新規性と創造性を有する物品のデザイン(形状、模様、色彩またはこれらの組み合わせ)を保護するもので、期間は出願から20年です。2D(線やパターン)や3D(物体の形状や表面の模様や色彩)の工業デザインが保護の対象となります。 ・商標権 製品またはサービスを識別するために用いられる独自の標識やシンボルマークです。一語でも複数の語でも、数字の組み合わせでもかまいません。図形、立体的形状、動き、音、色彩なども商標として保護されます。商標の出願は、保護の必要な範囲に応じて、国レベルまたは地域レベルで行うことができます。日本の商標権の期間は登録から10年です。…