ワールドアカデミックニュース

学術界に広がるMeToo運動

ハリウッドの女性達が大物映画プロデューサーによるセクハラや性的暴力の被害をSNSで告白する運動として始まったMeToo運動。被害を受けたことがあれば「Me too(私も)」とつぶやいて――との呼びかけに対し、今では世界中、さまざまな業界で多くの女性が声を上げるようになりました。学術界もしかり。米国ではSTEM(科学・技術・工学・数学)分野に進出する女性の数が増加していますが、女性研究者の立場が男性と同等になっているとは言いがたい状況です。そのような中、MeToo運動を科学界に広げた女性がいます。 MeTooSTEM.comを立ち上げた女性 米国ヴァンダービルト大学メディカルセンター(Vanderbilt University Medical Center: VUMC)の神経学者であるBethAnn McLaughlinです。2018年6月にSTEM分野の女性が匿名でハラスメントを告発できるウェブサイトMeTooSTEM.comを立ち上げ、科学界のMeToo運動を牽引してきました。その貢献により、2018年11月、米マサチューセッツ大学が世界を劇的に変えるアイデアを持つ人に贈るMIT Disobedience Award(不服従賞)を受賞しています。 Scienceの記事にはMcLaughlinの似顔絵と「The Twitter Warrior(ツイッター戦士)」というキャッチが書かれています。彼女は、米国科学アカデミー(National Academy…

マックス・プランク協会、プロジェクトDEALを支持

学術雑誌(ジャーナル)のオープン・アクセス(OA)を推進する動きが、ここ数年で加速しています。ドイツでは、この動きの一環として従来の契約に替わり、オンライン契約の締結を推奨するプログラムである「Projekt DEAL(プロジェクトDEAL)」を受け入れるように学術出版社に求めてきました。そしてついに、マックス・プランク学術振興協会は、2018年12月末をもってエルゼビアの電子ジャーナルの購入契約を更新しないと同月19日に発表しました。マックス・プランク学術振興協会は、傘下に80以上の研究所等を抱え、約14000人の研究者を擁するドイツ最大級の研究グループですが、購読契約の解約の結果、研究員は2019年からエルゼビア誌へのアクセスを失うこととなったのです。 ■ プロジェクトDEAL対エルゼビア 大手学術出版社であるエルゼビア(本社、オランダ)は、2960を越える学術雑誌、48300の書籍を出版しており、出版論文数に至っては年間40万本を越えています。同社が提供する学術文献のオンライン・プラットフォーム『Science Direct』は、3800誌以上の学術雑誌と35000冊以上の書籍タイトルから記事の検索を可能とし、また、抄録・引用データベース『Scopus(スコーパス)』には2万タイトル以上の逐次刊行物などからの文献を収録するなど、研究活動を支援しています。これらのデータベースは多数の研究者に利用されていますが、システムの使用料金や同社の学術雑誌の購読料が高すぎるとの批判が高まっており、欧州を中心に購読契約の見直し交渉などが行われています。 プロジェクトDEALは、学術雑誌のOA出版の利用に関して学術出版社との新たな利用条件を目指して、ドイツの研究機関、大学、図書館などが結成したコンソーシアムです。現在では参加組織数は700近くに達しています。エルゼビアとの契約交渉は決裂しましたが、シュプリンガー・ネイチャーとのナショナルライセンス契約交渉は進展しているようです。また、2019年1月15日には、ワイリー(John Wiley & Sons, Inc.)と新たな条件の契約を交わしたことを発表しました。この契約は、コンソーシアム・メンバーは年間固定料金で1997年以降に刊行されたワイリーの雑誌を閲覧でき、かつ、コンソーシアム参加組織の研究者がワイリーの雑誌に投稿した論文はOA化するとの内容となっています。 ■ エルゼビアとの交渉 プロジェクトDEALは、数年間エルゼビアとの交渉を続けてきました。求めてきたのは、学術雑誌を研究組織などがオンライン利用する料金の固定化、研究成果のOA化、そしてドイツの研究者全員に対して有料論文のオンライン利用と自らの研究成果発表をOA化する権利を併せて一括料金とする「publish and read」と呼ばれるモデルの適用です。このモデルは、出版社は研究および論文への対価を研究者に支払いませんので、学術機関や研究者にとって公平な条件だという声がありますが、エルゼビアの合意は得られていません。 これまでの交渉でも、コンソーシアム・メンバーのうち60以上の組織が2017年末をもって2018年のエルゼビアとの契約を延長しないと発表し、エルゼビアは折衝相手のオンラインアクセスを停止しました。このときは40日ほどで利用が再開したのですが、2018年分の契約をめぐるその後の折衝も難航し、前年を上回る数の組織が契約更新をせずに折衝を続けたところ、エルゼビアは2018年7月に再び折衝相手のオンラインアクセスを打ち切りました。実際、プロジェクトDEALに賛同する団体の中でエルゼビアとの個別契約を解消したドイツの大学・研究機関は200近くに及んでいます。…

影響力のある関連団体による編集介入は許容されるのか

2018年もさまざまな研究不正が発覚し、研究界を揺さぶり続けました。データのねつ造、収集データの意図的な虚偽表示、画像の改ざんなどは露呈した研究不正のほんの一例ですが、12月になって、米国環境保護庁(Environmental Protection Agency:EPA)の諮問委員会のトップが、資金援助を受けている業界団体に対して、発表前に研究論文の編集介入を許容していたという倫理的に問題視される事態が判明して話題となりました。 背景には、資金提供者と研究者とのつながりは見つけにくいという問題があります。しかし、利害関係のある外部団体が発表前の論文を編集するのを認めるということは、学術的に許されるものなのでしょうか。 ■ 政府機関におよぶ業界団体の影響 この話は学術界に留まりません。米国における大気汚染基準の大幅な見直しを行うEPAの委員会を率いているのは、規制強化に反対する団体から資金提供を受けていた研究者です。しかも、この研究者、トニー・コックス(Tony Cox)が業界団体に自身の研究成果の編集を許容したことを認めたことが論議の的となっているのです。研究成果に何らかの影響をおよぼしかねない研究の資金提供者に、発表前の論文への編集介入を認めることは異例です。まして、該当論文が政策決定に関連するとなれば、なおのことその影響は重大です。 そもそも、なぜ業界団体からの資金援助を受けていたコックスが国の環境政策に助言を行う立場にある大気清浄化科学諮問委員会(Clean Air Scientific Advisory Committee: CASAC)の委員長になったのかと言えば、非常に政治的な裏があります。コックスを任命したのは、元EPA長官スコット・プルーイット(Scott Pruitt)です。プルーイットは、EPAの助成金や資金提供を得ている研究者は、科学諮問委員会の委員として偏見(バイアス)があるという理由で多くの委員を解任し、逆に業界団体から資金援助を受けている研究者を諮問機関に参加させようとの動きの一環でコックスを任命しました。プルーイットは地球温暖化対策に批判的な姿勢を示しており、EPA科学諮問委員会の透明性と委員の独立性を高めることを目指したとされています。しかし、長官就任以来、プルーイット自身に対する職務倫理違反などの疑惑をめぐる調査が進み、2018年7月に辞任しました。 ■ コックスの論文と石油協会のつながり…

米国議会へ科学者が多数進出

科学研究者は伝統的に「非科学的」なことには興味をもたず、主として学術分野、あるいは学研から離れてもせいぜい産業の分野で活躍してきたと言われます。科学(Science)・技術(Technology)・工学(Engineering)・数学(Mathematics)の頭文字をとってSTEMと言われる分野に従事する研究者だけでなく、医学・ヘルスケア分野の研究者にも同じ傾向があると言えるでしょう。しかし、時代は変わり、科学者は政治に無関心ではいられなくなってきました。米国では「象牙の塔」から出して政界に進出する人たちが増えてきています。 ■ 2018年中間選挙でSTEM/医学・ヘルスケア系候補者が連邦議会に進出 2018年11月に行われた米国の中間選挙は、上院で共和党、下院で民主党が過半数を制し、「ねじれ」を生んだこととともに、マイノリティや女性が多数当選したことがニュースになりましたが、学術界ではSTEM/医学・ヘルスケア分野の経歴を持つ候補者( 科学系候補者 )が多数当選したことも話題になりました。Business Insiderの記事には、上院で1名、下院で9名が新たに連邦議会に当選したとして、当選者とそれぞれの専攻分野が次の通り紹介されていまし。 Jacky Rosen(ネバダ州、上院、民主党):コンピューター・プログラム。ネバダ州選出の下院議員として議席を持っていたが、今回の中間選挙で上院に立候補。 Chrissy Houlahan(ペンシルバニア州、下院、民主党):インダストリアル・エンジニアリング(経営工学)。米国空軍勤務、化学教師、NPO代表などの職歴を有する。 Joe Cunningham(サウス・カロライナ州、下院、民主党):海洋科学。弁護士の資格も有し、環境専門弁護の実績を持つ。 Sean Casten(イリノイ州、下院、民主党):生化学エンジニアリング。廃エネルギー回収会社を設立。 Elaine…

撤回された論文のデータベース公開

1年間に何本ぐらいの論文が学術雑誌(ジャーナル)から撤回されていると思いますか?なんとその数は年500~600本にもおよび、しかも、過去数十年の撤回数は確実に増えているというのですから驚きです。撤回の理由は研究不正や意図していないミスなどさまざまですが、不正と判断される多くは、データの捏造・偽造・盗用に起因しています。しかし、論文が撤回された場合、なぜ撤回となったのか明確な理由が分からないままということも多々あります。そこで、この状況を打開すべく、2018年10月末、論文撤回を監視するサイト「Retraction Watch」が18,000本の撤回論文のデータベースをオンラインに公開し、 撤回論文 の閲覧および検証を行うことを可能としたのです。 論文撤回の判断とその後の処置 多くの出版社は論文撤回規定を設けており、学術雑誌の編集委員はその規定に従って、どの論文を出版するかを決定します。倫理規範に反することが指摘されたことに対し、該当論文の著者全員が撤回に同意すれば問題ありませんが、著者のひとりでも同意しない場合には編集委員が撤回するかの最終判断を行います。学術出版規範委員会(Committee on Publication Ethics : COPE)による論文撤回ガイドラインには、編集者は著者の同意なく論文を撤回できると記されています。論文が撤回となると、印刷誌では撤回されたことを伝える注釈が次の号に掲載されるなどの処置が取られますが、オンラインでは、文章の上に「撤回 (Retracted)」の透かしが表示されることはあっても削除されないなど、出版社や公開媒体によって対応が異なるようです。そのため、どの論文が撤回されたのか気づかないまま引用してしまうことが起こっていました。そこに登場したのが、撤回論文のデータベースなのです。 Retraction Watchと撤回論文データベース 2人の科学ジャーナリスト、アイヴァン・オランスキー(Ivan…

米国NSFは海外での研究に対する支援を撤廃か?

アメリカ国立科学財団(NSF)は、科学研究の促進を図る米国政府機関であり、2017年度予算は75億ドルに達し、大学に対する連邦レベルの研究支援の約24%を占める、米国の科学政策の大きな担い手です。NSFは、2013年から米国の大学院生が海外で研究する場合の資金援助をGraduate Research Opportunities Worldwide ( GROW ) プログラムにより実施してきました。しかし、NSFが毎年秋に行うGROWプログラムの申込み受付の2018-19年分については、2018年12月11現在も行われていません。GROWプログラムは、廃止の可能性も含めて、先行きが不透明です。 ■ 科学研究への圧力 今回、GROWの受付が行われていないことは、トランプ政権発足以来の米国政府の内向きの姿勢を反映している可能性があります。トランプ政権は、科学研究の資金援助に関して、種々の変更を加えようとしています。例えば2018年初めに、政府の科学政策に対してアドバイスを行う連邦レベルのさまざまな科学諮問委員会のメンバーから内務省、エネルギー省、食品医薬品局などを外して、これらの委員会の弱体化を進めています。科学関係の政府スタッフの採用を凍結し、気候変動に関する研究への圧力も多く見られます。また、トランプ政権はNSFの2018年度予算の大幅削減を提案しましたが、これは議会の反対により実現しませんでした。しかし、依然としてトランプ政権は削減を狙っているようです。NSFは2018年2月に、日本を含む3カ国の海外事務所の閉鎖をすると発表しましたが、これもトランプの「米国第一主義」の反映と解する向きもあります。 ■ GROWが無くなった場合の影響 GROWは、既に米国内で年間3万4000ドルの奨学金(Graduate Research Fellowship Program:…

著名な栄養学者が論文撤回で辞職―その背景は

論文に書かれている通りの方法で実験を行っても、結果を再現できない「再現性の危機(reproducibility crisis)」。これは学術界にとって深刻な問題です。また、まったく別の問題であるにも関わらず「研究不正の有無(scientific misconduct)」と混同され、問題が深刻化することも多々あります。再現性の危機は、研究室で行われた多くの研究の再現実験あるいは追試で同じ結果が再現できないことに端を発していますが、再現実験で同じ結果が得られなければ、科学研究としての価値が薄れるだけでなく、その原因が研究不正にある可能性が高いため、結果として複数の名だたる学術雑誌(ジャーナル)が論文を撤回することになってしまうのです。撤回される論文の数が増えていること含め、学術界は危機感をつのらせています。 ■ 栄養学第一人者の辞職 2018年9月20日、コーネル大学の教授であり、栄養学の研究者であるブライアン・ワンシンク(Brian Wansink)博士が、米国医師会雑誌(the Journal of American Medical Association (JAMA))に6論文を撤回されたことを受けて辞職したことが、ワシントンポストに報じられました。アメリカのアイビーリーグに属する名門コーネル大学の研究者の辞職が有力新聞紙に取り上げられたことが、再現性の危機の深刻さを物語っています。 ワンシンク博士は、食品消費の行動心理学の第一人者で、広告やパッケージが食生活におよぼす影響などに着目した食生活改善のための研究を推進していました。1992年にイリノイ大学で食品商標研究所(Food and Brand…

ゲノム編集の女児誕生がもたらした衝撃

2018年11月26日、世界に衝撃が走りました。中国の南方科技大学のJiankui He氏が、 ゲノム編集 技術「CRISPR」を使って改変を施した受精卵から双子の女児を誕生させたとAP通信が報じたのです。本当であれば世界で初めて遺伝子を改変されたヒトが誕生したことになります。He氏は、遺伝子操作をすることにより、エイズウイルス(HIV)がヒトの細胞に侵入する際に利用するタンパク質「CCR5」の働きを押さえ、HIVへの抵抗力を獲得させたとしています。しかし、ゲノム編集で遺伝子を改変した場合の安全性は未知の領域であり、胚の編集は次世代に受け継がれるため、欧米の多くの国ではゲノム編集した受精卵を母胎に戻し妊娠させることは非合法または禁止とされています。中国でも政府ガイドラインで遺伝子工学を用いた胚の妊娠を禁止しているので、今回のHe氏の研究は、ガイドラインに反するものと言えます。 ■ 11月28日 香港での講演 He氏の発表は、世界の遺伝子研究者が集う「第2回ヒトゲノム編集国際サミット(Second International Summit on Human Genome Editing)」の直前というタイミングで行われました。サミットは11月27日から29日に開催されましたが、He氏の発表はサミット主催者にとっても寝耳に水だったようです。28日には、サミットでHe氏が講演。二人の女児が生まれ、さらに他にもゲノム編集した受精卵を移植した女性が妊娠している可能性があると延べました。講演後、参加者からは厳しい質問や痛烈な批判が噴出し、多くの研究者は、このような改変を行うことは医療倫理に反するとして批判の声を上げています。 He氏の発表の翌日にはCRIPRの共同研究者Feng Zhang教授が、CRISPRで遺伝子編集したヒト胚細胞を子宮に戻すことを全世界で停止すべきとの声明を出しています。実験の危険性はもちろん、He氏の研究の不透明さ、秘密裏に実施されたことを疑問視してのことです。He氏がこれまでにゲノム研究の専門家としてはあまり知られていなかったことにも疑念を持たれています。米国のスタンフォード大学で研究を行った後、海外の優秀な研究者を中国に呼び戻す「千人計画」で中国に戻り、2012年に最年少で南方科技大学の准教授に就任したという経歴の持ち主ですが、ゲノム編集の専門家とは書かれていません。では、なぜ遺伝子改変操作が可能だったのか――これは、まさに技術の進歩によるものです。近年、CRISPR-Cas9と呼ばれる手法が開発されたことで、専門家ではない研究者も遺伝子の改変操作が技術的に可能となったのです。CRISPRは、まさに切り貼りするようにDNAの部分的削除や置換を可能にする技術です。この技術により、かつて高度な技術を要していた受精卵への遺伝子注入といった遺伝子操作すら、今や装置があれば技術がなくても可能となりました。そのため、He氏の研究「成果」につき現時点で研究の詳細を精査できる論文もなく、実際に双子が生まれた証明もないことから「嘘」ではないかとの疑いもある一方、「事実」である可能性も捨てきれないのです。そして「事実」であるとすれば倫理的な問題であるとして、世界的な非難が高まる中、He氏はこの成果を誇りに思うと述べています。南方科技大学と医療倫理委員会(Medical Ethics…

中国のアフリカ諸国への600億ドルの支援 その狙いは

中国が改革開放政策を実行してから丸40年。中国経済は急成長を遂げ、学術分野での存在感も大きく増してきました。研究および教育への集中的な投資も奏功し、今や科学・工学分野の論文発表数は世界首位です。 勢いは国内にとどまりません。中国は、開発途上国同士が2国間、あるいは多国間で自律発展のためにお互いの技術などを活用して開発に役立てようとする「南南協力」を促進しています。近年は「一帯一路」構想のもと、発展途上国に対する技術支援、資金援助を行っていますが、特に南アジアおよび南アフリカの発展に向けた協力に力を入れています。2018年9月に開催された「中国アフリカ協力フォーラム((FOCAC, Forum of China-Africa Cooperation)北京サミット」では、アフリカ諸国に600億ドル(約6兆6千億円)の経済協力を行うと表明し、世界を驚かせました。はたして、中国の思惑はどこにあるのでしょう。 ■ アフリカの次世代研究者の育成に貢献? 600億ドルの資金拠出の内訳には、無償資金協力や無利子融資、中国企業による対アフリカ投資の推進などが含まれており、500億ドルは中国政府、残りの100億ドルは民間企業による投資とされています。習近平国家主席はフォーラムの基調演説で、アフリカ諸国と密接に協力し、今後3年間および一定期間において「8大行動」を重点的に実施すると表明しました。「8大行動」とは、2015年のヨハネスブルグ・サミットで確定した中国・アフリカ「10大協力計画」の推進を踏まえたプログラムで、(1)産業促進、(2)インフラの相互接続、(3)貿易円滑化、(4)グリーン発展、(5)能力開発、(6)健康・衛生、(7)人的・文化的交流、(8)平和・安全保障という8つの項目を実施すべく、中国が政府援助、投融資などを通じてアフリカ諸国との協力を図るものです。 中国は、この一貫としてアフリカ諸国の人材育成、援助、雇用増に力を入れています。アフリカの研究者の科学技術の知識レベルを引き上げるプログラムにおいて、教育は重要な位置に置かれており、アフリカの若者に教育を受ける機会が提供されるだけでなく、Young Scientists Exchange Program(若手研究者交流プログラム)を利用して、最大1年間中国で学ぶこともできるようになっています。 「8大行動」の「社会開発分野」には、アフリカ諸国の1000人の優秀な人材に研究の機会を提供し、5万人に中国政府の奨学金を授与し、さらに5万人にワークショップやセミナーなど短期の教育機会を提供する計画があると記されています。特に、アフリカの農業近代化に向けた協力を拡大したいと考えている中国は、既にアフリカ14カ国に農業技術普及のためのモデルセンターを建設していますが、さらなる農業技術者の育成に向け、博士課程修了者が、中国あるいはケニアのジュジャにある農業技術のジョモ・ケニヤッタ大学などのアフリカの研究機関で学ぶための奨学金に応募することができるようにする予定です。アフリカの農業を積極的に支援するだけでなく、「8大行動」を通して中国・アフリカの関係を強化し、米国との貿易戦争が泥沼と化している中でも大国中国および中国企業の影響力を強めたいとの思惑が見て取れます。 ■ 中国の発表への反応は この中国の発表に、世界中の研究関係者からはさまざまな声が上がっています。大半はこれを好意的に受け止めているようです。例えば、ガーナの研究者は、海外だけでなく、国内での教育への資金援助も含まれていることが喜ばしいことだと言っています。アフリカでの人材流出が深刻な問題だと考えている彼は、この資金援助が、国内での奨学金や教育の機会が人材流出を止めることにつながると期待しているのです。また、南アフリカの大統領であるシリル・ラマフォサ(Cyril…

欧州大学協会が学術出版社に対する訴状を提出

世の中で「海賊版」といえば批判されるのが普通ですが、学術出版において購読費を支払うことなく学術論文が入手できる「Sci-hub」は、海賊版サイトと呼ばれながらも研究者の支持を得ており、逆に、Sci-hubを提訴している大手学術出版社のエルゼビアが大学や研究者から批判されるという事態となっています。オープンアクセス化が進む昨今、学術出版社への批判および圧力が強まっています。 10月30日、欧州48ヶ国の800校以上の大学と33の学長会議が参加している 欧州大学協会 (European University Association; EUA)がEuropean CommissionのCompetition部門にエルゼビアの親会社RELXグループを含む大手学術出版社5社に対する申し立てを提出しました。その中には、学術出版における透明性と競争の欠如に関する問題点が指摘されています。 ■ 学術出版社への批判=高すぎる購読料 そもそも、なぜ学術出版社への批判がここまで高まっているのか?そこには学術出版社による購読料の値上げが大学や研究機関の許容範囲を超えてしまった現実があります。大手出版社の多くは、購読率の高い人気学術雑誌(ジャーナル)と比較的読まれていないジャーナルを抱き合わせで購入させるパッケージ販売を行っています。読まないものは要らないから安くして、と言いたいところですが、1誌ごとに購入したとしても購入費は膨らむ一方。購読料の度重なる値上げに大学・学術機関なのに学術ジャーナルが購読できないという事態に陥っているのです。欧州の大学から購読をボイコットされたことや、Sci-hubとの裁判で話題になることの多いエルゼビア社の購読料の高さは有名ですが、他誌の値上がり率もかなりのものです。 日本の状況を例に挙げれば、9月29日の日本経済新聞の記事には、“大学図書館コンソーシアム連合(JUSTICE)によると、海外の自然科学系学術誌の2018年の年間購読料の平均は1誌あたり平均2895ドル(約32万円)。1990年の9倍に達した。1年間で平均8%の値上げで、大学など研究機関が抱える研究・資料購入費を圧迫している。”と書かれています。この記事の元となったJUSTICEのデータを見ると、値上がり率は分野によって異なるものの、1990年から2018年までの29年間における自然科学系・海外学術雑(冊子)の毎年の値上げ率の全分野平均は8.17%、人文科学系は8.67%。冊子ほどではないにせよ電子ジャーナルの価格も推移しており、2012年から2018年の7年間の毎年の値上げ率の全分野平均は自然科学系で4.40%、人文社会科学系で5.46%となっていました。また、学術出版社は基本的に購読料から利益を得ていますが、11月21日のNewScientistの記事によると、学術論文の出版社の利益率は石油産業や金融を上回る40%におよぶそうです。これでは大学や研究機関が怒るのも無理はありません。 ■ 欧州の大学、学術出版ビジネスにおける競争の欠如を懸念 この継続的な値上がりは世界共通であるため、各国の大学や研究機関は財政を圧迫され、EUAは訴状を提出するに至ったのでしょう。そこには、学術論文の出版市場が寡占状態にあること、公的な資金により行われた研究の論文により出版社が利益を上げていること、購読契約における価格の透明性が損なわれていることなど8項目におよぶ問題点につき、項目ごとに具体的な説明が書かれていました。この訴状で対象とされたのは、RELXグループ(英)、Taylor & Francis(英)、Wiley-Blackwell(米)、Springer Nature…