ワールドアカデミックニュース

論文執筆 人工知能(AI)はここまで進歩している

この10年の間に、人工知能(AI))と機械学習は、いくつもの業界に変化をもたらしてきました。AIという革新的な技術によって、さまざまな作業が自動化され、より簡単かつ迅速に行われるようになっています。その影響は学術出版界にも表れており、論文執筆者と出版社の双方を支援するために、AIベースの技術が開発・導入されつつあります。これらの技術は、査読、出版物の検索、剽窃・盗用の検出、および捏造データの特定など、学術出版に関する諸問題に取り組む助けとなっています。しかも、科学コミュニケーションの促進に役立つだけでなく、人間が関与しない分、バイアス問題の削減にも役立つと期待されています。 研究におけるAIの活用も飛躍的に進んできました。そこで注目されているのは、仮説の形成から実験の遂行までの研究手法を自動化することです。実際、研究者はAIを使って、生物医学、複合製剤、および病気予測に関する複雑な諸問題に取り組んでいます。 論文執筆のためのAIツール AIベースのツールの中には、論文を執筆できるツールがあります。電子研究ノートサービスSciNoteに付加された「Manuscript Writer」というツールは、先進的な機械学習・AI技術を使って、科学論文を準備する過程を大幅に簡素化する能力を備えています。このツールは、世界中の研究者による科学的発見を速やかに公開することの重要性が高まるにつれ、論文草稿を作成するために必要な時間を大幅に短縮することを目指すものです。電子研究ノートSciNoteに 入っているデータと、オープンアクセスの学術雑誌(ジャーナル)データから利用できる資料に依拠して、草稿を作成します。Manuscript Writerのページにもこの草稿はすぐに提出できるものではないとの注意書きがあるように、見直しを前提としたものではありますが、著者はこの草稿を元に編集、加筆することができます。 草稿作成において、AIはどのように剽窃・盗用を回避するのか? Manuscript Writerは、選択された資料からデータを引き出すとともに、関連キーワードに基づいてオープンアクセス文献を自動検索してイントロダクション(序論)部分の草稿を作成します。他の文献から取ってきたテキストはそのままでは文章として問題なので、著者による確認は必要です。当然、他の文献から自動で拾ってきたものなので,作成された文章は他者の資料のコピペ、剽窃・盗用、さらに著作権侵害になる場合があります。では、どのようにこの問題を回避するのでしょうか。 Manuscript Writerで序論を作成すると、各段落の後に該当部分のテキストを抜き出した資料の番号と、元の資料との類似度(パーセント)が示されます。つまり、該当部分がどこから取ってきているのか、元の資料の文章とどの程度同じなのか(類似しているのか)が数字(%)で表示されます。人間が論文を執筆する際にも編集が必要なのと同様、ツールが作成した文章も確認と編集が必要となりますが、類似度の表示は明確な指標となります。作成された文章をどのように修正するか、あるいはそのままにしておくかは、著者次第です。Manuscript Writerはあくまでもツールなので、責任は負いません。 Manuscript Writerを使う主な利点は、その論文のテーマに関する興味深い文章を序論に含め、幸先良く論文執筆を始められるようにすることです。目的は、著者の論文執筆の力となることであり、代わりに論文を書き上げることではありません。ですので、「考察」のようにオリジナリティが必要な部分は、著者自身が書く必要があり、Manuscript…

COVID-19が問いかける学術論文の在り方

中国の武漢に端を発すると言われている新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、2019年の終わり頃から瞬く間に世界中に広がり、その猛威は今も衰えていません。日本を含む世界各国の感染者数および死者数は日々増え続けており、ワクチン接種が進んでいる国がある一方で、感染拡大に歯止めがかからない国では深刻な状況が続いています。 COVID-19が論文のオープンアクセス化を加速 この状況に対処すべく世界中の研究者が新型コロナウイルスの研究とワクチン開発を進める中、一気に加速したのが関連研究成果の共有とオープンアクセス(OA)化です。 武漢でCOVID-19の症例が報告された後、中国疾病対策予防センタ-(CCDC)の科学者は、患者のデータを分析し、肺炎患者の検体のシークエンシングから今まで知られていなかったウイルスを発見し、そのゲノムを特定しました。中国の研究者らは、この新型コロナウイルスのゲノム配列に関する研究結果を暫定的な段階から世界中の科学者と共有したのです。各国の研究者が分析や調査研究を進める傍ら、Springer Nature、Elsevier、Wileyをはじめとした大手学術出版社は、COVID-19に関する論文をオープンアクセスで即時公開する取り組みを開始しました。今では多くの学会や機関・団体、出版社がCOVID-19に関連するデータや論文などをオープンアクセスで公開しています。また、より短時間で研究成果を共有できるようにとの目的から、論文の査読プロセスのスピードアップも進められています。 プレプリントサーバー利用の拡大 出版社らは、この非常事態に対応すべく大量に投稿されるCOVID-19関連の論文をできるだけ早く共有するために、査読を急ぎ、オープンアクセスで公開しています。これにより、COVID-19関連の情報の共有化が促進され、ワクチン開発や治療法の研究が進むことについて異論を唱える人はいないでしょう。しかし、論文のOA化に関しては、さまざまな議論が出ています。研究者が出版するすべての論文をOAにすることを義務付ける「プランS」には賛否両論あるものの、研究論文の公開をOA化することの必要性が高まるにつれ、大手出版社がプランSに賛同する動きも出てきていました。そこに突如起こったパンデミック。COVID-19による非常事態が、従来の出版モデルからOAモデルへの移行を大きく後押しすることとなりました。 それと同時に、査読前論文をOAで公開するプレプリントサーバーに公開される論文も増えてきました。医学論文のプレプリントサーバーの代表的なものとしてはmedRxivがあげられます。こうしたOAへの流れ、プレプリントサーバー利用の拡大は、論文公開までの時間を短縮し、治療に携わる医療従事者に役立つ有用な情報を迅速に提供できる意味で大きな利点があります。一方で、査読前論文である以上、後から誤りが見つかったり、撤回を余儀なくされたりすることも頭に入れておく必要があります。medRxivにも以下の注意書きが掲載されています。 Caution: Preprints are preliminary reports of work…

日本の研究者は再び世界と肩を並べることが出来るか?

「日本の研究は世界トップレベル」「アメリカに次ぐ世界第2位」だと思っていませんか? 確かにかつては「トップレベル」と評されたこともありました。しかし今、学術研究における日本の地位は急激に下降しています。そう聞くと博士課程に進学することを躊躇したり、研究者になるのを諦めたりしたくなるかもしれませんが、明るい話題もあるので悲観する必要はありません。 世界における日本の研究レベル まず日本の国際的研究レベルは現在どのくらいなのでしょうか。引用数の高い論文の発表数、特にトップ10%補正論文数(論文の被引用数が上位10%に入る論文の抽出後、実数で論文数の10分の1となるように補正を加えた論文の数)がどのくらいかがひとつの指標になります。「科学技術指標2020」(科学技術・学術政策研究所)によると、2016-2018年の年平均で日本の世界ランクはなんと11位でした。アメリカに次ぐ2位どころではありません。1996-1998年の年平均でも世界4位でしたので、日本の研究レベルは急激に下降していると言わざるを得ません。また、単純に論文発表数だけを見ると2018年で日本は世界5位でしたが、2011年以降は下降が続いています。この数字を見る限り、世界と比較した日本の研究レベルは決して良好とは言えません。近年、日本の研究レベルの低下を多くの研究者や学術関係者が訴えてきましたが、ここにきてやっと日本政府も危機的事態を認識し、対策に動き出しました。 10兆円規模の大学ファンド 研究を促進するために研究費は欠かせません。2020年12月、日本政府は日本の大学研究における資金繰りに多大な影響を与える「大学ファンド」の構想を発表しました。それは10兆円規模の大学ファンドを創設し、世界に比肩するレベルの研究開発を目指すというもので(国立研究開発法人科学技術振興機構作成の説明資料)、2021年1月にはこの大学ファンドの創設費用5000億円を含む補正予算が成立しました。これが日本の大学の国際競争力の強化や、博士課程学生などの若手研究者の人材育成、研究施設の整備支援の充実などが進むことが期待されます。 多様化する研究費獲得方法 多くの研究者は、科研費や他の研究助成金などから研究費を得ていますが、近年、研究費の獲得方法も多様化が進んでいます。大学・研究機関の独自の基金、財団や企業からの助成金などが増え、一例ですが公益財団法人 助成財団センターのように助成金情報を発信するサイトもあります。academistのような寄付(クラウドファンディング)による研究費調達という新しい形も登場しているので、選択肢は増えつつあるも受け入れられるようになっていますし、国外の研究機関からの研究助成の情報もウェブサイトで検索できるようになってきています。研究費の獲得方法が多様化するのは、研究の幅を広げることにも役立つでしょう。 国際共同研究 国際的な共同研究に参加することは、高インパクトな学術雑誌(ジャーナル)に、より多くの研究者に引用されるような論文を発表するチャンスを広げます。自分の専門分野に限定せず、分野や国を超えて世界中の研究者と共同研究を行うことで、幅広い研究に関与することも可能です。やり方によっては研究費を持ち寄ることも可能ですし、それぞれの専門分野に応じて作業分担することもできるでしょう。科学技術・学術政策研究所がまとめた「科学技術指標2020」によると世界で国際共著論文が増えており、日本の国際共著論文の割合も年々増加傾向にあります。2018年時点での日本の国際共著率は35.1%と1981年比で約30ポイント増加していますが、それでも米国(45.4%)や英国(69.4%)に比べて低いので、今後も積極的に国際共同研究を推進していくことが望まれます。 大学ファンドが日本の学術研究をどのように後押し、日本の研究レベルが再び世界と肩を並べることにつながるか、今後の動きにも注目です。 こんな記事もどうぞ エナゴ学術英語アカデミー 日本の研究費に関する事情と未来

日本のAI医療 これからの課題と最新事例【2023年版】

自動翻訳や検索エンジンの最適化、自動車の自動運転や安全運転システム、お掃除ロボットまで、AI(人工知能)は生活の中に入り込み、その役割を広げつつあります。医学、医療・ヘルスケア分野も例外ではありません。医療業界でAI技術がどのように利用されているのか、日本のAI医療の状況について探ってみました。 医療AIへの期待 機械学習・深層学習技術の発展にともない、ニューラルネットワークによるデータの分析と学習を重ねることでAIは同時の判断基準を構築、分類できるようになりました。医療AIとは、このAIの仕組みを医療現場に取り込んだものです。医療現場では、診断、治療法や薬剤の選択など多くの判断が求められるため、医療AIの導入によって、より正確な判断が下せるようになったり、医療現場における人員不足による業務負担の軽減に役立ったりすることが期待されています。 医療AIの活用が期待されるポイント 医療データの収集と活用 医療現場の(管理)業務の効率化 医療の質の向上 患者の負担軽減と情報提供 通常、我々は病気にならないように「予防」し、それでも調子が悪くなったときに医師に「診断」してもらい、その結果に応じて「治療」を受けます。AIはこれらすべての段階で活用されており、医療従事者の人材不足や経験不足が問題となっている現状では、医療AIは患者・医療従事者の双方にとって非常に大きなメリットをもたらしています。さらに、マイナンバーカードの健康保険証利用が促進されているように、健康保険証医療保険制度や医療提供体制を含む医療社会インフラにおいてもAIの活用が見込まれています。 医療データの収集と活用 マイナンバーカードと国民健康保険の紐付けが実現すれば1億2500万人の国民データを集約することが可能になります。AIは蓄積されたデータ量が増えれば増えるほど正確性が増します。社会的な医療システムが確立していない国では同様の方法でのデータ収集ができないので、幅広く国民の医療データが収集できることは日本の医療戦略において実質的な強みとなるでしょう。 AIは、患者が自宅で診断に必要なデータを収集することも可能にします。例えば、大阪大学と東京大学の研究グループは、被験者が休息状態中の脳波や脳磁図(MEG)の波形信号を読み解くことで神経疾患の判定ができる自動診断システム「MNet」を開発しました。MNetがさまざまな神経疾患の診断を補助し、重症度、予後の判定、治療効果の判定などにも応用できると期待されています。 さまざまな産業・業界が連携し、データの収集や健康情報の提供を行っています。しかし、さまざまな手段で集められたデータがどう利用されるのかは気になるところです。日本は、利用可能なデータを収集するインフラの整備を進めている段階にあります。医療を含むさまざまな分野におけるAI開発はまだまだ始まったばかりで、今後大きく展開していく可能性を秘めています。重要なのは、信頼性の高いデータを大規模に収集し、いかに利用可能とできるかであり、日本各地で収集された臨床データをデータベース化すること、データを適切に匿名化し、研究者が容易に利用できるようにすることが必要です。 医療現場の(管理)業務の効率化 医療現場では人材不足の改善を目的としたAI導入も進んでいます。株式会社アルメックスが開発した「Sma-pa…

日本の研究費に関する事情と未来

研究に欠かせないのは資金です。研究費なくしては学術研究を続けることはできません。研究費の獲得は個人研究者にとっても、大学・研究機関にとっても常に頭を悩ませることでしょう。日本の研究費を取り巻く状況といくつかの研究資金を助成する公募情報を紹介します。 国の研究費事情 2021年1月、世界レベルの研究基盤を構築するための大学ファンドの創設費用5000億円を含む令和2年度(20年度)の第3次補正予算が成立しました。そして、3月5日には、2016~20年度の科学技術関係予算が総額28.6兆円(グリーンイノベーション基金事業および「10億円規模の大学ファンド」を含む額)に達し、この5年間の政府研究開発投資額を26兆円と定めていた第5期科学技術基本計画の目標を達成したと内閣府が発表しました。第6期基本計画(21~25年度)では30兆円を目標に掲げています。引き続き重要な分野や効果の高い施策への重点的な資源配分を図るとともに、官民の研究開発投資の拡充を目指すとしており、この数字だけ見れば日本の研究資金は潤沢なように見えますが、研究者に十分な研究費が届いているのでしょうか。 日本の科学技術関係予算は少なくないと言われても…… 科学技術基本計画で目標としていた科学技術イノベーション関連予算の対GDP比1%(第5期科学技術基本計画においては約26兆円に相当)の目標は達成したものの、米中をはじめとする諸外国の投資額の伸びには追いついていない状況です。実際、世界の研究開発費の国別ランキング・推移(UNESCO統計、2018年データの比較)を見ると、トップ3は米国(581,553百万米ドル)、中国(465,162百万米ドル)、日本(171,294百万米ドル)となっており、2位の中国の金額とに大きな開きがあります(集計値については統計の仕方と思われるが文科省が提示している「科学技術指標2020」に示された額と若干の差がある)。同じ統計にある研究者1人当たりの研究開発費ランキングになると、日本の順位は一気に下がって16位。ここでは中国が17位と日本より下回っていますが、近年、中国政府が科学技術推進に力を入れていることを考えると2019年以降のデータでは入れ替わりがあるかもしれません。問題はこの予算がどのように配分されているのか、研究者がいくら使えるのか、という点です。現実問題として「研究予算は厳しい」と考えている大学や研究機関などが多々あります。さらに、研究の生産性は研究費だけでなく、研究インフラ・雇用環境にも左右されます。研究者が大学内の事務手続や、研究費の申請などの事務手続に時間を取られていることが指摘されており、それを裏付ける数字として、大学教員の総職務時間に占める研究時間割合が、2002年から2013年の間に46.5%から35%に減少していたことが示されています。資金に加えて研究時間も不足してしまったのでは研究は立ちゆかなくなってしまいます。政府は、「競争的研究費制度」に関する事務手続のルールが省庁間で異なることが研究者への負担増の一因であるとの指摘を受け、研究者の研究環境の改善等に向けて事務負担を軽減することを目指し、研究費のルールを統一化することを表明しました。この試みが、研究者が研究に集中できる環境の整備につながることを期待します。 研究資金源の多様化 長い時間を要する基礎研究では研究助成金の獲得が難しいため、成果が出やすい研究、社会的なインパクトが大きいと期待されている研究、実用化しやすい研究などの応用研究を選択する研究者もいるでしょう。研究開発への投資額が全体として増えていても、競争を勝ち抜かなければ研究費を獲得できず、しかもすべての研究者が必要十分な研究費を獲得できるわけでもありません。とはいえ、明るい話題もあります。近年は、研究費の獲得方法も多様化が進み、行政機関からの資金だけでなく、大学や研究機関による独自の基金や、財団や団体・企業による研究助成も増えています。寄付による基金の設立や、クラウドファンディングで研究費を獲得することもひとつの手段として受け入れられつつあり、学術系クラウドファンディング「academist(アカデミスト)」には成功を収めた数々のプロジェクトが掲載されています。関心のある人が少しずつでも資金を提供することで研究を支援するというスタイルが、日本でも広がってきています。初めから科研費のような大型の研究助成金に挑むのではなく、民間助成基金やクラウドファンディングを利用して小規模な研究から始め、その研究成果をもってより大型の助成金に応募し、研究を拡大していくことも可能となってきているのです。どのような研究費を獲得し、どのように研究を広げていくか、中長期的な研究費獲得戦略を考えていくことが必要となっています。 研究費獲得のチャンスを探す 一口に研究費といってもさまざまです。政府資金に基づく科学研究費助成事業(科研費)は、人文学、社会科学、自然科学まで全ての分野にわたり、あらゆる学術研究を発展させることを目的とした「競争的研究資金」です。他にも団体・機関や民間企業が研究助成金の公募を行っているので、大学病院医療情報ネットワークセンター(UMIN)のFIND(研究助成等)や公益財団法人 助成財団センターの助成情報(助成金募集ニュースや助成金情報データ検索)のような公募情報サイトを確認しておくと研究費獲得のチャンスを広げることができるでしょう。 2020年はCOVID-19感染拡大により、国境を超えた移動が制限されたり、大学・研究機関が閉鎖されたりするなどに加えて、研究助成金の応募休止など、研究活動を妨げる出来事が重なりました。それでも、ASEAN諸国を中心に助成・フェローシッププログラムを展開する国際交流基金アジアセンターが、コロナ禍に対応した国境を越えた人の移動を伴わない交流事業への支援に特化したプログラムの実施を表明したり、公益財団法人 トヨタ財団が2021年4月に新助成テーマによる公募開始を予定したりしているなど、少しずつですが動き出しています。チャンスを逃さないように注意が必要です。 自分に必要なプログラムを見つける 若手研究者の中には、研究活動そのものを継続するための資金援助が必要という人もいることでしょう。研究費全体を支援するもの以外にも、(現時点では国外渡航しての学会参加などは制限されているものの)国際的なシンポジウム・セミナーなどに参加する費用を支援するものや、奨学金のような財政援助などもあるので、自分に必要なプログラムを見つけて応募するとよいでしょう。幾つか挙げてみます。 JAPAN-IMF…

科学ジャーナルのオープンアクセス最新動向と留意点

2021年1月15日、Science各誌の発行元である米国科学振興協会(AAAS)が、一部の資金提供者が支援した研究の成果については直ちにかつ自由にアクセスできるようにするように公開することを求めていることに対し、論文著者が応じられる方法を提供すると発表しました。この新しい オープンアクセス (OA)方針に基づけば、著者は、ほぼ最終段階にある原稿、あるいは有料購読者しかアクセスできないScience誌に掲載された査読済の原稿であっても、誰もがアクセス可能なオンラインリポジトリに掲載することができることになります。 プランSオープンアクセス(OA)と出版社のせめぎ合い 新方針の下、Science各誌は「グリーンオープンアクセス(グリーンOA)」に踏み出した訳です。つまり、購読料を支払って購読する従来の学術雑誌(ジャーナル)に投稿された論文であっても、著者自身が機関リポジトリに並行してOAとして公開することができるようになります。著作権の条件が個々に異なるので、再利用および許諾申請については著者や著作権者への確認が必要ですが、読者側からのアクセスのチャンスが広がったと言えるでしょう。ただし「一部の資金提供者」となっている点に注意が必要です。OAの実現に向けたイニシアチブ「cOAlition S」からの資金援助を受けた論文著者が申請した場合のみとの制限が設けられているのです。よって、Science誌の現時点での新方針は、このOAイニシアチブの背後にいる欧州の資金提供者および「プランS」が資金を提供する論文著者のみに適用されるということになります。この新しい方針の下で公開される論文の著者は、プランSの原則に準じた著作権を有することになります。主要ジャーナルであるScienceとその他4つのScienceタイトルのジャーナルに掲載されている研究論文の多ければ31%がcOAlition Sによる資金援助を受けているとされていますが、cOAlition Sによる資金援助を受けていない著者の執筆した論文は、出版から数ヶ月から24ヶ月の期間(猶予期間/エンバーゴ)を経るのを待たなければ公開できません。AAASは、この新しい方針を1年間試験的に行い、収益性を判断するとしています。無料でアクセスできる論文が増えることによって大学や研究機関が購読契約をしなくなり、出版社としての収益が下がる可能性があることは否定できないからです。そしてAAASは、誰もが無料で発表論文を読み、使用することを可能とするゴールドオープンアクセス(ゴールドOA)の採用にまで拡大しなかった理由として、多くの著者、特に貧困国の著者にとって非常に高額な出版手数料を課すことになってしまうことへの懸念を述べています。ゴールドOAの論文は、誰もが無料で読むことができる反面、論文出版料金 (APC) やその他の出版に必要な全費用は著者が負担することになります。例えば、AAASジャーナルの一誌Science AdvancesにゴールドOAモデルで出版するためには、論文あたり4500ドルの出版手数料が著者に請求されることになります。Nature系のジャーナルにゴールドOAで出版する費用が、最高で論文あたり9,900ユーロ(約12,000ドル)となるよりは低いものの、研究者にとっては大きな負担です。とはいえ、出版社としては出版コストをカバーする必要があるのも否めませんし、研究論文以外のニュース、論評(Commentary)や総評(Review)を掲載するにあたってはNatureもScienceも出版費用を徴収していません。 OAの広がり AAASの新しい方針は、以前の方針から大きく逸脱するものではありません。今回の新方針発表以前から、論文著者は最終版が公開された時点で、ほぼ最終版(著者が最終的に承認した原稿、author-accepted manuscript)を個人のウェブサイトや大学や研究機関のリポジトリにアーカイブすることができました。新方針では、著者が米国国立衛生研究所のPubMed Centralなどの非営利団体が運営するリポジトリにも投稿できるように範囲が広がっています。 ここで、公開された論文=最終版(Version…

続報 日本学術会議の戦いは続く

国会議論のコロナ対策答弁の中で管首相が「専門家の意見を聞いて」と言い続けていたのとは相反する政権の姿勢を揶揄する声もありますが、2021年も日本学術会議をめぐる論争は続いています。 管首相は、脱炭素化やデジタル社会の実現などに向けた研究開発を後押しすることを所信表明で掲げています。この方向に向けた動きのひとつとして、1月19日に政府の統合イノベーション戦略推進会議(議長・加藤勝信官房長官)が開催され、日本の新たな科学技術・イノベーション基本計画となる「第6期科学技術・イノベーション基本計画」の答申の素案が決定されました。ここには、研究開発への投資をこれから2025年度までの5年間で総額30兆円、官民合わせて120兆円とする目標が掲げられています。この計画の実現に向け、大学の研究や若手研究者の育成支援を行うことを目的とした10兆円規模の「大学ファンド(基金)」の創設も盛り込まれています。 管首相への抗議は続く 日本政府として日本の研究力の低迷を何とかしなければと対策を打ち出した形です。しかし、日本の学術界と政府との間のわだかまりが解決されたとは言えない状況が続いています。昨年9月末に、日本学術会議の会員任命を管首相が見送って以降、この問題はいまだに解決に至っていません。2021年1月28日、日本学術会議は管首相による会員候補6人の任命拒否問題を速やかに解決するよう求める声明を発出しました。現在も6名が欠員のままであるため、日本学術会議法の求める会員数を満たしていない状態が続いています。梶田隆章会長は同会議の今後のあり方改革の方針を議論する4月の総会までには定数の会員(210人)がいる状態にしたいと述べています。いまだに正式な回答や説明が行われていないと主張する学術会議側に対し、加藤勝信官房長官は翌29日の記者会見で、「任命権者として最終判断したものであり、一連の手続きは終了している」として学術会議の再任命の要望に応じない考えを示しました。 2月5日時点で日本学術会議会員任命拒否への抗議声明・要請書を発表した学会・団体は、学協会関係だけでも900を超えています(学者の会調べ、随時更新)が、海外の学術関係者もこの事態を憂慮しています。世界の科学者を代表する組織である国際学術会議(ISC: International Science Council)の代表であるDaya Reddy博士から2020年11月17日付けで梶田会長宛てに発出された書簡には、管首相の判断における透明性の欠如と、これが日本の科学的自由に及ぼす影響を非常に懸念すると記されていました。 日本学術会議が直面する2つの問題 1月7日付けのScienceの記事には、日本学術会議は2つの問題に直面していると指摘しています。1つは、同会議の会員の任命を首相が拒否するという前例のない事態。もう1つは、管政権が現在政府機関に属する日本学術会議を、国から独立した法人格に移すことを検討しているということです。 2つ目は、科学の独立性と政治的中立性を組織として担保する必要があるとの理由から、内閣府の「特別の機関」という現在の位置づけを見直し、政府から独立した組織とすべきとの見解に基づく議論です。自民党は、日本学術会議の在り方を検討するグループを作成し、12月9日に学術会議が独立することなどを求める「日本学術会議の改革に向けた提言」をまとめました。政府は日本学術会議に供与する予算を大幅に削減したいと考えており、資金を得たいのであれば政府の指示に従うことを要求しています。日本学術会議は年間約10億円(約970万ドル)の政府支援を受けており、日本政府はこの予算を多額だとして削減しようとしていますが、他国の国立学術団体と比較してみると、例えば米国国立科学・工学・医学アカデミーが2018年に政府機関から受け取った助成金などは総額で2億8000万ドルと桁が違います。自民党グループの提案に準じて本当に組織の在り方を変更するのであれば、日本学術会議法の改正にも及ぶことにもなるとみられており、日本学術会議にとってこの改革提言を全面的に受け入れることは難しいことでしょう。 さらに、この中には学術会議の会員構成の比率の見直しを検討する要請も含まれています。実態は分野毎の比率を指定し、人文・社会科学系の会員数を減らすことを求めたものですが、学術会議は総数だけを見て会員比率の見直しが議論されることに対して慎重な姿勢を示しています。4月から施行される「科学技術・イノベーション基本法」の改正では、これまで科学技術振興の対象から外れていた人文・社会科学が組み込まれることになっています。にもかかわらず人文・社会科学系の軽視と取られかねない要請をするのは、政府の進める科学・技術政策の方向性と矛盾するのではとの指摘は否めません。 提言に対する学術会議の反論 日本学術会議は12月16日に、「日本学術会議のより良い役割発揮に向けて(中間報告)」報告書を井上大臣に手交しました。この報告書は改革のための提案を述べつつ、現在の学術会議は日本の科学界を代表しており、公的資金によって安定的に支持されながらも政府から独立して活動できることに留意したものです。これに対し、井上大臣は、日本学術会議が国立的な学術団体の役割を果たすために独立した新しい組織となる可能性を引き続き検討し、速やかに改革案を最終化するよう求めました。政府は、国から独立するか否かの検討と併せて、会員比率についても、今年4月に結論を報告するよう学術会議に求めていますが、学術会議は4月に結論を出すのは難しいとしています。…

科学研究におけるデジタル革新とデータ駆動型研究

昨今のデジタル革新には目覚ましいものがあり、ウィズコロナの時代においては欠かせないものとなりつつあります。デジタル革新、あるいはデジタルトランスフォーメーション(DX)と一言で言っても、そこには、データベースやネットワークなどの情報基盤、スーパーコンピューター(スパコン)など多様な要素が含まれており、さらにこれらが組み合わって日々進歩し続けています。新型コロナウイルス感染症対策として、スパコン「富岳」を用いたくしゃみなどの飛沫拡散シミュレーションの結果をニュースなどで見かけた方は多いと思いますが、スパコンは治療薬候補の絞り込みなどにも使用されています。このように、新しい技術を活用した科学研究の手法や見せ方が浸透しつつあると言えるでしょう。日本でも、総合科学技術・イノベーション会議基本計画専門調査会での国家戦略の議論にオープンサイエンスと研究開発DXに関する施策が盛り込まれています。 データ駆動型研究の登場 科学研究におけるデジタル革新が進むにつれ、事前に仮説を立てることをせずにデータを収集し、得られたデータを分析した上で研究を進める手法「データ駆動型(data driven) 」が登場してきました。これは、従来の仮説を立てた上でその仮説を検証するために実験・研究を進める仮説駆動型(hypothesis driven)に対し、事前に仮説を立てずに大量のデータを集め、分析した上で研究を進めるものです。近年の計算機能力の劇的な向上に負うところが大きいと言えますが、スマートフォンやオンラインネットワーク経由で情報を収集し、その大量データ(ビッグデータ)をスパコンで解析させることで研究成果を導くような研究手法です。この新しい科学的手法の促進が社会貢献につながることも増えてきています。 ライフサイエンスにおけるデータ利用とデータ駆動型研究 新型コロナウイルス感染症の拡大により、ライフサイエンスにおけるデータの利用がさらに進みました。ゲノムシーケンシング(ゲノム解析)、生物医学的画像処理、医療用IoTデバイスの技術進歩などにより多くのデータが得られています。しかし、膨大なデータから有意義な結論を導き出すためには、科学的知見に基づき、さまざまなデータを処理しなければなりません。ライフサイエンスでは、よりリスクの少ない製品をより安く、より早く、しかも安全に提供しなければなりません。医薬品の研究開発でデータ駆動型アプローチを取ることは、疾患や患者を理解し、より効果の高い可能性を持つ治療法を特定し、新薬を開発し、市場に投入するまでの時間を短縮するのに役立ちます。研究論文・文献、臨床データなどを俯瞰的に見つつ、リアルタイムで医薬品開発研究プロセスに組み込むことを可能とするのです。 ライフサイエンス研究の成果は、医薬品の開発、医療診断、予防および治療など幅広い分野に利用されています。技術革新によりゲノムシーケンシングの速度は飛躍的に速くなり、そのコストは劇的に下がりました。例えば、20年前には数年を要したようなゲノム情報の収集がゲノムシーケンシング機器によって、たった1日でできるようになっているのです。一方、研究者らには生成あるいは収集される膨大な量のデータを分析、処理するリソースとスキルの両方が求められるようになっています。スウェーデンのKnut and Alice Wallenberg Foundationは2020年10月にライフサイエンスにおけるデータ駆動型研究を支援するために計37億SEK(スウェーデン・クローナ)の基金を創設したと発表しました。 広がるデータ活用 IT技術の発展により入手可能となった大量のデータが、学術界および産業界におけるデータ駆動型研究を促進しています。事実、産業界とくに金融業界では「フィンテック(FinTech)」と称される金融サービスと情報技術を結びつけ、データを活用する動きが進んでいます。コロナをきっかけに一気に進んだデジタル化が業務のIT化に限らずプロセスの変化を促し、さまざまな分野でデータを蓄積・分析することで新しい価値を生み出しているのです。そして学術界でも多くの研究者が、さまざまな手法を用いて科学的あるいは社会的に有意義なデータを引きだそうとするアプローチである「データサイエンス」に取り組んでいます。例えば、環境学者のカーティック・ラム(Karthik…

Wiley:不確実な学術出版の未来を見据えて

今回、紹介するのは世界有数の学術出版社ワイリー(Wiley)の識者によるゲスト投稿です。ワイリーは、科学、医学、技術、物理学、社会科学、さらに人文科学まで広範な分野にわたり出版活動を展開しています。オンライン投稿・査読システムも取り入れながら、学術研究関係者を対象とした各種ソリューション、役立つ情報、教育マテリアル、などさまざまなサービスを提供しています。本記事では、学術出版業界で今まさに起こっていることと、今後の展望についてご紹介いただきました。 創造力の小さなひらめきこそが人生に何かをもたらすのである!常に未来を予想しておくことはできませんが、2つのことは分かっています。1つ目は、未来に到達するためには何かが必要であること。2つ目は、私たち(ワイリー)は研究コミュニティに遅れずに共に未来に向かって歩んでいきたいと思っていることです。この考えを実現するため、ワイリーは引き続き研究者の声に耳を傾け、試行錯誤し、新たな可能性を受け入れていきます。新しいことにチャレンジすることを恐れず、私たちのプラットフォームに積極的に新機能を追加し、研究者が学術出版をやりやすくするための新しいスタイルの関係性を構築しようとしています。実際に新しい試みを始めるのに最善の方法は、研究のプロセス同様に、質問し、仮説を立て、そして実験を行うことです。 未来の学術出版は論文公開の新しい形となっていくのか 現状では、インターネットの機能をフル活用しても、研究論文はPDFの形で公開されています。この点は、1900年代からあまり変わっていません。この公開形式、近い将来変わっていくのか、あるいは変わらざるを得ないのか?これは、私たちが可能性を探るために避けられない問いかけです。研究を行うこと自体は動的で多次元的ですが、その結果を論文として公開することは静的な作業です。論文が出版され、読者に届くことによって活気づくことは、とてもワクワクすることです。 どうやって論文を出版するか?そこは私たちにお任せください。ワイリーはいろいろな試みを行い、それらが受け入れられるかの分析を行っています。化学系の学術雑誌(ジャーナル)で試したことを例に挙げてみましょう。この論文掲載の中は、研究成果(文章)とともに読者が画面上で操作できるグラフィック(動画)を埋め込んであります。これにより、読者はログインしてデータを処理し、自分なりの結論を導き出し、著者に質問することができるようになりました。このような試みは、公開された論文との関わり方を変える可能性を有しています。さらに、研究プロセスの深みと広がりを論文の評価につなげることに一歩近づけることができたかもしれません。 世界と研究を共有するための新しいパートナーはどこで見つかるのか 論文の公開方法をどう変えるのか模索することは、とても刺激的です。しかし、一方で私たちは、できるだけ多くの人が研究成果にアクセスし、利用し続けられる状態になっていることを確認したいと思っています。そのためには、発表された研究論文のインパクトを最大化するための新たな戦略の開発が必要です。学術出版で広がっているオープンアクセスに関連する話題を扱う「オープンアクセスウィーク(Open Access Week)」という学術情報流通イベントが年1回開催されています。このイベントは2020年に10周年を迎えました。 私たちにできることはまだまだあります。公開論文への公平なアクセスを確保し、一層ダイナミックに将来を見据え、オープンデータ化およびその方法などを考えるのは長い道のりです。この10年間に私たちが学んだことは、将来の可能性を信じ、私たち同様に新たな試みに挑戦するパートナーを探し続けることの必要性です。政府、大学、民間資金提供者、そして出版社は、論文開示の可能性の実現に向けて協力していかなければなりません。合わせて、意識を高めること、なぜ拡大し続けている研究コミュニティに開示性が必要なのかをすべての研究者が正しく認識しているのを確認することにも留意しておく必要があります。 研究コミュニティが協力的でありつつ多様性を保つにはどうすべきか すべての人たちが関わることなく学術研究や学術出版の未来について考えることはできません。特に2020年、私たちはCOVID-19の研究において協力することの影響の大きさを目の当たりにしてきました。研究者は強いです。世界中から集まって研究を共有することで問題を解決し、新たな高みに到達してきました。そして、社会の流れから取り残された研究者や忘れられた読者や聴衆のために扉を開いたのです。 研究業界内にどんな人でも受け入れるコミュニティを構築することは、私たち全員に関わることです。一体性を促進し、公平性を支える報償金と奨励金のシステムを変えることは容易ではありません。私たちは、科学コミュニティのポッドキャスト「This Study Shows」でこの話題を取り上げました。さらに、ワイリーは研究論文や書籍のコンテンツ(章)を自由に入手できるように集約したRISE(Research…