ワールドアカデミックニュース

著名な学術雑誌は絶対か~ビジネスモデルの変化

京都大学高等研究院の本庶佑特別教授が、2018年のノーベル生理学・医学賞を受賞された明るいニュースが大きな話題となりました。しかし、10月1日に京都大学で開催された記者会見では、受賞の喜びとともに、日本の科学研究の現状に対する懸念を表明されています。他のノーベル賞受賞者がそろって日本の学術研究、特に基礎研究の弱体化を心配していたのと同様、本庶教授も基礎研究への支援が重要であるとして、多額の研究費用を基礎研究に投資する必要があると訴えました。 研究成果を利用する企業(製薬会社)にリターンを求めたことも含め、大変示唆に富む会見でしたが、その中の一部を抜粋します。 よくマスコミの人は、ネイチャー、サイエンスに出てるからどうだ、という話をされるけども、僕はいつも、ネイチャー、サイエンスに出てるものの9割はウソで、10年経ったら、まあ、残って1割だというふうに言ってますし、だいたいそうだと思ってますから。まず、論文とか書いてあることを信じない、自分の目で、確信ができるまでやる、それが僕のサイエンスに対する基本的なやりかた……(後略) 自分の目で確信できるまでやる――というのはサイエンスにとってとても重要です。しかし、頭に残ったのは「ネイチャー、サイエンスに出てるからどうだ……」という部分でした。というのは、日本のメディアおよび日本人研究者は著名な学術雑誌(ジャーナル)の権威を絶対視する風潮があるのを指摘されたように思えたからです。もちろん、ネイチャーやサイエンスは素晴らしい学術ジャーナルで、世界中の研究者のみならず学術研究に関心のある多くの読者に読まれていますが、世界で新しい論文発表および共有の方法を探る動きが広がっているのも事実です。 欧州各国では、大学あるいは大学連盟がジャーナル購読料の高騰に反発し、大手出版社との交渉の末に購読契約を打ち切る事態が起こっています。にもかかわらず、日本の大学ではこのような動きは出てきていません。研究費が減ったと研究者が嘆く中、日本の大学は高額な学術ジャーナルの購読料を言われた通りに支払い続けているのでしょうか。また、大手学術ジャーナルが刊行を発表した新しいジャーナルへの投稿を、その分野の研究者がボイコットする動きも出ていますが、日本でそのような抗議が拡大しているとも聞きません。多くの日本人研究者は、研究成果を論文にして著名な学術ジャーナルで発表すべく、日々努力しています。しかし、学術ジャーナルに論文を発表することは本来の目的ではないので、研究成果の発表方法、その後の活用法など、自分が確信できるやり方を考えることが求められているのではないでしょうか。 ■ オープンアクセス(OA)への動きが欧州で加速 研究者である以上、自分の研究成果をより多くの人に読んでもらい、評価してもらうことは重要です。そのための一つの手段が著名な学術ジャーナルに論文を発表することですが、当然ながらそれらの学術ジャーナルに論文を掲載するのは簡単ではありません。そんな中、オープンアクセス(OA)の流れが加速しています。無料で論文が閲覧できるOAジャーナルが台頭してきたこともあり、より多くの人に読んでもらうために著名な学術ジャーナルに論文を発表することが、絶対的な手段ではなくなってきているのです。 9月4日、Science Europe(欧州の研究助成財団および研究実施期間が加盟する組織)は、欧州委員会(EC)の支援のもと、欧州11の公的研究助成機関が支援した研究者の論文を出版日に無料で読めるようにするためのイニシアチブ“cOAlition S”を発表しました。これは、2018年7月より議論されていた“Plan S”を達成するための協定です。“Plan S”とは、2020年以降に出版する公的資金を受けた研究に対し、OAジャーナルあるいはOAプラットフォームでの公開義務化を目指すもので、世界の研究助成機関に参加を呼びかけており(早くも27カ国から43機関が署名、2018年11月現)、オープンアクセスへの移行を確実に加速させています。 誰もが無料で論文を読めるようにする――従来は、読者が購読料を支払ってきましたが、その代わりに研究者が論文の公開料を支払うという ビジネスモデル への転換が進んでいるのです。論文への自由なアクセスを求める動きは、海賊サイト「Sci-Hub」を登場させたほか、学術ジャーナルの出版前にインターネットで論文を公開する動きにも広がっています。当然ながら、この協定およびイニシアチブに対し、学術ジャーナル各誌は反発を示していますが、研究者の中にも懸念を表明する動きが出てきています。…

インパクトファクターに影響を与える要素とは

自身の研究論文を投稿するならインパクトファクターの高い学術雑誌(ジャーナル)に――。そう考える研究者がほとんどでしょう。Clarivate AnalyticsおよびSCImagoは、掲載されている論文の引用数に応じて学術雑誌のスコア付けを行っています。このスコア、つまりその学術雑誌に掲載されている論文がどれぐらい読まれ・引用されているかの目安となるのがインパクトファクター(IF)もしくは、ジャーナルインパクトファクター(JIF)とよばれるものです。論文の引用回数が多ければ多いほど、インパクトファクターは高くなり、学術雑誌としての「格」が高いとみなされることになります。 一般的には多く引用される論文ほど価値が高いと考えられ、引用回数は研究の評価を決める重要な尺度と見なされているため、インパクトファクターの高い学術雑誌に自身の論文が掲載されることは研究者としてのキャリアに大きなプラスになります。研究助成金の獲得のチャンスも増えるため、研究者にとって学術雑誌のインパクトファクターは研究論文の投稿先を決めるにあたって、重要な指標と言えます。 では、このインパクトファクターに影響を与える要素にはどのようなものがあるのでしょうか。 ■ インパクトファクターに影響する要素 インパクトファクターは、Clarivate Analyticsによって算出され、オンラインの学術データベースWeb Of Science上で公開されています。これは、各学術雑誌において、引用可能な論文が過去2年間にわたり引用された回数を引用可能な論文の合計数で除した値、つまり平均値を算出したものです。別の文献データベースScopusはCiteScore Metricと呼ばれる同様のスコアを算出しており、こちらは過去3年間に出版された文献を算出対象としています。Scopusは毎年このスコアを公表しており、研究者は経年で各学術雑誌のスコアを確認することができます。このようなスコアは機械的に計算されるため、特定の要素がその数値に影響をおよぼします。 インパクトファクターに影響を与える要素を以下に示します。 ・論文の種類 研究論文よりもレビュー論文のほうが引用される傾向があります。 ・分野 研究成果を得るまでの期間が長い分野の場合、2年もしくは3年という評価期間では引用されにくいため、引用回数は少なくなります。また、分野による研究者の人数(総数)も影響します。例えば、数学よりも医学のほうが研究者の数自体が多いので、相対的な論文の発表数に違いがあり、結果として引用数にも差が生じることになります。…

日本は研究不正大国なのか

学術研究における不正が問題視されていますが、対岸の火事のように思っていませんか? 研究不正 をする日本人研究者がいたとしても数は少なく、それほど重大な問題は起こしていない――というのは単なる思い込みで、現実を見ていなかっただけなのだろうか。そんなことを思ってしまうような記事が科学雑誌Scienceに掲載されました。 ■ 嘘の大波(TIDE OF LIES) 8月17日のScienceに掲載された「TIDE OF LIES」と題された記事には、世界的に有名な葛飾北斎の『富嶽三十六景 神奈川沖浪裏』を模した画が掲げられています。この記事は、弘前大学の医学部元教授による研究不正行為について取り上げたものですが、加えて、研究不正などの理由で撤回された論文の監視を行っているRetraction Watchによると、論文撤回数の多い研究者ランキングの上位10名に6名もの日本人が含まれていることが記されています。この現状への痛烈な皮肉が日本芸術として有名な版画に込められているのです。 記事は、弘前大学の佐藤能啓(Yoshihiro Sato)元教授の研究不正に関する詳細なレポートとなっており、彼のねつ造は科学史上最悪な不正のひとつであると述べています。2017年11月、弘前大学は、同大学の佐藤元医学部教授が筆頭著者として2002年から2006年に米国や日本の医学雑誌に発表した14本の研究論文のデータにねつ造などがあったと発表しました。この問題は、米国医師会誌JAMAなどの学術雑誌が佐藤元教授の論文を取り消したことから発覚し、調査の結果、13本の論文でデータのねつ造が、1本で盗用が行われていたと認定されたのです。論文の中には、著名な医学雑誌に掲載され、多数引用されていたものもありました。どんな研究であれ不正は認められませんが、医学研究の不正は被害が甚大になる可能性もあり、佐藤元教授の研究不正は非常に悪質であったと言えます。なお、この佐藤元教授は2017年1月に他界していますが、本記事では、真実は分からないが不正が明らかにされたことで佐藤氏が自殺したと言う人もいると書かれています(ただし、本記事中で佐藤氏は2016年死亡となっている)。 佐藤元教授は、Retraction…

アカハラ研究者、5億円相当の助成金が取り下げに

昨今ニュースになることの多いパワハラ。学術界の場合はアカデミックハラスメント(アカハラ)と呼ばれているようです。今、ひとつのアカハラ事案が注目を集めています。イギリスを本拠地とする医学研究支援等を目的とする公益信託団体ウェルカム・トラスト(Wellcome Trust)が、ある研究者の助成金を取り下げる事態に至ったのです。学術界のアカハラに対する姿勢とは……。 ■ 助成事業における不正行為等への対応 一般的に、研究助成金を申請・受領した研究者に何らかの不正行為があった場合、助成金申請を取り下げる、または助成金支給の中止または返還などの処分をとることが規則で定められており、募集要項にもその旨が記載されています。論文の捏造や改ざん、剽窃・盗用が不正行為に該当するのはもちろんですが、近年は、研究倫理に求められる範囲が研究環境にまで拡大されるようになってきました。そのひとつが、アカハラ対策です。ウェルカム・トラストは、2018年5月3日に新たな倫理規範”Policy on bullying and harassment”を発表し、研究環境におけるハラスメントも許されないという姿勢を明確にしました。 そして、この新規範がロンドン大学癌研究所(Institute of Cancer Research:ICR)の研究者に初めて適応され、注目されることとなりました。 ■ 優秀な研究者によるアカハラ ICRに勤務していたNazneen…

文科省は3度目のノーベル物理学賞を狙えるか

文部科学省(以下、文科省)が 科学研究 に大きな予算を投じ、基礎研究のテコ入れを狙っているようです。その中には、「あの」有名大型研究施設の建設に関する調査費用も……。 ■ 基礎研究への概算要求予算は増額したが…… 文科省は2018年8月30日、2019年度の概算要求を発表しました。このうち「科学技術予算」は1兆1,680億円(2,054億円増)となっており、前年比で21%増。この要求予算には、最先端大型研究施設の整備、世界最速のスーパーコンピュータ開発、X線宇宙観測の設備、巨大素粒子観測施設の新設推進に向けた予算などが含まれています。しかし、これに先立つ7月に、政府が概算要求に関する基本的な方針を発表し、裁量的経費の10%削減を掲げていることを鑑みれば、内閣府が全体予算を「総合科学技術・イノベーション会議」(総合的・基本的な科学技術・イノベーション政策の企画立案および総合調整を行う場)で削減してしまう可能性は残されています。 1990年代前半から日本政府は、経済成長が低迷する中でも、経済効果が期待できる科学技術には投資を続けてきました。しかしここ10年は、その額も頭打ち状態に。2019年度予算は増額要求となりましたが、文科省が目指すほどの予算を確保できるかは不透明と言わざるを得ません。 ■ 科学技術予算のポイント 科学技術予算は大枠で以下の4つに分類されており、その中でさらに細分化した項目ごとに予算が振り分けられています。 ・Society 5.0を実現し未来を切り拓くイノベーション創出と、それを支える基盤の強化 ・我が国の抜本的な研究力向上と優秀な人材の育成 ・国家的・社会的重要課題の解決に貢献する研究開発の推進 ・国家戦略上重要な技術の研究開発の実施 注目ポイントを見てみましょう。 研究者にとって影響の大きい科学研究費助成事業(科研費)は2,469億円と、前年度比8%増。さらに、iPS細胞などによる先端医療への活用に代表される、経済効果のあるバイオ関連研究を推進するため「先端的バイオ創薬等基盤技術開発事業」として24億円を新規に計上しているので、このまま予算が確保されれば、研究者にとっては一安心となるかもしれません。…

「再現性の危機」解決への新アプローチ

科学研究において「再現性」は、基本中の基本です。誰がその研究を試みても同様の結果を導くことができなければ、成果を信頼してもらうことは難しいでしょう。2014年に話題になったSTAP細胞。「STAP細胞はあります」との発言が記憶に新しいですが、他の研究者が論文に書かれた通りの方法で実験を行っても、STAP細胞の存在を確かめることはできず、最終的にnatureに投稿された論文も撤回された――。このように、再現性がない研究は認められないのです。 実は、別の研究者あるいは論文の著作者本人が、論文に書いてある通りの方法で実験をしても同じ結果が出ないことは、しばしば問題となり、この「再現性の危機」が、科学界の信頼性を脅かしています。 研究者自身が失敗を認めた  研究にとって重要な再現性を担保するためには、研究計画や方法の透明性、データの収集・分析・保存が不可欠です。当然、研究者は細心の注意を払って実験計画を作り、方法を熟考し、データを処理します。それでも再現できない場合があるとは、どういうことなのでしょう?  学術雑誌(ジャーナル)Natureのある調査が、驚きの結果を示しました。53の主要な癌(がん)研究のうち、再現可能であったものは6に過ぎなかったのです。要因の一つとして、情報共有の不足が考えられます。どの論文の著者も、自身の研究計画や方法、データ処理・分析の仕方であれば熟知していますが、それらの詳細情報が他の研究者や学会と共有されていない限り、他者が研究成果の価値を客観的に評価し、あるいはそれをうまく再現することは困難です。研究者が自ら好んで再現研究に関わることは稀なので、結果として再現できないという事態が生じてしまうのでしょう。 もし、自身の論文に対して誰かが疑問を呈したら、どうすべきでしょうか。自己弁護をする、というのが一般的な回答かもしれませんが、中には意外な反応を示す研究者もいます。 2010年、わざと自信があるような姿勢(パワーポーズ)をとることでなぜか自信がわくという心理現象の研究が行われました。不安な時でも自信のあるパワーポーズを2分間とるだけで、勇気を捻出するホルモン「テストステロン」が増加する、という彼女たちの研究。論文著者であるAmy Cuddy博士が、この研究の心理テクニックを『〈パワーポーズ〉が最高の自分を創る』という書籍としても出版したので話題となりましたが、2015年の追試では、同じ現象がほとんど再現されなかったため、パワーポーズの効果が疑問視されるようになりました。Cuddy博士は反論しましたが、2016年、オリジナル論文の共同研究者であったDana Carney博士が、自分たちの研究結果に対して自信が持てないことを表明。パワーポーズの信頼性は地に落ちたのです。 Loss of Confidence Project(自信喪失プロジェクト) Carney博士が勇気を出して自身の研究の不完全さを公表したことは、学術界に衝撃を与えたと同時に、新たな示唆を投げかけました。誤りや再現性のなさを隠すのではなく、公にすることが、逆に研究の透明性を確保することになるのではないか、と。 Carney博士による表明をきっかけにして、Loss…

アジアの科学研究が熱い!

アジア の大学が注目されています。中国は、論文発表数で米国を抜いたことなどが話題になっていますが、他のアジア各国の大学も各種の世界大学ランキングの上位にランクインするなど、負けていません。アジアの中でも特に東アジアの5つの国・地域(シンガポール、香港、マレーシア、韓国、台湾)は、アジア地域における科学研究の拠点として存在感を増しています。これらの国・地域、世界が注目する地域には、どんな特徴があるのでしょうか。 ■ 研究開発費の増加と比例するように伸びる論文発表数 いきなり現実的な話ですが、研究開発には資金が不可欠です。アジア各国で科学研究への投資が幅広い研究活動を後押しするとともに、成長の原動力となっています。中でも科学技術研究への投資の増加率が突出しているのは、韓国。なんと2016年にはGDPの4.24%にまで達しています。数年前から下降線をたどる日本が3.14%。米国は横ばいの2.74%、増加中の中国が2.12%となっているのと比較すると、その増加ぶりが際立っています。続いて目立っているのが台湾(3.16%)。こちらも順調に増加しており、中国だけでなく米国、日本、EU(1.94%)も抜かれています。 韓国が潤沢な研究資金のもとで進める研究の成果は、論文発表数の増加となって表れており、2018年6月のNature (Volume 558 Number 7711)の特集によると、世界最大級の引用文献データベースScopusの2017年のデータから見る韓国の論文発表数は、65,000本。中国(同年の論文発表数414,000本)にはおよびませんが、数年で日本(89,000本)に追いつきそうな勢いです。少なくともこの10年間、韓国の論文発表数はずっと右肩上がりに伸びています。発表数だけではありません。世界平均を大幅に上回る引用数を正視化した公開論文の引用インパクト(Citation Impact)を見ても、シンガポールと香港の平均値はイギリスおよびアメリカの数値を上回っており、韓国はほぼ世界平均と同等。台湾も若干ですが世界平均を上回っています。これらの研究拠点では、研究への投資とさまざまな強化策のもと、幅広い分野の研究が行われていることがうかがえます。 ■ アジア大学ランキングのトップ20 2018年2月に発表されたイギリスの教育専門誌タイムズ・ハイアー・エデュケーション(THE)が発表した「THEアジア大学ランキング」のトップはシンガポール国立大学でした。トップ20に入っている国・地域は、中国7大学、韓国5大学、香港5大学、シンガポール2大学、日本2大学(同位タイがあるので21校)。中国の大学が急速に台頭する中、韓国の大学もその地位を高めています。シンガポールと日本の数は同じですが、シンガポールの大学の順位が1位と5位なのに対し、日本は東大の8位、京大の11位となっています。シンガポール国立大学は3年連続のトップ。一方の東大の8位は、昨年から一つ順位を落としており、2013年の発表開始以来最低の順位。2013年から3年は連続首位だったのに、直近3年間は7位から8位と低迷しており、躍進する他のアジアの大学にポジションを奪われたままです。2018年のランキングは、アジア25ヶ国、上位350大学を得点付けした結果となっており、最も多くの大学がランクインしたのは日本(89校)ですが、中国(63校)も着実に数を増やしています。中国および他の国・地域の大学が順位を上げてくる中、日本の大学はアジアの競争を勝ち抜くための策が必要です。文部科学省が2014年から実施している「スーパーグローバル大学創成支援事業」や指定国立大学法人制度などの施策が、日本の大学の評価回復・向上に役立つことが期待されます。このスーパーグローバル大学には、37校が採択されていますが、この中の27校が「THEアジア大学ランキング2018」にランクインしていることからも、それぞれの大学が特徴を生かした独自の取り組みを行っていることの効果が出ていると察せられます。 ■ 科学研究が地域のニーズに対する取り組みをサポート アジアの大学ランキング20位までにはランクインしませんでしたが、マレーシアには専門分野に特化した技術大学が多くあり、その技術は世界の中でも高く評価されています。マレーシアの大学としては最高位となったマラヤ大学は、1949年にマレーシア初の国立大学として誕生しました。東南アジア研究、メディア研究、イスラム教やマレー文化の専門学部といった、国立大学ならではの専攻分野があり、授業が英語、マレー語、中国語で受けられるということで、留学生の割合が多いようです。「THEアジア大学ランキング2018」のランキングでは、前年59位から13ランク上げて46位。マレーシアは、タイとインドネシアに挟まれた半島と島々から成る国ですが、1970年代に、国の経済基盤を安価な製品(ブリキ、ゴムなど)の生産から価値の高い消費財(天然ガス、パーム油など)の生産に切り替え始めました。それにともなう産業の発展に応用科学が用いられたのです。今日、マレーシアの主要な輸出品は、電子部品、石油製品、石油化学製品、機械製品、食材などとなっており、科学技術が国の経済成長戦略の中心となっています。マレーシアの場合、経済の変動が科学研究を促進することになったのです。もうひとつ、マレーシアで特徴的なのは女性研究者の割合です。ほぼ半分の研究者が女性だというのですから驚きです。その上、マレーシアの研究者にはイスラム教徒が多く、ハラル認証(イスラム教徒のための製品に付けられる認証)のとれる食材や医薬品、化粧品などの開発に貢献しています。世界のハラル市場は2016年、2兆USドル規模となっているので、マレーシアでは地域の特性に関連する科学研究の発展が経済成長につながっていると言えます。 同様のことがシンガポールや韓国、台湾でも見られ、電気事業、物理、材料科学などの応用科学研究における長期戦略がGDPを押し上げるのに一役を担っています。例えば、シンガポール政府は、ヘルスケア、医学生物科学のような国が優先させる政策に関連する研究に対する投資を行っています。香港では、アジアで発生する鳥インフルエンザやSARS(重症急性呼吸器症候群)などの新興感染症の研究が進んでいます。感染症への対策が必須であることはもちろんですが、香港がアジアから世界に広がる感染症の”交差路“であることが、研究を行う”地の利“となっているのです。…

日本の女医不足に拍車をかける大学スキャンダル

入試で女子受験生の得点を恣意的に減らし、女子の合格者数を抑制していたことが報じられた東京医科大学。女子学生が医師になっても結婚や出産で辞めてしまう人が多いからというのが、男子受験生を優遇した理由だそうですが、調査が進むにつれ、不正の根深さが浮き彫りになっています。女医不足・医師不足が社会問題となる中で、医師になる潜在的な人材を大学入試の段階で不正に切り落としていた行為は、高等教育機関としてあるまじき行為ですが、女性の活躍支援に関わる国の補助金を受けていたこと、高額な謝礼を受け取っていたことも発覚し、問題はさらに大きくなっています。海外メディアでも取り上げられ、日本社会の構造的な問題とも見られています。   ■ 東京医科大の矛盾と日本社会が抱える男女格差 東京医科大は文部科学省が公募した「平成25年度女性研究者研究活動支援事業(一般型)」の補助金を受けていました。採択されたことを報告する同校のホームページ には、この支援事業について「女性研究者がその能力を最大限発揮できるとともに、出産、子育て又は介護と研究を両立するための環境整備を行う取組みを支援することを目的とした事業」であると記されています。この支援金は3年間で、総額80,264,000円。「本学の女性研究者支援体制の整備は急務である」と書きつつ、その裏で女性医師・研究者の卵である女子受験生の得点を一律で減点し、入学者数を制限していた罪は重いと言えます。この問題を取り上げたBBCニュース は、日本の専門職における女性の割合の低さにも言及しています。実際、厚生労働省の調査報告 によれば、日本の医師数は全国で319,480人、男性251,987人(総数の78.9%)に対して、女性67,493 人(同21.1%)となっています(平成28年12月31日時点での届出数)。では、この人数と男女比率は他国と比べてどうなのでしょうか。   ■ OECDデータに見る日本の医師の数と女性の割合 OECD.Statの「OECD Health Statistics 2018…

2019年版QS世界大学ランキングが発表

イギリスの高等教育機関の調査会社クアクアレリ・シモンズ(Quacquarelli Symonds,QS)が2018年6月7日、「QS World University Rankings第15版」を発表しました。いくつか存在する世界のトップ大学ランキングの中でも随一の注目度を誇るQSの同ランキング。果たして今回の内容は――。  ■ クアクアレリ・シモンズ(QS)のランキング  クアクアレリ・シモンズ(QS)は、同社の創始者でありCEOであるNunzio Quacquarelli氏が、ペンシルベニア大学のウォートン・スクール在学時に考案したことを発端に、2004年から世界の大学ランキング付けを開始しました。複数ある世界の大学ランキングの中で、唯一、国際ランキング専門家グループ(International Ranking Expert Group, IREG)の承認を得ているランキングで、これから高等教育を受けるために大学を選ぼうとする学生やその保護者、さらには産学連携を図る企業にとっても、たいへん役に立つデータとなっています。グローバル・イノベーション・インデックス(Global Innovation Index)やBank of…

FDAが大麻由来の治療薬を初めて承認

技術の進歩は医学研究における新たな発見も加速させます。新たな成分や効能の発見は新薬の開発につながりますが、既知の成分の薬効が正式に承認されることで新薬が誕生することもあります。イギリスの製薬会社GWファーマシューティカルズによる大麻由来のてんかん薬「エピディオレックス(Epidiolex)」がアメリカ食品医薬品局(Food and Drug Association : FDA)によって承認され、現代医療における画期的なニュースとして注目されています。 ■ 画期的な新薬の効果 エピディオレックスは2018年6月25日に、アメリカ初の大麻由来の治療薬としてFDAによって承認されました。同薬は、2歳以上であれば服用が可能で、難治性の2種類のてんかん症候群(レノックス・ガストー症候群(Lennox-Gastaut syndrome : LGS)とドラベ症候群(Dravet syndrome : DS))に対する治療薬として開発されたものです。幼年期でのてんかんの発症は重症化し、死に至ることもある上に、既存の治療薬では複数の種類の投薬が必要で、それをもってしても治療が非常に困難であるとされてきました。 臨床試験によって、麻に含まれている、カンナビジオール(cannabidiol…