ワールドアカデミックニュース

世界各地の学術界では今、何が起こっているのか。
研究者なら知っておきたい新たな潮流や、学術界のこれからを占う最新ニュースを、エナゴが厳選してお届けします。

ノーベル賞受賞者へのインタビュー特集

毎年、アルフレッド・ノーベルの命日である12月10日に授賞式が行われるノーベル賞。2025年は、生理学・医学部門で大阪大学特別栄誉教授の坂口志文(さかぐち しもん)先生が、化学部門で京都大学理事・副学長の北川進(きたがわ すすむ)特別教授が受賞者となりました。 エナゴでは、北川進先生を含めてこれまで3人のノーベル賞受賞者へのインタビュー記事をサイトにて公開しています。 中村修二 (なかむらしゅうじ)博士へのインタビュー 2014年 ノーベル物理学賞受賞者 企業に籍を置きながら単独で青色発光ダイオード(LED)を開発し、その後カリフォルニア大学の教授職に就かれた中村修二先生は、LEDの研究開発の功績で2014年のノーベル物理学賞を受賞。核融合発電の実現に取り組むなど現在でも精力的に研究を続けられています。インタビューはノーベル賞受賞前の2007年にエナゴが実施。留学時代のエピソードや初めて自分が行った授業のことなど、英語とどのように向き合ってきたかを中心にお話を伺いました。 ♦トップ研究者インタビューby エナゴ 中村修二氏へのインタビュー 「英語での初講義。緊張して気絶しそうでした」 https://www.enago.jp/interviews/drnakamura   益川敏英(ますかわ としひで)博士へのインタビュー…

基礎研究をめぐる日本の状況

基礎研究とは 基礎研究とは、人類が理解していない現象を理解するために行う研究であり、文部科学省(以下、文科省)の2014年の資料によれば「特別な応用、用途を直接に考慮することなく、仮説や理論を形成するため、又は現象や観察可能な事実に関して新しい知識を得るために行われる理論的又は実験的研究をいう。」と定義されています。 基礎研究の成果は、着実に次の研究の下支えとなっています。例えば、新型コロナウイルスが猛威を振るったとき、ウイルス学や病理学の基盤があったからこそmRNAワクチンを短期間で開発することができました。また、ニューラルネットワークの研究の積み重ねがあったからこそ、近年の人工知能(AI)の急速な発展が実現したのです。つまり、基礎研究はその成果が発表された時点で直接的な経済効果につながらなかったとしても、巡り巡って人々の生活に役立ち、経済にもプラスの効果をもたらすものであるということです。 基礎研究の重要性 基礎研究の重要性 基礎研究の成果は、実用化につながらなかったり、具体的な利益につながるとしても時間を要したりするものです。5年、10年という短期ではなく、100年単位の長期で考えれば、基礎研究は確実に世の中の「役に立つ」ものなのですが、外から見ると何をやっているのかわからないことも少なくなく、「役に立たない」と思われてしまうこともあるでしょう。 2024年にニューラルネットワーク研究者のJohn J. Hopfield氏とGeoffrey Hinton氏がノーベル物理学賞を受賞した際、一般社団法人人工知能学会の会長栗原聡氏が、情報処理に関する研究が受賞したことに驚き、「毎年この時期になると皆が納得するものの,すぐに忘れてしまうのが,基礎研究の重要性である.」とのコメントを発表したのは印象的でした。 ノーベル賞が発表される10月には受賞者の功績に惜しみない讃辞を贈るのに、11月になるとみんな忘れてしまうと指摘しつつ、基礎研究については抜本的な対策が必要であると問題提起していました。多様な基礎研究は、いつかどこかで人類への貢献につながるのです。 基礎研究力の低下が国際競争力の低下につながる 栗原会長のコメントは「かつての日本はこの基礎研究にしっかり取り組んでいたし,なのでノーベル賞を受賞される研究者も誕生してきた.しかし,現在の日本は極端な言い回しをするなら直近しか見えなくなってしまっている.研究費を無駄にしないためにも必ず成功して事業化することが求められる傾向がどんどん強くなっている.」と続きます。実際、大隅良典氏や本庶佑氏をはじめとする歴代のノーベル賞受賞者の多くが日本で基礎研究が軽視される傾向にあることに対して危機感を示しており、基礎研究の価値を指摘しています。 基礎研究は、既存の問題や技術の限界を打破する可能性を有していますが、どの基礎研究がいつ、どのように画期的なイノベーションにつながるかは当の研究者ですら分かりません。だからこそ、多くの研究者がさまざまな研究を続けていくことが不可欠であるにも関わらず、2000年代初頭に科学技術政策に「選択と集中」の考え方が導入されてから、基礎研究は危機に瀕していると指摘されています。 基礎研究を極めた研究者が勝ち取ったノーベル賞…

日本政府がAI国力の強化を目指し、AI基本計画骨子案(たたき台)を策定

人口知能(AI)の開発と利用が世界で急速に進む中、AIの利活用が十分に進んでいるとは言えない日本の状況を打破するべく、日本政府は2025年9月12日に初の「人工知能基本計画骨子(たたき台)」を公開し、AIの開発と利活用を政府として後押ししていく考えを示しました。本記事では、AI基本計画(たたき台)のポイントについて概説し、AI促進による科学研究への影響について考えてみます。 人口知能(AI)基本計画とは 人工知能基本計画(以下、AI基本計画)とは、2025年6月4日に施行された「人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律(AI法)」に基づく国家戦略として位置づけられた、AIの研究開発や利活用を促進するための基本的な計画です。2025年9月12日に内閣総理大臣を本部長とする「人口知能戦略本部(AI戦略本部)」の初会合が開かれて議論がスタートし、AI基本計画骨子(たたき台)を公開しました。この会合の開催にあたり、当時の石破茂首相は「AIは、社会課題の解決や産業競争力の強化を実現する技術であり、安全保障上も極めて重要」と述べています。AI基本計画は、AIの技術開発や活用の推進に関する国の作戦のようなもので、今後、有識者や調査会などの意見も踏まえて計画案を作成し、パブリックコメント(意見公募手続き)を経て2025年内に閣議決定することを目指しています。 AI基本計画策定の背景 政府がAI基本計画の策定を急いでいる背景には、日本がAIの開発および利活用で国際競争に出遅れている現状があります。安全保障やさまざまな産業の競争力の強化にはAIが欠かせないとして、アメリカと中国を筆頭に各国で開発が進められていますが、AI戦略本部会合の資料には、日本のAI利活用率と投資額が米中に大きく遅れを取っていることが示されています。 特に、大規模言語モデル(LLM)の急速な発展に後押しされているChatGPTなどの対話型生成AIは、すっかり日常生活に浸透しているように見えますが、生成AI利用率でも個人・法人ともに米中に大きく水をあけられており、民間投資額(世界14位、約9億円)に至っては米国(世界1位、約1,091億円)の約1/121です。 しかも、国内で利用されている生成AIは米国で開発されたものが主流であるといった開発力の問題や、フェイク画像が簡単に生成できるといった利用に関する懸念など、憂慮すべき課題も多々あります。 出典:人口知能戦略本部(第1回)資料2-1 ⼈⼯知能基本計画の⾻⼦(たたき台)の概要について 日本政府は「AIを使わない」ことが最⼤のリスクであると明言し、「反転攻勢」をコンセプトに⽇本のAI投資・利活⽤を推進しようとしています。 日本のAI戦略の基本構想とAI基本計画 日本のAIに関する基本構想として「世界で最もAIを開発・活⽤しやすい国」を⽬指すとの国家戦略のもとで策定されているAI基本計画には、「イノベーション促進とリスク対応の両立」「PDCA(計画・実⾏・評価・改善)と柔軟・迅速(アジャイル)対応」「内外一体の政策展開と国際連携」の3原則と、「AIを使う」「AIを創る」「AIの信頼性を高める」「AIと協働する」の4方針が掲げられています。 平成31年に内閣府が発表した「人間中心のAI社会原則」が堅持されてはいますが、AI基本計画では人間とAIの「協働」を推進し、制度や社会の仕組みを継続的に変革していくことの重要性が強調されています。生成AIの登場から最近の急速な利用拡大により、これまでは人間が担ってきた業務をAIが支援または代行するようになったことで「人間とAIの協業」が注目されていることを踏まえたと見られます。 もはやAIの導入は単なる技術的な変化に留まらず、労働市場(雇用)、教育、産業の在り方といった人間の活動、さらには社会全体に影響を及ぼすものとなっており、産業構造や教育・雇用制度の見直しが必要であると認識されているのです。 AIの発展と科学研究 -…

より効果的な共同研究で気候危機に立ち向かおう

環境と日々の生活を脅かす気候危機は、現在、最も差し迫った問題のひとつです。対策を講じるためには、研究者が集まり、オープンかつアクセスしやすい方法で研究・調査結果を共有することが非常に重要となっています。共同で研究を行い、成果をオープンアクセス(OA)ジャーナルに公開することによって、研究者は自分たちの研究をできるだけ広範に届け、影響力を高めることができるようになります。 気候変動の複雑さと喫緊の行動の必要性を踏まえると、関連する研究においては、革新的かつ効果的、さらに分野横断的なアプローチの開発が欠かせません。しかし、従来型の気候研究コミュニティは、共同研究を進めることや影響力を高めることに対して効果的には動けておらず、研究資金の調達や共同研究の構築に奮闘しているのが現状です。 気候危機:今、世界は何を必要としているのか 気候危機が、現在、最も差し迫った問題のひとつであることに疑いの余地はありません。すでに世界中で気候変動の影響が出ており、状況は悪化の一途をたどっています。早急に気候変動の影響を緩和させ、さらなる被害を防ぐために行動を起こす必要があります。 世界が気候危機に対してできることの最も重要なことは、再生可能エネルギーに移行することです。化石燃料(石油・石炭・ガス)は、温室効果ガス(GHG)の主要な排出源なので、再生可能エネルギーに転換することが化石燃料からのGHG排出量の削減につながります。再生可能エネルギーは化石燃料よりも持続可能で環境にやさしいエネルギー源なので、世界は一刻も早く、再生可能エネルギーへの移行を進める必要があります。 また、サステナブル・プラクティス(持続可能な慣行)を促進することによって、気候変動に対する取り組みを進めることも重要です。それには、共同研究を行うことにより科学の発展を促進し、研究コミュニティ内で研究成果が簡単にアクセスできるようにすることなどを含みます。持続可能性には、廃棄物の削減や、資源の保全、自然生息域の保護といったことだけではなく、グローバルなアクセシビリティ(世界のどこからでもアクセスが可能になること)を備えた研究を徹底的かつ継続的に発展させることも意図されています。持続可能性とは、将来世代に地球環境を残すための鍵なのです。 OA出版の必要性 科学研究は、時間のかかる複雑なものです。気候危機への取り組みを大きく進めるためには、それぞれの研究が相互協力するための効果的な方法が必要です。研究成果をオープンアクセス(OA)で出版することで、誰もが最新の研究成果にアクセスできるようになり、研究者同士が協力することも可能になります。こうして、研究を積み重ね、さらに発展させることができるようになるのです。 OA出版には、研究成果をより広範囲で利用できるようにするというメリットもあります。この点は特に、従来の学術雑誌(ジャーナル)へのアクセスが限られる開発途上国の若手研究者や科学者には大切なことです。物理的なアクセシビリティの改善だけでなく、OAジャーナルは、有料で購読するジャーナルよりも安いのが一般的なため、予算の有無や大きさに関わらず、誰もが手ごろな価格で研究成果にアクセスできるというメリットも存在するのです。 気候危機に立ち向かう共同研究 気候変動に立ち向かうためには、共同研究が不可欠です。データや調査結果を共有することにより、研究者は協力して気候変動のパターンや傾向を特定し、直面する課題に対する解決策を見出すことができるようになります。 共同研究を通して、異なる分野の研究者が専門知識や見解を共有し、知識(リソース)を蓄積することによって重要な気候変動問題に関する研究を発展させることができるのです。研究コミュニティが協力することで、気候変動への緩和・適応策を模索し、将来世代のために地球環境を守る方法を見出すことができるでしょう。 一例としては、イギリスのエクセター大学(University of Exeter)はオックスフォード大学(University…

捕食出版社: 学術出版界に広がり続ける病

捕食出版社は、一般的にオープンアクセス(OA)の形で学術雑誌(ジャーナル)を公開しており、それらは捕食ジャーナル(あるいはハゲタカジャーナル)と称されています。こうした捕食出版社(ハゲタカ出版社)は、論文の投稿者に論文掲載料(APC)を課しますが、査読は行いません。捕食ジャーナルに論文を投稿する研究者は後を絶ちませんが、時には投稿先の学術ジャーナルが査読付であるかのように見せているだけであることに気づかずに投稿してしまう研究者もいます。研究者としての実績の評価基準に出版数が含まれているため、研究者にとって論文の出版数は重要なのです。 研究者を捕食する出版社 捕食ジャーナル (predatory journal/ハゲタカジャーナル) は、広く批判されてきました。実際には提供していないサービスに課金し、査読なしで論文をアクセプト(受理)するので質の低い論文が公開されることになります。そのことに気づかない読者は、これらの出版物を信頼してしまうかもしれません。つまり、読者の研究に悪影響を及ぼす可能性があると言えます。にもかかわらず、捕食ジャーナル掲載される論文の数は増えています。2014年には約8,000の捕食ジャーナルに42万本の論文が掲載されていたと推測されていましたが、この数が同じペースで増え続けていたとすれば、2021年には、15,000誌、掲載される論文は約78万本にまで増えているとだろうとの分析もあります。 多くの若手科学者が、どのように運営されているかに気づかずに捕食ジャーナルに論文を投稿しています。捕食ジャーナルでは論文が簡単に発表できるので、「Publish or Perish(出版か死か)」と言われるほど論文の出版を重視する学術環境では魅力的な投稿先なのです。投稿した学術論文がリジェクト(却下)されることはよくありますが、捕食出版社ではアクセプト(受理)されやすいので、少なくともその捕食ジャーナルが著者を食いものにしていると分るまでは、投稿先として選択してしまうのです。 一方で、投稿先の学術ジャーナルが補足ジャーナルだと知りつつ投稿する著者もいます。論文を発表する必要に迫られて、簡単にすぐ掲載してくれる捕食出版社を選ぶ可能性もあります。さらに、学術界での地位を上げていくためにも論文を出版する必要があります。投稿先が補足ジャーナルかどうかを所属大学が調べていなければ、捕食ジャーナルへの掲載であっても論文の出版実績という常勤職に就くための必要条件をひとつ満たすことができるのです。 捕食ジャーナルの影響 捕食ジャーナルは、オープンアクセス(OA)・ジャーナルの信頼を損ないかねません。良質なOAジャーナルも、論文著者に掲載料を請求しますが、主な違いは、良質な学術誌は厳格な査読を行っているという点です。しかし、研究者がOAジャーナルの区別をするのは難しい場合があります。当時米コロラド大学デンバー校の図書館員であったジェフリー・ビール(Jeffrey Beall)はこの問題に取り組み、、研究者を食いものにしている疑いのある1,155以上の捕食ジャーナルをリスト(ビールズ・リスト)にしました。しかし、このリストは2017年に閉鎖され、現在も再開されてはいません。 信頼を損なうこと以外の影響はどうでしょうか。この問題を取り上げた論文(Who is…

エナゴが「これからの学術出版におけるAIの役割」アンケート調査の結果を公開【PR】

論文執筆および出版支援のグローバルリーダーである研究支援エナゴ(Enago)が、学術出版における人工知能(AI)の役割と影響を探る包括的なグローバルアンケート調査を実施し、その結果『Role and Impact of AI on the Future of Academic Publishing』を公開しました。これは4回目の学術研究に関するリスク評価調査として2021年8月から2021年10月までの5週間にわたって行われたアンケート結果をまとめたものです。この調査では、世界54か国の212大学に所属する350人以上から回答が得られました。 このグローバルアンケート調査は、以下の点の掌握を目的に実施されました。調査結果のポイントも記します。 調査の目的 AIに関する(地域、年齢層、教育、性別に基づく)人口統計的見地の把握 AIに関する一般的な認識と認知度の理解…

プレプリントの役割-留意点と投稿ステップ

「君の研究は基礎研究を理解するうえで重要な関連性があるから、学術雑誌(ジャーナル)での公開に先だってプレプリントサーバーで発表した方がいいと思うよ。ジャーナルで論文が公開されるまでの従来のプロセスは時間がかかるので、先を越されるリスクが大きいからね。」と、言われたことがありますか?プレプリントに論文を公表したいけれど、どのようなことに注意すればよいのかと悩んだことのある人がいるかもしれません。ここでは、プレプリントを利用する際の留意点と、プレプリントに論文を投稿する際の手順(ステップ)を解説していきます。 プレプリント論文とは? 研究論文がジャーナルに公開されるまでには時間がかかります。一般的には、ジャーナルに投稿された論文は、編集委員(エディター)によるチェックを経てから分野を専門とする研究者に送られて査読(ピアレビュー)が行われるので、時間を要するのです。プレプリントとは、ジャーナルに掲載することを目的に書かれた論文を査読プロセス抜きにサーバーに掲載し、オープンアクセスで誰でも閲覧できるようにしたものです。著者最終版と呼ばれることもありますが、多くの著者はジャーナルに投稿するのと同じ版をプレプリントサーバーに掲載しています。昨今のコロナの治療法などの医学関連や急速に進歩する情報技術など、研究結果の共有が急がれる分野でプレプリントでの公開が進んでいます。論文著者は、信頼性を確保するためとは言っても時間のかかる査読プロセスを経てから公開されるジャーナルの出版を待つことなく、プレプリントサーバーに論文を公開することで、研究成果を共有し、認識してもらうことができるのです。プレプリントの論文は、査読を受けておらず、特定のジャーナルのフォーマットに合わせた体裁になっていない原稿ですが、投稿された論文にはDOIが割り当てられ、ユーザー独自の判断で引用することができるので、貴重な研究が学術コミュニティに素早く共有されることにつながります。 プレプリント論文の役割 プレプリントを利用した学術研究成果の共有が増え、知識の拡散が促進されています。さまざまな分野のプレプリントサーバーが誕生し、利用されることにより、プレプリントは学術研究において以下のような役割を果たしています。 研究成果を迅速に学術コミュニティで共有できる 読者は、プレプリントサーバーに公開された論文を評価することができる 著者は、ジャーナルで出版する前に、誤りを修正したり提案を組み込んだりすることができる 著書が研究の論点を強化するのに役立つ 著名なジャーナルでの論文掲載につながる協力関係の構築にも役立つ プレプリントサーバーと関連サイト プレプリントサーバーは、さまざまな学術論文のデータや情報を掲載したオンライン・リポジトリであり、そこに掲載されるのはジャーナルにアクセプト(受理)されていない段階の学術論文です。論文原稿がプレプリントサーバーにアップロードされると、基本的な審査と剽窃・盗用チェックが行われますが、査読は行われません。プレプリントサーバーおよび関連情報としては以下のようなものがあります。 1. BioRxiv 生物化学、医学、生物学分野のプレプリントサーバー。コールド・スプリング・ハーバー研究所(Cold…

グリーンOA(オープンアクセス)のメリットとデメリット

オープンアクセス(OA)は、学術出版に大革命をもたらしています。制限のない知識の共有という目的の上に構築されるOAとは、基本的に、誰もが出版物をオンライン経由で常時、購読料を支払うことなく利用できることを意味します。研究知識を制限なく共有することは、著者、読者、そして研究資金提供者にとって非常に重要なことです。OA化の手法は、ゴールドロード(ゴールドOA)とグリーンロード(グリーンOA)と呼ばれる二つに大別されます。 この記事では、グリーンOAの概要と、そのメリットとデメリットに焦点を当てて紹介します。 グリーンOAとは グリーンOAとは、論文の著者らが自ら自分のウェブサイトや所属する研究室や大学・研究機関のウェブサイト、あるいはリポジトリに論文をアーカイブし、誰もが自由に無料で読めるようにするものです。セルフアーカイブとも呼ばれます。購読型の学術雑誌(ジャーナル)がすべてセルフアーカイブを許可しているわけではないので、投稿先ジャーナルがセルフアーカイブを認めているのかを確認しておくことが必要です。さらに、著者がどの論文を外部に公開できるかは出版社/ジャーナルの規定によるので、セルフアーカイブされている論文が査読を経ていない場合もあります。査読の前後、それぞれプレプリント(査読前)またはポストプリント(査読と著者による修正が済んでいる論文)と呼ばれる―いずれの原稿をアクセス可能にできるかは論文の投稿先によります。 すべてのOAジャーナルまたは出版社は、セルフアーカイブ・ポリシーを作成し、論文のどの版を掲載し、リポジトリでアクセスできるようにしてよいかといった諸条件を定めています。購読型ジャーナルに投稿した論文でも公開版の論文をセルフアーカイブできるものもありますが、一定の期間を経過していることを条件としているものもあります。この期間は猶予期間(embargo period)と呼ばれており、数ヶ月から数年とジャーナルによって差があります。猶予期間を設けずに即時公開が選択できる場合もあるので、公開猶予期間に関しては、ジャーナルあるいは出版社の方針をよく確認しておきましょう。 また、OAジャーナルの中には、出版後の著作権を著者に付与しているものもあります。多くのOAジャーナルはクリエイティブ・コモンズ・ライセンス(CC licence)を採用していますが、著作権の扱いについてもジャーナルに確認しておくことが重要です。 ゴールドOAとグリーンOAの違い グリーンOAとゴールドOAはいずれも、誰もがアクセスできるオープンサイエンスを提供するための手段ですが、多くの点で異なっています。 ゴールドOAは、出版社などが運営するサイトに投稿論文の最終版(公開版)を掲載し、誰もが論文にアクセスすることができるようにしたものです。論文の投稿者から掲載料を取るので、読者は無料で全文を読むことができます。これに対し、グリーンOAは、購読型ジャーナルに掲載した論文を著者らが自分自身や所属機関のサイト、またはリポジトリにセルフアーカイブし、誰もが自由に読めるようにするものです。セルフアーカイブで公開される原稿は、最終的にジャーナルに掲載された公開版とは異なる完成版(著者が仕上げた版、著者最終稿)もしくは出版社が許可した版になります。 グリーンOAとゴールドOAの主な違い グリーンOA ゴールドOA 完成版(査読を経た公開版とは異なる)論文への自由なアクセス…

研究者を悩ませる論文著者名の順番と平等性(Equal Authorship)

誰の名前を論文著者として記載するか――という問題は、共同研究が広がるにつれ、ますます複雑になっています。論文執筆に貢献したにも関わらず名前が記載されなかったり、まったく貢献していないのに名前が記載されたりという論文の著者資格(オーサーシップ)は以前より注目されていましたが、分野や立場の異なる多くの研究者が1つの研究に参加することが増えてきたため、誰を筆頭著者、最終著者や責任著者とするか、名前の順位や責任の所在が新たな問題として浮上してきました。研究論文の作成に最も尽力した研究者である筆頭著者は明らかでも、それ以外の共著者の記載順も重要です。一般的には、研究への寄与が大きい人から順番に並べていきますが、複数の著者の貢献が同じぐらいであったり、比較が難しかったりする場合もあり、簡単にはいきません。そこで、貢献の質と度合い(量)を明確に示すことが推奨されるようになってきました。著者間の平等 (equal authorship)に向けた動きも出てきています。例えば、学術雑誌(ジャーナル)によってはCo-first authorship(共同第一著者)として、複数の著者が同程度の貢献をしていることを示すことができるようになっているのです。 オーサーシップについて、研究者が直面する問題 研究を実行する際には研究デザインや方法などについて共同研究者間で意見が異なることがあるかもしれません。同様に、論文を出版する段階でオーサーシップについて異なる意見が出るかもしれません。オーサーシップの問題には、研究に貢献していない人、著者に含めるべきでない人を記載してしまう不適切なオーサーシップ(ゲストオーサーシップなど)と、研究に貢献したのに著者として記入されないゴースト オーサーシップ(幽霊著者)が挙げられます。 不適切なオーサーシップ(ゲストオーサーシップ):研究に貢献していないのに著者として記入する オーサーシップの問題は、研究倫理に関わります。そもそも著者として名前を連ねることができるのは、当該研究に関わり、論文の執筆にも関わっている人、つまり著者資格(オーサーシップ)を有している人のみです。名前が記載されることは、当該研究に関する責任を負うことを意味します。地位の高い研究者であっても、その研究に貢献していなければ、研究者としての実績に加えたいからと言って、著者として名前を記載することはできません。しかし、権威ある研究者の名前が入っていると論文が受理されやすくなるとして、実際の研究への関与が薄いにもかかわらず著名な研究者の名前を共著者に入れたり、研究に関する何らかの恩返しや礼儀、敬意の表明といった意味から共著者にしたりするような場合も見受けられます。このような著者はゲストオーサー(名前を借りただけの著者) と呼ばれます。 ゴーストオーサーシップ:研究に貢献したのに著者として記載されない ゲストオーサーとは反対に、研究に貢献したにも関わらず著者として名前が記載されない人はゴーストオーサーと呼ばれます。院生などを研究に関わった場合の関わり方や、貢献度の評価の差によって共著者として記載しない、あるいは利益相反があると見なされる可能性のある特定の研究者を意図的に著者から外すといったことが行われています。企業との共同研究なのに、企業にとって都合のよい結果が出ていると思われるのを避けるためにその企業の研究者の名前を記載しない、または企業名をあえて記載しないということもあります。 オーサーシップに関するガイドライン 多くのジャーナルはオーサーシップを定義するにあたって、医学雑誌編集社国際委員会(International Committee…

クラリベイトがJournal Citation Reports 2021を発表

2021年6月30日、Clarivate Analytics社(以下、Clarivate)が、学術誌評価分析データベースJournal Citation Reports(JCR)2021年版を発表しました。JCRは世界で最も影響力のある学術雑誌(ジャーナル)を特定するのに役立つ一方、新しい指標などについては議論も生まれています。 Journal Citation Reports(JCR)2021年版 毎年公開されるJCRの指標やデータは、世界の高品質なジャーナルの評価を行うのに有用です。2021年度版には113ヵ国からの20,000を越えるジャーナル、ならびに、自然科学、社会科学、芸術、人文科学からなる254の研究分野の論文が収録されています。これにより、JCRの収録範囲はWeb of Science Core Collectionがカバーする研究分野の全範囲となりました。また、収録ジャーナルのうち、ゴールドオープンアクセス(ゴールドOA)を含むジャーナルが14,000誌、完全なオープンアクセス(OA)は4,600誌以上と、こちらの収録範囲も拡大しています。収録範囲の拡大も含め、2021年版の特徴を紹介します。 新しい引用評価指標(Journal Citation Indicator)の導入…