コラム

間違いやすい用語や表現 – on

「on」は日本人学者がしばしば誤用する前置詞の一つです。以下はその典型的な誤用を示します。 (1) [誤] This behavior is independent on the factors discussed above. (1) [正] This…

否定的な結果 をもっと公表しよう

科学や医療の世界では「否定的な結果」が公表されない傾向にあることが問題になっています。「否定的な結果(negative results)」とは、研究者たちの仮説をサポートすることに失敗した研究結果のことです。「否定的な知見(negative findings)」ともいいます。 本連載では以前、実施された臨床試験の結果が半分以下しか公表されていないという調査結果を紹介したことがあります。その理由の1つとしては、公表されない結果のなかには「否定的な結果」もあり、研究者やスポンサーがそれらを公表することに積極的になれないことも考えられます。 生物医学のニュースサイト『STAT』は、この問題を次のように評します。 この(「 否定的な結果 」がジャーナルで公表されない傾向にある)ことは 、科学者たちがそのような研究の有効性を見つけることに失敗したということを意味しない。まったく反対である。たとえば、ある医薬品がある感染症に対して効果がないということを発見した研究は、重要であるとともに、すぐに使える情報である。 しかしながら一般的にいえば、「肯定的な知見」のほうが目立つのは事実でしょう。つまり自分たち(またはスポンサー)の仮説をサポートする研究結果のほうが読者にも響くし、メディアにもウケやすいのです。 「しかし、こうした態度は変化しているようだ」と『STAT』は書きます。 たとえば、専門誌『アメリカ消化器病学ジャーナル (AJG: The American…

間違いやすい用語や表現 – from

「from」は日本人学者によってしばしば誤用される前置詞の一つです。ここでは、特によく見られる誤用の典型例を列挙し、その修正文を挙げます。 (1) [誤] The behavior described in the previous section is constrained from the (1)…

追試研究 をより高く評価しよう

この連載でもたびたび伝えているように、科学の世界では、論文に書かれているものと同じ材料を用意し、同じ方法で実験しても同じ結果が出ないことがずっと問題になり続けています。このことは「再現性の危機」と呼ばれることもあります。 問題になり続ける理由の1つとして、研究の追試(再現実験)が重要視されていないということがあります 。たとえ科学者が他人の論文に書かれた研究の追試を行っても、新しい知識がもたらされるわけではなく、彼らにとって何の利益にも実績にもならない、したがって追試をしたりその結果を発表したりする動機がなかなか生じない、と捉えられているようです。 そればかりか、後述する『ネイチャー』の社説は次のように指摘します。 多くのジャーナル(学術雑誌)は、追試研究を 評価することを拒んできた。また科学者の多くは、もし(追試の)結果が(もとの実験結果と)一致しなかったとき、諍いが起こるようなことをしたいとは思わない。そのため内情に通じていない科学者たちは、袋小路を探索することで時間を無駄にするか、もしくは本当に展望のある研究に対して疑い深くなってしまうかである。 このことに対して、科学コミュニティも手をこまねいているわけではありません。 たとえば今年7月19日、オランダで、世界で初めて国が追試に助成金を支出するプログラム「リプリケーション・スタディーズ( 追試研究 ))」が開始されることが発表されました。このプログラムは、社会科学や医学研究、医療イノベーション分野における重要な研究結果を再現できるかどうかを検証する科学者のために、今後3年間に渡って300万ユーロを支出するものです。 この実験的なプログラムは「オランダ科学研究機構(NWO)」が始めました。NWOはオランダ最大の予算支出機関で、大学や研究機関における研究プロジェクト6000件以上に、毎年、7億ユーロを投資しています。 NWOは「このプログラムによって科学におけるイノベーションを促進し、研究者たちが追試を実行することを促したい」とその目的を説明しています。 プレスリリースや『ネイチャー』の別の記事によれば、このNWOの実験的なプログラムは、科学や政策、国民的な論争に大きなインパクトをもたらす「土台的研究(Cornerstone research)」を追試することに焦点を当てる、といいます。土台的研究とは、しばしば引用され、後続の研究に幅広く影響する結果を出しており、政策を決定するのに重要な役割を果たす研究、とNWOによって定義されている研究です。「この意味で、関心を集めている研究結果の再現性の検証は、とりわけ重要なのです」とNWOは述べます。 NWO運営委員会のヨース・エンゲレン議長は、毎年8件から10件のプロジェクトに予算を出すことができると予想している、と、先述した『ネイチャー』にコメントしています。…

再現性確保のため、研究不正に対する取り組みを

ある研究結果について、「再現性があるかないか?」ということと、「研究不正があるかないか?」ということは、まったく別のことです。再現性がなくても、そのことは必ずしもその研究に不正(捏造、改ざん、盗用など)があることを意味しません。単に確認が不十分であったからだとも考えられます。 しかしながら、「再現性のなさ(irreproducibility)」の原因として、研究不正は無視できない一因であるということを、コロンビア大学の名誉教授で精神医学を専門とするドナルド・S・コーンフェルドらは今年8月31日付の『ネイチャー』に寄稿した「研究不正を無視するのをやめよう」という論評で強調します。 再現性のなさは、2つの要因の産物である。1つは不完全な研究行為であり、もう1つは研究不正である。われわれの見解では、科学を向上させるために現在行われている取り組みは、2つめの要因を軽視している。 たとえば、2014年、アメリカ国立衛生研究所(NIH: National Institute of Health)のフランシス・コリンズ所長は、「わずかな例外を除いて、再現性のなさの原因が研究不正であることを示唆するエビデンスはない」と同じ『ネイチャー』誌上で述べました。 アメリカの政府機関で、研究不正を取り締まる役割を持つ「研究公正局(ORI: the Office of Research Integrity)」によって、再現性のなさが問題となったケースで、研究不正を行ったと認定される研究者は年間わずか10〜12人です。しかし、 研究不正の果たしている役割を軽視することは、誤りであり、残念なことだ。最善の場合でも、…

such thatとso thatの違い【意味と構文を解説】

「such that」と「so that」はよく混同されます。ここでそれぞれの表現の正しい用法を説明します。 so that の意味と使い方 「so that」は、副詞として「for that purpose」や「in order that」のように意図を示す場合と、「with the consequence that」や「and…

システマティック・レビュー にもレビュー(再評価)を

ある課題についてこれまでに書かれた論文をすべて集めて、そのデータを批判的に読み込んでレビュー(再評価)し、一定の結論を出す研究を「システマティック・レビュー(systematic review)」といいます。日本語では「系統的レビュー」ということもあります。医療分野では、「根拠にもとづく医療(EBM: Evidence based medicine)」という方針において、最も信頼性の高い情報源となりうる研究方法です。 ところが、システマティック・レビュー論文のなかには、捏造や改ざん、盗用といった「不正行為」がある論文や、製薬企業などスポンサーとの関係があること(利益相反)を明記しておらず、バイアス(偏り)がある可能性のある論文を、見逃してしまっているものがあるとわかりました。調査結果は『BMJオープン』で今年3月2日に発表され、学術情報サイト『リトラクション・ウォッチ』が報じました。 スイスのジュネーブ大学病院で公衆衛生と疫学を研究しているナディア・イーリアらは、医学分野のトップジャーナル4誌に掲載されたシステマティック・レビュー論文114本をレビュー(再評価)しました。『内科学紀要(Annals of Internal Medicine)』、『英国医学ジャーナル(BMJ: the British Medical Journal)』、『米国医師会ジャーナル(JAMA: The…

間違いやすい用語や表現 – since

副詞「since」は、日本人に過度に使用される語です。特に、日本人の学術論文で「since」が使用される大半のケースは、用法が適切ではありません。 「since」の誤用が最もよく見られるのは、「because」の類義語として用いられる場合です。「since」には「because」の類義語としての意味はありますが、両者の間には意味上の重要な違いがあります。その違いを以下に説明します。 一つ目に、「since」が「because」の類義語として用いられている場合でも、その第一義である時間的な要素はある程度残ります。そのため、「since」は「because」より「because, as you/we already know」の意味に近くなります。それゆえ、以下の用例が適切に使用されている場合は、若干意味が異なります。 (1) [正] Because I have already bought the…

間違いやすい用語や表現 – however

副詞「however」は、日本人に最もよく誤用される語の一つです。その誤用は何種類かに分けられますが、ここでは文法上の誤りを考察します。 「however」には主な意味が二つあり、それぞれ、「but」そして「in whatever way」と同義です。前者の場合には「 however 」は必ず副詞ですが、以下が示すように誤って接続詞として使用されていることをしばしば目にします。 (1) [誤] I would like to go to a…

査読の歴史 − 査読を科学的なものにしよう!

7月5日、『ネイチャー』は「査読を科学的なものにしよう!」という過激なタイトルの論評を掲載しました。そう主張するということは、査読の現状は科学的なものではない、と著者は考えているのでしょう。著者のドラムンド・レニーは「世界医学編集者連盟」の元会長で、『ニューイングランド医学雑誌』の副編集長などいわゆるトップジャーナルの要職を務めてきた人物です。 『ネイチャー』は科学の雑誌です。『ニューイングランド医学雑誌』も医学という科学の雑誌です。どちらも科学論文が載る雑誌です。その科学論文の査読が科学的ではない、というのはどういうことでしょうか? この論評は冒頭からいささか挑発的です。 査読は、科学の自己批評的な性質の現れであると褒めちぎられている。しかし、これはヒューマン・システムである。査読にかかわる者すべては偏見を持ち、誤解をし、知識のギャップがある。そのため、査読がしばしば偏見にとらわれたり、非効率であったりしても、驚くべきではない。査読はときとして腐敗し、ときには茶番となり、盗用する者を誘惑するものでもある。ベストを尽くす意図があるとしても、査読が質の高い科学をどれくらい識別しているのかどうかはよくわからない。手短かにいえば、査読は非科学的なのだ。 レニーは30年間、査読の向上、つまり科学文献の向上に努めてきた人物です。彼は医師としてキャリアを始めた後、『ニューイングランド医学雑誌』や『アメリカ医師会雑誌(JAMA: The Journal of the American Medical Association)』で働いてきた経験をもとに、査読の30年を振り返ります。 1983年、彼が『JAMA』で働いていたときのこと、編集長が査読についての会議(カンファレンス)を開くことを提案したとき、彼はそのアイディアに飛びつきました。最終的に、初めての「査読会議(Peer Review Congress)」は1989年にシカゴで開催されました。その会議では、たとえば査読者たちについての人口統計学、査読を行う頻度、盲検などについての研究が報告され、レニーは「アクチュアルなデータ」に興奮したといいます。 そのような研究のおかげで、私たちはいま、査読について多くのことを知っているのだ。たとえば論文を評価するためにかかる時間、査読者たちの間における意見不一致の率、信頼できるジャーナルにおけるコスト、さらには査読における不正行為の発生についても。…