コラム

間違いやすい用語や表現 – against

前置詞「against」は日本人学者によって過度に使用され、最もよく誤用される語の一つです。誤用の原因として、「against」が「に対して」の誤訳になっていることが多いと思われます。実は、「に対して」が「against」に対応する場合もありますが、「against」が訳語として全く不適切とされる場合が多いです。 以下は「against」の典型的な誤用を示します。 [誤] (1) These are “slowly” varying effects, against the previously described “rapidly” [誤]…

インパクトファクターのライバル – Citescore(サイトスコア)とは?

インパクトファクターのライバル – Citescore(サイトスコア)とは? ジャーナル(学術雑誌)の影響力(インパクト)を評価する指標として、「インパクトファク ター」が広く知られています。本誌は以前、このインパクトファクターには多くの問題があると指摘されていることを紹介したことがあります。 インパクトファクターとは、簡単にいえば、そのジャーナルに掲載された論文それぞれが過去2年間に引用された回数の平均値です。たとえば、2015年の『ネイチャー(Nature)』のインパクトファクターは41.456です。『サイエンス(Science)』は33.661、『セル(cell)』は32.242です。 12月6日、学術出版の大手エルゼビア社は、「サイトスコア(CiteScore)」という新しい指標を提供し始めたことを発表しました。 かつてはトムソン・ロイター社、現在はクラリベイト・アナリティクス社が提供するインパクトファクターは、約1万1000誌ものジャーナルをランキングしてきましたが、サイトスコアは、その倍の約2万2000誌を網羅しているといいます。 ただ、サイトスコアが意味することや計算の方法は インパクトファクター と似ており、基本的には引用された回数です。サイトスコアでは、1本の論文が過去3年間に引用された回数の平均値を示します。 エルゼビア社は、このサイトスコアを「ジャーナルの影響力について、より包括的で、より透明性が高く、より最新の見通しをご提供する新しい標準」だと紹介しています。 サイトスコアの最も大きな特徴は、いわゆる研究論文だけでなく、「社説(Editorial)」や「編集者への手紙(Letters to the…

名詞付加語の形

名詞付加語(noun adjunct)とは限定形容詞の働きをする名詞のことです。日本人学者が書いた論文では名詞付加語が誤用されていることをしばしば目にします。ここでその誤用の原因となる誤解を晴らします。 まず、以下を見てみましょう。 [正] I used to work in a shoe store. この用例中の「shoe」は名詞付加語となっています。ここで注目すべき点は、「shoe」が複数の靴を表しているにも関わらず単数形になっているということです。この文は名詞付加語の通常の用法を例示します。一般に、 名詞付加語 は、たとえそれが複数のものを表しているとしても、必ず単数形になるのです。…

科学を最も蝕んでいるのは「科学的詐欺」ではない!?

国内外で研究不正事件が発覚し続けています。「研究不正(研究活動における不正行為)」にもいろいろあるのですが、よく問題になるのは、存在しないデータをでっち上げる「捏造(Fabrication)」、データを都合よくねじ曲げる「改ざん(Falsification)」、他者のアイディアや文章を不適切に使用する「盗用(Plagiarism)」の3種類です。これらはその頭文字から「FFP」と呼ばれます。「科学的詐欺(scientific fraud)」と呼ばれることもあります。 しかし、研究者たちがFFP=科学的詐欺よりももっと深刻だと考えているのは、むしろ「 お粗末な科学 (Sloppy science)」や「疑わしい研究行為(Questionable research practices: QRPs)」などと呼ばれるものであることが指摘されました。 オランダにあるアムステルダム自由大学の疫学者マックス・エム・ブターらは、「科学知識の妥当性を脅かすとともに、科学者間の信頼に損害を与え、もしメディアで暴露されれば、科学への人々の信頼にも損害を与えるかもしれない」ものとして、「お粗末な科学」やQRPに着目して、研究者たちの意識調査を実施しました。 ブターらの調査対象になったのは、2015年にリオデジャネイロで開催された「第4回国際研究公正会議(the 4th World conference on…

限定修飾語句と非限定修飾語句

一般に、修飾語句には「限定」と「非限定」という二種類があり、両者間の違いを理解することは英語の基礎知識として不可欠です。 その違いとは、限定修飾語句が修飾される語句の意味に影響を与えるのに対し、非限定修飾語句はその意味に影響を与えないということです。 例えば修飾される語句が名詞であれば、非限定修飾語句はその名詞が指す対象について情報を加えることはありますが、修飾によってその対象自体を変えることはありません。 文法的には、限定修飾語句と非限定修飾語句はコンマの使用によって区別されます。つまり、非限定修飾語句の場合には、修飾語句と修飾される語句との間にコンマが入りますが、限定修飾語句の場合はコンマが入りません。 例文を見てみましょう。 (1) My dog, Cleo, is sleeping. (1') My dog Cleo…

査読 システムに限界、基準劣化のおそれ

生物医学のニュースサイト『STAT』は読者にこう問いかけます。「ゴジラと査読に共通するものは何か? どちらも必然的に自分の体重で崩壊してしまうはずだということだ。しかしどういうわけか、どちらも立っている」。『ネイチャー』によれば、すでに2010年の研究で、「査読システムは崩壊しており、まもなく危機に陥るだろう」と指摘されていたといいます。 しかし今年11月10日に『プロスワン』で公表された新しい研究によれば、今のところ査読者の数は、生物医学分野で毎年公表される膨大な数の新しい論文に間に合っている、といいます。論文は毎年100万件以上公表されており、しかも増加しています。 フランス国立衛生医学研究所の計算物理学者ミカエル・コバニスらは、生物医学の論文データベース「メドライン(MEDLINE)」に収録された論文を調査して、査読に費やされる時間を推計したところ、2015年だけで、6340万時間だとわかりました。もしジャーナル(学術雑誌)が時給75ドルという正当な対価を査読者たちに支払うならば、45億ドルの労働になるといいます。 「活動的な」査読者は毎年平均5件の論文を査読していることもわかりました。もちろん、年間何十件もの論文を査読する者もいれば、たったの1件という者もいます。また彼らの計算では、査読の需要に応じるために、2015年には180万人の査読者が必要とされたといいます。 前述の通り、査読をできる研究者の数は常に査読の需要を上回っているといいます。しかし問題は、労働の配分がきわめて不平等であることです。全体のうち5%の査読者が、全査読時間の30%近くを担っている、ということが今回の研究でわかったのです。 膨大な数の査読を引き受けている研究者のことを「査読のヒーロー」と呼ぶことがあります。コバニスたちは「こうした“査読のヒーローたち”はおそらく過労で、査読基準の劣化を招くリスクがある」と指摘します。 そのうえで、『ネイチャー』が興味深い見解を紹介しています。ニューヨークの出版コンサルタント、フィル・デイビスによれば「いわゆる“危機”は一流のジャーナルには影響していないかもしれない。その一方で、ひどい原稿をたくさん受け取る無名のジャーナルは、査読者を見つけることに苦労しているだろう。『プロスワン』のこの論文はそれらを分析していない可能性がある」。 コバニスらの研究ではそのほかにも興味深いことがわかりました。たとえばアメリカの研究者たちは、シェアで見ると、発表している論文よりも多くの論文を査読しています。中国はその逆で、査読の「輸入国」になっている、と『STAT』は指摘します。 同誌はこう主張します。「査読はきわめて欠陥のあるシステムである。しかし破壊するのではなく、修繕する価値のあるものだ。この最新の研究には、そうした見解を変更するものは何もない」 彼らはいくつかの提案をしています。たとえば査読者たちに支払いをすることです。そうすれば、査読を行う研究者たちは余分な仕事をするために余分な時間を費やしているという感覚を持たずに済むだろう、と。 また、論文の掲載や査読の基準をリセットして、論文の数自体を減らすべき、というある生物学者の意見を同誌は紹介します。 しかし、『STAT』は「もう一つの解決法」として、「もっと多くの、形態が異なる査読に道を開くこと」を提案します。たとえば、「パブピア(PubPeer)」や「パブメドコモンズ(PubMed Commons)」といった情報交換サイトによって、 査読…

integralとintegration

名詞「integral」と「integration」は日本人学者によってよく混同され、誤用されることが多いです。「integral」は「積分」に当たり、積分法の対象となる量を表し、一方、「integration」は「積分すること*」に相当し、積分を求める操作を意味します。 以下はしばしば見受けられる誤用を例示するものです。 (1) [誤] Here, we can evaluate the time integration of the propagator using…

間違いやすい用語や表現 – solve

動詞「solve」は、数学的な議論においてよく誤用されます。その多くの場合には、「solve」は「解明する」の誤訳になっていると思われます。「解明する」を「solve」と訳すことが適切な場合もありますが、「解明する」は比較的広い意味で用いられ、「solve」と訳すことができない場合もあります。 一般に、「solve」が意味する操作の対象となりうるものは、例えば、問題、謎、方程式、積分など、解くことを必要とされるもののみです。それらを解くことによって得られるものは「solve」の対象となりえないのです。つまり、そのようなものを表す名詞が「solve」の直接目的語となってはいけません。特に、数学的な議論においては、導出や解析などの結果となるものに対して「solve」を用いるのは誤りです。 以下の例文を見てみましょう。 (1) [誤] As proven above, this equation has two solutions. Below, we…

査読レポート の公開に肯定的な声は多数

研究者は論文を公表したいとき、自分の研究結果を原稿にまとめ、ジャーナル(学術雑誌)に投稿します。ジャーナルの編集部はその原稿を、近い分野の専門家に送って、掲載する価値があるかどうか、「査読」を依頼します。査読を引き受けた専門家=査読者は、その原稿を読み、データの不足など問題点をチェックし、文書にまとめて編集部に送り返します。編集者はその文書を著者に送り、修正などを求めます(査読者は通常、匿名です)。その文書のことを「査読レポート」または「査読者レポート」といいます。著者は、査読レポートに書かれた査読者の指摘をクリアし、原稿をまとめ直すことができたら、その新しい原稿は論文としてそのジャーナルに掲載されることになります。 いま学術界では、論文を公表するときにその査読レポートも同時に公開する、という実験的な試みが始まっています。たとえば最近、ノッティンガム大学のケヴィン・シンクレアたちが、有名なクローンヒツジ「ドリー」と同じ方法で誕生したクローンヒツジたちの健康状態を観察し続けた結果を『ネイチャー・コミュニケーションズ』で発表したのですが、同時に同誌編集部はその査読レポートを公開しました。 同誌は、2016年に同誌で論文を公表した著者の約60%がその 査読レポート を公開することに同意したこと、それゆえ科学者たちに査読レポートの公開をオプションとして提供し続けること、しかし義務にはしないこと、などを明らかにしています。著者の意識は専門分野によって違いがあり、生態学や進化論では70%以上の著者が同意した一方、原子核物理学や理論物理学では50%を切りました。 また、『ネイチャー』によれば、欧州委員会(EC)が実施した調査では、回答者3062人のうち半数以上が、査読レポートの公開は査読をよりよくする、と答えています。その一方で、査読者の身元を明らかにすることについては査読を悪化させる、と答えています。 学術出版大手のエルゼビア社は過去2年、『農業・森林気象学(Agricultural and Forest Meteorology)』など5誌で、査読レポートの公開を試みてきました。同社は、査読レポートを公開することについて査読者たちはどのように考えているのか、次のような数字をまとめています。 ・95%は、査読レポートの公開は(著者たちに対する)助言に影響を与えていないと答え  た。 ・76%は、自分たちの査読レポートが一般に公開されるという事実によって言葉遣いが変わ  ることはなかったと答えた。 ・45%は、自分たちの名前を明らかにすることに同意した。…

捕食ジャーナル – 倫理学分野にすら登場

学術出版業界では、「捕食出版」や「捕食ジャーナル」と呼ばれるビジネスモデルが問題になっています。正当なジャーナル(学術雑誌)では、当然ながら適切な査読が不可欠ですが、掲載料さえ払えば、きわめて甘い査読のみでどんなひどい論文でも掲載してしまうジャーナルを「捕食ジャーナル(predatory journals)」といいます。「肉食ジャーナル」と訳されることもあります。「捕食ジャーナル」の多くはオープンアクセスジャーナルです。インターネット上には、 捕食ジャーナル と思われるジャーナルのブラックリストがすでに存在します(「ビールズ・リスト (Beall's List)」)。 たとえば、サイエンスライターのジョン・ボハノンは、存在しない研究機関に所属する存在しない研究者の名前で、行っていない実験の結果を300誌以上のオンラインジャーナルに投稿したところ、約半数のジャーナルがそれを受理してしまったことを2013年に『サイエンス』で報告しました。掲載料さえ払えば、それは論文として出版されてしまうことになります。なお、オープンアクセスジャーナルの老舗として知られる『プロスワン』などは却下したといいます。 そんな捕食ジャーナルの魔の手は、人文・社会科学系研究者たちにもおよび始めています。たとえば最近、経済学分野でも捕食ジャーナルがあることが発覚しました。そして科学研究や医療行為を倫理学的に考察する分野の研究者までもが巻き込まれ始めているようです。 カナダの新聞『オタワサン』のトム・スピアーズ記者は、『臨床研究と生命倫理ジャーナル』が論文を募集していると知り、このジャーナルが、盗用だらけの意味のない文章で書かれた原稿を受理するかどうかを試してみることにしました。 彼はアリストテレスの『ニコマコス倫理学』から1200語を盗み、盗用を発見するソフトウェアに見つからないよう言葉をシャッフルしました。それに「確率的な」とか「ポスト植民地主義的な」、「地質学的な」といった言葉を散りばめました。また、なぜか「超カワイイ」、「スリザリン(『ハリーポッター』に出てくる寮の名前)」、「マイク・ダフィー(カナダのニュースキャスター)」といった言葉も混ぜました。 私はドゥンス・スコトゥス〔中世の神学者・哲学者〕というクールな名前にも言及した。その原稿に「21世紀(もしくはほかの世紀)における倫理的・道徳的行動の自発的な性質:個人的な見解」というもっともらしいタイトルをつけた。 と、スピアーズは同紙9月28日付で書いています。 彼は参考文献リストを、量子コンピュータ科学のジャーナルからコピー・アンド・ペーストで盗用しました。そこに「倫理(ethics)」という言葉を2回ほど加えました。 通常のジャーナルでは、査読者は送られてきた原稿が論文として出版する価値があるかどうかを判断します。価値があると判断したら、なんらかの加筆・修正の指示を著者に細かく伝えてくるはずです。しかし、このジャーナルの査読者コメントは以下のように「短くて甘い」ものだったといいます。 この著者は、彼らの職場環境における学者たちの道徳に関する言い回しとはまったく異なるかたちで、古い問題について独自の見解を示している。私の意見では、これは出版する価値のある興味深い見解である。この原稿は、完全な用法の言語で、簡潔かつ明瞭に書かれている。…