コラム

cannotとcan not

「can」の否定形に「cannot」という表現がありますが、「can not」というように2語に分けて表記することも可能です。しかしどちらを用いるべきかという話になれば前者の方が一般的です。「can not」は、「not」が示す「否定」の意味を特別に強調しますので、このような強調が望ましくなければ「can not」は不適切です。この強い否定の形「can not」が望ましいケースが2つあります。 ひとつは、「can not」を含む文によって表される内容が特別に重要な場合で、もうひとつは「not」に示される否定が読者の期待に反するという場合です。こういったケース以外には1語の「cannot」を用いるべきです。 以下に「can not」の典型的な正しい用例を示します。 (1) Francis et al. claimed that…

both

形容詞もしくは代名詞の働きをする場合(接続詞としての用法もあります)、「both」は日本人学者によって誤って使用されることがよくあります。最もよく見られるのは、「both」で2つの物事の「関係」を表わそうとするという誤りです(これは日本語の「両」が「both」に相当するという、日本人の通念に起因するものと思われます)。実際には、「both」は2つの物事をまとめて指し示すことはできても、「関係を表す」という役割を果たすことはできません。以下に、この語を用いた典型的な誤用例と修正例を示します。 [誤] Both experiments yielded consistent results. [正] These (two) experiments yielded consistent results. [正] The results of…

assure

動詞「assure」は、「保証」という意味を持つことから「insure」、「ensure」、「guarantee」などといった単語と似ていますが、これら3語と比較すると「保証」の意味での確実性は低くなります。さらに、「assure」の最も自然な用法では、(直接目的語となる)人に対して用いられ、「insure」、「ensure」、「guarantee」が表す「物事を保証する」という意味よりは、むしろ「物事が保証される『と思わせる』」または「物事が保証される『と思わせようとする』」という意味を表します。以下の文は「assure」の典型的な(正しい)使用例です。 [正]The simplicity of this approach assures us of its general applicability. [正]The patient was…

as well as

「as well as 」は日本人学者が英語論文を書く際に最もよく誤用される表現の1つです。その誤りの多くは「as well as」が「and」と同様に使用できるという誤解に起因するものです。実際のところ、2つの表現は類似した意味を持ってはいますが、それらの間には意味上、および文法上の重要な違いがあります。「as well as」は、「and」と似た意味を示す場合には、前置詞の働きをし、「and」よりむしろ「in addition to」に近い意味を持っていると言えます。それゆえ、「A as well as B」と表現する場合、「A and…

dosageとdose

医学の専門用語で「dosage」と「dose」があります。これらの語は似た意味を持ちますが、同義ではありません。以下にそれぞれの語の意味とその典型的な使用例を挙げます。 dose: 1回の投与量。 (1) Each packet contains one dose. dosage: 投与量、頻度、継続期間の決定や調整。 (2) The dosage was…

cooperateとcollaborate

「cooperate」と「collaborate」は意味が似ており、双方とも「共同する」、「協同する」、「協力する」のいずれにも訳されうる可能性があります。しかし重要な意味上の違いもあり、通常はそのまま置き換えることはできません。「cooperate」が持つ語意は「collaborate」の持つ語意に包含されていますが、「collaborate」の語意の一部を形成するにすぎません。「cooperate」が単に「力を合わせる」という意味を表すのに対し、「collaborate」はその「力を合わせる」こと自体のみならず、むしろ協力の目標に主眼を置き「協力によってある結果を生み出そうとする」という意味を表します。 以下に動詞「cooperate」と「collaborate」、およびその名詞形「cooperation」と「collaboration* 」の正しい使用例を挙げます。 (1) Thomas and Yamada have collaborated on several research projects. (2) We…

誤訳を防ぐために気をつけたいこと4つ

今回は、自分の研究論文の英訳を依頼するとき、どうしたら誤訳を防ぐことができるかを少し考えてみたいと思います。下記に誤訳の予防策として気をつけたいことを4点にまとめました。 (1)専門知識を明確に説明すること 研究論文を他の人に翻訳してもらう場合、まず大切なのは、その論文翻訳に必要な専門ジャンルの知識レベルを、相手に明確に説明するということです。論文の内容によっては、その分野に関し浅く広い知識を持った翻訳者が適した場合もあれば、ある事項に関してより深い知識が要求される場合もあります。現在の学問は細分化がきわめて進んでおり、自身の専門分野について広くて深い知識を持つことは難しくなっています。同様に、ある分野を得意とする翻訳者のなかでも、その領域に関して研究者を越えるような広くて深い見識がある人などそうそういるものではありません。自分の論文に必要な専門知識を自分なりにきちんと把握し、明確に説明して翻訳を依頼しましょう。また、医学論文翻訳であれば医学博士に依頼したい、といった最低限の条件を決めておくことも必要です。 (2)翻訳者との関係性は良好に 翻訳者が決まったら、翻訳者とのコミュニケーションを大いに歓迎する態度を示したいものです。とくに研究論文を書き慣れていない研究者の場合、どんなに頑張っても、複数の意味にとれてしまう文章がいくつか残ってしまうものです。翻訳者がそういった文章を見つけた際には、無理に翻訳を続けるのではなく、その時々に確認できる関係性を作っておけば、 大きな誤訳へと発展することを防ぐことができるはずです。 (3)ダブルチェックで誤訳をなくそう もし時間と人材に恵まれていたら、一度翻訳してもらった論文を、他の人に読んでもらうと、誤訳が激減します。一度日本語を読んでしまうと、どうしてもその表現に引っ張られ、なかなか一度の翻訳では明確で正確な英文には翻訳されません。そこで、翻訳してもらった論文を、まったく新しい第三者の目を通して、英語の論文として読んでもらえれば、新鮮な視点で評価してもらえるはずです。 (4)第三者として自分の論文を再確認 そしてできることなら、ジャーナルに投稿する前に少し時間を空け、自分でも英訳された論文を一気に読み直したいものです。少し時間を空け、第三者として英語の論文を読むことで、わかりにくい表現がないか最終確認することができます。 翻訳には時間がかかるものですが、これも自己表現の大切な一歩。あせらず慌てず、慎重かつ丁寧に取り組むことが質の高い論文へにつながるのです。

continualとcontinuous

形容詞「continual」と「continuous」(また、その副詞形の「continually」と「continuously」)は意味が似ており、口語においては互換性がある場合もありますが、厳密には同義ではなく、文語、特に学術論文において使い分けが必要です。 両形容詞は、ともにある状態が「終わらない」という状況を表しますが、「continuous」がその状態が継続的に、つまり「途切れずに続く」という意味を持つのに対し、「continual」はそのような意味を持たず、同じ状態が「何度も絶えず出現する」という状況を表します。 以下に「continual(ly)」と「continuous(ly)」の使用例を挙げます。 (1) The visitors have made continual requests to be moved to another…

ベル研シェーン事件

今回は、「科学界における不正行為」の代名詞的存在となってしまったシェーン博士の研究者人生と、彼の不正行為が学術界におよぼしたインパクトについて考えてみたいと思います。2014年に日本で発覚し大騒動となった「STAP細胞事件」と、2005年に発覚した「韓国クローンES細胞事件(ファン・ウソク事件)と、この「シェーン事件」を合わせて、「三大不正事件」といわれることもあります。 1997年、当時弱冠28歳だった若手科学者ヤン・ヘンドリック・シェーン(Jan Hendrik Schön)は、世界的にもそのレベルの高さで有名なベル研究所に雇用されます。それから数年の間、シェーンは物性物理学とナノテクノロジーを中心に研究を続け、2000年から2001年にかけて、フラーレン(中が空洞の球、楕円体、チューブなどの形状をした炭素の同位体)における高温超伝導(比較的高い温度で電気抵抗がゼロになる現象)の研究を中心に、画期的な研究成果を科学雑誌『ネイチャー』や『サイエンス』 などで次々発表します。その量産ぶりには目を見張るものがあり、2001年には、シェーンが著者に名を連ねる論文が、平均して8日に1本のペースで発表された計算になります。しかも、これらの研究成果がもし真実であれば、人類がシリコンをベースとした無機エレクトロニクスから離脱し、有機半導体をベースとする有機エレクトロニクスに向かう大転機となりうる大発見であったため、シェーンは、2001年には「オットー・クルン・ウェーバーバンク賞」と「ブラウンシュヴァイク賞」を、続く 2002年には「傑出した若手研究者のための材料科学技術学会賞」を受賞し、「超電導の分野でノーベル賞に最も近い人」と賞賛されるまでに至ります。 シェーンは当時、ベル研究所以外にドイツの出身大学にも研究室を持っており、同僚たちも、もう1つの研究所で実験を行ったといわれると、その結果を鵜呑みにするしかない状況だったようです。また、あまりに華々しい成果に世論の賞賛の声が高まり、躍進的な研究結果に多少の違和感を感じていたほかの研究者たちも、なかなか正面切って疑惑の声をあげることができませんでした。 しかし最終的には、多くの論文で同じデータが重複して使われていることが指摘され、2002年にベル研究所が調査委員会を設けるに至ります。調査では、シェーンの論文25本と共同執筆者20人に不正の嫌疑がかけられ、世紀の大発見のほとんどがデータの捏造であったことが露見しました。その結果、『サイエンス』誌に掲載された論文10編および『ネイチャー』誌掲載の論文7編が無効扱いとなり撤回されました。 このシェーンのスキャンダルは科学者のコミュニティにおいて、共著者・共同研究者の責任をめぐる大論争を引き起こし、近代的な研究倫理の設定を促すことになりました。というのも、当時、論文に対する共著者たちの責任に対する一般的なコンセンサスがなかったため、不正行為はすべてシェーンが1人で行ったとみなされ、事件にかかわった共同研究者や研究グループリーダーは無罪放免となったからです。 また、完全無欠のように賞賛されていた査読付きジャーナルの限界も指摘されるようになりました。査読はあくまでも、論文のオリジナル性と妥当性を論文上の情報を元に審査することしかできず、論文の作成までのプロセスに不正があってもそれを見抜くことが不可能に近いからです。 共同研究者の責任や投稿する論文の正当性についての規制は、年々厳しくなる傾向にあります。自分の研究に「箔」をつけたいがために有名研究者の名前を借りること、有名研究者も自分の業績を増やしたいために名前を貸すという行為は近年、「ギフトオーサーシップ(贈り物としての署名)」と呼ばれ、批判の対象になっています。「STAP細胞事件」でも、若い研究者が持ってきた実験データを、シニアの研究者がまともに確認しないまま論文の共著者になったことが問題になりました。気軽に他の人の研究を後押ししたり、誘惑に駆られてデータの出典を確認しなかったりすることのないよう、十分気をつけてください。

利益相反

「利益相反」とは、一般的には「ある行為により一方の利益になると同時に、他方への不利益になる」状態を指しますが、研究における「利益相反」は、個人としての利益相反と組織としての利益相反の双方を含みます。具体的には「外部との経済的な利益関係等によって、公的研究で必要とされる公正かつ適正な判断が損なわれる、又は損なわれるのではないかと第三者から懸念が表明されかねない事態をいう」と定義されています。 英語では「利益相反」を「Conflict of Interest」と表記し、各ジャーナルの「Instructions for Authors」には「Conflict of Interest」の項目が必ずあります。論文を投稿する際はその指示によく従ってください。 研究における利益相反の詳しいことについては以下のウェブサイトをご参照ください。 日本語: 厚生労働省-研究に関する指針について 文部科学省-利益相反ワーキング・グループ報告書 英語: Resources for…