コラム

間違いやすい用語や表現 – already

副詞「already」は日本人が最もよく誤用する語の一つです。私が読んできた日本人学者による論文では、「already」が使用される過半数の場合その用法が誤っています。多くの場合は、「already」が表す意味は単に不要であり、それを削除するだけで問題が解決されます。 「already」は、日本語の「もう」や「すでに」に相当するケースが多いですが、「もう」や「すでに」と比べて使用頻度が低いので、和文ではそのいずれかが適切な場合でも、対応する英文では「already」が適切であるとは限りません。 「already」は、ある動作がすでに終了したか、あるいはある状態がすでに成り立っているという意味を表しますが、多くの場合は「already」がなくてもそのような意味は文の内容から明らかです。そうした場合には、「もう終了した」といった意味を特に強調する必要がない限り、「already」を使ってはいけません。 以下は「already」の典型的な誤用を示します。 (1) [誤] This model was already investigated in Ref. [4]. (1)…

間違いやすい用語や表現 – anymore

副詞「anymore」は日本人によってしばしば誤用されます。実際、この語は多くの用法において口語的と見なされるため、学術英語では避けるべきです。日本人が書いた学術論文で「anymore」が用いられているほとんどの場合には、意図した意味を伝えるのには単に不要か、あるいはより適切な表現があるかのどちらかです。 以下はその典型的なケースを例示します。 (1) [誤] Above the critical value, the odd solution does not exist anymore.…

adequateとappropriate

日本人学者の論文で形容詞「adequate」と「appropriate」が混同されることはしばしば見受けられます。誤用の中には、後者が適切なところで前者が用いられていることが特に多いです。「adequate」と「appropriate」は同義ではありません。両者間の違いを理解するために以下の正しい用例を考えればよいです。 (1) An iron(II) sulfate supplement is generally regarded as an appropriate treatment for iron…

間違いやすい用語や表現 – abbreviate

日本人学者の論文において、動詞「abbreviate」が誤用されているのをしばしば目にします。最もよく見受けられる誤用は、「abbreviate」が「omit」や「delete」の意味を表すものとして用いられていることです。「abbreviate」にはこうした意味はありません。 上述の誤用はおそらく、日本語の「省略する」の誤訳に起因するものでしょう。「省略する」は、「短くする」という意味で用いられている多くの場合には「abbreviate」に相当しますが、それ以外の意味だと「abbreviate」は誤訳とみなされます。特に、「省く」の同義語として使用される場合には、「省略する」は「abbreviate」ではなく、「omit」、「delete」、「remove」、「eliminate」、「drop」などに訳すべきです。このような意味を示すのに「abbreviate」は全く不適切と思われます。 以下は「abbreviate」の典型的な誤用を示します。 (1) [誤] From this point, we abbreviate the dependent variables and write…

「 インパクトファクター 」の問題とその行方

「 インパクトファクター (IF: impact factor)」は、ジャーナル(学術雑誌)のレベルを評価する指標として知られています。「ジャーナル・インパクトファクター(JIF: journal impact factor)」と呼ばれることもあり、「文献引用影響率」と訳されることもあります。研究者たちは論文の投稿先を選ぶときだけでなく、研究者を評価するときにもこれを参考にしてきました。しかしインパクトファクターを批判する研究者も少なくありません。 インパクトファクターの計算方法は一見単純です。簡単にいえば、過去2年間で論文が引用された平均回数です。たとえば、『ネイチャー』のインパクトファクターは現在、「41.456」です。この数字は、過去2年間で同誌に掲載された論文それぞれが平均約41回引用された、ということを意味するのだと一般的には解釈されています。 「しかしこの数字は簡単に誤解される」と、『サイエンス』誌のジョン・ボハノン記者は警告します。 たとえば、もし論文の引用回数が人々の身長のようなものだとしたら、その平均の数字は参考になるだろう。平均すれば、男性は女性よりも背が高い。実際のところ、人々の身長を推測するとき、性別だけわかっていれば、ランダムに推測するときよりは正しく推測できる。しかし、既存のジャーナルで公表されている論文についていえば、引用の分布はきわめていびつなものである。ごく一部の影響力のある論文だけがほとんどの引用(数)を勝ち得ている一方で、大多数の論文はわずかしか引用されていないか、まったく引用されていない。そのため引用の平均数はしばしばきわめて誤解を招くものになる。 また同記事は、インパクトファクターには一般的に2つの問題がある、という専門家の見解を紹介しています。第一に、予測として無意味なこと。インパクトファクターが高いジャーナルで論文が掲載されることは、必ずしも引用されやすいことを意味するわけではない、ということです。第二に、計算方法が不透明であること。計算しているのはトムソン・ロイターです。同社は、科学論文のデータベース「Web of Science」を運営していることでも知られています。そしてその計算方法は公開されていません。 しばしば批判されるインパクトファクターの謎を解明するために、ジャーナルの編集者たちと研究者グループが、そのデータセットを公表し、この指標を計算するために使われる引用数を分析しました。この研究を率いたのは、カナダのモントリオール大学でジャーナルにおける引用を専門的に研究しているヴィンセント・ラリヴィエです。…

第18回 学術界におけるカラーユニバーサルデザインの動向と展望

より多くの人に伝わりやすく・わかりやすい、色覚バリアフリーなスライドを作るために覚えておきたい「CUD: カラーユニバーサルデザイン」について迫る連載シリーズ。最終回の今回は、東京慈恵会医科大学解剖学講座教授、CUDO: Color Universal Design Organization 副理事長岡部正隆(おかべ まさたか)氏へのインタビューです。 色のバリアフリープレゼンテーション法について早くから国内外の学術界に対して情報発信してきた岡部氏に、最近の動向と今後の展望を伺いました。 学術界の外に動きの主体が広がった ■岡部先生と伊藤啓(いとう けい)先生(東京大学分子生物学研究所准教授、CUDO副理事長)がともに色弱者として学術界に対して声を上げてから、この15年間に状況は変わりましたか? 2001年から活動を始めて今に至りますが、最初の時期から比べると学術界に対するアピールから、学術界の外に動きの主体が広がってきました。 学術界での配慮は基本的に個人レベルになります。しかし、次から次に出てくるデバイスを考えると、研究者の態度というより、企業による商品開発レベルですでにいろいろな工夫がなされていないと研究者1人1人が戦っても及ばない部分があります。そこで、最近は企業に対応を求めることが増えました。 男女共同参画などは政府も後押しして、学会レベルで半ばルールのように推進されていますが、カラーユニバーサルデザインに関してはそのレベルに至っていません。毎年のように学会から教育講演の依頼はあって、今年は日本産科婦人科学会と日本微生物生態学会でCUDに関するセミナーをする予定があります。そのほか、ポスター発表のガイドラインに記載してもらったり(日本分子生物学会、日本発生生物学会)、論文の投稿規定に入れるように依頼したりしていますが、継続的に行うにはパワー不足です。 ■学会の聴衆の立場では変化を感じますか? だいぶ改善はしてきていると思います。自分の専門分野では蛍光染色の図版を見る機会が多いので、見分けにくい「赤と緑」の二重染色を「マゼンダと緑」に変えるように以前から要望してきて、そのように対応されている図版も増えましたが、なぜ「マゼンダと緑」なのか自覚せずに使われている可能性もありますので、もっとしっかり理解を得ていかなければならないと思っています。…

撤回論文の データ をどう扱うべきか?

一度は出版された論文が「撤回」されてしまうことがあります。その理由はさまざまで、よく話題になるのはやはり「研究不正」でしょう。データの捏造や改ざん、盗用などが発覚した際には通常、ジャーナル(学術雑誌)の編集部はすみやかにその論文を撤回することになります。 そのほか、ほかの研究者が同じ対象を同じ方法で実験しても同じ結果が得られず、その過程で重大なミスが見つかった場合などにも、その論文は撤回される可能性が高くなります。 また、人間つまり被験者を対象とする臨床研究の場合、適切なインフォームドコンセント(説明を受けた上で被験者となることへの同意)がなされていなかったなど「倫理的」問題が発覚した場合にも、論文は撤回されます。 意外にも、論文の撤回についての調査はあまり多くないのですが、日本の生命倫理学者が医学論文が撤回される理由を調査して、2006年4月、専門誌『研究における説明責任 (Accountability in Research)』で発表しました。 東京大学医科学研究所公共政策分野の井上悠輔らは、生物医学分野の論文データベース「パブメド(PubMed)」を使って、1981年から2011年にかけて出版(公表)された研究論文で、最終的に撤回にされたものを同定しました。そのうえで、それらの「撤回通知」を調査し、撤回の理由などの傾向を明らかにしました。 井上らが着目したのは、“被験者を保護するために求められる条件”に違反したことを理由に撤回された医学論文でした。調査対象となった期間に撤回された論文1217件のなかで、被験者保護の必要条件を満たさなかったために撤回された論文は99件見つかりました。そのなかにはインフォームドコンセントにおける 問題があったために撤回されたものも6件ありました。 そうした論文の責任著者の出身国は、(後述するボルトが研究していた)ドイツ(99件中78件)が最も多く、続いて日本(6件)、アメリカ(3件)、オーストリア(3件)でした。 井上らによると、ジャーナルが発行する「撤回通知」の大多数は「倫理的検討そのものがなされていなかったこと」を撤回の理由として強調していたのですが、その記述はいずれも曖昧だったといいます。 それぞれのケースのほとんどの部分において、撤回の理由を理解することは困難であった。編集者たちは、撤回についての決定の根拠を明らかにしなかった。   また、「撤回された論文に含まれているデータはどのように取り扱われるべきであるかを指摘した撤回通知は1件もなかった」といいます。撤回された論文99件中96件は、ほかの論文の中で合計3072回引用されていました。撤回後1年以上経ったものに限っても、83件の論文が485回引用されていました。…

第17回 9つの "色覚バリアフリーツール"

より多くの人に伝わりやすく・わかりやすい、色覚バリアフリーなスライドを作るために覚えておきたい「CUD: カラーユニバーサルデザイン」について迫る連載シリーズ。 第17回目の今回は、カラーユニバーサルデザインの実践に役立つ9つのツールをご紹介します。CUDの実践に役立つ9つのツールをまとめてご紹介します。 このようなツールに触れてみるだけでも多様な色覚の世界を知る手がかりとなりますので、機会があればぜひ利用してみましょう。 シミュレータ(ソフトウェア) ①「Illustrator 」、「Photoshop」 世界的にシェアの高いアドビシステムズ株式会社のグラフィックソフトウェアならびに画像編集ソフトウェア。 Illustrator 、Photoshopとも、CS4以降、CUDOが協力して開発したCUDチェックシステム機能を標準搭載しています。 [校正メニュー]の中にP型、D型それぞれのCUD校正ビューが組み込まれており、オリジナルの作業スペースと別に開くことができるのでチェック画面を見ながら作業できます。 ②「Vischeck」 米国スタンフォード大学のBob Dougherty氏と Alex…

研究不正を起こした研究者にリハビリを

2013年1月、『ネイチャー・ニュース』は、研究不正を起こした研究者に対するリハビリテーション・プログラムが試行され始めたことを伝えました。 日本でも海外でも、研究不正事件が起こるたびに、研究不正をした研究者やその人物が所属する研究機関が批判されます。しかし、研究不正にかかわってしまった研究者をどう扱うべきかということはあまり注目されていません。 ノースウエスタン大学研究公正局の局長であるローレン・クォーケンブッシュは同記事で、研究不正を起こした者に対する罰として、研究資金の受け取り禁止といった「重い罰」と、オンラインの研修コースの受講や文書による注意(けん責)といった「軽い罰」との間には大きなギャップがある、と指摘しました。すべての当事者が白か黒かのどちらかというわけではなく、研究機関としてはその人物に研究者として復帰してほしい場合もある、ともいいます。 一方で、研究不正を防ぐための倫理教育に効果があるというエビデンスは乏しいようです。仮に有効な教育方法が開発されたとしても、不正の発生をゼロにはできないでしょう。そこで「重い罰」と「軽い罰」とのギャップを埋める試みとして、セントルイス大学の倫理学者ジェームズ・デュボアらは、問題を起こした研究者が受けるリバビリテーション・プログラムを開発しました。精神医学者や心理学者も運営にかかわっています。 このプログラムは当初、「研究における専門家意識と公正さの回復(RePAIR : Restoring Professionalism and Integrity in Research)」と呼ばれていましたが、現在では、「専門家意識・公正プログラム(Professionalism and Integrity Program)」あるいは「PIプログラム」と呼ばれています。プログラムの開発には、国立衛生研究所(NIH:…

第16回 “魅”せるプレゼンテーション – チェックリスト!

より多くの人に伝わりやすく・わかりやすい、色覚バリアフリーなスライドを作るために覚えておきたい「CUD: カラーユニバーサルデザイン」について迫る連載シリーズ。第16回目の今回は、これまでにご紹介した色覚バリアフリーの資料作りのポイントを一挙ご紹介します。 ここでは、CUDOによる「CUDチェックリスト」から、学術発表に関係する項目をピックアップします。本連載で取り上げていない内容もありますので、 色覚バリアフリー の発表資料を作成するための参考資料として役立ててください。 色の選び方 ・赤は濃い赤を使わず、朱色やオレンジを使う ・黄色と黄緑は色弱者には同じ色に見えるので、なるべく黄色を使い、黄緑は使わない ・濃い緑は赤や茶色と間違えられるので、青みの強い緑を使う ・青に近い紫は青と区別できないので、赤紫を使う ・細い線や小さい字には、黄色や水色を使わない ・明るい黄色は白内障では白と混同するので使わない ・白黒でコピーしても内容を識別できるか確認する 色の組み合わせ方 ・暖色系と寒色系、明るい色と暗い色、を対比させる…