学術界を知る

新型コロナウイルスワクチン の動向

世界中で新型コロナウイルスワクチンの開発が待たれる中、主要国間の開発競争が激しさを増していると聞こえてはくるものの、分からないことだらけです。ワクチン開発はどこまで進んでいるのか、供給されるようになるのはいつなのか?ヒトへの臨床試験は安全なのか?現在もワクチン試験が進められているが、その効果と安全性は?どのように供給されるのか?供給は公平に行われるのか?多くの人が不安を抱えている状況です。今回は、現時点までにわかっているワクチンの開発情報と公平な供給を確保するための取り組みについてまとめてみました。 新型コロナウイルスワクチンの開発状況 一般的に、ワクチンの開発には4年から10年、状況によっては年十年も要すると言われています。例えば、エボラ出血熱ワクチンの開発には約5年、ポリオワクチンの開発には約40年を要しました。史上最速で承認されたと言われるおたふくかぜのワクチンでさえ、臨床段階から認可されるまでに4年を要しています。ワクチンは、前臨床試験および臨床病期を含めた数々の段階的な試験を経て認証されるのが理想的です。通常、それぞれの段階で約2年もしくはそれ以上の年数が費やされるのですが、新型コロナウイルスワクチンの開発競争に勝つために、製薬会社は幾つかの段階をスキップあるいは複数段階を組み合わせた試験を行うことで開発スピードを上げています。 研究者はこの状況に慎重に対応する必要があります。ワクチン開発競争に参戦したいという誘惑と参戦しろというプレッシャーが、ワクチンの安全性と有効性に支障を来すものであってはなりません。公衆衛生の専門家は、十分な分析と試験が行われることなくワクチンが早々に承認され、市場に投入されることを懸念しています。ワクチンを早期展開することは、ワクチンの有効性を的確に判断するための科学的な厳密さを損なう可能性があるだけでなく、予期しない副作用を確認する時間的・臨床件数的な余裕が少なくなる危険性も捨てきれません。当局は、ワクチンを承認する前に、そのワクチンのリスク・ベネフィット比(副作用対効果の比較)を慎重に検討する必要があります。 ヒト感染試験への参加 ワクチン開発の段階試験として、意図的にそのウイルスに感染させる試験も行われます。金銭的報酬が示された場合、あなたはこのヒト感染試験の被験者になりますか?世界各国で行われている新型コロナウイルスのヒトでのチャレンジ試験(曝露試験)のボランティアになると手を挙げた人の数は、3万8千人を超えています (11月9日時点)。 コロナウイルスワクチンの試験として、ヒト感染試験あるいは曝露試験と呼ばれる試験の実施に向けた準備が進められています。ヒトでの曝露試験とは、臨床試験の手法のひとつで、ワクチンを接種した後、あえて実際の病原体である新型コロナウイルスに被験者をさらすことでワクチンの安全性や有効性を評価する試験です。リスクが高いように見えますが、世界中で感染者が増え続けている状況下での選択肢は限られています。すでに各国でランダム(無作為)にワクチンまたはプラセボ(偽薬)を投与して安全性や有効性を比較する第3相臨床試験が大規模に実施されていますが、これだけでは実際の有効性を評価できるまでに時間がかかります。ヒトでの曝露試験が実現すれば、臨床試験に要する期間を短縮させ、ワクチン開発が促進されることになるので、結果として何百万人もの命を救い、生活を守ることができるとの信念に基づいて計画が進められています。致命的な新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)への意図的な感染には不安が伴うものの、安全かつ倫理的に行うことは可能だとされており、実行されればこの感染症に関する膨大かつ重要なデータを得るために役に立つことでしょう。 新型コロナワクチン開発情報 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のゲノム配列とその他の関連情報がNCBI(アメリカ国立生物工学情報センター)の運営するGenBankから公開されるやいなや、世界中の研究者が効果的なワクチンを開発すべく猛スピードで研究を進めています。24時間体制で取り組んでいる研究グループもいるほどです。現在、180以上の候補が挙げられており、世界保健機構(WHO)の11月3日時点のまとめによれば、臨床試験に入っている新型コロナウイルスワクチンの候補として47種類がリストされているほか、155種類が前臨床の段階にあります。ワクチン開発で先行している(第3相臨床試験段階、フェーズ3にある)のは、イギリスのアストラゼネカ(オックスフォード大との共同開発)、アメリカのモデルナ、ファイザー、ジョンソン・エンド・ジョンソン、シババックス、中国のシノバック、カンシノ、シノファーム、ドイツのビオンテック、ロシアのガマレヤ国立疫学微生物研究所などです。 これらの試験が進む中、重篤な有害事象が起きたことにより試験が中断されるケースも出ているほか、ロシア政府がガマレヤの開発したワクチンのフェーズ3試験の結果を待たずに承認薬として登録した ことなどが話題になっています。ワクチン開発動向や治療薬の開発については、関連情報をまとめたサイトなどもあるので参考にするとよいでしょう。研究者らは、2021年初めにワクチンの提供が開始できるようになることを期待していますが、時期についてはまだまだ予断を許さない状況です。 ワクチンの信頼性を確保するために 熾烈な競争が繰り広げられている新型コロナウイルスワクチンの開発競争。イソップ寓話の「ウサギとカメ」では、ゆっくりでも着実に進むことが勝利につながることが示されています。ワクチン開発も同じで、開発が速い企業が勝者になるとは限りません 。長期的な安全性、総合的な有効性に関する十分かつ信頼できるデータが確認されることなく早々に承認されたワクチンが最適なものではないと判明した場合はどうなるのでしょうか。ワクチン開発における不手際やミスがひとつでもあれば、新型コロナウイルスワクチンの接種に対する不信感を高めてしまう恐れ…

日本学術会議の問題は国内外でどう見られているのか

菅総理が日本学術会議から推薦された105名の委員候補のうち、6名を任命しなかったことに対して議論が噴出しています。日本学術会議は10月2日付けで、首相宛に新規会員任命を拒否した理由の説明を求める要望書を提出しました。これに続き、大学からは政府は日本学術会議の要請に応じるべきとの意見が出されただけでなく、理工系の学会からは状況を憂慮しているとの声明が発表されました。さらに、任命拒否は法的解釈に関わる問題であるとの指摘も出ています。菅総理は、21日に訪問先のインドネシアでの記者会見で「前例踏襲して良いか考えた結果」と強調したものの、具体的な理由を明らかにしないままとなっています。ここでは、日本の学術界および海外の識者はこの状態をどのように見ているのか、大学や学会の見解、海外誌の報道や学術誌(ジャーナル)の掲載記事などを紹介してお伝えします。 日本学術会議とは それぞれの立場の意見を並べる前に、そもそも日本学術会議について簡単に述べておきます。日本学術会議は、1949年に設立。内閣総理大臣の所轄の下で職務を行っており、年間約10億円と言われている運営費は国の負担でまかなわれています。日本の学術研究者を代表する機関として、政府に対する政策提言、国際活動、科学者間のネットワーク構築から、社会に対する科学の役割の啓発など幅広い活動を行っています。 国内の反応 まず国内の反応ですが、日本物理学会、自然史学会連合、日本数学会、生物科学学会連合、日本地球惑星科学連合他90学協会が10月9日に記者会見を行い、管首相の任命拒否は「政府により理由を付さずに任命が行われなかったことに関して憂慮」しているとして、「従来の運営をベースとして(中略)早期の解決が図られることを希望致します。」との緊急声明を発表しました。多くの研究者は、今回の任命拒否が学問の自由の制限につながることを懸念しているのです。同日、任命拒否された新会員候補6名のうち2名の教授が所属する東京大学の五紙総長は、「これ(任命の見送り)に端を発した混迷は、学術が持つべき本来の力を大きく削ぐもの」であると憂慮するとした上で、「日本学術会議の置かれた状況が早く正常化し、求められている役割を果たすことができるよう、同会議からの要請に対する真摯な対応を、政府には望みます。」とするメッセージを発表しました。他にも、多くの大学学長および学会が声明を発表しています。この動きは広がり続け、13日には日本自然保護協会と日本野鳥の会、世界自然保護基金(WWF)ジャパンの自然保護3団体が、連名で抗議声明を出しています。 歴史的には学術会議が推薦した者がそのまま任命されると解されてきました。学術会議の選出が尊重され、総理大臣の任命は「形式的」であると考えられてきたわけです。一方、日本学術会議の運営に税金が投入されており、委員が公務員の立場を有する以上、総理大臣が任命に関する裁量権を持つと言われればその点は否定できません。しかし、任命拒否は「総合的、俯瞰的」理由だとの説明が納得できるものではないことから、緊急声明などを発表することで反論しているのです。 では、国外ではどのようにとらえられているのか。 学術ジャーナルScienceとNatureへの投稿 Scienceは10月5日付けで「日本の新しい首相は学術会議と戦うことを選んだ」と題する記事を掲載し、冒頭で新会員の任命プロセスを混乱させたと指摘。研究者は、菅首相の任命拒否の動きが学問の自由に対する脅威だと考えていると述べています。10月1日に任命者のリストが公開された際に任命拒否が明らかとなって以降、菅総理がいまだに拒否の理由を説明していないこと、この任命拒否に対して首相官邸前で抗議活動があったことを紹介しています。 Natureは10月6日付けのEditorialで「Natureがなぜかつてないほど政治の話題を取り上げる必要があるのか」と題して、より多くの政治的ニュースを掲載していく必要があるとの姿勢を示しました。米国は前代未聞の大統領選挙戦の真っ最中。科学界としてはどちらの候補者が大統領になるか、深刻な問題です。政治家の判断が、今後の研究、研究資金、政策の優先事項など学術研究全般に大きく影響するからです。政治が学術、科学の独立性を担保するか、学問の自由は守られるのかーー科学者は、研究行うために公的資金を得ていますが、政治家から干渉されること、あるいは研究成果に対して政治的な制約が加えられることは望んでいません。研究の独立性を保つには、政治家や政策立案者との信頼関係が必要ですが、今、世界で科学と政治の信頼が危ぶまれています。米国のトランプ大統領が気候変動を否定し、ブラジルのボルソナロ大統領がアマゾンの熱帯雨林破壊が進んでいること示すデータを認めないように、科学的データを無視あるいは見解を否定するといった亀裂が生まれているのです。そして、日本の首相による学術会議会員の任命拒否。本記事に「政府の科学政策に批判的だった6名の学者を日本学術会議の新会員として任命することを拒んだ」と明記されていることは注目です。さらに、学術会議が日本の科学者の声を代表するための独立した組織であること、日本の首相が2004年に会員の任命を始めて以降、初めて任命が拒否されたことも紹介しています。記事の著者は、政府が学術的独立性を尊重することは現在の学術研究を支える基盤のひとつであり、学術研究の独立性が損なわれれば、環境・社会・国民の健康に重大なリスクをもたらすと警告しています。 日本学術会議のあり方の議論 このように、政治が科学に干渉することを懸念し、科学と政治の関係が脅威にさらされているとの指摘がある一方、日本学術会議側にも委員の選考基準やプロセスの明確化・透明化など見直すべき点があるとの意見もあります。首相が管轄する組織でありながら、学問の自由、独立性を確保することは可能なのかといった点も議論となるでしょう。2003年と少し古くなりますが、日本学術会議が各国のアカデミー機関との比較をまとめた「各国アカデミー等調査報告書」によれば、欧米諸国の学術機関の多くが運用資金の大半を民間組織から得ているか、政府からの援助があったとしても全額ではなく、非営利団体あるいは非営利法人などの非政府組織に位置づけられていると書かれています。これに対し、日本を含むアジア諸国では政府機関の中に置かれている国も多いようです。 今回の任命拒否に端を発する問題を受け、河野太郎行政・規制改革担当相は9日の記者会見で、日本学術会議を行政改革の対象とし、学術会議を所管する井上信治万博担当相と協議を進める考えを示しました。自民党は学術会議の在り方を検討するプロジェクトチーム(座長・塩谷立元文部科学相)を設置し、早くも14日に初会合を開催。21日には学術会議元会長3人へのヒアリングを実施しました。今後も学識経験者や経済界などから意見を聞き、年内に提言をまとめる方針を発表するとしています。 学術界と政界の対立にも発展しかねない今回の騒動。弁護士会までもが任命拒否は違憲であるとする声明を発表するなど、議論は混迷を深めています。日本学術会議の在り方、政府との関係、さらに任命拒否が関連法に照らし合わせて適正かといった法解釈論議まで、議論は当分続くと思われます。

ピアレビュー・ウィーク2020(Peer Review Week 2020)組織委員の研究支援エナゴが 査読プロセスをテーマに各種イベントを開催

世界で学術論文の校正・出版支援をリードする研究支援エナゴは、学術出版の査読(ピアレビュー)に焦点を当てたイベント「ピアレビュー・ウィーク2020(Peer Review Week 2020)」に組織委員会の構成メンバーとして参加いたします。 ピアレビュー・ウィーク2020(Peer Review Week 2020)エナゴ特設ページ: https://www.enago.com/academy/peer-review-week-2020/ 6回目となる今年のピアレビュー・ウィークは9月21日から25日に開催されます。ORCID、Sense About Science、Science Open、Wileyという4つの団体・学術出版社のイニシアティブで2015年に始まったピアレビュー・ウィーク。毎年、研究者や編集者などの個人、出版社、図書館、大学、学術団体・科学団体などの組織や団体、出資者、さらに、「良質な査読が学術コミュニケーションにとって最も重要である」という基本的な概念に賛同するすべての人々に対し、特色ある学習体験を提供するためのプラットフォームを提供しています。 6年目となる今年のピアレビュー・ウィークの構成団体は40以上。イベント期間中には、ウェビナーやインタビューなどさまざまなオンラインイベントやソーシャルメディアでの交流を通して、学術研究における査読の重要性に光を当てていきます。 2020年は誰にとっても不安定で厳しい年となっていますが、学術界も同様に、数々の課題に直面しています。イベントの今年のテーマは、現在の世界を覆う不確実な状況にふさわしい「Trust…

新政権のもと日本の科学界の行く末は・・・

2020年9月8日のNatureのEditorialに、首相交代を期に日本の科学界は新たな道に踏み出す必要があるとの意見が寄せられていました。この記事に書かれた安倍政権下において日本の科学界が向き合わなければならなかった問題について深堀してみます。 公的研究費の削減 経済成長に重きをおいてきた第2次安倍政権下の8年間、日本の研究者による国際的論文出版数は減少してしまいました。「Nature Index 2019 Japan」にも、日本の研究業績が減少し続けていることが指摘されています。研究成果の発表数の減少、研究力の低下は、公的研究費の削減が最大の問題であると言われています。日本の研究開発費(2018年)は、GDP割合で3.26%(1,767億USドル)を占めています。2018年の研究開発費の世界の国別ランキングで1位の米国が2.84%(5,815億USドル)、2位の中国が2.19%(5,543億USドル)であるのに比べても、日本の拠出割合は決して低いものではありません。しかし、金額では上位2国に大きく差を開けられている上、この支出の80%は民間産業からのものであり、政府からの支出しとしては依然として低い状況です。 再生医療の商業化 安倍政権は、科学、特に生物医学研究の再生医療への商業化を推進してきました。2013年には、幹細胞の製造許可や再生医療における処置などに関する制度を定めた「再生医療等の安全性の確保等に関する法律(再生医療等安全性確保法)」を成立させています(2014年施行)。さらに改正薬事法「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(医薬品医療機器等法)」を同年施行し、これによって再生医療等製品について有効性が推定され安全性が認められれば、早期に条件および期限つきで製造販売承認が得られるようになったのです。これは、臨床試験において厳格かつ明確な安全性が確認されるまで、幹細胞治療を商品化すべきではないという国際的な研究者の見解に反しており、国内外では批判が出ましたが、日本政府は方針を変えていません。 軍学共同-軍事研究への抗議 もうひとつ、別の政府の試みに対して研究者が反対しているものが、軍事利用の可能性のある科学研究に研究者を参加させようとするものです。安倍政権は「軍学共同」と呼ばれる政策を進め、防衛装備の開発に役立つと考えられる研究に対して防衛省からの資金援助を可能としました。「共同」とはいえ、実態としては資金力によって大学や研究機関の研究者を軍事研究に取り込むものです。防衛省は、2014年6月に「防衛生産・技術基盤戦略」を策定し、大学や研究機関との連携強化および、民生技術であっても防衛(軍事)に応用・転用できる二面性のあるデュアル・ユース技術を含む研究開発プログラムとの連携・活用が明示されました。これを具体化するために大学や研究機関との連携を強めることを目的に発足されたのが、「安全保障技術研究推進制度」(2015年4月)です。デュアル・ユースという言葉で、民生と軍事のどちらでも利用可能な技術であると印象づけようとしていますが、対象の研究が防衛的なものか攻撃的なものか、どのように使われるのか外からではわからないのです。これに対し、日本学術会議は2017年、「軍事的安全保障研究に関する声明」において、研究の方向性や秘密性の保持をめぐって政府による研究者の活動への介入が強まる懸念があるとして、「軍事目的のための科学研究を行わない」姿勢を明らかにしています。その上で、「大学等の各研究機関は、施設・情報・知的財産等の管理責任を有し、国内外に開かれた自由な研究・教育環境を維持する責任を負うことから、軍事的安全保障研究と見なされる可能性のある研究について、その適切性を目的、方法、応用の妥当性の観点から技術的・倫理的に審査する制度を設けるべきである。」と求めています。 国際研究協力における制限の検討 他にも懸案事項はあります。日本政府は、量子技術、人工知能(AI)、半導体設計などの分野における国際協力に制限を設けることを検討しています。日本の最先端技術の輸出規制を強化する考えです。日本は「中国」と明示してはいませんが、既に中国に対して輸出規制を採用している米国に続く方針なのは明白で、日本が米国などと共同研究を行う場合を含め、社会や経済に多大な影響を及ぼす可能性が高い特定の研究成果が他国、特に中国の研究者に流出するのを防ぐ狙いです。 前述のような技術研究は、幅広い分野への応用が期待される一方、研究段階から実用化までに時間がかかること、実用化を見越して特許を囲い込む動きが早くも始まっていることを鑑み、「オープン・クローズド戦略」を進める方向で調整が進められてきました。特に量子技術については、2020年1月に政府指針として「量子技術イノベーション戦略」が策定され、産学官で取り組むさまざまな施策が盛り込まれています。しかし、この戦略には科学技術を使って経済活性化をめざす官邸の意向が色濃く出ていることもあり、多くの課題を抱えています。 ジェンダー格差 安倍政権は女性の活躍を推進してきました。確かに出産後も働き続ける女性の割合は増加しましたが、科学界の女性の数は微増に留まっています。2016年からの第5期科学技術基本計画では、2020年までに自然科学系における女性研究者の割合を30%、理学系で20%、工学系で15%まで増やすという目標を掲げています。女性研究者の数は右肩上がりに推移しているものの、諸外国に比べるとまだまだ低い状況です。…

コロナ禍で変わる論文検索方法や研究資金規模

新型コロナ感染症(COVID-19)感染拡大は、甚大な経済的影響を及ぼしていますが、その影響は経済にとどまりません。研究者も移動を含めたさまざまな研究活動に制限がかかっている上に、医薬研究関連の情報過多と誤情報の拡散という問題に直面することとなりました。世界中がCOVID-19という共通の話題に関心を寄せる中、関連する情報は、例え誤ったものであっても、従来のメディアやソーシャルメディアにより瞬く間に拡散されます。特に、ソーシャルメディアは拡散する情報の量とともに速度と範囲を大きく変えました。この情報過多の問題も含め、パンデミックによる研究者への影響をみてみます。 パンデミックが研究論文の読み方・検索の仕方に再考を促す COVID-19治療薬あるいはワクチンの開発に向け、関連する研究が急ピッチで進められています。従来であれば厳しい査読とアクセス制限を課す学術出版社も、COVID-19に関連する論文については査読の迅速化やオープンアクセスでの情報公開を進めるなどして情報の共有化を図っています。同時に、査読なしで公開するプレプリントへの投稿も増大。この結果、論文の洪水が引き起こされました。既に、6000本を超える論文が、査読なしのプレプリントに投稿されていますが、品質の確認は困難な状況です。そこで、研究者らは論文の読み方、論文の検索の仕方に工夫を凝らす必要に迫られることとなりました。 信頼できる論文を拾い出す方法のひとつは、筆者の一覧から見慣れた名前、信頼できる機関を検索して論文を探すというものです。ただし、検索結果を過度に信頼しすぎることのないように注意が必要です。斬新なアイデアよりも従来の考え方に基づくアイデアを好む傾向が、COVID-19に関連する論文の検索や評価におけるバイアスとなる可能性があるからです。COVID-19の重要な論文は、米国以外、アジアやヨーロッパ諸国から発信されていることも多く、例えばコロナウイルスの特性や広がり方についての重要な論文には、あまり知られていない中国の研究者から発信されたものもありました。また、パンデミックに関する需要な洞察は、国際的には知られていないスペインとイタリアの研究者から発せられていたとの事例もあります。 中国の大学による研究不正が複数公表されたことなどを鑑みると、認知度の低い研究者・研究機関から発信される情報の信頼性に不安があるのは否めません。しかし、研究不正は中国に限ったものではないので、研究者は発表されている論文を多面的に判断し、慎重に読む必要があります。 Academic librarians on open accessに投稿された記事によれば、プランS(Plan S)やAmeliCAといったオープンアクセスモデルの台頭に加え、コロナウイルス関連の論文のオープンアクセス化推進によって、オープンなデータの価値が一層高まると同時にアクセス可能な論文数が増加しました。それらの膨大な論文の中からどうやって自分が読みたい論文を見つけ出すか?そのためにはアブストラクト(要旨)を活用するのも有効です。アブストラクトとは論文の要約なので、該当論文の内容を判断するのに役立ちます。Web of Science、PubMedなどの学術論文データベースでは、アブストラクトの検索が可能ですし、全文へのアクセスを限定している学術出版社でも、アブストラクトには無料でアクセスできることが多いので、論文の概要を知ることができます。PubMedにはタイトルとアブストラクトから論文の比較を行う機能があり、類似の論文を見つけることができます。 また、bioRxivに投稿された分析「A scientometric…

電子ジャーナルプラットフォームIOPscience

IOPscienceとは、英国物理学会(Institute of Physics: IOP)の出版部門IOP Publishingが提供する学術雑誌(ジャーナル)のオンラインサービスで、IOP発行のジャーナルの検索や論文へのアクセスを可能にするプラットフォームです。今回は、物理学分野において重要な論文公開と出版を支えるIOPscienceについてまとめてみました。 論文の出版 研究論文を出版することが、研究者のキャリア形成で非常に大切なことは言うまでもありません。所属先から論文出版が必須とされている人もいれば、学術界に研究成果を知らしめるために出版するという人もいますし、自分の研究分野において専門家としての地位を確立するために出版するという人もいるでしょう。いずれにしても、研究成果を論文として出版するまでが「研究」であるとも言われるほど論文の出版は重要視されています。成果を発表してこそ、該当分野の研究を促進し、科学の発展に寄与することができるのです。研究者としてのキャリアを積むのであれば、できるだけ早くから論文の執筆にチャレンジしてみることをお勧めします。 とはいえ、論文発表はキャリアのためだけではありません。有名な物理学者、スティーブン・ホーキング博士の言葉に、研究を行うことの原動力は発見の喜びであると表したものがありますが、その喜びを他者と共有するためにも論文を出版することは意義深いことです。 「No one undertakes research in physics with…

研究支援エナゴ、大学・研究機関における研究および教育の未来に関する 世界規模のアンケート調査の結果を発表

[米国ニューヨーク州] 英文校正および研究支援サービスのエナゴは、このたび新型コロナウイルス(COVID-19)の流行を受けた、研究・高等教育の未来に関する包括的なアンケート調査を各国で実施しました。調査期間は、2020年5月から6月の約8週間で、欧州、アジア、南米、北米、中東、豪州/オセアニア、アフリカの38か国108大学が参加し、これまでで最も包括的な大学についての調査の一つとなりました。エナゴではこの数百万人単位の学生と数万人単位の研究者および教職員を対象とした広範囲にわたる調査を手始めに、一連の研究リスク評価調査を行う予定です。 調査報告のハイライト 大学による「ニューノーマル」への適応の中心的方策は、オンライン学習への移行と、実験やフィールドワークではなく論文執筆への注力でした。喫緊の課題であったオンライン学習への移行は28%の大学で順調に進んだものの、15%の大学では容易ではありませんでした。またほとんどの大学はすぐにオンライン環境に適応したものの、まだ移行を完遂できていない大学もありました。 なお、各国で厳しいロックダウン措置が取られましたが、研究活動自体がストップしたわけではありません。回答者の35%は研究成果発信の低下を報告し、26%は変化がなかったと回答しています。また61%の大学が現在進行中のコロナ危機の研究に積極的に取り組んでおり、大学は国際的な援助や協力よりも同じ地域内での外部の支援や協力を求める傾向にあります。 予算面では35%以上の大学が研究予算を削減され、26%が標準予算を維持しています。全体でいうと54%の大学が大幅な予算削減を行っておらず、これは評価されるべき結果だと思われます。 注目すべきは、48%の大学がすでに研究者・学生のためのeラーニングシステムを構築しており、36%が運用の初期段階にあるということです。半数以上(56%)の大学が、研究者の技能を向上させるための新しいソリューションを積極的に模索しており、これらの大学の大多数は、e ラーニングプラットフォームの導入に外部の支援を必要としています。現時点でeラーニングシステムの導入に向けて動いていない36%の大学も、今後、適切なプラットフォームを特定し導入するための支援を必要とすると考えられます。 AIベースのソリューションについては、41%の大学は今のところ運用に向けた具体的な動きは行っておらず、すでに広範に運用している大学は約25%にとどまりました。76%近くの大学がAIなどの技術を完全には実装していないことが明らかになりました。 今回の調査で判明したことは、2020年前半に大きな「パラダイムシフト」が起きたということです。具体的には、オンライン授業やeラーニングシステムへの移行が進んだこと、研究予算への影響が見られたこと、研究全体をとりまく不安感が高まっていること、新しい状況への適応が容易でない大学があることなどです。 現在の前例のない世界的災厄の中で希望を見出すとすれば、この広範囲にわたる変化が、大学における研究教育を、中長期的にみてダイナミックで進歩的に変革する可能性があるということです。 エナゴでは、今後も引き続き研究リスク評価調査を実施していく予定です。共同調査または調査協力に関するお問い合わせは、academy@enago.comまでご連絡ください。 報告書の全文は、以下のサイトよりダウンロードいただけます。https://www.enago.com/academy/global_survey_report_2020.htm 研究支援エナゴについて(www.enago.jp) エナゴは世界有数の学術研究支援サービスで、論文投稿支援サービスや英文校正サービスにより論文発表のサポートを行っています。契約を交わす科学者、研究者、翻訳者、ソフトウェア開発者、プロジェクトマネージャー、学術出版の専門家が全世界に3000人以上在籍し、その幅広い知識と経験によって広範な専門分野に対応しています。言語学、自然言語処理、AI、データ分析などについての知見と技術を活かし、お客様のニーズに合った各種校正校閲サービスや論文投稿支援サービス、そして高いインパクトファクターのジャーナルへの投稿をスムーズにする最新のAIツールを提供しています。

論文出版のスピードと信頼性は両立できるのか

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の治療および感染拡大抑制のため、関連する研究論文の公開が急加速で進んでいます。大手出版社も含めた多くの出版社や研究機関が情報公開に踏み切り、関連論文のオープンソース化が進むと同時にスピード化も促進され、従来の査読付き学術雑誌(ジャーナル)ではなくプレプリントサーバーへの投稿が急増しています。COVID-19に関する新しい情報をより迅速に得ることが重要であるとはいえ、膨大な量の情報処理に追われる、研究の信頼性が保障できないといった問題も生じています。いくつか挙げてみます。 成果を急ぐあまり研究の品質が軽視される、あるいは精度(正確性)が失われる可能性(信頼できる調査結果と品質が保障されないデータが混在する恐れ) 査読プロセスのスピード化に伴う学術雑誌(ジャーナル)出版の信頼性の低下 誤解あるいは誤った情報の拡散 良質・悪質問わず多数の論文が投稿されることで生じる物理的なオーバーフロー 科学の信頼性、再現性の問題の複雑化 研究スピードと発表の問題 従来、医学・薬学研究は、新しい治療薬やワクチン開発、治験などいずれの研究においても時間をかけて慎重に行われてきました。研究デザインの構築、被験者の選択と結果の分析、バイアスによる影響の検討などには多くの時間を要しますが、今、研究者は少しでも早く結果を出そうと研究を急いでいます。 学術ジャーナルに投稿された研究論文は、査読プロセス(そのプロセス自体の問題を指摘されることがあるとは言え)を経ることによって一定の品質が保証されていました。しかし、このパンデミック下でジャーナルも査読の迅速化を図っています。従来は数か月を要していた査読をスピードアップし、概ね2週間以内に出版しているのです。その結果、低品質な出版物が増えたとの指摘も出ています。さらにプレプリントでの発表増加が、これに拍車をかけています。プレプリントには、多くの研究者が自由にアクセスし、早期に新しい発見を共有することができるというメリットがある一方で、査読を経ていないことで研究の質が担保されないとのデメリットがあります。 もちろん、COVID-19の世界的感染拡大を一日も早く収束させるためには、良質な研究をできるだけ早急に公開することが重要です。しかし、急ぎすぎた研究、出版は有害な問題を引き起こす可能性も有しているのです。 期待に反してリスクを増加させることも 一時期、米トランプ大統領がCOVID-19の治療に有望だと売り込んだ抗マラリア薬ヒドロキシクロロキンは米食品医薬局(FDA)の不足薬品リストに加えられるほど需要が拡大しました。自身も予防薬として飲んでいると発言して話題になっていたので耳にされた方もいると思います。しかし、この薬のCOVID-19への効果は未確認で、FDAは深刻な副作用があると警告しています。医学雑誌ランセットとニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン(NEJM)に掲載された論文には、ヒドロキシクロロキンはCOVID-19の治療に有効などころか、感染者の死亡リスクを高めると書かれていましたが、データを提供した会社の透明性に疑問が持たれ、調査の信頼性に疑問が持たれた結果、撤回されました。この論文に関する問題は査読で特定されなかったため、緊急時に大量に提出された論文に対する査読が甘くなってしまったのではとの指摘も出ました。 正確さとスピードのバランス COVID-19の研究者が研究論文の発表を急いでいるだけでなく、ジャーナルも査読プロセス迅速化を図っていることが、前述したような問題を生じさせる要因となっているのです。また、投稿された論文がメディアで「誤って」解釈されて世間の注目を集めてしまった例もあります。「コロナ陰謀論」を耳にしたことはありませんか?プレプリントリポジトリbioRxivに投稿された「新型コロナウイルスにHIVタンパク質に似たものが挿入」されているとの趣旨の論文は、コロナ陰謀論を裏付けるかのように拡散されましたが、論文にはそのようなことは書かれていませんでした。著者が撤回を表明した際に「HIVタンパク質類似のものが挿入」しているに過ぎず、「人為的な挿入」とは主張していないとコメントしています。論文に誤りがなくても、著者にそのような意図がなかったとしても、誤解されやすい表現が誤って伝達されるリスクがあるのです。 一方で、プレプリントと出版物で論文の捉えられ方に違いあることも確かです。出版された論文は、一般的に発表前に査読プロセスを経ていることから「正しい」と受け取られる傾向が高いのに対し、発表後に読者による精査を受けるプレプリントは慎重に受け取られる傾向があります。論文に問題があると指摘された際、撤回するまでの時間にも差があります。例えば、前述のヒドロキシクロロキンの論文は5月22日にランセットに掲載され、6月5日に撤回。bioRxivに掲載された論文の場合、1月31日に投稿され、2月2日に撤回されています。出版された論文の修正、撤回は簡単ではありません。出版社は、調査を行った上で、理想的には著者の合意の上で撤回を行います。一方のプレプリントサーバーは、更新版の投稿が簡単であるため、問題の迅速な解決を図れますし、研究上の問題が明らかな場合には該当論文を即削除することも可能です。…

「アフター・コロナ」の世界の女性の活躍に期待

新型コロナウイルス感染症の封じ込めに成功している国の女性リーダーの活躍が、ワシントン・ポストやForbesで取り上げられて話題となりました。確かに、新型コロナウイルス対策で一定の成果を挙げている国々、ドイツ、台湾、ニュージーランド、デンマーク、アイスランド、フィンランド、ノルウェーでは女性リーダーの活躍が目を引きます。 ドイツのアンゲラ・メルケル首相は、コロナ対策でも手腕を発揮し、欧州諸国ではいち早く検査の実施拡大を行い、医療崩壊を食い止めています。台湾の蔡英文(ツァイ・インウェン)総統は、中国の武漢で正体不明の新型ウイルスが蔓延しているとの情報をつかむと早々に行動を開始。疫学者の陳建仁副総統と総統自身が抜擢したIT担当の唐鳳大臣とともに迅速な移動制限をかけ、日本でも紹介された「マスク配布システム」を含めた実用的なシステムを活用した対策を打ち出しました。ニュージーランドのジャシンダ・アーダーン首相は、観光業への依存度が高い国にもかかわらず早い段階で国境を閉鎖し、感染者が確認されると全国的なロックダウン(都市封鎖)に踏み切りました。他国がコロナの「封じ込め」を目標にしたのに対して「根絶」を目標に掲げ、自分は専門家ではないからと断りながらも国民の不安を解消すべく、ライブ中継を行うなど明確なメッセージを発しました。デンマークのメッテ・フレデリクセン首相も、早い段階で国境を閉鎖、ロックダウンに踏み切りました。女性が指導者となっている北欧4カ国(デンマーク、アイスランド、フィンランド、ノルウェー)では4月後半には封じ込めの成果が出始め、コロナウイルスによる死者は他の欧州諸国と比べて少数で収まっています。もうひとつ印象深かったのは、カリブ海のオランダ領シント・マールテンの国家元首シルベリア・ヤコブス首相の「動かないで」というシンプルなメッセージです。シント・マールテンにはICUのベッドが2つしかないという危機的な状況下で発せられた単刀直入なメッセージは力強いものでした。また、日本の小池百合子東京都知事もコロナ対策で評価された女性リーダーと言えるでしょう。小池都知事が毎日ビデオ会見を行い、フリップを多用しつつ明確なメッセージを発信していた姿は、ワシントン・ポスト誌の記事に取り上げられています。実は、小池都知事は毎週英語でもライブ配信を行っています。英語が堪能であることは知られていましたが、緊急事態に関する情報を母国語以外でも発信し続けているのは大変なことです。このように、女性リーダーたちはいち早く危機意識を持ち、専門家の助言を聞きながら必要な情報発信を行いつつ、迅速な判断を下すことで成果を挙げてきたのです。 女性がリーダーになるには、強すぎてもダメ、弱すぎてもダメという「ダブルバインド(二重拘束)」を克服しなければならないと言われています。これは、コミュニケーションをする上で、強い態度を見せればヒステリックととられ、柔らかい態度で接すれば弱々しいと取られるということです。女性リーダーとして成功するには冷静な判断力や決断力と共に、絶妙なバランス感覚も必要とされるのです。今回のコロナとの戦いでは、女性リーダーたちの人の気持ちを察しながらも必要な対策を進めていくという優れたバランス感覚とコミュニケーション力の高さが発揮されたことが良い結果につながったと言えるかもしれません。一方で、男性リーダーには科学を軽視あるいは否定する姿勢、経済優先の傾向が強く見られると指摘されています。北欧5ヶ国のうち唯一男性が首相を務めるスウェーデンは、ロックダウンを行わず、結果として同国の100万人あたりの死者数は他の欧州諸国よりも高くなってしまいました。もちろんコロナ対策で成功を収めている男性リーダーもいますが、科学を否定し、科学者からの警告に耳を傾けなかった男性リーダーの国で壊滅的な被害が出ているのは明らかです。 新型コロナウイルス感染の押さえ込みについてどの国の政策が正しいかを論じるには時期尚早です。しかし、早々に封じ込めに成功した国、迅速な対応が評価されている国には女性リーダーが多いのは事実です。それでも、なぜここまで彼女達の活躍が話題になるのかを振り返ると、女性リーダーの少なさが注目される理由のひとつであることは否めません。列国議会同盟(IPU)およびUNウィメン(UN Women)の発表によると2020年1月1日時点で女性が国家元首や首相を務めている国は、国連加盟国193カ国のうち20ヶ国に過ぎません。さらにこのデータを見ると、世界で官僚ポストに女性が占める割合は21.3%と過去最高ではありますが、まだまだ男性が多数を占めています。補足ですが、日本の官僚ポストに女性が占める割合は15.8%で113位。G7中では最下位です。 残念ながら女性の割合が少ないのは政治の世界だけではありません。エルゼビアが2020年3月24日に発表した欧州連合および世界15の国と地域、26の研究分野におけるジェンダーレポート「ジェンダーの視点から見た研究者のキャリアパス」によれば、日本の女性研究者の割合は対象国の中で最下位です。ほぼすべての調査対象国と地域で研究に参加する研究者の男女差は縮まりつつあり、日本でも女性研究者の数は増加しているものの、世界の中では今でも最も低い状況なのです。この事実は、内閣府の発表する男女共同参画白書(令和元年版)の「研究者に占める女性の割合の国際比較」にも明白に示されています。日本の研究者に占める女性の割合は漸増傾向にあるとはいえ16.2%、ここでも比較対象29カ国中の最下位です。しかもこの研究者の数は、自然科学系の研究者だけでなく、人文・社会科学系の研究者も含まれています。 女性の活躍において日本は劣等国です。これは改善されるでしょうか? 6月5日に日本学術会議が発表した報告書「理工学分野におけるジェンダーバランスの現状と課題」は、理工学分野で特に顕著なジェンダーアンバランスの課題について検討した結果をまとめたもので、同分野の女性研究者がキャリアアップするにつれて減少していく傾向を分析し、問題解決に向けたアプローチを示しています。科学技術基本計画(現在は第5期、2016年からの5カ年計画)では、女性研究者の採用割合の目標値を自然科学系全体で30%、理学系20%、工学系15%、農学系30%、医学・歯学・ 薬学系合わせて30%と定めているほか、女性リーダーの育成・登用に積極的な大学などの取組を促進するなどの施策を進めています。 日本をはじめ多くの国には今でもジェンダー・バイアスが存在していますが、変わりつつあります。世界が「アフター・コロナ」、「ニューノーマル(新常態)」に向かう中、今まで以上に女性の活躍が期待されるとの見方も出てきています。これからの社会に必要なのはダイバーシティ(多様性)であると考えられており、日本の学術界もダイバーシティの不足を重要視しています。これまでの進みは遅々としたものでしたが、図らずもコロナという「社会を変える力」が働く今こそ、女性が躍進するチャンスなのかもしれません。 こんな記事もどうぞ エナゴ学術英語アカデミー STEM分野の女性差別改善に男性ができること(リンク)

研究データ出版の動向

学術界では、科学研究の成果や関連するデータや情報を共有する「オープンサイエンス」の動きが強まっています。そこで登場したのが、データジャーナル。研究データについて詳細に記述し、公開することで他の研究者が再利用することを助けます。研究データを広く公開することで社会貢献するとともに、価値あるデータを他の研究者に再利用してもらうことで次の科学的発見につなげることができるのです。しかし、ほとんどの研究者は自身の研究成果を論文として発表することが学術界にとっても自身のキャリアにとっても良いと認識していながら、すべての研究データを論文と共に発表することに合意しているとは言えません。長年、研究当事者はデータを所有物と考え、他の研究者は方法と結論さえ明確に書かれていればデータを見る必要はないと考えていました。この考え方が変わりつつあります。再現性の危機が問題視され、オンラインアクセスが増加するに従ってデータの検索や閲覧が簡単にできるようになると、科学者や研究者たちの間でデータを共有する新しい動きが出てきたのです。データ・レポジトリ(またはデータリポジトリ)が構築されると、新たな論文の出版先としてデータジャーナルが浮上してきました。データジャーナルの動向を探ります。 データジャーナルと研究データ まず、日本学術会議情報学委員会から出された報告書によれば、データジャーナルとは「データ生産者が分野を超えて連携して、オリジナル論文に埋め込んだデータや論文投稿時に棄却した高品質のデータを学術の成果として集積するための新たな場」と記されています。データジャーナルは、データ自体を研究成果として発表する場です。多くのデータジャーナルはオープンアクセス(OA)誌の形で刊行されており、分野を超えて利用されています。ところが「データ」自体は特に定義されていないため、簡単に言えば、観察の結果および研究を進める間に研究題材に関連付けて研究者が集めた情報全般となります。ここには生データだけでなく、処理・較正された値、発表内容まで研究の過程で生じたすべての情報(未処理のデータファイル、ソフトウェア、ソースコード、プロトコル、方法、インタビュー記録、モデルなど)も含まれます。 従来の学術論文は、主な発見や興味深い結果を重視し、そこに至るデータにはあまり注意を払ってきませんでした。その理由としては、研究者が集めたデータが論文に書き込むには膨大だった、一般的に論文の中のデータの位置づけが研究の結論を補完するものだったなどが挙げられます。では、今まで発表してこなかったデータを発表することに、意味があるのでしょうか。 研究データは公開すべき? 研究成果たる論文の根拠となる情報である研究データの公開を検討すべき理由は複数ありますが、最初に挙げるべきは、再現性の危機(reproducibility crisis)対策でしょう。データを共有すれば、学術界(科学コミュニティ)は再現性の検証ができます。次に、データを公開すれば、他の研究者がデータだけでなく実験・分析方法などの詳細を確認し、新しい課題に取り込むことも可能です。もちろん、著者が新たな共同研究を立ち上げるにも、学術界で研究者として評価を高めることにも役立ちます。また、データを公開することは学術界のみならず、政策決定の際に参照されたり学術関係以外の研究者が入手できるようになったりするなどの便益が図られます。最後は、自分にとってのメリットです。データを公開することで論文の被引用数を増やすことができます。データを、データジャーナルやデータ・レポジトリに公開することによって、他者に適正に研究データを引用する機会を提供し、それによってデータ提供者はその功績を認められることになるのです。 データをどこに公開するか データの公開する方法としては、データジャーナルに出版するか、データ・レポジトリに保存するかの2通りがあります。データ・レポジトリは、研究データ(画像データや数値データなど)や研究に付随するプログラム等を収集・保管しておくことを目的としています。データ・レポジトリは研究者にとって既になじみのあるものですが、その利用は個々の大学や研究機関などに限られており、部外者が簡単に利用することはできない上、多くのデータ・レポジトリへのアクセスは有料です。とはいえ、European Open Science Cloud(EOSC) ポータルのように無料のデータ・レポジトリもあるので、参考にしてみましょう。 もうひとつの方法が、データジャーナルです。ほとんどの研究者は論文を出版し、原稿とは別にデータをデータ・レポジトリに保存していましたが、この方法では特定のデータを探し出すのが簡単とは言い難い状況でした。データジャーナルは、データセットを探しやすくするのと同時に、普及・引用しやすくすることを目的としています。データジャーナルには、データセットを説明する簡潔な文章とレポジトリに収納された全データへのリンクが示されるので、データの保存や再利用を促すために有効な手法と考えられています。ほとんどのデータジャーナルに書式があり、著者はこの書式に入力してデータ情報を提出するだけで投稿できるようになっています。データジャーナルはMEDLINE のように主要な医薬文献検索に収録されるので、従来の学術雑誌(ジャーナル)同様にインパクト・ファクター(IF)を取ることができます。…