学術界を知る

科学ジャーナルのオープンアクセス最新動向と留意点

2021年1月15日、Science各誌の発行元である米国科学振興協会(AAAS)が、一部の資金提供者が支援した研究の成果については直ちにかつ自由にアクセスできるようにするように公開することを求めていることに対し、論文著者が応じられる方法を提供すると発表しました。この新しい オープンアクセス (OA)方針に基づけば、著者は、ほぼ最終段階にある原稿、あるいは有料購読者しかアクセスできないScience誌に掲載された査読済の原稿であっても、誰もがアクセス可能なオンラインリポジトリに掲載することができることになります。 プランSオープンアクセス(OA)と出版社のせめぎ合い 新方針の下、Science各誌は「グリーンオープンアクセス(グリーンOA)」に踏み出した訳です。つまり、購読料を支払って購読する従来の学術雑誌(ジャーナル)に投稿された論文であっても、著者自身が機関リポジトリに並行してOAとして公開することができるようになります。著作権の条件が個々に異なるので、再利用および許諾申請については著者や著作権者への確認が必要ですが、読者側からのアクセスのチャンスが広がったと言えるでしょう。ただし「一部の資金提供者」となっている点に注意が必要です。OAの実現に向けたイニシアチブ「cOAlition S」からの資金援助を受けた論文著者が申請した場合のみとの制限が設けられているのです。よって、Science誌の現時点での新方針は、このOAイニシアチブの背後にいる欧州の資金提供者および「プランS」が資金を提供する論文著者のみに適用されるということになります。この新しい方針の下で公開される論文の著者は、プランSの原則に準じた著作権を有することになります。主要ジャーナルであるScienceとその他4つのScienceタイトルのジャーナルに掲載されている研究論文の多ければ31%がcOAlition Sによる資金援助を受けているとされていますが、cOAlition Sによる資金援助を受けていない著者の執筆した論文は、出版から数ヶ月から24ヶ月の期間(猶予期間/エンバーゴ)を経るのを待たなければ公開できません。AAASは、この新しい方針を1年間試験的に行い、収益性を判断するとしています。無料でアクセスできる論文が増えることによって大学や研究機関が購読契約をしなくなり、出版社としての収益が下がる可能性があることは否定できないからです。そしてAAASは、誰もが無料で発表論文を読み、使用することを可能とするゴールドオープンアクセス(ゴールドOA)の採用にまで拡大しなかった理由として、多くの著者、特に貧困国の著者にとって非常に高額な出版手数料を課すことになってしまうことへの懸念を述べています。ゴールドOAの論文は、誰もが無料で読むことができる反面、論文出版料金 (APC) やその他の出版に必要な全費用は著者が負担することになります。例えば、AAASジャーナルの一誌Science AdvancesにゴールドOAモデルで出版するためには、論文あたり4500ドルの出版手数料が著者に請求されることになります。Nature系のジャーナルにゴールドOAで出版する費用が、最高で論文あたり9,900ユーロ(約12,000ドル)となるよりは低いものの、研究者にとっては大きな負担です。とはいえ、出版社としては出版コストをカバーする必要があるのも否めませんし、研究論文以外のニュース、論評(Commentary)や総評(Review)を掲載するにあたってはNatureもScienceも出版費用を徴収していません。 OAの広がり AAASの新しい方針は、以前の方針から大きく逸脱するものではありません。今回の新方針発表以前から、論文著者は最終版が公開された時点で、ほぼ最終版(著者が最終的に承認した原稿、author-accepted manuscript)を個人のウェブサイトや大学や研究機関のリポジトリにアーカイブすることができました。新方針では、著者が米国国立衛生研究所のPubMed Centralなどの非営利団体が運営するリポジトリにも投稿できるように範囲が広がっています。 ここで、公開された論文=最終版(Version…

続報 日本学術会議の戦いは続く

国会議論のコロナ対策答弁の中で管首相が「専門家の意見を聞いて」と言い続けていたのとは相反する政権の姿勢を揶揄する声もありますが、2021年も日本学術会議をめぐる論争は続いています。 管首相は、脱炭素化やデジタル社会の実現などに向けた研究開発を後押しすることを所信表明で掲げています。この方向に向けた動きのひとつとして、1月19日に政府の統合イノベーション戦略推進会議(議長・加藤勝信官房長官)が開催され、日本の新たな科学技術・イノベーション基本計画となる「第6期科学技術・イノベーション基本計画」の答申の素案が決定されました。ここには、研究開発への投資をこれから2025年度までの5年間で総額30兆円、官民合わせて120兆円とする目標が掲げられています。この計画の実現に向け、大学の研究や若手研究者の育成支援を行うことを目的とした10兆円規模の「大学ファンド(基金)」の創設も盛り込まれています。 管首相への抗議は続く 日本政府として日本の研究力の低迷を何とかしなければと対策を打ち出した形です。しかし、日本の学術界と政府との間のわだかまりが解決されたとは言えない状況が続いています。昨年9月末に、日本学術会議の会員任命を管首相が見送って以降、この問題はいまだに解決に至っていません。2021年1月28日、日本学術会議は管首相による会員候補6人の任命拒否問題を速やかに解決するよう求める声明を発出しました。現在も6名が欠員のままであるため、日本学術会議法の求める会員数を満たしていない状態が続いています。梶田隆章会長は同会議の今後のあり方改革の方針を議論する4月の総会までには定数の会員(210人)がいる状態にしたいと述べています。いまだに正式な回答や説明が行われていないと主張する学術会議側に対し、加藤勝信官房長官は翌29日の記者会見で、「任命権者として最終判断したものであり、一連の手続きは終了している」として学術会議の再任命の要望に応じない考えを示しました。 2月5日時点で日本学術会議会員任命拒否への抗議声明・要請書を発表した学会・団体は、学協会関係だけでも900を超えています(学者の会調べ、随時更新)が、海外の学術関係者もこの事態を憂慮しています。世界の科学者を代表する組織である国際学術会議(ISC: International Science Council)の代表であるDaya Reddy博士から2020年11月17日付けで梶田会長宛てに発出された書簡には、管首相の判断における透明性の欠如と、これが日本の科学的自由に及ぼす影響を非常に懸念すると記されていました。 日本学術会議が直面する2つの問題 1月7日付けのScienceの記事には、日本学術会議は2つの問題に直面していると指摘しています。1つは、同会議の会員の任命を首相が拒否するという前例のない事態。もう1つは、管政権が現在政府機関に属する日本学術会議を、国から独立した法人格に移すことを検討しているということです。 2つ目は、科学の独立性と政治的中立性を組織として担保する必要があるとの理由から、内閣府の「特別の機関」という現在の位置づけを見直し、政府から独立した組織とすべきとの見解に基づく議論です。自民党は、日本学術会議の在り方を検討するグループを作成し、12月9日に学術会議が独立することなどを求める「日本学術会議の改革に向けた提言」をまとめました。政府は日本学術会議に供与する予算を大幅に削減したいと考えており、資金を得たいのであれば政府の指示に従うことを要求しています。日本学術会議は年間約10億円(約970万ドル)の政府支援を受けており、日本政府はこの予算を多額だとして削減しようとしていますが、他国の国立学術団体と比較してみると、例えば米国国立科学・工学・医学アカデミーが2018年に政府機関から受け取った助成金などは総額で2億8000万ドルと桁が違います。自民党グループの提案に準じて本当に組織の在り方を変更するのであれば、日本学術会議法の改正にも及ぶことにもなるとみられており、日本学術会議にとってこの改革提言を全面的に受け入れることは難しいことでしょう。 さらに、この中には学術会議の会員構成の比率の見直しを検討する要請も含まれています。実態は分野毎の比率を指定し、人文・社会科学系の会員数を減らすことを求めたものですが、学術会議は総数だけを見て会員比率の見直しが議論されることに対して慎重な姿勢を示しています。4月から施行される「科学技術・イノベーション基本法」の改正では、これまで科学技術振興の対象から外れていた人文・社会科学が組み込まれることになっています。にもかかわらず人文・社会科学系の軽視と取られかねない要請をするのは、政府の進める科学・技術政策の方向性と矛盾するのではとの指摘は否めません。 提言に対する学術会議の反論 日本学術会議は12月16日に、「日本学術会議のより良い役割発揮に向けて(中間報告)」報告書を井上大臣に手交しました。この報告書は改革のための提案を述べつつ、現在の学術会議は日本の科学界を代表しており、公的資金によって安定的に支持されながらも政府から独立して活動できることに留意したものです。これに対し、井上大臣は、日本学術会議が国立的な学術団体の役割を果たすために独立した新しい組織となる可能性を引き続き検討し、速やかに改革案を最終化するよう求めました。政府は、国から独立するか否かの検討と併せて、会員比率についても、今年4月に結論を報告するよう学術会議に求めていますが、学術会議は4月に結論を出すのは難しいとしています。…

科学研究におけるデジタル革新とデータ駆動型研究

昨今のデジタル革新には目覚ましいものがあり、ウィズコロナの時代においては欠かせないものとなりつつあります。デジタル革新、あるいはデジタルトランスフォーメーション(DX)と一言で言っても、そこには、データベースやネットワークなどの情報基盤、スーパーコンピューター(スパコン)など多様な要素が含まれており、さらにこれらが組み合わって日々進歩し続けています。新型コロナウイルス感染症対策として、スパコン「富岳」を用いたくしゃみなどの飛沫拡散シミュレーションの結果をニュースなどで見かけた方は多いと思いますが、スパコンは治療薬候補の絞り込みなどにも使用されています。このように、新しい技術を活用した科学研究の手法や見せ方が浸透しつつあると言えるでしょう。日本でも、総合科学技術・イノベーション会議基本計画専門調査会での国家戦略の議論にオープンサイエンスと研究開発DXに関する施策が盛り込まれています。 データ駆動型研究の登場 科学研究におけるデジタル革新が進むにつれ、事前に仮説を立てることをせずにデータを収集し、得られたデータを分析した上で研究を進める手法「データ駆動型(data driven) 」が登場してきました。これは、従来の仮説を立てた上でその仮説を検証するために実験・研究を進める仮説駆動型(hypothesis driven)に対し、事前に仮説を立てずに大量のデータを集め、分析した上で研究を進めるものです。近年の計算機能力の劇的な向上に負うところが大きいと言えますが、スマートフォンやオンラインネットワーク経由で情報を収集し、その大量データ(ビッグデータ)をスパコンで解析させることで研究成果を導くような研究手法です。この新しい科学的手法の促進が社会貢献につながることも増えてきています。 ライフサイエンスにおけるデータ利用とデータ駆動型研究 新型コロナウイルス感染症の拡大により、ライフサイエンスにおけるデータの利用がさらに進みました。ゲノムシーケンシング(ゲノム解析)、生物医学的画像処理、医療用IoTデバイスの技術進歩などにより多くのデータが得られています。しかし、膨大なデータから有意義な結論を導き出すためには、科学的知見に基づき、さまざまなデータを処理しなければなりません。ライフサイエンスでは、よりリスクの少ない製品をより安く、より早く、しかも安全に提供しなければなりません。医薬品の研究開発でデータ駆動型アプローチを取ることは、疾患や患者を理解し、より効果の高い可能性を持つ治療法を特定し、新薬を開発し、市場に投入するまでの時間を短縮するのに役立ちます。研究論文・文献、臨床データなどを俯瞰的に見つつ、リアルタイムで医薬品開発研究プロセスに組み込むことを可能とするのです。 ライフサイエンス研究の成果は、医薬品の開発、医療診断、予防および治療など幅広い分野に利用されています。技術革新によりゲノムシーケンシングの速度は飛躍的に速くなり、そのコストは劇的に下がりました。例えば、20年前には数年を要したようなゲノム情報の収集がゲノムシーケンシング機器によって、たった1日でできるようになっているのです。一方、研究者らには生成あるいは収集される膨大な量のデータを分析、処理するリソースとスキルの両方が求められるようになっています。スウェーデンのKnut and Alice Wallenberg Foundationは2020年10月にライフサイエンスにおけるデータ駆動型研究を支援するために計37億SEK(スウェーデン・クローナ)の基金を創設したと発表しました。 広がるデータ活用 IT技術の発展により入手可能となった大量のデータが、学術界および産業界におけるデータ駆動型研究を促進しています。事実、産業界とくに金融業界では「フィンテック(FinTech)」と称される金融サービスと情報技術を結びつけ、データを活用する動きが進んでいます。コロナをきっかけに一気に進んだデジタル化が業務のIT化に限らずプロセスの変化を促し、さまざまな分野でデータを蓄積・分析することで新しい価値を生み出しているのです。そして学術界でも多くの研究者が、さまざまな手法を用いて科学的あるいは社会的に有意義なデータを引きだそうとするアプローチである「データサイエンス」に取り組んでいます。例えば、環境学者のカーティック・ラム(Karthik…

Wiley:不確実な学術出版の未来を見据えて

今回、紹介するのは世界有数の学術出版社ワイリー(Wiley)の識者によるゲスト投稿です。ワイリーは、科学、医学、技術、物理学、社会科学、さらに人文科学まで広範な分野にわたり出版活動を展開しています。オンライン投稿・査読システムも取り入れながら、学術研究関係者を対象とした各種ソリューション、役立つ情報、教育マテリアル、などさまざまなサービスを提供しています。本記事では、学術出版業界で今まさに起こっていることと、今後の展望についてご紹介いただきました。 創造力の小さなひらめきこそが人生に何かをもたらすのである!常に未来を予想しておくことはできませんが、2つのことは分かっています。1つ目は、未来に到達するためには何かが必要であること。2つ目は、私たち(ワイリー)は研究コミュニティに遅れずに共に未来に向かって歩んでいきたいと思っていることです。この考えを実現するため、ワイリーは引き続き研究者の声に耳を傾け、試行錯誤し、新たな可能性を受け入れていきます。新しいことにチャレンジすることを恐れず、私たちのプラットフォームに積極的に新機能を追加し、研究者が学術出版をやりやすくするための新しいスタイルの関係性を構築しようとしています。実際に新しい試みを始めるのに最善の方法は、研究のプロセス同様に、質問し、仮説を立て、そして実験を行うことです。 未来の学術出版は論文公開の新しい形となっていくのか 現状では、インターネットの機能をフル活用しても、研究論文はPDFの形で公開されています。この点は、1900年代からあまり変わっていません。この公開形式、近い将来変わっていくのか、あるいは変わらざるを得ないのか?これは、私たちが可能性を探るために避けられない問いかけです。研究を行うこと自体は動的で多次元的ですが、その結果を論文として公開することは静的な作業です。論文が出版され、読者に届くことによって活気づくことは、とてもワクワクすることです。 どうやって論文を出版するか?そこは私たちにお任せください。ワイリーはいろいろな試みを行い、それらが受け入れられるかの分析を行っています。化学系の学術雑誌(ジャーナル)で試したことを例に挙げてみましょう。この論文掲載の中は、研究成果(文章)とともに読者が画面上で操作できるグラフィック(動画)を埋め込んであります。これにより、読者はログインしてデータを処理し、自分なりの結論を導き出し、著者に質問することができるようになりました。このような試みは、公開された論文との関わり方を変える可能性を有しています。さらに、研究プロセスの深みと広がりを論文の評価につなげることに一歩近づけることができたかもしれません。 世界と研究を共有するための新しいパートナーはどこで見つかるのか 論文の公開方法をどう変えるのか模索することは、とても刺激的です。しかし、一方で私たちは、できるだけ多くの人が研究成果にアクセスし、利用し続けられる状態になっていることを確認したいと思っています。そのためには、発表された研究論文のインパクトを最大化するための新たな戦略の開発が必要です。学術出版で広がっているオープンアクセスに関連する話題を扱う「オープンアクセスウィーク(Open Access Week)」という学術情報流通イベントが年1回開催されています。このイベントは2020年に10周年を迎えました。 私たちにできることはまだまだあります。公開論文への公平なアクセスを確保し、一層ダイナミックに将来を見据え、オープンデータ化およびその方法などを考えるのは長い道のりです。この10年間に私たちが学んだことは、将来の可能性を信じ、私たち同様に新たな試みに挑戦するパートナーを探し続けることの必要性です。政府、大学、民間資金提供者、そして出版社は、論文開示の可能性の実現に向けて協力していかなければなりません。合わせて、意識を高めること、なぜ拡大し続けている研究コミュニティに開示性が必要なのかをすべての研究者が正しく認識しているのを確認することにも留意しておく必要があります。 研究コミュニティが協力的でありつつ多様性を保つにはどうすべきか すべての人たちが関わることなく学術研究や学術出版の未来について考えることはできません。特に2020年、私たちはCOVID-19の研究において協力することの影響の大きさを目の当たりにしてきました。研究者は強いです。世界中から集まって研究を共有することで問題を解決し、新たな高みに到達してきました。そして、社会の流れから取り残された研究者や忘れられた読者や聴衆のために扉を開いたのです。 研究業界内にどんな人でも受け入れるコミュニティを構築することは、私たち全員に関わることです。一体性を促進し、公平性を支える報償金と奨励金のシステムを変えることは容易ではありません。私たちは、科学コミュニティのポッドキャスト「This Study Shows」でこの話題を取り上げました。さらに、ワイリーは研究論文や書籍のコンテンツ(章)を自由に入手できるように集約したRISE(Research…

日本政府が10兆円規模の大学基金を創設

2020年12月8日、日本政府が10兆円規模の大学基金を創設し、大学の国際競争力の強化および、若手研究者の人材育成、研究施設の整備支援に充てる方針を発表しました。経済対策の一環として日本の大学の研究力の抜本的強化を狙ったものです。国の財源からだけでなく、参加する大学や民間の資金を活用することも検討するとし、文部科学省所管の国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)が外部機関に資金の運用を委託する予定です。国内外の債権や株式などへの投資を行うことで運用額を段階的に増やし、3年後を目処に10兆円規模を目指すとしています。この支援は、世界的な研究を行う大学を対象としたものですが、具体的な選定方法は今後の検討となっています。 進む法整備 2021年1月18日には、管首相が施政方針演説で「十兆円規模の大学ファンドにより、若手研究人材育成などの基盤整備を行い、世界トップレベルの成果を上げる自律した大学経営を促します。(演説より抜粋)」と述べました。そして1月28日、「国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)法」の改正法が参院本会議で可決、成立しました。この法改正が成立したことによりJSTが大学支援資金を運用することが可能となります。JSTは、運用業務担当理事(CIO)と運用・監視委員会を設け、リスク管理体制の構築を進めることになります。資産運用の考え方は内閣府総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)に設置されるワーキンググループで検討し、損失リスクの管理にも責任を負うことになりますが、財政融資資金の償還リスクが高まった場合のリスク運用停止などについてなどの指標などに関する論点は残されています。大学等への寄付が根付いている海外では寄付金などを財源とした基金を運用し、その運用益で研究開発を支援している大学があるのに対し、日本では政府指導で基金の創設が進められることとなったわけです。2020年度の第3次補正予算案で約5000億円、さらに2021年度の財源投融資で約4兆円の計4.5兆円を確保したものを資本として2021年度より運用を開始。早期に10兆円規模の運用元本を形成することを目指すと書かれています。ファンドの期限は50年。「国際的に卓越した科学技術に関する研究環境の整備充実並びに優秀な若年の研究者の育成及び活躍の推進に資する活動に関する助成を行う」ことを目的に22年度から運用、23年度から大学への分配を始め、将来的には大学が自ら民間資金を拡大して政府支援から脱し、欧米の大学のように自らの資金でそれぞれの基金を運用することを目指すとしています。 不安要素 研究支援に使える資金が確保されるのは喜ばしいことです。とはいえ、不安要素がないとは言い切れません。今回、基金の運用を行っている欧米の有名大学をモデルケースとしたようですが、欧米の大学の資金は自己資金であり、基金の運用は大学によって行われています。根本的に、中央政府が多くの大学を対象として設ける日本の基金は文科省が参考としている欧米の大学の状況とは異なるものです。日本の大学がどこまで基金への積み増しをするかは不明ですし、大学の研究費は文部科学省の予算(一般会計予算)から交付されてきているので、従来の研究費の出し方とも異なることになります。 さらに具体的な基金の運用方法は明らかになっていません。この大学基金10兆円が株式投資という形をとるということは、東京株式市場への影響が出てくることは否定できません。Bloombergには、渡海紀三朗元文部科学相がこのファンドの運用益で大学の支援を行うために、運用資産が10兆円となった際には年3%程度の収益率が望ましいと考えているとのコメントが掲載されています。これは年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の過去20年と同水準と書かれていますが、この低金利の時代に、金融緩和で株式市場にお金が流れ込んでいた時期の利回りを参考にするのでよいのかは疑問です。もちろん、公的資金を株式に投じて運用益を確保するにはリスクを伴います。運用に失敗すれば国民負担が生じることになるのではないか、特に世界経済の動きが激しい昨今、景気変動のリスクを加味すると不安定な財源になりかねないのではないかといった点を不安視する声も出ています。アメリカの大学ファンドの主な原資は寄付金で、それを大学の自己責任で運用し、リスクを取っています。文科省は分散投資・リスク管理を行い、運用リスク管理の高度化を図るとしていますが、大学の研究費が確保できるように(もしくは減らないように)、株価が暴落しないことを祈るのみです。 心配の種は経済面だけではありません。大学の参画要件や運用益の配分方法については内閣府に専門委員会を設置し、そこで策定する基準に基づき選考するとなっています。しかし渡海議員はBloomberg記事で、支援を受ける大学の条件として将来的に資金面で自立する計画を持っていることを挙げており、大学の資金力も考慮することを示唆しています。研究や教育、ガバナンスなどを踏まえて数校を選定した後に、1校当たり年数百億円の支援を想定していると書かれていますが、大学への配分方法如何によっては大学間格差が生じる、あるいは格差が拡大する可能性もあるでしょう。また、菅政権の日本学術会議への対応から、学問の自由や大学の自治をどれほど認めてくれるのか楽観視はできないとする声もあります。 先行きを不安視する材料は数知れず、これらを否定することはできません。とはいえ、新型コロナウイルスの感染拡大で政府財政がひっ迫する中にも関わらず、日本の大学の国際競争力の低下を喫緊の問題と捉え、大学の研究環境を抜本的に強化し、学術研究・基礎研究に大規模な投資を実行するという国内初の大胆な試みは、「知の創造拠点」としての重要な役割を担う大学および学術界に大きな変革をもたらすかもしれません。この資金を糧とした研究力の底上げが達成されることに期待します。 参考資料 財政制度等審議会 財政投融資分科会 説明資料(国立研究開発法人科学技術振興機構作成) 文部科学省 令和3年度 予算(案)のポイント

2021年 日本の科学技術の発展をかけて声を挙げよう

日本が「科学技術立国」と言われていたのはいつの日か――近年は、論文発表数では中国に遅れをとり、世界大学ランキングでは日本の大学の存在感が薄れていると指摘されるなど、日本の基礎研究力の低下が問題視されています。管総理は、社会のデジタル化(デジタルトランスフォーメーション)を政権の最重要課題としていますが、その基礎となるのは科学技術力です。2021年、日本の科学技術はどうなっていくのでしょうか。 日本の科学技術の現状 日本は世界トップクラスの科学技術力を誇ってきました。2000年以降、17年間で17人のノーベル賞受賞者を輩出してきた実績もあります。しかし、2000年代に入ると国の研究開発力を示す指標の一つとされる論文発表数は減少に転じ、論文数およびトップ10%補正論文数(被引用数が上位10%に入る論文の抽出後、実数で論文数の10分の1となるように補正を加えた論文の数)の世界ランクもほとんどの分野において低下傾向を示すに至っています。文部科学省科学技術・学術政策研究所がまとめた「科学技術指標2020」には、自然科学分野の論文本数(2016~18年の年平均)で中国が米国を抜き、初の首位となったことが記されています。日本は前回(2010年)調査から順位を下げて4位となっています。2018年のworldbank.org調査データに基づく分析よると、科学技術論文誌に掲載された日本の論文数は、98,793本。このときの世界順位は、中国、アメリカ、インド、ドイツに次ぐ5位。日本の論文発表数が横ばいなのに対し、中国、インドといった国の発表数が相対的に増加していることで順位を下げた結果となっています。 2020年は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大で、働き方および医療管理の両面で社会のIT化の必要性が急拡大しました。この傾向は2021年も継続し、loTやAIの発展にともなう大きな変革が進むと考えられます。また、地球規模の温暖化対策として、エネルギーおよび産業構造における新しいイノベーションも不可欠と言われています。社会に役立つ科学、社会のための科学の発展への期待が高まっている裏で、先述の論文数の順位の低下だけでなく、科学技術研究に従事する研究者や学生の数の減少が懸念されています。日本の科学技術研究は、厳しい状況に置かれているのです。 日本が直面している問題 日本の科学界が直面している問題を3つあげてみます。 若手研究者の研究環境整備と人材の育成: 世界的なパンデミックのように一国だけでは解決できない問題が起こる時代、各国が科学技術研究で鎬(しのぎ)を削るのではなく「競争から共生へ」の移行が必要とされています。科学技術やイノベーションを発展させるには新たな価値を生み出す人材の育成が必須です。これは世界的な共通課題でもあり、アメリカをはじめとした海外でも博士課程に進む人口が減少している上、コロナによる渡航禁止処置が取られていることで研究者の国際的流動が制限されています。日本では、急速な高齢化の進行により大学・大学院に進む人口が減少していることに加え、修士から博士課程に進学して博士号を取得する割合が少ないこと、先進国と比べて少ない博士号取得者がその技能を活かせる職に就きにくいことなどが問題視されています。大学でも人件費の圧迫により、雇用機会獲得の競争が激しくなっているだけでなく、安定雇用される常勤の教職員枠が減少し、任期付きで雇用される不安定な若手研究者が増加しています。さらに昨年からのCOVID-19の影響で修学に支障をきたすおそれのある学生も増えているので、経済的理由で修学・進学を断念することのないように支援することも必要です。研究者の雇用を守り、研究に従事できる環境を整えていくことが不可欠です。 研究論文数の低下: 科学技術白書にも、論文数をはじめとしたいくつかの指標において日本の科学技術の力が相対的に低下していることが示されています。論文の数、質の両観点から国際的な地位の低下、国際共著論文数の伸び悩み等において、諸外国に比べ相対的に低下していることが課題となっています。特に、注目度の高い論文の発表数において順位の低さが顕著であること、国際的に注目を集める研究領域への日本の参画状況が低下傾向にあることが指摘されています。実際、世界でパテントファミリー(2か国以上への特許出願)における国際協力関係が強まっている中、日本は国際共同しているパテントファミリーの割合が他の主要国と比較して最も低い状況です。このことは国際共著の数が他国と比べると低いことにも表れています。「科学技術指標2020」によれば、2018年の日本の国際共著論文数は29,047本(国内論文数は53,680本)ですが、アメリカは174,288本(国内209,218本)、中国は106,985本(国内290,580本)と圧倒的な数の差が出ています。国外の研究者あるいは研究機関とも協業できるクリエイティブな人材を増やしていくことが重要という点では先の人材育成の必要性にもつながっています。 また、近年にはヨーロッパを中心に研究成果を広く利用可能にしようとするオープンサイエンスに向けた動きが加速しています。この流れを受け、日本でも内閣府がオープンサイエンスに関する検討を行い、公的研究資金による研究成果のうち、論文と研究データは原則公開とすべきとの方針が示されました。しかし、2020年5月に公開された「研究データ公開と論⽂のオープンアクセスに関する実態調査2018」によると、調査時点では研究者のデータ公開に対する懸念は依然として高く、データを公開するための資源の不足感も強いことが浮き彫りになっています。 研究資金の分配: 総務省の科学技術研究調査によると2019年度の科学技術研究費の総額は、19兆5757億円と過去最高となっていました。しかし、ここでもアメリカと中国の研究費とは圧倒的な差があり、中国の半分にも満たない状況です。しかも、この研究費の内容を見ると競争的資金(プロジェクト型予算)の比重が増えている一方で、運営費交付金という研究環境を支える資金が減少していることが、研究環境に悪影響を及ぼしているとされています。政府が拠出する研究費は増えていても研究者の自由な研究を支える研究費が減少しているという状況となっているのです。 今後の課題と科学技術基本計画 論文発表数は、研究費つまり投資額と比例すると言われるほど、科学技術やイノベーションを発展させるためには安定した研究投資が必要です。高齢化にともなう社会保障費やコロナ対策費などの増加により研究資金の確保が難しくなることは予想されますが、世界に競合できる技術を開発し、社会に役立つ科学を発展させるためには財源の見直しも必要となるでしょう。科学技術白書には「研究成果を効率的に最⼤化する仕組みを検討することが望まれる。また、⽇本の研究者によるオープンサイエンスの実施と認識が今後どのように変化していくのかを継続的に調査する(概要より抜粋)」と書かれています。…

バイデン次期政権へ:科学技術政策はどう変わるか

白熱していた2020年の米大統領選ですが、現地時間12月14日に選挙人による投票でバイデン氏が過半数を獲得し、正式に当選が確定しました。これを受けたバイデン氏が「民主主義が勝利した」と強調したことからもこの大統領選挙の混乱ぶりを表していますが、この大統領選では学術コミュニティーが政治に踏み込むという前例のない動きを示したことにも注目されました。 学術雑誌の意思表明 学術雑誌Scientific Americanは9月15日付けの記事で(発刊後にその後の情報を踏まえて10月1日付けで編集されている)、バイデン候補を支持すると発表。同誌が特定の候補を支持したのは175年の歴史上初めてのことでした。トランプ大統領が、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の対策で医療関係者や科学者の意見を無視したこと、さらには環境問題や医療において研究者や公的研究機関を攻撃したことに対する危機感が、バイデン氏への指示言明につながったと記されています。トランプ大統領が、自分自身が罹患するまでCOVID-19の脅威を軽視した発言を繰り返していたことも、公衆衛生の専門家たちの危機感を募らせることとなりました。 また、Natureも10月6日付け Editorialでより多くの政治的ニュースを掲載していく必要があるとの姿勢を示していましたが、その後、10月14日にはトランプ大統領のCOVID-19対策を酷評するとともに、「(科学機関や米司法省、選挙制度そのものといった極めて重要な機関や制度を)これほど執拗に攻撃し、弱体化させた米大統領はいない」と非難し、バイデン氏支持を表明していました。 米大統領選において明確な姿勢を示したのは、上2誌だけではありません。医学雑誌のLancet、New England Journal of Medicine (NEJM)もトランプ大統領を再選させないように有権者に促していました。 反トランプの3年間 思い返せば、就任から日も浅い2017年4月には世界500以上の都市でトランプ大統領に抗議するための「March for…

論文出版が先か、特許が先か、それが問題だ?!

ついに長年の研究の成果がまとまった!やっと今までの苦労が報われる日が来た!となれば一刻も早く研究成果を世に広めたいと思うでしょう。最新の研究論文を書き上げて、トップレベルの学術雑誌(ジャーナル)に投稿すべく執筆を急いでいるかもしれません。でも、ちょっと待ってください。論文の公開を急ぐあまり、特許獲得のチャンスを逃していませんか?最新の研究で得られた発見、あるいは研究で生み出された発明を収益化できる可能性を見落としていないか、一度立ち止まって考えてみてはいかがでしょうか。 Publish or Perish(出版か死か)のプレッシャー 「Publish or Perish(出版か死か)」と言われるように、科学分野では出版することが最優先とされがちです。研究者は、出来る限り早く研究成果を公開・出版しようとする傾向が強いものです。その背景には、研究者の信念とも言える学術界の「出版か死か」という価値観があることは否めません。しかし、研究者が特許申請よりも論文出版を優先 させるのには、いくつかの理由があるのです。 研究者、特に大学に所属する研究者は、自分の研究分野での実績を積み上げるためにたくさんの論文を出版しなければとのプレッシャー下に置かれている 特許が取れる可能性や特許の価値に関して認識の薄い若手研究者や経験の浅い研究者は、自身の研究で鍵となる成果・発見を部外秘としておくことの重要性に気付いていない可能性がある(迂闊に「公開」してしまうことで新規性が失われ特許取得のチャンスを逃している可能性も捨てきれない) 特許を獲得することによって得られる恩恵より、特許申請することに要する費用がかかることがあり、特に規模の小さいイノベーション技術で特許申請を行う場合に起こりがちである なぜ特許権保護が重要か 研究者にとって最も貴重な財産は、自分の研究アイデアです。そのアイデアを特許で保護していなければ、誰でも自由にあなたの発見を真似ることができてしまいます。特許を出願するということは、他者が利益を得るためにあなたの発見を利用/悪用することを「防ぐ」ための独占権を獲得することを意味しています。特許を取ることによって、対象となる研究の成果の利用・実施(生産、販売など)を独占できるだけでなく、権利侵害者に対して差し止めや損害賠償を請求できるようになるのです。一方で、この独占権を得るため、特許所有者は特許に関する技術情報を開示しなければなりません。 研究成果で特許を取得すれば、自身の発見を商業的に活用し、金銭を得ることも可能になりますが、研究者は、少なくとも特許出願が受け付けられるまでその成果を出版物として公開するのを待たなければならないのが一般的です。 研究者が成果を公開するタイミングに特許が取得できる国もありますが、特許取得の手続や取得に要する時間はまちまちです。アメリカ、オーストラリア、韓国、日本といった国々でも状況が異なっているのが現状です。これらの国では、原則として特許出願より前に公開された発明(発見)は特許を受けることができません。しかし、論文として発表した後の特許申請を一切受け付けないとしたのでは、研究者にとって厳しい状況となってしまうことを考慮して、一定期間であれば特許出願前に発明内容を公表(論文発表)しても新規性が失われないと見なされる期間「グレースピリオド…

ジャーナル編集者が査読コメントを改変している?!

研究者にとって自分の論文を発表することは、どのような論文であっても一大事です。原稿を準備するにも多くの時間と労力がかかりますし、投稿した後も査読に通るかどうか、結果を待つ間は気が休まらないことでしょう。そして査読者からコメントが来れば、注意深くすべてのコメントを読み込み、それらに応えるべく最善を尽くすことが求められます。 査読コメントは概ね原稿を良くするために有用かつ建設的な指摘であるはずです。中にはあまり役立たないコメントがあるかもしれませんが、前向きなものでしょう。とは言え、著者に対して失礼な、不適切な査読コメントがないとは言い切れず、研究者の自信とモチベーションを削ぎ、キャリアにとって大きなダメージを与えるようなコメントを見かけたこともあります。 不適切な査読コメントとは? 不適切な査読コメントとはどのようなもので、どのぐらいの頻度で見られるものなのでしょうか。生物・ 医学分野の査読付きオープンアクセス誌のPeerJに、非専門的な査読が研究者を過小評価し、本来与えられるべきものとは異なる評価をすることで、否定的な影響を及ぼす可能性があるとの論文が掲載されました。これは、46カ国、1,106名の14のSTEM(科学・技術・工学・数学)分野の科学者から得られた匿名回答を分析した調査結果です。 この調査では、科学者の半数以上が、少なくとも1回以上、多くは複数回、「非専門的な」査読コメントを受け取ったことがあると示されています。2万5千名が登録しているフェイスブックのグループでも同様の問題が指摘されています。 非専門的な査読コメントとしては、建設的ではない、個人攻撃を含む、あるいは厳しすぎるコメントなどが挙げられます。一例ですが、スペインの研究者は、査読者から「読む気すら起きない」というコメントを受け取ったそうです。英語が良くなかったとしても、かなり辛辣なコメントです。 学術雑誌(ジャーナル)の編集者が査読コメントを改変 オーストラリアのメルボルン大学で研究者の意思決定に関するメタリサーチ(MetaResearch)を研究しているFiona Fidler教授は、査読コメントが著者に送り返される前に、彼女の評価が書き換えられていたこと、しかも大きく変えられていたことすらあったことを発見して、怒りを覚えたそうです。例えば、「(著者の見解に)大きく賛同します(very sympathetic)」が「大抵の部分には賛同します(generally sympathetic)」に、「良い例です」が「この部分は不十分です」というような変更です。もっと悪い例としては、ジャーナル Educational and Psychological Measurementへの彼女の査読報告の結果部分、それは該当の投稿論文を若干の修正後に採用(アクセプト)するようにとの提言でしたが、編集者の判断によって却下(リジェクト)となったと著者に伝えられていたのです。…

若手研究者を科学コミュニティに取り込もう

キャリアの浅い若手研究者(Early Career Researchers:ECR)は、科学コミュニティで重要な役割を担っています。確かにキャリアとしてはまだ浅く、経験も少ないかもしれませんが、彼らは科学コミュニティの将来を担っているのです。新たな発見を世界にもたらし、将来ノーベル賞を受賞する可能性を秘めている人材です。次世代の研究者を育成する研究アドバイザーにもなってくれるでしょう。しかし、現時点では自分たちは学術界に大きく貢献できていないと思い込んでいるかもしれません。英国のオープンアクセス誌eLifeに英米の科学コミュニティにおける若手研究者の影響力について行った調査結果が掲載されているので、ここに記されている若手研究者をうまく取り込む方法を紹介します。 若手研究者は自分たちを過小評価している? 科学研究の多くの部分は、若手研究者(ECR)の構成要員、つまり、研究者としての職に就いていない大学院生、ポスドク研究者、教員によって行われています。彼らは、新しい才能、スキル、アイデアに溢れていますが、査読のような学術研究における重要なプロセスに対してそれほど意見できることはありませんし、大学、資金提供機関、出版社、学会などでの重要な議論は、ベテラン研究者たちによって決められている傾向があります。将来の研究者として活躍する可能性のある若手研究者が、これから先の研究の在り方についてほとんど、あるいはまったく発言する機会を与えられていないとも言えるでしょう。このことが若手研究者たちに、自分たちは蚊帳の外に置かれている、取るに足らない存在だと思わせてしまうのかもしれません。 科学コミュニティが提供する機会と期待 科学コミュニティには、研究者のキャリアレベルに関係なく、研究者のネットワークとつながり、会議やカンファレンスに参加し、専門的な開発研究に関わるチャンスがあるので、若手研究者がもっと積極的に関わることができれば、彼らが得られるものが大きくなる一方で、コミュニティにとっても肯定的な効果が得られると期待できます。 科学コミュニティは、資金提供者や政府機関の政策協議に関わることがあります 科学コミュニティは、研究者のキャリア、所属する研究機関・団体、国を越えて研究者が交流する機会を提供しています 科学コミュニティとしては、該当分野において次世代の指導的立場になり得る人材を採用し、働き続けてもらいたいと考えています 既に若手研究者を指導的地位に登用したコミュニティの中には、そのことが若手研究者のキャリア向上だけでなく、最終的には該当分野における指導的役割を担う人材を確保することにつながっていることが示されています 科学コミュニティが若手研究者を取り込んで指導的地位に付けるメリット 科学コミュニティが若手研究者に指導的立場(リーダー)を任せることによって得られるメリットを挙げてみます。 研究経験の浅いジュニア研究者とベテランのシニア研究者間の交流(相互理解)を促進することができる コミュニティから外部に向けた働きかけを増やせる…