学術界を知る

プレプリントの役割-留意点と投稿ステップ

「君の研究は基礎研究を理解するうえで重要な関連性があるから、学術雑誌(ジャーナル)での公開に先だってプレプリントサーバーで発表した方がいいと思うよ。ジャーナルで論文が公開されるまでの従来のプロセスは時間がかかるので、先を越されるリスクが大きいからね。」と、言われたことがありますか?プレプリントに論文を公表したいけれど、どのようなことに注意すればよいのかと悩んだことのある人がいるかもしれません。ここでは、プレプリントを利用する際の留意点と、プレプリントに論文を投稿する際の手順(ステップ)を解説していきます。 プレプリント論文とは? 研究論文がジャーナルに公開されるまでには時間がかかります。一般的には、ジャーナルに投稿された論文は、編集委員(エディター)によるチェックを経てから分野を専門とする研究者に送られて査読(ピアレビュー)が行われるので、時間を要するのです。プレプリントとは、ジャーナルに掲載することを目的に書かれた論文を査読プロセス抜きにサーバーに掲載し、オープンアクセスで誰でも閲覧できるようにしたものです。著者最終版と呼ばれることもありますが、多くの著者はジャーナルに投稿するのと同じ版をプレプリントサーバーに掲載しています。昨今のコロナの治療法などの医学関連や急速に進歩する情報技術など、研究結果の共有が急がれる分野でプレプリントでの公開が進んでいます。論文著者は、信頼性を確保するためとは言っても時間のかかる査読プロセスを経てから公開されるジャーナルの出版を待つことなく、プレプリントサーバーに論文を公開することで、研究成果を共有し、認識してもらうことができるのです。プレプリントの論文は、査読を受けておらず、特定のジャーナルのフォーマットに合わせた体裁になっていない原稿ですが、投稿された論文にはDOIが割り当てられ、ユーザー独自の判断で引用することができるので、貴重な研究が学術コミュニティに素早く共有されることにつながります。 プレプリント論文の役割 プレプリントを利用した学術研究成果の共有が増え、知識の拡散が促進されています。さまざまな分野のプレプリントサーバーが誕生し、利用されることにより、プレプリントは学術研究において以下のような役割を果たしています。 研究成果を迅速に学術コミュニティで共有できる 読者は、プレプリントサーバーに公開された論文を評価することができる 著者は、ジャーナルで出版する前に、誤りを修正したり提案を組み込んだりすることができる 著書が研究の論点を強化するのに役立つ 著名なジャーナルでの論文掲載につながる協力関係の構築にも役立つ プレプリントサーバーと関連サイト プレプリントサーバーは、さまざまな学術論文のデータや情報を掲載したオンライン・リポジトリであり、そこに掲載されるのはジャーナルにアクセプト(受理)されていない段階の学術論文です。論文原稿がプレプリントサーバーにアップロードされると、基本的な審査と剽窃・盗用チェックが行われますが、査読は行われません。プレプリントサーバーおよび関連情報としては以下のようなものがあります。 1. BioRxiv 生物化学、医学、生物学分野のプレプリントサーバー。コールド・スプリング・ハーバー研究所(Cold…

グリーンOA(オープンアクセス)のメリットとデメリット

オープンアクセス(OA)は、学術出版に大革命をもたらしています。制限のない知識の共有という目的の上に構築されるOAとは、基本的に、誰もが出版物をオンライン経由で常時、購読料を支払うことなく利用できることを意味します。研究知識を制限なく共有することは、著者、読者、そして研究資金提供者にとって非常に重要なことです。OA化の手法は、ゴールドロード(ゴールドOA)とグリーンロード(グリーンOA)と呼ばれる二つに大別されます。 この記事では、グリーンOAの概要と、そのメリットとデメリットに焦点を当てて紹介します。 グリーンOAとは グリーンOAとは、論文の著者らが自ら自分のウェブサイトや所属する研究室や大学・研究機関のウェブサイト、あるいはリポジトリに論文をアーカイブし、誰もが自由に無料で読めるようにするものです。セルフアーカイブとも呼ばれます。購読型の学術雑誌(ジャーナル)がすべてセルフアーカイブを許可しているわけではないので、投稿先ジャーナルがセルフアーカイブを認めているのかを確認しておくことが必要です。さらに、著者がどの論文を外部に公開できるかは出版社/ジャーナルの規定によるので、セルフアーカイブされている論文が査読を経ていない場合もあります。査読の前後、それぞれプレプリント(査読前)またはポストプリント(査読と著者による修正が済んでいる論文)と呼ばれる―いずれの原稿をアクセス可能にできるかは論文の投稿先によります。 すべてのOAジャーナルまたは出版社は、セルフアーカイブ・ポリシーを作成し、論文のどの版を掲載し、リポジトリでアクセスできるようにしてよいかといった諸条件を定めています。購読型ジャーナルに投稿した論文でも公開版の論文をセルフアーカイブできるものもありますが、一定の期間を経過していることを条件としているものもあります。この期間は猶予期間(embargo period)と呼ばれており、数ヶ月から数年とジャーナルによって差があります。猶予期間を設けずに即時公開が選択できる場合もあるので、公開猶予期間に関しては、ジャーナルあるいは出版社の方針をよく確認しておきましょう。 また、OAジャーナルの中には、出版後の著作権を著者に付与しているものもあります。多くのOAジャーナルはクリエイティブ・コモンズ・ライセンス(CC licence)を採用していますが、著作権の扱いについてもジャーナルに確認しておくことが重要です。 ゴールドOAとグリーンOAの違い グリーンOAとゴールドOAはいずれも、誰もがアクセスできるオープンサイエンスを提供するための手段ですが、多くの点で異なっています。 ゴールドOAは、出版社などが運営するサイトに投稿論文の最終版(公開版)を掲載し、誰もが論文にアクセスすることができるようにしたものです。論文の投稿者から掲載料を取るので、読者は無料で全文を読むことができます。これに対し、グリーンOAは、購読型ジャーナルに掲載した論文を著者らが自分自身や所属機関のサイト、またはリポジトリにセルフアーカイブし、誰もが自由に読めるようにするものです。セルフアーカイブで公開される原稿は、最終的にジャーナルに掲載された公開版とは異なる完成版(著者が仕上げた版、著者最終稿)もしくは出版社が許可した版になります。 グリーンOAとゴールドOAの主な違い グリーンOA ゴールドOA 完成版(査読を経た公開版とは異なる)論文への自由なアクセス…

研究者を悩ませる論文著者名の順番と平等性(Equal Authorship)

誰の名前を論文著者として記載するか――という問題は、共同研究が広がるにつれ、ますます複雑になっています。論文執筆に貢献したにも関わらず名前が記載されなかったり、まったく貢献していないのに名前が記載されたりという論文の著者資格(オーサーシップ)は以前より注目されていましたが、分野や立場の異なる多くの研究者が1つの研究に参加することが増えてきたため、誰を筆頭著者、最終著者や責任著者とするか、名前の順位や責任の所在が新たな問題として浮上してきました。研究論文の作成に最も尽力した研究者である筆頭著者は明らかでも、それ以外の共著者の記載順も重要です。一般的には、研究への寄与が大きい人から順番に並べていきますが、複数の著者の貢献が同じぐらいであったり、比較が難しかったりする場合もあり、簡単にはいきません。そこで、貢献の質と度合い(量)を明確に示すことが推奨されるようになってきました。著者間の平等 (equal authorship)に向けた動きも出てきています。例えば、学術雑誌(ジャーナル)によってはCo-first authorship(共同第一著者)として、複数の著者が同程度の貢献をしていることを示すことができるようになっているのです。 オーサーシップについて、研究者が直面する問題 研究を実行する際には研究デザインや方法などについて共同研究者間で意見が異なることがあるかもしれません。同様に、論文を出版する段階でオーサーシップについて異なる意見が出るかもしれません。オーサーシップの問題には、研究に貢献していない人、著者に含めるべきでない人を記載してしまう不適切なオーサーシップ(ゲストオーサーシップなど)と、研究に貢献したのに著者として記入されないゴースト オーサーシップ(幽霊著者)が挙げられます。 不適切なオーサーシップ(ゲストオーサーシップ):研究に貢献していないのに著者として記入する オーサーシップの問題は、研究倫理に関わります。そもそも著者として名前を連ねることができるのは、当該研究に関わり、論文の執筆にも関わっている人、つまり著者資格(オーサーシップ)を有している人のみです。名前が記載されることは、当該研究に関する責任を負うことを意味します。地位の高い研究者であっても、その研究に貢献していなければ、研究者としての実績に加えたいからと言って、著者として名前を記載することはできません。しかし、権威ある研究者の名前が入っていると論文が受理されやすくなるとして、実際の研究への関与が薄いにもかかわらず著名な研究者の名前を共著者に入れたり、研究に関する何らかの恩返しや礼儀、敬意の表明といった意味から共著者にしたりするような場合も見受けられます。このような著者はゲストオーサー(名前を借りただけの著者) と呼ばれます。 ゴーストオーサーシップ:研究に貢献したのに著者として記載されない ゲストオーサーとは反対に、研究に貢献したにも関わらず著者として名前が記載されない人はゴーストオーサーと呼ばれます。院生などを研究に関わった場合の関わり方や、貢献度の評価の差によって共著者として記載しない、あるいは利益相反があると見なされる可能性のある特定の研究者を意図的に著者から外すといったことが行われています。企業との共同研究なのに、企業にとって都合のよい結果が出ていると思われるのを避けるためにその企業の研究者の名前を記載しない、または企業名をあえて記載しないということもあります。 オーサーシップに関するガイドライン 多くのジャーナルはオーサーシップを定義するにあたって、医学雑誌編集社国際委員会(International Committee…

クラリベイトがJournal Citation Reports 2021を発表

2021年6月30日、Clarivate Analytics社(以下、Clarivate)が、学術誌評価分析データベースJournal Citation Reports(JCR)2021年版を発表しました。JCRは世界で最も影響力のある学術雑誌(ジャーナル)を特定するのに役立つ一方、新しい指標などについては議論も生まれています。 Journal Citation Reports(JCR)2021年版 毎年公開されるJCRの指標やデータは、世界の高品質なジャーナルの評価を行うのに有用です。2021年度版には113ヵ国からの20,000を越えるジャーナル、ならびに、自然科学、社会科学、芸術、人文科学からなる254の研究分野の論文が収録されています。これにより、JCRの収録範囲はWeb of Science Core Collectionがカバーする研究分野の全範囲となりました。また、収録ジャーナルのうち、ゴールドオープンアクセス(ゴールドOA)を含むジャーナルが14,000誌、完全なオープンアクセス(OA)は4,600誌以上と、こちらの収録範囲も拡大しています。収録範囲の拡大も含め、2021年版の特徴を紹介します。 新しい引用評価指標(Journal Citation Indicator)の導入…

論文執筆 人工知能(AI)はここまで進歩している

この10年の間に、人工知能(AI))と機械学習は、いくつもの業界に変化をもたらしてきました。AIという革新的な技術によって、さまざまな作業が自動化され、より簡単かつ迅速に行われるようになっています。その影響は学術出版界にも表れており、論文執筆者と出版社の双方を支援するために、AIベースの技術が開発・導入されつつあります。これらの技術は、査読、出版物の検索、剽窃・盗用の検出、および捏造データの特定など、学術出版に関する諸問題に取り組む助けとなっています。しかも、科学コミュニケーションの促進に役立つだけでなく、人間が関与しない分、バイアス問題の削減にも役立つと期待されています。 研究におけるAIの活用も飛躍的に進んできました。そこで注目されているのは、仮説の形成から実験の遂行までの研究手法を自動化することです。実際、研究者はAIを使って、生物医学、複合製剤、および病気予測に関する複雑な諸問題に取り組んでいます。 論文執筆のためのAIツール AIベースのツールの中には、論文を執筆できるツールがあります。電子研究ノートサービスSciNoteに付加された「Manuscript Writer」というツールは、先進的な機械学習・AI技術を使って、科学論文を準備する過程を大幅に簡素化する能力を備えています。このツールは、世界中の研究者による科学的発見を速やかに公開することの重要性が高まるにつれ、論文草稿を作成するために必要な時間を大幅に短縮することを目指すものです。電子研究ノートSciNoteに 入っているデータと、オープンアクセスの学術雑誌(ジャーナル)データから利用できる資料に依拠して、草稿を作成します。Manuscript Writerのページにもこの草稿はすぐに提出できるものではないとの注意書きがあるように、見直しを前提としたものではありますが、著者はこの草稿を元に編集、加筆することができます。 草稿作成において、AIはどのように剽窃・盗用を回避するのか? Manuscript Writerは、選択された資料からデータを引き出すとともに、関連キーワードに基づいてオープンアクセス文献を自動検索してイントロダクション(序論)部分の草稿を作成します。他の文献から取ってきたテキストはそのままでは文章として問題なので、著者による確認は必要です。当然、他の文献から自動で拾ってきたものなので,作成された文章は他者の資料のコピペ、剽窃・盗用、さらに著作権侵害になる場合があります。では、どのようにこの問題を回避するのでしょうか。 Manuscript Writerで序論を作成すると、各段落の後に該当部分のテキストを抜き出した資料の番号と、元の資料との類似度(パーセント)が示されます。つまり、該当部分がどこから取ってきているのか、元の資料の文章とどの程度同じなのか(類似しているのか)が数字(%)で表示されます。人間が論文を執筆する際にも編集が必要なのと同様、ツールが作成した文章も確認と編集が必要となりますが、類似度の表示は明確な指標となります。作成された文章をどのように修正するか、あるいはそのままにしておくかは、著者次第です。Manuscript Writerはあくまでもツールなので、責任は負いません。 Manuscript Writerを使う主な利点は、その論文のテーマに関する興味深い文章を序論に含め、幸先良く論文執筆を始められるようにすることです。目的は、著者の論文執筆の力となることであり、代わりに論文を書き上げることではありません。ですので、「考察」のようにオリジナリティが必要な部分は、著者自身が書く必要があり、Manuscript…

COVID-19が問いかける学術論文の在り方

中国の武漢に端を発すると言われている新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、2019年の終わり頃から瞬く間に世界中に広がり、その猛威は今も衰えていません。日本を含む世界各国の感染者数および死者数は日々増え続けており、ワクチン接種が進んでいる国がある一方で、感染拡大に歯止めがかからない国では深刻な状況が続いています。 COVID-19が論文のオープンアクセス化を加速 この状況に対処すべく世界中の研究者が新型コロナウイルスの研究とワクチン開発を進める中、一気に加速したのが関連研究成果の共有とオープンアクセス(OA)化です。 武漢でCOVID-19の症例が報告された後、中国疾病対策予防センタ-(CCDC)の科学者は、患者のデータを分析し、肺炎患者の検体のシークエンシングから今まで知られていなかったウイルスを発見し、そのゲノムを特定しました。中国の研究者らは、この新型コロナウイルスのゲノム配列に関する研究結果を暫定的な段階から世界中の科学者と共有したのです。各国の研究者が分析や調査研究を進める傍ら、Springer Nature、Elsevier、Wileyをはじめとした大手学術出版社は、COVID-19に関する論文をオープンアクセスで即時公開する取り組みを開始しました。今では多くの学会や機関・団体、出版社がCOVID-19に関連するデータや論文などをオープンアクセスで公開しています。また、より短時間で研究成果を共有できるようにとの目的から、論文の査読プロセスのスピードアップも進められています。 プレプリントサーバー利用の拡大 出版社らは、この非常事態に対応すべく大量に投稿されるCOVID-19関連の論文をできるだけ早く共有するために、査読を急ぎ、オープンアクセスで公開しています。これにより、COVID-19関連の情報の共有化が促進され、ワクチン開発や治療法の研究が進むことについて異論を唱える人はいないでしょう。しかし、論文のOA化に関しては、さまざまな議論が出ています。研究者が出版するすべての論文をOAにすることを義務付ける「プランS」には賛否両論あるものの、研究論文の公開をOA化することの必要性が高まるにつれ、大手出版社がプランSに賛同する動きも出てきていました。そこに突如起こったパンデミック。COVID-19による非常事態が、従来の出版モデルからOAモデルへの移行を大きく後押しすることとなりました。 それと同時に、査読前論文をOAで公開するプレプリントサーバーに公開される論文も増えてきました。医学論文のプレプリントサーバーの代表的なものとしてはmedRxivがあげられます。こうしたOAへの流れ、プレプリントサーバー利用の拡大は、論文公開までの時間を短縮し、治療に携わる医療従事者に役立つ有用な情報を迅速に提供できる意味で大きな利点があります。一方で、査読前論文である以上、後から誤りが見つかったり、撤回を余儀なくされたりすることも頭に入れておく必要があります。medRxivにも以下の注意書きが掲載されています。 Caution: Preprints are preliminary reports of work…

日本の研究者は再び世界と肩を並べることが出来るか?

「日本の研究は世界トップレベル」「アメリカに次ぐ世界第2位」だと思っていませんか? 確かにかつては「トップレベル」と評されたこともありました。しかし今、学術研究における日本の地位は急激に下降しています。そう聞くと博士課程に進学することを躊躇したり、研究者になるのを諦めたりしたくなるかもしれませんが、明るい話題もあるので悲観する必要はありません。 世界における日本の研究レベル まず日本の国際的研究レベルは現在どのくらいなのでしょうか。引用数の高い論文の発表数、特にトップ10%補正論文数(論文の被引用数が上位10%に入る論文の抽出後、実数で論文数の10分の1となるように補正を加えた論文の数)がどのくらいかがひとつの指標になります。「科学技術指標2020」(科学技術・学術政策研究所)によると、2016-2018年の年平均で日本の世界ランクはなんと11位でした。アメリカに次ぐ2位どころではありません。1996-1998年の年平均でも世界4位でしたので、日本の研究レベルは急激に下降していると言わざるを得ません。また、単純に論文発表数だけを見ると2018年で日本は世界5位でしたが、2011年以降は下降が続いています。この数字を見る限り、世界と比較した日本の研究レベルは決して良好とは言えません。近年、日本の研究レベルの低下を多くの研究者や学術関係者が訴えてきましたが、ここにきてやっと日本政府も危機的事態を認識し、対策に動き出しました。 10兆円規模の大学ファンド 研究を促進するために研究費は欠かせません。2020年12月、日本政府は日本の大学研究における資金繰りに多大な影響を与える「大学ファンド」の構想を発表しました。それは10兆円規模の大学ファンドを創設し、世界に比肩するレベルの研究開発を目指すというもので(国立研究開発法人科学技術振興機構作成の説明資料)、2021年1月にはこの大学ファンドの創設費用5000億円を含む補正予算が成立しました。これが日本の大学の国際競争力の強化や、博士課程学生などの若手研究者の人材育成、研究施設の整備支援の充実などが進むことが期待されます。 多様化する研究費獲得方法 多くの研究者は、科研費や他の研究助成金などから研究費を得ていますが、近年、研究費の獲得方法も多様化が進んでいます。大学・研究機関の独自の基金、財団や企業からの助成金などが増え、一例ですが公益財団法人 助成財団センターのように助成金情報を発信するサイトもあります。academistのような寄付(クラウドファンディング)による研究費調達という新しい形も登場しているので、選択肢は増えつつあるも受け入れられるようになっていますし、国外の研究機関からの研究助成の情報もウェブサイトで検索できるようになってきています。研究費の獲得方法が多様化するのは、研究の幅を広げることにも役立つでしょう。 国際共同研究 国際的な共同研究に参加することは、高インパクトな学術雑誌(ジャーナル)に、より多くの研究者に引用されるような論文を発表するチャンスを広げます。自分の専門分野に限定せず、分野や国を超えて世界中の研究者と共同研究を行うことで、幅広い研究に関与することも可能です。やり方によっては研究費を持ち寄ることも可能ですし、それぞれの専門分野に応じて作業分担することもできるでしょう。科学技術・学術政策研究所がまとめた「科学技術指標2020」によると世界で国際共著論文が増えており、日本の国際共著論文の割合も年々増加傾向にあります。2018年時点での日本の国際共著率は35.1%と1981年比で約30ポイント増加していますが、それでも米国(45.4%)や英国(69.4%)に比べて低いので、今後も積極的に国際共同研究を推進していくことが望まれます。 大学ファンドが日本の学術研究をどのように後押し、日本の研究レベルが再び世界と肩を並べることにつながるか、今後の動きにも注目です。 こんな記事もどうぞ エナゴ学術英語アカデミー 日本の研究費に関する事情と未来

日本のAI医療 これからの課題と最新事例【2023年版】

自動翻訳や検索エンジンの最適化、自動車の自動運転や安全運転システム、お掃除ロボットまで、AI(人工知能)は生活の中に入り込み、その役割を広げつつあります。医学、医療・ヘルスケア分野も例外ではありません。医療業界でAI技術がどのように利用されているのか、日本のAI医療の状況について探ってみました。 医療AIへの期待 機械学習・深層学習技術の発展にともない、ニューラルネットワークによるデータの分析と学習を重ねることでAIは同時の判断基準を構築、分類できるようになりました。医療AIとは、このAIの仕組みを医療現場に取り込んだものです。医療現場では、診断、治療法や薬剤の選択など多くの判断が求められるため、医療AIの導入によって、より正確な判断が下せるようになったり、医療現場における人員不足による業務負担の軽減に役立ったりすることが期待されています。 医療AIの活用が期待されるポイント 医療データの収集と活用 医療現場の(管理)業務の効率化 医療の質の向上 患者の負担軽減と情報提供 通常、我々は病気にならないように「予防」し、それでも調子が悪くなったときに医師に「診断」してもらい、その結果に応じて「治療」を受けます。AIはこれらすべての段階で活用されており、医療従事者の人材不足や経験不足が問題となっている現状では、医療AIは患者・医療従事者の双方にとって非常に大きなメリットをもたらしています。さらに、マイナンバーカードの健康保険証利用が促進されているように、健康保険証医療保険制度や医療提供体制を含む医療社会インフラにおいてもAIの活用が見込まれています。 医療データの収集と活用 マイナンバーカードと国民健康保険の紐付けが実現すれば1億2500万人の国民データを集約することが可能になります。AIは蓄積されたデータ量が増えれば増えるほど正確性が増します。社会的な医療システムが確立していない国では同様の方法でのデータ収集ができないので、幅広く国民の医療データが収集できることは日本の医療戦略において実質的な強みとなるでしょう。 AIは、患者が自宅で診断に必要なデータを収集することも可能にします。例えば、大阪大学と東京大学の研究グループは、被験者が休息状態中の脳波や脳磁図(MEG)の波形信号を読み解くことで神経疾患の判定ができる自動診断システム「MNet」を開発しました。MNetがさまざまな神経疾患の診断を補助し、重症度、予後の判定、治療効果の判定などにも応用できると期待されています。 さまざまな産業・業界が連携し、データの収集や健康情報の提供を行っています。しかし、さまざまな手段で集められたデータがどう利用されるのかは気になるところです。日本は、利用可能なデータを収集するインフラの整備を進めている段階にあります。医療を含むさまざまな分野におけるAI開発はまだまだ始まったばかりで、今後大きく展開していく可能性を秘めています。重要なのは、信頼性の高いデータを大規模に収集し、いかに利用可能とできるかであり、日本各地で収集された臨床データをデータベース化すること、データを適切に匿名化し、研究者が容易に利用できるようにすることが必要です。 医療現場の(管理)業務の効率化 医療現場では人材不足の改善を目的としたAI導入も進んでいます。株式会社アルメックスが開発した「Sma-pa…

日本の研究費に関する事情と未来

研究に欠かせないのは資金です。研究費なくしては学術研究を続けることはできません。研究費の獲得は個人研究者にとっても、大学・研究機関にとっても常に頭を悩ませることでしょう。日本の研究費を取り巻く状況といくつかの研究資金を助成する公募情報を紹介します。 国の研究費事情 2021年1月、世界レベルの研究基盤を構築するための大学ファンドの創設費用5000億円を含む令和2年度(20年度)の第3次補正予算が成立しました。そして、3月5日には、2016~20年度の科学技術関係予算が総額28.6兆円(グリーンイノベーション基金事業および「10億円規模の大学ファンド」を含む額)に達し、この5年間の政府研究開発投資額を26兆円と定めていた第5期科学技術基本計画の目標を達成したと内閣府が発表しました。第6期基本計画(21~25年度)では30兆円を目標に掲げています。引き続き重要な分野や効果の高い施策への重点的な資源配分を図るとともに、官民の研究開発投資の拡充を目指すとしており、この数字だけ見れば日本の研究資金は潤沢なように見えますが、研究者に十分な研究費が届いているのでしょうか。 日本の科学技術関係予算は少なくないと言われても…… 科学技術基本計画で目標としていた科学技術イノベーション関連予算の対GDP比1%(第5期科学技術基本計画においては約26兆円に相当)の目標は達成したものの、米中をはじめとする諸外国の投資額の伸びには追いついていない状況です。実際、世界の研究開発費の国別ランキング・推移(UNESCO統計、2018年データの比較)を見ると、トップ3は米国(581,553百万米ドル)、中国(465,162百万米ドル)、日本(171,294百万米ドル)となっており、2位の中国の金額とに大きな開きがあります(集計値については統計の仕方と思われるが文科省が提示している「科学技術指標2020」に示された額と若干の差がある)。同じ統計にある研究者1人当たりの研究開発費ランキングになると、日本の順位は一気に下がって16位。ここでは中国が17位と日本より下回っていますが、近年、中国政府が科学技術推進に力を入れていることを考えると2019年以降のデータでは入れ替わりがあるかもしれません。問題はこの予算がどのように配分されているのか、研究者がいくら使えるのか、という点です。現実問題として「研究予算は厳しい」と考えている大学や研究機関などが多々あります。さらに、研究の生産性は研究費だけでなく、研究インフラ・雇用環境にも左右されます。研究者が大学内の事務手続や、研究費の申請などの事務手続に時間を取られていることが指摘されており、それを裏付ける数字として、大学教員の総職務時間に占める研究時間割合が、2002年から2013年の間に46.5%から35%に減少していたことが示されています。資金に加えて研究時間も不足してしまったのでは研究は立ちゆかなくなってしまいます。政府は、「競争的研究費制度」に関する事務手続のルールが省庁間で異なることが研究者への負担増の一因であるとの指摘を受け、研究者の研究環境の改善等に向けて事務負担を軽減することを目指し、研究費のルールを統一化することを表明しました。この試みが、研究者が研究に集中できる環境の整備につながることを期待します。 研究資金源の多様化 長い時間を要する基礎研究では研究助成金の獲得が難しいため、成果が出やすい研究、社会的なインパクトが大きいと期待されている研究、実用化しやすい研究などの応用研究を選択する研究者もいるでしょう。研究開発への投資額が全体として増えていても、競争を勝ち抜かなければ研究費を獲得できず、しかもすべての研究者が必要十分な研究費を獲得できるわけでもありません。とはいえ、明るい話題もあります。近年は、研究費の獲得方法も多様化が進み、行政機関からの資金だけでなく、大学や研究機関による独自の基金や、財団や団体・企業による研究助成も増えています。寄付による基金の設立や、クラウドファンディングで研究費を獲得することもひとつの手段として受け入れられつつあり、学術系クラウドファンディング「academist(アカデミスト)」には成功を収めた数々のプロジェクトが掲載されています。関心のある人が少しずつでも資金を提供することで研究を支援するというスタイルが、日本でも広がってきています。初めから科研費のような大型の研究助成金に挑むのではなく、民間助成基金やクラウドファンディングを利用して小規模な研究から始め、その研究成果をもってより大型の助成金に応募し、研究を拡大していくことも可能となってきているのです。どのような研究費を獲得し、どのように研究を広げていくか、中長期的な研究費獲得戦略を考えていくことが必要となっています。 研究費獲得のチャンスを探す 一口に研究費といってもさまざまです。政府資金に基づく科学研究費助成事業(科研費)は、人文学、社会科学、自然科学まで全ての分野にわたり、あらゆる学術研究を発展させることを目的とした「競争的研究資金」です。他にも団体・機関や民間企業が研究助成金の公募を行っているので、大学病院医療情報ネットワークセンター(UMIN)のFIND(研究助成等)や公益財団法人 助成財団センターの助成情報(助成金募集ニュースや助成金情報データ検索)のような公募情報サイトを確認しておくと研究費獲得のチャンスを広げることができるでしょう。 2020年はCOVID-19感染拡大により、国境を超えた移動が制限されたり、大学・研究機関が閉鎖されたりするなどに加えて、研究助成金の応募休止など、研究活動を妨げる出来事が重なりました。それでも、ASEAN諸国を中心に助成・フェローシッププログラムを展開する国際交流基金アジアセンターが、コロナ禍に対応した国境を越えた人の移動を伴わない交流事業への支援に特化したプログラムの実施を表明したり、公益財団法人 トヨタ財団が2021年4月に新助成テーマによる公募開始を予定したりしているなど、少しずつですが動き出しています。チャンスを逃さないように注意が必要です。 自分に必要なプログラムを見つける 若手研究者の中には、研究活動そのものを継続するための資金援助が必要という人もいることでしょう。研究費全体を支援するもの以外にも、(現時点では国外渡航しての学会参加などは制限されているものの)国際的なシンポジウム・セミナーなどに参加する費用を支援するものや、奨学金のような財政援助などもあるので、自分に必要なプログラムを見つけて応募するとよいでしょう。幾つか挙げてみます。 JAPAN-IMF…