学術界を知る

タイトル

読者がまず目にするのはタイトルです。タイトルが読者の関心をひかない限り、彼らはその先を読みません。それゆえ、対象読者を想定してタイトルを作成すべきです。タイトルには、論文の内容を正確に反映しながら、もっとも重要な要点を明確かつインパクト強く伝えるものが望ましいでしょう。また、検索によって見つけられやすいように適切なキーワードが含まれていればなおよいでしょう。

キーワード

キーワードとは、論文の内容を端的に表す語句のことであり、著者が判断して選ぶものです。通常は5、6語程度を選び、アブストラクトの直後に記載します。キーワードは研究者がウェブで論文を検索する際に使用されるので、適切なものを選べば論文へのアクセスが容易になり、多くの人に読んでもらえるチャンスが高まります。効果的なキーワードを選定する目安としては、以下の項目が挙げられます。 (1) 論文の重要なテーマを表す語句を選ぶ。 (2) 単語と短いフレーズに限る。 (3) できるかぎり名詞形を用いる。(たとえば「recovering errors automatically」ではなく、「automatic error recovery」と表記する) (4) 省略形は、一般的に通用するもののみを使用する。 (5) 複合語は、慣用的に使用されているもののみを使用する。…

アブストラクト

アブストラクトは、読者に論文の概要を簡潔に伝えながら論文そのものの宣伝の役割も果たします。 良いアブストラクトは、著者がその研究について最も伝えたいことを明確にかつインパクト強く提示し、読者の関心を引きつけながら論文の本文を読む上でのガイドとなります。そのためには簡潔性と正確性、双方の要素が必要とされます。アブストラクトでは、余分な情報を省き論文の核心だけを残して、研究成果の重要性を率直に述べるべきです。 アブストラクトには、研究目的、研究の背景、研究方法、論文の結果、その結果の重要性という5つの基本要素の簡潔な説明のみが含まれるべきであり、より詳しい情報は、本文中で述べられるべきです。アブストラクトしか読まずに論文を評価する人も多く存在しますので、その短い文章だけから研究の最も大切な部分が容易に理解できるように執筆する必要があります。 分量の具体的な目安として、アブストラクトが論文全体の分量の1割までという基準が一般的ですが、ジャーナルによって分量の制限がある場合もありますので、原稿を投稿する前によく調べることが必要です。また、アブストラクトの最初の250~300語のみを閲覧可能にしているオンライン・データベースも存在しますので、ご注意ください。 最後にアブストラクトを作成するうえで留意すべき点を挙げます。ウェブ検索のことです。論文の研究分野においてキーワードと思われる単語が4、5個ほどアブストラクトに含まれると、その分野の関連論文としてウェブ上で検索されやすくなります。

conceptとidea

名詞「concept」と「idea」はともにかなり似た意味を持つ語で互換性がある場合もありますが、学術的な面では同一の意味を持つ語として扱うことはできません。これらの語の間には主に3つの意味上の違いがあるためです。 1つ目は、「concept」の方が一般により抽象的な意味を持つ語として捉えられているという点です。そのため「concept」は科学や数学などといった抽象的な概念をよく扱う専門分野で頻繁に用いられます。 2つ目は、「concept」は厳密に記述できる対象を指す際により適切であるのに対し、「idea」は正確に記述できない概念やぼんやりした発想などを意味する対象を指す際によく使用されるという点です。 3つ目は、「idea」は語の持つ意味がかなり多く、「concept」にはない意味を豊富に持っているという点です。「concept」は通常、日本語で言う「概念」または「理解」に相当します。それぞれの用法を以下に示します。 (1) The concept of the infinitesimal limit played a key role…

compose, comprise, consist, constitute, form の違い

動詞「compose」、「comprise」、「consist」、「constitute」、「form」の意味は5語とも似ており、いずれにも「構成する」/「構成される」、「成す」/「成る」、「成り立つ」/「成り立たせる」という意味がありますが、正確な意味や用法は異なります。ここではそれぞれの動詞を使った例文とその違い を見ながら、5語の使い分け方を説明します。 ■ Compose The brain is composed of neurons and neuroglia. 「compose」は「consist」と同様、ある構成要素が合成物、複合体、集合体、集団などを作り上げるという状態を表しますが、そうした構成要素が何らかの「過程」や「手順」を経て合成物などを形成するようになったという意味も伝えます。 ■ Comprise This…

amongとbetween

前置詞¹ 「among」と「between」はいずれも「~の間」を意味しますが、2語の間には重要な違いが1つあります。 つまり、「between」は2つのものの関係、「among」は3つ以上のものの関係を述べる際に使われます。以下の文でそうした違いを例示します。 Between (1) A reaction between two unstable compounds resulted in an explosion.…

adaptとadopt

「adapt」と「adopt」はしばしば混同されます。 その際よく見られるのは「adapt」の意味を示すつもりが「adopt」を用いてしまうという誤りです。それぞれの動詞が持つ意味はかなり違うため、混同してしまうと深刻な問題が生じます。ここで留意すべきは「adapt」は基本的に「適応させる」、「適合させる」、「適用させる」、「適応する」という意味を持ち、「adopt 」は「採用する」、「選ぶ」、「取り入れる」、「受け入れる」という意味を持つということです。 以下の例文を比較して「adapt」と「adopt」の意味上の違いを明確にしてみましょう。 (1) We adopted this indirect measurement techni&que for use in in…

翻訳しやすい文章の書き方とは?

知り合いの研究者から「あの翻訳業者はいいよ! 早いし正確だし!」と聞いて自分の論文の英訳を依頼したら、あまりにひどかった・・・などという経験はありませんか? もちろん翻訳業者に問題があるケースも皆無とはいえないでしょう。医学論文翻訳を依頼したのに、翻訳者の専門が化学だった・・・などというケースは少なくありません。しかし、翻訳しにくい日本語の文章があることも事実なのです。では、迅速かつ満足のいく結果を得るためには、どんな文章が適しているのでしょうか? 今回は、「翻訳しやすい日本語の文章」の書き方を5つのポイントに絞ってご紹介します。 1. 主語・述語・目的語・対象物の所有格の明記 主語・述語・目的語・対象物の所有格は、英語の文章にはどれも必要不可欠なもの。ひとつでも欠けていると誤訳の原因になり得ます。日本語の文章を書くときはついつい省きがきですが、主語や述語、目的語、対象物の所有格が明確かつ正確な場所に書かれているか、いつも気にかけておきましょう。 2. 賛否の明記 英文では、各段落や論議の初めに、その事項に対して自分が肯定的な意見を持っているのか否定的な意見を持っているのかをまず明記し、それから議論を展開するのが一般的です。日本語の論旨の展開とは異なるので多くの方が戸惑う点ですが、YESともNOとも取れる婉曲表現を使って書き始め、最終的に自分の論点を導くような書き方は避けましょう。「起承転結」ではなく、「結承結」と覚えてください。 3. 短い文 1文(1センテンス)がやたらと長くなると、翻訳者は修飾語がどの言葉にかかるのかがわかりにくくなります。英文は通常1文2行程度で、3行以上は長すぎると覚えておき、日本語で書くさいにも「ぶつ切りだな」と思う程度に短くまとめましょう。 4. 簡素な文 日本語に比べると、英語などの欧州言語には、敬語的な表現があまりありません。そのため、婉曲表現の多くは翻訳作業の段階で削除されることになります。先行研究の批判など言葉遣いに気を遣うべきことを書いているときこそ、回りくどい表現を避けるよう気をつけましょう。 5.…

学術論文翻訳者を選ぶ5つのポイント

周知の通り、日本人だったら誰でも日本語の研究論文が書けるというわけではありません。それと同様に、バイリンガルだからといって、誰でも翻訳ができるというわけではありません。では、よい翻訳者を探すコツというのはあるのでしょうか? 第一に、英語圏での滞在暦があることを理由に翻訳ができるという人は避けましょう。このような人たちは、英語での日常会話には慣れているでしょうから、電話で話したり、メールのやり取りをしたりすると、「英語ができるな」という印象をもつかもしれません。しかし、論文に使われる書き言葉というものは特殊なもので、日常英語に慣れているからといって書けるというものではありません。 同様の理由で、翻訳ができる理由としてTOEICやTOEFLの得点が高いことをあげる人も避けたほうがいいでしょう。また、英語圏の大学の卒業資格がある人でも、翻訳をしてもらう論文と同じ専門分野を専攻していない限り、あまり意味がないと思われます。さらにいえば、英語での原稿執筆や編集の仕事に携わった経験がある人たちも、論文の添削作業は得意かもしれませんが、学術論文の翻訳ができるとは限りません。これらの経験が翻訳作業のマイナスになることはありませんが、それだけを理由に翻訳ができるといっている人たちには十分気をつける必要があるでしょう。 では、プロのレベルに達している翻訳者とは、どのような人たちのことを指すのでしょうか? 以下、5つの必要事項をキーポイントとして挙げてみました。 1. 翻訳スキルをつけるための専門的な訓練を受けている 2. 翻訳の実務経験がある 3. 翻訳に必要な専門知識を身につけている 4. 英語論文の出版経験がある 5. 言語学の知識を身につけている 最も心強いのは、やはり翻訳にかかわる専門的な訓練を受けたことのある翻訳者でしょう。しかしこのような人たちは思いのほか人数が少ないのが現実で、値段が上がるだけではなく、納期も長くなる可能性があります。そこで予算や時間に限りがある場合には、翻訳学校の卒業資格よりも、翻訳の実務経験があるかどうかを中心に翻訳者を選ぶことをお勧めします。また、実務経験が浅くても、翻訳をしてもらう論文の専門分野の知識がある翻訳者に依頼すれば、誤訳が減り、論文全体の質も高くなると考えられます。医学論文翻訳なら医学博士に、金融翻訳なら経済学博士に、といった具合に。このほか、ジャーナル(学術誌)に論文を投稿した経験のある人や、英語と日本語の表面的な違いだけでなく、言語としての根本的な違いを理解している、言語学の学位を取得している人も、翻訳に適した人材といえます。…

日本独特の概念の英訳:「ぬるま湯体質」ってどう訳す?

日本語から英語への翻訳をしていてしばしば困るのが、冗談と日本語独特の概念です。冗談というものは、思いのほかその社会にとって当たり前であることが反映されていることが多く、日本人の間では何の問題もなく通じるオチも、文化の違う英語圏の人にわかってもらおうとすると、何がどうして面白いのか、歴史や文化や生活形式を長々と説明せざるをえなくなることがあります。2ページにもまたがって説明を終えた後のオチでは、冗談の面白さも半分以下になっていまいます。 同様に、お茶席で抹茶の飲み方を説明するとき、“侘び”や“さび”などの日本特有の概念を表現する言葉が出てきたら、お茶席での礼儀についての話から脱線しない程度に、茶道とわび・さびとの関係を的確に要約して説明する必要があります。 このように冗談や日本語独特の概念が出てくると、翻訳者は「ここが腕の見せ所!」と思うわけです。 このような日本独特の概念のなかには、“侘び”や“さび”、“甘え”などのように、日本文化に興味を持っている人にはある程度知られている言葉も多くあります。そのような場合には、まずはwabi, sabi, amaeというようにローマ字で表記し、その初回に簡単な説明をするという方法がよくとられます。 しかし、“ぬるま湯体質”のように少し長めで、一般的に複合語と呼ばれる単語の場合、日本の文化として知られている概念でも、英語圏ではあまり使われない言葉もあります。また、長い言葉は覚えづらいため、wabiのようにローマ字でnurumayu taishitsyuと表記しても読者の記憶に残りにくく、全体に読みづらくてわかりにくい印象を与えかねません。そこで英語に訳す必要性が出てきます。 “ぬるま湯体質”を“ぬるま湯”と“体質”に分けて考えると、“lukewarm quality”とでも訳せばよいような気がしますが・・・。もともと“ぬるいお湯”がよくないものだという考えは、熱いお風呂につかってホッと一息つく日本人独特のものです。英語でも、a lukewarm responseといえば“気のない反応”という意味なので、まったく意味が通じないわけではありません。しかし、それが悪いことだというニュアンスはヒシヒシとは伝わってきません。 このように日本語独特の概念を英訳しようとして、行き詰まったとき役に立つのが・・・なんと国語辞典なのです! まずは“ぬるま湯体質”を国語辞典で引いて、言葉の意味を確認してみてください。“安楽な現状に甘んじて、のんきに過ごすこと。馴れ合いの関係”などという説明が出てくると思います。そこから逆に「馴れ合い」をキーワードに英語訳を探すと、cozyやup to fate、contentなど、さまざまな選択肢が見つかります。選択肢がいくつか集まったところで、日本語原文の論旨を最もよく反映する言葉を選べば、“ぬるいお湯”という概念に捉われない訳語が見つかるはずです。