学術界を知る

学術界・教育界のAI導入への姿勢について考える―前編

英語が母国語ではない(ESL)研究者が学術出版によって研究を世界に発信できるように支援しているAcademic Language ExpertsのCEOであり、学術出版に関連する情報を発信するブログ「Scholarly Kitchen」の執筆者でもあるアビ・シュタイマン(Avi Staiman)は、AIと学術出版に関する調査記事の冒頭で、「AI was most definitely used in writing this article(この記事の執筆にAIが使われたのは間違いない。)」と印象的な一言を述べています。 2023年9月に発表されたシュタイマンの記事は、学術界や研究界の大きな懸案事項の一つを取り上げたもので、学術界ひいては教育界はAIの活用を退けるべきか、それとも受け入れるべきか、という問題の本質を捉えています。彼は、学術雑誌(ジャーナル)が、生成AIコンテンツ検出ツールに飛びつくべきではない理由としていくつかの症例を挙げ、その多くのツールの誤検出率が高いことを指摘しています。 シュタイマンの調査記事に、最も説得力のある提言が書かれていることは間違いありません。…

広大な海が蝕まれている?世界中の海で進む海洋汚染―世界で今起きていること<気候変動編>後編

人間の生活が直接的な原因でもある海洋汚染、特に海洋プラスチック汚染について取り上げる世界で今起きていること<気候変動編>第3弾。前編では、海洋汚染の原因や海洋プラスチックが地球環境そして人間を含む生態系に与える影響をまとめました。後編では、汚染から海を守る世界の取り組みと、持続可能な開発目標「海の豊かさを守ろう(目標14)」をふまえ個人単位できること、そして海洋汚染に関する研究や海洋汚染について学べる動画をご紹介します。 海を守る世界の取り組み 海洋環境を守るためにさまざまな国際条約によって海洋汚染を防止する対策がとられています。国連海洋法条約は、海洋に関する包括的な規定ですが、その他にも、先述した「マンポール条約」、廃棄物その他の投棄による海洋汚染の防止に関する「ロンドン条約」、油汚染緊急計画の準備と対応への協力に関する国際条約である「OPRC条約」、プラスチックゴミを含む有害廃棄物の国境を超えた移動と処分を規制する「バーゼル条約」などに加入しています。日本としても、「海洋汚染等及び海上災害の防止に関する法律」によって海洋への廃棄物の投機を原則的に禁止し、「油汚染事件への準備及び対応のための国家的な緊急時計画」を制定するなどして海洋汚染を防ぐ処置を講じています。 こうした国際的な条約や法整備以外にも、世界でさまざまな対策が行われています。 日本の環境省は2019年に「海洋プラスチックごみ対策アクションプラン」を策定し、具体的な海洋プラスチックごみ対策を取りまとめました。 EU(欧州連合)では、2019年5月に使い捨てプラスチック製品の流通を禁止する「DIRECTIVE (EU) 2019/904 OF THE EUROPEAN PARLIAMENT AND OF THE…

広大な海が蝕まれている?世界中の海で進む海洋汚染―世界で今起きていること<気候変動編>前編

気候変動は地球のさまざまな場所でその兆候が観測されていますが、地球表面の約7割を占める海も例外ではありません。海水温の上昇は、海洋の生物に多大な影響をおよぼすだけでなく、大気と相互に影響し合い、世界各地の気候や降雨・降雪のパターンを変える原因となっています。海の温暖化は深刻ですが、同時に海の汚染も大きな問題となっています。言語面から学術研究をサポートしているエナゴアカデミーが、世界が直面している気候変動や環境問題をとりあげる本シリーズの3本目は、人間の生活が直接的な原因でもある海洋汚染、特に海洋プラスチック汚染について取り上げます。 前編では、すさまじい速度で進む海洋汚染について、汚染の原因や、汚染の一因である海洋プラスチックのゆくえ、そして海洋プラスチックが地球環境や生態系に与える影響についてまとめます。 はじめに 海洋の温暖化については、気候変動に関する政府間パネル(Intergovernmental Panel on Climate Change : IPCC)が2019年に『Special Report on the Ocean and…

生物多様性に忍び寄る危機―世界で今起きていること<気候変動編>後編

「世界で今起きていること<気候変動編>」。前編 では、生物多様性の危機的な現状とそれがもたらすことを取り上げました。後編では、生物多様性の保全、回復に向けた世界の取り組みを見ていきます。 (more…)

生物多様性に忍び寄る危機―世界で今起きていること<気候変動編>前編

気候変動や地球温暖化と生物多様性の関連性はつかみにくいのではないでしょうか。そもそも生物多様性とは?アマゾンのジャングルや南の島のサンゴ礁の話ではないの?と思うかもしれませんが、現在、人間活動に加えて気候変動が生物多様性の損失につながるとして強い危機感が持たれています。言語面から学術研究をサポートしているエナゴ学術アカデミーがお届けする「世界で今起きていること<気候変動編>」の第二弾では、「生物多様性」を前・後編に分けてとりあげます。 (more…)

2023年の学術ニュースまとめ:研究と学術出版における重要な動向を振り返る

2023年は、学術出版界における記念碑的な変化に満ちた年でした。改めて、学術研究において注目された出来事、マイルストーン、そして残された課題も含め、研究と学術出版に関する2023年の学術ニュースを総括したいと思います。 2023年が、人工知能(AI)の潜在的脅威と科学的な不正行為に対し、協働で対処する必要に迫られた年であったことは間違いなく、その結果、アカデミック・インテグリティ(学術的な誠実さ)の基盤が強化されることとなりました。2024年の活動を計画するにあたり、学術業界における重要な出来事を振り返り、将来への影響に備えておきましょう。 1. アカデミック・インテグリティの遵守 a. Web of Scienceが50以上の学術雑誌(ジャーナル)を削除 2023年、残念ながら投稿された論文の撤回が急増し、科学的不正行為が増加しましたが、学術コミュニティはこの問題に対する抵抗力を得ることとなりました。撤回の理由としては、データ操作や査読プロセスにおける不正などが挙げられています。3月には、Web of ScienceがJCR(Journal Citation Reports)2023年版に掲載するジャーナルの見直しを発表し、単年度としては異例の多さである50誌以上のジャーナルの掲載を取り消すという大胆な措置を取ることで、質の高い学術記録の維持に取り組む姿勢を示しました。 b. クラリベイト社、高被引用論文著者リスト2023年度を発表…

地球沸騰化!我々が直面している地球温暖化―世界で今起きていること<気候変動編>

2023年夏の異常な暑さや、11月に入っても各地で25℃以上の夏日が続出したことを振り返れば、地球温暖化が身近に迫っていることを実感したことでしょう。今や気候変動という人類共通の問題について、実態を把握し将来を予測すべく、世界中の科学者がさまざまな研究を進めています。言語面から学術研究をサポートしているエナゴ学術アカデミーでも、今、世界が直面している環境問題や気候変動をとりあげるとともに、関連する研究を紹介したいと思い、このシリーズを立ち上げました。トピックの第一弾は「地球温暖化」です。 (more…)

より効果的な共同研究で気候危機に立ち向かおう

環境と日々の生活を脅かす気候危機は、現在、最も差し迫った問題のひとつです。対策を講じるためには、研究者が集まり、オープンかつアクセスしやすい方法で研究・調査結果を共有することが非常に重要となっています。共同で研究を行い、成果をオープンアクセス(OA)ジャーナルに公開することによって、研究者は自分たちの研究をできるだけ広範に届け、影響力を高めることができるようになります。 気候変動の複雑さと喫緊の行動の必要性を踏まえると、関連する研究においては、革新的かつ効果的、さらに分野横断的なアプローチの開発が欠かせません。しかし、従来型の気候研究コミュニティは、共同研究を進めることや影響力を高めることに対して効果的には動けておらず、研究資金の調達や共同研究の構築に奮闘しているのが現状です。 気候危機:今、世界は何を必要としているのか 気候危機が、現在、最も差し迫った問題のひとつであることに疑いの余地はありません。すでに世界中で気候変動の影響が出ており、状況は悪化の一途をたどっています。早急に気候変動の影響を緩和させ、さらなる被害を防ぐために行動を起こす必要があります。 世界が気候危機に対してできることの最も重要なことは、再生可能エネルギーに移行することです。化石燃料(石油・石炭・ガス)は、温室効果ガス(GHG)の主要な排出源なので、再生可能エネルギーに転換することが化石燃料からのGHG排出量の削減につながります。再生可能エネルギーは化石燃料よりも持続可能で環境にやさしいエネルギー源なので、世界は一刻も早く、再生可能エネルギーへの移行を進める必要があります。 また、サステナブル・プラクティス(持続可能な慣行)を促進することによって、気候変動に対する取り組みを進めることも重要です。それには、共同研究を行うことにより科学の発展を促進し、研究コミュニティ内で研究成果が簡単にアクセスできるようにすることなどを含みます。持続可能性には、廃棄物の削減や、資源の保全、自然生息域の保護といったことだけではなく、グローバルなアクセシビリティ(世界のどこからでもアクセスが可能になること)を備えた研究を徹底的かつ継続的に発展させることも意図されています。持続可能性とは、将来世代に地球環境を残すための鍵なのです。 OA出版の必要性 科学研究は、時間のかかる複雑なものです。気候危機への取り組みを大きく進めるためには、それぞれの研究が相互協力するための効果的な方法が必要です。研究成果をオープンアクセス(OA)で出版することで、誰もが最新の研究成果にアクセスできるようになり、研究者同士が協力することも可能になります。こうして、研究を積み重ね、さらに発展させることができるようになるのです。 OA出版には、研究成果をより広範囲で利用できるようにするというメリットもあります。この点は特に、従来の学術雑誌(ジャーナル)へのアクセスが限られる開発途上国の若手研究者や科学者には大切なことです。物理的なアクセシビリティの改善だけでなく、OAジャーナルは、有料で購読するジャーナルよりも安いのが一般的なため、予算の有無や大きさに関わらず、誰もが手ごろな価格で研究成果にアクセスできるというメリットも存在するのです。 気候危機に立ち向かう共同研究 気候変動に立ち向かうためには、共同研究が不可欠です。データや調査結果を共有することにより、研究者は協力して気候変動のパターンや傾向を特定し、直面する課題に対する解決策を見出すことができるようになります。 共同研究を通して、異なる分野の研究者が専門知識や見解を共有し、知識(リソース)を蓄積することによって重要な気候変動問題に関する研究を発展させることができるのです。研究コミュニティが協力することで、気候変動への緩和・適応策を模索し、将来世代のために地球環境を守る方法を見出すことができるでしょう。 一例としては、イギリスのエクセター大学(University of Exeter)はオックスフォード大学(University…

捕食出版社: 学術出版界に広がり続ける病

捕食出版社は、一般的にオープンアクセス(OA)の形で学術雑誌(ジャーナル)を公開しており、それらは捕食ジャーナル(あるいはハゲタカジャーナル)と称されています。こうした捕食出版社(ハゲタカ出版社)は、論文の投稿者に論文掲載料(APC)を課しますが、査読は行いません。捕食ジャーナルに論文を投稿する研究者は後を絶ちませんが、時には投稿先の学術ジャーナルが査読付であるかのように見せているだけであることに気づかずに投稿してしまう研究者もいます。研究者としての実績の評価基準に出版数が含まれているため、研究者にとって論文の出版数は重要なのです。 研究者を捕食する出版社 捕食ジャーナル (predatory journal/ハゲタカジャーナル) は、広く批判されてきました。実際には提供していないサービスに課金し、査読なしで論文をアクセプト(受理)するので質の低い論文が公開されることになります。そのことに気づかない読者は、これらの出版物を信頼してしまうかもしれません。つまり、読者の研究に悪影響を及ぼす可能性があると言えます。にもかかわらず、捕食ジャーナル掲載される論文の数は増えています。2014年には約8,000の捕食ジャーナルに42万本の論文が掲載されていたと推測されていましたが、この数が同じペースで増え続けていたとすれば、2021年には、15,000誌、掲載される論文は約78万本にまで増えているとだろうとの分析もあります。 多くの若手科学者が、どのように運営されているかに気づかずに捕食ジャーナルに論文を投稿しています。捕食ジャーナルでは論文が簡単に発表できるので、「Publish or Perish(出版か死か)」と言われるほど論文の出版を重視する学術環境では魅力的な投稿先なのです。投稿した学術論文がリジェクト(却下)されることはよくありますが、捕食出版社ではアクセプト(受理)されやすいので、少なくともその捕食ジャーナルが著者を食いものにしていると分るまでは、投稿先として選択してしまうのです。 一方で、投稿先の学術ジャーナルが補足ジャーナルだと知りつつ投稿する著者もいます。論文を発表する必要に迫られて、簡単にすぐ掲載してくれる捕食出版社を選ぶ可能性もあります。さらに、学術界での地位を上げていくためにも論文を出版する必要があります。投稿先が補足ジャーナルかどうかを所属大学が調べていなければ、捕食ジャーナルへの掲載であっても論文の出版実績という常勤職に就くための必要条件をひとつ満たすことができるのです。 捕食ジャーナルの影響 捕食ジャーナルは、オープンアクセス(OA)・ジャーナルの信頼を損ないかねません。良質なOAジャーナルも、論文著者に掲載料を請求しますが、主な違いは、良質な学術誌は厳格な査読を行っているという点です。しかし、研究者がOAジャーナルの区別をするのは難しい場合があります。当時米コロラド大学デンバー校の図書館員であったジェフリー・ビール(Jeffrey Beall)はこの問題に取り組み、、研究者を食いものにしている疑いのある1,155以上の捕食ジャーナルをリスト(ビールズ・リスト)にしました。しかし、このリストは2017年に閉鎖され、現在も再開されてはいません。 信頼を損なうこと以外の影響はどうでしょうか。この問題を取り上げた論文(Who is…

エナゴが「これからの学術出版におけるAIの役割」アンケート調査の結果を公開【PR】

論文執筆および出版支援のグローバルリーダーである研究支援エナゴ(Enago)が、学術出版における人工知能(AI)の役割と影響を探る包括的なグローバルアンケート調査を実施し、その結果『Role and Impact of AI on the Future of Academic Publishing』を公開しました。これは4回目の学術研究に関するリスク評価調査として2021年8月から2021年10月までの5週間にわたって行われたアンケート結果をまとめたものです。この調査では、世界54か国の212大学に所属する350人以上から回答が得られました。 このグローバルアンケート調査は、以下の点の掌握を目的に実施されました。調査結果のポイントも記します。 調査の目的 AIに関する(地域、年齢層、教育、性別に基づく)人口統計的見地の把握 AIに関する一般的な認識と認知度の理解…