学術界を知る

第1回 学会発表は研究者が輝く舞台

学術論文ならまだしも学会発表 はかんべん!ましてや英語で!という研究者の方々がプレゼンテーションの醍醐味を感じるのに必要なのは、ほんの少しの発想の転換かもしれません。国際会議でのプレゼンテーションを成功に導く集中連載の第1回目では、まず口頭発表の意義から見直しましょう。 口頭発表は生きた情報交換の場 論文発表が「情報発信」の場であるのに対し、口頭発表は人と人が直接「情報交換」を行う場です。口頭発表の意義は、最先端の研究者が集結し、最先端の研究について‘ディスカッション’することにあります。発表者にとっては研究成果のエッセンスや解釈を聞き手に直接アピールすることができ、聞き手にとっては研究の経緯や課題を研究者本人から聞くことのできるまたとないチャンスです。そしてこの千載一遇のチャンスは参加者全員の時間を無駄にするリスクの上に成り立っていることを忘れてはなりません。 キャリア向上につながる 口頭発表の主役は研究成果であると考えられがちですが、発表者自身でもあります。特に若手研究者にとっては、研究への情熱や着眼の鋭さ、コミュニケーターとしての能力を広く示すことができれば、国際的な共同研究や新たなキャリアへの道筋を開くチャンスとなります。したがって、口頭発表はやり過ごすのではなく、研究と同様にエネルギーを注ぐ価値があります。 失敗してもかまわない 多くの人が日本人はプレゼンテーションが苦手な上に英語のハンディキャップも負っていると考えています。しかし、英語圏においても研究者向けにプレゼンテーションのノウハウを伝授するツールが多く存在します。それらのツールでは必ず練習を繰り返し、場数を踏むようにアドバイスされています。母国語が英語の研究者にとってもプレゼンテーションは容易ではないのです。したがって、日本人研究者が尻込みする必要はありません。むしろ積極的に場数を踏んで失敗に学ぶ必要があります。勇気を持ってチャンスに臨みましょう。エナゴアカデミー内でもご紹介していますが、各界で活躍中のトップ研究者の英語との向き合い方も参考になります(トップ研究者インタビュー)。 キャラクター紹介:久里 夢存(Muzon Kuri) 日本の大学で材料工学を学び地元企業に就職するも、“独立型・移動式住居”開発の夢をあきらめきれず、再び大学でエネルギー工学を専攻。工学、生物学、建築学など多分野の研究者からなるプロジェクトチームに所属し、エネルギー自給型インフラストラクチャーフリー移動式住居[Self-Sufficient Camper(S.S.Camper)]を開発中。この度、国際住環境学会(“架空”)において同住宅の自然災害時における有用性について口頭発表することに・・。口演タイトルは、“Energy self-sufficient, infrastructure-free…

引用

今回は、学術著作物における引用の基本を説明します。人の言葉や文章を自分の著作物、口頭発表などで用いる際、以下に述べる点に留意すべきです。 引用したものであることを明確にする 引用文が自分の言葉ではないことを明確にする必要があります。その手順は下記のとおりです。 a) 本文と引用文をはっきり区別する 引用文と本文を区別するための標準的な方法は、引用文の長さに応じて2通りあります。引用文が短い場合は*、引用文を(一重、または二重の)引用符で囲むだけです。長い場合には、いわゆる「block quotation」のスタイルを使用します。block quotationを本文に入れるのにはまず、引用文を導く文を(多くの場合はコロンで)区切ってから改行し、その後引用文を導入します。引用文が終わったら、もう一度改行して本文を続けます。さらに、引用文と本文をより区別しやすくするため、引用部分の余白設定を変えて行の長さを短くします(引用文をイタリック体にしたり、フォントのサイズを小さくしたりすることもありますが、あまりそうする必要はありません)。 *「短い」と「長い」を区別する厳密な基準はありませんが、その目安としてThe Chicago Manual of Style(University of Chicago,…

時制

日本人著者の論文には、時制に関する誤りがしばしば見うけられます。ここでは学術論文における時制の基本を説明します。 3つの世界 学術論文において時制を正しく用いるうえで最も重要なことは「3つの世界」という概念です。「3つの世界」とは、「現実世界1」、「論文の世界」、「理論の世界」のことです。論文中のおのおのの動詞はこのいずれかの世界での動作、作用、状態などを表すことになります。また、学術論文においては明快さが何よりも大切なため、各動詞とそれぞれの世界との対応が明確でなければなりません。 動詞の時制を選択する際、まずその動詞が上記のどの「世界」に対して用いられているか判断する必要があります。動詞の世界を同定したうえで、以下に挙げる基準によって時制を正しく用いることになります。 現実世界 現実世界の現象に対して使われている動詞の時制は3つの要素によって決まります。その要素を挙げる前にまずそれぞれの要素の基礎となる概念を導入します。一般に動詞の役割は、対象の動作、作用、行為、状態などを記述することです。なお、「記述」という行為には記述される側と記述する側、つまりその対象と主体が必要です。動詞は、対象が示す動作などの記述を、主体の観点から行います。また、主体がその記述を行うために、まず対象を「観察する」ことが必要です。さらに、その観察には時間的な「方向」があります。 上記の概念を踏まえたうえで、動詞の時制を決める要素を明示すると、(1) 対象が記述される期間(「記述期間」)、(2) 記述する観点(著者)の時間的な位置(「観察地点」)、(3) その観点から対象を観察するときの観察方向(「観察方向」)の3点にまとめることができます。さらに時制とそれぞれの要素との対応関係は以下のように一覧で示せます。 時制 記述期間 観察地点 観察方向 例文…

rareとscarce

形容詞「rare」と「scarce」は類義語ではありますが、通常、互換性はありません。以下に2語の第一義*の和訳とそれぞれの典型的な使用法を例示します。 *2語とも上記の第一義以外にもいくつかの意味を持っていますので、ご注意ください。 rare: 珍しい、稀な。 (1) The red-headed trogon is a rare species of bird. (2)…

raiseとrise

他動詞「raise」は「(人や物)を上げる」という意味を持ち、「(高さなどが)上がる」という意味の自動詞「rise」に対応する語ですが、日本人学者の論文では前者が自動詞として使用される誤りをしばしば目にします*。 以下にそれぞれの動詞の正しい用法を例示します。 (1) The level of the oceans is rising more rapidly than previously reported.…

precedeとproceed

動詞「precede」と「proceed」はつづりと発音が似ているため混同されやすいですが、語源も意味もまったく違います。 precede: 先立つ、より前に。 (1) The publication of Leibnitz’s work on calculus preceded that of Newton.…

intra-とinter-

接頭辞である「intra-」と「inter-」はよく混同されます。つづりも発音も使い方もよく似ていますが、意味はかなり違います。「intra-」は「〜内の」という、「inter-」は「〜の間の」という意味を表します。以下は、「intra-」と「inter-」それぞれを接頭辞として含む単語の典型的な例です。 「intra-」 intracellular: 細胞内 intradepartmental: 学科内 intravenous: 静脈内 intrauterine: 子宮内 intramural: 学内 「inter-」 intercontinental: 大陸間…

insteadとrather

副詞「instead」と「rather*」は同様の意味を持つ場合がありますが、一般的に互換性はありません。以下に「instead」と「rather」、それぞれの語の定義と典型的な用法を例示します。 *「rather」はここで扱う以外にもいくつかの意味を持っていますので、ご注意ください。 instead: の代わりに、そうせずに。 (1) The doctor told the patient to move his left hand,…

incidentとincidence

名詞「incident」と「incidence」はつづりも発音もよく似ていますが、意味は大きく異なります*。以下に2語の定義と正しい用法を例示します。 incident:(好ましくない)出来事。 (1) In that incident, the level of contamination was between 6 and 16…

in spite ofとdespite

前置詞の働きをする「in spite of」と「despite*」はほぼ同じ意味を持ち、どちらを使っても文全体の趣旨が変わらないケースはよく見られます。しかし両者には微妙な違いもありますので、意味のうえでの正確性が必要とされる場合はきちんと使い分けるべきです。 「in spite of」と「despite」は両方とも第一義が日本語の「にも関わらず」に相当します。しかし「in spite of」の方は語気が若干強く、「despite」が「…と関係なく」という消極的なニュアンスを持つのに対して「…に反して」という積極的なニュアンスを含みます。この違いは以下のように例示することができます。 (1) Despite the risk, I would like…