学術界を知る

第11回 デジタル画像 作成時のひと工夫

国際学会でのプレゼンを成功させるには、聞き手を引きこむ英語スピーチに加え、見やすいスライド作りも重要な鍵となります。より多くの人に伝わりやすく・わかりやすい色覚 バリアフリー なスライドを作るために覚えておきたい「カラー ユニバーサル デザイン」について迫る連載シリーズです。 学術発表におけるデジタルカラー画像の使用頻度が高まっています。第11回の今回は、医学生物学領域で使用頻度の高い蛍光多重染色画像を例にとり、多くの色覚型に伝わりやすい“ほんの一工夫”を紹介します。 単色画像はグレースケールで 今日、蛍光顕微鏡や共焦点レーザー顕微鏡の画像はデジタルカメラで撮影して、パソコン上で疑似カラーを用いて表現します。単色の画像を黒バックに赤や緑や青で提示しているものが多くありますが、この場合、色には意味がありません。むしろデメリットの方が多くなります。特にP型の人には黒い背景に赤い色は見にくく、一般型の人にとっても黒い背景に青色などは見にくいものです。 また、ポスターや論文などの印刷物においてカラー画像は不鮮明になる欠点があります。特に緑色はトラブルが多いと言われます。これは、顕微鏡で取得された画像がRGB 形式であるのに対し、印刷は一般的にCMYK方式であるため、変換により階調が飛んでしまうためです。白黒画像であれば、細かいシグナル強度の差も鮮明に表現でき、印刷時のトラブルが少なくなります。単色画像はぜひ白黒のグレースケールで提示しましょう。 2重染色画像では「赤―緑」を「マゼンタ―緑」に 蛍光2重染色では、黒い背景に「赤」と「緑」で表現し、赤と緑が共存する部分が「黄色」で表現されるのが一般的です。ところが、この色の組み合わせは、P型、D型の人には非常に見づらいものです。P型色覚の見え方をシミュレーションしたものが図11-1下段の一番左の画像です。赤が暗く、緑と黄色が見分けにくいことがわかります。 そこで、岡部正隆氏(東京慈恵会医科大学解剖学講座)は、P型、D型のみならず一般型のC型の人も含め、ほぼすべての人に理解できる蛍光二重染色画像の提示方法として、赤のシグナルをマゼンタ(赤と青を1対1で混ぜた赤紫色)に変更することを提唱しています。こうすれば、もともと赤かった部分は青寄りに見え、マゼンタと緑が共存する部分は「白色」で表現されるため、3つの色が明確に区別できます(図11-1下段の一番右の画像)。 Photoshop上で赤チャンネルの絵を青チャンネルにコピーするだけ! では、「赤―緑」から「マゼンタ―緑」への変更はどのようにすればよいのでしょうか。多くの顕微鏡では疑似カラーとしてマゼンタを選択できますので、それを活用するのが最も簡単ですが、すでに撮影した赤緑画像についても、RGBモードの画像であればPhotoshopで簡単に変更できます。…

「研究不正」を防ぐための倫理教育に効果はあるか?

2014年に世界的に有名になってしまったSTAP細胞事件など、日本でも海外でも、研究不正(research misconduct)が相次いで発覚しています。そのため大学や研究所、民間企業のなかには、研究不正を予防するための講義やトレーニング、グループ・ディスカッションなど教育的介入 −「研究倫理教育」などと呼ぶこともあります− が行なわれているところもあります。そうした教育的介入には、実際に研究不正を予防する効果はあるのでしょうか? 研究不正には、研究結果をでっち上げる「捏造」や、研究結果を操作する「改ざん」、ほかの研究者のアイディアなどをコピーする「盗用」などがあります。こうした研究不正がない状態を「研究の公正さ(research integrity)」または「研究公正」が保たれている、ということもあります。 しかし、非常に書きにくいことなのですが、教育的介入が研究公正に対する研究者の態度や知識を向上し、研究不正を予防できる、という明確なエビデンス(証拠)は乏しいようです。 医学研究コンサルタントのエリザベス・ウェージャーらは、治療方法などの有効性を体系的に再評価(レビュー)し、その結果を公開する国際プロジェクト「コクラン共同計画 (The Cochrane Collaboration)」の一員として、研究不正を防ぐための教育的介入の有効性を評価した研究31件を集めて再評価しました。臨床試験の効果を再評価するときと同じように、です。その結果は同計画のデータベース「コクラン・ライブラリー (Cochrane Library)」で公表されました。 それらの研究31件は33本の論文で発表され、合計9571人の被験者(研究者や学生)が対象にされていました。31件のうち15件は「ランダム化比較試験」といって、臨床試験では信頼性が高いとされる方法を使っていましたが、それほど信頼性の高くない方法を使っているものも少なくありませんでした。 いくつかの研究は、教育的介入が「盗用」に対する研究者の態度についてポジティブに影響したことを示しました。「盗用についてのトレーニング、とくにそれが実践的なエクササイズをともない、テキスト・マッチングソフトウェアを使うときには、盗用の発生を減らすらしい」ことがわかったのですが、エビデンスのクオリティはそれほど高くないといいます。…

第二の「ソーカル事件」? フランスで起きた論文撤回事件

筆者のように学術情報の動向そのものに興味を持っている者の間では有名な「リトラクションウォッチ (retraction watch)」というウェブサイトがあります。文字通り、学術論文が「撤回」されると、その理由や経緯などを報告する記事が掲載されるメディアです。 いちど掲載された論文が撤回されるということは、もちろんその論文に何らかの問題があることが見つかったということです。こうした 論文撤回 がニュースになるのは、理科系のジャーナル(学術雑誌)でのことがほとんどなのですが、2016年4月7日付の同誌は、哲学のジャーナルである論文が撤回されたことを伝えました。 哲学者アラン・バディウについての研究論文を掲載するジャーナル『バディウ・スタディーズ』は昨年秋、「クィア・バディウ主義フェミニズムに向けて」という特集のための論文を募集しました。アラン・バディウはフランスの有名な哲学者で、日本語に翻訳された著作もあります。存命で、左翼的な政治思想でも知られています。ルーマニアにあるアレクサンドル・イアン・クザ大学のベネディッタ・トリポディという研究者は「存在論、中立性、そして(非)クィアのための闘争」という論文を書いて、その原稿を同誌に投稿しました。原稿は査読され、同誌はそれを一度は採択したようです。 そのアブストラクトの冒頭2センテンスだけを訳してみましょう。 「ジェンダー」はつねに、存在論的な差異と“ジェンダー化(gendering)”の失敗へとつながるジェンダーの制度化継続という弁証法の名称となってきたため、どんなものであれバディウ的存在論というツールを通じたジェンダー中立言説という観点に取り組むことには価値がある。『存在と事象(Being and Event)』でバディウによって確立されたように、数学は−集合論として−究極的な存在論である。集合は、反動的制度によるジェンダー化プロセスが保持しようとしているもので、主体としてのそれぞれの主体に特有な多様性状態に対立するものである。 一読しただけで、きわめて難解なものであることがわかります。しかし、フランスの思想家たちの著作ではこのように難解な文章は珍しくないため、「哲学の世界では、こんなものなのかな」と思う人もいるでしょう。 ところがこの論文は、フランスの哲学者フィリップ・ユヌモン(パリ第一大学)とアンノク・バルベルース(リール第一大学)が、いかにもバディウやバディウ主義者たちが使いそうな言葉を散りばめた文章を並べてでっち上げたインチキ論文でした。そしてアレクサンドル・イアン・クザ大学に「ベネディッタ・トリポディ」という研究者はいません。『バディウ・スタディーズ』編集部は、きっかけは不明なのですが、いずれかの段階でその事実に気づき、この論文を撤回しました。現在、同誌第4巻1号の目次にこの論文の題名はありません。ユヌモンとバルベルースは、このようなことを行なった理由を「ジルセル(Zilsel)」というウェブサイトにおいてフランス語で表明したようですが、それを「テンデンス・コーテジー(Tendance Coatesy」というウェブサイトが英語で要約しています。 彼らは、抽象的な存在論(ontology)という哲学を実質的に正当化しているものに対して異議を唱えているのだ。〔略〕このパロディは、その「マスター〔バディウのこと〕」がもとづく存在論についての基盤を掘り崩すためにデザインされている。…

第9回 正しく情報が伝わるグラフ作成のコツ

国際学会でのプレゼンを成功させるには、聞き手を引きこむ英語スピーチに加え、見やすいスライド作りも重要な鍵となります。より多くの人に伝わりやすく・わかりやすい色覚 バリアフリー なスライドを作るために覚えておきたい「カラー ユニバーサル デザイン」について迫る連載シリーズです。 情報を一目瞭然に伝えるためのグラフも、色の使い方によっては逆にわかりにくいものとなります。ほんの少し工夫するだけで、多様な色覚の人に見やすくなりますので、次の2点を是非取り入れましょう! 折れ線グラフ - 線の種類を変えましょう Excelなどの表計算ソフトを用いれば、表の形で入力した統計データをクリックひとつで グラフ に変換できます。表9-1左に最もシンプルな例を紹介します。線の太さや色はデフォルトで決まっており、何も考えないうちにこのようなカラフルな折れ線グラフが出来上がります。これをVischeckというシミュレーションソフト(第17回で紹介)を用いてP型色覚のシミュレーションとして写してみると、表9-1右のようになります。黄緑とオレンジ、あるいは青・紫・水色の区別が難しいことがわかります。 図9-1 折れ線グラフ例①[左:Excelのテンプレートからプレーンな折れ線グラフを選択、右:P型色覚のシミュレーション(Vischeck使用)]  …

査読は無償でなくなる時代が来る?

ジャーナル(学術雑誌)の編集部は、論文を発表したい著者から原稿を受け取ると、掲載の可否を判断できそうな研究者、すなわち査読者(reviewer)に送ります。査読者はその原稿を読み、可否を判断したり、必要な修正を指示したりします。この過程を査読(Peer Review)といいます。 著者は「投稿料(subscription fee)」や「論文掲載料(APC: article processing charge)」と呼ばれる費用を負担する必要があります。APCには幅がありますが、たとえば大手ジャーナル出版社であるエルゼビア社は500〜5000ドルを設定しています。それに対して査読は一般的に無償でなされ、査読者はボランティアで取り組むことが求められます。「査読は無償」という原則はこれまで常識でした。ところが最近、査読者に報酬を払うべきではないか、という意見が出てきています。学問が細分化し、ジャーナルも論文も増えるにつれて、査読や査読者の必要性も大きくなってきています。そういった傾向を受け、高等教育についての専門ニュースサイト『タイムス・ハイアー・エデュケーション』の記事では、「無償のシステムという倫理に疑問を持つ者もいれば、査読には支払いをする時代になったと考えるジャーナルも出てきた」と伝えています。 この記事によれば、イギリスの出版社ヴァーリュスクプト(Veruscript)社は今年6月に創刊する、新しい学術雑誌4誌(うち2誌は自然科学分野、2誌は人文科学分野)にて、次のようなシステムを検討しています。査読者は、APCの一部を受け取る権利を得たうえで、(1)報酬を受け取る、(2)将来の自分の掲載費として預ける、(3)APCを負担できない研究者に寄附する、という3つのオプションから1つを選ぶ、というものです。いまのところ同社は査読者に払うつもりの金額を明らかにしていませんが、「査読にかかる時間を考えれば十分なものではない」と同社の編集長は記事の中で述べています。同社はこのアイディアの長所や短所を調べるために、ケンブリッジ大学でフォーカスグループ調査を行ない、アメリカでアンケート調査を行ないました。その結果、アメリカの研究者たちは査読に報酬がつくことを支持する傾向がある一方で、イギリスの研究者たちは「もっと保守的」だとわかりました。とりわけ哲学者は否定的だったそうです。その結果を受けても、『タイムス~』誌は「変化はやってくる。というのは、現行の無償システムは崩壊しかけていると考える者もいるからだ」と言及しています。 また、同誌は オープンアクセス出版を擁護する者たちの間でよくある不満は、巨大な営利出版社は出版のプロセスにおいてわずかしか貢献していないのに、無償労働から莫大なカネを稼いでいる、というものだ。 と、無償でなされる仕事の不当性を理由に、査読者への支払いを主張する者もいると伝えています。 なお、カリフォルニア大学出版が最近創刊したオープンアクセス・ジャーナル『コラブラ(Collabra)』は、ヴァーリュスクプト社と似たような方針での運営をすでに開始しています。ヴァーリュスクプト社は、査読者全員のうち3分の1ぐらいが報酬を受け取るだろう、と推測しています。しかし『コラブラ』では、いまのところ報酬を受け取った査読者は1人もおらず、全員がほかの研究者のために寄附したとのことです。 今年2月16日にロンドンで開催された、ジャーナルの編集者や研究者たちがオープンアクセスやジャーナルの利益幅について議論する「研究者から読者へ」という会議でも、この件が話題になりました。会議にて、ジャーナルの編集業務の補助を業務とする「エディトリアル・オフィス」社ディレクターのアリス・エリンガム氏は、著者から投稿された論文1本の査読手続きにかかる時間は40〜50分であることを明らかにしたと『タイムス誌~』の記事で報じられています。エディトリアル・オフィス社では、85誌ものジャーナルから外注された査読行程を運営しています。エリンガム氏は匿名の3誌のデータを示し、40〜50分という時間は投稿された論文原稿を選り分けたり、メールを送ったり、文章を編集したりするためのものであり、査読そのものにかかる時間は含まれていない、と説明しました。査読には「隠れたコスト」がある、ということです。当然ながら、査読者に金銭を支払うことによって、査読の内容に影響が出るという懸念もあります。しかし、経済学者を対象に2014年に行なわれた研究(The London School…

第8回 スライド作成で気をつけたい配色のポイント

国際学会でのプレゼンを成功させるには、聞き手を引きこむ英語スピーチに加え、見やすいスライド作りも重要な鍵となります。より多くの人に伝わりやすく・わかりやすい色覚 バリアフリー なスライドを作るために覚えておきたい「カラー ユニバーサル デザイン」について迫る連載シリーズです。 前回(第7回)紹介したように、国際学会でのプレゼンにおいて、「赤いレーザーポインターを使わず」、「赤色はオレンジ色寄り」にして、「色の名前を言うときに注意」することは、CUD(カラーユニバーサルデザイン)への大きな一歩です。今回は、さらに配慮したい2つのポイントを紹介します。 使う色の数を少なくする プレゼンテーションソフトウェアの発達により、多くの人が気軽に色をつけてカラフルなスライドを作るようになりました。一般型色覚のC型の人にとって色は便利な情報伝達手段ですが、使いすぎれば見づらい場合もあります。P型、D型などの人にとってはなおさら、重要な部分で見分けにくい色の組み合わせが増えてしまいます。また、意外なことに、重要ではない演出的な色使いにも問題があります。例えばデータの一部に、特に必要ではない背景色がついていたとすると、P型、D型などの人は「何か色がついているようだが意味があるのだろうか」と不安を抱いてしまいます。 したがって、なるべく多くの色覚型の人にわかりやすいスライドを作るためには、本当に必要でない色は使わないのが賢明です。そのようにシンプルを極めつつ、デザイン性の面でも満足のゆくスライド作りをめざしましょう。画面を動かすアニメーション効果も当初は多用されましたが、かえってわずらわしいという考え方が広まって、以前ほど多用されなくなりました。色についても多用しない効果的な使い方が広まっていくと考えられます。 色の組み合わせに気を配る―色相、明度、彩度とは? 赤色の選び方に代表されるように、色はそれ自体の問題もありますが、P型、D型の人にとっては、識別しにくい色の「組み合わせ」が問題となるケースが多くあります。第3回で紹介したように、「赤と緑」、「淡い水色とピンクと灰色」、「黄色と黄緑」、「紫と青」は特に判別が困難なため、重要な色分けの組み合わせにはなるべく用いないようにしましょう。 色には、色合い(色相)のほかに、明るさ(明度)、鮮やかさ(彩度)といった要素があります。P型、D型の人は色合い(色相)の識別が困難な場合が多いですが、色の明るさ(明度)や鮮やかさ(彩度)はよくわかります。そこで、色相のみならず、明度、彩度に変化をつけると、色弱者の人にも区別しやすい色の組み合わせが増えます。少し踏み込んだテクニックになりますが、これを意識してスライド作りに反映させれば、多彩な色使いも維持しつつ、ユニバーサル 化に配慮したプレゼンテーションを行うことができます(図8)。 図8 色相のみならず明度・彩度の差をつけた色の組み合わせの例[上:調整前、下:調整後](CUDOおよびハート出版より許可を得て転載)…

シンプルなアブストラクトの論文はより多く引用される

学術論文には必ずアブストラクト (要約)が付きます。そして論文は一般的にいって、引用される回数(被引用回数)が多ければ多いほど評価されます。では、アブストラクトの書き方はその論文の評価にどのような影響を与えるのでしょうか? 英国のワーウィック大学のデータ・サイエンティスト、エイドリアン・レッチフォード氏らは、論文の要約のスタイルが、その論文の被引用回数に影響するかどうかを調べ、その結果を『情報学ジャーナル(Journal of Informetrics)』で公表しました。 レッチフォード氏らは、オンラインデータベース「Web of Science」から、1999年から2008年までの各年について、最も引用された論文3万本の計量書誌学的データ(bibliometric data)をダウンロードしました。合計30万本のデータが集まったことになります。彼らはその中からアブストラクトや題名などが欠けている論文を取り除き、残りの21万6280本の論文について、それぞれのアブストラクトにある文字数や単語数、センテンス数をカウントして分析しました。その結果、アブストラクトでより頻繁に使われる言葉を使う論文を掲載するジャーナルは、論文1本あたりで見て、より多く引用される傾向があることが明らかになりました。また、アブストラクトでより頻繁に使われる言葉を使う論文は、同じジャーナルに掲載されるほかの論文と比較しても、より多く引用される傾向があることもわかりました。 さらに、アブストラクトの長さと論文が引用される回数との間にも関係があることもわかりました。レッチフォードらの分析では、アブストラクトがより短い論文を掲載するジャーナルは、論文1本あたりで見て、わずかに多く引用される傾向があることを示しました。また、アブストラクトがより短い論文は、同じジャーナルに掲載されるほかの論文と比べて、より多く引用される傾向があることもわかりました。彼らの計算モデルでは、5文字の言葉を1つ加えると、引用数が0.02%減るという結果が出ました。 レッチフォードらは、アブストラクトがより短くて、より頻繁に使われる言葉を含む論文がより多く引用される理由について、3つの可能性を述べています。第1に、インパクトファクターの高いジャーナルは、論文のアブストラクトの長さを制限し、より広い読者に適した書き方を要求しているのかもしれないこと。たとえば、『サイエンス』のアブストラクトは125語に制限されています。第2に、大きな科学的進歩を報告する論文は、より短いアブストラクトで書かれ、あまり専門的でない言葉を使うのかもしれないこと。第3に、より一般的な言葉を使ったより短いアブストラクトは読みやすく、それゆえにより多く引用されるのかもしれないこと。 ということは、より頻繁に使われる言葉で、より短いアブストラクト、つまりよりシンプルなアブストラクトを書くようにすれば、より多く引用される論文を書けるような気がしてきます。しかしもちろん、研究内容自体が優れていることが大前提でしょう。

第7回 色覚バリアフリーのスライド・3つのポイント

国際学会でのプレゼンを成功させるには、聞き手を引きこむ英語スピーチに加え、見やすいスライド作りも重要な鍵となります。 より多くの人に伝わりやすく・わかりやすい色覚 バリアフリー なスライドを作るために覚えておきたい「カラーユニバーサルデザイン」について迫る連載シリーズです。 忙しくて余裕がない?―ポイントさえおさえれば、CUDはすぐに実践できます! CUDO副理事長の伊賀公一氏に、PowerPointなどを用いたプレゼンテーションでこれだけは実践してほしいこと3つを伺いました。 赤色のレーザーポインターを使わない 図7-1 緑色のレーザーポインターの例(CUDOおよびハート出版より許可を得て転載) 「赤色」はP型、D型の人には目立つ色ではありません。 赤いレーザーポインターの光は長波長の光を使用しているために、特にP型の人には“赤外線”になってしまい、見えにくいか全く見えません。そこで、2000年代になって、P型、D型の人にも見えやすい緑色のレーザーポインターが開発されました(図7-1)。 緑色のレーザーポインターは、開発当初、種類が少なく高価なものでしたが、現在では種類が増えて入手しやすくなっていますので、買い替えの際には是非導入を検討しましょう。 なぜなら、緑色のレーザーポインターの光はC型の人にとっても赤色より明るく見やすいのです。 最近は、PowerPointなどのアニメーション機能を用いてスライドの特定箇所を強調する方法もあるため、レーザーポインターを使わない人も増えています。それも赤色のレーザーポインターの使用を避ける方法の1つと言えます。 赤色の代わりにオレンジ色(朱赤)を使う…

【大妻女子大学】生田 茂教授インタビュー(後編)

各大学の研究室に訪問し、研究者たちにおける英語力向上の可能性を探るインタビューシリーズ。一回目は大妻女子大学の生田茂教授にお話を伺いました。インタビュー後編では、論文執筆や学会発表において、若手研究者や学生にどのようなアドバイスを行っているか、日本人研究者が英語力を鍛えるために必要なことなどを語ってくださいました。 ■英語での論文執筆や学会発表に対し、研究室にいる学生にはどんなアドバイスをしていますか? 本学の社会情報学部の売りは「英語」と「情報」。しかし、すでに英語が売りになる時代ではなくなっていますね。ちょっと留学したからといって、「語学力を生かした仕事につける」というような時代ではありません。だから、学生には「まずは自分の専門をきちんと持ちなさい」と言っています。自分の専門を持った上で、できるだけ英語を身につける。英語だけで食べていくことが難しい今、「専門ができる、加えて、英語ができる」ことがとても大事。だから、学生には人に負けない専門性を身に付けなさいと言っています。 口頭発表に向けては、「絶対に伝えたいことは何か」をまずは考えなさい、と言っています。私は学生に「聴衆は、『どこの国の人が英語を話しているか』などは関係なく、真剣に聞いてくれるよ。だから、一所懸命に、堂々と話してきなさい」とアドバイスしています。学会の参加者は、発表者の英語の訛りなどにはこだわらず、「何を言いたいのか」を一生懸命に聞いてくれます。だから、「何を伝えたいのか」を明確にし、それがきちんと伝わるように練習することが大切なのです。 ■日本人研究者が英語力を鍛えるためには、どうするのが一番だと思いますか? 現地に飛び込み、色々な国々の人々と関わること。それが何事にも代えがたい経験になると思います。カナダの留学時代には、オイルサンドの全盛期でもあり、アルバータ大学には沢山の日本人がいてなかなか英語が身につかず、当時廊下に設置してあった電話の受話器を取れるようになるまで半年近くもかかりました。その後、シドニー大学、ニューヨーク市立大学にお世話になった時には、国籍に関係なく、様々な人々と知り合いになることができ、貴重な人間的繋がりができました。例えば、この3月に私を Wayne State 大学に呼んでくれた先生とは約20 数年来の付き合いです。何かをやりたいと思ったとき、築いてきたネットワークが最後にはものをいいます。海外の研究者と共同研究を行い、論文を書くときにも、こうした人脈が大切なのです。学生のうちに留学やインターンなどに挑戦し、色々な人と交流することを勧めています。 ■今後、どのような英語サービスがあれば使ってみたい、ありがたいと思いますか? 研究者にとって、論文が受理されるまで何度でも校正してくれるサービスは嬉しいですね。研究者は外国のジャーナルに論文を送り、査読者から様々な指摘を受けることで初めて自分の立ち位置がわかります。右も左もわからない若手研究者にとっては、校正を依頼した論文の内容に沿って適切なジャーナルを選んでくれるような、きめ細かなサービスがあると素晴らしいですね。 アメリカのジャーナルでは、論文の内容に応じて、別の雑誌への掲載を勧めてくれるところもあります。こういった、英文校正を依頼した時点で「こっちのジャーナルの方が良いですよ」というようなアドバイスがもらえたら嬉しいですね。また、査読の結果を気軽に相談でき、受理されるまで付き合っていただけると心強いですね。 生田教授、ありがとうございました! 次回のインタビューをお楽しみに。 【プロフィール】…

「科学の科学=メタサイエンス」は学術界に根づくか?

ワシントン大学の微生物学者フェリック・ファン教授は、『感染症と免疫学』の編集長を務めた経験からメタサイエンスに取り組むことになりました。同誌は彼の努力もあって、ある研究者が論文中の写真の改ざんを行なっていたことを明らかにし、彼の論文3本を撤回しました。それがきっかけとなり、その研究者の論文には次々と研究不正が見つかり、最終的には30本もの論文が撤回されました。ファンは研究成果の発表システムそのものに問題があると考えるようになり、論文の「撤回」や研究不正を研究テーマに加えることになったといいます。 イリノイ大学の人類学者キャスリン・クランシー助教授は、大学院生の女性がフィールドワーク中に性的な被害に遭ったという経験を聞き、それを個人的なブログに書いたところ、インターネットで大きな反響がありました。彼女は、フィールドワーク研究の倫理に関するシンポジウムに登壇するよう依頼を受けたのですが、査読者は彼女のアブストラクト(プレゼンの要約)を却下してしまいました。わずか2人の経験をまとめたものにすぎなかったからです。彼女は定量的なデータが必要であると考えるようになり、ほかの研究者とともにアンケート調査とインタビューを開始し、そのプロジェクトを「学術フィールド調査研究(SAFE)」と名付けました。その結果、調査対象となった女性のうち、64%が何らかのフィールドで嫌がらせや暴力を受けた経験があることが明らかになり、論文にもまとめられました。 ブリティッシュ・コロンビア大学森林保全科学部のポスドク、ジェレミー・ヨーダー氏は男性同性愛者として、科学技術分野における性的少数者(セクシャル・マイノリティ。LGBTともLGBTQAとも呼ばれます)の行動や経験について、定量的なデータが存在しないことに気づいて、教育学の研究者と組んで、その調査を行いました。自分と同じようなマイノリティの労働環境を改善したり、彼らがステップアップしたりすることに貢献できるかもしれないと思ったからです。 科学者がこうした自分自身の本来の研究からは外れた問題を研究することには、メリットとデメリットがあります。クランシーは会議に登壇者として招かれたことがあり、ヨーダーは大学から賞を授かりました。ファンは「合理的なワークライフバランス」や「高い倫理基準」を推奨される環境をつくることは「トレーニングを受ける者にとって好ましい」ことであり、「質の高いサイエンスを世代継承するためのステージをつくることになる」と考えています。フー記者は3人の話を聞いたうえで、下記のように語っています。 こうしたプロジェクトへの取り組みは、強力な職業倫理、優れたタイムマネジメント、科学を推進するための情熱、そして分析スキルの強化を示していている。これらは全て、学者候補としてきわめて望ましいスキルである。 しかしデメリットもあります。まずメタサイエンス研究は、たとえ論文になったとしても、その科学者自身の専門領域での業績としては認められない可能性があります。また科学者は一般的に、とくにキャリアの初期においては、狭い専門分野に集中して取り組むことが好まれます。メタサイエンスに取り組む研究者は、専門分野をおろそかにしているとみなされるかもしれません。さらにこうしたメタサイエンス研究の結果は、善かれ悪しかれ、メディアや一般市民など科学コミュニティ以外からの注目を集めることがあります。科学者のなかには、そうした目立つ行動を取る同業者を好まない者もいます。とくにメディア出演が多い科学者について、「あの人は『タレント科学者』で、ちゃんとした研究をしていない」といった陰口を聞くことは少なくありません。 しかしながらフー記者は「メタサイエンティストたちはみな、ほかの者たちがどう思っているかにかかわらず、自分たちの研究が重要であるという確信を共有している」と、彼らの意義を擁護します。日本ではどうでしょうか? 実は、筆者も偶然、「メタサイエンス(メタ科学)」という言葉を好意的に使ったことがあります。しかしそれは、科学史、科学哲学、科学社会学、そして科学技術社会論(STS)など、自然科学を人文社会科学の観点でメタ的に研究する学問、という意味でした(斉藤勝司ほか著『教えて!科学本』、洋泉社)。フー記者は、科学者自身が科学をめぐるシステムを研究すること、という意味で使っているので、定義が微妙に異なります。実際、日本では、ファンやクランシーやヨーダーが行なっているような研究は、主として、(自然)科学の現場からやや離れた位置にいる研究者によって取り組まれているように思います。 メタサイエンスをどのように定義づけても、メタサイエンスを嫌う科学者がいてもいなくても、メタサイエンスは科学にとって重要な意味を持っているし、これからもっと重要になりそうです。予算やポストなど、メタサイエンスが正当に評価される制度の整備も必要になるでしょう。