学術界を知る

【東京工業大学】初澤 毅教授インタビュー (後編)

各大学の研究室に訪問し、研究者たちにおける英語力向上の可能性を探るインタビューシリーズ。二回目は、東京工業大学の初澤毅教授にお話を伺いました。インタビュー後編では、 国際化 が進む教育現場において、英語での口頭発表のスキルをいかに上達させるかについてお話しくださいました。 ■論文の執筆以外にも英語のご苦労はありますか。 英語でのプレゼンテーションは、英語で論文を書くよりも難しいです。短い時間に適切な英語で話すのは、かなりのスキルがいると思います。 またおそらく、学生が英語で発表する際に一番困るのは、相手の質問が聞き取れないことだと思います。自分が話すことはできるけど、相手が何を言っているのか分からず適切な答えができない。ヒアリングスキルはライティングスキルとは異なります。生でネイティブが話しているのを聞く機会がなければ語学学校に行くなどして勉強するしかなく、学生にもそのように伝えています。 ■研究室の他の皆さまも、同様に英語には苦労されていますか。 人によりけりですね。チャンスがうまく巡ってくると、海外に派遣される機会があります。隣の研究室の助教授は2年間アメリカに行っていました。短かければ半年、長ければ2年くらい、海外に派遣される機会がありますので、そういうチャンスを生かして、話せる人はちゃんとスキルを上げて帰ってきます。 ■英語での口頭発表の前は練習しますか。 私自身も十分に練習しますし、初めて発表する学生には、教員がまずは原稿をチェックして、セリフも入れてあげます。「自分で何回も練習しなさい。我々でも発表するときは怖いから大抵5、6回は練習する。君らもやらなければいけないよ」と伝えます。 ■発音や声の大きさなども含めて指導されますか。 声の大きさはともかく、発音となるとネイティブのようにはできませんし、専門用語の正しい発音は我々自身困るところもあるので、分かる範囲で指導します。 しかし、むしろ発音練習よりも、相手にいかに分かりやすく伝えられるか、話の流れがおかしくないかなど、ストーリーの構成について指導しますね。私たちは英語ネイティブではないのだから、発音は下手でもいい。でもその分、分かりやすくて、ストーリーがちゃんと伝わる発表にする。そっちのほうが大事だと指導します。 ■日本人の研究者が英語力を鍛える一番良い方法は何だと思いますか。 研究者の英語にはふたつのスキルが必要だと思います。論文を読み書きするためのスキルと、日常会話で研究のディベートができるスキルです。…

第15回 色覚バリアフリーを示すCUD認証マークとは?

より多くの人に伝わりやすく・わかりやすい、色覚バリアフリーなスライドを作るために覚えておきたい「CUD: カラーユニバーサルデザイン」について迫る連載シリーズ。第15回目の今回は、色覚バリアフリーの検証に合格した製品に添付される、CUD認証マークについてご紹介します。 日本国内にCUD (カラーユニバーサルデザイン)検証に合格した製品が増えています。「CUD認証マーク」の認知度はまだまだ高くありませんが、見つけたときには色やデザインに注目してみましょう。 エコマークのような認証マーク 環境保全に役立つ商品につけられるエコマークのように、CUDO (Color Universal Design Organization: カラーユニバーサルデザイン機構) によりCUDの要件を満たしていると認められた製品には「CUD認証マーク」(図15)をつけることができます。対象は、各種印刷物、機器類、公共物、ウェブサイト、その他文具・教材・調理器具など多岐にわたります。 企業や自治体からCUDOに申し込みがあると、訓練を受けた各色覚型の検証員が検証を行います。パソコンのシミュレータは簡易なチェックには役立ちますが、色弱者が実際に感じている色を再現するものではないため、認定には当事者による検証が必須となっています。 検証のポイントとなるのは、1: 多くの人に見分けやすい配色をしているか、2:…

「研究 再現性 の危機」 – nature、1500人を調査

研究論文に書いているものと同じ材料(研究対象)を用意し、同じ方法を試したら、同じ結果が出る。このような状態を「再現性がある」といいます。いうまでもなく、「再現性があること」は科学の条件の1つです。 ところが、研究論文に書いてある通りのことを行っても、同じ結果が出ないことがしばしばあることが、学術界では問題になっています。このことはしばしば「再現性の危機」と呼ばれます。英語では「reproducibility crisis」といい、「replication crisis」と呼ばれることもあります。 『ネイチャー』誌はこの再現性という問題について、オンライン・アンケートを実施しました。回答者は1576人。その結果は同誌5月25日付の記事で公表されました。「研究者の70%以上がほかの研究者の実験を再現しようと試みて失敗しており、半分以上が自分自身の実験を再現することに失敗している」という現状が浮かび上がりました。 実際のところ、どれだけの研究結果に再現性があるかということについては、情報が乏しいのが現状です。過去の研究では、心理学では40%、がん生物学では10%という数字が示されたこともあります(ただし心理学については反論もあります)。 「“再現性の危機”はありますか?」という質問には、52%が「はい、深刻な危機があります」と回答し、38%が「はい、若干の危機があります」と回答しています。合わせて90%の研究者が、程度は異なれど「再現性の危機」を自覚している、ということです。それに対して「いいえ、危機なんてありません」や「わかりません」と答えた人は合わせても10%にすぎませんでした。 また、「あなたはこれまでに再現を試みたことを公表(出版)したことがありますか?」という質問には、「再現に成功した」ことについては24%が「公表した」と、12%が「公表しそこなかった」と回答しました。一方、「再現しようとしたが失敗した」ことについては13%が「公表した」と、10%が「公表しそこなかった」と回答しています。「再現成功」は「再現失敗」よりも、やはり公表しやすいようです。 同誌は「研究結果の再現に失敗することは通過儀礼だ」という研究者のコメントを紹介しています。ブリストル大学の生物心理学者マーカス・ムナーフォによれば、 自分が学生だったとき、「文献でシンプルに見えたものを再現しようと試みましたが、できませんでした。そして私は信頼性について危機感を抱きましたが、その後、私の経験は決して珍しいものではないということを知りました」 とのことです。『ネイチャー』の調査に回答した研究者の大部分はある実験を再現することに失敗した経験があるのですが、ほかの研究者から研究結果を再現できなかったという連絡を受けたことがある者は20%以下でした。「そのような話をすることは難しいから」と、同誌は推測しています。 もし実験した者がもとの(研究を報告した)研究者に助けを求めて接触すれば、自分たちの無能さ、あるいは(もとの研究を報告した研究者に対する)非難の意を示すことになってしまったり、あるいは、自分たち自身のプロジェクトについて言わなくてもいいことを言ってしまったりするリスクがある。 再現実験(追試)を行って失敗した場合、その結果が公表されにくいことについても理由がありそうです。まず研究者は、他人の研究結果を再現できなくても、「完全に妥当な(そしてたぶんつまらない)理由がある」と思ってしまいがちです。またそもそも、再現実験の成功を報告する動機自体が弱いこと、そしてジャーナル(学術雑誌)は否定的な知見を公表したがらないこともあります。再現の失敗を公表(出版)したことのある複数の回答者が、出版元の編集者や査読者はもとの研究との比較を控えることを要求してきた、と言います。 ある研究者は、幹細胞にかかわるある技術がうまくいかないことを公表しようとジャーナルに原稿を投稿しました。彼は「冷たくてドライな却下」を予想していたのですが、原稿は採択されました。それはおそらく、その問題についての「次善策」を提案したからだ、と彼は推測しています。 アンケートへの回答者の3分の1が、再現性を高めるために具体的な措置を実施している、と回答しています。またある生化学分野の大学院生は、「研究を再現させる努力のために、時間と物資を倍かけている」と述べています。また、ある数理生物学者は「再現性を確かめる」ために「プロジェクト1つにつき労働時間を30%増やすことがある」と推測しています。…

第14回 動物における色覚の多様性 – 光の受容と種の保存

より多くの人に伝わりやすく・わかりやすい、色覚バリアフリーなスライドを作るために覚えておきたい「カラーユニバーサルデザイン」について迫る連載シリーズ。第14回目の今回は、我々ヒトを含めた、動物における色覚の多様性についてご紹介します。 生物にとって「色」とは、物体を検出、認識する手がかりであるとともに、信号としての役割を持ちます。生物はそれぞれ一定の光の波長を 受容 することにより独自の色の世界を持っているようです。 チョウにはお尻にも「目」が! 昆虫の眼は複眼でヒトの視覚とシステムが異なります。色覚についても、ミツバチの仲間は赤の光受容体がなく、紫外線、青、緑の3色型色覚を持つことが知られています。アゲハチョウやモンシロチョウは、ヒトより多い、紫外線、紫、青、黄、赤の5色型色覚に加え、さらに、お尻にもう1つの「目」(眼球外光受容器)を持つといいます。お尻の「目」では、交尾や産卵を確実に行えるように紫外線から青にかけての光を利用していることが確かめられています。 夜行性だったヒトの祖先 脊椎動物は魚類からヒトまで左右一対のカメラ眼を持ちますが、色覚は魚類、は虫類、鳥類の多くで4色型色覚を持っていたのが、ほ乳類で2色型に減少し、その中からヒトなどの霊長類が再び3色型色覚を持つようになりました。約2億年前、ほ乳類がは虫類から分岐した頃、地球は恐竜の全盛期で、ほ乳類の祖先は夜間行動をしていたために4種類のうち2種類の視細胞を失ったと考えられています。 霊長類が今から約4〜3千万年前に再び3色型色覚を持つようになった理由については、恐竜の絶滅後に昼行性の樹上生活を始めたため視覚への依存度が高まったことによると考えられています。3色型は木の葉のなかから若葉や果実を見つけ出すのに適していたほか、仲間とのコミュニケーションにおける役割も果たしたことが指摘されています。 現代人において高い2色型色覚の頻度 3色型色覚を持つサルの世界にも2色型(P型、D型)のサルが共存していることが知られています。また、それら「色弱」のサルを遺伝子型で特定して追跡した研究において、色弱のサルにおいても食べ物が異なるということはなく、一方的に弱いということはないことが観察されています。 ヒトは長い進化の過程を経て3色型色覚を持つようになりましたが(C型)、男性の5〜8%は2色型色覚を持ちます(P型、D型)。現代人における2色型色覚の頻度は、サルやチンパンジーにおけるその頻度と比べて極めて高いことがわかっています。 その理由として、ヒトの現代社会においては樹上生活に適した3色型の優位性が失われたか、あるいは2色型のほうが有利な場合も生じたために3色型に対する選択圧が緩和されたという説があります。そのほかに、ヒトが狩猟採集生活をしていた時代には2色型は輝度コントラストから獲物を見つけるのが得意で、3色型は果実の採取などに適しているために、相互利益により維持されたという考え方もあります。遺伝子構造によるとの見方もあり、はっきりとした理由は明らかではありません。 多様性を担うオプシン遺伝子の多型 このような色覚の多様性を担う視細胞は、364個のアミノ酸からなるタンパク質のオプシンに、ビタミンA誘導体であるレチナールが結合したものです。そして、ヒトにおいてC型、P型、D型を分けるのは、このオプシンのなかの15個のアミノ酸の違いです。…

「科学論文すべてをオープンアクセスに」EUが合意

2016年5月27日、欧州連合(EU: European Union)の「競争審議会(科学、イノベーション、貿易、産業にかかわる大臣たちの会合)」は、ブリュッセルでの2日間の会議を経て、「ヨーロッパの科学記事すべてを、2020年までに無料でアクセス可能にすべきである」という合意に達しました。 現在、ジャーナル(学術雑誌)の定期購読者でなくても読むことができる論文が少しずつ増えています。そういう状態を「オープンアクセス」といいます。すべての論文が オープンアクセス になっている雑誌のことを「オープンアクセス・ジャーナル」といいます。 EUのプレスリリースは現状を次のように説明しています。 公的に資金を提供された研究の結果は現在、大学や研究機関に属していない人々にはアクセス不可能である。結果として、教師や医師、起業家らは、自分たちの仕事に関係がある最新の科学的洞察にアクセスできず、大学は出版物にアクセスするために高額の購読料を出版社に払わなければならない。 つまりEUは、すべての科学論文をオープンアクセス化しようと決断したのです。 2016年5月に発行された『サイエンス』誌の記事によれば、このEUの動きは「オープンサイエンス」というさらに大きな目標を達成するための過程です。オープンサイエンスとは、論文だけでなく、論文に含まれるグラフなどのもとになった生データも公開し、第三者がそのデータを再利用できるようにすること、つまり「データ・シェアリング」をも含む広い概念です。「EUにおける交代制の議長を現在務めているオランダ政府は、オープンサイエンスのためにヨーロッパ規模のロビー活動を行ってきた」と同記事は書きます。 先述したEUのプレスリリースも、「研究データを適切に再利用できるようにしなければならない」と、明記しています。 このことを達成するために、たとえば知的所有権やセキュリティ、プライバシー問題といった、再利用できないことについて根拠の確かな理由がある場合を除いて、データはアクセス可能にするべきである。 競争審議会の議長を務める、オランダのサンダー・デッカー教育・文化・科学省副大臣は、「研究とイノベーションは、経済成長やより多くの雇用をもたらし、社会的課題にソリューションをもたらすものです」と述べ、そのために「知識が無料でシェアされること」が必要であることを強調しています。 『サイエンス』誌の同記事は、EU加盟のヨーロッパ各国がどのようにして4年以内にオープンアクセスへと完全移行するのか、産業審議会が具体的に述べていないことなどを指摘しています。 競争審議会の広報担当者も、2020年という目標が「簡単な仕事ではないでしょう」と認めているが、審議会の新たな決断の重要性を強調する。「これは法律ではありません。しかし、28カ国の政府の政治的方針なのです。重要なのはコンセンサスがあるということです」…

第13回 色弱者にもやさしい信号機の色

より多くの人に伝わりやすく・わかりやすい、色覚バリアフリーなスライドを作るために覚えておきたい「カラー ユニバーサル デザイン (CUD)」について迫る連載シリーズ。第13回の今回はプレゼンテーションから少し離れて、安全な社会構築に欠かせない「信号機」とCUDにまつわるエピソードをご紹介します。 色弱者と社会基盤の関係が話題になるとき、まず持ち上がるのが「信号機の色は見分けられるのか」という質問です。色と情報のシンボルともいえる信号機にまつわる歴史や、知らなかった工夫を紹介します。 「青信号」は見分けやすい「青みどり色」 信号機の色の見え方は個人差が大きいので一様には言えませんが、少数派であるP型、D型の当事者によれば、信号機の色は「見分けられます」。自動車運転免許の取得においても色覚型が欠格の理由になることもありません。 「青信号」はかつて「緑色」で、赤信号や黄信号と見分けがつきにくかったのですが、1970年代以降、 色弱者 に見分けやすい「青みどり色」に変更されました。電球式信号機においては、赤色を黄色より暗くして見分けやすくするなどの工夫もなされていました。また、横型の車両用信号機は通常、左から青・黄・赤の順に並んでいるので、位置関係からも判断できます。   進むLED化と新たな試み 平成25年の警察庁資料によれば、全国の車両用信号機の約40%、歩行者用信号機の35%がLED化されています。LED信号機には、コストパフォーマンスの良さや、太陽光の反射による疑似発光がないなどのメリットがあります。 すべての色覚型の人に見やすいように「青信号」は電球式と同様に「青みどり色」にしてあります。また、LED信号機が小さなLED電球の集まりであることを利用して、赤の信号灯にP型、D型色覚者に見やすい×印を組み込んだ信号機が提案され、社会実験として実際に使用された例もあります。 歩行者用の信号機は、従来から形状による表現が採用され、電球式の歩行者用信号機は色バックに人型の白抜きというデザインでした。LED化にあたり、学識者、色弱者、高齢者などにアンケート調査や視認試験を行った結果、黒バックに人型を光らせるタイプが高評価を得て採用されました。この変化に気づいていましたか?…

【東京工業大学】初澤 毅教授インタビュー (前編)

各大学の研究室に訪問し、研究者たちにおける英語力向上の可能性を探るインタビューシリーズ。二回目は、東京工業大学の初澤毅教授にお話を伺いました。インタビュー前編では、「まずは自分で」英語論文を執筆する重要性をお話しくださいました。 ■こちらの研究室で扱っている専門分野、研究テーマを簡単に教えていただけますか。 大きな枠組みで言いますと機械工学系になります。その中でも特に精密工学という分野の、マイクロマシンやナノメカニズムといった非常に細かい世界を相手にしているところです。分野としてはバイオ・医療系になり、うちの准教授はバイオ系が専門です。要は、機械とバイオの研究者がお互いの境界をクロスさせて、新しいことにチャレンジしようというところです。 ■私たちの身近な製品につながることもありますか。 例えば、非常に小さな粒子を作る技術があり、その粒子の表が白、裏が黒というような色分けをしたものを作ることができます。それを大量に並べて電気をかけると、その球(粒子)が白黒とひっくり返って表示されて、時計などの、大きな表示板として使うことができます。 ■先生ご自身が、英語論文の執筆、学会の発表、共同研究などの場で、英語で苦戦した経験はありますか。 今はもう論文は英語で書くのが当たり前で、日本語で書くことはまずありません。駆け出しの頃は一般教養としての英語しか習っていませんでしたから、自分勝手な英語しか知りませんでした。テクニカルライティングの専門教育や専門用語などにも慣れていませんでした。 論文英語は初めはハードルが高く、数をこなして経験を重ねるしかありません。昔は、英文校正サービスなんてありませんでしたから、来日している外国人を捕まえて、5000円とか1万円とか払って、あるいはご飯を食べさせてあげて、ちょっと 英語 を見てくれないかと頼んでいました。英文校正サービスができてから、本当に楽になりました。ありがたいです。 ■学生や若手の研究者の皆さんは、どのようにして英語で論文を執筆する力を鍛えていくのでしょうか。 学生が専門教育で英語に接する最初の機会は、恐らく学部4年生のゼミで、自分に関係するテーマの論文を読んでみんなに紹介するときだと思います。その後、我々の専攻である機械系・電気系の5教科ほどでは、大学院の授業は英語と日本語で書かれた教科書を使います。 さらに課程が進めば論文を英語で書く段階になりますが、修士だけで卒業してしまう学生は、恐らくあまり英語で論文を書く機会がありません。でも人によっては、国際会議で発表する場合もありますので、そのプロシーディングを書くことはありますね。その場合は、とにかく、まず自分で書きなさいと言っています。まず学生が自分で書いてみる。それを我々がチェックする。我々でもどうしようもないということになったら、エナゴにお願いする。そんな三段論法みたいな方法を取っています。 最近、日本語で書いたものを直ぐに翻訳してくれるサービスもありますが、基本的にあれは、社会人の時間がない方々のためのサービスだと思っています。大学としてそれをやると、学生の教育にならない。やはり、一回は学生に自分で書かせる、その後で直していただくというのが、我々にとっては一番ありがたいです。 ■博士論文の提出やジャーナル投稿前は、英文校正の会社を利用しますか。…

海賊版論文サイト サイハブ / Sci-hub をめぐって

筆者は数年前まではどの研究機関にも属していなかったので、オープンアクセスになっていない科学論文を手に入れることに苦労していました。わざわざ図書館で印刷版をコピーしたり、大学などに属している友人にPDFファイルを送ってくれるよう頼んだりしていました。大学で教えるようになってからも、あえて何の特権もないままでどれだけ論文を入手できるかを試してきました。 幸いにも最近はオープンアクセスの論文も多くなりました。また、大きな声ではいえないものの誰でも知っているように、たとえ出版社のウェブサイトでアクセス制限があっても、「Google Scholar」などのデータベースをうまく使うと、インターネット上のどこかにアップされているPDFファイルが見つかることもあります。 一方、ジャーナルの購読料が高騰しているために、大学のなかにはジャーナルの定期購読をやめてしまい、研究者に必要な論文を個々に購入するよう求めているところもあるようです。また、いわゆる先進国ではない国々の研究者たちにとって、論文の入手にかかるコストは、先進国の研究者よりもずっと重いものでしょう。 2011年、そんな状況に不満を抱いたカザフスタンの大学院生アレクサンドラ・エルバキャンは、コンピュータのスキルを駆使して、数万件もの論文のPDFファイルを誰でも簡単に無料で入手できるウェブサイト「Sci-hub(サイハブ)」を創設しました。ネット上では、多くの研究者がSci-hub(サイハブ)を賞賛しました。 これに待ったをかけたのが、いうまでもなく出版社です。学術出版大手のエルゼビア社はSci-hub( サイハブ) を訴え、2015年11月、ニューヨーク地方裁判所はSci-hub(サイハブ)が著作権保有者としての出版社の法的権利を侵害していることを認めて、ウェブサイトの閉鎖を命じました。「sci-hub.org」からは論文をダウンロードすることはできなくなりましたが、すぐに、「sci-hub.io」や「sci-hub.bz」、「sci-hub.cc」というミラーサイトが現れました(6月20日現在、「.io」は使えなくなっているようです。今後の展開次第では「.bz」や「.cc」も使えなくなったり、新たなミラーサイトが立ち上げられる可能性もあります)。そのサーバーは、アメリカの司法の力が及ばないロシアにあるようです。 Sci-hub(サイハブ)は、いまでは50万件もの論文を収録しているといわれています。ただ、Sci-hub(サイハブ)にはどれくらいのユーザーがいるのか、彼らはどこにいるのか、彼らはどんな論文をダウンロードしているか、といったことは明らかではありませんでした。 Sci-Hub(サイハブ)を利用しているのは誰か ジャーナリストのジョン・ボハノンは、エルバキャンからSci-hub(サイハブ)の詳細なログ・データを提供してもらい、その分析結果を『サイエンス』で「海賊版論文をダウンロードしているのは誰だ? みんなだ」という記事にまとめています。 その記事は、2015年9月から2016年2月までの6カ月間で2800万件ものダウンロードがあったこと、最もダウンロードが行なわれた国はテヘラン、インド、中国であり、都市でいえばテヘラン、モスクワ、北京であったこと、その一方で、アメリカやヨーロッパ諸国といったいわゆる先進国でもかなりのダウンロード数があること、などを明らかにしました。 最も打撃を受けた出版社はエルゼビア社のようです。同記事は、最近の1週間だけで、エルゼビア社が発行するジャーナルに掲載された論文のダウンロードが50万件あったと推測しています。 少し気になるのは、前述のように、ジャーナルへのアクセス環境が整っている先進諸国でも多くのダウンロードがなされていることや、2番目に多くダウンロードされている論文がオープンアクセスになっているものであるということです。同記事は次のように書きます。 Sci-hub(サイハブ)を批判する者のなかには、多くのユーザーが同じ論文に図書館経由でアクセスできるのに、サイハブを使っていることに不満を述べている…

第12回 カラーユニバーサルデザイン・日本から世界へ

国際学会でのプレゼンを成功させるには、聞き手を引きこむ英語スピーチに加え、見やすいスライド作りも重要な鍵となります。より多くの人に伝わりやすく・わかりやすい色覚 バリアフリー なスライドを作るために覚えておきたい「カラー ユニバーサル デザイン」について迫る連載シリーズです。 世界に先駆ける日本の「カラーユニバーサルデザイン(CUD)」の取り組みはどのような背景から生まれてきたのか、CUDO副理事長の伊賀公一氏と同副理事長の田中陽介氏にお話を伺いました。 色が「使える」条件 色をなぜ使うのか?色が「使える」から使うのだ、と伊賀氏は言います。モノクロが当たり前だった状況からカラー化を進めるには一定のコストがかかりますが、日本にはその経済力がありました。 また、日本には教育上の共通インフラのようなものがあり、色で情報を伝えることのできる素地がありました。色に意味を持たせる場合に必要な一定レベルの印刷技術や塗装技術もありました。つまり日本には、いろいろな意味で色を使える条件が(色弱者以外には)そろっていました。海外旅行に行くと、言語、文化、宗教の多様性を実感します。そのようななかで、公共のサインなどにはアイコンを使うのが最も確実であって、色分けしておけば情報が伝わるという認識はほとんどないといいます。 「左利きと何が違うの?」 一方、日本の小学校では2002年まで全員に色覚検査を行っていました。これは世界に類をみないものです。また、色弱者にはかなりの職業の制限があり、身内からも黙っておくように言われることが普通でした。ひと昔前は左利きも修正されたことを考えれば、皆と同じであることがそれほどに重要だったということです。 田中氏によれば、米国では鉄道・航空など交通系や警察官の就職試験時に色覚検査が行われるものの、消防では行われなかったり、学校での一斉検査もないため、問題意識は低いといいます。特に西洋の文化は個人主義で、色覚についても個人の問題と捉えられているようです。実際、伊賀氏は 色弱 のイギリス人科学者に「左利きと何が違うの?」と言われたことがあるそうです。 日本発の成功事例になれば…

生物医学 公表された論文の4%に画像の複製あり

スタンフォード大学の微生物学者エリザベス・ビクらは、1995年から2014年までの間に生物医学分野のジャーナル40誌で公表された論文、合計2万621本を2年間かけて調べました。彼女らの目的は、同じ論文のなかで、別の実験結果を示しているはずなのに同じ画像が使われていないかどうかを探すことでした。 ビクは画像の複製(使い回し)を見つけると、2人の同僚にクロスチェックさせました。2人とも微生物学者です。 その結果、全体のうち3.8%に、そのような画像の複製が含まれることがわかりました。しかし画像の複製があっても、研究不正とは限りません。単なるミスである可能性もあります。ビクらは画像を精査した結果、「少なくとも半分は、意図的な操作を思わせる特徴を示している」と主張しています。 しかしその比率はジャーナルによって異なるようです。たとえば『国際腫瘍学ジャーナル(International Journal of Oncology)』に掲載された論文では12%でしたが、『細胞生物学ジャーナル(Journal of Cell Biology)』では0.3%でした。『細胞生物学ジャーナル』では2002年以来、採択した論文の画像を、出版する前に体系的に検査するようになったといいます。 また問題のある画像を含む論文の比率は、この10年で著しく増えていることもわかりました。さらにインパクトファクターが高いジャーナルは、一般的にいって、画像の複製がある比率が低い傾向があることもわかりました。 ビクらは、 問題のある画像複製の頻度がジャーナルによって著しく違うということは、たとえば公表前に画像を検査するといった、ジャーナルにおける実践行為が科学文献の質に影響していることを示唆する。 とまとめています。彼女らの調査結果は生物医学分野のプレプリントサーバー『bioRxiv』に投稿された段階で『ネイチャー・ニュース』で報じられた後、2016年6月7日、オープンアクセスジャーナル『mBio』に掲載されました。 一方で、この調査には限界もあります。この調査は、同じ画像が同じ論文のなかで使い回されているどうかを調べたのですが、同じ画像が別の論文に使い回されているかどうかを調べてはいないからです。…