学術界を知る

【千葉大学】泉 康雄 教授インタビュー(前編)

各大学の研究室に訪問し、研究者たちにおける英語力向上の可能性を探るインタビューシリーズ。六回目は、千葉大学の泉康雄教授にお話を伺いました。英語で話すことは得意という先生でも、口頭発表の前には台本を作り、しっかりと練習されるそうです。 ■研究室で扱っている専門分野、研究テーマを簡単に教えてください。 固体表面の触媒、特に環境をよくする触媒が研究対象です。固体の表面に付着する、二酸化炭素等の環境に負荷を与えるような物質を有用な物質に変える反応を研究しています。 ■英語での論文執筆で苦労した経験はございますか。 御社のような英文校正サービスが利用できるようになる前は、投稿した論文が、内容以前に英語がジャーナル掲載のレベルに達していないという理由で却下されると、やはり苦労しましたね。まだ英語のチェックを今ほどうるさく言われなかった時代でしたが、自分で書き直したり、ネイティブチェックをしてくれる人を探したり、大変でした。 ■英語での口頭発表はいかがですか。 私は割と話すのは得意なのですが、聞き取りはそれほどではないんですよ。欧米形の英語だとわかりますが、英語にもいろいろありますから。この間もアメリカの学会で、韓国系の英語で質問されて苦労しました。 ■発表の前にやはり練習はされますか。 重要度によりますが、最近は台本をしっかり作ってちゃんと練習しますし、コンテンツにもしっかり説明を書き込みます。 アメリカの研究者にも、コンテンツに丁寧に説明を書いてくれるタイプと、図表だけを見せて残りは自分で話すタイプがいます。一般的にどちらがいいかはわかりませんが、聞き取りやすいのはやはりちゃんと書いてくれている人ですね。そうやってちゃんと書く人の発表は、緻密でわかりやすいように感じます。写真やグラフだけを出して長々と話されても私の 聞き取り 能力ではなかなか難しい。昔はカセットテープで何度も何度も聞いたりして勉強していました。 ■周りの研究者の方々も英語では苦労されているご様子ですか。 私も決して人に何か言えるレベルではないですが、今は以前より大変そうな感じがします。昔は英語を書くときには紙の辞書をいちいちめくっていましたが、時代の流れというか、今はパソコンに日本語を入力するだけで翻訳が出てきます。 便利ですが、それにみんな慣れているせいか、昔と比べて語彙が乏しい人が多いように感じます。ツールに頼りすぎている分、発表の際の質疑応答など、ツールが使えない状況では大変な思いをするのではないでしょうか。…

間違いやすい用語や表現 – from

「from」は日本人学者によってしばしば誤用される前置詞の一つです。ここでは、特によく見られる誤用の典型例を列挙し、その修正文を挙げます。 (1) [誤] The behavior described in the previous section is constrained from the (1)…

追試研究 をより高く評価しよう

この連載でもたびたび伝えているように、科学の世界では、論文に書かれているものと同じ材料を用意し、同じ方法で実験しても同じ結果が出ないことがずっと問題になり続けています。このことは「再現性の危機」と呼ばれることもあります。 問題になり続ける理由の1つとして、研究の追試(再現実験)が重要視されていないということがあります 。たとえ科学者が他人の論文に書かれた研究の追試を行っても、新しい知識がもたらされるわけではなく、彼らにとって何の利益にも実績にもならない、したがって追試をしたりその結果を発表したりする動機がなかなか生じない、と捉えられているようです。 そればかりか、後述する『ネイチャー』の社説は次のように指摘します。 多くのジャーナル(学術雑誌)は、追試研究を 評価することを拒んできた。また科学者の多くは、もし(追試の)結果が(もとの実験結果と)一致しなかったとき、諍いが起こるようなことをしたいとは思わない。そのため内情に通じていない科学者たちは、袋小路を探索することで時間を無駄にするか、もしくは本当に展望のある研究に対して疑い深くなってしまうかである。 このことに対して、科学コミュニティも手をこまねいているわけではありません。 たとえば今年7月19日、オランダで、世界で初めて国が追試に助成金を支出するプログラム「リプリケーション・スタディーズ( 追試研究 ))」が開始されることが発表されました。このプログラムは、社会科学や医学研究、医療イノベーション分野における重要な研究結果を再現できるかどうかを検証する科学者のために、今後3年間に渡って300万ユーロを支出するものです。 この実験的なプログラムは「オランダ科学研究機構(NWO)」が始めました。NWOはオランダ最大の予算支出機関で、大学や研究機関における研究プロジェクト6000件以上に、毎年、7億ユーロを投資しています。 NWOは「このプログラムによって科学におけるイノベーションを促進し、研究者たちが追試を実行することを促したい」とその目的を説明しています。 プレスリリースや『ネイチャー』の別の記事によれば、このNWOの実験的なプログラムは、科学や政策、国民的な論争に大きなインパクトをもたらす「土台的研究(Cornerstone research)」を追試することに焦点を当てる、といいます。土台的研究とは、しばしば引用され、後続の研究に幅広く影響する結果を出しており、政策を決定するのに重要な役割を果たす研究、とNWOによって定義されている研究です。「この意味で、関心を集めている研究結果の再現性の検証は、とりわけ重要なのです」とNWOは述べます。 NWO運営委員会のヨース・エンゲレン議長は、毎年8件から10件のプロジェクトに予算を出すことができると予想している、と、先述した『ネイチャー』にコメントしています。…

翻訳者のシゴト論 – 第4回 K・Kさん

Profile K・Kさん 翻訳者としての経験年数:5年 専門分野:IT、ビジネス、観光・ホスピタリティー、一般 英語を習得するために、これまでどのようなことをされてこられましたか? 義務教育および高等教育の後、ベルリッツ英会話学校へ行ったことがきっかけでロンドンへ語学研修に行き、海外旅行も毎年行きました。また、資格試験の受験と英会話を継続して、オーストラリアへ留学しました。ウェブと書籍で教材を見つけ、独学もしました。今でも、人の翻訳と自分の翻訳を比較して反省しながら技術を磨こうと努力しています。 その中で特に翻訳者としてのお仕事に役立っていると感じられること、もしくはツールはありますか? 多くの場合、語学の勉強と翻訳は別物だと思います。自分の場合、仕事をしながら翻訳のスキルを身につけています。翻訳者のウェブコミュニティーで仕事をしているので、他の翻訳者の添削をしながら学ぶこともあります。また、顧客からの指摘はいつまでも頭に残っており、常に念頭に置いて仕事をしています。ツールと言いますか、Linguee.jpは訳語のデータベースとして役に立ちます。 また、日頃からオンラインのニュースを読み、著者の言葉の使い方を自分なりに評価することも良いと思います。 英語の習得以外で、翻訳者としてのお仕事に良い影響を与えていると感じられることはありますか? インターネットは、計り知れないほど自分の仕事に影響を与えています。先ほど触れたオンラインの訳語辞典や、ウィキペディアなどに支えられて仕事をしています。これがなければ、今頃、 翻訳 で生計を立てられていないのではないでしょうか。 翻訳者として英語と向き合う際に、一番難しいと感じることは何ですか? 原文の誤り、コンテキストが不明、知識不足、翻訳辞典で必ずしも訳語が見つからないことなどです。また、私事ですが、欧米の会社と仕事をしているのでオーストラリア時間の昼間にあまり仕事がなく、夜になって仕事が立て込んでくるところです。…

【上智大学】黄 光偉教授インタビュー(後編)

各大学の研究室に訪問し、研究者たちにおける英語力向上の可能性を探るインタビューシリーズ。五回目は、上智大学の黄 光偉(ホアン グアンウエイ)教授にお話を伺いました。インタビュー後編では、英語を「実際に使って」上達させる重要性についてお話くださいます。 ■日本人の研究者が英語力を鍛えていくためには、どういう方法が一番効果的だと思いますか。 簡単です、英語をもっと使えばいいと思います。使えば必ずレベルアップできますから。 留学も効果的ですが、 留学 するためにはいろいろ条件があり、誰でも行けるとは限りません。留学に行かなくても、日本国内で英語力は身に付けられます。 上智大学は昔から英語教育を重視しています。例えば国際教養学部では、学部生の時から授業は全て英語です。数年前から始まった総合グローバル学部も、授業の多くが英語です。私の研究科には一般コースと国際コースのふたつがあり、一般コースは日本語で授業を行い日本語で論文を書きますが、国際コースは基本的に英語で授業しますし、修士論文も必ず英語で書かなければいけません。英語が上手な学生が多く在籍しており、周りの学生にも波及効果があると思います。 今後は国際コースを更に強化しようという構想もあります。そうすれば間違いなく英語によるコミュニケーション能力、文章力も相当向上するはずです。 また、教員の評価基準のひとつとして、論文は日本語で書くよりも英語で書いた論文が高く評価されるという制度が、上智大学でももうすぐ始まります。そういう評価システムが若手の研究者にも適用されれば、初めから英語でどんどん書いていくようになると思います。 ■そうなると他大学と差が付きそうですね。 私は東大で学位を取りましたが、在籍中、指導教員とは基本的に日本語を使いませんでした。博士のプログラムでは、指導教授とのディスカッションや研究室のゼミでは全て英語でした。日本語を使ったのは「おはようございます」くらいでしたね。 ■英語を話す環境にどれだけ身を置くかということが、やはり大事ですね。 東大の学生時代、最初はそれほど英語が上手ではなかった先生方が、英語で教え続けることで先生自身の英語も上達されていることに、よく気づきました。…

再現性確保のため、研究不正に対する取り組みを

ある研究結果について、「再現性があるかないか?」ということと、「研究不正があるかないか?」ということは、まったく別のことです。再現性がなくても、そのことは必ずしもその研究に不正(捏造、改ざん、盗用など)があることを意味しません。単に確認が不十分であったからだとも考えられます。 しかしながら、「再現性のなさ(irreproducibility)」の原因として、研究不正は無視できない一因であるということを、コロンビア大学の名誉教授で精神医学を専門とするドナルド・S・コーンフェルドらは今年8月31日付の『ネイチャー』に寄稿した「研究不正を無視するのをやめよう」という論評で強調します。 再現性のなさは、2つの要因の産物である。1つは不完全な研究行為であり、もう1つは研究不正である。われわれの見解では、科学を向上させるために現在行われている取り組みは、2つめの要因を軽視している。 たとえば、2014年、アメリカ国立衛生研究所(NIH: National Institute of Health)のフランシス・コリンズ所長は、「わずかな例外を除いて、再現性のなさの原因が研究不正であることを示唆するエビデンスはない」と同じ『ネイチャー』誌上で述べました。 アメリカの政府機関で、研究不正を取り締まる役割を持つ「研究公正局(ORI: the Office of Research Integrity)」によって、再現性のなさが問題となったケースで、研究不正を行ったと認定される研究者は年間わずか10〜12人です。しかし、 研究不正の果たしている役割を軽視することは、誤りであり、残念なことだ。最善の場合でも、…

翻訳者のシゴト論 – 第3回 R・Sさん

Profile R・Sさん 翻訳者としての経験年数:8年 専門分野:言語学、自然科学 翻訳者として英語と向き合う際に、一番難しいと感じることは何ですか? 訳者の介在を最小限に留めることです。 「内容をわかりやすく伝えること」と「原文の著者が書いたことをそのまま翻訳すること」は異なり、クライアントが何にプライオリティを置いているかを見極め、そのバランスを取るのが難しいです。翻訳の目的をあらかじめ明確に知らせてもらえると大変助かります。 クライアントと直接話すことができない場合、翻訳が仕上がった後に「思っていたのと違う」と言われることもありますので、原稿のバックグラウンドを事前に把握しておくことが特に重要です。 日本人研究者が英語のスキルを伸ばすためにはどのような訓練・教育が必要だと感じていますか? ご自身が翻訳者となるために英語を勉強された経験を交えてお教えください。 読む、書く、話す、聞く、の4技能を継続的に行うことです。 言語習得は筋トレのようなもので、継続的に英語に触れ、使用し、鍛えることによって獲得されるので、常に頭を鍛えておくことが重要です。 身近なトピックや興味のある事柄について、ニュースや論文など様々なメディアを通して、常時、英語に触れるようにすると良いと思います。 継続的に努力し続けていても、実力が向上していると感じられない踊り場的な時期もありますが、そこで諦めてしまうと次のステップには行けません。昨日今日というタイムスパンではなく、数カ月前にできていなかったことがストンとできるようになっていると感じることもあります。 翻訳者としてのあなたにとっての座右の書を挙げてください。 (1)『A…

【上智大学】黄 光偉教授インタビュー(前編)

各大学の研究室に訪問し、研究者たちにおける英語力向上の可能性を探るインタビューシリーズ。五回目は、上智大学の黄 光偉(ホアン グアンウエイ)教授にお話を伺いました。インタビュー前編では、大学教育における学生への英語指導方法についてお話くださいます。 ■先生の研究室で扱っている専門分野、研究テーマを簡単に教えていただけますか。 主に水環境です。治水の問題、河川、湖沼、水質汚濁の問題、水資源のマネジメントなど、水をめぐるさまざまな研究を行っています。新潟の佐潟、千葉の手賀沼・印旛沼、東京の多摩川などを調査しています。 また、治水の研究も行っています。最近は気候変動の要素もあり、水を完全に川の中に封じ込める、あふれさせないという従来のやり方には限界が見えてきており、新しい方法が求められています。もはや川だけで考えて水を封じ込めるのは難しく、氾濫許容型の治水など、流域のスケールで水と共生する方法が求められています。 ■英語論文の執筆や学会発表、共同研究などの場で、英語で苦戦した経験はありますか。 学生時代に英語を勉強したときはいろいろ努力しましたが、今はもう慣れましたね。 ■研究室で先生が指導されている学生さんの英語力については、どのように感じていらっしゃいますか。中国と日本とで、研究者や学生の英語力について何か違いを感じますか。 中国の大学の学生がみんな積極的に英語を使うのに比べて、日本の学生は文法はよく勉強していると感じますが、あまり実際に使おうとしないですね。文章はきれいに書けますが、コミュニケーションの英語力が弱いように感じます。 英語で話すのが得意ではない学生は、ディスカッションで苦労しますね。質問になかなか自分の言葉で答えられない場面をよく目にします。 ■そういうとき、学生さんはどのようにトレーニングするのでしょうか。 努力に努力を重ねるしかありません。まずは一般の論文を積極的に読んで、自分の中に言葉をたくさん取り込むことが大切です。そうしないと、単語を羅列するだけのブロークンイングリッシュになってしまいます。たくさん言葉を取り込んで、量から質を生むわけです。専門の論文を多く読むことで、専門用語は身に付きます。 その上で、積極的に研究室のゼミや授業でプレゼンテーションをやるのが有効です。ゼミでは基本的に、みんな一緒にディスカッションします。そうすることで相互作用が生まれます。 ■学生さんが英語で論文を書くときには、どのように指導されますか。…

such thatとso thatの違い【意味と構文を解説】

「such that」と「so that」はよく混同されます。ここでそれぞれの表現の正しい用法を説明します。 so that の意味と使い方 「so that」は、副詞として「for that purpose」や「in order that」のように意図を示す場合と、「with the consequence that」や「and…

翻訳者のシゴト論 – 第2回 K・Sさん

Profile K・Sさん 翻訳者としての経験年数:5年 専門分野:遺伝学、ゲノミックス、神経生理学 翻訳者として英語と向き合う際に、一番難しいと感じることは何ですか? 原文を尊重しながら英文らしくすることです。 日本人の文章は独特の長い言い回しが存在します。いったいどこまで一文が続くのだろうと思うものが多々あります。 不必要な部分を削除して簡単にした方が良いと思われる事がよくありますが、あくまで原文を尊重するという視点ではそれができず、もどかしいです。 以前、意味が取りにくい日本語論文の英訳を依頼されたとき、原文の日本語を編集してから翻訳したことがありましたが、お客様から「原文にある日本語が翻訳されていない」とクレームがついてしまいました。それ以来、どんなに原文がわかりにくくても、あくまで原文に忠実に翻訳するようにしていますが、逐語的に訳すのではなく、「作者は何を言いたいのか」ということを翻訳する前によくよく考えて、それをふまえて英語としての論理性を備えた翻訳を心がけています。 日本人研究者が英語のスキルを伸ばすためにはどのような訓練・教育が必要だと感じていますか? ご自身が翻訳者となるために英語を勉強された経験を交えてお教えください。 論理的で、簡潔な日本語の文章を書くこと 驚かれるかもしれませんが、これができれば英語にするのはグンと楽になります。アメリカの子供たちは幼稚園からすでにwritingを毎日教えられます。日本でいう国語の時間は基本的にwritingです。その際にどのような構成で文を書けば良いかと言ういわゆる「ひな形」が与えられ、それにそって文章を書きます。それはその後、大学生、大学院生になっても使います。残念ながらこれがないのは日本の教育システムの弱みです。 私が日本語の論文を英訳するとき、原文に長すぎる一文があるときは短く切って、全体としてのテンポを重視した訳文を作成するよう心がけています。内容を問わず、ダラダラとテンポの悪い文章はそれだけで読者の集中を阻害してしまい、最後まで読んでもらえません。 名論文を真似すること スポーツを習得するとき、憧れの選手の真似から入ります。私の幼少期は王選手の1本足打法でした。自分の分野で成功している人の発表論文で、自分が真似したいものを数点みつけ、声を出して何度も読んでみる。そうするとその人独特の英語のリズムが掴めてきます。良い論文は論理の展開が美しく、中学英語に毛が生えた程度の易しい英語で書かれています。…