学術界を知る

論文の構成要素 – イントロダクション

論文のイントロダクションは、本文の最初の部分であり、論文全体の内容を理解するために必要とされる予備知識を提供する部分です。個別のセクションに区切られる論文であれば、イントロダクションは「Introduction」という見出しの一つのセクションになることが一般的です。 イントロダクションが果たす主な役割には以下の項目があります。 (i) 論文の背景を示します。つまり、当研究が、どの分野に分類されるのか、そしてその分野においてどこに位置付けられるかを明確にします。 (ii) 研究の動機を述べます。要するに、なぜこの研究を行う意味があるかを説明するのです。 (iii) 研究の目標を示します。つまり、今回の研究でどのような進展を目指しているかを明らかにします。 (iv) 研究法を簡潔に記述します。具体的には、目標を達成するためにどのような方法によって解を与えようとするかを概説します。 (v) 結果を簡潔に述べます。 (vi) 結果の重要性を手短に論じます。特に、この結果が研究分野の進展にどのように貢献するかを明らかにします。 概して、これらの項目の記載順は上の通りになります。以下にそれぞれの役割について、もう少し細かく説明します。…

【順天堂大学】西岡 健弥 准教授インタビュー(前編)

各大学の研究室に訪問し、研究者たちにおける英語力向上の可能性を探るインタビューシリーズ。九回目は、順天堂大学の西岡健弥准教授にお話を伺いました。前編では、ご自身の経験をもとに、英語論文の執筆力向上についてお話くださいます。 ■先生の研究室で扱っている専門分野を教えていただけますか。 私の専門分野はパーキンソン病と、関連の遺伝子の研究です。16年間研究をしていて臨床遺伝学がバックグラウンドになっています。それ以外の臨床上の事柄も研究対象です。2008年から2年間、フロリダのメイヨークリニックに留学しており、パーキンソン病と遺伝子の研究をやっていました。 ■英語論文の執筆や学会の発表の場等で、英語で苦労した経験をお聞かせいただけますか。 苦労は、もう日々、すべてです(笑)。最初の頃や留学中は先生たちに全部手直ししていただいたので自分の英語の学力の問題が表面に出ることはありませんでした。しかし、帰国して自分が論文を作る立場になった頃から壁を感じ始めました。それまでいかに先生方からサポートしていただいていたかを痛感しました。指導いただいた経験をもとに自分なりのものを出していくことに今なお日々奮闘しています。 ■研究室の方々や共同研究者も苦労されていますか。 皆さん、あまり表面には出さない感じはします。 ■若手の研究者や学生は英語の執筆力をどのようにして鍛えていくのでしょうか。 若い先生が英語論文を1本を書く。これは相当大変な作業になります。僕は今、3名の大学院生を指導していますが、なぜ自分がその研究をやるのか、論文を出していくのか、そういう動機が不明確のまま大学院に入る学生さんと、明確にできている学生さんとの間には差があると思います。モチベーションが全然違うとなると、論文を作る作業に耐えられるかどうかにも関わってきます。 まずこのモチベーションが第一だと思います。それはなんでもいいと思います。僕の場合ですが、もともとは医学生のころから病理やDNA、RNAといった世界観が単純に好きで、さらに研究がしたい、留学経験を通して世界中の研究者とつながりたいと思っていました。だからがんばってデータを出そう、 論文 を書こうと、大学院生のときはやっていました。やはり最初に明確な動機がないと、いろいろとうまくいかないのかなと思います。ただ箔を付けたいので、大学院に行ってみましただと、なかなか続かないかと思います。 次に英語の基礎学力の大切さはあると思います。TOEICで700点以上、あるいは英字新聞をある程度読める、それぐらいの英語力がないと、基本的なことが理解しにくいし、書くといってもいきなり書けない。そこの壁はあると思います。 医学部受験まではがんばってみんな英語を勉強しますが、いざ大学に入るとあまりやらなくなり、研修医になると余計やらなくなってしまう。結果としてやらない期間が10年ぐらいあった上で、この研究の世界に入って来ます。きっと昔はできていたはずですが、それができなくなって研究に入ってくる。ここでちょっと大きな壁が1つできます。 だから、英語の環境は維持しておかないといけないと思います。苦手だ、無理だと言ってばかりではだめで、英語のサイトを見たり英語のニュースを見たりするなどして、常日頃から英語にふれておく必要はあるかと思います。さあ、サイエンスの世界で英語をやろうとなったときに、実は相当な壁があり、四苦八苦することになります。…

捕食ジャーナルのリスト「ビールズ・リスト」閉鎖

いわゆる捕食ジャーナルや捕食出版社のリストとして知られる「ビールズ・リスト(Beall's List)」が、予告なしに閉鎖されました。2017年1月15日のことだと推測されます。 本誌「捕食ジャーナル-倫理学分野にすら登場」でもお伝えしたように、学術界では「捕食ジャーナル(predatory journals)」や「捕食出版社(predatory publisher)」が問題になっています。捕食ジャーナルとは、掲載料さえ払えばきわめて甘い査読のみで、どんなひどい論文でも掲載してしまうオープンアクセスジャーナルのことで、捕食出版社とはそのジャーナルを発行する出版社のことです。そのいい加減さは、存在しない研究機関に所属する存在しない研究者の名前で、意味のないデタラメな文章を投稿しても、採択されてしまうことがあるほどです。そのため捕食ジャーナルは、疑うことを知らない若い研究者を掲載料目当てに食い物にしている、と批判されてきました。 コロラド大学デンバー校助教授で図書館員のジェフリー・ビール(Jeffrey Beall)は2010年、趣味で、捕食ジャーナルと捕食出版社のリストを作り始めました。ビールズ・リストは彼のウェブサイト「学術オープンアクセス(Scholarly Open Access)」の目玉コンテンツでした。 捕食ジャーナルの影響は大きく、フィンランドの研究者らが2015年に発表した調査結果によると、2010年から2014年の間に「捕食」出版が急増し、ビールズ・リストに挙げられているジャーナルに掲載された学術論文の数は、ほぼ10倍近くまで増加したといいます。ビールズ・リストは随時更新されており、今年1月の最新の更新では、1000誌以上の捕食ジャーナルと1000社以上の捕食出版社がリストアップされました。 当然ながら、出版社のなかには、このリストに載せられることに抵抗してきたところもあります。ビールに対して高額の損害賠償を求める訴訟をほのめかした出版社もあります。 ビールはいまのところ、リストの閉鎖に関してどのメディアの取材も拒否していますが、コロラド大学デンバー校の広報担当者は、ビールは訴訟やハッキングではなく、「個人的な決断」によりリストを閉鎖したと各メディアに説明しています。また、ビールはコロラド大学デンバー校の教員として継続勤務するとのことです。 『サイエンス』誌のブログ『サイエンス・インサイダー(ScienceInsider)』などによると、研究者と出版社などをつなぐ学術関係のサービス・プロバイダであるCabell’s Internationalという会社がビールをコンサルタントに迎えて 捕食ジャーナル…

査読者が査読対象を盗用 − 「著者にとって最悪の悪夢」

学術情報のニュースサイト『リトラクション・ウォッチ』は、毎日、学術界にとってはあまりうれしくない情報を発信していますが、その同誌が「著者にとって最悪の悪夢」と呼ぶ事態が起きたようです。 2015年6月、タフツ大学メディカルセンターのマイケル・ダンジンガーらは、5年かけて実施した研究の結果を原稿にまとめて、『内科学紀要(Annals of Internal Medicine)』に投稿しました。しかし、その原稿は査読者によって却下されました。ダンジンガーは自分の論文がほかの研究者たちの論文で引用されていないかどうかを探していたとき、『EXCLIジャーナル』に、自分たちの原稿とほとんど同じ内容の論文が掲載されていることを発見し、2016年8月、そのことを『内科学紀要』に連絡しました。『内科学紀要』のクリスティン・レーン編集長は、その論文の共著者の1人に、ダンジンガーらが投稿した原稿の査読者がいることに気づき、その人物に連絡しました。連絡を受けた人物は盗用を認めました。レーンは『EXCLIジャーナル』の編集者にそのことを知らせ、同誌は、2016年9月にその論文を撤回しました。 つまり、査読者が査読対象の原稿を却下しておきながら同時に盗用し、自分自身の研究結果として発表していたのです。 2016年12月、『内科学紀要』は、ダンジンガーが盗用者に宛てた手紙を掲載しました。これは彼が実際にその「査読者/著者」である人物に送ったメールを修正したものだといいます。同時に、レーンの名前で書かれた論説も掲載されました。 ダンジンガーの手紙は「親愛なる盗用者様 私たちの原稿を盗んで自分の論文として公表した査読者への手紙」と題され、「ドクター博士(Doctor Dr.)」宛てに書かれています。 あなたは私たちの原稿の外部査読者として働いてから数カ月後、同じ原稿を別の医学誌で公表しました。あなたは著者名や所属機関を削除し、あなたの共著者やあなたの所属機関の名前に置き換えました。 彼は、自分たちが5年もかけて研究を計画し、被験者を集め、データを収集・分析したにもかかわらず、そうした「少なくとも4000時間の労働の結果」が簡単に 盗用 されてしまった事実を書き記しています。「あなたが確実に知っているはずであるように、窃盗は間違ったことです。科学研究では特に問題です」。そして盗用をした者は、評判や職位、研究費を得る資格などを失うことを、優しく諭します。 あなたがなぜそんなリスクを取るのか、理解することは難しいです。 あなたが医師や科学者になるために、懸命に勉強したことは間違いありません。私はあなたが多くの研究論文を発表したことを知っています。そのことは意味を持ちません。論文を公表することへのプレッシャーがあまりに強いかどうか、あなたが働いている地域や分野の文化が寛容であるかどうか、そのような盗用が真剣に受け止められないのか、あるいは発覚する可能性が低いかどうかにかかわらず、あなたがそんな機会を利用する理由を想像するのは難しいです。あなたが将来、ほかの誰かの研究を盗まないことを希望します。…

間違いやすい用語や表現 – against

前置詞「against」は日本人学者によって過度に使用され、最もよく誤用される語の一つです。誤用の原因として、「against」が「に対して」の誤訳になっていることが多いと思われます。実は、「に対して」が「against」に対応する場合もありますが、「against」が訳語として全く不適切とされる場合が多いです。 以下は「against」の典型的な誤用を示します。 [誤] (1) These are “slowly” varying effects, against the previously described “rapidly” [誤]…

インパクトファクターのライバル – Citescore(サイトスコア)とは?

インパクトファクターのライバル – Citescore(サイトスコア)とは? ジャーナル(学術雑誌)の影響力(インパクト)を評価する指標として、「インパクトファク ター」が広く知られています。本誌は以前、このインパクトファクターには多くの問題があると指摘されていることを紹介したことがあります。 インパクトファクターとは、簡単にいえば、そのジャーナルに掲載された論文それぞれが過去2年間に引用された回数の平均値です。たとえば、2015年の『ネイチャー(Nature)』のインパクトファクターは41.456です。『サイエンス(Science)』は33.661、『セル(cell)』は32.242です。 12月6日、学術出版の大手エルゼビア社は、「サイトスコア(CiteScore)」という新しい指標を提供し始めたことを発表しました。 かつてはトムソン・ロイター社、現在はクラリベイト・アナリティクス社が提供するインパクトファクターは、約1万1000誌ものジャーナルをランキングしてきましたが、サイトスコアは、その倍の約2万2000誌を網羅しているといいます。 ただ、サイトスコアが意味することや計算の方法は インパクトファクター と似ており、基本的には引用された回数です。サイトスコアでは、1本の論文が過去3年間に引用された回数の平均値を示します。 エルゼビア社は、このサイトスコアを「ジャーナルの影響力について、より包括的で、より透明性が高く、より最新の見通しをご提供する新しい標準」だと紹介しています。 サイトスコアの最も大きな特徴は、いわゆる研究論文だけでなく、「社説(Editorial)」や「編集者への手紙(Letters to the…

名詞付加語の形

名詞付加語(noun adjunct)とは限定形容詞の働きをする名詞のことです。日本人学者が書いた論文では名詞付加語が誤用されていることをしばしば目にします。ここでその誤用の原因となる誤解を晴らします。 まず、以下を見てみましょう。 [正] I used to work in a shoe store. この用例中の「shoe」は名詞付加語となっています。ここで注目すべき点は、「shoe」が複数の靴を表しているにも関わらず単数形になっているということです。この文は名詞付加語の通常の用法を例示します。一般に、 名詞付加語 は、たとえそれが複数のものを表しているとしても、必ず単数形になるのです。…

科学を最も蝕んでいるのは「科学的詐欺」ではない!?

国内外で研究不正事件が発覚し続けています。「研究不正(研究活動における不正行為)」にもいろいろあるのですが、よく問題になるのは、存在しないデータをでっち上げる「捏造(Fabrication)」、データを都合よくねじ曲げる「改ざん(Falsification)」、他者のアイディアや文章を不適切に使用する「盗用(Plagiarism)」の3種類です。これらはその頭文字から「FFP」と呼ばれます。「科学的詐欺(scientific fraud)」と呼ばれることもあります。 しかし、研究者たちがFFP=科学的詐欺よりももっと深刻だと考えているのは、むしろ「 お粗末な科学 (Sloppy science)」や「疑わしい研究行為(Questionable research practices: QRPs)」などと呼ばれるものであることが指摘されました。 オランダにあるアムステルダム自由大学の疫学者マックス・エム・ブターらは、「科学知識の妥当性を脅かすとともに、科学者間の信頼に損害を与え、もしメディアで暴露されれば、科学への人々の信頼にも損害を与えるかもしれない」ものとして、「お粗末な科学」やQRPに着目して、研究者たちの意識調査を実施しました。 ブターらの調査対象になったのは、2015年にリオデジャネイロで開催された「第4回国際研究公正会議(the 4th World conference on…

限定修飾語句と非限定修飾語句

一般に、修飾語句には「限定」と「非限定」という二種類があり、両者間の違いを理解することは英語の基礎知識として不可欠です。 その違いとは、限定修飾語句が修飾される語句の意味に影響を与えるのに対し、非限定修飾語句はその意味に影響を与えないということです。 例えば修飾される語句が名詞であれば、非限定修飾語句はその名詞が指す対象について情報を加えることはありますが、修飾によってその対象自体を変えることはありません。 文法的には、限定修飾語句と非限定修飾語句はコンマの使用によって区別されます。つまり、非限定修飾語句の場合には、修飾語句と修飾される語句との間にコンマが入りますが、限定修飾語句の場合はコンマが入りません。 例文を見てみましょう。 (1) My dog, Cleo, is sleeping. (1') My dog Cleo…

【帝京大学医学部】長瀬 洋之 教授インタビュー

各大学の研究室に訪問し、研究者たちにおける英語力向上の可能性を探るインタビューシリーズ。八回目は、帝京大学医学部内科学講座の長瀬洋之教授にお話を伺います。どんなにつらくても自身の力で英語論文を書き続けること、そして、研究者同士がお互いに意識を持って英語力を鍛えあうことの大切さについてお話くださいます。 ■研究室で扱っている専門分野、研究テーマを教えてください。 呼吸器内科です。喘息、COPD (Chronic Obstructive Pulmonary Disease)、間質性肺炎などの呼吸器疾患全般を研究対象としています。 ■英語論文の執筆や学会発表、共同研究などの場で、英語で苦戦した経験はありますか? 自分が大学院生の時はなかなか英語が書けなくて、言い回しを他の論文から引用するなどして執筆に非常に時間がかかりました。英語の書き方セミナーのような系統立った仕組みは当時はな かったので、同じ研究室の仲間たちも苦労していました。仲間同士でブラッシュアップできれば良かったのでしょうけれど、そこまでの余裕がなかったですね。なので指導教員に英語を繰り返し添削してもらって、そのうちに言い回しを覚えていって少しずつ書けるようになっていって。 いざ自分が教員の立場になってみると、時間が取れないですし、学生が作った英語に赤を入れた後メールで戻して、という古典的なやり取りがなかなか大変でして、当時の指導教員の苦労を痛感しています。今思えば非常にありがたいことですね。 ■学生や若手研究者は、どのようにして英語での論文執筆力を鍛えるべきだと思いますか? まず、学会抄録や論文をたくさん執筆するのが一番重要だと思います。限られた時間の中で何本も論文を執筆することは容易ではないので、その他の学会発表、スライド作り、ポスター作りなどを自力で書いてみるのも大切です。どんなにつらくても、自身の力でやりきるしかないのではないでしょうか。 特に医学論文は専門用語が独特ですので、論文執筆レベルに到達するのは学部教育では無理でしょう。そうすると、大学院に進学して、自分で論文を書く機会が与えられて初めて学術英語に向き合うことになる。かなり苦労することになりますが、繰り返し訓練をするうちに、徐々に英語で抄録が書けるようになったりするんです。 ■英語での論文執筆や学会発表に対し、研究室にいる学生にはどんなアドバイスをしていますか?…