学術界を知る

「フェイク査読」が発覚したジャーナルは編集委員もフェイク!?

本誌では以前、「偽装査読」あるいは「フェイク査読」と呼ばれる不正行為の実例を紹介しました。そのなかで今年4月、大手学術出版シュプリンガー社が、同社が発行するジャーナル(学術雑誌)の1つ『腫瘍生物学(Tumor Biology)』に掲載された論文107件を、 フェイク査読 を理由に撤回したこと、そのことにはフェイク査読をコントロールしている業者が関係しているらしいことを紹介しました。 学術情報のニュースサイト『リトラクション・ウォッチ』によれば、『腫瘍生物学』は、論文の撤回数が最も多いとされている学術ジャーナルであり、しかも今回の撤回は、2015年、2016年に行われた大規模な論文撤回に続く3回目です。『腫瘍生物学』は、腫瘍・バイオマーカー国際学会(International Society of Oncology and BioMarkers : ISOBM)のジャーナルで、去年(2016年)まではシュプリンガー社が発行していましたが、現在は、SAGE社が発行しています。 しかしながら、『サイエンス』誌のニュースブログ『サイエンスインサイダー』によれば、『腫瘍生物学』の問題は論文撤回だけではなかったといいます。 このときに撤回された107本の論文はすべて、中国の研究者たちによるものでした。同誌は、研究者の論文発表を支援する専門業者がある役割を果たしているという「いくつかの証拠」がある、というシュプリンガー社の説明を紹介しています。ただ、撤回された論文の著者たちがそのことを認識していたかどうかはわからない、とのこと。 また、少なくとも1つのケースでは、撤回された論文の著者はそうした業者を利用していないし、「偽装査読者」を提案してもいない、と主張しているといいます。編集者が「偽装査読者」の連絡先情報をデータベースに保存していたため、このようなことが起こった可能性が指摘されています。…

学術ジャーナルのオープン化への流れは止まらない

学術出版は今なお伝統と実績を有した学術ジャーナルの独擅場ですが、オープンアクセス化への流れが止まりません。これは決して一過性の動きではなく、デジタル化、ワイヤレス化、オンライン化の流れは勢いを増しており、続々とプレプリントサーバーが新設されています。 今回は、社会学・社会科学分野に特化したオープンアクセスリポジトリ*1の『SocArXiv』を紹介しながら、最近の動きを追います。 ■ 学術ジャーナルと研究者 言うまでもありませんが、研究者は、自分の論文が、品格と定評、そしてきちんとした査読システムを擁するジャーナルに掲載されてこそ得られる影響力を認識しています。論文が学術界で正当に評価されなければ、執筆者である自身に対して、ひいては所属する大学や研究機関への評価も得られません。研究内容および執筆者への評価は、そのまま職の確保、資金獲得、研究者としての立場にも大きく影響します。 論文の学術ジャーナルへの掲載は、長年、研究成果の評価の一つとして認識されてきましたが、デジタル化が進む昨今、研究者たちは「より開かれたアクセス」を欲しています。研究成果をよりオープンにするとともに、公開された論文を自由に利用できる場を求めているのです。そこで登場したのが、オープンアクセスな電子ジャーナルのプラットフォームであり、この動きはプレプリントジャーナルにまで広がっています。 ■ 新たな参入者『SocArXiv』 プレプリントサーバーは、正式な査読や出版に先立って投稿された論文の閲覧(共有)、探索を可能にします。以下にそのメリットをあげます。 ・学術論文を迅速に無料でアップロードし、誰もが閲覧できるオープンアクセスにする ・所属にかかわらず誰でも登録できる ・永続的ID(識別子)を付けることで論文の最新バージョンにリンクさせることができる(著者はどの出 版社であれ正式に発表したバージョンにリンク付けすることができる) ・Google Scholarなどの検索ツールからアクセスが可能になる ・クリエイティブ・コモンズのライセンスを付与することも可能 ・登録ユーザ同士が投稿論文にコメントをしたり、論議したりすることができる…

ACS-KCS Excellence Award創設 栄誉ある最初の受賞者は

2017年4月24日、米国化学会(American Chemical Society; ACS)と韓国化学会(Korean Chemical Society; KCS)が3年間の連携協定を締結し、韓国化学界の優秀な研究者を表彰する賞としてACS-KCS Excellence Awardを創設したと公表しました。受賞者は、賞金とともに化学情報検索サービスSciFinderへの 3年間無料アクセスと、同じく3年の期限付きですが米国化学会(ACS)*1への登録が贈られます。このACS-KCS Excellence Awardは、ACSの情報部門であるChemical Abstracts Service(CAS)の資金提供を受けて設立され、韓国の化学分野における功績を表彰することで、研究の発展に寄与することをめざしています。ACSの専務取締役兼CEOのThomas Connelly…

【国際医療福祉大学 三田病院】朝本 俊司 教授インタビュー

各大学の研究室に訪問し、研究者たちにおける英語力向上の可能性を探るインタビューシリーズ。十三回目は、国際医療福祉大学三田病院の朝本俊司先生にお話を伺いました。脳神経外科医でありながら日本のスポーツドクターの第一人者でもある朝本先生。英語力を伸ばす最短の方法や、論文執筆の経験の大切さをお話し下さいました。 ■先生の専門分野、研究室の研究テーマを教えてください。 脳神経外科で、脊椎脊髄外科が専門です。 ■早速ですが、英語論文を執筆したり学会発表をしたりする際に英語でご苦労されたご経験はありますか? 中・高・大学のカリキュラムで学んだ程度でしたので、当初は苦労しましたね……。まず論文を書くにしても、基本的な文章の構成の仕方すらわからないので、色々な論文を読んで、使えそうな表現を持ってくるしかない。ある程度はそれで済むのですが、細かな言い回しとなると、そう簡単には書けませんよね。英文校正などを専門にしている会社の手を借りながら、何とかやってきたという感じです。 学会発表についてですが、準備の段階では、スクリプトをまとめて繰り返し読む。発表の約3ヶ月前から、ひたすらリピート。電車の中でもリピートします。そうして本番に臨むのですが、今でも苦労します。特に質疑応答になると、言いたいことがうまく伝えられないということがあります。 ■想定外の質問が出てくることもありますものね……。 たまに突拍子もない質問が出てくるので、「何を言ってるんだろう」と内心、首をかしげてしまうこともあります。聞く分には、テクニカルターム(専門用語)はわかるので内容は理解できるのですが、答え方に悩む。時間がないし、瞬時のリアクションが求められるので難しいです。お互いにネイティブじゃないと、厳しいですよね……。ボキャブラリーの量によっても左右されますね。 ■ボキャブラリーと言えば、先生はドイツ語もお出来になるそうですが、言葉で混乱されることはありませんか? ドイツ語のほうが得意なので、英語より先にドイツ語が出てくることがあります。英語がドイツ語から派生しているせいか、英語とドイツ語は頭の中で切り替えやすいんです。ただそれが困るところで、英語を話していてもドイツ語が突然ぽろっと出てくることがあって、けっこう厄介です。 ■「カルテ」をはじめ、医療用語にはドイツ語がいくつかあるので、ドクターはドイツ語を使用するイメージがあるのですが。 大昔の話です。僕よりも二世代、三世代前の時代にはドイツ語のほうが多く使われていたようですが、今の医学界は、ほとんど英語です。 ■ドイツ語は留学して習得されたのですか? はい。2000年から2002年まで留学していました。使わざるを得ない状況に追い込まれると、自然に身に付くものです。研究発表もドイツ語でやりましたからね。ですので、僕の場合はドイツ語より英語で困るケースが多いんです。 ■今までインタビューさせていただいた先生方には無かったケースです。…

エルゼビアが浮き彫りにした学術誌出版のコスト問題

2017年に入って、ドイツ、ペルー、台湾の研究者たちが、複数のオンライン学術ジャーナルにアクセスできなくなりました。それらのサイトとオランダの大手学術出版社エルゼビアとの2017年度のライセンス契約交渉が決裂、無契約状態になったため、エルゼビアの管理する何千というジャーナルへのアクセスが遮断されたのです*1。どうしてこのような事態に至ったのでしょうか? 学術ジャーナルの歴史 学術ジャーナルの歴史は、1665年に遡ります。この年、フランスで Journal des sçavans、英国でPhilosophical Transactions of the Royal Socieryが、それぞれ初めて刊行されました。19世紀になると、数々の学会が各々の学術誌を刊行していきました。その支えとなったのは会員からの会費・購読費収入で、この形態は現代でもあまり変わりません。 1926年、生物学の分野ではBiological Abstractsが他に先駆けて公刊され、それまでやみくもに古い文献を探るしかなかった研究者たちは、特定のトピックの記事に容易にたどり着けるようになりました。しかし1970年代までには、学術ジャーナルの数は膨大なものになり、現代ではインターネットでの検索が主流になりました。 時間が経つにつれ、学会などの諸組織は、ジャーナルの公刊作業を出版社に委託するようになりました。関係者有志による査読と編集作業に頼るのではなく、プロのライターや編集者などに多くの仕事を任せるに至ったのです。そうして数多くの学術出版社が生まれ、多様なジャーナルを出版するようになりました。 学術ジャーナルの購読負担が増大…

科学者たちの行進-科学を守るために今、起きていること

2017年1月にアメリカでトランプ新政権が発足しました。大統領が変われば国の政策も変わりますが、科学界にここまで大きな影響を及ぼしている大統領も、そういないのではないでしょうか。トランプ大統領は、選挙戦の時点から反科学的な姿勢を見せ、地球温暖化対策として世界が同意した「パリ協定」からの離脱も示唆していました。そして、就任早々に環境保護庁(EPA)への研究資金援助の停止を取り決め、EPAから発表する科学的な成果やデータを、政府が公表前にチェックするという方針も出されたのです。新政権は発足早々、科学コミュニティーの「制圧」に乗り出したと言えるのかもしれません。 科学コミュニティーに広がる不安 2016年9月、宇宙物理学者のスティーブン・ホーキング博士をはじめ375名の科学者が、パリ協定からの離脱を示唆したトランプ氏を警告する公式書簡に署名したことが、世界的に報道されました。それでもトランプ氏の意思はまったく揺らぐことなく、就任直後にホワイトハウスのホームページから気候変動に関するページを削除し、関係者を不安にさせています。その思惑は、温暖化対策に反対してきた石油大手エクソンモービルの経営者であったティラーソン氏を国務長官に、そして過去にEPAを相手取って訴訟を起こしたこともある温暖化懐疑論者のプルイット氏をEPA長官に任命したことからも読み取れます。パリ協定からアメリカが離脱するかの是非については、5月中にも判決が下されると噂されていますが、この人事を見る限り、科学コミュニティーの懸念は現実と化しています。 マーチ・フォー・サイエンス―科学のための行進 新政権の動きに対抗しようと科学コミュニティーに広がったのが、「マーチ・フォー・サイエンス」の呼びかけです。「Women’s March」という、女性の権利を守ろうと訴える行進が大統領就任式翌日の2017年1月21日にワシントンD.C.を中心に行われたのに倣い、科学研究や科学的な成果・データを守ろうと訴える「科学者の行進」をやろう、との声があがったのです(参照:https://www.marchforscience.com/)。 そして2017年4月22日、ワシントンD.C.のナショナル・モールをはじめ世界600か所以上で、集会や行進が行われました。TwitterなどのSNSを通じた呼びかけに応じて集まった人々が、「科学に基づく政策を」と声を上げたのです。折しもこの日は「アースデー」-地球環境問題に関心を持ってもらおうと、1970年にアメリカのネルソン上院議員が4月22日を”地球の日”と宣言したことから誕生した日-でした。地球環境を守る国際的な連帯行動の日に合わせて科学者の行進を行い、「健康・安全・経済・社会政策における科学の重要性と役割を守るムーブメントの最初のステップとしよう」と世界で訴えたのです。ワシントンでは、科学者ら1万人が参加。日本(東京)でも、日比谷公園から東京駅まで、150名ほどが集まって行進しました。 科学者の抵抗が始まった 科学者の行進は、アメリカおよび世界の科学者にとって記念すべき出来事となったことでしょう。科学コミュニティーは「科学」、つまり研究の積み重ねによって得られた成果を支持するよう訴えているのです。この行進の企画者の一人であるジョナサン・バーマン氏は、政府による政策決定は事実に基づいた評価を慎重に行ってからなされるべきだと述べています。過去の政策判断において科学が重要な役割を果たしてきたことを省み、現在の政策決定者にも同じように、客観性を重視する科学的根拠に基づいて判断を行うよう求めているのです。 また「マーチ・フォー・サイエンス」と連動する形で、4月29日にはワシントンD.C.をはじめとした全米各地で、トランプ大統領の環境政策に反対する抗議デモが行われました。環境活動家でもある元副大統領のアル・ゴア氏や俳優のレオナルド・ディカプリオ氏も参加し、各種報道で取り上げられました。科学者や環境問題に関心を持つ人々が、行動を通じて意思を示すようになってきているのです。 研究者か活動家か・・・ ただ、研究者が政治的な活動に関与しすぎることを懸念する声もあります。アメリカ科学振興協会(AAAS)、アメリカ細胞生物学会(ASCB)、視覚と眼科学研究協会会議(ARVO)など多くの科学コミュニティーがこの行進を支援していますが、通常なら政治関与を避けるこれらの団体が賛同を表明しているのは異例のことです。 この動きに対し、「トランプ政権が打ち出した衝撃的な2018年度の予算案を見て、研究室にこもっていることができなくなると気づいたからだ」と辛口な見方をする人もいるようです。確かに2018年会計年度の予算教書は、EPAだけでなくアメリカ航空宇宙局(NASA)、エネルギー省科学局、国立海洋大気局(NOAA)、国立衛生研究所(NIH)の予算も軒並み大幅に削減するという、科学コミュニティーに大打撃を与える内容です。 国立の研究所だけではありません。NIHの予算の8割が全米の大学・研究所の生物医学研究費として使われていると言われるため、今回の予算案がもたらすアメリカの科学コミュニティーへの影響は計り知れません。このような状況下では、今まで活動家(アクティビスト)の取り組みを遠めに見るに留まっていた研究者が、彼らと意識を共有し、デモに参加すると意思表示するのも、うなずけるのではないでしょうか。 科学コミュニティーの混乱は続く…

査読システムを欺き、自分の原稿を自分で査読!?

本連載では、どんないい加減な論文でも掲載料さえ払えば載せてしまう「捕食ジャーナル」や、どんないい加減な発表でも参加料さえ払えば発表させてしまう「フェイク・カンファレンス」を取り上げてきました。今回は、ジャーナル(学術雑誌)の査読システムを欺いて、著者が自分の原稿を自分で査読してしまう「偽装査読(peer review rigging)」の例を紹介します。「フェイク査読(fake peer review)」などと呼ばれることもあります。 2012年、『酵素阻害および医薬品化学ジャーナル(the Journal of Enzyme Inhibition and Medicinal Chemistry)』の編集者は、ある著者が投稿した原稿に対する査読に疑問を持ちました。査読の内容自体は、原稿を好意的に評価したうえで一部の修正を求める、という平凡なものだったのですが、疑問だったのはそれにかかる時間でした。いつもとても早く、24時間以内ということもあったのです。同誌のクラウディウ・スプラン編集長は、その著者に面会しました。その結果、韓国人であるその著者は、査読レポートを自分自身で書いていたことを認めました。 2014年11月26日付の『ネイチャー・ニュース』によると、からくりはこんな感じです。同誌を含めていくつかのジャーナルでは、論文の原稿を投稿した著者は、査読者を指名(提案)することができます。そのことを著者に義務づけているジャーナルもあります。この韓国人著者はそれを利用して、実在の研究者の名前や、ときには仮の名前を挙げておきながら、メールは自分や自分の同僚に届くようにして自ら査読を行っていたのです。この著者の告白によって、論文28件が撤回され、1人の編集者が辞任しました。 他の事例もあります。…

【駒澤大学】日野 健太 教授インタビュー(後編)

各大学の研究室に訪問し、研究者たちにおける英語力向上の可能性を探るインタビューシリーズ。十二回目は、駒澤大学の日野健太教授にお話を伺いました。後編では、研究者を目指す若手の方に向けてのメッセージと英語力向上への秘訣をお伺いします。 ■ 大学や大学院で英語論文の書き方や口頭発表の仕方を学ぶ機会は少ないと思いますが、研究者を目指す方は、それらをどのように鍛えていくのが良いのでしょうか? 博士課程の学生だと日本語で論文を書き、発表するだけで精いっぱいだと思いますが、少なくとも英語論文を読む機会はあると思います。そのとき、1回はきちんと声に出して読むことを薦めています。声に出して読むというのはシンプルなことですが、すごく役に立ちます。大学、大学院の両方で外書講読の授業を持っていますが、学生には必ず声に出して読んで来るよう強調しています。半年間やって上達する学生は、予習の際に真面目に声に出して読んでいます。やっているか、やっていないかで、明らかな差が出る。音読を継続することが、スキルアップにつながると思います。 ■ 今後、口頭発表をする学生へ、アドバイスがあれば教えてください。 「とにかく、やってみろ。1回は恥をかけ。」でしょうか。恥ずかしい思いをし、もっと頑張らねば、と思うことがないとダメだと思います。最初からうまくいくわけがないから、とにかくやってみなさいということですね。 5月にメキシコで開催されたIFSAM(2016年のメキシコ大会)に行ってきましたが、メキシコ人の若手研究者が必死に英語で発表しているのを見て、昔の自分を思い出しました。一生懸命にやっているのは見てわかりますから、最初からうまくできる必要はないと思います。 ■ 学会が終了した後などに研究者同士がネットワークを広げる機会があると思いますが、それも英語へのモチベーションにつながるのでは? 国際学会の懇親会などで海外研究者が積極的にネットワーキングしている中に日本人が飛び込んでいくと、なかなかの”アウェー”を感じます。世界の研究者は交流をけっこう大事にするらしく、コーヒーブレイクなどで気軽に話をしていますが、あのアウェー感はすごい。それでも、また行こうと思いますけど。 ■ あきらめずに目の前の機会に向き合うことが大切なのですね。若い先生方へのメッセージをお願いします。 就職した後の目標をどこに置くかを考えておくべきだと思います。私の場合は、学位論文を書くのが自分で作った「30代の上り坂」でした。現在は経営学でも学位を取ってから就職する人が増えています。そんな中で若手の先生たちは、国際学会で発表をし、その後に英語で論文を発表するとか、「30代の上り坂」を意識して作ると良いのではないでしょうか。 ■ 英語添削などのサービスを提供している会社に対して、「こんなサービスがあれば役に立つ」といったご要望はありますか? 書いて直してもらって、を繰り返せば論文執筆は絶対にうまくなると思います。自分はこう書いたけど、本当はこの書き方が正しいと示されることで、少しずつ言い回しが身に付いていきます。ただ、添削済みの原稿に英語の勉強法などをびっしり書かれても、人によっては消化しきれないかもしれません。少しで良いので、パーソナルなコメントが返ってくると、丁寧に見てくれているなとうれしくなります。例えば「あなたの英語はよくこういう表現を使っているけど、こういう表現のほうが良いんじゃないか」とか「これは、あまり学術論文では使わない表現です」といったように。そうしたコメントが付いていると、顔の見えない校正者の方への共感の念を抱くんです。 ■ 最後に個人的な質問ですが、先生の分野(経営学)だと、平均年何本の論文投稿をするのでしょうか? わかりません……。1本も書かない人もいるので、平均したら小数点の世界かもしれません。文系の研究者は本の執筆をしたり、翻訳をしたり、学術誌だけに寄稿しているわけでもないですしね。 今は洋書を日本で出版するための和訳を行っていますが、これは大学教授の伝統的な仕事の一つです。何人かで分担して作業を進めていますが、翻訳の質に個人差があるのは事実です。英語から日本語または日本語から英語の翻訳でも、文章を書いてみることで上手くなっていく、くらいのことは私の口からでも言うことができます。ただ、どのくらい書けば上達するかを正確に言うのは難しいです。年に2本仕上げられれば言うことないのではないかと思います。…

【東京大学発ベンチャー】 エルピクセル株式会社

「ライフサイエンス×ITで、研究界に革新を与えたい。」   STAP細胞論文の不正問題が世間で議論を巻き起こしているなか、今春には論文画像の不正検出ソフトを無料公開したというニュースがマスコミの注目を集めた。開発したのは今年の3月に設立された東京大学発ベンチャーのLPixel(エルピクセル株式会社)。 生命科学分野論文の使用画像に不自然な点を検出するソフトウェア「LP-exam」は、複数の手法を組み合わせて元の画像から9つの分析結果を出力し不正検出のサポートをするもので、国内外から高い関心が寄せられている。研究界で顕著となりつつあるビッグデータの問題に対し、世界トップレベルの技術で課題解決に挑む同社。 同時に、7月には研究者間での知識共有や交流のためのプラットフォーム「LP-Tech」をリリースするなど、研究者のための環境作りも進めている。その根底には、島原社長の「研究者のためによりよい環境を作り、研究の世界を切り拓いていきたい」という熱い想いがあった。 ■「学融合」で生まれた独自の技術 学部時代は遺伝子工学を学んでいましたが、生命科学分野では顕微鏡やMRIなど高度化・膨大化する画像データに画像処理・解析技術が追いついていない現状を目の当たりにし、何とかしたいと考えていました。そこで、大学院では異なる研究分野を掛け合わせて新たな領域を開拓する「学融合」を理念に持つ新領域創成科学研究科へ進み、生命科学と情報学の融合という独自の境地を切り拓くことに挑戦しました。 この先10年で全世界の情報量は数十倍になると言われているなか、研究界でのビッグデータへの対策は遅延しています。画像の処理・解析にかける時間や労力を最小限にできれば、より高度な研究に時間を割くことができます。 iPS細胞や遺伝子治療など、今後ますますライフサイエンスの時代を迎えるなかで、研究室で培った独自のアルゴリズムと最先端の技術を活用して研究界を変えていきたいという思いを抱き、創業に至りました。 ■画像不正問題は他人ごとではない メインの研究用画像解析ソフトウェア開発事業では、研究者の方々の要望に対しオーダーメイドで開発を行います。ソフト開発だけにとどまらず、それぞれの研究に対して有効な画像の撮り方から解析方法まで一貫したコンサルティングが私たちの強み。生命科学と情報学の融合という独自価値が高く評価され、創業時からスムーズに事業を進めることができています。 その折にSTAP細胞論文の不正問題に関する一連の報道が流れ、「これは他人ごとではない」という問題意識を抱きました。画像不正問題は、モラルの低下だけでなく制度疲労も原因の一つとして挙げられます。研究に使用する画像の質と数は劇的な進歩・増加している一方、画像が用いられた論文のチェック・レビュー体制は10年前とさほど変わっていない。現状を変えるためには双方の分野に熟知したオンライン版の開発と無料公開に踏み切りました。 無料公開にしたのは、より多くの人に使っていただくことで画像不正の問題を解決したいから。公開後は国内外から多くの反響をいただき、7月にはより高性能なオフライン版の販売を開始しました。今後は英語版も開発予定です。 ■研究者にとってよりよい環境作りへ 7月に、ライフサイエンス研究者向けのソーシャルメディア「LP-Tech」をリリースしました。「LP-Tech」では、ライフサイエンス領域における画像処理ノウハウの発信や、研究者同士の意見交換の場を提供しています。…

【駒澤大学】日野 健太 教授インタビュー(前編)

各大学の研究室に訪問し、研究者たちにおける英語力向上の可能性を探るインタビューシリーズ。十二回目は、駒澤大学の日野健太教授にお話を伺いました。組織におけるリーダーシップというテーマで理論・実証研究を進める傍ら、ご自身で翻訳作業も行っている日野先生から、論文を声に出して読んでみることが大事とのアドバイスをいただきました。 ■研究室で扱っている専門分野、研究テーマを教えてください。 経営学、特に経営組織論です。組織におけるモチベーションやリーダーシップが主要なテーマです。 組織と言っても、モノやサービスを生み出す企業やNGOなどの仕組みとしての組織を研究対象としていて、その中での人にまつわる問題を中心に研究しています。経営学と言いつつ心理学的な要素もあって、アンケート結果を統計分析することもあります。 ■英語論文の執筆や学会の発表、共同研究などにおいて、英語で苦労したご経験はありますか? 英語は決して得意ではなく苦手意識があったので、苦労しなかった経験はないです。教員になってから、外国語で発表してやろう、という気になったのですが、そもそも書き方がわからない。英語論文の本を買ってきて、参考にしながら書き始めました。表現方法を増やすという意味では、中学のころの英語の勉強のように「よく使う表現辞典」のような例文集をせっせと覚えるのも意外に大事です。ただ、プルーフリードに出すと修正されることがあるので、本に書かれているものがベストの表現だとは思いません。 論文は書き出しが特有で難しく、This paper examinesなどの書き出しすらわからずに悩むこともあるので、例文を見て参考にできるのは役に立ちました。 ■書き上げた英語論文は、英文校正業者やネイティブスピーカーに見てもらうのですか? 英語論文を長年執筆している同僚から薦められた英文校正会社に依頼したことはあります。知り合いのネイティブの先生に頼んだことはないですね。 ■研究発表でご苦労されたご経験はありますか? 口頭発表は2006年のベルリンが最初でしたが、あれは本当にきつかった。運悪く同僚らが聞きに来ており、かっこ悪いところを見せてしまいました。 唯一胸を張れるのは、きつくてもその後もめげなかったことですね。日本人研究者も多く参加するIFSAM(The International…