学術界を知る

【日本大学】袴田 航 准教授 インタビュー(後編)

各大学の研究室に訪問し、研究者たちにおける英語力向上の可能性を探るインタビューシリーズ。十五回目は、日本大学生物資源科学部 生命化学科の袴田 航先生にお話を伺いました。後編では、今の若い人たちは英語に接する機会がたくさんあるのだから、その機会を生かせば英語もできるようになるとのメッセージをいただきました。 ■ 普段はどのように英語に接しているのですか。 論文を読むことをはじめ、研究に関してはほとんど英語なので、英語に触れている、目にしている時間は長いと思います。最近は、SNS上の論文をスマホで読んでいます。 それでも、論文から収集しているのは化学の知識で英語ではありませんから、スラスラ書けるようにはなりません。わからない単語があれば調べます。今はインターネットを使えば、すぐに答えが出てきますよね。調べながら少しずつボキャブラリーが増えていればいいなと思ってはいますが、忘れるほうも多いです。話す機会は少ないですね。 ■ 今は英語を日常的に使用されていますが、中学・高校などで英語を学習し始めた頃には、英語に対する抵抗はなかったのですか。 抵抗やトラウマを持ったことはありませんが、当時、英語なんて使わないだろうと思いながら過ごしていたのは事実です。私たちの世代だと、外国人を見たことすらなかったですから。海外に行くなんて想像もできなかった。中学・高校の頃はこんなに国際化するなんて思っていませんでした。研究者になって英語を使う場に放り出されて、おっとーと思いながらやっています。 ■ こんな英語の授業があったらよかったのに、というのはありますか。 少し質問の答えとずれますが、うちの学科のカリキュラムだと、1年生2年生には一般教養の英語があって、2年生後期と3年生の前期後期には専門の英語の授業が組み込まれています。その後、研究室に入って研究英語に触れるという流れで、書く能力は鍛えられます。ただ、この上にしゃべる機会を加える必要があると強く思います。 例えばレストランで、水がほしくて「ウォーター」ってカタカナ読みしても、ネイティブには通じない。そういう体験をすれば、やる気になる子は面白がってやってくれるんじゃないですかね。早い段階で実力を知ることが大切です。それにより、英語へのモチベーションが高まるのではないかと思います。 ■ 研究者になったご自身が英語の指導を受けることや、逆に学生に英語を指導されることはありますか。 ここに来てからは特に指導を受けたことはありません。ドクターの学生が論文を書いているので、それを見て直すことはありますが、英語の指導というほどではなく、論旨がしっかりしているかどうかというところのみに限っています。論旨さえできていれば、後は業者さんにお任せできるかと。限られたスペースで結果を説明する能力を磨くことが大事かなと思っています。日本語と英語では文法も違いますが、どちらで書いても論旨は大切ですし、日本語で書けば(英語で書くより)スピードが速いというだけだと思う、と教えています。 ■ 日本人の研究者が英語力を鍛えていくには論文を実際に書くことが一番かと思いますが、そのほかに文章力と会話力を鍛えていくのによいと思う方法があればお教えください。 ……書く数でしょうね。上達したかどうかは分かりにくいですが、日本語のようには書けないなと苦心しながらも続けることが大切かと。…

間違いやすい用語や表現 -hugeとtiny

形容詞「huge」と「tiny」は、口語的であるから、原則として学術論文には相応しくありません。 「huge」と「tiny」が口語的とされる理由は、これらの語には対象となっている物事の大きさについての判断が主観的であるということが含意されるからです。使用される状況によって程度が異なりますが、話し手・書き手の驚きも含意されてしまいます。 学術論文において「huge」と「tiny」の代わりに適切に使える表現は多数ありますが、特によく使用されるものとして以下を挙げます。 huge: very large, extremely large, inordinately large, excessively large, dominatingly large, divergent,…

エルゼビア社、海賊版論文サイトに裁判で勝利したが…

2017年6月21日、アメリカのニューヨーク地方裁判所は、「サイハブ(Sci-Hub)」や「ライブラリー・ジェネシス(Library Genesis/LibGen)」といった、有料の学術論文を無料で入手できるウェブサイトに対して、著作権侵害による損害賠償として1500万ドルを支払うべきだと裁定しました。 本連載でも伝えた通り、ジャーナル(学術雑誌)の購読費が高騰していることにより、論文を入手しにくくなっていることに対して、多くの研究者が不満を抱いています。その1人であるカザフスタンの大学院生アレクサンドラ・エルバキャンは、2011年、購読費もパスワードも使うことなく学術論文のPDFファイルを簡単に入手できるウェブサイト「サイハブ」を開設しました。 サイハブは多くの研究者に重宝されていますが、当然のことながら学術出版社はこれに激怒しています。なかでも学術出版最大手のエルゼビア社はサイハブを訴え、2015年11月、ニューヨーク地方裁判所はサイハブに対しウェブサイトの閉鎖を命じました。しかしエルバキャンはサーバーを、アメリカの司法の力がおよばないロシアに移し、現在に至るまでサイハブを運営しています。 今年5月、エルゼビア社はサイハブや、やはり有料の論文を無料で入手できるサイト、ライブラリー・ジェネシスで不正に入手できる論文100件のリストを裁判所に提出し、恒久的な差し止め命令と総額1500万ドルの損害賠償を求めました。 『ネイチャー』(6月22日付)によれば、サイハブで入手可能な論文の版権のうち、最も多くのシェアを占めていたのは、エルゼビア社でした。それにネイチャー・シュプリンガー社やワイリー・ブラックウェル社が続きます。 エルゼビア社の訴えに対して、ニューヨーク地方裁判所のロバート・スウィート判事は、海賊版論文サイトの運営者も代理人もいない法廷で、エルゼビア社寄りの判決を下したのです。しかし、多くの学術ウォッチャーたちは、この判決がサイハブやライブラリー・ジェネシスの運営を止められるとは考えていないようです。実際のところ、7月現在、どちらも利用可能です。エルゼビア社の代理人や出版業界団体は、当然ながらこの判決を歓迎するコメントを各媒体で述べています。 興味深いのは、識者たちの見解です。たとえば2人の識者が別の媒体で、ほとんど同じことを話しています。インペリアル・カレッジ・ロンドンの生物学者スティーブン・カリーは『ネイチャー』で、セント・アンドリュース大学の歴史学者アイリーン・フィフェーは『タイムズ・ハイアー・エデュケーシション』で、それぞれこう述べています。サイハブが人気だということは、学術出版の現状に不満を抱えている研究者がそれだけたくさんいるのだ、と。 また、サイハブについて最初に書かれた学術論文の著者の1人、ゲーテ大学の生物情報学者バスティアン・グレシュアケは、この判決によって、サイハブやライブラリー・ジェネシスを使う人たちはむしろ増え、さらに彼らは同様の「法的に問題のある」サービスを開発するよう刺激されるだろう、と推測しています。実際、「オープンアクセスボタン(Open Access Button)」や「アンペイウォール(Unpaywall)」といった研究論文を入手するためのウェブサービスやアドオン(これらは合法)は、多かれ少なかれサイハブに触発されてできたものだ、と。 さらにスタンフォード大学の教育学者ジョン・ウィリンスキーは、今回の判決はエルゼビア社が公的な資金で行われた研究を「企業資産と私有財産」に変えてしまっていることを意味する、と厳しい評価を下しています。 学術出版社に対する批判は別の形でも現れています。「数学界のノーベル賞」と呼ばれるフィールズ賞を受賞した数学者を含む著名な科学者たちは、2012年、エルゼビア社が発行するジャーナルの購読料の高さなどに抗議して、同社への論文の寄稿・査読・編集をボイコットするという「学界の春(Academic Spring)」運動を始めました。この運動はオープンアクセスの推進にも広がり、同社を支持しないと表明する宣言への署名運動「知識の代償(The Cost…

【日本大学】袴田 航 准教授 インタビュー(前編)

各大学の研究室に訪問し、研究者たちにおける英語力向上の可能性を探るインタビューシリーズ。十五回目は、日本大学生物資源科学部 生命化学科の袴田 航先生にお話を伺いました。前編では、最初の論文発表で苦労された経験、留学して気づいたこと、英語との向き合い方などを語っていただきました。 ■ 最初に先生の専門分野を教えてください。 専門分野は、生物有機化学、ケミカルバイオロジー、メディシナルケミストリーといった内容です。研究分野の名前は異なっていますが、実際の研究内容はかなりオーバーラップしていると思います。ケミカルバイオロジーは日本語だと化学生物学となり、少し馴染みがないかもしれません。研究の内容で一般の方にも身近な話としては、抗ウイルス剤の研究などが一番わかりやすいかと思います。 ■ 英語の勉強を始めたのはいつごろですか。 必要になったときに始めたという感じです。学生の時にも英語をやりましたが、厚生労働省に入って1年目の時、「国際学会で口頭発表をしてみないか」と言われ嫌でもやらざるを得なくなった。これがスタートです。 ■ そのときのご心境はいかがでしたか。 「ゔ〜〜〜ん」という感じでした。英語で話したことなどなかったので、そこから練習です。その時の国際学会は日本国内で開催される国際学会だったので、今思えば相当気を遣ってそこから始めさせてくれたのかもしれませんが、私にとっては高いハードルでした。発表に向けて練習をする以前に、そもそも英語ができないことが問題で、思っていた以上に書けない、話せない、聞き取れない……。今も変わっていませんけど(笑)。 ■ どのくらい前から発表の準備をされたのですか。 学会発表の場合、6か月くらい前に英文の要旨を提出するので、その時に要旨を先生に直してもらうところから始めました。発表の練習は後からチョコチョコと。他の先生方に実際に見てもらったり、ゼミで練習したりしていました。思い出すだけで緊張してきます……。 国際学会とはいえ日本での開催だったので、ほとんどの聴衆は日本人でしたが、200~300人くらい参加者がいるように見えましたから、かなり緊張しました。その後は、年1回、2回、3回と発表の機会が増えるにつれ、徐々に慣れていったという感じでしょうか。やはり数をこなせばコツをつかめると言うか、場数を踏んで何とかなったような、ならないような……。 ■ 英語での発表の準備をする中で、自分に合った対策法は見つかりましたか? 背伸びをしないことでしょうか。かっこ悪くても簡単な英単語を正しい順番に一つずつ積み上げていくという説明方法に落ち着きました。自分をよく見せようと思っても、発音が悪いから伝わらない。論文なら複雑な表現など何を書いてもよいのですが、口頭発表では発音が悪いのに難しくて長い単語を使うと、とても伝わらないということに気がつきました。当たり前かもしれませんが、無理にかっこいい表現を使わず、簡単に伝えるのが最善です。 ■ 英語の論文発表で特に印象に残っているエピソードなどあれば教えてください。…

ビル&メリンダ・ゲイツ財団、オープンアクセス促進に注力

従来、学術研究論文を読むには購読料が必要でした。学術論文にアクセスしようとすれば、お金を払わねばなかったのです。また学術ジャーナルの中には、執筆者が自分の論文を公的にシェアするのを一定期間認めないものもあり、研究論文の共有を阻んできました。これは、多くの学術出版社側にとっては収益を生む重要なモデルですが、研究者側にとっては成果へのアクセスを妨げるものでした。特に資金不足に悩む研究者にとっては深刻な制約であり、先行する研究成果に基づいて進められるような研究においては、後進の研究活動の発展を妨げることになりかねません。 ■ 研究成果を制限なく公刊する 近年、前述の有料モデルとは正反対に、無料で学術論文を公開するモデルが普及してきました。オープンアクセス出版です。これはすべての研究者が生産性を上げられるよう、必要なデータへの公平なアクセスを確保するオンラインのジャーナルを指します。このオープンアクセスの流れを支える強力な支援者に、ビル&メリンダ・ゲイツ財団も名を連ねています。この世界最大の慈善基金財団は、” All Lives Have Equal Value”(すべての生命の価値は等しい)との信念のもと、世界中の人々が健康で豊かな生活を送るための支援を行っています。活動の範囲は、世界の病気・貧困の撲滅への挑戦から教育やIT技術に関わるものまで幅広く、学術振興への支援の一環として、オープンアクセスの流れも後押ししています。 ゲイツ財団は2017年1月1日、財団の助成を受けたすべての研究成果が購読料や制約の壁に阻まれないようにとの方針”Bill&Melinda Gates Foundation Open Access Policy”を発表しました。この方針は米国国立衛生研究所(NIH)やWellcome Trust(イギリスに本拠地を置き医学研究支援などを行う団体)などのような学術支援団体の方針にも近いものですが、ゲイツ財団はさらに踏み込んで、研究成果をクリエイティブ・コモンズ・ライセンス(CCライセンス:インターネット時代のための新しい著作権ルール)のもと、商業目的を含んだ再利用をも制限することなく、公刊することを求めています。この要求は、その公刊物に関わるすべてのデータにも適用されることになります(学術ジャーナルの中には同財団のオープンアクセス方針に対応していないものもあるため、財団の助成を受けた研究者は、それらの雑誌に論文が掲載できないことになります)。…

研究不正を行った研究者が死刑に!?

本ウェブサイトの記事「中国が学術不正防止に本腰」でも指摘されているように、日本やアメリカだけでなく中国でも、研究不正が問題になっています。『科学・工学倫理(Science and Engineering Ethics)』に掲載された最近のある調査では、中国の研究者らによる生物医学分野の論文のうち約40パーセントに、研究不正が含まれると推測されました。また本連載でも紹介したように、最近、中国の研究者たちによる論文107件が撤回されました。「偽装査読(フェイク査読)」がなされていたことがわかったからです。 こうした状況に中国の当局も手をこまねいているわけではありません。例えば、予算を拠出する機関は、研究不正が発覚した研究者からは研究費を返還させるなどの措置を講じてきました。 『フィナンシャル・タイムズ』(2017年6月19日付)の記事によれば、中国の科学技術省は前述の論文大量撤回事件を受けて、研究不正に対する「ゼロ・トレランス(no tolerance=許容度ゼロ)」の方針を宣言したといいます。しかし学術情報のニュースサイト『リトラクション・ウォッチ』を運営していることで知られる2人のジャーナリスト、アイヴァン・オランスキーとアダム・マーカスは、生物医学のニュースサイト『STAT』(2017年6月23日付)において、「中国のゼロ・トランス方針がどのようなものであるかはクリアではない」と指摘しています。 また今年(2017年)4月、中国の裁判所は、医薬品の許認可にかかわる研究において研究不正をした者に対しては厳格な実刑判決を下す方針を固めました。その不正行為により人的被害が生じた場合、その「実刑」には死刑も含まれるとしています。『ネイチャー』(2017年5月16日)は「この法律の下、認可された薬が健康問題を引き起こし、重度または致命的な結果が生じた場合には、10年の懲役または死刑になる可能性がある」と報じています。 これまでオランスキーとマーカスは、刑事罰の可能性も含めて、研究不正に対する厳しい規制を主張してきました。しかし2人は前述の『STAT』の投稿記事で、この中国の方針に対しては批判的な見解を述べています。 その理由としては、研究不正は要するに詐欺であり、資金提供者に対する窃盗ともみなせるものの、一般的には詐欺も窃盗も死刑には該当しないことなどを挙げています。ただ、医薬品の研究で不正を行った研究者は、「少なくとも理論上は」その医薬品を投与される人々の健康を危険にさらし、致命的な結果を招く可能性があります。とはいえ、医薬品の許認可は、1人ではなく多くの研究者からなるグループによって得られたデータによって判断されるので、グループ全員が不正行為に手を染めていない限り、研究者1人の不正行為による影響には限界がある、というのがオランスキーとマーカスの見解です。 2人は、懲役などの刑事罰を含む罰則の強化に対しては前向きなようです。第5回研究公正世界会議(WCRI: World Conference on Research…

【東洋大学】川口 英夫 教授インタビュー (後編)

各大学の研究室に訪問し、研究者たちにおける英語力向上の可能性を探るインタビューシリーズ。十四回目は、東洋大学の川口英夫教授にお話を伺いました。インタビュー後編は「現場に放り込む」という、獅子の子落としを想起させる学生や若い研究者への指導方法についてのお話です。 ■ ご指導されている大学院生・研究者の方々の英語論文を添削することもありますか。 あります。昔の私と一緒で、最初は英語になっていないことが多いですね。日本語と英語は全く異なります。日本語の文章構造のまま英語を書こうとすると、全く英語にならない。とはいえ、いきなり英語で考えろと言っても無理なので、まず「何を言いたいか日本語でシンプルに言ってみなさい」と尋ねます。それが固まってようやく、次は英語でどう表現するかというように、段階を踏んで添削します。 ■ 口頭発表の練習もされますか。 口頭発表はあまりしませんが、最近は学会でポスター発表の重要性が増してきているので、その練習はさせています。ポスター発表では、とにかくまずは相手を捕まえないといけません。ですから、30秒以内でざっと説明するバージョンや、その後じっくり説明する3分間バージョンなど、いくつかのパターンを作らせます。みんな結構まじめに練習して本番に臨みますが、練習以外の質疑応答になると崩れてしまいます。でも、そこもなるべく本人にやらせます。英語が聞き取れずちゃんと返答できないのがどれだけ悔しいか、そういう思いをしないと、次につながりませんからね。 ■ 質疑応答はどのように鍛えればいいでしょうか。 場数を踏むしかないと思います。ただ、学生たちにはいつも発表の前に、相手が必要だと思えば、どんな下手な英語でも一生懸命聞いて、必要な情報を得るまで粘るものだと話しています。本当に20分も30分もポスターの前で粘る人がいるんですよ。それは、その発表にそれだけの価値を見つけているということです。そうなれば、もう英語の上手下手という次元を超えてしまいます。通じるまで相手は何回も質問してくるし、こっちも何回も答えていればそのうち相手が何を訊きたがっているのか分かってくる。だから、自分の発表に価値があることを最初の短いつかみで伝えなければいけないし、研究にそれだけの価値がなければ、発表したところで相手にされない。結局はそういうものだと考えています。 ■ 若手の研究者や学生の皆さんが英語力を鍛えていくためには、どういった方法が有効だと思いますか。 現場に放り込むのが一番だと思います。留学するのが一番早いとは思いますが、留学するにしても、そのためには国際会議などで発表して認めてもらわないといけません。実は私の研究室では、学部4年生の初めての学会発表として、いきなりアメリカのニューロサイエンスという学会に参加させることもしています。初めて参加する学会が国際会議で、そこで4時間ずっと張りついてポスター発表をする。英語での発表がどれだけ大変か、死ぬほど身に染みてわかるわけです。でも不思議なもので、決まっていた就職を辞退して、もっと研究したいと言って大学院に進学した学生もいますよ。 ■ 日本の学会で学部生の方々がポスター発表や口頭発表をするというお話は聞いたことがありますが、海外の学会でというのは初めて聞きました。…

Recommended:研究者を論文の山から救い出す新サービス

一般の書店で見かけるのとは別に、研究分野ごとに発行されている学術雑誌の数は数えきれません。その中に収録されている論文数となれば、星の数ほどになるでしょう。研究者は自分の行った研究の成果を論文にし、学術雑誌などに投稿することで自らの研究を公表して評価されるわけですが、当然、他の研究者が何をやっているのかを情報収集する必要があります。しかし、公開される論文の数が星の数となった今では論文の山に埋もれてしまい、自分のほしい情報を拾い出すのも簡単ではありません。 ■ 増え続ける研究論文 今や研究論文は、紙で出版されるとともにオンラインに掲載される時代です。図書館に行かずに必要な情報の検索ができるようになったのは便利ですが、オンラインには研究論文があふれかえっています。国立国会図書館の科学技術論文誌・会議録データベースに収録されているデータだけで約17,000タイトル(2017年2月)となっています。公開された論文数は2003年の130万本から、2013年には240万本に増加しており、年率6.3%の勢いで増えていることになります。自然科学の分野だけでも、1日に公開される一次研究論文は4,000本に上ります。 学術論文が国際化していることも、論文数の増加に拍車をかけているのでしょう。研究を国際的な場で発表することは研究者の実績には不可欠です。トムソン・ロイター社のデータベースによれば、2000年の日本の学術論文の海外誌への掲載率(海外流出率)は、2003年の時点で既に80%でした。その後のインターネットの爆発的な普及を考えれば、日本だけでなく各国の研究者による論文の国際化はさらに増加していることが予想されます。 ■ 読みきれないのが普通です これだけ論文数が増えると、当然すべてに目を通すことは不可能です。自分が読みたい論文が分かっていれば雑誌名・巻号などからデータベースで検索することが可能ですが、専門分野の最新情報という漠然とした指定では、検索結果が膨大になってしまいます。Springerが2015年にnature.comの利用者4000人を対象に実施した調査では、85%が自分の専門分野の論文に目を通しきれておらず、25%は追いつかないのが常態化しているとの結果が示されました。研究者にとって、最新動向を把握できないのは大きな問題です。 ■ 新サービスRecommended そこで、研究者の積もる悩みを解決すべく登場したのがSpringer Natureの新サービスRecommendedです。研究者が論文を見落とさないためのカスタマイズサポートで、利用者の傾向に合わせて論文を抽出し、お勧めリストをサイト上またはメール配信で知らせてくれるサービスです。利用者がnature.com、SpringerLink、BioMed Centralで最近閲覧した論文100本をアルゴリズム分析して傾向をつかみ、その上でCrossRefとPubMedに収録されている4万5000誌、6500万以上の論文からお勧めの論文を抽出してくれます。しかもこの検索機能は、利用者の閲覧状況を学習して常時更新されるため、自分が最も興味を持っている情報を閲覧することが可能です。Springerから出版されている論文以外も含めて検索してくれるのは、研究者にとってありがたい機能です。 ■ 進化するシステム これは、アマゾンで書籍を購入したり情報を閲覧したりすると個人の嗜好として記録され、類似の書籍が「お勧め」として表示されるのと同様の機能です。アマゾンにおいてはユーザーのさらなる出費を促進する機能ですが、Recommendedでは研究者が検索に費やす時間を減らせるため、大いに役立つことでしょう。 既にベータ版が約1年間テスト運用されており、200か国以上の研究者が利用、70%が再利用しているということです。Springer Natureのパブリッシング・ディレクター、Sarah Greaves博士は、研究者の幅広い興味に対応するサービスの拡充を図っていく、と意欲を示しています。国際会議や研究助成金の情報、研究者の専門分野以外の研究の情報まで、あらゆる「欲しい情報」に対応することができるようになる日は近いかもしれません。…

捕食出版社、生涯教育にも進出

本連載では、掲載料さえ払えばどんなにひどい原稿でも論文として掲載してしまう「捕食ジャーナル(predatory journals)」や、登録料さえ払えば誰でも「講演者」として発表させてしまう「フェイク・カンファレンス(fake conference)」について書いたことがあります。とりわけカナダの『オタワサン』や『オタワシチズン』に寄稿する記者トム・スピアーズによる調査活動を紹介してきました。 スピアーズは、捕食ジャーナルの出版社として知られるインドのA社が倫理学分野のジャーナル(学術雑誌)を発行していることを知り、昨年秋、アリストテレスの文章を盗用したうえで、それに手を加えてつくったデタラメな原稿を投稿しました。その原稿はあっけなく論文として採択されてしまい、ジャーナルに掲載されることになりました−−掲載料さえ払えば。スピアーズはその経緯を暴露しました。 『オタワシチズン』(2017年6月1日付)にスピアーズが寄稿した記事によれば、その暴露によって、A社はその原稿の採択(受理)を撤回することを余儀なくされたといいます。スピアーズは、A社の弁護士からは「謝罪文を公表することを要求する」と警告され、そのジャーナルの編集委員からは「あなたの論文は執筆の基準に満たしてさえいないと我々は結論づけている」と忠告されたといいます。スピアーズの原稿は、査読を通ったはずなのですが…。 ある日、スピアーズは同僚から「同じ論文を繰り返し採択すると思う?」と尋ねられました。そこで彼は、同じ研究をA社が開催する免疫学の国際カンファレンスで発表するために投稿することにしました。ただし題名は医学っぽく変更しました。「免疫学における新しい倫理的な問題:感染症研究のボランタリティとケタランスの程度」と。「ボランタリティ(Voluntarity)」や「ケタランス(Ketterance)」という言葉は、スピアーズらがでっち上げたもののようです。確かに、辞書を引いても出てきません。 そして結果は……またもや採択だったようです。1499米ドルを払えば、テキサスで開催される国際カンファレンスで、ポスター発表できることになりました。本連載でもお伝えしたように、A社はスピアーズがでっち上げた「空飛ぶブタ」などについての研究を、国際カンファレンスでの講演として採択したこともあります。 スピアーズらは同じデタラメな研究内容を、老人病学の国際会議にも投稿していました。2日後の同じ『オタワシチズン』によると、やはりこれも採択されたそうです。しかもそのカンファレンスは、老人病学や看護学分野における生涯教育(continuing education)に関するものでした。 捕食ジャーナルを出版したり、フェイク・カンファレンスを開催したりする「捕食出版社(predatory publishers)」はこれまで、業績を求める若手研究者を主なターゲットにしてきたはずですが、「生涯教育」にも手を付け始めたということは、そのターゲットが拡大していることを意味する、とスピアーズは『オタワシチズン』で指摘します。 スピアーズはA社に説明を求めるメールを送ったのですが、これまでのところ返事はないようです。 A社はインドのハイデラバードに拠点を置き、700誌ものオンライン・ジャーナルを発行する企業です。最近、カナダの正当な学術出版社B社とC社を買収しました。同社のビジネスモデルをB社やC社も採用するのかが気になります。またA社は世界各地で年間1000件もの「国際カンファレンス」を開催しています。もちろん、日本でも。今年は主に大阪で、37もの国際カンファレンス(2017年6月時点)がA社によって開催される予定となっています。 見知らぬ外国企業から「発表募集(Call for…

【東洋大学】川口 英夫 教授インタビュー (前編)

各大学の研究室に訪問し、研究者たちにおける英語力向上の可能性を探るインタビューシリーズ。十四回目は、東洋大学の川口英夫教授にお話を伺いました。インタビュー前編では、ご自身と英語との格闘秘話を語ってくださいます。 ■ 先生の研究室の専門分野、研究テーマを教えてください。 私の研究室名は「脳神経科学研究室」、英語で言うと「ニューロサイエンス」になります。ただちょっと私の研究室は変わっていて、人の行動と脳の関係性という分野と、もう1つ全く別個に、山中伸弥先生が確立したiPS細胞を神経細胞に分化誘導させる時の成熟過程などを扱う分野にも携わっています。 この2つの分野は、脳や神経というところで一応結びつきはするのですが、はるか遠く離れているとも言えます。ただ、例えば学生の教育という点で言えば、どういうふうにものを考えればいいかといった研究の方法論は変わらないだろうと思います。 ■ 身近なところではどういったものにつながる研究でしょうか。 人の行動と脳機能の関係性については、具体的には2つの研究が主になります。1つは、メンタルヘルス不調の予兆を被験者の筆跡の特徴量から把握できないか、という研究です。企業や大学でメンタルヘルスの不調から休職・休学している人が増えている中で、不調を早く察知して対応できるための指標を作れないか探っています。 もう1つの研究も発想は似ているのですが、主に高齢者の方が転倒して寝たきりになってしまう前に、運動機能の低下をその人の筆跡から予測できないか研究しています。どちらも予防医学的な発想なのですが、そこに工学を持ち込んで、メンタルヘルスや運動機能と脳との関係を科学的に導き出そうという位置づけです。 iPS細胞を扱う分野は再生医療の領域ですが、実はもともと私は細胞を扱う研究者ですので、両方やってしまえということで二本立てになっています。 ■ 英語での論文執筆や学会発表などで苦戦した経験はありますか。 日立の研究所に在籍していた頃は、研究報告を2つ3つまとめて1つの論文を日本語で書き、それを英語化するという流れで英語論文を書いていました。頭の中でまずは日本語のロジックがあり、それを自力で英語に直して上司などに直してもらっていたわけですが、最初はぼろぼろでしたね(笑)。何度も社内で直されて、経費で英文校正の会社に出して、その後さらに自腹でまた校正してもらっていました。最近はソフトが非常に発達していて、キーワードを入れると論文に出てくるような英文をいくつも例示してくれる辞書があります。それを駆使して書いた英語論文をエナゴに出しても、そんなにひどい文章だとは言われませんね(笑)。 ■ 昔と比べると英語の苦労は減りましたか。 いつも苦労しっぱなしです。学生の前ではあまり言えませんが、私は英語が好きではありませんでした。だからもう大変です。読み書きのほうはまだしも、聞いて話すのは本当に大変です。実は今、大学の「キャンパス英会話」というプログラムに学生に交じって参加しています。毎日40分の講座を年間100回やるというもので、どちらかというと一般的な英会話のテキストを使っています。私は学術的な英語のほうが非常に聞きやすいし話しやすいのですが、あえてそれを外しています。 東洋大学はスーパーグローバル大学に認定されており、このキャンパス英会話以外にも、土曜日にマンツーマンで教えてくれる教室や、春・夏の長期の休みに開かれる集中講座もあります。毎日のレッスンを受講しながら短期留学に行けば、学生は格段に英語力が上がると思いますね。 ■ 身近に英語を学べる環境があるのですね。 少しずつ、キャンパス全体で「英語を勉強するのは当たり前だよね」という雰囲気になってきているように感じます。このまま定着するかどうか、ここ1、2年が勝負ではないでしょうか。…