学術界を知る

韓国の論文不正:子どもが共著者?!

研究不正が世界中で問題となっていますが、今度は韓国で驚くべき事態が発覚しました。2007年2月から2017年10月に韓国人研究者が発表した研究論文のうち、少なくとも82件に、オーサーシップ(著者)に関する出版倫理上の不正がある、と政府が公表。研究論文の著者が、なんと自分の子どもや親戚の名前を共著者として記していたのです。なぜこのようなことが起きたのか――。そこには、受験大国の韓国ならではの理由がありました。 ■ 43本の論文を高校卒業前の息子が…… 研究論文に共著者の名前を載せるのは、研究上の責任を明確にすることが目的です。原則的に、勝手に名前を加えることは許されません。研究に貢献していない人の名前を載せる”guest authorship”や、研究に貢献している人の名前を載せない”ghost authorship”は論文不正に該当します。 前述の通り、韓国政府は大学等の研究者約7万人が出版した論文に対する調査を実施し、2018年1月25日に結果を発表しました。その結果、29大学で82件に、子どもや親戚を共著者として記した論文不正があったことが明らかになりました(82件中80件は科学技術系の論文で、残り2件が人文系の論文)。成均館大学、延世大学、ソウル大学、国民大学など、韓国の著名な研究機関の評判が低下することは避けられません。 子どもの名前を共著者として記載した最初の事例が発覚したのは、約1年前のことです。国立ソウル大学の研究者が、自分が執筆した数十本の研究論文に息子を共著者として記していた、という不正が明らかになりました。韓国ヘラルドによると、この息子は高校を卒業する前に、父親の研究論文43本を共著したことになっていました。 ■ 背景にある学歴問題 今回の不正には、韓国の社会問題が密接に関連しています。不正を行った研究者は、自身の子どもを有名大学に進学させるため、名前を共著者に含めたと見られています。 韓国は言わずと知れた超学歴社会であり、有名な高校や大学に入れなければ就職もままならないことが社会問題化しています。韓国政府は、全ての国民が大学で学べることを目標に掲げてきました。1995年の教育改革法の施行以降、規制緩和を進めたため大学の数が急増し、それに伴い大学進学者数も増加。進学率の高さは、他国と比べて抜きん出ています。 しかし、これが一方で大学教育の質の低下をもたらしたのです。大学教育を受けるだけでは箔を付けることも、優位な就職先に入社することもできなくなりました。韓国社会で成功するためには、国内で最高の大学に行って、将来につながる学位をとらなければならないのです。過熱した受験戦争が、不正入学や、研究者である親が論文の共著者に子どもの名前を記すという事態の原因となっていると言えるでしょう。 ■ 韓国研究者への調査は続く 話はこれで終わりではありません。学術誌Natureは今回の件に関する独自の調査を進めており、今後数週間かけて、主要なデータベース上に掲載されている、論文に関わっているとされる76000人もの韓国人研究者の家族の名前をクロスチェックするとしています。調査の目的は、既に発表された論文中に、子どもの共著者が含まれるものが何本存在するかを調べること。文献引用データベースであるScience Citation Index(SCI)、Web…

中国の論文数が米国を抜いて世界一に

科学研究における中国の躍進にはめざましいものがあります。2018年1月18日、米国立科学審議会(National Science Board, NSB)が、2016年に発表された科学・工学分野の論文数で中国が初めて米国を抜き、世界首位となったと発表しました。 ■ 年間で42万本超え 「中国が世界一の研究論文発信国に――」。これは、米国国立科学財団(US National Science Foundation, NSF)がまとめた統計を、NSBがScience and Engineering Indicators 2018として発表したものです。30年前、中国の科学研究論文数は世界第3位でしたが、今やEU諸国や米国を抜き、1位にまで躍進したのです。中国政府が科学分野の発展を重視していることが背景にあります。政府はそのための政策をいくつか打ち出しており、中でも研究者に対して出版報酬が支払われるようになったことが大きかったようです。論文を執筆しジャーナルに掲載されることで、研究者は報酬を得ることができるのです。これは、EU諸国でも米国でも行われたことのないアプローチで、これにより中国における科学論文の出版数は30倍に急増し、さらなる増加が見込まれている状態です。 19世紀後半から20世紀初頭にかけて、ほとんどの分野における研究および論文の出版は、イタリア、英国、ドイツなどに牽引されていました。20世紀に入ってからは米国が主導権を握り、その後90年以上にわたりトップの地位を維持してきました。中国が頭角を現し始めたのは1990年代半ば。そこから急成長し、2016年に発表された論文数は、米国が409,000本なのに対し、中国は426,000本を超え、スコーパス(Scopus:大手出版社エルゼビアによる論文データベース)に収録された論文総数の18.6%に及びました。…

QS専攻分野別 世界大学ランキング2018の発表

2018年2月28日、イギリスの大学評価機関「クアクアレリ・シモンズ(Quacquarelli Symonds :QS)による分野別世界大学ランキング「QS World University Rankings by Subject 2018」が発表されました。 ■ QS専攻分野別 世界大学ランキング これは、75か国、1130の大学を2018年から新たに追加された「古典・古代史」と「図書館・情報管理」の2分野を含めた48の専攻分野ごとにランキングしたものです。QSの定める判定基準に従って以下の項目の得点を個別に算出し、それらの合計によってランク付けが行われています。 1. Academic Reputation 学術界の評判…

研究者も無視できないFacebookの情報流出

全世界のユーザー数が20億を超えるFacebookをどのような目的で利用していますか?研究を広めるためや、研究者仲間とのコミュニケーションのためというのが一般的でしょうか。今、そのFacebookは個人データの不正流用をめぐる国際的なスキャンダルの渦中にあり、世界中が注目しています。事の発端が研究者によるFacebookを利用した個人データの収集であったことに目を向ければ、Facebookによる個人データの流出と不正利用疑惑問題は、研究者にとっても他人事とは言いきれません。Facebookの問題は、倫理問題をより深刻に捉えるべきであることを再認識させるものだとする記事がnatureに掲載されました。 ■ 個人データの流出と不正疑惑 英ケンブリッジ大学の心理学者・神経科学者であるアレクサンダー・コーガン氏がFacebookの性格診断アプリを開発。この性格診断を受けるためにアプリをダウンロードしたユーザーのデータ、約5000万人分がコーガン氏によって、イギリスのデータ分析会社「ケンブリッジ・アナリティカ(Cambridge Analytica)」に売却されました。そして、この個人データが2016年のアメリカ大統領選挙やイギリスのEU脱退を決めた国民投票など、極めて政治的な事象に不正利用されたのでは、と物議をかもしているのです。2016年の米大統領選のコンサルティングに関わっていたケンブリッジ・アナリティカが、このデータをトランプ陣営の心理戦や有権者の絞り込み等に利用したと報じられ、大きな問題となっています。個人データはコーガン氏が開発した性格診断アプリを通して合法的に集められたものでしたが、アプリ開発者が、収集したデータをユーザーに通知することも同意を得ることもなく第三者に譲渡することは規約違反になります。Facebookは、2014年に個人データの不正利用を防ぐための対策を導入していますし、問題発覚後には対策を講じると発表しています。ケンブリッジ・アナリティカとFacebookは両社とも不正を否定していますが、米国議会はFacebookのCEOザッカーバーグ氏に議会での証言を要請しており、欧州議会もケンブリッジ・アナリティカのデータ悪用につき調査を進めています。 ■ 個人データの不正利用 研究者と企業がユーザーの同意を得ずに個人データを利用した――このことによって生じた不信感や疑惑は、学術研究にとっても痛手となります。利用者の多いオンラインプラットフォームをから得られるデータは、研究にとって非常に有用な情報源でもありますが、それはあくまでもデータを正しく扱うことが前提です。取扱い方に関わらず、インターネット調査の利用に制限がかけられることもあります。倫理保護が重要視される医薬や心理学研究といった人の命に関わるような研究では、インターネット調査を対象外にすると明文化されています。 今回の問題で特徴的だったのは、心理学者であるコーガン氏が研究の一環として行った調査の結果得られた個人データを、Facebookの利用規約に反して第三者(データ分析企業)に譲渡したことです。結果、個人データが、当事者であるユーザーがまったく予期しなかった、あるいは意図しなかった使われ方をしました。データがまとめられ、アルゴリズムにかけられたことで、当たり障りのなかったデータが意味を持ち、ユーザーが非公開としておくことが妥当と考える個人情報が不当に使われたり、不本意な使われ方をしたりすることとなりました。 もちろん、研究におけるデータの収集・利用方法に関してはガイドラインが定められているので、ほとんどの研究プロジェクトは、データを倫理的に利用しています。欧米の研究助成団体はデータの倫理的利用を推進しており、「公開」データの定義を再考するよう推奨し、研究が社会および個人に害をおよぼす可能性を検討する必要性について言及しています。今後も研究者の知識をより深めるように、研究助成団体がこの取り組みを強化していくことが期待されます。 ■ Facebookのデータ不正利用疑惑から見えること 今回の個人データの不正利用疑惑から見えてきたのは、多くの学術分野で、革新的な技術の急速な変化に応じた利用への注意を規定に盛り込むことが追い付いていないという現実です。いまやデータ収集方法は多岐にわたり、入手できるデータ数は増大し、データ収集に要する時間と手間も大きく様変わりしてきました。研究倫理やインターネット・プラットフォームなどにおける個人データ利用に関する規約を理解しておくことは必須ですが、全てを理解するのは大変な状況です。また、研究分野によってオンラインデータに対する見解が異なることも、問題を複雑にしている一因です。例えば、心理学や社会学のような人文系の研究では、今回問題の発端になったような診断アプリやテストを通して集めたデータが研究に役立つことがある一方、コンピューター科学のような技術系の研究では、アプリのプログラムやアルゴリズムの開発を進めることが重視されるでしょう。データを利用する側だけでなく、データを作成する側にも、双方の状況に応じた研究倫理トレーニングを実施する必要があるのかもしれません。研究者は、技術革新が規定の枠を超えていることを十分に理解し、法の制限や規定に書かれていることに従っているだけでは研究倫理を順守するためには不十分なこともあると認識しておく必要があるのです。 一方、Facebookが問われているのは、個人情報を流出させた責任と個人情報の扱いに関する倫理です。確かにFacebookには個人データの不正利用を禁ずる規約がありましたが、同時に、アプリ開発者などがこの規約に違反しないように管理監督し、違反があった場合には対策をとるべき責任があったにも関わらず、今回のような社会的問題が生じたことがFacebookへの批判となっています。そのため、一部のスポンサーや広告主によるFacebookからの撤退や、ユーザーからのボイコットの動きが出ており、株価が暴落しています。さらに、当事者である英米だけでなく他国の個人情報保護を管轄する規制当局も、調査に動き出すなど、すっかり世界を巻き込んだ大事件となっています。 とはいえ、Facebookで起きた個人データの取り扱い問題は、ネットにつながっている以上、どのソーシャルネットワーク(SNS)でも起こり得るものです。どのSNSを、どのような立場で使うのであっても、メリットとデメリット、セキュリティなどさまざまな点に注意しつつ利用する必要があります。さらに、個人ユーザーとして利用する場合には、SNS上でそのネットワーク提供企業以外の第三者(企業)に自分のデータが利用されることから自分のデータを守らなければなりません。SNSは便利な反面、面倒なものでもあるのです。 Facebookは3月19日に、コンピューターなどに残る記録を収集・分析して、その法的な証拠性を明らかにすることを専門的に行うデジタルフォレンジック企業のStroz Friedbergにケンブリッジ・アナリティカの包括的監査を依頼したと表明しています。しかし、3月26日には米連邦取引委員会(FTC)がFacebookのプライバシー管理につき調査を行っていると発表され、4月5日には不正に個人データが取得されていたユーザー数は最大で8700万人にのぼると発表されるなど、当分騒動は続きそうです。

偉大なる物理学者ホーキング博士の死を悼む

2018年3月14日、「車椅子の天才科学者」として多大な功績を残したイギリスの偉大な物理学者スティーブン・ウィリアム・ホーキング博士が死去しました。76歳でした。科学界は、今、深い悲しみにくれています。 ■ スティーブン・ホーキング博士について まず、ホーキング博士に関する事実を紹介します。 ● ガリレオの死からちょうど300年後の1942年1月8日生まれ。 ● 彼が死去した2018年3月14日は、アルバート・アインシュタインの誕生日であった。奇しくも、この2人の天才は同じ76歳で亡くなっている。 ● 学生時代から教師やクラスメイトに「アインシュタイン」と呼ばれていた。 ● 21歳の時に筋萎縮性側索硬化症(ALS)と診断され、余命2.5年と宣告されたが、76歳まで生きた。 ● 最大の功績は、ブラックホールからの放射「ホーキング放射」の導出法である。 ● 最初の著書である『ホーキング、宇宙を語る(原題:A Brief History of Time)』は、宇宙の謎を一般向けに執筆した著書で、1988年に出版されて以来、20年以上にわたり1000万部以上の売り上げを記録し、ロンドンのサンデー・タイムズ紙で、4年以上ベストセラーリストに掲載された。 ● 父親は、息子がオックスフォード大学で医学を学ぶことを望んでいたが、本人はオックスフォード大学で奨学金を得て物理学を学んだ。 スティーブン・ホーキング博士のインタビュー:Last…

間違いやすい用語や表現 ー動詞「set」の誤用

「to be」との誤った併用 日本人学者が書いた論文において動詞「set」が誤用されていることを度々目にします。ここでは「set」の一つの典型的な誤用を考察します。 以下を見てみましょう。 [誤] (1) Here, x is set to be positive. [誤] (2)…

トランプ政権の予算に研究者がっかり

2月12日、トランプ政権が総額4兆4000億ドル(約478兆円)規模の2019会計年度の予算教書(2018年10月~2019年9月)を議会に提出し、予想どおりとはいえ科学者たちを失望させました。連邦政府の財政赤字が9840億ドルにも達するなか、国防費と移民法執行費用が増加された一方、科学の基礎研究に関しては20%以上削減されています。主要科学研究機関への予算は昨年レベルもしくは更なる削減となっており、研究者たちには厳しい状況が続きます。 ■ 削減される研究開発費 アメリカ国立衛生研究所(NIH)、国立科学財団(NSF)、エネルギー省(DOE)への予算は2017年と同水準。食品医薬品局(FDA)と航空宇宙局(NASA)の少なくとも宇宙探査に関しては増額されていますが、DOEのエネルギー高等研究計画局(ARPA-E)の月面探査ロケット打ち上げ部門、NASAの5つの地球科学計画、国際宇宙ステーションの予算削減に加えて、環境保護庁(EPA)、海洋大気庁(NOAA)、内務省(DOI)の地質調査所(USGS)の一部の研究計画は見直しを余儀なくされそうです。また、疾病予防管理センター(CDC)の予算も削減されました。 出典:AAAS (American Association for the Advancement of Science): The 2019 Science Budget Backs…

変わる「利益相反」-Natureが新ルール適用へ

学術論文を投稿する際、著者は利益相反(Conflicts of Interest: COI)を開示するように求められます。これは、研究にとってバイアスをもたらす可能性のあるすべての利害関係、つまり研究助成金の出所や謝礼、特許権使用料やライセンス(商標や著作権)などの金銭的関係、および雇用契約などの個人的関係を含む経済的利害関係を開示する必要があるということです。通常、ジャーナルや学会が定めた投稿規定の中にCOIにつき何をどう開示すべきかが記されていますが、国際的には医学雑誌編集者国際委員会(International Committee of Medical Journal Editors : ICMJE)の規定が受け入れられているようです。 ■ 非経済的利害関係もバイアスになる 経済的利害関係の中で直接的なものとしては、金銭的関係です。研究助成金はもちろん、旅費なども金額にかかわらず、すべて開示しなければなりません。また、個人的関係としては、雇用関係のような人間関係などが含まれます。研究結果が特定の企業の売上に影響を与えるような論文を執筆した著者が、その企業の社員や関係者である場合、経済的利害関係のある利益相反とみなされます。さらに、研究にとってバイアスとなるのは経済的な要素だけではなく、所属機関への忠誠心や個人的な野心など非経済的な要素も影響すると考えられるのです。そこで、ネイチャー・リサーチが出版するジャーナルは、利益相反の開示ルールを強化し、著者に対して、研究の中立性・客観性に疑問を抱かせる可能性のある非経済的利害関係の開示も求めていくと発表しました。 2018年1月31日に発表された記事によると、2月以降、ネイチャーおよびネイチャー・リサーチが出版するジャーナル(Nature Communications,…

著者は査読者による「バイアス(偏見)」を恐れている

本誌で以前にお伝えしたように、ジャーナル(学術雑誌)で行われる 査読 には次の3種類があります。「片側盲検査読(single blind peer review)」では、査読者の側からは著者が誰かわかりますが、著者の側からは査読者は誰かわかりません。「二重盲検(double blind peer review)」では、著者も査読者もお互いが誰かわからないまま査読します。3種類目は「オープン査読(open peer review)」です。一部で試み始められているこの方法では、前回報告したように、著者も査読者もお互いが誰かをわかったうえで査読を行ないます。 学術出版大手シュプリンガー・ネイチャー社は、2015年2月、最も有名な科学雑誌である『ネイチャー』と“ネイチャー・ブランド”の月刊誌において、論文原稿を投稿する著者たちが、二重盲検による査読をオプションとして選べるよう、査読の方針を一部転換しました。 これは著者たちからの要望に応じたものだといいます。片側盲検による査読は二重盲検よりも、査読者のバイアス(偏見・偏り)の影響を受けやすいといわれているからです。実際、最近の研究でも、査読者は、片側盲検査読では二重盲検査読よりも、知名度のある著者や研究機関が投稿した原稿を採択する傾向があることがわかりました。 2017年2月6日、アラン・チューリング研究所のバーバラ・マギリブレーとシュプリンガー・ネイチャー社のエリサ・デ・ラニエリは、同社に蓄積されたデータを使って、二重盲検査読が査読における「暗黙のバイアス」を取り除き、査読の質を向上させているかどうかを検証し、その結果を、プレプリントサーバー「アーカイヴ(arXiv)」に投稿しました。 彼らは、2015年3月から2017年2月までの間にネイチャー・ブランドのジャーナル25誌が受け取った原稿12万8454件を対象として、ジャーナルの階層(影響力)、査読の方法(片側盲検か二重盲検か)、著者の特性(性別、国、所属研究機関など)、査読の結果(採択か却下か)を分析しました。…

研究不正の裏に潜む任期付雇用の暗い影

2018年1月、京都大学iPS細胞研究所での論文不正が発覚しました。言わずとも知れた山中伸弥所長が率いるiPS研究のトップ研究機関における不正発覚。この事実だけでも衝撃的ですが、後を絶たない研究不正の裏に研究者の不安定な雇用があるとの報道からは、さらに深刻な問題が見えてきます。はたして、不安定な雇用とはどのようなものなのでしょうか。 ■ 雇用の多くは任期付の非正規 2014年に世界的な話題となったSTAP細胞問題から、学術界を挙げて研究不正への対策を強化してきましたが、実際に不正をゼロにするのは困難と言われています。今回発覚した不正は、2017年2月に京大の山水康平特定拠点助教らが米科学誌に発表した論文に掲載したグラフにねつ造と改ざんがあったと認定されたものです。山水助教以外の共著者(10名)は不正に関与していなかったと報じられました。 山水助教の役職名「特定拠点助教」とは、京大独自の特定有期雇用教員で、iPS細胞研で再生医療に従事する任期付の助教授のことです。将来的な実用性の高いiPS研究を担う職員ですらプロジェクト終了時までと期間を限定しての契約なのに驚かされますが、これが研究者を取り巻く現実です。iPS研究所所長である山中教授自身、2017年9月に同研究所の教職員の9割以上が非正規雇用であることを訴えていました。研究費獲得競争が激化する中、雇用期間に定めのある非正規雇用研究者たちは限られた予算と期間内に成果を出すことを求められています。非正規雇用研究員が増えているのは、研究機関だけの問題ではありません。国の基幹研究を担う大学でも同じ状況です。 ■ しわ寄せは若手に 経済効率性重視のアベノミクスのもと、国立大学法人運営費交付金は減り続け、国立大学は研究費(特に基礎研究)の確保に苦労しています。かつて潤沢な研究費が確保できていたころに雇用された常勤研究者(正規雇用)が高齢となるのに対し、研究費の確保ができない状況で採用される若手は任期付の非正規が多数。まさに、若手研究者が研究費削減のしわ寄せを受けている状況です。 少し古いデータですが、文部科学省科学技術・学術政策研究所(NISTEP)が2015年3月に発表した「大学教員の雇用状況に関する調査」が参考になります。東京大学などの主要11大学(RU11*)の教員総数は2007年度(平成19年度)26,518人、2013年度(平成25年度)29,391人でしたが、そのうちの任期無し教員は、2007年度では 19,304 人だったのが、2013年度では 17,876 人に減少。一方、任期付き教員は7,214人から11,515 人にと大幅に増えていました。年代別で見ると40歳未満の若手教員が任期付教員に占める割合が多く、残念ながら、この傾向は今も改善されていません。多くの研究者が40歳代になっても任期付雇用のまま研究を続けざるを得ない状況に置かれているのです。 任期内に成果を出せなければ次の職を得るのは難しい――不安定な雇用は研究者を不安に陥れます。iPS研究所で不正を指摘された山水助教も2018年3月末に迫った雇用期限を前に、何とか見栄えの良い成果を出そうと焦ったのかもしれません。 *RU11:日本の研究活動を牽引する主要な研究大学として学術研究懇談会(RU11)を構成する 11…