学術界を知る

【東京工業大学 生命理工学院】小林 雄一 教授(前編)

研究者の方たちの英語力向上法などについてお伺いするインタビューシリーズ23回目。 生命理工学とは、医学や薬学などのライフサイエンスとテクノロジー(工学)が関係する幅広い題材を研究される分野だそうですが、小林教授の研究室では生理活性化合物の合成を研究されています。前編では、最先端の研究を発表される際のご苦労についてお伺いしました。 ■ 先生のご専門と研究について、わかりやすく教えていただけますか。 大くくりでは化け学(化学)ですが、その中でも有機化学が専門です。僕がやっているのは医薬品を目指した基礎研究ですので、薬になるかならないかといった具体的な話は次世代への課題になります。なかなか手に入らないような化合物を合成するわけですが、生化学の研究者と共同で論文を書ければいいなと考えながらやっています。例えば、先日ノーベル賞を賞与された免疫に働く細胞のようなもののように、分子レベルで細胞の働きをコントロールするものがあります。最近話題のEPA(エイコサペンタエン酸)とかDHA(ドコサヘキサエン酸)といった化合物も、そういった働きをする分子で、それらが体内に取り込まれて代謝されると、免疫あるいはインフラメーション(炎症)をつかさどる細胞を活性化したり抑制したりします。人間の体の中から取れる化合物はわずかですが、僕らは有機合成して作り出すので、生化学者が驚くほどの量を供給できるんです。そのための新しい合成法を開発しようとしているわけです。例を挙げれば、先ほど言ったような、EPAとか、DHAの誘導体などを合成しています。 ■ 先生方の研究された化合物を、企業、例えば製薬会社が使ってさらなる研究や開発を進めるということでしょうか。 はい、そういうことです。ただ、我々がやっているのは基礎研究なので、お付き合いしているのは製薬会社より国内外の大学の先生が多いですね。 ■ 国内外の研究者と共同研究されたり、または学会で発表をされたりする際に、ご苦労された経験はありますか。 やはり語彙の少なさでしょうか。語彙が少ないために微妙な表現ができないのです。日本語なら細かいところも伝えられるのに、英語となると簡単にはいかない。本当は、こんなことを言いたいのに……というのがなかなか伝えられなくて(笑)。研究に頻出する物質の名前や専門用語よりも、それらをつなぎ合わせて文章にするための動詞や名詞など、そういうところでいつも苦労しています。そして、発表終了後に「ああ言えばよかった」「こうすればよかった」と悔いが残るんです(笑)。 ■ 発表の前にはどんな準備をされますか。 準備はたくさんするんですけどね。やはり発表は中身が勝負なので、まず中身を考えます。発表にはプロジェクターを利用するので、スライドを見せれば大体の結果はわかるように示せます。なので、結果については最低限わかりやすいスライドを作る努力をします。それでも足りないところは、口頭の説明で補う。これを英語でやる際に、なかなかとっさに英語が出てこないので、最初は紙に書いておいて、自分でしゃべってみて、何かおかしいなと思ったら、すぐ直してというのをやっておきます。僕は、発表の直前までこの準備をやっています(笑)。 自分で原稿を用意して、読む練習をして、スライドを見ながらの説明をやってみてというのを繰り返しておきます。僕の立場になってしまうと、誰かと発表し合うということはありません。学生が発表するときには、練習やろうと声をかけて練習に付き合うのですが、僕個人の発表練習は、誰も付き合ってくれません(笑)。だから毎回、自分で練習して、本番で足りなかった部分などは次回に生かしていくようにしています。 ■ 発表は年に何回ぐらい? 年に数回のときもあれば、1回行けばいいかというときもあり、意外とバラバラです。 発表の内容が違えば、される質問も違うわけですが、何と言っても自分がこういう研究をやりましたというプレゼンテーションをしなければならないわけです。それが、上手くいかない。本当はこう言いたいのにとか、ここは苦労したところだから強調したいんだけど――というところが何とかしてうまく伝えられないかと思いますね。 ■ 英語での発表は海外の方が多いですか?…

中国のアフリカ諸国への600億ドルの支援 その狙いは

中国が改革開放政策を実行してから丸40年。中国経済は急成長を遂げ、学術分野での存在感も大きく増してきました。研究および教育への集中的な投資も奏功し、今や科学・工学分野の論文発表数は世界首位です。 勢いは国内にとどまりません。中国は、開発途上国同士が2国間、あるいは多国間で自律発展のためにお互いの技術などを活用して開発に役立てようとする「南南協力」を促進しています。近年は「一帯一路」構想のもと、発展途上国に対する技術支援、資金援助を行っていますが、特に南アジアおよび南アフリカの発展に向けた協力に力を入れています。2018年9月に開催された「中国アフリカ協力フォーラム((FOCAC, Forum of China-Africa Cooperation)北京サミット」では、アフリカ諸国に600億ドル(約6兆6千億円)の経済協力を行うと表明し、世界を驚かせました。はたして、中国の思惑はどこにあるのでしょう。 ■ アフリカの次世代研究者の育成に貢献? 600億ドルの資金拠出の内訳には、無償資金協力や無利子融資、中国企業による対アフリカ投資の推進などが含まれており、500億ドルは中国政府、残りの100億ドルは民間企業による投資とされています。習近平国家主席はフォーラムの基調演説で、アフリカ諸国と密接に協力し、今後3年間および一定期間において「8大行動」を重点的に実施すると表明しました。「8大行動」とは、2015年のヨハネスブルグ・サミットで確定した中国・アフリカ「10大協力計画」の推進を踏まえたプログラムで、(1)産業促進、(2)インフラの相互接続、(3)貿易円滑化、(4)グリーン発展、(5)能力開発、(6)健康・衛生、(7)人的・文化的交流、(8)平和・安全保障という8つの項目を実施すべく、中国が政府援助、投融資などを通じてアフリカ諸国との協力を図るものです。 中国は、この一貫としてアフリカ諸国の人材育成、援助、雇用増に力を入れています。アフリカの研究者の科学技術の知識レベルを引き上げるプログラムにおいて、教育は重要な位置に置かれており、アフリカの若者に教育を受ける機会が提供されるだけでなく、Young Scientists Exchange Program(若手研究者交流プログラム)を利用して、最大1年間中国で学ぶこともできるようになっています。 「8大行動」の「社会開発分野」には、アフリカ諸国の1000人の優秀な人材に研究の機会を提供し、5万人に中国政府の奨学金を授与し、さらに5万人にワークショップやセミナーなど短期の教育機会を提供する計画があると記されています。特に、アフリカの農業近代化に向けた協力を拡大したいと考えている中国は、既にアフリカ14カ国に農業技術普及のためのモデルセンターを建設していますが、さらなる農業技術者の育成に向け、博士課程修了者が、中国あるいはケニアのジュジャにある農業技術のジョモ・ケニヤッタ大学などのアフリカの研究機関で学ぶための奨学金に応募することができるようにする予定です。アフリカの農業を積極的に支援するだけでなく、「8大行動」を通して中国・アフリカの関係を強化し、米国との貿易戦争が泥沼と化している中でも大国中国および中国企業の影響力を強めたいとの思惑が見て取れます。 ■ 中国の発表への反応は この中国の発表に、世界中の研究関係者からはさまざまな声が上がっています。大半はこれを好意的に受け止めているようです。例えば、ガーナの研究者は、海外だけでなく、国内での教育への資金援助も含まれていることが喜ばしいことだと言っています。アフリカでの人材流出が深刻な問題だと考えている彼は、この資金援助が、国内での奨学金や教育の機会が人材流出を止めることにつながると期待しているのです。また、南アフリカの大統領であるシリル・ラマフォサ(Cyril…

欧州大学協会が学術出版社に対する訴状を提出

世の中で「海賊版」といえば批判されるのが普通ですが、学術出版において購読費を支払うことなく学術論文が入手できる「Sci-hub」は、海賊版サイトと呼ばれながらも研究者の支持を得ており、逆に、Sci-hubを提訴している大手学術出版社のエルゼビアが大学や研究者から批判されるという事態となっています。オープンアクセス化が進む昨今、学術出版社への批判および圧力が強まっています。 10月30日、欧州48ヶ国の800校以上の大学と33の学長会議が参加している 欧州大学協会 (European University Association; EUA)がEuropean CommissionのCompetition部門にエルゼビアの親会社RELXグループを含む大手学術出版社5社に対する申し立てを提出しました。その中には、学術出版における透明性と競争の欠如に関する問題点が指摘されています。 ■ 学術出版社への批判=高すぎる購読料 そもそも、なぜ学術出版社への批判がここまで高まっているのか?そこには学術出版社による購読料の値上げが大学や研究機関の許容範囲を超えてしまった現実があります。大手出版社の多くは、購読率の高い人気学術雑誌(ジャーナル)と比較的読まれていないジャーナルを抱き合わせで購入させるパッケージ販売を行っています。読まないものは要らないから安くして、と言いたいところですが、1誌ごとに購入したとしても購入費は膨らむ一方。購読料の度重なる値上げに大学・学術機関なのに学術ジャーナルが購読できないという事態に陥っているのです。欧州の大学から購読をボイコットされたことや、Sci-hubとの裁判で話題になることの多いエルゼビア社の購読料の高さは有名ですが、他誌の値上がり率もかなりのものです。 日本の状況を例に挙げれば、9月29日の日本経済新聞の記事には、“大学図書館コンソーシアム連合(JUSTICE)によると、海外の自然科学系学術誌の2018年の年間購読料の平均は1誌あたり平均2895ドル(約32万円)。1990年の9倍に達した。1年間で平均8%の値上げで、大学など研究機関が抱える研究・資料購入費を圧迫している。”と書かれています。この記事の元となったJUSTICEのデータを見ると、値上がり率は分野によって異なるものの、1990年から2018年までの29年間における自然科学系・海外学術雑(冊子)の毎年の値上げ率の全分野平均は8.17%、人文科学系は8.67%。冊子ほどではないにせよ電子ジャーナルの価格も推移しており、2012年から2018年の7年間の毎年の値上げ率の全分野平均は自然科学系で4.40%、人文社会科学系で5.46%となっていました。また、学術出版社は基本的に購読料から利益を得ていますが、11月21日のNewScientistの記事によると、学術論文の出版社の利益率は石油産業や金融を上回る40%におよぶそうです。これでは大学や研究機関が怒るのも無理はありません。 ■ 欧州の大学、学術出版ビジネスにおける競争の欠如を懸念 この継続的な値上がりは世界共通であるため、各国の大学や研究機関は財政を圧迫され、EUAは訴状を提出するに至ったのでしょう。そこには、学術論文の出版市場が寡占状態にあること、公的な資金により行われた研究の論文により出版社が利益を上げていること、購読契約における価格の透明性が損なわれていることなど8項目におよぶ問題点につき、項目ごとに具体的な説明が書かれていました。この訴状で対象とされたのは、RELXグループ(英)、Taylor & Francis(英)、Wiley-Blackwell(米)、Springer Nature…

【ニューハート・ワタナベ国際病院】捶井 達也 先生インタビュー

研究者の方たちの英語力向上法などについてお伺いするインタビューシリーズ22回目。 心臓血管外科・循環器内科の専門治療を行う『ニューハート・ワタナベ国際病院』で、高度な心臓手術などを手がけている捶井先生。手術支援ロボット「ダ・ヴィンチ」を使用した心臓手術の訓練にも取り組まれるほか、日本の若手心臓血管外科医の技術と知識の向上を目指している「若手心臓外科医の会」にも世話人として所属され、お忙しい日々をすごされています。心臓外科の道に入られたきっかけから、 英語学習法 まで、お話いただきました。 ■ ここは新しい病院と伺っているので、病院のことと、ご専門の心臓外科について、ご説明くださいますか。 ニューハート・ワタナベ国際病院は、2014年に開院した心臓血管・循環器に関する治療および手術を専門に行う病院です。年間500件以上の手術を行っており、心臓手術の実績としては都内でも多い方だと思います。当院では、手術支援ロボット「ダ・ヴィンチ(da Vinci Surgical System)」を使った新しい治療法も積極的に取り入れており、心臓の僧帽弁の手術に使っています。ダ・ヴィンチによる手術は、傷口が小さいので非常に低侵襲手術だと言われており、患者さんへの負担が少ないのです。ロボットで僧帽弁の治療を行っているという点では日本で一番多く手がけています。 ■ 先生が心臓外科という領域を選ばれたきっかけは何ですか。 金沢大学医学部での病院実習の時、現在はここの総長である渡邊剛先生の手術を見て、深い感銘と感動を受けて、ぜひ学びたいと思ったんです。医者になるのであれば、やっぱり憧れの心臓外科に挑戦してみたいという気持ちになりました。ものすごくインパクトが強くて。僕が学生だった当時、渡邊先生は金沢大学の教授をされていましたが、この心臓外科専門の病院を開設するという時にお声がけいただき、上司や先輩と一緒にこちらに来て四年半です。 ■ 難しい心臓外科の治療や最新の設備を使った手術などをされている中で、何本ぐらい論文を書かれるのでしょうか。 去年は英語だけでも4本か5本は書いたと思います。新しいことに取り組んでいるということもありますし、民間病院ではありますがアカデミックなこともやっていきたいと思っているので。将来的に何かにつながるようなアカデミックなこともやっていきたいという強い思いもあります。 ■ 英語で論文を書くための勉強などされましたか? 英語の勉強は学生の頃から少しずつやっていました。英語ができないと、何を伝えるにしても中途半端になってしまい、せっかく一生懸命やったことをしっかり伝えられないのは、もったいないです。しっかりした研究をしても、伝える英語の部分がしっかりしていないとついてこない。やった仕事の半分しか伝わらないとしたら、残念ですから。逆に、仕事の成果を十分伝えられれば、自分のキャリアにも役立つと思い、学生のうちから意識していました。…

著名な学術雑誌は絶対か~ビジネスモデルの変化

京都大学高等研究院の本庶佑特別教授が、2018年のノーベル生理学・医学賞を受賞された明るいニュースが大きな話題となりました。しかし、10月1日に京都大学で開催された記者会見では、受賞の喜びとともに、日本の科学研究の現状に対する懸念を表明されています。他のノーベル賞受賞者がそろって日本の学術研究、特に基礎研究の弱体化を心配していたのと同様、本庶教授も基礎研究への支援が重要であるとして、多額の研究費用を基礎研究に投資する必要があると訴えました。 研究成果を利用する企業(製薬会社)にリターンを求めたことも含め、大変示唆に富む会見でしたが、その中の一部を抜粋します。 よくマスコミの人は、ネイチャー、サイエンスに出てるからどうだ、という話をされるけども、僕はいつも、ネイチャー、サイエンスに出てるものの9割はウソで、10年経ったら、まあ、残って1割だというふうに言ってますし、だいたいそうだと思ってますから。まず、論文とか書いてあることを信じない、自分の目で、確信ができるまでやる、それが僕のサイエンスに対する基本的なやりかた……(後略) 自分の目で確信できるまでやる――というのはサイエンスにとってとても重要です。しかし、頭に残ったのは「ネイチャー、サイエンスに出てるからどうだ……」という部分でした。というのは、日本のメディアおよび日本人研究者は著名な学術雑誌(ジャーナル)の権威を絶対視する風潮があるのを指摘されたように思えたからです。もちろん、ネイチャーやサイエンスは素晴らしい学術ジャーナルで、世界中の研究者のみならず学術研究に関心のある多くの読者に読まれていますが、世界で新しい論文発表および共有の方法を探る動きが広がっているのも事実です。 欧州各国では、大学あるいは大学連盟がジャーナル購読料の高騰に反発し、大手出版社との交渉の末に購読契約を打ち切る事態が起こっています。にもかかわらず、日本の大学ではこのような動きは出てきていません。研究費が減ったと研究者が嘆く中、日本の大学は高額な学術ジャーナルの購読料を言われた通りに支払い続けているのでしょうか。また、大手学術ジャーナルが刊行を発表した新しいジャーナルへの投稿を、その分野の研究者がボイコットする動きも出ていますが、日本でそのような抗議が拡大しているとも聞きません。多くの日本人研究者は、研究成果を論文にして著名な学術ジャーナルで発表すべく、日々努力しています。しかし、学術ジャーナルに論文を発表することは本来の目的ではないので、研究成果の発表方法、その後の活用法など、自分が確信できるやり方を考えることが求められているのではないでしょうか。 ■ オープンアクセス(OA)への動きが欧州で加速 研究者である以上、自分の研究成果をより多くの人に読んでもらい、評価してもらうことは重要です。そのための一つの手段が著名な学術ジャーナルに論文を発表することですが、当然ながらそれらの学術ジャーナルに論文を掲載するのは簡単ではありません。そんな中、オープンアクセス(OA)の流れが加速しています。無料で論文が閲覧できるOAジャーナルが台頭してきたこともあり、より多くの人に読んでもらうために著名な学術ジャーナルに論文を発表することが、絶対的な手段ではなくなってきているのです。 9月4日、Science Europe(欧州の研究助成財団および研究実施期間が加盟する組織)は、欧州委員会(EC)の支援のもと、欧州11の公的研究助成機関が支援した研究者の論文を出版日に無料で読めるようにするためのイニシアチブ“cOAlition S”を発表しました。これは、2018年7月より議論されていた“Plan S”を達成するための協定です。“Plan S”とは、2020年以降に出版する公的資金を受けた研究に対し、OAジャーナルあるいはOAプラットフォームでの公開義務化を目指すもので、世界の研究助成機関に参加を呼びかけており(早くも27カ国から43機関が署名、2018年11月現)、オープンアクセスへの移行を確実に加速させています。 誰もが無料で論文を読めるようにする――従来は、読者が購読料を支払ってきましたが、その代わりに研究者が論文の公開料を支払うという ビジネスモデル への転換が進んでいるのです。論文への自由なアクセスを求める動きは、海賊サイト「Sci-Hub」を登場させたほか、学術ジャーナルの出版前にインターネットで論文を公開する動きにも広がっています。当然ながら、この協定およびイニシアチブに対し、学術ジャーナル各誌は反発を示していますが、研究者の中にも懸念を表明する動きが出てきています。…

欧州機関オープンアクセス義務化へ「プランS」発表

今年9月、ヨーロッパで研究費を助成している11の機関が共同で、自分たちが予算を提供している科学者たちは、2020年以降、論文を即座に無料で公表することを義務づけるという構想「 プランS (Plan S)」を発表しました。この計画は、欧州委員会が推進しており、ヨーロッパ各国の国立の研究費助成機関などが署名していますが、国によっては意見が分かれています。当然、出版社は反発しており、この先の動きには注目です。

インパクトファクターに影響を与える要素とは

自身の研究論文を投稿するならインパクトファクターの高い学術雑誌(ジャーナル)に――。そう考える研究者がほとんどでしょう。Clarivate AnalyticsおよびSCImagoは、掲載されている論文の引用数に応じて学術雑誌のスコア付けを行っています。このスコア、つまりその学術雑誌に掲載されている論文がどれぐらい読まれ・引用されているかの目安となるのがインパクトファクター(IF)もしくは、ジャーナルインパクトファクター(JIF)とよばれるものです。論文の引用回数が多ければ多いほど、インパクトファクターは高くなり、学術雑誌としての「格」が高いとみなされることになります。 一般的には多く引用される論文ほど価値が高いと考えられ、引用回数は研究の評価を決める重要な尺度と見なされているため、インパクトファクターの高い学術雑誌に自身の論文が掲載されることは研究者としてのキャリアに大きなプラスになります。研究助成金の獲得のチャンスも増えるため、研究者にとって学術雑誌のインパクトファクターは研究論文の投稿先を決めるにあたって、重要な指標と言えます。 では、このインパクトファクターに影響を与える要素にはどのようなものがあるのでしょうか。 ■ インパクトファクターに影響する要素 インパクトファクターは、Clarivate Analyticsによって算出され、オンラインの学術データベースWeb Of Science上で公開されています。これは、各学術雑誌において、引用可能な論文が過去2年間にわたり引用された回数を引用可能な論文の合計数で除した値、つまり平均値を算出したものです。別の文献データベースScopusはCiteScore Metricと呼ばれる同様のスコアを算出しており、こちらは過去3年間に出版された文献を算出対象としています。Scopusは毎年このスコアを公表しており、研究者は経年で各学術雑誌のスコアを確認することができます。このようなスコアは機械的に計算されるため、特定の要素がその数値に影響をおよぼします。 インパクトファクターに影響を与える要素を以下に示します。 ・論文の種類 研究論文よりもレビュー論文のほうが引用される傾向があります。 ・分野 研究成果を得るまでの期間が長い分野の場合、2年もしくは3年という評価期間では引用されにくいため、引用回数は少なくなります。また、分野による研究者の人数(総数)も影響します。例えば、数学よりも医学のほうが研究者の数自体が多いので、相対的な論文の発表数に違いがあり、結果として引用数にも差が生じることになります。…

日本は研究不正大国なのか

学術研究における不正が問題視されていますが、対岸の火事のように思っていませんか? 研究不正 をする日本人研究者がいたとしても数は少なく、それほど重大な問題は起こしていない――というのは単なる思い込みで、現実を見ていなかっただけなのだろうか。そんなことを思ってしまうような記事が科学雑誌Scienceに掲載されました。 ■ 嘘の大波(TIDE OF LIES) 8月17日のScienceに掲載された「TIDE OF LIES」と題された記事には、世界的に有名な葛飾北斎の『富嶽三十六景 神奈川沖浪裏』を模した画が掲げられています。この記事は、弘前大学の医学部元教授による研究不正行為について取り上げたものですが、加えて、研究不正などの理由で撤回された論文の監視を行っているRetraction Watchによると、論文撤回数の多い研究者ランキングの上位10名に6名もの日本人が含まれていることが記されています。この現状への痛烈な皮肉が日本芸術として有名な版画に込められているのです。 記事は、弘前大学の佐藤能啓(Yoshihiro Sato)元教授の研究不正に関する詳細なレポートとなっており、彼のねつ造は科学史上最悪な不正のひとつであると述べています。2017年11月、弘前大学は、同大学の佐藤元医学部教授が筆頭著者として2002年から2006年に米国や日本の医学雑誌に発表した14本の研究論文のデータにねつ造などがあったと発表しました。この問題は、米国医師会誌JAMAなどの学術雑誌が佐藤元教授の論文を取り消したことから発覚し、調査の結果、13本の論文でデータのねつ造が、1本で盗用が行われていたと認定されたのです。論文の中には、著名な医学雑誌に掲載され、多数引用されていたものもありました。どんな研究であれ不正は認められませんが、医学研究の不正は被害が甚大になる可能性もあり、佐藤元教授の研究不正は非常に悪質であったと言えます。なお、この佐藤元教授は2017年1月に他界していますが、本記事では、真実は分からないが不正が明らかにされたことで佐藤氏が自殺したと言う人もいると書かれています(ただし、本記事中で佐藤氏は2016年死亡となっている)。 佐藤元教授は、Retraction…

アカハラ研究者、5億円相当の助成金が取り下げに

昨今ニュースになることの多いパワハラ。学術界の場合はアカデミックハラスメント(アカハラ)と呼ばれているようです。今、ひとつのアカハラ事案が注目を集めています。イギリスを本拠地とする医学研究支援等を目的とする公益信託団体ウェルカム・トラスト(Wellcome Trust)が、ある研究者の助成金を取り下げる事態に至ったのです。学術界のアカハラに対する姿勢とは……。 ■ 助成事業における不正行為等への対応 一般的に、研究助成金を申請・受領した研究者に何らかの不正行為があった場合、助成金申請を取り下げる、または助成金支給の中止または返還などの処分をとることが規則で定められており、募集要項にもその旨が記載されています。論文の捏造や改ざん、剽窃・盗用が不正行為に該当するのはもちろんですが、近年は、研究倫理に求められる範囲が研究環境にまで拡大されるようになってきました。そのひとつが、アカハラ対策です。ウェルカム・トラストは、2018年5月3日に新たな倫理規範”Policy on bullying and harassment”を発表し、研究環境におけるハラスメントも許されないという姿勢を明確にしました。 そして、この新規範がロンドン大学癌研究所(Institute of Cancer Research:ICR)の研究者に初めて適応され、注目されることとなりました。 ■ 優秀な研究者によるアカハラ ICRに勤務していたNazneen…

文科省は3度目のノーベル物理学賞を狙えるか

文部科学省(以下、文科省)が 科学研究 に大きな予算を投じ、基礎研究のテコ入れを狙っているようです。その中には、「あの」有名大型研究施設の建設に関する調査費用も……。 ■ 基礎研究への概算要求予算は増額したが…… 文科省は2018年8月30日、2019年度の概算要求を発表しました。このうち「科学技術予算」は1兆1,680億円(2,054億円増)となっており、前年比で21%増。この要求予算には、最先端大型研究施設の整備、世界最速のスーパーコンピュータ開発、X線宇宙観測の設備、巨大素粒子観測施設の新設推進に向けた予算などが含まれています。しかし、これに先立つ7月に、政府が概算要求に関する基本的な方針を発表し、裁量的経費の10%削減を掲げていることを鑑みれば、内閣府が全体予算を「総合科学技術・イノベーション会議」(総合的・基本的な科学技術・イノベーション政策の企画立案および総合調整を行う場)で削減してしまう可能性は残されています。 1990年代前半から日本政府は、経済成長が低迷する中でも、経済効果が期待できる科学技術には投資を続けてきました。しかしここ10年は、その額も頭打ち状態に。2019年度予算は増額要求となりましたが、文科省が目指すほどの予算を確保できるかは不透明と言わざるを得ません。 ■ 科学技術予算のポイント 科学技術予算は大枠で以下の4つに分類されており、その中でさらに細分化した項目ごとに予算が振り分けられています。 ・Society 5.0を実現し未来を切り拓くイノベーション創出と、それを支える基盤の強化 ・我が国の抜本的な研究力向上と優秀な人材の育成 ・国家的・社会的重要課題の解決に貢献する研究開発の推進 ・国家戦略上重要な技術の研究開発の実施 注目ポイントを見てみましょう。 研究者にとって影響の大きい科学研究費助成事業(科研費)は2,469億円と、前年度比8%増。さらに、iPS細胞などによる先端医療への活用に代表される、経済効果のあるバイオ関連研究を推進するため「先端的バイオ創薬等基盤技術開発事業」として24億円を新規に計上しているので、このまま予算が確保されれば、研究者にとっては一安心となるかもしれません。…