PhD&ポスドク向け基礎知識

第3回 聞き手を引き込むストーリーを「練る」

プレゼン において、よく練られたストーリーは聞き手を離しません。たとえ英語が流暢でなくとも聞き手を引き込む威力があります。心血を注いだ研究結果を一人でも多くの人に聞いてもらうためには、データを羅列して述べるだけでは不十分です。スライド作りに着手する前に、ノートを開いて構想を練りましょう。 口頭発表とはストーリーを展開すること 聞き手を想定し内容を絞り込んだら、各要素をつなぐストーリーを入念に作り込むことが極めて重要です。この作業を経ていない研究発表が非常に多いことが学会を眠たい場にしていると言っても過言ではありません。ここでいうストーリーは‘筋書き’ですから、構想を練る際に発表の流れをチャート化することが有効です。ひとつの研究が複数の実験や試験から成る場合は特に聞き手を迷わせないストーリー展開の工夫が必要です。論文であればページをさかのぼって不明点を確認することができますが、口頭発表は過去にさかのぼることができませんので、発表者が聞き手を巧みにガイドする必要があります。 ズームインからズームアウト ストーリーを作成する際には、発表全体がズームインからズームアウトの構図を持つようにします。発表の冒頭で研究の位置づけを示す全体像を示し、研究の詳細を紹介したら、最後に研究成果の意義を示す全体像でしめくくることです。これは発表者の取り組んでいる研究が、科学的課題を広く視野に入れていることを示すために重要です。 オープニングにひと工夫を 口頭発表はストーリー展開を明確にすることで格段に向上しますが、さらにオープニングにひと工夫を加えることをお勧めします。具体的にはイントロダクションの冒頭を印象的にすることです。ごく短い時間を使って、発表内容に関連する何らかのエピソードや映像を挿入することで聞き手の気持ちを発表者にぐっと引き寄せることが出来ます。質の高いプレゼンテーションで名高いTEDカンファレンスはオープニングおよびストーリー構成の参考になります。 キャラクター紹介:久里 夢存(Muzon Kuri) 日本の大学で材料工学を学び地元企業に就職するも、“独立型・移動式住居”開発の夢をあきらめきれず、再び大学でエネルギー工学を専攻。工学、生物学、建築学など多分野の研究者からなるプロジェクトチームに所属し、エネルギー自給型インフラストラクチャーフリー移動式住居[Self-Sufficient Camper(S.S.Camper)]を開発中。この度、国際住環境学会(“架空”)において同住宅の自然災害時における有用性について口頭発表することに・・。口演タイトルは、“Energy self-sufficient, infrastructure-free…

第2回 伝える内容を「絞る」

プレゼン において聞き手としての経験があれば、‘詰め込み発表’がいかにわかりにくいか知っているはずです。発表者になったら、「結局何が言いたかったのかわからなかった」パターンに自ら陥らないよう、徹底的にシンプルな発表を目指しましょう。これだけでも、不慣れな英語を強力に補うことができます! 聞き手を知る 口頭発表で忘れがちなのが、聞き手を意識するということです。学会発表では、聞き手は発表者の研究領域の専門家である可能性が高いと思われます。しかし近年、学会はますます大規模化し、研究領域はますます細分化されていますので、聞き手は必ずしも発表者の研究領域を熟知していないことを想定したほうがよいかもしれません。発表が予定されているセッションのテーマや座長、発表者の顔ぶれをチェックして、聞き手を具体的に想定しましょう。 “take-home message”を決める 口頭発表は論文と同様に、イントロダクション、対象または材料、方法、結果、考察、サマリーなどの要素で構成します。しかし、短時間に伝えられるように内容を絞り込む必要があります。その際にはまず、最も伝えたいメッセージを決めましょう。これは国際学会でよく“take-home message”と言われているものです。研究が複数の実験や試験からなる場合も、それらを統合したメッセージを引き出し、出来る限り簡潔な一文にまとめるのが望ましいです。 サポートする情報を取捨選択する “take-home message”が決まれば、発表の各要素はこれをサポートするのに必要最小限の内容に絞り込みます。情報やデータの取捨選択にあたっては、聞き手が必要とする内容に焦点を合わせると同時に、制限時間内にカバーできる量を考慮します。通常、「イントロダクション」は研究の動機や背景を伝えるために非常に重要ですが、聞き手が専門家のみであればむしろ簡略化すべき場合もあります。冗長になりがちな「対象/材料」「方法」はできるだけ簡潔にし、「結果」「考察」に十分な比重を置きましょう。必要に応じて「仮説」や「今後の展望」を述べる余地も残します。 キャラクター紹介:久里 夢存(Muzon Kuri) 日本の大学で材料工学を学び地元企業に就職するも、“独立型・移動式住居”開発の夢をあきらめきれず、再び大学でエネルギー工学を専攻。工学、生物学、建築学など多分野の研究者からなるプロジェクトチームに所属し、エネルギー自給型インフラストラクチャーフリー移動式住居[Self-Sufficient…

第1回 学会発表は研究者が輝く舞台

学術論文ならまだしも学会発表 はかんべん!ましてや英語で!という研究者の方々がプレゼンテーションの醍醐味を感じるのに必要なのは、ほんの少しの発想の転換かもしれません。国際会議でのプレゼンテーションを成功に導く集中連載の第1回目では、まず口頭発表の意義から見直しましょう。 口頭発表は生きた情報交換の場 論文発表が「情報発信」の場であるのに対し、口頭発表は人と人が直接「情報交換」を行う場です。口頭発表の意義は、最先端の研究者が集結し、最先端の研究について‘ディスカッション’することにあります。発表者にとっては研究成果のエッセンスや解釈を聞き手に直接アピールすることができ、聞き手にとっては研究の経緯や課題を研究者本人から聞くことのできるまたとないチャンスです。そしてこの千載一遇のチャンスは参加者全員の時間を無駄にするリスクの上に成り立っていることを忘れてはなりません。 キャリア向上につながる 口頭発表の主役は研究成果であると考えられがちですが、発表者自身でもあります。特に若手研究者にとっては、研究への情熱や着眼の鋭さ、コミュニケーターとしての能力を広く示すことができれば、国際的な共同研究や新たなキャリアへの道筋を開くチャンスとなります。したがって、口頭発表はやり過ごすのではなく、研究と同様にエネルギーを注ぐ価値があります。 失敗してもかまわない 多くの人が日本人はプレゼンテーションが苦手な上に英語のハンディキャップも負っていると考えています。しかし、英語圏においても研究者向けにプレゼンテーションのノウハウを伝授するツールが多く存在します。それらのツールでは必ず練習を繰り返し、場数を踏むようにアドバイスされています。母国語が英語の研究者にとってもプレゼンテーションは容易ではないのです。したがって、日本人研究者が尻込みする必要はありません。むしろ積極的に場数を踏んで失敗に学ぶ必要があります。勇気を持ってチャンスに臨みましょう。エナゴアカデミー内でもご紹介していますが、各界で活躍中のトップ研究者の英語との向き合い方も参考になります(トップ研究者インタビュー)。 キャラクター紹介:久里 夢存(Muzon Kuri) 日本の大学で材料工学を学び地元企業に就職するも、“独立型・移動式住居”開発の夢をあきらめきれず、再び大学でエネルギー工学を専攻。工学、生物学、建築学など多分野の研究者からなるプロジェクトチームに所属し、エネルギー自給型インフラストラクチャーフリー移動式住居[Self-Sufficient Camper(S.S.Camper)]を開発中。この度、国際住環境学会(“架空”)において同住宅の自然災害時における有用性について口頭発表することに・・。口演タイトルは、“Energy self-sufficient, infrastructure-free…

研究室を選ぶ際の5大基準 (2)

研究室を選ぶ際の5大基準(1)に続き、どのようにして研究室を選べばいいのか考えてみたいと思います。 3. 教授に指導力があるか? 有名な教授だからといって人に教えることが上手だとは限りません。あなたが一人前に研究者として成長するために何よりも大切なのは、教授の知名度ではなく指導力です。もちろん自分の研究もできて、学生を育てるのも大好きだという教授であることに越したことはありませんが、そのような教授はとても稀な存在です。教授の知名度に惑わされず、数年という短い期間で、あなたを一人前の研究者にするだけの現場の知識や知恵や裏技を伝授し、同時に研究過程で一緒に悩んでくれる人を探しましょう。 この点に関しては、研究室の他の学生に会って、いつも教授への質問はどのようにしているのか(たとえば「週に1回のオフィス・アワーを待ってする」か、それとも「いつもメールでしている」かなど)、その返事は迅速に返ってくるのかを聞けば、案外と簡単に察することができます。 また、研究室を訪れたとき、写真があればよく観察してください。学生と一緒に写っている写真があれば、その教授が学生との時間を楽しんでいる可能性が高いといえるでしょう。また、生まれたばかりの三つ子の写真があれば、これからは子育てが忙しくて、なかなか学生の指導に時間を避けない可能性も考えられます。学生指導の上手な教授でも、教授の人生のタイミングと自分の研究室に所属するタイミングが最悪(?)となる可能性もあるのです。これは人間として避けられない事実です。教授の最終的なよし悪しを決定することではありません。ただ、自分がそのために悲哀を感じることがないよう、自己防衛は必要です。 4. 人間関係が円滑かどうか? 新しいことをいろいろと学んでくると研究がどんどん面白くなってきて、自分のアパートへ帰るのがうっとうしくなっていくものです。そのため、「研究室で過ごす時間が、ほかのどの場所で過ごしている時間の総合計より長い」という状況にもなりかねません。そうなると、研究室の教授や助教授や他の研究員は、同居人同然の存在となっていきます。そこで大切なのが、「同居人」との相性です。 「邪魔をされなければいい」と思われるかもしれませんが、毎日一緒に長時間過ごす人たちが、競争心丸出しで口も聞かないようでは息も詰まります。また、一緒に協力し合えるグループ意識があれば、「3人集まれば文殊の知恵」ともいうように、お互いの向上にも繋がります。同じ分野の人たちと交流することによって、自分の考えに挑戦されることにも慣れ、学会などへ出たときの質疑応答にもその体験を活かせるでしょう。 そのため研究室を選ぶときには、教授のオフィスへ行くだけでなく、他の学生にも紹介してもらって、自分との相性を確かめましょう。また、研究室を訪ねたときには、掲示板などを見て、何かイベントが企画されているか、一緒にお昼を食べている形跡があるかなどに注意してください。なかには「一緒に昼を食べたり、忘年会へ行ったりするのはちょっと苦手……」と思う人もいるかもしれません。しかしこれも一人前の研究者として他の研究者と上手に意見交換をし、ネットワークをつくる練習です。学生生活の課題の1つとして考え、自分の好みにかかわらず、できるだけコミュニケーションが盛んに行われている研究室を選ぶことをお勧めします。 5. 研究室の特徴は? まったく研究に関係がないと思われるかもしれませんが、案外と研究の効率度に影響があるのが、研究室の特徴です。定期的な勉強会が行われているか、他の学部や研究室との交流が盛んかどうか、など研究室の活気は重要です。と同時に、図書館や食堂への距離、公共の交通機関の充実度なども重要なポイントとなります。研究室を訪れたときには、少し時間をつくって、研究室のまわりを散策してみるのもいいでしょう。 また、学生に対する教授陣の人数の多さを調べ、できるだけ教授陣の比率の大きい研究室を選ぶのも重要です。どんなに面倒見のいい教授でも、学生の数が多ければ1人ひとりに対しては十分な時間が取れませんから。…

研究室を選ぶ際の5つの基準 (1)

研究に熱意を持つ将来有望な若者にとって、「大学の研究室選び」はその人の今後の研究者生活を左右するといっても過言ではありません。研究室選びにおいては、自分のやりたい・興味のある研究ができるというだけではなく、教授の人となりや研究室の環境、就職に有利か……などさまざまな判断基準が存在します。自身の希望をすべてカバーする研究室を選ぶのは難しいと思われるかもしれませんが、今回は研究室選びにおいて「これだけはおさえておきたい」5つの基準をご紹介します。 ここで取り上げる5つの基準は基本中の基本ですが、これだけおさえておけばご自身の希望から大きく外れることはないでしょう。これから研究室を選ぶという方だけでなく、研究室選びについて後輩からアドバイスを求められている先輩研究者・教授の方もぜひご参考ください。 1. 何を研究したいのか? 何よりも大切なのは、自分が興味を持つ研究課題をその研究室で研究できるか、ということでしょう。「この研究が面白くて面白くてしかたがない!」と思える課題に没頭することができれば、他の条件がかなり悪くても頑張ることができるというものです。 自分が研究したいことがはっきりしている場合は、各研究室のウェブサイトを見たり、その研究室に所属している人たちが出版した論文をウェブ検索したりすれば、その研究室で自分の望む研究ができるかどうか、ある程度わかるはずです。しかしここで気をつけておきたいのは、指導教授の興味の移行がウェブサイトや出版物に反映されるまでには、多少の時間がかかるということです。そこで、できるだけ多くの指導教授に会うことをお勧めします。自分のしたい研究に対する感想を聞くのはもちろんのこと、教授が今興味を持っているトピックや将来してみたい研究などを聞けば、長期的な観点での相性がわかるでしょう。 それとは反対に、まだまだ興味を絞ることができていないのに研究室を選ばなくてはいけないという方も多いのではないでしょうか? そのような場合、広範囲の研究を援助する柔軟さを持っている研究室を選ぶことをお勧めします。このような場合も、臆することなく、多くの指導教授と面談し、教授の研究に興味はあるのだが自分の目指す方向がまだ絞り込めていないと相談してみてください。そのときの反応で、教授の指導力、研究への熱意、違った研究への柔軟性がわかるはずです。 2. 自分の将来性に見合うか? 将来希望する就職先の規定に「臨床現場の経験」などの必要条件があれば、その条件をその研究室が満たしてくれそうかどうかということも大切な選択要素となります。教授に面談をお願いする前に、自分が将来希望する進路に関してできるだけ多くの情報を集め、それに対して具体的な質問ができるよう、箇条書きにまとめておくとよいでしょう。 また、教授に会ったとき、自分がどんな仕事につきたいかを話し、それについてどう思うか意見を聞けば、教授のその職種に関する理解度や好感度もわかります。 また、就職活動そのものがたいへんな作業ですから、研究生の就職活動に多少の理解や協力を提供してくれる教授は、将来心強い味方となります。そこで気になるのが、研究室の教授や助教授のそれまでの経歴です。教授陣の多くが同じ大学や同じ大学院の卒業生である場合には、集まる情報も限られてきます。もし、同じような研究室が2つあって選択に悩むようなことになったら、教授陣の略歴を調べて、複数の大学に所属したことがあったり、企業での経験があったりする人など、バラエティのある研究室を選ぶのも1つの手かと思います。

ブログなどで研究成果を事前に発表するのはアリ?ナシ?

ジャーナル(学術雑誌)の投稿規程には、必ずといっていいほど「投稿は、ほかの媒体で発表されたことのないオリジナルの論文に限る」という文面が見られます。そのため雑誌に掲載される前に、自分のウェブサイトやブログ、Twitter、SNS(Facebookなどのソーシャル・ネットワーキング・システム)などで研究内容を明かすことは控えめになってしまいがちです。しかしこれはよくある勘違いで、あの名門学術雑誌『ネイチャー(Nature)』でさえ、雑誌掲載前に研究内容についてブログに書くことを、研究者に推奨しているほどです。 より水準の高い研究は、研究者間の意見の交換なしにはありえません。そのためブログやSNSなどは、一般の学会と同様、自分のアイデアや研究の成果を他の研究者と共有し、意見を交換する場と考えることができます。つまり、意見を交換する場が、どこかのホテルや大学の会議室から、バーチャルに変わっただけだということです。そのため自分の研究の進捗状況をよく理解し、必要に応じてブログなどに投稿し、より多くの意見を得ることは大事なステップといえるでしょう。そのタイミングは、仮に学術雑誌への掲載が内定し、出版されるのを待っている段階でも問題ありません。 研究者のためのSNSとしては、「ResearchGate」や「Academia.edu」などが有名ですが、FacebookやLinkedinなどの通常のSNSにも多くの研究者が登録しており、きわめて専門的で高度な議論が交わされています。 ただ、ここで気をつけなければならないのは、ブログやSNSは何でもありの無法地帯というわけではないということです。 ジャーナルが、ほかで発表していない論文にこだわる理由の1つは、いうまでもなく二番煎じ的な重複出版を避けることにあります。それはブログでも同様のことですので、コピー&ペーストして自分の論文を発表するようなことは、仮に部分的なことでも厳禁です。 また、もう1つの理由として、誰がどんな研究をしているかが事前に詳しく知れ渡ってしまっては、公正な目で論文を読んでくれる査読者を見つけられなくなるということが挙げられます。一般的に、出版前の論文についてテレビ番組や雑誌などのマスメディアを通じて広報活動をすることは禁じられていますが、ブログ上でも自分の論文について発表前にプロモーションすることは御法度です。ブログやSNSは、あくまでもバーチャル学会だという認識のもとで、研究に役立ててください。

研究者の結婚、育児

女性研究者仲間が集まるとよく話題になるのが、「いま結婚するのは得策か?」「妊娠するのは少し待ったほうがいいか?」などという、研究者としての自分と女性としての自分の人生とを、どうやってバランスよく保つかという問題です。教授職を獲得するまで待って高齢のため妊娠に苦労している人。博士論文を書いている途中で妊娠し、その後出産と育児に追われ卒業できずにいる人。いま付き合っている男性が転勤の多い職業であるため、結婚したらどちらのキャリアが犠牲になるのか悩んでいる人。それぞれ立場や問題は違いますし、「正しい選択」もまちまちです。 女性研究者が上記のような問題に直面したときに、どのような対策を取るべきか? まずいえることは、いろいろな人と話をすることの大切さです。とくに、しかるべき人に相談することです。 研究者どうしで経験を分かち合うのはもちろんですが、大学や企業の同僚とばかり話をしていると、お互いに慰めあうことばかりになりがちです。もっと現実的な情報を集めるた めには、福利厚生を担当している部署の人に相談するのがよいでしょう。私生活に口出しされるのが嫌であれば、「別に今すぐ結婚を考えているわけではないけれど、他の人の話を聞いていて不安になったので、この会社(大学、研究所etc.)の結婚・妊娠・出産などに関する支援制度がどうなっているか聞いておきたい」といえば、福利厚生担当者もあれこれ質問しないのではないでしょうか? 話を聞くさいには、育児休暇や育児のための部分休業、育児休業代替者制度など、どのような支援制度が確立されているかということとともに、そのような制度をどのようなタイミングで利用できるのか、また今まで利用した人が何人ぐらいいるのかを確認しましょう。育児休暇があっても、決まった期間内で取得しなければならないため、出産前に体調を崩して緊急入院することになっても、休暇を利用できない場合があります。また、条件がどんなによくても、今まで誰も利用したことがなければ、実際に支援制度を利用しようとする段になって、周りからのプレッシャーで退職を余儀なくされることもありえます。 また情報収集は、できるだけ広い範囲で行うのが得策です。企業や政府、大学が設けている助成制度やプロジェクトは日頃からチェックしておくとよいでしょう。また、厚生労働省の「特別保育事業の実施について」という通達にもとづいてつくられている「子育て支援センター」の位置や利用条件など、地域の支援体制や育児支援制度もおさえておきましょう。託児所や緊急病院など、いざというときのために必要な施設のリストを作っておくこともおすすめします。 次に大切なことは、得られる援助はありがたく最大限に利用するということです。 自分1人で悩んだり解決しようとしたりする必要はありません。最終的に感謝の気持ちさえ忘れず、自分のできる範囲で他の人への手助けを惜しみさえしなければ、「あの人は、いつも……」と陰口を叩かれることもないはずです。 もしあなたにすでにパートナーがいるのであれば、同様のことがカップル内でもいえます。「女だから」、「男だから」、「お給料のいいのは私だから」、「規律の厳しい職場に勤めているのは私だから」など、さまざまなプレッシャーがあるかと思いますが、社会のステレオタイプに押しつぶされることなく、人生のパートナーとして、ともにがんばることのできるゴールを定め、そこへたどり着くための情報収集を一緒にしてこそ、後悔しない人生の選択ができるのではないでしょうか?

その研究、私がやろうと思っていたのに!!

研究の主題が決まり、参考文献もそろえ、実験方法も考えがまとまり始め、いよいよ…と思っていたところ、自分がやろうと思っていた研究を芸術的ともいえる実験方法で行い、目を見張るような綺麗な結果を出したことをまとめた論文が、有名な雑誌の最新号に掲載されている! そう、一足遅かったのです。 もうすでに研究を始めていたり、最悪の場合、論文を書き始めていたりする場合もあるでしょう。いままで費やした時間がまったく無駄になると思うと、心臓も止まる思いです。しかし焦りは禁物です。ここは大きく深呼吸して、次の行動をとりましょう。 まず、出版されたその論文で行われた研究を詳細に分析します。被験者の人数や実験方法、分析のさいに使った学説など、まるで自分が行った研究かのように理解できるまで隅から隅まで精読します。 次に、査読者になったつもりで、出版された研究に欠けていることや改善できる要素を考えます。研究者自身が論文内で認めていることも、鵜呑みにすることなく客観的に考えてください。 そして、出版された研究をここまで理解し尽くしたところで、自分の研究と比較してください。研究がまだ計画段階の場合は、査読者として客観的に批評したことを重点的に考え、既存の論文を土台に、次の水準に達する研究を計画することを心がけてください。ここで注意したいことは、研究を発表した研究者が、同じ主題で研究を続けている可能性があることです。つまり、すでにあるデータの見方を変えるとか、小さな追加研究で論じられることなどでは不十分なのです。 自分の研究がすでに進行中だったり、すでに終わったりしている場合には、既存の研究を詳細に分析したように、自分の研究も分析し、そのうえで比較します。相違点が見つかったら、とくに違う点に注目し、その違いが何を意味するかを考えましょう。結果がほぼ同じ場合、その違いを誇張し、研究の違いにかかわらず同じ結果が出た意義を論じればよいでしょう。結果が既存の研究と違う場合は、どうして違う結果となったかを論じればよいのです。 最もしてはならないことは、既存の研究を無視してほかのジャーナルに投稿することです。自分の論文を全面的に書き直すことになっても、既存の研究を参照して議論を進めるように細心の注意を払ってください。既存の研究を無視するようなことは、その分野の最新の見識がないと思われ、研究者としての信頼性を傷つけるだけではなく、最悪の場合は盗作者とみなされて学術界から追放されることとなります。 事態がそこまで大きくならないまでも、査読者が「似た論文が出ていた」という理由で、その違いを深く理解する前に投稿却下と判断する可能性は高いでしょう。仮に掲載されても、後になってから、編集者に「騙されてほかのジャーナルに掲載された論文とそっくりの研究を掲載してしまった」と誤解されかねません。 …以上は一般論ですが学術界の歴史ではほぼ同じ内容の研究結果が同時期に発表されたことがあります。2007年11月20日(アメリカ東部時間。日本では21日)に、専門誌『セル』のオンライン版が京都大学の山中伸弥教授が、ヒトの体細胞からiPS細胞(人工多能性幹細胞)を作成することに成功したことを報告したとき、『サイエンス』もウィスコンシン大学の幹細胞研究者ジェームズ・トムソン教授によるiPS細胞の生成に関する研究結果をオンライン版で発表しました。 報道機関によると、本来は23日に発行予定だった『サイエンス』が発表日を3日繰り上げたといわれています。両者の論文投稿から掲載までの舞台裏ではさまざまなドラマがおきたことが予想されますが、オンライン版が普及した現代ならではの例と言えるでしょう。 上記の例はさておき、もし学術雑誌で自身の研究に近い論文を見かけたら慌てず冷静に対応策を考えることからはじめましょう。

世界的に有名なジャーナルへの投稿には、何時間の訓練が必要?

「世界的に有名なジャーナルへの投稿には、何時間の訓練が必要?」カナダのジャーナリスト、マルコム・グラッドウェル氏によれば、その答えは「1万時間」ということになります。 一般論的にいえば、優れた論文を書くことができたら、たとえ大学院生でも有名なジャーナルへの投稿を目指すべきです。これはエゴやプライドの問題ではありません(とはいっても、もちろんプライドがくすぐられるのは否めませんが)。新しい真実を発見したら、より多くの人に理解し、それを応用してもらうことで、自分を育ててくれている学術界に貢献するのが研究者の義務だからです。 しかし、学期末に提出するレポートや学内の雑誌(紀要)に掲載される論文と、有名なジャーナルに掲載される論文との間には、計り知れないレベルの差があります。それではいったいいつ頃から有名なジャーナルへの投稿を考え始めたらよいのでしょうか? その答えには、すばらしい研究をすることという以外に多くの要素が関係します。 まず、その研究が、多くの人々から注目を浴びている人気トピックに関する研究かどうか、ということがあげられます。全世界で50人しか興味を持っていないようなトピックでは、どんなにすばらしい研究でも重要視されにくいことは否めません。 次に、論文の英語が流暢に書かれているか、ということも重要です。単に文法的に正しい英語というだけではなく、思わず引き込まれるような英語でないと、他の研究者に対して、自分の研究の重要性をアピールできません。 さらに、参照文献のリストによって、その専門分野全体のことをしっかり把握していることが示されているかどうか、ということも重要な要素です。基本的に“よそ者”は信用されません。自分がその専門分野全体の流れやトレンドをしっかり把握していること、つまり自分は信用できる研究者だということを読者に訴える必要があるのです。 自分がこれらの素質を身につけているかどうかは、実際に有名なジャーナルに論文を掲載したことがある人たちに聞くのが一番です。それが不可能であれば、査読者としての目を鍛え、自分の論文を客観的に批評する力をつけましょう。 そして最後にもう1つ、統計学上の目安をご紹介します。前述のマルコム・グラッドウェル著のベストセラー『天才! 成功する人々の法則』(勝間和代訳、2009年、講談社、原題『Outliers』)によると、頭のよさに関係なく、それぞれの分野でプロになるには、1万時間の訓練が必要になるといいます。学生として論文を書き始めたころから考え、いま取り組んでいる分野で自分が今まで何時間を論文執筆やそのための研究に費やしてきたかを計算し、1万時間を超えていたら有名ジャーナルでの掲載も夢ではありません。 その目安を超えていると判断したら、ぜひ、辛口の批評で有名な身近な人たちに論文の草稿を読んでもらいましょう。「プレ査読」のような投稿支援サービスを使うことも1つの手段です。

自分が書きたかったことを、他人の論文で見つけました!

他人の論文を読んでいて、まさに自分が書きたかったことが書かれているのを見つけてしまったことはありませんか? とくに美しい英語で書かれている場合、「そうそう、それが言いたかったんだよ! すごいな〜、こういう風に書けばいいんだ」と思わず感動してしまう人もいると思います。そんな“すごい文”を集めたノートをつくって、ときどき開いては深いため息をついている人も……。「いつか私もこんなこと書きたい」と思いながら。 さて現実問題として、自分が言おうとしていたことと一字一句同じことをほかの論文で見つけた場合にはどうしたらよいのでしょうか? それが新しい用語や簡潔に書かれた論旨だった場合は、「直接引用」文という形で自分の論文に取り込むことができます。新しい用語の場合、脚注で、誰がどの論文でどのような意味で使っている言葉なのかを説明すればよいでしょう。一文や一節を引用する場合は、引用文のあとに 「(Jones 2010:335)」というように、引用元の論文のページ番号まで併記するのが一般的です。また、複数の文を引用する場合は、引用元を説明したあと段落を変えて、 引用文だけの段落を構成するのが一般です。どちらの場合も、ジャーナルによって参照文献の書き方が違いますので、“直接引用(direct quotation)”という項目をよく確認してください。 さて、同じ部分が用語や文ではなく、研究命題そのものだった場合には、どうしたらよいのでしょうか? この場合は残念ながら、命題を変えることも考慮しなければなりません。命題を変更する場合は、すでに発表された論文を参照文献として、そのうえで一歩先の命題を考えるべきでしょう。既発表の論文の研究方法が間違っていると思われる場合は、同じ命題を使って、よりよい方法で研究をし直すことも可能ですが、結果がまったく同じ場合には出版が難しくなるという現実を念頭に入れておかなければなりません。 いずれにせよ、先行研究があるかどうかを、ある場合にはその内容をしっかりと調べるためには、Google ScholarやPubMed、ScienceDirectなどの学術論文データベースを駆使する必要があります。 また、研究の途中や論文を書き始めたときにまったく同じ命題の論文を見つけた場合、投稿をあきらめる前に、2つの研究の間に相違点がないかをよく比較してください。たとえ研究結果が同じでも、研究方法や結果の解釈などが異なれば、出版できる可能性があります。しかしそのさいには、必ず既発表の論文を参照文献として取り入れ、自分の論文との比較を簡潔に行うことをお勧めします。