PhD&ポスドク向け基礎知識

修士論文(Thesis)と博士論文(Dissertation)の意義と違い

大学院の学位を取得するには、通常、それぞれの課程で論文を執筆する必要があります。 ところが、「論文」を示す語には幾つかの類義語があり、修士論文(thesis)と博士論文(dissertation)の意味と使い分けにも、混乱が見られることがあります。 ここでは、この2つの言葉の意味の違いを整理してみます。 ThesisとDissertationの意味は、英国においてすら時代によって変わってきました。シェイクスピアの時代、修士号取得を目指す者はthesisを書く必要がありました。この場合、thesisとは特定の意見を主張した原著論文です。 これに対し、博士号取得を目指す者にはdissertationの提出と発表が求められました。審査会に対してthesis(論文)を読み上げると、2人の委員が読み上げた内容の一つ一つに対して異議を唱えていくのを静かに待ちます。 この審査の焦点は、その学生の考えと、考えを明確に整理して伝える能力です。学生が研究者としての道に進むことを望む場合、dissertationは避けては通れません。この時代のdissertationは、どちらかと言えば文献レビューのようなものでした。学生は特定の分野について幅広く本を読み、発見したことをまとめ、さまざまな機関やその意見について考察します。学生が対象分野の文献に精通していることを示すことが目的だったのです。 では現在、thesisとdissertationはそれぞれどのような意味で使われているのでしょうか。 修士論文(Thesis)と博士論文(Dissertation)とは 学位習得には高度な知識を要する学術論文を仕上げる必要があり、一般的には、大学院の修士号習得を目指す学生の書く修士論文をThesis、博士号習得を目指す学生が執筆する博士論文をDissertationと使い分けていますが、博士論文はDoctoral thesisと呼ばれることもあるようです。 修士論文(thesis)とは、研究成果に関する批評的な学術文書です。一般的には、修士課程を卒業予定の学生が提出します。修士論文の目的は、所属する課程の一環として研究してきた対象分野における専門知識や見解を示すことにあります。 博士論文(dissertation)とは、比較的長めの学術文書で、博士課程で行ってきた研究成果についてまとめたものです。博士論文を提出、発表した後、審査会での審査を経て博士号を取得することができます。この論文は、候補者が取り組んできた独創的な研究、あるいは、新規または既存の研究テーマを拡大させた研究に関する全ての情報を含めたものになります。 修士論文(Thesis)と博士論文(Dissertation)の違い 修士論文と博士論文の主な違いは作成時期です。先ほども指摘したように、修士論文は修士課程の最後に提出されるものであるのに対し、博士論文は博士号取得を目指す学生が執筆、提出するものです。 修士論文は、研究者が対象の研究過程で学んだ研究テーマについて熟知していることを証明するために、該当分野の研究をまとめたものです。博士論文は、その学生が専攻してる研究分野における既存の文献に新しい理論や情報を加える機会を与えるもので、博士論文用に行う研究は数年以上かけて完成させるのが一般的です。…

学会発表を研究活動に活用するためのポイント

※この記事は「学会参加を最大限に活用するために心がけること」というタイトルで2019年1月28日に公開した記事ですが、リライトにあたり情報を追記、修正して2021年7月26日に再度公開しました。 学生や研究者にとって、学会参加・学会発表は、研究成果を相互に提供し新しい情報を得るとともに、同じ分野の研究者と知り合いネットワークを構築するなど、メリットがたくさんあります。近年はコロナの影響により学会のオンライン化が進みましたが、開催方法が変わっても、学会参加や学会発表の好機を研究活動に活かすことは可能です。今回は、最近主流となっているオンライン学会の実情と、実開催・オンライン開催共に学会発表を研究活動に活用するためのポイントを紹介します。 オンライン学会の実情 既にオンライン学会に参加された経験のある方も多くなっていることでしょう。オンライン学会は、ZoomやMicrosoft TeamsなどWeb会議ツールを利用して開催されますが、その開催形式は、抄録・発表スライドなどを公開するものや、発表動画のライブ配信・オンデマンド配信を行うものなど学会によって異なります。 開催にあたっては、本会議に加えて、複数のテーマ毎の発表を同時進行させたり、特定の発表者が自分の研究内容や成果を発表するポスターセッションを行ったりしています。また、チャット機能や質問、投票機能などを利用すれば、発表者と質疑応答を行う双方向コミュニケーションも可能です。 昨年から渡航禁止処置などが続く中、数多くの学会がオンライン形式で開催され、さらに、学会によっては学会発表のみならず懇親会もオンラインで開催するなど、オンラインの機能を最大限に活用して研究者間のコミュニケーションの維持が図られています。 実際に研究者同士が会えないというデメリットがある反面、渡航費用や時間が削減できるというメリットもあり、コロナ後にも実開催とオンラインのハイブリッドが主流になるのではとの声も出ているようです。 学会がオンラインで開催される場合、発表者と視聴者双方に言語面のメリットもあります。 英語で行われる会議は大抵の日本人には敷居が高いものです。発表後の質疑応答で質問をしたり、交流イベントで積極的に話しかけて人脈を作ったりするのは、とりわけ難しいのが実情でしょう。多くの聴衆の前で、壇上の発表者に英語で質問することは、英語が相当堪能な人にとっても難しいことです。英語に今一つ自信がなければなおさらでしょう。 しかし、オンラインでの学会発表には事前録音というパターンがあります。発表スライドを事前に録音してウェブサイトにアップロードする場合、実開催の場合と違って、発表者は何度でもやり直すことができ、視聴者は繰り返し聞き直すことができます。アップロードされた動画は期間中(学会によって期間外にも)何度でも視聴できるので、内容をしっかり理解できるまで繰り返し聞くことができるのです。 しかも、現地開催だと同じ時間帯に気になるセッションが重複していたり、自分の講演とかぶっていたりすることも起こりますが、オンライン学会であれば気になるセッションを後から都合の良い時間に視聴することも可能なので効率的です。そして、質疑応答や参加者との交流については、英語で質問するのが苦手でも、チャット機能を利用して質問を書き込むことが可能です。 この様なオンライン学会の昨今の実情を踏まえ、学会参加で得られることと、学会発表を研究活動に役立てるためのポイントを改めて洗い出してみます。 学会参加で得られること 研究者としての知見が広がる…

博士課程の面接に備えて想定問答してみよう

学術研究におけるキャリアの中で重要な部分となる博士課程。そこに至る最初の関門「面接」は、自身の研究に対する意欲や考えをアピールできる絶好の機会です。面接に備えて、よく聞かれる質問と回答を準備する際に留意しておくポイントを解説します。 面接で質問される内容 大学院や学部、分野によって異なりますが、質問は大きく分けて下の2つに分類されます。 博士課程に進学したい理由 ・なぜ博士課程に進学したいのか? ・この大学院/学部を選んだ理由は? ・修了後の進路は? 研究に関する質問 ・今まで行ってきた研究は? ・なぜその分野の研究をしてきたのか、これから何をしたいのか? ・博士課程で行いたい研究の課題と解決するための研究の進め方についての考えは? 自分が行ってきた研究などについてプレゼンテーションを求められることもありますので、面接で何を求められるのかを事前に確認するとともに、自分が聞きたい事(博士課程に進む上で確認しておきたいことなど)を準備しておくことをお勧めします。 面接で対面する人 博士課程面接で面接官を担うのは次のような方です。 1.…

大学院への志望動機書で押さえるべき10のポイント

国内外どこの大学院を目指すとしても、志望動機書・パーソナルステートメント(Personal Statement)を書くことは簡単ではありません。該当分野に対する興味と、その大学院に入りたい、プログラム/コースを受講したいという熱意、自分の長所と経歴をポジティブに書けばよいとはいえ、押さえておくべきポイントはあります。今回は、志望動機書を書くときに押さえておくべき10のポイントを紹介します。 志望動機書とは 志望動機書は、あなたが何故その大学院あるいはプログラム/コースに応募するのかという理由と共に、あなた自身のことを示し、該当する研究分野でどのように貢献できるかを伝えるための文書です。 一般的すぎる話、あるいは個人的なことであっても該当のプログラム/コースや学術研究からかけ離れた話を書いてしまうと、応募者がどのような人物で何をしたいのか、該当分野で貢献できるかを見極めるのが難しくなってしまいます。応募者は、何を研究したいのか、自身の興味や経験が対象の分野やプログラムに一致しており、研究の発展に貢献できることを明確かつポジティブに書き記すことが必要です。志望動機書を書き始めるにあたって、次のような質問への答えを考えてみてください。 応募する理由は? 応募対象は自分の興味や経験に一致(適合)しているか? 該当の研究分野にどのように貢献するつもりか? 重要なのは、導入部分で読者の興味を引き、伝えたいことを的確に記すことです。志望動機書は、自分の知識や経験と応募するプログラム/コースとの関係に焦点を絞ります。もちろん、文法、誤字脱字/スペル、句読点の使い方などには十分な注意を払っておく必要がありますので、自分自身で書き上げた文章を何度もチェックするだけでなく、同僚や指導教官らに確認を依頼する時間も十分にとっておきましょう。文章量にも配慮し、必要なポイントを簡潔にまとめ、過度に長い文章になることは避けます。英語で書く場合には、約700ワード、1-2ページ程度でまとめるようにしてみてください。志望動機書の作成には時間がかかりますので、余裕を持って作業に着手することをお勧めします。 志望動機書を書くときに押さえておくべき10ポイント 1. 自分自身について まずは、応募者である自分自身がどのような人物で、どのような経験を持ち、どのような研究活動に従事してきたかを伝えるところから始めます。 2. 応募理由…

ポスドク の生き残り術、カギは「自主性」

ポスドク (博士研究員)とは、博士号(ドクター)を持ち任期制で学術研究に従事する人たちです。ポスドクはアドバイザーや主任研究員(Principal investigator)と呼ばれる指導教官の指導・監督の下で研究を進めますが、その多くは大学や研究機関などで正規の研究職に就けず、非正規で研究活動を続けている研究者です。数年間の研究プロジェクトに採用されることもありますが、任期付きであることには変わらず、将来の保証はされません。このような苦境の中、研究者として生き残るには、ポスドクの期間に何を意識しておくべきなのでしょうか。 ■ ポスドクの時期に自主性を高めておく 勉学に励んだ結果、豊富な知識を持ちながら深刻な雇用問題に直面することが見えているポスドクになることに疑問を持つ人もいるでしょう。ポスドクになることが将来に役立つのかについての議論すらありますが、一旦この道に進むと決めたなら、自分の将来にとって重要な技量を磨くことや、その機会を最大限活かすことに集中すべきでしょう。自分の研究の間口を広げたり、必要とされる技能を修得したりすることも大切です。ポスドクの時期は論文執筆とその発表に時間を集中的に割くべきですし、併せて研究者間の人脈を広げることも大事です。このように、ポスドクの期間中に 自主的 に研究する力を鍛えておくことが大変重要です。 ■ 自主性の大切さ 研究者が独創的な自分の研究目標を設定し、主体的に取り組むためにも「自主性」は不可欠な要素です。ポスドクの期間中に自主性を身につけるためには、次の二つが重要です。第一に、指導教官の指導に依拠するばかりではなく、自分で研究を考え、進行させる力をつけること。研究プロジェクトを運用する能力は研究者として職を探す際に求められます。第二に、研究者としての自分の名前を拡散し、評価を得ておくことです。ポスドクの間に研究活動の成果を論文に記し、発表する力があること、研究者として必要なスキルと判断力をもち、研究に従事する準備が十分にあることを示せれば、将来につながる可能性を高めることができるでしょう。 ■ 自主性を高めるためにすべきこと 研究者としての自主性を高めるために、ポスドク期間中に次の点に取り組んでおくことをお勧めします。 1. 研究助成金に応募する(資金の獲得) ポスドクが応募できる研究費としては、主に公的機関や民間が提供する助成金が挙げられます。ポスドクの期間に少なくともひとつはこうした助成金に応募してみるべきでしょう。資金を獲得できれば経済的な助けとなるのに加えて、主体的に研究を進められる研究者であることの証となります。 2.…

博士号取得に必須のプロジェクトマネジメント・スキル

博士号を取得するためには、数年間の講座履修、研究活動、論文の執筆・発表、学会への出席など、限られた時間に多くのことをこなさなければなりません。すべてが計画通りに遂行できるわけではないので、時間の遣り繰りが難しいのが現実です。複数のタスクを混乱することなく計画的に進めるためには、プロジェクトマネジメント(PM)・スキルが必要なのです。 博士課程学生にはプロジェクトマネジメント(PM)スキルが必要 PMとは、プロジェクト全体を俯瞰的に眺め、全体の意思決定および進行管理を行うことです。さまざまなタスクに追われ、「五里霧中」に陥ることがあると評される博士課程学生には、PMスキルが必要です。規模の大小に関らず、プロジェクトの進行において計画的に仕事を進めることができず、収拾がつかない状態に陥った場合には、その状況から脱却するスキルが必要なのです。自身もジョージア工科大学でバイオエンジニアリング分野の博士号取得を目指しているAngel Santiago-Lopezは、博士課程の教育にPMの指導を含める必要があると感じ、他の学生にも役立ちそうなPMスキルを構築しました。そこには、プロジェクトの題材の組み立て、目標の設定、スケジュールの作成や管理などを含めた6つのアドバイスが記されています。ここでは、その中から特に重要な4つに絞って紹介します。 PMスキルの重要なポイント4 1.プロジェクトを定義する プロジェクトの方向性を定めるため、達成の目標と、作業タスクを定義することがまず何より大切です。プロジェクトの目標は、「21世紀における生命倫理学の研究」などのように漠然としたものではいけません。特定の分野で進められている重要な課題の解決に貢献する新しい発見をするなど、具体的に定める必要があります。 作業タスクの定義に関しては、プロジェクトの目標達成に至るために必要と考えられる作業および課題を、すべて洗い出すことが必要です。経験したことが無いテーマのプロジェクトでは、想定されるタスクを拾い出して定義することは難しいでしょう。近似のプロジェクトの事例などを参考にして、そこに手を加えることで自分のプロジェクトに該当するタスク・リストを作成すると良いでしょう。大枠を先に設定し、そこから小さなタスクにブレークダウン(細分化)していく、トップダウン的なアプローチがお勧めです。 2.スケジュールを管理する スケジュール管理はプロジェクトの成否の分かれ目です。定められた締め切り(中間報告なども含めて)までにプロジェクトを計画通りに進行させることは、プロジェクトの組み立てに際して大変重要です。スケジュールを立てるには、色々な方法がありますが、基本的な手順は次の通りです。 まず、最終締め切りを確認します。博士論文で言えば、執筆が完了し、見直しと修正も終えて、教授に論文を提出する期日です。プロジェクトの内容、特性に合わせて最終目的と期日を定めます。 次に、プロジェクトの構成要素、つまり細分化したタスクそれぞれの期限を設定していきます。例えば、論文を書くことがプロジェクトとすれば、各章の前後関係を検討しつつ、それぞれの章を完成させることに期限を設定します。 最後に進捗目標を設けます。研究の進め方について、日次や週次のスケジュールをたて、タスクをそのスケジュールに即して順次完了させながら全体の完成に向けて進めます。 スケジュールには遅れが付き物です。絶対に遅れてはならない部分と、遅れたとしても調整できる部分を認識しておく必要があるでしょう。優先度を把握し、スケジュールの多少の遅延に対しても有効な手段を取れるようにしてあると慌てずにすみます。 有難いことに、スケジュール管理に役立つツールが沢山あります。例えば、複数のタスクをどの順番で進めていくかをフローチャートにするツールや、個々のタスクの完了に向けた進捗度合いを示す「ガントチャート(Gantt…

研究室の主宰者(PI)への道

Principal Investigator(PI)は、研究室の主宰者、研究室代表、研究責任者とも呼ばれますが、独立した研究室を持ち、研究の実施から研究室(または研究グループ)の予算管理までを担う責任者のことです。多くの研究者がPIを目指して日々研究に励んでいますが、終身雇用にもつながる可能性のあるPIとなるのに必要なのはどのような行動でしょうか。 あるポスドク(博士研究員)のAさんの経験談から見てみましょう。 PIへの道のりは長く…… AさんはPIになって自分の研究室を率いて研究プロジェクトに取り組むことを夢見ていました。PIになれば、自分の研究を率い、その分野で名を馳せることもできると思ったのです。Aさんは、テニュアトラック*に乗って職位をつかむべく、ポスドクとして3か所で勤務し、何年もキャリアアップにつながると思われた仕事に従事してきました。しかし、それでもPIに手が届かず、失望とともに将来への不安を感じています。しかも周囲を見まわすと同じような状況にいる研究者がたくさんおり、なかなかテニュアトラック制度になる望みがかなわず、ポスドク職を渡り歩いています。 一般的なアドバイス なぜPIになるのが難しいのでしょうか。研究者が能力不足なのではなく、競争率が高すぎるのです。Aさんはテニュアトラックに乗るために必要なアドバイスを聞いてみましたが、耳に入ってきたのは予想した通り、ポスドクがよく聞く一般的な内容でした。 1. 人脈を作る:自分の研究分野のできるだけ多くの人と話し、そして協力しあう。 2. 論文を発表する:研究に励み、実験を行い、データを集め、論文を執筆・発表する。 本当に役立つアドバイス もっと有用な情報を得るため、Aさんはできるだけ多くのPIから直接話しを聞いて、その結果を自分なりに分析し、PIになるためにすべきことをまとめてみました。その結果分かったことは、熱心に研究して論文発表や学会発表をし、学生を指導するだけでは十分ではないということです。研究者としての根本的な活動に加え、早い時期からPIであるかのような動き方をする必要があるのです。Aさんは優秀な研究者です。研究室で長時間実験を行い、データを収集し、PIに進捗と課題を適宜報告していました。しかし、その状況から一歩も踏み出すことはなく、研究助手のような働きに終始してきてしまいました。いきなり新しい研究室に入って、そこで主導権を取れとAさんに言うつもりはありませんが、Aさんは自分の研究プロジェクト(そして自分の経歴)にもっと主体的に取り組むべきでした。そのことも踏まえたアドバイスが以下になります。 着実に研究を進め論拠を固める:科学者として当然、自分の仮説を立証する証拠が、しかも多くの証拠が求められます。データの批判的な解析も必要ですが、そればかりに偏ってもいけません。一定の結論を示すデータがあり、それを支える統計が得られたら、発表すべきです。確かな論拠をもとに、着実に研究を進めるのです。 主体的に取り組む:PIの研究助手の立場に甘んじていてはいけません。自分の研究では主体性を発揮すべきです。他者からの問いかけを待つのではなく、また安易にPIに回答を求めるのではなく、自問自答しながら研究を進めるようにします。自分で自由にできる研究資材などがなければ判断が難しいとはいえ、あらゆる物事についてPIの判断や指導を仰ぐのではなく、自分で考えることが大切です。PIになったら、指導者の助けなしに、研究プロジェクトを管理していくことが求められるわけですから、それを念頭に主体的に研究に取り組むよう心がけます。…

悩ましい進路-ポスドクか就職か

博士号の取得者にとって、学術研究を追求する研究者としてのキャリアを選ぶか、一般的な企業への就職を選ぶか――進路は悩ましい問題です。今回は、進路の悩みを巡って、考えるべき点を洗い出してみます。 ポスドクが直面する現実 博士課程終了後、その延長でポスドクになることを選択肢と考える人もいるでしょう。しかし、誰もがポスドクになれるわけでも、ポスドクになれば安泰というわけでもありません。ポスドクとは、博士号取得後に任期制の職に就いている研究者ですが、大学や研究機関によって契約内容や将来性はさまざまです。ポスドク自体を不要とする分野もあり、ポスドクの枠自体が減少するに伴い、椅子取り争いは激しくなっています。さらに、研究資金の制約が主な原因で、多くの大学はポスドクの在籍期間に上限を設け始めています。任期付である以上、業績があげられなければ任期切れとともに雇い止めとなることも予想され、次の仕事が見つかる保証もありません。先の見えない不安定な身分で研究を続けなければならないのです。その上、かつてはポスドク経験者のほとんどが研究職に就くことができましたが、最近では事情が変わり、ポスドクの任期を終えてからの職探しに苦労する人が増えています。 日本では、科学技術の振興を目指した国の方針に基づき、1996年から2000年にかけて押し進められた「ポスドク1万人計画」を受け、大学や大学院が大幅に定員を増やしたのに伴い、博士課程に進む人が急増したことがあります。しかし、博士課程修了者の受け入れ先ポストは増えなかったため、多くの博士課程修了者が就職できない事態に陥ってしまいました。こうした背景は、博士号取得者および博士課程への進学にも影響を及ぼしたと見られ、文科省の研究グループが2019年4月に発表した資料によると、2013年度の日本の博士号取得者数は100万人当たり121人と、他国と比較して少なく、博士課程への入学者は2003年をピークに減少傾向となっています。 日本以外ではポスドクは終身ポスト獲得に有利 ポスドクが任期付きではない正規の研究職または教職に就くまでの準備(トレーニング)期間との考えが定着している欧米では、事情が異なります。米国では、ポスドクの多くが学術機関での職を得ており、その率は少なくとも75%に達している(2013年)とされています。現在“tenure track(テニュアトラック)” ポジションにいる、あるいはすでにテニュアを取っている研究者への聞き取りを行ったところ、回答者の70%が現在のポストを獲得するためにはポスドクとして経験を積むことが「必要だった」か「経験していることが望ましい」と答えています。このテニュアトラック制度とは、一定の任期中に行われる厳しい審査に合格すれば雇用保障(終身雇用)が与えられる制度であり、米国ではテニュアトラック制度が学問の自由を保障する制度と位置づけられています。研究者としてのキャリアパスが整備されていれば、ポスドクの期間中に、研究を深め、論文を発表し、人脈を作ることにも余裕が持てます。これらの経験すべてが将来のキャリアにつながるのです。 日本でも、文科省が「テニュアトラック普及・定着事業」を進めており、終身雇用への道を開く制度と期待されていますが、ポスドクの雇用環境問題の改善にはまだまだ課題が多そうです。 研究職に残るか、学外に就職するか 文科省の科学技術・学術政策研究所の「ポストドクター等の雇用・進路に関する調査(2015年度実績)」によると、ポスドクを継続して国内の大学や研究機関で研究活動に従事していたのは11,118人(69.9%)、教員などに職種変更したのは4,536人(28.5%)でした。この調査からは、2015 年度におけるポストドクター等の延べ人数は 15,910 人、前回調査(2012 年度、16,170…

プレゼンのQ&Aセッションを効果的に行う6ポイント

学会は、プレゼンを通して自身の研究を他の研究者に知ってもらい、意見をもらうのに理想的な場です。口頭発表かポスター発表か、発表する論文はショートペーパー(ページ数の少ない論文)とするかフルペーパー(ある程度のページ数のある論文)とするかなど、発表のやり方にもいろいろあります。学会以外でも、ラウンドテーブルやパネルディスカッション、ワークショップでプレゼンをする機会もあるでしょう。 いずれの形式にせよ、発表に伴うQ&Aセッション(質疑応答)の準備をしておくことは非常に重要です。プレゼンの後に寄せられる質問に対して説得力のある回答ができれば、聞き手に響きますし、自身の専門性を示せるいい機会にもなります。同時に、発表内容を確実に印象に残すことができるでしょう。とはいえ、ベテランの研究者でも不安を感じることの多いQ&Aセッション。成功させるためのポイントを見ていきましょう。 Q&Aセッションとは Q&Aセッションとは、聞き手が直接発表者に質問できる時間で、プレゼンの後に設けられるのが一般的です。質問内容は、発表の中で触れた特定の内容についてかもしれませんし、関連する研究、最近のニュース、もしくは研究テーマの背景についてかもしれない……そうです、質問内容がわからないという点がQ&Aセッションのもっとも難しいところです。 プレゼンの準備はできても、どんな質問が寄せられるか分からないQ&Aセッションの回答を準備しておくことはできません。発表に慣れている研究者でもQ&Aセッションを恐れる理由はここにあるのかもしれません。ただ、逆にQ&Aセッションを聞き手とコミュニケーションを取り、発表では触れられなかった、もしくは深く言及できなかった点を説明できるチャンスととらえればどうでしょうか。質問されることで、研究内容について気づかなかった見方や補強すべき点を発見できる可能性もある有益な機会ととらえることもできます。 効果的なQ&Aセッションを行うポイント 学会発表など、各種のプレゼンのQ&Aセッションを効果的に行うためのポイントはいくつかあります。 ・想定問答を作成する プレゼンの準備をする際に、一緒にQ&Aセッションの準備もしておきましょう。過去の研究発表における経験などを踏まえ、聞かれそうな質問を想定し、回答を用意しておくのです。 ・質問の方向性を定めるために明確な線引きをする 実際のQ&Aセッションの際は、プレゼンテーションの内容に対する質問のために設けた時間であること、その時間は限られていることを明言しておきましょう。質問者が自由に自分の意見を述べたり、発表をしたりする時間ではないということを理解してもらい、質問内容が発表内容と呼応するように線引きをしておきます。 ・質問のとっかかりを作る もし質問が出てこなければ、自分から例を挙げて質問しやすい雰囲気を作ってみましょう。例えば、「私がよく聞かれる質問は…」といった具合です。こうすることで、質問してほしい方向を示すこともできます。 ・わからないことは正直に 答えられない質問をされると神経をすり減らすものです。でも心配いりません。もし答えがわからなければ、その質問は研究の範囲を超えているとの見解や、もしくは、その解を得るためにデータを収集しているところだというような状況を率直に伝えればいいのです。取り繕ってあいまいな回答をするよりも断然いいでしょう。…

学術界以外での就職先候補

博士号を取得しても、学術界以外での就職を考える人たちは少なくありません。その背景は、研究や教職を一生の仕事にする気になれない、研究職を続けるのは現実的に厳しい、実業界で働きたい、自分の経験とアイデアで起業したいなど多様でしょう。博士号を取得した学生の就職を支援するFindAUniversityが運営するサイト「FindAPhD」に掲載された英国における最近の調査では、博士課程の学生の80%が、研究職を一生の仕事にするのは難しいと考えていると報告されています。とはいえ、学術界以外の就職先を選ぶ場合、どのような就職先を考えるかは大きな問題です。そこで、学術界以外での就職を目指す博士号取得者が 就職先候補 を検討するにあたって、参考になる情報を紹介します。 他でも使える博士課程で身につけたスキル 就職先候補を考えるにあたって、自分のスキル(能力)を振り返って見ましょう。博士号取得までに身に着けたスキルは、他でも十分に活用できます。その例をいくつか挙げてみます。 データ分析力:複雑なデータを解析し、解釈する力 問題解決力:実験などの課題に取り組み、その過程で幾多の問題に取り組んできた経験と解決力 発表力:学会などの成果発表で培った能力 執筆力:文章を書き、論文や書籍などの出版物としてまとめる力 遂行能力:最小限の助力で大きな仕事をやり遂げる力 企画・運営力:学会などのイベントを企画・運営する力 協調力:共同研究やチームでの論文執筆などで、国籍や経歴も異なる研究者と協力して仕事をすすめた経験と、それを可能にした協調力 理系学生の就職先候補 上に挙げたような能力・経験を生かせる就職先は数多くあります。特に、理系学生の場合、専攻学問よりも広い視野で職種を考えてみるとよいでしょう。ここでは、候補に成り得る一般的な職種を紹介し、それらの特徴やその職種が求められる業種を例示します。 研究開発(R&D):学術研究の経験は、産業界での研究開発職にもそのまま生かせます。業種としては医薬品製造業などが挙げられます。…