キャリアを築く

博士号取得に必須のプロジェクトマネジメント・スキル

博士号を取得するためには、数年間の講座履修、研究活動、論文の執筆・発表、学会への出席など、限られた時間に多くのことをこなさなければなりません。すべてが計画通りに遂行できるわけではないので、時間の遣り繰りが難しいのが現実です。複数のタスクを混乱することなく計画的に進めるためには、プロジェクトマネジメント(PM)・スキルが必要なのです。 博士課程学生にはプロジェクトマネジメント(PM)スキルが必要 PMとは、プロジェクト全体を俯瞰的に眺め、全体の意思決定および進行管理を行うことです。さまざまなタスクに追われ、「五里霧中」に陥ることがあると評される博士課程学生には、PMスキルが必要です。規模の大小に関らず、プロジェクトの進行において計画的に仕事を進めることができず、収拾がつかない状態に陥った場合には、その状況から脱却するスキルが必要なのです。自身もジョージア工科大学でバイオエンジニアリング分野の博士号取得を目指しているAngel Santiago-Lopezは、博士課程の教育にPMの指導を含める必要があると感じ、他の学生にも役立ちそうなPMスキルを構築しました。そこには、プロジェクトの題材の組み立て、目標の設定、スケジュールの作成や管理などを含めた6つのアドバイスが記されています。ここでは、その中から特に重要な4つに絞って紹介します。 PMスキルの重要なポイント4 1.プロジェクトを定義する プロジェクトの方向性を定めるため、達成の目標と、作業タスクを定義することがまず何より大切です。プロジェクトの目標は、「21世紀における生命倫理学の研究」などのように漠然としたものではいけません。特定の分野で進められている重要な課題の解決に貢献する新しい発見をするなど、具体的に定める必要があります。 作業タスクの定義に関しては、プロジェクトの目標達成に至るために必要と考えられる作業および課題を、すべて洗い出すことが必要です。経験したことが無いテーマのプロジェクトでは、想定されるタスクを拾い出して定義することは難しいでしょう。近似のプロジェクトの事例などを参考にして、そこに手を加えることで自分のプロジェクトに該当するタスク・リストを作成すると良いでしょう。大枠を先に設定し、そこから小さなタスクにブレークダウン(細分化)していく、トップダウン的なアプローチがお勧めです。 2.スケジュールを管理する スケジュール管理はプロジェクトの成否の分かれ目です。定められた締め切り(中間報告なども含めて)までにプロジェクトを計画通りに進行させることは、プロジェクトの組み立てに際して大変重要です。スケジュールを立てるには、色々な方法がありますが、基本的な手順は次の通りです。 まず、最終締め切りを確認します。博士論文で言えば、執筆が完了し、見直しと修正も終えて、教授に論文を提出する期日です。プロジェクトの内容、特性に合わせて最終目的と期日を定めます。 次に、プロジェクトの構成要素、つまり細分化したタスクそれぞれの期限を設定していきます。例えば、論文を書くことがプロジェクトとすれば、各章の前後関係を検討しつつ、それぞれの章を完成させることに期限を設定します。 最後に進捗目標を設けます。研究の進め方について、日次や週次のスケジュールをたて、タスクをそのスケジュールに即して順次完了させながら全体の完成に向けて進めます。 スケジュールには遅れが付き物です。絶対に遅れてはならない部分と、遅れたとしても調整できる部分を認識しておく必要があるでしょう。優先度を把握し、スケジュールの多少の遅延に対しても有効な手段を取れるようにしてあると慌てずにすみます。 有難いことに、スケジュール管理に役立つツールが沢山あります。例えば、複数のタスクをどの順番で進めていくかをフローチャートにするツールや、個々のタスクの完了に向けた進捗度合いを示す「ガントチャート(Gantt…

研究室の主宰者(PI)への道

Principal Investigator(PI)は、研究室の主宰者、研究室代表、研究責任者とも呼ばれますが、独立した研究室を持ち、研究の実施から研究室(または研究グループ)の予算管理までを担う責任者のことです。多くの研究者がPIを目指して日々研究に励んでいますが、終身雇用にもつながる可能性のあるPIとなるのに必要なのはどのような行動でしょうか。 あるポスドク(博士研究員)のAさんの経験談から見てみましょう。 PIへの道のりは長く…… AさんはPIになって自分の研究室を率いて研究プロジェクトに取り組むことを夢見ていました。PIになれば、自分の研究を率い、その分野で名を馳せることもできると思ったのです。Aさんは、テニュアトラック*に乗って職位をつかむべく、ポスドクとして3か所で勤務し、何年もキャリアアップにつながると思われた仕事に従事してきました。しかし、それでもPIに手が届かず、失望とともに将来への不安を感じています。しかも周囲を見まわすと同じような状況にいる研究者がたくさんおり、なかなかテニュアトラック制度になる望みがかなわず、ポスドク職を渡り歩いています。 一般的なアドバイス なぜPIになるのが難しいのでしょうか。研究者が能力不足なのではなく、競争率が高すぎるのです。Aさんはテニュアトラックに乗るために必要なアドバイスを聞いてみましたが、耳に入ってきたのは予想した通り、ポスドクがよく聞く一般的な内容でした。 1. 人脈を作る:自分の研究分野のできるだけ多くの人と話し、そして協力しあう。 2. 論文を発表する:研究に励み、実験を行い、データを集め、論文を執筆・発表する。 本当に役立つアドバイス もっと有用な情報を得るため、Aさんはできるだけ多くのPIから直接話しを聞いて、その結果を自分なりに分析し、PIになるためにすべきことをまとめてみました。その結果分かったことは、熱心に研究して論文発表や学会発表をし、学生を指導するだけでは十分ではないということです。研究者としての根本的な活動に加え、早い時期からPIであるかのような動き方をする必要があるのです。Aさんは優秀な研究者です。研究室で長時間実験を行い、データを収集し、PIに進捗と課題を適宜報告していました。しかし、その状況から一歩も踏み出すことはなく、研究助手のような働きに終始してきてしまいました。いきなり新しい研究室に入って、そこで主導権を取れとAさんに言うつもりはありませんが、Aさんは自分の研究プロジェクト(そして自分の経歴)にもっと主体的に取り組むべきでした。そのことも踏まえたアドバイスが以下になります。 着実に研究を進め論拠を固める:科学者として当然、自分の仮説を立証する証拠が、しかも多くの証拠が求められます。データの批判的な解析も必要ですが、そればかりに偏ってもいけません。一定の結論を示すデータがあり、それを支える統計が得られたら、発表すべきです。確かな論拠をもとに、着実に研究を進めるのです。 主体的に取り組む:PIの研究助手の立場に甘んじていてはいけません。自分の研究では主体性を発揮すべきです。他者からの問いかけを待つのではなく、また安易にPIに回答を求めるのではなく、自問自答しながら研究を進めるようにします。自分で自由にできる研究資材などがなければ判断が難しいとはいえ、あらゆる物事についてPIの判断や指導を仰ぐのではなく、自分で考えることが大切です。PIになったら、指導者の助けなしに、研究プロジェクトを管理していくことが求められるわけですから、それを念頭に主体的に研究に取り組むよう心がけます。…

悩ましい進路-ポスドクか就職か

博士号の取得者にとって、学術研究を追求する研究者としてのキャリアを選ぶか、一般的な企業への就職を選ぶか――進路は悩ましい問題です。今回は、進路の悩みを巡って、考えるべき点を洗い出してみます。 ポスドクが直面する現実 博士課程終了後、その延長でポスドクになることを選択肢と考える人もいるでしょう。しかし、誰もがポスドクになれるわけでも、ポスドクになれば安泰というわけでもありません。ポスドクとは、博士号取得後に任期制の職に就いている研究者ですが、大学や研究機関によって契約内容や将来性はさまざまです。ポスドク自体を不要とする分野もあり、ポスドクの枠自体が減少するに伴い、椅子取り争いは激しくなっています。さらに、研究資金の制約が主な原因で、多くの大学はポスドクの在籍期間に上限を設け始めています。任期付である以上、業績があげられなければ任期切れとともに雇い止めとなることも予想され、次の仕事が見つかる保証もありません。先の見えない不安定な身分で研究を続けなければならないのです。その上、かつてはポスドク経験者のほとんどが研究職に就くことができましたが、最近では事情が変わり、ポスドクの任期を終えてからの職探しに苦労する人が増えています。 日本では、科学技術の振興を目指した国の方針に基づき、1996年から2000年にかけて押し進められた「ポスドク1万人計画」を受け、大学や大学院が大幅に定員を増やしたのに伴い、博士課程に進む人が急増したことがあります。しかし、博士課程修了者の受け入れ先ポストは増えなかったため、多くの博士課程修了者が就職できない事態に陥ってしまいました。こうした背景は、博士号取得者および博士課程への進学にも影響を及ぼしたと見られ、文科省の研究グループが2019年4月に発表した資料によると、2013年度の日本の博士号取得者数は100万人当たり121人と、他国と比較して少なく、博士課程への入学者は2003年をピークに減少傾向となっています。 日本以外ではポスドクは終身ポスト獲得に有利 ポスドクが任期付きではない正規の研究職または教職に就くまでの準備(トレーニング)期間との考えが定着している欧米では、事情が異なります。米国では、ポスドクの多くが学術機関での職を得ており、その率は少なくとも75%に達している(2013年)とされています。現在“tenure track(テニュアトラック)” ポジションにいる、あるいはすでにテニュアを取っている研究者への聞き取りを行ったところ、回答者の70%が現在のポストを獲得するためにはポスドクとして経験を積むことが「必要だった」か「経験していることが望ましい」と答えています。このテニュアトラック制度とは、一定の任期中に行われる厳しい審査に合格すれば雇用保障(終身雇用)が与えられる制度であり、米国ではテニュアトラック制度が学問の自由を保障する制度と位置づけられています。研究者としてのキャリアパスが整備されていれば、ポスドクの期間中に、研究を深め、論文を発表し、人脈を作ることにも余裕が持てます。これらの経験すべてが将来のキャリアにつながるのです。 日本でも、文科省が「テニュアトラック普及・定着事業」を進めており、終身雇用への道を開く制度と期待されていますが、ポスドクの雇用環境問題の改善にはまだまだ課題が多そうです。 研究職に残るか、学外に就職するか 文科省の科学技術・学術政策研究所の「ポストドクター等の雇用・進路に関する調査(2015年度実績)」によると、ポスドクを継続して国内の大学や研究機関で研究活動に従事していたのは11,118人(69.9%)、教員などに職種変更したのは4,536人(28.5%)でした。この調査からは、2015 年度におけるポストドクター等の延べ人数は 15,910 人、前回調査(2012 年度、16,170…

プレゼンのQ&Aセッションを効果的に行う6ポイント

学会は、プレゼンを通して自身の研究を他の研究者に知ってもらい、意見をもらうのに理想的な場です。口頭発表かポスター発表か、発表する論文はショートペーパー(ページ数の少ない論文)とするかフルペーパー(ある程度のページ数のある論文)とするかなど、発表のやり方にもいろいろあります。学会以外でも、ラウンドテーブルやパネルディスカッション、ワークショップでプレゼンをする機会もあるでしょう。 いずれの形式にせよ、発表に伴うQ&Aセッション(質疑応答)の準備をしておくことは非常に重要です。プレゼンの後に寄せられる質問に対して説得力のある回答ができれば、聞き手に響きますし、自身の専門性を示せるいい機会にもなります。同時に、発表内容を確実に印象に残すことができるでしょう。とはいえ、ベテランの研究者でも不安を感じることの多いQ&Aセッション。成功させるためのポイントを見ていきましょう。 Q&Aセッションとは Q&Aセッションとは、聞き手が直接発表者に質問できる時間で、プレゼンの後に設けられるのが一般的です。質問内容は、発表の中で触れた特定の内容についてかもしれませんし、関連する研究、最近のニュース、もしくは研究テーマの背景についてかもしれない……そうです、質問内容がわからないという点がQ&Aセッションのもっとも難しいところです。 プレゼンの準備はできても、どんな質問が寄せられるか分からないQ&Aセッションの回答を準備しておくことはできません。発表に慣れている研究者でもQ&Aセッションを恐れる理由はここにあるのかもしれません。ただ、逆にQ&Aセッションを聞き手とコミュニケーションを取り、発表では触れられなかった、もしくは深く言及できなかった点を説明できるチャンスととらえればどうでしょうか。質問されることで、研究内容について気づかなかった見方や補強すべき点を発見できる可能性もある有益な機会ととらえることもできます。 効果的なQ&Aセッションを行うポイント 学会発表など、各種のプレゼンのQ&Aセッションを効果的に行うためのポイントはいくつかあります。 ・想定問答を作成する プレゼンの準備をする際に、一緒にQ&Aセッションの準備もしておきましょう。過去の研究発表における経験などを踏まえ、聞かれそうな質問を想定し、回答を用意しておくのです。 ・質問の方向性を定めるために明確な線引きをする 実際のQ&Aセッションの際は、プレゼンテーションの内容に対する質問のために設けた時間であること、その時間は限られていることを明言しておきましょう。質問者が自由に自分の意見を述べたり、発表をしたりする時間ではないということを理解してもらい、質問内容が発表内容と呼応するように線引きをしておきます。 ・質問のとっかかりを作る もし質問が出てこなければ、自分から例を挙げて質問しやすい雰囲気を作ってみましょう。例えば、「私がよく聞かれる質問は…」といった具合です。こうすることで、質問してほしい方向を示すこともできます。 ・わからないことは正直に 答えられない質問をされると神経をすり減らすものです。でも心配いりません。もし答えがわからなければ、その質問は研究の範囲を超えているとの見解や、もしくは、その解を得るためにデータを収集しているところだというような状況を率直に伝えればいいのです。取り繕ってあいまいな回答をするよりも断然いいでしょう。…

学術界以外での就職先候補

博士号を取得しても、学術界以外での就職を考える人たちは少なくありません。その背景は、研究や教職を一生の仕事にする気になれない、研究職を続けるのは現実的に厳しい、実業界で働きたい、自分の経験とアイデアで起業したいなど多様でしょう。博士号を取得した学生の就職を支援するFindAUniversityが運営するサイト「FindAPhD」に掲載された英国における最近の調査では、博士課程の学生の80%が、研究職を一生の仕事にするのは難しいと考えていると報告されています。とはいえ、学術界以外の就職先を選ぶ場合、どのような就職先を考えるかは大きな問題です。そこで、学術界以外での就職を目指す博士号取得者が 就職先候補 を検討するにあたって、参考になる情報を紹介します。 他でも使える博士課程で身につけたスキル 就職先候補を考えるにあたって、自分のスキル(能力)を振り返って見ましょう。博士号取得までに身に着けたスキルは、他でも十分に活用できます。その例をいくつか挙げてみます。 データ分析力:複雑なデータを解析し、解釈する力 問題解決力:実験などの課題に取り組み、その過程で幾多の問題に取り組んできた経験と解決力 発表力:学会などの成果発表で培った能力 執筆力:文章を書き、論文や書籍などの出版物としてまとめる力 遂行能力:最小限の助力で大きな仕事をやり遂げる力 企画・運営力:学会などのイベントを企画・運営する力 協調力:共同研究やチームでの論文執筆などで、国籍や経歴も異なる研究者と協力して仕事をすすめた経験と、それを可能にした協調力 理系学生の就職先候補 上に挙げたような能力・経験を生かせる就職先は数多くあります。特に、理系学生の場合、専攻学問よりも広い視野で職種を考えてみるとよいでしょう。ここでは、候補に成り得る一般的な職種を紹介し、それらの特徴やその職種が求められる業種を例示します。 研究開発(R&D):学術研究の経験は、産業界での研究開発職にもそのまま生かせます。業種としては医薬品製造業などが挙げられます。…

「あがり症」を克服して発表するためのコツ

学術に身を置く以上、研究発表からは逃れられません。とはいっても、壇上に上がって発表するよりも、数名の仲間と研究室で静かに過ごすほうが好ましいと感じている人も多いのではないでしょうか。聴衆の前に出て研究発表をするときに緊張してしまうのは、誰もが経験することです。ここでは、どうすればいわゆる「あがり症」を克服して自信をもって発表ができるようになれるかを考えてみます。 やっかいなあがり症 研究発表をしようと壇上に上がったものの、緊張のあまり固まってしまった。このような経験をした人は多いと思います。心臓がバクバクし、膝が震え、冷や汗をかいたり胃がきりきりと痛みだしたり・・・・・・人前で話をしようとするときによく見られる反応ですが、出方は人それぞれです。あがり症、つまり人前で話をしたりする時に感じる緊張や不安は、反応の出るタイミングが特定されます。非日常的なシチュエーションで生じるという意味で、日常的な(普通の生活)で生じる不安感とは異なるものです。しかし、「あがる」ことが予測できたとしても厄介な反応であることは変わりません。あがり症怖さに、大きな会議で自分の研究成果を発表する機会や、与えられた講演のチャンスを逃すのは避けたいところです。 あがり症を克服するためのコツ 人前で緊張し、不安になる―あがり症は、多くの人が抱える悩みだけに、さまざまな対処法や克服法があります。ここでは、そのうちのいくつかをご紹介したいと思います。 ■ ひたすら練習あるのみ! 実際に声を出して発表の練習をすることで備えることができます。緊張しやすいのに、練習を怠れば、発表当日に不安が募るのも当然です。徹底的に練習をしておけば、自信を持って本番に臨むことができます。鏡の前で、ペットに向かって、そして家族の前で、何度も練習しておきましょう。練習をすることで話の矛盾点やおかしな部分に気付き、修正しておくこともできます。準備を入念にすればするほど、本番が楽になるはずです。 ■ 呼吸を整える 緊張や強い不安を感じると、呼吸が浅く、早くなるものです。呼吸が早くなり、鼓動も早くなってしまうと緊張を増幅させます。まずは落ち着いて、お腹の底からゆっくりと深呼吸してみましょう。10回ほど繰り返すとおのずと気持ちが落ち着いてくるはずです。そして、発表するときには、深く息を吸い、お腹から声を出すようにしてみてください。発表の時に意識して、大きく、ゆっくり呼吸することで冷静さを保ちつつ、発表を進めることができるようになるでしょう。 ■ 成功をイメージする-ポジティブシンキング イメージトレーニングは、運動選手やビジネスリーダー、人前で何かをする機会の多い人がよく取り入れる方法です。勝てる自分、成功する交渉、うまくいく情景など、ポジティブなイメージを頭に描きます。発表が非常にうまくいき、聞き手が何事も聞き漏らすまいと前のめりになっているという情景をイメージするのです。発表する目的や内容を事前にしっかり確認して、何のために何をするかを意識し、そのことがうまくいく具体的なイメージを持って壇上に上がれば、緊張は軽減されるでしょう。むしろ緊張感を楽しむというくらいの気分になれるかもしれません。 ■ マイナスの事態も想定しておく 人は先行きの見えない状況に不安を覚えるものです。そこで、事前に想定問答(もし、こんなことが起きたらどうしよう)をしておくのも一案です。うまくいかなくなりそうな、あらゆる事態を予想し、その場合どうしたらいいか、を考えておくとよいでしょう。マイナスの事態、あるいは最悪の状況を覚悟しておけば、何が起きても対処できるでしょうし、おのずと不安からも解放されるというわけです。 ■ 持ち時間の配分 与えられた時間内に発表をまとめることは大切です。また、配分も重要です。30分間と考えると気が重くなってしまいますが、内容ごとに時間を配分し、短時間、例えば5分間の発表の積み重ねと考えれば気が楽になりませんか。壇上に上がったら、5分間ずつを段階的にこなすことに集中しましょう。そうすれば、あっという間に発表が終わっていた、となることでしょう。…

研究発表で聞き手の心を掴むための4つのコツ

研究成果を発表する準備としては、わかりやすいプレゼン資料(パワーポイントなど)を作成したり、質問への対応を考えたり、とやることがたくさんあります。そして、プレゼン資料を作る際の注意事項は多岐にわたりますが、中でも非常に重要なのは、「常に聞き手の存在を意識する」ということです。これは、研究発表を成功させるための必須要件といっても過言ではありません。 主役は聞き手 いかに聞き手の関心を惹き、内容に興味を持ってもらうか。ここで気をつけなければならないのは、発表者自身は自分の研究やプレゼン内容について熟知していても、聞き手は必ずしもそうではない、ということです。このことを意識しないまま「独りよがり」の発表を行えば、それは聞き手を無視した単なる自己満足にすぎません。そうならないために、常に聞き手のことを念頭において準備しましょう。どんな人が聞きにくるのかを予め想定することはもちろんですが、聞き手は研究発表を見聞きして何かを学びたいと期待している、ということも覚えておきましょう。発表を聞いている間、聞き手は「これは自分にとってどう役立つのか」「自分はここから何を学べるのか」を自問し続けています。このことを念頭において準備をすれば、「単なる自己満足」といった結果にはならないはずです。 その点を踏まえ、聞き手の心をつかむ4つのコツを見てみましょう。 聞き手の心をつかむ4つのコツ ① わかりやすい話の構成と流れを意識する 発表は、序論、本論そして結論としっかり構成されていることが大切ですが、伝え方としては、自身の研究を案内するように説明を進めると聞き手にとってわかりやすい発表となります。聞き手に一方的に講義するのではなく、聞き手の反応に気を配りながら話の方向性を示しましょう。特に話が変わる場面では、聞き手が話の転換についてこられるように、適切なつなぎ言葉を使うなどの工夫をしつつ、わかりやすい流れを作ることが大切です。 ② 情報過多にならないように気をつける プレゼン資料を作成する際によくやってしまうのが、情報の詰め込みすぎです。あれもこれも付け加えたくなる気持ちはわかりますが、それはかえって逆効果。大量の情報の羅列は、発表で本当に伝えたい部分をわかりづらくするばかりか、話の流れや明確性といった点で全体に悪影響を及ぼしかねません。情報の適量を知り、要点を絞ったプレゼン資料を準備しましょう。そうすれば、発表終了後、本当に大事なポイントが聞き手の記憶に残るはずです。 ③ 聞き手の立場に立つ 聞き手に向かって一方的に講義するようなことは好ましくありません。プレゼン資料に書いてあることをただ読み上げるだけ、というのも避けるべきです。もっと聞き手の側に立って、発表に入り込むような気分を味わってもらえるように心がけましょう。さらに、聞きやすい長さ(時間)にも気を配りたいところです。10分ルールと言われるように、大概の人は10分程度話を聞いていると集中力が落ちてしまいます。このことを踏まえると約10分を目安として、話を巧みに展開していかれるよう、事前に発表の構成や配分を考えておくことが必要です。また、話の転換点では、前述したように流れが変わることをわかりやすく伝える、ということも忘れてはいけません。 ④ 聞き手に質問を投げかけてみる…

ポスドクからのキャリアチェンジを考える

せっかく苦学を経て博士課程を修了しても、そのまま研究者となれるか、あるいは学術研究に携わることのできる人はわずか。ポスドクのキャリアパスが不透明になっている時代、幅広いキャリア選択を視野に入れることが必要となっています。 ■ 学術研究が選択肢のひとつになる時代 研究職を続けたいと願うポスドクの前に、厳しい現実が立ちはだかります。削減される研究費予算、限られた助成金、先の見えない微妙な立場……ポスドクは研究者としての地位を築くための通過点ですが、教授クラスに到達できるのはほんの一握り。欧米では、ポスドクは正規の研究職に就く前のトレーニング期間として認識されていますが、日本では、ポスドクのキャリアパスが整っているとはいえない状況です。研究職のポストは限られており、研究職につけたとしても採用は任期付きであることが多く、高齢ポスドク(一般的に35歳以上とされる)の就職難などの問題につながっています。この状況を打破すべく、民間企業への就職も含めたキャリアパスを検討することになるわけですが、研究を継続することがひとつの選択肢と考えざるを得ないご時世なのです。文部科学省は「大学院修了者のキャリアパスの確保と可視化の推進」を含む「第3次大学院教育振興施策」を2016年に策定し(平成28年度からの5年間)、取り組みを進めていますが、研究者自身にも多様なキャリアパスの可能性を探る努力が求められています。 少し古いものですが科学技術・学術政策研究所が2014年に発表した研究によると、正規雇用の仕事(常勤・任期なし)に移ったポスドクの割合は、男女平均わずか6.3%と、正規雇用への移行率が極めて低いことが見て取れます。確かに、すべての民間企業がポスドクの採用に積極的とは言えませんが、一部の分野や業界ではポスドクのニーズが高まりつつあり、国や大学・大学院、さらには民間の採用支援企業などもポスドクの就職支援に乗り出しています。 ■ プロダクトマネジメントという選択 民間企業で働くことを考えたとき、どのような職種がポスドクに向いているのか、どのような職種が選ばれているのか気になるところです。Springer Nature社が運営する科学技術関連の求人情報やイベントなどを提供するサイト「NatureJobs」に紹介された記事に、PhDやポスドクの経験が役立つ職としてプロダクトマネジメンへの転職が紹介されています。 プロダクトマネジメントという職種は、アメリカの求人検索情報サイトを運営するグラスドア社が選んだ「人気職業トップ50」の9位にランクインする職です。業務内容としては、「製品、製品ライン、あるいは製品ポートフォリオのレベルでのビジネスマネジメント」であるとされ、生産プロセスに関わる一連のフローを組立てていく仕事だと言えます。コスト、生産体制、フローなどにつき最善の方法を提案・確認しつつ仕事を進める――と言われれば、研究課題を考え、研究予算の枠内で実験を計画し、成果としての論文作成を進めるのと似ているような気がしませんか。 一般的に、企業が顧客に提供する「プロダクト」には有形無形のものが含まれており、日本語の「製品」よりも広い意味でとらえるようです。そして、プロダクトマネジメントで重要視されるのが、ビジネスマネジメント。製品品質よりも広い範囲をカバーすることになるので、顧客または市場のニーズや課題を捉え、革新的な商品やサービスを作り出すことに携ることになります。つまり、プロダクトマネジメントとは、企業が生産し、販売するプロダクト開発の上流から下流まで体系的に整理し、責任を持つことと言えるのです。 ■ プロダクトマネージャーに求められるスキル プロダクトマネジメントには、新しいこと(機能)を考え出し、実現するための手段を考えつつ、コストにも注意しながら成果を出すためのスキルが求められます。PhDやポスドクは、これらのスキルを日々の学研生活で培っているはずです。チームで研究を進めた経験を有する研究者であれば、それまでの経験をプロダクトマネジメントの仕事に生かすことができるでしょう。さらに、課題に取り組む根気強さや、限られた予算や時間でプロジェクトを進めてきた経験も役に立つはずです。プロダクトマネジメントの仕事は、財務、運営、法務、品質管理、プロジェクト管理などさまざまな職務にわたります。そのため、プロダクトマネージャーには、考察力、論理的に物事を進める力、判断力、コミュニケーション力などのスキルが求められるのです。 しかし、いくら要求されるスキルを有していても、専門的な研究から企業での業務への移行は簡単ではありません。何より、ほとんどの研究職における成功は論理的かつ客観的なものですが、プロダクトマネジメントの成功は、多様な顧客の満足度と業績によって評価されるもので、評価基準が全く異なるのです。それでも博士課程で効率的な課題解決に向けて取り組んできた経験は、プロダクトマネジメントの業務でも生かされることでしょう。 ■ キャリアチェンジを成功させるための準備 専門的な知識、長年積み上げて来た経験を有する優秀な人材を目当てに、ポスドクの採用を検討する企業が増えてきているとはいえ、キャリアチェンジがチャレンジであることは確かです。プロダクトマネジメントをひとつの選択肢として就職活動を行う際、留意しておくポイントを紹介しておきます。 1 マーケティングの基礎と財務の原則を学んでおく…

インパクトのあるCV(職務経歴書)のポイント

CV(職務経歴書)とは、ラテン語の”course of life”(人生の道筋)を意味する”Curriculum Vitae”の略語で、英語圏でよく使われていますが、米語圏では” Resume”を使うのが一般的なようです。ともに特別な書式はないので、自分なりに工夫して、わかりやすく、伝えたい事項を逃さずにまとめることが大切です。CVは、研究者が「夢の仕事」をつかむための最初のステップであり、今日の競争社会においてインパクトのあるCVが書けなければ、次のステップである面接に進むことができません。ここでは、選考に残るためのCVの書き方について考えてみます。 ■ 研究者のCVに必要なこと 学術研究者のCVは、一般的な(企業)転職用のCVとは異なる書き方をする必要があります。研究者のCVに書くべきことには、学歴、職歴、出版履歴だけでなく、研修実績、取得したスキルなどが挙げられます。特に、研究者のスキル、研究履歴、研究の実績は重要です。 研究者は、学術研究者として求められていること(以下) ・研究を遂行すること ・論文を出版し、研究の成果を発表すること ・学生を指導すること ・自身の研究に必要な助成金を獲得できること を理解し、自分にこれらの要求に応えられる能力があることを、CVで示さなければなりません。 ■ 効果的なCVを書くためのポイント では、効果的なCVを書くには、どのような点に注意すればよいのか見てみましょう。…

「学術起業」という選択を考える

大学発ベンチャーの活躍が話題となることが増えきました。産学連携や大学による起業支援などが後押しとなっているようですが、それでも日本の学生のほとんどは、大学あるいは大学院を卒業後に一般企業に就職しているのが現実です。在学中にビジネスの着想を得たら、どうやって起業につなげればよいのでしょうか?学術研究を上手に事業化することはできるのでしょうか?研究者が学術起業を目指す上でチェックすべきポイントを挙げてみます。 ■ 学術研究と起業の共通点 実は、博士号を取得するまで研究に従事した学生は、起業に必要な考え方を既に学んでいると言えます。研究デザインを起草してから実験を行い、論文にまとめて発表するまで、限られた予算内でいかに自分の研究を進め、成果を出すかを自発的に考えるプロセスは、ビジネスでも同様に求められるからです。スペインのアリカンテ大学の教授であるJavier Garcia-Martinez氏が「私は、学問と起業活動が両立しないと思ったことはない。実際、それらは密接に関連している」と述べているように、学術研究と起業活動にはつながりがあります。もう少し具体的に共通点を見てみましょう。 ・リサーチクエスチョン(研究課題):既存の知識と解決すべき問題の間のギャップを特定することは、研究でもビジネスでも必要な作業です。 ・文献調査:ビジネスにおける市場調査に当たります。問題を解決する、あるいは知識のギャップを埋めるための方法を調査することは、研究・ビジネスいずれの最終目的でもある社会貢献につながります。 ・研究提案:問題の解決策を提案し、統計や関連する調査で裏付けをしていきます。事業の達成に向けて包括的なビジネスプランを作成するのと同じです。 ・講演/会議参加:ビジネスで言うネットワーク作りです。会議に参加して研究を公表し、同じ分野の研究者とのネットワークを構築するのが自身のキャリア形成に役立つのは、学術研究でもビジネスでも同じです。 ・資金調達:研究を成功させるためには、助成金を申請して資金援助を求めなければなりません。起業で言うスタートアップ資金の調達です。自身のアイデアを売り込む力は、研究でもビジネスでも求められます。 ・時間、エネルギー、情熱:学位(博士号)を取得するのに不可欠なこれらの要素は、ビジネス(起業)においても重要です。研究も事業も、成功と失敗は表裏一体。限られたチャンスをつかむには情熱と覚悟、そしてそれなりの時間とエネルギーが必要です。 ■ 学術起業を目指す時にチェックすべきポイント 面白いアイデアが浮かんでも、実務的な行動ができなければ起業は困難です。学術起業を目指す上で欠かせないポイントをチェックしましょう。 1 製品またはサービスを特定する:起業するに当たっての大前提です。 2 アイデアを守る:必要に応じて特許(知的財産権)を申請し、自分のアイデアを守ります。所属機関で特許申請(研究成果の技術移転など)を担当する部署に相談するとよいでしょう。 3 的確な状況判断を行う:自身のアイデアに起業する価値があるかを慎重に判断するため、必要な情報を収集します。例えば市場調査を行うことや、起業する上で不足している知識やスキルを理解することは、判断材料として有用です。…