世界のコトバ事情

機械翻訳はここまで来た!

機械翻訳の性能が飛躍的に向上しています。特にこの10年程度の技術の躍進には目を見張るものがあります。日本では外国人観光客と2020年の東京オリンピック・パラリンピックに対応すべく、機械翻訳機能を登載した案内サービスが増えており、その性能に驚かされた方も少なくないかもしれません。一体どのような仕組みになっているのでしょう。人間による翻訳とは何が違うのでしょう。今回は 機械翻訳 の進歩の歴史に迫ります。 ■ 精度は今も上昇中 機械翻訳は、文章を単語や文節(フレーズ)にバラバラにしてから逐語訳をするルールベース翻訳(RBMT: Rule-Based Machine Translation)から始まりました。それが対訳コーパスを利用する統計翻訳(SMT: Statistical Machine Translation)、そして第3世代のニューラル機械翻訳(NMT: Neural machine translation)の登場で、さらなる精度の向上が図られています。スマートフォンやPC利用者には身近なGoogle翻訳ですが、これはまさに、NMTのニューラルネットワークを利用した機械翻訳です。 これまでは、欧米の言語と日本語など、文法や単語の類似が少ない言語を翻訳する際には、逐語訳したものをつなげ直す従来の翻訳技術だけで精度を上げることは困難でした。そこで、翻訳機械に学習機能をつけるという技術革新、つまりNMTが開発され、近年の飛躍的な進歩が成し遂げられたのです。膨大な対訳データをコンピュータ自身が「学習」することで翻訳精度を上げるNMTは、データ処理能力と速度が格段に進歩した現代だからこそ可能になった技術です。…

言語の文法的性が話者の思考に影響する?

世界中の言語における文法的性(性区分)の有無を調査した研究(Corbett, 2013)によれば、世界の257言語のうち性区分がない言語が145、ある言語が112(このうち性区分が2つの言語は50、3つは26、4つは12、5以上は24)とのこと。言語によって分け方やその由来は異なりますが、およそ4割に性区分があることがわかります。 かつて男女(雌雄)の差を区別する必要あるいは意味があり、生きる上で必要だったのではないかと察せられますが、言語によって残り方は異なります。多くの言語で性を区別する必要が薄れてはいますが、今回の記事では、果たしてこの区分が、その言語を使う話者の思考に影響をおよぼしているのかを探ります。 ■ 影響は幼少期から 言語の性区別が話者の思考に影響を与えるかは、研究者にとって長年の疑問です。アメリカの言語学者のベンジャミン・リー・ウォーフ(Benjamin Lee Whorf)は、言語の違いが思考に影響をおよぼすという仮説「異なる言語を話す者は、その言語の相違ゆえに異なったように思考する」(言語相対性仮説*1)を立てました。ウォーフは、話者の考え方と行動は使用する言語に影響を受けると示唆しましたが、この説は認知科学においては長年、退けられてきました。しかし「言語はどこまでその話者の思考過程に影響するのか」という問いは、今なお言語関係者の強い関心対象となっています。 1980年代のある研究(Guiora, Beit-Hallahmi, Fried, and Yoder, 1982)で、イスラエル・アメリカ・フィンランドの2歳児と3歳児のジェンダーアイデンティティ(性自認)の発達段階の比較・検証が行われました。その結果は、「イスラエルの子どもたちは、性認識の発達のタイミングにおいて、一時的ではあっても、アメリカやフィンランドの子どもたちより先行する」というものでした。これは、性区分の強いヘブライ語*2の話者がその母語の特徴ゆえ、ジェンダー上の差異を、性区分の弱い言語の話者よりも早く意識するようになることを示唆するものでした。「母語における性区分と性自認の獲得には直接的な関連があることが明らかである」と結論づけられたのです。 ■ 文法上の性は思考にも影響する 2003年に発刊された書籍…

機械翻訳には負けない――翻訳者に求められるもの

グローバル化の急激な進行により、近年、コミュニケーションやビジネスに必要とされる言語の数が一気に増加しました。このような社会的ニーズ、そしてIT技術の発達により、言語をメモリーとアルゴリズムを使って翻訳する機械翻訳が登場したわけですが、驚くような「誤訳」を目にした経験がある人も多いのではないでしょうか。今回は機械翻訳の可能性ならびに翻訳者に求められるものを考えます。 ■ 機械は人間を凌駕するか 自動翻訳(機械翻訳)の進化の早さは驚異的とも言えます。簡単な内容であれば、ごく自然に訳してくれるまでになりました。即時性と利便性が高いため、公共機関や宿泊施設などでは、2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けて機械翻訳機能を搭載した人型ロボットや音声案内を設置する動きが加速しています。 このまま翻訳技術やAIが進化すれば、機械翻訳は人間の翻訳者の代用になるのでしょうか?「否」との答えが多く見受けられます。どんなに機械翻訳が発達しても、プロフェショナルな人間の翻訳者は必要とされ続けると言われており、その理由として以下の4点があげられます。 1.言語とは、数学的アルゴリズムだけで処理できるものではない 2.人にしかできない翻訳がある 3.機械翻訳による誤訳の恐れ 4.誤訳は誤解の元 ■ 言語はアルゴリズムだけで処理できない すべての言語には文脈があり、それはコンピュータには読み取るのが難しいものです。また、言語はその使用者の文化と社会環境と強く結びついており、これらは「生きて」絶えず変容しているため、単純なアルゴリズムに落とし込むことができません。有機的な言語を無機的なアルゴリズムだけで処理すると、無理が生じるのです。 文法や語彙に共通性のある言語同士なら、機械翻訳をしやすいものがありますし、翻訳する方向(A語→B語、B語→A語)によってやりやすさが異なる言語もあります。例えば、英日と比較して日英のほうが難しいと言われますが、それは日本語に助詞や同音異義語が多く、その上、主語が省略されることが多々あることから解析しづらいのが一因です。解析できない部分は「推定」されるため、誤訳の可能性が高くなります。統計的な手法を使う機械翻訳では「推定」か所が多ければ多いほど誤訳の確率が高くなるのは否めません。しかしこれが翻訳者であれば、同音異義語であっても文脈から意に合った訳語を当て、主語の省略に対しても適宜補足することが可能です。翻訳は、単純なアルゴリズム解析だけで対処できるものではないのです。 ■ 人にしかできない翻訳がある 機械翻訳とは「力技」とも言えます。人の生活に密着した言語の変換処理を、コンピューターに蓄積されたデータと格段に進化した処理速度によって可能にするためです。 一方で、人が行う翻訳は、知識と経験に裏打ちされた「技能」と言えるのではないでしょうか。この翻訳者の「技能」こそが、人にしか持つことができない能力です。「外国語がわかる人であれば翻訳もできる」、「言語がわかれば誤訳など簡単に見つけられる」、あるいは「翻訳の正誤の確認は身近なネイティブにやってもらえば十分」との声があることは確かですが、翻訳や校正には訓練が必要です。言語に詳しいだけでなく、その言語の背景やTPOに応じた適切な表現方法、文法、綴り字、句読法などをマスターし、正確な文章に仕立て上げる能力が必要です。 ■ 機械翻訳による誤訳が顧客流出につながる…

翻訳だけが仕事じゃない――ランゲージサービス会社に求められるもの

グローバル化した現代社会。そこで成功を収めるためには、情報の多言語展開、つまり「情報のグローバル化」も欠かせません。個人事業者から多国籍企業まで、多種多様な形態のビジネスが展開される中、製品あるいはサービスに関する情報を即時に、かつ正確に広げていかなければ生き残れない時代です。多くの企業が、急速に進むグローバル化に応じて、世界中の顧客に情報を伝達する必要に迫られています。翻訳または通訳業務を提供するランゲージサービスプロバイダーも例外ではありません。 ■ ランゲージサービスは翻訳に留まらない ランゲージサービスを提供する企業に求められるのは、もはや言葉の置き換え(=翻訳)に留まりません。顧客の情報を言語的・文化的に適切に伝えると共に、「付加価値」を生み出すことで顧客の時間とコスト削減に貢献しなければなりません。単純な逐語訳を大きく上回る質、つまりはインターネット上での検索のされ方を考慮し、SNSで話題になる可能性にも配慮しながら、適切に言葉を選択するとともに、文章の構築にも気を配ることが求められているのです。 言葉(テキスト)だけではありません。色彩、イメージ、シンボルなどを文化や状況に応じて適切に用い、それぞれの国のターゲット層に与える印象を、ふさわしいものにする必要があります。プロバイダーは、顧客がターゲットとする市場の言語・文化・習慣・特性までをも熟知する専門家としてサービスを提供し、顧客の競争力獲得を支えるのです。 ■ 翻訳を誤ると…… ランゲージサービスの役割が大きくなる反面、言葉の適切な使用を誤って、顧客の事業に傷をつけてしまう可能性もあります。実際、ビジネス関連の文書においても、翻訳の失敗例が数多く見受けられます。これは大きな問題を引き起こしかねません。ビジネスにおける誤訳は経済的損失だけでなく、企業イメージを損なう恐れすらあるためです。 顕著な失敗例の1つに、ドイツの大手自動車メーカーのアウディ社が2009年5月に打ち出した広告があります。ハイスペック高級車「RS6アバント」の新車プレスリリースにおいて、広告会社がドイツ語の原文にあった車名を「ホワイトパワー(White Power)」と直訳したことに端を発し、大きな騒動に陥りました*1。“White Power”とは白人至上主義を示し、この思想と人種的憎悪のスローガンとして用いられるに留まらず、ネオ・ナチ運動をも意味するものであり、アウディ社のイメージを大きく損なうものとなってしまいました。 国際問題に発展しかねなかった誤訳も存在します。比較的最近の話では、2016年の9月にTPP(環太平洋経済連携協定)関連法案の文書内に、誤訳が多数あったことが報道されました。外務省によれば、誤訳や表記ミスはTPP協定に3か所、付属文書などに15か所の計18か所もあったとのこと。中には「国有企業」が「国内企業」と訳されるなど、まったく意味が異なってしまうものもありました。この内容を国会で長時間かけて審議していたことを考えると、非常に危ない橋を渡っていたことがわかります。 ■ ランゲージプロバイダーを利用するメリット では、誤訳や不適切な翻訳を防ぐためにはどうしたらよいでしょうか。失敗例から学ぶのはもちろんですが、多言語化を行うにあたり、言語ソリューションサービスを提供するランゲージプロバイダーと関係を構築するのも一案です。ランゲージプロバイダーを利用するメリットを以下に記します。…

言語の絶滅が進んでいる?

言語が絶滅する――。果たして想像できるでしょうか? 言語は、該当する言語を母語として使う人間がいなくなった時に死を迎えます。それぞれの言語には唯一無二の歴史的背景や文化的価値があり、言語が滅びると、これらも同時に失われてしまう恐れがあります。では今日、どれほどの言語が実際に、危機に瀕しているのでしょうか。 ■ 言語はいかにして消滅するのか 国際連合教育科学文化機関(UNESCO)による世界の絶滅危惧言語地図(UNESCO Atlas of the World’s Languages in Danger)には、2,500を超える言語が将来的に消滅する可能性があることが示されており、中でも576の言語は深刻な状況にあるとのことです。この数字には、既に絶滅したと考えられる228の言語も含まれています。これは2010年版のデータゆえ、状況がさらに悪化していることが予想されます。 これらの危機言語は、どのように絶滅に至るのでしょうか。多くの場合、話者数の少ない言語は、話者数が圧倒的に多い主流言語に取って代わられることによって死を迎えます。具体的に見ていきましょう。 まず、人は就業機会をつかむために主流言語を使うようになります。少数しか話さない言語はビジネスの壁になるからです。これは教育にも言えることです。誰しも自分の子供にはよりよい生活を得てほしいと思うものです。それゆえ、よりチャンスの大きい主流言語を習得させようと力を入れるようになるのです。また移民集団の中では、あえて母語を使わない、教えないという決断が下されることもあります。このような選択の結果、言語の喪失、ひいては言語とともに伝えられてきた知識や文化的価値が失われてしまうのです。 ■ 消滅危機言語 の実例 アヤパネコ語とアブハズ語…

外国語の学習が脳を健康に?!

脳の活性化と認知症予防を目的に、いわゆる「脳トレ」が盛んですが、外国語学習が脳を鍛える上、健康にも役立つという話は聞いたことがあるでしょうか?バイリンガルになることが脳の活性化を促したり、脳の老化防止にも効果があったりとの研究が進んでいます。今日は、その効果について探ってみましょう。 ■ 脳の「実行機能」発達と活性化 The New York Times(2012年3月17日付 )に興味深い記事があります。これによると、20世紀には、バイリンガルであることは、子供の知性の発達を妨げると考えられていました。脳の言語システムに複数言語が存在することで、混乱を生じさせると考えられていたのでしょう。しかし、これが逆に脳の認識能力を高めていると、ある研究者が見出したというのです。 記事内の実験の結果、バイリンガルであることが脳の「実行機能(Executive Function)」の発達に寄与する可能性があることが示されました。「実行機能」とは、『複雑な課題の遂行に際し、課題ルールの維持やスイッチング、情報の更新などを行うことで、思考や行動を制御する認知システム、あるいはそれら認知制御機能の総称』(脳科学辞典) のことです。計画・行動の順序立て・ 注意力の切り替え(スイッチング)、つまり言語が脳内で切り替わることで思考や行動を制御する認知能力が鍛えられ、この機能の発達を促しているとのこと。バイリンガルの子供と単一言語しか話さない子供との比較調査では、会話ができるようになる前の段階でさえ、バイリンガル環境の子供のほうが、実行機能の発達が加速されたというから驚きです。 また、外国語の習得は 脳 を活性化させ、脳の健康にもよいとの研究もあります。バイリンガルは単一言語話者よりもアルツハイマー型認知症の発症が遅いことが確認されています。さらに、バイリンガルであることは、物理的な脳損傷をも緩和します。近年の脳梗塞からの生還者に対するインドでの調査(600例を対象)によると、バイリンガルの認知能力は単一言語話者の2倍もの回復を見せたそうです。苦労も多い言語習得ですが、どうやら「実利的な見返り」が期待できるようです。 ■ 欧米の外国語学習事情…

翻訳ツールにできること、人間にしかできないこと

この10年ほどの間、まさに目覚ましい進化を遂げたIT技術により、世の中はとても便利になりました。特に、PCの普及というハード面からアプリケーションの多様化というソフト面での拡充により、携帯電話やオンラインショッピングなど、かつては夢物語でしかなかったコミュニケーションが現実化しています。 これと同時に、翻訳に関連する技術も進化してきました。その一つがCATツール(Computer-Aided Translation tools:コンピューター翻訳支援ツール)です。今回は、CATツールの利便性、そして限界に焦点を当ててみます。 ■ CATツールとは? まず、CATツールとは何かという基本に立ち返ってみましょう。 CATツールとは世界中で利用されている翻訳支援ソフトウェアの総称で、専用のデータベース(翻訳メモリ)に訳語を記憶し、テキスト中に同一もしくは類似の用語が出てきた際にデータベースに登録された訳語を再利用できるようにし、翻訳作業のスピードアップと生産性の向上を図るものです。品質の維持と効率化が図れることから、グローバル市場向けの翻訳やローカライゼーションには、CATツールの使用が発注条件になっているものも見られます。大量の情報を短時間で翻訳するためには、ツールの活用が不可欠になってきているのです。とはいえ、CATツールの利用だけで翻訳の質が保証されるのでしょうか? ■ CATツールにできること-翻訳メモリで作業を短縮&効率化 CAT ツールは、翻訳者の効率的な業務遂行を支援するものです。CATツール上では原文が細かい分節に区切られ、訳文が、いわゆるTM(Translation Memory:翻訳メモリ)に保存されます。以後、テキスト中に同じ語句を含む文章や類似の文章が出てきた場合、文節単位でTMから訳文を転用することが可能になります。 繰り返される部分があれば自動的に訳文案が挿入されるため、翻訳者は語句の検索やコピー&ペーストの負担から解放され、結果として作業時間の短縮および訳語の統一につながります。 CATツールを通じて辞書や専門用語事典の照会もできるため訳語の正確性も増し、用語集の作成に時間を取られることもありません。同時に、複数の翻訳者が作業に関わる場合でも用語の整合性が確保できるのです。用語だけではありません。原文を訳しやすいように分割し、原文と訳文が並列に記載されるバイリンガルファイルを作成してくれるので作業の効率化も図られます。 しかし、このように有用なCATツールでも、万能とは言いがたい部分があるのです。 ■ CATツールにまだできないこと-文意の再構築…

スタバの成功の裏にあるもの――日本でビジネスを成功させるために

あまり自覚されることはありませんが、日本人は世界でも稀に見る「ハイスペック嗜好民族」です。企業が国外市場でビジネスを成功させるには、製品やマーケティングスタイルをその国の市場に適合させる必要がありますが、日本市場に進出しようとする外国企業は、細やかな「気配り」を想像以上に要求されることに気づくのではないでしょうか。「こうしてほしい」とはっきり要求されず、時に「口に出さない要求への理解」を求められることも.....。外国企業が日本で成功するためのハードルは、低くないのです。 ■ 日本人の要求は「高い」 ブランド名だけで無条件に売れる製品がありますが、そのブランドが日本市場で認知され普及するに至るまでには、相応の努力が隠されています。モノも情報も氾濫する現在、きちんとした価値観を持つブランドでなければ、日本人の購買意欲をそそらない傾向があります。外国勢が日本市場に参入する際、自社の従来のビジネスモデルやブランドを活用すれば日本でも十分成功できると思い込むことがあるようですが、これは失敗のもとかもしれません。重箱の隅をつつくような細部へのこだわりと完璧さを求める日本人の嗜好、価値観を知ることが重要です。 そんな日本人の細部への要求は、身近なものにも見て取れます。ごく一部を紹介します。 ・説明書は絶対 日本人は製品を購入する際、詳細を丁寧に記述した説明書をほしがり、実際にそれをきちんと読む傾向があります。当然、内容には「完璧」な説明とわかりやすさを求めます。「そんなに読まない」という人も、ちゃんと保管している場合が多いのでは? ・パンフレット大好き 説明書同様に、会社や事業内容を説明した紙のパンフレットが大好きです。ビジネスにおける基礎的な信頼を獲得するための鍵として、詳細にわたるパンフレット類は欠かせません。しかも、ビジュアル(美)を重視します。展示会などで、出展企業のパンフレットを集めて重そうに持っている方、少なくないですよね。 ■ 日本市場で成功したスターバックス このようにハードルの高い市場ですが、多くの外資系企業が日本市場に参入してきています。アメリカのシアトルで生まれたスターバックスコーヒーは、成功を収めた代表例と言えます。1996年に日本1号店をオープンしてから21年を経て、47都道府県すべてに1,260店舗を展開(2015年の鳥取県への出店で全国制覇、店舗数は2017年6月時点)しています。今や世界的なコーヒーチェーンですが、日本においては日本ならではの文化を取り込み、顧客の心をしっかりつかんでいます。 例えば“SAKURA”シリーズ。これは春の日本の伝統である雛祭りのイメージや、時には桜の花そのものをあしらう和菓子にインスパイアされた商品です。スターバックスのプレスリリースによれば「日本人の美しい感性をリスペクトした商品がラインアップ!」「さくらに対する日本文化を尊重する」と書かれていますが、これがカップの中のコーヒーにさえ「美」や「文化」を求める日本人の心をくすぐってならないようです。しかも「日本限定」ビバレッジという、日本人が大好きなツボまで抑えたマーケティング戦略で大成功しているのです。 決して安くはないスターバックスが、従来の喫茶店やコーヒーショップを押しのけて日本でここまで成功・拡大できたのには、文化的価値観への配慮も含めた企業戦略があるのです。 ■ 広告活動にも配慮 日本市場向けのマーケティング戦略を工夫している企業は、他にも数多く存在しています。例えば、日本でも大人気のアップル社。彼らは、アメリカ流の広告活動は日本市場にふさわしくないと、実際にアプローチの仕方を変更しています。Macのプロモーションに着目してみましょう。米国ではMacと他社のPCをきわどく挑発的に比較したり、アメリカ人が好きなジョーク満載のもの(参考例:’Get a…

グローバル化はローカル化!?

「完璧な翻訳などありえない」――。 翻訳を試みたことのある人にとっては周知の事実ですが、ある言語で示される内容を他の言語ですべて正確に表現するのは至難の業です。経済、文化、産業、人とあらゆる物事がグローバル化した世界において、情報の共有および拡散のための「翻訳」という言葉の置き換えが不可欠となりました。現代における「翻訳」の意味や役割について検証します。 ■ 現代の「翻訳」に求められること よく「国際化社会」「グローバル化」と称されますが、そもそも「国際化」を何と訳すでしょう?インターナショナリゼーションまたはグローバリゼーションとなることが多いと思いますが、この2つですら、すでに若干のニュアンスの違いが出てきます。インターナショナリゼーション(internationalization)と言えば国家(inter-national)の枠を越えて広がるイメージですが、グローバリゼーション(globalization)では地球規模(global)で広がるイメージになるのではないでしょうか。例えば、人や物の拡散は「インターナショナリゼーション」で、気候変動の影響は「グローバリゼーション」という微妙な使い分けを我々は何気なくやっていますが、カタカナにしただけでも差が生じるような言葉のニュアンスを正確に説明するのは困難です。 これを他の言語で表すとなれば、単語のイメージや使用される状況によっては、受信側は、発信側のねらいと異なる印象を受け取りかねません。自国語では「普通」なことが、他の言語では「普通」ではないかもしれないのです。 このように翻訳には、認知の仕方の違いという落とし穴が隠れています。「国際化」と広い視野の話をしている反面、言葉を届けるためには地域ごとの言語、言い回し、文化的背景など非常に細かい人間的な側面にも配慮する必要があるのです。それが、グローバリゼーション(国際化)を手助けする翻訳作業を「ローカライゼーション(地域化)」と呼ぶゆえんです。 では、グローバル化が加速している現代において、ローカライゼーション=翻訳にはどのような配慮が求められているのでしょうか。 ■ 翻訳は言葉の置き換えに留まらない 「翻訳」とは一般的に言えば、言葉から他の言葉への直接的な置き換えです。ただこれだけであれば、コンピューター処理のスピードが格段に進化し、AIも採用されている最近の翻訳ソフトで大部分は対応できてしまいます。 英語やフランス語のように言語自体が比較的シンプルな言語間の翻訳では、それほど問題なく処理できるようになってきているようです。しかし、ロシア語やドイツ語のように複雑な文法の言語ではまだ苦戦していますし、日本語の尊敬語や謙譲語のように状況で変化する言葉への対応には、課題が残っています。ソフトウェアのローカライズのように言語変換プログラムを組むことで機械的に対応できるものもありますが、人に伝える情報については、どれだけ単語データの集積があっても言葉の語形変化(活用)や使い分けなどを理解していないと、意味不明な翻訳となってしまうのです。 そして伝えなければならない情報には、言葉以外の要素も多々含まれています。翻訳を行うにあたって注意すべき要素をあげると、以下のようなものがあります。 • 言語特性 • 日付と時間の書式(年月日の書き方にはかなりの差が見られます) • 数字(特に小数点表記、世界には小数点の区切りが「,(コンマ)」になる国も) • 時差(タイムゾーンの違いに加えてサマータイムによる時差も生じます)…

下手な翻訳で失われるもの

近年急速に拡大するオンラインビジネス。国外に展開をする場合、当然、翻訳の必要が生じますが、実はスペルミスや誤訳、不適切な文章表現によって多くのお金やビジネスチャンスが失われてしまうのです……。今回は、下手な翻訳で失われるものについて考えてみます。 ■人は瞬間的に判断している 一般的に、初対面の人の印象は3~5秒で決まってしまうと言われています。これは、アメリカの心理学者が提唱した「メラビアンの法則」という概念ですが、人は初対面の際、55%を視覚情報(見た目や表情など)から、38%を聴覚情報(声の質や口調など)から、残り7%を言語情報(言葉の意味や話の内容など)から認識しているそうです。 では、ウェブサイトという視覚言語情報を初めて見た場合、サイト閲覧者は1つのサイトの内容をどれぐらいで認識・判断しているのでしょうか?一説には、サイト閲覧者が1つのサイトを注視する時間は6秒とも言われていますが、大体10~20秒以内にはそのページの内容に興味を持てるかどうかを判断しているとの分析もあります。いずれにしても、あまり長い時間ではありません。もしサイトの印象が悪ければ、あるいは不正確な情報が書かれていれば、この瞬間的とも言える短い秒数で顧客を失ってしまうこともあるのです。まず、閲覧者を惹きつけて、サイトに留まらせることが第一歩です。 ■メッセージを伝えるコンテンツと翻訳する意味 ウェブサイトが魅力的で顧客の目を捉えることができれば、次の課題はメッセージを的確かつ明快に伝えることです。コンテンツがわかりやすく、焦点が明確になっていないと、閲覧者はすぐに他のサイトに移ってしまいます。繰り返しになりますが、人が1つのページを判断する時間は、予想以上に短いのです。 メッセージを伝えるためには、ページが閲覧者にとって気軽に読める言語であることも重要です。ウェブ閲覧者の72%が母国語の表示を選び、54%の顧客が価格より自分たちの言語で書かれていることが購入の決め手になっているとの分析もあります。ということは、翻訳がウェブサイトの印象や顧客の購買意欲を左右してしまうということです。Economist Intelligence Unitの報告によると、572名の企業幹部へのインタビュー調査で半数近くが誤訳および「翻訳の結果、意味不明になった」コンテンツが自社の国際ビジネス取引を滞らせてしまう、との認識を示しました。 翻訳 することによって意味が不明になる、あるいは閲覧者に不正確なメッセージを与えてしまうようでは本末転倒です。 では、ビジネスを滞らせるもの、不明瞭な翻訳や誤訳によって企業が実際に失うものとは何でしょうか。 ■下手な翻訳で失われるもの 1:お金 英国を拠点とするオンライン起業家、Charles…