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いつ、どうやって始める?企業のローカライズ戦略

多くの企業が自社の発展とビジネスの成功を目指して、しのぎを削ってきました。世界中でグローバル化が急速に進んだ結果、ビジネスを成功させるためには海外に出て行くことが必要となり、製造業からサービス業まであらゆる企業が「どうやって、言葉や文化の違う国でビジネスを展開するか?」という問題に直面することとなりました。その際、必要なのがローカライズ(localize)/ローカリゼーション(localization)。サービスの国際化・地域化・多言語化です。では、このローカライズで成功した企業は、どの段階で決断し、何が成功につながったのでしょうか。 ■ ローカライズの需要は増えるか 日本では人口減少が深刻化しており、今後もこの流れはさらに加速することが予想されます。それに伴い消費者数の減少が見込まれる中、どのように自社の事業を展開させ、売上を維持または伸ばすことが可能なのか……。活路を見出すべくビジネスターゲットを海外へ求めるのは、ごく自然なことだと言えるでしょう。 経済活動のグローバル化が進む中、ローカライズの必要性は増しています。しかし、ローカライズに対する考え方には温度差があり、重視していない企業もあります。母国語の範囲である国内市場で顧客基盤を固めることこそ重要で国外は二の次と考える企業、国外市場を狙いつつも英語版ウェブサイトを用意しておけばよいと短絡的に考えている企業……理由はさまざまでしょう。社内で行うにしても外注するとしても、ローカライズには費用がかかります。企業にとって、資本をどう配分するかは致命的に重要ですが、困難な判断を伴います。資金の投入に慎重な計画を要する中、コストがかかる反面、実益が見えにくいローカライズを優先度の高いものと考えている企業は、まだ少ないのです。未知の国の市場に膨大な労力を注ぐより、母国での顧客基盤の構築に注力することが適策だと思うのは一理あります。 投資するからには成功したい。グローバル化を目指す企業がローカライズで効果を得るには、着手するタイミングと顧客を見据えた対応が鍵となります。 ■ 最適なタイミング――先手必勝 73%の人は母国語で書かれている物を好んで購入し、インターネットユーザーの10人中9人は、 ウェブサイトを母国語で閲覧します。商品もしくはサービスを、ターゲットとする顧客/ユーザーの言語で表示することは、売り上げにも直結する論理的な成長戦略です。英語圏以外でビジネスを拡大しようと思えば、英語版ウェブサイトだけでは不十分です。ローカライズを行わないことは、国際市場での成功を逃しているとも言えるのです。 とはいえ、多言語化に初期投資するのをためらうのも理解できます。では、ローカライズに初期投資する最適なタイミングは、いつなのでしょうか。決断は困難ですが、ローカライズを行うのはビジネスの初期段階であればあるほどよいとされています。大切なのは始めること、正しく歩を進めることです。不必要に思えても、製品のスタイルガイドやマニュアル、用語集を事業展開に着手した時点から整えておけば後々、時間とお金の節約となり、後に続く展開がぐっと楽になります。 スタイルガイドや用語集は、国外支社や代理店、翻訳会社が多言語化の作業を行う際に威力を発揮します。共通の指針があることで遅延や行き詰まりを避けられるほか、翻訳者も整えられた用語集があれば、作業しやすくなります。グローバル展開とは、決して当初から全コンテンツを50言語以上で配信することではありません。ローカライズは、小さな一歩から始められるのです。 ■ 先手のローカライズで成功したCanva社 ローカライズには早いうちに着手したほうがよいと言えども、多くの企業は、これから開拓する市場で堅実な収益を見込めるのか様子を伺い、ローカライズに二の足を踏んでいるのが実情です。ではここで、事業の立ち上げ時期にローカライズに取り組み成功した、オーストラリアのCanva社の例を紹介しましょう。 画像の加工やデザインを、初心者でもIllusutratorやPhotoshop並みの高機能で行えるツールを提供しているオーストラリアのCanva社は、2012年にシドニーで創設され、2013年からサービスの提供を開始しました。今では世界3か所にオフィスを構え、12か国で事業を展開しています。このCanva社が、スペイン語版のローカライズを決断した時のことです。Canvaが製品リリースの早い段階でスペイン語版のリリースを決断すると、35万人のユーザーが、すぐに英語版から乗り換えました。「読めなければ買わない」と決め込んでいたスペイン語ユーザーが、一気に動いたのです。Canvaの強みは、豊富な無料・有料のデザインテンプレートを提供し、初心者からプロにまで多種多様なデザイン作業の支援などを行うことです。この強みを最大限に活かすためには、読みやすい情報の提供とともに、幅広い顧客層からのフィードバック獲得が重要です。スペイン語版のリリースにより収益を上げただけでなく、「読めなければ買わなかった」顧客を手に入れ、さらなる事業の発展につなげたのです。 米国のリサーチ会社であるCommon Sense…

企業と翻訳者が知っておくべき多言語サイト成功の秘訣-2

前回、検索エンジンがアルゴリズムで動いていること、情報を検索結果で優位に表示させるためにはSEO対策が必要であることを書きました。ここからは、ユーザーが探したい情報にすぐにたどり着けるようにするためのSEO対策として、翻訳者と翻訳会社が留意しておくことについて提案します。 ■ SEOで「拾ってもらう」ために-翻訳者がすべきこと 翻訳者としては、言語的な正確さを重んじて、可能な限り忠実な翻訳を提供することが務めですが、訳文に使った語句や単語が、ウェブサイト上でほとんど検索されていない言葉だったら、検索エンジンには拾ってもらえません。情報が検索結果に表示されないとなれば、ビジネスにとっては死活問題。翻訳者は、文体上(あるいは正確な翻訳として)は最善の選択ではないかもしれない語句を使用することにも対応しなければなりません。ローカライゼーション翻訳においては、より高いコンバージョン(CV)率や多くのリピーターを獲得することが重要なのです。 ウェブサイト翻訳に役立つGoogleのツールを、以下に紹介します(ご利用にはGoogleアカウントが必要です)。 ・Google Adwordsキーワードプランナー……盛り込みたいキーワードの検索ボリュームを国ごとや期間ごとに調べられるツール。新たなキーワード候補の検索も可能。使用するにはGoogle Adwordsアカウントへの登録が必要(無料)。 ・Google サーチコンソール……ユーザーがサイトへアクセスする過程を調べられるツール。実際に何と検索されているかや、検索結果画面への自社サイトの表示頻度などを見ることができる。翻訳内容の修正・改善に便利。 ・Googleサジェスト機能……Googleの検索画面にキーワードを入力すると、検索しようとしているキーワードと関連する単語や、よく検索されるキーワードを見ることができる。翻訳時に盛り込むべきキーワードの選定に有効。 検索エンジンのキーワードについての知識と理解が、新たなターゲット市場向けのウェブサイト翻訳(ローカライゼーション)には欠かせません。 ■ 翻訳ではなく「ローカライズ」する 翻訳されたウェブサイトのコンテンツやテキスト情報がクローラーによって収集されることは述べました。ただし海外市場に出た場合は、ターゲット国/地域によって、普及している検索エンジンが異なる場合があり、そうなると当然クローラーの評価基準も異なっているため、それぞれの国/地域の特性を踏まえたSEO対策が必要です。翻訳者は、この前提に基づきつつSEOに効果的なアウトプットを作成するため、単なる言葉の「翻訳」ではなく「ローカライズ」を意識しておくことが大切です。 文章を書いたり翻訳したりする際に留意しておかなければならないのは、読み手の存在です。ウェブサイト上の文章であれば、最初のターゲットとなるのは検索するユーザーであり、ユーザーをサイトまで引き込むには、SEOに適した言葉を選んでおく戦略が必要です。例えば、オランダでマグカップを販売するビジネスを想定します。英語のマグカップ(mug)に当たるオランダ語はmokですが、地元のグーグル検索ではmokの類義語であるbekerが多用されています。マグカップを販売するサイトに潜在的消費者を誘引するためには、より多くの取り込みに結びつく可能性の高いbekerをキーワードとしたほうが有利だと言えます。ここまでは、ツールによる分析で見つけ出せるでしょう。しかし、さらに読み手を考慮した言葉の選択が必要なこともあります。同じ言語の同じ単語でも、地域や習慣によって使われる表現が多岐にわたるような場合です。例えば、スペイン語の単語が、世界に広がるスペイン語圏の国や地域で同じニュアンスで受け取られるか、同じものを示すのに同じ表現を使うかはわかりません。また、擬音語や擬態語のように、話し手・聞き手によってまったく異なるイメージにつながってしまうものや、宗教や習慣に基づくタブーな言葉も存在します。機械では判断が難しいローカライゼーションこそ、ターゲット言語に精通した翻訳者の力が発揮できるところではないでしょうか。 ■ 機械に「負けない」ために…

企業と翻訳者が知っておくべき多言語サイト成功の秘訣-1

知りたいことやわからないことをインターネットですぐに探せる時代、ウェブサイトの影響力は絶大です。ウェブサイトに掲載している情報の多言語化(ローカライゼーション)に加え、携帯端末用のサイト構築やSNSの利用も一般化し、SEO(Search Engine Optimization、検索エンジン最適化)対策をはじめ、企業にとっては本業のビジネスに付随する作業が増える一方です。翻訳会社や翻訳者がローカライズやウェブコンテンツの翻訳依頼を受ける機会も増えていますが、一人でも多くの閲覧者(ユーザー)に見てもらえる工夫は、できているでしょうか。検索エンジンとSEO対策において重要視される要因を知っておくことは、多言語化翻訳に関わる際に役立つはずです。 ■ 一人でも多くのユーザーをサイトに呼び込むには サイトを一人でも多くの人に見てもらうために、魅力的なコンテンツを配信するのはもちろんですが、ネット上のユーザーから検索されやすくしなければなりません。そのための手段としてSEO対策があげられます。多くの企業はコンテンツを作成する際、GoogleやYahooなどの検索エンジンで自社の情報が上位に表示されるよう、対策を施しています。 ここで一度、検索エンジンの裏側を見てみます。 ユーザーが何かを検索するときに求めているのは、的確な回答あるいは情報です。検索エンジンは、ユーザーの要望に応じて、検索インデックスに登録されている膨大な数のウェブページの中から、有益で関連性の高い検索結果を瞬時に表示してくれますが、この時に表示される検索結果の順位は検索アルゴリズムによって制御されています。表示されるコンテンツは、クローラー(Crawler)と呼ばれるプログラムがウェブ上のあらゆるコンテンツ(文章だけでなく画像やPDFまで含む)から情報を収集し、データベース化したものの中から抽出されています。しかし、クローラーは公開してすぐのページをはじめ、すべてのコンテンツを即時に網羅しきれるわけではないので、クローラーに早く「見つけてもらう」工夫が必要となります。そこで、検索エンジンがどのような仕組みで動いているのかを理解した上で最適な策を講じること、つまり、検索エンジンでコンテンツを上位に表示させるための対策(SEO対策)が求められるのです。 ■ 進化する検索アルゴリズム ユーザーにとって便利かつ有益な検索結果を表示できるようにするため、検索アルゴリズムには日々改良が重ねられると共に、検索順位を決定するための要因として、たくさんの検索アルゴリズムを組み合わせて使用するなどの技術的な工夫が施されています。ここでは、言語と関係する部分に絞ってGoogleが2013年9月に導入した新しいアルゴリズム「ハミングバード」を見てみます。この最新の検索アルゴリズムは、類義語・同義語・あるいは文脈的に意味が合致するページも適切に評価し、検索結果に返すことが可能だとされています。1つ1つの言葉を見て検索結果に反映していた以前のアルゴリズムとは異なり、言葉そのものを含まなくても意味・文脈の関連が高いものを評価し、検索順位の判定に反映するようになりました。サイト運営者にとっては繊細なキーワード戦略が要求される反面、ユーザーにとっては、検索意図をより反映した検索結果が出るようになったのです。 例えば、「日本で人気の韓流スターは誰?」という検索ワードAと「この国で流行している韓国アイドルは誰?」というBを入力したとします。ハミングバードは、過去に類似した語句が検索された際の結果に至るまでの過程や、重ねられた過去の試行錯誤を、膨大な蓄積データから分析します。そしてAとBの検索ワードが類似する答えを求めていること、つまり具体的な韓国人俳優の名前を求めているという「意図」を有した「質問文」であることを読み解くのです。この2つの質問におけるキーワードが、Aでは「日本、韓流スター」、Bでは「この国、韓国アイドル」と一致しなくても、過去データを活用し、これらの語句の重複する部分と異なる部分を解析した上で、効率的に処理していきます。検索アルゴリズムは日々、進化しており、文脈的に合致するページまで適切に抽出し、検索結果として表示してくれるようになっています。 Googleの検索エンジンには、「パンダ」「ペンギン」「ハミングバード」と動物の名前がついていますが、「ハミングバード」はハチドリで、正確で早いことが名前の由来だそうです。ユーザーが求める情報を的確かつ瞬時に提供できるよう、アルゴリズムのアップデートが頻繁に行われているのと同時に、新しい技術の導入が進み、これからも検索アルゴリズムは進化し続けることでしょう。 この後は、SEO対策において翻訳者が知っておくべきことに続きます。

メンタープログラム – 先達の知恵を活用

メンタープログラムもしくはメンター制度という言葉を耳にされたことはありますか?一般的には、先輩と後輩がペアになってスキル向上や人材育成を図る手段として知られています。 知識や経験豊かな先輩社員(上司とは別)をメンター、後輩社員(新入社員)をメンティーとして、業務上の課題の相談・アドバイスや精神面のケアを行う制度として、近年、企業にも広く浸透しつつあります。 メンターにとっては後輩の指導育成を行うことで管理業務を学ぶチャンスとなり、メンティーにとっては不安や悩みを相談しながら業務に必要なスキルやマインドを学ぶことができるため、組織におけるキャリア育成には効果的と言われています。そしてこのプログラム、個人事業者であることが多い翻訳者・通訳者の間にも広がりつつあるのです。 ■ メンターの起源は古代ギリシャ メンタープログラムの起源は、古代ギリシャにまでさかのぼります。「メンター」という言葉は、ギリシャの詩人ホメロスの叙事詩『オデュッセイア』の登場人物「Mentor(メントール)」に由来します。メントールは、主人公オデュッセウスが息子テレマコスの養育を任せ、トロイ遠征ではギリシャ連合軍を勝利に導く助言を行ったとされる老賢人で、ここから「助言者」「教育者」などの意味で使われるようになったそうです。 現代のメンタープログラムは、従来の組織的な管理体制では行き届かなかった精神的なサポートや、自発的な判断力を養うことに重きを置いて行われていますが、では翻訳者・通訳者が自身の仕事を進めるにおいて、これを取り入れるメリットは何でしょうか? ■ 言語業界のメンタープログラム  言語の分野でよく知られるメンタープログラムには、アメリカ翻訳者協会(American Translators Association; ATA)によるプログラムと、翻訳者ネットワークの ProZ.com によるプログラムがあります。 1. アメリカ翻訳者協会…

翻訳サービスが抱えるセキュリティリスクとは

あらゆる情報がインターネット上でやり取りされる現代、不正アクセスやウイルスによる個人情報・顧客情報の漏洩や、コンテンツの不正改ざんなどを含めたサイバー攻撃は後を絶ちません。大手通信教育会社、政府関連機関、金融機関などからの個人情報流出事件が報道されたほか、最近では、安全と言われていた Wi-Fi でも暗号鍵が読み取られる脆弱性が見つかり、問題となりました。 インターネットを利用する以上、セキュリティの問題は切り離せませんが、企業も個人も関係なく危険にさらされているのが現実です。翻訳サービスと翻訳者もインターネットを介してお客様の依頼を受け、作業を進行させる以上、セキュリティリスクとは無縁でいられません。 ■ 翻訳会社には重要情報がたくさん 翻訳をはじめとする言語関連サービスを提供する企業にとって、お客様の情報、つまり顧客情報はもちろん大切なものですが、翻訳業界ならではの重要情報の取り扱いについても、十分注意する必要があります。それは、翻訳対象のファイルに書かれているあらゆる情報です。最新の研究、開発中の医薬品、新製品の説明書、会社のプレスリリース、法律文書など、秘匿性の高い情報が外部に漏れることは許されません。お客様の新製品の情報が外部に漏れて競合他社の手に渡ってしまうようなことが起きたら、事業展開に影響が出ます。開発中の新薬の情報が漏れて特許申請されてしまえば、長年の研究が水泡に帰してしまいます。 顧客の業種は多種多様で依頼内容も多岐にわたりますが、どんな情報であれ重要な情報であることに変わりはありません。顧客からの信頼のもとで重要な情報を預かり、作業していることを常に意識しておく必要があります。 ■ そこら中に転がるリスク インターネットの普及は世界中の言語を世界中で翻訳することを可能にしましたが、反面、セキュリティリスクが増大したのは事実です。多くの 翻訳会社 は社内でプロジェクトの管理や編集などを行いますが、一方で相当な人数の外部事業者(フリーランスなどの登録翻訳者)を抱えています。登録翻訳者は国内外問わず点在しており、依頼言語や内容に応じて選ばれますが、その際、顧客ファイルにアクセスする必要が生じます。が、そのアクセス方法や利用ソフトは多種多様です。複数名の翻訳者がいろいろな国からさまざまなネットワークを経由してサーバーまたはファイルにアクセスすることだけでも、インターネットセキュリティのリスクを負っていることになります。 さらに、ファイルを共有するためにログインIDやパスワードを共有したり、セキュリティレベルを確認することなく大容量ファイル預かりサービスを使ってファイルを転送したり、ファイルサイズが小さいからとメール添付でファイルの送受信を行ったり、テキスト文を検索エンジンにテキストコピーして検索にかけたりと、どれも普通にやってしまいそうなことですが、これらも大きなリスクです。実際、ネット上の翻訳サービスに入力した文章がそのまま公開されてしまうという問題が、数年前に発生しました。これは、翻訳結果がサーバーに保存されていたことで、意図しない情報漏洩につながってしまったというケースでした。サービスを提供する側からの情報提供が不足していたため、顧客がサービスを発注する際に「サーバーへの文書保存に同意しない」という選択肢があったことを知らなかったのです。 ■ 翻訳サービスがなすべきセキュリティ対策とは? このような問題を防ぐためにも、翻訳サービスを提供する 翻訳会社…

広がるインターンシップ – 言語業界では?

日本でも大学在学中にインターンシップに参加することが一般的になってきました。2018年度卒学生にインターンシップの参加経験を聞いたあるアンケートでは、43.7%の学生が参加したことがある、と答えています。 翻訳をはじめとする言語業界の仕事でも、インターンの受け入れは進んでいるのでしょうか?実際は、国連やユネスコのような公共組織以外での受け入れは、進んでいるとは言い難い状況です。国を挙げての「グローバル人材育成」が進む中で学校教育に外国語学習が盛り込まれ、さらに幼少時からバイリンガル、トリリンガルな環境で育つ人が増えている昨今、人材不足が原因とも思えません。なぜこの業界でのインターンシップが進まないのかを考察します。 ■ 学生にも企業にもメリット インターンシップとは、特定の職業の経験を積むために、一定期間に企業や団体などで労働に従事することで、学生が在学期間中に行うことが一般的です。「1日インターンシップ」から短期型、長期型と選択肢が増えており、参加する学生側から見れば、実際に企業の中に入って社員と共に業務に携わることで、企業や業界の実態を垣間見ることができます。さらに、社会に出る前から実践的なスキルを身につけ、自分の適性を確認することも、人脈(ネットワーク)作りの機会を得ることもできるのです。 一方、受け入れる企業側は、会社を知ってもらうことから将来の入社を念頭に入れた人材選考の一環としてまで、幅広い目的で インターンシップ を実施します。企業にとってインターンシップは、低コストで能力を提供してくれる人材を確保する場であり、若手人材のスキル・能力を採用判断前に把握することができる、つまり将来的な採用コストとリスクの削減につなげられる機会なのです。 このように、インターンシップは学生・企業の両方に大きなメリットがあることから、外資系企業に比べて「お堅い」日本企業にも広がりを見せています。それにもかかわらず、言語業界ではインターンシップの受け入れが進んでいないように見えるのは、なぜなのでしょうか。 ■言語業界の特性がインターンシップの壁に? 言語業界は業務内容が専門的である――。これが、インターンの受け入れが進まない要因の一つとして考えられます。 翻訳や通訳の内容は法律、金融、ITから化学まで多岐にわたり、翻訳者・通訳者はもちろん、プロジェクトの進行に従事するスタッフにも技能と経験が要求されます。まず、顧客から依頼される内容を正確に理解し、適切な翻訳者・通訳者を選定する。依頼の分量が多い、あるいは納期が短い場合には複数の翻訳者を手配し、それぞれの作業品質と納品までのスケジュールを管理する。通訳の場合でも、依頼が同時か逐次か、また、話者の話が専門分野に特化しているかによって、それに対応できる通訳者を選出する。こうした状況判断には、専門知識と経験が不可欠です。翻訳・通訳自体は専門職なのでインターンには無理ですが、関連の作業を分担するとしても、インターンにできる作業を切り離すのは難しく、かつ限られたインターン期間内に仕事を覚えてもらうためのトレーニングを行うことは困難です。 このような実務上の難しさに、納期に追われる業界の特性が加わり、インターンの受け入れ自体に十分な時間を割くことができないのが現状と言えるでしょう。 ■インターンシップを成功させるコツ では インターンシップ…

翻訳者と通訳者-こんなに違う「伝える」シゴト

最近、成田空港に導入された「メガホンヤク」をご存知ですか?「ドラえもん」のポケットから出てくる道具のようだと話題になったメガホン型の翻訳機で、日本語を英語、中国語(北京語)、韓国語にして再生することができます。空港など外国人の多い場所で係員のアナウンスを多言語に変換し、誘導などを補佐するものですが、話者の発言を他の言語に置き換えるにも関わらず「通訳機」ではなく、その名はずばり「ホンヤク(翻訳)機」。英語でも Megaphone Translator と紹介されています。メガホンと翻訳をかけた絶妙なネーミングですが、このメガホンが話者の発する言葉を「通訳」するのではなく、事前に登録された言葉(文章)に置き換える「音声翻訳」を行うものであることから、この名前になったものと思われます。 似たようなイメージで見られがちな「翻訳」と「通訳」。この違いは何なのか。翻訳者と通訳者に求められるスキルや必要な訓練に違いはあるのか。あらためて整理してみましょう。 ■ 翻訳と通訳は完全に別モノ 表面的には、翻訳者は「書き言葉」を、通訳者は「話し言葉」を扱っているという違いがありますが、根本的な部分で翻訳と通訳に求められるスキルは異なります。翻訳者に求められるのは、原文の言語(ソース言語)を理解し、その文化的文脈に沿って、辞書や参考資料、CATツール(コンピュータ支援翻訳ツール)などを用い、正確に他の言語(ターゲット言語)に置き換える能力です。一方、通訳者は現場で話者が話す言葉を同時あるいは逐次に変えていく必要があるため、卓越した聞き取り能力と短時間に効率的なメモを取るテクニック、人前で話す力が求められます。特に同時通訳の場合、ターゲット言語へのアウトプットはソース言語の発話から5~10秒以内です。ほとんど瞬間的とも言える時間の制約の中で、話者の言葉を聞きながら、即座に情報をまとめて的確な言葉に置き換える力が必要です。 求められる正確さにも違いがあります。翻訳は、下調べを重ねて内容を十分に理解した上でテキストを作成します。原稿を納品前に推敲する時間がある分、訳文には高いレベルの正確性が要求されます。通訳は、話者の話した内容を脚色せず「言語変換」に徹します。正確さよりも、時間(瞬間的な対応)と意味が伝わることが重視されます。 また、それぞれの仕事が必要とされる場所も異なります。最近は、外国人旅行者や居住者が増え、多方面で翻訳・通訳の仕事が増えています。ビジネス文書の翻訳など産業翻訳と呼ばれるものの他に、小説の翻訳(文芸・出版翻訳)や海外ドラマなどの翻訳(映像翻訳)、比較的新しいものとしてはゲーム翻訳や観光客向けホームページのための多言語翻訳などの需要が増えています。 一方、外国人観光客を案内する「通訳ガイド」の需要も増えています。通訳は、人と人を直接つなぐので、コミュニケーションをとることが好きな人や人前に出て話すのが得意なタイプに向いていると言われます。 ■ 翻訳には緻密さ、通訳には大胆さ 通常、翻訳者・通訳者は自分自身の母語と他の言語の置き換えを行います。翻訳は、多くの場合、どの言語をどの言語に(例えば、日本語から英語、または英語から日本語)するか、事前に「方向」を確定させます。求められるのは、元の原稿の内容に精通する専門性や語彙の豊富さ。時間をかけて、正確かつわかりやすい言葉の置き換えを行います。 一方、通訳はいわば「生中継状態」。話す内容が事前に大まかに決まっていても、話の進み方次第で臨機応変に対応しなければなりません。それだけではありません。話し手が強調する部分は話し方を大げさに、笑いを取ろうとしている部分などはニュアンスが言語間の文化を超えて伝わるよう、思い切った言葉選びをする必要も。優秀な通訳者は、一つひとつの単語、文章を「訳す」のではなく、概念を理解するや否や、素早くターゲット言語で「説明」しているとも言えます(頭の中では2つの言語が同時に飛び交っているのかもしれません)。 あいまいな表現が多い日本語を、具体的な表現で説明することが多い外国語にどう置き換えれば、より分かりやすく伝えられるか。これも、翻訳者と通訳者が共に頭を悩ませる難題です。語彙の面でも、外来語だけでなく外国語やカタカナ語(技術関連用語や新語など)が氾濫し、どこまでが一般に通用するのか、あいまいになってきています。翻訳の場合、メッセージに込められた背景、ニュアンス、表現まで考慮した上で、ターゲット言語のネイティブが読んだ際に違和感なく理解できる文章にしなければなりません。通訳と違って読者を特定できないため、カタカナ用語や専門用語を使う際には、日本語に置き換えるか注釈をつけるなどの工夫が必要となります。一つひとつの文章を正確かつ適切に訳すことにより、メッセージを伝えることが重要なのです。 一方、通訳であれば、発話全体の意味を捉えて、聞き手にとって分かりやすい(と推定される)近似的な言い回しに「訳す」ことでしょう。聞き手が理解できるものであれば、一般的ではないカタカナ語を使うこともできます。そもそも、ソース言語とターゲット言語の単語レベルですら意味が完全に一致するとは限らないので、一言一句ではなく話の筋が伝わることが重要視されるのです。…

家系図翻訳 ―過去と現在をつなぐ仕事―

日本ではあまりなじみがありませんが、 家系図 や故人の経歴を記した文書などの翻訳の需要が増えています。日本の戸籍のようなシステムのない国では、海や国境を越えて新天地へと移住してきた祖先の来歴を知りたくても記録がなく、記録や資料が残っていても別の言語で書かれていて読めないという事情があるのです。今回は、家系に関する文書(系譜)の翻訳の話です。 ■ 家族の宝物 ある翻訳会社のもとに老紳士から、こんな依頼があったそうです。 「2つの文書の翻訳をお願いしたい。1つは、地元で尊敬を集めていたラビ(ユダヤ教における宗教指導者)である父の経歴を記した文書。もう1つは、その父の父、つまり祖父の一生についてしたためた文書。これらはヘブライ語で書かれており、読むことができないため、英訳する必要があるのですーー」 古雅なヘブライ語である上、多くの略語があり、翻訳にはかなりの時間を要したとのこと。しかし、いざ英訳した文書をお客様にお届けすると、それはもうたいへんな喜びようだったそうです。老紳士は言いました。 「家族の宝物を翻訳してくれて、ありがとうございます――」 ■ 家系調査の今昔 「To remember where you come from…

機械翻訳はここまで来た!

機械翻訳の性能が飛躍的に向上しています。特にこの10年程度の技術の躍進には目を見張るものがあります。日本では外国人観光客と2020年の東京オリンピック・パラリンピックに対応すべく、機械翻訳機能を登載した案内サービスが増えており、その性能に驚かされた方も少なくないかもしれません。一体どのような仕組みになっているのでしょう。人間による翻訳とは何が違うのでしょう。今回は 機械翻訳 の進歩の歴史に迫ります。 ■ 精度は今も上昇中 機械翻訳は、文章を単語や文節(フレーズ)にバラバラにしてから逐語訳をするルールベース翻訳(RBMT: Rule-Based Machine Translation)から始まりました。それが対訳コーパスを利用する統計翻訳(SMT: Statistical Machine Translation)、そして第3世代のニューラル機械翻訳(NMT: Neural machine translation)の登場で、さらなる精度の向上が図られています。スマートフォンやPC利用者には身近なGoogle翻訳ですが、これはまさに、NMTのニューラルネットワークを利用した機械翻訳です。 これまでは、欧米の言語と日本語など、文法や単語の類似が少ない言語を翻訳する際には、逐語訳したものをつなげ直す従来の翻訳技術だけで精度を上げることは困難でした。そこで、翻訳機械に学習機能をつけるという技術革新、つまりNMTが開発され、近年の飛躍的な進歩が成し遂げられたのです。膨大な対訳データをコンピュータ自身が「学習」することで翻訳精度を上げるNMTは、データ処理能力と速度が格段に進歩した現代だからこそ可能になった技術です。…

言語の文法的性が話者の思考に影響する?

世界中の言語における文法的性(性区分)の有無を調査した研究(Corbett, 2013)によれば、世界の257言語のうち性区分がない言語が145、ある言語が112(このうち性区分が2つの言語は50、3つは26、4つは12、5以上は24)とのこと。言語によって分け方やその由来は異なりますが、およそ4割に性区分があることがわかります。 かつて男女(雌雄)の差を区別する必要あるいは意味があり、生きる上で必要だったのではないかと察せられますが、言語によって残り方は異なります。多くの言語で性を区別する必要が薄れてはいますが、今回の記事では、果たしてこの区分が、その言語を使う話者の思考に影響をおよぼしているのかを探ります。 ■ 影響は幼少期から 言語の性区別が話者の思考に影響を与えるかは、研究者にとって長年の疑問です。アメリカの言語学者のベンジャミン・リー・ウォーフ(Benjamin Lee Whorf)は、言語の違いが思考に影響をおよぼすという仮説「異なる言語を話す者は、その言語の相違ゆえに異なったように思考する」(言語相対性仮説*1)を立てました。ウォーフは、話者の考え方と行動は使用する言語に影響を受けると示唆しましたが、この説は認知科学においては長年、退けられてきました。しかし「言語はどこまでその話者の思考過程に影響するのか」という問いは、今なお言語関係者の強い関心対象となっています。 1980年代のある研究(Guiora, Beit-Hallahmi, Fried, and Yoder, 1982)で、イスラエル・アメリカ・フィンランドの2歳児と3歳児のジェンダーアイデンティティ(性自認)の発達段階の比較・検証が行われました。その結果は、「イスラエルの子どもたちは、性認識の発達のタイミングにおいて、一時的ではあっても、アメリカやフィンランドの子どもたちより先行する」というものでした。これは、性区分の強いヘブライ語*2の話者がその母語の特徴ゆえ、ジェンダー上の差異を、性区分の弱い言語の話者よりも早く意識するようになることを示唆するものでした。「母語における性区分と性自認の獲得には直接的な関連があることが明らかである」と結論づけられたのです。 ■ 文法上の性は思考にも影響する 2003年に発刊された書籍…