世界のコトバ事情

翻訳自動化 -AIが翻訳にもたらす変化

近年の翻訳の自動化には目を見張るものがあります。IT技術が進歩し、言語の域にまで進出してきたことによって、高効率・低コスト・高品質な翻訳が提供されるようになってきました。さらなるAI(人工知能)の導入が見込まれる現在、翻訳の自動化がもたらすメリット、自動化を可能にする技術について見てみます。 ■ 翻訳自動化とは? 翻訳自動化 とは、翻訳プロセスの一部を機械処理することにより、高品質・低コストな翻訳アウトプットを短時間で提供可能にすることです。翻訳作業そのものではなく、プロセスの効率化を図るものであり、多言語化の翻訳プロジェクトやローカリゼーションなどに有効です。 翻訳自動化のメリットとしては、以下のようなことが挙げられます。 ・頻繁に更新されるウェブサイトやさまざまなプラットフォームのコンテンツを適宜、迅速にアップデートできる。 ・プロジェクト開始時から終了までのワークフローを自動化することで、プロジェクト管理の時間を大幅に削減できる。 ・着実なスケジュール管理を行うことで納期を厳守することができる。 ・効率的なワークフローに従ってファイルの送受信を行い、段階的な作業をスムーズに進行させることができる。 ・不要な人の介入を減らし、プロジェクトコストを削減し、人的ミスが生じる可能性も軽減できる。 ・再現性があり、数値化が可能で、かつ信頼できる作業を積み重ねることで、結果的にプロジェクトの進行を速めることができる。 ・クラウド上で作業することで、作業者のタイムゾーンに関わらず作業ができるようになり、かつ作業ファイルをEメールで送受信しないことにより、セキュリティを確保できる。 ■ 翻訳自動化をもたらす技術 上述のように翻訳プロセスを自動化することによって得られるメリットがある一方で、何を自動化すれば効果的なのか、自動化は簡単にできるのか――など、自動化の取り入れ方については懸念も残されています。翻訳プロセスのどの作業を自動化するかによって、複数ある方法を使い分けるのが妥当でしょう。次は、自動化を可能にする技術について紹介します。 人工知能(AI)…

翻訳学と 脳科学

バイリンガルな人が翻訳もできるとは限りません。また、言語が得意な人はたくさんいますが、すべての人が優秀な翻訳者になれるとも言えません。言語を話すことと翻訳すること――人間の頭の中のプロセスに何か違いがあるのでしょうか。何が翻訳を可能にしているのか?不思議です。 そして、人間の脳の学習処理を模したニューラル機械翻訳(NMT)。実務翻訳において、翻訳支援ツール(CATツール)や機械翻訳(Machine Translation; MT)が日常的に利用されるようになり、翻訳効率の向上につながりました。特に、ニューラル機械翻訳は翻訳精度が格段に進歩しており、利用が拡大しています。それでも、さまざまなところで人間の翻訳者にしかできない部分が残されていると述べられているように、人間の脳における電気的な動きをコンピューターで再現できるとしても、まだ人間の脳と同じ翻訳結果を生み出すことはできないのです。これだけIT技術が進んだのに、なぜなのでしょう? 自分で翻訳作業を行っていると、機械翻訳の利用方法や仕組みを学ぶのに手一杯で、翻訳と脳の働きについて考える機会はあまりないかもしれませんが、この謎に取り組まれているのが、関西大学の山田優教授です。翻訳学と 脳科学 の関係を探求されている山田教授の研究で、人間が翻訳作業を行う時には脳の色々な部分を使っていることが判明しました。翻訳作業を行う時に活性化する脳の部位を調べる実験で、翻訳(深い処理)を行うときにはさまざまな部位が反応していることが確かめられたのです。それだけ翻訳作業は複雑な脳のプロセスを経て行われているということであり、脳の一部(左脳)の動きを再現するニューラル機械翻訳は、言語を置き換える「直訳」はできても、脳全体の複合的な働きの結果得られる「翻訳」と同じレベルのアウトプットを出せるまでに至っていないということでしょう。このプロセスを理解することは、我々人間が、言語をどのように理解しているか、そしてどのように他言語に置き換えているかを探ることでもあります。機械翻訳が、言葉をカウントベース(共起行列)で捉える意味と形式(文法など)から把握しているのに対して、人間は、言葉の意味と形式に加えて、その言葉を使っている社会で共有される文化的背景や価値観なども鑑みた上で、その言葉の使われている状況ではどの訳語への置き換えが適切かどうかを判断しています。このような複雑な処理を脳が行うためには、さまざまな知識や情報が事前にインプットされていなければなりませんが、人間は自分の経験や学習を通して膨大な量の情報を脳に蓄積させているのです。これは、まだ機械に追いつかれていない部分です。 実際、機械翻訳ではコーパス(過去の翻訳メモリなどから得られる異なる言語間の文と文の対訳データ)の量が翻訳の精度を左右するため、コーパスが多ければ多い言語ペアほど、翻訳の品質が向上すると言われています。これは経験を積んだ翻訳者がよりよい翻訳ができるのと同じです。コーパスの蓄積が進み、言語だけでなくあらゆる情報がデータ化され、それらの膨大な情報を使って今以上に人間の脳の処理に近い計算処理ができる画期的なアルゴリズムが実装されたら……ニューラル機械翻訳による結果が人間の翻訳者の出した結果と区別できなくなる日が来るかもしれません。幸いにして、それまでにはまだまだ多くの研究と時間が必要そうです。 急速にグローバル化が進み、ますます翻訳のニーズが高まっている現代における翻訳には、品質・コスト・スピード(納期)が求められており、機械翻訳は現時点で既にコストとスピードで人間の翻訳者を上回っています。残された品質について、どこまで重視するかは翻訳プロダクトの用途次第です。例えば、ビジネスメールの翻訳は内容が理解できるレベルになっていれば問題ないと判断されることがある一方、製品の解説書などはユーザーが適切に使えるように正確かつ分かりやすく書かれていることが求められるといった具合です。このような場合、前者は機械翻訳でも対応が可能でしょう。後者の、「ユーザーにとってわかりやすい解説」は、人間の翻訳者の腕の見せどころです。人間は、「自分がこの解説書を見たときに、どう書かれていればわかりやすいのか」を考えて翻訳することができるからです。翻訳に求められる3つの評価基準(品質・コスト・スピード)が変わることは考えにくい以上、翻訳者は翻訳技術の変化に追従しつつ、翻訳者(人間)ならではの翻訳ができるようにスキルを磨かなければなりません。 翻訳者として、どのようなスキルを向上させていくかを考えるとき、あるいは言語を学習するとき、自分の脳がどのように言語を理解しているのか想像してみるのも面白いと思います。翻訳学、言語処理研究の視点から人間の脳の働きを探る山田教授の研究において、今後どんなことが分かってくるかも楽しみです。 山田 優(やまだ まさる)教授の紹介 関西大学外国語学部・外国語教育学研究科教授 実務翻訳者としての経験を経て、現在は大学で翻訳プロセス論、翻訳テクノロジー論、翻訳教育論(TILT)などの研究に従事されている。日本通訳翻訳学会(JAITS)理事。関西大学の先生のご紹介はこちら(研究室のサイトはこちら)

CATツールを使用して翻訳効率をUP!

CATツールとは、Computer Assisted Translation(コンピュータ翻訳支援)ツールのことで、その名が示すように、翻訳のプロセスを容易にしてくれるコンピュータプログラムです。翻訳者のアウトプットの質と量を高めてくれるだけでなく、複数の翻訳者が作業を分担する時や解析を行う際に役立ちます。翻訳者が大量の翻訳を行ったり、限られた期間内に多くのプロジェクトに携わったりする場合には、まさに必要なツールと言えるでしょう。 ■ CATツールの効果 CATツールは、使用頻度の高い語句やフレーズを保存・蓄積することができます(翻訳メモリ機能)。翻訳対象の文書からよく使われる用語や語句の組み合わせを拾い出し、それに適合する訳語を瞬時に表示するため、翻訳の処理を速めることができるのです。CATツールの種類によっては、校正やスペルチェックの機能も装備しているものもあり、翻訳効率を大幅に改善することができるのです。以下に具体的な効果をまとめます。 翻訳スピードが速くなる CATツールを利用することで、翻訳処理のスピードが格段にアップします。一度翻訳された用語や文章をデータとして蓄積していくので、分量の多いプロジェクトで特に威力を発揮します。翻訳者がゼロから翻訳を行うより作業時間は大幅に短縮され、短納期での納品を実現することができます。 訳漏れを回避 CATツールには見落としがありません。人力翻訳では訳抜け・訳漏れが発生する恐れがありますが、ツールは機械的に処理していくので、原文テキストを見落とす心配がないのです。また、CATツールによっては、訳漏れを検出するQA(品質管理)チェック機能が付いているものもありますので、ツールの機能を活用して、より完成度の高い翻訳原稿を作成することができます。 用語の一貫性を保つ 頻出する語句やフレーズに同じ訳語を自動で用いるため、翻訳の一貫性を保つことができます。法律や製薬など、用語の正確さが特に求められる業界にとっては、大変有用な機能です。 共同作業の効率化 翻訳を複数の翻訳者が同時並行的に行う場合、ツール内で翻訳メモリを共有できることで、全員が確実に同じ語彙セットのもとで翻訳に当たることができます。これによって、最終的に統一感と一貫性のある訳文に仕上がります。また、ツールによっては、共通のインターフェイスを利用し、翻訳者あるいはプロジェクト管理者と作業内容について連絡を取り合ったりすることができる機能を有しているものもあります。さらに、管理者(発注者)側にとっては、ツール上で共同作業を行うことで、文書にアクセスする翻訳者などを制限・管理することが可能になり、翻訳資産の保護、一元管理ができるというメリットもあります。 レビュー 翻訳した文書の見直し(レビュー)を行うのも、CATツールを使えば簡単です。原文と翻訳文を画面上に並べて表示できるので、比較が容易になり、印刷する手間も省けます。こうした効率化の積み重ねが、長期的な視点での生産性の向上に貢献することとなるのです。…

【コラム】世界的ベストセラーになった名翻訳8冊

幸いにして日本にいると、世界のベストセラーを日本語で読むことができます。英語で出版された書籍のうち約3%しか外国語に翻訳されていないと嘆く声があることを鑑みれば、比較的多くの英語の書籍が、日本語に訳されていると言えるかもしれません。 世界的なヒット作品となるような本は、必ず英語版が出版されます。翻訳の巧みさも、書籍のヒットの要因の一つと言えるでしょう。ここでは、英語に翻訳されて世界的なベストセラーとなった書籍8冊を紹介します。 『星の王子さま』 サン=テグジュペリ著  フランス人の飛行士・小説家であるアントワーヌ・ド・サン=テグジュペリの小説。約300の言語と方言に翻訳され、世界中で毎年約200万冊が販売されています。2014年までの総販売数で既に1億4千万冊を超えるロングベストセラーとなっています。ラジオ、舞台、映画、オペラなど、世界の至る所で上演もされてきました。 『ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女』 スティーグ・ラーソン著  スウェーデンの作家スティーグ・ラーソンによる推理小説。『ドラゴン・タトゥーの女』『火と戯れる女』『眠れる女と狂卓の騎士』から成る三部作です。『ドラゴン・タトゥーの女』は、著者のラーソン氏が50歳で死去した翌年の2005年に出版され、外国語に翻訳されるや否や、たちまち国際的なベストセラーとなりました。ニューヨーク・タイムズ紙のベストセラーリストに4位で登場し、続いて第2部『火と戯れる女』、第3部『眠れる女と狂卓の騎士』が出版され、「ミレニアム」シリーズとして知られています。現在までに世界で8000万部以上のベストセラーとなっており、3部すべてが映画化され、大ヒットとなっています。 『アルケミスト-夢を旅した少年』 パウロ・コエーリョ著 この古典文学は、ブラジル人の作家パウロ・コエーリョによりポルトガル語で書かれ、1988年に出版されました。2016年までに約70ヶ国語に翻訳され、全世界で6500万部以上売り上げています。著者が存命中に翻訳された言語の数が世界一、としてギネスの記録にもなっています。2015年に映画化の計画が公表されましたが、今のところ実現には至っていません。 『薔薇の名前』 ウンベルト・エーコ著  ウンベルト・エーコが母国語であるイタリア語で執筆し、1980年に出版した歴史推理小説。エーコが死去した2016年には約40カ国語に訳され、数千万部を売り上げました。1986年にフランス、イタリア、西ドイツの合作で映画化され、全世界で7700万ドルの興行成績を上げています。 『風の影』 カルロス・ルイス サフォン著  2001年にスペインで発表された小説。スペイン内戦時代のバルセロナが舞台のこの小説は、英語に翻訳される前、ヨーロッパで、スペイン語で書かれた書籍としてベストセラーとなっていました。Lucia Gravesによって英訳されるとイギリスで大人気となり、世界中で1500万部を売り上げたと言われています。2016年11月に『風の影』四部作の最後の一冊(原著タイトル”El…

翻訳スキルを向上させる5つのヒント

言語は常に進化しています。毎年発表される流行語を見てもわかる通り、新たな言葉が表れては消え、また表れます。言葉は時々に応じて、状況により適合した言葉へと変化してもいきます。翻訳も、常に変化していく言語に対応していくことを求められる繊細な仕事です。翻訳者もまた、プロとして生き残るには、言葉とともに「成長」していかなければならないのです。 今回は、フリーランスや企業専属の翻訳者が実際に行っている、翻訳スキルを向上させるための5つのヒントを紹介しましょう。 1 対象となる外国語を読む 最新の情報や表現を取り入れ、文脈や意味を確実に伝える訳文を作成するために最も重要なことは、対象となる言語の文章をできる限り多く読むことです。辞書は拠り所であり、頼れる友人である、くらいの気構えが大切でしょう。可能な限り眺めて、語彙を増やすことが重要です。 ただし、辞書だけでは最新の知見を取り入れることはできません。新聞や雑誌、書籍などを読んで、対象言語や翻訳対象の分野における流行や出来事、文化や専門用語を一語でも多く吸収しましょう。既存の翻訳記事を原文と読み比べて、巧みな表現を習得するという翻訳者も数多く存在します。 2 ネイティブスピーカーと話す 対象となる言語のネイティブスピーカーと、できる限り多くの会話の機会を持ちましょう。実際に口にし、耳にすることで、言語への理解度はぐんと深まります。口語表現やスラング、言語独自の言い回しやタブーとされる表現、各単語に含まれる細かなニュアンスまでつかむには、その言語の「専門家」とも言えるネイティブと対話する以上によい方法はないでしょう。 3 専門分野を持つ 翻訳の仕事を長く続ける上で重要なのが、得意な分野を持つことです。医学系の翻訳に長けている、自動車関連の文書なら誰よりも詳しい、といった具合に(それを証明する学位や認定資格があればなおよし)。特定の専門分野を持っておけば、企業における複雑な文書や、専門家による論文といった内容でも対処することができ、仕事の幅がぐんと広がります。機械翻訳の進化が著しい今日においては、単純な内容の翻訳であればコスト削減のためにニューラル機械翻訳を利用した翻訳で補う、という選択が主流になってくるでしょう。機械が上手く翻訳できない専門知識を必要とする翻訳こそ、翻訳者に今後求められることと言えるかもしれません。 4 逆方向の翻訳にも挑戦する 例えば英語を日本語にする翻訳(英文和訳)に慣れている方は、日本語を英語にする翻訳(和文英訳)にも挑戦してみるとよいでしょう。二言語間の文法や構造、さらには各場面で好まれる単語や表現などを、より深く知ることができます。最近は、機械翻訳などで翻訳された文章の言語検証や、訳文の等価性の確認を目的とした逆翻訳(バックトランスレーション)の需要が増えています。日英・英日の双方向の翻訳ができるようになれば、仕事の数を増やすこともできるのです。 5 CATツールを使いこなす 翻訳の質を担保するのはもちろん人間ですが、訳の抜け・漏れやスペルミスなど、ヒューマンエラーも残念ながらつきものです。そうした細かなミスを防ぐ上で役に立つのが、CATツール(Computer Assisted Translation…

翻訳業界の黒船 ニューラル機械翻訳

グローバル化が進み、多言語への翻訳、しかもタイムリーでコストパフォーマンスのよい翻訳のニーズが高まる中、どうしたら品質を保ちつつ短時間でコストを抑えた翻訳ができるのか、といった点が課題となってきました。これを解決すべく登場したのが、IT技術を活用した機械翻訳です。翻訳者による翻訳はもちろん高品質ですが、どうしてもそれなりの時間と費用を要してしまいます。一方で機械翻訳だけに頼れば、作業スピードは上がりコストを抑えることができますが、品質面では懸念が残ります。 そこで、今注目されているのがニューラル機械翻訳です。ニューラル機械翻訳を用いると文書を素早く翻訳することができるだけでなく、その訳文も内容によっては翻訳者が翻訳したかのような出来栄えと言われています。グローバル社会にインパクトを与えつつある、このニューラル機械翻訳(NMT)とはどのようなものかご紹介します。 ■ 機械翻訳の歴史とニューラル翻訳 まず、機械翻訳の歴史を振り返っておきたいと思います。機械翻訳の概念が初めて提唱されたのは17世紀にまでさかのぼると言われています。ただし、本格的な研究は1950年代に入ってから米国政府によって始められました。1970年代になると、翻訳元、翻訳先の言語の文法規則にもとづくルールベース翻訳が登場し、さらに統計的機械翻訳が生み出されました。統計的機械翻訳は、あらかじめ用意された学習用のテキストデータから統計モデルを構築し、翻訳を行うものです。そして、2014年にまったく新しい手法として登場したのが、ニューラル機械翻訳です。 ニューラル機械翻訳とは、人間の脳神経回路が情報伝達を行う仕組みをまねたもので、人工的なニューラルネットワークが情報を収集して自ら学習しながら、単語の意味として正しい可能性の高い訳語を当てはめていくものです。ひとつひとつの単語を訳していくのではなく、原文全体をひとつの固まりとして捉えて訳していくため、より自然な訳文を生成することができます。 ニューラル機械翻訳は翻訳のプロセスにおいて、エンコードとデコードと呼ばれる2種類の分析を行っています。エンコードの段階では、原文を取り込み、実数値であるベクトルに変換していきます。その際、文脈上の意味が似ていると判断した単語を、同じベクトルに分類します。次にデコードの段階では、変換されたベクトルに応じた翻訳先の言語に変換していきます。つまり、ニューラル機械翻訳は単語やフレーズを単純に翻訳先の単語に置き換えていくのではなく、文脈や文意を翻訳しているのです。 ■ ニューラル機械翻訳の特長 ニューラル機械翻訳の特長には以下のようなものがあります。 ・統計的機械翻訳から生成された言語規則を人工的なニューラルネットワークが自律的に学習するアルゴリズムを採用している ・フレーズにとどまらず、文章全体を考慮する ・言語の持つニュアンス、語尾変化や敬語、男性/女性名詞を学習する これらの特長を有することにより、統計的機械翻訳と比較して、語順、構文エラーといった問題が発生しにくく、また、韓国語や日本語、アラビア語といった文法が難解だとされる言語にも適切に対応できるとされています。 ■ ニューラル機械翻訳の活用 ニューラル機械翻訳の利用は、今後ますます多くの業界に広がることが予測されます。それにより、例えば、eラーニングプログラムでの学習をスムーズにすることや、国際会議でのプレゼンテーションやテレビ会議でのコミュニケーションにおいて言語の障壁を取り除くことが可能になります。また、旅行業界やECサイトであれば、世界中の顧客からの問い合わせに効率よく対応することができるようになるでしょう。翻訳業界でも、高品質の翻訳を迅速に提供する手法のひとつとして検討することができます。 非常に有用なニューラル機械翻訳ですが、その翻訳プロセスの構造上、訳抜けが起きることがあり、訳文が自然であることから、統計的機械翻訳に比べて訳抜けに気づくことが難しいという難点もあるようです。とはいえ、グローバルでのコミュニケーションにおける機械翻訳のニーズは高まるばかりです。ニューラル機械翻訳の今後のさらなる精度向上が期待されます。…

翻訳の質の数値化は可能か?~比較ポイント解説~

翻訳を依頼する際、翻訳の質を数値化して横並び比較できたらわかりやすいのにと思ったことはないでしょうか。一見、便利そうですが、本当に可能なのでしょうか。以前にも取り上げたこの話題ですが、何が数値化できて、何が数値化できないのか、再度整理してみます。 ■ 数値化できること 「単純な話、納品された訳文の中で間違っている箇所をカウントすれば、質の数値化になるのでは?」と考える方は少なくないかもしれません。間違いの少ない訳文=質の高い訳文である、と。もちろん、間違える頻度には程度の差がありますが、すべてをただカウントしたのでは質の数値化とはなりません。頻度と合わせて、間違いのレベル(重大度)も考慮する必要があります。例えば、 高: 完全に意味を取り違えている誤訳で、誤訳によって読み手の文章の理解を著しく妨げ、ひいては発注者が損害を被るリスクが高いもの 中: 発注者の評判を損ねる、もしくは読者が理解しづらいと感じる可能性があるもの 低: 間違ってはいるものの、「高」や「中」に分類されるほどの影響はないもの(スペルミスなど) といった具合です。間違いレベルが高いもののほうが、翻訳の質が低くなるわけです。レベルに応じて「高」の場合は「10」、「中」の場合は「5」、「低」の場合は「1」というように点数の重みづけをし、訳文に含まれる間違いに点数を付け、すべてを合計すれば、訳文の「ダメ度」を点数化することができます。もちろん、文章が長ければ長いほど、間違いが起きる頻度は高くなりますから、訳文全体の単語数を分母として間違いの点数の割合を出せば、ボリュームの異なる訳文でも公平に比較できるようになります。 つまり、訳文の間違いについては数値化による比較が可能と言えるでしょう。 ■ 数値化できないこと 次に数値化できないことを見てみます。注意すべきは、「ダメ度」の数値が同じ訳文=同じ品質、と言えないということです。例えば、複数の翻訳会社を比較するために、共通の原稿の翻訳を依頼したとしましょう。間違いの数とレベルに順じたスコアを見てみると同等だったとしても、内容を見てみると、A社は同じ単語で軽微な翻訳ミスを繰り返し、B社は一か所のみ、重大な誤訳をしていた……。スコアは同じであるものの、両社の翻訳の質が同じだと判断できるかは、賛否が分かれるところでしょう。もう一つ、別の例を紹介します。仕上がった訳文を比較してみると、A社は比喩の多い読みごたえのある文章で、B社はいたって平易でわかりやすい文章だった……。この場合はどうでしょうか。こうなるともはや、発注者の好みによって判断されるとしか言いようがありません。 もちろん誤訳は許されませんが、許容される「間違い」レベルは、大まかに内容をつかみたい文書であれば大目に見ることができるでしょうし、場合によって異なります。原文の内容や訳文の使用方法(目的)、対象となる読者によって、考慮すべき要素は変わってきます。判断基準そのものが確定していない要素については、数値化することができません。 このように見ていくと、翻訳の質を数値化することは難しいようですが、押さえておくべきポイントはあります。 文法のミス・スペルミス/誤記 訳文における文法のミスやスペルミス/誤記は、翻訳の質を測る上で有意義な指標になるでしょう。こうしたミスは訳文の理解に重大な影響を与えるものではない場合が多く、数値化できたとしても目立つことはありません。しかし、これらのミスはチェックをすれば簡単に発見し、修正できる初歩的なミスです。よって、このようなミスが頻出する訳文は、やはり品質が低いと見なすべきでしょう。 用語の使い方…

世界でビジネスを成功させるにはローカライズが不可欠

世界中で40億人がインターネットを利用しているといわれる今日。ビジネスに関する情報を世界に効果的に届ける方法を考えてみましょう。 ■ ローカライズはなぜ必要? 各国にはそれぞれの文化があり、使っている言語も異なります。例えばあなたが、インターネットで新たな家電製品を探しているとします。仮にある製品に興味を持ったとしても、そのウェブサイトやバナー広告が母国語ではない言語で書かれていたら、クリックして詳しく内容を見たいと思うでしょうか。そこにはまず、言語の壁が立ちはだかります。 文字情報だけではありません。国によって、デザインや色調、イラストなどの視覚情報の好みが大きく異なることも、消費者の興味を削ぐ原因となりえます。普段見慣れているデザインや色使いが全く異なるウェブサイトやバナー広告を見つけた場合、なんとなく違和感を持って敬遠してしまうことも多いのではないでしょうか。 母国でヒットしたものが他の国でそのまま受け入れられることは、実は多くありません。海外進出に成功しているビジネスは、その土地に合わせてローカライズした製品やサービスを提供することで、市場への浸透を図っています。その際、ローカライズするのは製品やサービスだけでなく、マーケティングのための広告なども、その地域に合うコンテンツを用意しています。実際、モバイルで広告出稿をする際、閲覧者の居住地域に応じて異なるコンテンツを配信するジオターゲティング広告の出稿費は確実に増えており、2016年の330億ドル(約3兆6,300億円)から、2021年には720億ドル(約7兆9,200億円)にまで増大するという予測もあるほどです。 ■ ローカライズの対象は? ビジネスを海外に展開する際に欠かせないローカライズ。では、ローカライズすべきデジタル媒体とは、どのようなものでしょうか。 ・ウェブサイト EC(electronic commerce、電子商取引)サイトの場合、ウェブサイトが母国語になっているほうが購買しやすいというデータがあります。実際、インターネットユーザーのうち、72%は母国語のウェブサイトの利用を好むというデータもあります。ローカライズをする際には、コンテンツを正しく翻訳することはもちろんですが、対象地域に合わせたデザインや色使い、イメージ画像、よく使われる表現への置き換えなどを通じ、現地のユーザーに親近感を持ってもらうことが重要です。 ・アプリ 2017年時点でAndroid、iOSで利用できるアプリの数は570万にものぼります。数あるアプリの中からダウンロードし、利用してもらうためには、現地のユーザーから見た時にアプリのネーミング、アプリの紹介文、ユーザーインターフェースがわかりやすいことが重要です。ちなみに、世界全体でのアプリ経由での売上は、2015年に697億ドル(約7兆6,700億円)だったものが、2020年には1,889億ドル(約20兆7,800億円)にまで増大するという予測があります。アプリのローカライズは、マーケティングの中でも重要な要素と言えます。 ・ソフトウェア CMS(content management…

「専門性のある」翻訳者になろう!

をする際に、翻訳者に求められることは何ですか?」――。 この話題になると、必ずと言っていいほど挙がるのが、「翻訳する言語と翻訳する先の言語双方にネイティブレベルの流暢さがあること」、「双方の言語を使用する国の文化をよく理解していること」ではないでしょうか。しかし、翻訳する文書が専門性の高いものである場合、これだけでは足りません。もう一つ求められるのが「該当する分野の専門性を有していること」です。今回は、これがなぜ必須だと言われるのかに迫ります。 ■ 「専門性がある」ってどういうこと? そもそも「専門性がある」というのは、どういう意味でしょう。これは、翻訳者が、翻訳する文書の内容に関する専門知識を持っている、という意味です。例えば、英語で書かれたアメリカの法律文書を日本語に翻訳する際、アメリカの法制度と日本の法制度の知識を持っていなければ翻訳できません。あるいは、心臓疾患に関する医学論文を翻訳する際には、心臓学・循環器学の専門知識が必要です。分野ならではの用語を理解し、的確に翻訳できる能力は非常に重宝されます。その理由は後から見ていきましょう。 では翻訳者は、こうした専門性をいかにして手に入れることができるのでしょう。そのバックグラウンドから、大きく3パターンに分類することができます。ひとつは、該当する分野の修士号・博士号などを取得し、学問としての専門知識を習得している場合です。もうひとつは、該当する分野での実務経験があり、定年などの理由で実務から退いた後、翻訳に携わっている場合。そして最後は、該当する専門分野で実務を行いながら、その傍らで翻訳を手がける場合です。特に、3つ目にあげた翻訳者は、専門分野に関して強みを持っていると言えるでしょう。まさにその専門分野の現場で働いているため、その分野を取り巻く環境や最新の技術、トレンドなどを最も身近に感じているはずです。 ■ 専門知識はなぜ重要なのか では、なぜ専門分野の知識が必要で、またどのような点で翻訳に生かすことができるのでしょうか。 まず、専門分野の知識があると、専門用語を正しく翻訳することができます。専門性の高い学術論文などは、極めて高度な専門用語を使って書かれています。これを平易な単語に置き換えて訳してしまった場合、そもそも論文の著者の意図を的確に伝えることができなくなってしまうだけでなく、そもそも著者の専門性が低いようにも捉えられてしまう危険があります。 また、専門分野の知識があれば、記号や略語も正しく翻訳することができます。専門分野にはその分野固有の用語体系や略語、記号などがあります。これらは分野が異なれば、使い方も異なります。したがって、該当する分野を専門としていない翻訳者が訳した場合、まったく意味が異なった訳文になってしまう恐れがあります。著者や読者と同じレベルの専門知識を有していない翻訳者が翻訳を行った場合、専門性の高い文書は得てして正確に翻訳されず、高い確率で読者が意味をはき違えてしまうことになりかねません。これは、法律文書や医学論文などに限りません。ビジネスにおける契約書も、商慣習の違いから国によって解釈が異なることが多く、翻訳者には深い理解と知識が求められます。 ■ どうやって専門性を高めるか? 原文の意図を正確に把握できなかった結果、翻訳の修正を繰り返す……。こうしたケースは、決して珍しくありません。翻訳者が専門性を有していないということは、依頼者の時間を奪うばかりか、プロジェクトやビジネスの妨げにすらなりかねません。どの分野においても、その分野を取り巻く環境や技術は日々進化し、新たな発見によって常識とされていたことが覆ることもあります。情報収集を怠れば、文書の意図やニュアンスを正確にくみ取った翻訳をすることは難しくなるでしょう。該当する分野で実務を行っていない翻訳者であればなおさらです。翻訳者には、日々専門性を高める努力、最新情報に常にキャッチアップしていく姿勢が求められるのです。 こんな記事もどうぞ ユレイタスアカデミー:実務翻訳の特徴とは?

ローカライズは内製すべき?外注すべき?

いざ海外展開をしようと決めたら、自社製品やサービス、ウェブサイトなどマーケティングに利用する資材や広報用ツールを、展開先の言語に合わせて翻訳する「ローカライズ」が必要になります。このローカライズを社内で行うべきか、翻訳会社に依頼すべきか、は悩ましいところです。判断を迫られた時、社内にローカライズのナレッジや品質管理をするための人・ツールが整っていなければ、外注したほうがよいのではないかと考える方も多いでしょう。実際、どちらを選択するかは組織の環境や目指すところによって変わってきます。具体的にどのような観点で検討すべきなのか見ていきましょう。 ■ 品質管理 社内でローカライズに取り組もうとすると、当然ながら、限られた人員でローカライズに対応することになります。内製の場合のメリットは、ローカライズを行うのが社内の人員であるため、自社製品や業界用語、社内用語などについて深い知識を持っており、翻訳を行う際に適切な用語の選択ができる点です。ただし翻訳する際には、対象となる言語の文法や言い回し、あるいは媒体によって表現を変える必要もあります。例えば、ウェブサイトなのかアプリなのか、オンラインヘルプなのか技術マニュアルなのかといった違いに対応していく必要があるということです。 デメリットとしては、よほどローカライズに慣れている担当者でない限り、言語ごとに対応することが難しい点です。まして、多言語となったら……。対応できるにしても多大な時間がかかる可能性もあります。翻訳会社であれば、ローカライズのナレッジを有する翻訳者が対応するため、適切な翻訳を短納期でできる可能性が高いと言えるでしょう。 ■ プロジェクトマネジメント 内製の場合、ローカライズに関わる翻訳者は、その企業・組織の方針や戦略をよく理解しています。企業・組織の方針をローカライズ・プロジェクトに反映しながら、工程をコントロールする権限も与えられています。ただし、権限があったとしてもプロジェクト管理に長けているかどうかは別の話です。また、展開先が複数の地域にまたがる場合、数々の言語に対応することが難しい場合もあります。 一方、翻訳会社に外注するのであれば、多くのローカライズ案件を手がけているプロジェクトマネージャーが専用の工程管理ツールや翻訳支援(CAT)ツールを使って管理するため、確実な進行ができ、言語が複数になっても各言語に対応する翻訳者を起用することができます。 ■ コスト 内製の場合には、社内のリソースで対応するため、外部に支払うコストは発生しません。たとえスケジュール通りに進まず作業期間が延長したとしても、翻訳テキストに変更が生じたとしても、内製であれば、調整すれば済むことです。これは大きなメリットと言えるでしょう。とはいえ、ローカライズの業務量は一定ではなく、常に変動します。大量の作業が必要な時もあれば、少ないタイミングもあるので、作業に投入する人員の調整は必要でしょう。人件費を適切な額に抑えるべきだからです。逆に、業務量が急増して社内の翻訳者では対応できない場合や、内部処理できない言語へのローカライズが必要となった場合には、外注もやむを得ません。 また、社内でローカライズする場合、翻訳のナレッジは社内で蓄積していくことができる一方で、ローカライズのためのツールを導入する必要があります。需要に応じて外注すれば、人の調整やツールへの投資は必要ありません。 ■ どちらがよいかを判断するには…… 社内でローカライズに対応する内製には、適切な社内用語や業界用語をもって翻訳ができる、社内の方針に応じてプロジェクトを進行できる、外部委託費を支払う必要がない、ナレッジを社内に蓄積できる、といったメリットがあります。一方で、多言語および多種多様な書式や用途に対応するために時間がかかる、閑散期でも人件費が固定費として発生し続ける、内製でまかなえない場合が生じる可能性もある、翻訳のためのツールへの投資が必要、というデメリットが考えられます。 例えば、ローカライズのプロジェクトマネジメントに長けている人材が社内にいる、適量のローカライズ作業が継続的に発生する、といった状況であれば、内製で対応することは、外部とのコミュニケーションの手間も省け、効率がよいと言えるでしょう。しかし、内製だけで対応できるかどうかは、事業計画や業務量などの分析に基づく冷静な判断が必要です。 一方の外注をする場合でも、信頼できる翻訳会社を慎重に選択し、自社製品またはサービスの内容をきちんと翻訳してもらうためのコミュニケーションをとることは不可欠です。…