クラウドファンディングやサポーター制度などを通じ、開かれた学術業界の実現を目指すアカデミスト株式会社が2021年より行っている若手研究者向け研究加速プログラム「academist Prize」。第5期のファイナルイベント『基礎研究で世界を変える。若手研究者たちの1年とこれから』が2026年8月26日(水)に、東京・大手町のInspired.Labで開催され、Zoomでも生配信されました。このイベントにエナゴが現地参加しました。
サイエンスコミュニケーターで「academistアンバサダー」の佐伯恵太進行により、前半では「academist Prize」5期生8名が1年間の集大成を発表するプレゼンテーション、後半では早野元詞さん(東京理科大学 / ASAGI Labs)と杉原淳一さん(株式会社バイオインパクト)によるパネルディスカッションが行われました。
academist Prize第五期生によるプレゼンテーション
各発表者に割り当てられた時間は5分。その中で1年間のプログラムの成果や反省点、今後の展望が語られ、そして参加者との質疑応答が行われました。
- マラリアワクチンの開発研究を行っている山本祐太郎さんは、今回のクラウドファンディングを通じて、すでに完成しているワクチンの実用化に向けた取り組みを進めてきました。ブラジルの研究者との現地での共同研究の準備を進めながら、海外の国際学会で口頭発表を行ったほか、インドネシア大学に赴いて臨床応用について協議をするなど、さまざまな成果につながったといいます。今後は再びブラジルを訪れ、日本には生息しない蚊のサンプルを収集し、ワクチンの有効性についてさらに検証を進めていくとのことです。
- 内分泌内科で甲状腺疾患の診療に携わり医療格差の解消をテーマに研究を進める高橋佳大さんは、超音波検査の画面をスマホ撮影することにより数秒以内に甲状腺腫瘍の可能性を判定するソフトを開発しました。1人の内科医が全住人を診療しているような地域では高額な超音波診断装置の導入が難しい場合がありますが、そうした地域において、ポータブルデバイスに低コストで導入できるこの技術には、今後大きな期待が持てるといいます。
- 「こころの時間」を研究する西本翔裕さんと、意識の謎と超知能の安全リスクという2つの課題に取り組む高槻瞭大さんのプロジェクトのテーマは「AIに意識があるのか」です。ふたりは意識研究者を集めたYouTubeでの情報発信や、「システム行動学研究会」での発表など、まずはAIと意識について考える研究コミュニティの存在の周知活動に取り組みました。今後は、この活動をさらに発展させ、将来的には起業も視野に入れながら取り組みを続けていくとのことです。
- 助教、農業普及指導員として4年間、生産現場に携わった経験を持つ富永晃好さんは、地球温暖化により梨の花が咲きにくくなる「眠り症」の課題に取り組んできました。その中で発見したのが開花・発芽促進物質(休眠打破剤)「物質X」で、現在この「物質X」を安定して効果を発揮できるよう配合した製品を開発しています。この製品は、さまざまな植物での効果が確認されており、市場規模の大きいバニラビーンズを第一のターゲットに事業化を進めているとのことです。
- 楽器メーカーで木管楽器の開発に従事しながら、大学院で研究を行う枝美穂子さんは、材質によるフルートの音質の違いを学術的に検証してきました。メーカーが製品価値のひとつとして打ち出す素材の銀や金は、一方で、楽器の価格と演奏への挑戦のハードルを上げてしまいます。こうした現状を踏まえ、素材と音質の実際の関係を明らかにするため、枝さんは、この1年間にフルート奏者15名の演奏を異なる条件下で複数回録音し、その音響分析を行うなどの実証を行ったということです。また、活動を通じてさまざまな研究者と出会えたことが、自身の研究を続ける原動力にもつながったといいます。
- 昆虫の意思決定や認知的行動を研究する納富祐典さん、動物の神経機構について研究する山ノ内勇斗さん、昆虫の行動・学習・進化について研究する浜道凱也さんが立ち上げた「システム行動学研究会」が目指すのは、研究者、企業、市民が「分野や立場の垣根を越えて集まり、動物行動について語り合える場を作る」ことです。今回のクラウドファンディングを通じて開催した「第2回システム行動学研究会」には企業3社が協賛し、150名の参加者と50件の公募ポスターが集まりました。活動を通じ、異分野交流における刺激や対話の重要性を実感したといいます。今後、こうした交流の場を国内にとどめず、国際学会にも広げていくことを視野に入れているそうです。
- 教育現場と基礎研究の橋渡しに取り組む大谷康太さん、クオリアや意識の発達を研究する渡部綾一さん、他者との関わりによる認知発達を研究する山本希さん、身体運動に伴う実行機能向上のメカニズムを研究する桑水隆多さんは、「乳幼児の内なる世界を読み解く」研究に取りみました。3歳児には難しい「心の中で数を数えること」が5歳児になるとできるようになることを特殊なタスクを開発して明らかにするなど、多くの成果をジャーナル等で発表してきました。動物実験と同じ条件を乳幼児や発達障害のある子どもに適用することは倫理的に難しいため、今後はより負担の少ない方法で研究を進めていくことが課題であるとのことです。
- 化学産業での健康被害や環境汚染を引き起こす有機溶媒の代替として、環境・健康への負荷の少ないグリーン溶媒の利用を拡大させることを課題とする山田大夢さんは、この1年の活動の中で、自身の研究テーマが支援者たちにとってもまだまだ身近ではないことに気づいたといいます。また、溶媒を扱う化学企業の担当者たちとの対話の中で産業界のリアルなニーズについての気づきを得られたほか、哲学やAIなど、異分野の専門家との思わぬつながりも生まれ、今後の活動の幅を広げる機会となったとのことです。
「基礎研究を支える仕組みをつくる」パネルディスカッション
後半には、「基礎研究を支える仕組みをつくる」をテーマに、早野元詞さん(東京理科大学 / ASAGI Labs)と杉原淳一さん(株式会社バイオインパクト)によるパネルディスカッションが行われました。大学の外に研究継続の場をどう作っていくかについて、ASAGI Labsの実践を手掛かりに、研究者と企業の視点から議論がなされました。
財団法人、株式会社、ベンチャーキャピタルを立ち上げ、目的によって法人を使い分ける早野さんからは、民間財源の潤沢でない日本において活路となりうるのが「ふるさと納税」と「遺贈」だという意見が上がりました。一般人が応援したいと思える研究を応援できる仕組み作りです。また、研究者としての立場で資金集めに必要なスキルは、自分の研究を分かりやすく相手に伝える能力だということも、実体験を交えて述べられました。研究資金の多様化が求められる今のアカデミアにとって示唆的な、ハイブリッドな視点が印象的でした。
研究支援エナゴ賞
ファイナルイベントでは、「研究支援エナゴ賞」を発表させていただきました。
本年度は、研究活動に加え、動物行動学の研究力を底上げする仕組みづくりや、分野の垣根を越えて動物行動について語り合える場の創出に尽力されている納富祐典さん、山ノ内勇斗さん、浜道凱也さんの3名を選出させていただきました。
アカデミスト柴藤さんによる振り返り
最後に、アカデミスト株式会社代表の柴藤亮介さんより、academist Prize第5期の1年間の総括が行われました。
柴藤さんは「基礎研究で世界を変える」というフレーズを今後も毎年掲げていきたいといいます。公的資金による研究では、実現可能性を強く求められるあまり、大きな構想をいつも描けるわけではない。だからこそ、まずは研究者自身が柔軟にゼロベースで発想し、あえて大きく風呂敷を広げられるようにして、より多くの人を巻き込むきっかけをつくりたい。そんな思いがこのフレーズに込められているそうです。そして今回のプログラムでも、挑戦者たちはクラウドファンディングを通じて自身の研究を伝えるスキルを磨き、仲間を集め、周囲を巻き込みながら研究を前進させることができたと総括しました。
academist Prize第5期のプログラムは終了しましたが、挑戦者たちの研究とサポーターたちとのつながりは続きます。そして、academist Prize第6期のプログラムも始まっています。研究支援エナゴでも、引き続きVision Sharing Partnerとしてプログラムに参加してまいります。