各大学の研究室に訪問し、研究者たちにおける英語力向上の可能性を探るインタビューシリーズ。一回目は大妻女子大学の生田茂教授にお話を伺いました。インタビュー前編ではご自身の苦い経験を踏まえながら、学生や若手研究者がどのようにして英語での論文執筆力を鍛えるべきかを語ってくださいました。 ■研究室で扱っている専門分野、研究テーマを教えてください。 「発語がなく、自分の思いを相手に伝えることが難しい児童生徒が、自分の思いをクラスメイトや周りの人たちに伝えることができるようになる」。こんな「今まではできなかったことをできるようにする」取り組みを実現しようと頑張っています。もともと計算化学の研究を行っていましたが、東京都立大学工学研究科から筑波大学人間総合科学研究科教育学類(附属学校教育局勤務)への異動を機に、附属学校(主に特別支援学校や総合学科の高校)を回りながら学校の先生のお手伝いをする中で、研究分野を理学から教育へと変えました。今も、児童生徒一人ひとりの“困り感”に寄り添いながら、その困り感を軽減するために、合理的配慮指針の基づいた教材や教具を手作りし、自立活動や学習支援の活動を行っています。 研究室では、学生とともに、通常学校の子どもたちを含めた一人ひとりの児童生徒の困り感に寄り添いながら、その軽減を目指した手作り教材の開発を行っています。最近学生や学校の先生とともに開発した教材には、「障害を持つ児童の語彙の獲得を目指して、絵カードや文字カードにドットコードを被せ、音声ペンで触ることでリンクしてある音声が再生される教材」、「音声ペンやスキャナーペンを用いて、音声や動画で多摩動物公園や高尾山を学ぶ教材」、「小学校の外国語活動用の教科書、”Hi, friends!” のネイティブな発音を音声ペンで学ぶ教材」、「”Hi, friends” の各ページのネイティブな発音を iPad の画面をタッチして学ぶ電子書籍」などがあります。ドットコードを開発した企業と協力して独自のアイコンシールを作成し、音声ペンとともに学校の先生に貸与することで、学校の先生が特別なソフトやハードウエアを購入することなく、一人ひとりの児童生徒の困り感に対応した手作りの教材を作れる環境を提供しています。市販の教材を購入するのではなく、自分のクラスの児童生徒一人ひとりの顔を思い浮かべながら、合理的配慮指針に基づく手作りの教材を作ることにこだわり活動しています。 ■英語論文の執筆や学会発表、共同研究などの場で、英語で苦戦した経験はありますか? いくらでもあります(笑)。「星間分子の理論的な予測」を自分の専門としていた頃は、「精密な計算を行い、実験グループと協力しながら、いち早く海外のジャーナルに論文として出版する」ことに夢中でした。「教育」が自分の専門となり、この研究スタイルは大きく変わりました。発語のない生徒との長期にわたる取り組み、そして、そこで起こる生徒の変容を丁寧に追いかける、まさに地道な研究となったのです。英語の論文を書く上では、使う専門用語もスタイルも大きく変わってしまいました。まさに、右も左も何もわからない初心者としての再出発となりました。 「子どもが変わった」という結論だけでは、研究者や学校の先生にとっては何一つ有用な情報にはなりません。「発語がなく、自分の意思を伝えることができなかった児童生徒がどう変わったのか、変わるきっかけとなった出来事は何だったのか。その出来事はどうやって起こったのか、そして、その後どうなったのか」などを丁寧に記述することが求められます。本当は、児童生徒のこうした一連の変容をビデオで見ていただくのが一番なのですが(笑)。 海外での学会発表においては、「伝えたいことを英語で伝えられないもどかしさ」をいつも感じています。学会発表後のディスカッションで、「お前のやっていることは全部iPadでできるよ」というコメントをもらったことがありました。私たちは、実物のコップにドットコードを被せたアイコンシールを貼り、ペンで触ることで「コップ」と音声が再生される、というような本物にこだわっています。iPadにコップの画像を表示させ、タッチすると「コップ」と発音させることはできますが、私たちは本物にこだわりたいのです。しかし、プレゼンの会場で質問されると、こうした自分たちの本当の思いや願いを英語で、即座に、正確に、伝えることがなかなか難しいのです。 ■学生や若手研究者は、どのようにして英語での論文執筆力を鍛えるべきだと思いますか?…
2016-04-28