剽窃盗用チェックツールはどこまで信頼できるか

学術研究における誠実性(Academic integrity)は重要です。研究者は、科学研究の発展を促進する独自性のある発想や研究成果を示すことで学術界に貢献することが求められていますが、同時にその研究が信頼に足るものであることを示すため、不正を疑われる行為は避けなければなりません。 研究不正にはいろいろありますが、対策の一環としてできることのひとつに、学術論文の剽窃・盗用などを事前に検知することが挙げられ、盗用・剽窃検出ツールを導入する学術雑誌(ジャーナル)が増えています。 盗用・剽窃チェック(plagiarism detection)ツールの過剰依存は問題 盗用・剽窃チェックツールとは、投稿論文の中に剽窃または盗用が疑われる内容が含まれているかどうかを確認するものです。とはいってもツールの利用は一長一短です。盗用・剽窃チェックツールに頼りすぎた査読により投稿論文が却下(リジェクト)された経験を持っている研究者もいることでしょう。ベルリン技術経済大学(HTW Berlin)のDebora Weber-Wulff博士は、学術ジャーナルの編集者は、自ら注意を払うことなく盗用・剽窃ツールの報告に依存しすぎると問題視しています。別の意見(セカンドオピニオン)を参照することが少ないとの指摘もあります。 Weber-Wulff博士は、盗用・剽窃チェックの報告書の解釈は時として難しく、不正確であることすらあると述べています。明確に文脈を理解すること抜きに論文の「斬新さ」あるいは「独自性」を評価するのは難しいものです。しかも、チェックツール(ソフトウェア)は、翻訳箇所や複数から取得した情報の剽窃を正しく検知できません。もうひとつ、チェックツールが単純な言葉の重複を剽窃と判断する場合があることも覚えておくべきでしょう。これはチェックツールが別々の論文原稿に書かれている3~5の文字列を検索していることで起こりえますが、逆に本来見つけ出すべき盗用・剽窃箇所を見落とし、正当な判定が出ないこともあり得えるのです。 人の目によるチェックの重要性 盗用・剽窃ツールを使っても、発想段階での盗用を検出したり、内容を特定することなしに既存の発見かどうかを判定したり、または許可なく転用された図表やデータを指摘することは不可能です。しかし、このような不正であっても、論文を注意深く読み、論文全体の整合性を確認する人(編集者)であれば見つけ出すことは可能です。 フランス国立科学研究センター(CNRS)の行動科学者Jean-François Bonnefon氏は、盗用・剽窃ツールに論文をリジェクトされてしまいました。彼が投稿した論文がリジェクトになった理由は、研究内容ではなく、方法や参考文献、著者略歴に対する指摘によるもので、これはソフトウェアによる重大な評価ミスであり、編集者が論文を見ればすぐに間違いであると分かるはずのものでした。にもかかわらず、人の目が介在しなかったために、彼の論文はリジェクトされてしまい、これは明らかに盗用・剽窃チェックツールの限界を示す事例だと述べています。人(編集者)を介在させないということは、アルゴリズムに依存するツールに判断を委ねることになってしまうのです。同様の事例は、他にも報告されています。 よく使われている盗用・剽窃チェックツール 現在、学術ジャーナルでよく利用されている盗用・剽窃チェックには4種類あります。それぞれ独自の特性を有していますが、限界があることは頭に留めておくべきです。…

剽窃盗用チェックツールはどこまで信頼できるか

学術研究における誠実性(Academic integrity)は重要です。研究者は、科学研究の発展を促進する独自性のある発想や研究成果を示すことで学術界に貢献することが求められていますが、同時にその研究が信頼に足るものであることを示すため、不正を疑われる行為は避けなければなりません。 研究不正にはいろいろありますが、対策の一環としてできることのひとつに、学術論文の剽窃・盗用などを事前に検知することが挙げられ、盗用・剽窃検出ツールを導入する学術雑誌(ジャーナル)が増えています。 盗用・剽窃チェック(plagiarism detection)ツールの過剰依存は問題 盗用・剽窃チェックツールとは、投稿論文の中に剽窃または盗用が疑われる内容が含まれているかどうかを確認するものです。とはいってもツールの利用は一長一短です。盗用・剽窃チェックツールに頼りすぎた査読により投稿論文が却下(リジェクト)された経験を持っている研究者もいることでしょう。ベルリン技術経済大学(HTW Berlin)のDebora Weber-Wulff博士は、学術ジャーナルの編集者は、自ら注意を払うことなく盗用・剽窃ツールの報告に依存しすぎると問題視しています。別の意見(セカンドオピニオン)を参照することが少ないとの指摘もあります。 Weber-Wulff博士は、盗用・剽窃チェックの報告書の解釈は時として難しく、不正確であることすらあると述べています。明確に文脈を理解すること抜きに論文の「斬新さ」あるいは「独自性」を評価するのは難しいものです。しかも、チェックツール(ソフトウェア)は、翻訳箇所や複数から取得した情報の剽窃を正しく検知できません。もうひとつ、チェックツールが単純な言葉の重複を剽窃と判断する場合があることも覚えておくべきでしょう。これはチェックツールが別々の論文原稿に書かれている3~5の文字列を検索していることで起こりえますが、逆に本来見つけ出すべき盗用・剽窃箇所を見落とし、正当な判定が出ないこともあり得えるのです。 人の目によるチェックの重要性 盗用・剽窃ツールを使っても、発想段階での盗用を検出したり、内容を特定することなしに既存の発見かどうかを判定したり、または許可なく転用された図表やデータを指摘することは不可能です。しかし、このような不正であっても、論文を注意深く読み、論文全体の整合性を確認する人(編集者)であれば見つけ出すことは可能です。 フランス国立科学研究センター(CNRS)の行動科学者Jean-François Bonnefon氏は、盗用・剽窃ツールに論文をリジェクトされてしまいました。彼が投稿した論文がリジェクトになった理由は、研究内容ではなく、方法や参考文献、著者略歴に対する指摘によるもので、これはソフトウェアによる重大な評価ミスであり、編集者が論文を見ればすぐに間違いであると分かるはずのものでした。にもかかわらず、人の目が介在しなかったために、彼の論文はリジェクトされてしまい、これは明らかに盗用・剽窃チェックツールの限界を示す事例だと述べています。人(編集者)を介在させないということは、アルゴリズムに依存するツールに判断を委ねることになってしまうのです。同様の事例は、他にも報告されています。 よく使われている盗用・剽窃チェックツール 現在、学術ジャーナルでよく利用されている盗用・剽窃チェックには4種類あります。それぞれ独自の特性を有していますが、限界があることは頭に留めておくべきです。…

日本の研究力低下を止められるか

2019年10月9日、テキサス大学のJohn B. Goodenough教授、ニューヨーク州立大学のM. Stanley Whittingham教授とともに、旭化成名誉フェローの吉野彰氏が2019年のノーベル化学賞を受賞され、日本中が喜びに沸きました。スマートフォンから電気自動車など、すっかり日常生活に溶け込んでいる製品にとって不可欠なリチウムイオン電池。この電池の開発で主導的な役割を果たした功績が称えられたわけです。 大変嬉しいニュースですが、喜んでばかりもいられません。日本のノーベル賞受賞数は、米国籍の研究者を含めて28人。化学賞に限っても8人が受賞しており、世界でも有数のノーベル賞受賞国となっていますが、将来この状況が続くとは期待できないと指摘されています。近年の受賞者を見てもわかるように、研究成果を発表してからノーベル賞受賞までにはタイムラグがあります。しかも、学術雑誌「Nature」の記事、または英国教育専門誌「Times Higher Education(THE)」の「世界大学ランキング」でも日本の科学技術力の劣化が示される中、受賞者だけでなく多くの研究者が研究力の強化と若手の育成が急務と指摘しています。 論文数減少 日本の科学技術力の低下が数字となって表れているものの一つが論文数の減少です。平成30年版「科学技術白書」で主要国における論文数の推移を見てみると、世界の論文数は増加しているのに対し、日本の論文数は減少。1990年代後半には横ばいとなり、2013年以降は減少に転じていました。国・地域別論文数では、論文発表数上位10か国・地域における日本の論文数は10年間で2位から4位に、被引用数Top10%補正論文数は4位から9位に転落しています。当然ですが優れた論文ほど引用される回数は多くなるので、論文数ともに被引用数が下がっていることも問題です。 予算削減の影響 これにはさまざまな原因が考えられますが、研究費の削減が科学研究を脆弱化させている一因と考えられています。2004年4月に国立大学の独立行政法人化が開始されて以降、研究活動の基盤となる運営費交付金、特に人件費が削減されたことで、教員や若手教員などの採用を抑制する動きが見られました。研究活動の基盤となる国立大学運営費交付金は13年間で12%(1445億円)減。長期的には、若手研究員の減少は研究力低下につながるとともに、任期付き雇用では落ち着いて研究ができない状況です。運営費交付金の減額をカバーするためとして、使途が決められている「特定運営費交付金」、または研究プロジェクトの費用が部分的に補助される「プロジェクト補助金」といった予算が計上されてはいますが、すべての国公立大学がこれらの競争的資金を獲得できるわけではないので、大学によってはどうにもならない状況に陥ってしまうのです。さらに競争的資金が増えても若手研究者の安定した雇用にはつながりません。このまま大学の予算が縮小すれば、ますます人件費は削減され、研究の継承や発展が困難となるでしょう。これが研究における支障となり、巡り巡って論文数の低下につながり、大学などにおける学術研究の根幹を揺るがす問題となってしまうのです。この状況を打開すべく、研究環境を改善し、科学研究を促進するための施策を見直すことが急務とされています。 大学だけではありません。The Japan TimesのOpinionに掲載された記事には、理化学研究所の研究機関への公的助成金が過去10年間で20%近く削減されたと書かれています。予算が削減された研究機関は、資金を確保するために国内外から資金調達をする努力を余儀なくされます。…

GRIMとSPRITE:論文のエラーを探すツール

あなたが優秀な若手研究員で、ある研究に日夜取り組んでいるとします。 作業の合間にちょっと一息と、自分と同じ研究分野の最新動向を検索し始めると、自分の研究によく似た論文に関する記事が目に留まりますが、その論文は研究不正を理由に取り下げられたとのこと。そのような記事を見てしまうと、自分の研究は大丈夫だろうか?同様に論文が却下される事態をどうすれば避けられるのか?などと不安になってしまうことでしょう。 研究不正と疑われることを防ぐ対応策のひとつとして、自分のデータはもちろん、引用する出版済み論文のデータの正確性についても確認しておくことが不可欠です。科学研究データの信頼性が揺らぐことで生じる「再現性の危機(replication crisis)」は、学術コミュニティにおいて大きな問題です。今回は、研究不正を防ぐのにも役立ちそうな研究論文のエラーを探し出すための2つの方法をご紹介します。 GRIM(グリム)とSPRITE(スプライト) 再現性の危機への認識が高まる中、2016年にポーランドのPoznań University of Medical Sciences のポスドク(当時)だったJames HeathersとオランダのUniversity Medical Center Groningen…

プランSの学術界への影響は⁈(1)

近年、学術界は論文のオープンアクセス(OA)化も含めたさまざまな変化に直面しています。かつては、ほとんどの研究者が学会に所属しており、自らの研究成果を提示する機会を学会に依存していました。学会の会合で発表したり、出版の誘いを受けて論文を投稿したりしてきたのです。しかし近年は、OAビジネスモデルに代表されるデジタル化の波により、学会の支配力は揺らいでいます。研究者は、学会に頼ることなく、多種多様な学術雑誌(ジャーナル)にいつでも、どこからでもアクセスできるようになっているからです。 新たな取り組み:プランS 2018年9月4日、欧州委員会(EU)と欧州研究会議(ERC)の支援を受け、欧州の研究助成財団・研究実施機関が加盟するScience Europeは、11の研究助成機関が助成した研究成果を完全かつ即時(論文発表直後)にOAにするためのイニシアチブ「cOAlition S」を開始すると発表しました。 発表時に署名した研究助成機関と国名 Austrian Science Fund (オーストリア)、French National Research Agency(フランス)、Science Foundation Ireland(アイルランド)、National…

査読レポートを書いているのは誰だ?

査読は科学研究の正確性や質を確保するプロセスです。優れた学術雑誌(ジャーナル)の多くには査読が付いており、投稿された論文が出版にふさわしいかどうかを判断しています。査読は、当該分野の知識を豊富に持つと学術界に認識されている研究者によって行われるべきです。査読者は投稿論文の正確性、明瞭さ、完成度をチェックし、その結果を査読レポートにまとめ、編集部に提出します。これは論文出版に向けた重要なステップです。査読レポートは、学術ジャーナル、論文執筆者の双方に対して偏りがないものでなければなりません。著者は、編集部から査読レポートを受け取り、指摘された箇所・内容への修正を行います。査読レポートに書かれた修正依頼に応じて原稿を書き直すことで、ジャーナルへの掲載が可能となります。最近では、この査読レポートを(著者以外も見られるように)公開する試みが行われており、話題となっています。 投稿論文が出版に値するかどうかを評価する方法として広く定着している査読ですが、そのプロセスの問題も指摘されています。そこにさらなる問題提起として、査読レポートを若手研究者が書いているという研究報告が出てきたのです。 若手研究員が査読レポートの執筆を? 2019年4月、ライフサイエンス分野のプレプリントリポジトリであるbioRxivに「Co-reviewing and ghostwriting by early career researchers in the peer review of…

論文の被引用数を増やす方法―研究者のための論文PRのコツ

論文での出典明記の大切さ 研究のPRの重要性 引用と参照文献について 自分たちのPR戦略はどの程度効果的か

研究の品質管理の重要性

品質管理により、科学研究の良し悪しに違いが生じます。では、研究における品質管理とは何でしょうか?答えは簡単です。研究室における「規準」を監視・維持することです。ここでは研究における品質管理がいかに重要かを見直してみましょう。 品質管理に関わる基準 品質管理とは、研究室内のあらゆる問題を見つけ出し、これによる影響を弱めて許容誤差範囲内に収めるよう、修正や調整、あるいは改善を行うことです。また、研究方法に一貫性があるようにしたり、実験結果の正確性を確保したりすることも含まれます。学術研究の品質には、正確性、信頼性、安全性、有効性など、さまざまな意味が含まれます。品質管理(Quality Control)と似ているものに品質保証(Quality Assurance)がありますが、この2つは品質マネージメント(Quality Management)の一環でありながら、若干意図が異なります。品質管理が、「どのように改善するのか」といった問題への対応として必要な変更を提案するための監視を行うプロセスなのに対し、品質保証は、適切な基準にのっとって研究が行われたか、品質管理における要求事項と結果を確かめるプロセスです。ただし、いずれも研究の「質」の確保に重要な役割を担うものです。 品質管理にあたって目安となる基準のひとつに、Good Laboratory Practice(GLP)があります。日本語では「優良試験所基準(規範)」や「優良研究所基準」などと呼ばれている、医薬品や医療機器、化学物質などの承認申請や登録申請のために行われる非臨床安全性試験実施に関する基準です。GLPは製薬会社の不正に対する査察を経て、米国医薬食品局(FDA)が定めた基準であり、該当する被臨床安全性試験データの信頼性の確保を目的として1979年から米国で適用されました。1981年に経済協力開発機構(OECD)がGLP基準を制定したことで国際基準として認識され、1982年には日本でもGLP基準が文書化、翌年から適用されています。さらに1997年には薬事法に基づいたGLP省令が定められ、その後も適宜改正されています。GLP省令には、「運営管理者は、試験施設の運営管理、計画書等や標準操作手順書(SOP)の作成・記録・保存を行う」といった基本的な事項から、生データの管理まで幅広く記載されています。他にもGood Manufacturing Practice(GMP)と称される医薬品及び医薬部外品の製造管理及び品質管理の基準などもあり、研究室の品質管理においてこれらの法的な基準(法令・規制要求基準)を満たすことも大変重要です。 品質管理のベスト・プラクティス 基準について把握できたら、次は実際の品質管理です。品質管理のベスト・プラクティス(模範的な活動)として参照になるのがLaboratory Quality Management(LQM)です。LQMは、研究室の活動の一貫性を阻害する要因を管理・制御する仕組みを組織内に実現するのに役立ちます。ほとんどのLQMは、国際標準化機構によって策定された試験所及び校正機関の能力に関する一般要求事項(General…

研究不正は筆頭著者の責任か?

研究不正は、学術界でよく議論される問題です。学術出版の不正がよく取り上げられますが、盗用・剽窃、ゴーストライターによる執筆、査読プロセスにおける問題など、不正の原因は多種多様です。しかし、すべてが研究倫理と研究不正がせめぎあっている状況を照らし出しています。研究不正は研究論文の撤回につながり、ひいては科学研究への信頼を損なうものです。 https://www.youtube.com/watch?v=EnXM-2EUPgg   ある研究には、大規模な臨床試験ではゴーストライターが当たり前になってきていると示唆されていました。ゴーストライターとは、研究に参加していても論文著者として名前が記されないまま研究・論文執筆を行う人です。他に、実際には研究にまったく関与していないにも関わらず名前が記載される偽の共著者(fake co-author)も問題となっています。名前が通った研究機関の研究者や、優れた出版実績を持つ研究者の名前を、共同研究者として加えているのではないでしょうか。 このようにオーサーシップ自体に関する不正問題が指摘される中、論文に不正ありとなった場合、誰が内容に責任を持つのでしょうか?名前が載った全員でしょうか?研究を行った研究チームの研究責任者でしょうか?あるいは、出版者?いろいろ考えられますが、筆頭著者(ファーストオーサー)に論文全体の責任があるとする研究が示されましたので紹介します。 筆頭著者の責任 オープン・アクセス(OA)の学術雑誌(ジャーナル)PLOS ONEに、2019年5月付けで掲載された論文は、筆頭著者に責任があるとの立場を示しています。この研究を行ったのはルクセンブルグ大学のKatrin Hussingerとルーヴァン・カトリック大学のMaikel Pellens。彼らが筆頭著者に論文全体の責任があるとした理由は何でしょうか?それは、US Office of Research Integrity(米国研究校正局)が不正調査を実施した80の事例を調べ、筆頭著者が不正の原因であるケースが最も多い傾向にあるとの結果を踏まえたものです。…

研究室立ち上げを巡るジェンダー格差

学術界における ジェンダー格差 は根深いものがあり、さまざまな場面で顕在化しています。今回は、ある女性研究者が自分の研究室を立ち上げ、研究責任者として研究を進めていく際の苦労を見てみましょう。 まわりの女子学生が減っていく 女性研究者(仮にJさんとします)は疫学が専門で、優秀な成績で大学院を卒業し、博士号を取得しました。彼女は大学、大学院と進むに従い徐々に周囲の女子学生の割合が下がっていくことに気付きました。学部生のときには同級生に女性が何名もいたのですが、大学院で修士課程・博士課程と進むと、次第に女子学生の数が少なくなり、研究室に所属するころには女性は自分一人となっていました。学会に出席すれば登壇して発表するのは男性ばかりであることが多く、読む論文の執筆者もほとんどが男性です。指導教官も男性ばかりです。博士課程に進んだときに、同じ学部にいた若い女性の教授に指導を受けたいと考えていましたが、その教授は出産のために退職してしまいました。代わりに指導を受けた男性の教官は、幸いにして女子学生が学術研究を続けることにも理解があり、女性が自分だけという研究室でも無事に博士課程をやり遂げることができました。 新米PIだから?それとも… 博士号を取得したJさんは、首尾よく研究助成金を獲得して、自分の研究室を立ち上げて研究責任者(PI)となることができました。これで思う存分に自分の研究をすすめることができるのだ、論文をどんどん発表するのだと意気込んだのですが、現実はそれほど甘くはありません。獲得できた助成金は決して少なくはありませんが、十分でもありません。研究助手を8名採用したいと考えていたのですが、予算上許されたのは3名でした。人手不足は自分で埋めざるを得ず、論文執筆も計画通りに進まなければ、学会への出席もままなりません。Jさんは、研究室を立ち上げたばかりの新米PIとしては致し方ないことと、無理やり自分を納得させて奮闘していたのですが、どうやら同じ新米研究責任者でも境遇が異なる人がいることが発覚しました。同じころに研究室を立ち上げた男性のPIが「研究助手が10人いるから助かるよ。今年中に論文を発表できそうだ。」と休憩室で言っているのが、Jさんに聞こえてきたのです。 研究助成金にもジェンダー格差が 研究助成金の金額にジェンダー格差があるということなのでしょうか?米国医師会が発行する学術雑誌(ジャーナル)JAMA (Journal of the American Medical Association)に掲載された研究によると、米国の国立衛生研究所(NIH)が2006年から2017年に付与した約5万4千件の研究助成金を対象にした調査では、初めて助成金を受給した研究者の平均受給額が、男性は16.6万ドルであるのに対し、女性は12.7万ドルと4万ドル近い差があることがわかりました。本人が知らないうちに女性というだけで、助成金の額が男性研究者よりも少なかったのです。同じくJAMAに2015年に掲載された論文にも、男性研究者は研究キャリアの初期段階で女性より潤沢な資金提供をされていたことが示されていました。…

ゲノム編集食品は安全?

猛暑や豪雨などの天候不順の影響で、野菜や穀物の供給が不安定になるなど、食品の安定供給が危ぶまれる中、ゲノム編集食品が静かに市場に入り込んできそうです。これは外国の話ではなく、日本の話です。 ゲノム編集食品が食卓に? 今年3月、Scienceに掲載された記事で、日本政府が安全審査や表示義務もないゲノム編集食品を市場に出すための準備を進めていることが報じられました。そもそもゲノム編集とは、遺伝子を切ったりつないだりして新たな形質を人工的に生み出す技術で、短期間での品種改良を可能にします。該当記事は、日本でゲノム編集食品の流通が容認されることで、食品として消費される植物および動物のゲノムを、ゲノム編集技術CRISPRによって作り替えることに門戸を開くことになると懸念したものでした。 ゲノム編集食品の登場まで 2013年1月、厚生労働省は薬事・食品衛生審議会 食品衛生分科会新開発食品調査部会の下に遺伝子組換え食品等調査会を設置。2018年9月の会合からゲノム編集技術を利用して作られた食品等の取り扱いについて審議を本格化させ、同年12月5日には方針を固めました。その結論は、ゲノム編集技術のうち、目的の遺伝子だけを編集する手法は、安全審査の対象外とするもの。ゲノム食品は、食品衛生法上で遺伝子組み換え食品とは異なる扱いとすることを妥当とし、その情報の届出は法的に義務化されないとしたのです。遺伝子組み換えが、一般的に他の生物から特定の遺伝子を他の生物に入れ込むのに対し、ゲノム編集は、CRISPRのような新しい技術を使って対象とする動植物の遺伝子を機能しなくする、あるいは改変することです。日本だけでなく、世界中で新技術を活用した品種改良が広がっています。そしていよいよ、厚生労働省は10月1日から開発者の届け出に先立つ相談受け付けを開始しました。ゲノム編集食品の解禁です。 ゲノム編集された食品は安全なのか? 食生活に大きな影響を及ぼす可能性を持っているゲノム編集食品。厚生労働省の新開発食品調査部会は、専門家による調査会での審議を踏まえ、2019年3月27日に、外部の(該当する生物以外からの)遺伝子を組み込まない手法でゲノム編集された食品は、食品衛生法に基づく安全性審査がいらないとする報告書を提出しました。これは任意の届けでのみでゲノム編集食品の販売を可能にするものです。表示が義務となっていないので「ゲノム編集食品は不安なので食べたくない」と思っても、消費者にはどれがゲノム編集食品なのかわかりません。厚労省側の主張としては、対象生物のゲノムを編集することは、自然に生じる突然変異や従来の品種改良などと同様であるため、表示を義務化するのは難しい――との見解です。消費者庁は任意での表示方法について考え方を示すとしていますが、ゲノム編集食品が区別できなければ消費者の不安が収まるとは思えません。 しかも、ゲノム編集の中には外部からのゲノム挿入を伴うものもあり、ゲノム編集食品と遺伝子組み換え食品の境は曖昧になり得るのです。ゲノム編集技術によって該当動植物以外の遺伝子を挿入し、外部の遺伝子がゲノム編集食品に残る場合には、遺伝子組み換え食品と同様の安全性審査や表示義務が課せられるとはいえ、消費者がこの2つの技術を分けて理解できるか、区別できたとしても不安が解消されるか――疑問です。 米国では遺伝子組み換え食品の規制緩和が進む 世界的に食糧難が問題視される時代において、食品の収穫量を増やしたり、気候変動による環境変化に適合できる作物を作り出したりするためには、ゲノム編集は有用な技術でもあります。しかし、その安全性に不安を感じる消費者は多く、ゲノム編集食品の扱いは国によって異なります。米国は、遺伝子組み換え食品の規制を緩和し、市場拡大を後押しする姿勢を打ち出しました。トランプ大統領は6月11日に、ゲノム編集食品を含む遺伝子組み換え食品の開発を推進するために、規制緩和の見直しを関係省庁(農務長官、EPA長官、食品医薬品局)に命令する大統領令に署名しました。ゲノム編集食品を有機食品として認める可能性にも言及しているため、健康な食を求めて有機食品を購入している消費者からの反発が予想されます。このように米国が規制緩和を進める一方、欧州は2018年7月にゲノム編集食品を従来の遺伝子組み換え食品と同等であるとし、規制する方向で安全審査を義務付けています。 米大統領令は、遺伝子組み換え食品の輸出するための戦略を確立するようにも指示しています。まさに9月21日からワシントンで日米貿易交渉が行われ、その中には牛肉などの食品に関する議論も含まれていました。日本が米国の農産物の大口輸入国であることも鑑みれば、トランプ政権による遺伝子組み換え食品の規制緩和方針は日本の食品安全行政にも影響を与えること、さらには日本にも同様の規制緩和を求める可能性も懸念されます。しかも、この米国の規制緩和とほぼ同じ時期に、日本政府はゲノム編集食品の安全性審査や表示義務の見送りを決めているのです。 ゲノム編集を推進する背景 日本国内でも大学や研究機関がゲノム編集食品の研究開発に取り組んできました。既に、栄養価を高めたトマト(筑波大など)、収穫量の多いイネ(農研機構)、筋肉量の多いマダイ(近大など)などが実現しており、今年中に販売開始を予定しているものもあります。その背景には、政府が6月15日に閣議決定した「統合イノベーション戦略」の中で、ゲノム編集技術のような革新的な技術を国策として推進する姿勢を示したことがあります。ゲノム編集技術は従来の遺伝子組み換え技術よりも、速くかつ低コストでゲノムの書き換えが行えることで、世界中で注目され、次々に新しいゲノム編集作物が作られています。日本の消費者が気づかないうちに、ゲノム編集食品が静かに食卓に浸透してきているのです。 厚生労働省では、届出の前に事前相談のシステムを設定しており、企業からの事前相談を受けたところで専門家が、安全性審査は必要ないのか、あるいは品種改良に比べてリスクが上がっていないのかをチェックするとしています。しかし、どのような手続きを経たとしても流通上の表示が曖昧であれば不安はぬぐえません。表示がなければ消費者は「食べない」という選択することすらできないのです。最先端の科学が食卓に上る日は近いのです。実際の販売が開始されるまでにきちんとした議論が行われ、消費者に必要な情報が届くようになることが重要でしょう。…

Preproducibility:再現性の前提

研究における再現性(reproducibility)は、非常に重要であると同時に懸念すべき問題です。再現性または再現可能性とは、別の研究者が同じ方法、同じ条件で同じ実験を行った場合、同じ結果が得られることを意味します。結果を再現できなければ研究の結果が正しいことが立証されず、そのような状況は「再現性の危機(reproducibility crisis)」と呼ばれています。再現性は、研究の透明性が確保され、研究手法について理解を得るために必要不可欠です。 学術雑誌(ジャーナル)に発表する論文は「再現性がある」ことが前提です。しかし、多くの論文では、情報が不足しているなどの理由から、書かれている通りに実験を行っても同じ結果が再現できないということが起こっています。重要な情報が抜けていると、査読者はその研究に再現性があるかの判断ができず、研究の科学的な価値が大きく損なわれてしまいます。 Preproducibilityとは 2018年5月にカリフォルニア大学バークレー校の統計学のPhilip B. Stark教授が、Nature誌に寄稿した記事の中で「Preproducibility」という新しい用語を提唱しました。 Stark教授は、論文中に実験を再現するのに必要な情報が十分かつ正確に記載されていれば、その実験を「Preproducibilityがある」と表現したのです。Stark教授は、Reproducibility(再現性)の前提(pre-)となる情報が備っていることを、料理になぞらえて説明しています。例えば、パンを焼くためには、材料だけでなく、作り方も記したレシピが必要です。Preproducibilityは、「科学研究レシピ」にあたるもので、詳細に書かれた情報(レシピ)があれば、誰もが同じ結果を得ることができる(料理が作れる)はずだと言うのです。 Preproducibilityがないとどうなるか? Preproducibilityがなければ、当然ですが研究が再現不可能となる可能性は高くなります。再現可能な研究論文が分野全体の25%しかないと指摘されている学術分野もあり、まさに重大な再現性の危機です。論文に必要な情報が十分書かれていないと実験を再現できず、研究者の時間と研究資金を無駄にすることになりますし、医薬研究であれば、再現性のない研究は確かめようがないため、治療への利用が遅れ、患者と医者の双方の大切な時間を奪うことになりかねません。 Preproducibilityのない論文は査読も大変です。研究の再現性の有無を確かめられない場合、査読者はどうやって論文を評価するのでしょうか?Stark教授がNature誌に書いたように、科学とは『信じてください』ではなく『証明します』であるべきなのです。Preproducibilityのない研究は、科学研究における信頼を損ないかねません。 Preproducibilityを確保するために Preproducibilityを確保するためには、系統的にまとめた研究報告を作成する必要があります。きちんとした報告書は、査読者が研究評価を行い、他の研究者が研究を再現させるのに役立ちます。Stark教授は、可能な限り生データとデ-タ処理に使用したソフトウェアを公開していると語っています。データに関する情報を公開することから始めるのは、ひとつの策です。また、文書や論文を執筆する際に入れ込むべきポイントを挙げて確認するよう促しています。 考慮すべきポイント 生デ-タを論文に記したか? デ-タの収集方法は記載したか?…

ハイブリッドOAはダブルディッピングか

読者から購読料を徴収する従来の定期購読式の学術雑誌(ジャーナル)とは異なる出版形態である、オープンアクセス(OA)ジャーナルが広まっています。OAジャーナルは、購読料をとらずに掲載に必要なコストを回収するため、論文掲載料(Article Processing Charge : APC)を論文執筆者から徴収しています。OAジャーナルの新たな類型として存在を増しているのが ハイブリッド・ジャーナル 。これは、定期購読式のジャーナルが一部のコンテンツを無料で公開する、あるいは著者が投稿論文を出版する形式として従来の定期購読式かOAのいずれかを選択するという形態です。ハイブリッド・ジャーナルの場合、論文をOAで公開するコストについては執筆者が追加料金を支払うものが多くなっています。 ハイブリッド・ジャーナルは出版料の二重取りか ハイブリッド・ジャーナルでは出版料の二重取りが発生するケースがあることが議論されています。 執筆者から論文をOAにするための掲載料を徴収 さらに大学図書館などの購読者から、OAジャーナルの購読料を徴収 このケースでは、執筆者と購読者両方から料金をとっていることになるため、二重取りになります。つまり、出版社は著者や研究助成機関に論文掲載料を課金する一方で、大学図書館や読者にも購読料を課金する――「ダブルディッピング」とも言われる二重払い問題です。これに対する出版社の反論は、OA論文の掲載料相当分については購読料を割引しているというもの。しかし、この割引が適正に行われていることを確かめるのは、実際には難しいのが現状です。というのは、大学をはじめとする大規模な研究機関は多数のジャーナルを購読しており、多くの場合はそれらを「一括」する特別料金で購読契約しているのです。この場合、ひとつのジャーナルの料金を正確に特定することが可能でしょうか?大学図書館などが年間購読料を支払っている場合、ハイブリッド・ジャーナルの中でOAを希望した著者にAPCを課すことは二重取りになってしまうのではないでしょうか? ハイブリッド・ジャーナルは高いのか 論文をハイブリッド・ジャーナルでOA化する場合、出版社は著者に対しても論文掲載料を請求します。その額はタイトルや出版社によって違いがありますが、一般的には1論文あたりUS$1,500~5,200とも言われ、フルOA(すべての論文をOAで公開)にする場合の掲載料に比べてはるかに高いと指摘されています。さらに、投稿した論文が複数の一括契約に含まれている場合、大学図書館などは知らないうちに該当の論文に対して二重払いをしたことになりかねません。ダブルディッピングは余計なコスト負担を強いるものであり、研究成果へのアクセスにも影響を及ぼすことにつながっているのです。 著者に追加費用の負担を課すだけでなく、ハイブリッドOA論文に対する読者のアクセスが十分に保証されていないケースがあることも問題視されています。過去には、論文が完全に公開されるまでに数ケ月から一年かかるものもありました。一定期間経過すれば掲載論文を無料でアクセス可能にするジャーナルもあることも考えあわせると、公開までに時間を要するハイブリッド・ジャーナルへの論文掲載は利用者にとって「無駄なコスト」を要するものです。…

研究室の主宰者(PI)への道

Principal Investigator(PI)は、研究室の主宰者、研究室代表、研究責任者とも呼ばれますが、独立した研究室を持ち、研究の実施から研究室(または研究グループ)の予算管理までを担う責任者のことです。多くの研究者がPIを目指して日々研究に励んでいますが、終身雇用にもつながる可能性のあるPIとなるのに必要なのはどのような行動でしょうか。 あるポスドク(博士研究員)のAさんの経験談から見てみましょう。 PIへの道のりは長く…… AさんはPIになって自分の研究室を率いて研究プロジェクトに取り組むことを夢見ていました。PIになれば、自分の研究を率い、その分野で名を馳せることもできると思ったのです。Aさんは、テニュアトラック*に乗って職位をつかむべく、ポスドクとして3か所で勤務し、何年もキャリアアップにつながると思われた仕事に従事してきました。しかし、それでもPIに手が届かず、失望とともに将来への不安を感じています。しかも周囲を見まわすと同じような状況にいる研究者がたくさんおり、なかなかテニュアトラック制度になる望みがかなわず、ポスドク職を渡り歩いています。 一般的なアドバイス なぜPIになるのが難しいのでしょうか。研究者が能力不足なのではなく、競争率が高すぎるのです。Aさんはテニュアトラックに乗るために必要なアドバイスを聞いてみましたが、耳に入ってきたのは予想した通り、ポスドクがよく聞く一般的な内容でした。 1. 人脈を作る:自分の研究分野のできるだけ多くの人と話し、そして協力しあう。 2. 論文を発表する:研究に励み、実験を行い、データを集め、論文を執筆・発表する。 本当に役立つアドバイス もっと有用な情報を得るため、Aさんはできるだけ多くのPIから直接話しを聞いて、その結果を自分なりに分析し、PIになるためにすべきことをまとめてみました。その結果分かったことは、熱心に研究して論文発表や学会発表をし、学生を指導するだけでは十分ではないということです。研究者としての根本的な活動に加え、早い時期からPIであるかのような動き方をする必要があるのです。Aさんは優秀な研究者です。研究室で長時間実験を行い、データを収集し、PIに進捗と課題を適宜報告していました。しかし、その状況から一歩も踏み出すことはなく、研究助手のような働きに終始してきてしまいました。いきなり新しい研究室に入って、そこで主導権を取れとAさんに言うつもりはありませんが、Aさんは自分の研究プロジェクト(そして自分の経歴)にもっと主体的に取り組むべきでした。そのことも踏まえたアドバイスが以下になります。 着実に研究を進め論拠を固める:科学者として当然、自分の仮説を立証する証拠が、しかも多くの証拠が求められます。データの批判的な解析も必要ですが、そればかりに偏ってもいけません。一定の結論を示すデータがあり、それを支える統計が得られたら、発表すべきです。確かな論拠をもとに、着実に研究を進めるのです。 主体的に取り組む:PIの研究助手の立場に甘んじていてはいけません。自分の研究では主体性を発揮すべきです。他者からの問いかけを待つのではなく、また安易にPIに回答を求めるのではなく、自問自答しながら研究を進めるようにします。自分で自由にできる研究資材などがなければ判断が難しいとはいえ、あらゆる物事についてPIの判断や指導を仰ぐのではなく、自分で考えることが大切です。PIになったら、指導者の助けなしに、研究プロジェクトを管理していくことが求められるわけですから、それを念頭に主体的に研究に取り組むよう心がけます。…

The Perils of Predatory Publishing and What to Look Out For

Overview of predatory publishing Identifying predatory publishers/journals Best Practices to avoid predatory journals Dealing with…

Panel Discussion: How are Publishers Building Trust in the Peer Review System?

Reviewers selection criteria Major issues in peer review Fake peer reviews Challenges faced during the…

米国大学が臨床試験の公表で法令違反

研究不正は研究者でなくとも見逃せない問題です。とくに臨床試験に関する不正は、患者の健康に直接的な影響を及ぼすので注目されますが、医薬品や治療法の評価にも大きく影響します。 臨床試験の結果の公表については、多くの国で議論されていますが、米国では臨床試験の結果は1年以内に公開しなければならないと法で定められています。同様に、欧州委員会もヨーロッパで行われる医薬品開発に関する臨床試験は、終了後12ヶ月以内にEU Clinical Trials Register(EUCTR)に結果を報告するよう義務付けています。臨床試験を実施する研究者は倫理的責任を有するにも関らず、臨床試験の結果が否定的な場合などに結果を公表しない傾向があることに対処するためですが、実際には多くの臨床試験の結果が報告されていないことが指摘されています。そして、今年3月に発表された報告書でも、米国の大学が支援した臨床試験の結果が、政府の定める公表期限を守っていないことが明らかになりました。 法令整備―FDAによる臨床試験の登録義務付けとHHSによる臨床試験情報開示規則 米国食品医薬品局(FDA)は、臨床試験の登録、有害事象や副作用情報、試験結果の登録を促すための法改正(FDAAA Section 801)を行い、臨床試験の登録を義務付けました。この法令に基づき、さらに詳細な規則を米国保健福祉省(HHS)が作成し、2016年9月16日には臨床試験結果の公表範囲を拡大する規則(42CFR Part11)を発行。この新規則は、米国国立衛生研究所(NIH)の運営する臨床試験情報のレジストリClinicalTrials.govに公開する臨床試験情報の公開範囲を拡大するもので、原則として臨床試験の完了から1年以内に結果情報を提供しなければならないとしています。これらの新規則は2017年1月18日から施行され、FDAへの事前登録や結果報告義務を順守しない場合には、最大1万USドルの罰金や研究資金の差し止めなどの罰則が課せられることも明記されています。これにより、以前は任意であった臨床試験の情報登録が義務付けられた上、医薬品の販売承認が得られなかったものも含め、あらゆる結果を登録することが求められることとなりました。公表義務を免れるのは、安全性に関するフェーズ1の臨床試験(少人数の健常者ボランティアを対象とする初期の試験)などで、ごく一部に限られています。 法令違反―公表されなかった試験結果 2019年3月、「米国大学における臨床試験の透明性(原題:Clinical trial transparency at…

Nature誌の一部論文 全文公開の試行プログラム

研究者向けのSNSであるResearchGateと学術出版社は、論文の著作権をめぐり対決してきましたが、その関係に動きが出始めています。 2019年3月1日、Springer Nature社が、2017年11月以降にNature誌に掲載された論文の中から一部を抜粋し、その全文をResearchGateに公開する試行プログラムを開始しました。研究者個人のプロフィールをResearchGateに公開するとともに、論文の閲覧・ダウンロードを可能にすることで、学術成果を露出させ、論文が読まれる確率を高めようとの試みでした。当初は3月7日までの期間限定でしたが、良好な結果を受け、7月11日にこの試行プログラムの延長を発表しました。延長期間となる第2フェーズでは、公開対象が広がり、ResearchGateで公開される記事の数が第1フェーズと比較して4倍となっています。より多くのResearchGateを利用する研究者がSpringer Natureのコンテンツにアクセスできるようになるだけでなく、著者にとっても自署の論文へのアクセスおよびダウンロードが増えるチャンスとなります。 ResearchGateと出版社の関係 ResearchGateは、原著論文の共有や質問・回答、協力者の募集などを可能にする学術研究者のネットワーク・プラットフォームです。2017年には国際STM出版社協会から著作権侵害の申し立てをされたこともあり、オープンアクセス化が進む中での動向が注視されてきました。通常、論文の著作権は出版社に帰属するため、著者が自分の研究成果であっても出版した論文をResearchGateのような研究者向けプラットフォームで共有することは許されていません。2017年10月には、米国化学会(ACS)とエルゼビアが、ResearchGateの法的責任を問うためにドイツの裁判所への訴訟を起こし、翌年4月18日には裁判が始まったと報じられています。さらに10月2日にはアメリカでも同様の提訴を行っています。このような動きがある中で、Springer NatureがResearchGateと協力して論文公開に取り組んでいることは、異例のアプローチとも言えます。状況に関するデータ収集の結果を踏まえて期間が延長されたことで、この試験的なプログラムが今後どのような影響をもたらすかが注目されています。 ResearchGateでの論文公開 試行プログラムが目指すもの Springer NatureとResearchGateは、学術研究成果を閲覧する際の障害を取り除き、アクセスを向上させることを目標に掲げており、この連携を「研究コミュニティをこれまで以上に支援していくための重要なステップ」と位置付けているようです。研究者にとっては、研究者間のネットワーク上に論文へのスムーズなアクセスが確保されることは大きなメリットであり、自身の論文の認知度が高まり、ダウンロード数が増えることは歓迎されるものでしょう。 第1フェーズの結果調査からは、両者の協力が研究者に好意的に受け入れられたこと、Nature誌の記事全文がResearchGateに追加されたことに満足と答えた利用者が90%を超えたことなど、非常に肯定的な結果が得られました。ResearchGateにとっては、プラットフォームに掲載される論文が増えたことで、学術成果へのアクセスを向上させるとの目標達成への一歩となり、利用者の満足も得られるものでした。Springer Natureにとっては、購読料の収集を逃しているとはいえ、研究者のプラットフォームにおける存在感を高めることには成功しています。発表した研究論文の発見しやすさを向上させ、学術研究を一層発展させる上で役立つ新たな方法を探求する出版社にとっては、研究者のプラットフォームとの論文共有は一つの回答になると考えられます。学術研究にとってよりよい環境を構築したいとする両者の思惑が、試行プログラムにうまく反映されていると言えそうです。 プログラム延長 第2フェーズ 試行プログラムの第2フェーズでは、共有するコンテンツを4倍に増やしつつ、アクセスの改善に向けたソリューションの検討を行うと記されています。また、科学研究や論文へのアクセス提供者としての図書館員が果たす役割を実証することにも焦点を当てるとしています。図書館や研究機関が購読契約していることで、研究者が論文や記事にアクセスできる場合には、そのことをResearchGate上で研究者に対して通知するという、積極的なアプローチの追加も予定されており、研究者にとっての利便性はますます向上しそうです。 オープンアクセスが加速する流れの中、出版社はどう新しビジネスモデルを構築していくのか、一方の研究者はどう対応していくのか、また両者はどのように折り合っていくのか――Springer…

専門家からみた「あなたの論文はあなたの形式で」

学術誌では通常、参考文献の付け方など原稿のスタイルが投稿規定で細かく決められています。しかし大手出版社のエルゼビア社では、投稿者がそうした形式にこだわらず論文草稿を投稿できる“Your Paper, Your Way(あなたの論文はあなたの形式で)”という方針を打ち出しています。まずは“Your Paper, Your Way”の提唱者で、『Free Radical Biology & Medicine(フリーラジカル生物学・医学)』編集長のケルビン・J・A・デイビーズ博士の見解を聞いてみましょう。  *     *     *  他誌でも“Your Paper, Your…

Introduction to Academic Publishing and Research Methods in Humanities

Academic publishing processes Manuscript preparation and submission Types of research methods in humanities Insights on…

過去最大の論文撤回が発生

投稿された研究論文に不正が発覚した場合など、すでに発表された論文であっても撤回されることがありますが、研究不正の撲滅に向けた取り組みが強化されるのに伴い、撤回される件数も増えてきました。そして、従来の事例を大きく上回る極めて大規模な論文撤回が発生しました。一体何が起きたのでしょう。 JFASにおける大規模撤回 査読付きオープンアクセス学術雑誌(ジャーナル)のJournal of Fundamental and Applied Science (JFAS)で、434本の論文が撤回されたのです。このジャーナルは、アルジェリアのエル・ウェッド大学(El-Oued University)科学技術学部が発行しているものです。 これまでの大規模撤回としては、シュプリンガー社が、2017年にがん研究を扱うオープンアクセスジャーナルTumor Biologyに掲載された107本の論文を、査読プロセスに不正が認められたことを理由に撤回した事例や、2016年に同誌で25本の論文が撤回された事例があります。(シュプリンガー社とTumor Biologyの契約は終了となり、現在はSAGE社が出版している。)2017年当時の107本は、ひとつのジャーナルが撤回した論文の数としては史上最多でしたが、今回の事例の434本は記録を大きく上回り過去最大となっています。 学術論文の撤回・訂正などを報告・分析する学術情報サイト「Retraction Watch」に今回の大規模撤回の経緯が記されています。2018年6月に引用文献データベース…

定性的研究におけるバイアスの避け方

研究者が自分にとって望ましい結果を得ようとして、研究におけるバイアス(偏り)が生じてしまうことがあります。多くの場合、研究者は自分の考えや作業にバイアスが入り込んでいることを自覚していません。自覚の有無にかかわらず、研究におけるバイアスの存在は研究の公平性に大きな影響を与え、研究成果の価値を損なう危険性があります。 今回は研究者同士の会話から定性的研究におけるバイアスの問題を考えます。 定性的研究におけるバイアスの問題 「バイアスは、定量的研究よりも定性的研究でより重大な問題だと言われます。」 「どうしてですか?」 「定性的研究のほうが、研究者の経験と判断にかかっている要素が大きいからです。それに、収集するデータには主観が影響するし、調査対象の人や状況に依存する面も大きいのです。このため、定量的研究よりもバイアスを避けるのがはるかに難しくなります。」 「バイアスを避ける策はありますか?」 「まず、あらゆる研究にバイアスは存在すると認識することからはじめるのが良いでしょう。そして、どのようなタイプのバイアスが自分の調査に入り込みそうか予測して、それを極力避けるようにすることです。」 バイアスのタイプ 「避けるべきバイアスにはどのようなタイプがあるのですか?」 「ひとつは研究デザインにおけるバイアスですが、研究デザインを立案する時点からバイアスに注意しなければならないことに研究者は気づかないものです。さらに、研究対象を選ぶ時点で生じる選択バイアスと、調査対象に対して生じるバイアスとに大別できます。前者は対象者の選択が母集団を正しく代表していないときに生じる偏りであり、標本数や調査対象者の範囲などが要因になりえます。母集団から標本をどれだけ抽出するのか、抽出方法をどうするかにより、標本が母集団の傾向を正しく反映しないものになる場合があります。調査対象から特定の年齢層や人種・民族を除外する、あるいはデータが入手しやすいとの理由のみで調査対象を選出する――このように意図的な標本の抽出を行えば、結果に偏りが生じる原因となります。例えば、データを取りやすいからと大学生だけを調査対象としてデータを集めたのでは、その集団は多くの共通の特性を有しているため、結果として偏った傾向を示してしまうでしょう。」 「なるほど。その他にはどんなバイアスがありますか?」 「他にもたくさんあります。研究手法においてもバイアスは生じます。アンケート調査で回答時間を短くしてしまうと、回答者はあわてて本心とずれた回答をしかねず、バイアスがかかることになってしまいます。また、測定方法におけるバイアスもあります。使用する計測機器が狂っていたり、使用法を誤ったりすると、データの収集や測定プロセスにエラーが起こり、結果に系統的な誤差が生じかねません。」 「注意しなければならないバイアスがたくさんあるようですね。」 「今すぐ思いつくだけでも、あと三つあります。ひとつはインタビュアー(面談者)によるバイアスです。インタビュアーが、回答者(被験者)の回答内容に影響を与えることもあります。例えば、インタビュアーが無意識のうちに、ボディーランゲージや声のトーンなどで回答を誘導してしまったり、被験者に与える情報に差が生じてしまったりするケースで、回避するのはとても困難です。逆に、調査対象者に要因のあるバイアス(被験者バイアス)もあります。例えばアンケートの回答者は、設問に対して事実ではなくても自分が正しいと思う回答をする傾向があり、結果に偏りが生じることがあります。三つ目は、レポーティング(報告)におけるバイアスです。これは研究者自身の手の及ぶ範囲を超えて生じてしまうバイアスであり、前向きな研究結果や興味をそそる内容は、否定的な結果や面白みの少ない結果に比べて頻繁に報告されやすいというものです。そして、報告回数・頻度が高くなれば、より広く知られることになり、この結果が重要なものと見えてしまうという事態を招くことにもなるのです。」…

誰を論文の著者や貢献者とするか ― 研究者のためのオーサーシップ基礎知識

著者と貢献者の違い 何人まで著者として記載できるか 責任著者および共著者となれる条件 著者のためのリソース

悩ましい進路-ポスドクか就職か

博士号の取得者にとって、学術研究を追求する研究者としてのキャリアを選ぶか、一般的な企業への就職を選ぶか――進路は悩ましい問題です。今回は、進路の悩みを巡って、考えるべき点を洗い出してみます。 ポスドクが直面する現実 博士課程終了後、その延長でポスドクになることを選択肢と考える人もいるでしょう。しかし、誰もがポスドクになれるわけでも、ポスドクになれば安泰というわけでもありません。ポスドクとは、博士号取得後に任期制の職に就いている研究者ですが、大学や研究機関によって契約内容や将来性はさまざまです。ポスドク自体を不要とする分野もあり、ポスドクの枠自体が減少するに伴い、椅子取り争いは激しくなっています。さらに、研究資金の制約が主な原因で、多くの大学はポスドクの在籍期間に上限を設け始めています。任期付である以上、業績があげられなければ任期切れとともに雇い止めとなることも予想され、次の仕事が見つかる保証もありません。先の見えない不安定な身分で研究を続けなければならないのです。その上、かつてはポスドク経験者のほとんどが研究職に就くことができましたが、最近では事情が変わり、ポスドクの任期を終えてからの職探しに苦労する人が増えています。 日本では、科学技術の振興を目指した国の方針に基づき、1996年から2000年にかけて押し進められた「ポスドク1万人計画」を受け、大学や大学院が大幅に定員を増やしたのに伴い、博士課程に進む人が急増したことがあります。しかし、博士課程修了者の受け入れ先ポストは増えなかったため、多くの博士課程修了者が就職できない事態に陥ってしまいました。こうした背景は、博士号取得者および博士課程への進学にも影響を及ぼしたと見られ、文科省の研究グループが2019年4月に発表した資料によると、2013年度の日本の博士号取得者数は100万人当たり121人と、他国と比較して少なく、博士課程への入学者は2003年をピークに減少傾向となっています。 日本以外ではポスドクは終身ポスト獲得に有利 ポスドクが任期付きではない正規の研究職または教職に就くまでの準備(トレーニング)期間との考えが定着している欧米では、事情が異なります。米国では、ポスドクの多くが学術機関での職を得ており、その率は少なくとも75%に達している(2013年)とされています。現在“tenure track(テニュアトラック)” ポジションにいる、あるいはすでにテニュアを取っている研究者への聞き取りを行ったところ、回答者の70%が現在のポストを獲得するためにはポスドクとして経験を積むことが「必要だった」か「経験していることが望ましい」と答えています。このテニュアトラック制度とは、一定の任期中に行われる厳しい審査に合格すれば雇用保障(終身雇用)が与えられる制度であり、米国ではテニュアトラック制度が学問の自由を保障する制度と位置づけられています。研究者としてのキャリアパスが整備されていれば、ポスドクの期間中に、研究を深め、論文を発表し、人脈を作ることにも余裕が持てます。これらの経験すべてが将来のキャリアにつながるのです。 日本でも、文科省が「テニュアトラック普及・定着事業」を進めており、終身雇用への道を開く制度と期待されていますが、ポスドクの雇用環境問題の改善にはまだまだ課題が多そうです。 研究職に残るか、学外に就職するか 文科省の科学技術・学術政策研究所の「ポストドクター等の雇用・進路に関する調査(2015年度実績)」によると、ポスドクを継続して国内の大学や研究機関で研究活動に従事していたのは11,118人(69.9%)、教員などに職種変更したのは4,536人(28.5%)でした。この調査からは、2015 年度におけるポストドクター等の延べ人数は 15,910 人、前回調査(2012 年度、16,170…

米の科学工学分野における女性・マイノリティ・障害者

日本にいると、女性・マイノリティ・障害者が、自分たちの能力を活かして活躍できる社会について深く考える機会は少ないかもしれません。最近では職場でのセクハラやパワハラ問題を以前より訴えやすくなっているようですが、安倍政権が成長戦略の柱のひとつに「女性の活躍推進」を掲げる一方で、女性に対する政治家のとんでもない失言がまかり通っています。最近では、6月に根本匠厚生労働大臣による「パンプス強制の容認」、その前は5月末の桜田義孝議員による「子どもを最低3人産むようにお願いしてもらいたい」発言――働く女性は、セクハラや育児・子育て、別姓使用のトラブルなどさまざまな課題に対応していかなければなりません。本当に女性の働きやすい環境が整うまでには、まだ時間がかかりそうです。そして障害者については、7月の参議院選挙で「れいわ新選組」から立候補した重度障害者の2人が当選し、議員となって初登院したことが大きな話題となりました。彼らが日本の障害者雇用に風穴を開けてくれるかもしれません。 では、女性や障害者、マイノリティの職業参画に対する他の国の状況はどのようになっているのでしょうか。今回は、米国における女性・マイノリティ・障害者の科学工学教育機関(大学/大学院)の在籍状況および雇用状況などを分析した報告書を紹介します。 科学工学分野の女性・マイノリティ・障害者報告書 3月28日、米国科学財団(NSF)傘下の米国科学工学統計センター (NCSES)は、女性・マイノリティ・ 障害者による科学工学教育及び職業への参加に関する調査結果をまとめた 報告書「2019年科学工学分野における女性・マイノリティ・障害者(原題:2019 Women, Minorities, and Persons with Disabilities in Science…

調査研究におけるサンプリングの重要性

研究を進めるためには具体的な計画が不可欠です。研究の対象、測定・評価方法、評価期間など決めなければならないことは多々あります。研究計画は慎重に検討しておく必要があります。同様に重要なのは、研究における調査対象の抽出( サンプリング )です。大方の調査では、限られた調査対象から得られる回答(データ)をもとに全体を推定します。調査の対象となる特性を持つ全体を母集団、母集団の性質を忠実に反映するように母集団から抽出される部分を標本(サンプル)と呼びます。サンプル数が多いほど、母集団の性質をより確実に反映する確率が高くなりますが、調査結果の信頼性を高めるにはサンプルの数とともにランダム性も大事な要素であると覚えておきましょう。以下に、サンプリングについてまとめてみます。 サンプリングの方法-確率抽出法と非確率抽出法 ひとつの例として以下のような調査を考えてみます。 炭坑での労働が健康におよぼす悪影響を調べたいとします。炭坑労働者全員を調べることは実質的に不可能なため、調査対象を絞ってデータ収集することが必要となります。この調査では、ある地域の炭坑労働者を調査対象としてサンプルに設定します。 このように母集団(炭鉱労働者)からサンプル(調査対象)を選ぶ方法としては、確率抽出法と非確率抽出法の2つに大きく分けられます。 1. 確率標本抽出法 母集団から標本を適当に選んだのでは、その調査結果の評価が難しくなります。また、一定の偏りが生じるような抽出法は避けるべきです。そこで、母集団を構成している全て(成員)が一定の確率で(必ずしも同じ確率でなくてもよい)調査対象となるように選ぶ抽出法が確立標本抽出法です。これにはいくつかの手法がありますが、最も広く利用されるのは母集団のどの構成要素にも等しい抽出確率を付与する単純無差別抽出法です。他に、層別抽出法(層化抽出法)、クラスター抽出法(集落抽出法)、系統抽出法などがあります。上述の地域を限定して炭鉱者のサンプルを選出した例は、クラスター抽出法です。 2. 非確率抽出法 確率標本抽出法とは異なり、確率的でない基準に基づき調査対象を選ぶ方法です。サンプルに選ばれる確率が不均等なので、標本誤差(サンプルを無作為抽出して調査した結果にともなう誤差)を統計的に推定することはできません。研究者が、調査研究の目的等に応じて選択的にサンプルを選びたい場合にこの方法が採用されます。非確率抽出法には、機縁法・縁故法、応募法、インターセプト法、割り当て法、有意抽出法などがあります。 質的調査、量的調査とサンプリング サンプリングをした対象者からデータが得られたら、次は分析です。それには、言葉による説明などを行う質的調査と、情報を数量化して捉える量的調査の2つがあり、双方の特性を理解した上で、どちらが自分の研究に適しているか総合的に判断する必要があります。…

情報過多社会を生きるためのコツ

インターネットやSNS(Twitter、Facebookなどのソーシャルネットワーキングサービス)の普及に伴い、私たちは知りたい情報を簡単に手にいれ、興味ある話題について最新の動向を常に把握することができるようになりました。一方で、洪水のように流れ込む大量の情報を前に、多くの人が振り回され、集中力を削がれているのも事実です。自分の処理能力を超える量の情報に直面する、いわゆる 情報過多 の状態に置かれているのです。スマートフォンを持っている人なら誰でも身に覚えがあると思いますが、ひとたび検索をし始めるとキリがなく、仕事の生産性が上がるどころか下がってしまうこともあります。このような情報過多の状況にどう向き合うかは、研究者の皆様にとっても喫緊の課題ではないでしょうか。情報の洪水から身を守りつつ、大切な情報を見逃さずに拾い出すにはどうしたらよいのでしょうか。 情報過多がもたらす弊害 すでに研究者が一生かかっても処理しきれない量の膨大な情報が溢れています。毎年200万件を超える研究論文が発表されていますし、2万8000誌以上の学術誌が毎号、新しく重要な発見を公表しています。このような状況では、自分の研究に関連する最新動向を把握しようにも、何から手をつければよいのか見当もつきません。SNSに及んでは、もはや決して追いつけないと思うほどの、お知らせやメール、最新情報が続々と送信されてきます。 このような状況において、多くの研究者は「論文を執筆するにあたって、いったい、自分はどこまで調べればよいのだろう」と途方に暮れてしまいます。しかも、大量の情報に囲まれ続けているうちに、最新情報に触れ続けていないと何か見落としているのではないか、置いていかれるのではないか、成功を逃すのではないかといった恐怖(fear)を感じるようになるとして、FOMA(fear of missing out)という言葉も生まれました。この現象の原因はSNSに限らず、常に最新の情報を追い続けていないと不安になるというものです。研究者であれば、何か大切な記事や研究を見落としているのではないか、という心配に取り付かれてしまいがちです。これが、ストレスになり、作業効率を低下させ、肝心な研究がおろそかになるという悪循環を招きかねません。情報が氾濫する現代で不要な不安感を持たずに健全な精神状態を保つには、自分にとって何が大切なのかを見極める力が必要です。 溢れる情報の中から本当に必要な情報を見つけ出す FOMAのような現代病とも呼べるような不安を抱える人は世界的に数多く存在しているので、むやみに悲観する必要はありません。むしろ、多くの人の共通の悩みであるがゆえに、情報過多の状況に対処する、もしくはそういった状況に陥らないよう工夫するコツもたくさんあります。ここでいくつか紹介します。 思い切って無視する 振り返れば、毎日目にする大量の情報は、ほとんどに大した意味はなく、自分に関係のない類のものではないでしょうか。新着情報を思い切って無視することにすれば、何か見落としているのではないかという不安からも解放されます。 情報管理ツールを利用する フィルターの活用は非常に有効です。ScienceOpen…

Maintaining Research Productivity Amid Global Pandemic

Current scholarly publishing scenario Tips to sustain your research Maintaining ethical standards COVID-19 Rapid Review…

革新的な研究に特許調査は欠くべからず

研究者は誰でも、自分の研究を重要で、革新的で、独自性が高いものにしたいと望んでいます。既に他の研究者が取り組んでいる内容と重複する研究を行うことは、貴重な時間や研究費の無駄使いです。研究成果の特許出願を念頭においている場合は特に、既存の研究や特許申請状況の事前調査を欠かすべきではありません。 特許調査を行わなかった失敗例 特許調査を行なわなかったために失敗した実例証言を見てみます。 私は、一流の研究者で構成されたチームで、最先端技術の研究を進めていました。このチームで独創的な発明をしたと思ったのです。ところが検索したところ、別の人がすでに特許を取得していた内容であることが判明しました。研究につぎ込んだ何年もの時間と研究資金が無駄になったのです。 私たちは独自性の高い発明を見つけたいと思ったのですが、その発明を決定付ける部分はすでに特許化されていました。技術に対する特許使用料を支払うか、研究をゼロから再スタートさせるかの選択を迫られました。 博士論文の研究で、特定の化合物を作り上げようと何ヶ月も費やしていました。しかし、ある大企業がすでにこの化合物の生成に成功していたことを知りました。その大企業は、無償で少量の化合物を提供してくれました!もっと早く知っていれば、大変な時間と研究資金を無駄にしなくて済んだのに。 特許調査も文献調査の一環として実施すべし 特許は発明を保護するための権利です。発明者が特許権を取得すると、自身の特許発明の実施を一定期間独占できる権利であり、他人(第三者)は無断でその特許発明を実施することはできなくなります。貴重な時間と研究費に影響するのにもかかわらず、学術研究者が特許権の調査を怠るのは、なぜでしょうか? 理由に挙げられるのは、多くの研究者が学術文献の調査のみを行っていることです。特許出願される発明が、論文として学術雑誌(ジャーナル)に投稿されるとは限りません。研究成果として発表されないケースも多いのです。学術研究者の多く、とくに特定の分野の研究に長く従事している研究者は、その分野の情報に精通していると思ってしまい、学術文献だけを調査しがちです。これと対照的に、実際の事業に関わる研究者は、時間と費用の制約から学術ジャーナルに投稿することは稀ですが、自らの発明を保護するために特許出願に注力し、そのための準備として事前調査も怠りません。この差が、特許調査への取り組みに表れていると言えます。 学術研究者は、文献調査の一貫として特許調査を行うことを心がけるべきなのです。 特許調査における問題 最近までは、特許検索はほとんどの人にとってハードルが高いものでした。欧州特許庁(EPO)や米国特許庁(USPTO)、日本の特許庁などは、無償で利用できる特許データベースを公開しています。日本では特許庁所轄の独立行政法人が運営する「特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)」で特許公報を無料で検索・照会することが可能です。しかし、データベースによっては検索条件が限られていたり、使いこなすことが難しかったりすること、特許の多くが複雑で難解な法律用語で書かれていること、さらに一部の特許は画像や遺伝子シーケンスのようなテキスト以外の記述法で記されていることなどが研究者の利用拡大を阻む要因ともされています。とはいえ、近年は産学官が連携する研究や、その結果として学術界(大学)で得られた知的財産(研究成果)を産業界(企業)に提供して活用させる技術移転が盛んになっています。一例ですが「近大マグロ」で有名になったマグロ養殖技術。近畿大学が世界で初めてクロマグロの完全養殖化に成功し、日本の養殖業界にも貢献しているもので、もちろん特許および商標登録されています。このような研究から活用までを見通して考えれば、研究に先立って特許調査をしておくことは大切です。そのためには、特許の記述法や構成を理解しておく必要があります。学術研究者も、文献調査だけでなく、特許調査にも意識を広げていくことが求められています。 特許調査の新しい方法 特許庁の提供するサービス以外にも、簡単に特許調査ができる新しいサービスが出てきています。例えばGoogle Patentは、一部の国の特許情報には制限があるものの、世界知的所有権機関(WIPO)をはじめとする欧州、米国、日本、中国、カナダ、韓国などでの出願も収録されている特許文献の検索サービスです。複雑な検索条件も使えて、検索データをフィルタリングすることもできます。他にも、クラリベイト・アナリティクスが提供するDerwent…

学術界における母親業を巡るジェンダー格差

学術界におけるジェンダー格差への対策が必要と叫ばれつつ、女性研究者に対する社会的障壁が取り除かれたとは言えない状況が続いています。 女性が博士号を習得するために懸命に勉強し、希望通りの研究員・教育職員としての職に就き、数年間勤務したところで子供を生む決心をしたとします。彼女は、出産・育児という大仕事と共に学術界のジェンダー格差という現実に直面することになるのです。 学術界においても家庭と仕事の両立は困難 一般企業に比べて学術界の職業環境は柔軟で堅苦しくないと思う人もいるでしょう。しかし、必ずしもそうとは言えません。60名ほどの女性科学者へのインタビューをまとめて2015年にオックスフォード大学出版から発刊された“Woman Scientists: Reflections ,Challenges, and Breaking Boundaries”の著者であるMagdolna Hargittaiは、この調査に協力した女性科学者はほぼ例外なく、それまでの人生で最大の問題として家庭と仕事のバランスをとることの難しさを挙げていると語っています。また、カリフォルニア大学デービス校で神経生物学の準教授を務めるRebecca Calisiは、Scientific AmericanのVoicesに寄稿した文章の中で、現在の学術界の制度がいかに育児をしながらキャリアを積もうとする女性研究者に不公平であるかを訴えています。成果が求められる研究者という職で、出産・育児のために研究の中断を余儀なくされるという状況は、予想以上に厳しいのです。 ジェンダー格差と母親業 ジェンダー格差とは男女間の社会的不平等ですが、数ある原因のひとつは、出産・育児といった母親業による負担が女性に偏っていることです。現在でも育児における伝統的な男女の役割分担が厳然として存続しているため、母親は仕事をせずに育児に専念すべきとの意見も根強く、キャリアを断念して子育てすることを期待されるのは、男性ではなく女性なのです。こうした社会的役割分担を受け入れようとすれば、母親業とキャリア追求の両立は難しくなります。…

論文提出前の読み直しと推敲・校正の重要性

やっと仕上げた論文原稿の問題を指摘されると不愉快になるものです。しかし、文法の間違いなどが、論文全体の評価に悪影響を及ぼすことを指導教員はよく認識しているからこそ、注意してくれるわけです。指摘された箇所を修正することはもちろん、原稿の見直し、推敲・校正するスキルを向上することは大切です。これを怠って間違いを見落としてしまったり、完成度の低い論文を提出してしまったりすると、研究成果そのものへの大きなマイナスとなってしまいます。 推敲と校正は極めて重要 推敲と校正は、文章を仕上げる上で欠くことのできない作業です。この一手間をかけることにより、文書が的確に、伝えたい考えが明晰に表現できるようになるのです。推敲と校正を同じようなものと考えている学生や論文執筆者を多く見かけますが、両者の意味は明らかに異なります。推敲は文章を読み直して、不適切もしくは不明確な部分を修正したり、文全体の構成や記述の順番を変えたり、内容を改めたりする作業です。一方、校正は、用語や誤字脱字、文法などの誤りや記述上の不備をチェックして修正する作業です。推敲や校正の手始めに、指導教員の指摘をじっくりと読んでみると良いでしょう。どういう点を注意して見るべきかが分かるはずです。 推敲作業 推敲は大変な作業ですが、必ず習得すべきことです。このスキルを向上させるにはさまざまな要素が関っていますが、手始めに注意すべきこととしては以下が参考になるでしょう。 文書構成 イントロダクション(序論)とコンクルージョン(結論)を明確にする 段落構成 段落ごとに内容を明確に転換させること 段落ごとに、その段落の中心をなす考えを示すこと 主題 論文の主張を、明確に、散漫にならずに書き記すこと 論文の中心となる主張を支える明確な論拠を示すこと 明瞭性 必要な場合には定義と論拠を明示することで、論文とそこに記述している考えを明確にする…

STEM分野で顕著なジェンダー格差

Science(科学)、 Technology(技術)、Engineering(工学)、Mathematics(数学)の頭文字をとってSTEMと略称される分野での男女の格差(ジェンダー格差)の問題は広く知られているところです。1990年代初頭に比べると格差が縮小しているとの調査報告があるように、確かに以前よりはSTEM分野の学位を取得して同分野の職に就く女性の数は増加していると言われています。しかし、現実には厳しいジェンダー格差が依然として残っているようです。 STEM分野の女性比率 今でもSTEM分野を専攻したり、学位を取得したり、同分野の職業に就く女性の人数は、男性より低い傾向にあります。STEM分野で男性と同等、あるいは男性以上に優秀な女性もいますが、全体的な数で言えば少数派です。特に、物理学、コンピュータ科学、数学、工学の分野で人数比が顕著であり、米国におけるこれらの学科の学生数における女性の割合は20%程度に留まっています。日本でも同様です。文部科学省の平成30年度学校基本調査の公表数字によると、大学における女性学生の割合は、学部で45.1%、修士課程31.3%、博士課程33.6%と、それぞれ過去最高を更新。しかし、このうち理学と工学における女子学部生の割合は、理学27.8%、工学15%と非常に低くなっています。薬学が59.5%と健闘するものの、人文科学(65.3%)や教育(59.2%)との圧倒的な差は明らかです。 ジェンダー差別による影響 そもそもSTEM分野を専攻する女子学生数が少ないので、当然、大学卒業後に同分野で就職する女性の数も少なくなります。その上、米国のシンクタンクの調査によると、この分野で働く女性のうち多くがジェンダー差別を受けていると訴えています。男性が圧倒的優位な職場で、差別を経験した女性は78%に達し、セクシャルハラスメントを受けた女性も36%に及びます。 STEM分野におけるジェンダー差別の影響は広い範囲に及んでいます。スコットランド王立協会(Royal Institute of Scotland)がスコットランド青年アカデミー(Young Academy of Scotland)と共同で2012年から2018年にかけて実施した調査では、教育課程が進むにつれて女性がSTEM分野から離脱していく傾向が明確になり、それが産業界におけるSTEM分野の人材不足の大きな要因になっていること、ひいては経済発展の原動力であるイノベーションの足かせとなっていることなどが指摘されています。 経済的な影響だけではありません。ジェンダー差別による影響としてもう一つ重大なのは、負のループに陥ってしまうことです。STEM分野に女性が少ないため、後続の女子学生にとって自分の将来の模範となる同性のロールモデルが少ないことになります。また、STEM分野に女性が少ないことに人々が慣れっこになり、それが常態化してしまう結果、学術においても男女の役割が違うと考える社会ができ上がってしまいます。これでは不公正で不平等な社会です。 STEMにおける女性差別-ジェンダー格差の原因…

研究プロジェクトの要、進捗報告

研究に限らず、何事においても進捗管理・報告を行うことは作業を進める上で不可欠です。単独で研究を進めていたとしても、研究業務は、所属する研究組織全体の中のひとつの歯車であることを忘れてはいけません。上位の管理者にとって、研究資金提供者への報告を行うためにも、組織内で並行して進められている数々の研究プロジェクトの進捗を把握することが必要なのです。では、研究者としてどのような進捗報告が求められているのか、どうすればよい進捗報告が書けるかを考えてみましょう。 目標設定の5ポイント「SMART」 まず、作業を進めるためには目標を設定しておく必要があります。その際にどのような目標を立てるのかの助けとなるのが「SMART」です。SMARTとは、目標設定時に押さえておくべき5つのポイントの頭文字、S:Specific(明確な)、M:Measurable(計測可能な)、A:Attainable(達成可能な)、R:Realistic(現実的な)あるいはRelevant(関連性のある)、T:Time(期限付きの)をとった目標設定の指標です。SMARTの要素を踏まえた目標を設定することによって、行動しやすくなり、さらにPDCA(計画・実行・評価・改善)サイクルを回しやすくすることにつながります。その結果、目標に向かってPDCAのどの段階にいるかが分かりやすくなり、段階を踏まえた進捗報告が作成できるようになるのです。 進捗報告を作成する頻度 次は、進捗報告です。進捗報告を行う頻度は、業務の内容や状況に応じて上位の管理者が設定する指示に従うことになります。報告の際は、進捗状況を確認するだけでなく、自主的により細かいチェックを行うこともお勧めします。定期的な状況確認のタイミングと内容としては次のような例が挙げられます。 日次: 毎日、研究室内を歩き回って、研究チームのメンバーと軽くおしゃべりして、お互いの進捗を把握しつつ情報交換する。毎日、数分のミーティングをするのも一案です。自分自身については、その日の「やるべきこと」を確認します。 週次: 研究チームとは、週に一度、一緒にコーヒーを飲んだり抄読会を開いたりして交流し、その機会に進捗を口頭で報告しあうことも有用です。進捗報告だけだと業務報告のような堅苦しいものになりがちですが、勉強会のような形にすることで、メンバーが自主的な立場で対等に参加する雰囲気となり、進捗報告や問題点の報告をめぐって前向きで自由闊達な意見交換につながりやすくなります。問題を抱えているメンバーがいれば、話し合いをする時間を別途設けることもできます。 月次: 各人が進捗報告を書きます。個々のメンバーと個別で面談をし、状況の確認を行います。 進捗報告に記すべき内容と目的 研究の進捗報告に盛り込むべき内容は、その時点までに得られた結果、進行中の実験、今後の計画および予想される問題などで、研究計画の全体をカバーするものであるべきです。そして、目標を達成し、適切かつ十分な情報に基づく決断および修正を行うかの判断を行う際の根拠とするためには、研究計画を定期的に見直す必要があります。 進捗報告の目的のひとつは、研究資金の提供者に対して、状況を伝えることです。研究に関わる人が求めている情報には、以下のようなものがあります。 研究がどのように進められているか。その進捗はどうか。…

学術界の根深い男女格差

1940年代には、欧米では「天才」は男性に特有な性質だという考えが広くあり、女性は種々雑多な仕事をこなすことに向いていると思われていました。しかし、戦時下で女性が重要な役割を担うケースが増え、特に信号傍受や暗号解読の分野での活躍は大きなものがありました。性別に関らず個人の特質に合わせた活躍の場を与えるというInclusion(インクルージョン)を通じて優れた才能の参画を促すことが、連合国側の勝利の一因となったことを歴史は示しているのではないでしょうか。 インクルージョンとガラスの天井 「インクルージョン」は、直訳では「包括・包含」の意味ですが、「ダイバーシティ」を発展させた組織における人員構成の有り方を意味する言葉として使われるようになってきました。多様な文化や背景、個人的特質をもった人を組織に受け入れること指す「ダイバーシティ」をさらに進めて、受け入れた多様な人が支障なく活躍できるために「異なる社会文化、個人的特質などさまざまな要素から生じる暗黙的な排斥や区別を取り払い、誰もが対等な関係で関わり合い、社会や組織に参加する機会を提供することを目指す」取り組みです。15年ほど前から米国を中心に使われるようになりました。 しかし顧みると、戦時下のインクルージョンは一時的なものだったようです。現に、暗号解読や計算機の発展に貢献した女性たちに対する社会的評価は続かず、間もなく忘れさられてしまいました。第二次世界大戦の終結後、約60年を経て『The Inclusion Breakthrough』(Frederick. A.Miller他著、2002年)、『The Power of Inclusion』(Michael C. Hyter他著、2005年)が出版されるなど、インクルージョンが再び注目を集めています。それでも、女性は科学技術などの先端で活躍しないという思い込みが依然として根強く社会に蔓延していると思われます。こうした思い込みは、学術界、IT業界、金融界などに広く浸透しているようです。学術界では性差による偏見が大きな話題になっています。女性研究者の割合が増加していることは事実ですが、女性が組織の上位職やトップに就くことに繋がっていません。女性がトップの米国の研究関連の組織は、国立小児保健発達局(NICHD)、国立科学財団(NSF)、アメリカ科学振興協会(AAAS)など僅かです。いわゆる「ガラスの天井」があるようです。 日本の女性研究者のプレゼンス 日本でも同じ状況です。研究関連の主要組織に女性トップが見られないだけでなく、女性のノーベル賞受賞者は未だ出ていません。内閣府男女共同参画局の調査によると、研究者全体に占める女性研究者の割合は徐々に増えているものの、2017年3月時点では15.7%に留まっています。諸外国と見るとアイルランドの47.2%を筆頭に、英国38.6%、米国の33.4%などであり、日本は大幅に下回っています。同2017年の大学等などに所属する研究者に占める女性の割合をみると、薬学・看護などの分野では女性が半数以上を占める一方、工学分野は10.6%、理学分野は14.2%に留まっていると記されています。 2017年11月に内閣府が発表した別の調査『科学技術と社会に関する世論調査』によると、女性科学者の割合が少ない理由の上位3つとして、「出産や育児による研究の中断からの復職が難しいと思うから」(68.2%)、「科学者の職場では、女性は孤立・苦労しそうだから」(36.8%)、「女性は、理科、数学、科学などに向かない、というイメージがあるから」(25.1%)が挙げられています。これは、一般の人たちを対象にした調査であり、必ずしも現場の実情を認識した上での回答ではありませんが、こうした理解が家族、友人、教育現場などに浸透している社会では理系の研究者を目指す女性が増えにくいのも事実でしょう。…

伝わる研究論文を書くために―鍵は文章力

研究論文の執筆で大切なのは、自分の研究内容や考察をわかりやすく正確に読者に伝えること。分かってはいるものの、なかなか満足できる論文を書き上げられない・・・・・・。そんなときには、論文執筆の落とし穴にも注意してみてください。 論文執筆の落とし穴 研究論文を執筆するときに陥りがちなのが、自分の伝えたい内容に気をとられるあまり、それを表す文章の書き方(句読点の使い方や文法)にまで意識が及ばない、ということです。しかし、読者に研究成果を分かりやすく伝える論文を書くには、文章力も非常に重要です。簡潔かつ、読者にしっかりと内容が伝わるような文章が書けるようになれば、きっと満足のいく論文を書き上げることができるでしょう。 研究者は長文好き? 一般の読者、あるいは他分野の研究者にとって難解であろう研究成果をできるだけ分かりやすくしようとすると、おのずと文章は長く、複雑になりがちです。しかし、それではよい論文には仕上がりません。難しい内容をいかに分かりやすく読者に伝えられるか、ここが腕の見せ所なのです。 例えば次の文章を読んでみてください。 In botany there are many factors that affect the…

Introduction to Review Articles: Writing Systematic and Narrative Reviews

Types of literature reviews Tips for writing review articles Role of meta-analysis Reporting guidelines

ジャーナル編集部とのコミュニケーションマナー

あなたが論文をジャーナル投稿して、幸いにもジャーナルの査読者がその採択を決定したとしても、「後は掲載されるのを待つだけ」というわけではありません。あなたが書いた論文がそのままのかたちで掲載されることはまずないと言っていいでしょう。必ず査読者や編集者から何らかの加筆・修正を求められるはずです。また掲載料などについて、事務的な連絡も少なくありません。そのため研究者には、論文執筆だけでなく、メールなどでの連絡においても、英語力が求められます。 今回は、ジャーナル編集部との英語でのメールのやりとりのさいに気をつけることを考えてみたいと思います。「5つのP (Precise, Polite, Passive Aggressive, Punctual, Patience)」と覚えて、編集部との円滑なコミュニケーションに役立ててください。 Precise(正確に) 日本語では、ていねいに書こうとすればするほど婉曲表現を多用する傾向があります。そのため、日本人が英語でメールを書くと長くなりがちで、英語を母国語とする人にとっては、要点をつかみにくくなる傾向があります。編集部への質問、依頼、提案などは、端的にまとめましょう。とくに英語力に自信がない人は、だらだらと書くのではなく、用件を箇条書きにするのも1つの方法です。表現に自身がなければ、英語を母国語とする友人にネイティブチェックしてもらったり、大事な内容であれば英文校正会社に仕上げを依頼したりしてもいいかもしれません。 Polite(丁寧に) しかし、端的に書くことと、英語を簡単なものにすることは同意ではありませんので、注意が必要です。あくまでもプロとしての距離を保ったコミュニケーションを心がけてください。とくに、英語やアメリカ文化に多少慣れてきたと思ったときには、この点を常に注意する必要があります。というのも、英語でのコミュニケーションは、日本語に比べてカジュアルな印象があるため、日本人のなかには、英語に慣れてくるとその違いに過剰反応し、表現を異常に簡単なものに省略し、フレンドリーになる人が見られるからです。日本語ほどではないかもしれませんが、英語でも敬語はコミュニケーションを円滑に運ぶための大切な表現方法だということをお忘れなく。 Passive Aggressive(受動的で攻撃的) メールを端的にかつ丁寧な文で仕上げるコツの1つとしてあげられるのが、「Passive Aggressiveな表現を削除する」ことです。「受動的で攻撃的(Passive…

プレゼンのQ&Aセッションを効果的に行う6ポイント

学会は、プレゼンを通して自身の研究を他の研究者に知ってもらい、意見をもらうのに理想的な場です。口頭発表かポスター発表か、発表する論文はショートペーパー(ページ数の少ない論文)とするかフルペーパー(ある程度のページ数のある論文)とするかなど、発表のやり方にもいろいろあります。学会以外でも、ラウンドテーブルやパネルディスカッション、ワークショップでプレゼンをする機会もあるでしょう。 いずれの形式にせよ、発表に伴うQ&Aセッション(質疑応答)の準備をしておくことは非常に重要です。プレゼンの後に寄せられる質問に対して説得力のある回答ができれば、聞き手に響きますし、自身の専門性を示せるいい機会にもなります。同時に、発表内容を確実に印象に残すことができるでしょう。とはいえ、ベテランの研究者でも不安を感じることの多いQ&Aセッション。成功させるためのポイントを見ていきましょう。 Q&Aセッションとは Q&Aセッションとは、聞き手が直接発表者に質問できる時間で、プレゼンの後に設けられるのが一般的です。質問内容は、発表の中で触れた特定の内容についてかもしれませんし、関連する研究、最近のニュース、もしくは研究テーマの背景についてかもしれない……そうです、質問内容がわからないという点がQ&Aセッションのもっとも難しいところです。 プレゼンの準備はできても、どんな質問が寄せられるか分からないQ&Aセッションの回答を準備しておくことはできません。発表に慣れている研究者でもQ&Aセッションを恐れる理由はここにあるのかもしれません。ただ、逆にQ&Aセッションを聞き手とコミュニケーションを取り、発表では触れられなかった、もしくは深く言及できなかった点を説明できるチャンスととらえればどうでしょうか。質問されることで、研究内容について気づかなかった見方や補強すべき点を発見できる可能性もある有益な機会ととらえることもできます。 効果的なQ&Aセッションを行うポイント 学会発表など、各種のプレゼンのQ&Aセッションを効果的に行うためのポイントはいくつかあります。 ・想定問答を作成する プレゼンの準備をする際に、一緒にQ&Aセッションの準備もしておきましょう。過去の研究発表における経験などを踏まえ、聞かれそうな質問を想定し、回答を用意しておくのです。 ・質問の方向性を定めるために明確な線引きをする 実際のQ&Aセッションの際は、プレゼンテーションの内容に対する質問のために設けた時間であること、その時間は限られていることを明言しておきましょう。質問者が自由に自分の意見を述べたり、発表をしたりする時間ではないということを理解してもらい、質問内容が発表内容と呼応するように線引きをしておきます。 ・質問のとっかかりを作る もし質問が出てこなければ、自分から例を挙げて質問しやすい雰囲気を作ってみましょう。例えば、「私がよく聞かれる質問は…」といった具合です。こうすることで、質問してほしい方向を示すこともできます。 ・わからないことは正直に 答えられない質問をされると神経をすり減らすものです。でも心配いりません。もし答えがわからなければ、その質問は研究の範囲を超えているとの見解や、もしくは、その解を得るためにデータを収集しているところだというような状況を率直に伝えればいいのです。取り繕ってあいまいな回答をするよりも断然いいでしょう。…

論文の自主撤回は研究者の経歴にマイナスか?

自分の研究の間違いに気づいた時、沈みこむような思いを感じた経験はありますか?例えば、実験を続けてきたサンプルのラベルに付け間違いが起こってしまい、細胞株が想定していたものとは異なっていたとしたら・・・・・・既に論文にして発表した実験の結論は、正しくなかったことになります。まったく想定外のこととは言え、自分の研究成果が学術界を意図せずミスリードしてしまうだけでなく、自分の実験を再現するために他の研究者の時間と労力を無駄にさせてしまうことになることでしょう。さらなる悪影響が生じる前に、論文を自主的に撤回しますか?論文を撤回すると、誤った研究結果を発表したことが学術界の知るところとなるほか、研究者としての経歴にどのような影響を及ぼすのでしょうか。 論文撤回の影響 研究結果を発表・報告することを目的に出版された論文を修正する方法には、訂正と撤回があります。訂正はあくまでも修正のレベルであり、論文に記された実験の結果の信頼性が疑われるような深刻な間違いなどが見つかった場合には、撤回となります。過去における論文の撤回の多くは研究者による不正に伴うものであり、学術雑誌(ジャーナル)の編集者が撤回を行います。一方、研究者が自分の間違いや重大な問題に気づき、自ら編集者に論文撤回を申請することもあります。自分の非を認めて自主的に論文を撤回することが歓迎されたとしても、不名誉な印象はつきまといます。今後、撤回論文の研究者が発表する論文を他の研究者は信頼して引用してくれるでしょうか? 研究資金の獲得に影響する恐れはあるのでしょうか?学術界で職を得ることができるでしょうか?論文撤回が否定的に見られる以上、不安は山積みです。 有難いことに学術界は、意図しない誤りによる撤回には寛容な姿勢を示す傾向があります。撤回を通じて研究者は誤りから学ぶことができ、同時に、ジャーナルは不適切な論文を除外することができるので、関係者にとっては有益です。従って、長期的に見れば、自主撤回を推奨することは学術界のためになるのです。 研究履歴に「論文を自主撤回した」記録が残ることで疑念を持たれるとしても、逆に自分の長所に変えてしまうこともできます。つまり、自主撤回は、その研究論文の執筆者が次のような資質を備えていると言えるのです。 誠実であること 自分を省みることができ(自省的)、自分の研究も批判的にみることができること 自分の考えに対し、批判を聞く耳があること 自分の誤りから学べること 自主撤回は推奨されるべき 発表した論文の間違いを執筆者が認めて撤回しなければ、その誤りは修正されないままとなってしまいます。そう考えれば、論文の撤回は推奨されてしかるべきことでしょう。とはいえ、研究不正を隠すため、あるいは不正行為に基づく研究を発表したとの疑惑を回避するために自主撤回することも考えられます。一、二度程度であれば自主撤回を悪用して不正を切り抜ける不誠実な執筆者がいるかもしれませんが、度重なれば学術界から疑念を持たれることになります。 不適切な研究論文が淘汰されることは望ましいことです。そして、学術誌は確実に自主撤回の悪用を最小限に抑える仕組みを考慮しつつ撤回に関する方針を作成することでしょう。学術界にとって自主撤回は確かな利益となりえるのです。 自主撤回するには ほとんどの著者は論文の撤回を自ら率先して行いたいと思いません。それでも間違いに気づいたら、学術雑誌の定める撤回のガイドラインに従って申請を行いましょう。ガイドラインとは、学術出版に従事する人たちが一定の質を確保し、その分野での一貫性を保持することに資するものです。学術雑誌により多少の違いはありますが、全般的な考え方は同じです。撤回の場合の手順は次の通りとなります。 共著者がいれば、その全員に、間違いと自主撤回の意向を伝える。…

指標に関するレポート『Profiles not Metrics』

クラリベイト・アナリティクスの学術情報部門である科学情報研究所(Institute of Scientific Information:ISI)は、2019年1月30日、『Global Research Report – Profiles, not Metrics』を発表しました。 研究の影響力(インパクト)を探ることは、学術出版社だけでなく研究者自身にとってもきわめて重要です。そこで、学術雑誌(ジャーナル)または出版された研究の影響力を計測するために、定量的な指標「メトリクス」が使われます。例えば、出版された論文が他の研究に引用された回数を計測するのはメトリクスのひとつです。学術出版および研究において広く利用されているメトリクスには、学術雑誌ベースと著者ベースの2種類があります。学術雑誌ベースのメトリクスは、掲載論文の平均引用回数を長年にわたって算出しているもので、学術界における学術雑誌の影響力を計測するのに役立ちます。一方、著者ベースのメトリクスは、学術界における著者の影響力を計測するものです。しかし、学術界はこれらのメトリクスが正しく利用されているか疑問を呈しており、今回発表されたレポートには、メトリクスについての考察が記されています。 『Profiles, not Metrics』が示すメトリクスの有効性 本レポートは、学術出版におけるメトリクスの有効性を取り上げると共に、学術雑誌または著者の学術界への影響力を測定することの短所について考察しています。…

査読レポートの公表は査読に影響するか?

研究者が実績を積み、経歴を高めていくために、論文の発表は必須です。しかし、論文を発表するには、査読プロセスで採択されなければなりません。査読の結果、学術雑誌(ジャーナル)の編集部がどのように掲載論文を選定しているのか疑問を感じている研究者が多かったことから、一部のジャーナルは査読の結果を「査読レポート」として公表することで応えています。 査読レポートは、査読の依頼を受けた研究者が、専門家の立場から投稿論文に対する意見や所見を示すもので、編集部が該当論文を出版するかどうかの判定を左右します。編集部が査読レポートを著者に送り、必要な修正を求めることもありますが、通常は非公開とされてきた査読レポートをプロセスの透明性向上のために公表することは、査読者の推薦判断に影響を及ぼすのではないかという新たな疑問が生じています。 今回は、査読レポートの公開に関する調査研究の結果を紹介します。 査読レポートの公表に関する調査研究 エルゼビアが発行する5誌を対象に、2010年から2017年にかけて査読レポートの公表が査読者の対応に影響するかを調査した結果がNature Communicationsに掲載されました。この調査にあたったのは、スウェーデンのリンネ大学、スペインのバレンシア大学、イタリアのミラノ大学、オランダのエルゼビア社の研究者のチームです。調査は次の4項目への査読レポートの影響に重点が置かれました。 1. 査読者が査読を引き受けるか否かの傾向 2. 論文を査読した結果の推薦判断 3. 査読に要する期間 4. 査読レポートの論調 この調査では、偏り(バイアス)を極力抑えるため、以下に配慮しています。…

Overcoming Challenges in Academic Writing: Tips for Writing Articles and Grant Applications

Importance of good English writing skills Application of English grammar Writing an impactful grant proposal…

データ利用可能性ステートメント(DAS)の重要性

公開された研究論文の根拠となっているデータの公開は、学術研究にとって不可欠なのか?そもそも、データは公開されるべきなのか?論文のオンライン化が広がるにつれ、研究データのオープン化に関する議論も活発化しています。知識の共有を促進することにより新たな知見を生み出し、科学の発展に大いに寄与することができる――との考え方を背景に、学術界でもデータ共有と利用促進が進められており、Data Availability Statement(データ利用可能性ステートメント、以下DAS)が注目されています。今回は、このDASについてご紹介します。 データ利用可能性ステートメント(DAS)とは DASとは 公開された研究論文のオリジナルデータを著者以外がどのように入手および利用可能かを示すものです。ここでいうオリジナルデータには、生データや加工データも含まれ、また状況に応じてデータへのリンク情報や引用情報(識別番号など)も対象となります。 なぜ論文中にDASを記載する必要があるのか 著者がDASを論文中に記載することで、研究に使用したデータセットを著者以外も効率的に再利用・再分析することが可能になり、研究の再現性が高まり、ひいては研究分野の更なる発展へとつながっていくことが期待できます。 DASの掲載箇所 DASの掲載箇所は学術雑誌(ジャーナル)の書式にもよりますが、たいていは参考文献の前に記載されることが多いようです。 DAS情報の形式 著者にはデータの登録を促進し、利用者には再利用しやすいよう、DASによる情報公開はFAIR原則と呼ばれるデータ共有の基準に従って行われます。FAIRとは、Finable(見つけられる)、Accessible(アクセスできる)、Interoperable(相互運用できる)、Reusable(再利用できる)の頭文字を取ったもので、データ公開の実施方法を示しています。基本的に、研究データは誰もが簡単にダウンロードして再利用・再分析しやすいように管理・共有されていることが求められており、DASは以下のような形式で表すことができます。 ・要請に応じてデータを提供する 倫理的な理由から、公開に適さないデータは、要請に応じてのみ利用可能とすることができます。例えば、被験者から入手した情報をすべて開示することができなくても、病院などの第三者から入手した情報によっては開示できるものもあるような場合、情報提供が可能な人について情報開示が制限される理由と詳細を明記する必要があります。 ・データを補足文書や論文中に記載する データを補足文書あるいは論文中に記載します。ジャーナルでは、補足文書にデータをまとめるのが一般的です。 ・データを公開リポジトリに登録する…

科学における仮説を立てるときの注意

科学における仮説とは、研究における「問い(命題)」を設定し、予想される「結論」を記述するものです。仮説の設定は、科学実験の基盤をなす研究手法に組込まれているものなので、注意深く厳密に行う必要があります。仮説に、たとえ小さくとも不備な点や欠陥があると、実験に悪い影響が生じかねません。よって、堅固で検証可能な仮説を立てることが重要です。検証可能な仮説とは、実験によってその仮説が正しいか間違っているかを証明することができることを意味します。 検証可能な仮説の重要性 科学的な方法に基づいて、実験を計画して実行するには、検証可能な仮説が必要です。科学的な仮説が検証可能であると判断するためには、次のような基準を満たしていることが不可欠です。 1. 仮説が正しいことが証明される可能性があること(検証可能であること)。 2. 仮説が誤りであることが証明される可能性があること(反証可能であること)。 3. 仮説の結論に再現性があること。 こうした基準を満たしていなければ、仮説とその結論は曖昧なものとなってしまい、実験の結果としても、なんら有意義なことを立証も反証もできないことになってしまいます。 有効な仮説をどのように設定するか 検証可能な仮説を立てることは、簡単ではありません。科学的な実験の目的と、予測される結果について、明確に示すものであることが求められます。的確で説得力がある仮説を組み立てるために、考慮すべき重要なことがいくつかあります。 1. 答えを導こうとしている問題を定義する 仮説によって、実験の命題と注目点が明確に定義されている必要があります。…

アンケート調査を行うときの要点

ほとんどの調査研究では、データの分析が必要です。アンケート調査は、必要な情報を収集するために有効な方法です。例えば、薬物治療の効果を調べるための臨床研究や、人々がアレルギーにどのように対処しているかを知るための統計分析などに利用されます。こうしたアンケート調査によって新しい事象が見つかり、新規の研究に繋がり、ひいては新たな解決策が開発されることになるかもしれません。 アンケート調査を行うときに留意すべきこと 適切な科学的調査のためのアンケートを作成するには、次の点に留意することが必要です。 1. 調査のテーマと収集すべきデータの項目を明確にすること 2. 明瞭で、一貫性を備えた調査様式を準備すること 3. 回答者に対する説明、依頼は明瞭かつ簡潔に行うこと 4. 質問は簡明な文書で記すこと 5. 質問および説明文に書き込む用語の定義は明確に示すこと こうした点を心がけることで、調査を円滑かつ回答におけるミスを少なく進めることができるでしょう。 アンケート調査の強みと弱み…

オーサーシップにまでジェンダー格差が!?

学術雑誌(ジャーナル)には、 オーサーシップ についての倫理的な問題が常に存在しつづけており、特に論文著作者が適正に公表されない「不適切なオーサーシップ」問題が顕著です。さらに、女性研究者を著者に加えないなどの不平等も問題視されています。オーサーシップにまでジェンダー格差があるのでしょうか?

A Masterclass on Research Reporting and Ethical Reproducibility in Life Sciences

Standard research reporting guidelines Critical issues in research reporting Primary reasons for low reproducibility Transparency…

カバーレター

カバーレターとは論文を投稿する際、原稿に添えて編集者宛に書く手紙のことです。カバーレターは編集者にその研究を紹介する役割を果たし、研究の重要性やそのジャーナルへの適合性を訴える機会となります。論文採用の成否に大きく影響を与えるものですので、軽い気持ちで書くべきものではなく、内容をよく考えたうえで、論文と同じくらい念入りに作成すべきです。

論文を投稿するジャーナルを決める

ジャーナルの目的や注目度 ジャーナルの質の評価と重要指標について ジャーナル検索ツール オープンアクセス

外国人留学生は日本の大学を救えるのか

日本人の少子化傾向対策として、積極的に外国人留学生の受け入れを行っている大学もあり、外国人留学生の数は確実に増加しています。独立行政法人日本学生支援機構による平成29年度外国人留学生在籍状況調査結果によれば、2018年5月1日現在の留学生数は298,980人で、前年比 31,938人(12.0%)増でした。この調査は、大学院、大学、短期大学などの高等教育機関および日本語教育機関を対象に行われたもので、特に増加率が高かったのは、短期大学(27.4%)。次に専修学校(専門課程)(14.8%)と日本語教育機関(14.5%)が続いています。高等教育機関の留学生数は、前年比増加数は20,517人(10.9%)となっており出身地域の割合ではアジアが突出しています(93.4%)。 留学生30万人計画 外国人留学生増加の背景には、政府の政策による後押しもあります。日本政府は2008年に「留学生30万人計画」を発表しました。これは、少子高齢化、人口減少の進む中で優秀な人材を呼び込み、日本の国際的な人材強化につなげることを目指し、留学生の数を2020年までに30万に増やそうとするものです。日本学生支援機構の調査結果を見ると、昨年5月時点で該当計画の政府目標はほぼ達成したことになりますが、留学生の実態が報道され、新たな社会問題と化しています。政府の政策が、教育政策というより産業政策だったのではないかとの指摘もあり、この計画が当初目指していたような「世界により開かれた国」にはなっていない現状が明らかとなっています。とにかく来る者を拒まずの受け入れを推奨した結果とも言われ、その割には留学生が学位取得後に日本で活躍できる仕組みが整っていないために、せっかく育てた人材が欧米などの他国に移って行ってしまうという事態に陥っています。 日本国内の大学で外国人留学生の受入数が多い大学 国際教養大学や国際基督教大学のように国際性を重視し、特殊なカリキュラムを有する特色のある大学以外にも、積極的に外国人留学生を受け入れている大学は多数あります。日本学生支援機構の外国人留学生受入数の多い大学を上位から並べると、早稲田大学(私立)5,412人、東京福祉大学(私立)5,133人、東京大学(国立)3,853人、日本経済大学(私立)3,348人、立命館アジア太平洋大学(私立)2,867人となっていました。 しかし、残念ながら外国人留学生を受け入れている大学のすべてが勉学に集中できる環境を提供しているとは言えないようです。大半の学生が授業料や渡航費を支払うためにアルバイト漬けになって授業に出ていない大学もあることが分かっています。受入数上位に入っている東京福祉大学は、2019年4月に大量の外国人研究生が行方不明になっている実態が明らかになったと報道されました。2016年度から昨年度までの3年間に1400人の行方が分からなくなっていたため、文部科学省の調査が進められています。日本に留学してくるために多額の借金を抱えている学生が授業に出る間もなくアルバイトに追われる反面、記者会見で元総長が「金儲け」のために留学生を大量に受け入れていたと告発したため、大学側の姿勢が問われる事態となっています。しかし、これは東京福祉大学だけの問題ではありません。他の地方大学でも授業料が払えないという経済的な理由により、留学生が卒業することなく退学・除籍となっています。気の毒なのは「留学生30万人計画」の影で食い物にされている留学生です。大学側の受け入れおよび管理体制が不十分であることも一因ですが、拙速な計画推進が社会問題を生み出したとも言えるのではないでしょうか。 一方で、適正な学習環境を提供し、世界的にもユニークな大学としての評価を獲得している大学もあります。立命館アジア太平洋大学(APU)には約6000名の学生がいますが、そのうちの20%弱が大学のある九州地区からの学生です。残りの80%を超える学生は、九州以外、国内外から大分県の当校に集まってきています。全学生に占める国際学生の割合は約50%。2018年5月時点では、世界88ヶ国・地域から学生が集まってきているそうです。このような取り組みが評価され、同校はイギリスの高等教育専門誌タイムズ・ハイヤー・エデュケーション(THE)による「THE世界大学ランキング日本版2018」の『国際性』では私大で1位、同じくイギリスの高等教育評価機関クアクアレリ・シモンズ社による「QS世界大学ランキング2018アジア地域編」でも『国際性』で100点満点を獲得しています。しかも、日本の大学でありながらAPUは英語と日本語を公用語としており、講義の多くは二言語で行われています。 日本の少子化が大学を揺るがす 少子化で学生が足らない―とはよく耳にするものの、どのぐらい深刻なのでしょうか。 日本の18歳人口は、第二次世界大戦後のベビーブーム世代が18歳となった1966年の249万人をピークに減少に転じ、2014年には118万人となりました。その後は119万から120万人と多少持ち直しましたが、2018年は118万人と再び減少傾向となり、2031年には100万人を割り込むことになるだろうと予測されています。この少子化傾向は高等教育機関に直接的な影響を及ぼします。進学率が上昇しても学生総数自体が少なくなっているため、選り好みしなければすべての若者が高等教育機関に入学できるほどの状況なのです。日本の大学生数は2018年の65万人から、2031年には48万人に減ると予測されています。学生数減少は授業料収益の減少に直結し、大学にとっては死活問題です。2014年には私大の約4割は定員割れを起こしており、地方の国公立大学は2018年以降に財政難が表面化してくると予想されます。これが大学の「2018年問題」です。進学率は既に頭打ち、定員割れの大学の増加、大学間の統廃合や廃校など、大学にとっては生き残りをかけた戦いです。私立大の中には、学生を集めるために首都圏郊外のキャンパスを、都心部に移す動きも活発化しています。また、文科省は、大学の経営支援策を検討しており、国立大学法人について複数の大学をグループ化して経営できるような法改正を検討している他、政府も地方大学振興に関する新たな交付金を予算計上するなどの策を講じています。とはいえ、18歳人口の減少が止められない以上、大学の統合・縮小には歯止めがかからないと見られています。 ところが、驚くことに大学の数は増えています。2017年時点での日本の大学数合計は780校。2016年に前年より減少したのを除けば、1950年代からひたすら増え続けてきました。780校の内訳は、国公立が176校で、私立が604校。先に述べたように18歳人口が減少すれば、当然国外から学生を連れてこなければ学生数は確保できません。大学にとってグローバル化を進めるのと平行して、外国人留学生を増やしていくことは不可欠なのです。 現役の学生達の多くは、上の世代と比べて外国人が珍しくない環境で育ってきています。しかも、完全にボーダーレスなインターネットが普及する中、今の学生と親世代では「国境」や「グローバル化」の意識に大きな隔たりがあることも想像できます。今後は、日本の大学に進学しながら多様な国からの留学生と席を並べ、国際的な環境で学ぶ学生が増えることでしょう。   こんな記事もどうぞ…

Insights into Assigning Authorship and Contributorship, and Open Access Publishing

Early-stage researchers Doctoral students Postdoctoral researchers Established researchers

論文投稿を成功させるための手引き(入門者向け)

出版までの段階と論文の下書き 倫理ガイドラインと著作権侵害の回避 投稿方法と要件 再投稿と査読者への回答

投稿規定、論文の様式

各学術ジャーナルには、それぞれ独自の 投稿規定 があります。大抵の場合、それらの規定はジャーナルのウェブページに「Instructions for Authors」、「Information for Authors」、「Instructions for Contributors」などのような表題で記載されています。論文を投稿する前には必ず一度確認してください。 通常は投稿規定の中に論文の書式についての指示があります。書式は分野によって大きく変わり、同じ専門分野の中でもジャーナル間に様式の多少の違いはあります。しかしそれでも、それぞれの分野の標準的な様式に従う場合が多いです。 以下のウェブサイトには主要な様式やスタイルのリストが記載され、役に立つウェブサイトへのリンクもさまざまな種類のものがあります。中にはそれぞれの様式のマニュアルへのリンクもあり、場合によっては無料でダウンロードできる、あるいはウェブ上でご覧になれるものもあります。 Know Which Style To…

学術界以外での就職先候補

博士号を取得しても、学術界以外での就職を考える人たちは少なくありません。その背景は、研究や教職を一生の仕事にする気になれない、研究職を続けるのは現実的に厳しい、実業界で働きたい、自分の経験とアイデアで起業したいなど多様でしょう。博士号を取得した学生の就職を支援するFindAUniversityが運営するサイト「FindAPhD」に掲載された英国における最近の調査では、博士課程の学生の80%が、研究職を一生の仕事にするのは難しいと考えていると報告されています。とはいえ、学術界以外の就職先を選ぶ場合、どのような就職先を考えるかは大きな問題です。そこで、学術界以外での就職を目指す博士号取得者が 就職先候補 を検討するにあたって、参考になる情報を紹介します。 他でも使える博士課程で身につけたスキル 就職先候補を考えるにあたって、自分のスキル(能力)を振り返って見ましょう。博士号取得までに身に着けたスキルは、他でも十分に活用できます。その例をいくつか挙げてみます。 データ分析力:複雑なデータを解析し、解釈する力 問題解決力:実験などの課題に取り組み、その過程で幾多の問題に取り組んできた経験と解決力 発表力:学会などの成果発表で培った能力 執筆力:文章を書き、論文や書籍などの出版物としてまとめる力 遂行能力:最小限の助力で大きな仕事をやり遂げる力 企画・運営力:学会などのイベントを企画・運営する力 協調力:共同研究やチームでの論文執筆などで、国籍や経歴も異なる研究者と協力して仕事をすすめた経験と、それを可能にした協調力 理系学生の就職先候補 上に挙げたような能力・経験を生かせる就職先は数多くあります。特に、理系学生の場合、専攻学問よりも広い視野で職種を考えてみるとよいでしょう。ここでは、候補に成り得る一般的な職種を紹介し、それらの特徴やその職種が求められる業種を例示します。 研究開発(R&D):学術研究の経験は、産業界での研究開発職にもそのまま生かせます。業種としては医薬品製造業などが挙げられます。…

「ミラージャーナル」はプランS対策になるのか

従来の出版ビジネスモデルからオープンアクセス(OA)モデルへの以降が急速に広がりつつありますが、学術コミュニティと出版社の攻防は尽きません。そこに登場したのが「ミラージャーナル」なる出版形態。OA出版をめぐる論争の解決策になるのでは――と考える出版社もいるようですが、その実態はどうなのでしょうか。 ミラージャーナルとは ミラージャーナルとは、既存の購読しなければ読めない学術雑誌(ジャーナル)の完全に同一な内容ながら別モノとして公開されるOAジャーナルです。オリジナルなジャーナルにとっては鏡に映したように同一の内容であるため「ミラー」と表現されているもので、既存のジャーナルに別のISSNを持たせてOAで提供されます。タイトルはもちろん、出版に至る投稿、編集、査読の一連の流れはまったく同じものです。このミラージャーナルが、評判のよいOAジャーナルでの論文出版を望む研究者にとって、解決策となるかもしれないとの意見がある一方、反対意見もあり、賛否両論です。 サブスクリプション・モデルvsオープンアクセス・モデル 近年、インターネットの利用拡大や、科学研究の透明性向上と論文を利用しやすい環境整備に向けた後押しなどにより、OAジャーナルの数は増加の一途をたどっています。OAジャーナルでは、購読料を支払うことなく論文の閲覧が可能になることから、読者を広げ、引用数を増やすといった効果にもつながっています。 とはいえ、まだまだ多くの著名かつ需要の高いジャーナルが購読料を払った人だけが読める「サブスクリプション・モデル」の上に成り立っており、これに依存している学術出版社がOAへの完全な移行を渋っているのが現実です。科学雑誌「サイエンス」を出版するアメリカ科学振興協会(American Association for the Advancement of Science: AAAS)の最高責任者であるRush Holtのように、出版社は各種事業の運営を収益で賄っているため、購読契約に基づくビジネスモデルがなければ事業の継続は難しいと考える人は少なからず存在します。誰もが購読料を支払うことなく論文を読める「オープンアクセス・モデル」に反対する人は、当然ながら2020年以降、論文を即座に無料で公表することを義務づけるという構想「プランS(Plan S)」にも反対しています。…

How to Write Persuasive Academic Book Proposal

Elements of a book proposal How to find the right publisher Proposal Submission guidelines Open…

「あがり症」を克服して発表するためのコツ

学術に身を置く以上、研究発表からは逃れられません。とはいっても、壇上に上がって発表するよりも、数名の仲間と研究室で静かに過ごすほうが好ましいと感じている人も多いのではないでしょうか。聴衆の前に出て研究発表をするときに緊張してしまうのは、誰もが経験することです。ここでは、どうすればいわゆる「あがり症」を克服して自信をもって発表ができるようになれるかを考えてみます。 やっかいなあがり症 研究発表をしようと壇上に上がったものの、緊張のあまり固まってしまった。このような経験をした人は多いと思います。心臓がバクバクし、膝が震え、冷や汗をかいたり胃がきりきりと痛みだしたり・・・・・・人前で話をしようとするときによく見られる反応ですが、出方は人それぞれです。あがり症、つまり人前で話をしたりする時に感じる緊張や不安は、反応の出るタイミングが特定されます。非日常的なシチュエーションで生じるという意味で、日常的な(普通の生活)で生じる不安感とは異なるものです。しかし、「あがる」ことが予測できたとしても厄介な反応であることは変わりません。あがり症怖さに、大きな会議で自分の研究成果を発表する機会や、与えられた講演のチャンスを逃すのは避けたいところです。 あがり症を克服するためのコツ 人前で緊張し、不安になる―あがり症は、多くの人が抱える悩みだけに、さまざまな対処法や克服法があります。ここでは、そのうちのいくつかをご紹介したいと思います。 ■ ひたすら練習あるのみ! 実際に声を出して発表の練習をすることで備えることができます。緊張しやすいのに、練習を怠れば、発表当日に不安が募るのも当然です。徹底的に練習をしておけば、自信を持って本番に臨むことができます。鏡の前で、ペットに向かって、そして家族の前で、何度も練習しておきましょう。練習をすることで話の矛盾点やおかしな部分に気付き、修正しておくこともできます。準備を入念にすればするほど、本番が楽になるはずです。 ■ 呼吸を整える 緊張や強い不安を感じると、呼吸が浅く、早くなるものです。呼吸が早くなり、鼓動も早くなってしまうと緊張を増幅させます。まずは落ち着いて、お腹の底からゆっくりと深呼吸してみましょう。10回ほど繰り返すとおのずと気持ちが落ち着いてくるはずです。そして、発表するときには、深く息を吸い、お腹から声を出すようにしてみてください。発表の時に意識して、大きく、ゆっくり呼吸することで冷静さを保ちつつ、発表を進めることができるようになるでしょう。 ■ 成功をイメージする-ポジティブシンキング イメージトレーニングは、運動選手やビジネスリーダー、人前で何かをする機会の多い人がよく取り入れる方法です。勝てる自分、成功する交渉、うまくいく情景など、ポジティブなイメージを頭に描きます。発表が非常にうまくいき、聞き手が何事も聞き漏らすまいと前のめりになっているという情景をイメージするのです。発表する目的や内容を事前にしっかり確認して、何のために何をするかを意識し、そのことがうまくいく具体的なイメージを持って壇上に上がれば、緊張は軽減されるでしょう。むしろ緊張感を楽しむというくらいの気分になれるかもしれません。 ■ マイナスの事態も想定しておく 人は先行きの見えない状況に不安を覚えるものです。そこで、事前に想定問答(もし、こんなことが起きたらどうしよう)をしておくのも一案です。うまくいかなくなりそうな、あらゆる事態を予想し、その場合どうしたらいいか、を考えておくとよいでしょう。マイナスの事態、あるいは最悪の状況を覚悟しておけば、何が起きても対処できるでしょうし、おのずと不安からも解放されるというわけです。 ■ 持ち時間の配分 与えられた時間内に発表をまとめることは大切です。また、配分も重要です。30分間と考えると気が重くなってしまいますが、内容ごとに時間を配分し、短時間、例えば5分間の発表の積み重ねと考えれば気が楽になりませんか。壇上に上がったら、5分間ずつを段階的にこなすことに集中しましょう。そうすれば、あっという間に発表が終わっていた、となることでしょう。…

DOAJオープンアクセスに関する2018年調査結果

オープンアクセスが実現可能なモデルとして注目されながらも、エルゼビア社と欧州の研究機関の抗争がこう着状態に陥るなど、学術出版の問題はまだまだ解決しそうにありません。このような状況の中、2019年1月9日にオープンアクセスジャーナルのディレクトリであるDOAJ(Directory of Open Access Journals)が2018年に行ったオープンアクセス(OA)に関するアンケート調査の結果を発表しました。 DOAJのアンケート調査 まず、DOAJとは何かに触れておきます。DOAJは2003年にOpen Society InstituteとSPARC(Scholarly Publishing and Academic Resources Coalition)の支援の下、スウェーデンのルンド大学図書館がOAジャーナルの包括的なデータベースの構築と利用拡大を図ることを目指して設立したOAのディレクトリです。登録されているOAジャーナルは多分野にわたり、12000誌に達しています。登録に厳格な基準を設けることで信頼性を確保するとともに、キーワードやタグ検索を可能にするなど研究者にとって利便性の高いデータベースを提供しています。 1月に結果が発表されたアンケート調査は、DOAJが2018年夏、登録している6000を超える出版団体/組織を対象に行ったものです。出版団体/組織のタイプ、地理的分布、DOI(デジタルオブジェクト識別子)の利用、論文のメタデータなどについての質問に対し、回答が寄せられました。複数の学術雑誌(ジャーナル)を所有していても1団体/組織につき1回答として得られた1065の結果から、世界のOA出版の傾向が見えてきました。…

small talk:会場や開催地を話題にする

一般社団法人 学術英語学会 では、毎年、セミナーを開催しており、その中でもユニークな企画として好評なのが「ソーシャライジングとネットワーキングのための英語」です。一般的に、日本人研究者がニガテとしているのが「ソーシャライジング」または「ネットワーキング」、いわゆる 研究者交流 です。親睦会などの場でどのように話しかけたらいいのか―シリーズ第9回目のSmall Talkです。 small talk:会場や開催地を話題にする Small talkの定番の三つ目の話題は、場所です。国際学会の会場や開催地の話題は、現に会話を行っている空間そのものを話題にするのですから、実感や直接的な観察にもとづいた話ができるはずです。天気のところで述べたような共通感覚に訴えて、“It’s a nice building, isn’t it?”のように会場の建物を褒めてもよいでしょう。…

A Researcher’s Guide to Preprints—Importance & Benefits to Authors

History of Preprints Benefits of Preprints Preprint Policies Future of Preprints

論文の出版にかかる費用はいくら?

ジャーナルの出版には、膨大な時間と多大な経費がかかります。投稿されてきた論文が規程に沿ったものかを調べる事務的な作業から、査読者を探したり、複数の査読者の論評をまとめて著者へ連絡を取ったり、最終的にジャーナルへの掲載が決まれば、細かなフォーマットや誤字脱字を確認したり・・・。大学によっては、ジャーナルの編集にかかわることも職務の一環と見なし、編集長を任された教授に対して学内業務の削減などの援助を行っているところもあるようです。また、大学院生や学部の事務員が無償で手助けをしているケースも多く見られます。 それでも、印刷物を発行するジャーナルでは、印刷代だけでかなりの費用がかかります。そのため、多くのジャーナルが会員制を取ったり、会員以外の人への年間購読を斡旋したり、特定号のバラ売りしたりするなど、その経費を賄おうと必死です。このようなジャーナルの利点は、投稿する研究者へ掲載費を請求することが少ないということでしょう。しかしその反面、せっかく掲載されてもジャーナルの定期購読者(学会誌であれば学会員)以外には読まれる機会が少ないという弱点があります。 そのうえで昨今ではジャーナルの購読料が高騰しています。『Library Journal』の調査では、どの分野でもジャーナルの購読料は2013年から2014年にかけて6〜7%値上げされています。また日本の大学の図書館では、2004年から2012年にかけて電子ジャーナルの購入費が1000万円弱から3000万円近くへと激増していることが文部科学省の調査でわかりました。 そのため、たとえば名古屋大学を含む複数の大学が、大手出版社が出しているジャーナルをまとめて読める「パッケージ契約」を解約し、研究者個々人が必要とするジャーナルだけを購入するように方向転換しています。2012年には、著名な研究者たちが学術出版最大手のエルゼビア社へのボイコット−−投稿しない、査読しない、編集協力しない−−を呼びかけたことが話題になりました。 一方、読者を定期購読会員に限定することを基本とする伝統的なジャーナルとは別に、「オープンアクセス・ジャーナル(open-access journals)」といって、インターネット上で誰でも閲覧ができるジャーナルも激増しています。このようなジャーナルには、掲載されれば多くの人に読んでもらえるという魅力があります。しかしその反面、掲載時に、出版費(publication fee)またはAPC (article processing charge)と呼ばれる手数料を投稿者へ課すこともありますので要注意です。これらの費用の額は雑誌によってかなり違いますが、たとえばSpringer(シュプリンガー)社では3000ドル、『分子システム生物学(Molecular Systems Biology)』では3500ドル、BioMedCentralが出版するジャーナルでは1600ドルから1800ドル程度という数値が出ています。 また、『大気化学・物理学雑誌(Journal of…

学術雑誌の「質」の評価基準とは

研究者なら誰でも、研究成果を評価が高い学術雑誌(ジャーナル)に発表したいと考えるのは当然でしょう。著名な学術雑誌に発表することは、研究者の評判の向上や研究資金の獲得のチャンス拡大につながります。研究論文を投稿する学術雑誌を選ぶ際、もちろん一番大切なのは、論文のテーマと学術雑誌の方針が一致しているかですが、その上で、質の高い学術雑誌を選ぶ必要があります。学術雑誌の総合的な評価を比較する際、研究者はジャーナルのインパクト・ファクター(JIF)を参照するのが一般的です。しかし、JIFには良い点だけでなく、欠点もあるのです。では、学術雑誌は、どのような基準で評価されているのでしょうか? それを紹介しましょう。 https://www.youtube.com/watch?v=RQRHKjolbNE 学術雑誌の「質」の評価基準 論文を発表する学術雑誌を選ぶ際に、最初に頭に浮かぶのは、多分その分野の最良の研究を掲載し、ターゲットとする読者に届きやすい雑誌でしょう。質の高い雑誌は、最も広く読まれ、また話題になることも一番多いと推測されます。これらを踏まえると、学術雑誌の質は主に次の3つの基準で評価することができます。 引用統計 上でJIFに欠点があるといいましたが、それでもこの指標は重要です。 JIFは、一定の期間に対象の学術雑誌が引用された平均回数を示します。 査読の有無 投稿論文の分野の専門家が査読をしているかは、重要です。 発行部数と読者層へのアクセス ターゲットとする読者層に使われるインデックスサービス(論文検索サービス)に、該当の雑誌が収録されているかを考慮すべきでしょう。インデックスサービスの例としては、エルゼビアの提供するScopusや、医学分野ではアメリカ国立医学図書館のPubMedなどがあります。 この3つの評価基準の1つだけを取り出して雑誌の質を評価することはできません。それぞれに長所と短所があります。オーストラリアのWollongong大学の研究からその要点を挙げてみます。 引用統計: 引用の多さは、定量的で、定期的に計測され、計測が中立的に行われており、雑誌の普及度を測る指標として意味があります。一方、質の評価の面では疑問があります。その理由は、引用数が高いからといって良い研究とは言えない、関わりのある執筆者同士が頻繁に相互引用しあう傾向がある、引用分析データベースは英語を使う国で運用されているため英語使用国に有利に働く、レビュー論文(総説論文)がオリジナル論文より引用回数が多くなる傾向がある、などです。 査読の有無:…

幹細胞を使った脊髄損傷治療は急ぎすぎか

さまざまな細胞を作ることができる 幹細胞 という言葉を耳にするようになって数年。あっという間に幹細胞を使った治療が脚光を浴びるようになりました。幹細胞を使うことで、かつては不可能だった治療が可能となるなど、患者にとっては大きな希望をもたらす反面、新しい治療方法・医薬品の効果や未知の影響が物議を醸すこともあります。幹細胞を使った脊髄損傷治療薬の承認もそのひとつです。 世界で初めて承認された脊髄再生治療薬 2018年12月28日、脊髄を損傷した患者自身の幹細胞から脊髄を再生し、損傷を治療するための医薬品を製造販売することを厚労省が7年間の条件付きで承認しました。条件付きとはいえ、世界初です。この細胞製剤を開発したのは、札幌医科大の本望修教授と医療機器大手ニプロ。当面、治療を行う場所は札幌医科大、対象は損傷を受けてから数週間の患者と限定されていますが、今まで脊髄損傷への有効な治療法がなかったため、この薬には大きな期待がかけられています。 ここまでの経緯を見ると、2013年12月に札幌医科大で実施された治験に遡ります。この治験結果を踏まえ、2018年6月にニプロが厚労省に承認申請を行い、同年11月21日に厚生労働省薬事・食品衛生審議会の再生医療部会がこの医薬品の販売を条件付きで認めるとの意見をまとめました。そして、12月28日に札幌医科大学が、厚生労働省から「条件及び期限付承認」を取得したことを発表。治験では13人中12人の症状に改善が見られ、副作用もなかったと報告されていますが、症例数が13人と少ないことから、7年間という期間内に有効性と安全性を確認し、正式に承認されることになりました。また、承認条件として、この治療を行う医療施設および医師について「緊急時に十分対応できる医療施設において、脊髄損傷の診断・治療に対して十分な知識・経験を持つ医師のもと」と指定されていることから、当面の治療実施場所は札幌医科大に限定されます。今後、投与患者の全例調査が行われ、投与群(製品を投与した患者)と対照群(投与しない患者)を比較することで承認条件評価を行うことになります。 2019年2月26日、ニプロはこの細胞製剤「ステミラック注(一般名:ヒト(自己)骨髄由来間葉系幹細胞)」が薬価基準リストに収載されたことを発表しました。厚生労働省が、最先端の新薬などを少しでも早く実用化することを目的に2015年4月に創設した「先駆け審査指定制度」の再生医療等製品としては初の承認です。これにより4月以降、販売が開始されることになります。医療機関などで保険診療に使われる医療用医薬品として官報に告知されるのに先立ち、安全性を確保するため、厚生労働省は2月25日付で、脊髄損傷に伴う神経症候及び機能障害の改善を目的としてステミラック注を使用する際の留意事項を「最適使用推進ガイドライン」としてまとめ、各都道府県宛てに発出しています。薬価は1回分で1495万7755円。驚くべき額ですが、保険に加えて高額療養費制度が適用されるので、患者の負担は軽減されます。 国外研究者の懸念 ステミラック注は、脊髄損傷治療用の再生医療等製品です。患者から骨髄液を採取し、神経などに分化する能力のある間葉系幹細胞(MSC: Mesenchymal Stem Cell、神経や血管などいろいろな種類の細胞に分化する能力をもつ細胞)を取り出して培養。細胞製剤に加工したものを希釈して点滴注射すると、神経の再生を促すとされています。患者自身の細胞を利用すること、治験では効果が確認されていること、ガイドラインの作成など、対応に問題はないように見えますが、国外研究者からは懸念する声も聞かれます。 2019年1月24日のネイチャーに投稿された記事は、日本は幹細胞治療薬の販売を急ぐべきではないと警鐘を鳴らしています。大学が治療に関する広報に直接関わることは、一般の人に誤解を生む可能性があると懸念していることのほか、13人に行われた治験で12人に改善効果が見られたと報道されているものの結果が公開されていないこと(このネイチャー記事が書かれた時点で本望教授は論文を準備中と述べている)、この医薬品が先駆け審査指定制度の対象として認可されたものであることなどを指摘しています。先述の通り、先駆け審査指定制度は、最先端の画期的な治療薬を早く市場に提供することを目指すものです。ステミラック注は、2016年2月に本制度の対象と指定され、2018年6月に承認申請、12月に承認(条件付き)というスピードで市場に出ることになりました。再生医療を対象にした先駆け制度では初の承認となりましたが、慢性的な患者への有効性は確認されていません。また、問題視されているのは承認スピードだけではありません。新しい治療方法については、その方法が市場に出る前に数百の患者への厳しい治験が求められるのが一般的なのにも関わらず、今回わずかな改善例に基づき承認されたことも指摘されています。新薬(被験薬)の効果や有効性を確かめるための比較試験であるダブル・ブラインド(二重盲検)試験が行われていないことを懸念する研究者もいます。 カリフォルニア大学サンフランシスコ校の幹細胞研究者Arnold Kriegsteinは、新薬として販売されるようになってしまうと、研究者がその薬の効果を立証することが難しくなると述べています。治療に対してお金を払うことが一種のプラセボ効果(薬の作用によらない暗示的な治癒効果)を起こしてしまうので、その薬の効果を知らずに行われる試験(ブラインド試験)とはならず、本当の効果がわかりにくくなると言うのです。患者の心理としてはやむを得ないと思いますが、本当の治療法の効果が証明されないまま市場に出続けてしまうことを懸念する国外研究者の意見も一理あるように見えます。…

ポータブル査読(査読結果の転送)の試みは進んだか

論文の出版が研究者にとって重要であることは言うまでもありません。研究者が投稿する論文のほとんどは、査読を経て出版されることになります。査読者は、提出された論文を批判的に読み、学術雑誌(ジャーナル)に掲載するか不掲載とするべきかの意見を編集委員に提出します。その過程で、補強すべき点を執筆者に指摘することもあります。査読が行われていない論文は、研究の信頼性や発想に疑念を持たれかねないため、査読の意義は大きいのです。しかし、査読を行うには多大な労力と時間がかかり、平均的に約80日かかるとも言われています。少しでも早く研究成果を発表しようと競いあっている執筆者にとっては長い待ち時間であるとともに、新しい発見・発明が世の中に出るのを遅らせる要因ともなっていると指摘されています。また、増え続ける研究論文数に対して、従来の査読制度では対応が追いつかないということも問題となっています。そのため、査読制度そのものを見直そうとする動きが起こっており、そのひとつが「ポータブル査読」です。 ポータブル査読とは 査読結果を転送する ポータブル査読 という取り組みが、徐々に普及し始めています。ポータブル査読とは、論文を受け付けたジャーナルが、査読後に不掲載と判定した場合、該当論文を他のジャーナルに査読結果を付けて転送し、出版につなげる仕組みです。ポータブル査読と似たものに「カスケード査読」と呼ばれるものがありますが、カスケード査読が同じ出版社が発行するジャーナルまたはインパクト・ファクターの低いジャーナルへの転送が行われるのに対し、ポータブル査読は出版社の枠を超えて他社のジャーナルへの転送も可能にする取り組みです。 査読コンソーシアムの登場 ポータブル査読の実現には、複数の出版社の協力が不可欠です。そこで、2007年に神経科学分野のジャーナルの出版社が集まってNPRC(Neuroscience Peer Review Consortium)というコンソーシアムを立ち上げました。あるジャーナルに提出した論文が、紙面上の制約や、そのジャーナルには向かないなどの理由で不掲載になったとしても、執筆者がコンソーシアムに登録された他のジャーナルでの発表を希望する場合、その論文は査読結果と共に転送されます。論文を受け取ったジャーナルは、改めて査読をし直す時間と手間を短縮することができます。論文が出版される可能性を高めるという点では執筆者にとっても嬉しい仕組みです。このコンソーシアムには、神経科学分野の学術ジャーナル出版社なら無料で参加することができ、現在では60誌以上のジャーナルが登録されています。査読結果の転送は、執筆者がコンソーシアム参加者に直接依頼することで開始されます。コンソーシアムは情報交換のサイトは提供していますが、斡旋や転送の条件などの折衝には関与しません。NPRCが開始されて10年ほどたち、査読制度の効率を改善する試みは広がりつつあります。 分野を超えた査読コンソーシアムの結成とBMC Biologyの方針 2013年、分野を超えた4組織(eLife,BMC,PLOS, EMBO)が査読コンソーシアムを結成しました。PLOSとEMBO、eLifeが出版するジャーナルおよびBMC Biologyで査読結果の転送ができるだけでなく、生物学のオープンアクセスジャーナルBiology…

査読プロセスに求められている多様性

論文の出版は学術界で成功するための重要な要素であるにもかかわらず、査読のプロセスには残念ながら偏見(バイアス)が残っているといわざるを得ません。いくつかの研究によって、女性とナショナル・マイノリティ(人種・言語・宗教上の少数者)の研究者は、偏見によって論文出版を阻まれていることが明らかになっています。偏見によって、重要な論文は埋もれ、結果として学術界の進歩が遅れる事態にもなっているかもしれません。こうした状況を改善するためには査読プロセスにおける 多様性 (diversity)を高めていくことが重要です。 査読に多様性が欠如している理由 査読に多様性が欠如している理由はいくつかあります。オープンアクセス出版社であるFrontiersの学術雑誌に掲載された研究は、査読プロセスにおけるジェンダーバイアス(男女間の偏り)の存在を検証しています。検証の結果、男性の編集委員は男性の査読者を、女性の編集者は女性の査読者を選ぶ傾向があることを示しています。これは、女性の編集委員の人数は男性と比較して少ないため、結果として女性の査読者の数も少なくなるという状況を生みます。この研究内容については、エナゴアカデミーの記事『編集者は同性の査読者を選びがち!?』でも詳しく触れています。また、British Ecological Societyが発刊する学術雑誌Functional Ecologyに掲載されている同様の研究も、同じ結論に至っています。ジェンダーバイアスによって、査読者の層に多様性が欠如していることが示されているのです。 この他、査読者に多様性が欠落していることへの説明としては、学術界と研究者が既存の人脈(ネットワーク)に強く依存していることが挙げられます。研究者は自分と同質の人間とネットワークを構築する傾向があります。したがって、少数派である女性はネットワークに入り込めず、キャリアを形成することが難しく、また、低く評価されがちです。実際、医学雑誌であるカナディアン・メディカル・アソシエーション・ジャーナル(CMAJ)に掲載された研究でも、同等の経験を有し、要件を満たしている場合でも女性のほうが研究資金の獲得が難しいという結果が示されています。そしてこれは、ナショナル・マイノリティの研究者にもあてはまります。論文掲載や昇進が難しいため、結果として、査読者として声がかかる人数も増えないままなのです。 多様性を推進する取り組み こうした状況を受け、出版社や学術団体の間では、査読プロセスにおける多様性の推進に注目が集まっています。問題解決に向けた具体例としては、以下のような取り組みが行われています。 アメリカ地球物理学連合(American Geophysical Union :…

会食の場における英語の会話

一般社団法人 学術英語学会 では、毎年、セミナーを開催しており、その中でもユニークな企画として好評なのが「ソーシャライジングとネットワーキングのための英語」です。一般的に、日本人研究者がニガテとしているのが「ソーシャライジング」または「ネットワーキング」、いわゆる 研究者交流 です。親睦会などの場でどのように話しかけたらいいのか―今回はシリーズ第8回目です。 逃げられないformal dinnerの座席 じっと座って食事をいただくformal dinnerの形態は、席が固定されているため、右隣り、左隣、正面のゲストとどのように会話するかが大きな課題です。また、向こう三軒両隣、つまり斜め前方の両者も含めた6名全員が一つの会話に参加して盛り上がるということもあります。発言するかどうかは別として、少なくとも会話の内容についていけるかどうかがかなめになります。(だからこそリスニングの力はおろそかにできません。) 飲食と会話と移動がダイナミックに絡み合う立食 いわゆる立食の形態では、あらたまった着座形式の食事とは異なり、行動も会話も立体的になります。飲食する・会話するという二つの行為に、人の間を動き回る(=mingle, circulate)という行為が加わります。食事の話題という文脈で言えば、ビュッフェ(buffet)のところに行って食べ物をつつく、あるいは飲み物を取ってくる、と言った行為を伴いますので、それに関連する表現が会話の中に入ってきます。次のような表現は参考になるでしょう。 (ビュッフェのところで料理を見渡しながら) Now, what…

政府閉鎖のダメージから米国の研究機関は立ち直れるのか

2018年末に始まった米国政府の閉鎖は史上最長となる35日間を記録したのち、翌年1月25日にようやく解除されました。ことの発端はメキシコとの国境に壁を建設する費用をめぐる与野党の対立で、トランプ大統領が期限付きの暫定予算案に署名したことで一部の政府機関は再開されました。その後、予算処置の期限となっていた2月15日を目前に控えた2月11日夜に与野党が予算案に合意したことで、政府機関の再閉鎖は回避されることとなりました。しかし、予算案に不満なトランプ大統領が、2月15日に連邦議会の承認なしに軍事予算を壁建設に充てるための国家非常事態宣言を発令したため、野党民主党は権力の甚だしい乱用だとして激しく反発。19日には民主党の司法長官のいる16の州政府が同宣言に対し集団提訴を起こしたほか、26日には米下院、3月14日には上院で大統領による非常事態宣言を無効とする決議案が可決されるなど、政治の混乱は続いています。 かたや、業務が止まっていた公的研究機関などは、 政府閉鎖 の間に行うはずだった35日間分の業務を取り返す必要があります。国立科学財団(NSF)や航空宇宙局(NASA)、森林局(Forest Service)など多くの重要な科学機関はすべて閉鎖されていたのです。この失われた35日間は、科学機関にとってどのような影響を及ぼしたのでしょうか。 政府閉鎖の経済的影響 2018年12月22日に始まった一部閉鎖により、政府職員の一部は一時解雇され、要職についている職員は無給での勤務を余儀なくされました。35日間の閉鎖による経済的な代償は甚大で、議会予算局(CBO)は、アメリカ経済に30億ドル(約3300億円)もの損失を及ぼしたと試算しています。これには、スミソニアン協会(Smithsonian Institution)の来館者からの減収が500万ドルにも達したことも含まれているでしょう。CBOは、経済的損失はいずれ回復すると指摘していますが、公的研究機関および学術界に及んだ損失も回復できるのでしょうか。 後れを取り戻さざるを得ない研究機関 研究機関は政府閉鎖によって生じた後れを取り戻すほかありません。とはいえ、完全に損失を回復することはできないかもしれません。研究資金が支給されずに収入が途絶えたり、研究の進行に支障をきたしたりした研究者もいます。NSFは、政府閉鎖の間に滞っていた研究助成金の手配や、2000件もの助成金申請書の審査を行わなければなりません。NASAの科学局長であるトーマス・ザブーケン(Thomas Zurbuchen)によれば、政府閉鎖後少なくとも60日は、科学機関の主要な研究助成プログラムへの新規申請の検討が遅れるだろうとのことです。 アメリカ海洋大気庁(NOAA)の気候プログラムオフィスは、政府閉鎖が日常作業、会議、会合の進捗を妨げ、プロジェクトを中断させたと述べています。彼らは一時的にウェブポータルClimate.govによる情報提供を中断しなければなりませんでした。このポータルは、降雨や森林火災、食料生産への影響など気候や天候に関する有益な情報源として活用されています。このウェブポータルや、アメリカ地質調査所 (USGS)が無料提供する地質、土壌、水循環などに関するデータのような科学的情報の提供が中断することは、国民生活の安全にも影響する事態です。 さらに、政府閉鎖の影響はアメリカ国内の研究機関・研究者にとどまりません。アメリカの研究者たちが取り戻さなければならない遅れが国外の研究者たちにも波及し、研究全体に遅れが生じると報告されています。NOAA FisheriesのAdvanced…

研究発表で聞き手の心を掴むための4つのコツ

研究成果を発表する準備としては、わかりやすいプレゼン資料(パワーポイントなど)を作成したり、質問への対応を考えたり、とやることがたくさんあります。そして、プレゼン資料を作る際の注意事項は多岐にわたりますが、中でも非常に重要なのは、「常に聞き手の存在を意識する」ということです。これは、研究発表を成功させるための必須要件といっても過言ではありません。 主役は聞き手 いかに聞き手の関心を惹き、内容に興味を持ってもらうか。ここで気をつけなければならないのは、発表者自身は自分の研究やプレゼン内容について熟知していても、聞き手は必ずしもそうではない、ということです。このことを意識しないまま「独りよがり」の発表を行えば、それは聞き手を無視した単なる自己満足にすぎません。そうならないために、常に聞き手のことを念頭において準備しましょう。どんな人が聞きにくるのかを予め想定することはもちろんですが、聞き手は研究発表を見聞きして何かを学びたいと期待している、ということも覚えておきましょう。発表を聞いている間、聞き手は「これは自分にとってどう役立つのか」「自分はここから何を学べるのか」を自問し続けています。このことを念頭において準備をすれば、「単なる自己満足」といった結果にはならないはずです。 その点を踏まえ、聞き手の心をつかむ4つのコツを見てみましょう。 聞き手の心をつかむ4つのコツ ① わかりやすい話の構成と流れを意識する 発表は、序論、本論そして結論としっかり構成されていることが大切ですが、伝え方としては、自身の研究を案内するように説明を進めると聞き手にとってわかりやすい発表となります。聞き手に一方的に講義するのではなく、聞き手の反応に気を配りながら話の方向性を示しましょう。特に話が変わる場面では、聞き手が話の転換についてこられるように、適切なつなぎ言葉を使うなどの工夫をしつつ、わかりやすい流れを作ることが大切です。 ② 情報過多にならないように気をつける プレゼン資料を作成する際によくやってしまうのが、情報の詰め込みすぎです。あれもこれも付け加えたくなる気持ちはわかりますが、それはかえって逆効果。大量の情報の羅列は、発表で本当に伝えたい部分をわかりづらくするばかりか、話の流れや明確性といった点で全体に悪影響を及ぼしかねません。情報の適量を知り、要点を絞ったプレゼン資料を準備しましょう。そうすれば、発表終了後、本当に大事なポイントが聞き手の記憶に残るはずです。 ③ 聞き手の立場に立つ 聞き手に向かって一方的に講義するようなことは好ましくありません。プレゼン資料に書いてあることをただ読み上げるだけ、というのも避けるべきです。もっと聞き手の側に立って、発表に入り込むような気分を味わってもらえるように心がけましょう。さらに、聞きやすい長さ(時間)にも気を配りたいところです。10分ルールと言われるように、大概の人は10分程度話を聞いていると集中力が落ちてしまいます。このことを踏まえると約10分を目安として、話を巧みに展開していかれるよう、事前に発表の構成や配分を考えておくことが必要です。また、話の転換点では、前述したように流れが変わることをわかりやすく伝える、ということも忘れてはいけません。 ④ 聞き手に質問を投げかけてみる…

【千葉愛友会記念病院 整形外科】 倉茂 聡徳 先生インタビュー(後編)

研究者の方たちの英語力向上法などについてお伺いするインタビューシリーズ25回目の後編です。 前編のお話で「足の外科」が日本ではまだまだニッチな分野であることが分かってきました。後編では足の専門医として多数の論文を執筆されている倉茂先生の英語との付き合い方についてのお話です。 ■ 英語の論文はいつごろから書き始めたのですか。 書き始めてから、まだ10年もたっていません。私の場合、論文を書くより先に英語で発表をする機会があって、それが8,9年ぐらい前だったでしょうか?英語論文を初めて書いたのは遅かったですが、いろいろな本やネットから情報収集をして、参考にしました。少なくとも、専門分野の話は専門用語さえ覚えてしまえば、その他の単語や文法は割と簡単で、それほど難しくは感じません。 ■ 研究発表が先ですか。年間どのぐらい発表されるのでしょう。また、研究発表以外で英語を使うことはありますか? 以前はだいたい年2回は海外の学会に出ていましたが、今は年1回ぐらいです。英語を使う(スピーキング)と言っても、もう発音矯正とかあまり気にしていません。自分はアメリカよりもヨーロッパの学会に行くことが多いのですが、ヨーロッパの人たちの英語は、(イギリス人以外は)割と聞きやすいです。難しい単語を使わなくてもなんとかなりますし、相手もネイティブでなければお互い様ですし。自分で話す時には、声を大きく出すとか、短い文を重ねたり、復唱して確認しながら話を進めたり、can'tなど省略形を使わずにcan notとするとか――相手が分かってくれやすいように心がけています。まあ懇親会などでの雑談は苦手ですが。それでも、日本人同士で固まらないようにして、なるべく他国の人に自分から話しかけるようにしています。外国人にも顔見知りがいるので、そこで話しているとだんだん仲間が集まってきたり、他の仲間に入れてもらったりしてますね。発表の場以外としては、たまに外国人の患者さんが来ることがあり、その時は可能なら英語を使うようにしています。 ■ 英語に抵抗を感じたりはしないと。 もともと英語に抵抗がなかったわけではありませんが、以前に比べたら敷居が低くなった感はあります。論文を書いて、英文校正をお願いするとしても、その前にいろいろな文献を読むので、使えそうな表現や言い回しを引っ張ってきたりとか、英語の雑誌を検察して同じような論文を見てみると、こっちの表現よりこっちの表現を使っている人が多いなとかがわかるので、それを採用(借用)したり。Googleとか便利ですよね。この言葉とこの言葉で、どっちがヒット数多いかわかるから、こっちにしておこうとか。昔に比べたら簡単に検索できるようになっているので、かなり便利です。 ■ 英語の学習に関して何かされていますか。 やっている方も多いと思いますが、パソコンやスマホなどの環境を英語に変えているのと、数年前から英語で日記を書くようにしています。3行日記くらいですが。…

Ethical Considerations in Scholarly Publishing

Ethical Guidelines Most Common Ethical Violations Research Integrity Avoiding Ethical Dilemmas

クラリベイト・アナリティクス高被引用論文著者2018

研究者にとって、論文を発表することが最も肝心ですが、どれだけ多く引用されるかも気になるところです。発表論文の被引用件数が多いことは、研究者としてその分野における貢献度が高いことを示していると評価できるからです。被引用件数を調べる方法は幾つかありますが、その中のひとつが、クラリベイト・アナリティクスが発表するランキングです。 世界的な情報サービス企業であるクラリベイト・アナリティクス は、2018年11月27日に『Highly Cited Researchers 2018』 を発表しました。これは、クラリベイト・アナリティクスが運営する論文検索サービスであるWeb of Scienceに収録された33,000以上の学術誌(ジャーナル)に基づき、2006年から2016年に発表された論文について、発表から1年間の被引用件数を分析したものです。自然科学および社会科学の21分野における論文の被引用件数が世界の上位1%に該当するものを高被引用論文と定義し、それらの論文著者をリストアップしています。今回からの新しい試みとして、一人の研究者が複数分野で論文を発表している場合の合計被引用件数を示す「クロスフィールドカテゴリー」が導入されました。 国別結果-高被引用論文著者が多いのはどこの国か 約6000名の研究者がHighly Cited Researchers in 2018リストに掲載され、そのうち約4000名が分野別の高被引用論文著者、約2000名がクロスフィールドの高被引用論文著者となっています。リストアップされたのは、まさに影響力の大きな研究者および研究機関と言えるでしょう。…

アメリカの政府閉鎖が学術界に与える深刻な影響

2016年のアメリカ大統領選でトランプ大統領が誕生して以来、学術界にはさまざまな変化がありました。政権の主張に沿わない意見を出す環境保護局や農務省などへのかん口令や、予算の削減、業界団体を参加させるための諮問委員会の再編成などです。また、トランプ大統領は、パリ協定からの離脱やアメリカ国立科学財団(National Science Foundation:NSF)の東京をはじめとする海外事務所の閉鎖も表明し、世界に波紋を広げてきました。 そして、3年目を迎えたトランプ政権は学術界にさらなる厳しいニュースをもたらしました。政府機関の閉鎖です。メキシコ国境との壁の建設費をめぐり、2018年12月22日に始まったトランプ政権下での政府機関の一部封鎖は、クリントン政権下で歴代最長を記録した21日間を大きく超え、35日間に及びました。議会と合意に至り、2019年1月25日に一部解除されましたが、予定していた助成金をいまだ全額受け取っていない研究機関もあり、先行きに不安が募ります。 政府閉鎖の影響範囲 トランプ大統領が不法移民対策としての壁建設費約56億ドルを予算案に盛り込む要求をしたことをきっかけとする暫定予算の一部失効により、政府機関が一部閉鎖される事態となったわけですが、この閉鎖により自宅待機や無給での勤務を強いられる政府職員の数は80万人にのぼりました。官公庁や博物館は閉鎖され、首都であるワシントンDCは閑散とし、市民の生活や経済に大きなダメージを与えました。 アメリカ国内の公的研究機関も例外ではありませんでした。国立衛生研究所(National Institutes of Health:NIH)、疾病予防管理センター(Centers for Disease Control and Prevention:CDC)、エネルギー省(the…

small talk:料理の話題と研究者

一般社団法人 学術英語学会 では、毎年、セミナーを開催しており、その中でもユニークな企画として好評なのが「ソーシャライジングとネットワーキングのための英語」です。一般的に、日本人研究者がニガテとしているのが「ソーシャライジング」または「ネットワーキング」、いわゆる研究者交流です。親睦会などの場でどのように話しかけたらいいのか―今回はシリーズ第7回目です。 small talk: 料理の話題と研究者 大学でそれなりの地位についているヨーロッパの知識人の中には、料理やお酒について相応の見識(あるいは一家言)を持っている人が多いというのが私の見解です。日本の大学からは想像しにくいかもしれませんが、オックスフォード大学では、美しい庭園を持っているか、という基準とともに、腕の良いシェフがいておいしい料理を提供しているかどうかが、各コレッジの一つの評価基準になってきました。19世紀半ばまでは聖職者の養成機関としての機能が主だったことから、地味な研究生活の中で独身の学究たちが楽しみにしていたのが料理でありワインだったのでしょう。 フランス料理, ワイン、シェリー、etc. 欧米圏での研究者交流の場面を考える時、料理はもちろん、社交の場で出されるお酒(wine, champagne, sherry, punch, vermouth など)の知識は、ある程度必要ではないかと考えます。ただ、私には一つ失敗談があります。何十年も前、イギリスのバースという古風な町で、全くの偶然から、初対面の老夫婦と2時間ほど話しをしたことがあります。私がついうっかり、ワインが好きだ、という意味のことを伝えたところ、老齢のイギリス紳士は、「ワインが好きなのか、それならどこのどのワインがおいしいか、一緒に今から議論しよう」と挑発されました。グウの音も出ませんでした。知ったかぶりをするものではない、と反省しました。あとでわかったことですがその老紳士は、Sir Stanley…

研究結果の信頼性-信頼度指数は適用されるべきか

かねてより学術研究における「再現性の危機(reproducibility crisis)」が問題となっています。Nature誌が2016年に発表した調査結果では、70%を超える研究者が他者の実験結果を再現できなかっただけでなく、半分以上が自分の実験すら再現できなかったことが示されていました。こうなると、研究の信頼性が揺らいでいると言われても反論できません。どのように信頼できる研究を見抜けばよいのでしょうか。 そこで今回は、研究結果の信頼性の目安とされる「信頼度指数」や、実験結果(データ)の妥当性を示す指標とされる「p値(有意確率)」についてみてみます。 信頼度指数とは? 信頼度指数(confidence index)とは、説明内容の妥当性について、事前証拠の影響および調査者の判断を形式的に具体化する指標です。 例えば、ある治療法をテストする実験では、母集団を代表するサンプル(治験の参加者など)は確実に無作為に抽出されていることが必須です。それは、サンプルに対する実験の結果から母集団全体への効果を推定するためであり、この場合の信頼度指数は、その治療法が、母集団全体に対してどの程度、サンプルに見られたのと同様の効果が出るかを示す数値となります。 【信頼度指数】 信頼度指数はベイズ統計に基づくもので、次の要素を考慮したものです。 ランダムな変数―情報がないため未知の要素が存在 事前確率―利用可能な既存の情報 仮説の真らしさ―仮説が真であるか偽であるかの確率 p値(有意確率)とは? もう一方のp値とは、研究者が実験データの統計的有意差の判定に慣習的に用いる指標で、帰無仮説(ある仮説が正しいかどうかの判断のために立てられる仮説)が正しいとするならば、検定統計量(観察された数値)と同程度の結果が得られる確率を示すものです。つまり、特定の仮説に対してデータがどのぐらい整合していないかを示しています。特定の仮定(前提)を想定した数値であること、サンプル数などさまざまな要素(以下)の影響を受けることを念頭に置いておく必要があります。 【p値】…

カバーレターの長さについて

すばらしいカバーレターを書いても論文がジャーナルに掲載されるとは限りませんが、悪いカバーレターを書いたためにすぐに却下されることはあります。カバーレターの内容については、以前「論文の原稿に添えるカバーレターの書き方」で少しお話ししました。また、“manuscript cover letter”というキーワードを使ってインターネット検索をすれば、サンプルがいくつも見つかるはずです。 しかしながら、内容もさることながら大切なことはダラダラと書かずに、簡潔に1枚にまとめることです。2枚目の半分を過ぎてしまったら書き過ぎです。それでも研究が複雑で、簡単な説明だけでも1枚を超えてしまう場合はどうしたらいいのでしょうか? ここでちょっと裏技を紹介させていただきます。 1. 余白を狭くする 最初に日付を書き、最後にサインをするというアメリカのカバーレターのフォーマットでは、用紙の上下の余白が多少狭くなってもあまり不自然に感じられません。余白は通常、上下左右1インチ(2.54センチ)といわれていますが、上下の余白を0.7インチ(1.78センチ)に変えてみてください。それでも1枚に収まらない場合は、左右の余白を0.8インチ(2.03センチ)にしてみましょう。上下左右ともこれ以上狭くなると不自然に見えますので注意してください。 2. 文字を小さくする 文字の大きさは通常の12ポイントですが、これを11.5ポイントに変えてみてください。最小で11ポイントまで小さくしても大丈夫でしょう。 3. 一行ずつ確認する 行末に“accomplishments”のような長い言葉が来ると、その行に入りきれずに、次の行に押し出されてしまうことがあります。行末にかなりの余白ができますので、一目で見つけることができるでしょう。このような場合は、該当の行頭から問題の言葉までを選択し、文字間をほんの少し縮めてみてください。 最悪の場合、カバーレター全体の文字間を縮めることも可能ですが、これはかなり目立ちますし、目の悪い編集者には「読みづらい」という悪い印象を与えますのであまりお勧めできません。 4.…

【千葉愛友会記念病院 整形外科】 倉茂 聡徳 先生インタビュー(前編)

研究者の方たちの英語力向上法などについてお伺いするインタビューシリーズ25回目です。 外反母趾の診療に詳しい 千葉愛友会記念病院 整形外科の 倉茂聡徳 部長。「足の外科」と聞くとどんな治療を?と思いますが、今や多くの女性が外反母趾に苦しんでいることを思えば、専門のお医者様がいてくれるのは何よりも心強いことです。前半はご専門の「足の外科」についてのお話です。 ■ 先生のご専門は「足の外科」ということですが、少しご説明くださいますか。 整形外科と一言で言っても、かなり守備範囲が広く、部位としては、首から下、首、背骨、腰の骨、上肢・下肢が含まれますし、組織としては、関節もあれば靱帯や腱、神経や血管もあります。例えば、外科や内科が、体の部位によって消化器外科や呼吸器内科などに分かれているのに、整形外科は「整形外科」でひとくくりにされています。ですが、首の骨、手とか足というように、全く構造が違うものを全部ひっくるめて極めるというのは、正直言って無理な話です。あらゆる学会に出て、いろいろ研修を全部受けて――とはいきません。となれば、大学病院だけではなく当院のような私立の病院でも、ある程度は得意とする専門分野があったほうがいいと思っています。どの病院でも同じことをやろうとすると、必要な人員や機材を全て揃えておかないといけませんし、実際、無理だと思います。患者さんの取り合いにもなってしまいます。逆に、他の病院がやっていないニッチな分野を極めればいいと。実際、近隣の病院からは、足で困った症例を私のところにご紹介いただいています。 ちなみに、日本では「足」はまだニッチな分野ですが、アメリカなどでは割とメジャーだと思います。整形外科医の中で、サブスペシャリティとして足を専門にしている先生だけでなく、足だけ治療する資格の「足病医」という医療者もいて、その中でも手術をされている方がいるくらいです。 ■ 足の疾患はそれほど多いのでしょうか。 多いです。実は、小・中・高、大学でのスポーツ活動中のケガの統計を見ると、ほとんど下肢です。その中でも、足首から先のケガが最も多い。ほとんどが足首の捻挫や足の骨折です。そのわりにあまりメジャーじゃないというのは、おかしな話ではありますよね。 ケガ以外で足の外科への来院が多いのは外反母趾です。外反母趾は基本的に靴を履くことでひどくなる確率が上がります。日本人が毎日靴を履くようになったのは戦後からです。靴の歴史が長い欧米諸国と違って、歩行に向かないハイヒールなどを通勤に使っていたり、 正しい靴文化がまだ根付いていません。今の若い人には、年齢を重ねるにつれて、どんどん外反母趾などの足の疾患が増えてくるはずです。欧米では、女性だけではなく、男性にも多くの外反母趾があります。日本だけでなく、靴文化が始まったばかりのアジアの国々でも、益々足の疾患は増えていくでしょう。…

学術界に広がるMeToo運動

ハリウッドの女性達が大物映画プロデューサーによるセクハラや性的暴力の被害をSNSで告白する運動として始まったMeToo運動。被害を受けたことがあれば「Me too(私も)」とつぶやいて――との呼びかけに対し、今では世界中、さまざまな業界で多くの女性が声を上げるようになりました。学術界もしかり。米国ではSTEM(科学・技術・工学・数学)分野に進出する女性の数が増加していますが、女性研究者の立場が男性と同等になっているとは言いがたい状況です。そのような中、MeToo運動を科学界に広げた女性がいます。 MeTooSTEM.comを立ち上げた女性 米国ヴァンダービルト大学メディカルセンター(Vanderbilt University Medical Center: VUMC)の神経学者であるBethAnn McLaughlinです。2018年6月にSTEM分野の女性が匿名でハラスメントを告発できるウェブサイトMeTooSTEM.comを立ち上げ、科学界のMeToo運動を牽引してきました。その貢献により、2018年11月、米マサチューセッツ大学が世界を劇的に変えるアイデアを持つ人に贈るMIT Disobedience Award(不服従賞)を受賞しています。 Scienceの記事にはMcLaughlinの似顔絵と「The Twitter Warrior(ツイッター戦士)」というキャッチが書かれています。彼女は、米国科学アカデミー(National Academy…

論文執筆で泣かないために―英語表記の注意

研究者にとって自分の論文が学術雑誌(ジャーナル)に掲載・出版されることは、意義があるだけでなく、自信につながることです。だからこそ、せっかく書いた論文が、英語表記の間違いで却下(リジェクト)されるのは避けたいところです。今回は、リジェクトされないために注意すべき、よくある英語表記の間違いをご紹介します。 はじめに、論文を執筆する際の注意点を確認しておきましょう。以下の3点はいずれも怠るとリジェクトにつながりかねない重要事項です。 ・不適切な文献選び 研究者の中には、論文作成においてとても大切な文献選びに無頓着な人がいます。原稿を執筆する際には、先行研究や既存知識についてしっかりと調べて考察することが不可欠であり、その際に、古い、いわば鮮度の落ちた文献を引用した論文は、容赦なくリジェクトされかねません。 ・研究に適した方法論の採用 研究を行うにあたり、しっかりとした研究方法が明示され、それをふまえた分析が行われることが必須です。データ分析が複雑になればなるほど、間違いのリスクも高まりますが、不適切なデータは原稿の信頼性を損ねるので注意が必要です。 ・盗用・剽窃 盗用・剽窃は、学術界において非常に問題視されている不正行為です。既存の文献を逐語的にコピー&ペーストしたような文章が含まれている場合は盗用・剽窃とみなされます。盗用・剽窃と判断された場合、該当の原稿は即リジェクトされるのがほとんどです。どのような場合に盗用・剽窃となるのかをしっかり理解しておきましょう。 では次に、よくある英語表記の間違いを説明します。 英語表記の間違い   スペルミス スペルミスのある原稿は、印象がよくないものです。場合によっては、そのスペルミスのせいで文章の意味そのものが変わってきてしまうこともあるので要注意です。しっかり校正をして、ミスを防ぎましょう。 コロン ある事柄を列挙する場合は、コロンで文を区切ってから、その後に続ける形で記します。…

Understanding Research Ethics: How to Prevent Plagiarism

Overview of research ethics Major ethical issues Drafting plagiarism-free papers IPR violation

small talk:相手を身近に感じさせる食べ物の話題

一般社団法人 学術英語学会 では、毎年、セミナーを開催しており、その中でもユニークな企画として好評なのが「ソーシャライジングとネットワーキングのための英語」です。一般的に、日本人研究者がニガテとしているのが「ソーシャライジング」または「ネットワーキング」、いわゆる研究者交流です。親睦会などの場でどのように話しかけたらいいのか―今回はシリーズ第6回目です。 small talk:相手を身近に感じさせる食べ物の話題 small talk の定番ネタのうち天気に次いで会話をはずませるのは食べ物の話題です。相手の嗜好や生活様式などもうかがえて人をぐっと身近に感じさせます。目の前に食べ物が並んでいるのならば話に現実味が生まれます。cocktail party ならば飲み物の話題もはずむでしょう。各国の研究者が集まっているのならば、話題が国際色豊かになります。海外からの研究者を日本に招待する場合は、いきおい日本料理の話になるでしょう。尤も、日本料理について英語で話すには特別な語彙と説明表現の習得が必要であり、この方面の英語教育が望まれるところです。 好きな食べ物は? まず、自分の嗜好品を言うのに likeという動詞はすぐ思い浮かぶでしょう。大好物だという意味ならばloveを使います。 I love…

論文の原稿に適したファイル形式とは?

Adobe Acrobat, Microsoft, Excel, Microsoft Word, Microsoft Works, Notepad, Portable Document Format, Rich Text Format,…

マックス・プランク協会、プロジェクトDEALを支持

学術雑誌(ジャーナル)のオープン・アクセス(OA)を推進する動きが、ここ数年で加速しています。ドイツでは、この動きの一環として従来の契約に替わり、オンライン契約の締結を推奨するプログラムである「Projekt DEAL(プロジェクトDEAL)」を受け入れるように学術出版社に求めてきました。そしてついに、マックス・プランク学術振興協会は、2018年12月末をもってエルゼビアの電子ジャーナルの購入契約を更新しないと同月19日に発表しました。マックス・プランク学術振興協会は、傘下に80以上の研究所等を抱え、約14000人の研究者を擁するドイツ最大級の研究グループですが、購読契約の解約の結果、研究員は2019年からエルゼビア誌へのアクセスを失うこととなったのです。 ■ プロジェクトDEAL対エルゼビア 大手学術出版社であるエルゼビア(本社、オランダ)は、2960を越える学術雑誌、48300の書籍を出版しており、出版論文数に至っては年間40万本を越えています。同社が提供する学術文献のオンライン・プラットフォーム『Science Direct』は、3800誌以上の学術雑誌と35000冊以上の書籍タイトルから記事の検索を可能とし、また、抄録・引用データベース『Scopus(スコーパス)』には2万タイトル以上の逐次刊行物などからの文献を収録するなど、研究活動を支援しています。これらのデータベースは多数の研究者に利用されていますが、システムの使用料金や同社の学術雑誌の購読料が高すぎるとの批判が高まっており、欧州を中心に購読契約の見直し交渉などが行われています。 プロジェクトDEALは、学術雑誌のOA出版の利用に関して学術出版社との新たな利用条件を目指して、ドイツの研究機関、大学、図書館などが結成したコンソーシアムです。現在では参加組織数は700近くに達しています。エルゼビアとの契約交渉は決裂しましたが、シュプリンガー・ネイチャーとのナショナルライセンス契約交渉は進展しているようです。また、2019年1月15日には、ワイリー(John Wiley & Sons, Inc.)と新たな条件の契約を交わしたことを発表しました。この契約は、コンソーシアム・メンバーは年間固定料金で1997年以降に刊行されたワイリーの雑誌を閲覧でき、かつ、コンソーシアム参加組織の研究者がワイリーの雑誌に投稿した論文はOA化するとの内容となっています。 ■ エルゼビアとの交渉 プロジェクトDEALは、数年間エルゼビアとの交渉を続けてきました。求めてきたのは、学術雑誌を研究組織などがオンライン利用する料金の固定化、研究成果のOA化、そしてドイツの研究者全員に対して有料論文のオンライン利用と自らの研究成果発表をOA化する権利を併せて一括料金とする「publish and read」と呼ばれるモデルの適用です。このモデルは、出版社は研究および論文への対価を研究者に支払いませんので、学術機関や研究者にとって公平な条件だという声がありますが、エルゼビアの合意は得られていません。 これまでの交渉でも、コンソーシアム・メンバーのうち60以上の組織が2017年末をもって2018年のエルゼビアとの契約を延長しないと発表し、エルゼビアは折衝相手のオンラインアクセスを停止しました。このときは40日ほどで利用が再開したのですが、2018年分の契約をめぐるその後の折衝も難航し、前年を上回る数の組織が契約更新をせずに折衝を続けたところ、エルゼビアは2018年7月に再び折衝相手のオンラインアクセスを打ち切りました。実際、プロジェクトDEALに賛同する団体の中でエルゼビアとの個別契約を解消したドイツの大学・研究機関は200近くに及んでいます。…

影響力のある関連団体による編集介入は許容されるのか

2018年もさまざまな研究不正が発覚し、研究界を揺さぶり続けました。データのねつ造、収集データの意図的な虚偽表示、画像の改ざんなどは露呈した研究不正のほんの一例ですが、12月になって、米国環境保護庁(Environmental Protection Agency:EPA)の諮問委員会のトップが、資金援助を受けている業界団体に対して、発表前に研究論文の編集介入を許容していたという倫理的に問題視される事態が判明して話題となりました。 背景には、資金提供者と研究者とのつながりは見つけにくいという問題があります。しかし、利害関係のある外部団体が発表前の論文を編集するのを認めるということは、学術的に許されるものなのでしょうか。 ■ 政府機関におよぶ業界団体の影響 この話は学術界に留まりません。米国における大気汚染基準の大幅な見直しを行うEPAの委員会を率いているのは、規制強化に反対する団体から資金提供を受けていた研究者です。しかも、この研究者、トニー・コックス(Tony Cox)が業界団体に自身の研究成果の編集を許容したことを認めたことが論議の的となっているのです。研究成果に何らかの影響をおよぼしかねない研究の資金提供者に、発表前の論文への編集介入を認めることは異例です。まして、該当論文が政策決定に関連するとなれば、なおのことその影響は重大です。 そもそも、なぜ業界団体からの資金援助を受けていたコックスが国の環境政策に助言を行う立場にある大気清浄化科学諮問委員会(Clean Air Scientific Advisory Committee: CASAC)の委員長になったのかと言えば、非常に政治的な裏があります。コックスを任命したのは、元EPA長官スコット・プルーイット(Scott Pruitt)です。プルーイットは、EPAの助成金や資金提供を得ている研究者は、科学諮問委員会の委員として偏見(バイアス)があるという理由で多くの委員を解任し、逆に業界団体から資金援助を受けている研究者を諮問機関に参加させようとの動きの一環でコックスを任命しました。プルーイットは地球温暖化対策に批判的な姿勢を示しており、EPA科学諮問委員会の透明性と委員の独立性を高めることを目指したとされています。しかし、長官就任以来、プルーイット自身に対する職務倫理違反などの疑惑をめぐる調査が進み、2018年7月に辞任しました。 ■ コックスの論文と石油協会のつながり…

【東京成徳大学 応用心理学部】石村郁夫 准教授インタビュー(後編)

研究者の方たちの英語力向上法などについてお伺いするインタビューシリーズ24回目の後編です。 イギリスの大学院のポストグラジュエイト・プログラムで「コンパッション・フォーカスト・セラピー(CFT)」という心理療法を勉強された石村先生。後編は、ご自身の英語との向き合い方のお話と、英語を勉強する人に向けた応援メッセージです。 ■ 「コンパッション・フォーカスト・セラピー(CFT)」という日本ではまだ馴染みのない分野を英語で勉強するのに苦労はありませんでしたか。 臨床心理学の勉強を始めたのは大学からなのですが、実は大学3年までは英語の教員になりたいと思っていました。教育相談・心理支援もできる教師になりたいと思っていたので、心理学を専攻しながら英語の教職課程を取っていました。筑波大学は教育と心理の両方を学べたので、心理を主専攻にしつつ、英語の教職課程を取っていたわけです。小学6年のときにアメリカ、中学3年のときにイギリスにホームステイした経験もあって、英語で交流するのは面白いと思っていましたし、英語自体は好きでした。大学2年と3年の間にニュージーランドに1年間の留学にも行きました。ところが、留学から帰国したときに、仲のよかった同級生が自殺してしまったのがすごいショックで……。何で助けられなかったのかという思いが強く、困っている人に対して助けになることはできないかと思って、さらに学びを深めるために心理学で大学院に進学しました。英語教員の道には進みませんでしたが、心理学の業界は海外の方が圧倒的に進んでいるので、それまでに学んだ英語がすごく役立っています。好きだという感覚が一番役に立ったと思います。 ■ 英語に抵抗がないということであれば、大学院で論文を書くのにもあまり苦労せずに? 英語で書きたいという気持ちはあったので、下手でも書いてみようと、楽な気持ちで取り組んでいました。継続的に勉強して、留学した後に英検準1級も受けています。ただ、僕が大学院の頃の心理学では、日本語で論文を書く院生が多く、トップ研究者になれば英語論文を書くことになるけれど、必ずしも全員が全員、英語で論文を書けという感じにはなっていませんでした。今キャリアを振り返ると、みんなが日本語で論文を書いている中、英語が好きだからと英語で書いていたことがよかったと思います。大学院の最終年度(2009年執筆)、日本の心理学の最高峰とされる日本心理学会に出した最初の英語論文が、当時(2010年)の学会で優秀論文賞をいただけたのはすごく名誉なことでした。なかなか選ばれないものなので、英語をやってきてよかったなと。下手でもいい、出すことに意義があると指導教官に言われたのが後押しになりました。 ■ 最近はどのぐらいのペースで論文を書かれていますか。 あまり書けていません。教育に力を入れると研究に使う時間を取るのがなかなか難しく、本当にストイックな気持ちがないと続かないし、書けません。ダービー大学のプログラムを履修中に英語でケースレポートを2本書いたものがあるので、機会があればそれをさらにいいものにして出したいなと思っています。 ■ 英語で論文を書くことや発表することなど、英語での失敗はありますか? 失敗はたくさんあります。まず、英語の基本的な表現ができてないから、カンファレンスなどでの質問に対してうまく答えられないというのは、日常茶飯事です。ダービー大学の授業でのディスカッションでも、なかなか自分の言いたい表現ができませんでした。論文を書くことについては、関連分野の研究者と「論文を書いたから読んでくれない?」「コメントくれない?」と言える関係を保っておくことで失敗を防いでいるとも言えます。投稿する前に読んでもらって、意見を求められる関係を築いてあるといいですね。研究者と仲良くなって日本に来てもらうこともあります。今度、11月にもイギリスからデボラ・リー博士を招いてワークショップを開催します。 ■ 論文を書くだけではなく、書籍などの翻訳もされていますよね。 英語が好きなので、翻訳するのは好きです。デボラ・リー博士の本も訳しました。英語はコミュニケーションのために役立っています。海外の研究者と仲良くなって会話をして、そこで何か研究の発想が生まれることもあります。翻訳を少しずつやっていること、翻訳することで自分なりの日本語で表現すること、それを継続すること――それが英語の勉強になっています。 ■ 他に英語力を鍛えることは何かされていますか? 筑波大学の名誉教授であり臨床心理学科の元学科長の市村操一先生からの助言もあり、定期的に英語の本や論文を読むようにしています。これは僕が教員になったとき(2010年)からずっと続いていることです。他に、登録している研究グループのメーリングリストから届く半端ない量の英語のメールを読んでいます。読むだけでも結構大変ですが、電車の中などで意識して読むようにしています。最先端の研究グループがディスカッションしているのを読むのは、勉強になります。僕は、典型的な日本人というか、遠くから眺めているほうが性に合っているので、自分から積極的にディスカッションには参加せずに反対意見が出て議論になっているのを横目で見ているだけですが、とても役に立っています。 カウンセリング風景をビデオに撮って英訳して、それを海外のスーパーバイザーに見てもらうこともあります。実際の相談者のやりとりをビデオに撮って、自分の関わり方が、ちゃんとしているか、適切かどうかというのを熟達したスーパーバイザーに見てもらいます。この時の指導やディスカッションは英語になるので、これも勉強になります。…

Publishing in Medicine—Tips to Avoid Common Pitfalls

A strong basis: Know your literature A robust study design High-quality statistics Handling peer review…

Fundamentals of Writing Scientific and Medical Research Papers

Organizing the structure of a manuscript Adding relevant references and citations Effective presentation of data…

How to Get Indexed in International Citation Databases

Why and what authors need to cite? Citation indexing and its significance Selection criteria of…

米国議会へ科学者が多数進出

科学研究者は伝統的に「非科学的」なことには興味をもたず、主として学術分野、あるいは学研から離れてもせいぜい産業の分野で活躍してきたと言われます。科学(Science)・技術(Technology)・工学(Engineering)・数学(Mathematics)の頭文字をとってSTEMと言われる分野に従事する研究者だけでなく、医学・ヘルスケア分野の研究者にも同じ傾向があると言えるでしょう。しかし、時代は変わり、科学者は政治に無関心ではいられなくなってきました。米国では「象牙の塔」から出して政界に進出する人たちが増えてきています。 ■ 2018年中間選挙でSTEM/医学・ヘルスケア系候補者が連邦議会に進出 2018年11月に行われた米国の中間選挙は、上院で共和党、下院で民主党が過半数を制し、「ねじれ」を生んだこととともに、マイノリティや女性が多数当選したことがニュースになりましたが、学術界ではSTEM/医学・ヘルスケア分野の経歴を持つ候補者( 科学系候補者 )が多数当選したことも話題になりました。Business Insiderの記事には、上院で1名、下院で9名が新たに連邦議会に当選したとして、当選者とそれぞれの専攻分野が次の通り紹介されていまし。 Jacky Rosen(ネバダ州、上院、民主党):コンピューター・プログラム。ネバダ州選出の下院議員として議席を持っていたが、今回の中間選挙で上院に立候補。 Chrissy Houlahan(ペンシルバニア州、下院、民主党):インダストリアル・エンジニアリング(経営工学)。米国空軍勤務、化学教師、NPO代表などの職歴を有する。 Joe Cunningham(サウス・カロライナ州、下院、民主党):海洋科学。弁護士の資格も有し、環境専門弁護の実績を持つ。 Sean Casten(イリノイ州、下院、民主党):生化学エンジニアリング。廃エネルギー回収会社を設立。 Elaine…

Effective Use of Academic and Social Media Networks for Endorsing your Publication

Significance of research promotion Traditional ways of research promotion Academic and social media networks Choosing…

small talk:気候を表す英語を覚える

一般社団法人 学術英語学会 では、毎年、セミナーを開催しており、その中でもユニークな企画として好評なのが「ソーシャライジングとネットワーキングのための英語」です。一般的に、日本人研究者がニガテとしているのが「ソーシャライジング」または「ネットワーキング」、いわゆる研究者交流です。親睦会などの場でどのように話しかけたらいいのか―今回はシリーズ第5回目です。 small talk: 気候を表す英語を覚える 気候を表す表現と言えば、“It’s cold.”や“It’s warm.”などは誰でも知っています。しかし、程度や性質に応じて微妙な感覚を表現することができれば天気の話題にも色合いが出てきます。気候の状況を表す形容詞や副詞をたくさん覚えておくとよいでしょう。 It’s a little cold. / It’s a…

A Guide to Academic Book Writing and Publishing

Types of academic books How to write a compelling academic book How to publish an…

Panel Discussion – Has the Scientific World Truly Opened Itself to Open Access?

Open Access Target journal selection Article publishing charges OA archives or repositories

撤回された論文のデータベース公開

1年間に何本ぐらいの論文が学術雑誌(ジャーナル)から撤回されていると思いますか?なんとその数は年500~600本にもおよび、しかも、過去数十年の撤回数は確実に増えているというのですから驚きです。撤回の理由は研究不正や意図していないミスなどさまざまですが、不正と判断される多くは、データの捏造・偽造・盗用に起因しています。しかし、論文が撤回された場合、なぜ撤回となったのか明確な理由が分からないままということも多々あります。そこで、この状況を打開すべく、2018年10月末、論文撤回を監視するサイト「Retraction Watch」が18,000本の撤回論文のデータベースをオンラインに公開し、 撤回論文 の閲覧および検証を行うことを可能としたのです。 論文撤回の判断とその後の処置 多くの出版社は論文撤回規定を設けており、学術雑誌の編集委員はその規定に従って、どの論文を出版するかを決定します。倫理規範に反することが指摘されたことに対し、該当論文の著者全員が撤回に同意すれば問題ありませんが、著者のひとりでも同意しない場合には編集委員が撤回するかの最終判断を行います。学術出版規範委員会(Committee on Publication Ethics : COPE)による論文撤回ガイドラインには、編集者は著者の同意なく論文を撤回できると記されています。論文が撤回となると、印刷誌では撤回されたことを伝える注釈が次の号に掲載されるなどの処置が取られますが、オンラインでは、文章の上に「撤回 (Retracted)」の透かしが表示されることはあっても削除されないなど、出版社や公開媒体によって対応が異なるようです。そのため、どの論文が撤回されたのか気づかないまま引用してしまうことが起こっていました。そこに登場したのが、撤回論文のデータベースなのです。 Retraction Watchと撤回論文データベース 2人の科学ジャーナリスト、アイヴァン・オランスキー(Ivan…

Plan S: A Revolution in Open Access Publishing

Open Access Publishing Introduction to cOAlition S and Plan S Principles, Aims, and Scope of…

Bioethics: Addressing Social and Ethical Issues in Medicine and Science

Bioethics and bioethical principles Policy-making and upholding Ethical issues in life sciences research Resources for…

Finding Perfect Research Collaborator: How to Build a Robust Research Network

Research collaboration and its models Identifying the right research collaborator Initiating and arranging a collaboration…

Mastering the Art of Creating Successful Grant Proposals

Types of research funding Types of research funders Planning for a research proposal Writing a…

How to Become Peer Reviewer: Doing your Share for the Research Community

The Peer Review Process Peer Review Models Becoming a Peer Reviewer Drafting a Review Report

small talk:まずは天気の話から

一般社団法人 学術英語学会 では、毎年、セミナーを開催しており、その中でもユニークな企画として好評なのが「ソーシャライジングとネットワーキングのための英語」です。一般的に、日本人研究者がニガテとしているのが「ソーシャライジング」または「ネットワーキング」、いわゆる研究者交流です。親睦会などの場でどのように話しかけたらいいのか―今回はシリーズ第4回目です。 small talk: まずは天気の話から 会話を始動させる、あるいは沈黙を埋めるためによく引き合いにだされるのが small talk です。Cambridge Advanced Learner’s Dictionary によると、small talkの定義は“conversation about…

How to Effectively Promote Your Research

Research Promotion Social Media & Research Promotion Research-sharing Forums Role of Online Repositories