リサーチの補助ツールとしてのダイアグラム

オーストラリア国立大学のインガー・ミューバーン(Inger Mewburn)准教授がお役立ち情報をお届けするコラム「研究室の荒波にもまれて(THE THESIS WHISPERER)」。今回はダイアグラムで文献レビューを行い、そこから論文テーマのアイデアを探す方法についてのお話です。 文献レビューの執筆には正直苦労します。読み込みが充分かいつも不安で、重要な部分を見逃して “間違ったこと”を書いてしまうのではないかと思ってしまうのです。10年間以上、論文を書いているのに、そのような思いが消えません。膨大な量の文献を前にして思考停止に陥る博士課程の学生の気持ちが痛いほど分かるのです。ですから、そうした学生たち、そして自分自身が、どうすれば救われるか、いつも考えています。 以前の投稿で、スパイダー・ダイアグラム(情報を整理し線画などで幾何学的に図示する手法)を使って文献レビューを行う方法に触れました。このテクニックはトピックが明確に設定されている場合には有効ですが、嗅覚が必要になるようなケースではどうでしょうか?レビューの全体像を自分で決めてかからなければならないような場合です。 博士課程に入りたての学生が文献検索を行う際や、既存のプロジェクトに新たな分野の文献を取り入れる際には、私と同じような人であれば、行き当たりばったりになりがちです。 私の場合、有用な情報がヒットするのを期待して、Google Scholar等のデータベースに何十個かの検索文字列を入力します。引用文検索で、特定のトピックに関する議論が確認できます。1つの検索文字列での完全一致検索が終わったら、あいまい検索も使用して取りこぼしのないことを確認します。 これは根気のいる作業で、正直あまり体系立った方法ではありません。 最近は、Jonathan Downie博士に勧められたKristin Lukerの著書『SalsaDancing into…

アカデミックライティングが悪文になってしまう理由(そしてそれを修正する方法)

オーストラリア国立大学のインガー・ミューバーン(Inger Mewburn)准教授がお役立ち情報をお届けするコラム「研究室の荒波にもまれて(THE THESIS WHISPERER)」。今回はアカデミックライティングが悪文になってしまう理由と修正方法や、PhD過程とそのキャリア形成に役立つ文章力を生かすべき場面を提案するお話です。 「研究職に進まなくてもPhD課程を有意義に過ごすには」という投稿はちょっとした物議を醸したようで、24時間でのサイト来訪者数も過去最多でした。 そして、残りのPhD期間をどう過ごすべきかという質問が数多く寄せられました。これについては、いろいろ思うところがありますが、最も悩ましい話しから始めましょう。それは、多くの学生が卒業時には入学時よりも文章力が劣化してしまうということです。これは私たち教員が、特殊な‘学術的’スタイルでのライティングをじっくりと指導するからです。そしてこの学術的なスタイル、アカデミックライティングこそが、悪文の元凶なのです。 アカデミックライティングは一般的に大仰で、時代がかった独特のスタイルで、一部の読み手に知識を伝えながら、それ以外の読者に対してその知識を隠してしまうものです。アカデミックライティングの修得は、自分の知見と同時に、自分がその集団の一員であることを発信する手段を手に入れることなのです。 例えばコンマの使い方を見てみましょう。 コンマがあれば意味の通る長いセンテンスが作れます。コンマなしの文は単文です。単文は従属節をもたない単純な構文です。単一のセンテンスのみです。単文を続けて文章を作ります。単文は直截的です。一文が短くなります。短すぎるかもしれません。 コンマを多用することで、従属構文ができあがります。従属節の後にさらに従属節を使用すれば、センテンスは非常に複雑になり、コンマの間で少し混乱することになるかもしれませんが、それでも読者は、冷静で注意深い性格の学者が入念に、非常に丁寧なセンテンスを作りあげているのだ、ということを確信し、いかめしく重なりあう文節と従属節を、飲み込みにくいなりに理解しようとします。この様に、従属節をもてあそべば、直截的な物言いとは違い、何かを熱烈に支持したり貶めたりすることがないために、無難な記述ができるのです。学者は受動攻撃的であることを好む(つまり、考えを直接的に伝えること避けがちな)ため、「まじめな」学術的文章がこうした様式で埋め尽くされているのは当然と言えるでしょう。学者マインドを示すのはコンマだけではありません。以前、academic writing can be like a…

新型コロナウイルスワクチン の動向

世界中で新型コロナウイルスワクチンの開発が待たれる中、主要国間の開発競争が激しさを増していると聞こえてはくるものの、分からないことだらけです。ワクチン開発はどこまで進んでいるのか、供給されるようになるのはいつなのか?ヒトへの臨床試験は安全なのか?現在もワクチン試験が進められているが、その効果と安全性は?どのように供給されるのか?供給は公平に行われるのか?多くの人が不安を抱えている状況です。今回は、現時点までにわかっているワクチンの開発情報と公平な供給を確保するための取り組みについてまとめてみました。 新型コロナウイルスワクチンの開発状況 一般的に、ワクチンの開発には4年から10年、状況によっては年十年も要すると言われています。例えば、エボラ出血熱ワクチンの開発には約5年、ポリオワクチンの開発には約40年を要しました。史上最速で承認されたと言われるおたふくかぜのワクチンでさえ、臨床段階から認可されるまでに4年を要しています。ワクチンは、前臨床試験および臨床病期を含めた数々の段階的な試験を経て認証されるのが理想的です。通常、それぞれの段階で約2年もしくはそれ以上の年数が費やされるのですが、新型コロナウイルスワクチンの開発競争に勝つために、製薬会社は幾つかの段階をスキップあるいは複数段階を組み合わせた試験を行うことで開発スピードを上げています。 研究者はこの状況に慎重に対応する必要があります。ワクチン開発競争に参戦したいという誘惑と参戦しろというプレッシャーが、ワクチンの安全性と有効性に支障を来すものであってはなりません。公衆衛生の専門家は、十分な分析と試験が行われることなくワクチンが早々に承認され、市場に投入されることを懸念しています。ワクチンを早期展開することは、ワクチンの有効性を的確に判断するための科学的な厳密さを損なう可能性があるだけでなく、予期しない副作用を確認する時間的・臨床件数的な余裕が少なくなる危険性も捨てきれません。当局は、ワクチンを承認する前に、そのワクチンのリスク・ベネフィット比(副作用対効果の比較)を慎重に検討する必要があります。 ヒト感染試験への参加 ワクチン開発の段階試験として、意図的にそのウイルスに感染させる試験も行われます。金銭的報酬が示された場合、あなたはこのヒト感染試験の被験者になりますか?世界各国で行われている新型コロナウイルスのヒトでのチャレンジ試験(曝露試験)のボランティアになると手を挙げた人の数は、3万8千人を超えています (11月9日時点)。 コロナウイルスワクチンの試験として、ヒト感染試験あるいは曝露試験と呼ばれる試験の実施に向けた準備が進められています。ヒトでの曝露試験とは、臨床試験の手法のひとつで、ワクチンを接種した後、あえて実際の病原体である新型コロナウイルスに被験者をさらすことでワクチンの安全性や有効性を評価する試験です。リスクが高いように見えますが、世界中で感染者が増え続けている状況下での選択肢は限られています。すでに各国でランダム(無作為)にワクチンまたはプラセボ(偽薬)を投与して安全性や有効性を比較する第3相臨床試験が大規模に実施されていますが、これだけでは実際の有効性を評価できるまでに時間がかかります。ヒトでの曝露試験が実現すれば、臨床試験に要する期間を短縮させ、ワクチン開発が促進されることになるので、結果として何百万人もの命を救い、生活を守ることができるとの信念に基づいて計画が進められています。致命的な新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)への意図的な感染には不安が伴うものの、安全かつ倫理的に行うことは可能だとされており、実行されればこの感染症に関する膨大かつ重要なデータを得るために役に立つことでしょう。 新型コロナワクチン開発情報 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のゲノム配列とその他の関連情報がNCBI(アメリカ国立生物工学情報センター)の運営するGenBankから公開されるやいなや、世界中の研究者が効果的なワクチンを開発すべく猛スピードで研究を進めています。24時間体制で取り組んでいる研究グループもいるほどです。現在、180以上の候補が挙げられており、世界保健機構(WHO)の11月3日時点のまとめによれば、臨床試験に入っている新型コロナウイルスワクチンの候補として47種類がリストされているほか、155種類が前臨床の段階にあります。ワクチン開発で先行している(第3相臨床試験段階、フェーズ3にある)のは、イギリスのアストラゼネカ(オックスフォード大との共同開発)、アメリカのモデルナ、ファイザー、ジョンソン・エンド・ジョンソン、シババックス、中国のシノバック、カンシノ、シノファーム、ドイツのビオンテック、ロシアのガマレヤ国立疫学微生物研究所などです。 これらの試験が進む中、重篤な有害事象が起きたことにより試験が中断されるケースも出ているほか、ロシア政府がガマレヤの開発したワクチンのフェーズ3試験の結果を待たずに承認薬として登録した ことなどが話題になっています。ワクチン開発動向や治療薬の開発については、関連情報をまとめたサイトなどもあるので参考にするとよいでしょう。研究者らは、2021年初めにワクチンの提供が開始できるようになることを期待していますが、時期についてはまだまだ予断を許さない状況です。 ワクチンの信頼性を確保するために 熾烈な競争が繰り広げられている新型コロナウイルスワクチンの開発競争。イソップ寓話の「ウサギとカメ」では、ゆっくりでも着実に進むことが勝利につながることが示されています。ワクチン開発も同じで、開発が速い企業が勝者になるとは限りません 。長期的な安全性、総合的な有効性に関する十分かつ信頼できるデータが確認されることなく早々に承認されたワクチンが最適なものではないと判明した場合はどうなるのでしょうか。ワクチン開発における不手際やミスがひとつでもあれば、新型コロナウイルスワクチンの接種に対する不信感を高めてしまう恐れ…

論文共同執筆者の探し方

分野にもよりますが、学術論文を共同で執筆することが増えています。多くの研究者がチームとなって研究を行うことで知識の共有を広げているのです。他の研究者と共同研究をしたり、共著で論文を執筆したりすることにはいくつかのメリットがあります。さまざまな論文共同執筆者(論文共著者)が自身の知識や経験を持ち寄ることで、研究活動自体をより効率的に、生産的に行うことができるようになるのです。さらに、異文化間、部門間をまたいだチームが協力することで、さらなる創造力や推察力を研究活動にもたらす可能性もあります。たくさんの研究者が協業すれば、研究作業を共有して進めるとともに、チーム内で特定の役割を分担することが可能です。それぞれ異なる研究グループがひとつの研究プロジェクトで助け合うことは、より多くの研究成果を得る助けとなります。そして、実務的なことだけでなく、研究チームに共著者として参加する研究者が増えれば、性別や人種の多様性も増し、さまざまな視点で研究に豊かさをもたらすこともできるでしょう。 もちろん、研究者が協力して科学研究を行うことには責任も伴います。共著者と共に研究を行うことは、多面的な点でやりがいのある仕事です。しかし、共著者は、研究デザインや作業の流れについて異なる見解を持っているかもしれませんし、それぞれの課題に対する取り組み方もさまざまです。論文執筆について相反する意見を持っている可能性もあります。協業がうまくいかなければ、研究プロジェクトが遅延したり、もっと悪ければ失敗したりする可能性も捨てきれません。共同研究で最善の結果を得るためには、戦略的なアプローチが不可欠なのです。 論文共著者に求めること 思い通りの、かつ満足できる協力体制を構築するためには、まず自分自身の強みと弱みに真摯に向き合うことから始めます。自分に不足している部分・スキルが何か分かっていれば、どのような部分で自分をサポートしてくれる共著者が必要なのか分かるはずです。 スキルを相補う論文共著者を探す 例えば、自分が統計ツールを使うことがうまいのであれば、実験作業を概念化したりデザインしたりするのが得意な共著者がいればいいと思いませんか?研究分野で豊かな経験があり、問題解決を助けてくれそうな共同研究者は?補完的な強みを持つ共著者がいれば、作業と分野専門的な作業を分けることによって、より大きく進展させることができます。共著者がいることで、新しい考え方が生まれ、さまざまな手助けを得ることができるでしょう。 研究倫理の理解も含めて気になること 共著者は研究倫理をきちんと把握していますか?メールでのコミュニケーションはタイムリーに行えていますか?約束は守る人ですか?研究について構想し、デザインを構築して分析を行うことなどに時間と労力を惜しまない人ですか?そして、もうひとつ共著者を選ぶときに考慮すべきことは、その共著者は、あなたが最善を尽くすための意欲をかき立ててくれるような人かどうかという点です。 候補者のキャリアと分野 さまざまな段階のキャリアにいる研究者や、異なる分野の研究者を引き込むことで、共著者の多様性が得られます。多様性は、研究全体の質を高めるのに不可欠な要素です。経験レベルの異なる研究者には、それぞれ異なる強みがありますし、異なる分野の研究者は、あなたの研究分野に「異分野からの視点」を持ち込んでくれるでしょう。さらに、読者の幅を自分の研究分野以外に広げることにもつながります。計量書誌学的分析には、著者の人種的多様性が高い出版論文は、より多く引用されていることが示されています。 執筆スキルのある論文共著者 執筆スキルの高い著者を見つけたいものです。共著者と諸条件の交渉をする前に、その候補者が共同研究者として適任かを検討するために、研究業務を例示してもらうか、過去の出版物を聞いておきましょう。 論文共著者の選考 共著者の選考には、その人の知識と経験が不可欠な要素とは言え、もっと重要なことは、あなた自身がその共著者候補と楽しんで研究を進められるかどうかです。共著者になるからには、やる気と共に、研究プ プロジェクトのガイドラインに従って時間と労力を費やす覚悟が必要です。そして、学術分野における評価が悪くないことも大切な要素です。科学研究に対する貢献度合いが高く評価され、評判もよく、名声もある研究者を共著者に迎えることはどんな時でも素晴らしいことです。彼らは、あなたの研究の信頼性と信憑性を高めることに一役を担ってくれるでしょう。…

Writing Better Is Now Easier Than Ever: Edit With Trinka AI

How AI can help with better writing Trinka Cloud Editor – Key features and tips…

日本学術会議の問題は国内外でどう見られているのか

菅総理が日本学術会議から推薦された105名の委員候補のうち、6名を任命しなかったことに対して議論が噴出しています。日本学術会議は10月2日付けで、首相宛に新規会員任命を拒否した理由の説明を求める要望書を提出しました。これに続き、大学からは政府は日本学術会議の要請に応じるべきとの意見が出されただけでなく、理工系の学会からは状況を憂慮しているとの声明が発表されました。さらに、任命拒否は法的解釈に関わる問題であるとの指摘も出ています。菅総理は、21日に訪問先のインドネシアでの記者会見で「前例踏襲して良いか考えた結果」と強調したものの、具体的な理由を明らかにしないままとなっています。ここでは、日本の学術界および海外の識者はこの状態をどのように見ているのか、大学や学会の見解、海外誌の報道や学術誌(ジャーナル)の掲載記事などを紹介してお伝えします。 日本学術会議とは それぞれの立場の意見を並べる前に、そもそも日本学術会議について簡単に述べておきます。日本学術会議は、1949年に設立。内閣総理大臣の所轄の下で職務を行っており、年間約10億円と言われている運営費は国の負担でまかなわれています。日本の学術研究者を代表する機関として、政府に対する政策提言、国際活動、科学者間のネットワーク構築から、社会に対する科学の役割の啓発など幅広い活動を行っています。 国内の反応 まず国内の反応ですが、日本物理学会、自然史学会連合、日本数学会、生物科学学会連合、日本地球惑星科学連合他90学協会が10月9日に記者会見を行い、管首相の任命拒否は「政府により理由を付さずに任命が行われなかったことに関して憂慮」しているとして、「従来の運営をベースとして(中略)早期の解決が図られることを希望致します。」との緊急声明を発表しました。多くの研究者は、今回の任命拒否が学問の自由の制限につながることを懸念しているのです。同日、任命拒否された新会員候補6名のうち2名の教授が所属する東京大学の五紙総長は、「これ(任命の見送り)に端を発した混迷は、学術が持つべき本来の力を大きく削ぐもの」であると憂慮するとした上で、「日本学術会議の置かれた状況が早く正常化し、求められている役割を果たすことができるよう、同会議からの要請に対する真摯な対応を、政府には望みます。」とするメッセージを発表しました。他にも、多くの大学学長および学会が声明を発表しています。この動きは広がり続け、13日には日本自然保護協会と日本野鳥の会、世界自然保護基金(WWF)ジャパンの自然保護3団体が、連名で抗議声明を出しています。 歴史的には学術会議が推薦した者がそのまま任命されると解されてきました。学術会議の選出が尊重され、総理大臣の任命は「形式的」であると考えられてきたわけです。一方、日本学術会議の運営に税金が投入されており、委員が公務員の立場を有する以上、総理大臣が任命に関する裁量権を持つと言われればその点は否定できません。しかし、任命拒否は「総合的、俯瞰的」理由だとの説明が納得できるものではないことから、緊急声明などを発表することで反論しているのです。 では、国外ではどのようにとらえられているのか。 学術ジャーナルScienceとNatureへの投稿 Scienceは10月5日付けで「日本の新しい首相は学術会議と戦うことを選んだ」と題する記事を掲載し、冒頭で新会員の任命プロセスを混乱させたと指摘。研究者は、菅首相の任命拒否の動きが学問の自由に対する脅威だと考えていると述べています。10月1日に任命者のリストが公開された際に任命拒否が明らかとなって以降、菅総理がいまだに拒否の理由を説明していないこと、この任命拒否に対して首相官邸前で抗議活動があったことを紹介しています。 Natureは10月6日付けのEditorialで「Natureがなぜかつてないほど政治の話題を取り上げる必要があるのか」と題して、より多くの政治的ニュースを掲載していく必要があるとの姿勢を示しました。米国は前代未聞の大統領選挙戦の真っ最中。科学界としてはどちらの候補者が大統領になるか、深刻な問題です。政治家の判断が、今後の研究、研究資金、政策の優先事項など学術研究全般に大きく影響するからです。政治が学術、科学の独立性を担保するか、学問の自由は守られるのかーー科学者は、研究行うために公的資金を得ていますが、政治家から干渉されること、あるいは研究成果に対して政治的な制約が加えられることは望んでいません。研究の独立性を保つには、政治家や政策立案者との信頼関係が必要ですが、今、世界で科学と政治の信頼が危ぶまれています。米国のトランプ大統領が気候変動を否定し、ブラジルのボルソナロ大統領がアマゾンの熱帯雨林破壊が進んでいること示すデータを認めないように、科学的データを無視あるいは見解を否定するといった亀裂が生まれているのです。そして、日本の首相による学術会議会員の任命拒否。本記事に「政府の科学政策に批判的だった6名の学者を日本学術会議の新会員として任命することを拒んだ」と明記されていることは注目です。さらに、学術会議が日本の科学者の声を代表するための独立した組織であること、日本の首相が2004年に会員の任命を始めて以降、初めて任命が拒否されたことも紹介しています。記事の著者は、政府が学術的独立性を尊重することは現在の学術研究を支える基盤のひとつであり、学術研究の独立性が損なわれれば、環境・社会・国民の健康に重大なリスクをもたらすと警告しています。 日本学術会議のあり方の議論 このように、政治が科学に干渉することを懸念し、科学と政治の関係が脅威にさらされているとの指摘がある一方、日本学術会議側にも委員の選考基準やプロセスの明確化・透明化など見直すべき点があるとの意見もあります。首相が管轄する組織でありながら、学問の自由、独立性を確保することは可能なのかといった点も議論となるでしょう。2003年と少し古くなりますが、日本学術会議が各国のアカデミー機関との比較をまとめた「各国アカデミー等調査報告書」によれば、欧米諸国の学術機関の多くが運用資金の大半を民間組織から得ているか、政府からの援助があったとしても全額ではなく、非営利団体あるいは非営利法人などの非政府組織に位置づけられていると書かれています。これに対し、日本を含むアジア諸国では政府機関の中に置かれている国も多いようです。 今回の任命拒否に端を発する問題を受け、河野太郎行政・規制改革担当相は9日の記者会見で、日本学術会議を行政改革の対象とし、学術会議を所管する井上信治万博担当相と協議を進める考えを示しました。自民党は学術会議の在り方を検討するプロジェクトチーム(座長・塩谷立元文部科学相)を設置し、早くも14日に初会合を開催。21日には学術会議元会長3人へのヒアリングを実施しました。今後も学識経験者や経済界などから意見を聞き、年内に提言をまとめる方針を発表するとしています。 学術界と政界の対立にも発展しかねない今回の騒動。弁護士会までもが任命拒否は違憲であるとする声明を発表するなど、議論は混迷を深めています。日本学術会議の在り方、政府との関係、さらに任命拒否が関連法に照らし合わせて適正かといった法解釈論議まで、議論は当分続くと思われます。

研究助成金情報と申請で抑えておきたいポイント

研究者にとって、学術研究を続けるためには資金(= 研究助成金 )の確保が切実な問題です。しかし、資金を獲得したい研究者はたくさんいるので、潤沢な資金の確保は容易ではありません。当然、卓越した研究、社会に役立つ研究でなければ資金獲得競争には勝ち抜けません。 多くの研究資金は、大学や研究機関、政府機関、または民間企業やファンド(資金提供者)のいずれかから提供されています。官民かかわらず公募によって募集し、選考を経て、資金提供対象者・研究を選ぶのが一般的ですが、民間企業の場合には、会社の利益につながる研究、社会に直接的に役立つ研究などが選出において優先される傾向が強いということはあるでしょう。研究資金を得るには、まず自分の研究にあった助成金を見つけてから申請書を作成します。いかに自分の研究を「売り込むか」が重要です。手始めに、どのようなところで助成金応募の情報が見つけられるかを紹介します。人文学、社会科学、自然科学まで全ての分野を対象とした研究費の助成を行うものや、分野に特化したものなどさまざまな助成金公募があるので、見比べてみてください。 助成金募集ニュースの紹介や助成金情報の検索ができるサイト 研究助成・奨学金検索サイト コラボリー/Grants(研究助成):クラウドファンディング ウォッチング 研究開発の助成金、奨学金ポータルサイト:GRANT SQUARE 科学新聞:公募情報 日本学術振興会:公募情報 公益財団法人 助成財団センター:助成金情報>助成プログラム検索、助成金募集ニュース 大学病院医療情報ネットワークセンター(UMIN):FIND各種助成(研究助成、海外留学助成、留学生受入助成等)公募情報 海外の研究機関で働きたい研究者を支援するための経済的なサポート制度(フェローシップ)…

Common English Translation Mistakes in Academic Writing – Tips, Tricks, and Tools!

Language and Grammar Rules Accurate word choice Maintaining factual correctness Optimizing sentence structure

ジャーナル査読者になるチャンスは誰にでも平等か

学術雑誌(ジャーナル)の査読(ピアレビュー)は学術出版の要です。査読とは、投稿された論文を同分野の専門家が評価・検証を行うことで、この査読を通過できた論文のみがジャーナルに掲載されることになります。 よって、誰もが査読者になれるわけではなく、ジャーナルの編集者によって選出・依頼されます。一般的には投稿論文のテーマに沿った関連分野で活躍している研究者が選ばれるわけですが、査読を引き受けたら、投稿論文を読んで品質を確認し、必要な場合にはアドバイスを提供しなければなりません。査読者が担う作業としては以下が挙げられますが、査読者の役割や選出の方法を公開している出版社もあるので、それらも参考になります。 投稿論文に書かれた研究が、学術ジャーナルで発表するにふさわしい内容であることを確認する。 既存の研究で参照すべき重要なものがある場合には、論文著者に対して助言を行う。 論文に書かれた方法および統計手法をチェックし、必要に応じて表現の訂正などを求める。 論文の結論が研究の結果に裏付けられたものであることを確認する。 理論的には、これらの実務をこなせる研究者であれば誰でも査読者になれることになります。しかし、現実的に査読を担うには、さらなる能力が求められます。 Publonsによる査読に関する調査報告書 学術ジャーナルで出版されるほとんどの論文が英語で書かれていることから、アメリカにいる研究者が査読者になることが多いのでは、と思われがちです。Publonsが公開している査読に関する調査報告書「2018 Global State of peer review report」によれば、アメリカにいる研究者が査読を担った割合はすべての査読の32.9%でした。驚くのは、この割合はアメリカの研究者による論文出版の割合25.4%を上回っていることです。査読には多くの国の研究者が関わっており、このPublonsの調査報告書には、アメリカ・ドイツ・イタリア・スペイン・フランス・オランダ・スウェーデン・カナダ・英国・日本といった先進国と、中国・ブラジル・トルコ・インド・イラン・韓国・マレーシア・ポーランドといった新興国の研究者の査読関与の比較も示されています。中国の研究者が査読を担った割合を見ると8.8%ですが、論文出版の割合は13.8%でした。割合ではアメリカを下回っていますが、中国の論文発表数はアメリカに引けをとりません。しかし、査読への関与度合の差は大きく、中国の研究者が積極的に査読に関わっていないことが見て取れます。一方、調査では、中国人著者は査読者として招待されればその任務を受ける確率が高いことも示されていました。これらの比較から、先進国の研究者が査読に関与する割合は高く、対して査読への関与が低い新興国では出版の割合が高くなる傾向があることが見えてきます。…

ポジションペーパー作成に大切な10のポイント

一言で学術論文といっても、研究成果を記す原著論文や学会などで発表するためのポスター発表など、種類や長さによる違い、査読の有無によってさまざまな種類に分けられます。その中のひとつ、ポジションペーパーとは、見解論文と呼ばれることもあるように、比較的短めかつ早めに新しい問題やアイデアに関する見解をまとめるものです。ポジションペーパーを上手に書くには、研究スキルだけでなく、研究を進める間に収集した情報を分析するスキルも必要です。今回は、ポジションペーパーの基本的な構成と、作成するときに押さえておきたい10のポイントを紹介します。 ポジションペーパーとは ポジションペーパーは、ある問題やアイデアに対して、賛成あるいは反対いずれであれ意見を述べるものです。特定の問題(トピック)について議論したり、再考を求めたりするために書かれます。よって、ポジションペーパーの著者は、取り上げる研究論文やデータが何を伝えているかを読者に伝えた上で、問題や論争となっている点をどのように解釈するか、議論の的となっている理由を説明した上で、自分の見解や論点、解決策についてわかりやすく示す必要があります。 ポジションペーパーの構成 通常、ポジションペーパーは数ページで、取り上げたトピックの概要(議論の論点)、議論の背景、結論(解決策の提示)を1-3段落に分けて記載します。取り上げるトピックを決めたら、それに関する見解と可能な解決策を提案するため、関連する情報、データを収集する必要があります。概要を述べる際に主要な関連用語(キーワード)を特定しておくと背景が書きやすくなるでしょう。また、情報を収集する際には、その情報がトピックに関連性のあるもの、信頼性の高いものであることが不可欠です。ページ数については、4-6ページ程度が目安のようですが、フォントサイズや行間、挿入する図表の数などが指定されていることもあるので、大学や出版社がポジションペーパー用の執筆ガイドラインを定めている場合には、それを参照してください。 トピックの選択(判断基準) まず、ポジションペーパーを書くのに適したトピックをどうやって選択するかが重要です。面白くないもの、議論の余地のないことについて書いても誰の興味も引けません。自分の研究分野との関連性が高いもの、社会に影響を及ぼす可能性の高いものなど、賛否両面からの議論が展開できるものを選びます。トピックを選別するための判断基準として、以下を考えてみてください。 実際に議論されている、あるいは疑念がもたれているなど明確な論点があるか 説得力のある議論ができるか、賛否両面から論点を説明できるか(議論の異なる側面の長所と短所を挙げられるか) 賛否いずれかの意見を支持、主張ができるか 議論の絞り込みは可能か これらの問いかけを満たすトピックを選択したら、自分の意見を固めるために、論点の裏付けを行うための研究調査を進めます。賛否両面の証拠を示し、論点や意見を比較することにより、対立する議論の弱い部分への指摘も含め、議論に対して明確に意見することができるようになります。 ポジションペーパーの構成 一般的な構成に沿って考えをまとめてるようにします。 1.…

大学院への志望動機書で押さえるべき10のポイント

国内外どこの大学院を目指すとしても、志望動機書・パーソナルステートメント(Personal Statement)を書くことは簡単ではありません。該当分野に対する興味と、その大学院に入りたい、プログラム/コースを受講したいという熱意、自分の長所と経歴をポジティブに書けばよいとはいえ、押さえておくべきポイントはあります。今回は、志望動機書を書くときに押さえておくべき10のポイントを紹介します。 志望動機書とは 志望動機書は、あなたが何故その大学院あるいはプログラム/コースに応募するのかという理由と共に、あなた自身のことを示し、該当する研究分野でどのように貢献できるかを伝えるための文書です。 一般的すぎる話、あるいは個人的なことであっても該当のプログラム/コースや学術研究からかけ離れた話を書いてしまうと、応募者がどのような人物で何をしたいのか、該当分野で貢献できるかを見極めるのが難しくなってしまいます。応募者は、何を研究したいのか、自身の興味や経験が対象の分野やプログラムに一致しており、研究の発展に貢献できることを明確かつポジティブに書き記すことが必要です。志望動機書を書き始めるにあたって、次のような質問への答えを考えてみてください。 応募する理由は? 応募対象は自分の興味や経験に一致(適合)しているか? 該当の研究分野にどのように貢献するつもりか? 重要なのは、導入部分で読者の興味を引き、伝えたいことを的確に記すことです。志望動機書は、自分の知識や経験と応募するプログラム/コースとの関係に焦点を絞ります。もちろん、文法、誤字脱字/スペル、句読点の使い方などには十分な注意を払っておく必要がありますので、自分自身で書き上げた文章を何度もチェックするだけでなく、同僚や指導教官らに確認を依頼する時間も十分にとっておきましょう。文章量にも配慮し、必要なポイントを簡潔にまとめ、過度に長い文章になることは避けます。英語で書く場合には、約700ワード、1-2ページ程度でまとめるようにしてみてください。志望動機書の作成には時間がかかりますので、余裕を持って作業に着手することをお勧めします。 志望動機書を書くときに押さえておくべき10ポイント 1. 自分自身について まずは、応募者である自分自身がどのような人物で、どのような経験を持ち、どのような研究活動に従事してきたかを伝えるところから始めます。 2. 応募理由…

医学論文ノウハウ:研究デザインから投稿まで

徹底的な文献調査 目的にかなった研究デザインとは 正しい解析手法の選び方 査読コメントの対処法

ピアレビュー・ウィーク2020(Peer Review Week 2020)組織委員の研究支援エナゴが 査読プロセスをテーマに各種イベントを開催

世界で学術論文の校正・出版支援をリードする研究支援エナゴは、学術出版の査読(ピアレビュー)に焦点を当てたイベント「ピアレビュー・ウィーク2020(Peer Review Week 2020)」に組織委員会の構成メンバーとして参加いたします。 ピアレビュー・ウィーク2020(Peer Review Week 2020)エナゴ特設ページ: https://www.enago.com/academy/peer-review-week-2020/ 6回目となる今年のピアレビュー・ウィークは9月21日から25日に開催されます。ORCID、Sense About Science、Science Open、Wileyという4つの団体・学術出版社のイニシアティブで2015年に始まったピアレビュー・ウィーク。毎年、研究者や編集者などの個人、出版社、図書館、大学、学術団体・科学団体などの組織や団体、出資者、さらに、「良質な査読が学術コミュニケーションにとって最も重要である」という基本的な概念に賛同するすべての人々に対し、特色ある学習体験を提供するためのプラットフォームを提供しています。 6年目となる今年のピアレビュー・ウィークの構成団体は40以上。イベント期間中には、ウェビナーやインタビューなどさまざまなオンラインイベントやソーシャルメディアでの交流を通して、学術研究における査読の重要性に光を当てていきます。 2020年は誰にとっても不安定で厳しい年となっていますが、学術界も同様に、数々の課題に直面しています。イベントの今年のテーマは、現在の世界を覆う不確実な状況にふさわしい「Trust…

新政権のもと日本の科学界の行く末は・・・

2020年9月8日のNatureのEditorialに、首相交代を期に日本の科学界は新たな道に踏み出す必要があるとの意見が寄せられていました。この記事に書かれた安倍政権下において日本の科学界が向き合わなければならなかった問題について深堀してみます。 公的研究費の削減 経済成長に重きをおいてきた第2次安倍政権下の8年間、日本の研究者による国際的論文出版数は減少してしまいました。「Nature Index 2019 Japan」にも、日本の研究業績が減少し続けていることが指摘されています。研究成果の発表数の減少、研究力の低下は、公的研究費の削減が最大の問題であると言われています。日本の研究開発費(2018年)は、GDP割合で3.26%(1,767億USドル)を占めています。2018年の研究開発費の世界の国別ランキングで1位の米国が2.84%(5,815億USドル)、2位の中国が2.19%(5,543億USドル)であるのに比べても、日本の拠出割合は決して低いものではありません。しかし、金額では上位2国に大きく差を開けられている上、この支出の80%は民間産業からのものであり、政府からの支出しとしては依然として低い状況です。 再生医療の商業化 安倍政権は、科学、特に生物医学研究の再生医療への商業化を推進してきました。2013年には、幹細胞の製造許可や再生医療における処置などに関する制度を定めた「再生医療等の安全性の確保等に関する法律(再生医療等安全性確保法)」を成立させています(2014年施行)。さらに改正薬事法「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(医薬品医療機器等法)」を同年施行し、これによって再生医療等製品について有効性が推定され安全性が認められれば、早期に条件および期限つきで製造販売承認が得られるようになったのです。これは、臨床試験において厳格かつ明確な安全性が確認されるまで、幹細胞治療を商品化すべきではないという国際的な研究者の見解に反しており、国内外では批判が出ましたが、日本政府は方針を変えていません。 軍学共同-軍事研究への抗議 もうひとつ、別の政府の試みに対して研究者が反対しているものが、軍事利用の可能性のある科学研究に研究者を参加させようとするものです。安倍政権は「軍学共同」と呼ばれる政策を進め、防衛装備の開発に役立つと考えられる研究に対して防衛省からの資金援助を可能としました。「共同」とはいえ、実態としては資金力によって大学や研究機関の研究者を軍事研究に取り込むものです。防衛省は、2014年6月に「防衛生産・技術基盤戦略」を策定し、大学や研究機関との連携強化および、民生技術であっても防衛(軍事)に応用・転用できる二面性のあるデュアル・ユース技術を含む研究開発プログラムとの連携・活用が明示されました。これを具体化するために大学や研究機関との連携を強めることを目的に発足されたのが、「安全保障技術研究推進制度」(2015年4月)です。デュアル・ユースという言葉で、民生と軍事のどちらでも利用可能な技術であると印象づけようとしていますが、対象の研究が防衛的なものか攻撃的なものか、どのように使われるのか外からではわからないのです。これに対し、日本学術会議は2017年、「軍事的安全保障研究に関する声明」において、研究の方向性や秘密性の保持をめぐって政府による研究者の活動への介入が強まる懸念があるとして、「軍事目的のための科学研究を行わない」姿勢を明らかにしています。その上で、「大学等の各研究機関は、施設・情報・知的財産等の管理責任を有し、国内外に開かれた自由な研究・教育環境を維持する責任を負うことから、軍事的安全保障研究と見なされる可能性のある研究について、その適切性を目的、方法、応用の妥当性の観点から技術的・倫理的に審査する制度を設けるべきである。」と求めています。 国際研究協力における制限の検討 他にも懸案事項はあります。日本政府は、量子技術、人工知能(AI)、半導体設計などの分野における国際協力に制限を設けることを検討しています。日本の最先端技術の輸出規制を強化する考えです。日本は「中国」と明示してはいませんが、既に中国に対して輸出規制を採用している米国に続く方針なのは明白で、日本が米国などと共同研究を行う場合を含め、社会や経済に多大な影響を及ぼす可能性が高い特定の研究成果が他国、特に中国の研究者に流出するのを防ぐ狙いです。 前述のような技術研究は、幅広い分野への応用が期待される一方、研究段階から実用化までに時間がかかること、実用化を見越して特許を囲い込む動きが早くも始まっていることを鑑み、「オープン・クローズド戦略」を進める方向で調整が進められてきました。特に量子技術については、2020年1月に政府指針として「量子技術イノベーション戦略」が策定され、産学官で取り組むさまざまな施策が盛り込まれています。しかし、この戦略には科学技術を使って経済活性化をめざす官邸の意向が色濃く出ていることもあり、多くの課題を抱えています。 ジェンダー格差 安倍政権は女性の活躍を推進してきました。確かに出産後も働き続ける女性の割合は増加しましたが、科学界の女性の数は微増に留まっています。2016年からの第5期科学技術基本計画では、2020年までに自然科学系における女性研究者の割合を30%、理学系で20%、工学系で15%まで増やすという目標を掲げています。女性研究者の数は右肩上がりに推移しているものの、諸外国に比べるとまだまだ低い状況です。…

コロナ禍で変わる論文検索方法や研究資金規模

新型コロナ感染症(COVID-19)感染拡大は、甚大な経済的影響を及ぼしていますが、その影響は経済にとどまりません。研究者も移動を含めたさまざまな研究活動に制限がかかっている上に、医薬研究関連の情報過多と誤情報の拡散という問題に直面することとなりました。世界中がCOVID-19という共通の話題に関心を寄せる中、関連する情報は、例え誤ったものであっても、従来のメディアやソーシャルメディアにより瞬く間に拡散されます。特に、ソーシャルメディアは拡散する情報の量とともに速度と範囲を大きく変えました。この情報過多の問題も含め、パンデミックによる研究者への影響をみてみます。 パンデミックが研究論文の読み方・検索の仕方に再考を促す COVID-19治療薬あるいはワクチンの開発に向け、関連する研究が急ピッチで進められています。従来であれば厳しい査読とアクセス制限を課す学術出版社も、COVID-19に関連する論文については査読の迅速化やオープンアクセスでの情報公開を進めるなどして情報の共有化を図っています。同時に、査読なしで公開するプレプリントへの投稿も増大。この結果、論文の洪水が引き起こされました。既に、6000本を超える論文が、査読なしのプレプリントに投稿されていますが、品質の確認は困難な状況です。そこで、研究者らは論文の読み方、論文の検索の仕方に工夫を凝らす必要に迫られることとなりました。 信頼できる論文を拾い出す方法のひとつは、筆者の一覧から見慣れた名前、信頼できる機関を検索して論文を探すというものです。ただし、検索結果を過度に信頼しすぎることのないように注意が必要です。斬新なアイデアよりも従来の考え方に基づくアイデアを好む傾向が、COVID-19に関連する論文の検索や評価におけるバイアスとなる可能性があるからです。COVID-19の重要な論文は、米国以外、アジアやヨーロッパ諸国から発信されていることも多く、例えばコロナウイルスの特性や広がり方についての重要な論文には、あまり知られていない中国の研究者から発信されたものもありました。また、パンデミックに関する需要な洞察は、国際的には知られていないスペインとイタリアの研究者から発せられていたとの事例もあります。 中国の大学による研究不正が複数公表されたことなどを鑑みると、認知度の低い研究者・研究機関から発信される情報の信頼性に不安があるのは否めません。しかし、研究不正は中国に限ったものではないので、研究者は発表されている論文を多面的に判断し、慎重に読む必要があります。 Academic librarians on open accessに投稿された記事によれば、プランS(Plan S)やAmeliCAといったオープンアクセスモデルの台頭に加え、コロナウイルス関連の論文のオープンアクセス化推進によって、オープンなデータの価値が一層高まると同時にアクセス可能な論文数が増加しました。それらの膨大な論文の中からどうやって自分が読みたい論文を見つけ出すか?そのためにはアブストラクト(要旨)を活用するのも有効です。アブストラクトとは論文の要約なので、該当論文の内容を判断するのに役立ちます。Web of Science、PubMedなどの学術論文データベースでは、アブストラクトの検索が可能ですし、全文へのアクセスを限定している学術出版社でも、アブストラクトには無料でアクセスできることが多いので、論文の概要を知ることができます。PubMedにはタイトルとアブストラクトから論文の比較を行う機能があり、類似の論文を見つけることができます。 また、bioRxivに投稿された分析「A scientometric…

Launching ‘Review Assistant’: An AI-powered Tool for Peer Reviewers

Boosting the reviewing process Search strategies for locating articles Introducing ‘Review Assistant’ Generating high-quality review…

医学研究報告の透明性確保ガイドライン6選

2020年6月、医学雑誌に掲載された新型コロナウイルス感染症に関する論文の撤回が注目されました。その主たる理由は、データの信憑性に疑問が持たれたこと。この論文は、査読を経て発表されましたが、公開後に研究者から公開質問状が提出されて撤回に至り、世界中が新型コロナウイルス感染症の治療薬やワクチンを一刻も早く市場に出そうと研究を進める中で衝撃的なニュースとなりました。しかし、論文が撤回されても、一度公開されてしまった論文の内容がメディアなどを通じて拡散され、予期せぬ影響を及ぼす危険性は残ります。データの透明性確保は国際医学雑誌編集者委員会(ICMJE)のデータ共有ポリシーにも明記されていますし、人の命に影響することであるため、データを含む研究の透明性を確保し、関連情報の公開を徹底することが必要不可欠です。 EQUATOR Networkが主導する取り組み 医学研究の報告における説明やデータが不十分であると、研究自体への信頼性に疑問が持たれるだけでなく、再現性においても問題となります。そこで、EQUATOR Network(Enhancing the Quality and Transparency Of Health Research:健康研究の品質と透明性を強化するネットワーク)が主導して、診断、疫学研究、ランダム化比較試験、観察研究などにおける研究デザインや報告に関する多様なガイドラインの作成が推進されてきました。研究報告の透明性と正確性を高めることを目的としたそれらのガイドラインはネットワークを通して研究者に提供されています。 医学研究論文で広く使われているガイドライン 医学研究の報告に役立つガイドラインの中から、広く受け入れられている6つ(PRISMA, CONSORT,…

電子ジャーナルプラットフォームIOPscience

IOPscienceとは、英国物理学会(Institute of Physics: IOP)の出版部門IOP Publishingが提供する学術雑誌(ジャーナル)のオンラインサービスで、IOP発行のジャーナルの検索や論文へのアクセスを可能にするプラットフォームです。今回は、物理学分野において重要な論文公開と出版を支えるIOPscienceについてまとめてみました。 論文の出版 研究論文を出版することが、研究者のキャリア形成で非常に大切なことは言うまでもありません。所属先から論文出版が必須とされている人もいれば、学術界に研究成果を知らしめるために出版するという人もいますし、自分の研究分野において専門家としての地位を確立するために出版するという人もいるでしょう。いずれにしても、研究成果を論文として出版するまでが「研究」であるとも言われるほど論文の出版は重要視されています。成果を発表してこそ、該当分野の研究を促進し、科学の発展に寄与することができるのです。研究者としてのキャリアを積むのであれば、できるだけ早くから論文の執筆にチャレンジしてみることをお勧めします。 とはいえ、論文発表はキャリアのためだけではありません。有名な物理学者、スティーブン・ホーキング博士の言葉に、研究を行うことの原動力は発見の喜びであると表したものがありますが、その喜びを他者と共有するためにも論文を出版することは意義深いことです。 「No one undertakes research in physics with…

研究支援エナゴ、大学・研究機関における研究および教育の未来に関する 世界規模のアンケート調査の結果を発表

[米国ニューヨーク州] 英文校正および研究支援サービスのエナゴは、このたび新型コロナウイルス(COVID-19)の流行を受けた、研究・高等教育の未来に関する包括的なアンケート調査を各国で実施しました。調査期間は、2020年5月から6月の約8週間で、欧州、アジア、南米、北米、中東、豪州/オセアニア、アフリカの38か国108大学が参加し、これまでで最も包括的な大学についての調査の一つとなりました。エナゴではこの数百万人単位の学生と数万人単位の研究者および教職員を対象とした広範囲にわたる調査を手始めに、一連の研究リスク評価調査を行う予定です。 調査報告のハイライト 大学による「ニューノーマル」への適応の中心的方策は、オンライン学習への移行と、実験やフィールドワークではなく論文執筆への注力でした。喫緊の課題であったオンライン学習への移行は28%の大学で順調に進んだものの、15%の大学では容易ではありませんでした。またほとんどの大学はすぐにオンライン環境に適応したものの、まだ移行を完遂できていない大学もありました。 なお、各国で厳しいロックダウン措置が取られましたが、研究活動自体がストップしたわけではありません。回答者の35%は研究成果発信の低下を報告し、26%は変化がなかったと回答しています。また61%の大学が現在進行中のコロナ危機の研究に積極的に取り組んでおり、大学は国際的な援助や協力よりも同じ地域内での外部の支援や協力を求める傾向にあります。 予算面では35%以上の大学が研究予算を削減され、26%が標準予算を維持しています。全体でいうと54%の大学が大幅な予算削減を行っておらず、これは評価されるべき結果だと思われます。 注目すべきは、48%の大学がすでに研究者・学生のためのeラーニングシステムを構築しており、36%が運用の初期段階にあるということです。半数以上(56%)の大学が、研究者の技能を向上させるための新しいソリューションを積極的に模索しており、これらの大学の大多数は、e ラーニングプラットフォームの導入に外部の支援を必要としています。現時点でeラーニングシステムの導入に向けて動いていない36%の大学も、今後、適切なプラットフォームを特定し導入するための支援を必要とすると考えられます。 AIベースのソリューションについては、41%の大学は今のところ運用に向けた具体的な動きは行っておらず、すでに広範に運用している大学は約25%にとどまりました。76%近くの大学がAIなどの技術を完全には実装していないことが明らかになりました。 今回の調査で判明したことは、2020年前半に大きな「パラダイムシフト」が起きたということです。具体的には、オンライン授業やeラーニングシステムへの移行が進んだこと、研究予算への影響が見られたこと、研究全体をとりまく不安感が高まっていること、新しい状況への適応が容易でない大学があることなどです。 現在の前例のない世界的災厄の中で希望を見出すとすれば、この広範囲にわたる変化が、大学における研究教育を、中長期的にみてダイナミックで進歩的に変革する可能性があるということです。 エナゴでは、今後も引き続き研究リスク評価調査を実施していく予定です。共同調査または調査協力に関するお問い合わせは、academy@enago.comまでご連絡ください。 報告書の全文は、以下のサイトよりダウンロードいただけます。https://www.enago.com/academy/global_survey_report_2020.htm 研究支援エナゴについて(www.enago.jp) エナゴは世界有数の学術研究支援サービスで、論文投稿支援サービスや英文校正サービスにより論文発表のサポートを行っています。契約を交わす科学者、研究者、翻訳者、ソフトウェア開発者、プロジェクトマネージャー、学術出版の専門家が全世界に3000人以上在籍し、その幅広い知識と経験によって広範な専門分野に対応しています。言語学、自然言語処理、AI、データ分析などについての知見と技術を活かし、お客様のニーズに合った各種校正校閲サービスや論文投稿支援サービス、そして高いインパクトファクターのジャーナルへの投稿をスムーズにする最新のAIツールを提供しています。

How to Ace Your Next Virtual Academic Conference

Identifying the right conference Strategies for designing video presentations Handling Q&A professionally Tips for virtual…

論文出版のスピードと信頼性は両立できるのか

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の治療および感染拡大抑制のため、関連する研究論文の公開が急加速で進んでいます。大手出版社も含めた多くの出版社や研究機関が情報公開に踏み切り、関連論文のオープンソース化が進むと同時にスピード化も促進され、従来の査読付き学術雑誌(ジャーナル)ではなくプレプリントサーバーへの投稿が急増しています。COVID-19に関する新しい情報をより迅速に得ることが重要であるとはいえ、膨大な量の情報処理に追われる、研究の信頼性が保障できないといった問題も生じています。いくつか挙げてみます。 成果を急ぐあまり研究の品質が軽視される、あるいは精度(正確性)が失われる可能性(信頼できる調査結果と品質が保障されないデータが混在する恐れ) 査読プロセスのスピード化に伴う学術雑誌(ジャーナル)出版の信頼性の低下 誤解あるいは誤った情報の拡散 良質・悪質問わず多数の論文が投稿されることで生じる物理的なオーバーフロー 科学の信頼性、再現性の問題の複雑化 研究スピードと発表の問題 従来、医学・薬学研究は、新しい治療薬やワクチン開発、治験などいずれの研究においても時間をかけて慎重に行われてきました。研究デザインの構築、被験者の選択と結果の分析、バイアスによる影響の検討などには多くの時間を要しますが、今、研究者は少しでも早く結果を出そうと研究を急いでいます。 学術ジャーナルに投稿された研究論文は、査読プロセス(そのプロセス自体の問題を指摘されることがあるとは言え)を経ることによって一定の品質が保証されていました。しかし、このパンデミック下でジャーナルも査読の迅速化を図っています。従来は数か月を要していた査読をスピードアップし、概ね2週間以内に出版しているのです。その結果、低品質な出版物が増えたとの指摘も出ています。さらにプレプリントでの発表増加が、これに拍車をかけています。プレプリントには、多くの研究者が自由にアクセスし、早期に新しい発見を共有することができるというメリットがある一方で、査読を経ていないことで研究の質が担保されないとのデメリットがあります。 もちろん、COVID-19の世界的感染拡大を一日も早く収束させるためには、良質な研究をできるだけ早急に公開することが重要です。しかし、急ぎすぎた研究、出版は有害な問題を引き起こす可能性も有しているのです。 期待に反してリスクを増加させることも 一時期、米トランプ大統領がCOVID-19の治療に有望だと売り込んだ抗マラリア薬ヒドロキシクロロキンは米食品医薬局(FDA)の不足薬品リストに加えられるほど需要が拡大しました。自身も予防薬として飲んでいると発言して話題になっていたので耳にされた方もいると思います。しかし、この薬のCOVID-19への効果は未確認で、FDAは深刻な副作用があると警告しています。医学雑誌ランセットとニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン(NEJM)に掲載された論文には、ヒドロキシクロロキンはCOVID-19の治療に有効などころか、感染者の死亡リスクを高めると書かれていましたが、データを提供した会社の透明性に疑問が持たれ、調査の信頼性に疑問が持たれた結果、撤回されました。この論文に関する問題は査読で特定されなかったため、緊急時に大量に提出された論文に対する査読が甘くなってしまったのではとの指摘も出ました。 正確さとスピードのバランス COVID-19の研究者が研究論文の発表を急いでいるだけでなく、ジャーナルも査読プロセス迅速化を図っていることが、前述したような問題を生じさせる要因となっているのです。また、投稿された論文がメディアで「誤って」解釈されて世間の注目を集めてしまった例もあります。「コロナ陰謀論」を耳にしたことはありませんか?プレプリントリポジトリbioRxivに投稿された「新型コロナウイルスにHIVタンパク質に似たものが挿入」されているとの趣旨の論文は、コロナ陰謀論を裏付けるかのように拡散されましたが、論文にはそのようなことは書かれていませんでした。著者が撤回を表明した際に「HIVタンパク質類似のものが挿入」しているに過ぎず、「人為的な挿入」とは主張していないとコメントしています。論文に誤りがなくても、著者にそのような意図がなかったとしても、誤解されやすい表現が誤って伝達されるリスクがあるのです。 一方で、プレプリントと出版物で論文の捉えられ方に違いあることも確かです。出版された論文は、一般的に発表前に査読プロセスを経ていることから「正しい」と受け取られる傾向が高いのに対し、発表後に読者による精査を受けるプレプリントは慎重に受け取られる傾向があります。論文に問題があると指摘された際、撤回するまでの時間にも差があります。例えば、前述のヒドロキシクロロキンの論文は5月22日にランセットに掲載され、6月5日に撤回。bioRxivに掲載された論文の場合、1月31日に投稿され、2月2日に撤回されています。出版された論文の修正、撤回は簡単ではありません。出版社は、調査を行った上で、理想的には著者の合意の上で撤回を行います。一方のプレプリントサーバーは、更新版の投稿が簡単であるため、問題の迅速な解決を図れますし、研究上の問題が明らかな場合には該当論文を即削除することも可能です。…

パンデミックでの研究停滞をいかに乗り越えるか

オーストラリア国立大学のインガー・ミューバーン(Inger Mewburn)准教授がお役立ち情報をお届けするコラム「研究室の荒波にもまれて(THE THESIS WHISPERER)」。今回はコロナ禍での、PhD(博士号)取得に向けた研究停滞を乗り越える方法についてのお話です。 パンデミック関連(#pandemicpost)の別投稿で「COVID-19が収まるまでPhDを中断する?」という問いかけをしましたが、世界は今も非常に深刻な状況にあり、「普通」とは程遠い生活を余儀なくされています。このような生活が数か月あるいは数年間は続くとの認識が広がる中、学術関係者の話題は、実際の教室からオンライン授業への転換から、教員が自宅から授業を行う際の課題や、既に健在化している雇用喪失および今後の影響範囲に移ってきています。 毎朝ニュースを聞くだけで、不安や懸念が募ってしまい、気分は乱高下。こんな不安定な気持ちのまま複雑に入り組んだ研究プロジェクトの諸作業を進めるのは容易ではありません。学術ライティングに関するブログを書いているトロント大学のレイチェル・ケイリー(Racheal Cayley)がコロナ禍で執筆を行うことの難しさについて書いていますが、その困難さの反面で知的な作業はストレスを和らげてくれるとも言えます。とはいえ、私自身、多くのPhD学生や学術関係者と同じようになかなか行動に移せない――よしやるぞ!という気分にならないのです。 心理学で言うところの「フロー状態」、つまり目標に向けて集中し、時間の経過に気付かないほど没頭できる状態になれないのが難しいところです。フロー状態になれれば現実のプレッシャーから解放されるので、是非ともこの状態に到達したいのです。このコロナ禍でもPhD取得を目指して研究を続けるのであれば、フロー状態になる方法を見つけることが心の健康と研究自体にとってプラスになるでしょう。 では、どうやれば頭を研究に戻して、コロナ禍でもフロー状態に到達できるのか? ジャーナリスト兼ノンフィクション・ライターのアマンダ・リプリー(Amanda Ripley)は、著書『生き残る判断 生き残れない行動 – 災害・テロ・事故、狂言状況下で心と体に何が起こるのか(原題The Unthinkable:Who…

科学論文・医学論文の執筆の基礎

医薬バイオ分野における論文発表・出版の概要 論文の構造とその組み立て方 参考文献の検索および管理方法 データの効果的な示し方

How to Evaluate Research Impact Through Citation Analysis

An overview of research metrics Role of citation analysis Measuring research impact Citation databases and…

研究職に進まなくてもPhD課程を有意義に過ごすには(3)

オーストラリア国立大学のインガー・ミューバーン(INGER MEWBURN)准教授が、大学院で勉学に勤しむ学生さんにお役立ち情報をお届けするコラム「研究室の荒波にもまれて(THE THESIS WHISPERER)」。「研究職に進まなくてもPhD課程を有意義に過ごすには」と題して、PhD(博士課程)の問題点やあるべき姿を本音で語る3部作コラムの3本目。ここまで、研究者以外の種を考える学生が博士課程を有意義に過ごすための心構えについて話を進めてきましたが、いよいよ最後は、具体的にどのようにして新たな一歩を踏み出せばよいのかについてです。 PhDという学位は、取るか取らないか――二択しかありません。しかも、取得したからといって取得しなかった人に比べて就職戦線で優位に立てる保証は全くないのです。 誤解しないでくださいね。私は決してPhD課程での研究をおろそかにしていい、と言っているのではありません。ただ、論文に対する考え方を変えてみてはどうかと提案したいのです。論文自体に自分の研究者としてのアイデンティティーを見いだすのではなく、通過儀礼のようなものだと考えてみてはどうでしょう。10万語におよぶ壮大な論文を書くのも結構ですが、6~7万語以内でも十分価値ある論文を書くことができます。論文を短めにまとめることで浮いた時間を他のスキルを磨くことに使えばいいのです。 研究者の道に進むつもりがないなら、学術ジャーナルに論文を投稿することは時間と労力の無駄です(といいつつ、教える仕事をしている人は、ぜひ続けてください。コミュニケーション能力や組織内での対応力を高めることができるはずです)。とりわけ、人文科学を専攻としている人は、自分の研究成果を共有し、他の研究者から意見を聞くためには論文を書く以外に何ができるか考えてみてください。学術ジャーナルに投稿するための論文を書く方法を学ぶことだけに時間を費やすことはお勧めしません。文章力を磨きたいのなら、気の利いたレポートやメモの書き方を学ぶと良いでしょう。論文を書くのに費やす代わりに、技術的スキルや統計リテラシー、幅広いコミュニケーションスキルを向上させるために時間を有効に活用してください。 あえて、言わせてもらえれば――これを言ったら、あなたの論文に共著者として名前を連ねることで研究者としての実績を増やそうと思っている共同研究者から反感を買うかもしれませんが――他の研究者から論文を書くようにとプレッシャーを感じることがあっても気のせいではありません。論文に共著者としてでも名前が載ればCV(経歴書)に書けるのですから、論文は多い方がいい。ついでに、大手学術ジャーナル出版社にも文句を言わせてもらいましょう。出版社は研究者を食い物にして利益を得ていますし、発展途上国の研究者による論文へのアクセスをブロックしたり、購読料を跳ね上げることで大学図書館を追い詰めたりしています。 おっと、脱線してしまいましたね。 話を戻します。何事でも変化を起こすのは大変なことですが、学術生活における「普通」を変えるには、まずあなたが変わらなくてはなりません。個人的な経験から言わせてもらうと、私は自分を変えたことがいつも良い結果につながってきました。将来も学術界にいるという思い込みから自由になれば、別のクリエイティブな生き方が見えてくるかもしれません。もし研究の道に進まないとすれば、どんなことを書いて、どんなことを目標としますか?学術ジャーナル用の論文ではなく、政策に影響するような公的報告書を書いてるかもしれないし、ポッドキャストやブログを書いてるかも。あるいは、YouTubeの動画を作ったり、ドキュメンタリーの台本を書いたりしているかも……何だってできるってことを覚えておいて欲しいのです。 自分はどんな課題を解決できるのか、また誰がそれに対して対価を支払ってくれるのか、よく考えてみてください。そして、自分の学内の就職情報サイトを覗いてみてください。ワクワクする仕事が見つかるかもしれません。(このブログの末尾にPhD取得者の雇用について書かれた論文や記事をリストしておくので参考にしてもらえれば嬉しいです)。 何かを変えようとすれば反発もあるでしょう。そんな時は、多くの人は未来を見るにも過去に引きずられる傾向があることを思い起こしてください。もう、そんなことをしている余裕はありません。大学の中にある、あらゆる情報源や専門家の助言を活用して、自分自身がPhD課程の間にやりたいと思う経験を積むのです。専門的な経験を積んだ研究者になることも、コミュニケーター、問題解決者、あるいは新しい価値を創り出すクリエーターになるのもあなた次第。PhD取得の暁には、どんな課題にも挑戦できる人になっているはずです。研究で培ったあなたの素晴らしい洞察力を、購読料に縛られた学術ジャーナルの論文執筆に埋もらせるのではなく、世の中に役立つことのために使うこともできるでしょう。PhDを取ることによって、高い知性と学習能力とを合わせ持ち、このコロナショックによる不景気を乗り越え、望む仕事を見つけ、新たな道を歩み始めることのできる人材となれるはずです。 もはや新しい学術界への動きを止めるものはありません。あるとしても、そう長くはない学術界の過去へのノルスタジーだけです。学術界は確実に変わろうとしているのです。 一緒に前を向いて歩いていきましょう! 追伸:このブログに関するコメントがありましたら、お気軽にソーシャルメディアにタグ(@thesiswhisperer)を付けて発信してください。…

「アフター・コロナ」の世界の女性の活躍に期待

新型コロナウイルス感染症の封じ込めに成功している国の女性リーダーの活躍が、ワシントン・ポストやForbesで取り上げられて話題となりました。確かに、新型コロナウイルス対策で一定の成果を挙げている国々、ドイツ、台湾、ニュージーランド、デンマーク、アイスランド、フィンランド、ノルウェーでは女性リーダーの活躍が目を引きます。 ドイツのアンゲラ・メルケル首相は、コロナ対策でも手腕を発揮し、欧州諸国ではいち早く検査の実施拡大を行い、医療崩壊を食い止めています。台湾の蔡英文(ツァイ・インウェン)総統は、中国の武漢で正体不明の新型ウイルスが蔓延しているとの情報をつかむと早々に行動を開始。疫学者の陳建仁副総統と総統自身が抜擢したIT担当の唐鳳大臣とともに迅速な移動制限をかけ、日本でも紹介された「マスク配布システム」を含めた実用的なシステムを活用した対策を打ち出しました。ニュージーランドのジャシンダ・アーダーン首相は、観光業への依存度が高い国にもかかわらず早い段階で国境を閉鎖し、感染者が確認されると全国的なロックダウン(都市封鎖)に踏み切りました。他国がコロナの「封じ込め」を目標にしたのに対して「根絶」を目標に掲げ、自分は専門家ではないからと断りながらも国民の不安を解消すべく、ライブ中継を行うなど明確なメッセージを発しました。デンマークのメッテ・フレデリクセン首相も、早い段階で国境を閉鎖、ロックダウンに踏み切りました。女性が指導者となっている北欧4カ国(デンマーク、アイスランド、フィンランド、ノルウェー)では4月後半には封じ込めの成果が出始め、コロナウイルスによる死者は他の欧州諸国と比べて少数で収まっています。もうひとつ印象深かったのは、カリブ海のオランダ領シント・マールテンの国家元首シルベリア・ヤコブス首相の「動かないで」というシンプルなメッセージです。シント・マールテンにはICUのベッドが2つしかないという危機的な状況下で発せられた単刀直入なメッセージは力強いものでした。また、日本の小池百合子東京都知事もコロナ対策で評価された女性リーダーと言えるでしょう。小池都知事が毎日ビデオ会見を行い、フリップを多用しつつ明確なメッセージを発信していた姿は、ワシントン・ポスト誌の記事に取り上げられています。実は、小池都知事は毎週英語でもライブ配信を行っています。英語が堪能であることは知られていましたが、緊急事態に関する情報を母国語以外でも発信し続けているのは大変なことです。このように、女性リーダーたちはいち早く危機意識を持ち、専門家の助言を聞きながら必要な情報発信を行いつつ、迅速な判断を下すことで成果を挙げてきたのです。 女性がリーダーになるには、強すぎてもダメ、弱すぎてもダメという「ダブルバインド(二重拘束)」を克服しなければならないと言われています。これは、コミュニケーションをする上で、強い態度を見せればヒステリックととられ、柔らかい態度で接すれば弱々しいと取られるということです。女性リーダーとして成功するには冷静な判断力や決断力と共に、絶妙なバランス感覚も必要とされるのです。今回のコロナとの戦いでは、女性リーダーたちの人の気持ちを察しながらも必要な対策を進めていくという優れたバランス感覚とコミュニケーション力の高さが発揮されたことが良い結果につながったと言えるかもしれません。一方で、男性リーダーには科学を軽視あるいは否定する姿勢、経済優先の傾向が強く見られると指摘されています。北欧5ヶ国のうち唯一男性が首相を務めるスウェーデンは、ロックダウンを行わず、結果として同国の100万人あたりの死者数は他の欧州諸国よりも高くなってしまいました。もちろんコロナ対策で成功を収めている男性リーダーもいますが、科学を否定し、科学者からの警告に耳を傾けなかった男性リーダーの国で壊滅的な被害が出ているのは明らかです。 新型コロナウイルス感染の押さえ込みについてどの国の政策が正しいかを論じるには時期尚早です。しかし、早々に封じ込めに成功した国、迅速な対応が評価されている国には女性リーダーが多いのは事実です。それでも、なぜここまで彼女達の活躍が話題になるのかを振り返ると、女性リーダーの少なさが注目される理由のひとつであることは否めません。列国議会同盟(IPU)およびUNウィメン(UN Women)の発表によると2020年1月1日時点で女性が国家元首や首相を務めている国は、国連加盟国193カ国のうち20ヶ国に過ぎません。さらにこのデータを見ると、世界で官僚ポストに女性が占める割合は21.3%と過去最高ではありますが、まだまだ男性が多数を占めています。補足ですが、日本の官僚ポストに女性が占める割合は15.8%で113位。G7中では最下位です。 残念ながら女性の割合が少ないのは政治の世界だけではありません。エルゼビアが2020年3月24日に発表した欧州連合および世界15の国と地域、26の研究分野におけるジェンダーレポート「ジェンダーの視点から見た研究者のキャリアパス」によれば、日本の女性研究者の割合は対象国の中で最下位です。ほぼすべての調査対象国と地域で研究に参加する研究者の男女差は縮まりつつあり、日本でも女性研究者の数は増加しているものの、世界の中では今でも最も低い状況なのです。この事実は、内閣府の発表する男女共同参画白書(令和元年版)の「研究者に占める女性の割合の国際比較」にも明白に示されています。日本の研究者に占める女性の割合は漸増傾向にあるとはいえ16.2%、ここでも比較対象29カ国中の最下位です。しかもこの研究者の数は、自然科学系の研究者だけでなく、人文・社会科学系の研究者も含まれています。 女性の活躍において日本は劣等国です。これは改善されるでしょうか? 6月5日に日本学術会議が発表した報告書「理工学分野におけるジェンダーバランスの現状と課題」は、理工学分野で特に顕著なジェンダーアンバランスの課題について検討した結果をまとめたもので、同分野の女性研究者がキャリアアップするにつれて減少していく傾向を分析し、問題解決に向けたアプローチを示しています。科学技術基本計画(現在は第5期、2016年からの5カ年計画)では、女性研究者の採用割合の目標値を自然科学系全体で30%、理学系20%、工学系15%、農学系30%、医学・歯学・ 薬学系合わせて30%と定めているほか、女性リーダーの育成・登用に積極的な大学などの取組を促進するなどの施策を進めています。 日本をはじめ多くの国には今でもジェンダー・バイアスが存在していますが、変わりつつあります。世界が「アフター・コロナ」、「ニューノーマル(新常態)」に向かう中、今まで以上に女性の活躍が期待されるとの見方も出てきています。これからの社会に必要なのはダイバーシティ(多様性)であると考えられており、日本の学術界もダイバーシティの不足を重要視しています。これまでの進みは遅々としたものでしたが、図らずもコロナという「社会を変える力」が働く今こそ、女性が躍進するチャンスなのかもしれません。 こんな記事もどうぞ エナゴ学術英語アカデミー STEM分野の女性差別改善に男性ができること(リンク)

How to Write an Impressive Thesis Using an AI Language Assistant

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研究職に進まなくてもPhD課程を有意義に過ごすには(2)

オーストラリア国立大学(ANU)のインガー・ミューバーン(INGER MEWBURN)准教授が、大学院で勉学に勤しむ学生さんにお役立ち情報をお届けするコラム「研究室の荒波にもまれて(THE THESIS WHISPERER)」。「研究職に進まなくてもPhD課程を有意義に過ごすには」と題して、PhD(博士課程)の問題点やあるべき姿を本音で語る3部作コラムの2本目。前回は、指導教官の指導に妄信し、既存の事例を追従しているだけでは社会に通用する人材になれない、という話でしたが、今回はPhD課程を有意義に過ごすにはどうすればいいのか、その心構えについてです。 PhD課程における最大の山場のひとつは博士論文の執筆でしょう。実に大変な作業で、博士論文を仕上げるには多くの時間を費やすようにと指導するのが一般的ですが、私自身はそこまで時間をかけるべきなのか疑問に思っています。論文執筆があまりに難しい作業であるため、オーストラリア国立大学(ANU)では執筆指導を専門とするスタッフが常勤し、学生のサポートに当たっています。実は、博士論文とはほとんどの人が読みたくないと思っている文章のひとつです。私は博士論文を出版した方が良いと思っているわけではありません。下手に論文を出版しようとすれば、査読プロセスや学術ジャーナルの出版における順番待ち、あるいはその両方で問題が起こり、さらに困難な状況に陥ってしまうことでしょう。 PhD取得には困難が付きもの。それはわかります。でも困難に直面するとしても別のことでもいいじゃないですか。もちろん審査は重要です。でも、ぎっしり、長々と書かれたコメントをもらったとしても負担にしかなりません。論文を書くという経験を積むために博士論文を書く以上に負荷をかけるようなものは要らないのです。 もちろん、大学側は以前からPhD課程のカリキュラムの不備は改善すべきだと認識しています。だからこそ、私のような職種が存在するわけです。私のチームはコミュニケーションやプロジェクト管理といった一般社会にも通用するスキルを伸ばす手伝いをしています。皆さんが自信をもってさまざまなキャリアに挑戦できるよう、困難な状況への適応力とそのような状況からの回復力を高めるための手助けをしているのですが、私たちのワークショップに参加してくれるのはANUのPhDの学生の約半分に過ぎません。 トレーニングを目的としたワークショップは他にもありますが、多くのPhDの学生は、民間企業でもすぐに役立つスキル(例えば、最先端の解析パッケージやデータ解析の手法)を習得するのに十分な時間を費やしているとは言いがたい状況です。学部生や修士課程のセミナーを指導するといった大学院のカリキュラムを少し変えるだけで、これらのスキルを習得する時間を工面できると思うのですが、それをやろうとする指導教官はほとんどいないのが実状です。他の大学同様に、ANUでも投稿論文の書き方に関するコースには人が集まるのに、人前で話す方法、つまりコミュニケーションに関するコースには人がほとんどきません。これこそ、研究以外でも役に立つスキルなのに。 多くのPhDの学生が、一般社会に通用するスキルを磨く代わりに、ひたすら指導員のふるまいを模倣し、研究者としてのキャリアを積むための行動をとっています。自分の可能性を狭めてしまうのを見ているのはつらいものです。PhD取得後、半年あるいは1年たっても職に就けない人のカウンセリングを行うことがありますが、これにはさらに心が痛みます。そこに至ってやっと、実社会では役に立たない、研究業績を上げることばかりに気をとられて貴重な時間を無駄にしてしまったことに気づく人が少なくないのです。 ANUの状況が他より悲惨だというわけではないはずです。私は、指導教官からの期待とそれに応えようとする学生の行動について、どこの研究室でも起こっているであろう問題について、他の人よりもグローバルな見解を持っているだけです。私はこの15年ほどの間、将来を考えて指導教官の要求や期待を優先するあまり、自分自身の考えを犠牲にしてしまうPhDの学生を見続けてきました。これでも私をひどく落ち込ませるのに十分なのに、コロナ禍を経て世界が大きく変わろうとしている状況においてまで、相も変わらず古いやり方を推奨し続ける指導教官がいることを心から腹立たしく思っています。 ロックダウンによる自粛期間中に論文を書くようにプレッシャーをかける指導教官がいるというのにも怒りがこみあげてきます。せっかくの機会なのですから、データ解析の手法を習得したり、あるいは金銭問題を含む学術研究を続けるにあたっての不安に対処したりするのに時間を費やすのでもいいじゃないですか。学生がオンラインウェビナーを受講している最中に、指導教官が急にZoomでオンラインミーティングを始めようと学生を呼び出すのも考えられません(そこまで緊急なことって何?)。研究については指導教官のアドバイスを聞くべきですが、自分のキャリアについては自分自身の声に耳を傾けるべきです。学位が無事に取れたとしても、その半年後に泣いている、なんてことにならないでほしいのです。今なら間に合います。どうかPhD課程の時間を有意義に活用してください。 まずは、学術界に居続けることに固執せずにPhD課程の時間をどう過ごすかを考えてみましょう。この際、前回のブログに記載したやる気を喪失させる2つのパターンとなるような指導教官からの要求は頭から追い出しておきます。 今はすべてが中断されています。まさに「中断させられている」という状態。単に何かを自発的に「中断する」のとは大違いです。しかし、この「中断」をチャンスと捉え、個人のレベルでも、また社会全体においても本質的に変革していくことが求められています。PhD課程のこれまでの在り方から、全く異なる新しい在り方、PhDの学生が目標に向かって進んでいかれるような状況を作り出していかなければなりません。といいつつ、残念ながら変化を起こすには学生のみなさんの力に大きく依存することとなります。大きな変化を引き起こすには、あなた方読者のみなさんが行動を変えることから始まるのです。 この中断期間を利用して、学術ジャーナルの査読プロセスを切り抜ける方法を探るなど、従来の学術研究にとって役立つ情報の入手を行うのもアリです。でも、PhD取得後の雇用問題に関わってきた私として伝えておきたいのは、研究職がほとんどない状況では、いくら研究者として優れた資質を持っていたとしても職にはありつけないということです。大学でフルタイムの研究員に欠員が出た場合、補充採用を行う可能性はありますが、非常勤職員として雇うことが多いのはご存知の通りです。安定した研究職ポジションの数が極端に少ないため候補者間で熾烈な「椅子取りゲーム」をすることになるのです。実際、経済危機の予測が現実となれば、多くの経験豊富な研究者でさえ職を失い、学術界以外の業界に職を求めざるをえなくなります。彼らが失業すれば、研究職以外の雇用市場でライバルとなる可能性も捨てきれません。あらゆる業種の人たちを相手に勝ち抜いていかなければ職を得られなくなるかもしれないのです。 こんな話を聞くと、自分はハードワークと頭脳で乗り切るから大丈夫と思う人がいるかもしれません。それはそれで素晴らしい。自分を信じて進んで行かれる人がいるのは嬉しいことです。でも、ちょっと考えてみてください。学術界で生き残るために、いったいどれだけの労力を費やすことになるのか?ハードワークで体を壊さないだろうか?精神的にやっていけるのか?研究者としての仕事には、それを得るためのあらゆる努力に見合う価値があるか?…

研究データ出版の動向

学術界では、科学研究の成果や関連するデータや情報を共有する「オープンサイエンス」の動きが強まっています。そこで登場したのが、データジャーナル。研究データについて詳細に記述し、公開することで他の研究者が再利用することを助けます。研究データを広く公開することで社会貢献するとともに、価値あるデータを他の研究者に再利用してもらうことで次の科学的発見につなげることができるのです。しかし、ほとんどの研究者は自身の研究成果を論文として発表することが学術界にとっても自身のキャリアにとっても良いと認識していながら、すべての研究データを論文と共に発表することに合意しているとは言えません。長年、研究当事者はデータを所有物と考え、他の研究者は方法と結論さえ明確に書かれていればデータを見る必要はないと考えていました。この考え方が変わりつつあります。再現性の危機が問題視され、オンラインアクセスが増加するに従ってデータの検索や閲覧が簡単にできるようになると、科学者や研究者たちの間でデータを共有する新しい動きが出てきたのです。データ・レポジトリ(またはデータリポジトリ)が構築されると、新たな論文の出版先としてデータジャーナルが浮上してきました。データジャーナルの動向を探ります。 データジャーナルと研究データ まず、日本学術会議情報学委員会から出された報告書によれば、データジャーナルとは「データ生産者が分野を超えて連携して、オリジナル論文に埋め込んだデータや論文投稿時に棄却した高品質のデータを学術の成果として集積するための新たな場」と記されています。データジャーナルは、データ自体を研究成果として発表する場です。多くのデータジャーナルはオープンアクセス(OA)誌の形で刊行されており、分野を超えて利用されています。ところが「データ」自体は特に定義されていないため、簡単に言えば、観察の結果および研究を進める間に研究題材に関連付けて研究者が集めた情報全般となります。ここには生データだけでなく、処理・較正された値、発表内容まで研究の過程で生じたすべての情報(未処理のデータファイル、ソフトウェア、ソースコード、プロトコル、方法、インタビュー記録、モデルなど)も含まれます。 従来の学術論文は、主な発見や興味深い結果を重視し、そこに至るデータにはあまり注意を払ってきませんでした。その理由としては、研究者が集めたデータが論文に書き込むには膨大だった、一般的に論文の中のデータの位置づけが研究の結論を補完するものだったなどが挙げられます。では、今まで発表してこなかったデータを発表することに、意味があるのでしょうか。 研究データは公開すべき? 研究成果たる論文の根拠となる情報である研究データの公開を検討すべき理由は複数ありますが、最初に挙げるべきは、再現性の危機(reproducibility crisis)対策でしょう。データを共有すれば、学術界(科学コミュニティ)は再現性の検証ができます。次に、データを公開すれば、他の研究者がデータだけでなく実験・分析方法などの詳細を確認し、新しい課題に取り込むことも可能です。もちろん、著者が新たな共同研究を立ち上げるにも、学術界で研究者として評価を高めることにも役立ちます。また、データを公開することは学術界のみならず、政策決定の際に参照されたり学術関係以外の研究者が入手できるようになったりするなどの便益が図られます。最後は、自分にとってのメリットです。データを公開することで論文の被引用数を増やすことができます。データを、データジャーナルやデータ・レポジトリに公開することによって、他者に適正に研究データを引用する機会を提供し、それによってデータ提供者はその功績を認められることになるのです。 データをどこに公開するか データの公開する方法としては、データジャーナルに出版するか、データ・レポジトリに保存するかの2通りがあります。データ・レポジトリは、研究データ(画像データや数値データなど)や研究に付随するプログラム等を収集・保管しておくことを目的としています。データ・レポジトリは研究者にとって既になじみのあるものですが、その利用は個々の大学や研究機関などに限られており、部外者が簡単に利用することはできない上、多くのデータ・レポジトリへのアクセスは有料です。とはいえ、European Open Science Cloud(EOSC) ポータルのように無料のデータ・レポジトリもあるので、参考にしてみましょう。 もうひとつの方法が、データジャーナルです。ほとんどの研究者は論文を出版し、原稿とは別にデータをデータ・レポジトリに保存していましたが、この方法では特定のデータを探し出すのが簡単とは言い難い状況でした。データジャーナルは、データセットを探しやすくするのと同時に、普及・引用しやすくすることを目的としています。データジャーナルには、データセットを説明する簡潔な文章とレポジトリに収納された全データへのリンクが示されるので、データの保存や再利用を促すために有効な手法と考えられています。ほとんどのデータジャーナルに書式があり、著者はこの書式に入力してデータ情報を提出するだけで投稿できるようになっています。データジャーナルはMEDLINE のように主要な医薬文献検索に収録されるので、従来の学術雑誌(ジャーナル)同様にインパクト・ファクター(IF)を取ることができます。…

世界的なパンデミック下でプレプリントの利用が急拡大

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大にともない、医学研究論文や関連記事の数が急増しています。ウイルス感染の急拡大は人々の命と健康にとって重大な問題ですが、学術出版界は思わぬ恩恵を受けることとなりました。ロックダウンや移動制限により、学術出版、特にバイオサイエンスや医学分野におけるオープンサイエンスの重要性が再認識されたのです。世界中の研究者が、ウイルスの遺伝配列、疫学的情報、投薬による症状の変化などのデータを共有するようになりました。必要性が革新的な変化を後押ししたのです。その結果、お互いの状況を確認し合い、手元にはない知識や情報にアクセスすることができるようになりました。効果的なワクチンや有効な治療法の開発を支援し、パンデミックの影響を理解するための急激な情報ニーズに対し、世界の学術界は驚くべきスピードで対応しました。例えば、新しいコロナウイルスの人への感染が確認されると、2020年1月10日には中国の研究者が、世界的なインフルエンザウイ ルスの共有データベースGISAID(Global initiative on sharing all influenza data)にこのウイルスのゲノム配列情報を公開し、そして1月中旬までには、ドイツと他のヨーロッパ諸国と香港の研究者が、新型コロナウイルスを検出するための診断テストの詳細を公開するに至りました。過去のインフルエンザやSARSの流行時には考えられなかったスピードです。 一気に進んだコロナ関連論文の共有化 このように、論文や情報が共有されるスピードは格段に進歩しました。学術雑誌(ジャーナル)のNatureは、コロナ関連のすべての研究論文を自由に利用できるように取り組むとともに、研究者には関連研究を迅速に公表し、共有することを推奨しています。論文公開に関して論争の的となっている学術出版社エルゼビアも「Novel Coronavirus Information Center」を開設しコロナウイルス関連の論文を無料公開しています。医学雑誌ランセット(Lancet)も「COVID-19 Resource Centre」を開設し、COVID-19でジャーナルに掲載された論文や記事を提供することで、医療従事者や研究者を支援しています。このサイトにはランセットジャーナルに掲載されているCOVID-19関連の論文がまとめられており、無料でアクセスすることができます。…

研究職に進まなくてもPhD課程を有意義に過ごすには(1)

オーストラリア国立大学のインガー・ミューバーン(INGER MEWBURN)准教授が、大学院で勉学に勤しむ学生さんにお役立ち情報をお届けするコラム「研究室の荒波にもまれて(THE THESIS WHISPERER)」。「研究職に進まなくてもPhD課程を有意義に過ごすには」と題して、PhD(博士課程)の問題点やあるべき姿を本音で語る3部作コラムの1本目。コロナショックで世界が変わろうとしている今こそ、PhD課程を有意義に過ごしたいものです。研究者以外のキャリアを視野に入れている方は必見です! 高学歴就職難が問題となっています。読者の中には、求職中の人や今後どうやって食べていけばいいのか真剣に悩んでいる人もいると思います(ご苦労、お察しします)。新型コロナウイルスの影響で、来学期の授業も予定通り開講されるか、そうだとしてもオンラインなのか対面授業なのか?はたまた希望のコースが定員を満たせずキャンセルされたりしないか?先が見通せない状況が続いています。 将来に対する不安はあらゆることに影響する 不安要素が多すぎてPhD課程の研究計画を立てられず、集中することも難しい状況に置かれているのではないでしょうか。このような状況下でPhDをとる価値があるのか?と改めて自問している人もいるでしょう。学術界は競争が激しく、研究者としてのポジションを獲得するのは狭き門です。PhD取得後の就職を考えると、不安と恐れ、落胆、時には怒りさえこみ上げてくるかもしれません。研究職以外の可能性について考えてみても、なかなか具体的なイメージがわかないし、自分が持っているさまざまな専門知識やスキルが、果たして一般社会で通用するのかどうか自信が持てないと感じている人も少なくないはずです。 将来の就職についての不安を抱えているところに、このコロナ禍が重なり、絶望感を感じていたりしませんか。朝は起き上がることができず、身だしなみに気を配る余裕などない、という人もいるかもしれません。 これは、そんなあなたに向けたブログです。 私は、まだ希望が残されていることを知ってもらいたい、そして挑戦することをあきらめないで欲しいと伝えたくてこのブログを書いています。ただし、最初に断っておきたいのは、PhD課程での過ごし方を変えない限りPhDという学位の価値はない、ということです。アフターコロナの世界に向けて大学は変わらざるを得ませんが、それを待っている余裕はありません。私たち自身が変わるのです。 思えば変わる――自分が変わろうと思えば自分を変えることはできる 今こそ変わらなければ駄目なんだと言いたくて、今回はいささか過激なタイトルを付けましたが、私自身はまだPhDという学位の価値を信じています。私たちの調査では、たとえ研究関連の職に就けなかったとしても、他にも多くのチャンスがあることが分かっています。なので、きちんとPhDを取得した方がいいと思っていますし、PhDへの進学を考えている人は、是非そのまま進学した方がいいと思っています。世界は、未だかつてないほどに、研究で培ったスキルを求めています。まさに、研究スキルを有する人材(あなたです!)が必要とされる時代が到来しているのです。考えてもみてください。PhD課程には頭がいいだけではなく、創造性に富んだ人が集まっています。PhD課程にいる間は、研究に没頭できる潤沢な時間と、研究に利用できるさまざまな施設・設備があり、しかも専門家のアドバイスを受けながら未知の世界を探求できるという、理想的な環境が整っているのです。そして、簡単には解決できない大きな課題に取り組むチャンスも与えられているとなれば、まさしく自分自身が成長するチャンスじゃないですか。 大学という所は、PhDの研究を行うのに最適な場所です。図書館、実験室や研究室などさまざま施設が利用できるだけでなく、教官、研究員、技術サポートスタッフからいろいろな面でサポートを得ることができます。大学には豊富な知識があり、あなたはほぼ無制限にこれらの恩恵を受けることができるのです。 一方、PhDは大きな可能性を有しているにもかかわらず、院生が指導教官に多くを期待され、言われるがまま働き、意味のないことにさえも多くの時間を費やしてしまうことが問題となることもあります。 指導教官からの期待が大きすぎてプレッシャーとなってしまうこともあります。象牙の塔の独特の社会統制システムを「宗教的なカルト集団」と揶揄されることすら……。指導教官が学位取得まで導いてくれると妄信するあまり、PhD課程で享受できるはずのさまざまなメリットやチャンスを逃してしまう学生も少なくありません。古くからある徒弟関係が今なお影響力を持ち続け、学生の将来の可能性に影を落としているのです。…

コロナ禍でも学術研究を続けるために

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大で、世界の多くの国ではロックダウン(都市封鎖)や外出禁止となりました。国によって多少の差がありますが、多くの大学や研究機関が閉鎖され、研究者は予定していた調査や実験を継続できず、多くの学会も開催できなくなりました。感染拡大が収まって移動制限が緩和されたとしても社会的距離またはソーシャルディスタンス(Social distance)を取るように求められる中、どのように学術研究を進めればよいのでしょうか? ソーシャルディスタンスを保ちながら研究データ収集する ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(London School of Economics and Political Science, LSE)のAdam Jowettは、社会的距離戦略下でも研究者がデータを集めるための方法は幾つかあるとした上で、データ収集が不可だから研究計画を再検討すると言い出す前に、別の調査方法が倫理的に可能かを考えるように示唆しています。 多くの研究者は、データの収集中断や、研究計画の再検討を余儀なくされています。特に、対面でのインタビューやフォーカスグループへの調査、フィールドワーク(現地調査)などによってデータを収集することが一般的な定性的研究では、進め方の変更が必要なものも出ていることでしょう。オンライン経由でデータを集めたり、既存のテキストデータを収集したりする方法としては、社会学者であるVirgina Braun、Victoria Clarke、Deborah…

大型研究計画「マスタープラン2020」

先日、科学技術基本法の改正案の議論についてお伝えしましたが、2020年3月10日に閣議決定されました(追記:6月1日には衆院で可決、参議院での審議に進んでいる )。今国会での成立を目指し、この改正により、これまで自然科学に絞られていた研究支援の対象に、法学などの人文・社会科学も含まれることとなります。1995年に成立した同基本法の改正は今回が初めてで、名称は「科学技術・イノベーション基本法」と改められました。人工知能(AI)やゲノム編集などの新たな技術が急速に発展する中、倫理的議論や法整備の必要性が高まっていることに対応したものです。そして、この基本法とは別に、もうひとつ研究者にとって重要な「第24期学術の大型研究計画に関するマスタープラン(マスタープラン2020)」が1月末に発表されているので、今回はこちらのプランを紹介します。 マスタープラン2020 2020年1月30日付けで公表された「マスタープラン2020 」は、日本学術会議が日本として重点を置くべき大型研究プロジェクトをまとめたものです。日本学術会議は2010年に大型研究計画マスタープラン2010を策定、2011年の小改訂以降、概ね3年ごとに策定しています。日本学術会議が、学術全般を展望・体系化し、各学術分野が必要とする大型研究計画を網羅して実施すべき計画を選択したマスタープランを策定し、このマスタープランをもとに文部科学省がロードマップを策定。優先度の高い研究計画を選定し、概算要求を作成します。学術大型研究計画とは、予算総額が数十億円規模(超えるものもあり)、実施期間は5~10年、あるいはそれ以上の長期、学術分野のビジョン・体系に立脚した大型施設計画もしくは大規模研究計画に該当するものです。規模が大きいだけに、このような計画に関わる研究機関や研究者にとってマスタープランに策定されるか否かの影響は大きいことでしょう。 選定結果 例えば、過去のマスタープランで選定された計画 には、大型電波望遠鏡「アルマ」による国際共同利用研究の推進(国立天文台)やスーパーカミオカンデによるニュートリノ研究の推進(東京大学宇宙線研究所)のように大型施設の建設を伴うものや、大学・研究機関が活用する新しいステージに向けた学術情報ネットサーク(SINET)整備(国立情報学研究所)などがあります。学術大型研究計画は、新規提案及びマスタープラン2017に掲載され、今回改訂された提案である区分Ⅰと、過去のマスタープラン(マスタープラン2017及びそれ以前)に掲載され現在実施中・進行中の計画である区分Ⅱの2つのグループに分けられます。マスタープラン2020では、区分Ⅰの146件と区分Ⅱの15件、合わせて161件の学術大型研究計画が選定されています。さらに区分Ⅰの中から16件の新規計画と15件の継続計画の計31件が、優先度が高く早急な予算化が必要とされる重点大型研究計画として選ばれました。とはいえ、31件のうちの15件の継続計画とは「マスタープラン2017」から継続して採用されているものです。半数近くをマスタープラン2017に掲載され今回改訂された提案が占めていることから、新しい研究計画が採用される余地が減っているのではとの懸念もあります。 マスタープラン2020策定に関わる利益相反排除の方針 マスタープランは、各学術部分野が必要とする大型研究計画を網羅し、日本における大型研究計画のあり方に指針を与えることを目的としたもので、予算獲得のために作られたものではありません。しかし、科学研究費が抑制され、長期にわたる研究資金の確保が厳しくなっている状況下、文部科学省がマスタープランを参考に計画の優先度を整理し、大規模学術フロンティア促進事業等を選定していることを鑑みれば、マスタープランが日本の科学研究に及ぼす影響は大きいと言えます。大型の学術研究は、長期にわたって多額の経費が必要なため、社会・国民からの理解と支持を得つつ、長期的な展望のもとで戦略的に推進される必要があります。そのためにも、透明性の高い研究評価および、日本における戦略的、計画的な大型研究計画の推進においてマスタープランが活用されることが重要なのです。 このような重要性を持つマスタープランですので、選定の際に公平性を保つことは大切です。日本学術会議の委員がプランの策定に関与する審査支援者と研究者という相反する立場に立たされることを回避すべく、マスタープラン2020策定にあたっては、日本学術会議声明「科学者の行動規範について―改訂版―」 (平成 25年1月25日)の利益相反の条項を踏まえた利益相反排除のための方針が発表されました。この新たな方針に準じ、公平で公正な策定・評価が行われることが求められています。 マスタープラン2020で選定された161件の学術大型研究計画の分野は、生物学、医学、物理学、農学、食料科学、薬学、地球惑星科学、情報学、など多岐にわたります。選定された大型研究、特に重点大型研究計画は優先度が高く、可及的速やかに予算化され、推進されるべきものと位置づけられたものです。マスタープラン2020が、多様な学術の発展、日本の科学力の向上に貢献されることが期待されます。

ICMJE Guidelines for Writing Medical Research Paper

International guidelines for medical writing ICMJE recommendations Authorship rules by ICJME Publication ethics

Withコロナ時代 ニューノーマル の学術研究・教育

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックで世界は大きく変わりつつあり、今までとは全く異なる新たな経済システムやライフスタイル、「ニューノーマル(新常態)」に移行すると言われています。ニューノーマルとは2008年以降の世界金融危機のときに使われた経済用語でしたが、コロナで再び脚光を浴びることとなりました。そして、教育および学術研究もニューノーマルへの移行を余儀なくされています。 パンデミックで浮上した多くの問題 パンデミックにより多くの大学を含む教育機関は休校・閉鎖を行い、オンラインでの対応を迫られることとなりました。既にオンライン教育システムに対応できている学校や機関もありますが、システムが整備されていない学校も多い上、オンライン授業の経験を有する教員は限られており、教育の提供と学習に影響が及んでいるのです。オンライン教育への移行には差があり、誰もが通常と同じ授業を受けることは難しく、学生側に教育格差を生じさせることにもなっています。また、教育を提供する側の制度上の弱者(非テニュアトラックの教員、非常勤職員、テニュアトラックの初期段階の教員など)は厳しい状況に追い込まれています。このような立場にいる教員は、所属機関において重要な貢献をしているにも関わらず、平常時でも雇用の不確実性や金銭的な苦境に立たされていますが、非常事態で状況が悪化しているのです。十分な対応を行わないままオンライン教育への移行を進めることによって、これらのさまざまな問題が浮上することとなってしまいました。 研究者への影響も計り知れません。研究に関する知識の交換や普及、研究者間のコミュニケーションに不可欠な会議や学会などが中止され、研究を公開し、フィードバックを得る機会を失いました。フィールドに出られない、調査ができないなどの物理的理由で研究そのものが停滞している人も多いことでしょう。学術的生産性は著しく損なわれており、学術界全体で現在の状況に対応しつつ被害を最小限に抑えるための努力が行われていますが、ニューノーマルに向けて今後どのように変化していくべきなのかの検討も不可欠です。このように問題は山積みですが、今回はオンライン教育システムへの移行における技術的な課題と大学の取り組みを取り上げてみます。 オンライン教育の技術的な課題 国連教育科学文化機関(UNESCO)によれば、COVID-19の発生以来、世界146カ国で約11億8,000万人 の学生が教育機関の閉鎖などの影響を受けています。しかしオンラインへの移行といっても、すべての教育機関がオンライン教育を実装できているわけではありません。ネットワークへのアクセスが均等ではないこと、安定性に問題があることも無視できませんが、オンライン授業では学生の質問をもとに議論を促すことも容易ではありません。質疑応答や議論を行うにはハード面でインタラクティブな環境を整え、ソフト面では教員が新しい授業スタイルに適したシラバス(授業計画)に調整する必要に迫られています。では、インタラクティブなオンライン授業を行うには何をしなければならないのでしょうか。 1) 教員側の環境整備と準備 いわゆる講義型ではなくインタラクティブに授業を行うには、受講者の反応が見られるデジタル環境が必要ですが、大学の講座のように人数が大きくなると、それだけでも大変な作業です。受講者を見ながら、スライドを画面共有で見せるには、ある程度の大きさの画面が2つ必要になりますし、大人数と回線をつなぎつつスムーズにスライドを動かすには、それなりの動作環境も必要となります。しかも、授業ではスライドだけ見せているわけにはいきません。学生から教員が見える状態にしておく、画面の一部しか見えないことを踏まえて動く、ディスカッションするような場合にはホワイトボードなども(画面を通しても)見やすいように整理するなどの工夫が必要です。講義をストリーミングするだけでなくインタラクティブに進めるには周到な準備が必要なのです。 2) オンライン向けのシラバスの準備 オンライン授業には、実際に教室で行うのとは異なる進め方が必要となります。講義中に画面を切り替えたり、追加資料を配ったりするための準備をしておかなければなりませんし、受講者への指示や問いかけを簡潔でわかりやすいものにしておくことも重要です。画面を注視し続けるオンライン授業では、集中力が切れやすくなることへの対処も必要です。教員が意識して全体を見渡し、挙手していない学生に発言を求める、質問を振るなど、受講者に積極的に働きかけることが緊張感を保つには有効です。実際の教室のように学生全体に目を配ることが難しいので、ここでも何らかの工夫が必要です。 3) 学生間(受講者間)のインタラクション…

PhDになるべきかならざるべきか-それが問題だ

オーストラリア国立大学(ANU)のインガー・ミューバーン(Inger Mewburn)准教授が、大学院で勉学に勤しむ学生さんにお役立ち情報をお届けするコラム「研究室の荒波にもまれて(THE THESIS WHISPERER)」。今回のお題は、「生きるべきか死ぬべきか(To be or not to be)」になぞらえて「PhDになるべきかならざるべきか」という、とても根本的な質問に立ち戻っています。さて、ミューバーン准教授からのメッセージは? ―――――――――― PhD課程がいかに徹底的に学生の人生の意味を見失わせるほどの問題を引き起こせるのか、驚かされることが多々あります。時間とともに気持ちが収まるケースもたくさんありますし、良い結果をもたらすこともあります。ここに書くのはあなたの心の声ですので、ちょっと耳を傾けてみてください。 先週、ANUの学生(仮にリサとしておきます)が勤務時間中に大学の私の部屋を訪れてきました。彼女の訪問の目的は、PhDをやめるべきかの相談でした。 私がこのような相談を受けるときは最初に、なぜPhD取得を目指したのかを聞きます。リサの話によると、彼女は大学の人文学科を卒業後、事務職やコールセンターの仕事しか見つることができませんでした。すぐに仕事が退屈になった彼女は、自分がいつも知的幸福感を感じていられた場所、つまり大学に戻って来ました。リサはPhDとして研究に従事したいとは思っていましたが、PhD取得後に何をするかについては漠然とした考えしか持っていませんでした。PhD課程に入れた彼女は知的生活を楽しんでいます―― とはなりませんでした。 「Music…

How to Prepare Submission-ready Manuscript Using Artificial Intelligence

Role of AI in Academic Publishing Benefits to Authors and Publishers Introduction to AI tool…

PhDにチャレンジする人へのメッセージ

オーストラリア国立大学(ANU)のインガー・ミューバーン(Inger Mewburn)准教授が、大学院で勉学に勤しむ学生さんにお役立ち情報をお届けするコラム「研究室の荒波にもまれて(THE THESIS WHISPERER)」。従来は既にPhD過程に入っている人向けの内容ですが、今回は、PhDに進もうとしている人からミューバーン准教授に寄せられたメールを題材にしたお話です。 ―――――――――― 長年ブログを書いてきたのに、とても基本的なこと、PhD過程に進学する方法のことすら取り上げていなかったことに気付いて驚いています。きっかけは、まさにANUの入学希望者向けのオープンキャンパスで話すことを準備していたところに届いた1通のメッセージ。 PhD過程に進むのがスムーズにいくこともあれば、非常に複雑になってしまうこともあります。新たにPhDに進もうとしている人は、既にPhDに進んでいる人たちの経験から多くを学ぶことができると思います。私が受け取ったメッセージを紹介します。 ミューバーン先生  長年、先生のブログを読んでいますが、初めてメッセージを送ります。私は36歳ですが、まさにオーストラリア大学のPhDへの願書提出のための諸手続を終えようとしているところです。申請してみて、プロセスが非常に複雑なことに驚きました。まるで試験かと思ったほどです。私はまだ大学院に入学してもいませんが、先生のサイトには非常に役立つ情報が満載なのを知っているので、出願手続や研究提案書についてもブログに書いてくれるかもしれないと思った次第です。 まず、申請書は仕事に就くことなく大学から直接大学院に進む学生向けに作成されているため、私のようにGPA(大学の成績評価)を気にすることなく何年も前に学部を卒業した者にとっては記入しづらいものになっています。学術とは関係ない職に就いている場合、多くの人は大学の図書館資料にアクセスすることはできませんし、将来指導してくれる教員が素晴らしい人だとしても、すべての事前準備をお願いするわけにはいきません。 大学側が、研究計画書がどのように書かれていることを期待しているのか、どれほどの完成度を求めているのか、応募者の選考を行う際や応募者を比較する際どれほど研究提案書を重視するのかなどに関する助言はあまり得られません。例えば、入学してからでなければ文献調査ができないのは分かっていても、文献調査を行いながら研究計画書を書くことができれば、内容を深めることができるのにと思う次第です。  将来のPhD学生より ここからは、私の返信です。 将来のPhD学生さんへ 同じような悩みを持つ人はたくさんいると思うので、あなたの経験をここで紹介させてもらいます。学部から修士号を取得あるいは優等学位で卒業して早々に大学院に上がる学生は、スムーズにPhD過程に進むことができるでしょう。しかし、応募者の年齢が上がるにつれ、プロセスは難しくなるようです。オーストラリアでPhDを取得する平均年齢は32歳であることを踏まえれば、大学はこれを考慮するだろうと考えてしまいますが、残念ながら実際にはあまり考慮しません。…

査読の貢献を研究業績の一部に:ORCID iD入力が可能に

査読付き学術雑誌(ジャーナル)に論文を発表することは、研究成果の学術論文としての妥当性が当該分野の専門家に認められることであるとともに、論文に書かれた内容の信頼性を読者に担保することにつながります。 一般的には、論文を学術ジャーナルに投稿すると、査読のプロセスが始まります。まず、投稿論文を受け付けた学術ジャーナルの編集者は、その論文の分野の複数の研究者に論文を送り、評価を依頼します。研究者は「査読者」として、論文を読み、ジャーナルの出版基準を満たしているか、論文の内容が掲載に値するかを判断します。査読が完了し、基準を満たしているものがジャーナルに掲載されます。 査読は、研究成果の発表を判断する重要なステップであり、学術研究の信頼性を下支えするものです。ジャーナルの編集者が当該分野の研究に精通しているわけではありません。その分野で実践的な経験を積んだ研究者だけが、論文に記された研究内容について理解し、研究が妥当なものか判断できるのです。査読が論文出版にとって重要なステップであるにも関わらず、従来は研究者としての正式な実績とは認められてきませんでした。研究者にとって査読者となることはどのような利益があるのか?研究者は無償で科学に貢献するべきなのか?査読プロセスにおける研究者の責務については議論となっています。 この問題への改善策として、査読プロセスへの参画を研究業績の一部とする動きが進んでいます。 査読者のORCID iDの入力を可能にして研究者としての信頼性をアップ 査読プロセスは研究者の負担になるという考えは変わりつつあります。2019年6月26日、PLOS(Public Library of Science)がPLOSの全ジャーナルを対象に査読者のORCID iDの入力を可能にしたと発表しました。これによって査読者は、査読履歴を追跡し、査読への貢献を研究業績の一部とすることができるようになります。PLOSは2000年代の初頭からオープンアクセス(OA)ジャーナルの出版を進めている出版社で、現在は医学・生物学分野を中心に7誌を発行しています。ORCID(Open Research and Contributor ID)とは、複数の学術コミュニティ機関によって設立された非営利団体が管理する研究者のID(識別子)で、一度登録すると、研究者が所属組織を変わっても同じ番号で業績が一元的に認識されるようになります。PLOSは2013年にORCIDに加盟して以降、投稿者にORCIDの使用を積極的に求めてきました。…

論文が審査員に却下されたらどうする?

オーストラリア国立大学のインガー・ミューバーン(Inger Mewburn)准教授が、大学院で勉学に勤しむ学生さんにお役立ち情報をお届けするコラム「研究室の荒波にもまれて(THE THESIS WHISPERER)」。今回は、論文が審査員に却下されたらどうすべきかというアドバイスです。 ―――――――――― ブログを書いていると、読者から助言を求められることがあると思います。ところが私に届くのは、動揺したり混乱したり、怒っている学生からのメッセージ……たくさんの学生が先輩や指導員に不満があるようです。 メールが来る頻度はまちまちですが、平均すると1週間に4通ぐらいでしょうか。私の所属する大学以外、世界中から届きます。なぜか女性からより男性からのが多い。私のFacebookやコメントのスレッドから察するに、女性の方が社会の中での自分たちの弱さを受け入れやすいのかもしれません。 私は、メールをくれた学生を気の毒に思うのと同時に、彼らと同じように不満を感じることがあります。多くの有能で素晴らしい指導員を知っていますが、経験が浅い人や人との付き合い方に問題がある人がいるのも分かっています。学生の助けにならない指導をしがちな指導員について聞いたことはありますが(そんな人は滅多にいないことを強調しておきますが)、彼らのやり方/スタイルを変えることはできませんし、きっと変わらないでしょう。 英国ノッティンガム大学のパット・トムソン(Pat Tomson)教授(社会科学)が彼女のブログで指摘しているように、指導することには困難も伴います。私は、すべての指導員が、大学が提供する何らかの職能開発のようなプログラムに参加すべきだと考えていますが、全員に参加を促すことはできません。そのようなプログラムがあることを知らない人もいれば、悪いことに、そのような職能開発は役に立たないと思いこんでいる人もいます。彼らが正しいと思えることもあります。既に知っていることばかりしか教えてもらえない技能開発ワークショップは「退屈」以外の何物でもないでしょう。馬鹿にされてる?と思っても仕方ありません。幸いにして私はヒドイ内容のものに当たったことはありませんが、ハズレに当たってしまった人がいるかもしれません。 少ないとは思いますが、問題のある指導員は長年その人のやり方で過ごしてきているので、心から自分のやり方が正しいと思っていて、問題を抱えた学生がいたとしても、その学生はグループの中の落ちこぼれだから放っておけばよいと思っているのかもしれません。もちろん、そんな指導は間違っています。PhD課程に入れたなら、卒業できるべきなのです。 私に届いたメールは、PhD課程の経験で得られる特徴的かつ貴重な見解なので、私にとっても役立つ情報です。できる限り考えて返信をしようとは思っていますが、何せ時間が足りず……。つい忙しくて、助言依頼が受信トレイの下の方に押しやられてしまい、それらを掘り起こして返信を出すまでに大分時間を要してしまうのです。送信者がそのメールを書くのにどれだけ時間を費やしたか、どれだけ行き詰る気持ちで書いたかを思うと、返事を書くまでに時間が空けば空くほど罪悪感が募ります。そして反省しながら何とか自分を奮い立たせて書き終えるのです。 まさにこの原稿を書いているように、必死で作業していると、うんざりするような問題が見えてきます。 10通以上のメールを書いていますが、内容は多少の違いこそあれ本質的には同じ。学生と指導員の関係における問題には多様性がある反面、いくつかの共通する傾向がありそうです。 私は最近、前述のパット・トムソン教授の論文「Why…

新たな国際的研究拠点 欧州に注目

国際的な研究の経験を積みたいと考えている研究者は大勢いるため、研究職のポジション争いは熾烈であり、特に若手研究者が職にありつくことはとても困難です。それでも自国以外の国際的な研究機関で経験を積めば、母国に戻って研究職に就ける可能性は高くなります。それだけではありません。異なる文化的背景を持つ研究者たちとの研究に参加することで経験を重ね、新しいスキルを獲得し、幅広い人脈(ネットワーク)を形成することも可能です。かつて米国は、国際的な研究の場として人気が高かったのですが、近年は欧州の人気が高まっています。 欧州で研究するメリット 欧州は、さまざまな理由から研究者に人気となっています。その理由をいくつか挙げてみましょう。 世界的な大学の存在 欧州には世界でも有数の大学や研究機関があります。2018年には、査読付きの科学およびエンジニアリングの論文の25%が欧州連合(EU)の研究者から出版されたものでした。EUの後には中国(21%)、米国(17%)が続きます。欧州の研究者は、研究成果を出して出版しなければというプレッシャーはあるものの、責任を持って研究を進めていると言えます。 ファンド(研究資金) 研究には資金が必要です。EU諸国は研究およびイノベーション(技術革新)に割り振る予算を増額しており、さらに欧州最高レベルの研究を奨励する欧州研究会議 (European Research Council, ERC)の研究助成金には、どの国の研究者でも申請することができます。ホームページの情報によれば、その助成金の給付規模は過去10年間で総額約120億ユーロに達しています。唯一の申請条件は、研究の大部分がEUの研究機関によって実施されることです。欧州には多数の有名大学や研究機関が点在しており、スイスのチューリッヒのように生活費の高い都市にキャンパスがあって若い学生にとって費用の工面が大変な大学もあれば、一方で、ベルギーのルーヴェンにように比較的済みやすい都市を拠点とする研究機関もあるので、助成金の獲得にEU内の研究機関でと条件が付いていたとしても選択には困らないでしょう。 契約 ドイツのように博士課程(PhD)学生が雇用契約を締結することができる国もあります。雇用契約に加えて、年金の支給といった追加保証や、指導教官と学生を守るために就業規則のある大学もあるそうです。 学問の自由 欧州の研究機関は、他国の研究機関と比べて学問の自由を認める傾向が強いようです。実際に、国レベルで学問の自由を推進すべく議会に働きかけています。…

PhDの研究を学術書として出版するには

オーストラリア国立大学のインガー・ミューバーン(Inger Mewburn)准教授が、大学院で勉学に勤しむ学生さんにお役立ち情報をお届けするコラム「研究室の荒波にもまれて(THE THESIS WHISPERER)」。今回は、PhDの研究を学術書として執筆して出版するには何から手を付ければ良いかという話です。最初は、本当に出版すべき?という入口からの3つのステップを紹介します。 ―――――――――― 多くの学術分野、特に人文科学では、PhDで行った研究を学術書としてまとめることが研究者としての成功の第一歩になるので、学術研究のキャリア戦略の一環としてPhD取得後早々に書籍の執筆にとりかかる人が多いようです。私は、PhD取得時点で既に仕事をしていたのと、他の分野で研究者としての評価を築きたかったので、学術書の執筆には手を付けませんでした。その代わりにブログは書き始めましたが。 学術書の執筆経験が無いのにこの題目でブログを書くのは、やや気が引けていたのですが、私のPhD学生のひとりであるグエン(Nguyen)の旦那さんのトン(Thong)が、私が既に出版された5冊の学術書やこれから出版される2冊の作成に関わってきていることを指摘し、背中を押してくれました。トンは、私が学術出版プロセスについて有用なアドバイスを与えられると自信を持たせてくれたのです。そこで、それならと書き始めました。 1つのブログで学術出版に関するすべてを話すことはできないので、3つに分けてお話しようと思います。これは、1つ目。私のお勧めは、質問や分からないことを書き出して、考えていくことです。定評のある研究者の中にもブログを読んでくれている人がたくさんいることを知っているので、より役立つコメントを追加してくれるのは大歓迎です! ステップ1:学術書にするか、他の媒体にするか?慎重に検討する 最初の質問は、本当に学術書として出版するのが良いかどうかです。確かに学術書として出版すればCV(職務経歴書)に追加できるのですが、書籍を執筆するとなれば、既に書き上げた論文から抜粋するとしても大変な時間がかかります。しかも、それだけ時間と労力をかけても本が売れるとは期待できません。もし本が売れてお金になればラッキーですが、期待していなければ、がっかりすることもありません。その程度です。研究実績として目に見えるようなインパクトが得られるとも期待しないでおくのが賢明です。被引用数を増やすことにもつながらない小ロットで出版費用の高い本を出すことになるのが関の山です。 あなたの研究を多くの人に活用してもらえるようにしたいのであれば、いろいろなブログに紹介記事を書いたり、e-book(電子書籍)を個人出版/自費出版したり、ドキュメンタリーフィルムのような公開方法を検討するほうが理にかなっているかもしれません。あるいは、無料でダウンロードできる大学図書館に原稿を登録しておくことも一案です。多くの大学の論文レポジトリの中でも、博士論文は最もダウンロード数の多い文書なので、ただ論文をアーカイブしておく、つまり手のかかる書籍の執筆なんてやらないという選択もありでしょう。書籍化しなかったとしても、あなたの研究が興味を持ってくれる他の研究者の目に止まる機会はあるのです。 書籍出版の目的が学術関係者以外の人に本を読んでもらいたいというのであれば、まったく別の話です。歴史のような分野の成果は商業的な(売れる)可能性を秘めていることもあります。そのような可能性がある場合には、追求することをお勧めします。大衆向けの一般書は、学術出版よりは俗物であるとされていますが、本が売れて高額な著作権料が得られればいいじゃないですか。売れれば大成功です! ステップ 2:出版してくれそうな出版社と連絡を取る 実は、学術出版社を選ぶのは、多くの人が考えているよりははるかに簡単です。本の背部分を見てGoogle検索してみてください。代理店に依存している一般書市場とは異なり、学術書出版業界では、出版社に直接問い合わせをすることができます。ウェブサイトの著者向けの情報を見て、連絡先/問い合わせ先が書かれていれば連絡してみてください。…

How to Efficiently Manage Your Laboratory Resources

How to become a good lab manager Strategies to manage lab inventories Scientific data management…

h指数の提案者が問題提起 !?

学術論文の影響度を測る指標にはインパクトファクター(IF)や h指数 (h-index)などが知られています。h指数は物理学者のJ. E. Hirsch氏が「個々の科学研究成果を定量化する指標」として提案したもので、研究者の研究成果を定量化する指標のひとつとして広く利用されています。しかし、複数分野に及ぶ研究を行っている研究者の影響力を考慮できないなど、評価指標としては不十分であるとの意見も出ています。 h指数の意味 例えば、ある研究者のh指数がh=10と示された場合、この研究者が発表した論文の中で被引用数(引用された数)が10以上ある論文が少なくとも10本以上あることを意味しています。一般的にはh指数が高ければ、被引用数の高い論文を多数発表しているということになります。h指数の算出は被引用数の正確な調査に基づいて行われるべきものであるため、被引用数の数値が正しくない場合にはh指数の正確性も怪しくなってしまいます。また、共著者が多数いる場合の考慮が欠けていたり、分野によっては引用数に差があったりするなど、すべての分野、あらゆる研究者の評価指標としては適切ではないといったいくつかの懸念も指摘されています。そのため、h指数はあくまでも研究成果を定量的に評価する指標のひとつとして利用されています。h指数は学術雑誌(ジャーナル)を評価する指標としても使われていますが、これはGoogle Scholar上で被引用数を算出した「Google Scholar Metrics 」として掲載されているので参考にしてみてください。 h指数ではわからない5つのこと 上述のようにh指数は学術界で広く使われている指標のひとつですが、h指数の問題点については学術界で議論されてきました。査読を迅速化かつ効率化させることで認知度を高める査読登録サービスであるPublons が「h指数ではわからない5つのこと 」と称する記事を掲載しているので紹介します。h指数ではわからないこととは以下の5つです。…

COVID-19が収まるまでPhDを中断する?前編

オーストラリア国立大学のインガー・ミューバーン(Inger Mewburn)准教授が、大学院で勉学に勤しむ学生さんにお役立ち情報をお届けするコラム「研究室の荒波にもまれて(THE THESIS WHISPERER)」。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が世界中に拡大し、あらゆる人間活動に影響を与える中、ミューバーン准教授からのコロナ禍でPhDを継続するか止めるか悩んでいる人へのメッセージです。2回に分けて掲載します。 最近、10年のブログ作成生活で初めて更新を一時中断する事態となりました。 私は毎週更新するタイプのブロガーではありませんが、クリエイティブなインスピレーションを与えことは好きです。なので、常に6か月分ぐらいのネタを準備しておくのですが、ここオーストラリアでは3月の半ばに非常事態に突入し、2020年に予定していたものをすべて計画通りに投稿するには、「世界中で通常通り物事が進んでいる」状況下でこそ可能なのだと気づいたのです。私たちの生活が「通常」に戻るのはいつになるのでしょう?分かりません。そのため、私はネタを保留しています。中には投稿されるものがあるかもしれませんが、当面皆さんに読んでもらうのは無理そうです。  このブログはパンデミック状態での最初の投稿ですので、この厳しい状況下のPhDについて取り上げてみます。コロナ禍が終息したときには不要な情報になるかもしれませんが、その時には私たちが現在直面している多くのことは「史上初の恐ろしい事態」として記憶されていることでしょう。  私は今年、毎月第1水曜日にブログを投稿すると約束し、そのスケジュールを守ろうとしてきました。いつものように実用的で思慮深いブログを提供できるようにと思っていますが、それについて今コメントすることは控えておきます。従来は誰でも私の確認を待たずにコメントを投稿できるようにしていますが、これは大変な作業を要します。今は、挑発的なメッセージの投稿や論文代筆業者の広告に対処する時間や余力がありません。この投稿記事について議論が行われるとすれば、社会のどこかで行われることになると確信しています。  ご理解に感謝します。 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が拡大している中、PhDの途中で諦める(退学)べきか?もしくは一時中断(休学)すべきか? 今回のコロナ感染拡大のようなパンデミックの状況に置かれたとき、PhDを継続するのか、中断するのかは「苦渋の決断」で正解はありません。どちらにも良い点と悪い点があることに疑いの余地はありません。特に、奨学金を受給している学生は、PhDに留まりたいと思うかもしれませんが、現在直面している博士課程での停滞は、将来予期せぬ結果をもたらすかもしれません。また、PhDをすぐにでも断念したいと思っている学生は、どんなに絶望的だと思えたとしても、今回が進路を変えるのに最適なタイミングではないかもしれません。 (COVID-19に関する研究に従事している人たちは、とても忙しい時を過ごしていることでしょう。皆さんの研究活動に感謝します。継続してください!) もちろん、私はすべての問いに対する答えを持っているわけではありません。それでも、読者の皆さんに自問自答してほしい質問を幾つか持っています。この投稿記事が、現在起こっていることが個々のPhDプラン(将来の予定)に及ぼす影響について考える助けになればと思っています。PhDプランは、不確実なウイルス抑制までに要する時間によって、一層複雑かつ解決困難になっていきます。オーストラリア国立大学(ANU)は、オーストラリア国内での感染ピークが収まると期待される6月末まで閉鎖されています。しかし、ロックダウンや学校閉鎖は先が見えず、さらに長期におよぶ可能性もあります。実際には、ワクチンができるまで、国際的な移動やグローバルサプライチェーンには影響が残り、経済的低迷がいつまで続くかほとんど分かっていません。 この投稿では、研究の段階や学生を支援する仕事の有無、PhD取得者の長期雇用の見込みなどに関連する題材を取り上げていきます。すべてを考える必要はありませんが、これらはさまざまな状況下でPhDを継続するかについて助言を求めている多くの人々と私が話し合っている項目です。 ここではオーストラリアの詳細に焦点を当てていますが、このブログがよく読まれている国でも、多くの所見は役に立つと思います。私が現時点で考えられる最良のアドバイスを書いておくので、どうか読んでみてください。だって、私はPhDを終了させるのを助けるプロですから。私は自分の経験をもとに、できるだけパンデミックがもたらす学業の中断による影響を考え、穏当と思える幾つかの予想をたててみたので、役立てるとともに力になれれば幸いです。…

新型コロナパンデミック下で誤情報を拡散しないために

世界各地が新型コロナウイルス感染(COVID-19)拡大にともなう外出禁止や非常事態におかれています。このような非常事態下では、情報収集が重要ですが誤情報の拡散にも注意が必要となります。SNS上に出回っている情報の中には、著名な大学や医療機関の名を語って伝達されているものや、不安をあおるような内容も多数あるようです。悪意がなかったとしても、誤情報を拡散することによって特定の機関への問い合わせを殺到させて業務停滞を招いたり、誤った判断を促して感染を拡大させたりする恐れがあることは認識しておくべきです。トイレットペーパー不足に始まり、症状に関わる不正確な情報や、「こうすれば感染を予防できる」といった情報に惑わされないためには、どうしたらよいのでしょうか。 WHOの誤情報対策 誤情報は日本だけでなく世界中でも問題となっており、世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長は2月15日のミュンヘンでの会議で、我々はコロナウイルス感染症(epidemic)だけではなく、彼がインフォデミック(infodemic)と称するウイルスに関する誤った情報と戦っており、誤情報(フェイクニュース)はウイルスよりも早く簡単に蔓延していくため、信頼できる情報を把握することが困難になっていると指摘しました。WHOは、各種ソーシャルメディアの調査を行うとともに、科学的知見や証拠に基づく対策の必要性に言及しています。また、ウェブページにコロナに関する誤情報打開策「Myth busters」を質疑応答形式で掲載しています。「10秒以上咳き込まずに息を止めていられたらコロナには感染していない?」といったものから「コロナウイルスは5G(通信)ネットワークに乗って拡散する?」といった質問まで、適宜更新されているようなので参考にするのもよいでしょう。 ワシントン大学の取り組み 2019年12月、ワシントン大学シアトル校の5人の研究者が、誤情報の伝搬を研究する情報公開センター(Center for an Informed Public)を立ち上げました。このセンターでは、世界の感染者数ではなく、コロナウイルスのパンデミックに伴って誤情報がどのように拡散していくか、そうして広がった情報が人々の認識にどう影響するかを研究しています。3月24日のScienceには、同センターの設立メンバーである社会学者と危機情報学研究者に行ったインタビューが掲載されています。彼らは、オンラインにおけるコミュニケーションでどのようにデータや統計が広まり、どう理解され、その結果がどのように判断および行動につながるのかを調べています。彼らは、過去の危機的状況における誤情報の拡散を踏まえ、危機的状況下で誤情報が多くなることは、不確実性と不安が高まる災害時において何が起こっているのを理解しようと努める人々の自然な反応であると考えています。情報の入手は不安の軽減または解消に役立つことが確かな一方、困惑や混乱を招くこともあり得ます。テレビ、ネット検索、SNSといった情報ネットワークが浸透している現代では、継続的な情報更新が可能な反面、情報の真偽にかかわらず簡単に拡散してしまうという問題が避けられません。過剰な情報が与えられる中で、どの情報を信頼し、どれを信用すべきではないのか考えなければならないのです。また、政府や自治体などの政策指導者の発信が科学に基づく情報と矛盾しているような場合、不信感を招くだけでなく、公的な機関に対する信頼を損なう恐れがあります。このような影響は長期にわたることもあり、把握しきれていません。政策指導者らは、専門家とその時点で最良とされる情報を共有し、一貫性を持って情報を提供していくことが求められます。 危機情報学に基づく誤情報対策~3つのアドバイス 同センターは、情報が従来からのメディア媒体とSNSの間でどのように移行するか、情報の流れに注視しており、IT企業や個人、危機管理者に向け、情報の流れと情報の影響を理解し、正確な情報発信を促進する方法についてのアドバイスの提供にも努めています。ここでは、危機情報学者からの誤情報対策のための3つのアドバイスを記します。  情報を求め、共有しようとする際に、虚偽や誤情報の拡散に加担する可能性があることを自覚しておく。誤情報の拡散は不安や不確実性の解消に役立たないと認識する。 災害情報提供者は、情報が専門家(医療従事者や感染症の研究者など)の知識に基づいた情報の提供に努め、所属する団体・機関内での整合性を保つ。また、事象固有の不確実性について適格な情報を提供するとともに、「事実」も時間経過とともに変化する可能性があることを情報受信者に伝わるように努める。 政府関係者や自治体などの政策指導者は、誤情報や虚報を拡散したり、科学的知見や専門家による勧告に疑問を投げかけたりすることによって及ぼす影響について慎重に検討する。対応を誤ると、個々の状況および危機的状況への対応において短期的・長期的な弊害をもたらす可能性があることを認識しておく。…

研究ブログを始めてみよう!

すっかり世の中に定着した感のある「 ブログ 」。ブログとは、「ウェブログ(Weblog)」の略称で、ウェブに記録をストックするというものでしたが、近年は個人の情報発信コンテンツとして普及しているようです。SNSと同様に、写真や動画も投稿できますが、「フロー型メディア(情報が流れていく媒体)」であるSNSとは異なり、ブログは投稿した情報がいつまでもストック(蓄積)できる「ストック型メディア」であることがメリットでしょう。研究者には、読者としても投稿者としてもブログを活用することをお勧めします。 科学ニュースを発信するブログ、学術関係者向けのブログ、研究ブログ、さらに教育ブログまで、その種類や内容はまちまちですが、これらのブログに共通して言えることは、どれも科学研究に関する情報を共有し、時にそれを論ずる場となっている、ということ。今回は、研究ブログを閲覧するだけではなく、実際にブログを作成することが研究キャリアにとってどのようなメリットがあるか、どうやって始めればよいのか、についてご紹介します。 ■ 研究ブログの作成とそのメリット 忙しい研究者の皆さんのなかには、そもそもブログを書く時間が持てるのかどうか不安に思われる方もいらっしゃるかもしれません。しかしブログ作成を通して得られる効果を考えると時間をやりくりしてでも挑戦してみる価値はありそうです。 ブログに何を書くか 研究ブログでは、自分の研究の内容や査読の終わった論文について論ずることも、疑問点について話題にすることも可能です。新しい研究の紹介をしたり、既成概念に一石を投じたり、解決済みとされるテーマを見直したり、難しい話をわかりやすく説明したり、特に決まりはありません。研究者として特定の分野に深い造詣を持っているという大きな強みを活かして書いてみてください。実際の実験室での経験や、実験内容への理解は、研究論文の強みや弱みについて考察し、課題について論じる際に大いに役立つはずです。 ブログ作成で得られるメリット ブログが研究キャリアにどのようなメリットがあるか――考えられるのは以下です。 • 記事の執筆を通して文章力を向上させることができる • 研究内容および研究者自身を広めるのに役立つ • 社会および研究室の学生に知識を広めるのに役立つ • 専門分野における人脈形成に役立つ。 • ブログが共同研究のきっかけとなることもある。…

学術出版にゴースト(幽霊)出没?!

学術出版において、オーサーシップ(著者資格)を持っているのに著者として名前が論文に記載されない「 ゴースト オーサー(幽霊著者)」が増えていると言われています。論文として不適切であり、倫理違反が行われる可能性も高く、信頼性を傷つけかねないのにも関わらず、なぜゴーストオーサーが増えているのでしょうか。

ポスドク の生き残り術、カギは「自主性」

ポスドク (博士研究員)とは、博士号(ドクター)を持ち任期制で学術研究に従事する人たちです。ポスドクはアドバイザーや主任研究員(Principal investigator)と呼ばれる指導教官の指導・監督の下で研究を進めますが、その多くは大学や研究機関などで正規の研究職に就けず、非正規で研究活動を続けている研究者です。数年間の研究プロジェクトに採用されることもありますが、任期付きであることには変わらず、将来の保証はされません。このような苦境の中、研究者として生き残るには、ポスドクの期間に何を意識しておくべきなのでしょうか。 ■ ポスドクの時期に自主性を高めておく 勉学に励んだ結果、豊富な知識を持ちながら深刻な雇用問題に直面することが見えているポスドクになることに疑問を持つ人もいるでしょう。ポスドクになることが将来に役立つのかについての議論すらありますが、一旦この道に進むと決めたなら、自分の将来にとって重要な技量を磨くことや、その機会を最大限活かすことに集中すべきでしょう。自分の研究の間口を広げたり、必要とされる技能を修得したりすることも大切です。ポスドクの時期は論文執筆とその発表に時間を集中的に割くべきですし、併せて研究者間の人脈を広げることも大事です。このように、ポスドクの期間中に 自主的 に研究する力を鍛えておくことが大変重要です。 ■ 自主性の大切さ 研究者が独創的な自分の研究目標を設定し、主体的に取り組むためにも「自主性」は不可欠な要素です。ポスドクの期間中に自主性を身につけるためには、次の二つが重要です。第一に、指導教官の指導に依拠するばかりではなく、自分で研究を考え、進行させる力をつけること。研究プロジェクトを運用する能力は研究者として職を探す際に求められます。第二に、研究者としての自分の名前を拡散し、評価を得ておくことです。ポスドクの間に研究活動の成果を論文に記し、発表する力があること、研究者として必要なスキルと判断力をもち、研究に従事する準備が十分にあることを示せれば、将来につながる可能性を高めることができるでしょう。 ■ 自主性を高めるためにすべきこと 研究者としての自主性を高めるために、ポスドク期間中に次の点に取り組んでおくことをお勧めします。 1. 研究助成金に応募する(資金の獲得) ポスドクが応募できる研究費としては、主に公的機関や民間が提供する助成金が挙げられます。ポスドクの期間に少なくともひとつはこうした助成金に応募してみるべきでしょう。資金を獲得できれば経済的な助けとなるのに加えて、主体的に研究を進められる研究者であることの証となります。 2.…

Panel Discussion: Demystifying Research Methodology With Field Experts

Choosing research methodology Research design and research methodology Evidence-based research approach How RAxter can assist…

PhD(博士課程)を無事終了させるための5ステップ

オーストラリア国立大学のインガー・ミューバーン(Inger Mewburn)准教授が、大学院で勉学に勤しむ学生さんにお役立ち情報をお届けするコラム「研究室の荒波にもまれて(THE THESIS WHISPERER)」。今回は、PhD(博士課程)学生のジレンマについてのお話です。何とか無事にPhDを終了させるには―― PhD学生向けのコラムを書いていることもあって、世界中からメールをもらいます。ローラ(Laura S)から届いたのは、典型的なPhD学生のジレンマを語ったメールでした。 「今までに『文章を仕上げること』について考えたことはありますか?私は、自分で言うのもなんですが文章を書くのも論文にまとめるのも結構上手です。ところが、『仕上げ』は別物です。私が、既成概念にとらわれない水平思考(ラテラルシンキング)をするタイプで、しかも完璧主義者だからかもしれませんが、とにかく仕上げることが苦痛なのです。先生ならこんな気分も分かっていただけますよね。そして最近、ADHD(注意欠如・多動症)の人は同じような傾向があるということを知りました。大人になってからですが自分に多動性や衝動性があるとわかったことで、自分の思考パターンや性向のいろいろな部分で納得することができました。なので、先生が興味を持ってくださり、他の人にも役立つとお考えでしたら、もっといろいろ調べるなどして準備ができたときに、この話題をブログのネタとして提供できればと思っています。」 私は専門家ではないので、ADHD(注意欠陥・多動性障害)についてお話することはできませんが、書くことについてアドバイスをすることはできます。オーストラリア国立大学(ANU)で開講している「論文ブートキャンプ(Thesis Bootcamp)」は、論文を完成させるための時間が足りなくて困っているPhD学生をサポートするプログラムです。このプログラムの参加希望は多いのですが、実施するには費用がかかり、100人もの応募が来ても26人しか受け入れることができないため、切羽詰まっている度合いが高い人から参加してもらうようにしています。対象は、考える段階は終わって、後は書くだけという人たちです。このプログラムの選出戦略から見えてくるのは、多くの論文ブートキャンプ参加者が、失敗経験、体調不良、アドバイザーとの対立などを含め、それまでに数々の問題に直面してきているということです。どのような問題を抱えていたとしても、多くの学生は座って書かなければなりません。残念なことに、ほとんどの学生は「行き詰った」と思って「ただ座って書く」ということができなくなってしまいます。執筆「便秘」とでも言いましょうか。出したくても出ない。書きたくても書けない…あまりきれいな例えではありませんが。 論文ブートキャンプでは、この「行き詰り感」からの脱出をサポートするためのさまざまな取り組みを行っています。参加者は週末のキャンプに参加して最低でも5000ワード、人によって5000ワード以上を書きあげます。素晴らしい!しかも、少なくとも数名はストレッチ目標(達成レベルより高めに設定した目標)である20000ワードに到達するという快挙を見せます。私は、400人を超えるプログラムの参加者を見てきたので、論文執筆を完成させるために何が必要なのかについて有用な考えを持っています。以下に示すのが、論文を完成させPhD研究に完全なけじめをつけるための5つのステップです。私のお墨付き、実際に試して効果を確認した策なので参考にしてみてください。 ステップ1:何が障害かを特定する 私の経験から、「終わらせられない」と考えている人は、さまざまな要因を抱えていますが、多くの人を捉えているのは不安感です。学生時代をのんびり過ごした人の中には、PhDを取得した後のこと、特に自分たちのスキルが役立つ求人市場が不確実なことを不安に思う人もいます。他には、自分の書いた論文が、実質的なあるいは他の理由により審査を通過できないと不安になる完璧主義者もいます。また、論文の内容をめぐって指導教官/指導員と対立することを恐れている人もいるようです。 私の知る限り、このような不安感や恐怖心に向き合う最良の方法はプロのセラピストと話をして感情をさらけ出すことです。そのために、私たちは、少なくとも1名(時には2名)のセラピストに週末のブートキャンプに参加してもらいます。物事を終了させるための不安に対処するのにセラピストは驚くほど力強い助けとなります。過去には、セラピーを受けて助けてくれる専門家と自分の懸念を共有したことで、不安感を解消することができた参加者も数名いました。そして、不安と向き合うことは他の問題に向き合うことにも役立ったとセラピーを受けた参加者が後日話してくれました。中には、結婚生活の問題を解消した人もいれば、逆に離婚した人、キャリアや住む場所を変えた人もいました。さらに、PhDを辞める決断をした人すらいたのです。このプログラムは、PhD課程から脱落するのを防ぐことを意図したものですが、PhDを取得せずに人生を歩み始めるのを助けることが最良の結果となることもあると思っています。 ステップ2:すべきことに全力を傾ける 自分の論文(または研究全部)を何度も何度も繰り返しやり直す傾向のある人がいます。もう少し深く掘り下げて考え、結局は当初の案に立ち返るパターンが見えるまで、繰り返す度にそうすることの合理的な理由があると考えているのです。何度も何度もやり直しをするのは完璧主義者に見られる傾向です。もしあなたが自分の書いたものが不格好で整っていないと思ったら、不快だと思わせる部分に引きずられずに長い文章を書いてみてください。何度も不快な気分にならないようにする方法として「白紙の状態」で再び書き始めるというのも一案です。また、論文の構成を決めることが難しいと考える人もおり、このような人たちは実用的完璧主義者です。書いたものがよくなくても(bad…

分野横断的な研究に取り組むときに留意すること

オーストラリア国立大学のインガー・ミューバーン(Inger Mewburn)准教授が、大学院で勉学に勤しむ学生さんにお役立ち情報をお届けするコラム「研究室の荒波にもまれて(THE THESIS WHISPERER)」。ミューバーン准教授が、分野横断的な研究に従事するPhD学生からの投稿を紹介しています。複数の分野をまたいだ研究を行う際の苦労とはどんなものでしょうか。 複数の分野にまたがる研究をしていますか?私はやったことがありますが、分野の垣根を超えた研究をするのは大変なことです。多くの大学のシステムは専門分野に合わせた構成となっています。分野ごとの研究に従事するには大変よいシステムなのですが、ひとつの分野に収まりきらない研究をしようとすると、すぐに疎外感を感じるかもしれません。既成の分野に捕らわれず、分野横断的な研究を行うにはどうすればいいのでしょうか? 今回は、テキサスA&M大学の機械工学部の修士課程に在籍する学生、ヴァルネスワラ・レディ・パニャム(Varuneswara Reddy Panyam)から寄せられた投稿を紹介するものです。彼の趣味は、テニスをしたり、文章を書いたり、自転車に乗ること。2016年にシブ・ナダー大学(Shiv Nadar University)で機械工学の学士号を取得し、1年間、ニューデリーで冷凍システムの研究に関わった後、米国のテキサス州に移り、大学院に入りました。彼が修士課程で取り組んだのは、電力網(グリッド)のバイオインスバイアード(生体模倣)デザイン(BID)に重点をおいた研究です。ヴァルネスワラの詳細は彼の個人のウェブサイトで見ることができます。 学術研究では、2つ以上の分野の技術を活用して問題の解決策を図ることがあり、専門分野をまたいだ研究プロジェクトを牽引できる研究指導者(教授)を募集している大学が世界中で増えています。分野をまたいだ研究、分野横断的研究を行うことには多くの利点がある反面、いくつかの欠点もあります。私の修士研究は、電力グリッドネットワークの耐久性と復元力を向上させるために生態学および機械工学の視点からネットワークの解析原理に取り組むという非常に分野横断的な研究でした。このような分野をまたいだ研究を行うために、避けては通れない障害や問題をいくつも乗り越えなければなりませんでした。ここでは、重大な問題とそれらを回避、あるいは克服し、研究の機会を最大限活用するための解決策を紹介します。 適切な共同研究者を見つける 適切な共同研究者を見つけることはとても大切です。既に分野横断的な研究チームに参加しているのであれば、ラッキーです。大方の初期的な問題はやり過ごせていることでしょう。しかし、PhDの研究プロジェクトとしてこれから新しい分野横断的な研究を始めたいのであれば、始めの段階で時間を取られたり、いきなり困難に直面したりするかもしれません。私がPhDの研究を始めたときは、共同研究者を見つけるのに学期のほとんどを費やしました。まず7-8人の教授に会い、そのうちの2人と頻繁にeメールで連絡を取り合い、会合を重ね、最終的に1人を選び、その教授と彼女の研究グループと研究を始めることにしました。自分の専門分野以外の教授を説得するのは非常に難しいので、この段階には忍耐力が不可欠です。自分がすべきことをやり、教授が行っている研究プロジェクトについて学び、自分の提案の目新しさと実現可能性を教授に納得してもらうための方法を探してください。教授が皆同じようにあなたの提案に興味を示してくれるとは限らないので、好感の持てる教授一人に的を絞り込んでしまうことは避けます。自分が希望した教授につけなかったとしても、そこで落ち込まず、次に進みましょう。より大きなことに取り組んでいく間には、教授に受け入れてもらえないということも度々起こります。たくさんの教授と交流し、ブレインストーミングを行う経験のすべては、疲れはしますが、後に就職するときに採用者に高く評価される能力、つまり研究チームを作り、チームを牽引する能力をつける貴重な機会となるでしょう。 頻繁にコミュニケーションを取る 分野横断的な研究プロジェクトを成功に導くためには、研究チームのメンバー全員と頻繁にコミュニケーションをとることが大切です。このような研究プロジェクトを率いる教授は、他にも重要なプロジェクトを抱えていることが多いので、あなたから進捗状況や期待していること、大切な会議、論文の締め切り日などを適宜伝えなければ、進行の遅れを引き起こしてしまうこともあります。会合を持つべきときには機会を逃さないようにしましょう。将来の職場でリーダーシップを発揮するための良い訓練となるはずです。…

研究データの公開について考える

オーストラリア国立大学のインガー・ミューバーン(INGER MEWBURN)准教授が、大学院で勉学に勤しむ学生さんにお役立ち情報をお届けするコラム「研究室の荒波にもまれて(THE THESIS WHISPERER)」。今回は、研究データの公開を考えたことがありますか?という題目です。 研究データを公開・共有することで大きな影響を与えることができますが、そのためにはしっかりとデータ管理をしておく必要があります。まだ周りのPhD(博士課程)の学生があまりやっていないこと、つまり研究論文を出版するのと同様にデータを公開すること―に挑戦してみませんか。データの公開について、オーストラリア国立データサービスのリチャード・フェラーズ(Richard Ferrars)とアミール・アリヤニ(Amir Aryani)に話を聞いてみました。 貴重な研究データを公開・共有することが、新しい共同研究や、新規出版、さらには研究資金獲得につながる可能性を秘めています。ここでは、データを公開する際の5つの手順を書き出してみます。 1.データの共有:データを共有することで引用数を増やす インターネットの普及により、研究者はかつてないほど簡単にデータの検索、抽出、分析、そして共有までできるようになりました。この「オープンデータ」化の動きは政府機関と研究者の両方に影響を及ぼしていますが、双方にとってメリットは若干異なります。政府機関にとってデータの共有は、「情報公開」に必要な費用の削減につながります。一方の研究者にとっては、国際的な研究者間のコミュニケーションを促進し、引用数の増加につながります。 データの共有が引用数に影響を及ぼすことをまとめた調査報告書があるので参照してみてください。 Sharing Detailed Research Data…

卒論を1日1万ワード書く方法

オーストラリア国立大学のインガー・ミューバーン(INGER MEWBURN)准教授が、大学院で勉学に勤しむ学生さんにお役立ち情報をお届けするコラム「研究室の荒波にもまれて(THE THESIS WHISPERER)」。このコラムで人気の高い記事の1つが「悲鳴をあげずに1日に1万ワードを書く方法」です。今回は、ミューバーン准教授が気になったという作家レイチェル・アーロン(Rachel Aaron)による投稿「私はこうやって1日の執筆量を2000ワードから1万ワードに増やした」という記事のことも含めて、1日に書ける文章量を増やす方法について語られています。 レイチェルの記事を見たとき「えっ!1日に10000ワード」と驚かされましたが、彼女は3つの条件が揃えば1日に10000ワードを書くことは可能だと言っています。その条件とは―― 1)事前に何を書くか考えがまとまっていること 2)執筆のための時間を十分にとっておくこと 3)書こうとしていることについて熱意を持っていること レイチェルが記事に書いていることの多くは、私が過去の記事「悲鳴をあげずに1日に1000ワードを書く方法(原題:How to write 1000 words a…

なぜPhDを辞めるの?

オーストラリア国立大学のインガー・ミューバーン(INGER MEWBURN)准教授が、大学院で勉学に勤しむ学生さんにお役立ち情報をお届けするコラム「研究室の荒波にもまれて(THE THESIS WHISPERER)」。研究者の能力開発も担うミューバーン氏にとって、試練に満ちたPhD生活の中でどうしたら研究者がモチベーションを保ち続けることができるのかは大きな課題の一つです。今回は、がん患者の思考分析方法を、PhDを辞めるべきか悩んでいる学生の思考分析に置き換えてみたりしながら、揺れ動くPhDの気持ちを紐解くコラムです。辞めるか悩んでいる研究者の気持ちの整理や、悩んでいそうな同僚とどう接するべきか・・・に一つの答えはありませんが、考える一助になるかもしれません。 私は、Quality in Post graduate Research conference (QPR)というオーストラリアの研究教育関係者が集まる会合に参加し、2012年にBJエプスタイン(BJ Epstein)によって書かれた『PhDを辞めるべきか?(原題:Should you quit your…

オープンアクセス論文の引用率は本当に高いのか

欧州の研究機関をはじめ、オープンアクセス(OA)出版を積極的に後押しする動きが高まる中、OAの普及が加速化していますが、その一方で、定期購読料につき大学などの研究機関と出版社との対立が膠着状態となっています。実際、OAに掲載された論文の方が、購読雑誌に掲載された場合よりも閲覧数・ダウンロード数ともに多くなることが判明しており、その傾向は一層強まると予想されています。 https://www.youtube.com/watch?v=10cfN0EvKh0   確実に読者を掴むOA出版 2014年にNature Communicationに掲載された研究情報ネットワークResearch Information Network (RIN)による調査の結果、OA方式の論文の方が従来の定期購読方式の論文よりも閲覧数、引用数ともに上回っていることが明らかにされました。例えば、2013年上半期にOA方式と定期購読方式の両方で提供するハイブリッド・タイプの学術雑誌であるNature Communicationsに掲載された722本の論文のトラフィックをRINが分析した結果、OA論文と定期購読方式の論文の閲覧数に明らかに有意な差が見られました。この6ヶ月のOA論文の閲覧数は非OA論文の2倍を上回っていました。さらに、2010年4月から2013年6月の間に同誌に掲載された2000本以上の論文の引用数を分析した結果には、購読のみの非OA論文とOA論文の被引用件数の比較において、第一四分位数(データを小さい準に並べたときの25%の位置にある数字)では非OA論文3に対しOA論文4、第三四分位数(同75%の位置にある数字)では15対21、中央値では7対11といずれの点でもOA論文の引用数が上回っていることが示されていました。 OAの影響は学術雑誌の枠を超える OAのプラスの影響は、学術雑誌に留まりません。ドイツのライデン大学の博士課程のRonald Snijderの調査によると、研究成果の書籍をOAで閲覧可能とした場合、OAで読めない(非OA)書籍よりも引用件数が10%程度高くなっていました。ここで注目すべき点は、書籍をOAで無料提供しても、紙媒体の書籍の売り上げにマイナスの影響がほとんど生じなかったことです。インド、中国、インドネシアなどの国々では、OA版のダウンロード数の方が非OA版を上回っていました。この傾向は、スウェーデンのルンド大学が運営するDirectory of Open…

博士号取得に必須のプロジェクトマネジメント・スキル

博士号を取得するためには、数年間の講座履修、研究活動、論文の執筆・発表、学会への出席など、限られた時間に多くのことをこなさなければなりません。すべてが計画通りに遂行できるわけではないので、時間の遣り繰りが難しいのが現実です。複数のタスクを混乱することなく計画的に進めるためには、プロジェクトマネジメント(PM)・スキルが必要なのです。 博士課程学生にはプロジェクトマネジメント(PM)スキルが必要 PMとは、プロジェクト全体を俯瞰的に眺め、全体の意思決定および進行管理を行うことです。さまざまなタスクに追われ、「五里霧中」に陥ることがあると評される博士課程学生には、PMスキルが必要です。規模の大小に関らず、プロジェクトの進行において計画的に仕事を進めることができず、収拾がつかない状態に陥った場合には、その状況から脱却するスキルが必要なのです。自身もジョージア工科大学でバイオエンジニアリング分野の博士号取得を目指しているAngel Santiago-Lopezは、博士課程の教育にPMの指導を含める必要があると感じ、他の学生にも役立ちそうなPMスキルを構築しました。そこには、プロジェクトの題材の組み立て、目標の設定、スケジュールの作成や管理などを含めた6つのアドバイスが記されています。ここでは、その中から特に重要な4つに絞って紹介します。 PMスキルの重要なポイント4 1.プロジェクトを定義する プロジェクトの方向性を定めるため、達成の目標と、作業タスクを定義することがまず何より大切です。プロジェクトの目標は、「21世紀における生命倫理学の研究」などのように漠然としたものではいけません。特定の分野で進められている重要な課題の解決に貢献する新しい発見をするなど、具体的に定める必要があります。 作業タスクの定義に関しては、プロジェクトの目標達成に至るために必要と考えられる作業および課題を、すべて洗い出すことが必要です。経験したことが無いテーマのプロジェクトでは、想定されるタスクを拾い出して定義することは難しいでしょう。近似のプロジェクトの事例などを参考にして、そこに手を加えることで自分のプロジェクトに該当するタスク・リストを作成すると良いでしょう。大枠を先に設定し、そこから小さなタスクにブレークダウン(細分化)していく、トップダウン的なアプローチがお勧めです。 2.スケジュールを管理する スケジュール管理はプロジェクトの成否の分かれ目です。定められた締め切り(中間報告なども含めて)までにプロジェクトを計画通りに進行させることは、プロジェクトの組み立てに際して大変重要です。スケジュールを立てるには、色々な方法がありますが、基本的な手順は次の通りです。 まず、最終締め切りを確認します。博士論文で言えば、執筆が完了し、見直しと修正も終えて、教授に論文を提出する期日です。プロジェクトの内容、特性に合わせて最終目的と期日を定めます。 次に、プロジェクトの構成要素、つまり細分化したタスクそれぞれの期限を設定していきます。例えば、論文を書くことがプロジェクトとすれば、各章の前後関係を検討しつつ、それぞれの章を完成させることに期限を設定します。 最後に進捗目標を設けます。研究の進め方について、日次や週次のスケジュールをたて、タスクをそのスケジュールに即して順次完了させながら全体の完成に向けて進めます。 スケジュールには遅れが付き物です。絶対に遅れてはならない部分と、遅れたとしても調整できる部分を認識しておく必要があるでしょう。優先度を把握し、スケジュールの多少の遅延に対しても有効な手段を取れるようにしてあると慌てずにすみます。 有難いことに、スケジュール管理に役立つツールが沢山あります。例えば、複数のタスクをどの順番で進めていくかをフローチャートにするツールや、個々のタスクの完了に向けた進捗度合いを示す「ガントチャート(Gantt…

ICMJE 医学論文投稿・査読・出版の世界的ルール

新型コロナウイルス感染拡大が世界に大きな影響を与えている状況下において、医学研究の重要性は改めて痛感されるところです。そこで、医学研究成果の信頼性を確保していく基盤でもある医学論文執筆における世界標準とされるICMJE(医学雑誌編集者国際委員会)投稿規定について再確認するとともに、改訂に向けた動きを紹介します。 ICMJE(医学雑誌編集社国際委員会)とは ICMJE(International Committee of Medical Journal Editors)は、世界の主要な医学雑誌(ジャーナル)の編集者の集まりです。世界医学雑誌編集者協会(World Association of Medical Editors: WAME)をはじめ、世界の主要な医学雑誌(ジャーナル)および出版社など14の組織・団体で構成されています。ICMJEが策定したRecommendations for the…

ハゲタカジャーナルに引っかからない秘訣

ハゲタカ出版の実態について ハゲタカ出版社の見分け方 ハゲタカジャーナルを回避するには ハゲタカ出版社/ハゲタカジャーナルの対処法

研究と出版に eラーニング を役立てよう

博士課程に入ると、たくさんの新しい課題に直面します。博士課程のコースは難しい上に、研究や論文執筆も進めなければなりません。学術論文の執筆と出版には、書く技術、学術的な文章を書く能力、首尾よく論文を発表するノウハウが必要ですが、博士課程以前にはこの技能を磨く機会があまりありませんでした。研究の指導にあたる教授や教官から学ぶこともできますが、さらに深く学ぶために、自分で独自の取組をすることも考えてみてはいかがでしょうか。eラーニングを活用することも一つの方法です。 eラーニングとは eラーニングとは、インターネットを利用する学習形態ですが、今では、さまざまな教材やコンテンツが揃っています。通常は、LMS(Leaning Management System)という学習管理システムを使い、テキスト、画像やビデオなどの教材を配信します。LMSは受講者に学習しやすい環境を提供することを主目的としたシステムであり、ウェビナー(webinar)とも呼ばれるウェブセミナーの開催や、指導者と学習者の相互コミュニケーションの提供も可能にします。 eラーニングは、1990年代のパソコンとインターネットの普及に従って発展してきました。この頃に学校がインターネットを利用した通信教育を始め、当時は「遠隔教育」とも呼ばれ、広範な地域の幅広い層に学習機会を提供したのです。eラーニングという言葉が広まったのは2000年代になってからですが、教材やプログラムをもネット上で管理できるようになると、誰もがいつでもどこでも学習することができるようになりました。そして、さらなる技術の発展により、双方向学習やメール、チャットなどを使った双方向のコミュニケーションも可能となりました。今では、ライブ授業の配信など多様な学習機会がインターネット上で提供されています。 eラーニングの長所・短所 一番の長所は、時間の自由度が大きいことです。誰もが何時でも都合の良い時に学ぶことができるのです。日々、仕事に忙殺されている人にとっては、スキマ時間などに学習できることは、とてもありがたいことでしょう。また、eラーニングは何回でもアクセスできるので、重要な点を何度も履修しなおすことができます。時間が指定された授業だと、出られないことや、その分の振替を調整することなどがストレスになったりしますが、eラーニングであればそんなことはありません。好きな時間に簡単に、必要なコースを受講することができるため、学習時間を従来の通学型の授業に比べて25-60%に短縮できるとの説もあります。 一方、eラーニングには短所もあります。eラーニングをより効果的に活用するためにはこれらの短所も把握しておく必要があります。一つは、理論の学習と実際的な技術の習得は異なるため、eラーニングが実技を伴う内容の学習には適さない場合があることです。eラーニングで学んだ知識や技術を、実際に使おうとした場合、ある程度の困難が伴うことが予想されます。もう一つは、eラーニングは一人で受講するため、指導者や他の学習者と顔を合わせて学ぶ従来型学習のような社会的・人的ネットワークを構築することができません。これらは、知識それ自体より大事な場合もあるとはいえ、eラーニングでは難しいのが現実です。また、単独で学習する受講者が学習意欲(モチベーション)を維持するのが難しいという点も挙げられます。幸い、SNSやビデオ付きチャットなどのコミュニケーションツールが普及しているので、こうした交流手段をうまく活用することにより、eラーニングの弱点を補うことを意識すると良いでしょう。 論文発表の手順もeラーニングで学習 博士課程の大学院生にとって論文の発表が大事なことは改めて言うまでもありませんが、発表までの実際的な手順についてわからないこともあるでしょう。そのようなときには、論文発表までの手順を学べるeラーニングのコースが役立ちます。 例えば、研究者のためのeラーニングプログラムであるEnago Learn(Choosing the Right…

How to Avoid Rejections Due to Language Mistakes

Common language errors Application of English grammar Importance of professional editing Enago services for ESL…

How to Ensure Your Manuscript’s Originality with iThenticate

How to avoid plagiarism Similarity checking iThenticate similarity report Publishing with confidence

STEM分野の女性差別改善に男性ができること

学会で出会った女性科学者2名が、昼食時に学術界の女性差別の話題になりました。 A博士:科学界で女性が出世するのは難しいわ。2019年に米国でSTEM(科学・技術・工学・数学)分野でフルタイムの仕事に就いている人のうち、女性はたった24%だって知ってた? B博士:ジェンダー格差がいまだにそんなにひどいなんて信じられないわ。これは世界的な問題だけど、ジェンダー格差に関する認識は世界中に広がってきているのでしょう。最近は、不公平な状況を変えて、女性の活躍を後押しする男性も出てきているようよ。 はたして、STEM分野でのジェンダー格差とは、どのような状況なのでしょう。そして、この状況を改善するために男性研究者ができることはあるのでしょうか。 学術界のジェンダー格差 学術界におけるジェンダー格差は、確かに世界的な問題であり、特にSTEM分野では歴然としています。まず、STEM分野での女性研究者数自体が少ないので、論文執筆および査読における女性研究者の割合も男性より少なくなっています。例えば、オープンアクセスのFrontier Seriesの学術誌を対象にした2017年調査によると、女性執筆者は全体の37%、同様に査読者は28%でした。研究組織のトップの女性比率も低く、研究費の獲得金額にも差があります。プライベートにおいても女性の方が子育てによって大きな影響を受けやすく、理系のフルタイムの研究者や専門家が子供を持った場合、43%の女性が専門分野を変更する、非常勤になる、あるいは退職する、との調査結果があります。男性ではこの比率は23%であり、差は顕著です。 このような格差が存在することは広く認識されてきており、改善の取組みも議論されていますが、「女性がどう対処するか」の議論がほとんどです。ここでは、「男性は改善のため何ができるか」について、実際の取り組み例を紹介してみます。 改善に向けて男性ができること 世界の科学研究における女性の参加割合は30%に満たないとも言われています。特に、STEM分野でジェンダー格差が根強いのには、非常に多くの要因が関係しています。それらの中には、男性の行動で変わりうるものもあるのです。 無意識のジェンダーバイアスを認識する まず、「無意識のバイアス」を認識することです。女性には子供のときからSTEM分野に進む気持ちをそぐような文化的風潮が働きやすく、意欲をくじかれかねません。学校でも職場でもSTEM分野は男性の数が多く、そこに女性が入っていくには勇気と努力が必要です。STEM教育におけるジェンダー格差についてUNESCOが2017年に発表した調査レポートによると、世界の高等教育においてSTEM分野を選択している女性の割合は35%であり、研究者では28%に留まります。教育課程が進むにつれて、女性が理系に興味を抱かなくなる傾向があり、中等教育過程で男女格差が顕著になります。「女性は理系に向かない」という思い込みや、教育現場や家庭環境に内在するさまざまな要因が女性をSTEM分野から遠ざけています。男性が、女子学生や職場の同僚の女性を勇気付け、または自分の娘のSTEM分野への興味を育むなど、わずかに後押しするだけでも違いが出てくるでしょう。 変だと感じたら声を上げる 小さなことでも格差や偏りに気がついたときに声を上げることも大切です。例えば、会議で女性の発言がさえぎられたり、なんらかの役職への候補者が男性だけで占められていたりしたときに、変だと感じて声を上げることが、ジャンダー格差改善の一歩です。そしてさらに進めて、実際に女性差別的な発言や行動を見たら、その場で注意喚起することが望まれます。そうした指摘がスムーズにできるように、同僚同士で注意の仕方を学びあう試みをしている研究者もいます。そうした人たちは、女性に障害を克服するよう励ますのではなく、障害を取り除くように男性も積極的にかかわるべきだと考えているのです。 男女平等(ジェンダーバランス)への配慮を求める…

論文レイサマリー(要約)の書き方のポイント

毎年、何百万本もの学術論文が発表されており、毎日のように飛躍的な発見も生まれています。科学研究が現代の生活にすっかり溶け込んでいるにもかかわらず、一般の人にとって研究内容を理解することは容易でなく、まして最新の研究動向を把握するのはことさら難しいことです。たいていの場合、科学的な論文には専門用語が多く、一般的には分かりにくい書き方となっていることも一因です。しかし、研究者にとっては研究資金提供者やメディアの関心を集めると同時に、多くの人に成果を知ってもらうことが重要です。そのためにできることのひとつは、一般の人にも分かりやすい要約「レイサマリー(lay summary)」を書くことです。ここでは、レイサマリーの書き方と注意すべきポイントをみていきましょう。 レイサマリー(要約)とは 「レイサマリー」とは、誰でも理解できる簡易な言葉で研究の内容を説明するものです。研究論文の冒頭の「要旨(アブストラクト)」が研究者などを対象として研究概要を書くものであるのに対し、レイサマリーは専門知識を持たない人でも研究の内容を理解できるように書くものです。多くの学術雑誌(ジャーナル)がレイサマリーをウェブサイトのトップページに掲載することで、たくさんの人が科学論文に接することができるように配慮しています。例えば、Elsevierの学術ジャーナル「Epilepsy and Behavior Case Report」や「Journal of Hepatology」がレイサマリーを掲載しています。また、欧州連合における臨床試験制度であるEuropean Union Clinical Trials Regulationのように、レイサマリーの提出を求めている機関もあります。レイサマリーは、一般の人だけでなく、ジャーナリストや研究資金提供者など、該当分野の専門家ではない人にも研究内容を理解してもらうのに役立ちます。研究成果を一般にも広く知らしめ注目されることは、研究者としての影響力を高め、研究資金を確保することにもつながるので、非常に重要なことです。レイサマリーは、これらを可能にする手段のひとつと言えるでしょう。 レイサマリーの書き方のポイント…

オープンアクセスとプランSによる学術出版の改革を考える

プランSとcOAlition Sの概要 プランSの目的、範囲、原則 オープンアクセス オープンデータの重要性

リジェクトへの対処法―起死回生のチャンスを掴む

査読プロセス リジェクトされる要因 査読者コメントの理解と効果的な回答 リジェクトを回避するためのポイント

3分以下で論文をアピールする

オーストラリア国立大学のInger Mewburn准教授が、大学院で勉学に勤しむ学生さんにお役立ち情報をお届けするコラム「THE THESIS WHISPERER」。今回のお題は、短時間で要領よく自分の研究論文をスピーチする方法です。 研究成果を短時間にアピールすることが重要だと言われても、具体的にどうすればいいのか?と悩める人に「エレベーターピッチ(elevator pitch)」と呼ばれる方法を紹介しています。ピッチ(pitch)とは、相手に自分のアイデアを説明したり売り込んだりすることで、エレベーターに乗り合わせたような短い時間で分かりやすく効果的に要点を伝えようとする会話術です。 鍵は、聞き手の興味を引き出し、もっと知りたいと思わせることです。エレベーターピッチとは、一般的に30 秒から2分程度の短いプレゼンテーションとされていますが、オーストラリアの大学では「3分間スピーチ大会」が開催されており、本コラムでは3分を目安にしています。2分より長いとはいえ、たった3分にまとめるのは至難の業です。 Mewburn准教授が注目したのは、Chip Heath とDan Heath兄弟が人の記憶に残るメッセージの作り方について書いた著書『Made to Stick: why…

「Shut Up & Write」:黙って書けってどういうこと?

オーストラリア国立大学のインガー・ミューバーン(Inger Mewburn)准教授が、大学院で勉学に勤しむ学生さんにお役立ち情報をお届けするコラム「研究室の荒波にもまれて(THE THESIS WHISPERER)」。今回は、アメリカで巻き起こったユニークな運動の紹介です。 友人が教えてくれた「Shut Up & Write」運動は、アメリカで生まれた執筆するために集まるという活動です。やり方は実に単純。グループのメンバーが、特定の場所、大抵はおいしいコーヒーのある場所に集まって15分間ほどおしゃべりをした後、静かに書く。ひたすら書く。黙って1時間書いたらコーヒー休憩をしてから、またおしゃべりして終わり。 私自身は、ドアを閉めて電話やeメール、SNSなどすべての通信手段を閉ざして引きこもって文章を書くタイプなので、他の人と一か所に集まって文章を書くのはとても非論理的だと思ったのですが、結構な人数が参加して、しかもこの活動が継続していることが気になって、実際に自分でやってみることにしました。 まさにこの原稿を、キャンパス内のお気に入りのカフェに座って書いています。私の向かい側には、「The Research Whisperer」ブログの制作者であるジョナサン(Jonathan)がいます。私たち二人は20分ほど前に集合して、少し新聞を読み、コーヒーを飲んで、eメールのチェックをして、ついでに雑談もしました。そしていざ、携帯のタイマーを25分にセットしてから黙って書き始めたのです。 [残り時間 21:18分] 妙なことですが、絶え間なく聞こえてくるJonathanのタイプ音が、私自身も執筆作用中であることを自覚させ、私の指を動かし続けます。カフェの雑音はまったく気にならないどころか、心地よくなっています。独りではないと思えること……でも、これだけがShut Up…

文献検索の達人になるコツ:キーワード

オーストラリア国立大学のインガー・ミューバーン(Inger Mewburn)准教授が、大学院で勉学に勤しむ学生さんにお役立ち情報をお届けするコラム「研究室の荒波にもまれて(THE THESIS WHISPERER)」。今回は、文献検索の達人になるためのコツのお話です。 博士号取得に文献検索のスキルは必須であるにも関わらず、「どうやって」を明確に習うことはあまりありません。そのため多くの学生が「正しい」方法で文献検索を行っているのか不安になりつつ、今さら指導教官に聞くのも……と思っているようです。今回は文献検索のやり方を説明するので、不安を払拭するのに役立ててください。 文献検索スキルは、博士課程(PhD)における「hidden curriculum」だと言われています。日本語では「隠されたカリキュラム」または「潜在的カリキュラム」と訳されていますが、教育者側の意図に関わらず、学習者が自ら学び取っていく事柄を指しています。つまり、学生は自らが置かれた環境や、学術界での常識や価値観の中で過ごす間に文献検索スキルを「当然習得しているべき」となっているのです。だからこそ、実は徹底的かつ効率的に検索する方法を理解できていないのではないかとの不安が生まれるのはないでしょうか。 幸いにして、インターネット上には文献検索をどのように始めたらよいかの情報が多数掲載されていますし、多くの大学や図書館は文献検索の指針や学習コースを提供しています。オーストラリア国立大学(ANU)でもSNS上にたくさんの有用サイトの情報を提供しています。ただ、情報提供だけでは埋められない部分が残っているのも事実です。 例えば、多くの場合、検索の最初のステップとして「キーワード」を使いますが、そのキーワードをどうやって考え出す?推定する?おそらく、今までは推定したキーワードを使って検索していたことでしょう。しかし、キーワードは、体系的かつ創造的に選ぶ必要があり、ここが難しいところです。実際、文献検索とは長年の学習によって培った知識に裏付けられた思考プロセスが要求される作業なのです。 ここでは、私が実践している文献検索方法をひとつ紹介します。 まず、研究の懸案事項とリサーチクエスチョン(研究課題)から入りますが、ここでの具体例として以下の課題を挙げます。 安全に対する懸念は、ジャカルタのような大都市で女性が交通手段を選択する際、どの程度の影響を及ぼすか この課題につき、スパイダー・ダイアグラム(情報を整理し線画などで幾何学的に図示する手法、以下の図参照)を作成して、派生する質問を作成し、検索の範囲を広げていきます。派生する質問への回答が、根本的な質問の回答につながるように質問を考えます。 私は派生する質問を3つ作成しました。質問数を限ることによって、論点を分類しつつ焦点を絞り、タスクが手に負えなくなることを防ぎます。次に、派生する質問を順番に見ていきます。右上の円には「他の大都市では女性が通勤にどのような交通手段を使用しているか」と書かれているので、この質問について最初の推測をします。この質問に関連する記事を図書館で見つけたら、その棚のラベルを見ます。例えば、下図のようなラベルが付いているとしましょう。 ここでは「大都市での通勤」、「女性と交通」、「小都市での通勤」といった3つが提示されています。それぞれのラベルに付いている説明を見てみます。…

論文テーマの妙案はどこからやってくるの?

オーストラリア国立大学のインガー・ミューバーン(Inger Mewburn)准教授が、大学院で勉学に勤しむ学生さんにお役立ち情報をお届けするコラム「研究室の荒波にもまれて(THE THESIS WHISPERER)」。今回は、妙案はどこから湧き出してくるのかという話です。 博士課程(PhD)の論文は、「知識を集積することに対し意義深くかつ独創的な貢献をするもの」と考えられていますが、何が「独創的」なのか実用的に語られることはほとんどないため、学生にとってはプレッシャーになっているかもしれません。 イステル・フィリップス(Estelle Phillips)とデレック・S・プー(Derek.S. Pugh)による著書『博士号のとり方[第6版]―学生と指導教員のための実践ハンドブック―(How to get a PhD)』は、独創的な研究とはどうあるべきか、16の手法を説明していますが、残念ながら「独創的なアイデア」がどこから出てくるかは説明してくれていません。別の本も見てみましょう。キャリー・J・デンホルム(Carey Denholm), テリー・エバンス(Terry Evans)による著書『Doctorates…

P値に関する問題-P値ハッキング

研究の世界では統計的な有意性が求められます。有意性の判定基準として通常は「P値(有意確率)」が使われており、調査・研究対象によって違いはありますが、一般的には0.05(= 5%)を有意水準として、P値が0.05以下の時に仮説が有意であるとされます。これはつまり、この事象が起こりえる確率は95%以上であるということを示しているわけで、P値が低ければ低いほど起こりえる確率が上昇することになり、その結果、有意性の度合いが高いと評価されます。 ここで、統計的有意性「P値」について簡単に説明しておきましょう。得られたデータ標本から計算した統計値を「統計量の実現値」と言います。「P値」は、帰無仮説(設定した仮説は成立しないという仮定)が正しいとした場合、そこで得られる統計量の実現値よりも極端な統計値が観測される確率のことです。統計量の実現値においてP値が0.05(5%)以下ということは、「帰無仮説が正であれば(つまり仮説が成立しない)、観測されたような事象が生じる確率は5%以下と極めて珍しい。従って帰無仮説は成り立ちにくく、仮説が正である可能性が高い」ということです。少々ややこしいですが、帰無仮説を用いた検定は、逆側からの立論となっているので辛抱してください。なお、「P値」の「P」は「Probability(蓋然性、確率)」のPです。さらに話をややこしくするのは、統計指標であるはずのP値に、誤用や誤解が付き物であるという実態です。このため、一部の研究者や学術雑誌(ジャーナル)はP値の使用を控える動きがあることも書き添えておきます。 さて、本題に入りましょう。太郎さんと花子さんという二人の研究員の会話の形で問題を解説します。 統計的有意性の追求 太郎:やり方を間違ったかな。有意な結果が出るはずなのに、P値は約0.08。どこが間違ったのかわからないよ。 花子:手順を再確認してみた? 太郎:やったよ。手順には問題がなさそうなんだ。指導教官は高インパクトなジャーナルにこの研究成果を発表して、次の研究プロジェクトの資金を獲得したいと思っているのに、今のところ得られている実験結果は、統計的に有意とは言えないよ。やり方を変えてみようかな。 花子:どう変えるつもり? 太郎:もっとデータを集めてみようかと思ってる。一部の異常値を除外することも考えてるし――間違ったデータなのは確実なんだ。それと別のデータ解析方法を試してみるべきかな。 P値ハッキングの問題 花子:でも、それをやったらP値ハッキングになっちゃうと思うけど? 太郎:P値ハッキング? 花子:研究者が意識的にせよ、無意識的にせよ取得後のデータを取捨選択して、有意な結果を導こうとすることはP値ハッキングになるの。取捨選択の他に、今言ったような異常値を除外するとか、解析方法を変えるといったデータの微調整もP値ハッキングに該当するわよ。 太郎:P値ハッキングなんて初めて聞いたよ。…

失敗から学ぶ-論文却下を招く15のミス

研究者である以上、誰もが自分の研究論文が高インパクトな学術誌(ジャーナル)に掲載されることを目指していることでしょう。しかし、論文がジャーナルに掲載されるというのは簡単なことではなく、却下(リジェクト)されることも少なくありません。論文が却下されるのは辛くても、その経験は次に原稿が受理(アクセプト)されるためのコツを学ぶチャンスとなります。そこで今回は、「失敗から学ぶ」として、論文却下を招く15のミスを紹介します。 1.誤解を招く恐れのあるタイトル 見当違いなタイトルは論文の即時却下につながります。タイトルは、自分の論文テーマを正確に表すものであることが大切です。研究範囲に収まっていない内容を想起させるようなタイトルを付けるのは問題です。 2.整合性の取れていない要旨(アブストラクト) 要旨(アブストラクト)が論文に書かれた内容と整合性が取れていない場合もリジェクト要因となります。要旨において紹介する研究結果や結論が、本文で述べられている内容ときちんと一致し、的確にまとめられている必要があります。 3.不十分な序論(イントロダクション) 序論の内容が不十分であると、論文本文に読み進む前の段階でジャーナル掲載に値せずと見なされかねません。序論には、研究課題と仮説、研究の目的が分かりやすく述べられていなければなりません。序論は、上手に自分の研究の価値を伝え、本文につなげることが重要です。 4.研究方法(メソッド)の不正引用 複数の論文を執筆していると、つい同じ研究方法(メソッド)を複数の論文で反復して記述しがちです。しかし、たとえ自分の論文に書いたメソッドであっても、過去に出版された論文に記載された内容や研究方法を原典の引用なしに掲載した場合には、自己盗用とみなされます。データの収集方法や解析方法についても同様です。さらに、研究方法は常に状況を踏まえた内容でなくてはなりません。新しい技術や技法が現れた時点で、今までの方法は時代遅れとみなされます。 5.結果の記載の過不足 結果には、研究の結果のみを簡潔かつ明確に記さねばなりません。ジャーナルから指定された字数制限に気を取られるあまり、重要な情報を取りこぼしてしまったり、反対に説明が過剰になったりすると却下される原因となります。 6.非論理的な内容 当然ですが、議論が非論理的な論文は、容赦なく却下の対象となります。研究テーマに関連がない、結果に焦点を合わせないまま広がりすぎている、見解が偏っている(バイアス)、他の研究者による重要な発見を踏まえていない、研究の限界を見落としている――といった考察は、非論理的であると見なされます。 7. 投稿先ジャーナルの選択ミス 論文の内容が、ジャーナルの目的と研究領域(Scope)に一致していない場合、投稿原稿が受け入れられることはありません。ジャーナルによって、投稿論文への要求は異なるため、投稿先ジャーナルの「Aims…

一流医学雑誌への論文発表 ガイド

医学論文発表 ICMJEガイドライン 症例報告の作成と評価 研究倫理

オープンアクセスの動向と課題

オープンサイエンスが進展し、国際的にも広がるにつれ、研究の専門家に限らずあらゆる人が学術研究の成果や研究に関連する情報にアクセスできるようになってきていますが、同時に研究スタイルやデータ共有などに影響がおよんでいます。今回は、オープンサイエンスとは切っても切れないオープンアクセス(OA)の動向と課題について振り返ってみます。 https://www.youtube.com/watch?v=10cfN0EvKh0 オープンアクセスウィーク 毎年10月に、オープンアクセスに関連するイベント「オープンアクセスウィーク」が世界各地で開催されており、2019年は10月21日から27日に行われました。このイベントは、2008年に学術・研究図書館の国際連合であるSPARC(Scholarly Publishing and Academic Resources Coalition)と学生コミュニティが立ち上げたもので、以降、毎年開催されています。2019年のテーマは「Open for Whom? Equity in Open Knowledge(誰のためのオープン化?オープンな知識における平等を考えよう)」で、まさに研究活動を進める上での本質的な問題を突いているものでした。この質問を投げかけることで、既存のシステムがもたらしているとされる不平等性をオープンアクセスが解消できるかを議論しています。オープンアクセスウィークの詳細情報はwww.openaccessweek.orgで公開されているので、掲載されているブログなどを読んでみると興味深い見解を知ることができるでしょう。…

魅力的なタイトルを付けるコツTOP10

論文の内容を端的に伝え読者を引きつける魅力的なタイトルを付けることは、非常に重要です。論文の内容に直結し、的確なキーワードを盛り込んだタイトルをつければ、興味のある読者が論文を検索した時に論文を見つけられる可能性を高め、データベースやジャーナルのウェブサイト上で多くの読者の目に触れやすくもなります。 魅力的なタイトルを付けるコツを、以下のインフォグラフィックでご紹介します。 エナゴアカデミーでは、研究論文の書き方を詳細に説明する記事もご用意しています。ぜひご覧ください。

科学技術基本法の改正で変わること

国会での審議なんて学術研究には関係ないよ……と言われるかもしれませんが、今国会は要注意です。というのは、今国会に科学技術基本法の改正案が提出されると見越されているからです。はたしてどのような「改定」が検討されているのか、近年の日本の科学研究の危機的状況を解消することにつながるのか。改定で変わることを見てみます。 1995年に議員立法で成立した科学技術基本法は、日本の科学技術・イノベーション(技術革新)創出の振興を目的として設定されたものです。科学技術の振興に関する施策を計画的に推進するため、基本計画(科学技術基本計画)、研究推進のための総合的な方針、研究設備・環境の整備および研究者の育成などに関する定めを示しています。1996年から5年ごとに策定するよう定められていますが、近年は特に時代にそぐわない課題がいろいろ出てきているので、それらを踏まえた改正法案を2020年の通常国会に提出し、2021年度からの第6期科学技術基本計画に反映させるとしています。よって、今回の改正は日本の学術研究に大きな影響を及ぼすと考えられるのです。 2019年11月20日、内閣府の総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)の有識者による作業部会は「科学技術基本法」の改正に向けた報告書『科学技術・イノベーション創出の総合的な振興に向けた科学技術基本法等の在り方について』 を公表しました。政府はこれを受けて具体的な法改正作業を進め、今年1月からの通常国会での法改正成立を目指しています。今回の改正が実現すれば、これまで対象としていなかった人文科学の振興が追加され、さらに、イノベーション創出の概念が明確化されることになり、今後の日本における科学・技術政策のあり方などに大きな影響を与える可能性があると言われています。 改正の柱のひとつは、従来の基本法の対象が「人文科学のみに関わるものを除く」とあるものの修正です。科学技術基本法の第一条を見ると、冒頭に「科学技術(人文科学のみに係るものを除く)の振興に関する施策」と規定されています。今回の改正でこの規定をやめようとしています。日本学術会議 は、人文・社会科学を含む科学・技術の全体について長期的かつ総合的な政策を展開することの必要性を指摘しています。これは、近年、地球規模の環境問題や人口知能(AI)、ゲノム編集技術の発展といった現代社会の課題に対応するためには人文・社会科学の研究も不可欠になっているとの意見が増えていることが背景にあります。環境問題の解決には、自然環境と人間活動の結びつきを理解する必要があるため、生物学、地球科学、社会科学、人文科学など多分野からのアプローチが求められます。また、AIによる自動運転を実用化する場合、法律や行政の知識が必要となるため、イノベーションの段階から人文・社会科学も一緒に研究に携わる必要が出てきます。改正法となる「科学技術・イノベーション基本法」(仮称)では、AIの自動運転による事故の扱いなど、人文・社会科学系の知や解釈を重視するとしています。実際、2016年にはグーグルの自動運転車が公道での走行実験中に接触事故を起こし、法的責任に関する問題が指摘されました。このとき、米運輸省道路交通安全局はグーグルの自動運転車が搭載する人工知能(AI)を連邦法上の運転手とみなす方針を明らかにしましたが、運転手の有無や介入の仕方によって運転責任が変わってくることなどを鑑みれば、自動車に関する法令につき抜本的な議論が必要となることでしょう。同様に、ゲノム編集の研究でも、法学あるいは倫理学的な視点が必要になってきます。2019年に中国研究者が遺伝子操作した受精卵から双子が誕生したという衝撃ニュースが世界を駆け巡り、日本の国会でもゲノム編集技術について審議 されましたが、厚生労働省は従来通り研究指針で規制する考えを示しました。つまり、日本では遺伝子を改変した受精卵による妊娠・出産させることを研究指針で禁止しているのみで、ゲノム編集による改変は網羅的には規制対象となっていないというのです。受精卵の操作については倫理的な問題も議論されていますが、他のゲノム編集技術も日々刻々と進歩し、同じく2019年には日本でゲノム編集された食品が解禁になっているなど、既にゲノム編集が身近なところに迫っていることから慎重な議論が必要となっています。このような状況を踏まえ、文理融合の研究とそのような研究を推進する研究者の育成が急務となってきているのです。 もうひとつの改定の柱は、現行の基本法にはないイノベーションの概念を導入するとして、科学技術・イノベーション(STI)を明確に定義付けていることです。近年の科学技術・イノベーション(技術革新)政策の動向を踏まえ、科学技術振興を基本理念とした現行法とのズレを修正するために必要な規定を追加するとしています。「イノベーションの創出」が重要であることを前提とすることで、イノベーションのプロセス全体を通じて自然科学と人文・社会科学が連携することが期待されます。日本の学術研究の将来が不安視される中、科学技術レベルの向上とイノベーションの創出は重要です。政府は、科学技術イノベーションは経済再生の原動力であり、科学技術イノベーション政策を強力に推進していくと表明。一方の学識者は、今回の改訂で「イノベーションの創出」が書き込まれようとしている点は評価しつつ、基本法本来の目的である科学・技術振興、とくに基礎研究振興の視点が後退しないか注視する必要があると指摘 しています。大学や国立研究所がイノベーション創出のため「成果の普及」を義務づけられた場合、産学官連携への国家動員が強まる危険性を懸念する識者もいます。また、従来の自然科学中心の科学技術振興に加えてイノベーションにまで範囲を広げることで、自然科学における最先端技術に大きな予算が配分されている現状の科学技術予算の範囲は大幅に変わると予想されます。政府は、平成28~32年度の第5期基本計画 及び統合イノベーション戦略でも重要な分野や効果の高い施策への重点的な資源配分を図り官民の研究開発投資の拡充を目指してきました。科学技術・イノベーション創出の活性化に関する法律等の見直しでは、産学官連携を活性化するために国立研究開発法人の出資規定の整備 を行うことも検討するとしていますが、予算配分は研究者にとって影響が大きいだけに今後の動きにも注意が必要でしょう。 今回の科学技術基本法改正により、日本の学術界のサイエンス至上主義が見直され、人文社会科学の存在感が増すことを期待します。 参考: 文部科学省 科学技術基本法について(外部リンク) こんな記事もどうぞ…

SNSは被引用数増加に効果があるか?

世界のソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)のユーザー数と普及率はとどまるところを知らず、2019年の世界全体のSNSの利用者数は34億8,000万人を突破、前年比9%増となっています。日本のSNS利用者数も、2018年末に7,523万人、2019年末に7,764万人、2020年に7,937万人と見込まれており、着実に増加しています。もはやコミニケーションツールとして欠かせなくなっているSNSですが、自撮写真や、観光やグルメの写真のアップ、友人同士のおしゃべりの道具として利用する以外にも、情報を効果的に共有する有力な道具としての利用法もあります。 学術界でもSNSが情報発信、情報共用して研究成果を広める手段として多用されるようになってきています。一方で、それが本当に役立つのかという疑問の声もあります。SNSによる研究成果の周知・拡散をめぐる調査などを紹介します。 SNSの種類 SNS には、いろいろな機能があるので、適切に活用すれば効果を上げることができます。そのためにはそれぞれの特徴を理解して、自分の目的に適したSNSを利用することをお勧めします。 Facebook(フェイスブック):自分の研究成果を発表したり、他のSNSや学術ジャーナルのリンクをつけたりすることができます。 Twitter(ツイッター):短い文章を写真や動画などと一緒に投稿できる代表的SNSです。自分の研究成果や学会発表、ブログなどにリンク付けが容易で情報発信の窓口になります。リツイート機能による拡散力が魅力です。 LinkedIn(リンクトイン):ビジネス特化型のSNSです。転職活動や採用、ビジネス上のネットワーク作りのために活用されることも多く、特定のグループ向けだけでなく、まったく異なる分野の人たち向けて広く情報発信することができます。 ResearchGate(リサーチゲート):研究者のためのSNSです。研究者間のつながりを促進し、研究のアイデアや成果を共有することを目的としています。論文のアップロード/ダウンロードができるので、論文についてのディスカッションも可能です。他の研究者をフォローして、最新の研究成果を見ることもでき、研究成果を議論する新しい場として活用されています。 Mendeley(メンデレー):文献管理ツールとして利用可能な研究者のためのSNS。グループを作成して文献を共有したり、論文を公開したりできます。自分の関心がある分野のグループに参加したり、気になる研究者をフォローしたりすることで、人的ネットワークを広げることもできます。 上にあげたSNS以外のコミュニケーションツールとしてBlog(ブログ)も挙げられます。SNSがフロー型のメディアであるのに対し、ブログはストック型のメディアと言えますが、最近のブログは読者が返信することやディスカッションすることを可能にするSNS機能を搭載しているものが増えているので、SNSの範疇に入るとされることもあるようです。フェイスブックの「シェア」やツイッターの「リツイート」のような拡散性や速報性はありませんが、長文や論文の投稿が可能で、投稿した記事がウェブ上に残るというメリットがあるので、使い分けをするとよいでしょう。 SNSの効果に関する調査 SNS利用のメリットに関する調査の結果は、他の人と繋がり、情報交換が容易になるという点では一致しています。それでも、研究成果の普及に本当に役立つのかについては議論されています。 英国の研究者が行った調査から主な分析結果を3つ挙げておきます。 研究者は自分の論文のアップロード先として、所属する研究機関や大学のウェブサイトより学術分野のSNS(Academia.edu、ResearchGate、Mendeley)を選択する傾向がある…

クラリベイト・アナリティクス高被引用論文著者2019

学術誌(ジャーナル)評価分析データベースJournal Citation Reports(JCR)で有名なクラリベイト・アナリティクスですが、毎年、高被引用論文著者や引用栄誉賞の発表も行っています。この引用栄誉賞に選ばれた研究者がノーベル賞を受賞することも多いようです(2019年までに50名の引用栄誉賞受賞者がノーベル賞を受賞)。 2019年11月に発表されたHighly Cited Researchers 2019(高被引用論文著者2019年版)は、同年において影響力の高かった研究者をリストしています。これは科学研究の分野において過去10年以上にわたって出版された論文の引用データから、影響力の高い研究者を分析してリスト化したもので、この名誉あるリストに名前が掲載されるには、引用される回数の高い論文を多数出版し、それらが論文データベースWeb of Scienceに収録された全論文のうち、特定出版年および特定分野において引用された回数が上位1%にランクされている必要があります。2019年は、約60か国から6261名の研究者が選出されました。このうち、3571名が特定分野での功績を、2492名が複数分野を合算(クロスフィールド)した業績を評価されての選出となっています。分野を横断して評価されるようになったのは2018年からですが、複数の分野に影響を与えた論文がわかりやすくなっています。 2019年版の傾向 高被引用論文著者2019年版には、同年にノーベル賞を受賞した3名を含め、計23名のノーベル賞受賞者が含まれています。また、世界7か国19名の研究者が、研究成果が非常に多くの回数(2000回以上)引用された研究者に送られるCitation Laureates 2019(引用栄誉賞)に選出されました。2000回以上引用されるような論文は、収録された論文全体の0.01%にすぎないので、「ノーベル賞クラス」と見なされる研究者のみが引用栄誉賞に選ばれていると言えます。選出された研究者の論文は頻繁に引用されていることが明らかで、該当分野における貢献は極めて大きく、社会にイノベーションをもたらすものと言えるでしょう。 高被引用論文著者は世界60か国に分散していますが、約85%の研究者は上位10か国に集中しています。高被引用論文著者を最も多く輩出した国は米国で2737名。この人数は、今年選出された全著者の44%を占めていました。最も多く輩出した大学は、ハーバード大学で人数は203名に及んでいます。一方、中国から選出される研究者の数は、2018年の482名から636名と引き続き増えていることが示されていました。この結果、国別の人数では中国が英国(2019年で516名)を抜いて2位に浮上。英国同様、ドイツやオランダの高被引用論文著者数が2018年よりも減少しているのとは対照的です。中国と並んで著しい伸びを示しているのはオーストラリアで、2014年の80名から2019年の271名と6年間に3倍以上の増加となり、5位に入っています。オーストラリアの研究機関が、世界各地から高被引用論文著者を採用したことに加え、自国内の研究者育成に力を入れたことが功を奏したようです。高被引用論文著者の72%は上位5か国(米国、中国、英国、ドイツ、オーストラリア)の大学・研究機関に所属しており、優秀な人材が特定の国に集中している傾向は続いています。このような世界動向の中、日本からの選出は98名で、昨年の13位から11位に順位を上げていました。輩出が多い分野は、植物・動物学、免疫学、物理学、化学。輩出数の多い組織としては東京大学などの39の大学や研究機関が含まれています。 研究者の活躍に期待…

気になる研究助成金の分配方法

研究助成金は研究を続ける上で不可欠です。なんとか必要な額の助成金を得ようと苦労している研究者が、申請が不採択となった理由を知りたいと思うことは不思議ではありません。助成金の審査方法だけでなく分配方法も気になります。一方、助成金提供者側にとっては、助成金申請の数が増加すると、事務手続きが膨大な量となって負担が重くなる上、すべての申請内容を評価し、合意を集約させるのは一苦労です。では、手続きを簡略化する対策として「公正な抽選により、あなたの申請は不採択になりました。」と言われたとしたら、研究者は納得できるのでしょうか? 実際、資金提供者の手間と審査に要する時間を削減すると同時に、公平性を保つため、申請をランダムに選んでいる(任意抽出している)組織があるようです。ニュージーランドの保健研究会議(Health Research Council)は研究資金提供先を「くじ引き方式」によって抽出している一例ですが、このように部分的なものも含めてランダム抽出を行っている団体・研究機関の数は増えているとnatureの記事が指摘しています。 変わりゆくプロセス 研究資金提供団体の中には従来の選出方法は妥当ではないとして、「くじ引き方式」を実施しつつ、研究助成金の選出プロセスに透明性を持たせるための新しい方法を模索しているところもあります。一方、従来の方法をとっている団体も、研究分野によってはランダム抽出への動きがあることは認識しており、今後の動きを検討しています。2019年11月にスイスのチューリッヒ大学で開催された会議では、科学界におけるより広域な作業にもランダム式選考を採用すべきとの意見も出されました。この主張によれば、助成金申請の抽出に留まらず、どの論文を出版するかの選出や、さらにはどの候補者を研究者として採用するかの選考にも使うことができるとしています。この会議の主催者でもあるチューリッヒ大学の経済学者は、ランダム方式は現在のプロセスよりも高い開放性を得ることができるだろうと示唆しています。現行プロセスは、研究者にとっては申請書類の作成に関するさまざまな作業に手間取る割にはいくら苦労しても不採択となる可能性は捨てきれず、評価委員にとっても大きな差異のない申請書類を大量に仕分け、評価、選出することに多くの時間を要することから、効率的とは言い難いと述べています。さらに、標準的な評価が、政策立案者、出版社、大学の事務局が思うようには行われていない上、審査・選考を行うあらゆる組織・団体が的確な基準をもって機能しているわけではない現状も指摘しています。 今では、ニュージーランドの技術革新科学基金(Science for Technological Innovation National Science Challenge, SfTI)やスイス科学財団(Swiss National…

効果的な研究助成金申請書の書き方

研究費の種類 公募情報の読み解き方と助成金の選択方法 研究計画書の効果的な書き方 研究費獲得の機会について

投稿原稿がリジェクトされる一般的な理由

研究者は、自らの研究成果を少しでもインパクトの高い学術雑誌(ジャーナル)に投稿しようと日々研鑽を重ねています。しかし、論文出版には困難が伴い、せっかく投稿した論文が却下(リジェクト)されることも少なくありません。多くの研究者がキャリアの中で一度はリジェクトを経験し、失敗から学んだ経験を次の論文投稿に生かしていることでしょう。今回は、一般的にリジェクトにされる12の理由と注意すべき点について考えてみます。 1. 内容とタイトルのミスマッチ タイトルは論文内容にあったものにします。タイトルで論文の内容を適切に示せていないと読者の興味を引けないだけでなく、論文の検索にも影響します。また、ジャーナルの投稿規程に反したタイトルがついている場合はリジェクトの対象となります。 2. 要約が要約になっていない(アブストラクトの不備) 要約(アブストラクト)はそれだけ読んでも論文の内容を把握できるように書かれているべきであり、論文の内容を正確に反映させるものです。読者の誤解を招く恐れのある記述であってはなりません。 3. 序論が本文とあっていない(イントロダクションの不備) 論文の頭である序論(イントロダクション)が、論文全体の内容がわかるように書かれていないと、本文を読み進む気力を削ぐことになってしまいます。イントロダクションには、研究における論点、仮定、研究の目的が示されていなければなりません。 4. 不適切な方法(メソッド)の記載 適切な引用説明もなく以前書いた他の論文から方法をコピーするのは自己盗用に該当します。実際の実験で利用した方法を正確に記載しましょう。また、データの収集方法や、解析方法が不適切と判断された場合もリジェクトの対象となります。そして、研究が再現できるかどうかを確認しておくことが大切です。 5. 記載もれ…

米国の2020会計年度の予算の行方は

学術界が、資金確保と科学的な知見への不信感から困難な状況に置かれています。とくに顕著なのが、トランプ大統領の率いる米国。米国は、最先端の研究を進め、学術雑誌への掲載論文数も多い「科学大国」でしたが、地球温暖化は「でっちあげ」だとの発言を筆頭に、平然と科学的知見に反論するトランプ大統領の就任後、科学への不信感が広がっています。同大統領は米国環境保護庁(EPA)や米国航空宇宙局(NASA)による温暖化研究を「税金の無駄」と評しただけでなく、主だった研究機関の 研究費 の大幅削減を試みています。特に、米国国立衛生研究所(NIH)と米国国立科学財団(NSF)への予算増加はしないと明言したことから、米国の科学研究の行く先が不安視されています。 大統領の姿勢 研究費の削減は、科学研究全体に多大な影響を与えるのは必至ですが、大統領の科学軽視の姿勢は、科学への不信感の増大に影響を及ぼすこともあります。かつて、トランプ大統領は、麻疹(はしか)のワクチン接種の副作用が自閉症につながるなどと科学的論拠を無視した発言を繰り返しツイートしていました。Anti-vaccinationistを示す「anti-vaxxer」と呼ばれる反ワクチン論者の集団は、米国中間選挙の裏で選挙資金を流して選挙に関与したとも言われていますが、その政治的な動きはともかく、予防接種率が低下したことではしかの感染が拡大してしまいました。このときの感染拡大を受け、ニューヨーク市のブルックリン地区では公衆衛生の非常事態宣言が発令されたほどです。幸いにしてトランプ大統領は、はしかワクチンについては「予防接種は重要だから受けなさい」と意見を覆しましたが、科学への不信感による影響には恐ろしいものがあります。トランプ大統領の科学軽視の傾向に加え、トランプ政権を支持する人の間には科学研究活動に対する不信感が根強いのです。そして、トランプ政権における科学技術への関心の薄さが研究費削減という予算案となって示されていると言えるでしょう。 トランプ政権による研究費削減策とその影響 2019年3月、トランプ大統領は、ほぼすべての政府系研究機関向けの予算を大幅にカットするよう議会に求めました。ここで対象外となったのは、米国エネルギー省(DOE)と米国航空宇宙局(NASA)の2機関のみです。 これに先立ち、2018年12月22日から2019年1月25日にかけて米国政府機関の一部機関が閉鎖されていました。35日間もの閉鎖は、歴史上での最長の長さにおよび、約30億ドルもの経済損失が生じたと試算されています。この影響は学術界にも波及し、NSF単体でも2000もの助成金申請処理が遅れたほか、さまざまな点で支障をきたす原因となりました。 そして今年前半、トランプ大統領はすべての政府系研究機関の研究費を削減するとの予算教書を提出したのです。NIHの研究費については、大統領による前年比5億ドル減の予算案に対して、下院が2億ドル増を提案し、同様に、NSFの研究費についても予算増の提案が出ていましたが、行政予算管理局(OMB)は増額案に反対。研究費などの削減分は軍事費の増額分に充てられるとの噂もあり、予算における攻防が続いています。 下院の民主党らは、トランプ政権は政府系研究機関による科学研究、特に基礎研究の重要性を認識していないと主張し、予算削減に抵抗しています。トランプ大統領の掲げる「国境の壁」建設費をめぐっても妥協点は見えていません。大統領は9月に11月21日までのつなぎ予算に署名しましたが、本来10月1日から始まる2020会計年度の予算は11月21日までにまとまらず、11月21日に大統領が継続予算決議(CR)に署名したことで12月20日まで交渉は継続されることとなりました。これで当面、政府機関の閉鎖は避けられてはいますが、また年末になって騒ぎにならないとも限りません。 トランプ政権による優遇 OMBは大統領府の付属機関であるため、予算については大統領の意向を反映させがちな傾向があり、予算削減の対象外とされた2機関については異を唱えていません。一方で、OMBのディレクターRussell Voughtは、NASAの研究開発プログラムに対し、2024年までに再び有人月面着陸を行う目標を達成するための研究開発費を含め7億ドルの増額が必要だとする書簡を10月23日に議会に提出しました。トランプ大統領は、宇宙開発においても「かつての偉大さを取り戻す」と約束しており、NASAの一部の研究開発については積極的に財政支援するようです。また、DOE科学局とエネルギー高等研究計画局(ARRPA-E)に対しては史上最高額の予算案が可決されています。DOEは、無人・自立システム、人口知能(AI)、極超音速技術、指向性エネルギーに関する技術開発を優先事項に掲げています。これらのことから、トランプ政権下の予算案の特徴としては、経済成長優先と、好む政策と好まない政策の予算案の増減について大きな落差があると言えそうです。 学術界の反応 トランプ政権が、基礎研究を軽視し、偏った予算配分を強行しようとしていることに対し、学術界はどう反応しているのか気になるところですが、多くの研究者、研究グループ、機関は前回の政府機関の閉鎖の影響から回復しきれていないのが現状です。閉鎖期間中は会議開催や研究活動の制限、あるいはキャンセルを余儀なくされました。政府系の博物館などの資料やデータへのアクセスも制限され、データセットへのアクセスができなかっただけでなく、データ自体に穴(抜け)が生じたりしており、それらの損失は計り知れません。しかも、同期間中、無給となってしまった研究者もいたのです。ひどい事態ではありますが、多くの研究者にとって、将来、研究費が大幅に削減された場合には同様の事態が起こり得るのです。…

研究倫理を守り不正を回避するには?

倫理指針について よくある研究不正の実例 研究の公正性とは 倫理的ジレンマを克服するために

研究の事前登録は是か非か

学術、特に学術出版の世界は、この数十年の間に多くの変化に見舞われました。デジタル化の波に押され、学術雑誌(ジャーナル)の購読料問題やオープンアクセスへの流れなどが大きく取り上げられていますが、研究論文の中身についても、第三者や自分自身の研究結果を再現しようとして失敗する「再現性の危機(Replication Crisis)」や、研究結果に不都合な傾向が見られた場合に報告されない「出版バイアス(Publication Bias)」などが、対処すべき深刻な問題として挙げられています。 今、これらへの対応策として研究者の間で広がりつつあるのが、研究の 事前登録 (Pre-registration)です。事前登録とはどのようなもので、どのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか。 ■ 事前登録(Pre-registration)とは? 事前登録とは、実験、つまり実際にデータを収集し始める前に、第三者に研究の仮説とデータの収集・分析計画を提出しておくことです。論文の序論(Introduction)と手法(Method)に書かれるべき内容を事前に提出しておくことで、集めたデータから統計的に有意な結果だけを拾うのを防ぐアプローチです。 2004年にニューヨーク州当局が英国系大手製薬会社グラクソ・スミスクライン(GSK)を提訴した事件がきっかけとなり、研究者の間で臨床試験の事前登録を行うことが一般的になりました。この訴訟は、GSK社が行った研究の5つの結果のうち、4つに抗うつ剤パキシルを処方した小児や青少年に効果がないばかりか、自殺傾向を高めるリスクがあることが示されていたにもかかわらず、GSK社が隠蔽していたことに対するものでした。ニューヨーク州当局は、同社がパキシルの有効性と安全性を宣伝して販促を行ったことで不当に得た利益を、州に差し出すよう求めたのです。患者への悪影響を重くみた米国と英国は、この薬を小児や青年に投与しないように呼びかけ、同年、医学雑誌編集者国際委員会(International Committee of Medical Journal Editors)は臨床試験の事前登録を義務づけました。以降、事前登録は、心理学と政治学の分野で広く採用されるようになり、ライフサイエンスの分野でも徐々に浸透しつつあります。ちなみに、無料のオープンサービスを提供している非営利組織Center for…

中国系研究者を狙い撃ちか?

がん治療・研究に特化した研究施設であり、がん研究では世界トップを走るテキサス大学MDアンダーソンがんセンターに米連邦捜査局(FBI)の捜査が入り、研究情報の窃盗の疑いでアジア系の教授を解雇したことが報じられました。このニュースについて説明します。 テキサス大学MDアンダーソンがんセンターの教授解雇 テキサス大学MDアンダーソンがんセンターで、2019年4月に研究者5名が相次いで同センターを去りました。同センターの発表によれば、2018年8月に米国国立衛生研究所(NIH)から数名の研究者に情報漏洩および論文査読における整合性が疑われるとの指摘を受けて調査を進めたところ、疑わしいと指摘された3名の懲戒免職の手続きに動き、そのほかの2名は違反が認められたものの免職には当たらないとしました。免職対象の3名のうち2名は解雇される前に辞職し、残る1名は調査中となりました(4月時点)。NIHもMDアンダーソンがんセンターも個別の嫌疑の詳細や3名の情報を明らかにしていませんが、情報の漏洩先は中国であり、嫌疑ありとされたのは中国系の研究者と報道されています。 内部情報を基にした報道によると、嫌疑の対象になったうちの一人は疫学部教授のXifeng Wuです。彼女は中国生まれですが、テキサス大学で博士号を取得し、米国籍を所有していました。数々の業績をあげ、MDアンダーソンがんセンターの疫学部長として、中国の研究者やがんセンターと密接な関係を築いてきました。中国の研究機関との共著論文も多数発表しており、その数は26研究機関、87本に及びます。しかし、2014年頃からMDアンダーソンがんセンターから中国の研究機関に情報が漏洩しているのではないかとの疑いがもたれるようになり、当センターはセキュリティを強化しましたが、FBIが2017年夏に研究および専門情報の盗難の可能性の調査を始めると、その調査途中の2019年1月にWu博士は辞職してしまいました。3月には中国に戻り浙江大学医学院公衆衛生学部の学部長の職に就いています。Wu博士の嫌疑が正当であったのか、辞任の理由が何であったのかは明らかにされていませんが、情報窃盗として容疑が固まるには至りませんでした。とはいえ、米国内の研究施設からの情報漏洩や知的財産盗難については警戒感が高まっており、同センターも秘密情報の窃盗については処分を強化すると言及しています。 事件の背景 こうしたケースはMD アンダーソンがんセンターに限りません。NIHが2018年8月に疑惑を指摘した研究機関は数十箇所に上り、中国をはじめとする外国が絡んだ情報漏洩の摘発を狙ったようです。米国上院の予算委員会でNIHの高官が2019年6月行った報告では、外国政府と秘密裏に関係している疑いにつき、HIHが研究資金を提供している研究機関のうち61箇所にFBIの協力を得て予備調査を行った結果、うち16機関に法律違反の可能性があると述べています。NIH高官は別の機会に「本来は秘密扱いとはならない基礎研究であっても、将来的には特許申請に結びつくものが含まれている可能性はあるので、そのような情報を外部に流すのは実質的に情報を盗むことと同義である」との趣旨の発言をしています。こうしたことを踏まえてメディアは、今回の事件は中国との貿易戦争を背景に、米国政府が学術関連の情報の取り扱いについて、中国および中国系の研究者に圧力かける意図があったと分析しています。 米国のあせり? トランプ政権による中国との貿易戦争は、上乗せ関税の応酬のニュースが目立ちますが、中国における国家主導の経済体制と並んで、米国が重視している争点のひとつに知的財産の保護があります。中国の知的財産の問題は、ブランド品の贋作の輸出や、国内での外国特許や著作権の侵害ですが、その手口は巧妙化の一途をたどっています。中国政府は11月24日に知的財産権侵害への罰則を強化すると発表していますが、ここにきて米国が特に研究情報の漏洩に強い姿勢を示している背景には、科学技術における中国の躍進への警戒もありそうです。 ここ20年ほどで中国の科学技術における発表論文数は大幅に増加しています。米国国立科学財団(NSF)が発表した報告書『SCIENCE & ENGINEERING INDICATORS 2018』によれば、科学技術分野の中国の論文発表件数は2003年から2016年に5倍に増加しています。一方、米国は同期間に約1.3倍になっただけであり、2010年以降は横ばいで、2015年に前年よりやや減少し、2016年には中国に抜かれています。こうした状況に、米国が焦りを感じていることは否定できないでしょう。…

Tips on Drafting Successful Grant Application

Securing a research grant is the first step towards initiating a research project. Research cannot…

Selecting Good Research Topic

A lot of thought, time, and effort goes into selecting the right research topic. Selecting…

How to Become Productive Researcher

A researcher’s job is no ordinary job. It comes with a great amount of responsibility…

Decoding the Peer Review Process

Peer review plays a significant role in the publication of a manuscript. Peer review constantly…

Language and Grammar Rules for Academic Writing

Language and Grammar are essential in academic writing. An appropriately written paper helps authors effectively…

Increase Your Visibility Through Digital Networking

Digitalization has changed the landscape of scientific research. Today, researchers can unravel several possibilities just…

How to Become Research-Inspired Entrepreneur

A researcher acquires diverse transferrable skills through their Ph.D. and postdoctoral fellowship positions. Researchers, who…

How to Find the Right Journal for Publishing

Researchers frequently spend time finding the right journal after their research work is over. 'What should be…

Everything You Need to Know about Open Access

With the advent of the internet and emergence of digital archiving, access to information has…

A Guide to Biostatistics in Clinical Research

Biostatistics in clinical research is important to collect, analyze, present, and interpret data. It finds…

Clinical Trials: The Fundamentals

Clinical trials are an important part of medical research and these investigations help determine how…

メチオニンとがん治療の最前線

ホフマン効果とは? メチオニン中毒が起こるメカニズム メチル基転移が果たす役割 食事療法によるメチオニン摂取制限

How to Avoid Fraudulent Image Manipulation

What is image manipulation? Best practices for image processing Avoiding image manipulation Tools for detecting…

研究室で効率化をアップするコツ

研究活動は忙しいものです。日々新しいことに取り組みつつ研究を進め、期限通りに成果をまとめ、研究資金提供者への報告も行わなければなりません。特に研究を助成金に頼っている場合、研究成果をきちんと提出しなければ次の助成金獲得にも影響するため、計画的に研究プロジェクトを進めることは必須です。そのためには、効率的に研究をすることが求められるので、スケジュール(時間)やリソースをうまく管理できるように努めるべきでしょう。今回は、納期を守り、ワーク・ライフ・バランスを保つためにも有用な時間およびリソースの管理、実験時間の短縮につながるコツをご紹介します。 有能な研究責任者(PI)の効率化術 研究責任者(PI)は、研究活動と同時並行で研究室の管理業務や研究室メンバーの管理指導をバランスよく進めることが求められます。負担は大きいかもしれませんが、次のようなコツに留意しておくと助けになるでしょう。 計画を立てる:スケジュールを立て、研究室メンバーと共有する。資料などを読む、ものを書くための時間もきちんと配分することが大切です。詳細かつ合理的にスケジュールを立てることが、一日の時間を効率的に使うことにつながります。 テンプレート(ひな型)を用意する:実験経過や結果の報告など研究室で作成する資料のテンプレートを用意しておくと、PIを含めて研究に関わるすべての人の作業の効率化が図れます。 情報共有の仕組みを標準化:ファイリングシステムを整備し、その分類法や命名法を標準化しておくことで、情報を共有し、誰もが素早く必要な情報にアクセスできるようになります。 会議の集約:会議は貴重な時間を奪うとともに、集中を途切れさせる要因にもなります。会議を週の決まった日にまとめると、他の日は本来の仕事に集中することができます。 計画の見直し:週の半ばに計画の確認・見直しを行い、必要に応じて計画を調整すると、時間のロスを抑制できます。 読書時間の確保:あらかじめ計画しておかないと資料や研究動向の情報などをタイムリーに読めなくなってしまうので、日次または週次で読書時間を確保するように決めておきます。 研究企画会議:研究に関するアイデアや方向性などを議論する企画会議は長い時間がかかるものです。こうした会議は月次開催とし、研究室メンバーにはしっかりした準備を求めておきます。 対応時間の確保:学生や若手研究員から指導を求められることが多々あるでしょう。それらに対応するための時間枠を設けておきます。学生や研究室のスタッフが簡単な質問をする時間を設けることで、他の手間(やらなければと予定していたこと)をやらずに済むかもしれません。 余裕をもつ:スケジュールには多少の余裕を持たせておき、計画した仕事が予定以上に時間を要する場合や、やりそこなった作業のフォローに充てられるようにしておきます。 自分に合わせて調整する:時間管理の仕組みを、自分や一緒に働く人たちの事情にあわせて微調整していき、自分なりにやりやすい形に整えます。 研究メンバー向けのコツ PI以外の研究室のメンバーの主たる業務は研究に従事することですので、以下のような点に注意することが研究時間を節約し、効率性と正確性を高めることにつながります。…

プランSの学術界への影響は⁈(2)

論文のオープンアクセス(OA)化に向けた公的助成機関によるイニシアチブ「cOAlition S」の開始と、OA推進の10の原則「 プランS 」についての概要、ならびに、このプランSへのフィードバック募集(期限:2019年2月8日)については別記事で紹介しました。学術研究者のみならず、出版界もこのプランSの動向に注目しており、600を超えるフィードバックが寄せられたそうです。それらの意見を踏まえてcOAlition Sが目指すOAの実現に向けた手引き「Guidance on the Implementation of Plan S(以下、手引書)」が改訂され、効力の発生時期を予定より1年遅れの2021年1月1日に延期するなどの変更が加えられました。この動きは学術界にどのような影響を及ぼすのでしょうか。 加速するオープンアクセス 2019年5月31日に発表された手引書の改訂版には、cOAlition S参加機関による研究助成を受けた研究成果(査読出版物)は、すべてOAジャーナルかOAプラットフォーム、またはOAリポジトリに即時発表しなければならないとされる日が、当初計画されていた2020年ではなく2021年1月1日となったことが記されています。OAへの移行には時間が必要であるとの指摘に対応し、出版社のビジネスをOAモデルにシフトする時間的猶予を与えるものと見られます。とはいえ、効力発生日までに学術界が適応しきれるのか疑問視する声は根強く残っており、さまざまな点で論議を呼んでいます。 改訂点…