目指せ大型予算獲得!助成金申請書の書き方

助成金かフェローシップ、どちらを選ぶか 応募できる助成金について幅広くリサーチする方法 助成団体とその利害関係を見極める 最適な募集要項を発見する方法 インパクトのある研究計画書を書くための基本的な構成要素 研究助成機関が魅力を感じる計画書とは? 申請書類の提出前後にするべきこと ※講師は日本語で解説しますが、使用資料は英語となります。

論文の二重投稿<翻訳版を再掲載しない方がよい4つの理由>

発表済みの論文を別の言語に翻訳して出版することが、論文を執筆する研究者の間で一般的になってきています。これは研究不正にはならないのでしょうか?この記事では、日本語で二次投稿、二重出版もしくは再掲載などと訳されるsecondary publicationの倫理と、発表済みの論文を翻訳したものを再掲載しないほうがよい4つの理由について説明した上で、著者がこうした不正行為を回避しつつ、論文を複数言語で発表する方法について見ていきます。 研究者が発表済みの論文を翻訳する理由 まず、研究者が発表済みの論文を別の言語に翻訳して再掲載する理由を見ておきます。 発表済みの論文が読者層にとって読みにくい言語で書かれている場合、発表者の母国語、または、より多くの人が利用している言語に翻訳した方が、その論文に関心のある読者に読んでもらいやすくなります。 論文の掲載先が研究者が期待するほど有名でない学術雑誌(ジャーナル)だった場合、論文を翻訳して、より有名なジャーナルに再掲載することによって論文の認知度を高め、結果として論文の影響力を高めることができます。 論文の発表から何年も経過して、情報が古くなっている場合、当初の論文発表以降に、解釈や関連性を変更する新しい展開または発見が出てきていることも考えられます。 このような場合、新しい情報を翻訳して再掲載することで、読者が最新の研究情報にアクセスできるようになります。 既に発表された論文を翻訳して再掲載することは不正行為か 既に発表された論文を他の言語に翻訳して再掲載することが不正行為と見なされるかどうかは、どちらの判断もあり得ます。既に発表した論文の翻訳版であると投稿先に伝えて事前に再掲載の承諾を得ていれば二重投稿、研究不正とは見なされませんが、既に発表した論文の翻訳版であることを伝えず、しかも独自研究ではないことを明らかにしていない場合には研究不正と見なされてしまいます。通常、多くのジャーナルは既に発表された論文を他の言語であっても再掲載することを好ましいと思ってはいませんが、既に発表されている論文であっても、それが他の言語であれば再投稿を検討する余地を残しているジャーナルもあります。とはいえ、こうしたジャーナルであっても、論文が以前に発表されているものであることを明確に記載する必要があるので注意が必要です。 研究者は発表済の論文を翻訳して他のジャーナルに投稿すべきか この質問への回答は、「ジャーナルの方針による」となります。一部のジャーナルは、論文を別の言語に翻訳して発表することに寛容ですが、そうでないジャーナルもあります。翻訳した論文の投稿を認めていない投稿先に翻訳論文を再掲載してしまうと、それは研究不正と見なされます。 ジャーナルが、掲載するすべての論文が独自性のある研究であることを保証すること、あるいは翻訳の質に懸念を持っているような場合には、翻訳された論文の投稿を許可しない可能性があります。 研究者が翻訳版を再掲載することを許可するかどうかの最終的な判断は、個々のジャーナル次第です。特定のジャーナルの方針(ポリシー)について不明な点があれば、その編集者または出版社に直接問い合わせてみることをおすすめします。 論文の翻訳版を再掲載しない方がよい4つの理由…

システマティック・レビューの構成と書き方

システマティック・レビュー(系統的レビュー)とは、特定の課題についてこれまでに書かれた文献を収集し、データの調査・評価を行い、分析することで一定の結論を出すものであり、学術ライティング特有の作業です。システマティック・レビューを行うことは、質の高い、論理的なレビュー論文を書くための基本です。システマティック・レビューを出版するには、世界的に合意された特定のガイドラインに準じた作業プロセスで進めなければならないことは、学術研究者ならば、よく知るところです。ガイドラインは、研究者や出版社が論文について効果的かつ有意義なコミュニケーションをとるために無くてはならないものです。 大学院生など、論文の執筆や学術出版の経験が浅い研究者がシステマティック・レビューを執筆する際は、ガイドラインを注意深く読み、経験豊富な著者からのアドバイスを参考にすると良いでしょう。 National Center for Biotechnology Information(米国国立バイオテクノロジー情報センター)やNational Library of Medicine(米国国立医学図書館、国立衛生研究所の一部門)は、システマティック・レビューを以下のように定義しています。 “A systematic review is a…

人目を引きつける論文ステートメントの書き方

論文ステートメントとは 論文ステートメント (Thesis Statement)とは、エッセイや研究論文の主旨となるアイデアを端的に伝える文章です。著者の考え、あるいは調査研究において主張しようとしていることについて記すものですので、1-2文程度で明確かつ簡潔に書きます。 論文ステートメント-論文執筆において極めて重要なもの 繰り返しになりますが、論文ステートメントは、研究論文のアイデアを1文もしくは2文にまとめて記し、論文の内容を整理し、研究の論点や意見を発展させるためのものです。論文にどのようなことが書かれているか、著者が研究課題にどのように取り組んでいるかを読者に伝えるためにも重要です。さらに、論文の構成の指針となり、著者が自分の考えをより効率的にたどったり、整理したりするのに役立ちます。 論文ステートメントは、複雑で方向性の見えない議論において著者が状況を見失わないようにするのを助けると共に、研究論文が問題に直結し、研究目的に焦点を合わせた内容となることを確保するものです。 論文ステートメントはどこに書くのか 通常、論文ステートメントは、エッセイあるいは研究論文のイントロダクションの終わりに書きます。研究テーマに関する著者の意見を一文で示すことで、読者に向けた論文全体の具体的なガイドと位置づけられます。 影響力のある論文ステートメントを書くための6つのステップ ステップ1:研究論文を分析する 研究論文に関連する領域でまだ明らかにされていないナレッジ・ギャップ(knowledge gap)を特定し、著者が示す論点のより深い含意を分析します。論文ステートメントで言及した研究目的は、考察(Discussion)または結論(Conclusion)で覆されていませんか? 著者自身の考えに矛盾はありませんか? 研究目的を定める際、重要なナレッジ・ギャップはありましたか? 著者は、基本的な理論を正しく理解し、実証しましたか? 著者は、裏付けとなる文献の引用なしに議論の裏付けをしていませんか? こうした問いかけで自問自答してみることは、実用的な論文を作成し、苦労することなく方向付けを行ない、構造を組み立てることに役立ちます。 ステップ2:質問を考える 論文を作成しているとき、執筆プロセスの早い段階で、取り組むべきリサーチクエスチョンが見つかっているかもしれません。研究課題の中に、すでに確固たるリサーチクエスチョンがあれば、それが研究デザインの指針となり、特定の目的を定義・特定することができるでしょう。こうした目的は、著者が論文ステートメントを構成するのに役立ちます。…

博士過程(PhD)を生き抜くためのセラピー動物

オーストラリア国立大学(ANU)のインガー・ミューバーン(Inger Mewburn)教授が、大学院で勉学に勤しむ学生さんにお役立ち情報をお届けするコラム「研究室の荒波にもまれて(THE THESIS WHISPERER)」。今回のテーマは、博士論文執筆の相棒となるペットたちとについてです。 皆さんはペットを飼っていますか?辛い時にそばにいてくれるペットの存在は十分に評価されているでしょうか?この投稿は、ジョー・クライン(Jo Clyne)博士によるものです。ジョーは2015年にメルボルン大学で歴史・演劇学の博士課程を修了しました。幾晩にも渡ってストレスの多い論文修正を行っていた間支えてくれた飼い猫のサムに、彼女は感謝しています。ジョーのTwitterアカウントは、@joclyne1です。 以下ジョー・クライン博士による文章です。 学者や作家は、動物がもたらす癒しの効果について昔から知っていました。マーク・トウェインは飼い猫たちに囲まれた写真をよく撮られていましたし、私のお気に入りでは、E.B.ホワイトが愛犬のミニーに見守られながらタイプライターの前に座っている写真などもあります。 現代の研究者や博士課程の学生は、こうした流れを、SNSにペットの写真を#academicswithcats #academicswithdogs #phdcats や #phddogs などのハッシュタグをつけて投稿することで今に引き継いでいます。多くの投稿者は、孤独感やスランプに悩まされていて、ペットとの気晴らしにつかの間の喜びを見出します。よくあるのは、ペットが原稿にいたずらしていたり、研究資料の束の上で寝そべっていたりする写真です。 こうした投稿の動物たちはよく「研究助手」や「指導教官」などとキャプション付けされます。そして邪魔をしている姿は、愛情を込めて「手伝い」と言い換えられます。こうした写真は、孤立や先行きの見えないことの多い論文執筆という作業の間、動物たちがただそばにいてくれることを称えるものです。…

英文校正の舞台裏― トップ校正者による ライブ校正

論文投稿に関する新たな課題とその克服法 編集者はどのように掲載論文を決定するのか 適切な査読者を著者の側から選ぶ方法 研究不正を避け、倫理的問題に対処する方法

ジャーナル編集者が教える 「論文アクセプト」の実践ヒント

論文投稿に関する新たな課題とその克服法 編集者はどのように掲載論文を決定するのか 適切な査読者を著者の側から選ぶ方法 研究不正を避け、倫理的問題に対処する方法

大掃除、そして次のステージへ

オーストラリア国立大学(ANU)のインガー・ミューバーン(Inger Mewburn)教授が、大学院で勉学に勤しむ学生さんにお役立ち情報をお届けするコラム「研究室の荒波にもまれて(THE THESIS WHISPERER)」。今回のテーマは、心と物の整理についてです。 あなたの机の上は、今、大変なことになっていませんか?リンダ・デヴリュー博士なら共感してくれるはずです。この記事では、博士号取得後にオフィスを掃除したときのエピソードと、片付け作業の予想外の難しさを紹介しています。 リンダ・デヴリュー(Linda Devereux)は、ライティングコンサルタント兼独立系研究者です。長年にわたり高等教育機関で働き、教員教育プログラムの研究や指導、学術的な言語・学習ユニットの運営に携わってきました。学部生や大学院生のライティングや研究のサポートをすることにやりがいを感じています。リンダの博士論文は、クリエイティブなノンフィクションのテキストと釈義で、異なる文化で幼少期を過ごした記憶について考察したものです。現在は、地方や遠隔地から来たオーストラリアの学生の大学への移行について研究しており、クリエイティブな自伝執筆のプロジェクトを多数計画中です。リンダへの連絡はLinkedinからどうぞ。 以下、リンダの文章です。 博士課程を修了してから、ようやく自宅のオフィスの荷物をすべて片付けることができましたが、この最終段階に至るまで1年半もかかってしまいました。修了後1年半、机は使える状態になく、月日が経つにつれてどんどん散らかっていきました。 最終稿の印刷が完了した後、私の人生をかけた労作である紫色のかわいい博論も、その荷物の山に埋もれていきました。まわりの方々は博論に対し、ご意見や現在進行中の執筆プロジェクトについての素敵で寛大で有益なコメント付きの感想を送ってくれました。その手紙やカードも、その山に積んでいきました。長い間、一生懸命、生産的に働いてきた故の山です。 いったい何がいけなかったのでしょう? 私は研究と執筆を心から楽しんでいました。もちろん、つらい時期もありました。書き手なら誰でも経験することですが、絶望的な気分になったり、書いたものよりも削除したものの方が多かったり、私自身と家族が博士号とそれにまつわるものすべてを嫌った日もありました。しかし、総合的に見ると、数年にわたり自分の研究に没頭する機会を得られ、とても満足しています。ゆっくり時間をかけて、パートタイムで博士号を取得することは、私にとって良いことでした。 私は博士課程の期間中、ほぼフルタイムで大学の研究者として厳しい環境で働き(近年の高等教育機関での仕事はどれも厳しい環境です)、自分の学位論文とはまったく異なる分野で研究と出版を続けました。そのため、それまでとは全く異なるスタイルで、しかも自分にとって新しい学際的な分野で論文を執筆しました。しかし、博論は、自分の仕事で扱う分野の研究を掘り下げるのではなく、自分にとって意味のある、個人的に情熱を傾けられるテーマで書くことに決め、クリエイティブなノンフィクションの文章と釈義を執筆しました。 でも、書斎の混乱はそのような決断が原因で起こったのではありません。書類や本の箱に道をふさがれ、部屋を横切って自分の机に向かうことさえできない状態にまで悪化させた原因は、また別にあったのです。生産的な博士課程の学生であり、学者であった私が、なぜ、掃き溜めとなった魔窟のような書斎を持つようになったのか。 一番の問題は、深い悲しみでした。…

博士課程(PhD)のシンボル

オーストラリア国立大学(ANU)のインガー・ミューバーン(Inger Mewburn)教授が、大学院で勉学に勤しむ学生さんにお役立ち情報をお届けするコラム「研究室の荒波にもまれて(THE THESIS WHISPERER)」。今回のテーマは、博士課程の道のりを共に歩む博士号のシンボルについてです。 博士課程に人生が縛られている、悪い意味でそう感じることはないでしょうか。本稿ではフィオナ・ロバーズ(Fiona Robards)博士が、適切に制御しなければ侵食性の雑草にもなりかねない竹の話から、獲得すべきレジリエンスについて語ります。 フィオナ・ロバーズ(Fiona Robards)は、政府と地域の医療部門に戦略、政策、リソース開発を提供する独立系コンサルタントです。彼女のプロフィールについては、こちらをご覧ください。 以下フィオナの文章です。 博士課程をスタートしたとき、私はこの新しい成長の機会に心を躍らせ、熱意に満ちていました。私は、「研究室の荒波にもまれて(Thesis Whisperer)」に掲載されたジョディ・トレンバス(Jodie Trembath)の記事に書かれていた「PhDのシンボル(原文:英語)」を持つことについて読みました(彼女は当初「PhDのシンボル」ではなく「PhDのトーテム」という言葉を使っていましたが、アメリカの先住民研究者たちからの要請で変更しています)。 そして、大学の自分の新しいワークスペースの机の上に、竹を買いました。緑色でみずみずしく、力強く成長する姿が気に入ったため、それを私はPhDのシンボル、または「PhDの竹」としました。竹は、私自身の成長とともに、どんどん大きくなっていきました。PhDの竹を見ると、やる気が湧きました。 1年ほど経つと、竹は高さを増し、小さな植木鉢では支えきれなくなりました。ある時、私は同僚に「PhDの竹」の世話を委ねて学会に出かけました。帰ってくると、同僚が書いた「植え替えて!」という竹の台詞が付箋で鉢に貼ってありました。明確なメッセージです。そこで、私は竹を植え替えました。より正確に言うと土から取り出して水の入った背の高い花瓶に挿したのです。 PhDの竹は、私と同様に新たな成長フェーズを迎えました。データ収集が完了し、分析の段階に入った私も、スキルと知識を成長させていきました。…

パンデミックの次の局面で予測されることとは?

オーストラリア国立大学(ANU)のインガー・ミューバーン(Inger Mewburn)教授が、大学院で勉学に勤しむ学生さんにお役立ち情報をお届けするコラム「研究室の荒波にもまれて(THE THESIS WHISPERER)」。今回は、いまだコロナ禍にある2023年の学術研究業界の変化について、インガー教授が予想します。 年末までたどり着きましたね! コロナによる最初の死亡例の報告(2020年1月11日)から3年が経とうとしているのです。個人的には、今年のコロナ禍は、他の年よりも疲弊しているように感じます。おそらく、「元の生活に戻る」ことへのプレッシャーがあったからでしょう。私は11月中旬に初めてコロナに感染しました。いわゆる「軽症」と呼ばれる状態でしたが、ぶっ倒れて1カ月まるまる仕事を休むことになりました。 この3年間で、多くのことが変わりました。そこで、未来予知の占いのように、将来に目を向けてみようと思います。その前に、前回の記事で紹介した読者アンケートに答えてくださった皆さんに心から感謝します。2分間のアンケートに952人が回答、800以上のコメントを残してくださいました。皆さんの回答は、私のサイト再構築にとても役立つもので、たくさんの優しくて肯定的なコメントを読んで、ちょっと涙ぐんでしまいました。私のブログの読者さんは最高ですね。もし、まだアンケートに回答されていない方がいらっしゃいましたら、こちらからご意見をお聞かせいただければと思います。1月末日まで受け付けています。 正直なところ、このアンケートの結果を見るまでは、そろそろブログを止めようかと考えていました。でも、皆さんのご意見を聞いて、まだまだ「研究室の荒波にもまれて(Thesis Whisperer)」の新しい記事を求めている人がいることを確信しました。というわけで、これからも月1回のペースで更新していくつもりです。来年は、より持続可能で、ユーザーフレンドリーで検索可能な形式を構築するために、ゆっくりと取り組んでいくので、サイトの変化をお楽しみいただければ幸いです。 変化といえば、このパンデミックの次の段階において、学術界はどこに向かっているのか、いくつか考えてみました。 学術界の求人数は回復し続けるが、仕事内容はもっとひどいものになる 6月にPostAcアルゴリズムを使って、研究職市場の健全性を測定する年次レポートを発表しました。これは、オーストラリアにおける学術系と非学術系の研究職のトレンドグラフです。 両市場とも、需要がパンデミック以前の基準線を上回って推移していることがわかります。しかし、求人広告をよく見てみると、多くの学術職の求人は期間限定契約で、レベルも低く、大学が労働力を暫定的にリフレッシュさせていることがわかります。ニュージーランドとイギリスのデータもありますが、3つの市場すべてで似たような傾向が見られます。 明るいニュースとしては、学術研究以外の分野での需要が引き続き高く、リモートワークの傾向も依然として高いということです。博士号取得者は2023年も優位な立場にあると予想され、経済状況がより不安定になったとしても、市場が持ちこたえてくれることを願います。もし2023年にポスドクの求人を探しているのなら、分野によって需要は大きく異なり、特定の分野で他の分野よりずっと需要があることを念頭に置いておいてください。より詳細な分析をご覧になりたい方は、こちらのスライドをどうぞ。 次世代の研究ツールは、仕事のやり方、そして学生の勉強の仕方を変え続ける…

出版物による博士号 取得のメリット

オーストラリア国立大学(ANU)のインガー・ミューバーン(Inger Mewburn)教授が、大学院で勉学に勤しむ学生さんにお役立ち情報をお届けするコラム「研究室の荒波にもまれて(THE THESIS WHISPERER)」。今回のテーマは、ジャーナルに投稿した論文を博士過程の学位論文の一部として使用するスタイルの博士号取得についてです。 この数十年の間に、さまざまな形の博士号取得の方法が試されてきました。特に理系では、出版物を博士論文の一部とする形の博士号取得が人気となっていますが、学位を授与する審査官は、そのスタイルをどのように見ているのでしょうか?学術界は非常に保守的で、このような審査方法で博士課程を経た学生の中には審査で困難にぶつかった人もいます。 本稿では、クリス・キーワース(Chris Keyworth)博士が自身の審査経験を語ってくれました。クリスは、英国マンチェスター大学のマンチェスター健康心理学センターに所属するポスドク研究員です。(訳者注:彼の主な関心は、健康意識についての研究と、医療制度の改善方法を模索することです。研究範囲は、肥満予防に焦点を当てた2つの領域、すなわち、患者や一般市民の適切なライフスタイルへの意識の向上による行動変化を通じた肥満予防、および肥満予防における医療従事者の役割についてです。 クリスのResearchGateプロフィールはこちらです。また、メールやTwitter(@DrChrisKeyworth)から連絡することも可能です。 クリスは英国出身なので、この記事は彼の「Viva」(口頭試験)での審査官との問答について書かれていますが、オーストラリアで好まれているブラインド査読を含め、他のタイプの審査にも通じるものがあると思います。クリスの審査官が呈した質問は非常に有益で、出版物による博士論文を書く際に役立つ情報ですので、共有してくれたクリスに感謝したいと思います。 以下、クリスの文章です。 論文博士号(またはペーパーに基づく博士論文)は、現代の博士課程の学生にとって、ますますトレンドとなっています。この博士号取得の方法では、学生は査読付き出版物の執筆と並行して博士論文を執筆し、卒業後にも不可欠な研究スキルを磨くことができます。優れた「ハウツー」記事はたくさんありますが、審査官は出版物による博士号取得についてどのように考えているのでしょうか? 本稿では、私自身の口頭試問の経験から得た、論文執筆と口頭試問の準備に役立つヒントをお伝えします。 はじめに まず、準備しておくことは、なぜ出版物による博士号取得という形式を選んだかだけでなく、この形式が新進研究者としての成長にどのように役立ったかについて説明する準備をしておきましょう(編集者注:Vivaなしで論文提出のみの審査の場合、この情報は序文に含めるとよいでしょう)。 この出版物を含んだ形の論文には多くの利点があり、私の口頭試問では、投稿論文を書いた経験が研究スキル向上に役立ったことについて、深く掘り下げてディスカッションしました。これは、学位論文を書くと同時に投稿論文を効率的に書けるだけでなく、キャリアの浅い研究者にとっては重要なスキルであるライティング能力を、博士課程を通じて磨くことができる方法です。研究者としてのスキルを高め、博士号取得後の研究発表内容の重複を避けることもできます。…

研究者におすすめの盗用・剽窃チェッカー4選

語彙の選択、句読点の間違い、文法上の誤りといった一般的な英文を書く時の問題は、校正ツールや英文校正サービスを利用することで対処できますが、盗用・剽窃を防ぐことは別の問題です。盗用・剽窃とは研究倫理に反する行為であり、論文著者、学生、研究者およびさまざまな学術関係者にとっては深刻な懸案事項です。そこで、研究不正を防ぎ、学術論文を比類ないものにするために、盗用・剽窃チェッカーの需要が高まっているのです。 盗用・剽窃チェッカーを利用すべき理由 盗用・剽窃は、特に学術界では許されない不正行為です。実際には盗用・剽窃チェッカーを使用すれば盗用は簡単に見つかってしまいます。このような不正が発覚すれば、研究者としての評判が落ちるだけでなく、所属大学から免職処分を受けたり、解雇されたりする危険性すらあります。 研究論文やあらゆる種類の学術文書は、研究内容を徹底的に調べ、構成を整え、指定のガイドラインに準拠する必要があります。誰でも面倒な作業は避けたいところですが、それこそが問題の原因です。盗用・剽窃とは、必ずしも意図的に行われるのではなく、むしろ、無知(不正行為だと知らなかった)、確認不足、盗用・剽窃の定義に関する混乱(その行為が盗用・剽窃に該当するとは思わなかった)などが原因となって起こってしまうものです。だからこそ、オンラインの盗用・剽窃チェッカーを利用して、簡単に防いでしまいましょう。 盗用・剽窃チェッカーを活用するメリットは以下の通りです。 1. 公開されている情報リソースを包括的に検出できる 2. 盗用・剽窃された箇所が強調表示されるので、簡単に見分けられる 3. 類似率が表示されるツールもある 4. 不正確に言い換えたコンテンツも検出が可能 5. ツールを使用することで著者の誠実さを示すことになる…

研究紹介ポッドキャストの始め方

オーストラリア国立大学(ANU)のインガー・ミューバーン(Inger Mewburn)教授が、大学院で勉学に勤しむ学生さんにお役立ち情報をお届けするコラム「研究室の荒波にもまれて(THE THESIS WHISPERER)」。今回は、研究を紹介するポッドキャスト番組の始め方をご紹介します。 この記事は、ケイティ・リンダー博士がポッドキャスト配信について書いてくださったものです。以前、研究者がポッドキャスト配信をすることの利点について述べましたが、今回は、ポッドキャストを始めるための実践的な戦略を提示しています。私もやってみようと思います!ケイティのポッドキャスト「Research in Action」をまだお聞きになったことがない方は、ぜひ一度聞いてみてください。 ケイティ・リンダー博士は、オレゴン州立大学eキャンパスの研究ディレクターであり、ポッドキャス番組、「Research in Action」と「You've Got This」のパーソナリティを務めています。彼女は、@Katie_Linder、@RIA_podcast、@YGT_podcastのアカウントで積極的にツイートしています。最近では、『The Blended Course Design…

学術論文翻訳サービスと料金を読み解くには?

学術論文の翻訳会社を探す際、会社によってサービスオプションや料金体系が異なり、自分の希望する予算とサービスを選ぶのに苦労するかもしれません。 ここでは、翻訳サービスの違いと選ぶ時のポイントをご紹介します。 機械翻訳と翻訳者による翻訳の違い 最初に検討すべきは、論文を機械翻訳するか、それとも翻訳者に依頼するか、またはその両方を組み合わせるかということです。機械翻訳は最も安価な選択肢ですが、機械には言語のニュアンスや文化的な問題を扱うことに限界があるため、誤訳が生じることを前提にすべきです。逆に、翻訳者のみで翻訳を行う場合は、コストは高くなりますが正確さが期待できます。 限られた予算内で確実に正確な翻訳にしたい場合は、機械翻訳と人間の翻訳者による校正を組み合わせた機械翻訳ポストエディット(MTPE)をおすすめします。 投稿支援サービス 学術論文の場合、論文投稿をスムーズに行うためのサービスがあります。これらのオプションを付けることで料金は上がりますが、長期的には役に立つことでしょう。以下のようなサービスがあります。 - ジャーナル選択 学術論文の翻訳会社はターゲット市場を熟知しているので、ジャーナル選択をサポートしてくれる最強の味方です。トピックと要件に最も適したジャーナルを絞り込むサポートを提供する翻訳会社を探しましょう。 - プレ査読 事前査読付きの論文翻訳サービスを利用すれば、論文を出版社に投稿する前の段階で一歩先に進めます。投稿前にプレ査読を選択することで、査読者が原稿に目を通し、必要な修正を提案することができます。著名な学術誌の査読経験者が実際の査読プロセスや基準に沿った模擬査読を行うことで、論文の完成度を高めアクセプトの可能性を向上させることができます。 - 盗用・剽窃チェック…

恐怖の博士口頭試問

オーストラリア国立大学(ANU)のインガー・ミューバーン(Inger Mewburn)教授が、大学院で勉学に勤しむ学生さんにお役立ち情報をお届けするコラム「研究室の荒波にもまれて(THE THESIS WHISPERER)」。今回は、博士号取得のラスボス、博士口頭試問がテーマです。準備万端で当日に望める事前準備についてご紹介します。 口頭試問(Viva)は、イギリス、ヨーロッパ、ニュージーランドでは一般的な慣習です。オーストラリアでは、口頭試問はあまり一般的ではありません。 オーストラリアの学生のほとんどは、博士号取得前に最終プレゼンを行いますが、現在多くの大学が、試験の一環として口頭試問の導入を議論しており、今後より一般的になると予想されます。 アメリカでは、口頭試問は「ドクター・ディフェンス」と呼ばれ、博士課程の学生には審査委員会の審査を受けるという難関が待ち受けます。アメリカの制度はあまりにも違うので、実体験がない私は、様々な課題を解決する具体策を書くことはできません。ですので、アメリカの同僚が記事を書いてくれることを、いつもありがたく思っています。 この記事は、作家であり、編集者、ライティングコーチ、論文の校正支援、スピリチュアルカウンセラーなども務めるノエル・スターン(Noelle Sterne)博士 (コロンビア大学)が執筆しました。彼女は、さまざまな媒体で学術研究、執筆技術、精神世界などについての記事やエッセイを400以上発表しています。大学の教員や作家を対象にワークショップや講演を行い、博士号候補者の学位論文の完成を支援しています。彼女のハンドブック、『Challenges in Writing Your Dissertation: Coping…

学会を乗り切る処世術

オーストラリア国立大学(ANU)のインガー(Inger Mewburn)教授のお役立ち情報コラム「研究室の荒波にもまれて(THE THESIS WHISPERER)」。今回のテーマは、「学会」です。目まぐるしい学会のスケジュールを乗り切るコツを紹介します。 この投稿は、タスマニア大学のプロジェクトオフィサーであるイモジェン・ウェグマン博士によるものです。彼女の研究は他分野にまたがり、1ヶ月の間にデジタル人文学会議、歴史セミナー、GISシンポジウムなど複数の学会に出席することもあるそうです。また、ホバート市での月例公開歴史イベント「A Pint of History」の共同創設者としてイベントを主催しています。アンビヴァート(Ambivert=両向型)であると公言する彼女は、人を好きになったり嫌いになったりを繰り返しながら、自分の限界を知ることになったそうです。 学会に出席するまでに発表者は、論文の募集を見つけ、アブストラクトを提出し、受理され、学部の助成、あるいはいつもより多くバイトを入れるなどして資金調達し、参加登録を済ませ、チケットを手配し、可愛い(狭い?)宿を予約し、発表の場で映える靴まで選ぶなど、様々なことを行います。 私が初めて学外で参加した学会は、大都市の大きな大学で行われた大規模なものでした。博士課程に入学して1年半経った頃で、同僚以外に研究を発表することは未知の領域でした。学会の1週間、何人もの教授たちとの世間話や過密なスケジュールを手探りでこなし、なんとか無事生還して、今ここでその経験をお伝えできています。それ以来、私は世界中の学会に出席し、その世にも恐ろしげな環境で生き残り、さらには成長する術を学び続けています。指導教員は皆さんにアブストラクトや論文を書く指導をしてくれますが、私は、皆さんが学会での社交に備える手助けをできればと思います。 Twitterのハッシュタグを見つける 私が初めて学会に参加した時は、Twitterでライブ放送はまだ始まったばかりでしたが、ハッシュタグを見つけたときの興奮と、#twitterstoriansの集まりに招待されたときの感動を覚えています。ほとんど知り合いがいない状態での参加でしたが、初日のモーニングティーで、すでに何人か話し相手がいることは心強かったです。 すべての学会でTwitter上の活動があるとは限りませんし、そもそもTwitterを利用していないかもしれませんが、素晴らしいアイスブレーキングになりえます。講演がライブ配信されたり、非公式のソーシャルイベントが企画されたりして、同じ学会がTwitter上でも並行して盛り上がります。「お会いするのは初めてですが、Twitterで相互フォローしています」と自己紹介することは、学術の世界ではよくあることなのです。Twitterの使用頻度は分野によって異なりますが、国を跨いだアドバイス、励まし、コラボレーションのネットワークを開くきっかけになります。学会のハッシュタグは、学術研究業界に入るための有効な手段ですので活用してみてください。 モーニングティーで一人の人を見つける 多くの人が、知り合いがいない状態で学会に参加します。すぐに知り合いができるので、誰かに話しかけると、その人が別の人を紹介してくれて、会話の輪が広がっていきます。これがネットワーキングです。一人の人と知り合うと、別の二人を紹介され、そのうちの一人がその日の晩に飲みに誘ってくれるなどです。驚くような共同研究の計画には至らないかもしれませんが知り合いはできます。中には友人になる人もいるでしょう。名刺を持っていけば、手軽に情報交換することができます。人間関係ができ始めれば、付き合いに時間を費やすようになりますが、いずれ始めなければなりません。…

より効果的な共同研究で気候危機に立ち向かおう

環境と日々の生活を脅かす気候危機は、現在、最も差し迫った問題のひとつです。対策を講じるためには、研究者が集まり、オープンかつアクセスしやすい方法で研究・調査結果を共有することが非常に重要となっています。共同で研究を行い、成果をオープンアクセス(OA)ジャーナルに公開することによって、研究者は自分たちの研究をできるだけ広範に届け、影響力を高めることができるようになります。 気候変動の複雑さと喫緊の行動の必要性を踏まえると、関連する研究においては、革新的かつ効果的、さらに分野横断的なアプローチの開発が欠かせません。しかし、従来型の気候研究コミュニティは、共同研究を進めることや影響力を高めることに対して効果的には動けておらず、研究資金の調達や共同研究の構築に奮闘しているのが現状です。 気候危機:今、世界は何を必要としているのか 気候危機が、現在、最も差し迫った問題のひとつであることに疑いの余地はありません。すでに世界中で気候変動の影響が出ており、状況は悪化の一途をたどっています。早急に気候変動の影響を緩和させ、さらなる被害を防ぐために行動を起こす必要があります。 世界が気候危機に対してできることの最も重要なことは、再生可能エネルギーに移行することです。化石燃料(石油・石炭・ガス)は、温室効果ガス(GHG)の主要な排出源なので、再生可能エネルギーに転換することが化石燃料からのGHG排出量の削減につながります。再生可能エネルギーは化石燃料よりも持続可能で環境にやさしいエネルギー源なので、世界は一刻も早く、再生可能エネルギーへの移行を進める必要があります。 また、サステナブル・プラクティス(持続可能な慣行)を促進することによって、気候変動に対する取り組みを進めることも重要です。それには、共同研究を行うことにより科学の発展を促進し、研究コミュニティ内で研究成果が簡単にアクセスできるようにすることなどを含みます。持続可能性には、廃棄物の削減や、資源の保全、自然生息域の保護といったことだけではなく、グローバルなアクセシビリティ(世界のどこからでもアクセスが可能になること)を備えた研究を徹底的かつ継続的に発展させることも意図されています。持続可能性とは、将来世代に地球環境を残すための鍵なのです。 OA出版の必要性 科学研究は、時間のかかる複雑なものです。気候危機への取り組みを大きく進めるためには、それぞれの研究が相互協力するための効果的な方法が必要です。研究成果をオープンアクセス(OA)で出版することで、誰もが最新の研究成果にアクセスできるようになり、研究者同士が協力することも可能になります。こうして、研究を積み重ね、さらに発展させることができるようになるのです。 OA出版には、研究成果をより広範囲で利用できるようにするというメリットもあります。この点は特に、従来の学術雑誌(ジャーナル)へのアクセスが限られる開発途上国の若手研究者や科学者には大切なことです。物理的なアクセシビリティの改善だけでなく、OAジャーナルは、有料で購読するジャーナルよりも安いのが一般的なため、予算の有無や大きさに関わらず、誰もが手ごろな価格で研究成果にアクセスできるというメリットも存在するのです。 気候危機に立ち向かう共同研究 気候変動に立ち向かうためには、共同研究が不可欠です。データや調査結果を共有することにより、研究者は協力して気候変動のパターンや傾向を特定し、直面する課題に対する解決策を見出すことができるようになります。 共同研究を通して、異なる分野の研究者が専門知識や見解を共有し、知識(リソース)を蓄積することによって重要な気候変動問題に関する研究を発展させることができるのです。研究コミュニティが協力することで、気候変動への緩和・適応策を模索し、将来世代のために地球環境を守る方法を見出すことができるでしょう。 一例としては、イギリスのエクセター大学(University of Exeter)はオックスフォード大学(University…

リサーチギャップ(研究ギャップ)の特定方法

この記事は、公共衛生分野の博士課程の指導員による講義内容から抜粋したものです。革新的な研究をするためにリサーチギャップ(研究ギャップ)をどのように特定するかの参考にしてください。 リサーチギャップとは まず、リサーチギャップとは何か。リサーチギャップとは何で、どのように特定すればいいのか、革新的な研究を追求するためにどのようにリサーチギャップを使えばいいのか、など知りたいことは山積みです。新しく、心躍るようなリサーチクエスチョンを考え出せたと思った途端に、それが既に他の誰かによって取り上げられていたと気づいたことがある人はいませんか?私は数え切れないほど経験しています。大学院での研究には、該当分野に新しい知識を加えたいというプレッシャーが付きものです。私たちも人類の進歩と知識に貢献することは可能ですが、そのためには、まず既存の文献における研究のギャップを特定する必要があります。 リサーチギャップとは、簡単に言えば、情報が欠けているか、不十分であるために、リサーチクエスチョン(質問)に対する結論に到達できていない課題あるいは領域のことです。先行研究で解決されていない課題や、研究を行う余地が残されているものとも言えます。ただし、リサーチギャップをリサーチクエスチョンと混同しないようにしてください。例えば、人間にとって最も健康的な食事は何かというリサーチクエスチョンに対しては、考えられる回答がたくさん出てくるでしょう。一方、妊婦への抗うつ薬の効果というリサーチクエスチョンにした場合、既存のデータからはあまり情報が得られないと思います。それがリサーチギャップです。リサーチギャップが特定できれば、潜在的に新しく、心躍るような研究の方向性も自ずと特定できるようになります。 どのようにリサーチギャップを特定するか 膨大な既存研究の量を思えば、リサーチギャップを特定することは無謀な試みで、とても特定できるものではないと思えるかもしれません。私自身も、公開されている公衆衛生に関するすべての論文を読む時間はありませんでしたし、みなさんも同じ状況でしょう。ではどうすればリサーチギャップを特定することができるでしょうか。 分野ごとにやり方は異なりますが、以下のような幾つかのステップに絞り込むことはできます。 研究を進めるにあたって主な動機となる問題や質問を特定する その問題について重要な用語を抜き出す 文献を調査し、先に抽出した重要な用語を検索して関連する論文・出版物を探し出す 前のステップで探し出した主要な論文・出版物で引用されている文献を確認する 自分にとって重要な動機となっている問題に関連する文献で、取り上げられていない問題を特定する 最後のステップが最も難しいところです。論文に「示されていないことを」を探し出すのは難しいものです。私は、バイアス(偏見)や一貫性のない情報を記録しておくのを面白いと思いますが、著者が「将来の研究のための目標」と書き記している記述をたどるのも一案です。既存のリサーチギャップを示唆してくれることが多々あるので、そうした記述を拾い出してみましょう。 リサーチギャップが複数見つかったら次にすべきこと 幾つかリサーチギャップが見つかれば、次は優先順位をつけます。答えが必要な質問が多々出てくるかもしれないので、優先順位をつけることは重要です。大抵は、ひとつの質問に答えてから次の質問に取り組むべきです。リサーチギャップの優先付けを行う際には、研究助成金提供機関や利害関係者、該当分野におけるニーズ、さらには現在研究している内容に対する疑問との関連性も考慮する必要があります。また、自分が検討している研究を行うためのリソース(資金や環境など)とスキル(能力)についても考慮します。すべてを検討していくと、適切なクエスチョンを絞り込むことができるでしょう。…

論文執筆テクニック―主張に対するリスクヘッジ

オーストラリア国立大学(ANU)のインガー・ミューバーン(Inger Mewburn)教授が、大学院で勉学に勤しむ学生さんにお役立ち情報をお届けするコラム「研究室の荒波にもまれて(THE THESIS WHISPERER)」。今回は、執筆した論文の添削でよく指摘される「独自の主張のなさ」に対する対処法を解説します。 このブログ記事は、オーストラリア国立大学(ANU)の同僚であるショーン・レーマン(Shaun Lehmann)とブログResearch Voodooのキャサリン・ファース(Katherine Firth)との新しい共著書のアイデアを発掘するためのシリーズの1記事です。 この共著書「How to Fix Your Academic Writing Trouble…

印象的な研究発表のためのテクニックと戦略を学ぶ (How to Prepare Impressive Research Presentations )

学術発表の基本要素 (Key elements of an academic presentation) プレゼンの技術的側面 (Technical aspects of a presentation) プレゼンの要点のまとめ方 (How…

研究インテグリティの維持における査読の重要性

研究者A:「有名な〇〇学術ジャーナルに論文を投稿したのを覚えてる?あれ、投稿して1年経つんですけど。」 研究者B:「え、ジャーナルから連絡ないの?編集者か編集アシスタントから何の連絡もなし?」 研究者A:「まだ何も。サイト上ではまだ査読者が割り当てられていないと表示されてるだけ。査読者を見つけるの、どんだけ難しいんだろうね?査読者の割り当てに1年もかかるなんて!」 学術論文を書かないなら研究者として失格とも言われる「出版か死か(Publish or Perish)」のプレッシャーにさらされている今日の科学研究の状況下で、研究発表システムに対する失望や落胆、怒りを感じることは最近になって始まったことではありません。実際にはあまり知られてはいませんが、出版システムに対する研究者の不満の矢面に立たされて、最も批判されているのは査読者です。確かに、研究者が自分達の研究プロジェクトに最大限責任を負うわけですが、学術研究は査読者の見識によって大きく改善されることも事実です。 査読は知識創出システムの中の中核として組み込まれており、質の高い学術研究を確立するためのひとつの手段として見なされています。査読の決定的な重要性にもかかわらず、このことはほとんど理解されていない上、研究バイアスと非難されることすらあります。 この記事では、査読プロセスを理解する上でのギャップに焦点を当て、査読の機能と質を強調することで、査読の社会的影響における深い意味を見直してみます。 研究インテグリティ(研究公正)を維持する査読の存在 査読とは、出版された学術的記録(学術論文)の公正さを維持することを約束するものであり、学術研究の質を保証、評価するためには馴染みのある手段です。研究開発において、重要な役割を果たしており、研究出版システムの意味を明確にする上でも中心的な役割を担っていると認識されています。さらに、査読付学術雑誌(ジャーナル)に論文を出版することは、研究者のキャリアにとって不可欠であり、研究者らの学術的な評判を高め、研究の正当性を与えるものでもあります。 そうした特性にもかかわらず、査読プロセスは日常的に批判にさらされ、さまざまな媒体やSNSでは、査読の発展が不十分であるとか、規模や範囲によって矛盾や重複が見られたり、決定的な結論が出ない結果を生み出すことが多々あると糾弾されています。その上、査読は、学術文献に関連するものと同じようなバイアス(偏見)の問題も抱えています。査読プロセスにおいて本当に危険なことは、査読の価値体系と実務に対する理解の不足にあるのです。 不十分な情報に基づく一般化と、さまざまな見解の間の緊張により、査読プロセスは改革の余地がほとんどない絶対的基準と見なされていますが、一方で、査読は非常に多様で多面的なプロセスでもあります。 査読プロセスにおける査読者の役割 査読者は、その分野の専門家ですが、著者とは直接的な関係がありません。こうした専門家が投稿論文を読んで評価し、フィードバックを作成し、それを編集者が著者に提供します。 査読者は以下のような作業を行います。…

論文執筆の傾向は4タイプに分類できる?

オーストラリア国立大学(ANU)のインガー・ミューバーン(Inger Mewburn)教授が、大学院で勉学に勤しむ学生さんにお役立ち情報をお届けするコラム「研究室の荒波にもまれて(THE THESIS WHISPERER)」。今回は、論文執筆の傾向を分析するという試みです。インガー教授の傾向分析が執筆スランプを回避するヒントになりますように! 恥ずかしいカミングアウトですが、私は自己啓発本が大好きです。特に空港の書店で見つけると、ついつい手にとってしまいます。いつも自己啓発本コーナーで自然に足が止まり、持ち帰っても家に置く場所がないペーパーバックを2冊握りしめて飛行機に搭乗します。最近ひそかに購入した本は、グレッチェン・ルービン(Gretchen Rubin)の『苦手な人を思い通りに動かす』です。店頭でドヤ顔で手に取り、「ああ、なんて非科学的。」なんて心の中で嘲笑しながら読み始めました。何ページかめくって、「うわー、この馬鹿っぽいクイズ!」とつぶやきながら。 でも、買ってしまうんです(批判しないでね)。 南オーストラリア大学への往復の機内で読了して、驚きました。ルービンの(ほとんど非科学的な)理論を簡単に説明すると、人間のモチベーションは4つのカテゴリーに分類されるという話です。 オブライジャー(指示待ちタイプ):周囲の期待に応え、自分の期待に逆らう。 レブル(わがままタイプ):周囲の期待に抵抗し、自分の期待にも逆らう。 クエスチョナー(変人タイプ):周囲の期待に抵抗し、自分の期待に応える。 アップホルダー(堅物タイプ):内なる期待、外なる期待両方に応える。 ルービンの“理論”と呼ぶものによれば、これらの傾向は重複していることもあり、レブル的な傾向を持つオブライジャーや、クエスチョナー的な傾向を持つアップホルダーにもなり得るといいいます。その重なりを下図で表現しています。 グレッチェン・ルービンの4つの傾向の図 ルービンの“研究”によると、ほとんどの人は「オブライジャー(指示待ちタイプ)」であり、自分のためだけに物事を行うのは難しいそうです。もしあなたが、運動仲間がいないとジムに行くのが続かないタイプなら、オブライジャーだそうです。それに対して、「アップホルダー(堅物タイプ)」は、運動仲間に誘われることを喜びつつも、健康に良いとわかっているので、自分ひとりでジムに行くこともできる人です。一方、クエスチョナー(変人タイプ)は、自分の中の期待にしか応えられないので、運動仲間には向いていません。クエスチョナーは、誰かを喜ばせるためだけに、寒い朝からジムには行きません。一方、かわいそうなレブル(わがままタイプ)は、ジムに行きたかったとしても、すべての期待に、自分の期待にさえ逆らいます。レブルは誰かとジムに行く約束をした途端に気が変わり、周囲を(そして自分自身を)困らせ、姿を現さないでしょう。…

論文執筆用の第二の脳をつくる

オーストラリア国立大学(ANU)のインガー(Inger Mewburn)教授のお役立ち情報コラム「研究室の荒波にもまれて(THE THESIS WHISPERER)」。今回のテーマは、情報整理術。教授の「第二の脳」を大解剖します。 本題の前に、ビッグニュースです!長く読んでくださっている皆さんは、私が ANU のチームと PostAc という機械学習を利用した研究者のための求人検索エンジンの開発に何年も取り組んできたことをご存知かと思います。 オーストラリアでは7校にサービスを提供していますが、国際的な拡大を目指しています。まもなくイギリスの大学でもPostAcの注文の受付を開始予定です。とリリースの最新情報はこちらに登録してご確認ください。 さて、本題です! 私はアカデミックな仕事用のノートの取り方の問題に取り憑かれています。この問題については、このブログでもこちらの記事でお伝えしてきました。友人のジェイソンとは、Podcast On The Regで何度もこの問題について話しています。特に、この回とこの回、直近ではこの回です。…

オープンアクセスと従来型の出版、どちらを選ぶか

多くの研究者は、研究発表の場といえば、長年にわたって学術界において一般的であった購読制のジャーナルを思い浮かべます。しかし、著者にとってのオープンアクセス(OA)出版の大きなメリットが知られるようになるにつれ、OAが急速に主流になりつつあります。 ふたつの出版形態には多くの共通点がありますが、その利点は明らかに異なります。どちらが自分に合っているかを判断するために、両方の出版スタイルについて見ていきましょう。 従来の学術出版とは 伝統的なジャーナルは、大学やその他の組織が出版物の購読料を支払い、それにより所属する人がアクセスして情報を閲覧できるものです。通常、大学などの図書館で雑誌の印刷版を探すか、大学や提携機関などを通じて電子版にアクセスします。従来の学術ジャーナルは長年にわたって学術界において唯一無二の存在であったため、現在でもオープンアクセス・ジャーナルよりも権威があると見なされることがあります。 オープンアクセス出版とは 購読制の出版モデルとは異なり、オープンアクセス・ジャーナルには、誰でも無料でアクセスできます。論文著者がOA出版に抱く最大の懸念は、伝統的なジャーナルでは読者の購読料で賄われる料金が、著者側の負担となることです。 両モデルの共通点は? 出版費用の負担という点以外では、OAジャーナルと従来の出版ジャーナルは、以下のような多くの共通点があります。 査読プロセス OA誌も従来のジャーナルも、同じ査読プロセスを採用しています。OA型・従来型に関わらず、定評のあるジャーナルは査読プロセスを明確に定義しており、査読者の名前や資格などの詳細な情報も開示しています。 ジャーナル・インパクト・ファクター(JIF) 従来の学術誌と同様に、OA出版物もインパクトファクター(IF)で評価されています。IFでジャーナルを相対的な重要性に応じてランク付けすることで、研究者はその出版物が自分の研究にどれだけ役に立つかを判断します。 倫理基準 OA誌も購読制学術誌も、利益相反、守秘義務、剽窃チェックなどの倫理に関わる明確な方針など、厳しい倫理基準に従うことが求められます。さらに、どちらのタイプのジャーナルも、出版倫理委員会(COPE)に加入できます。 品質管理…

なぜオープンアクセス掲載料は高い?その価値はあるのか?

膨大な時間を費やして学術論文を完成させ、研究を世界と共有するため、オープンアクセス(OA)誌で論文を公開しようとする際、論文掲載料(APC)の高さに疑問を持つかもしれません。 オープンアクセス出版に掲載料がかかる理由と、それがコストに見合うものかについての考え方について解説します。 OA出版はなぜ高いのか? OA出版の最大の特徴は、読者に無料で研究論文が公開されることです。この出版形態は、ユーザーが定額料金を支払うか、各論文をダウンロードする際に料金を支払うことで論文にアクセスできる従来の方式とはまったく異なります。 OA方式であれ、従来の方式であれ、ジャーナルの出版費用は誰かが負担しなければなりません。オープンアクセスの場合、料金は読者ではなく著者が支払います。 論文の出版に関連する諸経費には、以下のような使途があります。 事務と運営 論文を投稿する際に支払う投稿料の一部は、ジャーナルの運営費に充てられます。 編集と校正 一流のジャーナルであれば、厳密な編集・校正プロセスを経て論文が掲載されます。投稿先が品質保証プロセスを実践しているジャーナルか事前に確認しましょう。 盗用・剽窃のチェック ほとんどのジャーナルの必須要件となっている剽窃チェック。投稿前にも剽窃チェックツールを使って自分で確認している著者がほとんどですが、ジャーナル側でも投稿された論文がオリジナルであり、引用が適切にされていることを確認します。 査読プロセスの管理 同じ分野の研究者から査読を受けていることが、出版後の論文の信頼と評価にとって不可欠です。出版社は、適正な査読者をアサインし査読プロセスの進行を管理しなくてはなりません。 著者が負担する掲載料の額はジャーナルによって大きく差があり、支払いが特に経済的に困難であると証明ができる著者には、掲載料を免除とするOAジャーナルもあります。また、掲載料のかかるジャーナルを選んだ際に、大学やその他の組織の支援制度を通じて補助を受けられるケースもあります。…

オープンアクセス・ジャーナルの種類と選び方

論文を書き終えたら、出版するジャーナルを選び、研究を世界の人と共有する時です。投稿先ジャーナルの選択肢を絞る際、次の点が重要です。完成した研究論文に、誰もがアクセスできるようにしたいか否か。もし無料公開するなら、オープンアクセス・ジャーナルを選びます。 オープンアクセス(OA)出版を選んだ論文は、ほとんどの場合、無料で一般公開されます。これは、従来のクローズドアクセス方式(購読型)のジャーナル出版とはまったく対照的です。 ここでは、それぞれの研究発信に適したOAジャーナルの見つけ方をご紹介します。 OAジャーナル早わかり オープンアクセス方式は、当初は斬新な方式でしたが、今では主流の出版形態となり、学術研究界では当たり前とされています。かつてはクローズドアクセス出版が主流で、読みたい記事は大学図書館などで読む必要がありました。OAは、基本的にアクセスできる人を限定しないので、より多くの読者に素早く情報を届けることができます。 また、OAジャーナルはオンラインでの公開のため、雑誌の同じ号に掲載されるすべての論文の準備が整うまで出版できない紙媒体のジャーナルよりもはるかに迅速な出版が可能です。つまり、クローズドアクセス型の出版物よりも早く研究成果を読者に届けられるです。 オープンアクセス・ジャーナルの種類 オープンアクセス・ジャーナルが普及するにつれ、以下のようないくつかのタイプのOA出版が発展してきました。 メガジャーナル:最小限の論文掲載費(article processing fee)で全文無料公開が可能。査読付きのジャーナルで、扱う分野も広範囲にわたり、短期間で出版できる。 - ハイブリッド・ジャーナル:有料の購読サービスを提供し続ける一方で、著者が論文をオープンアクセスにするかを選択できる。OAを選択した場合、論文の掲載料を支払うケースが多い。 - 遅延型オープンアクセス:公開制限期間中は論文へのアクセスを有料とし、その後サイト上で無料公開する。…

論文が編集者の目にとまるために学術翻訳会社ができる5つのこと

学術雑誌が受け取る膨大な投稿論文の数を考えると、論文が掲載まで行きつくのは非常に難しいことです。採択されるには、あなたの論文が無数の投稿の中で際立っており、ジャーナルの編集部から高く評価されなければなりません。 母国語での論文掲載の過程でさえ非常に困難ですが、論文を翻訳し、別の市場で出版しようとなると、さらに手順は複雑に思えます。しかし、適切な学術翻訳サービスを利用すれば、単なる翻訳作業にとどまらず、出版社に対する論文のアピール力も増します。 ここでは、論文翻訳会社がジャーナル採択の可能性を高める5つの方法をご紹介します。 言語面の最高品質を保証 不採択となる最も単純な理由のひとつは、原文のミスを見逃し、それが翻訳コンテンツに含まれていることにあります。たとえ単純なミスであっても、採択される可能性は一気に低くなってしまいます。翻訳者は、依頼された投稿を一流の翻訳記事に仕上げることによって、採択の確率を大幅に向上させることができます。 翻訳者は以下のような項目に注目します。 文法規則 記事の読みやすさを向上させるために文法を確認します。原文には文法的な間違いがなくても、翻訳者の選定を誤ると、翻訳文に文法ミスが発生することもあります。 各言語には独自の文法規則があり、翻訳者はターゲット言語に精通し、その違いを認識していなければなりません。例えば、日本語には過去と現在の2つの時制があるのに対し、英語では過去・現在・未来の3つの時制を用います。日本語から英語に論文を翻訳する場合、翻訳者が相応しい時制を選択できなければなりません。 言葉の選択 同じ言語を話す国々の中でも、同じ意味を表す言葉が異なることがあり、翻訳者はターゲット地域で同じ考えを表現する言葉を選ぶのに苦労することがあります。熟練した翻訳者であれば、適切な意味が伝わるよう。 専門用語 学術翻訳を複雑にしている問題のひとつに、複数の分野・業界が存在し、それぞれが独自の専門用語を使用することが挙げられます。正しい表現を用いるために、翻訳者は業界のトレンドや基準を熟知し、新しい専門用語に常にアンテナを張っておく必要があります。 論文の正確な翻訳のために、学術翻訳会社はターゲット言語のネイティブスピーカーである言語スペシャリストを手配します。ターゲット言語を知り尽くしているため、翻訳者は文法や構文を間違えることなく作業することができます。加えて、学術翻訳会社はその分野の専門家である言語のプロを配置する必要があります。 2.…

科学研究における研究不正の種類トップ10

研究不正と見なされる行動は、研究プロトコルのあらゆる時点で起こり得るものです。おそらく、科学研究の初期の段階から、成果を出版するに至るさまざまな場面で、異なるタイプの研究不正に遭遇したことがあるのではないでしょうか。 よくある研究不正のタイプ 以下は、世界医学雑誌編集者協会(World Association of Medical Editors: WAME)と米国研究校正局(US Office of Research Integrity)の査読者や学術雑誌(ジャーナル)編集者らが警戒しているよくある研究不正トップ10です。 1. 研究アイデアに関する不正 他者の論文や原稿のレビュー、あるいは助成金申請手続を通して知った他者のアイデアを、自分自身のアイデアとして研究を進め、他者の知的財産権を侵害すること。…

PhD(博士課程)の乗り切り方は十人十色

オーストラリア国立大学(ANU)のインガー・ミューバーン(Inger Mewburn)教授が、大学院で勉学に勤しむ学生さんにお役立ち情報をお届けするコラム「研究室の荒波にもまれて(THE THESIS WHISPERER)」。今回は、博士号取得の道のりがいかに多種多様かというテーマでお届けします。研究方法や進捗を周りと比べることが難しい中、やっていることに自信が持てない学生必見です。 以前、博士課程の学生に対する悪いアドバイスがいかに多いかについて書きました。アドバイスが的外れだったり不適切だったりする理由の1つは、PhD学生と一括りに言っても、年齢、分野、研究内容など多くの違いがあるからです。進捗を他人と比較することは特に不毛な行為です。エリー・ウッド(Ellie Wood)の投稿が博士課程の学生の多様性について素晴らしく言い当てているので、このメッセージは繰り返し発信すべきと思い、ここでご紹介します。 エリー・ウッドは、エディンバラ大学の博士課程に在籍しています。彼女の研究は、社会科学と自然科学の両方の手法を用いて、タンザニアの農村地域の森林破壊の原因や生態系サービスへの影響について研究しています。エリーは自身の学際的な研究を効果的で公平な保全に役立てたいと考えています。研究の傍ら、科学コミュニケーションにも興味を持ち、スコットランド内と他地域のアウトリーチプロジェクトにも可能な限り参加しています。こちらがエリーのLinkedInとTwitter(@EllieWood24)です。Helena.wood@ed.ac.uk あてにメールで連絡することもできます。博士課程に進むことは悪夢だと思っていますし、口に出しても言っています。頻繁に。多くの学生にとって、博士課程での研究の苦労は、ぼやきネタの定番です(もし、あなたがぼやいてなくても、私がみんなの分までぼやいてます)。 たしかに、博士号はいつもいつも辛いというわけではありません。しかし、間違いなく辛いです。時には悪夢です。悪夢が襲ってくるタイミングや種類は人それぞれなので、周りの人の経験とは全く違う恐怖体験をすることもあるかもしれません。人と違う経験をしていることが孤立感を生み...悪夢の恐ろしさを増幅させるのです。こういう孤独を感じている人や、周りの人と違う博士号の経験をしている人に、声を大にして、大丈夫、正常ですよ、と伝えたいです。こういうウヨウヨとうごめく不気味な考えをお互いの脳から追い出し、楽しいことで頭をいっぱいにする方法があります(昆虫学者さんはどちらにしてもウヨウヨうごめく物で頭がいっぱいかも⁉)。 私たちの背景がそれぞれ異なることを思えば、博士課程の体験が非常に多様であることは驚きではありません。学生の年齢は、大体15歳から95歳までです。異なる文化的背景を持ち、異なる人生経験、訓練、教育、仕事を経ています。私の博士号は分野横断的なものなので、プロジェクト内でも分野ごとに私自身の知識や造詣のレベルは様々です。私は生物学の学士号を取得し、現在は生態学と社会科学を半々で研究しています。つまり、プロジェクトの半分は、ある程度の知識とスキルを持ち、残りの半分は知識やスキルがゼロの状態からスタートしたことになります。これは、楽しいことでもあり、恐ろしいことでもあります。 私のことはこれぐらいにして、話を戻しましょう。学際的な博士課程でなくても、自分が何をしているのか分からないと感じることはありますし、分からないと感じることが、実はとても素晴らしく生産的なこと*であり、実際、斬新な研究の核心となると指摘する人もいます。そもそも私たちは、これまでにない課題を研究することになっていますよね? 私のシェアハウスの同居人2人と私は全員博士学生で、比較的近い分野の研究をしていますが、やり方も研究方法も作業スケジュールも全く異なります。私は博士課程の1年目のほとんどを読書だけに費やしました。これは素晴らしい特権でありますが、2週目から研究室でデータを収集しているクラスメイトを見たときには、震えました。それでも、私の博士号はこのように進める必要がありましたし、あなたの博士号もそうかもしれません。 また、学生によって担っている責任も異なります(研究、講師、課外活動、私生活など)。人それぞれでいいんです。博士課程は非常にストレスの多いものであると同時に、多くの場合は柔軟性があり、子供を保育園に預けたり、勉強と同時に仕事をしたりと、他にもすべきことがある場合にはとても便利です。たとえ、9時から5時で働く同期に対して後ろめたい気持ちがあったとしても、柔軟性をフル活用すればいいのです。全く同じ境遇の学生なんて絶対にいないし、比べるだけ無駄なので、気にしないでください。 博士課程の学生は多様で面白い集団です。でも、自分があまりに人と違って異質な存在であることに悩むときには、何らかのサポートが必要です。また、自分が軌道から外れていないかどうかを見極めることも大事です。経験や知識を共有し合い、自分が経験していること、やっていることがこれでいいのか、大丈夫なのかを語り合う必要があります。 ありがたいことに、私たちに様々な違いがあったとしても、博士号取得者たちの共通体験の蓄積というものがあって、私たち自身も発信し共有できます。最近読んだ「The…

論文で「研究の限界」を書くことの重要性と書き方

研究者が論文を執筆する際、「研究の限界」を示すことは珍しくないでしょう。「限界」と聞くと一見ネガティブに聞こえますが、研究における「限界」は、その研究を適切に組み立てるのに役立つこともあり、「研究の限界」の重要性を正しく理解しておくことが必要です。 この記事では、研究の限界を客観的に提示することで、影響力のある研究結果へと導く方法について解説します。 研究の限界とは どのような研究にも限界があります。研究の限界は、方法あるいは研究デザインの条件によって生じ、研究に影響を与える可能性があるものです。研究の限界は、研究にとどまらず、出版しようとしている研究論文にも影響することもあるのですが、残念なことに、多くの研究者は、読者目線の論文の評価に影響を及ぼすことを恐れるあまり、研究の限界について議論することを避ける傾向にあります。 しかし、研究の限界について論じ、対象読者(他の研究者やジャーナル誌の編集者、査読者など)に示すことは非常に重要です。と同時に、研究の限界が結論や所見にどのように影響しているかを説明することも、とても大切です。論文著者として研究の限界に言及する際には、研究についてのあらゆる弱点について調査し、研究主題について深く理解していることを示すことが必要です。研究について実直に示すことによって、その研究が誠実な努力を重ねた説得力のある結果であると示すことができます。 研究の限界をなぜ書くのか、どこに書くのか そもそもの研究の主たる目標は、研究目的に応えることです。実験を行い、結果が出たらそれについて説明し、最終的に研究課題(リサーチクエスチョン)の正当性を説きます。論文も同様の流れで、研究の限界について言及するのに最適なのは、結果の後の考察(ディスカッション)のセクションです。 考察では、冒頭で研究方法の長所を強調したあと直ぐに、研究の限界について述べます。研究論文の結論(コンクルージョン)のセクションでは、自分の研究の限界にふれてから後続研究に向けた「提案」という形で、下記のような具体的なポイントを述べることもできます。 1. 研究者の制限 研究者に起因する制限については必ず言及します。制限についてきちんと書くことで、読者に対して透明性を示すことができます。また、今後の研究において研究者に起因する制限を減らすための策を提案することも可能です。 2. 情報へのアクセスの制限 研究には、複数の研究機関や個人が関わっていることがあり、そうした機関の所持する情報へアクセスが許可されないこともあるでしょう。このような場合、研究の進め方を再設計、または研究を再構築する必要が出てきます。アクセスが制限されている理由を読者に説明しましょう。 3.…

論文出版のための学術論文翻訳者の探し方

一生懸命研究を進め、論文を書き上げた後は、いよいよ学術論文翻訳者を探す時です。翻訳するメリットはわかっていても、次のステップへ進むのは大変に感じるものです。原稿を任せられる翻訳会社を見つけるのは簡単ではありません。 そこで、より簡単にプロジェクトに最適な翻訳会社を探すための手順をご紹介します。 できるだけ多くのレビューを読む 何よりもまず、候補となる翻訳会社についての利用者の声を読むことです。カスタマーレビューから会社に関するかなり多くの情報が得られるので、このステップは重要です。候補となる翻訳会社についてできるだけ多くのレビューを見て、顧客がサービスに対してどの程度の満足度を示したか確認してください。 また、顧客中心主義の翻訳会社では、アンケートを実施しています。そのような顧客からのフィードバックを歓迎する会社であれば、良い兆候です。検討している会社がアンケート結果を開示していれば、目を通しておきます。 顧客からのコメントを熟読し、気になる点があれば問い合わせをしましょう。 顧客の確認 顧客からのフィードバックを読んで候補を絞り始めたら、次のステップとして、その会社が過去に他の学術論文の著者と仕事をしたことがあるかどうかを確認します。顧客の情報からは、これまで翻訳した論文の本数や依頼する学術分野を専門としているかなど、重要な情報を得ることができます。さらに、ポートフォリオに目を通すことで、これまでに手がけた論文の種類や品質を確認することができます。 翻訳者についての情報を得る プロジェクトを依頼する言語サービスプロバイダー(LSP)との連携はスムーズに運ぶことが理想的です。 まず、翻訳担当者がターゲット言語のネイティブスピーカーであるかを確認します。学術翻訳の場合、特に翻訳の正確さが問われることを考えると、翻訳者の適正を検討する必要があります。 次に、その分野での専門性を考慮します。学術翻訳は、理論、仮説、科学的研究などが複雑に絡み合う、高度に専門化した分野です。そのため、その分野の専門家である翻訳者でなければ、研究内容が意図したとおりに翻訳されているか確認することが困難です。 ネイティブスピーカーであり、かつ分野の専門家である翻訳者に担当してもらえるかの確認と同時に、次のような質問をするのもよいでしょう。 翻訳者の教育レベルはどの程度ですか? 翻訳者は特定の分野でどの程度の経験がありますか? (分野での研究経験、論文発表の経歴など)…

博士課程(PhD)の失敗は成功の原動力

オーストラリア国立大学(ANU)のインガー・ミューバーン教授のコラム「研究室の荒波にもまれて(THE THESIS WHISPERER)」。今回は、失敗について。PhD時代、何度失敗してもバッターボックスに立ち続けた筆者。失敗が成功の源となった博士課程のストーリーを紹介します。 失敗。博士課程を経ることで失敗にもうまく対処できるようになる——と思いたいものです。私は平凡な学生でしたが、建築学科に入学するまで自分がどれほど平凡であるかに気づきませんでした。控えめに言って、才能なしでした。周りからも率直にそう言われましたし、よく泣きました。ときには大きな教室の大勢の前で。…一種の暴露療法とも言えるでしょうか。5年ほどかかりましたが、私はアカデミズムでの失敗に対処する術を学びました。多少の精神的な傷は負いましたが、おかげで上手くあしらえるようになりました。 でも、私とは違って、博士課程に入学するまでずっと輝かしい人生を送ってきた学生の場合はどうでしょうか。そういう学生によく出くわしますが、壁にぶち当たるのが遅ければ遅いほど、ダメージが大きいように思います。私の息子は11年生(高校2年生)で壁にぶつかり、兆候に気づいてすぐにセラピストのところに連れて行きました。最初は行きたがりませんでしたが、今では感謝され、「超音速」とまでは行かないけど、「巡航速度」ぐらいで壁にぶつかったな、と冗談で言っています。息子の言うとおり、超音速スピードで壁にぶつかりたくはない……でももしそうなったらどうしたらよいでしょう? この記事では、ジャスティンが超音速で壁にぶつかったときの話をしてくれます。今回の投稿内容について警告ですが、内容には自傷行為の描写が含まれています。この先はご自身の判断で読み進めてください。おすすめのページにメンタルヘルスに関する資料も紹介していますのでご覧ください。 ジャスティン・フェフェール(Justin Pfefferle)は「第二次世界大戦中のイギリスにおけるシュルレアリズムとドキュメンタリー」というテーマで博士論文の公聴会審査を合格し、2015年にマギル大学で博士号を取得しました。現在ドーソン大学英語学科の教授でビショップ大学の英語の非常勤教授でもあります。彼は、大西洋におけるモダニズム文学、批評理論、文化研究、そして映画学など、さまざまな分野、領域をまたいで教鞭をとり研究しています。いまは“Adaptogenic Narrative in the Long Midcentury: 1938-1962”という仮タイトルで本を執筆中です。4つのソフトボールチームに所属する、失敗も多い張り切り屋です。 以下、ジャスティンの文章です。…

PhD(博士課程)学生がみんな疲れている原因は?

オーストラリア国立大学(ANU)のインガー・ミューバーン(Inger Mewburn)教授が、大学院で勉学に勤しむ学生さんにお役立ち情報をお届けするコラム「研究室の荒波にもまれて(THE THESIS WHISPERER)」。今回は、博士学生の間で蔓延している疲弊感と、教授自身が疲れにどのように向き合っているかの対処法をご紹介します。 この記事では、うつ病や不安感についてお話します。もし今日のあなたのためにならなさそうなら、遠慮せずにページを離れてくださいね、別の記事でお会いしましょう。 今から言うことを、特権的な白人女性っぽくなく伝えるにはどうしたらいいか、ずっと考えていたのですが、無理なので、そのまま言います。 私、すごく疲れてます。 しょっちゅう睡眠不足であることも事実ですが、肉体的にだけでなく、心の奥底にある疲れのことです。仕事帰りに、夜、外出したり、何かをしたりするのをためらうような疲れです。 具体的には、こんな疲弊感です。 創造性を妨げるような疲れで、文章を書いたり、新しいプロジェクトを立ち上げたりするのが難しくなるのです。私はまだ物事に喜びを感じるし、よく笑いますが、ただ......疲労感がぬぐえません。もっと眠れば治るだろうと、たまに午後6時に寝ますが、効果はないようです。 この疲れ方は変だな、うつの疲労感とも違うような気がするけど…と思いつつ、念のため主治医を訪ねました。意外なことに、診察の結果、私の精神状態はここ数年で一番良いそうです。主治医は、抗不安薬の減薬プロセスまで説明してくれたので、試してみることにしました。減薬の結果、疲れは残りましたが、不安は戻らず、問題なく薬をやめることができました。(抗不安薬をやめることが目標だったということではありません。薬を飲むことを恥ずかしいとも一切感じていません。ずっと薬を飲み続けていても幸せでしたし、必要ならすぐにでも薬を再開します)。 この疲れは、うつの疲労感とは違う感覚です。疲れが伝染するような感じとでも言いましょうか。周りのみんなもとても疲れているように見えるのです。私が最初にこの疲れに気づいたのは、博士課程の学生たちの間ででした。学生たちはパンデミックの間、私たちの開催するオンラインワークショップをライフラインのように捉え、2020年には参加者が400%に増加しました。2021年には通常通りに戻り、その後、みんなパタリと姿を見せなくなりました。 イベントには、常に申し込み人数と参加人数の間に差があります。申し込みシートで「参加する」をクリックする人と実際にワークショップに参加した人の差を「コンバージョン率」と呼びます。イベント主催者としては、コンバージョン率が50%あれば上出来です。私たちのコンバージョン率は、パンデミック初期には70%まで上昇しましたが、2021年には50%に戻りました。ここまでは想定通りです。しかし、今年はさらに下がり、30%、時にはそれ以下になることもありました。 心配になった私は、オーストラリア国内外の他の研究支援団体と連絡を取り合いました。すると、どこも同じような状態でした。博士課程の学生が、勉強会に参加しなくなったというのです。私たちは、博士課程の学生が姿を見せなくなった現象について、次のような仮説を立てました。ロックダウン疲れ、やる気の低下、社会との断絶、希望の見えなさ...。パンデミック前も学術研究界の就職市場は厳しかったですが、その向こうに現れた市場はさらに悪いようです。不確実で、低賃金で、不安定です。 このような現実を考えると、アカデミックな職種で成功するための専門的な能力を身に着けたとしても無意味だ、と思えるかもしれませんね。たとえ参加することに価値を見いだしたとしても(そうであってほしいと願います)、時間を見つけることはおそらく難しいでしょう。みんなあまり話したがらないですが、博士課程の学生にとって金欠は常に深刻な問題です。コロナ禍はその状況をさらに悪化させました。博士号取得のための奨学金は、今までも貧困ラインギリギリを行ったり来たりしてきましたが、今年の初めにはインフレで大打撃を受けました。学生は生活費を稼ぐために、もっともっと働かなければならなくなったのです。…

PhD(博士課程)の面倒な作業はヴィーガンのジャンクフードのようなもの

オーストラリア国立大学(ANU)のインガー・ミューバーン(Inger Mewburn)教授が、大学院で勉学に勤しむ学生さんにお役立ち情報をお届けするコラム「研究室の荒波にもまれて(THE THESIS WHISPERER)」。今回は、博士課程をいたずらに忙しくする作業について、本当に必要なものと、実は無意味かもしれない作業についてご紹介します。 親愛なる読者の皆さん、こんにちは。 この冬は忙しく、私は選挙が終わって抜け殻状態です。先月、12年間で初めてThesis Whispererの投稿ができませんでした。長く続けていた習慣を破ってしまったことを悔みつつも、前の投稿はかなり長文だったし、今でも多くの方に読まれているのだから、と自分を慰めています。 肝心なのは、気を取り直して、また始めることですね。時々、面白いタイトルが頭に浮かんで、アイデアのメモを書き留めても、それ以上進まないということがあります。この記事は、数年前から半分完成しないまま、アーカイブに眠っていました。今週も時間に追われる中、40分の空き時間でそのメモを公開するに値する記事に蘇らせることができたかなと思うので、楽しんでいただければ嬉しいです。 私はヴィーガンのジャンクフードが死ぬほど好きです。ビヨンド・ミートのダブルパティとフェイクチーズにフライドジャックフルーツ。カリカリで、塩っ辛くて、うまみがあって、最後の一口まで最高。 ヴィーガンジャンクフードは、その美味しさゆえに、世界を救うのに役立つでしょう。私はヴィーガンでもベジタリアンでもないですが、肉を使ったジャンクフードの代わりにヴィーガンジャンクフードを毎回注文します。ヴィーガンのジャンクフードは、環境破壊への罪悪感なしで食べられるので、普通のジャンクフードよりも美味しいんです。これ、何の肉?みたいな謎の要素も、一切なし! ヴィーガンジャンクフードは、身体に良いようで良くない食べ物です。 ヴィーガンジャンクフードにだって、動脈を詰まらせるジャンクがたくさん入っているのに、体に悪くないっぽい。ヴィーガンジャンクフードは食べる快楽も味わえて、同時に美徳も感じられる。近所のバーガー・ショップのダブルビヨンドミートフェイクチーズバーガーを想像しただけでも、ドヤ顔になります。客観的に見ればジャンクフードですが、身体にいいことをしてあげた、まぁ少なくとも、もっと悪いものを食べずに済んだと自分に言い聞かせることができるのです。 博士課程の「は、ヴィーガンのジャンクフードのようなものです。やっている間は気分が良く、今日も頑張った、良い選択をしたと自分に言い聞かせることができますが……本当に良かったのでしょうか? 私は、その「を、論文の発想や執筆には直接貢献しないけれども間接的に論文執筆を支える作業と定義しています。博士課程で経験する「には、好ましいものや必要なものもたくさんあり、好ましくないものを見極めるのは難しいですが、以下は、基本的な考え方です。 ヴィーガンジャンクフード的な実りの少ない忙しさを産む作業…

論文翻訳を行う時に注意するポイント

論文翻訳は、世界中の読者に論文を届けるために有効な手段ですが、翻訳する際には、いくつか押さえておくべき注意点があります。研究内容に応じたトーン、意味、要点を保ちつつ、ターゲットとなる読者に響く訳文に仕上がるようにしなければなりません。 ここでは、論文(原稿)を翻訳して投稿するにあたって、注意すべきポイントを確認しておきましょう。 やるべきこと:翻訳作業の前に注意すべきこと まず、翻訳作業を成功させるために、作業の前にやっておくべきことを挙げておきます。 文化的に特有な表現を見直し、修正する 慣用句や文化的背景を反映した表現の翻訳は、直接的あるいは簡単な表現に訳せないことが多いため、学術論文の翻訳において最も困難な問題の一つです。 また、元言語では一般的な文化的引用でも、そのまま訳したのでは対象読者が理解できずに、内容がきちんと伝わらない、さらには読者に不快感を与えてしまう可能性すらあります。例えば、地元の祝日、本、イベント、音楽など、読者になじみのないものに言及すると、すぐに興味を失ってしまうことでしょう。 これを解決するには、次のような対策をとりましょう - 翻訳する前に、言及した文化的背景に関連した文脈を追加する(特に翻訳会社に依頼する場合は、認識を共有させておくことが望ましい)。 - どうしても必要ではなければ、誤解を生む可能性のある文化的記述を削除する。 - 対象読者にとって適切な表現に文章を修正するように翻訳者に依頼する(翻訳者が対象言語の文化的背景についても知識があることが前提となります)。 シンプルな表現にする…

58歳でPhD(博士課程)に挑戦!?

オーストラリア国立大学(ANU)のインガー・ミューバーン(Inger Mewburn)教授が、大学院で勉学に勤しむ学生さんにお役立ち情報をお届けするコラム「研究室の荒波にもまれて(THE THESIS WHISPERER)」。今回は、58歳でPhD(博士課程)の道のりを歩きだした女性のストーリーをシェアします。何歳になっても挑戦することは可能なのです。 オーストラリアでの、博士課程入学の平均年齢は34歳であることをご存知でしょうか。さらに、この平均年齢は年々上がっているのです。ANUには、60代後半から70代前半に博士号を取得した学生も数名います。博士号を目指すのに遅すぎる年齢はないのです。今日は、キャサリン・ラシーヌ(Catherine Racine)という女性の体験談をシェアしたいと思います。 ラシーヌ博士は、英国に7年間在住し、2017年にダラム大学を卒業した独立系カナダ人研究者です。彼女の博士論文は「Beyond Clinical Reduction: Levinas, the Ethics of Wonder and…

学術研究におけるパイロットスタディの有用性

新しい研究プロジェクトに取りかかる時は、ワクワクするものですが、プロジェクトに着手する前に、その計画が実現可能かどうかを確認しておくことは重要です。準備が不十分だったために、一度に大量のサンプルを処理するはめになったり、アンケートに重要な質問を加えるのを忘れたりすることは避けたいものです。 パイロットスタディとは パイロットスタディとは、研究プロジェクトを開始する前に、その研究デザインの実現性を見極めるために行う予備的な小規模調査です。研究プロジェクトに使用する手法をパイロットスタディで試し、その結果を踏まえて大規模なプロジェクトの方策を確定できます。質的・量的研究のいずれにおいてもパイロットスタディは有用です。パイロットスタディを通して研究課題や方法を特定または具体化することで、エラーの発生を防ぎ、リスクを軽減できるだけでなく、プロジェクトに要する時間とコストを見積り、余計な手間や費用を削減することができるのです。 アフリカの格言に「You never test the depth of a river with both feet.(仮訳:川の深さを測るのに両足を入れるな)」というものがありますが、いきなり川に両足を入れてしまうと水深を測るどころか、足が付かずに溺れる危険性もあるから慎重に行動せよとの警告です。大規模プロジェクトをいきなり開始するのではなく、それに先立って小規模のパイロットスタディを行うことで慎重に進めるのが得策です。パイロットスタディの小さなサンプル数で、大規模プロジェクトで予定している方法を試してみれば、計画の問題を見つけるのに役立つでしょう。大規模プロジェクトに多大な時間とお金を投入する前に、問題を修正できます。少ないサンプルであっても、実際に見てみればサンプル数を増やした場合の結果を推測することもでき、サンプル収集にどの程度のコストがかかるのかを見積もることも可能です。 パイロットスタディの構成要素…

研究室内でマイノリティでも孤独は克服できる

オーストラリア国立大学(ANU)のインガー・ミューバーン(Inger Mewburn)教授が、大学院で勉学に勤しむ学生さんにお役立ち情報をお届けするコラム「研究室の荒波にもまれて(THE THESIS WHISPERER)」。今回は、大学や研究室の中でマイノリティでいることは決して悪いことや困難なことばかりではなく、むしろ、将来を生き抜くスキルになることもあるというお話をご紹介します。 少し前に、私の研究プロジェクトのためにインタビューした採用担当者たちに見られた「アンチ博士号の態度」について記事を書きました。職場に博士号取得者が少ないために、卒業生が他のマイノリティに属する人と同じように、偏見の目にさらされていることについてふれました。投稿後、「マイノリティ」という言葉の使用に反対する人もいましたが、適切な言葉のご提案もありませんでした。(私もまだ思いつきません。皆さん、良い別の表現があれば、ぜひご提案ください!)とある読者から、ご自身のマイノリティだった経験について前向きな意見が寄せられたので、彼女に体験をシェアして欲しいと依頼しました。 この投稿は、ニューカッスル大学の博士課程学生であるミッシェル・シェー(Michele Seah)のものです。彼女は最近、中世後期の女王の、15世紀イギリスの3人の王妃に焦点を当てた論文を提出しました。彼女の論文では、女王たちに経済的・物質的な富をもたらした資源、特に領地について詳しく掘り下げています。また、その資源が王家やネットワークの維持にどのように費やされたかについても調べました。彼女は自分を外向的だとは思っていないようですが、ネットワークの構築と対人スキルを身に付けるために努力していると言います。ミッシェルのTwitterアカウントは@mlcseahですので見てみてください。 以下、記事末尾まで彼女の投稿です。 私は博士課程在学中に、2つのマイノリティに属していました。一つ目は、アジア人女性であること。もう一つは中世学者であることです。断然、中世学者であることの方が大変でした! 私は、大学院の研究室に机を割り当ててもらった数少ない女性大学院生の一人でした。ほとんど自宅で仕事をしていましたが、キャンパス内にも自分のスペースが欲しかったのです。よく顔を合わせる研究室の同僚は全員男性でした。女性はたまにしか研究室には顔を出しませんでした。キャンパスに行けば、周りにいるのは男性ばかりでしたが、それは大した問題ではなく、差別的な扱いを受けたことは一度もありません。男女比のバランスが悪いことから研究室は「Men’s Shed(男性達の小屋)」と多少軽蔑的な呼び名で呼ばれていたのは事実ですが。研究室の人たちは、私のことを博士課程の学生の一人として分け隔てなく接してくれましたし、少なくとも表向きは、私がアジア人で女性であることを気にしていないようでした。私は、自分がのけ者にされたと感じたことは一度もありませんでしたし、「男性小屋」で培ったコミュニティのおかげで大学院時代を楽しく過ごせました。 私にとって、マイノリティとしてもっとも大変だったと感じた経験は、研究テーマによるものでした。私の記憶では、当時、歴史学科で中世史を研究していた博士学生は私一人で、中世を専門とする指導者がいなかったことも、研究をより困難にしました。その分野で研究をするに至った経緯は、長くなるのでやめておきます。特に、私の指導教官たちは前近代の研究者で、私の研究分野は専門外の人だったことが大きなハードルとなりました。指導教官がその分野に精通していない場合、研究テーマに関するアイデアを出し合い、文脈上の問題について議論することが非常に難しいのです。しかし、教授らは専門外の謎のテーマもかかわらず、私のテーマを調査し、問題について議論できるように多大な時間と労力を費やしてくださり、私の博士号取得に付き合ってくれました。 この経験により、すべての指導教官が担う任務の重大さを改めて認識し、先生方に本当に感謝しています。しかし、特に最初のうちは、孤独を感じていました。私の研究に関連する歴史学専攻の学生には、ほとんど出会わなかったからです。 私の大学には、研究に熱中できるような陽気な中世研究の雰囲気はありませんでした。廊下やカフェで一緒に中世史を語る人なんて一人もいませんでした。しかも、私の研究分野の第一人者はほとんどオーストラリアにはおらず、主要な学会は海外で開催されているという事実が気持ちをさらに暗くさせました。まわりの歴史専攻の学生たちは、一緒に勉強するグループを作ったり、オーストラリア国内の学会に参加したり、オーストラリアを拠点とする研究者たちと交流したりしていましたが、それが叶わない私は、別の方法を考えなければなりませんでした。 そこで、はじめにとった行動は、大学内で私の研究テーマの前後1世紀以内のテーマに取り組んでいる英語学科の研究者に連絡を取ってみることでした。しかし、この数少ない人たちも、テーマや地域的に私のテーマからはあまり近いテーマで研究している訳でなく、採用している研究方法も異なり、有意義な意見交換や議論はできませんでした。しかし、同じ志を持つ人たちと一緒に中世後期の世界に浸れたのは嬉しい経験でした。…

PhD(博士課程)を短期間で修了することは可能?

オーストラリア国立大学(ANU)のインガー・ミューバーン(Inger Mewburn)教授が、大学院で勉学に勤しむ学生さんにお役立ち情報をお届けするコラム「研究室の荒波にもまれて(THE THESIS WHISPERER)」。今回は、PhD(博士課程)を短い期間で修了する人たちは、それをどうやって成し遂げたのか、ある学生の体験記を紹介します。 先日、2年で博士号を取得したというカーメン・ブライス(Carmen Blythe)の記事を公開したところ、凄まじい数のコメントをいただきました。中には、Carmenが2年で博士号を取得したのは普通の人よりも状況が有利だったからだと指摘する人もいました。では、「普通の人」が2年で取得することは果たして可能でしょうか? 毎年、多くの学生が博士課程を一定の期間よりも短期間で卒業します。そう、パートタイムで通う社会人学生たちです。社会人学生は最初の数年でドロップアウトする可能性も高い半面、統計的に見ると、フルタイムの学生よりも短期間で修了しているのです。4年以内の場合もあります(フルタイムで2年間在籍するのと同じスピードです)。このことに気づく人が少ないのは8年を4年で卒業したと言っても、まぁまぁ長い期間だからでしょうか。パートタイムの学生は、影の成功者なのです。この現象が脚光を浴びてほしいとずっと思っていたので、アリソンの投稿によって注目が集まり、大変うれしく思います。 アリソン・ベッドフォード博士は、最近、サザンクイーンズランド大学で博士号を取得し、親であり、妻であり、歴史と英語の中学校教師であり、歴史教育者の講師でもある多忙を極める女性です。彼女の専門は、メアリー・シェリー、フランケンシュタイン、フーコーのディスコース概念、サイエンスフィクション、歴史のカリキュラム、教育学、と多岐に渡ります。彼女をLinkedIn、Twitterで@bedforda1を探してみてください。 (以下、アリソンの文章です。) Twitterやその他のSNSで#phdchatの投稿を読むのは、博士課程を始めたばかりの学生たちにとって、恐怖と面白さが半々です。(参考サイト:@legogradstudent、@GameofAcademics)インターネットというものは、こわいもので、見れば見るほど、酷い指導者、論文提出期限地獄、論文執筆の泥沼ばかりが目に入ります。博士号を問題なくスムーズに取得するなんて、ユニコーンと同じくらい非現実的なものに思えます。 しかし、インガー先生(@thesiswhisperer)のHow to Be an Academicという本の後半にあるように、最終的に博士号を取得したり、研究者になっている人が存在するのですから、全てが悪というわけではないはずです。少し前向きな話をご紹介します。人生はいいことばかりではないですが(そんなことはありえないですから)、数々の悲惨な話(オーストラリア含め世界の学術界での不平等や欠陥を晒す意味では重要な話ですが)に対峙する話として役立つことを願います。…

研究職の面接対策~よく聞かれる21の質問と回答アドバイス~

オーストラリア国立大学のインガー・ミューバーン(Inger Mewburn)教授が、大学院で勉学に勤しむ学生さんにお役立ち情報をお届けするコラム「研究室の荒波にもまれて(THE THESIS WHISPERER)」。大学院卒業後、学術関連の仕事あるいは研究職に付きたいと思っている人にとって、面接(インタビュー)は難関のひとつですよね。今回は、ミューバーン教授が面接でよく聞かれる21の質問と回答時の注意を解説してくれています。 英国ロンドン大学ゴールドスミス校の社会学教授であるレ・バック(Les Back)(が著書『Academic Diary』で指摘しているように、学術生活にも季節(シーズン)があって、今は就職面接シーズンのようです。私自身、求職や面接の準備を手伝いながらさまざまな業務(困難でもやりがいがあるとはいえ、感情的になってしまう仕事)に関わってきましたが、そのたびにPhD課程の後半がどれほどストレスの多い時期であるか(!)と思わずにはいられません。就職試験もハードルのひとつです。ただでさえ就職活動はそれまでやってきたこととはまったく異なるのに、試験の結果を待ちつつ、同時に他の仕事も探すなんて……誰にとっても精神的に厳しいことです。私は別のブログに、PhDの卒業生が偏見を持たれている中で選考に残ることの難しさや、雇用主となるかもしれない人に印象を残す方法ついて書いていますが、実際の就職面接ではどんなことを聞かれるのでしょうか。 実は、私自身が就職面接で成功した経験がないので、この記事を書くには適任とは言えません。私の場合、すでに採用前提で面接に臨めたのでうまくいったというのが正直なところです。それでも、アカデミックな環境では面接官の立場に長年立ってきたので、この記事を書くのにふさわしいと言ってくれる人もいます。長い経験の中で、面接を行い、採用に関わってきた経験から、学術系の就職面接でやってしまいがちなミスや、質問に対する良い回答と悪い回答を知っているからでしょう。 事前に質問に備えておけば、落ち着いて面接に臨むこともできるはずです。とは言っても、学術系の就職面接で聞かれることって?私が知っている学生は、翌週の面接に備えて、オーストラリア国立大学(ANU)のDECRA(Discovery Early Career Researcher Award)フェローであるラリッサ・シュナイダー(Larissa Schneider)博士が実際のポスドクの就職面接で聞かれた60以上に及ぶ質問をまとめたリストで準備していました。DECRAとは、教職および研究職に就いたキャリアの浅い研究者を支援することに重点をおいたプログラムです。シュナイダー博士は、自分の就職面接についてメモを作成した卒業生から質問を集めてまとめたのです。科学における情報共有の素晴らしい一例ですね!私がブログを書こうとしていることを知った彼女が貴重な情報を共有してくれたので、彼女のリストからいくつかを抜粋して、より一般的な質問を21に絞ってリストアップしました。 この質問リストと回答を考えるのに留意すべき点を以下に記します。ただし、これらは科学分野の卒業生が1年あるいはそれ以上のポスドク研究プロジェクトに挑戦するとき面接を想定したリストです。教職や人文系の研究職に就きたいと考えている人の場合、質問は多少変わってきます。その場合は、質疑応答を考えるきっかけとしてこのリストを活用してください。…

要旨(Abstract)と序論(Introduction)の違いを理解する

良く書かれた要旨と序論の重要性 要旨と序論を書くときに起こしがちな過ち 科学論文の要旨の書き方 効果的な序論の書き方 要旨と序論の主な類似点と相違点

WHO推奨:研究プロトコルに書き込む21項目

ある学生は研究プロトコルについて頭を悩ませているようです。 研究主宰者(Principal Investigator : PI):研究プロトコル(研究計画書)は書きましたか? 学生:まだです。分らないことだらけで…そもそも、研究プロトコルを作成することがなぜ重要なのでしょうか?研究プロポーザル(研究提案書)と同じようなことを書けばいいのか、何を書かなければならないのか、どのような構成にしたら良いのか…所定の書式に従って書けばよいものですか? 経験の浅い研究者は、研究プロトコルを作成する目的や重要性だけでなく、どうやって書けばよいのかも理解できていないようです。この記事を通して、研究プロトコルの書き方について理解を深めていきましょう。 研究プロトコルとは 研究プロトコルとは、臨床試験の背景、理論的根拠、目的、デザイン、方法、統計的考察および実施機関(団体)について説明する文書です。臨床研究の計画の概要を示すだけでなく、研究課題に対して満足できる答えを示すように作成する必要があります。研究プロトコルは、研究を実施するための試料と手順を示す文書なのです。 なぜ研究プロトコルが重要なのか 治験や臨床試験において、研究プロトコルは最も重要なものであり、臨床研究の基盤となるものです。臨床試験の被験者の安全と収集するデータの完全性を保証するための文書でもあります。拘束力を持つ文書である研究プロトコルには、臨床試験の一環として許可されていること、あるいは許可されていないことを記載します。さらに、自分が所属する研究機関の研究倫理審査委員会(IRB)に申請を提出する際、最も重要な文書と見なされるものです。 研究プロトコルは、医療専門家、統計の専門家、薬物動態の専門家、臨床研究コーディネーター、研究プロジェクトマネージャーなどからの情報を基に作成します。研究のあらゆる側面が最終的な文書に網羅されていることを確認しましょう。 研究プロトコルと研究プロポーザルの違い 混同されることが多々ありますが、研究プロトコルと研究プロポーザルは、異なる文書です。下表に二つの相違点を並べてみます。 研究プロポーザル(Research…

学術ライティング教本3冊の紹介と書評

オーストラリア国立大学のインガー・ミューバーン(Inger Mewburn)教授が、大学院で勉学に勤しむ学生さんにお役立ち情報をお届けするコラム「研究室の荒波にもまれて(THE THESIS WHISPERER)」。今回は、学術ライティング(論文の書き方)を学ぶのための本がありすぎてどれを読もうか悩んでいる人に朗報です。ミューバーン教授とPhD学生が3冊を紹介してくれています。 論文の書き方についての書籍は、私が執筆したものも含め、とんでもない数あります。なかなか書けていなかった書籍の紹介を、やっと投稿することができました。この記事は、私とジャスミン・ジェンソン(Jasmine Jenson)による書評をまとめたものです。いまだに私の部屋には本が山積みですので、この中の1冊でも読んで書評を書きたいという方がいたら、是非メールで連絡してください! 書名:Writing a Watertight Thesis: A Guide to Successful Structure…

PhD(博士課程)終盤の負のループから抜け出すためのサポート

オーストラリア国立大学(ANU)のインガー・ミューバーン(Inger Mewburn)教授が、大学院で勉学に勤しむ学生さんにお役立ち情報をお届けするコラム「研究室の荒波にもまれて(THE THESIS WHISPERER)」。今回は、PhD(博士課程)の学生が博士論文執筆の終盤ではまってしまう負のループについてと、負のループから抜けてもらうためのANUの具体的な取り組みを紹介しながら解説します。 私はよく博士号取得の終盤を「頭にバケツを被っている状態」に例えます。研究開発界隈では、この時期を「The Write Up(書き上げ)」と呼んでます。博士論文を完成させ、最終評価にたどり着くまでには膨大な時間を要します。 これまで後回しにしていたものを必死にまとめ、慌てて論文を完成させようと焦りだすと同時に、家族や私生活が犠牲になり、学生自身もどんどん孤立していくのです。 締め切りという圧迫感と同時に執筆作業の孤独感を味わうというのは、まさに、バケツを被って生きているようなものです。 このバケツを被っている期間が短ければ、たとえば6か月程度であれば、なんとか耐えられるでしょう。しかし、何年もバケツを被り続けている人が少なくないのです。そもそも、期限内に論文を提出する人は約20%。多くの学生が提出期限の延長申請をしており、さらに何度も延長を繰り返す人が多いのです。もはや、博士号の取得に5年かかることは、決して珍しいことではありません。 提出が間に合わない理由はさまざまです。指導者に恵まれない、論文執筆の難しさ、手に負えない量のプロジェクト、実験の失敗など。ただ、結局のところ、どんな理由だろうがそれは問題ではなく、提出できない結果生じる問題にどう対処していくかです。 懸念材料のひとつは、私が勝手に「負のフィードバック・ループ」と呼んでいるものです。 学生たちは、奨学金が尽きたり、長い低収入の暮らしが厳しくなってくると、研究の時間を削って仕事に就かざるを得なくなったり、出産のような後回しにできない人生の選択を優先します。健康が悪化する人、論文提出のストレスでさらに悪化してしまうような人もいます。このような負のループが、論文提出をさらに難しいものとしてしまうのです。 そこで、我らANUチームは、学生たちがこの負のループから抜け出し、健全な生活を送れるよう支援しています。 まずは「書く」ことからサポートしていきます。そもそも、研究論文というのは、最終段階になって死に物狂いで「書き上げる」ものではなく、「書きながら進める」ものです。つまり、論文執筆には継続して生産的に文章を書くスキルが必要なのです。とはいえ、これは、言うは易く行うは難しです。多くの学生が、博士課程在学中にほぼ毎日執筆はするものの、残った文章は論文というより膨大な言葉の沼のような有様になるのが現実です。…

完璧主義から自分を解放する

オーストラリア国立大学(ANU)のインガー・ミューバーン(Inger Mewburn)教授が、大学院で勉学に勤しむ学生さんにお役立ち情報をお届けするコラム「研究室の荒波にもまれて(THE THESIS WHISPERER)」。今回は、博士課程在学中の大学院生から寄せられた「完璧主義」についての記事を紹介。完璧の呪縛から自分を解放し、楽になるにはどうすればよいのでしょう。 あなたは完璧主義者でしょうか?自分は違う、と私も思ってきましたが、昨年心理セラピストから「機能型」完璧主義(functional perfectionism)という考え方を教えてもらいました。その考察については過去の記事、「学者なりに燃え尽き症候群を引き起こす完璧主義を分析してみた」に書きました。私がいつも陥る完璧主義の落とし穴も、ネガティブなひとり言を言うことなので、ガブリエラが送ってくれた記事が、完璧主義仲間の皆さんにも響くと思います。 ガブリエラ・ウィルソン(Gabriella Wilson)は現在、グリフィス大学クイーンズランド・カレッジ・オブ・アートの博士課程に在籍し、アクティビスト・アート(activist art)の視覚言語と表現について研究しています。アーティストやギャラリー関係者としてビジュアルアートの世界で働いていた「黒歴史」があるそうですが、現在は過去の自分のやり方を改め、グラフィックデザインの世界に没頭しています。また、クイーンズランド・カレッジ・オブ・アートの講師、デザインスタジオInkahootsのアシスタント、Animal Liberation Queenslandのボランティアも行っています。美しい娘のエルキーに加え、イジーとタリーという2匹の毛むくじゃらの赤ちゃんのママでもあり、そして、世界一忍耐強い男性の妻でもあります。彼女が目指すのは、社会の不公正について伝え、物事に揺さぶりをかけることです。ガブリエラについて詳しくは、こちらをご覧ください。 <ここからガブリエラ・ウィルソン(Gabriella Wilson)による投稿> 先日、博士号取得について湧き上がった不安の渦中で気づいたことは、成功すると保障されていない限り、何に対しても完全にコミットできない自分がいること。ミスなんて、ありえない。完璧さ、万歳!期待に応える人、万歳!まっすぐな一本道の人生、万歳! タル・ベン・シャハー(Tal…

最適な投稿先ジャーナルの選び方・16のポイント

研究を発表するジャーナルについて思い悩むのは、あなただけではありません。データを集め、あらゆる可能性を考察し、自信を持って投稿できる論文を完成させるのに膨大な時間と労力を要したはずですから、その発表の場に最適なジャーナルを選びたいと思うのは当然です。面倒な投稿プロセスを考えると、尚更です。 ここでは、それぞれの論文に最適なジャーナルを探すのに考慮すべき16のポイントをご紹介します。 読者層 始めから当たり前のようなポイントに思われるかもしれませんが、想定読者層の決定は、ジャーナル選択において特に重要なプロセスですので、慎重に行うべきです。自分の原稿を誰に届けたいかを明確にしましょう。たとえば、研究成果を広く知ってもらうのが目的であれば、読者数が多く、オンラインに強みのあるジャーナルを探すのがよいかもしれません。 一般読者が興味を持つ研究内容か、それとも特定の集団のみを対象とするものかをはっきりさせることが重要です。例えば、医学研究の中でも一般の人々にとっても有用な内容もあれば、医療従事者の中でもごく限定された読者に向けて書かれた内容もあるでしょう。 ジャーナルの目的や扱う領域 読者層が、自分の想定読者層に合致するジャーナルがあれば、そのウェブサイトを熟読し、その主な目的や重要視していることを把握しましょう。サイトに目を通すことで、そのジャーナルがどのような種類の論文に重きを置いているかはすぐに分かります。 掲載論文を読みながら、それらの論調や情報、視点が自分の研究と親和性のあるものかを確かめ、かけ離れたものであれば別のジャーナルを検討しましょう。また、自分の論文の目的が、ジャーナルの掲げる目的に合致するかも大切です。 その雑誌のスコープ(収録範囲)も調べましょう。幅広い分野を網羅しているのか、あるいは特定の分野に絞った論文のみを掲載しているのかで、自分のニーズに合うかどうかを判断できます。 刊行年数 長い歴史を持つジャーナルへの投稿を目指しましょう。出版部数の多さに加え、刊行年数の長さによってオンラインや大学図書館での注目度は左右されます。ジャーナルは古ければ古いほど良いと考えるのが無難で、創刊5年未満のジャーナルには注意が必要です。 リジェクト率 ジャーナルにリジェクトされることを望む人はいませんが、不採択は必ず発生します。ジャーナルによってリジェクト率は異なり、そのジャーナルがどのようなものかを理解する指標となります。例えばリジェクト率の高いジャーナルは、権威も高いかもしれませんが、出版の基準を満たすことが非常に難しいのかもしれません。逆にリジェクト率が低いジャーナルは、刊行を続けるために多くの投稿を必要としているのかもしれません。むやみに論文を出版することは、ジャーナル自体と投稿された論文の評価を下げることになります。 リジェクト率が中程度のジャーナルが総じて最良の選択となるでしょう。定評のある出版社から出版され、論文が評価を受けることになるからです。 海外の読者層…

学術ライティングでの括弧の使い方

括弧は、文中の特定の単語を他の単語から区別するために使用されています。学術ライティングでは、数式、頭字語(アクロニム)などが丸括弧の中に書かれるのが一般的ですが、引用符の中などに角括弧が使われることも多々あります。括弧は数式においては計算する順序を示すために使われ、文中で使用される場合は、括弧内が引用の一部ではないこと、あるいは原文のままでは正確ではないこと、省略されている語句があることなどを読者に示すために使われます。こうした一般的な使い方の他に、学術ライティング独自の例外的な使い方も存在します。 英文でよく使われる4種類の括弧は、日本語では角括弧、丸括弧、波括弧、山括弧と呼ばれますが、英語と米語で呼び方が異なるものもあります。文中で使用する順としては、{([ ])}ですが、これも使用する英語の種類によって異なる場合があります。 [ ]:角括弧(米:bracket、英:parenthesisと呼ばれることもあり) ( ):丸括弧(米:parenthesis、複数形:parentheses、英:bracket) { }:波括弧(米:brace、英:curly bracket) <>:山括弧(米:inequality sign、英:pointy bracket) 上記のほかに〈 〉がありますが、これは主として数学で利用されています。ただし、ほとんどのコンピューターのキーボードにはこの記号がないので、山括弧で代用している傾向があります。この問題の対処法として専門の植字で〈…

APAスタイルガイドの概要

研究論文を出版するプロセスは、複雑です。ひとつでも必要な要素の書き方を間違えると、書き直しや作業のやり直しで苦労したり、最悪の場合には投稿論文がリジェクト(却下)されたりという事態に陥りかねません。そうならないように、論文に特化した書き方に準じて論文原稿を作成する必要があるのです。APAスタイル(もしくはAPAフォーマット)は、研究者が英語で論文を執筆する際のガイドラインのひとつです。 この記事では、APAスタイルに準じた論文の書き方と、このフォーマットで論文を書くために理解しておくべき基本的なポイントを解説します。 APAスタイルとは APAスタイルとは、APA(American Psychological Association:アメリカ心理学会)が定めた公式の書式で、心理学や教育学といった社会科学分野で標準的に使用されるフォーマットです。APAスタイルは、研究論文の出版業界でも広く使用されています。 研究論文の執筆の際に、スタイルやジャーナル出版社の執筆要項が分らなくなったりすることはよくある事ですので、論文を書き始める前にあらかじめジャーナルの執筆要項を確認し、そのガイドラインに従って執筆していくことが最良な方法です。 論文を書くにあたって、参考文献(リファレンス)の書き方は時代とともにスタイルが変わることもありますが、他の項目に関する書式については、APAスタイルを参照しておけば、模範的な研究論文を書くことが可能です。 APAスタイルガイド第7版 APAスタイルガイドは定期的に改訂されており、現在最新のものは、2020年に出版された第7版(7th edition)です。APAスタイルは、英語の学術論文を書くための書式であり、大学の期末レポート、クリエイティブ・ライティング、作文、あるいは研究の意味について自分の見解をまとめるレポートの書き方とは異なるものです。まず、APAスタイルの基本書式を以下に記します。 ページレイアウト アメリカで規格化され、主に北米で使われている用紙(8½x11インチ)に1インチ(25.4 mm)の余白を取り、ダブルスペースで書きます。段落の書き出しにはすべて0.5インチインデント(字下げ)を付け、すべてのページにページ番号を挿入します。 フォント…

豪州森林火災で感じた「自分のしていることは意味がある」と信じることの大切さ

オーストラリア国立大学のインガー・ミューバーン(Inger Mewburn)教授が、大学院で勉学に勤しむ学生さんにお役立ち情報をお届けするコラム「研究室の荒波にもまれて(THE THESIS WHISPERER)」。今回は、2019年から2020年にかけてオーストラリアで猛威を振るった森林火災のさなかにあって教授が考えた、行動を起こすことの大切さについてお伝えします。 みなさん、ごきげんよう。夏休み、あるいは世界のどこかでは冬休み中でしょうか。今年は、私の住むオーストラリアが、悪いことばかりで世界のメディアを賑わせているため、早めにブログに戻ってきました。 サウス・コーストの恐ろしい映像をご覧になった方もいるでしょう。現地で休暇を過ごしていた古い友人が送ってくれたこの写真は私が目にした何百枚もの写真の1枚ですが、彼女の夫が撮影したものだと思うと、余計に恐ろしさが増します。(訳者注:原文は2020年1月に公開されたブログです。) 友人は、オーストラリア史上最多の陸上避難者の一人となる前夜、ビーチで過ごしていました。何日も連絡が取れず、彼女の身に恐ろしいことが降りかかったのではないかと心配でした。この夏、多くの人が同じような不安を経験したことでしょう。私のチームメイトで友人のビクトリア・ファース・スミスは著名なアーティストの父親のことが心配で眠れない夜を過ごしたといいます。避難勧告をされても、一生分の創作や思い出が詰まった家から離れようとしなかったという気持ちは理解できます。しかし、実際に避難することになった頃には、安全な場所への移動が困難となり、ビクトリアは心配でたまらなかったといいます。大切な人が危険にさらされている時の無力感は本当にひどいものです。ソーシャルメディアに目を通したり、テレビを見たりしながら、励ましのメールを送ることしか、私にはできませんでした。 そう、テレビです。普段の休暇のように読書や執筆には集中できないため、私はテレビをたくさん見ました。友人のケイティが言うところの「ゆっくりと動き続ける大災害」の中で生活するのはシュールな体験でした。世界の終わりのようでありながら、Netflixや宅配ピザなどの享楽にふけることもできたのです。まあ、いつもの楽しみがすべてそのままではありません。郵便の寸断もまだ数週間は続くかもしれませんし、キャンベラでは避難者受け入れのためペットボトルの水のような生活必需品も不足しています。博物館、ギャラリー、プール、商店など、普段は暑さをしのぎ、気晴らしになるような施設も閉鎖されています。煙に飲み込まれた建物の検知器が作動し続け、普段の生活や睡眠を困難にしています。 私が住んでいるオーストラリア首都特別地域(ACT)は、火災の起きている地域から数百キロメートルは離れています。この原稿を書いている時点では域内で火災は発生していませんが、たった今3キロ離れた地点で火災が発生しているという噂も耳にしました。南部に住む友人宅は、先ほど停電したそうです。次に何が起こるか予想もつきません。混迷の中、オーストラリア国民がこの事態について分かったことがあるとすれば、何一つ状況が「普通」じゃない、ということです。私は、南にある国立公園の被害が絶対に拡大すると予測しています。16年間火災の起きていないこの地域は、私たちの水源を囲んでいます。電力はすでに影響を受けています。皆さんがこれを読むころには、さきほど話した享楽のいくつかは、すでに失われているかもしれません。 キャンベラ市内では火災はまだ発生していませんが、ここ1ヶ月間は、ひどい大気汚染の影響を受けています。輝く宝石のような首都から、地球上で最も汚染された首都になってしまったのです。景色もひどいものです。これは昨年5月、国会議事堂前の芝生で行われた気候変動への抗議デモに参加した私の家族です(手前が私と夫、奥が看板を持った息子)。見てください、この美しい青空を。 大好きなあの空を、もう1ヶ月も見ていません。 (私はこのブログで政治的なコメントをしないようにしていますが、長く読んでくださっている方なら、おそらく私の立場はおわかりでしょう。お願いですから、コメント欄で緑の党についての荒らしはしないでください。見つけ次第すぐに削除します。一部の人が主張するようにこの混乱を緑の党のせいにするのは全く馬鹿げています)。 数週間前、国会議事堂の前の芝生はこんな感じでした。 空気質指数が200を超える環境での生活は悲惨なもので、かなり恐ろしい未来が垣間見えます(そして、ニューデリーなどに住む人たちの日々の苦労が分かります)。煙を避けるために、私は多くの時間を室内で過ごし、クリスマスらしいことも普段通りに行いました。料理をし、食べ、飲み、来客をもてなし、気候変動に対する首相の恥ずべき無策についてSNSで非難しました。先月は、首相に手紙を書いたのですが、ハワイにいる彼はさぞ忙しくて読む暇がなかったでしょう。 2003年に壊滅的な森林火災のあったキャンベラは、その経験から教訓を得て、オーストラリアの他の地域と比較すると、この地域の災害管理は非常に優れています。気候変動への対策と準備の必要性についての認識を共有する緑の党と労働党がオーストラリア首都特別地域(ACT)自治政府の政権を連立で担っていることが大きいでしょう。例えば、12月初旬に消防団のボランティアがスーパーマーケットで広報活動を行ったのもその取り組みの一つでした。私たちは、ボランティアの一人と長い時間話して説明を受け、防災計画の資料をもらいました。もらった資料は私が急にオロオロし始めた元日まで台所のベンチに放置してありましたが。電気がないのは不便だけど、断水なんてどう対処すればいいのだろう、と。急いでホームセンターに行くと、他のキャンベラ市民たちは、私たちよりずっと先にポリタンクを入手していました(幸い、私たちも、最悪の事態になっても数日間は持ちこたえられるだけの量を手に入れることができました)。…

読者を想定しながら論文を書いてみよう

オーストラリア国立大学のインガー・ミューバーン(Inger Mewburn)教授が、大学院で勉学に勤しむ学生さんにお役立ち情報をお届けするコラム「研究室の荒波にもまれて(THE THESIS WHISPERER)」。今回は、アカデミック・ライティング月間に参加したことにからめて、論文を書くときには読者を想定して書こうというお話です。 #acwrimo(Academic Writing Month)も終盤です! (訳者注:原文は2021年12月に公開されたブログです。) 今年のアカデミック・ライティング月間(Academic Writing Month)に参加しましたか?もちろん、私は参加しました。今年はロックダウン期間中だったので、オーストラリア国立大学(ANU)構内で盛り上がりました。ここで詳細を語ることはしませんが、結構頑張ってワークショップを開催したので、別ページに掲載のワークショップ情報も見てもらえると嬉しいです。 この記事では、私が開催したワークショップの中から「どうやって説得力のある文章を書くか(How to write a…

序論・考察に文献レビューを書き込むときの注意

特定の分野の特定のテーマ(主題)に関して過去に行われた研究を網羅的にまとめたものは、 文献レビュー(literature revies) と呼ばれます。文献レビューでは、焦点を絞ることが重要なので、研究テーマとの関連の薄い論文を幅広く集めるより、そのテーマに関連する論文を中心に厳選すべきです。この記事では、文献レビューの特徴と、序論・考察に文献レビューを書くときの注意を紹介します。 まず、文献レビューは、次のような点で役立ちます。 • 過去に行われた研究を評価する 特定のテーマに関連する文献を集めることで、過去にどのような研究が行われたかを理解し、重複した研究を行うのを避けることができます。 • その分野・テーマの専門家を知る 研究で行き詰まってしまった場合に助言を求められるように、その分野の知識があり信頼できる研究者を知っておくことは重要です。 • 鍵となる課題を明らかにする 文献レビューを行うことの最終的な目標は、何か新しいものを議論の俎上にのせることです。文献を集めると、取り組むべき重要な課題を見定めるのに役立ちます。 •…

よく練られた研究論文のアウトラインの書き方

研究論文を書き出そうとしているところですか?研究結果を得るための実験に数ヶ月を費やした後、研究室主催者(PI : Principal Investigator)や指導教員から、学術雑誌(ジャーナル)に投稿するための論文を書き始めるように言われたかもしれません。研究論文の書き方について研究仲間や先輩と話して助言をもらっても、どう書き始めればよいのか、なかなか考えはまとまらないものです。 研究論文を書くことは、研究者の多くが頭を悩ませる、手間と時間を要する作業です。いずれは論文を書かなければならないと分っていながら、追い込まれるまで手を付けず、先延ばしにしがちです。そして、インターネットで書き方を検索したり、先輩にアドバイスをもらったりしながら、何度も書き直しつつ何とか論文を書きあげるのです。研究論文を書き上げて発表することは、研究者にとって自分の研究や結果を他者に伝え、理解してもらうためでもありますが、簡単ではありません。 今回は、論文を効率的に書くための助けとなるアウトライン(概要)の作成方法についてまとめてみました。 研究活動において論文を出版する目的は、学術研究を促進し、研究への支援(助成金)を獲得することでもありますが、論文執筆の主たる目的は、自分の仮説と研究データを科学コミュニティに示し、コミュニティが特定の分野における理解を深めるのに寄与することです。研究論文とは、研究の仮説から、プロトコル、方法、結果、結論、そして考察までを網羅する研究プロセスの正式な記録なのです。 だからこそ、しっかりとした構成に沿って書き進める必要があり、そのためにはアウトラインを作成することが重要です。 研究論文のアウトラインとは 研究論文のアウトライン(概要)は、学術研究論文を書く際の基礎になります。アウトラインは、IMRAD(Introduction, Methods, Results And Discussion)形式に準じて組み立てるのが一般的ですが、論文の種類によって異なることもあります。アウトラインは、読者に対して論文の内容を簡潔に伝えられるよう、以下の項目で組み立てます。 1.…

捕食出版社: 学術出版界に広がり続ける病

捕食出版社は、一般的にオープンアクセス(OA)の形で学術雑誌(ジャーナル)を公開しており、それらは捕食ジャーナル(あるいはハゲタカジャーナル)と称されています。こうした捕食出版社(ハゲタカ出版社)は、論文の投稿者に論文掲載料(APC)を課しますが、査読は行いません。捕食ジャーナルに論文を投稿する研究者は後を絶ちませんが、時には投稿先の学術ジャーナルが査読付であるかのように見せているだけであることに気づかずに投稿してしまう研究者もいます。研究者としての実績の評価基準に出版数が含まれているため、研究者にとって論文の出版数は重要なのです。 研究者を捕食する出版社 捕食ジャーナル (predatory journal/ハゲタカジャーナル) は、広く批判されてきました。実際には提供していないサービスに課金し、査読なしで論文をアクセプト(受理)するので質の低い論文が公開されることになります。そのことに気づかない読者は、これらの出版物を信頼してしまうかもしれません。つまり、読者の研究に悪影響を及ぼす可能性があると言えます。にもかかわらず、捕食ジャーナル掲載される論文の数は増えています。2014年には約8,000の捕食ジャーナルに42万本の論文が掲載されていたと推測されていましたが、この数が同じペースで増え続けていたとすれば、2021年には、15,000誌、掲載される論文は約78万本にまで増えているとだろうとの分析もあります。 多くの若手科学者が、どのように運営されているかに気づかずに捕食ジャーナルに論文を投稿しています。捕食ジャーナルでは論文が簡単に発表できるので、「Publish or Perish(出版か死か)」と言われるほど論文の出版を重視する学術環境では魅力的な投稿先なのです。投稿した学術論文がリジェクト(却下)されることはよくありますが、捕食出版社ではアクセプト(受理)されやすいので、少なくともその捕食ジャーナルが著者を食いものにしていると分るまでは、投稿先として選択してしまうのです。 一方で、投稿先の学術ジャーナルが補足ジャーナルだと知りつつ投稿する著者もいます。論文を発表する必要に迫られて、簡単にすぐ掲載してくれる捕食出版社を選ぶ可能性もあります。さらに、学術界での地位を上げていくためにも論文を出版する必要があります。投稿先が補足ジャーナルかどうかを所属大学が調べていなければ、捕食ジャーナルへの掲載であっても論文の出版実績という常勤職に就くための必要条件をひとつ満たすことができるのです。 捕食ジャーナルの影響 捕食ジャーナルは、オープンアクセス(OA)・ジャーナルの信頼を損ないかねません。良質なOAジャーナルも、論文著者に掲載料を請求しますが、主な違いは、良質な学術誌は厳格な査読を行っているという点です。しかし、研究者がOAジャーナルの区別をするのは難しい場合があります。当時米コロラド大学デンバー校の図書館員であったジェフリー・ビール(Jeffrey Beall)はこの問題に取り組み、、研究者を食いものにしている疑いのある1,155以上の捕食ジャーナルをリスト(ビールズ・リスト)にしました。しかし、このリストは2017年に閉鎖され、現在も再開されてはいません。 信頼を損なうこと以外の影響はどうでしょうか。この問題を取り上げた論文(Who is…

優れた科学コミュニケーターになって研究を広めよう

科学とは無縁の友人に、自分の科学研究について話をしてみたことがありますか?どれほど科学的な概念が重要で、動かぬ証拠に基づいているか、そして、いかに多くの人たちに認識されていないかに気づいて驚くことでしょう。COVID-19のパンデミックは、科学が人々の生活に及ぼす効力と影響を過小評価すべきではないとの教訓となりました。自分で科学的発見について理解すると同時に、周囲の人にも理解してもらうことの必要性はますます高まっています。 この記事では、驚くべき科学の謎を理解したいと心から願っている科学とは縁のない人たちに、科学研究を説明することの大切さと、科学コミュニケーターとして科学を説明する際に注意すべきポイントをまとめてみました。 なぜ科学に縁のない人たちに科学を説明する必要があるのか 今日、科学研究の成果は、科学分野の学術雑誌(ジャーナル)を介して世の中に伝えられています。科学分野で評価の高い学術ジャーナルは、専門用語で複雑に書かれているため、その分野の専門家だけしか理解出来ないと言われていますが、科学における発見や発明は、科学研究者だけのものではありません。最終体に、科学研究の成果は、科学者かどうかに関わらず、直接的あるいは間接的にあまねく人に影響を及ぼすものです。 科学および科学的発見を理解することはきわめて重要なので、科学的な研究論文や発見には説明が必要です。さらに、研究目的と広く世界の人に及ぼす影響をより深く理解してもらうためには、研究論文の構成要素の考察と結論という2つが鍵となります。研究成果を科学者以外にも届けるために、科学を万人にも分りやすいように説明する努力が求められています。 科学コミュニケーターとその役割 科学コミュニケーター(もしくはサイエンスコミュニケーター)とは、科学研究に関する知識を持ち、わかりやすく簡潔な方法で科学的知識を広めることを目的とした活動を行う人のことで、科学の普及において重要な役割を担っています。科学コミュニケーターは、科学に関する知識と効果的なコミュニケーションスキルを使い、科学とは縁遠い人たちの科学的理解の溝を埋め、研究成果や発見を理解する手助けをします。 科学をわかりやすく伝えるということは、研究者にとって、非常に優れた演説をしたり、教員を補佐(ティーチングアシスタント)したり、研究論文・学位論文を執筆したり、複数の実験を管理したり、結果を分析したり、革新的な研究成果の結論づけを行ったりするのと同様に、途方もない作業であるかのように思えるかもしれません。しかし、特定のポイントを抑えた説明の仕方をすれば、科学研究を簡潔にし、科学コミュニケーターとして自らの研究業績を世界に広めるのを促すことができます。 出典: 英国王立化学会 科学コミュニケーションによる恩恵 研究者が評価の高い学術ジャーナルに論文を発表すれば、その特定の研究分野の研究者の目には触れるようになりますが、研究が目指す最終ゴールではありません。この研究の重要性や研究全体における持続可能性にどう影響するかを、科学者以外の人にも説明する必要があります。 科学コミュニケーションがどのように研究者に役立つかを書き出してみます。 より幅広い人々とその研究を共有できる 研究者の世界的な存在感を高める…

アイデアが「盗用」されるのを防ぐには

研究アイデアが「盗用」されるのを防ぐには オーストラリア国立大学のインガー・ミューバーン(Inger Mewburn)教授が、大学院で勉学に勤しむ学生さんにお役立ち情報をお届けするコラム「研究室の荒波にもまれて(THE THESIS WHISPERER)」。今回は、共同研究や学会、ふだんの会話で自分の研究アイデアが他人に「盗用」されるのをどうやって防ぐかというお話です。 学術研究者は常に自分の研究アイデアが「盗まれる」ことを心配しています。この不安は、学術コミュニティの多くの人たちの中でも、特に博士課程(PhD)の学生に大きな影響を与えているようです。 博士課程の学生が自分のアイデアを守ることに神経を尖らせるのには、理由があります。それは審査があるからです。博士号(PhD)の取得は、プロの学術研究者として自分の研究プロジェクトを遂行できる人物であることの証しです。そのために合格しなければならない審査の中に、「独自の知識」を「独立」して形成することが含まれているのです。 学生にとって、この独創性(originality)に関する要件が、論文執筆と同等の作業量と複雑さをはらんだタスクとして重くのしかかります。 科学系博士課程の学生が、論文を提出する直前にその研究テーマを他者に「スクープ」された(出し抜かれた)とか、人文科学系の学生が理論的なアイデアを、時には指導教官に、「盗まれた」という話を聞いたことがあるかもしれません。問題の核心は、あまり触れられることはないですが、博士課程で他者と共同作業をすることの難しさにあるのだと思います。どのように他者の研究を認めつつも、「独自性のある知識」を生み出していると主張すればよいのでしょうか。 もちろん、学術界でも協働研究をするので、PhD学生自身が創出したアイデアの権利を守る精巧な慣習と規則は存在します。論文における共著者名の記載順は、このような慣例の最も重要なものの一つです。慣習に従って、研究において最も重役割を果たした研究者を筆頭に、貢献度に応じて順番に名前を記載する必要があります。ただし、厳密に守られているとは言い切れません。 科学系研究論文の共著者リストは、重要な貢献をした(であろう)研究者の皆々様が名を連ねることが一般的で、著者名の順番も複雑になり、時には、もめごとの火種になります。論文の中には、200名にもおよぶ著者名が記載されたものもありますが、200名の貢献度の順番なんて付けることができるのか!?この手のもめごとを何とか収める手伝いに駆り出される時は、いつも頭痛がします。個人的な経験から言わせてもらうと、どの位置に自分の名前が書かれたかごときで腹を立てる人は、よっぽど社会的な重圧の中にいて〇%&#▲…(以下、自主規制)。 人文科学の分野では、数百という単位ではなく、2-3名の研究者との共著が一般的ですが、それでも複雑です。人文科学系論文の慣習として、最も高い立場にいる研究者の名前がメンター役として共著者の最後に書かれることが多いです。「メンター(熟練者が未熟練者や若手を育成すること)」には、相談に乗ることから、実際の論文の執筆や校正まで、さまざまな立場が含まれます。人文科学系論文の最後の著者名は、しばしば行われた研究の「由来」(その出どころと特色)を示す情報となっています。なので、人文科学においては、著者リストの最後に名前が掲載されるのは名誉なことであるとともに、最後の「ビッグネーム(著名人の名前)」は、編集者の目に止まりやすく、非常に重要です。 ここで、博士課程の研究以外の場面でも、指導教員が、あなたの研究の共著者であると主張するだろうという点を指摘しておかなければなりません。そうです。たとえ彼らが相談にのってくれただけでも、発展的な編集に携わったのであれば、間違いなく共著者となるのです。博士課程の学生が単独で論文を執筆することを許されるなんて、よくできたフィクションのような話しだと割り切りましょう。 正しいか正しくないかに関わらず、博士号というものは、知識とは「所有」できるものであり、利益をもたらすものだという考えに基づいて成り立っています。学術界における「利益」とは、表彰、名声、そしてもちろん、昇進という形で得られる現金を指します。所有権と利益の概念があるということは、一方で盗難にあう危険性もあるということです。すべての研究者は、自分達の知的財産(IP)を守ることに注意を払うべきですが、審査を受けなければいけない博士課程の学生は、特に気をつける必要があります。 知的財産について疑心暗鬼になるのも良くないですが、FUD(fear,…

研究者同士のカジュアルな会話をうまくこなす方法

オーストラリア国立大学のインガー・ミューバーン(Inger Mewburn)教授が、大学院で勉学に勤しむ学生さんにお役立ち情報をお届けするコラム「研究室の荒波にもまれて(THE THESIS WHISPERER)」。今回は、実は研究キャリアにとっても重要な研究者どうしのカジュアルな会話「ティールームカンバセーション」を上手く行う方法について、ミューバーン准教授の共著書を引きながら紹介します。 年末年始はゆっくりできましたか?(訳者注:原文は2022年1月に公開されたものです。) オーストラリアは夏の静かな1月が始まりました。2019年(から2020年にかけて)の恐ろしい夏を後に、火災の危険性の低い夏を2年続けて迎えています。実際、12月の大半はかなり雨が降って、ものすごく幸せに過ごせていました。 そんな中、オミクロン株の流行が起きたのです。 クリスマスにちょうどぶつかり、陽性者が出た私の家族は隔離生活をしていました。2021年は、2020年を振り返って「大胆に行こう」という風潮が一般的になったと思います。でも、私個人としては今でも2019年の終わりを引きずったままです。 いつも読んでくださっている皆さんはご存じだと思いますが、私は新年に「抱負」ではなく「キーワード」を掲げることにしています。キーワードとは生き方の指針で、決断を下す際の材料になるものです。2年連続で「Less(より少なく)」をキーワードにして取り組みましたが、2022年も、これをキーワードにして取り組むべきだろうと考えています。そこで、今回も「Less」について書こうかと思いましたが、「Less=省力化」の精神で、年の初めの記事には、執筆中の本から文章を転用しようと思います。一粒で二度おいしい形で。 ここでご紹介するのは、研究によって人々に影響を与えることについてサイモン・クルーズ(Simon Clews)と共に書いている本のある章の初稿です。(私たちは『Be visible or Vanish』=人の目に付かなければ消えてしまう、というタイトルにしたいのですが、今のところ出版社は乗り気ではありません) この本の中では、学会発表からテレビのインタビューまで、自らの研究を紹介するよう求められる約20の場面への対処法を紹介しています。そのような状況における隠れた法則を表面化し、成功のための戦略を打ち出すのがこの本の目指すところです。各章は、キーポイントのTL;DR(Too…

英語が苦手でも英語論文を読める最強の翻訳ツール

論文執筆のためのリサーチで、必要な情報にアクセスできないことほどもどかしいことはありません。論文の参考となる完璧な研究論文を見つけたとしても、それが英語で書かれていて理解できないとすれば、大いに問題です。 このような言葉の壁に直面したとき、最初に思いつくのは、Google翻訳やDeepLなどの一般的な翻訳ツールに頼ることかもしれません。しかし、機械翻訳(MT)に飛びつく前に、研究ニーズに最も適したツールを選択することをおすすめします。どの翻訳ツールも同じと思われるかもしれませんが、間違った翻訳ツールを選んでしまうと、作業効率が落ちる可能性があります。 ここでは、英語論文を読むための最も信頼できる翻訳ツールを選ぶ際に考慮すべき重要な要素について見ていきます。 その機械翻訳は使用言語に適しているか それぞれの翻訳ツールがすべての言語ペアに対応していないように、使おうとしている翻訳ツールが使用言語で英語論文の翻訳に適した訳出ができる十分な技術が備わっているかを確認する必要があります。 例えば、英語からトルコ語に論文を翻訳したい場合、みらい翻訳は適したツールではないでしょう。 採用している技術によって、特定の言語の組み合わせを管理する能力は異なるのです。この性質は翻訳後言語の希少性に応じて、より顕著に表れます。希少言語への対応には、あらゆる言語のニーズに対応できる ユレイタスのような翻訳会社を選択することが最良の選択でしょう。 論文を複数の言語に翻訳したい場合は、それぞれの言語ペアに最も適合する 機械翻訳エンジンを組み合わせて使用すると効果的ですどのツールが最も良い出力結果を得られるかを確認したい場合は、文書の一部で試してみて、目指す訳文に一番近いツールを確認することができます。 研究分野に対応できるか 使用する言語ペアに強いツールであることは大前提ですが、論文に使用されている特有の専門用語を翻訳できるツールであるかどうかも重要なポイントです。例えば、医療や法律の分野で使われる用語は、非常に専門性の高いため、機械では意味を汲み取ることができないことが多いのです。 さらに、新しい医療機器について書かれた論文など新情報の多い内容を翻訳しようとすると、まだ多くの単語に機械学習が対応できず、理解不能な訳文のまま出力されることがあります。そのため、専門分野に対応した翻訳を行うには、その分野の翻訳に特化したツールが必要です。 訳文の精度 どの翻訳ツールが論文に適しているかを判断するための最も重要な指標は、何といっても「正確さ」です。言い変えれば、出力が不正確なツールの使用は避けるべきです。…

質的研究の長所と短所

質的研究とは、端的に言えば、研究対象を測定して質的データを採取し、それを用いて、言語的・概念的な分析を行い、結論を得る研究―となりますが、全てのデータに意義があるわけでもなければ、データに意義があっても分析方法が適切でなければ意義のある結論は得られません。質的データには、観察記録やインタビューなどの言語データなどが含まれ、こうしたデータから社会的・文化的な意味を汲み取っていく研究が「質的研究」または「定性的研究」と呼ばれます。数値による記述が多くなるか、言語による記述が多くなるかなどは扱うデータの性質によって異なりますが、収集されたデータを分析し、客観的に説明し、傾向を理解すること、そこから導き出される新しい理論を構築することを目指す点では、どのようなデータ、分野にも概ね共通していると言えます。質的研究がよく使われている分野としては、臨床心理学、看護学、社会学といった人文社会科学系の研究が挙げられます。 質的研究が重視するもの 人間とは、常に研究対象でありながら、把握が困難な存在です。事象が生じる頻度をとらえ、どうすれば他の研究者が実験を再現することで同じ結果を得ることができるかを重視する自然科学系の研究では数量的な手法(量的研究/定量的研究)が好まれるのとは異なり、人文社会系の研究では再現性を求めず、客観的な観察と文書化を重視する質的な手法(質的研究/定性的研究)が多用されます。 演繹法でなく帰納法によるアプローチ 飛躍や矛盾なく情報を整理して筋道を考える論理的思考には、複数の事実を足し合わせて結論を導き出す「演繹法」と、物事や事例などの現象に共通する情報やパターンを抽出し、共通項を踏まえて結論を推論する「帰納法」がありますが、質的研究は帰納法によるアプローチです。 質的研究(定性的研究)が最適なのに使われていない場合、質的アプローチを試みることによって、変数を操作してコントロール(対照群)と比較し、再現可能な解答を得るために、複数のシナリオで分析してみなければ―といった量的アプローチに必要な作業は不要になります。 帰納法では、前提となる現象や事例の質や量が大切なので、共通項を見つけ出す際のデータに誤りや偏りがあると、正しい結論を導き出すことができません。また、前提とするデータの数が多いほど精度の高い推論を導き出すことが可能になります。こうした特徴は、後述する「質的研究における限界」にも関連してきます。 説明して理解することを目的に観察を重視することは、意見、感情、経験(従来の定量的研究だと混乱を生じさせる変数)に関する研究を促進させます。さらに、調査環境を操作しないように、インタビューあるいはグループディスカッション過程で動的な性質を保つことができます。研究者は、事前に承認された質問に縛られることなく、リアルタイムでさらなる質問をすることで、当初予定していた質問への回答よりも踏み込んだ調査を行うことができます。また、研究者が直接立ち会うことで (観察者が隠れていることも場合も、フォーカスグループの司会者として参加する場合も考えられます)、非言語的なコミュニケーションも観察できます。 質的研究の手法(アプローチ) 質的研究とは、現象に関する質的データを用いて帰納的に探求する研究であるとされ、幾つかの手法(アプローチ)があります。代表的なものを以下に示します。 現象学的アプローチ : いろいろな学問分野で用いられているアプローチ。特定の出来事を経験した人や、特定の期間を生きた人といった研究協力者から話を聞き取り、語られる「生きられた経験(lived experience)」を分析し、解釈していく記述的研究手法。現象学的アプローチには、マニュアルや決まった手順がない。…

パンデミック突入2年、PhD取得者の就職事情、分野別状況は?

オーストラリア国立大学のインガー・ミューバーン(Inger Mewburn)教授が、大学院で勉学に勤しむ学生さんにお役立ち情報をお届けするコラム「研究室の荒波にもまれて(THE THESIS WHISPERER)」。ミューバーン准教授がパンデミック開始から2年を経たオーストラリアにおける大学の内外、分野ごとの求人傾向や、PhD取得者の就職事情について伝えてくれました。 ご存じの方も多いと思いますが、私はPhD取得者の就職について研究しているので、ここ10年近く、研究者向けの求人広告を見てきました。今回の記事では、パンデミックが始まって2年が経過した時点での、大学内外の求人市場についての最新状況をお伝えします。 この記事の全文を読まずに内容を確認したいという場合は、最新のレポートをダウンロードして参考にしてください。もちろん、この記事を最後まで読んでいただければ嬉しいです。 求人広告が一種のデータとして面白いのは、それが雇用者の希望する、おそらく実在しない人物のリストであることです。求人広告の文面を読み込み、広告数をカウントすることで、求人市場の規模や状況を知ることができます。また、求人広告からは雇用者が求める人材―つまりどのようなスキルや能力、考え方を持つ人物を求めているのか―も分かります。教育者としては、求人広告を見ることで逆に教室で何を教えるべきかを見直すことができます。もちろん、大学は雇用者が求めるものだけを教えるべきではありませんが、雇用側の要望を全く無視することもできないのです。私は、求人広告のデータの調査研究を、ライティングとプレゼンテーションのワークショップの内容に生かしたり、オーストラリア国立大学(ANU)が就職を希望する学生にどのような専門スキルを付けさせるかを決める際の指針にしたりしています。 研究職の求人広告に関する私の初期の研究は、レイチェル・ピット博士(Rachael Pitt)と協力して行った研究で、これをまとめた論文「Academic Superheroes」は、私の論文の中では最もダウンロード(そして引用)回数の多い論文となりました。2017年以来、私はANUの同僚のハンナ・スオミネン(Hanna Suominen)准教授とウィル・グラント(Will Grant)准教授と共に、ANUが運営する学外の研究職を紹介するサイト「PostAc」プロジェクトを通して学外の求人広告を見てきました。 私たちは、研究者のための求人検索アプリPostAcを公開しています。機械学習と自然言語処理を用いたこのアプリは、およそ数百万件の求人広告を分析するもので、幅広い業界で研究経験のある人材が求められていることが確認できます。PostAcの高度な処理能力により、各業界の求人状況の分布を可視化することができるのです。下の図は、2015年のSeek.comの全求人広告から、製造業、運輸・物流業の求人情報を抽出したものです。 求人広告を、研究能力が不要な「0」から、高い研究能力が必須となる「10」までに分類してランク付けしています。製造業、運輸・物流業では、トラック運転手(研究能力は不要)から、事務職や技術者(研究能力を活用しながらもそれをクリエイティブに使うわけではない仕事)、そして少ないながらも増加している博士号レベルを超えた能力が必要な職種までが示されています。これらの業種を詳しく見ると、3Dプリンターやロボット、AIに関わる仕事がたくさんあることがわかります。 業界によって状況は異なります。製造業、運輸・物流業でこのようになっているのは、業界特有の課題があるためです。私はよくAmazonを例として挙げています。かつてのAmazonでは倉庫のスタッフを大勢雇用していましたが、注文処理をスピードアップするためにロボット工学への投資を始めたことから、現在はロボットの設計・保守を行う人材を必要としています。こうした仕事の多くは、コンピュータサイエンスのような分野で学位を取得し、定量的なスキルを重視する人に適しています。しかし、Amazonでは定性的な研究を行ってきた人材も必要としています。例えば、私たちのデータベース上にひとつの求人案件「チャネルマーケティング・マネージャー」という職がありますが、この仕事は、プラットフォームを閲覧する人々によって集められたデータやインタビュー、アンケートを通じて、人々がなぜ特定の本を購買するかを調査する仕事です。…

後輩指導は博士課程の学生にとって有益か?!

自分の研究を管理するだけでも大変なのに、学部生の指導を行うように言われたことはありませんか?指導方法なんて分からないのに、研究責任者(PI: Principal Investigator)から、学部生の指導を引き受けるように言われたら、どうしますか。確かに大変な役割ではありますが、博士課程(PhD課程)の間に後輩の指導(教育指導)を経験することは、自分自身の知識を広げ、研究に関する目標を学部生と共有し、学部生の研究の対象分野への好奇心をそそるには絶好の機会とも言えます。 もちろん、後輩を指導することは容易ではありません。特に、指導経験がない場合、研究者にとって難しいものになる可能性は捨てきれないでしょう。ただ、博士課程のどの時点で後輩学生の指導を行うか、どのような教育指導を行うか、何名の学生を受け持つのかなどは大学や学部によっても異なるようですし、博士課程になったからといってすぐに教育指導を任されるのではないようです。教育経験を積むために、自主的に教育の機会を持つ研究者もいます。STEM(科学・技術・高額・数学)分野で研究を行う研究者の場合、指導責任には、実験室での講義、例えば、学部生と修士課程学生のために科学的方法と技術の実地説明(デモンストレーション)を行うこと、管理業務、セミナーの開催、そして評価などが含まれるなど、指導内容もそれぞれです。 PhD課程における教育指導の内容 ここでは、PhD課程における教育指導の一例をあげてみます。 教育指導には、実際の教室での授業、学業に関する助言、学生の相談対応、各学部関連の業務、評価を踏まえた履修内容(カリキュラム)の開発、進行中の研究を探究するための学会参加、学部生・大学院生向けセミナーへの参加とそれらへのフィードバック、応用的な研究や学術活動、などといったことが含まれます。教員指導者は、学術方針を順守し、評価データの収集や割り振られた業務に積極的に関与することも期待されています。 大抵の博士課程の学生は、時間を取られる教育指導に関わるのを嫌がるものです。研究者は自分の研究活動に専念したいので、余計な責任を負うのを避けたいと思っています。しかし、博士課程で教育指導に従事することは、研究者としても有益な経験となり得るのです。 PhD課程での教育指導がどう有益なのかを挙げてみます。 1. プレゼンテーション能力を高めることができる 2. 研究テーマに関する知識を磨くことにつながる 3. 研究者自身の研究に関する知識を伝える機会となる…

新規性が高く斬新な研究テーマを見つけるための文献レビュー

研究テーマの選択 研究課題の特定 効果的な文献調査のコツ ジャーナルデータベースの使い方

論文を書籍として出版してみよう-9つのステップ紹介

論文が出来ていればそのまま書籍として出版できると思われがちですが、そんな簡単なものではありません。論文と、書籍として出版するための原稿では、構想から出版に至る過程でさまざまな違いがあります。特定の読者に向けて書かれる論文は、多くの点で書籍とは異なるのです。特定の研究分野に関する自分の論文は、より多くの読者にも興味を持ってもらえるかもしれない―という場合には、論文を書籍として出版することを検討してみるのも良いでしょう。 この記事では、論文を書籍として出版するための手順について解説します。 論文と書籍原稿の違い まず、論文と書籍として出版するのを前提に書かれる原稿の違いを見てみましょう。論文は、研究者が何年もかけて執筆するものです。行った研究について書かれた論文は、学術雑誌(ジャーナル)に掲載・公開されます。しかし、そうした論文の中には、より多くの読者に向けた書籍として出版されるものもあります。論文を書くにも書籍用の原稿を書くにも努力と時間が必要ですし、同じぐらいの文章量を書くことになるとしても、この2つはいくつかの点で異なっています。 論文は常に疑問や仮説から書き出しますが、書籍は冒頭の文章で読者の関心をつかむ必要があります。ざっくりと言えば、論文は問いかけから始め、書籍は答えから始めるということです。 別の大きな違いは読者です。論文の内容はもちろん、形式や言葉遣いは、学術関係者が読むことを前提に書かれています。一方の書籍は、より多くの読者に届けることを意図して、学術界関係者以外の読者にも理解しやすいよう、より分りやすい言葉遣いや形式で書かれます。 役割も異なります。論文は研究活動の成果を報告するものですが、書籍は研究とその研究の社会への影響について読者に関心を持ってもらうための媒体と言えます。 論文は書籍として出版するには 論文と書籍の構成が同じになる必要はありません。そもそも論文と書籍では読者が異なるので、書籍の執筆目的と同様に書き方を変える必要があるからです。書籍を特定のコース(学科)の参考図書にする意図で作成する場合は、そのコースの講義摘要を考慮し、取り上げる題材を決めます。論文は、題材のほとんどを網羅しているかもしれませんが、既存の参考図書や資料とのギャップを埋める必要はあるでしょう。 さらに、ひとつのコースのためだけでなく、焦点が異なる複数のコースの参考図書として書籍を作成したいと考えるならば、読者のさまざまな関心を考慮する必要があります。 ほとんどの論文には、相互参照(クロスリファレンス)、脚注、参考文献一覧が付いています。論文を書籍として出版する際には、専門的すぎる学術用語を使わないようにするとともに、一般的な読者向けに文献一覧を簡略化しておきます。 論文を書籍として出版する際に考慮すべきこと • 書籍を作成する目的と解決を目指す問題 •…

How to Prepare Impressive Research Presentations

Key elements of an academic presentation Technical aspects of a presentation How to organize key…

研究の再現性に影響する5つの要素

科学研究がうまくいかない時、何が原因なのか?この疑問に直面する研究者は多いことでしょう。研究室主催者(Principal Investigator: PI)と研究デザインについて話をした際、実験が再現できること、そして同じ結果が示せることがいかに重要かの説明を聞いた方も多いはずです。研究者は、実験計画を管理し、実験自体を成功させ、結果を示します。実験を繰り返して結果を分析した時に、最初の実験結果と同じ結果が再現できないとしたら・・・実験で何か間違えたのか、あるいは研究自体に何らかの問題があったのかと考えるかもしれません。ここでは、研究の再現性(Reproducibility)とは何で、研究に対してどのような影響を与えるものなのか、そして実験を繰り返し再現できるようにすることで、どのように研究の質を向上できるのかを取り上げていきます。 研究の再現性とは? 研究の再現性とは、研究の独自性を決定する大きな要素のひとつであり、ある研究と同じデータと手法を使って実験を行えば、元の研究と一致した結果が得られることを意味します。研究者は、ある結果を生み出した実験を繰り返し、同じ結果を得ることで、新しい発見の妥当性を確認します。さらに、該当分野の他の研究者も、元の結果に似た結果を生む同じ実験を繰り返すことができるのです。 有効な実験と結果を生み出すことは、科学界においてより確実で信頼できる科学的発見を構築し、該当分野の将来の調査研究のためにしっかりした文献に発展させるのに役立ちます。しかし、重要な研究結果を示すものの、結果が再現できない研究も多々あります。このような研究は、研究者たちを失望させ、その研究のリサーチクエスチョン(研究課題)や仮説は妥当なのか、そのリサーチクエスチョンに対しては別の方法を試すべきではないか、という疑問を生じさせることになります。 科学研究の再現性は、挑戦的かつ議論の的とされる課題ですが、研究機関や資金提供者も解決を試みています。米国細胞生物学会(American Society for Cell Biology:ASCB)は、基礎研究の再現性を高める方法とベストプラクティスを特定し、再現性に関するさまざまな用語を以下のように説明しています。 直接的再現 – 以前観察された結果を再現するのに、元の実験設計・条件を用いる。 分析的再現…

研究者向け・生産性を高める時間の使い方

オーストラリア国立大学のインガー・ミューバーン(Inger Mewburn)准教授が、大学院で勉学に勤しむ学生さんにお役立ち情報をお届けするコラム「研究室の荒波にもまれて(THE THESIS WHISPERER)」。今回は生産性の高い研究生活を送るために日々どう時間を使うべきか、ミューバーン准教授が伝授します。 今年もすっきりしない年明けとなりました。 この原稿を書いている1月中旬、ここオーストラリアでは新型コロナの変異株オミクロンが猛威を振るっています。エッセンシャルワーカーたちが罹患したり、隔離されたりしたために物流にも影響が及んでおり、スーパーマーケットに行っても何が手に入るかわからないという事態です。先日は何の問題もなく果物や野菜が買えたのに・・・ (訳者注:オリジナルは2022年2月2日に投稿されたもの) (上のTweet:キャンベラの皆さん。Crace(キャンベラ郊外の町)のスーパーマーケットSupabarnの青果売り場です。) もちろん、毎度のことながらトイレットペーパーは品薄で(トイレットペーパー不足の混乱さえなければコロナ禍にあることすら忘れそうです)、残念なことに肉とオイスターソースは購入できませんでした。 (上のTweet:さすがのSupabarnでも肉の棚はガラガラ。私はベジタリアンと一緒に住んでいるのでひき肉がなくても大丈夫だけど。) (下のTweet:オイスターソースの棚は、見事に空っぽ。みんなが、このソースの美味しさにハマってしまう気持ちもわかるけど。幸い、海鮮醤の最後の1本を手に入れられたのでそれを堪能しておきます。) オーストラリア人のツイッター上には、政府やテニス選手、あるいはお互いに向かってありとあらゆることをまくし立てる書き込みが氾濫し、まるで、「教室に鳥が飛び込んで来た(※オーストラリアの作家Colin Thieleの詩”Bird in the…

Quoraで学術出版の専門家「エナゴアカデミー」編集部が答えます【PR】

2021年5月に運用開始したQuoraアカウント「エナゴ(Enago)」では、大学院に在学されている方や研究者の皆さまのお役に立てるよう、エナゴ学術英語アカデミーの編集部が学術関連の質問にお答えしています。 エナゴ学術英語アカデミー編集部は、大手科学ジャーナル論文発表経験者、博士号保有者、アカデミックライティング・言語・学術出版スペシャリスト、STEM分野論文校正スペシャリスト、医化学系ジャーナル編集経験者などで構成される学術出版に関する専門家チームです。 論文執筆に関するテーマに限らず、研究生活や大学院に関すること、学術ジャーナルでの論文発表をするための投稿・査読プロセス、学術出版業界に関すること、オープンアクセス、研究プロモーションに関してなど、できる限りお答えしてまいりますので、ぜひQuoraで回答リクエストをお寄せください。 運用開始から1年が経ち、エナゴ学術英語アカデミー編集部一同、研究者の皆さまとのインタラクティブなつながりに感謝とやりがいを感じております。 「エナゴ(Enago)」が答えた人気QA3選 Q:日本の理系研究者から「日本語で論文を書くより英語で論文を書く方が論理的になる」とよく聞きます。これはなぜですか? A:言語によって書き方は異なります。英語で書いた原稿を日本語に訳す場合でも、論文にふさわしい文章に仕上げるとなると、相当の修正が必要になる場合があります。 日本語と英語ではいくつか異なる点があります。たとえば、日本語の文では語順が主語→目的語→動詞となり、主語が省略される場合もありますが、英語の文では主語→動詞→目的語の順になります。また、日本語の名詞は単数形と複数形を区別しません。さらにロジックの流れも日本語・英語で異なります。 回答のつづきはこちら Q:学術論文の書き方について、どうやって学びましたか? A:まずは、大学の図書館に収蔵されている学位論文に目を通し、形式やフォーマットを理解するところから始めると良いです。 学位論文に関する規定も調べ、これに基づいて構成を練り、指導教官のアドバイスをもらいましょう。 語彙の正確さや細かい文法は気にせず、まずは書いてみることです。何度も試行錯誤しながら後から直せばいいのです。 回答のつづきはこちら Q:論文が引用されたことをどのようにして検出されているのでしょうか?引用数はどのような仕組みで調査しているのでしょうか? A:論文が引用されたかどうか、何回引用されたかどうか、どう検出しているかを見てみましょう。 論文が、ScopusやWeb…

研究者向け おすすめ英文チェックツール6選

文法とは言語において文章を書く上でのきまりです。コミュニケーションの中で新しい俗語(スラング)が生まれ、それが世界中に拡散するにつれ、文法の正しい使い方に影響が出ることで、研究者が効果的な学術文章を書く際にも悩ましい問題となってきています。学術文章は知識を広げるための基本的情報を提供するものですので、文法的にも表現においても正しく書かれていなければなりません。幸いなことに、AIベースの英文チェックツールを活用することで、正しい文章の執筆を少しでも楽に、時間をかけず、間違いなく行うことが可能です。研究者は学術文書の英語をチェックするのに最良の英文チェックツールを用いることが重要です。 この記事では、オンラインで利用できるツールの中から、言語スキルの向上や文法・スペルチェックができるツール6つを選出し、特徴を解説していきます。 英文チェックツールを使用することの大切さ 学術文章のあるべき姿は、客観的かつ正確な内容がしっかりとした構成で、かつ改まった(フォーマルな)表現で書かれていることです。学術雑誌(ジャーナル)に学術論文を投稿する際にオンライン英文チェックツールを使って文法やスペルをチェックすることは、最終的な公表に必要な具体的要件を満たすことにつながります。こうしたことから、各研究分野における適切な言葉遣いや文法の改善だけでなく、学術ジャーナルの様式に関するガイドライン(スタイルガイド)や単語数の制限(字数制限)といった要件を満たすのに役立つチェックツールの需要はますます増えています。さらに、オンライン英文チェックツールには、学術英語の執筆、専門用語や科学的表現のチェック、出版に向けた諸々の準備において的確なサポートを提供することも期待されています。こうした機能を有するツールを使いこなすことができれば、研究者が学術文書を執筆するのに大いなる助けとなるでしょう。 研究者におすすめの英文チェックツール6選 原稿の質を向上させるための拡張機能を搭載したオンライン英文チェックツールが幾つか公開されていますが、ここでは研究者向けにおすすめのチェックツール6選を紹介します。 1. Trinka AI Trinka AIは、世界各国の研究者に論文英文校正サービスを提供しているエナゴを運営するクリムゾンインタラクティブが開発した世界初の学術論文・テクニカルライティングに特化したAI搭載の英文校正ツールです。学術文章や専門用語が用いられる原稿の改善や、投稿原稿を公開可能な形に整える際に役立つように開発されました。また、英語の文法やスペルチェックだけでなく、論文著者と連携し、全体的な言語の改善を確実に行うという機能が特徴的です。原稿の修正を提案しつつ、学術的なスタイルガイドに合わせていきます。さらに、学術的な文体、適切な言葉遣い、概念の明確化、文構造、単語の代替え提案といったカスタム機能も付いています。修正提案の理由についても詳しい説明が付きますし、文脈を変えずに別の表現を提案してくれるので単語数を削減することにも役立ちます。世界各地の研究者が論文にアクセスしやすいように、米国式か英国式を選択することができることも学術論文にとっては重要な点です。 言語学者、ITエンジニア、そしてデータサイエンティストのチームが開発したこのツールは、学術関連から日常生活まで、あらゆる人、あらゆる種類のコミュニケーションをサポートするツールです。 2. Grammarly Grammarlyは、世界的IT企業であるGrammarly社が開発した人工知能と自然言語処理を用いたライティングツールで、文法チェック、スペルチェック、盗用・盗作検出サービスを提供しています。ウェブ上だけでなく、Google…

エナゴが「これからの学術出版におけるAIの役割」アンケート調査の結果を公開【PR】

論文執筆および出版支援のグローバルリーダーである研究支援エナゴ(Enago)が、学術出版における人工知能(AI)の役割と影響を探る包括的なグローバルアンケート調査を実施し、その結果『Role and Impact of AI on the Future of Academic Publishing』を公開しました。これは4回目の学術研究に関するリスク評価調査として2021年8月から2021年10月までの5週間にわたって行われたアンケート結果をまとめたものです。この調査では、世界54か国の212大学に所属する350人以上から回答が得られました。 このグローバルアンケート調査は、以下の点の掌握を目的に実施されました。調査結果のポイントも記します。 調査の目的 AIに関する(地域、年齢層、教育、性別に基づく)人口統計的見地の把握 AIに関する一般的な認識と認知度の理解…

博士課程をスムーズに修了させるための研究計画の作成

博士課程に入るのは簡単なことではありませんが、その後、博士号を取得するまでにもさまざまな困難に直面するでしょう。この記事は、博士課程での研究をスムーズに完了させるための研究計画(タイムスケジュール)の作成についてのアドバイスです。 博士号取得までの研究計画の作成はなぜ必要か 博士号を取得するまでの過程には、いくつかの節目があります。論文の提出、発表(プレゼンテーション)、審査、viva voce(口頭試問)といった節目を事前に確認し、それに向けて研究計画を作成しておけば、期限に追われて慌てることを避けられます。研究計画を作成し、それを着実に実行していくことができれば、研究者として成長し、自己管理力を身に付けることにもつながるでしょう。 研究計画の作成前に確認すること しっかりした研究計画を作成する際には、次の項目を確認しておく必要があります。 1. 博士課程において重要な段階(節目) 2. 取り組むべき作業 3. 専門的な要件 4. 関連する障害(リスク) 研究計画を作成するための準備…

論文の考察はどうやって書く?

オーストラリア国立大学(ANU)のインガー・ミューバーン(Inger Mewburn)教授が、大学院で勉学に勤しむ学生さんにお役立ち情報をお届けするコラム「研究室の荒波にもまれて(THE THESIS WHISPERER)」。今回は、論文の要でもある「考察(ディスカッション)」には何をどう書けばいいのかという話です。 以前、友人であり効率化の師でもあるジェイソン・ダウンズ(Jason Downs)の勧めで、リチャード・コッチ(Richard Koch)の『The 80/20 Principle: The Secret to Achieving More with…

助成金申請用のデータマネジメントプランの書き方

助成金提供者は申請にさまざまな条件を付けていますが、最近ではそれらに加えて、データマネジメントプラン(Data Management Plan, DMP)の提出も強く求めるようになっています。研究資金調達のための申請書は、包括的なデータマネジメントプランの予備的な計画の概要を記すものと言っても過言ではありません。 欧州全域で実施される研究およびイノベーションを促進するフレームワークである『ホライズン2020(Horizon 2020)』は、研究者間のデータ共有や研究者によるデータの研究倫理面での報告義務を促進するため、プロジェクトデータはオープンにされるべきであるとしています。 データマネジメントプラン(DMP)とは データマネジメントプラン(または、データ管理計画)とは、研究プロジェクトにおいて特定のフォーマット、アプローチ、基準、および方法論を選択した理由を詳しく説明する補足文書です。詳述すると言っても、2ページ以内にまとめるようにします。データマネジメントプランを作成する主な目的は、生成したデータの種類、管理方法、さらに他の研究者がデータを利用できるようになっているか、アクセスが可能になっているかを説明することにあります。研究助成金の申請時または採択時にデータマネジメントプラン(DMP)の提出が常套化してきているので対応が必要です。 理想的なデータマネジメントプランには以下の質問への回答を含めます。 1. どのようなデータを作成したか 2. データの収集または作成方法 3. データの所有権責任者の情報…

PhD口頭試問Vivaに備えた質問12選と答え方

昼夜問わずに取り組んだ博士課程論文を提出して安堵のため息をついたところですか?でもまだ安心できません。論文提出は確かに大きな成果ですが、次は口頭試問(Viva)が待ち受けています。この面接が、博士号を取得できるか否かを決定付けます。指導教員を含めた審査官が提出した論文について質問をしてくるので、論文著者として的確に答えることが求められます。博士課程の口頭試問で聞かれることはさまざまですが、よく聞かれる質問もあります。この記事では、口頭試問で聞かれる可能性の高い12の質問と、その答え方についてのアドバイスを紹介します。 博士課程の口頭試問で聞かれる質問の内容 口頭試問では、審査官一般的には指導教官とそれ以外の2名)からの論文に関する質問に答えます。博士課程の口頭試問で聞かれる質問の内容は、大きく分けると以下の4つです。 1. 一般的な質問 2. 研究の背景と方法 3. 分析と研究結果 4. 議論と結論/予想される影響 博士課程の口頭試問へ向けて、上述の内容に関して聞かれる可能性の高い質問を想定し、回答を準備しておきます。予め質問に備えた練習をしておけば、実際の口頭試問の際にうろたえずに済むでしょう。 博士課程の口頭試問でよく聞かれる質問とその答え方 一般的によく聞かれる質問への回答を準備しておくことは簡単だと思うかもしれませんが、論文の内容に反対する質問に備えておくことも同様に大切です。緊張のあまり話題からそれてしまう可能性も十分にあります。そうなると、予想していなかった質問をされることにつながってしまうかもしれません。 論文を完璧に説明することが期待されているわけではありません。審査官は、研究に関する理解、方法、分析・結果、結論および予想される影響などを知りたがっているのです。…

翻訳会社を選ぶときに確認しておくべきこと

翻訳を依頼したいとき、どの翻訳会社を選べばよいのか分らなくなることはありませんか。ここでは、翻訳作業を外注しなければならなくなった時、どのようなことに注意して依頼先を選べばよいかをみてみます。 まず、翻訳会社を探す前に確認しておきたいことが3つあります。それによって依頼先を選ぶときに注意すべきことも見えてきます。 翻訳する目的は 何語に翻訳するか 何を重視するか 翻訳の目的 翻訳する目的はさまざまです。例えば、「資料」を翻訳するにしても、内部向けか外部向けか、教育用か販売促進用か、プレゼン用か配布用か、など目的に合わせた翻訳が求められます。目的が曖昧なまま依頼してしまうと、訳文も曖昧になりかねません。また、翻訳は基本的に料金と質が比例するものです。何を目的に翻訳するのかを明確にしておきます。 例えば、 ・「ここに書かれていることの大枠が理解できればいい」というレベルの翻訳であれば価格を下げて質を妥協することも可能です。 ・ウェブサイトに掲載して購買者の興味を引くための翻訳であれば妥協はできません。商品紹介文の正確性はもちろん、商品の魅力を引き出すキャッチコピーはターゲットの国民性・地域性に合わせた大胆な提案も求められます。 ・学術ジャーナルに論文を掲載することが目的なら、該当分野の博士号・修士号保有翻訳者が翻訳すれば、分野に合わせた専門用語や言い回しに翻訳してもらうことができます。 ・複数ヶ国でアンケートを実施する場合など、正確な比較対象まで求められる場面なら、一度翻訳したテキストを逆翻訳(バックトランスレーション)することで言葉のニュアンスまできちんと意図する通りに翻訳されているか、各言語に同じ意図が反映されているか確認することもできます。 翻訳言語 たくさんの翻訳会社が翻訳サービスを提供しています。とはいえ、英語や中国語のように利用者数の多い言語であれば対応している翻訳会社は多いものの、利用者数の少ない希少言語になると扱っている会社の数は少なくなります。しかも言語ペアによっては、他の言語を間に挟む必要がある場合もあり、そうなると時間も費用も余計にかかることになってしまいます。翻訳会社の扱っている言語、提供しているサービス内容を把握しておくことが大切です。 重視すること…

論文の基本構成を見直してみよう

何年もかけた研究の成果を論文にまとめるには苦労が伴います。つい尻込みしてしまいそうですが、論文の基本構成を抑えた上であらかじめ論文に書くことを整理しておけば、執筆作業が楽になります。この記事では、基本的な論文の構成を見直してみます。 論文の構成 研究論文の構成は、研究の性質・特徴や投稿先の出版社や学術雑誌(ジャーナル)の書式、大学や所属機関の指示によっても異なってきます。一般的な論文には、序論(イントロダクション)・方法・結果・考察・結論の5つのセクションから構成されているので、以下にそれぞれのセクションに含むべきことを挙げてみます。 序論(イントロダクション) 序論は論文の導入部分ですので、研究の目的、背景、問題提起、仮説、先行研究との関連性を明らかにします。何が問題で、なぜそれが重要なのか、その問題はどのように解決するのかといった問いかけを行います。これらの問いに答えるべく、他の研究者がこの問題、あるいは類似の問題にどのように対処したかを示すには、既に行われた研究文献、発表された論文の調査を行う必要があります。序論を書くには「歴史的視点」も求められるのです。科学論文の序論であれば、序論に文献レビューを含まれることがよくありますが、社会科学または人文科学分野の論文では、文献レビューを序論に入れ込まずに別途章立てられるのが一般的です。このように分野によっても異なるので注意が必要です。ただ、いずれの形にしても、研究の内容に関連する先行研究のレビューを記し、照らし合わせを行うことで、自分の研究の重要性を強調するのですが、ここはあくまでも序論ですので、細かく書きすぎないことにも注意します。 方法:実験の経緯 研究で行った実験の方法、データの収集方法などを示します。研究で行った実験は、他の研究者が再現できるように十分に詳しく記す必要があります。特殊な技術や装置を使用した場合は、説明や図も付けます。研究の結果と考察はこの実験に大きく影響されるので、このセクションは論文の中で最も重要であるとも言えます。よって、本論を理解するために必要な研究(実験)の材料と方法を可能な限り時系列に準じて明示しておきます。新しい手法を用いたのであれば、既存の方法と何が違うのかも含め、詳細に説明するようにしましょう。 結果 ここには、起きたこと、研究で明らかになったことを記します。結果は、実際に行った実験や調査、分析などの内容と結果を記す部分なので、過去形で書かれることが一般的です。他のセクションが、目前の題目に応じて過去形または現在形の混在で示されるのに対し、研究の中で既に起きたことに焦点を当てて事実を述べます。このセクションには主観を入れず、客観的かつ論理的に記すようにしましょう。また、論文の結論ではないので解釈や意見は書きません。必要であれば図表を使って分りやすく示し、文中にしないデータなどがあれば付録に付けるようにします。 考察 ここでは、結果が示す意味に踏み込み、理論と仮説につなげて発見したことが何を意味するかを議論します。仮説を裏付ける結果が得られたか、得られていない場合はどう異なっているのか、なぜ仮説とは異なる結果が得られたのか―などを書きます。結果と考察をひとつのセクションとしてまとめて書く方がよい場合もありますが、まとめにくい場合は個別のセクションとして書くのがよいでしょう。ただ、結果と考察をひとつのセクションとして書くように指示しているジャーナルもあるので、書式を確認しておきます。序論で提示した課題や仮説について言及する際、仮説に弱い部分があったのであれば、その点も明らかにします。結果が何を意味するのかが分らない、あるいは明確に論じることが出来ない場合は、正直に表明しましょう。 結論 研究が複雑な場合、結論に研究の結果を要約し、明らかになったことを詳細に記述します。ジャーナルに投稿する論文であれば、このセクションは簡潔にまとめます。書き方については、自分の分野の慣例やジャーナルの書式に準じてください。内容としては、研究の実用的な応用の可能性や、研究の限界、将来研究への方向性を際立たせ、自分の研究の新規性や重要性を強調して書くようにします。未解決の問題があれば課題として整理しておくとよいでしょう。得られた結果を踏まえて客観的な検討を行い、今後考えられる課題や研究を発展させるための展望についても言及します。 論文を出版することを念頭に準備しておく 論文を書くとき、論文を複数の形式で書いてみるのも、論文の書き方を学ぶのに優れた方法です。それぞれに柔軟性を持たせつつも、投稿すると想定した特定の学術ジャーナルの書式に合わせて論文を書いてみます。複数の書式に合わせて論文を書いておけば、投稿先ごとに書き直す手間が大幅に削減されるので、時間の節約にもなります。とはいえ、所属機関や出版社・ジャーナルによってさまざまな要件やガイドラインがありますので、書き始める前に確認しておくようにしましょう。…

PhDが無意味に感じられる理由と対処法

オーストラリア国立大学のインガー・ミューバーン(Inger Mewburn)准教授が、大学院で勉学に勤しむ学生さんにお役立ち情報をお届けするコラム「研究室の荒波にもまれて(THE THESIS WHISPERER)」。今回はPhD課程(博士課程)の学生が襲われる無力感、そしてそれに対処する具体的な方法について解説します。 内容についての注意事項からお伝えします。この連載では、明るく、役立つことがらについて書くよう心がけていますが、この記事では不安やうつ状態など、精神衛生に関わる話に触れています。 抵抗のある方は閲覧をお控えください。サイトを離れる前に、子猫のGIFをどうぞ。 マット・マイトの‘The Illustrated Guide to the PhD’によると、PhDとは知識の顔に突き出た「おでき」だということです。 ぜひ、ページをご覧いただきたいのですが、マイトは、人類の知の総和を大きな円で、個々の知識を小さな円で図示します。そして、個人のPhD研究を、大きな円の縁の部分から突き出す小さな膨らみとして表示しています。 PhDという「おでき」です。 マット・マイトはいい奴で、彼の図にも説得力があります。彼が言いたいのは研究が積み重なることにより、人類の知識の総和が徐々に大きくなっていくということです。個々のPhDが革新的である必要はありません。個人の貢献が微々たるものでも、多くのPhD取得者の「おでき」が集まることで、大きな意味を持つというのです。…

コロナ禍が大学院卒の求人にどう影響したか豪州で大規模調査を実施

オーストラリア国立大学のインガー・ミューバーン(Inger Mewburn)准教授が、大学院で勉学に勤しむ学生さんにお役立ち情報をお届けするコラム「研究室の荒波にもまれて(THE THESIS WHISPERER)」。今回は研究者の就職支援にも力を入れているミューバン准教授がコロナ禍がどう博士号取得者の求人に影響したか、その影響は分野によるのか、オーストラリアの求人広告データを分析・調査した結果を考察します。 私は博士課程の学生の博士課程修了を支援するために、このブログ「研究室の荒波にもまれて」を始めました。ここ5年間は、ブログの目的を、修了後の就職支援にも広げています。今、世界にはたくさんの問題がありますが、学術研究がその多くの解決につながると私は信じています。ですから、研究者はその才能を発揮できるようにしなければなりません。 しかし、ちゃんとした仕事に就くまでの道のりは険しいものです。学術研究の世界に身を置いていたということは世の中でも特に才能に恵まれた人材のはずで、でたらめで不安定な非正規雇用に甘んじる必要はありません。しかし、多く人が他に選択肢がないと感じてしまっています。学問の世界で「次につながるという希望のもと」不安定な仕事に就いている人たちを見ると、腹立たしい気持ちになります。もし、学問の世界がまっとうな仕事を供給できないのであれば、他の人たちから仕事を得るのです。しかし、研究に理解のある雇用主を見つけるのは難しい場合もあります。研究分野がニッチであればなおさらです。 研究者を、学術界の内外の仕事に結びつけるというこの問題に、私は自分の研究時間のすべてを費やしています。情報は力です。どのような就職チャンスがあるかという全体像をはっきりと見渡すことができれば、ある程度思慮深い選択が可能になります。パンデミックが始まって以来、研究者として、私は2つの疑問を自分に投げかけてきました。 1)パンデミックは、博士号取得者の就職市場にどのような影響を与えるか? 2)学問分野によって、影響は異なるのか? 私たちは1年半前からこのことについて調査しており、ようやくいくつかの暫定的な答えを提示できる状態になりました。この研究は私ひとりでやっているわけでなく、この大きな問題に取り組むためのPostAcチームの結成に私も一役買ったというのが正確なところです。これは、私のオフィスで撮影したメンバーの写真です。 左から Dr Will Grant、Dr Lindsay…

論文執筆を終わらせる方法(そして人生を続ける方法)

オーストラリア国立大学のインガー・ミューバーン(Inger Mewburn)准教授が、大学院で勉学に勤しむ学生さんにお役立ち情報をお届けするコラム「研究室の荒波にもまれて(THE THESIS WHISPERER)」。論文執筆に想定以上に時間がかかりお悩みではないですか。今回はミューバーン准教授が建築学在籍時に習得したプロジェクト管理術をどう論文執筆に生かせるか解説してくださいます。 最近、「論文執筆を終わらせる方法(そして人生を続ける方法)=How to finish that big writing project (and get on with…

フィールドスタディ報告書の書き方: 6つのキーポイント

研究活動の場は、研究室や図書館、職場だけに留まりません。研究の一環として、データを収集するためには、フィールド(研究室や実験室のワークステーションのように普段、研究を行っている場所以外)に出ることが必要になることもあるでしょう。そして、フィールド調査の結果は、フィールドスタディ報告書としてまとめる必要も。この記事では、フィールドスタディ報告書に書き込むべき項目と、報告書を作成する際に気をつけるべきキーポイントについて考察します。 フィールドスタディ報告書とは? フィールドスタディとは、研究テーマに即した場所を訪れ、直接観察、資料(データ)の収集・採取、あるいは聞き取り調査やアンケート調査を行って、学術的に客観的な成果を得るための調査技法です。調査対象を観察・分析し、問題意識を深め、新しい知見を得ることが目的です。そして、フィールドスタディ報告書とは、特定の現象、行動、理論に基づくプロセスの分析、フィールドでの観察結果を文書化するものです。観察・分析された理論をまとめ、特定の研究における課題の解決を目指します。 フィールドスタディ報告書の重要性 フィールドスタディ報告書は、学術成果に留まらず、さまざまな運用および技術における調査結果を記録するものとしても重要な文書です。 データの分析、理論的枠組みとの比較に使われる、観察対象または資料(標本)に関する詳しい情報を提供するものです。 標準化された手順(プロトコル)を作る際の解決策を導入するにあたり、課題を特定するのに役立ちます。 参考文献の管理に関する情報を把握したり、効果的で的確な解決策のための新たなプロセスを見つけ出したりするのに役立ちます。 フィールドスタディ報告書の書き方 フィールドスタディ報告書には、着想(アイデア)から解決策までを記すので、フィールドでの調査活動や観察を行う際は、計画的にメモ(フィールドノート)を作成し、観察結果を適切に文書化しておく必要があります。フィールドスタディ報告書を書くには、フィールドでの活動、観察の段階での的確な記録が不可欠です。 フィールドワークのやり方によって、観察あるいはインタビュー中に作成するメモも違ってきます。4つ例を挙げてみます。 1. 作業記録 フィールドで実際に行った作業や調査を記録する。 調査対象に近接しつつも、全体が見通せる状況で作成する。…

プレプリントの役割-留意点と投稿ステップ

「君の研究は基礎研究を理解するうえで重要な関連性があるから、学術雑誌(ジャーナル)での公開に先だってプレプリントサーバーで発表した方がいいと思うよ。ジャーナルで論文が公開されるまでの従来のプロセスは時間がかかるので、先を越されるリスクが大きいからね。」と、言われたことがありますか?プレプリントに論文を公表したいけれど、どのようなことに注意すればよいのかと悩んだことのある人がいるかもしれません。ここでは、プレプリントを利用する際の留意点と、プレプリントに論文を投稿する際の手順(ステップ)を解説していきます。 プレプリント論文とは? 研究論文がジャーナルに公開されるまでには時間がかかります。一般的には、ジャーナルに投稿された論文は、編集委員(エディター)によるチェックを経てから分野を専門とする研究者に送られて査読(ピアレビュー)が行われるので、時間を要するのです。プレプリントとは、ジャーナルに掲載することを目的に書かれた論文を査読プロセス抜きにサーバーに掲載し、オープンアクセスで誰でも閲覧できるようにしたものです。著者最終版と呼ばれることもありますが、多くの著者はジャーナルに投稿するのと同じ版をプレプリントサーバーに掲載しています。昨今のコロナの治療法などの医学関連や急速に進歩する情報技術など、研究結果の共有が急がれる分野でプレプリントでの公開が進んでいます。論文著者は、信頼性を確保するためとは言っても時間のかかる査読プロセスを経てから公開されるジャーナルの出版を待つことなく、プレプリントサーバーに論文を公開することで、研究成果を共有し、認識してもらうことができるのです。プレプリントの論文は、査読を受けておらず、特定のジャーナルのフォーマットに合わせた体裁になっていない原稿ですが、投稿された論文にはDOIが割り当てられ、ユーザー独自の判断で引用することができるので、貴重な研究が学術コミュニティに素早く共有されることにつながります。 プレプリント論文の役割 プレプリントを利用した学術研究成果の共有が増え、知識の拡散が促進されています。さまざまな分野のプレプリントサーバーが誕生し、利用されることにより、プレプリントは学術研究において以下のような役割を果たしています。 研究成果を迅速に学術コミュニティで共有できる 読者は、プレプリントサーバーに公開された論文を評価することができる 著者は、ジャーナルで出版する前に、誤りを修正したり提案を組み込んだりすることができる 著書が研究の論点を強化するのに役立つ 著名なジャーナルでの論文掲載につながる協力関係の構築にも役立つ プレプリントサーバーと関連サイト プレプリントサーバーは、さまざまな学術論文のデータや情報を掲載したオンライン・リポジトリであり、そこに掲載されるのはジャーナルにアクセプト(受理)されていない段階の学術論文です。論文原稿がプレプリントサーバーにアップロードされると、基本的な審査と剽窃・盗用チェックが行われますが、査読は行われません。プレプリントサーバーおよび関連情報としては以下のようなものがあります。 1. BioRxiv 生物化学、医学、生物学分野のプレプリントサーバー。コールド・スプリング・ハーバー研究所(Cold…

グリーンOA(オープンアクセス)のメリットとデメリット

オープンアクセス(OA)は、学術出版に大革命をもたらしています。制限のない知識の共有という目的の上に構築されるOAとは、基本的に、誰もが出版物をオンライン経由で常時、購読料を支払うことなく利用できることを意味します。研究知識を制限なく共有することは、著者、読者、そして研究資金提供者にとって非常に重要なことです。OA化の手法は、ゴールドロード(ゴールドOA)とグリーンロード(グリーンOA)と呼ばれる二つに大別されます。 この記事では、グリーンOAの概要と、そのメリットとデメリットに焦点を当てて紹介します。 グリーンOAとは グリーンOAとは、論文の著者らが自ら自分のウェブサイトや所属する研究室や大学・研究機関のウェブサイト、あるいはリポジトリに論文をアーカイブし、誰もが自由に無料で読めるようにするものです。セルフアーカイブとも呼ばれます。購読型の学術雑誌(ジャーナル)がすべてセルフアーカイブを許可しているわけではないので、投稿先ジャーナルがセルフアーカイブを認めているのかを確認しておくことが必要です。さらに、著者がどの論文を外部に公開できるかは出版社/ジャーナルの規定によるので、セルフアーカイブされている論文が査読を経ていない場合もあります。査読の前後、それぞれプレプリント(査読前)またはポストプリント(査読と著者による修正が済んでいる論文)と呼ばれる―いずれの原稿をアクセス可能にできるかは論文の投稿先によります。 すべてのOAジャーナルまたは出版社は、セルフアーカイブ・ポリシーを作成し、論文のどの版を掲載し、リポジトリでアクセスできるようにしてよいかといった諸条件を定めています。購読型ジャーナルに投稿した論文でも公開版の論文をセルフアーカイブできるものもありますが、一定の期間を経過していることを条件としているものもあります。この期間は猶予期間(embargo period)と呼ばれており、数ヶ月から数年とジャーナルによって差があります。猶予期間を設けずに即時公開が選択できる場合もあるので、公開猶予期間に関しては、ジャーナルあるいは出版社の方針をよく確認しておきましょう。 また、OAジャーナルの中には、出版後の著作権を著者に付与しているものもあります。多くのOAジャーナルはクリエイティブ・コモンズ・ライセンス(CC licence)を採用していますが、著作権の扱いについてもジャーナルに確認しておくことが重要です。 ゴールドOAとグリーンOAの違い グリーンOAとゴールドOAはいずれも、誰もがアクセスできるオープンサイエンスを提供するための手段ですが、多くの点で異なっています。 ゴールドOAは、出版社などが運営するサイトに投稿論文の最終版(公開版)を掲載し、誰もが論文にアクセスすることができるようにしたものです。論文の投稿者から掲載料を取るので、読者は無料で全文を読むことができます。これに対し、グリーンOAは、購読型ジャーナルに掲載した論文を著者らが自分自身や所属機関のサイト、またはリポジトリにセルフアーカイブし、誰もが自由に読めるようにするものです。セルフアーカイブで公開される原稿は、最終的にジャーナルに掲載された公開版とは異なる完成版(著者が仕上げた版、著者最終稿)もしくは出版社が許可した版になります。 グリーンOAとゴールドOAの主な違い グリーンOA ゴールドOA 完成版(査読を経た公開版とは異なる)論文への自由なアクセス…

英語での論文執筆をマスターする

英語でのライティングスキルの重要性 論文英語の組み立て 日本人によくある英語の間違い 論文執筆の基本

研究者プロフィールの書き方(パート2)

研究者として自分のプロフィールを書くことも学術活動のひとつです。論文が学術雑誌(ジャーナル)に受理(アクセプト)された場合や、カンファレンスで研究結果を発表するような場合にプロフィールの提出が求められます。ところが、どこから何を書けばいいのか悩むことも―ここでは『研究者プロフィールの書き方(パート1)』に続き、プロフィールの書き方に踏み込んでみます。 プロフィールの構成 プロフィールは、短く、数行あるいは短いパラグラフに収めるという制約があります。自分自身の基本的な情報に絞りこむことが大切です。プロフィールの主な目的の1つは、自分の功績をしっかり伝えることです。簡潔にまとめたプロフィールで、自分の背景を大まかに伝えます。あまり細かく書く必要はありません。また、プロフィールは、「三人称」で書きます。つまり、「私(I)」を主語にするのではなく、他人からの目線で書くのです。適切なプロフィールはどのような情報から書き始めるべきでしょうか。 自分に関する基本情報には以下の事項を含めます。 氏名:文章中に自分のフルネームを書くことは少ないとしても、同じ名前の人と区別できるようにプロフィールにはフルネームを記載します。 身分:学術機関における身分(地位)は、あなたの背景や関心を読者に伝える大事な情報です。大学院生であれば、プロフィールを提示することで研究発表を依頼されたことや、論文などが発表されていること自体を印象付けることができるでしょう。 所属大学・研究機関:所属する大学、組織・機関に言及しておくことは大切です。 こうした情報を実際のプロフィールに書く際は、ここに示したような箇条書きではなく、散文体で書きます。例をあげてみましょう。 「ジョセフ・タイベリアス・シュモーは、ミネソタ大学の博士号取得課程に所属する学生です。」 この序文に続いて、主な研究に関する情報を続けます。 「シュモーは、中央アフリカのコンゴ盆地で、ボノボ(Pan paniscus)の社会構造に関する研究を行いました。」 この後に、対象動物をどのくらいの期間研究していたかなど、より詳しい情報を追加するとよいでしょう。自分の仮説を提示し、他の仮説とどう異なっているのかを説明することもできますし、研究における重要な意味などについて記載することも可能です。 プロフィールは、約35~30語(ワード)で書くのが一般的ですが、100~400語になるものもあります。その場合、記載される内容はより詳細になり、書き方も変わってきます。例えば、長いプロフィールには、以下のような情報を含めることができます。 •…

カンファレンス・学会スモールトーク(雑談)のコツ

オーストラリア国立大学のインガー・ミューバーン(Inger Mewburn)准教授が、大学院で勉学に勤しむ学生さんにお役立ち情報をお届けするコラム「研究室の荒波にもまれて(THE THESIS WHISPERER)」。今回は学会やカンファレンスなどで講演者・登壇者や参加者とちょっとした話(スモールトーク)を始めたいときに使えそうなお話です。初対面の人や、よく知らない人にどう話しかけたらいいのか、何を話せばいいのか分らないという方は必読です。 もともと、この記事はネット上の言葉を研究している言語学者グレッチェン・マクロック(Gretchen McCulloch)が公開しているブログサイト「All things Linguistic」に掲載されたものです。カナダのマギル大学で言語学を専攻する大学院生の頃からブログを始めたグレッチェンは、軽妙な発言をする言語学者として言語学と専門外の人との架け橋役となっています。ウェブメディア、YouTubeなど多様な媒体に言語学に関する読みやすい記事を書いており、ペンギン・ランダムハウス社からインターネット言語に関する本『Because Internet』も出ています。また、同じくネット言語に関心のあるローレン・ガウネ(Lauren Gawne)のブログ「Superlinguo」と熱烈な言語学トークを展開するポッドキャスト「Lingthusiasm」を共同で発信しています。グレッチェンのスモールトーク(雑談)に関する投稿が素晴らしかったので、「研究室の荒波にもまれて(THE THESIS WHISPERER)」読者にも是非読んでもらいたいと思い、再投稿していいかどうか訊ねてみました。 この記事では、カンファレンスの講演者とスモールトークをするという厄介なテーマを取り上げています。私もこの題目で書いてみようと思っていたものの、実現しなかったので、グレッチェンのより素晴らしい投稿を見つけて嬉しくなりました。カンファレンスにゲストスピーカーとして定期的に参加している私は、朝お茶を飲んでいるときに多くの人からの視線を感じますが、誰も話しかけて来てはくれないので、意外と孤独を感じているのです。講演者を孤独から救ってください。この記事を読んで、勇気を出して会話を始めてみてください。私のことを信じて話しかけてくれれば、きっと感謝されるはずです。 *「研究室の荒波にもまれて」に転載されて以降もグレッチェンのブログには記載が書き加えられています(Updateはこちら)。ご興味がある方は是非原文をご覧ください。 ***以下、グレッチェン・マクロックのブログ記事より***…

インターンシップで博士過程のスランプを脱出

オーストラリア国立大学のインガー・ミューバーン(Inger Mewburn)准教授が、大学院で勉学に勤しむ学生さんにお役立ち情報をお届けするコラム「研究室の荒波にもまれて(THE THESIS WHISPERER)」。研究論文執筆の半ばで精神的に追い詰められるMid-thesis crisisというスランプ状態に陥る大学院生は少なくありません。今回はインターンシップを機にスランプを抜け出した博士課程の学生ミア・タープ・ハンセンの経験をインガー准教授が紹介してくれています。 今回は、メルボルンのラ・トローブ大学政治学科の博士課程3年のミア・タープ・ハンセン(Mia Tarp Hansen)の投稿を紹介します。ミアはカザフスタンと中央アジアにおける市民社会の状況と政策を専門に研究をしています。カザフスタンとタジキスタンを中心に1年半のフィールドワークを行い、外交官や現地NGO、独立系メディアなどとも関わりながら、この地域の調査研究をしてきました。彼女が中央アジアに特段の興味を持つようになったのは、12歳の時に見知らぬ土地であったカザフスタンに住むこととなり、その地が彼女にとってかけがえのない故郷となったからです。現在は論文を執筆中で、まもなく提出できる見込みです。ぜひ、ツイッターの@AlmatinkaMiaをフォローしてください。 ここからはミア・タープ・ハンセンによる投稿です。 ある暖かい夏の日のことでした。カザフタンにいた私はかなり追い詰められていました。Mid-thesis crisis、つまり論文執筆のスランプに陥っていたのです。中央アジアでの精神的に厳しいフィールドワークと彼氏との破局に加えて、フィールドワークやPhDの研究が上手くいかないのではという不安に押しつぶされそうになっていました。もともとカザフスタンの政治に関するフィールドワークで一定の成果を上げるつもりでしたが、インタビューや調査について不満を抱えたまま時間が過ぎていってしまうと焦っていたのです。 研究を続ける気力を失っていたのです。研究に疲れ、大学で受けたアドバイスにもうんざりしていました。大学でのセミナーといえば、学術的キャリアを築くための方法についてのものばかり。そんなキャリアを望まず、現場での仕事をしたいと思っている私にとって、全然役に立たない情報です。それでデスクワークに戻ることも、PhDに向き合うことも嫌になってしまったのです。自分はダメ人間で、優秀な研究者ではないと感じていました。 どうにもならなくてパニックになって、作業を放り出しましたが、何の解決にもなりません。そんなとき当時のパートナーが、その年にもらった中でも最高のアドバイスをくれたのです。それは自分の研究や専門分野に関連した無給のインターンシップに応募することでした。彼は、私が燃え尽きて、進むべき方向を見失っていることを分っていたのでしょう。「もうどうにでもなれ」という気分で応募することにしました。大学院生に無給で仕事をさせる(こき使う)中央アジアの外交機関のいくつかに応募書類を送ってみたのです。結局2箇所からオファーをもらうことに成功し、条件の良い方の申し出を受けて実際の外交機関で働くことになりました。 そして1ヶ月後、私はタジキスタンに飛びました。中央アジアのタジキスタンは貧しく、ワイルドでも美しい国です。私が籍を置くオーストラリアの大学が予想外に(ありがたいことに)支援してくれた上、このインターンシップが研究活動に関連することを説得できたことで、奨学金の継続も確定してくれました。こうして、このインターンシップは、私の博士過程において非常に大きな意味を持つものとなりました。 私は、現場で働くことが何とかしたいと思っていたスランプからの脱出につながると、すぐに実感できました。やりたかったことに近づけたのです。一方で興味深かったのは、博士課程で学んだ研究スキルが、どのように現場での作業に適用できるか、そして中央アジアに関する私の知識がそこで実際にどう役立つのかを掴めたことです。…

AMAスタイルガイドの概要

AMAスタイルガイドとは 米国医師会(AMA)は、医学の発展から教育資金の調達まで、医学関係者をあらゆる側面から支援するため、1847年に設立されました。1883年に創刊された米国医師会雑誌(The Journal of the American Medical Association:JAMA)は、世界でもっとも広く読まれている医学雑誌であり、JAMAも含めて計13の医学専門誌が発刊されています。『AMA Manual of Style』(以下、AMAスタイル)は、1962年にJAMAと特定の学術雑誌(ジャーナル)を編集するスタッフ向けに作成された68ページの内部文書でしたが、9回の改訂を経て2007年に発行された第10版では1032ページにまで発展しました。現在は2020年3月に改訂された第11版が提供されています。 医学論文の執筆以外にも役立つAMAスタイル AMAスタイルは、医学論文だけでなく、医療、保健、その他のライフサイエンス分野まで医療系論文の執筆・出版に携わる人に役立つスタイルガイドです。科学系ジャーナルの多くは著者向けのガイドライン(投稿規定)を設けていますが、AMAスタイルを推奨しているジャーナルも少なくありません。特に引用や参考文献リストの書き方はAMAスタイルに準じた形を取っているジャーナルもあるので、投稿先ジャーナルの投稿規定と合わせて確認しておくとよいでしょう。 AMAスタイルには、医療、その他のライフサイエンス関連の投稿論文を書く際に使用する句読点、大文字/小文字の区別、文法といった項目に関するガイドラインが記されてます。こうしたガイドラインは、著者や研究者、所属団体・機関、医療編集者や出版社、ライター、科学研究系ニュースメディアにとっても、日々直面する問題に対処するために役立ちます。 AMAスタイル第11版の概要…

ACSスタイルガイドの概要

ACSスタイルガイドとは ACS Style Guide(日本語版のタイトルは『ACSスタイルガイド アメリカ化学会 論文作成の手引き』KS化学専門書)は、アメリカ化学会(ACS)が論文作成の手引き書としてまとめたもので、学術雑誌(ジャーナル)や出版物に投稿する原稿を執筆する際だけでなく、化学系全般の英語論文を執筆する際に順守すべきスタイルが書かれています。化学分野の研究を支援する学術団体として1876年にニューヨーク大学で設立されたACSには、化学工学や関連分野で活躍する約165,000名(2022年1月時点)の会員が所属しています。『ACS Style Guide: Effective Communication of Scientific Information(3rd edition)』(以下、ACSスタイルガイド)は2006年に出版されたもので、オンラインと印刷版の両方で入手可能です。ACSスタイルガイドは科学論文の執筆に焦点を当てている点が特徴です。他のガイドラインとしては、学術書やジャーナルに焦点が置かれたシカゴ大学出版局による『The Chicago…

文献レビューを成功させる論文マッピングとツール

多くの時間と労力をつぎ込み、何とか研究テーマが決まったのであれば、研究の成功に向けた第一歩を踏み出せたことに安堵しているかもしれません。次に取り組むべきは、文献レビューです。何人かで知恵を出し合ったとしても、研究論文あるいは卒業論文を書くのに十分な文献の量とはどの程度なのかを把握するのは難しいものです。図書館で何時間もページをめくって資料を探していた頃とは違い、インターネット上でオープンアクセスの論文やその他の出版社のプラットフォームが閲覧できるようになったおかげで、文献検索の作業は遙かに楽になりました。しかし、ITの普及と文献の検索および閲覧の利便性が格段に向上した反面、重要なデータのみを収集することがより難しくなってしまったのです。そこで、必要なデータを収集するための解決策、論文マッピングを紹介します。 論文マッピングとは 論文マッピングとは、自分の研究に必要な情報(文献)を探す方法のひとつです。過去の研究のまとめと言える文献レビューを執筆するには、同じ分野の論文を特定し、その研究成果を検討、批評、および解釈する必要があります。そのためには体系立てられた方法を取らなければならないことから、論文マップの作成が役立ちます。文献の主題(テーマ)、主張、および概念をマッピングすることは、文献レビューに不可欠な工程です。また、知識や思考のプロセスを外面化するための確立された方法でもあります。論文マップは、論文の著者、分野、テーマなどの項目に応じてそれぞれの関係性を図式、あるいは地図のように視覚的に表わしたものです。 研究者は、膨大な量の情報に圧倒され、自分の研究に必要な情報を特定したり整理したりするのが難しいと感じるようです。研究者は自分の分野において知識だけでなく、知識間の関連性においても、より豊富な知識を培っておくことが推奨されます。この知識の関係性をまとめることを、論文マッピングと言います。 論文マッピングのメリット 論文マッピングがどのような場面で研究に役立つかを挙げておきます。 研究分野について、どのぐらい学生が理解しているか、どのように解釈しているかを具体的に示すものとして、同僚や教授と共有するとき。 別の視点に切り替えることでパターンを形成し、それまで研究領域に隠されていた可能性を確認するとき。 関連する研究におけるギャップを特定するとき。 研究者が本来の研究領域の可能性やそれらの研究の限界を特定するとき。 論文マッピングへのアプローチ 論文マッピングは組織的なツールであるだけでなく、再帰的なツールでもあります。さまざまな分野の研究機関の特定に焦点を当てたアプローチをとることで、理論的かつ整然と、または根本的なマッピングをすることができます。 論文マッピングには2つのアプローチがあります。 主要な考えまたはディスクリプタ(キーワード文書の要約や文書中の重要な語句など)によるマッピング:研究テーマにおけるキーワードを使ってマッピングを作成する。 著者によるマッピング:該当分野における主要な研究者・専門家を特定する引用マッチングとも呼ばれ、引用を使ってそれらを相互に関連付けることも含むことがある。著者名で検索し、研究分野や作成した論文をマッピングする。…

レイサマリーの作成時に抑えておくべき9ポイント

学術論文を出版することは、研究成果を伝達するためのコミュニケーションは不可欠です。研究に多くの時間を費やしたなら、その結果を出版することを計画すべきでしょう。研究者は、学術界の壁を越え、同僚や他の研究者といった学術関係者だけでなく一般の人々にも分かるようにコミュニケーションを取る必要があるとのプレッシャーが高まっているのを感じています。研究者が、興味はあるものの学術的知識を持たない一般の人たちに研究内容を伝える策のひとつが、「レイサマリー」を書くことです。 レイサマリーはなぜ必要なのか?理由のひとつは、研究を支える資金が一般的に財団や公的機関からの助成金、つまり納税者(多くは科学者ではない一般の人々)による支援によって行われているからです。支援者は、研究内容やその研究が実社会に及ぼす影響を理解したいと思うでしょうから、誰が読んでもわかりやすい言葉でサマリーを書くことが必要なのです。また、研究者にとっても、競争の激しい学術界で生き残るには成果を公表するだけでなく業績を広く知らしめることが重要です。特定の読者向けに研究結果を公表するだけでなく、その研究が与える影響を多くの読者に知ってもらうことが大切です。この記事には、優れたレイサマリーとはどのようなものかと、レイサマリーを作成するときに抑えておくべきポイント、レイサマリーを作成するメリットをまとめました。 レイサマリーとは? レイサマリーとは、研究論文の最も重要なポイントを一般の人にも分かるように簡潔に伝えるために作成するものです。 専門用語を多用し、理論や実験の結果を含む高度に専門的な内容を記す研究論文は、その分野の研究者なら理解できても、一般読者が理解することは困難です。同僚や投稿先の学術雑誌(ジャーナル)の読者なら、研究テーマや論文についての知識があるかもしれませんが、一般の人が同じような知識を有しているとは限りません。そこで、研究の大まかな内容を理解したいと望む一般読者に向けて、研究内容を簡単に説明するものがレイサマリーです。 また、研究者は、大学や資金提供者から特定の分野の研究者以外の一般の人向けにも研究の影響力を伝えられるように、概要をまとめるよう依頼されることも少なくありません。こうした際にも、レイサマリーは有用です。 研究の概要を示すという点では、論文の要旨(要約、妙録、アブストラクト)と似ていますが、論文の要旨がテーマに関わる知識を有する読者向けに書かれているのに対し、レイサマリーは一般の人に分かるように書くものです。専門用語を使用せず、研究の重点を約200~250語(ワード)程度の短い文章で示します。 レイサマリーを作成するときに抑えておくべき9つのポイント 1.4W1Hに答える すべての読者が理解しやすいように、文章を書くときの主要な要素である4W1H(what, where, when, why, how –…

欧州医療機器規則(EU MDR)対応で求められる翻訳・ローカライズ

医療機器メーカーが新製品を開発する場合、従うべき規制は広範囲にわたります。50万種以上の医療機器が市場に出回る欧州連合(EU)では、医療機器に関わる企業は欧州医療機器規則(EU MDR)と呼ばれる最新のルールに従う必要があります。このMDRは、EU市場で医療機器販売を行う世界中の企業に影響を与え、関連文書の翻訳・ローカライズもその大きな要件となっています。 欧州医療機器規則(EU MDR)とは 欧州医療機器規則(EU MDR)とは、欧州全域での医療機器の製造・流通を規制する新しいルールで、欧州で医療機器を販売する事業者にはその遵守が義務付けられています。規則では、医療機器メーカーは製品のライフサイクル全体についての説明責任を負い、また、ラベルを、それが販売される国の言語に翻訳することが義務付けられるなど、製品ラベルについての規制もより厳しくなっており、医療機器の技術情報を患者により分かりやすくしやすくする必要も生じています。さらに、EUにおける従来の規則「医療機器指令(MDD)」とは違い、ソフトウェアが医療機器として明確に定義されています。 規則の遵守に不可欠なローカライズ 欧州医療機器規則(EU MDR)が発効したことで、医療機器に関わる文書の翻訳およびローカライズの必要性がさらに高まりました。EUに加盟するそれぞれの国の管理に委ねるのではなく、企業が責任を持って翻訳を仕上げることが求められています。 欧州医療機器規則に対応するためには、次のような手順が必要です。 - 関連する文書の、EUの全24の公用語への翻訳。公用語は、ブルガリア語、クロアチア語、チェコ語、デンマーク語、オランダ語、英語、エストニア語、フィンランド語、フランス語、ドイツ語、ギリシャ語、ハンガリー語、アイルランド語、イタリア語、ラトビア語、リトアニア語、マルタ語、ポーランド語、ポルトガル語、ルーマニア語、スロバキア語、スロヴェニア語、スペイン語、ウェーデン語です。正確な翻訳とコンプライアンスのために、医療・ライフサイエンス分野を専門とする翻訳会社に依頼することが重要です。 - 販売する地域のニーズに合わせたコンテンツの翻訳・ローカライズ。医療従事者や患者を含むすべての医療機器ユーザーに、使用方法を完全に理解してもらうことは非常に重要です。そのため、添付文書、取扱説明書、使用説明書などは、国や地域に合わせて細かくに調整する必要があり、意味をあいまいにしかねない言い回しや慣用句、文化的に別の意味合いを帯びるような言葉には注意を払わねばなりません。 -…

研究方法の種類と選び方

研究の成功は、適切な計画と実施にかかっています。研究を無事に終了させるには数々の要因や要素がありますが、最良の研究方法を選ぶことは、最も困難かつ悩ましいことのひとつです。研究は取るべきアプローチの種類に従って進められるものなので、研究を実証するための研究方法と、データを収集する方法を選ぶのは非常に重要です。研究において的確な研究方法を選択することで、求められている情報を照合し、研究の最終目的に到達することが可能となるのです。 この記事では、さまざまな研究方法(研究方法の種類)とその中から最適な方法を選択するための基準について論じます。 最適な研究方法を選択することの重要性 研究方法は、研究を実施する前に決定しておきます。的確な研究方法を選ぶことは、研究内容および文章をうまくまとめ、全体を良質なものにすることに役立ちます。さらに、自分の研究分野で使われている研究方法に精通しておくことで、より実質的に理解することができるようになります。 研究方法の種類 自分の研究の性質、研究分野における標準的状況、実用性により、自分の研究に最適な研究方法を選択しましょう。研究方法には、定性的研究と定量的研究という2つのアプローチと、その混合アプローチがあります。 定性的研究(質的研究)では、数値で計れないデータを使用します。言い方を変えれば、定性的研究とは、言葉、説明、概念、信念、思考(アイデア)やその他の実体のないものに焦点を置く研究です。 定量的研究(量的研究)では、数値と統計データを使用します。変数(可変要素)を測定し、既存の学説または仮説を検証するものです。通常、定量的研究で得られるデータは数値やグラフなどの形で事実情報を示されます。 定性・定量融合法研究とは、定性的研究と定量的研究の両方を組み合わせた研究です。混合研究法とも、ハイブリッドメソドロジーとも呼ばれています。定性的研究で状況調査を行い、理解していることのポテンシャルモデルを開発します。これは概念フレームワークとも呼ばれ、定量的方法を用いて、そのモデルを実験的に試験します。定性的研究で得られた新しい知見について、より大規模な知見を検証するために定量的研究を行うといったものです。 また、研究は大まかに下の3つに分類できます。 探索的研究:問題についてのより深い理解を示し、その問題に関する理論を潜在的に発展させます。そのため、このタイプの研究では定量的研究アプローチを取る傾向があります。 確認研究:経験的試験によって潜在的な理論または仮説の確認を行うものです。定性的研究を取る傾向があります。 両方を混合した研究:ポテンシャル理論または仮説を構築し、定性・定量融合法のアプローチを使って経験的な試験を行います。 最良の研究方法を選択する前に考えるべきこと 研究の性質…

共用ラボ使用時のマナー – 暗黙のルール10

ラボ(実験室)のドラフトチャンバー(ドラフト装置)を使いたい?順番待ちをしているのは、あなただけではないはずです。誰もが自分専用の実験設備や機器を持てる幸運に恵まれているわけではありません。なので、共用ラボで作業をするためには、そこでのルールに従うことが不可欠です。マグネチックスターラー(攪拌機)、ガスクロマトグラフ(GC)、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)などを使っている時は、こうした機器をいつでも好きなだけ使えたら……と誰もが思うことでしょう。 なぜラボ・ルールを守る必要があるのか あえて書き記されていなくても、共用ラボを使う研究者であれば誰でもそこでの礼儀を守るためのルールに従うべきです。そうすることで、パンデミックのような状況下で実験を続ける際にも、共同研究者間の相乗効果を高めるだけでなく、マナー違反が起こることを防ぎ、誰もが実験を計画通りに完了できるようにするのです。 共用ラボで作業する際の暗黙ルール10 1.自分の物以外は触らない これはラボに限ったことではなく、生活していく上でも言えることです。一番初歩的かつ最も重要なルールは、他の研究者の酵素、プライマー、液体培地、それ以外のさまざまな溶液、特に汚染されやすい溶液は絶対に触らないことです。どうしても使いたい場合には、許可を取りましょう。そして、使用許可を取っても、コンタミネーション(汚染)を防ぐため、常に必要な量だけを滅菌フード下で別の容器に移し替えて使いましょう。このルールは、化学物質や培地に限らず、ピペットなどの実験器具にも言えることです。 2.他人にしてもらって嬉しいことを他人にする このルールにおいては例を挙げておきます。保存溶液を作る際、ラボ内で作業している別の研究者も必要かどうか聞いてみると良いでしょう。ラボの他の作業者に、自分が使っているのと同じような機器(重量計、ガラス機器など)や化学薬品が必要かどうか尋ねてみることもお勧めします。いつか、同僚が同じようにあなたを助けてくれるはずです。 3.自分のミスは自分の責任 保存液を誤ってこぼした?気づかないうちに培地をコンタミさせた?落ち込む必要はありません、誰でもミスはするものです。ミスをすることが問題なのではなく、自分の過ちを認めず、他の研究者に汚染された溶液や培地を使わせてしまうことは問題です。なので、自分が起こしてしまったミスを認め、自分だけでなく、他の研究者が行う実験でもはっきりした結果が得られなくなることを避けるための対策を講じることが大切です。小さなミスを隠すことの影響は計り知れません。特に、他者の研究を台無しにしてしまったり、他の人を危険にさらしたりしてしまうことになれば大問題です。自分の過失を認め、問題を起こすのを回避することを意識すれば、同僚はあなたの正直さに感謝することでしょう。とはいえ、いつも同じミスを犯すのではなく、失敗から学ぶように意識的に努力してください。 4.ため込まない 自分の後ろのロッカーに数十枚ものペトリ皿をため込んで何をするつもりですか?誰もが使いたいと思っている実験器具の利用予約をするシートがなければ、それを作っておきましょう。サインアップシート(使用予約用紙)があれば、誰もが必要な実験装置や器具を必要なときに確保することができるようになり、誰かが使っていないものをため込みすぎていることが原因で、他の人が実験を行えないという事態は避けられるはずです。 5.在庫確認を行う あなたが在庫棚からマイクロピペットを取って、残りが1つとなった場合には、ラボの管理者に残りがひとつであることを伝えましょう。そうすれば、ラボの管理者は他の研究者の使用に備えて棚の在庫を補充しておき、研究者が新しい品の入荷を待つことなく実験を続けることができるようになります。 6.クリーンなラボでこそクリアな考えがまとまる…

指導教官を見極めよう

オーストラリア国立大学のインガー・ミューバーン(Inger Mewburn)准教授が、大学院で勉学に勤しむ学生さんにお役立ち情報をお届けするコラム「研究室の荒波にもまれて(THE THESIS WHISPERER)」。博士課程の指導教官は、研究だけでなく、その後の人生にも影響を及ぼしかねません。今回の記事は、クイーンズランド工科大学のイヴォーン・ミラー(Evonne Miller)准教授による、自分に合った指導教官の見極めるのにチェックすべき項目の紹介です。 指導教官が自分に合っているか、別の人に変えてもらった方がよいのか……そもそも、指導教官を見極めるには何を見て判断すればよいのでしょうか。 今回は、イヴォーン・ミラー(Evonne Miller)准教授による指導教官の見極め方についての記事をご紹介します。イヴォーンと私は、修士論文の指導を行う際の課題に注目した「The Supervision Whisperers - Just like the Thesis…

博士論文・修士論文を出版するには

博士論文・修士論文の執筆は大変な作業です。現在大学院で苦労している方や最近卒業された方は、修士や博士課程を無事終了するのにどれだけの時間と労力を要するか、よくご存知のことでしょう。大学院では、失敗や成功を積み重ねつつ何年も研究に費やしているはずです。多くの場合、大学院での研究は新たな洞察につながるので、こうした研究成果を学位論文(修士論文や博士論文)としてまとめるのです。 博士論文・修士論文を執筆する際、何年にもおよぶ研究の成果を反映させるために、さまざまなことを考える必要があります。学位取得の要件として論文を査読付き学術雑誌(ジャーナル)で発表することを義務付けている大学もあれば、論文の公表を求めない大学もあります。学位取得の要件に関わらず、博士号や修士号の取得者が学術的キャリアを形成する上で、査読付きジャーナルに論文を掲載することは避けて通れません。 博士論文・修士論文を出版する場合のチェック点 学位論文とひとことで言っても、在籍する大学院の過程によって求められる論文は異なりますし、地域によって言葉の使い方も異なっています。ヨーロッパでは、博士論文をThesisあるいはDoctoral Thesisと記し、独自の研究の成果をまとめることが求められる一方、アメリカではThesisは修士課程における研究の成果を示す比較的短い論文のこととすることが多いようです。 それを示す単語が何であれ、広範な研究は最終的に論文にまとめる必要があり、学位論文として書いた文章を学術ジャーナルに投稿して掲載させることも可能です。ただし、学術ジャーナル掲載を目指すのであれば、自分の研究についてあらかじめ以下のような点をチェックしておく必要があります。 厳密性:理路整然とした学術的な論文になっているか? 重要性:なぜ自分の研究内容が読み手にとっても重要か? 独自性:新規で独自性のある内容か? 需要性:利用価値、あるいは商業的な価値のある研究か? 学位論文の公開方法 以前は、大学による学位論文の公開方法といえば、卒業論文の要約を製本して公開するハードコピーによる公開のみでした。現在では、一部の修士論文や博士論文は、多くの場合クリエイティブ・コモンズ・ライセンスを付けてオンライン公開されています。そのため、未発表(未公開)のオリジナルデータのみとする学術ジャーナルの発行要件には反することとなってしまいますが、一般的には、未発表の研究を記した学位論文を所属大学が公開することが学術ジャーナル採択の妨げになることはありません。むしろジャーナルは、大学が公開した学位論文は十分に新規性のあるデータであるとみなしています。ただし、大学のリポジトリで公開された論文であっても、学術ジャーナルでの掲載にあたっては査読が行われます。査読を通過して掲載されるためには、まず学内の学位論文審査のフィードバックに耳を傾けることが重要です。学内の審査委員会の批評は、多くの場合、ジャーナルの査読者の指摘と重なるので、論文に必要な修正を投稿前に行っておくことができるでしょう。 学位論文を出版する際の注意点 ここでは、大学院生が学位論文を出版する際に注意しておくべきことを挙げておきます。 まず一般論ですが、適切な引用、参考文献や謝辞の正しい記述、研究倫理の遵守は不可欠です。また、学位論文が公開される可能性を踏まえ、データの出所についての透明性を確保しておくことも重要です。学位論文を投稿する際には、該当論文または論文の一部が、印刷版のみ、あるいはオンラインリポジトリのいずれかで公開されているのかを必ず投稿先の学術ジャーナルに知らせることも必要です。…

引用と参考文献におけるDOIの書き方

DOI(Digital Object Identifier)とは、電子化された学術雑誌(ジャーナル)または出版物に付与されるデジタルオブジェクト識別子です。この国際的な識別子は、2000年に国際DOI財団(IDF)によって制定・導入され、出版社によって割り当てられています。登録機関固有の「10.」に続く英数字と4つ以上のプレフィックス(接頭辞)と、コンテンツを特定するサフィックス(接尾辞)をスラッシュ「/」でつなげます。このときのプレフィックスは出版社ごとに付与されている識別子で、サフィックスは出版社が個別のコンテンツに与える識別子となっています。コンテンツごとに番号が異なるDOIを付与することで、一貫した管理を可能にするのです。 https://www.youtube.com/watch?v=ILHV4fbEhpQ&list=PLSEcBUIQgVpvU0tvcfUWdn1vv1JhwmHNI&index=37   DOIが付与されたコンテンツは、DOIの前に「https://doi.org/」を付けることで固有のURLを持つことができるようになります。つまり、「https://doi.org/DOI番号」がURLとして機能することで、コンテンツにリダイレクトされる仕組みになっているのです。例えば、「https://doi.org/10.1086/679716」と入力すれば、2015年5月にModern Philologyから出版された、Robert Mayerによる論文「Scott’s Editing: History, Polyphony, Authority」にアクセスすることができます。DOIをコンテンツへの電子リンクとして使用することで、コンテンツ(論文)を識別するのに役立つのです。電子化されたコンテンツがリンク切れなどすることなく持続的にアクセスできるようにしておくため、印刷物やデジタルコンテンツ、その他のどのような出版物にもDOIを付けておく必要があります。掲載先ジャーナルのサイトが変わってリンクが切れたとしても、DOIを管理するデータベースには情報が保管されているので、DOIが分かれば目的のコンテンツにたどり着けるのです。ジャーナル掲載論文の場合、DOIは最初のページに記入されるのが一般的です。 DOIは、DOI財団が認定しているDOI登録機関(RA: Registration Agency)によって登録が行われます。こうした登録機関は複数存在しており、日本の機関としては、科学技術振興機構…

博士課程終盤に「ダメ人間」の症状が出てしまったら

オーストラリア国立大学のインガー・ミューバーン(Inger Mewburn)准教授が、大学院で勉学に勤しむ学生さんにお役立ち情報をお届けするコラム「研究室の荒波にもまれて(THE THESIS WHISPERER)」。人は得てして何らかの理由で追い詰められると、簡単なことがうまくできない「ダメ人間」状態に陥いってしまうことがあります。自らも経験者であるミューバーン准教授が原因を考察し、そんな状態と上手く付き合っていく方法を話してくれました。はたして、その対処法とは? PhDの研究を行う間、研究は上手くこなしているのに、それ以外のことがほとんど何もできなくなってしまうことが起こることを、私は「Loopy la-las」と名付けました。 私自身に「Loopy la-las」が起こり始めた日のことは忘れられません。とにかく、簡単なことができなくなってしまい、自分が「ダメ人間」になったと感じたのです。 2008年のある日、フーコーの本に没頭していたところに、大学のリサーチ・アドミニストレーターから電話がかかってきました。私が提出した学会出席の助成金申請書に不備があり、名前の記入ミスがあったことを知らせてくれたのです(ありがとう、ジェーン!)。メールをチェックして、彼女が申請書を処理できるよう返信すればいい――だけですよね? 私はログインして申請フォームをダウンロードしました。そして、何をしようとしていたのか理解しようと、フォームを凝視しました。 私は、苗字と名前の両方を記入させるフォームの形式について考えはじめました。イギリスが自国の名前の付け方を植民地にも浸透させるため、植民地主義の下でランダムに姓(名字)を与えていたプロセスに思いを巡らせ、さらに家父長制と、母や自分の名前に比べて父や夫の名前がどのように提示されているかを考えました。そこから、そもそも「名前」とは何なのかについて考え始めてしまったのです。 ダメダメ、何やってるの!私は頭を振って自分の名前を書き込みました。それからさらに3分間、自分の名前のスペルが正しく書けているのか疑って自分の名前を凝視してから、不安なままフォームを保存してジェーンに返信しました。 すると今度はジェーンがわざわざ電話をかけてきて、私が添付ファイルを付けずに返信メールを送っていたと教えてくれました。彼女は大笑いをして「まったくあなたらしいわ、インガー。みんなにフォームに記入してもらう作業で私の1日の半分はつぶれるのだけれど、頭が良いはずの博士課程の学生は、どうしてこんな簡単なことができないのかしら?」と言うのです。 ジェーンの言葉は、私の心にずっと響いていました。なぜなら、私はその後半年以上、この「簡単なことができない」状態に陥ったからです。単純なことを行うのに苦労する一方で、信じられないほど複雑で抽象的な概念について考え、それについて書くことは1日中続けていても全く苦にならないのに。物事によってそれを処理する頭の回転が異なる状況は奇妙で、自分が「ダメ人間」になってしまったのではないかと思いました。しかし、博士課程の学生と接してきて、これが珍しい状態でないことが分かりました。そして、このような状態になるのは論文執筆プロセスの副産物なのではないかと思うに至りました。まさに『フラバー うっかり博士の大発明(原題:…

英文カバーレター で抑えておくべき5つのポイント

研究職への就職は狭き門です。選考に残るには、研究職に応募する際に効果的なカバーレター(添え状)を付けて、自分と同等もしくは同等以上の業績があるライバルの中で自分の応募書類を際立たせる必要があります。研究職向けのカバーレターの書き方は、一般的な職種向けのものとは大きく異なります。研究職の採用担当者は、応募者の学力面の適正や業績とともに、研究の哲学的基盤により高い関心を持っています。この記事では、印象的なカバーレターを書く際に抑えておくべき5つのポイントを紹介します。 https://www.youtube.com/watch?v=sEaPgybLkcs   研究職の応募書類に付けるカバーレターで伝えること そもそもカバーレターとは応募書類を提出する際に付ける書類です。採用担当者が応募書類を見る際に、履歴書や職務経歴書よりも先に目にすることになるので、印象的なカバーレターで熱意をアピールし、書類選考を進めてもらうことは大切です。書類選考を通過しなければ面接の機会も得られませんので、最初に自分をアピールするひとつの材料としてカバーレターを活用するのが良いでしょう。まず、カバーレターで何を伝えるべきかを整理しておきます。 1. 研究者としての自分の紹介 2. その職に応募している理由 3. その職で活かせる自分の能力と経験 カバーレターには、採用者が応募者の人柄とその職に対する熱意を判断する助けとなる情報を簡潔にまとめておき、興味を持って応募書類を見てもらうようにすることが大切です。 研究職向けの英文カバーレターに書くべきこと カバーレターは、そこに何を書くか、どのような職務に応募するかによって変わってきますが、自分の採用を勧める主な理由を効果的に示すのに鍵となる要素は変わりません。カバーレターは、首尾一貫した形式で作成する必要があります。自分に関する情報が採用担当者に分かりやすく伝わるように整理しましょう。その職に必要な能力を自分が有していることを理路整然と示せれば、良いカバーレターであると言えます。 研究職向けの英文カバーレターにおいて、採用者が求める情報を提供しつつ自分の能力をアピールする際、以下の7つの項目に注意を払うようにしましょう。…

3つの文献検索方法で研究者の時間を節約

文献検索や情報収集に苦手意識を持つ大学院生や若手研究者は少なくないようですが、研究者として活躍するためには、情報収集のスキルを磨くことが不可欠です。研究室で過ごすのと同じぐらい多くの時間を図書館で過ごす研究者もいますが、必要な情報収集であっても、実質的な研究や執筆により多くの時間を割くためには、情報収集をできるだけ効率的に行うことが求められます。ここでは、情報収集を効率的に行うために活用してもらいたい3つの検索方法を紹介します。 キーワード検索 キーワードを使った検索術-ブーリアン(Boolean)検索と呼ばれるような基礎的な型―を把握しておけば効果的な検索を行うことができるようになります。複数の条件を同時に満たす情報を探す「AND検索」や複数の条件のいずれかを満たす情報を探す「OR検索」などの検索型を把握した上で使いこなせるようになれば、文献検索は飛躍的に楽になります。 AND検索:検索対象を狭めるためにANDでキーワードを区切って入力することで、ヒット数の多い検索結果を絞り込むことができます。 OR検索:関連性のある論文にどのキーワードが使われているかわからない場合など検索対象を広げたいとき、ORで条件を区切って入力することで、より多くの情報を拾い上げることができます。著者名をキーワードの1つとすることもできるでしょう。 他にも検索結果の中から特定の条件を除外させたい場合の「NOT検索」などもあるので、様々な組み合わせを駆使した高度な検索オプションを試しながら、関連性の高い記事を引き出すのに最適な方法を見つけてください。 引用検索 キーワード検索だけで思うように文献を見つけ出すことができない場合には、引用文献を検索するのが効果的です。特定の分野における重要な論文であれば、後続の研究者たちはその論文を参照しているものです。引用されている文献を検索すれば、研究のヒントだけでなく、自分の研究論文に引用できる論文がヒットすることもあるでしょう。この方法は、先行研究をリストアップする上でも有効な手段です。本当に重要な論文は被引用数も多いため、「AND検索」で絞り込んだり、より狭めた分野で引用されている文献を探し出したりするといった工夫が必要かもしれません。 抄録誌・文献データベース 抄録誌や文献データベースを利用すれば、最新の文献情報を短時間で入手することが可能になります。例えば、米国化学会(ACS)の下部組織であるChemical Abstracts Service(CAS)が発行している化学および関連分野の文献抄録誌であるChemical Abstracts(CA)や、世界の化学および関連する科学分野の出版物(学術雑誌、学会会議録、学位論文など)を収録しているCASのデータベースCAplusを利用すれば、最新情報を効率良く収集することができます。Chemical Abstractsデータベース版には検索時に役立つ統制語や化学物質名、CAS登録番号をはじめとするさまざまな索引情報が登録されていますし、収録データをオンラインで検索できる「CAS SciFinder」の利用も普及しています。検索した論文をすべて読んでいたのでは時間がいくらあっても足りません。まず、論文の重要な部分を抜き出した抄録や要旨を読んで全体像を把握し、精読が必要な論文を絞り込むといった作業の効率化に抄録誌や文献データベースを活用しましょう。…

研究者プロフィールの書き方(パート1)

学術雑誌(ジャーナル)に論文がアクセプトされた際や研究発表をすることが決まった際など、経歴を短くまとめたものの提出を求められることがあります。ありがちな割には、多くの人がこのAcademic Biography(研究者としての簡易版プロフィール)の作成に悩まされているようです。自分自身について、そして自分の研究について3~5文程度の短さでまとめるには、何を書けばよいのか、何を省くべきなのか、ここで考えてみます。 プロフィールに書くべきこと 氏名、現職、興味の対象、取り組んでいるプロジェクト。これらを順に簡潔に記述する 直近1年に名誉ある賞を受賞していればその名称 趣味、ペットのこと、住んでいる街など、個人的なことに触れる。ただし、プライバシーに関わるような記載はしない。 避けるべきこと 書くべきことの選出とは別に書き方にも注意が必要です。避けるべきは以下の3つ。 一人称(“I”)で記述すること 現職以外の役職を詳細に書くこと 受賞歴や修士号・学士号などの情報を書きすぎること。(複数の段落からなる長めのプロフィールでは書きますが、短いプロフィールでは省きます。)また、大学院以前のプロフィールは出生地も含めて書かないようにします。 プロフィールの典型的な悪例を挙げてみます。 Hi! My name…

研究論文の構成: 論文原稿作成に役立つヒント

長い時間をかけて行ってきた研究を学術雑誌(ジャーナル)に投稿する論文としてまとめることが非常に苦痛だと思う人がいるかもしれません。執筆に着手することさえ難しい人もいるでしょう。それでも、考えを整理して書き留めることができれば、論文執筆という作業が少し楽になるはずです。 ここでは、論文原稿を作成するためのヒントをご紹介します。 考えを整理する 原稿を執筆し始める前の最も重要な作業の一つは、考えを整理することです。この時点で、研究データのまとめと分析が行われたことになります。研究を続ける中で、おそらく大量の「メモ」などの記録がたまっているでしょうから、それらも整理していきます。幸いなことに、かつて全てを手書きしていた頃に比べれば、記録の整理ははるかに簡単になっています。考えが整理できたら次に進みます。 「考えを整理する」段階で頭に入れておくべきは、自分の考えをまとめるためには「自分がまとめたものを客観視する」必要があるということです。読者に何を伝えたいのか、自分自身に問いかけてください。自分の研究の最も重要なメッセージは何か?研究の結果が人々にどう影響するのか?研究をさらに進める必要はあるのか?などです。 そうした問いに対する答えを書き出し、原稿を執筆中、目に付くところに置いておきます。そうしておけば自分が何を目指して書いているのかを見失わずにすむことでしょう。 明確な文章にする 読者に研究を理解してもらうために、論文は可能な限り明確でなければなりません。専門用語だらけの文章や回りくどい表現で書かれた論文は、読者の理解を妨げるだけでなく、読者を限定してしまうことになります。 学術ジャーナルに発表する論文は、世界中の人々の目にさらされることになります。さまざまな言語を母国語とする読者が読むことになるわけです。研究者であっても言葉の違いは内容理解の壁となります。こうしたことを念頭に、原稿執筆の際には以下の点に留意してください。 明確さ:用語の定義を明確にし、関連性のない情報の記述を避ける。 シンプルさ:文章の構成は、シンプルで直接的なものにする。 正確さ:すべてのデータやイラストは正確に示す。 書き方の例をあげてみます。 化学物質Xは代謝に影響を与えた。 この文は漠然としすぎているので、読者に具体的な情報が伝わりません。では、以下はどうでしょう。…

研究活動におけるソーシャルメディアの活用

LinkedIn、ResearchGate、Twitter、Facebook、Mendeley、YouTubeなどのソーシャルメディアは、自分の研究を多くの人々に知ってもらい、情報を拡散する上で恰好のツールです。と同時に、自分の専門分野の最新情報の収集や、仲間の研究者たちとの連絡、さまざまなテーマについての意見交換にも役立ちます。 自分の研究に注目してもらい、研究者コミュニティと交流する上でソーシャルメディアが素晴らしいツールであることを多くの研究者は知っています。しかし、ソーシャルメディアを最大限に活用するには、ちょっとしたコツが必要です。 継続は力なり、でも・・・ 研究者たちがソーシャルメディアの活用で苦労することの一つは、効果的なネットワーク構築に時間と労力を要することです。FacebookやTwitter、YouTubeなどを使って人々と交流するには、文章を読み書きする、動画やスライドを作成する、写真を撮る、プラットフォームにファイルをアップロードするなどの作業が必要になります。そして、ネットワークを作り、人々の関心を維持するには、そうした作業を継続することが必要です。ツイートや投稿をほとんどせず、プロフィールの更新も怠っていたのでは、フォロワー数は増えません。継続的に更新できないアカウントは、むしろない方がマシという場合もあります。ですから、まずソーシャルメディアに手を出す前に、それに費やすだけの時間があるかを自分自身に問いかけるべきでしょう。 適切なプラットフォームを選ぶ ソーシャルメディア・プラットフォームを全て利用する必要はありません。自分の研究分野や実績、費やせる時間などにより、適しているメディアが絞り込めるはずです。「どのプラットフォームが自分にとって最適なのか?」を考えて見て下さい。 時間が限られているのであれば、LinkedInでターゲットを絞ったプロフィールを作成し、時折更新していくのが良いかもしれません。頻繁に投稿しなくても自分の研究を紹介できるプラットフォームとしては、ResearchGate、Mendeleyなどが挙げられます。これらのプラットフォームでは、最新の出版物や更新情報をプロフィールに追加していくだけでも十分です。一方、LinkedInをはじめとする多くのプラットフォームは、リンクや写真、記事を投稿したり、同僚の投稿にコメントをつけたりできる機能を使って、コミュニケーションや交流を図ることが可能です。また、研究者を識別するためのIDであるORCID(Open Researcher and Contributor ID)には、世界中の研究者の基本情報と共に論文も登録することができるので、こうしたツールの利用も検討してみることをお勧めします。 Twitter、Facebook、YouTubeなどの活用には、より多くの時間がかかります。閲覧者の関心を集めるためには、定期的にコンテンツ(文章、動画、スライド)を作成し、あまり間隔を空けずに投稿しなければなりません。これらのメディアで安定したネットワークを構築するには時間とエネルギーが必要となるため「始めるかどうか」、「始めるならばいつ始めるか」など、慎重に検討すべきです。プラットフォームを決める前に、同じ分野の研究者たちが、そのプラットフォームで活動しているかを確認することも重要です。以下に挙げる主なソーシャルメディアとその特徴も参考に自分にとってベストなものを見つけてください。 Twitter:ツイッターでは、最新の研究成果、自身のブログ記事、学会発表などについてつぶやくことができます。ツイート内に、自分の論文へのリンクを入れ込むこともできます。 LinkedIn:ビジネス特化型のプラットフォームで、研究や論文についての最新情報を特定のグループ内で共有したり、一般向けに公開したりすることができます。また、自分のブログや記事、ウェブサイトなどへのリンクも掲載できます。 LinkedIn:ビジネス特化型のプラットフォームで、研究や論文についての最新情報を特定のグループ内で共有したり、一般向けに公開したりすることができます。また、自分のブログや記事、ウェブサイトなどへのリンクも掲載できます。…