福嶋 佳菜子(ふくしま かなこ) 助教
国際医療福祉大学大学院医療福祉学研究科助教
福嶋佳菜子先生へのインタビュー - Share Your Story
[取材・編集] エナゴ(Enago)
日本ではまだ認知度の低い「遺伝カウンセリング」。国際医療福祉大学大学院の福嶋佳菜子先生は、「対話を通じて、遺伝性疾患とともに歩む人の人生を支える」1認定遺伝カウンセラーとして、その実践を行うとともに、大学院の学生たちへの指導で後進の育成も行われています。
今回のインタビューでは、「遺伝カウンセリング」とはどのようなものか、そのプロセスや、カウンセラーに求められること、そして普及のために行われている事柄などをご説明いただいた他、亡くなった方の親族の予防医療にもつながる死後遺伝学的検査(Postmortem Genetic Testing:PMGT)とそれに関わるプロジェクトについてお話しいただきました。
女性であること、子育てをする親であること、臨床業務や教育に多くの時間を割きながら研究に携わること。福嶋先生のいくつもの当事者性から、今後の日本のアカデミアの課題に関するヒントが伺えます。
遺伝カウンセリングを志した道
私にはダウン症のある兄がいます。私が高校生くらいの時、血液だけでダウン症の可能性が高い精度で分かる新型の出生前検査(非侵襲性出生前遺伝学的検査、Non-Invasive Prenatal Testing:NIPT)が日本で始まり、ニュースや新聞で大々的に報道されていました。当時、胎児がダウン症であるという結果が出た人の9割以上が中絶を選んでいて、それが命の選別だという書かれ方が多くありました。しかし、これはそうした障害を持つ人々が生きやすいかどうかという社会の側の問題でもあると考えたことと、それぞれの決断を支える存在が大切なのではないかとも思い、遺伝カウンセリングの道を志しました。
遺伝カウンセリングとは
(遺伝カウンセリングとも大きくかかわる)遺伝学的検査とは、その人の生まれ持った体質などが病気にどう関わるかを医学的に評価するための検査です。病気の原因や、病気への罹患のしやすさなどについて調べる目的で行われます。
遺伝カウンセリングは遺伝学的検査を受けるかどうかや、結果を受けてどうするかなど、遺伝に関する悩みについて、対話の中で考え、適応していくためのプロセスです。検査の医学的な価値や、検査で何が分かるかをお伝えし、その人がどんなことを大事にしているのかといった価値観を伺いながら対話を行います。
これは、1947年頃にアメリカの人類遺伝学者が初めてGenetic Counsellingという言葉で定義したもの2で、日本に輸入されたのはそこから数十年後のことです。当初は「遺伝相談」の訳語が充てられていました。時を経て、2003年頃にヒトゲノム計画3が完了して人間のリファレンスゲノム配列が分かり、その時期に日本でも遺伝カウンセラーを育てるための養成課程のプロジェクトなどが始まりました。日本の遺伝カウンセリングの歴史はそこからです。
患者自身がどうしていきたいのかを大切にする当事者中心の医療が重視されるようになりつつある中、医学の進歩とともに遺伝情報から分かることは増えてきています。同時に、遺伝に関する専門的な知識や、家族と共有すべき倫理的な側面について考えるプロセスも複雑になっています。そのプロセスを支える私たち遺伝カウンセラーの役割も増えていると考えています。

遺伝カウンセリングの実践
国民や住民に対する遺伝学的検査でゲノム情報を集めるプロジェクトを進める国や地域も増えつつあります。遺伝情報の活用のしやすさは場面によって異なると思いますが、遺伝カウンセリングについては、患者や一般の人々がどう思うかといった倫理的な側面も含むため、それほど簡単な話ではありません。
遺伝カウンセリングに来た患者さん(クライエント)には、まず、どういった悩みを持っているのか、どのような経緯でカウンセリングに来たのかを尋ねます。「家族が何らかの病気と言われているが自分はどうか」などいろいろな理由がありますが、家系の誰が病気にかかって何歳ごろ症状に気づいたかなどを伺い、それを決められた基準に則って図に書き起こしていきます4。さらにそれを他の医療者やクライエントが見やすいように、きれいに整えるプロセスを行います。
ゲノム医療が進むにつれ、特定の疾患に関する専門性を持った遺伝カウンセラーの存在も必要になることもあるかもしれませんが、遺伝カウンセリングの仕事は疾患ごとに変わるというよりは、基本的には遺伝に関する悩みや困りごとに対しジェネラルに対応するものです。遺伝性疾患はとてもたくさんあり、一つ一つの病気について、それぞれを専門とする遺伝カウンセラーがいる状況になることは現実的ではないかもしれません。しかし、ジェネラルに対応できる力を持ちながら専門性のある遺伝カウンセラーが徐々に増えていくことや、そうした学問が進んでいくことも、今後期待されるのではないかと考えています。
遺伝カウンセリングについての啓発活動
正直なところ、私個人としては一般への啓発活動にはまだ十分に取り組めていませんが、遺伝カウンセラーの職業団体である日本認定遺伝カウンセラー協会や、各大学などで取り組まれている先生方がそのような活動をされています。
私自身は、医療者に対し自分たち遺伝カウンセラーがどのような専門性を持って活動をしているのかを伝えていき、お互いの専門性を理解した上で協働することを意識しています。ですから、遺伝カウンセリング以外の学会や研究会になるべく顔を出し、自分たちが何を担っていけるのかを考えていきたいと思っています。遺伝カウンセリングという言葉自体は、ゲノム医療の進展に伴って、少しずつではありますが医療者の中でも広まりつつあるのではないかと感じています。
遺伝カウンセラーに求められる資質
遺伝カウンセラーとしての資質として大切なことは、まず、クライエントに対し無条件の関心を寄せられることです。そして「あたかも」自分のことのように、クライエントの気持ちになってクライエントのことを考える姿勢です。また、遺伝ゲノム医療の範囲は広く情報も随時アップデートされていくため、学び続ける体力も必要だと考えています。
私個人としては、辛いことや複雑な状況に立ち向かわれる方々から学ぶことが多く、そのことが自分を成長させてくれ、自分の支えにもなっていると感じています。
遺伝カウンセリングは、感情労働とも言われるような専門職の一つです。バーンアウト(燃え尽き症候群)などを引き起こさないための、遺伝カウンセラーどうしのケアなども、これからの私たちが取り組むべき課題のひとつだと考えています。
人間の多様性と唯一性
「遺伝」という日本語が想起するイメージは、親から子へ受け継がれる「継承性」の側面が強いと思います。「Genetics(遺伝学)」は本来、「継承性」と「多様性」の学問であると言われているのですが、日本語の「遺伝」では、多様性の側面が伝わりにくいのです。
また、遺伝情報は多様性に加え「唯一性」を持つという側面もあります。ひとりとして同じ遺伝情報を持つ方がいないということが本来の意味するところではありますが、人それぞれに価値観やストーリーがあり、同様の遺伝学的検査の結果(遺伝子に変化があった・なかった等)が示されても、それをポジティブに受け取る方もいればネガティブに受け取る方もいます。遺伝カウンセリングでは、そうしたひとりひとりの違いも含めて考えていきます。そこに興味深さや、やりがいがあり、そこが遺伝カウンセリングの深みだと考えています。
死後遺伝学的検査
亡くなった後に行う死後遺伝学的検査(Postmortem Genetic Testing:PMGT)は、特に、死因究明がなされてもなお原因がわからない方に対するゲノム科学的なアプローチとして、 1990年代くらいから行われるようになってきました。
死因究明では解剖、心臓の病理学的検査、薬毒物学的検査、画像検査など、様々なアプローチが取られますが、不整脈や心臓の電気的な異常など、分子生物学的なレベルまでたどらないと分からないケースもあります。もちろん、不正脈を起こした原因が、遺伝子の変化であると断定することは今も難しいのですが、なぜ亡くなってしまったかを知りたいというご家族のニーズに対してひとつの可能性として提示できるかもしれません。解剖する医師たち自身が、死因を突き詰めていきたいと望んだことから始まった検査だと考えています。
私が死後遺伝学的検査について知ったのは、遺伝カウンセリングを学んでいた修士課程1年生の時でした。学部時代に看護学を学んでいた中で、心臓突然死でご家族を亡くされた方の切実さなどに触れ、友人と一緒に救命処置を広める活動に取り組んできました。大学院に上がる際に、もともと志していた遺伝カウンセリングの道に進むことにしたのですが、その勉強をする中、突然死につながる不整脈の原因のひとつが遺伝性の循環器疾患であることを知りました。当時お世話になっていた先生に、Molecular Autopsy(分子学的剖検)、Genetic Autopsy(遺伝学的剖検)という概念があることを教えていただき、そこから自分で調べていくうちに、これについて自分の立場でできることがあると思い、それ以来取り組んでいます。

giftプロジェクトとは?
修士課程在籍時に発起人の一人として「giftプロジェクト5」を立ち上げました。これは、Genetic Information for Family prevenTionの略号をギフトと読ませるもので、亡くなった方の遺伝情報を予防医療につなげるプロジェクトです。
遺伝情報が役立てられる病気のひとつとして知られつつあるのは、遺伝性の不整脈です。私たちが遺伝のことをやっていると、治療・予防法のない遺伝性疾患を持つ方のご家族によくお会いするのですが、遺伝情報を活用することで、亡くなってしまった方のご家族に同じことが起こらないようにできる可能性があります。遺された遺伝情報を受け取ることを選べる社会にするため、様々な先生方にお声がけし、ステークホルダーを集めてシンポジウムを開催したのがプロジェクトの始まりです。
死後遺伝学的検査普及に関する日本特有の課題
そもそも、死後遺伝学的検査を選べる仕組みがないということがあります。背中を押してくれるような様々な法律はできつつありますが、亡くなった方の遺伝情報の取り扱いについて明記されていないなど、整理が必要な部分も多々あります。
また、亡くなった後の司法解剖や死因究明制度自体が非常に複雑なのが日本の特徴で、死因究明自体にかけられる予算や人的リソースも先進国の中では少なく、ご家族が死後遺伝学的検査を選べる状況にありません。現在は、限られた施設において法医学や小児科の先生たちが研究費を使って基準に合った人々に対して提供しているという状況で、必要な方々に等しく行き渡らせることを目指したいと思っています。
死者の情報の取り扱いもクリティカルな問題だと思っています。法律上は、亡くなられた方の情報は個人情報保護の対象外なのですが、亡くなった方の情報も同様に扱うという解釈がなされていることもまた事実です。この点は、今後広く一般の人々の価値観なども加味して考えていかなければならないと思います。
海外の研究者との共同研究
以前行われた京都大学とシンガポール国立大学との合同研究会でのディスカッションの内容が派生して、今、一緒に研究をできないかという話し合いを具体的に進めているところです。向こうの研究チームでは、医師や看護師などの医療従事者以外の方々も臨床研究に取り組んでいて、具体的には医療経済が専門の方々と費用対効果などの話をディスカッションベースで進めています。教授クラスの先生方から、リサーチアソシエイトの方や学生の方まで巻き込んで、フラットな議論が行われています。
アカデミアで女性として働くこと
改姓に際しては苗字で呼ばれることが多かったため、抵抗がなかったわけではないですが、話し合いの結果私が改姓しました。アイデンティティの問題は大きいと考えています。
アカデミアでは通称使用ができるようになっていて、researchmapやORCIDでも自分の名乗りたい名前を名乗れます。私自身、そこでの日本語表記は現在の戸籍の名前を登録しておりますが、論文の発表などの際はミドルネーム的に旧姓を入れています。
家族がみんな同じ姓だったから旧姓にアイデンティティを感じる一方、自分の子どもが自分と違う姓だったらどう感じるのだろうとも思いました。様々な価値観の方がいることかと思いますので、やはり、選択したい人が選択できるような体制がいいのかなと思います。合理性など、様々なことがらを検討しての判断にはなると思いますが、選びたい人が選べるというのがひとつの考えかと思います。

子育てと研究の両立に関しては、自分もその立場になってやっと大変さが分かりました。家族が見ていてくれればいいというのは、言うは易しですが、家族間の負担のバランスなど調整が必要なことでそれほど簡単ではないように思います。託児がない学会で、うるさくしなければ子どもを会場に連れてきてもよいかどうかについてスタンスはいろいろあると思いますが、自分の子どもが0歳の時、連れてきてもよいとしてくださっている学会はありがたかったです。
また、これは男女問わずですが、ポストの問題もあります。特に私たちのように臨床業務や教育を中心として担わなければならない立場では研究に割ける時間の割合の問題や、研究者全体の雇用の安定化や待遇の問題も気になります。
ポストに就けるかどうかは、その人の実力もあるかもしれませんが、運やタイミングによって決まる部分も大きいと思っています。その意味で、研究を続けられている方々の意見は強者の理論というか、なかなか参考にしにくい側面もあるかもしれません。ですから、思うようにいかなかったケースや悩みも含め、いろいろなロールモデルが見えるようになると、研究者を目指す人々も励まされるのではと思います。
遺伝カウンセリングを学びたい学生へのアドバイス
恩師からのアドバイスの受け売りですが、学部1年生の時に 「関係ないことを頑張りなさい」 と言われ、今でも本当にそうだなと思っています。多様な感性や価値観を持つクライエントと関わる上では、遺伝カウンセラー自身が感性豊かであることが大事だと思います。
遺伝カウンセリングは大学院の養成課程に入ってから専門的に学ぶものですが、学部生はそれを先取りで勉強するより、学びの体力を培う意味でも、一般教養や今いるところでしか学べないような知識を身につけ、それ以外にもいろいろな経験をするのがいいのではないかと思います。
同世代の若手研究者たちへのメッセ―ジ
同世代の若手研究者の方々に私自身も支えられている部分がとても大きいです。よく、研究は「巨人の肩の上に乗る」ことに例えられ、そういう謙虚さも必要だと思いますが、それと同時に、これからの未来で生きていく、これからの未来を作っていくのは私たち自身なんだというポジティブな自負も大切にして、諦めずに一緒に頑張っていけたらいいなと思ってます。
研究に情熱を持ち続けるには
私の話ではありますが、私は、考えると涙が出てしまうような切実さといった、理屈では説明できないようなことが、モチベーションになるタイプです。その原動力があり続ける以上は頑張れると思っています。
研究を行う上で批判的思考は大事で、自分自身が批判をすることもありますし、批判をたくさん浴びてきました。必要なことですが、やはり、たまには「この研究は大事だよね」とか「切実だよね」といった、自分の姿勢やテーマ自体に対する共感をいただくことが支えにもなっています。そのため、いろいろな人とお話しさせてもらいます。また、かっこいい研究者の方々の志を浴びることも自分にとっては大事だと思っています。あとは眠ることや食べることですね(笑)。

日本の学術研究を発展させていく上で社会に求められること
病院で働く医療従事者の方をはじめ、兼務で研究をされている方々が私の周りにはたくさんおられます。そのような志ある方々の厚意のみでは、臨床、教育、研究のすべてを担い切れなくなってきているのではないかと思っています。
最近では若手研究者に対する支援を厚くしようという声をよく聞くようになり、有難い限りですが、若手を支える中堅の先生方を取り巻く環境も切実だと感じています。若手に限らず全ての研究者が、経済的な理由で諦めなくてもいいような、安心して研究に取り組める環境が整っていくと理想的だと考えています。
研究を続けることや、博士課程まで進むことは贅沢だと捉えられることが多く、実際に自分も恵まれた立場だったとは思いますが、研究は未来への投資という捉え方が少しずつでも広まって理解されるといいと考えています。
脚注:
1 一般社団法人日本認定遺伝カウンセラー協会の定義より
2 アメリカの生物学者で遺伝学者であるSheldon Clark Reed(シェルドン・クラーク・リード)がGenetic Counselling(遺伝カウンセリング)という用語を提唱。一般市民への啓発手段として遺伝カウンセリングの普及を推進した。
3 Human Genome Project。ヒト細胞の核内にあるDNAの全塩基配列を解読することを目的に1990年に米国政府が発足した計画で、2003年に完了報告がなされた。
4 日本認定遺伝カウンセラー協会公式note 家系図を書いてみよう!
5 京都大学 K.U.RESEARCH 分野横断プラットフォーム giftプロジェクト