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Twitterは研究者にも有益か-使用上の注意 (後編)

前編でツイートには3つのパターンがあることが調査から見えてきたことをお伝えしました。では、本当にツイート数の多さが論文閲覧数に影響するのでしょうか。3つのパターンと調査の結果を見てみます。

■ パターン1. 1つのアカウントから複数回発せられたツイート

ツイート数が最多となった論文は(アメリカで)264のツイートに登場し、高いAltmetricスコアを得ましたが、このツイートの73%(193)は、たった1つのアカウントから投稿されたものでした。しかも、このアカウントからの発信に書き込まれた該当論文へのリンクは65回、2番目に多くのツイートをしたアカウントからの発信に書き込まれたリンクは58回。この2つのアカウントはお互いにリツイートすることもあり、これらのアカウントからの発信を除くと、該当論文へのツイートは15と限られたものでした。ツイート数や書き込みリンクの数に違いはあっても、このように単独あるいは少数のアカウントから多数のツイートが発せられる傾向は他の論文にもあるようです。

■ パターン2. アカウント管理者によるツイート

一方、別のアカウントから同じ内容のツイートが多数発せられることがあることもわかりました。このパターンの例として、1982年に発表された論文が51回も次々に同じ内容でツイートされたことがあげられます(2016年)。Twitterがリリースされる前の古い論文がツイートされること自体が稀ですが、Twitterのアカウントを有する歯科医らが、アカウントの管理を同じ会社に委託していた結果、同じ内容のツイートが発せられたと考えられています。歯科医師らは患者とのコミュニケーションにTwitterを使用していましたが、委託を受けた管理者は、投稿にはオリジナルのテキストを使うと約束していたにもかかわらず、コピーしたテキストを繰り返し貼り付けて投稿していたのです。このようなパターンも散発的ではありますが、存在しています。

■ パターン3. 情報共有の広がりを示すツイート

もうひとつのパターンは、投稿を見た研究者が、実際に内容に興味を持ったことを示すツイートです。本来はこのパターンが多くなるべきなのですが、真摯に論文について書き込んだ投稿数がトップではないことは問題です。トップ10に入った1つの論文への59のツイートは、41の異なるアカウントからツイートされていました。これは、興味を持った研究者たちが、個別にツイートまたはリツイートしたことを示しています。

■ 調査結果から見えてくるのは――

トップ10本の論文へのツイートが、データ全体の8.4%を占めていること、それらのツイートには上述のパターンが見られることなどから、単独または少数による頻繁な投稿がツイッター上では大きな役割を果たしていることが見られました。また、データの中にはbotで作成されたツイート(設定された条件で自動発言をする機能を使ってツイートすること)も含まれることも踏まえ、この調査では機械的な発信か人による発信かの特徴に注意した分析も行っています。このような実態を踏まえると、ツイート数を論文の評価指標として組み込むには、不適切なフォロワーやbotによるツイートなどを除外するアルゴリズムの導入など、まだまだ課題は多そうです。この状況を理解した上で論文についてツイートするのであれば、専門知識などを駆使し、明らかに人(研究者)によるツイートとわかる内容を投稿することによって研究成果の拡散効果を上げる必要がありそうです。

■ Twitterは一長一短

学術研究についてツイートすることが有益か否かは、意見が分かれるところではないでしょうか。Twitterでなら新しい研究について意見を交換したり、以前の研究の価値について議論したりと、研究者仲間とオープンなコミュニケーションができると言う研究者もいます。一方で、発表した論文の影響力を強化するためにTwitterが有益であるかについて懐疑的な意見があるのも事実です。前述の調査結果を見ると、単純にツイート数が多いことが、該当記事への関心の高さを示すものではないことがわかります。また、ツイートの数を研究への関心の高さと見なすことも危険です。関心を引くためにわざと挑発的な内容や物議を醸すようなコメントを残すのはもってのほかですし、炎上したツイート数を評価に含めるようなことをすれば、いかなる研究分野であっても悪い影響を与えかねません。ツイート数の分析に注意が必要なことは明らかです。

Twitterの利用は一長一短です。コミュニケーションには便利なツールですが、研究論文を周知することや、影響度を向上させるために使おうとすれば、それなりの注意と方針が必要です。SNSの発展と利用拡大に伴い、オルトメトリクスのような新しい評価指標が登場したことで、研究者もSNSと無縁ではいられなくなってきています。しかし、TwitterなどのSNSを使いこなすには、時間と労力を要します。研究活動を広める目的で利用し始めたのに、ツイート数を増やすことが目的になってしまっては本末転倒です。SNSの利点をうまく活用するためのアドバイスは、さまざまな場所(インターネットや若手研究者からの口コミなど)で入手できるので、自分にあった活用法を探ってみてください。情報を役立てつつ、うまく活用することで、思わぬ成果が得られる可能性はあるのです。

※ Twitterは研究者にも有益か-使用上の注意 (前編)はこちら


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エナゴ学術アカデミー 『研究者に有益なオンラインツールと活用のメリット


Twitterは研究者にも有益か-使用上の注意 (前編)

Twitterといえば、トランプ米大統領の書き込みがたびたび話題をさらっています。このソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)の最大の威力は、発信された情報が、まさに瞬間的に世界中に拡散されること。このメリットを活用すべく、Twitterの利用は学術界にも波及しており、発信する文字数が制限(280文字、ただし日本語・中国語・韓国語は拡大対象外)されているにも関わらず、研究活動に役立てる研究者も増えているようです。

■ 研究活動にTwitter

Twitterに限らずSNSをコミュニケーション・ツールとして使いこなす研究者は少なくありません。多くの研究者が、「科学者・研究者のためのFacebook」と呼ばれるResearchGateAcademia.eduのようなプラットフォームで、研究の共有・情報交換を行っています。無論、FacebookやTwitterの利用者も多いことでしょう。

発信できる文字数に明確な限りがあるTwitterが本当に研究活動の助けになるのか?半信半疑な方もいると思います。しかも、フェイクニュースが話題になるように、発信される情報の信頼性の確保や、無遠慮なリツイートによる炎上といった、社会的な問題をも内包しているTwitterは本当に大丈夫なのか?信頼性が重要視される学術界において、Twitterを使うことで、研究の面白さや重要性を損なってしまうリスクは十分に考えられます。

■ Twitterの投稿は論文の評価に影響するか

2017年8月、研究論文をツイートすることで論文閲覧数に影響が出るかを調査した結果が、オープンアクセス・ジャーナル「PLOS ONE」に発表されました。これはTwitterへの投稿が、学術論文の影響度評価の新たな指標として注目される「オルトメトリクス(SNSでの拡散の度合いも評価対象に含めて論文の影響力を計る新しい指標)」に影響を及ぼすかを調べたものです。つまり、この調査で対象とした歯学分野の研究論文へのリンクを書き込んだツイートを調査することで、積極的なTwitter利用が、論文の周知や他の研究者の興味を引くことに貢献したかを見ようとしたのです。

調査の対象となった論文は、2016年に発表されたWeb of Science(WoS)に登録された84誌とPubMedに登録された47誌の中から抽出。2011年から2016年までの5年間に執筆された4,358本の論文について、2,200以上の米国内の個人アカウントから発信された8,206のツイートの分析が行われました。

■ 分析内容
・WoSの引用数とツイート数の比較
・論文あたりのツイートされた数
・論文あたりのツイートしたアカウントの数
・投稿されたテキストにおける変異
・「@」で始まるツイート数

この分析からツイートされた数の多かった論文トップ10を選び出したところ、ツイートには3つのパターンがあることが見えてきました。

ツイートに見られるパターン
パターン1.1つのアカウントから複数回発せられたツイート
パターン2.アカウント管理者によるツイート
パターン3.情報共有の広がりを示すツイート

これらのパターンそれぞれの特徴については後編に続きます。

こんな記事もどうぞ:
エナゴ学術アカデミー 『いま話題の新しい論文評価指標「オルトメトリクス(Altmetrics)」
エナゴ学術アカデミー 『ソーシャル・メディアは学術活動に役立つか?

 


2017年に学術界を揺るがした衝撃的事件(後編)

2017年に学術界を揺るがした衝撃的事件として、前編では海賊版論文サイト「サイハブ」訴訟と、ドイツの主要学術機関とエルゼビアとの契約交渉が決裂した件を紹介しました。後編では、研究者を食い物にする「捕食出版社」と研究論文の盗用・剽窃に関する話題を取り上げます。

■ 捕食出版社として訴えられたOMICSへの仮差止め

OMICSグループはインドに本社を置く、オープンアクセスジャーナル専門の出版社ですが、「捕食出版社」 (著者から掲載費用を得る目的で、適正な査読を行わずに論文を掲載する出版社)として知られています。「ハゲタカ出版社」とも呼ばれ、いわゆるジャンク・サイエンス(論理的根拠に乏しい科学)の流布をはじめ、たびたび問題となっています。米国の連邦取引委員会(FTC)  は2016年8月、OMICSグループのCEOであるSrinubabu Gedela氏を相手取り、詐欺的ビジネスを理由に提訴 しました。

OMICSは700の学術雑誌を出版し、3000の学術会議を運営する出版社です。FTCは、OMICSが研究者らに、論文を掲載する動機付けとなるインパクトファクター(学術雑誌の影響力の評価指標)を偽って伝えていると主張しています。その上、OMICSは論文の掲載料を著者らに公表せず、さらに著者が論文の掲載をやめたり、他社で発表したりすることを妨害していたということです。

OMICSへの疑惑はまだあります。FTCは、OMICSが開催する学術会議でも不正が行われていると指摘しています。例えば、OMICSは学術会議での研究発表に架空の論文「鳥-豚の生理における飛翔特性の進化」を採択し、手数料を払えば発表も可能としたとの報告があります。採択されるはずのないジャンク・サイエンスの論文にも関わらず、発表が許可されたのです。また、査読を行っているという偽りの発言をしていることも疑われています。OMICSの編集委員のリストには著名な科学者の名前が連なっていますが、証明するものはありません。このような申し立てが積もり、OMICSは捕食出版社だとの疑惑が高まっているのです。

2017年11月、ネバダ州の地方裁判所のGloria Navarro裁判官は、Gedela氏とOMICSグループ、関連会社のiMedPub、Conference Seriesの3社に、仮差止め命令を下しました。OMICSが研究者に虚偽の説明をして論文を掲載するように誘導していることや、著名な科学者の名を無断で用いて投稿を依頼するメールを送っていたことが、今回の命令の根拠とされています。

この仮差止め命令はOMICSグループに向けたものであるため、OMICSは、会議に出席する予定のない講演者の名を語って宣伝することや、ジャーナルの編集委員として虚偽の名前を連ねることは、無論できなくなります。裁判所はOMICSに対し、論文の投稿前に、掲載にかかる費用の総額を著者に伝えるよう要求しています。また、FTCは研究者らに、OMICSによる仮差止め命令への違反があればすぐに報告するよう伝えており、新たな不正が発覚した時点で、法廷侮辱罪として訴える考えです。

一方、OMICSのCEOであるGedela氏は、FTCの訴えの内容を否定しています。この告発は、市場シェアを失った従来の出版社が、オープンアクセス出版社に対して腹いせに起こしたものであり、仮差止め命令の後もOMICSの活動は制限されない、と反論しています。米国の裁判所命令ではインドの出版社の活動を効果的に止めることはできない、と主張する研究者もおり、出版投稿や国際会議での発表を行わないようにする以外、捕食出版社の活動を実際に抑制することは難しいと見られているようです。

このような捕食出版社が登場した背景には、一本でも多くの論文を出版し、学術会議で発表しさえすれば、研究者として評価されるという、学術界の悪しき習慣があるのかもしれません。仮差止め命令の影響とOMICSの今後の動きが注目されるところです。

■ 多数の編集者を辞任に追い込んだScientific Reportsの剽窃問題

2016年に発刊されたScientific Reportsに掲載された論文の剽窃疑惑が発端となり、2017年、同誌の多数の編集委員が辞任しました。

ジョンズ・ホプキンス大学の研究者Michael Beer氏は、同誌が、自身の過去の論文を盗用・剽窃して掲載したと主張しています。彼は同誌の編集委員の1人でもあったため、この不正に気付き、論文の撤回を求めました。しかしScientific Reports側は、撤回を拒否し、訂正表の発行のみに留めることを決定したのです。Beer氏は、この処置は不適切であると抗議し、編集委員を辞任しました。ジョンズ・ホプキンス大学の他の研究者らもBeer氏に賛同し、次々に編集者を辞任しています。

盗用・剽窃が疑われた論文は、ハルビン工科大学(中国)の深センキャンパスの研究者らにより発表されたものでした。この研究は、Beer氏と彼の研究チームが2014年7月の『PLOS Computational Biology』で発表したアルゴリズムを元にしており、元の論文にはBeer氏の論文を引用していることが示されていました。しかし、2016年のScientific Reportsに投稿された論文には、PLOSに掲載したBree氏の論文の内容を書き換えたものが数多く見られたにもかかわらず、参考文献にBeer氏の論文は見当たりませんでした。同誌の編集長は、著者らによる参考文献の書き漏れがあったことを認めましたが、論文の撤回ではなく、訂正表を発行することが適切であると判断し、事態の収拾を図りました。Beer氏は、これでは、研究者らは盗用・剽窃をしても後に訂正表を発行しさえすればよいと考え、結果的に剽窃を助長することになるとして、この決定に抗議・辞任したのです。

盗用・剽窃の問題が多発する今日、論文掲載にあたり厳しい審査を課すべきであると考える研究者はBeer氏の他にもおり、今後もこのような事態が発生する可能性は十分に考えられます。出版社側が明確な改善策や指針を打ち出さない限り、盗用・剽窃に関する問題は続きそうです。

以上、2017年に起きた衝撃的事件を2回に分けて紹介しました。2018年は学術界にとって、どのような1年になるのでしょう。

※ 2017年に学術界を揺るがした衝撃的事件(前編)はこちら


こんな記事もどうぞ

エナゴ学術英語アカデミー
米国の裁判所、“捕食出版社”に差し止め命令
編集委員を辞任に追い込む剽窃問題
参考記事

US Court Issues Injunction Against Open-Access Publisher OMICS
Junk science publisher ordered to stop ‘deceptive practices’
Retraction Watch: U.S. government agency sues publisher, charging it with deceiving researchers


論文の盗用・剽窃を避けるコツ-後編

本記事の前編で、盗用・剽窃の定義や、他人の文献を引用する際のコツをご紹介しました。しかし、研究者が注意しなければならない盗用・剽窃は、単なる文字のコピーに限りません。後編では、盗用・剽窃と捉えられかねない、直接引用と間接引用、パッチライティングについて見てみます。

■ これも盗用・剽窃?-直接引用と間接引用

他人の文章を、それが他人の文章であることを示すことなく書き写すことさえしなければ問題にならないと思いがちですが、盗用・剽窃とは「テキスト」のコピーだけではありません。他人の発想や考え方、データをコピーすることも含まれます。そもそも文章とは発想や考えをまとめたものであるため、その「考え」自体を真似たり、それを記した文章を適切に引用することなく自分の文章に書き写したりすることは、許されません。

では文章や「考え」を引用するにあたって取るべき適切な対応とは、どのようなものでしょうか。引用の仕方である「直接引用」と「間接引用」のそれぞれで見てみましょう。

直接引用

直接引用とは、他人の文章を自分の論文中に、該当文章が引用であることが明確になるように引用符を付けて「原文どおりに」再現することです。引用により定義付けをしたり、明確化させたり、あるいは主張を裏付けたりする場合に有効です。

以下の例文のカッコの中の文章が、他人の文章から引用した部分です。

象は、地上で一番大きな哺乳類で、体重は8トンぐらいあります。象は、「巨大な体と、大きな耳と、長い鼻を持っていて、その鼻で、手のように物を掴んだり、ホルンのように警笛を鳴らしたり、腕のように上げて挨拶をしたり、ホースにして水を飲んだり、シャワーを浴びたりします。」(出典:https://www.worldwildlife.org/species/elephant

この引用部分は、象の外見を言葉で説明したものです。視覚的イメージを維持したまま書き換えるのは困難なので、カッコを付けて示すとともに、出典を書き添えることによって、外部からの引用であることを明確にしています。英文の場合はカッコの代わりに引用符(“”)を使って外部からの引用であることを示します。

間接引用

間接引用(言葉の書き換え)とは、他人が書いた文章を自分の言葉に書き換えて記述することです。言葉を置き換えるのだから盗用・剽窃にはあたらないと考えがちですが、直接引用と同様に、書き換えた場合も出典元を明示しなければなりません。また、元の文章の意味するところ、基本的な考え方を変えないように注意する必要があります。

例えば、以下のような表現です。

象は、地上で一番大きな哺乳類で、体重は8トンぐらいあります。その大きくて、ひらひらした耳は、体を冷やしたり、虫をよけたりするのに役立ちます。頭から地面まで伸びた長い鼻は、道具として使われるほか、水を飲んだり、シャワーを浴びたりするのに使われます。(参照:https://www.worldwildlife.org/species/elephant

ここでは、情報が別の言葉に書き換えられていますが、2つの例文を比較すると直接引用の文のほうが、象の描写がより明確に表現されていることがわかります。

これらの引用方法は一長一短です。直接引用は、考えを説明したり、明確にしたりするのに有効ですが、頻出すると、文章の独自性が薄れてしまいます。一方の間接引用は便利ですが、うまく書き換えなければ明確に内容を伝えることができません。間接引用をする際には、引用文の背景にあるメッセージをしっかりつかみ、引用文を参照せずに書き換え文を作ってみて、元文と書き換えた文の意味が同じ内容となっているか読み比べてみる――という手順を経ることで、よりわかりやすい文章となり、盗用・剽窃を防ぐことができるようになるでしょう。

ただし、他者の文章を自分の言葉で言い換える間接引用であっても、きちんと自分の言葉で言い換えられていなければ盗用・剽窃となります。よって、直接引用した場合にはカッコ(「」)または引用符(“”)でくくる、間接引用の場合でも注釈を付けるなどして出典を示すように注意する必要があります。

■ パッチライティング(つなぎ合わせ)もNG

では文章を組み立て直して「間接引用」になっていれば、他者の文章をつなぎ合わせてもよいのでしょうか?例えば、文芸作家が複数の作家の作品をつぎはぎにして「新作」として発表したら、それは「盗作」であり、剽窃行為と見なされます。語句を並び替えたり、別の言葉で置き換えたりしたとしても引用元の文と似すぎているものを「パッチライティング(はめ込み)」と言います。これはれっきとした盗用・剽窃にあたります。内容を十分理解せずに言い換えた場合、どうしても引用元の文章との類似性が高くなってしまいます。他者の文章を類似語に置き換えただけではダメなのです。

特に近年は、インターネットが普及し、情報の入手が簡単になりました。複数のサイトからテキストを「コピペ」し、不要な情報を取り除いて自分の言葉を付け加えるだけでは、パッチライティングとなってしまいます。例文で見てみましょう。

その皮膚の厚い動物は、地上で一番大きな哺乳類です。体重は200キロから8トンぐらいあります。とても大きな体と、大きな耳と、長い鼻を持っており、その鼻で物を拾ったり、警笛を鳴らしたり、挨拶をしたり、水を飲んだり、水浴びをしたりします。

前述の直接引用や間接引用とは表現を変えていますが、内容はほぼ元文のままですので、この文章にも引用を付けるべきです。間接引用をする時の注意と重複しますが、ただ言葉を類似語に置き換えるだけでは盗用・剽窃ととられることを免れません。言葉にとらわれず、元の文章の背景にある「考え」を書き表すことでのみ、盗用・剽窃の落とし穴に陥るのを避けることができます。

■ 盗用・剽窃は身を滅ぼす

2回にわたり、盗用・剽窃には、意図的なもの/意図的ではないもの、直接引用/間接引用、パッチライティングなどさまざまな落とし穴があることを紹介しました。盗用・剽窃は、重大な学術的倫理違反です。掲載論文の撤回から研究助成金の削減まで、さまざまな措置がとられ、研究者としてのキャリアに影響を及ぼす可能性もあります。研究を続ける上で必要な助成金を獲得するために論文を発表しても、不正が指摘されればすべて台無しになってしまうのです。

論文の執筆では研究知見を裏付けるために、たくさんの参考文献を用いる必要があるため、学術雑誌は、推奨するスタイルガイドに準拠した引用や参考文献の書き方を示したガイドラインを提供しています。こうしたものを参照して正しい引用の仕方を身に付けるとともに、盗用・剽窃をチェックするツールを使うなどして、間違いを犯すことのないよう努める必要があるのです。

 


こんな記事もどうぞ
エナゴ学術英語アカデミー:研究論文での盗用を未然に防ぐには?


論文の盗用・剽窃を避けるコツ-前編

研究論文を書く時、文献を集め、自説を裏付けるエビデンスを揃えるのに苦心される方が多いのではないでしょうか。既存の考えや価値観を参考にしつつ、的確な所見を加えることは大切ですが、その時、盗用や剽窃(ひょうせつ)の間違いを犯さないように注意しなければなりません。

盗用・剽窃とは、他人の文章や考え方を許可なく使用あるいは部分的に使用し、自分のものとして発表することです。意図的かどうかを問わず、適切な手続きを取らずに引用されたことをいい、自分自身の過去の論文等の利用も含みます。盗用・剽窃は、学術的かつ倫理的に重大なルール違反です。発覚すれば、論文の撤回や執筆者の信用失墜を招きかねません。

近年の学術出版界では、この盗用・剽窃が大きな問題となっており、盗用・剽窃が原因で論文が撤回されることが多くなっています。論文の投稿・発表に際して思わぬ問題を起こさないために、研究者は盗用・剽窃について、よく理解しておかなければなりません。

■ 故意でなくとも…… 

国によっては、言葉の出所や考えのもとになった事実について、出典を明示することにこだわらないところもあります。しかし、学術界の世界的な倫理規範においては、適切な参考文献の表示は大前提です。すべての研究者は、この規範を順守しなければなりません。にも関わらず、盗用・剽窃が多数発生しているのはなぜなのでしょう。理由は「意図せぬ」盗用・剽窃です。特に、英語を母国語としない研究者が注意しなければいけないことがあります。自身の研究成果を英語で書き記す際、うまく表現できないと、ついつい参照論文の通りに書いてしまいがちではないでしょうか。剽窃の意図がなくとも、他の研究者が書いた文章をそのままコピーすれば剽窃にあたります。論文をチェックする編集者は、文法的に間違いの多い論文の中に、部分的に完璧な文章があると、それは剽窃である可能性が高いと見抜きます。

言語のハンディとは別の落とし穴もあります。IT技術の進歩により、情報入手が手軽になったことがあげられます。デジタル時代の今日、研究者はインターネット上で、他者の資料やデータを簡単に閲覧できるようになりました。オープンアクセスのプラットフォームをのぞけば、多種多様な研究論文にアクセスすることも可能です。これにより、デジタル化された文書から文章やデータをコピーすることが容易になり、検索した結果を「つい」借用することにつながりがちなのです。これも盗用・剽窃に当たります。

執筆した文章が「偶然」同じ表現となるような、偶発的な盗用・剽窃であったとしても、それが意図的でないことを証明することは困難です。研究者は疑いがかからないよう、初めから自衛手段を講じなければなりません。ここでは前後編にまたいで、いくつかの有効な手段と事例を紹介します。

■ 盗用・剽窃対策5つのポイント 

1 間接引用する

・参照文献を逐語的に引用せず、自分の言葉に置き換える。
・自分の言葉に言い換えるために、参照文献の内容を十分理解することが大切。
・参照文献の文章を部分的に切り抜き、それをつなぎ合わせるのも剽窃になるので、注意すること。

2 直接引用には引用符を

他者の論文から文章をそのまま使う時は、引用符を付けて引用すること。引用符の中の文章は、一言一句、元の文章そのままにする必要がある。

3 引用のルールを知る

・他者の論文から抽出したすべての言葉や発想は「引用」扱いとし、出典を明示する。
・過去に自分が書いた論文の一部を転載する際であっても「引用」扱いとすること。引用することなしに自分の過去の論文や資料を利用することを、自己剽窃と言う。
・自分自身が実験を行って得られた科学的エビデンスは、引用不要。
・事実や常識は引用不要。確定できない場合には参照を付けること。

4 引用元の記録を付けておく

・エンドノート(EndNote)やリファレンス・マネージャー(Reference Manager)などの引用ソフトを使用して、参照した文献の記録を残すこと。
・裏付けには複数の参照文献を付けること。例えば、書評を見るだけではなく、個々の論文を参照し、引用すること。

5 盗用・剽窃チェックツールを利用

iThenticateeTBLASTなどの盗用・剽窃チェックツール、または英文校正会社が提供する盗用・剽窃チェックサービスを利用する。広汎な文献を参照して、意図せぬ盗用・剽窃がないかを数分で知らせてくれるツール・サービスを論文提出前に利用する。

 

注意事項:ほとんどの剽窃は、論文の書評から文章を引き抜いています。自ら論文を記す時、他者の論文を参照する際には、書評だけでなく論文の全体を注意深く読み、文脈を理解し、自分の言葉で表現しなければなりません。そして、参照したら引用を忘れずに示すことが大切です。

上に記した対策は、あくまで文章の盗用・剽窃対策についてのものです。文章ではなく他者の研究結果を盗用することは、もってのほかです。

次回は、パッチライティングや、直接引用・間接引用について、さらに深く考えてみます。

 


参考:
THE WRITER’S HANDBOOK:Successful vs. unsuccessful paraphrases (英語リンク


ResearchGate 170万本の閲覧制限から見える著作権問題

2017年11月、科学者・研究者向けのソーシャル・ネットワーク・サービス「ResearchGate」が、エルゼビアやワイリーといった複数の大手出版社の申立てに応じ、オンラインに掲載していた約170万本の論文へのアクセスを制限するという処置を講じた、と報じました。学術ジャーナルに掲載された論文を誰もが無料で見られるようにしようという、オープンアクセスへの追い風が強まる中で発表された今回の措置。ResearchGateに何があったのか。著作権問題について考えます。

■ 何が問題なのか?

ResearchGateは2008年にボストンで設立、現在はドイツのベルリンに本部を置く営利団体で、1400万人以上の会員を有する世界最大級の学術ソーシャルネットワークを運営しています。世界有数の金融機関ゴールドマン・サックス、医学研究支援などを目的とする公益信託団体ウェルカム・トラストをはじめとした団体や、ビル・ゲイツ個人による出資を受けていることでも知られています。

ResearchGateのサイトは科学者・研究者向けのFacebookとも呼ばれており、会員は論文や要約等をアップロードして共有したり、他の研究者をフォローして最新の研究成果を確認したりできます。近年、このようにネットワーク上に論文を公開して共有するオープンアクセス化が、急速に拡大しました。研究者らが、時間や費用をかけずに必要な論文を自由に入手できるようになることを切望し、それを可能とする技術が発展することで、オープンアクセス化が進んでいるのです。

しかし一方で、従来であれば学術ジャーナルを買わずには読めなかった論文を無料で入手できてしまうわけですから、発行元である出版社にとっては、経営の危機に立たされると言っても過言ではありません。こうして、出版社に対する著作権侵害が問題となってきたのです。このような状況の中、ResearchGateは著作権侵害や責任ある共有を求める出版社連合(Coalition for Responsible Sharing: CRS)との協定違反を理由に、厳しい監視下に置かれることになったのです。

■ 著作権侵害の申立て

2017年9月、国際STM(Scientific, Technical, Medical)出版社協会がResearchGateで増え続ける論文共有に懸念を示し、論文の公開/非公開を判定するシステムの導入を提案しましたが、ResearchGateはこれを受け入れませんでした。そこで、著作権を有する出版社は、ResearchGateに対して、著作権を侵害している論文の削除を求める通知を送付することにしました。大手出版社5社(ACS、Elsevier、Brill、Wiley、Wolters Kluwer)が設立した連合であるCRSは、10月初めからResearchGateに対して著作権を侵害する掲載論文の削除通知を送り、この求めに応じた形で、ResearchGateはサイトからの即時ダウンロードをできないようにしたのです。

CRSによれば、同サイト上では、出版社が著作権を有する論文約700万本が自由に閲覧できる状態で公開されていたということです。2017年10月、CRSに参加している米国化学会(ACS)とエルゼビアはついに、ResearchGateに掲載されている論文の著作権の正当性を明らかにするため、ドイツの地方裁判所に訴訟を起こしました。裁判の結果によって、ResearchGateはオンライン上の掲載論文を削除するか、損害賠償を支払うことになるでしょう。

■ 著作権侵害が浮き彫りにしたのは――

ResearchGateが、少なくとも170万本の著作権侵害に該当する論文へのアクセスを制限したことにより、研究者達は論文をオンラインから自由に入手することができなくなりました。これはつまり、著者に論文の提供を直接求める必要に迫られるということです。論文を提供するかしないかは、著者自身の責任で判断されることとなるのです。

CRSの広告担当者であるJames Milne氏は、ResearchGateが200万本近くの論文へのアクセスを制限したことは前向きな一歩であるとしつつ、それでもなお、研究者以外からのアクセスを防ぐには十分ではないと述べています。今後は、ReserachGate以外の他のプラットフォームにおいても、論文共有に対するセキュリティ対策が強化されるかもしれません。実際、今までもオープンアクセスにおける著作権侵害は問題視されてきました。エルゼビアは、2013年に論文共用サイト「Academia.edu」に対し、2800通の掲載論文削除通知を送りつけています。また、ACSとともに海賊版論文サイト「Sci-Hub」を提訴することも行いました。

オンラインアクセスにおける著作権侵害の問題から明らかになってきたのは、学術出版業界における論文の適正な使用許可契約の欠如です。これまでは学術ジャーナルが論文の発表場所としての地位を確立してきましたが、オープンアクセスの台頭により、ビジネス・モデルそのものを考え直さざるをない状況です。出版社は近い将来、出版社と著者(研究者)双方の公平性を保ちつつ、購読料の確保とオープンアクセスの推進という相反する課題への対策を両立させる必要がありそうです。

■ オープンアクセスに向けた新しい試み

学術出版社がこれからの論文発表のあり方を模索する中、オープンアクセスの流れは止まりません。新たな動きをいくつか紹介しましょう。まずは「Free the Science」という試みです。これは、非営利団体である電気化学会が、長期的なビジョンに則って、学術研究の情報交換に斬新な変化をもたらそうとするものです。その他に、アムステルダム大学の歴史学者Guy Geltner教授が率いる非営利の学術ネットワークであるScholarlyHubも知られています。こちらは研究者が自身の手で構築したプラットフォームに論文を掲載するという仕組みになっています。

このように、オープンアクセスにおける著作権問題は存在するものの、学術研究の情報交換を促進しようとする新しい試みも広がりつつあります。CRSの見解に賛同する研究者もいれば、オープンアクセスを歓迎する研究者もいます。今後、どう変化していくのか。少なくとも学術出版社は、大きな転機を迎えていると言えるでしょう。


編集委員を辞任に追い込む剽窃問題

剽窃(ひょうせつ)とは、他人の成果や論文を許可なく部分的に利用し、自分の成果のように発表することです。例としてSTAP細胞論文の疑惑があげられます。まるごと盗んで自分のもののように使用する「盗用」とは区別されますが、剽窃は重大な犯罪です。大学や研究機関では教員や学生、研究者に剽窃をしないよう指導を行っていますが、学術出版社でも問題となっています。自然科学を対象としている著名な科学誌『Scientific Reports』でも剽窃が問題となり、投稿された論文の撤回を求めて19名の編集委員が職を辞するという事件に発展しました。

■ Scientific Reportsの編集委員19名が辞任

アメリカのボルティモアにあるジョンズ・ホプキンス大学の研究者であり、Scientific Reportsの編集委員の1人でもあるマイケル・ビア氏は、2016年に発刊されたScientific Reports 6に掲載された論文内で、自分の過去の研究成果が剽窃されたと訴えました。これに対し、他の編集委員もビア氏の主張を支持。最終的に計19名もの研究者が、編集委員を辞任したのです。

剽窃が問題視された論文は、ハルビン工科大学(中国)の深センキャンパスの研究者達により発表された、DNAの組み換えスポットを特定する技術を説明するものです。この研究は、ビア氏と彼の研究チームが2014年7月の『PLOS Computational Biology』に発表したアルゴリズムを基にしており、論文にはビア氏の論文を引用していることが示されているものの、ビア氏がgkm-SVMと名付けた技術を中国人研究者達はSVM-gkmと呼ぶなど、多くの部分は単にビア氏の論文を書き換えたものであると、同氏は訴えたのです。

■ 訂正表では納得せず

Scientific Reportsの編集者リチャード・ホワイト氏は当初、この論文がビア氏のアルゴリズムをより発展させたものだとする中国人研究者達の主張を認めていました。しかし中国人研究者達は、ビア氏の論文を引用したことは記していたものの、同氏の論文から引用した5つの方程式に、出典を付けるのを怠っていたのです。これによりビア氏と研究仲間は、中国人研究者は剽窃を行っているとして、訂正ではなく撤回という処罰が妥当であり、出版社の対処は不適切だと主張しました。しかしScientific Reportsは、訂正表で対処するという決定を改めはしなかったのです。

■ 辞任の連鎖

Scientific Reportsが該当論文を撤回しないと決定したことから、研究者の辞任が始まりました。まず、著名な遺伝学者であるアラビンダ・チャクラバーティ氏が、Scientific Reportsの本件への対処は不適切であり、Scientific Reportsの査読の質に疑問があるとして編集委員を辞任しました。チャクラバーティ氏は、自身が知る限り少なくとも2つの論文が、査読者が指摘した重大な懸念事項を修正することなく公表されたとも明かしています。

ビア氏と同じジョンズ・ホプキンス大学に所属する研究者のスティーブン・サルズバーグ氏は、自身はScientific Reportsの編集委員ではないのですが、この剽窃記事を発端として、ある運動を起こしました。Scientific Reportsの編集委員に名を連ねているジョンズ・ホプキンス大学の研究者に、この問題に抗議するために編集委員を辞任する考えがあるかと聞いたのです。その結果、「該当論文が撤回されないなら辞任する意思がある」と署名した研究者は21名に上りました。サルズバーグ氏は、自分の学生達が剽窃を行ったなら落第または退学させるのに、このケースにおいてScientific Reportsは、剽窃を行った者の論文を掲載し続けるという処置に甘んじていると、編集者のホワイト氏に宛てたEメールで訴えました。

ジョンズ・ホプキンス大学の神経学者、テッド・ドーソン氏は、本件でのScientific Reportsの対処を知ってすぐに編集委員を辞任しました。著者が論文を訂正すれば済むとするならば、Scientific Reportsは剽窃を許しているのと同じだと考えたためです。

一方、Scientific Reportsのホワイト氏は、該当論文は科学の発展の一過程を担うものであり、学術文献に新たな貢献を成すものとして、掲載に足ると考えている、と説明しました。当初はビア氏の論文を引用したことを示す記述が論文内に不十分であったが、その研究の新規性は疑うべきものではなく、研究分野における論文の貢献度を鑑みれば撤回は必要ないと考え、訂正表の発行という対処を行ったとのことでした。

問題となった論文の著者の一人であり、Scientific Reportsの編集委員でもあるベン・リュー氏は、ビア氏の論文からの剽窃を否定しており、Scientific Reportsのような権威ある科学誌において剽窃論文が掲載されることはあり得ないと述べています。

■ 研究者に生じた、ある疑問

今回のScientific Reportsの対処法は、研究者の意識に、ある疑問を投げかけました。故意ではない剽窃であれば論文は撤回されない可能性があり、そうなれば、自分たちが過去に発表した論文はいかにして守られるのか、と――。

どうやって剽窃であるか否かを判断し、どう対処するべきなのか。この一件で、剽窃に対する考え方と対処法について、研究者と出版業界の間には微妙な温度差が存在していることが浮き彫りとなりました。その後、Scientific Reportsは特別な編集委員会を編成し、該当論文のレビューを行うことにしたと、Retraction Watch(日本語名:撤回監視。学術雑誌に掲載された論文の撤回を報告・分析・議論するブログ)が報じています。しかし出版社と研究者が剽窃に対する認識を共有したわけではありません。問題の根は深く、第2・第3の事件が発生しても、不思議ではない状況です。

 

参考記事
Retraction Watch: 17 Johns Hopkins researchers resign in protest from ed board at Nature journal
Retraction Watch: Board member resigns from journal over handling of paper accused of plagiarism


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研究不正を行った研究者が死刑に!?

本ウェブサイトの記事「中国が学術不正防止に本腰」でも指摘されているように、日本やアメリカだけでなく中国でも、研究不正が問題になっています。『科学・工学倫理(Science and Engineering Ethics)』に掲載された最近のある調査では、中国の研究者らによる生物医学分野の論文のうち約40パーセントに、研究不正が含まれると推測されました。また本連載でも紹介したように、最近、中国の研究者たちによる論文107件が撤回されました。「偽装査読(フェイク査読)」がなされていたことがわかったからです。

こうした状況に中国の当局も手をこまねいているわけではありません。例えば、予算を拠出する機関は、研究不正が発覚した研究者からは研究費を返還させるなどの措置を講じてきました。

『フィナンシャル・タイムズ』(2017年6月19日付)の記事によれば、中国の科学技術省は前述の論文大量撤回事件を受けて、研究不正に対する「ゼロ・トレランス(no tolerance=許容度ゼロ)」の方針を宣言したといいます。しかし学術情報のニュースサイト『リトラクション・ウォッチ』を運営していることで知られる2人のジャーナリスト、アイヴァン・オランスキーとアダム・マーカスは、生物医学のニュースサイト『STAT』(2017年6月23日付)において、「中国のゼロ・トランス方針がどのようなものであるかはクリアではない」と指摘しています。

また今年(2017年)4月、中国の裁判所は、医薬品の許認可にかかわる研究において研究不正をした者に対しては厳格な実刑判決を下す方針を固めました。その不正行為により人的被害が生じた場合、その「実刑」には死刑も含まれるとしています。『ネイチャー』(2017年5月16日)は「この法律の下、認可された薬が健康問題を引き起こし、重度または致命的な結果が生じた場合には、10年の懲役または死刑になる可能性がある」と報じています。

これまでオランスキーとマーカスは、刑事罰の可能性も含めて、研究不正に対する厳しい規制を主張してきました。しかし2人は前述の『STAT』の投稿記事で、この中国の方針に対しては批判的な見解を述べています。

その理由としては、研究不正は要するに詐欺であり、資金提供者に対する窃盗ともみなせるものの、一般的には詐欺も窃盗も死刑には該当しないことなどを挙げています。ただ、医薬品の研究で不正を行った研究者は、「少なくとも理論上は」その医薬品を投与される人々の健康を危険にさらし、致命的な結果を招く可能性があります。とはいえ、医薬品の許認可は、1人ではなく多くの研究者からなるグループによって得られたデータによって判断されるので、グループ全員が不正行為に手を染めていない限り、研究者1人の不正行為による影響には限界がある、というのがオランスキーとマーカスの見解です。

2人は、懲役などの刑事罰を含む罰則の強化に対しては前向きなようです。第5回研究公正世界会議(WCRI: World Conference on Research Integrity)で発表された彼らの調査によれば、1975年から2015年にかけて、何らかの形で研究に関連した不正行為に対し刑事罰を受けた研究者は、世界中でわずか39人だけ。そのなかには研究予算の不正使用などのケースも含まれていました。

また、生物医学分野における研究不正を監視する米国の政府機関「研究公正局」が同じ時期に行った調査報告によれば、研究不正250件あまりのうち、刑事罰を受けたのは5件のみ、つまり2パーセント以下だともいいます。しかも研究不正を行った研究者のうちほとんどは連邦予算の使用を一時的に禁止されただけであり、なかには一定の時間を置いた後、研究に復帰している者もいます(本連載「研究不正が発覚した研究者でも、多額の助成金を獲得」も参照のこと)。

日本でも、研究不正ウォッチャーとして知られる白楽ロックビル(お茶の水女子大学名誉教授)は、研究不正は「警察が捜査せよ!」と厳しく主張しています。科学・技術政策ウォッチャーとして知られる榎木英介(近畿大学講師)も、研究不正が発覚しても地位はそのままで、ある時点までは研究費も受け取っていた研究者がいることなどを指摘しながら、「研究不正が死刑に値する犯罪とは思えない。しかし、大したおとがめもなく、研究を続けられるというのも甘すぎる」と指摘しています。

研究不正に対して、死刑はともかくとしても、刑事罰を下すべきか−−みなさんはどう考えますか?

 


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ライター紹介:粥川準二(かゆかわじゅんじ)
1969年生まれ、愛知県出身。ライター・編集者・翻訳者。明治学院大学、日本大学、国士舘大学非常勤講師。著書『バイオ化する社会』(青土社)など、共訳書『逆襲するテクノロジー』(エドワード・テナー著、早川書房)など、監修書『曝された生』(アドリアナ・ペトリーナ著、森川麻衣子ほか訳、人文書院)。博士(社会学)。


複数筆者の中で偉いのは?

学術論文には、通常複数名の著者がいます。近年、専門分野の境界線や国境を越えて新しい共同研究が行われ、複数の著者による共著の論文数が増加してきました。これにより、共同研究者の役割を適切に記載することが大きな課題となっています。

学術出版物において研究者が担う役割には、実験の設計・実施から、データの分析や論文の執筆まで、多岐にわたります。論文作成にあたり「最も貢献度の高い研究者」が筆頭著者となり、「最も高く評価される」というのが伝統的なあり方ですが、第二筆者以降の役割はあまり定義されていません。多くの研究分野では、最後に記載されている著者が、その研究の実施を管轄した人だと見なされ、筆頭著者と同程度に評価されています。しかし、これはあくまで非公式の慣習であり、最後に記載されている著者がその研究を「実現させた」人だという想定が常に正しいわけではありません。

実際、論文に記載する著者名の順序は、貢献度、アルファベット順、職位順など、状況に応じて様々な方法で決めることができます。このため、実際の貢献度を検討する際や、業績評価委員会による今後の評価の際に、部外者が論文に記載された著者一覧を適切に解釈することが難しくなっています。

そこで、研究者、編集者、研究機関、そして資金提供団体は、研究プロジェクトに対する個人の貢献について、より詳しい情報を知りたいと思うようになっています。2名の著者による論文の第一著者と第二著者であればわかりやすいのですが、著者の数が増えていくと、複雑になっていきます。この問題に対して、どのような解決策が図られているのでしょうか?

学術校正・翻訳業界の専門家の意見を紹介します。


「CRediTとOpenRIFは、著者の貢献度を判断する際の2つの解決策です。」

editor01通常、私たちは、ある研究の筆頭著者が最も評価されると考えますが、いつもそうだとは限りません。その研究の中の特定の部分については他の著者が大きく貢献したのかもしれません。しかし、著者リストに関する現在の規定では、他の著者の貢献度を測ることができません。学術誌が著者をアルファベット順に並べた場合、著者一覧を見ても、誰が何を担当したのかを見分ける方法はありません。

ほとんどの読者にとっては、どの研究者が何を担当しているかは問題にならないかもしれません。しかし、研究者の評価を仕事にしている人にとっては、どの著者がどのような貢献をしたかを正確に判断できないことが問題になることもあります。ある論文に対する各著者の具体的な貢献を区別することが重要な場合も多いのです。ある著者が、研究費や奨学金を申請する際や、大学院に出願する際には、研究に貢献したその他の著者の中で、特に自分の仕事を目立たせたいと思うことでしょう。

また、論文に実質的な貢献をしなかった人の名前が著者として記載される場合もあり、さらなる混乱が生じる原因にもなりかねません。こういった「名前だけの著者」が、論文に信頼性をもたらす場合もありますが、本来の著者がどのような貢献をしたかはさらに不明瞭になってしまいます。

これらの問題に対応するため、著者の貢献度を明瞭にするプログラムが開発されました。CRediT(Contributor Roles Taxonomy)OpenRIF(Open Research Information Framework)は、著者の貢献度を判断する際の2つの解決策として活用できます。CRediTは、貢献者に関する説明を学術誌に提示し、著者として公式に記載されている、いないに関わらず、研究に参加した貢献者を識別することができます。また、OpenRIFは、研究に対する具体的な貢献に関する情報を分類することで、著者についての透明性を高めています。

CRediTやOpenRIFといったツールによって、研究者が自らの貢献度を評価される可能性は高まりつつあります。

博士(認知科学)
米国にて7年以上の学術論文校正経験


「論文の著者になることはたいへん重要であり、複数の著者による論文が増加するにつれて著者になる機会が増える半面、著者としての立場を獲得することは難しくなっています。」

Editor3著者になることは、研究者にとって重要ですが、不正にさらされることもあります。経験ある研究者が肩書きだけの著者として記載されるにせよ、大きな貢献をした人が記載されないにせよ、論文の冒頭に書かれる筆者一覧から誰が何をしたかについて詳細を把握することはできません。この点について、各著者の貢献を記した部分がより明確な情報を与えてくれる場合もありますが、最終的には、筆頭著者と、最後に名前の書かれた著者が、その研究の主たる責任者として最も高い評価を受けると推定されます。

科学とは、情報交換や各種学会を通してすばらしいアイディアが生み出される「共同的な実践活動」だと考えれば、研究費を確保するために本当に重要なのは、著者として認められることだけです。そのために、この10年間、研究者の業績を定量化する指標として、「H指数」というものが導入されてきました。

この指数は、ある研究者が、筆者リストにおける名前の配置に関わらず、公刊した論文が何回引用されたかを算出したものです。H指数の数だけ引用された論文が少なくともH本以上あることを意味しています(H指数が10の場合、10回以上引用された論文を少なくとも10本以上公刊しているということです)。この指標により、公刊論文の数と引用された数(被引用数)との均衡が図られています。あまり論文を公刊していない若手研究者が影響力の大きな論文を1本発表すると、その若手研究者は研究者の間で一目おかれますが、著者としてのH指数がすぐに上がるわけではありません。一方、公刊論文数の多い、経験ある研究者が影響力の小さな論文を発表してもH指数には反映されません。ただし、研究者が被引用数よりもはるかに多くの論文を公刊している場合は、被引用数が時間の経過とともに積み重なることでH指数が上昇するかもしれません。

いずれにせよ、著者になることはたいへん重要ですが、複数の著者による論文が増加していることで、著者となる機会は増えています。著者としての立場を獲得することが難しくなってきているものの、研究の質あるいは量に関する基本は変わりません。著者として記載する際の基準の透明性を改善すれば、合議で決められていた論文における位置づけを利己的に利用するのを防ぐのに役立つかもしれませんが、この基準はかなり柔軟なものであり続けるでしょう。

修士(癌研究)
豪州にて12年以上の科学・医療文献執筆経験


「複数の著者による出版物は、筆者の名前の並べ方の他にも2つの大きな問題に直面しています。それは“幽霊著者(ゴーストライター)”と“名前だけの著者(ゲストライター)”という問題です。」

Editor2「著者として名前が出るか出ないか?」これは、現在科学者たちが直面している問題です。最近、複数の著者による出版物は、益々一般的なものになりつつあります。同じ分野の科学者たちによる共同研究から多くの論文が生まれているだけでなく、世界各地から様々な分野の科学者が集まってひとつの論文を作成することも増えてきました。

科学者たちがまず注目すべきは、「誰が何をやったか」です。実験に貢献するには多くの方法がありますが、典型的な場合、実験の責任者か、最も大きな貢献をした人が、論文の筆頭著者として論文に名を連ねます。しかし、筆頭著者以降の筆者の位置づけは曖昧であり、研究者の名前の並べ方には様々な方法があります。いくつか例をあげれば、貢献度順、アルファベット順、職位順といった方法が考えられます。貢献した人の数が増えるほど、著者順の決定はより難しくなります。

複数の著者による出版物は、名前の並べ方の他にも2つの大きな問題に直面しています。それは「幽霊著者(ゴーストライター)」と「名前だけの著者(ゲストライター)」という問題です。「幽霊著者」というのは、その出版に貢献したものの、何らかの理由で著者として記載されない人のことです。このことは、利益相反の可能性や、その他多くの理由から起こり得ます。「名前だけの著者」というのは、ほとんど正反対の問題であり、その出版に貢献しなかった人が貢献者として記載されることを指します。若手の研究者の論文に多く見受けられますが、その理由としては、より経験のある研究者を著者として記載することで、主要学術誌にその論文が掲載される可能性が高まると考えるためです。

このことは、出版物に関する大きな問題ですが、この問題の解決に向けた取り組みも進みつつあります。OpenRIF、ORCID(Open Researcher and Contributor ID)SHARE(SHared Access Research Ecosystem)などの団体が、論文において認められるべき貢献度をわかりやすくするしくみを創り出そうとしており、はるかに効率的で整理された過程を実現しようと試みています。

博士(情報技術)
日本にて11年以上の英日翻訳経験

 


【順天堂大学】西岡 健弥 准教授インタビュー(後編)

各大学の研究室に訪問し、研究者たちにおける英語力向上の可能性を探るインタビューシリーズ。九回目は、順天堂大学の西岡健弥准教授にお話を伺いました。後編では、英語力の鍛え方についてお話くださいます。


【順天堂大学】西岡 健弥 准教授

■英語力を鍛えるためにはどうするのが一番よいと思いますか。

日本人の研究者が 英語力 において、実際に必要とするのは読み書きですね。ヒアリングとスピーキングはそれほど現場では使わないので、読み書きを鍛えるにはまず単語量だと思います。

よく言われるのは、ジャパンタイムズだと10000ワードで、ニューヨークタイムズだと20000ワードぐらいの語彙がないと読みこなせないそうです。サイエンスの領域でそこまでの単語量の必要はないと思いますが、英文は単語を見たときに素早く理解できないと、相当に理解が落ちてしまいます。だから、最初は地道にひたすら黙々と単語量を広げ、同時に英文法も学んでいく。最初は、単語力を日々コンスタントに地道に増やしていくしかないのかなと思います。それを突き抜けていくと論文の読み書きができ、論文を読んだときにも深く理解ができます。その上で自分の関連の論文を読んでいく、その繰り返しです。僕の留学時代には英語の先生について頂いて、週に1回、英会話をやっていました。

その先生が、外国語を習得するのはひたすらpatient、patientだと言っていたのが記憶に残っています。

きっと大学院生には1つのテーマを与えられると思いますが、まずそれに関連した論文を読んでいき、広げていきます。その中で、自分の領域のものは『ネイチャー』や『サイエンス』などの論文を全部暗記するぐらいまで覚える。何度も何度も繰り返し読んでいくのです。

一流誌に出るような英文は、非常にきれいで簡潔で理解しやすいので、こうして表現する力を頭の中にたたき込めます。

ただパーキンソン病に関する分子生物学の世界でも、遺伝子とタンパクの機能とでは、使っている言葉が全く違ってきます。同じ領域でも英文の単語の内容が変わってきますから、最初の頃は本当にその内容を1つ1つ地道に調べていき、一流誌でのその内容をたたき込む、その繰り返しです。

それはもう日々、自分でこつこつとやっていくしかないかなと思います。

原著で自分がおもしろいと思う本を読むこともおすすめです。サイエンス系のノンフィクションでは、Richard Dawkins、Jared Diamond、Nessa Carey等は、個人的に好きでよく読みますが、論文以外に、英文を一冊の本としてまとまって読むことも英文表現力を高めるには良い方法と思います。

■留学についてどのようにお考えですか。必ず行ったほうがよいとか。

機会があるなら、絶対に行ったほうがいいです。

僕の経験ですがアメリカに行って初めて、本当に本当に自分は英語ができないと実感しました。それまでは少しはできるかなと勝手に思っていました。それが同じ英語でも地域でアクセントは全然違うし、会話のスピードも速いし、表現も豊かだし、何を言っているかさっぱりわからない。レストランに入っても料理そのものの単語がわからないし、高いチップの欲しいウェイトレスが必死にしゃべればしゃべる程、もっと分からなくなる。ラボでも、世界中からいろいろ留学生が集まっていましたが、これまた国によって英語のアクセントがぜんぜん違う。指導して頂いた先生方も、ブリティッシュ、アイリッシュ、スペイン人で、本当に一人一人アクセントが違いました。これらを通して、本当にできないということを痛感して帰ってきたことが、実は最高にいい経験になりました。

ある日、留学していた町 JacksonvilleのHodges BLVDにあるスターバックスに入ってニューヨーク・タイムズをちらっと見た時、その当時の北朝鮮の問題が何か書いてありました。これが全然わからなかったのですが、この些細な経験がとても印象に残りました。それからは、科学英語だけでなく、政治、経済、時事問題、食材まで、がむしゃらになんでも単語を覚えていきました。

帰国後も英字新聞はコンスタントに読むようにしています。日本にいたらあんな体験はできなかったと思います。これらの経験もまた、今の原動力になっていると思います。

あとは、自分自身が海外で「外国人」の立場になることは、すごくいい経験になると思います。人種、言葉、宗教、社会システム・・・全然異なる世界に1人身を置くことで、日本ではスムーズにいくことがアメリカではそうはいかないことが経験できる。この大変な経験が、後々自分の人生の器を広げてくれたと思います。留学時代に知り合ったすべての方々に、今でも本当に感謝しています。これは日本に戻ってもきっと役立つ経験になると思います。

だからこそ学生さんには是非行ってきてと勧めています。お願いだから行ってきて!と(笑)

ネットで簡単に情報はいくらでも手に入ります。Google earthを見れば、世界中の多くの景色を見ることができます。しかし、実際に自分が生活して経験するということは、まるで別物です。

■大体何年ぐらい行きますか。その際、どのような形になるかお聞かせいただけますか。

だいたい皆さん2年間ぐらいです。原則大学院で学んだ内容で、奨学金を申請します。それを元にグラントが取れれば、自分の専攻分野のトップリーダーというべき先生の研究室に行くことになることになります。

■どのような英語サービスがあれば使ってみたいと思いますか。そしてよい英語論文を書いていくためにエナゴをどのように活用したらよいかをうかがえますか。

エナゴのよいところは、ウェブサイトが非常にわかりやすいのと、値段もそれほど高くないことです。高くないけど質の高い英文が返ってくるのと、そしてリプライが早いです。

だからすごくいいなといつも思って使っています。ネイティブでないとわからない表現はわからないので、こういうサポートは必ず必要になります。こういう努力をひたすら積んできて、ある程度は私なりの型が完成しました。何度も文章を推敲しこれでいいだろうと思って校正の依頼をかけると、ネイティブの視点からはまた「ああしろこうしろ」となります。そのニュアンスの違いというのは個々人の能力を超えるところがあるので、その壁を取り払ってもらうために僕はエナゴを使わせていただいています。冠詞の適切な使い方等は、なかなかsecond languageとして英語を使っている者には分かりづらいものがあります。

とはいえ論文のデータが悪いもの、文章構成そのものが悪いものをいくらエナゴに頼んでも、それはエナゴだってアクセプトレベルにするには無理だと思います。文法や単語、文章は変えられますけど、元の原石の部分は自分で磨かないといけません。レビュアーが見た時に、それはすぐに感づかれます。新規性やデータの重みは、経験を積んでいるサイエンティストなら一読しただけでわかります。なので、原石は自分でちゃんと作りそれを英文校正会社に依頼する。校正会社に依頼して助かる部分は、あくまでもネイティブの人でないとわからない言語のニュアンスなのです。

■ありがとうございます。今後、今の英文添削だけではなく他にどのようなサービスがあればよいかお聞かせいただけますか。

可能であれば、少しずつ値段を下げていっていただきそれでかつクオリティの高い校正サービスがあればいいなと思います。

利用回数が増えれば増えるほど、値段が下がっていく仕組みもよいですね。

ポイント制もいいかもしれないですし、グラントがなくて、例えば臨床の先生が変わった症例を見つけた時に、ぜひ書きたいと思ったとしましょう。その時、個人で支払える金額以上のものであれば、なかなか依頼したいとは思わないのではないでしょうか。

例えば1本のフルペーパーを10000円以内とか、個人の支払いでも気軽に使えるような金額設定があると、日本の臨床医や研究者が世界に論文をもっと出そうとする気持ちになると思います。グーグルに代表されるように、金額を全部フリーにし、一気に人を集めて、そこから広告代を取ったり、ビックデータを使ったりするとか。AIの技術が昨今はやりですが、これらを駆使して無料で英文翻訳をかなり高い精度で完成させるサービスとか。

そこまでにしなくても、金額についてはもうちょっと一工夫欲しいと思うところはあります。もちろんエナゴも企業なので、利益という問題もあると思います。そこの壁を個人ユーザーでも気軽に利用できるような何かがあれば、もっとよくなると思っています。

■今、1つの原稿を新聞の専門家と英語の専門家の2名でチェックをしています。それを1名だけにして金額を下げるのはいかがですか。

期日は少し長くてもよいので金額をもっと安くしたり、個人の方でも使えるものが出てくれば、もっともっと日本から発信できると思います。

例えばフルペーパー20000円ですと言われますと、自費ではちょっとどうしようかなと迷う金額ですね。出したいけれどお金の関係で出せずにあきらめている人たちも相当数いて、その人たちも使ってもらえるためには何かしらの別の方法があってもよいかもしれないですね。

■若手の研究者にこれだけは伝えたいことがあればお聞かせいただけますか。

若手の研究者の方は、日々本当に英語を勉強してほしい。僕が指導している若手の先生にも日々言っています。論文を書くためだけではなく、世界にどんどん出ていくという意味でも、英語の習得は必須です。

今アジアの国々の台頭が著しく、シンガポールや中国も日本を追い抜く勢いです。それ自体は時代の流れとしてよいと思いますが、その中で日本の研究者が埋没しては良くないかと。世界中の研究者が、お互いに切磋琢磨して上のレベルを目指している時代に、日本語だけではいけないと思います。世界の動き、流行りを敏感にキャッチアップする意味でも、まずは英語の読み書きだけでも良いので、ぱっと見た時にすぐに理解して、それをどう研究に持っていくかという判断力が大切です。そのようなことがサイエンスや医学の世界だと、アドバンテージになってきますから、英語は絶対必要ですね。一歩、外側に踏み出してみると、すごい競争社会ですから。その中で生き残るため、そして自分のサイエンスを大きく広げていくために、様々な研究者とリンクしないといけません。

日本に帰ってきた今でも、やはり世界中の研究所といろいろコラボレートしながら仕事を進めています。その協力体制を維持していくのも、もちろん当たり前ですが英語ができないと進められません。大変かもしれないけどそれを乗り越えていくと、またさらに多くの研究者と知り合いになれて、良い刺激が得られます。ぜひ若手の先生方にもこの大変さを乗り越えて、その後にある見晴らしの良い景色を眺めて欲しいと思いいます。

とにかくやらなければいけない(笑)。そういうことです(笑)。


 

【プロフィール】

西岡 健弥(にしおか けんや)
順天堂大学医学部 脳神経内科 准教授

 
1999年 東京医科大学医学部卒業
2000年 順天堂大学および関連施設にて臨床研修
2004年 順天堂大学大学院神経学教室
2007年 順天堂大学大学院神経学卒業(医学博士)
2008年 Mayo Clinic Jacksonville Department of Neuroscience,
2008年 Matthew Farrer lab.研究員
2010年 順天堂浦安病院脳神経内科助教
2013年 順天堂大学脳神経内科准教授(~現在)