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編集委員を辞任に追い込む剽窃問題

剽窃(ひょうせつ)とは、他人の成果や論文を許可なく部分的に利用し、自分の成果のように発表することです。例としてSTAP細胞論文の疑惑があげられます。まるごと盗んで自分のもののように使用する「盗用」とは区別されますが、剽窃は重大な犯罪です。大学や研究機関では教員や学生、研究者に剽窃をしないよう指導を行っていますが、学術出版社でも問題となっています。自然科学を対象としている著名な科学誌『Scientific Reports』でも剽窃が問題となり、投稿された論文の撤回を求めて19名の編集委員が職を辞するという事件に発展しました。

■ Scientific Reportsの編集委員19名が辞任

アメリカのボルティモアにあるジョンズ・ホプキンス大学の研究者であり、Scientific Reportsの編集委員の1人でもあるマイケル・ビア氏は、2016年に発刊されたScientific Reports 6に掲載された論文内で、自分の過去の研究成果が剽窃されたと訴えました。これに対し、他の編集委員もビア氏の主張を支持。最終的に計19名もの研究者が、編集委員を辞任したのです。

剽窃が問題視された論文は、ハルビン工科大学(中国)の深センキャンパスの研究者達により発表された、DNAの組み換えスポットを特定する技術を説明するものです。この研究は、ビア氏と彼の研究チームが2014年7月の『PLOS Computational Biology』に発表したアルゴリズムを基にしており、論文にはビア氏の論文を引用していることが示されているものの、ビア氏がgkm-SVMと名付けた技術を中国人研究者達はSVM-gkmと呼ぶなど、多くの部分は単にビア氏の論文を書き換えたものであると、同氏は訴えたのです。

■ 訂正表では納得せず

Scientific Reportsの編集者リチャード・ホワイト氏は当初、この論文がビア氏のアルゴリズムをより発展させたものだとする中国人研究者達の主張を認めていました。しかし中国人研究者達は、ビア氏の論文を引用したことは記していたものの、同氏の論文から引用した5つの方程式に、出典を付けるのを怠っていたのです。これによりビア氏と研究仲間は、中国人研究者は剽窃を行っているとして、訂正ではなく撤回という処罰が妥当であり、出版社の対処は不適切だと主張しました。しかしScientific Reportsは、訂正表で対処するという決定を改めはしなかったのです。

■ 辞任の連鎖

Scientific Reportsが該当論文を撤回しないと決定したことから、研究者の辞任が始まりました。まず、著名な遺伝学者であるアラビンダ・チャクラバーティ氏が、Scientific Reportsの本件への対処は不適切であり、Scientific Reportsの査読の質に疑問があるとして編集委員を辞任しました。チャクラバーティ氏は、自身が知る限り少なくとも2つの論文が、査読者が指摘した重大な懸念事項を修正することなく公表されたとも明かしています。

ビア氏と同じジョンズ・ホプキンス大学に所属する研究者のスティーブン・サルズバーグ氏は、自身はScientific Reportsの編集委員ではないのですが、この剽窃記事を発端として、ある運動を起こしました。Scientific Reportsの編集委員に名を連ねているジョンズ・ホプキンス大学の研究者に、この問題に抗議するために編集委員を辞任する考えがあるかと聞いたのです。その結果、「該当論文が撤回されないなら辞任する意思がある」と署名した研究者は21名に上りました。サルズバーグ氏は、自分の学生達が剽窃を行ったなら落第または退学させるのに、このケースにおいてScientific Reportsは、剽窃を行った者の論文を掲載し続けるという処置に甘んじていると、編集者のホワイト氏に宛てたEメールで訴えました。

ジョンズ・ホプキンス大学の神経学者、テッド・ドーソン氏は、本件でのScientific Reportsの対処を知ってすぐに編集委員を辞任しました。著者が論文を訂正すれば済むとするならば、Scientific Reportsは剽窃を許しているのと同じだと考えたためです。

一方、Scientific Reportsのホワイト氏は、該当論文は科学の発展の一過程を担うものであり、学術文献に新たな貢献を成すものとして、掲載に足ると考えている、と説明しました。当初はビア氏の論文を引用したことを示す記述が論文内に不十分であったが、その研究の新規性は疑うべきものではなく、研究分野における論文の貢献度を鑑みれば撤回は必要ないと考え、訂正表の発行という対処を行ったとのことでした。

問題となった論文の著者の一人であり、Scientific Reportsの編集委員でもあるベン・リュー氏は、ビア氏の論文からの剽窃を否定しており、Scientific Reportsのような権威ある科学誌において剽窃論文が掲載されることはあり得ないと述べています。

■ 研究者に生じた、ある疑問

今回のScientific Reportsの対処法は、研究者の意識に、ある疑問を投げかけました。故意ではない剽窃であれば論文は撤回されない可能性があり、そうなれば、自分たちが過去に発表した論文はいかにして守られるのか、と――。

どうやって剽窃であるか否かを判断し、どう対処するべきなのか。この一件で、剽窃に対する考え方と対処法について、研究者と出版業界の間には微妙な温度差が存在していることが浮き彫りとなりました。その後、Scientific Reportsは特別な編集委員会を編成し、該当論文のレビューを行うことにしたと、Retraction Watch(日本語名:撤回監視。学術雑誌に掲載された論文の撤回を報告・分析・議論するブログ)が報じています。しかし出版社と研究者が剽窃に対する認識を共有したわけではありません。問題の根は深く、第2・第3の事件が発生しても、不思議ではない状況です。

 

参考記事
Retraction Watch: 17 Johns Hopkins researchers resign in protest from ed board at Nature journal
Retraction Watch: Board member resigns from journal over handling of paper accused of plagiarism


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研究不正を行った研究者が死刑に!?

本ウェブサイトの記事「中国が学術不正防止に本腰」でも指摘されているように、日本やアメリカだけでなく中国でも、研究不正が問題になっています。『科学・工学倫理(Science and Engineering Ethics)』に掲載された最近のある調査では、中国の研究者らによる生物医学分野の論文のうち約40パーセントに、研究不正が含まれると推測されました。また本連載でも紹介したように、最近、中国の研究者たちによる論文107件が撤回されました。「偽装査読(フェイク査読)」がなされていたことがわかったからです。

こうした状況に中国の当局も手をこまねいているわけではありません。例えば、予算を拠出する機関は、研究不正が発覚した研究者からは研究費を返還させるなどの措置を講じてきました。

『フィナンシャル・タイムズ』(2017年6月19日付)の記事によれば、中国の科学技術省は前述の論文大量撤回事件を受けて、研究不正に対する「ゼロ・トレランス(no tolerance=許容度ゼロ)」の方針を宣言したといいます。しかし学術情報のニュースサイト『リトラクション・ウォッチ』を運営していることで知られる2人のジャーナリスト、アイヴァン・オランスキーとアダム・マーカスは、生物医学のニュースサイト『STAT』(2017年6月23日付)において、「中国のゼロ・トランス方針がどのようなものであるかはクリアではない」と指摘しています。

また今年(2017年)4月、中国の裁判所は、医薬品の許認可にかかわる研究において研究不正をした者に対しては厳格な実刑判決を下す方針を固めました。その不正行為により人的被害が生じた場合、その「実刑」には死刑も含まれるとしています。『ネイチャー』(2017年5月16日)は「この法律の下、認可された薬が健康問題を引き起こし、重度または致命的な結果が生じた場合には、10年の懲役または死刑になる可能性がある」と報じています。

これまでオランスキーとマーカスは、刑事罰の可能性も含めて、研究不正に対する厳しい規制を主張してきました。しかし2人は前述の『STAT』の投稿記事で、この中国の方針に対しては批判的な見解を述べています。

その理由としては、研究不正は要するに詐欺であり、資金提供者に対する窃盗ともみなせるものの、一般的には詐欺も窃盗も死刑には該当しないことなどを挙げています。ただ、医薬品の研究で不正を行った研究者は、「少なくとも理論上は」その医薬品を投与される人々の健康を危険にさらし、致命的な結果を招く可能性があります。とはいえ、医薬品の許認可は、1人ではなく多くの研究者からなるグループによって得られたデータによって判断されるので、グループ全員が不正行為に手を染めていない限り、研究者1人の不正行為による影響には限界がある、というのがオランスキーとマーカスの見解です。

2人は、懲役などの刑事罰を含む罰則の強化に対しては前向きなようです。第5回研究公正世界会議(WCRI: World Conference on Research Integrity)で発表された彼らの調査によれば、1975年から2015年にかけて、何らかの形で研究に関連した不正行為に対し刑事罰を受けた研究者は、世界中でわずか39人だけ。そのなかには研究予算の不正使用などのケースも含まれていました。

また、生物医学分野における研究不正を監視する米国の政府機関「研究公正局」が同じ時期に行った調査報告によれば、研究不正250件あまりのうち、刑事罰を受けたのは5件のみ、つまり2パーセント以下だともいいます。しかも研究不正を行った研究者のうちほとんどは連邦予算の使用を一時的に禁止されただけであり、なかには一定の時間を置いた後、研究に復帰している者もいます(本連載「研究不正が発覚した研究者でも、多額の助成金を獲得」も参照のこと)。

日本でも、研究不正ウォッチャーとして知られる白楽ロックビル(お茶の水女子大学名誉教授)は、研究不正は「警察が捜査せよ!」と厳しく主張しています。科学・技術政策ウォッチャーとして知られる榎木英介(近畿大学講師)も、研究不正が発覚しても地位はそのままで、ある時点までは研究費も受け取っていた研究者がいることなどを指摘しながら、「研究不正が死刑に値する犯罪とは思えない。しかし、大したおとがめもなく、研究を続けられるというのも甘すぎる」と指摘しています。

研究不正に対して、死刑はともかくとしても、刑事罰を下すべきか−−みなさんはどう考えますか?

 


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ライター紹介:粥川準二(かゆかわじゅんじ)
1969年生まれ、愛知県出身。ライター・編集者・翻訳者。明治学院大学、日本大学、国士舘大学非常勤講師。著書『バイオ化する社会』(青土社)など、共訳書『逆襲するテクノロジー』(エドワード・テナー著、早川書房)など、監修書『曝された生』(アドリアナ・ペトリーナ著、森川麻衣子ほか訳、人文書院)。博士(社会学)。


複数筆者の中で偉いのは?

学術論文には、通常複数名の著者がいます。近年、専門分野の境界線や国境を越えて新しい共同研究が行われ、複数の著者による共著の論文数が増加してきました。これにより、共同研究者の役割を適切に記載することが大きな課題となっています。

学術出版物において研究者が担う役割には、実験の設計・実施から、データの分析や論文の執筆まで、多岐にわたります。論文作成にあたり「最も貢献度の高い研究者」が筆頭著者となり、「最も高く評価される」というのが伝統的なあり方ですが、第二筆者以降の役割はあまり定義されていません。多くの研究分野では、最後に記載されている著者が、その研究の実施を管轄した人だと見なされ、筆頭著者と同程度に評価されています。しかし、これはあくまで非公式の慣習であり、最後に記載されている著者がその研究を「実現させた」人だという想定が常に正しいわけではありません。

実際、論文に記載する著者名の順序は、貢献度、アルファベット順、職位順など、状況に応じて様々な方法で決めることができます。このため、実際の貢献度を検討する際や、業績評価委員会による今後の評価の際に、部外者が論文に記載された著者一覧を適切に解釈することが難しくなっています。

そこで、研究者、編集者、研究機関、そして資金提供団体は、研究プロジェクトに対する個人の貢献について、より詳しい情報を知りたいと思うようになっています。2名の著者による論文の第一著者と第二著者であればわかりやすいのですが、著者の数が増えていくと、複雑になっていきます。この問題に対して、どのような解決策が図られているのでしょうか?

学術校正・翻訳業界の専門家の意見を紹介します。


「CRediTとOpenRIFは、著者の貢献度を判断する際の2つの解決策です。」

editor01通常、私たちは、ある研究の筆頭著者が最も評価されると考えますが、いつもそうだとは限りません。その研究の中の特定の部分については他の著者が大きく貢献したのかもしれません。しかし、著者リストに関する現在の規定では、他の著者の貢献度を測ることができません。学術誌が著者をアルファベット順に並べた場合、著者一覧を見ても、誰が何を担当したのかを見分ける方法はありません。

ほとんどの読者にとっては、どの研究者が何を担当しているかは問題にならないかもしれません。しかし、研究者の評価を仕事にしている人にとっては、どの著者がどのような貢献をしたかを正確に判断できないことが問題になることもあります。ある論文に対する各著者の具体的な貢献を区別することが重要な場合も多いのです。ある著者が、研究費や奨学金を申請する際や、大学院に出願する際には、研究に貢献したその他の著者の中で、特に自分の仕事を目立たせたいと思うことでしょう。

また、論文に実質的な貢献をしなかった人の名前が著者として記載される場合もあり、さらなる混乱が生じる原因にもなりかねません。こういった「名前だけの著者」が、論文に信頼性をもたらす場合もありますが、本来の著者がどのような貢献をしたかはさらに不明瞭になってしまいます。

これらの問題に対応するため、著者の貢献度を明瞭にするプログラムが開発されました。CRediT(Contributor Roles Taxonomy)OpenRIF(Open Research Information Framework)は、著者の貢献度を判断する際の2つの解決策として活用できます。CRediTは、貢献者に関する説明を学術誌に提示し、著者として公式に記載されている、いないに関わらず、研究に参加した貢献者を識別することができます。また、OpenRIFは、研究に対する具体的な貢献に関する情報を分類することで、著者についての透明性を高めています。

CRediTやOpenRIFといったツールによって、研究者が自らの貢献度を評価される可能性は高まりつつあります。

博士(認知科学)
米国にて7年以上の学術論文校正経験


「論文の著者になることはたいへん重要であり、複数の著者による論文が増加するにつれて著者になる機会が増える半面、著者としての立場を獲得することは難しくなっています。」

Editor3著者になることは、研究者にとって重要ですが、不正にさらされることもあります。経験ある研究者が肩書きだけの著者として記載されるにせよ、大きな貢献をした人が記載されないにせよ、論文の冒頭に書かれる筆者一覧から誰が何をしたかについて詳細を把握することはできません。この点について、各著者の貢献を記した部分がより明確な情報を与えてくれる場合もありますが、最終的には、筆頭著者と、最後に名前の書かれた著者が、その研究の主たる責任者として最も高い評価を受けると推定されます。

科学とは、情報交換や各種学会を通してすばらしいアイディアが生み出される「共同的な実践活動」だと考えれば、研究費を確保するために本当に重要なのは、著者として認められることだけです。そのために、この10年間、研究者の業績を定量化する指標として、「H指数」というものが導入されてきました。

この指数は、ある研究者が、筆者リストにおける名前の配置に関わらず、公刊した論文が何回引用されたかを算出したものです。H指数の数だけ引用された論文が少なくともH本以上あることを意味しています(H指数が10の場合、10回以上引用された論文を少なくとも10本以上公刊しているということです)。この指標により、公刊論文の数と引用された数(被引用数)との均衡が図られています。あまり論文を公刊していない若手研究者が影響力の大きな論文を1本発表すると、その若手研究者は研究者の間で一目おかれますが、著者としてのH指数がすぐに上がるわけではありません。一方、公刊論文数の多い、経験ある研究者が影響力の小さな論文を発表してもH指数には反映されません。ただし、研究者が被引用数よりもはるかに多くの論文を公刊している場合は、被引用数が時間の経過とともに積み重なることでH指数が上昇するかもしれません。

いずれにせよ、著者になることはたいへん重要ですが、複数の著者による論文が増加していることで、著者となる機会は増えています。著者としての立場を獲得することが難しくなってきているものの、研究の質あるいは量に関する基本は変わりません。著者として記載する際の基準の透明性を改善すれば、合議で決められていた論文における位置づけを利己的に利用するのを防ぐのに役立つかもしれませんが、この基準はかなり柔軟なものであり続けるでしょう。

修士(癌研究)
豪州にて12年以上の科学・医療文献執筆経験


「複数の著者による出版物は、筆者の名前の並べ方の他にも2つの大きな問題に直面しています。それは“幽霊著者(ゴーストライター)”と“名前だけの著者(ゲストライター)”という問題です。」

Editor2「著者として名前が出るか出ないか?」これは、現在科学者たちが直面している問題です。最近、複数の著者による出版物は、益々一般的なものになりつつあります。同じ分野の科学者たちによる共同研究から多くの論文が生まれているだけでなく、世界各地から様々な分野の科学者が集まってひとつの論文を作成することも増えてきました。

科学者たちがまず注目すべきは、「誰が何をやったか」です。実験に貢献するには多くの方法がありますが、典型的な場合、実験の責任者か、最も大きな貢献をした人が、論文の筆頭著者として論文に名を連ねます。しかし、筆頭著者以降の筆者の位置づけは曖昧であり、研究者の名前の並べ方には様々な方法があります。いくつか例をあげれば、貢献度順、アルファベット順、職位順といった方法が考えられます。貢献した人の数が増えるほど、著者順の決定はより難しくなります。

複数の著者による出版物は、名前の並べ方の他にも2つの大きな問題に直面しています。それは「幽霊著者(ゴーストライター)」と「名前だけの著者(ゲストライター)」という問題です。「幽霊著者」というのは、その出版に貢献したものの、何らかの理由で著者として記載されない人のことです。このことは、利益相反の可能性や、その他多くの理由から起こり得ます。「名前だけの著者」というのは、ほとんど正反対の問題であり、その出版に貢献しなかった人が貢献者として記載されることを指します。若手の研究者の論文に多く見受けられますが、その理由としては、より経験のある研究者を著者として記載することで、主要学術誌にその論文が掲載される可能性が高まると考えるためです。

このことは、出版物に関する大きな問題ですが、この問題の解決に向けた取り組みも進みつつあります。OpenRIF、ORCID(Open Researcher and Contributor ID)SHARE(SHared Access Research Ecosystem)などの団体が、論文において認められるべき貢献度をわかりやすくするしくみを創り出そうとしており、はるかに効率的で整理された過程を実現しようと試みています。

博士(情報技術)
日本にて11年以上の英日翻訳経験

 


【順天堂大学】西岡 健弥 准教授インタビュー(後編)

各大学の研究室に訪問し、研究者たちにおける英語力向上の可能性を探るインタビューシリーズ。九回目は、順天堂大学の西岡健弥准教授にお話を伺いました。後編では、英語力の鍛え方についてお話くださいます。


【順天堂大学】西岡 健弥 准教授

■英語力を鍛えるためにはどうするのが一番よいと思いますか。

日本人の研究者が 英語力 において、実際に必要とするのは読み書きですね。ヒアリングとスピーキングはそれほど現場では使わないので、読み書きを鍛えるにはまず単語量だと思います。

よく言われるのは、ジャパンタイムズだと10000ワードで、ニューヨークタイムズだと20000ワードぐらいの語彙がないと読みこなせないそうです。サイエンスの領域でそこまでの単語量の必要はないと思いますが、英文は単語を見たときに素早く理解できないと、相当に理解が落ちてしまいます。だから、最初は地道にひたすら黙々と単語量を広げ、同時に英文法も学んでいく。最初は、単語力を日々コンスタントに地道に増やしていくしかないのかなと思います。それを突き抜けていくと論文の読み書きができ、論文を読んだときにも深く理解ができます。その上で自分の関連の論文を読んでいく、その繰り返しです。僕の留学時代には英語の先生について頂いて、週に1回、英会話をやっていました。

その先生が、外国語を習得するのはひたすらpatient、patientだと言っていたのが記憶に残っています。

きっと大学院生には1つのテーマを与えられると思いますが、まずそれに関連した論文を読んでいき、広げていきます。その中で、自分の領域のものは『ネイチャー』や『サイエンス』などの論文を全部暗記するぐらいまで覚える。何度も何度も繰り返し読んでいくのです。

一流誌に出るような英文は、非常にきれいで簡潔で理解しやすいので、こうして表現する力を頭の中にたたき込めます。

ただパーキンソン病に関する分子生物学の世界でも、遺伝子とタンパクの機能とでは、使っている言葉が全く違ってきます。同じ領域でも英文の単語の内容が変わってきますから、最初の頃は本当にその内容を1つ1つ地道に調べていき、一流誌でのその内容をたたき込む、その繰り返しです。

それはもう日々、自分でこつこつとやっていくしかないかなと思います。

原著で自分がおもしろいと思う本を読むこともおすすめです。サイエンス系のノンフィクションでは、Richard Dawkins、Jared Diamond、Nessa Carey等は、個人的に好きでよく読みますが、論文以外に、英文を一冊の本としてまとまって読むことも英文表現力を高めるには良い方法と思います。

■留学についてどのようにお考えですか。必ず行ったほうがよいとか。

機会があるなら、絶対に行ったほうがいいです。

僕の経験ですがアメリカに行って初めて、本当に本当に自分は英語ができないと実感しました。それまでは少しはできるかなと勝手に思っていました。それが同じ英語でも地域でアクセントは全然違うし、会話のスピードも速いし、表現も豊かだし、何を言っているかさっぱりわからない。レストランに入っても料理そのものの単語がわからないし、高いチップの欲しいウェイトレスが必死にしゃべればしゃべる程、もっと分からなくなる。ラボでも、世界中からいろいろ留学生が集まっていましたが、これまた国によって英語のアクセントがぜんぜん違う。指導して頂いた先生方も、ブリティッシュ、アイリッシュ、スペイン人で、本当に一人一人アクセントが違いました。これらを通して、本当にできないということを痛感して帰ってきたことが、実は最高にいい経験になりました。

ある日、留学していた町 JacksonvilleのHodges BLVDにあるスターバックスに入ってニューヨーク・タイムズをちらっと見た時、その当時の北朝鮮の問題が何か書いてありました。これが全然わからなかったのですが、この些細な経験がとても印象に残りました。それからは、科学英語だけでなく、政治、経済、時事問題、食材まで、がむしゃらになんでも単語を覚えていきました。

帰国後も英字新聞はコンスタントに読むようにしています。日本にいたらあんな体験はできなかったと思います。これらの経験もまた、今の原動力になっていると思います。

あとは、自分自身が海外で「外国人」の立場になることは、すごくいい経験になると思います。人種、言葉、宗教、社会システム・・・全然異なる世界に1人身を置くことで、日本ではスムーズにいくことがアメリカではそうはいかないことが経験できる。この大変な経験が、後々自分の人生の器を広げてくれたと思います。留学時代に知り合ったすべての方々に、今でも本当に感謝しています。これは日本に戻ってもきっと役立つ経験になると思います。

だからこそ学生さんには是非行ってきてと勧めています。お願いだから行ってきて!と(笑)

ネットで簡単に情報はいくらでも手に入ります。Google earthを見れば、世界中の多くの景色を見ることができます。しかし、実際に自分が生活して経験するということは、まるで別物です。

■大体何年ぐらい行きますか。その際、どのような形になるかお聞かせいただけますか。

だいたい皆さん2年間ぐらいです。原則大学院で学んだ内容で、奨学金を申請します。それを元にグラントが取れれば、自分の専攻分野のトップリーダーというべき先生の研究室に行くことになることになります。

■どのような英語サービスがあれば使ってみたいと思いますか。そしてよい英語論文を書いていくためにエナゴをどのように活用したらよいかをうかがえますか。

エナゴのよいところは、ウェブサイトが非常にわかりやすいのと、値段もそれほど高くないことです。高くないけど質の高い英文が返ってくるのと、そしてリプライが早いです。

だからすごくいいなといつも思って使っています。ネイティブでないとわからない表現はわからないので、こういうサポートは必ず必要になります。こういう努力をひたすら積んできて、ある程度は私なりの型が完成しました。何度も文章を推敲しこれでいいだろうと思って校正の依頼をかけると、ネイティブの視点からはまた「ああしろこうしろ」となります。そのニュアンスの違いというのは個々人の能力を超えるところがあるので、その壁を取り払ってもらうために僕はエナゴを使わせていただいています。冠詞の適切な使い方等は、なかなかsecond languageとして英語を使っている者には分かりづらいものがあります。

とはいえ論文のデータが悪いもの、文章構成そのものが悪いものをいくらエナゴに頼んでも、それはエナゴだってアクセプトレベルにするには無理だと思います。文法や単語、文章は変えられますけど、元の原石の部分は自分で磨かないといけません。レビュアーが見た時に、それはすぐに感づかれます。新規性やデータの重みは、経験を積んでいるサイエンティストなら一読しただけでわかります。なので、原石は自分でちゃんと作りそれを英文校正会社に依頼する。校正会社に依頼して助かる部分は、あくまでもネイティブの人でないとわからない言語のニュアンスなのです。

■ありがとうございます。今後、今の英文添削だけではなく他にどのようなサービスがあればよいかお聞かせいただけますか。

可能であれば、少しずつ値段を下げていっていただきそれでかつクオリティの高い校正サービスがあればいいなと思います。

利用回数が増えれば増えるほど、値段が下がっていく仕組みもよいですね。

ポイント制もいいかもしれないですし、グラントがなくて、例えば臨床の先生が変わった症例を見つけた時に、ぜひ書きたいと思ったとしましょう。その時、個人で支払える金額以上のものであれば、なかなか依頼したいとは思わないのではないでしょうか。

例えば1本のフルペーパーを10000円以内とか、個人の支払いでも気軽に使えるような金額設定があると、日本の臨床医や研究者が世界に論文をもっと出そうとする気持ちになると思います。グーグルに代表されるように、金額を全部フリーにし、一気に人を集めて、そこから広告代を取ったり、ビックデータを使ったりするとか。AIの技術が昨今はやりですが、これらを駆使して無料で英文翻訳をかなり高い精度で完成させるサービスとか。

そこまでにしなくても、金額についてはもうちょっと一工夫欲しいと思うところはあります。もちろんエナゴも企業なので、利益という問題もあると思います。そこの壁を個人ユーザーでも気軽に利用できるような何かがあれば、もっとよくなると思っています。

■今、1つの原稿を新聞の専門家と英語の専門家の2名でチェックをしています。それを1名だけにして金額を下げるのはいかがですか。

期日は少し長くてもよいので金額をもっと安くしたり、個人の方でも使えるものが出てくれば、もっともっと日本から発信できると思います。

例えばフルペーパー20000円ですと言われますと、自費ではちょっとどうしようかなと迷う金額ですね。出したいけれどお金の関係で出せずにあきらめている人たちも相当数いて、その人たちも使ってもらえるためには何かしらの別の方法があってもよいかもしれないですね。

■若手の研究者にこれだけは伝えたいことがあればお聞かせいただけますか。

若手の研究者の方は、日々本当に英語を勉強してほしい。僕が指導している若手の先生にも日々言っています。論文を書くためだけではなく、世界にどんどん出ていくという意味でも、英語の習得は必須です。

今アジアの国々の台頭が著しく、シンガポールや中国も日本を追い抜く勢いです。それ自体は時代の流れとしてよいと思いますが、その中で日本の研究者が埋没しては良くないかと。世界中の研究者が、お互いに切磋琢磨して上のレベルを目指している時代に、日本語だけではいけないと思います。世界の動き、流行りを敏感にキャッチアップする意味でも、まずは英語の読み書きだけでも良いので、ぱっと見た時にすぐに理解して、それをどう研究に持っていくかという判断力が大切です。そのようなことがサイエンスや医学の世界だと、アドバンテージになってきますから、英語は絶対必要ですね。一歩、外側に踏み出してみると、すごい競争社会ですから。その中で生き残るため、そして自分のサイエンスを大きく広げていくために、様々な研究者とリンクしないといけません。

日本に帰ってきた今でも、やはり世界中の研究所といろいろコラボレートしながら仕事を進めています。その協力体制を維持していくのも、もちろん当たり前ですが英語ができないと進められません。大変かもしれないけどそれを乗り越えていくと、またさらに多くの研究者と知り合いになれて、良い刺激が得られます。ぜひ若手の先生方にもこの大変さを乗り越えて、その後にある見晴らしの良い景色を眺めて欲しいと思いいます。

とにかくやらなければいけない(笑)。そういうことです(笑)。


 

【プロフィール】

西岡 健弥(にしおか けんや)
順天堂大学医学部 脳神経内科 准教授

 
1999年 東京医科大学医学部卒業
2000年 順天堂大学および関連施設にて臨床研修
2004年 順天堂大学大学院神経学教室
2007年 順天堂大学大学院神経学卒業(医学博士)
2008年 Mayo Clinic Jacksonville Department of Neuroscience,
2008年 Matthew Farrer lab.研究員
2010年 順天堂浦安病院脳神経内科助教
2013年 順天堂大学脳神経内科准教授(~現在)

 


【順天堂大学】西岡 健弥 准教授インタビュー(前編)

各大学の研究室に訪問し、研究者たちにおける英語力向上の可能性を探るインタビューシリーズ。九回目は、順天堂大学の西岡健弥准教授にお話を伺いました。前編では、ご自身の経験をもとに、英語論文の執筆力向上についてお話くださいます。


【順天堂大学】西岡 健弥 准教授

■先生の研究室で扱っている専門分野を教えていただけますか。

私の専門分野はパーキンソン病と、関連の遺伝子の研究です。16年間研究をしていて臨床遺伝学がバックグラウンドになっています。それ以外の臨床上の事柄も研究対象です。2008年から2年間、フロリダのメイヨークリニックに留学しており、パーキンソン病と遺伝子の研究をやっていました。

■英語論文の執筆や学会の発表の場等で、英語で苦労した経験をお聞かせいただけますか。

苦労は、もう日々、すべてです(笑)。最初の頃や留学中は先生たちに全部手直ししていただいたので自分の英語の学力の問題が表面に出ることはありませんでした。しかし、帰国して自分が論文を作る立場になった頃から壁を感じ始めました。それまでいかに先生方からサポートしていただいていたかを痛感しました。指導いただいた経験をもとに自分なりのものを出していくことに今なお日々奮闘しています。

■研究室の方々や共同研究者も苦労されていますか。

皆さん、あまり表面には出さない感じはします。

■若手の研究者や学生は英語の執筆力をどのようにして鍛えていくのでしょうか。

若い先生が英語論文を1本を書く。これは相当大変な作業になります。僕は今、3名の大学院生を指導していますが、なぜ自分がその研究をやるのか、論文を出していくのか、そういう動機が不明確のまま大学院に入る学生さんと、明確にできている学生さんとの間には差があると思います。モチベーションが全然違うとなると、論文を作る作業に耐えられるかどうかにも関わってきます。

まずこのモチベーションが第一だと思います。それはなんでもいいと思います。僕の場合ですが、もともとは医学生のころから病理やDNA、RNAといった世界観が単純に好きで、さらに研究がしたい、留学経験を通して世界中の研究者とつながりたいと思っていました。だからがんばってデータを出そう、 論文 を書こうと、大学院生のときはやっていました。やはり最初に明確な動機がないと、いろいろとうまくいかないのかなと思います。ただ箔を付けたいので、大学院に行ってみましただと、なかなか続かないかと思います。

次に英語の基礎学力の大切さはあると思います。TOEICで700点以上、あるいは英字新聞をある程度読める、それぐらいの英語力がないと、基本的なことが理解しにくいし、書くといってもいきなり書けない。そこの壁はあると思います。

医学部受験まではがんばってみんな英語を勉強しますが、いざ大学に入るとあまりやらなくなり、研修医になると余計やらなくなってしまう。結果としてやらない期間が10年ぐらいあった上で、この研究の世界に入って来ます。きっと昔はできていたはずですが、それができなくなって研究に入ってくる。ここでちょっと大きな壁が1つできます。

だから、英語の環境は維持しておかないといけないと思います。苦手だ、無理だと言ってばかりではだめで、英語のサイトを見たり英語のニュースを見たりするなどして、常日頃から英語にふれておく必要はあるかと思います。さあ、サイエンスの世界で英語をやろうとなったときに、実は相当な壁があり、四苦八苦することになります。

最近はヨーロッパやアジアからの留学生が増えていますし、彼ら彼女たちとも積極的に会話することによって、改善されていくとは思います。

■研究室では誰が、どのように英語指導のアドバイスを行っているか、教えていただけますか。

英語のアドバイスは原則、僕がしています。それに大学院生や若手の病棟の先生がついて、やり取りしながら進めていく形にしています。一度、まず自力で書いてもらい、それを添削します。そしてアドバイスや手直しをしてその原稿を返します。

論文を書く作業を、いつもスキーに例えています。スキーの道具を買う。買っただけでは滑れないですよね。道具を買って、滑って、最初は何回も転びますよね。でも転んで嫌だ、とそこでやめたら上達しません。そのうち、何回か滑っているうちに滑れるようになります。滑れるようになったら、そのあと試合などの現場があります。そこで勝つために専門的なトレーニングを積み、ようやく試合で上位に入れるという、その一連の流れと、論文をアクセプトする流れは全部一緒、と、いつも言っています。

何回も何回も繰り返し書いていくうちに、書き方、表現のしかた、文章の出し方を習得できるようになると思います。まず、下手でもいいからとにかく書いてみようと。フリースタイルでいいので、ダイレクトに英語を書くことを繰り返します。

僕の考えでは、ライティングとエディティングは、随分と違うと思います。ライティングはある程度できるようになりますが、その後エディティングの技術はまた必要になります。この2つの作業は別として捉えた方が良いと思います。

慣れてきたら、例えば、僕も使ったエイドリアン・ウォールワークという本を使いながら、実際のエディティングも意識するようにします。よりパブリッシングに向けての専門的な科学英文の書き方や表現の仕方、特殊記号、例えば、コロン、セミコロンの使い方等を詰めてもらう作業です。エディットとしては、だらだら長く書かない、言いたいことを段落内の一番先に書く、とにかく分かりやすく表現する等、いろいろなコツがあります。

ライティングとエディティングは全く別物だとまず伝えたうえで、初心者の方には下手でもいいからとにかくフリーで書いてもらいます。できあがりを少し添削してあげて、返して、また添削、この繰り返しです。

また、ネットで検索すると、いろいろ科学英文の記載の手法について情報が手に入ります。エナゴのサイト等も活用しながら、より専門的にエディティングする力をつけてもらいます。

■論文が何本も出る機会はなかなかない気がしますが何回も英語を書く機会はありますか。

僕は臨床遺伝、遺伝学の分野なので、純粋基礎の先生に比べるとデータは割と早く出せます。なので、比較的英文を記載する機会は多い方かと思います。

臨床の若手の先生には、ケースレポートを書いてもらうようにしています。ケースレポートだと、最初の研究資金もかかりません。ケースレポートを2本、3本と書いていくと、文章の構成の仕方、頻用する文章の書き方を習得できるようになると思います。サブミットした後は、レビュアーのコメントをもらって、それを手直しして・・・という流れの中で、アクセプトまでの流れを手短に経験できます。

オリジナルペーパーだと、大掛かりで予算も時間もかかりますが、ケースレポートであれば、比較的短時間で多くのことを経験できます。これを繰り返していくと、実は臨床能力も大幅に伸びていきます。

一つの症例を徹底的に調べて、考えて、英文にする。これを繰り返すことは、臨床医としての思考トレーニングに最適です。また、大学院に入った後、大きい基礎研究の大型論文をを書くとなった時にも、とても良い下地になると思います。こういう英文記載のトレーニング方法も、若い先生方にはおすすめです。
 


後編では、英語力の鍛え方について言及いだたきます。
 

【プロフィール】

西岡 健弥(にしおか けんや)
順天堂大学医学部 脳神経内科 准教授

 
1999年 東京医科大学医学部卒業
2000年 順天堂大学および関連施設にて臨床研修
2004年 順天堂大学大学院神経学教室
2007年 順天堂大学大学院神経学卒業(医学博士)
2008年 Mayo Clinic Jacksonville Department of Neuroscience,
2008年 Matthew Farrer lab.研究員
2010年 順天堂浦安病院脳神経内科助教
2013年 順天堂大学脳神経内科准教授(~現在)

 


査読者が査読対象を盗用 − 「著者にとって最悪の悪夢」

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学術情報のニュースサイト『リトラクション・ウォッチ』は、毎日、学術界にとってはあまりうれしくない情報を発信していますが、その同誌が「著者にとって最悪の悪夢」と呼ぶ事態が起きたようです。

2015年6月、タフツ大学メディカルセンターのマイケル・ダンジンガーらは、5年かけて実施した研究の結果を原稿にまとめて、『内科学紀要(Annals of Internal Medicine)』に投稿しました。しかし、その原稿は査読者によって却下されました。ダンジンガーは自分の論文がほかの研究者たちの論文で引用されていないかどうかを探していたとき、『EXCLIジャーナル』に、自分たちの原稿とほとんど同じ内容の論文が掲載されていることを発見し、2016年8月、そのことを『内科学紀要』に連絡しました。『内科学紀要』のクリスティン・レーン編集長は、その論文の共著者の1人に、ダンジンガーらが投稿した原稿の査読者がいることに気づき、その人物に連絡しました。連絡を受けた人物は盗用を認めました。レーンは『EXCLIジャーナル』の編集者にそのことを知らせ、同誌は、2016年9月にその論文を撤回しました。

つまり、査読者が査読対象の原稿を却下しておきながら同時に盗用し、自分自身の研究結果として発表していたのです。

2016年12月、『内科学紀要』は、ダンジンガーが盗用者に宛てた手紙を掲載しました。これは彼が実際にその「査読者/著者」である人物に送ったメールを修正したものだといいます。同時に、レーンの名前で書かれた論説も掲載されました。

ダンジンガーの手紙は「親愛なる盗用者様 私たちの原稿を盗んで自分の論文として公表した査読者への手紙」と題され、「ドクター博士(Doctor Dr.)」宛てに書かれています。

あなたは私たちの原稿の外部査読者として働いてから数カ月後、同じ原稿を別の医学誌で公表しました。あなたは著者名や所属機関を削除し、あなたの共著者やあなたの所属機関の名前に置き換えました。

彼は、自分たちが5年もかけて研究を計画し、被験者を集め、データを収集・分析したにもかかわらず、そうした「少なくとも4000時間の労働の結果」が簡単に 盗用 されてしまった事実を書き記しています。「あなたが確実に知っているはずであるように、窃盗は間違ったことです。科学研究では特に問題です」。そして盗用をした者は、評判や職位、研究費を得る資格などを失うことを、優しく諭します。

あなたがなぜそんなリスクを取るのか、理解することは難しいです。 あなたが医師や科学者になるために、懸命に勉強したことは間違いありません。私はあなたが多くの研究論文を発表したことを知っています。そのことは意味を持ちません。論文を公表することへのプレッシャーがあまりに強いかどうか、あなたが働いている地域や分野の文化が寛容であるかどうか、そのような盗用が真剣に受け止められないのか、あるいは発覚する可能性が低いかどうかにかかわらず、あなたがそんな機会を利用する理由を想像するのは難しいです。あなたが将来、ほかの誰かの研究を盗まないことを希望します。

ダンジンガーは盗用者を名指ししてはいません。その理由を生物医学のニュースサイト『STAT』の取材にこう答えています。

私の目的は、査読者が原稿をまるごと盗み、それを疑うことを知らないジャーナル(学術雑誌)で独自のものとして公表することが可能なのだ、という認識を、科学/学術コミュニティと一般社会において高めることです。私は加害者について「いいふらす」ことを目指してはいません。そんなことは、より重要な目標を達成せず、復讐のように見えてしまい、目標から注意をそらしてさえしまいます。

一方、レーンは論説において、このケースの悪質さをこう説明しています。

第1に、査読者は自分が査読する論文の機密性を維持しなければならない。彼らは、その研究が公表され、その情報源として引用されるようになるまで、査読の間に知ったことを自分自身の目的のために使うのを控えるべきである。
第2に、その査読者は、ダンジンガーらの研究を大胆に盗んで、テキスト、表、図をほぼそのまま再現した。
第3に、その査読者は、存在しないヨーロッパ人の患者コホート(被験者集団)を捏造した。それは、医師が(知らずに)不正なデータにもとづいて患者のケアに関する決定を下すということにつながりうる、きわめてひどい行為である。
第4に、その盗用論文には多くの共著者がいた。これらの共著者もまた有罪である。 彼らは、価値のあることで貢献せず、研究の存在を確認することさえもなく、その名前を使用することを許したのだ。

そして「ダンジンガーのコメンタリーを読むことで、1人でも他人の研究を盗むことを防ぐことができるならば、何かよいものがそこから得られるだろう」と、その論説を結んでいます。

なお『リトラクション・ウォッチ』によれば、査読者が査読対象を盗用するような事例は、少ないながらも報告されたことがあるといいます。

まさに「著者にとって最悪の悪夢」です。このケースのように表に出たのは氷山の一角で、泣き寝入りになっているものもあるとしたら、学術界にとって、いや、社会にとって最悪の悪夢でしょう。
 


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ライター紹介:粥川準二(かゆかわじゅんじ)
1969年生まれ、愛知県出身。ライター・編集者・翻訳者。明治学院大学、日本大学、国士舘大学非常勤講師。著書『バイオ化する社会』(青土社)など、共訳書『逆襲するテクノロジー』(エドワード・テナー著、早川書房)など、監修書『曝された生』(アドリアナ・ペトリーナ著、森川麻衣子ほか訳、人文書院)。博士(社会学)。


インパクトファクターのライバル – Citescore(サイトスコア)とは?

CiteScore_インパクトファクター
ジャーナル(学術雑誌)の影響力(インパクト)を評価する指標として、「インパクトファク
ター」が広く知られています。本誌は以前、このインパクトファクターには多くの問題があると指摘されていることを紹介したことがあります。

インパクトファクターとは、簡単にいえば、そのジャーナルに掲載された論文それぞれが過去2年間に引用された回数の平均値です。たとえば、2015年の『ネイチャー(Nature)』のインパクトファクターは41.456です。『サイエンス(Science)』は33.661、『セル(cell)』は32.242です。

12月6日、学術出版の大手エルゼビア社は、「サイトスコア(CiteScore)」という新しい指標を提供し始めたことを発表しました。

かつてはトムソン・ロイター社、現在はクラリベイト・アナリティクス社が提供するインパクトファクターは、約1万1000誌ものジャーナルをランキングしてきましたが、サイトスコアは、その倍の約2万2000誌を網羅しているといいます。

ただ、サイトスコアが意味することや計算の方法は インパクトファクター と似ており、基本的には引用された回数です。サイトスコアでは、1本の論文が過去3年間に引用された回数の平均値を示します。

エルゼビア社は、このサイトスコアを「ジャーナルの影響力について、より包括的で、より透明性が高く、より最新の見通しをご提供する新しい標準」だと紹介しています。

サイトスコアの最も大きな特徴は、いわゆる研究論文だけでなく、「社説(Editorial)」や「編集者への手紙(Letters to the Editor)」、「訂正(Correction/Retraction)」、「ニュース」など、引用可能な記事すべてを数えていることです。「これらは学者からはあまり引用されていないので、平均を下げる」と『ネイチャー・ニュース』は指摘します。周知の通り、『ネイチャー』や『サイエンス』といったトップジャーナルには、研究論文以外の記事が大量に掲載されています。これらが点数に大きく影響するのです。たとえば医学における「トップジャーナル」として知られる『ランセット』は、インパクトファクターでは44点で、全体の4位ですが、サイトスコアでは、わずか7.7点に落ちてしまい、200位以下になってしまいます。

同誌は「このような違いは、出版社の行動に大きな影響を与える可能性がある」とも指摘します。つまりサイトスコアが普及すれば、出版社のなかには、研究論文以外の記事を掲載することをやめたり、ウェブサイトやほかの出版物に掲載したりするようになるかもしれない、ということです。

『サイエンス』の編集長は、自分たちはそうした「非研究コンテンツ」に誇りを持っており、被引用数にのみもとづく指標は、それらを「過小評価するだけでしょう」と同誌にコメントしています。

また、ある研究者たちの予備的な調査では、サイトスコアでは、あまり引用されない「非研究」記事を掲載する雑誌よりも、研究論文だけを掲載する雑誌のスコアが高くなり、その結果、研究論文だけを掲載するジャーナルを主に発行している出版社が高く評価される傾向があることが、早くも指摘されています。つまりネイチャー・パブリッシング・グループは不利になり、ワイリー社やアメリカ化学会、そしてエルゼビア社などは有利かもしれない、ということです(前述した『ランセット』の発行元はエルゼビア社ですが)。

さらにいえば、 インパクトファクター はこれまで出版社以外の企業が運営してきましたが、サイトスコアを運営するのはエルゼビア社です。出版社自体がジャーナルの指標を提供することに疑問を呈する専門家もいます。それに対してエルゼビア社は、同社は出版社であるだけではなくて、「情報ソリューションの提供者」でもある、と、前掲の『ネイチャー・ニュース』にコメントしています。

またサイトスコアもインパクトファクターと同じく、被引用数をベースにしています。そのため、実際には何十回も引用されている論文は少数であるため、ジャーナル全体を評価する指標としては疑問がある、というインパクトファクターに対する根本的な批判を克服できるかどうかは疑問です。

ある論文の重要性は、その論文が掲載されているジャーナルではなく、その論文の中身で判断される、という学術界の常識を思い出す必要があります。
 


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ライター紹介:粥川準二(かゆかわじゅんじ)
1969年生まれ、愛知県出身。ライター・編集者・翻訳者。明治学院大学、日本大学、国士舘大学非常勤講師。著書『バイオ化する社会』(青土社)など、共訳書『逆襲するテクノロジー』(エドワード・テナー著、早川書房)など、監修書『曝された生』(アドリアナ・ペトリーナ著、森川麻衣子ほか訳、人文書院)。博士(社会学)。


【帝京大学医学部】長瀬 洋之 教授インタビュー

各大学の研究室に訪問し、研究者たちにおける英語力向上の可能性を探るインタビューシリーズ。八回目は、帝京大学医学部内科学講座の長瀬洋之教授にお話を伺います。どんなにつらくても自身の力で英語論文を書き続けること、そして、研究者同士がお互いに意識を持って英語力を鍛えあうことの大切さについてお話くださいます。


帝京大学_長瀬洋之先生
 
■研究室で扱っている専門分野、研究テーマを教えてください。

呼吸器内科です。喘息、COPD (Chronic Obstructive Pulmonary Disease)、間質性肺炎などの呼吸器疾患全般を研究対象としています。
 

■英語論文の執筆や学会発表、共同研究などの場で、英語で苦戦した経験はありますか?

自分が大学院生の時はなかなか英語が書けなくて、言い回しを他の論文から引用するなどして執筆に非常に時間がかかりました。英語の書き方セミナーのような系統立った仕組みは当時はな
かったので、同じ研究室の仲間たちも苦労していました。仲間同士でブラッシュアップできれば良かったのでしょうけれど、そこまでの余裕がなかったですね。なので指導教員に英語を繰り返し添削してもらって、そのうちに言い回しを覚えていって少しずつ書けるようになっていって。

いざ自分が教員の立場になってみると、時間が取れないですし、学生が作った英語に赤を入れた後メールで戻して、という古典的なやり取りがなかなか大変でして、当時の指導教員の苦労を痛感しています。今思えば非常にありがたいことですね。
 

■学生や若手研究者は、どのようにして英語での論文執筆力を鍛えるべきだと思いますか?

まず、学会抄録や論文をたくさん執筆するのが一番重要だと思います。限られた時間の中で何本も論文を執筆することは容易ではないので、その他の学会発表、スライド作り、ポスター作りなどを自力で書いてみるのも大切です。どんなにつらくても、自身の力でやりきるしかないのではないでしょうか。

特に医学論文は専門用語が独特ですので、論文執筆レベルに到達するのは学部教育では無理でしょう。そうすると、大学院に進学して、自分で論文を書く機会が与えられて初めて学術英語に向き合うことになる。かなり苦労することになりますが、繰り返し訓練をするうちに、徐々に英語で抄録が書けるようになったりするんです。
 

■英語での論文執筆や学会発表に対し、研究室にいる学生にはどんなアドバイスをしていますか?

口頭発表の場合は、日本人にはフリートークはハードルが高いので、しっかり読み原稿を書いて、まずは読む。そこから始めざるを得ないのではないでしょうか。伝わらないことをたどたどしく言うよりは原稿を読む方が良いと思うので、学生にはしっかり発表原稿を用意することを勧めています。

アドリブ的要素の強いポスター発表はフリートークをせざるを得ないのですが、臆せずにディスカッションしているうちに訓練されてきます。中には、国内 学会 で、参加者は全員日本人だけれども「一貫して英語で話そう」という、英語の場数を踏むための工夫をしてくれている学会もあります。そういう場を利用して訓練するのも、若手研究者には良い方法ですね。
 

■日本人研究者が英語力を鍛えるためには、どうするのが一番だと思いますか?

海外留学生がいれば、英語で対話する機会が増えて、とても良いと思います。特に英語ネイティブではない者同士が英語で話すと、どうにかして意思を疎通しようと意気込みますので、お互いを鍛えていく意識を持って対話ができます。

また、以前私が東京大学の大学院にいた時は、研究室の仲間が集まり、教授の進行のもと、英語で「抄読会」が行われていました。誰もが、原稿なしでデータを説明し、討論していくのです。自分が話す内容や聞くことにすべて英語で触れることで、否応なしに英語に慣れていきました。そのような小さな訓練の積み重ねだけでも十分トレーニングになると思います。
 

■今後、どのような英語サービスがあれば使ってみたい、ありがたいと思いますか?

3つありまして、1つ目はプレゼンテーションの読み原稿のブラッシュアップです。論文から読み原稿を作るのですが、やはり文章に堅さが残ってしまうので読み原稿に相応しいスタイルに整えてもらえるサービスがあると良いと思います。

2つ目として、大抵のポスタープレゼンテーションは制限時間が設けられているので、プレゼンテーションの内容を時間内に収まるようブラッシュアップしていただけるとありがたいですね。自分が発表している姿を動画に撮ってネイティブの方にチェックしてもらい、魅力的な発表になっているか、内容を効率良く伝えられているかフィードバックを返してもらう。移動時間などの隙間を利用して添削してもらえて、客観的な意見ももらえる。そんなサービスがあればいいですね。

3つ目ですが、日本の研究者が海外の懇親会やパーティーの場に行くと、なかなか輪に入っていけなくて、ネットワーキングがうまくできないという悩みを多く伺います。特に若手研究者向けに、コミュニケーションの取り方全般をトレーニングできる場を提供するサービスがあったらいいですね。
 

■若手の研究者の方にご助言をお願いします。

自分で試行錯誤して英語を書き、指導者に添削してもらって経験を積んでいくのが論文執筆上達の秘訣だと思います。また海外の学会に参加した際は、是非ポスター発表などで他の発表者に質問して積極的にコミュニケーションを取って、他国の研究者との会話を楽しまれてはいかがでしょうか。ポスター発表だと時間があってのんびりと話せますし、質問することによって、自分が質問を受ける立場になった時の経験にもなりますよね。最初は当然尻込みされるかと思いますが、果敢にチャレンジしてみて下さい。
 


 

【プロフィール】

長瀬 洋之(ながせ ひろゆき)
帝京大学医学部内科学講座 呼吸器・アレルギー分野 教授

 
1994年 東京大学医学部医学科卒
1995年 国立国際医療 (研究)センター内科・呼吸器科
2000年 日本学術振興会特別研究員
2002年 東京大学大学院医学系研究科 (呼吸器内科学)修了 (医学博士)
2003年 帝京大学医学部内科学講座 (~現在)

 


査読 システムに限界、基準劣化のおそれ

査読_システム
生物医学のニュースサイト『STAT』は読者にこう問いかけます。「ゴジラと査読に共通するものは何か? どちらも必然的に自分の体重で崩壊してしまうはずだということだ。しかしどういうわけか、どちらも立っている」。『ネイチャー』によれば、すでに2010年の研究で、「査読システムは崩壊しており、まもなく危機に陥るだろう」と指摘されていたといいます。

しかし今年11月10日に『プロスワン』で公表された新しい研究によれば、今のところ査読者の数は、生物医学分野で毎年公表される膨大な数の新しい論文に間に合っている、といいます。論文は毎年100万件以上公表されており、しかも増加しています。

フランス国立衛生医学研究所の計算物理学者ミカエル・コバニスらは、生物医学の論文データベース「メドライン(MEDLINE)」に収録された論文を調査して、査読に費やされる時間を推計したところ、2015年だけで、6340万時間だとわかりました。もしジャーナル(学術雑誌)が時給75ドルという正当な対価を査読者たちに支払うならば、45億ドルの労働になるといいます。

「活動的な」査読者は毎年平均5件の論文を査読していることもわかりました。もちろん、年間何十件もの論文を査読する者もいれば、たったの1件という者もいます。また彼らの計算では、査読の需要に応じるために、2015年には180万人の査読者が必要とされたといいます。

前述の通り、査読をできる研究者の数は常に査読の需要を上回っているといいます。しかし問題は、労働の配分がきわめて不平等であることです。全体のうち5%の査読者が、全査読時間の30%近くを担っている、ということが今回の研究でわかったのです。

膨大な数の査読を引き受けている研究者のことを「査読のヒーロー」と呼ぶことがあります。コバニスたちは「こうした“査読のヒーローたち”はおそらく過労で、査読基準の劣化を招くリスクがある」と指摘します。

そのうえで、『ネイチャー』が興味深い見解を紹介しています。ニューヨークの出版コンサルタント、フィル・デイビスによれば「いわゆる“危機”は一流のジャーナルには影響していないかもしれない。その一方で、ひどい原稿をたくさん受け取る無名のジャーナルは、査読者を見つけることに苦労しているだろう。『プロスワン』のこの論文はそれらを分析していない可能性がある」。

コバニスらの研究ではそのほかにも興味深いことがわかりました。たとえばアメリカの研究者たちは、シェアで見ると、発表している論文よりも多くの論文を査読しています。中国はその逆で、査読の「輸入国」になっている、と『STAT』は指摘します。

同誌はこう主張します。「査読はきわめて欠陥のあるシステムである。しかし破壊するのではなく、修繕する価値のあるものだ。この最新の研究には、そうした見解を変更するものは何もない」

彼らはいくつかの提案をしています。たとえば査読者たちに支払いをすることです。そうすれば、査読を行う研究者たちは余分な仕事をするために余分な時間を費やしているという感覚を持たずに済むだろう、と。

また、論文の掲載や査読の基準をリセットして、論文の数自体を減らすべき、というある生物学者の意見を同誌は紹介します。

しかし、『STAT』は「もう一つの解決法」として、「もっと多くの、形態が異なる査読に道を開くこと」を提案します。たとえば、「パブピア(PubPeer)」「パブメドコモンズ(PubMed Commons)」といった情報交換サイトによって、 査読 は時間のかからない方法で可能になる、と。しかも同誌は、そうした情報交換サイトにおける議論は「おおむねにおいて」、今日行われている査読プロセスよりも「はるかに価値がある」とまで高く評価します。

実際のところ、2014年に話題になった「STAP細胞事件」では、「パブピア」における匿名ユーザーの指摘が問題発覚のきっかけとなりました。なお、そうした情報交換サイトにおける議論のことを「出版後査読(post-publication peer review)」と呼ぶこともあります。

『STAT』の提案は、一般的にいえば突拍子もないことかもしれません。しかしながら、コバニスらによる調査結果と合わせて、念頭に置く価値はあるでしょう。
 


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ライター紹介:粥川準二(かゆかわじゅんじ)
1969年生まれ、愛知県出身。ライター・編集者・翻訳者。明治学院大学、日本大学、国士舘大学非常勤講師。著書『バイオ化する社会』(青土社)など、共訳書『逆襲するテクノロジー』(エドワード・テナー著、早川書房)など、監修書『曝された生』(アドリアナ・ペトリーナ著、森川麻衣子ほか訳、人文書院)。博士(社会学)。


【東京医療保健大学】金子 眞理子 教授インタビュー(後編)

各大学の研究室に訪問し、研究者たちにおける英語力向上の可能性を探るインタビューシリーズ。七回目は、東京医療保健大学の金子眞理子教授にお話を伺いました。後編では、学術英語を執筆する 基礎知識 を学ぶ場としての大学の役割に言及されます。


東京医療保健大学_金子先生_英語執筆_基礎知識
 
■英語での論文執筆や学会発表に対し、研究室にいる学生にはどんなアドバイスをしていますか?

英語の教材を熟読することはもちろん、卒論などあらゆる海外の先行研究を積極的に読んで、自分の中に体系化してみるようにと伝えています。海外の文献に慣れ親しむことが大事なんだということを、若いうちに体験しておくことが必要だと考えています。

また、論文投稿などの場合には、ジャーナルの中には掲載料だけでも数万円といった費用が必要なジャーナルもありますので、科研費の助成や外部資金を獲得できるような研究にもチャレンジし、海外に発信していくための財源を確保していくべきということも、特に若手の研究者にはアドバイスしています。
 

■日本人研究者が英語力を鍛えるためには、どうするのが一番だと思いますか?

やはり海外に行って現地で鍛えるのが一番いいとは思いますが、研究者であれば、まずは自分の論文を海外ジャーナルへ投稿し、その投稿先とのやり取りの中で英語を学ぶこともできると思います。

ですが、学術論文というのは執筆するのに「お作法」というか、決まり事のようなものがあるでしょう。論文の内容のみではなく、海外投稿の際のお作法を学べる場が、大学の講義の中にもりこまれているといいなと思うんです。そのような機会が少ないと、いざ論文を書こうと思っても苦戦してしまう。

さらに言うと、英語論文執筆の際に基本知識として必要なあれこれが、院生の時の訓練の中に組み込まれていると本当に助かりますね。これから研究者になる方には、自身でまず四苦八苦しながら学んでいくこともしかりですが、大学院の教育の中で、あるいは若手の研究者たちがそのようなことを知る機会が身近に与えられるとよいなという気持ちがあります。
 

■今後、どのような英語サービスがあれば使ってみたい、ありがたいと思いますか?

エナゴさんでは学術論文の執筆方法をセミナーで講義してくれるサービスや、代理で海外ジャーナルに投稿してくれるサービスを展開されていますが、これらはとても良いと思います。また、英文校正のサービスでも、英語をただチェックするだけではなく、他のより良い言い回しを提案しコメントとして残して下さったりするので、私のように英語が苦手な利用者は非常に助かっています。

ただ、この言い回し・手直し提案は、してくれる作業者としてくれない作業者のばらつきがまだ多少見受けられるように感じますので、基本サービスとして徹底して組み込んで下されば、何も言うことはありませんね。
 


 

【プロフィール】

金子 眞理子(かねこ まりこ)
東京医療保健大学 東が丘・立川看護学部看護学科 精神看護学 教授
精神看護専門看護師 CBTストレスカウンセラー

 
1988年 国立福岡中央病院附属看護学校卒業
1988年 聖路加国際病院 入職(1993年3月まで)
1993年 青山学院大学文学部第2文学部教育学科心理学専攻 卒業
1995年 青山学院大学大学院文学部心理学専攻博士前期課程修了(修士・心理学)
1999年 聖路加看護大学大学院看護学研究科博士後期課程 修了(博士・看護学)
1999年 東京女子医科大学看護学部 講師(2005年3月迄)
2007年 慶応義塾大学大学院健康マネジメント研究科看護学専修博士前期課程 修了(修
2007年 士・看護学)
2007年 日本医科大学付属病院 リエゾン精神看護師(2009年3月まで)
2009年 東京女子医科大学看護学部・大学院看護学研究科 准教授(2015年3月まで)
2015年 東京医療保健大学東が丘・立川看護学部 看護学科 精神看護学 教授(~現在)