カテゴリーアーカイブズ: 学術英語

Dr. Paquette

間違いやすい用語や表現 ー based

過去分詞「based」の誤用を度々見かけます。ここではその典型的なものを検討します。

過去分詞およびそれが導入する過去分詞句は、必ず形容詞の機能をもち、名詞とその相当語句のみを修飾しうる語句です。しかし、日本人学者による論文では過去分詞が副詞として用いられているという文法的な誤りをよく目にします。

以下を見てみましょう。

[誤] (1) We performed this experiment based on the method introduced in Ref. [1].
[誤] (2) Based on these assumptions, we are able to derive the results listed in Fig. 2.
[誤] (3) This conclusion was reached partially based upon the argument given in Section 2.

これらの用例では、過去分詞「based」を含む過去分詞句はいずれも主節の動詞を修飾し、誤って副詞的な働きをしています。それぞれの例文における過去分詞句とそれらが修飾する動詞は、(1)では「based on the method introduced in Ref. [1]」と「performed」、(2)では「Based on these assumptions」と「are able」、(3)では「partially based upon the argument given in Section 2」と「was reached」となっております。

上記の誤用例の修正文としては以下が適切です。

[正] (1) We performed this experiment on the basis of the method introduced in Ref. [1].
[正] (1’) We performed this experiment using the method introduced in Ref. [1].
[正] (2) On the basis of these assumptions, we are able to derive the results listed in Fig. 2.
[正] (2’) With these assumptions, we are able to derive the results listed in Fig. 2.
[正] (2’’) Making these assumptions, we are able to derive the results listed in Fig. 2.
[正] (3) This conclusion was reached partially on the basis of the argument given in Section 2.
[正] (3’) The argument given in Section 2 helped us in reaching this conclusion.
[正] (3’’) The argument given in Section 2 was used in reaching this conclusion.

[正] (1)、[正] (1’)、 [正] (2)、[正] (2’)、[正] (2’’)、[正] (3)では原文における過去分詞句が正しく機能している他の修飾句に置き換えられています。その修飾句は、それぞれ[正] (1)、[正] (2)、[正] (2’)、[正] (3)では、主節の動詞を修飾する前置詞句「on the basis of the method introduced in Ref. [1]」、「On the basis of these assumptions」、「With these assumptions」、「on the basis of the argument given in Section 2」であり、[正] (1’)と[正] (2’’)では主節の主語を修飾する現在分詞句「using the method introduced in Ref. [1]」と「Making these assumptions」です。一方、[正] (3’)と[正] (3’’)ではより全面的な修正方法が使われており、原文の過去分詞句が意味していた内容を、主節の動詞「helped」そして「was used」が表しています。
詳しくは『科学論文の英語用法百科・第一編』の第25章をご参照ください。

glenn

グレン・パケットGlenn Paquette

1993年イリノイ大学(University of Illinois at Urbana-Champaign)物理学博士課程修了。1992年に初来日し、1995年から、国際理論物理学誌Progress of Theoretical Physicsの校閲者を務める。京都大学基礎物理研究所に研究員、そして京都大学物理学GCOEに特定准教授として勤務し、京都大学の大学院生に学術英語指導を行う。著書に「科学論文の英語用法百科」。パケット先生のHPはこちらから。


Dr. Paquette

間違いやすい用語や表現 ー動詞「set」の誤用

I. 「to be」との誤った併用

日本人学者が書いた論文において動詞「set」が誤用されていることを度々目にします。ここでは「set」の一つの典型的な誤用を考察します。

以下を見てみましょう。

[誤]  (1) Here, x is set to be positive.
[誤]  (2) In the first case,Гis set to be 1.
[誤]  (3) We set the inter-particle force to be strictly repulsive.
[誤]  (4) We simplified the above derivation by setting the inverse of the correlation time to be equal to the Larmor frequency.

上の例文における「set … to be」という表現の用法は誤っています。これは文法上の問題ではなく、むしろ意味上の問題です。その問題は、「set」が(例えば変数と値との)対応関係を表すのに対し、「to be」は最も自然な用法では状態や性質を表すのに使われる、ということにあります。

以下に誤用例の修正文を示します。

[正]  (1) Here, x is chosen/assumed to be positive.
[正]  (2) In the first case,Гis set to 1.
[正]  (3) We choose/define the inter-particle force to be strictly repulsive.
[正]  (4) We simplified the above derivation by setting the inverse of the correlation time equal to the Larmor frequency.

ここで見られるように、「set … to be」の修正方法は、表される記述が定性的なものかあるいは定量的なものかということによります。前者の場合には「set」を定性的な意味を適切に示せる動詞に置き換え、後者の場合には「to be」を「to」に置き換えるか削除するべきです。

 

glenn

グレン・パケットGlenn Paquette

1993年イリノイ大学(University of Illinois at Urbana-Champaign)物理学博士課程修了。1992年に初来日し、1995年から、国際理論物理学誌Progress of Theoretical Physicsの校閲者を務める。京都大学基礎物理研究所に研究員、そして京都大学物理学GCOEに特定准教授として勤務し、京都大学の大学院生に学術英語指導を行う。著書に「科学論文の英語用法百科」。パケット先生のHPはこちらから。


【聖徳大学】北川 慶子 教授インタビュー(後編)

各大学の研究室に訪問し、研究者たちにおける英語力向上の可能性を探るインタビューシリーズ。十九回目は、聖徳大学 心理・福祉学部教授の北川慶子先生にお話を伺いました。インタビュー後編では、英語指導法や上達法についてお話しくださいました。


■ 佐賀大学にご在職中、学生の皆さんを海外に連れて行かれたそうですね。

佐賀大学が約10年前に環黄海地域の国々、つまり韓国と中国と日本で「環黄海教育プログラム」というものを作りました。言語専門の教員に対してプログラムへの参加を募ったのですが、手を挙げる人がいなかったので、私が立候補しました。

内容としては、環黄海の3カ国以上の国から教員を集めて行う授業に、各国の大学院生を参加させるという教育プログラムでした。選出された教員が、各大学院で持っている授業を一週間、オムニバス形式で行います。私の場合は社会学の授業でした。授業はすべて英語で、その後のグループディスカッションも、3カ国の学生が入り混じって全部英語。最後にはどんなことを話し合ったかをプレゼンし、その後に評価もする。それで2単位を取れるというプログラムでした。これは、長期休みの間にお互いを訪問し合うプログラムだったのですが、佐賀大学の院生は全員、韓国と中国と台湾に行きました。

■ プログラムに参加された学生の成長ぶりはいかがでしたか?

学生たちは飛躍的に成長しましたね。本当に全然しゃべれない学生もいましたが、一緒に夕食を食べて、お酒を飲んでいるうちに話し始めるのです。できる・できないは別にして、コミュニケーションを取ろうとしているのがわかって、すごくよかったですね。メールのやりとりでも、英語ができない中国人相手に漢字だけで書いていたり、韓国人相手に(ハングルは読めないので)英語で書いていたり。その中で国際カップルもできました。このプログラムを経験した学生たちは、私がそうだったように「今度は韓国に行きましょう」などと気軽に言うようになりました。

■ 先生の英語の指導方法についてお聞かせください。

学生にはできるだけ「機会」を与えるようにしています。カジュアルな国際会議に連れて行ったり、アブストラクトだけでも投稿させたり。私は英語の添削はいまだに苦手ですので最終的には、外国人共同研究者に見てもらいます。災害研究は外国でも進められており、ここ10年ほどで外国の研究者方との共同研究が増えました。そのおかげで、添削をお願いできる人脈も増えました。

おかげさまで、私のところで学んだ院生の多くが教員になっています。韓国で教員やポスドクになった学生もいれば、中国に帰国して教員になった院生もいます。

■ 卒業された皆さんは、韓国や中国でも英語を使われているのですか?

韓国でも中国でも、英語で学会の運営をすることが多くなっています。このよいところは、(英語)ネイティブではないことです。ESL(English as a second language)状態なので、若い人たちも気後れしないでしゃべるようになっています。英語が母国語でない人たちとの会話のほうが精神的に楽ですよね。若い人たちにとっては英語圏に行くのが一番かもしれませんが、英語を気軽に自分たちのものにするためには、アジアでもよいのではないかと思います。英語が通じない地域もありますが、Ph.Dを持っている台湾の人たちの9割はアメリカで学位を取得しているといいますし、国外でのPh.D.取得が韓国や中国でも多くなっています。私が台湾に2度ほど3か月と半年間、客員教授として迎えられましたが、英語だけで通じるので、まったく中国語ができない状態で行って、できないまま帰ってきました(笑)。

■ 先生が考える英語上達の秘訣、またはおすすめの勉強法を教えてください。

まだまだ勉強中の私が申し上げるのも難なのですが、とにかく触れる、使うことではないでしょうか。私の場合、共同研究で話したり、書いたりしながら実地で覚えたという感覚が強いです。仕方なく英語を使う状況に自分を追い込むんです。そうすると、向き合わざるを得ませんから。

あとは人の論文をレビューすることが、書くための勉強になります。文献を探して読むこと。あとは、自分で書くこと。私はパソコンでやっても身につかなくて、ノートに書いています。本当に必要なものは、書かないと入ってこないですから。スペルも覚えます。自分で書いて自分でチェックしていると、書くのが早くなります。年齢と共に筆記スピードだけでなく語学力も衰えていくと言われますが、筆記のスピードでそれをセルフチェックできるんです。

■ 自分で文献を探してレビューを読み、そして書くことが英語上達に結びつくということですね。

ええ。レビューを読むことは研究費などの調達にも必要です。資金を申請するには、必ず内外の研究動向を書かなければなりません。申請書を日本語で書くにしても内外の動向、特に外の動向を探るために外国の文献を読む必要がありますし、外国資金の申請をする時には、日本語の文献でもそれを読んで内容を書かなきゃなりません。

佐賀大学にいるころは、外部資金の獲得件数が多かったので「外部資金の女王」とか呼ばれていたんです(笑)。外部資金だけで35-36件でしょうか。申請書の書き方の本も書きましたし。

■ 研究費を確保するための申請書の書き方指南は、後身の指導にもなりますね。

実は、こつこつ集中して同じ作業をしたり研究をしたりするのは好きですけど、教えるのは苦手だと思っています。にもかかわらず指導のお声がけをいただき、本当にありがたく思っています。先日は申請書の作り方の指導に呼ばれて、沖縄の大学で8名の先生の申請書を朝9時から夕方5時まで休みなく、一人1時間ずつ。明日は佐賀に出張で大型資金の申請についての打ち合わせですし。結局、お世話するのが好きなんです。もう疲れて自分の申請書ができないかもしれません(笑)。

【プロフィール】
北川 慶子(きたがわ けいこ)
聖徳大学 心理・福祉学部 教授
1999-2014年 佐賀大学文化教育学部 教授
2009-2014年 佐賀大学女性研究者支援室副室長・佐賀大学男女共同参画室長
2014年-現在 聖徳大学 心理・福祉学部 教授(2014年~)/佐賀大学 名誉教授(2014年~)/佐賀大学 工学系研究科 客員研究員(2015年~)/韓国忠北大学国家危機管理研究所招聘研究員/ネパールルンビニ佛教大学客員研究員
2006年から国立台北大学 客座教授(台湾)、2007年から華東師範大学社会学研究所 併任研究員 (都市防災・福祉研究室)(中国上海市)、2008-2014年には輔仁カトリック大学特聘教授 国際交流諮問委員(台湾)など海外の役職にも就かれている。2015年モンゴル教育アカデミー優秀女性研究者賞、2016年には財団法人 日本女性科学者の会 功労賞と佐賀県 佐賀県政功労賞を受賞。
2016年9月には学文社より「科研費採択に向けた効果的なアプローチ」を出版。
ご専門分野:社会福祉学(高齢者福祉、地域福祉、児童福祉)

 


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【聖徳大学】北川 慶子 教授インタビュー(前編)

各大学の研究室に訪問し、研究者たちにおける英語力向上の可能性を探るインタビューシリーズ。十九回目は、聖徳大学 心理・福祉学部教授の北川慶子先生にお話を伺いました。インタビュー前編は、自身の原点であるアメリカ留学や、留学が持つ可能性についてのお話です。


■ 先生のご専門について教えてください。

高齢者や子供たちが住みやすい社会とはどのようなものなのかを研究しています。近年は、災害時におけるソーシャルワーカーの実務支援機能や被災者生活復帰支援など、被災者に機能する支援のあり方を探求しています。実は社会福祉分野の研究を始めたのは、大学院からです。大学では「あえて不得意なことをやってみたら?」という親の薦めで、工学部機械工学に進学しました。高校時代は完全に文系でした。博士課程を修了してからは大学の教員になりました。

■ 先生は「英語が得意ではない」と公言されていらっしゃいますね。

はい、今も勉強中です。エナゴさんには本当にお世話になっています(笑)。英語を学ばなければと思い始めたのはアメリカに留学してからですね。これも親の影響で、親が、まだ留学が珍しかった1960年代にアメリカ留学の経験があり、「あなたも留学しなさい」と。語学はダメだと思っていた矢先に、「この先は英語が絶対に必要になるから」と言われて。留学ではなく完全に遊学でした(笑)。

■ その後、英語の学習は…?

30代になり、教員2年目に、研究留学しました。行き先はカリフォルニア。この時も、勉強する代わりに国内のいろいろな所を旅して回りました。2-3日の旅程であちこちに行き、誘われればそちらに行きと。

遊んでばかりのように聞こえるでしょうが、私にはこれが重要でした。人との出会いで何となく英語に親しみが持てるようになりました。もし真面目に勉強していたら、間違いなく嫌いになっていたと思います。教授や事務職の人たちと「普通に生活できるようになった」という実感が一番うれしかったですね。ある時、毎日私の身を案じ電話をかけてくる母が、「日本語のスピードが落ちたみたい・・・」といったことに何となく自信めいたようなことを感じたことも思い出します。大学のキャンパスで、学生たちが気軽に話しかけてくれるようにもなりました。

その後、行動範囲も格段に広がりました。国際学会に出席するようになったのも研究留学後です。海外に出る機会も増えました。そして研究の対象が、今も関わりを持つアジアの国々の福祉に徐々に広がりました。

 何があったのですか?

韓国の教員の方が「来ませんか」と誘ってくれたのです。帰国してすぐのお誘いだったのですが、アメリカで行動力を身につけた私は「そうですね」と即決し、それからは頻繁に行き来するようになりました。

外国に行くと、日本人のアイデンティティをしっかり持つようになりませんか?いい加減なことを言えないからと歴史の勉強をしたら、いつしか目がアジアに向くようになりました。韓国から中国、台湾とどんどん広がって……。いつしか中国と台湾で客員教授をやっていました(笑)。ご縁が重なったこともありますが、結局はアメリカに行ったことからすべてが始まりました。

■ 留学が研究生活の原点である、と。

子供時代は海外経験もなく、怖がりで親と一緒じゃないと動けなかったのに、アメリカを独りで旅行をしたり友達を作ったりしているうちに、殻が破れたのだと思います。実を言うと、昔は高所恐怖症で、飛行機に乗るのも怖かったのです。でも、飛行機しか手段のないアメリカ国内を移動しているうちに、気付いたらすっかり治っていました(笑)。

留学中に人種差別も経験しました。1980年代でしたが、アジア人と同じ空間にいるのをあからさまに避けようとする人たちにも出合いました。どこの国の人も同じだと思っていた私にとっては衝撃でした。当時は意識しませんでしたが、帰国後にそれが英語学習のモチベーションになり、英語で論文を書くようになったのだと思います。

■ 留学後に英語での論文執筆を始められたのですね。

そうですね。災害研究を始める前後だったでしょうか。20年数前に、アメリカの学会The Gerontological Society of Americaで初めて発表しました。親やネイティブに練習に見てもらい、文章を書くのと発表は何とかなったのですが、質問が怖かった……。「後で答えます」と言えたらよかったのですが、緊張している上にネイティブの質問も聞き取れず……。ショックでした。翌年からその学会ではポスターセッションにしました。ポスターだと聞かれていることが分からなくても、「ここに書いてある」と示せる(笑)。ただポスターでも、実際は発表と同様に大変ですね。現在では、どちらかというと国内学会より国際学会への参加が多くなってきています。国際共同研究をしているということもありますが。

■ 英語で論文を書かれる頻度は多いのですか?

海外で年間に数回は発表しますので、英語で書くことが多いですね。日本語ではほとんど書いていません。英語で論文を書いているとは言っても、社会福祉学は生活科学ですので、文章自体が極端に難しくないような気はします。とはいえ、書く際はいつも四苦八苦しています(笑)。それでも、外国の方たちと一緒に研究をしていると、毎日のメールのやりとりに英語を使わざるを得ないですし、あとはとにかくおしゃべりをします。下手でも下手なりに、英語を磨く方法はあると思います。

■ 下手なりに英語を磨く方法、ですか。

はい。英語には慣れたものの、いつまでたっても、書くこともしゃべることも大してできず、日常はあまり英語を使う機会がないのでむしろ劣化しています。(笑)。その割には「しゃべれないのによくしゃべる」とか「間違っていても平気でしゃべる」とか「人の話を遮ってしゃべる」とか……いろいろ言われます。それは、自分からしゃべらなければ相手がどんどん話してしまうので、待っていては話す機会を逃します。ネイティブは待ったなしですので、礼儀に反するかもしれませんが、人の話を中断してでも話します。考え込んでいたら話は進みますし、そのうち言いたいことを忘れてしまいます。だから、何を言われても、間違っていてもしゃべる。でも、結果的にこの方法でも通用しています。こんな私でも、中国や韓国、ネパールなどでも講演し、教えることができてきたのですから。

私は全然身につきませんでしたが、留学するなら早いうちがよいと思います。学生には「一緒に行きましょう」と言っていますし、留学はせずとも、積極的に海外の学生と交流する機会を持つことを薦めています。

後編では自身が携わられてきた海外交流プログラムや、英語の指導法について伺います。

【プロフィール】
北川 慶子(きたがわ けいこ)
聖徳大学 心理・福祉学部 教授
1999-2014年 佐賀大学文化教育学部 教授
2009-2014年 佐賀大学女性研究者支援室副室長・佐賀大学男女共同参画室長
2014年-現在 聖徳大学 心理・福祉学部 教授(2014年~)/佐賀大学 名誉教授(2014年~)/佐賀大学 工学系研究科 客員研究員(2015年~)/韓国忠北大学国家危機管理研究所招聘研究員/ネパールルンビニ佛教大学客員研究員
2006年から国立台北大学 客座教授(台湾)、2007年から華東師範大学社会学研究所 併任研究員 (都市防災・福祉研究室)(中国上海市)、2008-2014年には輔仁カトリック大学特聘教授 国際交流諮問委員(台湾)など海外の役職にも就かれている。2015年モンゴル教育アカデミー優秀女性研究者賞、2016年には財団法人 日本女性科学者の会 功労賞と佐賀県 佐賀県政功労賞を受賞。
2016年9月には学文社より「科研費採択に向けた効果的なアプローチ」を出版。
ご専門分野:社会福祉学(高齢者福祉、地域福祉、児童福祉)

 


Dr. Paquette

論文英語の組み立て-能動態と受動態 I

能動態と受動態I: 動詞の種類による3つのケース

I. 概略

学術論文において受動態の間違った使い方が原因となっている誤りを度々目にします。ここでは、受動態文の作り方を検討します。

日本語と違って、英語では、受動態は他動詞の場合にのみ可能です。なお、他動詞にも数種類あり[1] 、受動態文の構造に関しては他動詞の種類によって3つのケースがあります。つまり、1)動詞が直接目的語しかとらない単一他動詞、2)直接目的語と間接目的語をとる二重他動詞、3)直接目的語と意味的間接目的語をとる二重他動詞となっている場合において受動態文の作り方はそれぞれ異なるわけです。以下で各ケースにおける構造を明らかにします。

II. 例文

IIa. 受動態文が能動態文と同じ状況を表す場合

まず、以下の例を見てみましょう。

1)単一他動詞
能動態:
[正] (1a) The dog chased the cat.
受動態:
[正] (1b) The cat was chased by the dog.

2)間接目的語をとる二重他動詞
能動態:
[正] (2a) I gave my friend a present. (I gave a present to my friend.)
受動態:
[正] (2b) My friend was given a present by me.
[正] (2c) A present was given to my friend by me.

3)意味的間接目的語をとる二重他動詞
能動態:
[正] (3a) The boy put a blanket on the dog.
受動態:
[正] (3b) The dog had a blanket put on him by the boy. [2]
[正] (3c) A blanket was put on the dog by the boy.

上述の各組ではb(あるいはbとc)はaと同じ状況を表します。

IIb. 受動態文が能動態文と逆の状況を表す場合

次に能動態文と逆の意味を表す受動態文を比べてみましょう。

1)単一他動詞:
[正] (1a) The dog chased the cat.
[正] (1b’) The dog was chased by the cat.

2)間接目的語をとる二重他動詞:
[正] (2a) I gave my friend a present. (I gave a present to my friend.)
[正] (2b’) I was given a present by my friend.
[正] (2c’) A present was given to me by my friend.

3)意味的間接目的語をとる二重他動詞:
[正] (3a) The boy put a blanket on the dog.
[正] (3b’) A blanket was put on the boy by the dog.
[正] (3c’) The boy had a blanket put on him by the dog.

これらの例文ではIIaと違って、各組ではb’(あるいはb’とc’)はaと逆の状況を表します。

IIc. 例文のまとめ

上述は、能動態文と受動態文との関係に関する典型的な用例です。これらの文が示す関係を意味論的な観点から見るとより分かりやすくなります。ここでの考察ではまず、動詞が表す動作・状態における主体、直接客体、間接客体を同定します。これらは能動態文においてそれぞれ主語、直接目的語、間接目的語あるいは意味的間接目的語が表すものです。それから、受動態文を作るとき、次のルールに従えばよいのです。まず、主体を表す語は必ず「by」の目的語になります。それから、直接客体を表す語は主語か直接目的語になります。前者と後者の場合、間接客体が存在すればそれを表す語はそれぞれ意味的間接目的語と主語になります。

IId. 省略文

英語では、原則として主語と動詞を省略することはできません。しかし、目的語は自由に省略でき、実際の文章ではよく省かれています。ここでは前述の例文の省略を検討します。
英語で完全な文章を構成するには主語と定形動詞が必要ですが、この2つの成分さえあれば、文法的に正しく、意味を成す文章を作ることができます。上に挙げた各例文において、主語(とそれに付く冠詞)と動詞以外の語を全部省略したとしても文法的には誤っていません。しかし、中にはかなり不自然な文となり、原文とは大幅に異なる意味を示すものもあります。ここでは自然な文のみを考察し、以下にその省略文を示します。

1)単一他動詞
能動態:
[正] (1a) —
受動態:
[正] (1b) The cat was chased.

2)間接目的語をとる二重他動詞
能動態:
[正] (2a) I gave a present.
受動態:
[正] (2b) My friend was given a present.
[正] (2c) A present was given to my friend.

3)意味的間接目的語をとる二重他動詞
能動態:
[正] (3a) —
受動態:
[正] (3b) The dog had a blanket put on him.
[正] (3c) A blanket was put on the dog.

これらの文から分かるように、受動態文では主体を明らかにする必要がなければそれを表す「by」の目的語を省略することができます。また、多くの能動態文で、間接客体を表す目的語を省略することができます。


[ 脚注 ]
1. 「自動詞と他動詞」を参照してください。
2. 厳密な文法規則によれば、これは受動態文ではありませんが、示される意味はまさに受動的です。

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グレン・パケットGlenn Paquette

1993年イリノイ大学(University of Illinois at Urbana-Champaign)物理学博士課程修了。1992年に初来日し、1995年から、国際理論物理学誌Progress of Theoretical Physicsの校閲者を務める。京都大学基礎物理研究所に研究員、そして京都大学物理学GCOEに特定准教授として勤務し、京都大学の大学院生に学術英語指導を行う。著書に「科学論文の英語用法百科」。パケット先生のHPはこちらから。


論文英語の組み立て-自動詞と他動詞

I. 概要

一般的な言語学現象として、 動詞 は、表す動作や状態において異なった立場にある複数の参加者が存在するかどうかによって二種類に分かれます[1] 。動作・状態の主体である参加者のみ存在する場合に使われる動詞は「自動詞」(intransitive verb)と言い、対象(客体)も存在する場合は「他動詞」(transitive verb)と言います[2] 。他動詞はさらに「単一他動詞」(monotransitive verb)と「二重他動詞」(ditransitive verb)という二種類に区別されます [3]。統語論的には、示される動作・状態における参加者を表す項が、前者では2つ(主語と1つの目的語)、後者では3つ(主語と2つの目的語)あります。英語では、単一他動詞は1つの直接目的語をとり、二重他動詞は直接目的語に加えて間接目的語、あるいは間接目的語と同様の役割を果たす前置詞の目的語をとります[4] 。(ここでは、間接目的語と同様に機能する前置詞句の目的語を「意味的間接目的語」と呼ぶことにします。)

例文を見てみましょう。

[正] (1) The cat is sleeping. (自動詞)
[正] (2) I ate a big apple. (単一他動詞)
[正] (3) My daughter gave the dog a kiss. (二重他動詞)
[正] (4) I put the book into my backpack. (二重他動詞)

(1)では、動詞「is sleeping」の項は主語である「cat」のみです。(2)の動詞「ate」は主語と直接目的語をとり、それぞれ「I」と「apple」になっています。(3)と(4)には、主語(「daughter」、「I」)と直接目的語(「kiss」、「book」)の他に、間接目的語(「dog」)と意味的間接目的語(「backpack」)もあります。

II. 誤用例

日本人学者が書いた学術論文では、自動詞と他動詞が混同されている誤用を頻繁に目にします。ここで典型的な誤用を示します。

以下の誤用例では本来他動詞になるべき動詞が誤って自動詞として用いられています。

[誤] (5) In the next section, we discuss about the first case.
[正] (5’) In the next section, we discuss the first case.
[誤] (6) We now explain about the method used in this study.
[正] (6’) We now explain the method used in this study.
[誤] (7) However, our conclusion contradicts with that of Jones.
[正] (7’) However, our conclusion contradicts that of Jones.
[誤] (8) The upper layer gradually approaches to the lower layer.
[正] (8’) The upper layer gradually approaches the lower layer.

次に、逆の誤りを見てみましょう。以下の誤用例では本来自動詞になるべき動詞が誤って他動詞になっています。

[誤] (9) The energy surface changes its shape.
[正] (9’) The shape of the energy surface changes.
[正] (9’’) The energy surface changes shape.[5]
[誤] (10) We compensate this underestimate by increasing the group size.
[正] (10’) We compensate for this underestimate by increasing the group size.
[誤] (11) Our results lead a deeper understanding.
[正] (11’) Our results lead to a deeper understanding.
[誤] (12) However, these modifications do not account the discrepancy.
[正] (12’) However, these modifications do not account for the discrepancy.


【脚注】
1. この区別が明確でない場合もあり、一般に「完全に自動的」と「完全に他動的」という分け方が不十分だということが指摘されています。(参照例:Paul J. Hopper and Sandra A. Thompson, Transitivity in Grammar and Discourse, Language 56, 251-299 (1980))確かに、この曖昧さは英語を母語としない人を悩ますものであり、誤りの原因となります。
2. 言語学では、動作・状態の主体と客体を意味する用語は著者によってまちまちですが、動作・状態の種類により主体を「動作主」(agent)または「経験者」(experiencer)、そして、直接客体を「被動者」(patient)または「主題」(theme)、間接客体を「受取手」(recipient)と呼ぶのが最も標準的かもしれません。
3. 単一他動詞と二重他動詞はそれぞれ「単他動詞」と「複他動詞」とも呼ばれます。
4. 間接目的語をとる他動詞のみが「二重他動詞」だと主張する言語学者もいますが、ここではこの文法的な基準ではなく、より意味論的な基準を用いて上述のように他動詞の二種類を区別することにします。
5. ここで「changes shape」は、意味的には動詞+目的語ではなく、合わさって動詞として機能する一つの意味的単位になっています。


glenn

グレン・パケットGlenn Paquette

1993年イリノイ大学(University of Illinois at Urbana-Champaign)物理学博士課程修了。1992年に初来日し、1995年から、国際理論物理学誌Progress of Theoretical Physicsの校閲者を務める。京都大学基礎物理研究所に研究員、そして京都大学物理学GCOEに特定准教授として勤務し、京都大学の大学院生に学術英語指導を行う。著書に「科学論文の英語用法百科」。パケット先生のHPはこちらから。


TokyoUniv.-Dr.Sato-2

【東京大学】佐藤 泰裕 准教授インタビュー(後編)

各大学の研究室に訪問し、研究者たちにおける英語力向上の可能性を探るインタビューシリーズ。十八回目は、東京大学大学院経済学研究科の佐藤泰裕先生にお話を伺いました。インタビュー後編では、英語の習得法や、「まずは中身」との英語学習者への助言をいただいています。


前編では、母語なまりの英語であっても、伝えるべきことを曖昧にせずに伝えることが大切と伺いました。では、長丁場の発表や研究会で質問返しができるくらいになるまでに、若手の研究者や学生はどのように英語を鍛えていけばよいのでしょうか。

■ 大学院で英語の論文を書かれたと思いますが、その際には指導教官の指導を受けられたのですか。

経済学部では修士2年になってから指導教官が決まります。そのため、英語を読むことに関しては自分(独学)でやった感じです。修士1年目でも読む機会は多いので、今の学生も、自分で頑張って辞書を引いていますよ。

書くことに関しては、最初は他の論文を見ながら使える表現を積み上げて、それをもとに自身で書いた原稿を、指導教員に見てもらう。この繰り返しだと思います。これに関しては、今も昔も一緒かと。

■ 英語で本格的に書くようになったのは博士課程からですか。

そうですね。修士のころの発表といったら、研究会で、読んだ論文の概要を日本語で説明するという程度でした。博士課程になってから英語で書く練習をして、英語の研究会にも参加するようになりました。それでも博士課程の間は自分の研究費などはありませんので、海外の学会には行かれず、国内の学会に出て日本語で発表していました。海外に行き始めたのは就職した後ですね。名古屋大学在職時に海外の学会に少しずつ自分の研究費で行くようになって、そこから英語で発表をするようになりました。

■ 初めて英語で発表をされたときの思い出をお聞かせください。

初めて英語でプレゼンをしたのはイギリスでのコンファレンスでした。学会より少し小規模で、持ち時間はやや長めの40分くらいでしたが、何をしゃべったか覚えてないですね。都市経済学に関する著名なジャーナルのエディターなどが揃っているようなコンファレンスだったので、「すごい方々がずらっと並んでいる」と思うと緊張して……。その後の懇親会で、海外の方に「おまえはもっと英語を勉強しなきゃいけない」と言われました。「そうしないと話ができないじゃないか」と。それで、やっぱり海外に一度は行かないといけないと思いました。指導教員の伝手をたどってベルギーの研究所に1年間滞在し、「とりあえずしゃべる」ということを学んできました。

■ そこでは英語でのコミュニケーションが主だったのですか。

そうです。研究所の中は全部英語。研究者の中に日本人が一人いたので一緒にご飯を食べてはいましたが、普段はフランス人やイタリア人も一緒なので英語で話す。海外の方とコミュニケーションを取らざるを得ない状況に身を置き、日常生活から研究に至るまですべてを英語で1年間続けたことで、基礎というか、話す力がつきました。

私はあまり社交的なタイプではないので、向こうにいる時も、おとなしい人と気が合いました。そういう人を見つけて仲よくなっていましたね(笑)。友達になることで、特に研究以外の世間話をする力が身についたと思います。これで懇親会などでのコミュニケーションが円滑にいくようになりました。ベルギーでの経験を経て、30分、長くて1時間半にわたる発表の途中で質問が来ても慌てなくなりました。

■ 経済学特有の長時間の発表や研究会に対応できるようになるため、若手の研究者やこれから研究者になろうとする学生は、どうやって英語を鍛えていけばよいと思われますか。

人によって向いている方法は違うと思いますが、一つは実地訓練ですね。研究会に出席して一言でも発信してみる。仲間内で研究会を模した練習をしてみるのも一つの方法だと思います。私自身はといえば、学部生のころに学会に参加することはなかったし、英語で発表する機会もなかったのですけれど……。

現在、東京大学では一年生からALESS・ALESAというアカデミック・ライティングのコースが必修科目になっています。私が学部にいたころに、こういう英語教育プログラムがあったらよかったのにと思います。

■ ご自身の経験から、学生に対して海外に行くことを薦められますか。

一度は行ったほうがよいと言っています。就職した後でもよい。英語が必要なら、どこかのタイミングで1年ほど海外に行けば、最低限のコミュニケーションを取れるくらいにはなれるよと。それ以上に流暢にしゃべれるようになれるかどうかは人それぞれで、私自身すらそこまで達していません。仲よくなりたいと思った人に話しかけて何とか話ができるレベルですが、それで生き残れるならそれでよいかなと思っています。

学生が海外に行く機会があれば、気が合って友達になれるような人を見つけてほしいです。外国に行って突然社交的になれるかと言ったらそうではありませんから、日本でこれまでしてきたような付き合い方を、海外でもすればよいと思います。そして、自分の仕事を切り口にしたほうがよい。私の専門は英語ではなく、経済学です。経済学をやっていてシャイな方っていうのは海外にもいらっしゃるので、そういう方とは非常に気が合う(笑)。そういう方を見つけて、仲よくしたらよいかなと思っています。

■ 人それぞれ性格にあったやり方でということですね。では、研究者が英語力を鍛えるために心がけておくべきことは何でしょう。

きれいな英語を話すより、まず自分の研究内容や、相手に伝えたいこと、何を話したいかを意識するというのが一番大事だと思います。きっかけは世間話でも天気のことでも構わないのですが、その後に、なぜその相手と話したいのかという気持ちが伝わらないと、会話が終わってしまいますよね。こちらがこんな研究をしていて、だからコミュニケーションを取りたいのだというのが相手に伝われば、一生懸命聞いてもらえる。その気持ちがあれば、自分が少々下手でも相手の話が聞き取りづらくても、徐々にコミュニケーションを取れるようになります。たどたどしくても、すごく中身のある内容をしゃべってくれる人だったら、もっと話を聞きたいと思うのは世界共通です。流暢さやなめらかさがあれば理想ですが、優先すべきは中身です。

■ 最後に、弊社のサービスで、英文添削や翻訳以外にもあれば良いと思うサービスや、あれば使ってみたいと思うサービスがあればお教え下さい。

英文校正のチェックができれば今のところは問題ないです。それが一番大事なので、そのサービスが信頼できるところに頼みたいです。

■ ありがとうございました。

【プロフィール】
佐藤泰裕(さとう やすひろ)
東京大学大学院経済学研究科・経済学部
1996年 東京大学経済学部卒業
2000年 名古屋大学情報文化学部講師
2002年 東京大学 博士(経済学)取得
2007年 名古屋大学大学院環境学研究科准教授
2008年 大阪大学大学院経済学研究科准教授
2016年から現在 東京大学大学院経済学研究科准教授
ご専門分野:都市経済学・地域経済学

 


TokyoUniv.-Dr.Sato-1

【東京大学】佐藤 泰裕 准教授インタビュー(前編)

各大学の研究室に訪問し、研究者たちにおける英語力向上の可能性を探るインタビューシリーズ。十八回目は、東京大学大学院経済学研究科の佐藤泰裕先生にお話を伺いました。インタビュー前編では、学会における英語での発表や、そこで得た大切な教訓について語って下さいました。


■ 先生の研究分野、研究テーマを教えてください。

経済学の領域で、その中でも都市経済学、地域経済学、空間経済学について研究しています。経済学とは元々、社会のルールや制度などをどのように設計すればより暮らしやすくなるのかを考える学問ですが、その中で都市や地域間の人口移動に関する分析や、地域経済政策の外部性を分析するのが専門です。いろいろな都市にある共通の問題を探ったり、都市に関する仮説を実証したりといった具合です。

例えば最近、大都市の混雑とか通勤などの問題が挙がっていますが、なぜ都市に企業や団体が集まるのか、その理由を理詰めで考えてデータで確認していくということをやっています。また、学歴の高い人ほど大都市に集まりやすいとも言われます。それをちゃんとデータで検証可能な形に整理するのです。そこが、私の研究が「理論分析」と言われる所以です。分析した後にあらためてデータを見て、実際に有意に観察されるかどうか、統計学を使って検証しているのです。

■ ご自身の研究を発表するのは、学会が主な場所でしょうか。英語で発表される機会はありますか。

そうですね、学会や研究会です。国内と海外、両方ありますが、子供がまだ小さいので海外にはあまり頻繁には行かれず、年に1回か2回ですね。

国内の学会でも、状況によっては英語で発表をしたり、資料を作ったりすることがあります。大学によっては研究会を全部英語でやっているところもありますし、聴衆の中に日本語のわからない外国の方がいる場合には、英語で――となることもあります。外国の方が来るかどうかわかった時点で資料を英語に訳すこともあるし、逆に、英語でプレゼンテーションする準備をしていたのに参加者が全員日本人だったから日本語に切り替わるということもあります。

■ 国内外問わず、英語で発表したり資料を作ったりしなければならない時のご苦労、大変だったご経験はありますか。

発表や資料作成ではそれほどないのですけれど、やはり質疑応答が・・・・・・。分野によって違うと思いますが、経済学の場合は、学会発表や研究会の発表でも(発表者が)しゃべっている間に質問が来ます。こちらがまだ話している間に手が上がって、「ちょっとこれの意味を教えてくれない?」とか「ここの部分をもっと聞きたいんだけど」っていうのが来る(笑)。国内の学会だと発表が終わるまで待ってくれますが、海外の学会は途中でも容赦なく手が上がります。

■ 準備していない段階で、予期せぬ質問が来ると。

そういうことです。なまりの強い英語で聞かれたり、ネイティブの方に(文を)省略してしゃべられたりすると質問の意味がわからないことがあって、それをどうやって返したらいいのか、どう切り抜けたらいいのか、最初は苦労しました。

今では、聞き取れなかったら素直に「今、何て言ったんですか?」と聞き返します。すると相手は、違う言い回しで質問し直してくれることが多いです。質問を予測して「こういう質問ですか」と尋ねたりもします。そうすると、やり取りが割とかみ合うようになります。最初に確認をすることで、話が有意義に進むようにしています。

もちろん事前にフレーズをいくつか考えて臨みますが、学会の会場で発表をされているノンネイティブの上手な返し方をストックもしています。学会や会議の場で学んだことを発表に生かすということです。

■ 発表の合間に質問が入るという以外に、経済学の分野で独特な「ルール」はありますか。

発表時間は長めです。学会だと1人の持ち時間がだいたい30分くらいで、短くて20分くらい。発表8割、質疑応答2割で構成されています。最初のころは原稿を発表時間に合わせて用意していたのですが、合間に入ってくる質問に対応していると網羅しきれず、やりにくさを感じたため、用意しなくなりました。スライドを見ながら説明して、質問が来たらその場で答えるという流れです。

研究会もけっこう長いですね。報告となると、1人につき1時間半くらいかけます。スライドは用意しますが、議論しながらやるので、濃密なやり取りになります。

■ そうした長時間の発表でも、外国の方が参加された場合には英語になるのですよね……?

もちろんです。大変ですが、いろいろなノンネイティブの方の発表を聞いているうちに、日本人は日本語なまりでいいのだというのがわかってきて、ずいぶん楽になりました。最初はRとLの発音を・・・とか気にしていましたが、今は全然(笑)。伝えたいことを伝えるのが一番大事です。とにかく話して、伝わらなければもう一回話す。曖昧にしないことが大切だなと。スペインの方なんかはもう、完全にスペイン語じゃないかっていうような発音ですし、フランスの方もそう。それでも気にしない。気にして伝えたいことを伝えられないほうが、かえって相手に失礼と思ってよいのではないかと。だから、日本人も日本語なまりでいいと思います。

 

【プロフィール】
佐藤泰裕(さとう やすひろ)
東京大学大学院経済学研究科・経済学部
1996年 東京大学経済学部卒業
2000年 名古屋大学情報文化学部講師
2002年 東京大学 博士(経済学)取得
2007年 名古屋大学大学院環境学研究科准教授
2008年 大阪大学大学院経済学研究科准教授
2016年から現在 東京大学大学院経済学研究科准教授
ご専門分野:都市経済学・地域経済学

 


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【工学院大学】藤川 真樹 准教授インタビュー(後編)

各大学の研究室に訪問し、研究者たちにおける英語力向上の可能性を探るインタビューシリーズ。十七回目は、工学院大学情報学部コンピュータ科学科の藤川真樹先生にお話を伺いました。インタビュー後編は、英語への取り組み方法や、英語の指導方法、さらに工学院大学のユニークな英語学習についてのお話です。


■ 英語の学習方法について教えてください。

オンライン英会話のレッスンを毎日続けています。また、単語は使わないと忘れてしまいますので、毎朝必ず勉強しています。普段が日本語の環境ですので、どうにかして英語に触れる機会をつくらなくちゃと思って、Japan Times STなどを1日1ページ読むとか、英語のボキャブラリーを増やすために地道に取り組んでいます。講義で英語を使うことはないですし、海外のスタッフがいるわけでもないので、自分から触れにいくことを常々意識しています。

■ 論文を英語で書かれる機会は多いのですか?

日本語と合わせて年に2・3本でしょうか。論文を書く際は、まず日本語で書いて、それを英語に翻訳します。その後、御社に校正をお願いをするという段階を踏んでいます。

発表は3回か4回です。授業の合間に国際会議に行きますので、回数は限られます。まずは国内でやって、研究成果の上がったものを海外用の原稿に織り込み、国際会議に投稿する。そして無事に採択されたら、発表しに行くという。

事業化、実用化につながる可能性があるので、国際会議での発表は非常に有意義です。研究者の方々と話をしながらニーズを探ったり、オーディエンスからいろいろなご提案をいただけたりするのはありがたいです。

質疑応答には、答えられる範囲で答えます。発表の後のQ&Aは、たかだか5分くらい。受けられる質問の数も限られているので、そこで受けた質問にはその場で答えますが、どうしても答えられない、時間がないという場合には、セッションの後で個別に「あの時のご質問ですけど……」と内容を確認してから、図やイラストを描きながら説明することもあります。

■ 論文を書かれる際、専門用語や今までにない言葉などの英訳にご苦労されることはありませんか?

この分野には先達のフロンティアがいらっしゃるんです。横浜国立大学の松本勉先生が「人工物メトリクス」という概念を作られました。これは、人によって異なる指紋のような情報を、人工物にも付けてみようというものです。それは、製造過程において自然偶発的かつランダムにできる情報で、それを用いると一つひとつ識別できるようになるという考え方です。私はこのコンセプトに沿ってアプローチしているんです。今は陶磁器ですが、次は合成樹脂でやってみようとか、いろいろな人工物に適用しているだけなので、表現で困ることはないんです。

松本先生が「Artifact-metrics(人工物メトリクス)」という言葉を作られました。ただ世界での認知度はそれほど高くないようなので、「Anti-counterfeiting method」など別の表現を使う時もあります。私は、松本先生に敬意を表して「Artifact-metrics」と最初に使って、後で「This metrics is a kind of technique that is also called as an anti-counterfeiting metrics method」と言った形で表現しています。両方の表現を適宜使い分けて、盛り込むというような感じですね。

■ 発表や質疑応答以外に英語でご苦労されることはありますか?

会議の司会を引き受ける時ですね。私の拙い英語で進行を遅らせたり、妨げたりするのはよくないので、必ず最初にスピーチ原稿だけは用意します。頭が真っ白くならないようにとの意図もあって。事前練習まではしませんが、メモが一つあるだけで気持ちは落ち着きます。

■ 学生への英語指導方法についてもお聞かせいただけますか。

週1回のゼミでは、私も含めて英語だけでディスカッションする時間を作っています。研究室の学部生8名全員、英語のみで会話するんです。教材はインターネット上にあるニュース記事など。技術に関係する記事を一つ選んで、それについてどう思うかなどを学生に質問し、それに答えてもらっています。あとは、部屋にJapan Times STなどの週刊紙を置いておいて、興味があれば読めばよいと。

一般的な講義では毎回、講義の前半、冒頭の5分を使って英文記事をプロジェクターで見せています。トピック紹介ですね。Japan Today、Japan Times、Mainichiオンラインなどから技術関連のニュース記事を拾って生徒に見せて、日本語で解説します。紹介記事は英語のまま投影して、こんな技術が開発されているんだと紹介する。これは数学の講義でもセキュリティの講義でも、どれでも一緒です。1年生から4年生までいて英語のレベルも異なりますが、まったく同じ英文記事を使用しています。

■ まずは触れてみることが大事、という感じでしょうか。

そうですね。英語に親しむことが大前提です。そこからすべてが始まるんじゃないかと。本学の英語のカリキュラムは特徴的です。例えば海外留学プログラム。英語はしゃべれなくてもいいから、とにかく現地に行かせてしまうというものです。アメリカに行って、講義は日本語でやるけれど、学校以外の生活、ホームステイ先での会話などは英語でやるという「ハイブリッド留学」を取り入れています。文科省から「大学教育再生加速プログラム(AP)」にも採択されています。実学主義という校風が英語教育にも反映されています。

■ 最後に、論文の英文校正サービスに関して、あったらよいなというサービスがあればご意見をお聞かせください。

私は今のサービスで満足しています。納期も価格もクオリティも本当によいです。自分の元の原稿はどこに行った?と思うくらい添削をしていただけて、十分に満足しています。原稿評価カルテでしたか、自分の英語力をチェックしてくれるシートが出ますよね。それを見ると、私の成績も概ねよいかなと思えます(笑)。

■ ぜひ、今後ともご利用いただければ幸いです。国際学会での発表など、今後のご予定はいかがですか。

授業と授業の合間に行くため発表の数は限られますが、引き続きブルー・オーシャンを開拓しつつ、他の分野にも応用できるような研究成果を出していきたいと思っています。研究の醍醐味って、やはりクオリティの高い成果を出すことじゃないかなと思います。それが学生の励みになって、その研究成果を持って、どんどん発表に行ってくれれば。たとえ国内での発表だとしても、それが自信になって、セキュリティの分野って面白いなと思ってくれれば、それでよいと思います。

■ ありがとうございました。

 

【プロフィール】
藤川 真樹(ふじかわ まさき)

工学院大学情報学部コンピュータ科学科 准教授
1998年3月 徳島大学 工学研究科 知能情報工学専攻  博士前期修了
2004年8月 中央大学 理工学研究科 情報工学専攻 博士後期修了
1998年3月~2016年3月 綜合警備保障株式会社 勤務
2016年4月 東京工科大学 特別講師「セキュリティシステム」担当
2016年4月~ 工学院大学情報学部コンピュータ科学科 准教授
ご専門の研究分野は、社会システム工学・安全システム

 


Dr. Fujikawa-1

【工学院大学】藤川 真樹 准教授インタビュー(前編)

各大学の研究室に訪問し、研究者たちにおける英語力向上の可能性を探るインタビューシリーズ。十七回目は、工学院大学情報学部コンピュータ科学科の藤川真樹先生にお話を伺いました。インタビュー前編は、世界の最先端を走る先生の研究についてのお話です。


■ 先生の専門分野、研究テーマを教えてください。

主にセキュリティに関する研究を行っています。セキュリティといっても今日では非常に幅が広いですが、ここでフォーカスしているのは、物理的な物に関連するセキュリティです。例えば、世の中には偽造品がいろいろと出回っていますが、それが本物か偽物かを見分ける必要があります。そして、本物をどうやって守るか、偽物を作りにくくするにはどうすればよいか……。そういう研究をずっと続けています。特に私たちが今、注目しているのは、工芸品で、中でも陶磁器です。日本には多種多様な伝統工芸品がありますが、偽物が非常にたくさん作られています。例えば、有田焼などの有名な窯元の作品の偽造品が多数出回っている。それなのに、どうやって偽造品を作りにくくするかといった議論や技術開発は進んでいない。そこで、日本の伝統工芸品は日本人の手で守るべきという考えに立脚し、研究を進めています。

■ 先生がご参画されている「経済産業省・戦略的基盤技術高度化支援事業」での研究を拝見しました。陶磁器の中に情報を入れ込むという。

はい、平成23年度から継続しています。かつて、ディスプレイに表示されている機密情報をカメラで撮影して持ち出すという情報漏洩がありました。羽田空港の管制官がグローバルホークなどの飛行計画、機密情報を撮影して持ち出したのですが、あってはならないことです。その時、ディスプレイに表示される情報を撮影によって持ち出されるのを防ぐには、ディスプレイの表面に赤外線を発光するような透明なシートを貼ればよいのではないかと考えました。人間には見えませんが、カメラは赤外線を情報だと認識するので、撮影された画像に赤外線が写り込み、情報を読めなくするという仕組みです。

この材料となるのが赤外線を発光する蛍光体なのですが、これを他の分野にも応用できないかと。これを擦りつぶして粉状にして、釉薬や絵の具に入れて陶磁器に焼きつけたらどうか、となったのです。実際に焼きつけたものを赤外線カメラで撮影すると、指紋のようなまだら模様ができるんですね。人間の目には見えない。この模様により、本物であることを証明できるんじゃないか、ということで転用し始めました。

■ 盗品や偽物の市場への流入が、世界中で問題になっています。研究内容を公表することで、偽造品を作り出す人間が対策を立てやすくなるということはないのでしょうか。

お札の偽造防止技術やクレジットカードのホログラムの製造方法のように、公開しないことでセキュリティが保たれているものもありますが、われわれの研究は、そういうものではないんです。人工物の中に特徴的な情報を埋め込む技術を公開しても、意図通りには作れません。私たちの研究は、同じものを作るのをいかに難しくするかを競っているのです。

■ 材料の組み合わせや製造方法を公にしても、個々の陶磁器に付けられた指紋のような模様を再現するのは難しいということですか?

はい.QRコードに例えると、分かりやすいかもしれません。通常のQRコードは人間の目で見えますが、私たちは見えないQRコードを焼き込んでいる。赤外線や紫外線などの特殊な光を当てると、その時だけ情報が出てくるんです。さらに、このQRコードの模様が同じであっても、コードを形成する蛍光体の粒子の大きさや厚みなどを変えることで、一つひとつをまったく異なるコードにすることが可能になります。一見同じに見えても、世界にたった一つしかないQRコードが作れるので、個々の識別が可能になるんです。

私の研究は、先行する研究者がいない、いわば「ブルー・オーシャン」。誰もやっていない未開拓分野を走っていくようなものです。ライバル不在のニッチな分野の第一人者に、という野心的な思いもあるのですが(笑)、この技術をビジネスにも活かしてもらえるのではと思っています。

 ユニークかつ実用的な技術ゆえ、研究成果をご発表される機会が多いのではないでしょうか?

国内外の国際会議で、偽造防止技術の発表をさせてもらうことがよくあります。ただ、英語のスキルはないほうなので、英語で発表する時、十分な受け答えができているとは思えません。
言葉の壁を感じることはよくあります。特に、この技術の実用化に関する話が出た時には苦労しました。英語の発表とは別ですが、ドイツのメーカーに話を持っていこうとした時のことです。私がうまく伝えられないがために、話が進まない……。結局、交渉事はドイツ人に任せて、その結果だけ受け取ることにしました。

大変面白い研究のお話でした。後編では、英語への取り組みについてなどをお伺いします。


【プロフィール】
藤川 真樹(ふじかわ まさき)

工学院大学情報学部コンピュータ科学科 准教授
1998年3月 徳島大学 工学研究科 知能情報工学専攻  博士前期修了
2004年8月 中央大学 理工学研究科 情報工学専攻 博士後期修了
1998年3月~2016年3月 綜合警備保障株式会社 勤務
2016年4月 東京工科大学 特別講師「セキュリティシステム」担当
2016年4月~ 工学院大学情報学部コンピュータ科学科 准教授
ご専門の研究分野は、社会システム工学・安全システム