14

【東京大学】佐藤 泰裕 准教授インタビュー(後編)

各大学の研究室に訪問し、研究者たちにおける英語力向上の可能性を探るインタビューシリーズ。十八回目は、東京大学大学院経済学研究科の佐藤泰裕先生にお話を伺いました。インタビュー後編では、英語の習得法や、「まずは中身」との英語学習者への助言をいただいています。


前編では、母語なまりの英語であっても、伝えるべきことを曖昧にせずに伝えることが大切と伺いました。では、長丁場の発表や研究会で質問返しができるくらいになるまでに、若手の研究者や学生はどのように英語を鍛えていけばよいのでしょうか。
■ 大学院で英語の論文を書かれたと思いますが、その際には指導教官の指導を受けられたのですか。
経済学部では修士2年になってから指導教官が決まります。そのため、英語を読むことに関しては自分(独学)でやった感じです。修士1年目でも読む機会は多いので、今の学生も、自分で頑張って辞書を引いていますよ。
書くことに関しては、最初は他の論文を見ながら使える表現を積み上げて、それをもとに自身で書いた原稿を、指導教員に見てもらう。この繰り返しだと思います。これに関しては、今も昔も一緒かと。
■ 英語で本格的に書くようになったのは博士課程からですか。
そうですね。修士のころの発表といったら、研究会で、読んだ論文の概要を日本語で説明するという程度でした。博士課程になってから英語で書く練習をして、英語の研究会にも参加するようになりました。それでも博士課程の間は自分の研究費などはありませんので、海外の学会には行かれず、国内の学会に出て日本語で発表していました。海外に行き始めたのは就職した後ですね。名古屋大学在職時に海外の学会に少しずつ自分の研究費で行くようになって、そこから英語で発表をするようになりました。
■ 初めて英語で発表をされたときの思い出をお聞かせください。
初めて英語でプレゼンをしたのはイギリスでのコンファレンスでした。学会より少し小規模で、持ち時間はやや長めの40分くらいでしたが、何をしゃべったか覚えてないですね。都市経済学に関する著名なジャーナルのエディターなどが揃っているようなコンファレンスだったので、「すごい方々がずらっと並んでいる」と思うと緊張して……。その後の懇親会で、海外の方に「おまえはもっと英語を勉強しなきゃいけない」と言われました。「そうしないと話ができないじゃないか」と。それで、やっぱり海外に一度は行かないといけないと思いました。指導教員の伝手をたどってベルギーの研究所に1年間滞在し、「とりあえずしゃべる」ということを学んできました。
■ そこでは英語でのコミュニケーションが主だったのですか。
そうです。研究所の中は全部英語。研究者の中に日本人が一人いたので一緒にご飯を食べてはいましたが、普段はフランス人やイタリア人も一緒なので英語で話す。海外の方とコミュニケーションを取らざるを得ない状況に身を置き、日常生活から研究に至るまですべてを英語で1年間続けたことで、基礎というか、話す力がつきました。
私はあまり社交的なタイプではないので、向こうにいる時も、おとなしい人と気が合いました。そういう人を見つけて仲よくなっていましたね(笑)。友達になることで、特に研究以外の世間話をする力が身についたと思います。これで懇親会などでのコミュニケーションが円滑にいくようになりました。ベルギーでの経験を経て、30分、長くて1時間半にわたる発表の途中で質問が来ても慌てなくなりました。
■ 経済学特有の長時間の発表や研究会に対応できるようになるため、若手の研究者やこれから研究者になろうとする学生は、どうやって英語を鍛えていけばよいと思われますか。
人によって向いている方法は違うと思いますが、一つは実地訓練ですね。研究会に出席して一言でも発信してみる。仲間内で研究会を模した練習をしてみるのも一つの方法だと思います。私自身はといえば、学部生のころに学会に参加することはなかったし、英語で発表する機会もなかったのですけれど……。
現在、東京大学では一年生からALESS・ALESAというアカデミック・ライティングのコースが必修科目になっています。私が学部にいたころに、こういう英語教育プログラムがあったらよかったのにと思います。
■ ご自身の経験から、学生に対して海外に行くことを薦められますか。
一度は行ったほうがよいと言っています。就職した後でもよい。英語が必要なら、どこかのタイミングで1年ほど海外に行けば、最低限のコミュニケーションを取れるくらいにはなれるよと。それ以上に流暢にしゃべれるようになれるかどうかは人それぞれで、私自身すらそこまで達していません。仲よくなりたいと思った人に話しかけて何とか話ができるレベルですが、それで生き残れるならそれでよいかなと思っています。
学生が海外に行く機会があれば、気が合って友達になれるような人を見つけてほしいです。外国に行って突然社交的になれるかと言ったらそうではありませんから、日本でこれまでしてきたような付き合い方を、海外でもすればよいと思います。そして、自分の仕事を切り口にしたほうがよい。私の専門は英語ではなく、経済学です。経済学をやっていてシャイな方っていうのは海外にもいらっしゃるので、そういう方とは非常に気が合う(笑)。そういう方を見つけて、仲よくしたらよいかなと思っています。
■ 人それぞれ性格にあったやり方でということですね。では、研究者が英語力を鍛えるために心がけておくべきことは何でしょう。
きれいな英語を話すより、まず自分の研究内容や、相手に伝えたいこと、何を話したいかを意識するというのが一番大事だと思います。きっかけは世間話でも天気のことでも構わないのですが、その後に、なぜその相手と話したいのかという気持ちが伝わらないと、会話が終わってしまいますよね。こちらがこんな研究をしていて、だからコミュニケーションを取りたいのだというのが相手に伝われば、一生懸命聞いてもらえる。その気持ちがあれば、自分が少々下手でも相手の話が聞き取りづらくても、徐々にコミュニケーションを取れるようになります。たどたどしくても、すごく中身のある内容をしゃべってくれる人だったら、もっと話を聞きたいと思うのは世界共通です。流暢さやなめらかさがあれば理想ですが、優先すべきは中身です。
■ 最後に、弊社のサービスで、英文添削や翻訳以外にもあれば良いと思うサービスや、あれば使ってみたいと思うサービスがあればお教え下さい。
英文校正のチェックができれば今のところは問題ないです。それが一番大事なので、そのサービスが信頼できるところに頼みたいです。
■ ありがとうございました。

【プロフィール】
佐藤泰裕(さとう やすひろ)
東京大学大学院経済学研究科・経済学部
1996年 東京大学経済学部卒業
2000年 名古屋大学情報文化学部講師
2002年 東京大学 博士(経済学)取得
2007年 名古屋大学大学院環境学研究科准教授
2008年 大阪大学大学院経済学研究科准教授
2016年から現在 東京大学大学院経済学研究科准教授
ご専門分野:都市経済学・地域経済学

 

X

今すぐメールニュースに登録して無制限のアクセスを

エナゴ学術英語アカデミーのコンテンツに無制限でアクセスできます。

  • ブログ 560記事以上
  • オンラインセミナー 50講座以上
  • インフォグラフィック 50以上
  • Q&Aフォーラム
  • eBook 10タイトル以上
  • 使えて便利なチェックリスト 10以上

* ご入力いただくメールアドレスは個人情報保護方針に則り厳重に取り扱い、お客様の同意がない限り第三者に開示いたしません。

研究者の投票に参加する

研究・論文執筆におけるAIツールの使用について、大学はどのようなスタンスをとるべきだと考えますか?