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「フェイク・カンファレンス」にご用心

アメリカのドナルド・トランプ大統領が選挙キャンペーンで勝利をおさめたことには、ヒラリー・クリントン候補を貶めるためなら嘘も平気で書く「フェイク・ニュース」が貢献したといわれています。
学術界にも「フェイク・ジャーナル」があります。「捕食ジャーナル(predatory journals)」とも呼ばれ、本誌「捕食ジャーナル – 倫理学分野にすら登場」でもお伝えしたように、掲載料さえ払えばきわめて甘い査読のみで、どんなひどい論文でも掲載してしまうオープンアクセスジャーナルのことです。捕食ジャーナルやその出版元である「捕食出版社(predatory publishers)」は、疑うことを知らない若い研究者を掲載料目当てに食い物にしている、と批判されてきました。
捕食出版社のビジネスモデルは、ジャーナル(学術雑誌)だけでなく、国際的な学術カンファレンス(会議)にもおよんでいます。そうした「フェイク・カンファレンス」のシステムは、フェイク・ジャーナル=捕食ジャーナルとほとんど同じです。
たとえば、捕食出版社として知られるインドのA社や、カンファレンス専門のトルコのB社は、毎年何千もの「国際カンファレンス」を世界各地で開催しています。パリやドバイ、ラスベガスといった観光地が目立ちますが、ニューヨークやロンドンなどでも開催しています。これらの会社は研究者に向けて発表者を募り、研究発表を希望する者はそれに応募します。アブストラクトなどの応募書類は、査読者が査読することになっており、査読を通過すれば、投稿した者は研究発表を行うことになります。高額な手数料を支払えば、です。
数十分野もの研究者たちを1つのホテルに招待し、別々の会議室で、別々のセッションを開催します。それら1つひとつを「国際カンファレンス」と称し、世界中で、毎月のように行なっているのです。
問題はその質でしょう。
カナダの新聞『オタワサン』は、一般紙であるにもかかわらず、なぜか捕食ジャーナル問題を継続的に報道しています。同紙のトム・スピアーズ記者は以前、前述の本誌掲載記事でもお伝えしたように、デタラメな原稿をジャーナル編集部に投稿して、その査読体制のいいかげんさを暴露したことがあります。
スピアーズ記者は同じことをカンファレンスでも行いました。3月10日付の『オタワサン』への寄稿によると、彼は「カルミ・イシュマール博士」という偽名で、「鳥-豚の生理における飛翔特性の進化」と「サンゴ礁に依存する底生生物および遠洋生物の修復戦略:T. migratoriusおよびG. californianusのケース」という研究発表を応募しました。前者は、空飛ぶブタ(flying pig)の骨や筋肉について研究したもので、後者は、海底に生息する鳥(コマドリおよびミチバシリ)の生態について研究したものです。
その結果、どちらの応募も採択されてしまいました。イシュマール博士は国際カンファレンスで、空飛ぶブタや海底に生息するコマドリについて講演できることになりました。それぞれについて、999 USドルの手数料を支払えば、です。
空飛ぶブタ(flying pig)とは、現実にはまったくありえないことを示す英語の慣用句で、皮肉がたっぷりこめられた演題だったわけですが、手数料さえ払えばなんでもよいということのようです。
本来であれば、「講演者(speaker)」として「国際カンファレンス」で講演するということは、終身在職権の取得や昇進など、研究者のキャリアには有利になるでしょう。しかし、『オタワサン』は専門家の意見として、大学はどのカンファレンスが実態の確かなカンファレンスなのかを判断できないこと、研究者を食い物にするいかがわしいフェイク・カンファレンスで発表するための手数料や旅費に研究費や税金が使われてしまうこと、などを指摘しています。
実は、A社もB社も日本で多くの国際カンファレンスを開催しています。講演者は、日本で研究発表をしたという実績を得たい新興国の研究者ばかりだろう、と思っていたのですが、よく見ると日本人も含まれているようです。国際カンファレンスで講演者になったという“箔”がほしいのかもしれませんね。お金を払うことで。

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