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論文の要旨(Abstract)と序論(Introduction)の違い

学術論文を書こうと思った時、ふと気になる疑問が浮かびます。要旨(アブストラクト)と序論(イントロダクション)は何が違うのだろう?序論には、要旨を繰り返し書けばいいのだろうか?どちらも論文の内容を説明するものではありますが、それぞれ異なる要素が求められます。

論文の読者は、ほとんどの場合、まずタイトルで興味がある分野の内容なのかを判断し、次に要旨を見て、本文に読み進むかを判断します。よって、要旨は論文全体の要約として、簡潔かつ端的であることが求められます。一方、序論は、論文の内容に踏み込み、研究の背景や研究によって実現したいこと、仮説などを簡潔に記載することが求められます。いずれも読者を論文に引き込むために、非常に重要な役割を持つものです。この機会に要点をつかんでしまいましょう。

■ 要旨(アブストラクト)

要旨の役割
要旨(アブストラクト)とは、研究の背景や方法から結論まで、論文の概要を簡単にまとめた文章です。端的に言えば、「ここを読めば論文全体に何が書いてあるのかがわかる短文」です。学術雑誌(ジャーナル)の査読者は、要旨を見て論文全体を読み進めるかを判断するので、要旨の役割は重大です。要旨には、論文の背景や方法、結論が記載されていて、本文や参考文献を見ずとも論文の内容を理解してもらえるものである必要があります。

とはいえ、要旨には研究の詳細を記載すべきではありません。要旨の単語数は通常、論文全体の1割程度と考えられており、各学術誌の投稿規定では上限の単語数が決められています。また、要旨の最初の250~300語のみを閲覧可能にしているオンライン・データベースも存在します。したがって、要旨は簡潔かつ明快である必要があり、長々と詳細を書くものではないのです。データベースに登録されることを前提とすれば、論文の研究分野における重要なキーワードと考えられる単語が複数(4-5個程度)要旨に含まれていると、その分野の関連文献としてウェブ上で検索されやすくなります。参考文献を探している研究者は、検索の結果として表示された論文の要旨を読んで自分が探している内容かどうかを判断しているので、キーワードをうまく入れ込みましょう。

要旨の形式
要旨の形式には、構造化要旨(Structured abstracts)、非構造化要旨(Unstructured abstracts)の2つがあります。構造化要旨は、以下の5つの項目から構成されます。読者からすると、どこに何が記載されているのが一目瞭然であり、すぐに知りたい内容を確認できる点で優れています。

[構造化要旨の項目]
1.背景
研究テーマに関する最新の情報やキーワードを記載し、読者の興味を喚起します。
2.目的
研究の対象とそれに取り組む理由、研究によって実現したいゴールを記載します。
3.方法
研究内容に関する簡単な説明を記載します。
4.結果
研究によって得られた結果、発見や所見を記載します。
5.結論
仮説に対する結論や継続研究の有無を記載します。

一方、非構造化要旨は、項目ごとに分けて記述するのではなく、一つのかたまりの中で、研究の目的や方法を記載する形式です。形に決まりがないので自由に書ける反面、文章力が要求される上、長くなりすぎないよう注意が必要です。自然科学以外の研究分野の論文でよく見られる要旨の形式です。

いずれの形式をとるにしても、先述の通り、各学術雑誌では要旨の上限文字数が規定されています。投稿したい学術雑誌の投稿規定は必ず事前にチェックしましょう。

■ 序論(イントロダクション)

序論の役割
序論(イントロダクション)とは、本論への導入部分です。序論には、研究のきっかけや動機、研究の背景、仮説、明らかにしたい、もしくは解決したい問題について詳述する必要があります。同時に、研究分野における従来の研究を紹介しつつ、自身の論文の革新性、重要性について記載します。研究の方法や結果は、本論で詳しく説明するので、序論ではデータなど詳細を記載する必要はありませんが、要点は示しておくのがよいとされています。さらに、参考文献の引用も含めておくべきです。参考文献は、論文の読者が、その研究分野で蓄積されてきた知識や解明されていること・されていないことなどを理解するのに役立ちます。このように、序論は、決して要旨を繰り返し記載すればよいというものではありません。

序論の書き方のポイントは以下の通りです。序論は、論文全体を完成させてから執筆するのもよいでしょう。研究全体を俯瞰してからあらためて考えをまとめることで、論文での重要なポイントが自分の中でより整理され、それを序論に反映させることができるからです。

[序論の書き方のポイント]
・導入部
研究の革新性、方向性、重要性を記載します。研究の背景をより明確にするため、関連分野における過去あるいは従来の研究を紹介し、どのような問題が解明されていないのか、その問題を解くために当該研究がどのような価値または意義を持っているかを述べます。
・トーン(書式)
時制は現在形で、フォーマルなトーンで書き、感情的な表現や冗長な表現をしないよう気を付けます。
・内容
研究の目的、仮説、研究を通して発見したことについて説明します。全文を読むに値するような研究結果が出ていることを記載する際、結果に偏った記述にならないように注意します。結果は本文に書くものなので、ここでは、研究の重要性、結果が該当研究分野にどのような貢献を果たしているかを簡潔に述べます。
・長さ
目安は4パラグラフですが、学術雑誌の投稿規定に従ってください。

もちろん、最初に研究の背景を述べ、次に自分の研究を説明してから他者の研究と比較する、というように順番を組み替えることも可能です。要旨と序論を通して、いかに「この研究が新しく、すばらしいか」をアピールできるかが重要なのです。

いかがでしたか。要旨と序論の違いは明確になったでしょうか。多くの研究者によって大量の論文が発表されている昨今、研究者はできるだけ多くの論文に目を通そうとしますが、時間は限られています。要旨で読者の興味を引き、序論でさらに引き込むことが重要です。エナゴ学術英語アカデミーはこの他にも、要旨と序論に関する記事を多数扱っています。ぜひ参考にしてみてください。

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