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研究不正を行った研究者が死刑に!?

本ウェブサイトの記事「中国が学術不正防止に本腰」でも指摘されているように、日本やアメリカだけでなく中国でも、研究不正が問題になっています。『科学・工学倫理(Science and Engineering Ethics)』に掲載された最近のある調査では、中国の研究者らによる生物医学分野の論文のうち約40パーセントに、研究不正が含まれると推測されました。また本連載でも紹介したように、最近、中国の研究者たちによる論文107件が撤回されました。「偽装査読(フェイク査読)」がなされていたことがわかったからです。
こうした状況に中国の当局も手をこまねいているわけではありません。例えば、予算を拠出する機関は、研究不正が発覚した研究者からは研究費を返還させるなどの措置を講じてきました。
『フィナンシャル・タイムズ』(2017年6月19日付)の記事によれば、中国の科学技術省は前述の論文大量撤回事件を受けて、研究不正に対する「ゼロ・トレランス(no tolerance=許容度ゼロ)」の方針を宣言したといいます。しかし学術情報のニュースサイト『リトラクション・ウォッチ』を運営していることで知られる2人のジャーナリスト、アイヴァン・オランスキーとアダム・マーカスは、生物医学のニュースサイト『STAT』(2017年6月23日付)において、「中国のゼロ・トランス方針がどのようなものであるかはクリアではない」と指摘しています。
また今年(2017年)4月、中国の裁判所は、医薬品の許認可にかかわる研究において研究不正をした者に対しては厳格な実刑判決を下す方針を固めました。その不正行為により人的被害が生じた場合、その「実刑」には死刑も含まれるとしています。『ネイチャー』(2017年5月16日)は「この法律の下、認可された薬が健康問題を引き起こし、重度または致命的な結果が生じた場合には、10年の懲役または死刑になる可能性がある」と報じています。
これまでオランスキーとマーカスは、刑事罰の可能性も含めて、研究不正に対する厳しい規制を主張してきました。しかし2人は前述の『STAT』の投稿記事で、この中国の方針に対しては批判的な見解を述べています。
その理由としては、研究不正は要するに詐欺であり、資金提供者に対する窃盗ともみなせるものの、一般的には詐欺も窃盗も死刑には該当しないことなどを挙げています。ただ、医薬品の研究で不正を行った研究者は、「少なくとも理論上は」その医薬品を投与される人々の健康を危険にさらし、致命的な結果を招く可能性があります。とはいえ、医薬品の許認可は、1人ではなく多くの研究者からなるグループによって得られたデータによって判断されるので、グループ全員が不正行為に手を染めていない限り、研究者1人の不正行為による影響には限界がある、というのがオランスキーとマーカスの見解です。
2人は、懲役などの刑事罰を含む罰則の強化に対しては前向きなようです。第5回研究公正世界会議(WCRI: World Conference on Research Integrity)で発表された彼らの調査によれば、1975年から2015年にかけて、何らかの形で研究に関連した不正行為に対し刑事罰を受けた研究者は、世界中でわずか39人だけ。そのなかには研究予算の不正使用などのケースも含まれていました。
また、生物医学分野における研究不正を監視する米国の政府機関「研究公正局」が同じ時期に行った調査報告によれば、研究不正250件あまりのうち、刑事罰を受けたのは5件のみ、つまり2パーセント以下だともいいます。しかも研究不正を行った研究者のうちほとんどは連邦予算の使用を一時的に禁止されただけであり、なかには一定の時間を置いた後、研究に復帰している者もいます(本連載「研究不正が発覚した研究者でも、多額の助成金を獲得」も参照のこと)。
日本でも、研究不正ウォッチャーとして知られる白楽ロックビル(お茶の水女子大学名誉教授)は、研究不正は「警察が捜査せよ!」と厳しく主張しています。科学・技術政策ウォッチャーとして知られる榎木英介(近畿大学講師)も、研究不正が発覚しても地位はそのままで、ある時点までは研究費も受け取っていた研究者がいることなどを指摘しながら、「研究不正が死刑に値する犯罪とは思えない。しかし、大したおとがめもなく、研究を続けられるというのも甘すぎる」と指摘しています。
研究不正に対して、死刑はともかくとしても、刑事罰を下すべきか−−みなさんはどう考えますか?

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