カテゴリーアーカイブズ: パケット道場~初級アカデミック英語講座~

京都大学で長年にわたり英語指導を担当してきたパケット先生が、学術目的の英文執筆をイロハからやさしく伝授します。

間違いやすい用語や表現 - 不要な「of」 

「の」の誤訳が原因となっている「of」の誤用を度々見かけます。その中でも特によく見られるものとして、以下に例示する誤用があります。

[誤] (1) Here, the condition of v > 0 is important.
[正] (1’) Here, the condition v > 0 is important.

ここで「condition」と「v > 0」はいずれも名詞だということに注目してください。原文の書き手がこのことを根拠に「of」を加えたようです。これは「の」の誤訳と捉えることができ、「of」の意味的機能についての誤解を反映しています。

一般に、前置詞「of」は「所有」の意味を示します。その働きによって、(1)では「v > 0」という不等式が「condition」の指す条件を「所有する」という状況が暗示されてしまいます。しかし実際は、「condition」と「v > 0」は同一のものを意味しているので、文法的に、「v > 0」は「condition」を修飾する「同格語」となります。修正文ではこの関係が明らかです。

数学的な議論において、上述のような誤用をしばしば目にします。以下も典型的な例です。

[誤] (2) In the following, we describe the process of X → X*.
[正] (2’) In the following, we describe the process X → X*.

[誤] (3) In this case, U(x) is convex in the regions of 0 < x < 1 and 2 < x <3.
[正] (3’) In this case, U(x) is convex in the regions 0 < x < 1 and 2 < x <3.

[誤] (4) In this case the mass of m exceeds m0.
[正] (4’) In this case the mass m exceeds m0.

[誤] (5) In the limit of ψ → ∞, we obtain the following:
[正] (5’) In the limitψ → ∞, we obtain the following:
[正] (5’’) In theψ → ∞ limit, we obtain the following:

(5’’)では、「ψ → ∞」は同格語ではなく、名詞付加語となっていますが、(5’)における同格語の「ψ → ∞」と同様に名詞「limit」を修飾しています。

 


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グレン・パケットGlenn Paquette

1993年イリノイ大学(University of Illinois at Urbana-Champaign)物理学博士課程修了。1992年に初来日し、1995年から、国際理論物理学誌Progress of Theoretical Physicsの校閲者を務める。京都大学基礎物理研究所に研究員、そして京都大学物理学GCOEに特定准教授として勤務し、京都大学の大学院生に学術英語指導を行う。著書に「科学論文の英語用法百科」。パケット先生のHPはこちらから。


間違いやすい用語や表現 -the one 

代名詞「one」は日本人学者の論文で過度に使用されると思われます。熟語「the one」における誤用は特によく見受けられます。

「the one」が表現として誤っているとは言えませんが、学術論では一般に(「one」が代名詞となっている)「the one」よりは「that」の方が適切です。私が今まで読んできた学術論文では、ほぼ例外なく「the one」(「the ones」)はそのまま「that」(「those」)に置き換えるべきものでした。

以下は典型的です。

[誤] (1) This method is similar to the one studied in Ref. [2].
[正] (1’) This method is similar to that studied in Ref. [2].

[誤] (2) These solutions are then compared with the ones derived above.
[正] (2’) These solutions are then compared with those derived above.

[誤] (3) The proof of Theorem 3 is similar to the one that we presented in Section 2 for the case of a strictly convex function.
[正] (3’) The proof of Theorem 3 is similar to that which we presented in Section 2 for the case of a strictly convex function.

「the one」の誤用に関する実用的な対策への提案は以下になります。
論文が書き終わったら、最終チェックとして「the one(s)」を検索し、「one(s)」が代名詞となっていることを確認したら、「the one(s)」を「that」(「those」)に置き換える、という単純な作業で十分です。(なお、(3)が例示するように、「that」が「the one(s)」の直後にくる場合には、それを「which」にすべきです。)

 


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グレン・パケットGlenn Paquette

1993年イリノイ大学(University of Illinois at Urbana-Champaign)物理学博士課程修了。1992年に初来日し、1995年から、国際理論物理学誌Progress of Theoretical Physicsの校閲者を務める。京都大学基礎物理研究所に研究員、そして京都大学物理学GCOEに特定准教授として勤務し、京都大学の大学院生に学術英語指導を行う。著書に「科学論文の英語用法百科」。パケット先生のHPはこちらから。


間違いやすい用語や表現 -if any

熟語「if any」の誤用は、日本人学者による論文で度々目にします。この表現は「もしあれば」、「存在する場合には」などといった意味を表すのに使用できますが、その用法は、文法的に誤っている上に曖昧な文意をもたらすこともよくあるため、学術論文では避けるべきです。

例文を見てみましょう。

[誤] (1) A successful treatment must first satisfy all protocol conditions
(if any).
[正] (1) A successful treatment must first satisfy all protocol conditions.
[正] (1’) A successful treatment must first satisfy all protocol conditions, if such exist.

[誤] (2) The rest of the terms (if any) must vanish.
[正] (2) Any remaining terms must vanish.
[正] (2’) There can exist no more non-vanishing terms.

[誤] (3) Defects, if any, circulate about the origin in the counterclockwise direction.
[正] (3) Any defect will circulate about the origin in the counterclockwise direction.
[正] (3’) If a defect exists, it will circulate about the origin in the counterclockwise direction.

[誤] (4) A solution to this equation that satisfies the above stated boundary conditions, if any, necessarily also satisfies the following condition:
[正] (4) Any solution to this equation that satisfies the above stated boundary conditions necessarily also satisfies the following condition:
[正] (4’) If there exists a solution to this equation that satisfies the above stated boundary conditions, it necessarily also satisfies the following condition:

上述の誤用例に示されるように、ここで考察している用法において「if」は本来条件節を導入すべきものですが、「if any」は動詞を含まないため「節」を成していないのです。この文法的な問題によって曖昧さが生じ、文章がぎこちなくなりがちです。

[正] (2)、[正] (3)、[正] (4)で例示されるように、「if any」で示そうとする意味は多くの場合にはany」だけで示すことができます。

 


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グレン・パケットGlenn Paquette

1993年イリノイ大学(University of Illinois at Urbana-Champaign)物理学博士課程修了。1992年に初来日し、1995年から、国際理論物理学誌Progress of Theoretical Physicsの校閲者を務める。京都大学基礎物理研究所に研究員、そして京都大学物理学GCOEに特定准教授として勤務し、京都大学の大学院生に学術英語指導を行う。著書に「科学論文の英語用法百科」。パケット先生のHPはこちらから。


間違いやすい用語や表現 - Stay

動詞「stay」は、口語的とされるため、学術論文では避けるべきです。
「stay」が口語的である主な理由は、意味が非常に広いため、その使用によって学術論文には相応しくない曖昧さが生じてしまうからです。

私が読んできた日本人の学術論文において「stay」が使用されるほとんどの場合、意図した意味は次のいずれかの表現によって明瞭に表すことができます。

remain、「to be」動詞、exist、be positioned、come to rest、be fixed、be unchanged、be motionless、remain motionless、stop、converge、live、reside

以下は「stay」の典型的な誤用を示します。

[誤] (1) The value of S stays near 0 until t =τ.
[正] (1) The value of S remains near 0 until t =τ.

[誤] (2) In the present case, the current stays constant.
[正] (2) In the present case, the current is constant.

[誤] (3) The patient’s condition has stayed the same.
[正] (3) The patient’s condition has not changed.
[正] (3’) The patient’s condition has been unchanged.
[正] (3’’) The patient’s condition has been stable.

[誤] (4) During World War II, Picasso stayed in Paris.
[正] (4) During World War II, Picasso lived in Paris.
[正] (4’) During World War II, Picasso resided in Paris.

[誤] (5) Throughout the experiment, the temperature stayed at 3.0±0.1℃.
[正] (5’) Throughout the experiment, the temperature was fixed at 3.0±0.1℃.

 


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グレン・パケットGlenn Paquette

1993年イリノイ大学(University of Illinois at Urbana-Champaign)物理学博士課程修了。1992年に初来日し、1995年から、国際理論物理学誌Progress of Theoretical Physicsの校閲者を務める。京都大学基礎物理研究所に研究員、そして京都大学物理学GCOEに特定准教授として勤務し、京都大学の大学院生に学術英語指導を行う。著書に「科学論文の英語用法百科」。パケット先生のHPはこちらから。

 


間違いやすい用語や表現 -hugeとtiny

形容詞「huge」と「tiny」は、口語的であるから、原則として学術論文には相応しくありません。

「huge」と「tiny」が口語的とされる理由は、これらの語には対象となっている物事の大きさについての判断が主観的であるということが含意されるからです。使用される状況によって程度が異なりますが、話し手・書き手の驚きも含意されてしまいます。

学術論文において「huge」と「tiny」の代わりに適切に使える表現は多数ありますが、特によく使用されるものとして以下を挙げます。

huge: very large, extremely large, inordinately large, excessively large, dominatingly large, divergent, indefinitely large, effectively infinite

tiny: very small, extremely small, inordinately small, negligibly small, infinitesimally small, infinitesimal, vanishingly small, indefinitely small, effectively zero

これらの語句には、それぞれが表現する意味に差異がありますので、使用する際には注意が必要です。

こんな記事もどうぞ:「huge」と「tiny」同様に間違えやすい表現− bigとlittle
 


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グレン・パケットGlenn Paquette

1993年イリノイ大学(University of Illinois at Urbana-Champaign)物理学博士課程修了。1992年に初来日し、1995年から、国際理論物理学誌Progress of Theoretical Physicsの校閲者を務める。京都大学基礎物理研究所に研究員、そして京都大学物理学GCOEに特定准教授として勤務し、京都大学の大学院生に学術英語指導を行う。著書に「科学論文の英語用法百科」。パケット先生のHPはこちらから。

 


間違いやすい用語や表現 -a lot

熟語「a lot」は副詞として、また前置詞「of」と合わさって形容詞として用いることができます。前者と後者の場合には「a lot (of)」は、それぞれ「a great deal」や「to a great degree/extent」そして「much」や「a great amount/degree of」の同義語になります。ただし、このような用法は極めて口語的なので、学術論文では避けるべきです。(*1)

以下は「a lot」の典型的な誤用を例示します。

I. 副詞

[誤] (1) These two sets of results differ a lot.
[正] (1) These two sets of results differ greatly.
[正] (1’) These two sets of results differ significantly.
[正] (1’’) The discrepancy between these two sets of results is large.

[誤] (2) When carrying out these measurements, it does not matter a lot whether the order of the two steps are reversed.
[正] (2) When carrying out these measurements, the order of the two steps is largely irrelevant.
[正] (2’) When carrying out these measurements, changing the order of the steps does not alter the results significantly.
[正] (2’’) When carrying out these measurements, the variation in the results introduced by changing the order of the steps is much smaller than the experimental uncertainty.

II. 形容詞

[誤] (3) Of course, languages evolve a lot over a period of 200 years.
[正] (3) Of course, languages evolve greatly over a period of 200 years.
[正] (3’) Of course, languages evolve significantly over a period of 200 years.

[誤] (4) A lot of efforts have been made to determine this value.
[正] (4) A great deal of effort has been made to determine this value.
[正] (4’) Many studies have been dedicated to determining this value.
[正] (4’’) Many studies have been carried out with the aim of determining this value.

[誤] (5) We have had a lot of successes using the complex scaling method in studies of resonant structures.
[正] (5) We have had a great deal of success using the complex scaling method in studies of resonant structures.
[正] (5’) We have obtained a number of important results using the complex scaling method in studies of resonant structures.

[誤] (6) A lot of unsolved problems remain with regard to the dynamics exhibited by such systems.
[正] (6) There are still many unsolved problems with regard to the dynamics exhibited by such systems.

(*1)「a lot of」と同様の意味を示す「lots of」という表現もあります。この表現も口語的であり、学術論文では用いるべきではありません。しかし、日本人が書いた論文では、「lots of」は何故か「a lot of」と比べると使用頻度が低いです。


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グレン・パケットGlenn Paquette

1993年イリノイ大学(University of Illinois at Urbana-Champaign)物理学博士課程修了。1992年に初来日し、1995年から、国際理論物理学誌Progress of Theoretical Physicsの校閲者を務める。京都大学基礎物理研究所に研究員、そして京都大学物理学GCOEに特定准教授として勤務し、京都大学の大学院生に学術英語指導を行う。著書に「科学論文の英語用法百科」。パケット先生のHPはこちらから。


間違いやすい用語や表現 - bigとlittle

形容詞「big」と「little」は、(例(3)、(4)、(5)で示す「little」の用法を除いて)口語的とされるため、原則として学術論文など、正式な書き言葉を必要とする文章では避けるべきです。

ここで、「big」と「little」に共通する一つの用法と「little」にしかない二つの用法を個別に考察します。

「big」と「little」に共通する用法は以下で例示されます。

[誤] (1) The value of this quantity in the present case is bigger/littler than in the case studied above.

ここでの「bigger/littler」の用法に関して注目すべき点が二つあります。その一つは、口語的な形容詞「bigger/littler」が文全体のスタイルと食い違っていることです。もう一つは、「bigger/littler」によって修飾される名詞「value」が可算名詞となっていることです。このような場合には「big」、「little」をそのまま(口語的でない)「large」、「small」に置き換えることができます。

次の文は「little」独特の用法を例示します。

[誤] (2) The value of this quantity in the present case is a little larger than in the case studied above.

ここでは、「little」は形容詞ではなく、「a」とセットで副詞として形容詞「larger」を修飾している、ということに注目してください。このような用法はかなり口語的です。学術論文では、一般に「a little」の意味を示すのに「slightly」が適切です。

下記の例文で示される用法も「little」独特のものです。

[正] (3) In this case, the perturbation has little effect on the result.
[正] (4) Such objections are of little concern here.
[正] (5) There is yet little information on the outcome of the election.

これらの例文では、「little」が具体的な意味で物事の大きさを意味しているのではなく、より抽象的な意味で用いられているということに注目してください。これは、いずれの場合においても「little」が修飾しているのは不可算名詞だということから明らかです*1 。 なぜなら、不可算名詞が表すものには「大きさ」という性質がないからです*2 。ここで例示されるように、形容詞「little」が抽象的な意味で用いられる場合(要は、可算名詞を修飾していない場合)には口語的ではないとされます。

最後に、「big」には(3)〜(5)で例示されるような用法がないということを考察します。そのために以下の口語的な用例を見てみましょう。

[誤] (6) There is big difference between our dogs.

ここでは、文全体が口語的なものですから、「big」自体の使用には問題がありません。ここでの問題は、「big」が必ず何らかの「大きさ」を表すため、それに修飾される名詞は可算名詞でなければならないということにあります。要するに、ここでの問題は文中の表現が食い違っているというスタイル的なものではなく、より深刻な文法的な誤りですので、会話としても間違っているのです。この文を修正するために「big」の前に「a」を置くべきです。

脚注:
*1 不可算名詞になっていることは冠詞が付いていないことから分かります。
*2 詳しくはグレン・パケット:『科学論文の英語用法百科〈第2編〉冠詞用法』(京都大学学術出版会,2016)をご参照下さい。

 


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1993年イリノイ大学(University of Illinois at Urbana-Champaign)物理学博士課程修了。1992年に初来日し、1995年から、国際理論物理学誌Progress of Theoretical Physicsの校閲者を務める。京都大学基礎物理研究所に研究員、そして京都大学物理学GCOEに特定准教授として勤務し、京都大学の大学院生に学術英語指導を行う。著書に「科学論文の英語用法百科」。パケット先生のHPはこちらから。


複数形の誤用

英語には、通常単数形でしか用いられない名詞がたくさんあります。それらの名詞は、通常の用法で不可算物あるいは一つの可算物とみなされるものを意味するわけです。英語を母語としない人がこのような名詞を誤って複数形で用いているのをしばしば見かけます。

以下はこのような誤りの典型例です。

[誤] (1) These data analysis studies have added many knowledges to our understanding of neuronal firing patterns.
[正] (1’) These data analysis studies have added much knowledge to our understanding of neuronal firing patterns.

[誤] (2) In the final section, we give concluding discussions.
[正] (2’) In the final section, we give concluding discussion.

[誤] (3) We report previously unobserved behaviors in the metallic superconductor Sr2RuO4.
[正] (3’) We report previously unobserved behavior in the metallic superconductor Sr2RuO4.
[正] (3’’) We report previously unobserved types of behavior in the metallic superconductor Sr2RuO4.

[誤] (4) We first introduce some notations.
[正] (4’) We first introduce some notation.

[誤] (5) There have been great progresses in the field of machine learning in recent years.
[正] (5’) There has been great progress in the field of machine learning in recent years.

[誤] (6) Here we study the time evolutions of protein corona formations.
[正] (6’) Here we study the dynamics of protein corona formation.

[誤] (7) Study of the present model provides many new informations.
[正] (7’) Study of the present model provides much new information.

[誤] (8) There are many researches on the causes and effects of climate change.
[正] (8’) There is a great deal of research on the causes and effects of climate change.
[正] (8’’) There is a great body of research on the causes and effects of climate change
[正] (8’’’) There are many studies on the causes and effects of climate change.

[誤] (9) We next study how the efficiency of the decision-making process can be increased by the introduction of random noises.
[正] (9’) We next study how the efficiency of the decision-making process can be increased by the introduction of random noise.

[誤] (10) There is a lack of evidences for the existence of gravitons.
[正] (10’) There is a lack of evidence for the existence of gravitons.

[誤] (11) The author is grateful to M. Stevens for her advices on the various methods of sample preparation.
[正] (11’) The author is grateful to M. Stevens for her advice on the various methods of sample preparation.

[誤] (12) There are few agreements among these sets of results.
[正] (12’) There is little agreement among these sets of results.

[誤] (13) The various energies in this system can be understood as follows.
[正] (13’) The various forms of energy in this system can be understood as follows.

[誤] (14) Such uncontrolled motions of the detector and the source can result in significant error in the measurement of the scattering angle.
[正] (14’) Such uncontrolled motion of the detector and the source can result in significant error in the measurement of the scattering angle.

 
関連した議論についてはグレン・パケット:『科学論文の英語用法百科〈第2編〉冠詞用法』(京都大学学術出版会,2016)をご参照下さい。

 


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グレン・パケットGlenn Paquette

1993年イリノイ大学(University of Illinois at Urbana-Champaign)物理学博士課程修了。1992年に初来日し、1995年から、国際理論物理学誌Progress of Theoretical Physicsの校閲者を務める。京都大学基礎物理研究所に研究員、そして京都大学物理学GCOEに特定准教授として勤務し、京都大学の大学院生に学術英語指導を行う。著書に「科学論文の英語用法百科」。パケット先生のHPはこちらから。


冠詞用法I: 量を表す名詞はその値によって 一意に特定されない

私が読んできた論文からすると、日本人が書く英文における問題点は3〜5割が冠詞用法に関わるものです。誤った冠詞用法がよく見られる名詞の中でも量を表す名詞は特別です。量を表す名詞で見られる誤った冠詞用法は、誤りの多さおよび誤りが引き起こす意味上の問題の深刻さによって、特に顕著な誤用です。ここでは、その典型的な誤用の一つを考察します。

冠詞の誤用を引き起こす原因に、量を表す名詞独特の誤解が幾つか存在します。その一つは以下の誤用例で見られます。

[誤] (1) This circle has the radius 3 mm.

この文の書き手は、名詞「radius」がその修飾語である「3 mm」によって一意に特定されると勘違いしたようです。この勘違いは、ある量の可能な実現とその可能な実現値とが一対一の関係にあるという誤解に起因するものだと思われます。実際は、(英語に内在するロジックでは)ある量が考察される個別のケースにおいて、たとえそれぞれのケースにおける量の実現値が全く同じだとしても、それぞれのケースにおける量の実現は個別の存在として解釈されます。3 mmの値を持つ半径というものが様々存在するわけです。従って、上述の例文中の名詞「radius」が表すものは唯一ではありません。よって、「the」は削除すべきとなります。

[誤] (1)の訂正文としては、以下が挙げられます。

[正] (1’) This circle has a radius of 3 mm.
[正] (1’’) This circle has radius 3 mm.
[正] (1’’’) This circle is of radius 3 mm.
[正] (1’’’’) The radius of this circle is 3 mm.

以下に同様の誤りとその修正方法を示します。

[誤] (2) These particles emerge with the velocity 0.19 c.
[正] (2’) These particles emerge with a velocity of 0.19 c.
[正] (2’’) These particles emerge with velocity 0.19 c.

[誤] (3) These two events occur in the ratio 3 to 1.
[正] (3’) These two events occur in a ratio of 3 to 1.
[正] (3’’) These two events occur in a 3 to 1 ratio.

[誤] (4) The second term is larger by the factor 3.
[正] (4’) The second term is larger by a factor of 3.

詳しくはグレン・パケット:『科学論文の英語用法百科〈第2編〉冠詞用法』(京都大学学術出版会,2016)をご参照下さい。

 


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1993年イリノイ大学(University of Illinois at Urbana-Champaign)物理学博士課程修了。1992年に初来日し、1995年から、国際理論物理学誌Progress of Theoretical Physicsの校閲者を務める。京都大学基礎物理研究所に研究員、そして京都大学物理学GCOEに特定准教授として勤務し、京都大学の大学院生に学術英語指導を行う。著書に「科学論文の英語用法百科」。パケット先生のHPはこちらから。


論文の構成要素 – コンクルージョン

論文のコンクルージョンは本文の最後に位置し、論文をまとめる部分です。コンクルージョンは「Conclusion」という見出しの一つのセクションとするのが一般的ですが、「Discussion」と「Conclusion」、または「Summary」と「Discussion」、あるいは「Summary」と「Discussion」と「Conclusion」などといった複数のセクションに分割されることもあります。

論文のコンクルージョンは少なくとも以下の役割を果たします。
(i) 論文を要約し、結果を繰り返して述べます。
(ii) 研究結果の重要性とそれが影響を及ぼす範囲を明らかにします。
(iii) 研究の長所と短所を指摘します。
(iv) 既存研究との関係を述べます。
(v) 今後の研究の可能性について議論を行います。

これらの項目の記載順は、一般に上の通りになりますが、(iii)と(iv)の順番が逆になることもあります。以下でそれぞれの役割についてより細かく説明します。

(i) <論文の要約、結果の記述> 要約は、それだけを読んでも研究の内容の要点を把握でき、研究の出発点から結果・結論を得るまでの論理の筋がよく分かるように書くべきです。また、結果を徹底的に説明し、具体的に当研究で何を得たかを明らかにします。

(ii) <結果の重要性> 得られた結果が、当該分野および関連分野においてどのような意味を持つかを述べます。つまり、結果が、どのような問題を解決し、従来の知識にどのような知識を加えるか、また、今後どのような研究につながり、どのような新しい問題を提起するかを論じます。さらに、より大きな目標の観点からこの結果がどのような発展につながるかを説明します。

(iii) <研究の長所短所> これまでのアプローチと比較して、当研究で使用されるアプローチがどの点で優れているか、どの点で劣っているかを述べます。特に、今までのアプローチが成功に至らなかったことに対し、今回のアプローチが成功につながる理由を説明します。さらに、研究で用いた仮定、近似、単純化などを明らかにし、それらが結果に及ぼした影響について論じます。

(iv) <既存研究との関係> イントロダクションで述べた当研究の分野全体における位置付けを再記述します。また、研究の結果と従来の研究結果が互いに補足したり、裏付けたりすること、あるいは互いに食い違ったり、矛盾したりすることを指摘し、こうした関係の意味を論じます。

(v) <今後の研究> 研究で用いられたアプローチの改善、拡張など、また、研究の結果によって提起される新しい問題の研究についての可能性を議論します。最後に、今回の結果を踏まえて「大きな」目標の達成の見込みについて論じます。

※論文の構成要素として、今回の「コンクルージョン」の他に「イントロダクション」と「本論」も紹介しています。こちらもご参照ください。


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グレン・パケットGlenn Paquette

1993年イリノイ大学(University of Illinois at Urbana-Champaign)物理学博士課程修了。1992年に初来日し、1995年から、国際理論物理学誌Progress of Theoretical Physicsの校閲者を務める。京都大学基礎物理研究所に研究員、そして京都大学物理学GCOEに特定准教授として勤務し、京都大学の大学院生に学術英語指導を行う。著書に「科学論文の英語用法百科」。パケット先生のHPはこちらから。