カテゴリーアーカイブズ: カラーユニバーサルデザインで”魅”せるプレゼンテーション

第18回 学術界におけるカラーユニバーサルデザインの動向と展望

より多くの人に伝わりやすく・わかりやすい、色覚バリアフリーなスライドを作るために覚えておきたい「CUD: カラーユニバーサルデザイン」について迫る連載シリーズ。最終回の今回は、東京慈恵会医科大学解剖学講座教授、CUDO: Color Universal Design Organization 副理事長岡部正隆(おかべ まさたか)氏へのインタビューです。


色のバリアフリープレゼンテーション法について早くから国内外の学術界に対して情報発信してきた岡部氏に、最近の動向と今後の展望を伺いました。
 

学術界の外に動きの主体が広がった

■岡部先生と伊藤啓(いとう けい)先生(東京大学分子生物学研究所准教授、CUDO副理事長)がともに色弱者として学術界に対して声を上げてから、この15年間に状況は変わりましたか?

2001年から活動を始めて今に至りますが、最初の時期から比べると学術界に対するアピールから、学術界の外に動きの主体が広がってきました。

学術界での配慮は基本的に個人レベルになります。しかし、次から次に出てくるデバイスを考えると、研究者の態度というより、企業による商品開発レベルですでにいろいろな工夫がなされていないと研究者1人1人が戦っても及ばない部分があります。そこで、最近は企業に対応を求めることが増えました。

男女共同参画などは政府も後押しして、学会レベルで半ばルールのように推進されていますが、カラーユニバーサルデザインに関してはそのレベルに至っていません。毎年のように学会から教育講演の依頼はあって、今年は日本産科婦人科学会と日本微生物生態学会でCUDに関するセミナーをする予定があります。そのほか、ポスター発表のガイドラインに記載してもらったり(日本分子生物学会、日本発生生物学会)、論文の投稿規定に入れるように依頼したりしていますが、継続的に行うにはパワー不足です。

■学会の聴衆の立場では変化を感じますか?

だいぶ改善はしてきていると思います。自分の専門分野では蛍光染色の図版を見る機会が多いので、見分けにくい「赤と緑」の二重染色を「マゼンダと緑」に変えるように以前から要望してきて、そのように対応されている図版も増えましたが、なぜ「マゼンダと緑」なのか自覚せずに使われている可能性もありますので、もっとしっかり理解を得ていかなければならないと思っています。

■学会の外の動きとはどのようなことですか?

2002年に色覚検査が廃止されて10年以上経ちましたが、新たなトラブルとして、色弱に気付かないで社会人になり就職時に問題が起こるケースが出てきました。国は学校保健において色覚検査を復活させることはないと言っていますが、現場サイドで色覚検査が必要なのではないかという見解が出てきて、学校医や地域の眼科医会と教育委員会の間のせめぎ合いが生じています。そのような関係で、色弱児童への配慮についての啓発セミナーの依頼が増えています。検定教科書のCUD検証作業も行っています。
 

カラーユニバーサルデザイン_18_色弱
 

学術界に多い色弱者の1人1人が声をあげれば!

■トップジャーナルの『Nature』誌でも2007年に岡部先生らが英語で発信した図版に関する文書が紹介されていますので、日本の取り組みがいかに先駆的であることがわかります。

最近、『Washington Post』紙が記事を書いてくれました。もう少し前には『Science』誌もとりあげてくれました。海外の国々は、人種問題などもあり、色覚の問題に取り組む余裕はないのでしょう。アメリカでは、color-blindという言葉が‘肌の色で人を差別しない人’という全く違った意味で使われることもあるくらいですから、red-green(赤緑色弱)の話なんて二の次、三の次という感じです。

■学術界ではもっと取り組まれていてもいいように思います。

日本でも少数派の色覚を持つ人は実はすごくたくさんいるはずです、特に教授陣に。彼らがもっと声をあげてくれると状況がもう少し良くなるという期待はあります。われわれは色弱をカミングアウトして気にしないという、ある意味で特殊な考えの持ち主ですが、遺伝子の問題も含むため家族への遠慮などからカミングアウトできない人は多いです。大学などの高等教育現場で、CUDについて口酸っぱくアピールする人がもう少し増えてくれたらいいように思います。

P型、D型色覚の日本人男性は5%と言われますが、学術界にはそれ以上の割合で存在するように思います。研究所で助手をしていた頃には知る限り、教官の1割ぐらいが色弱者でした。多分、他の多くの人と違う感覚を持っていることは、人の気がつかないことに気がつくチャンスが多いのではないかと思ったりもしています。そんな気質は研究者向けなのかもしれません。そのような人々が声をあげてくれるといいのですが、世代的にそれでいやな思いをしたり進学上悩んだ経験があるとなかなか難しいです。

徴兵時の身体検査に石原式色覚検査表が使用されていた頃に悩んだ人々の孫の世代と考えると、負のイメージを強く持っている人たちもいるように思います。したがって、このような状況が是正されて多様性が受け入れられ、色覚に配慮することの重要性を自らの身をもって皆に知らせるということを複数の人が行い始めるには、もう少し時間がかかるのではないかと感じています。
 

カラーユニバーサルデザイン-2_色弱
 

時間をかけて心のバリアが解ければ、一気に進む

■目に見える形で、少しずつ動き始めていますね。

ただ時間がかかることだと思います。とつぜんぱっとエレベーターを作ったり点字ブロックを埋めていくという勢いとは違う方法でやっていかなければなりません。その理由は、色弱者は法律上、障害者ではありません。もしマスコミで“色覚障害者”というのと同じレベルで障害者として扱われているのであれば、これは法律上、社会保障のなかで対策がとられてしかりですね。

しかし、われわれは自分たちのことを障害者だと思っていないし、異常と言われるのもいやだと思っている人が多い。それぐらいの“個性”だと思っているわけですから、逆にそのような対策で物事が進む方が不本意なのかもしれません。そういう意味では、ゆっくりしか進まないでしょう。意識の問題なのです。

あとは、われわれ当事者が発信して、配慮を求める動きがもう少し広く行われるために、気持ちの上でのバリアをどうほぐしていくかという課題があります。時代や時間も解決を助けてくれるでしょう。また、さまざまな形で情報が発信されて配慮がなされ、ノーマライズの方向に進んでいくことによって当事者がもう少し話しやすくする環境を作る。そういう方向に進んで行けば、おそらくもっと一気に話が進むのでないかと考えます。

2001年にこの活動を始めて、2002年に色覚検査の義務化が廃止されました。2〜3年前に朝日新聞でも色覚検査復活の兆しについて指摘されていましたが、やはり知らずに成人になって、進路を大きく変えなければならない事態になって非常に悩ましくなったという話が多く出てきました。知らないで過ごすデメリットが出てきだしたわけですが、やはり、と感じる部分はあります。

色覚検査が廃止された当初は、当然社会がそれに対応しなければならないということを逆に追い風にしてCUDを広げようと考えました。それはある程度その通りに進んでいる気がします。一方で、色弱者自身がそれを知らなくていいのか、知っていた方が自分の身を守れるのではないかという議論も以前からあり、検査が廃止された現在では色覚検査を自主的に進めるような方向になっています。国が色覚検査を行わないなか、CUDのあり方も変わってくるかなと思っています。

■企業の取り組みも増えており、社会的に認知が広まれば違う角度からのサポートになるのではないでしょうか。

そうですね。色覚検査を再開するにあたっては、どのように再開するのかということも大切になります。以前は、検査したら「あなたは色弱ですよ」と告げて終わりでした。「気にすることありませんよ」の一言で終わりです。学校の先生方も対応の方法を知らないなかで、何を変えられるのかと。われわれはCUDの啓発をしてきた流れで、「家庭のなかでできるCUDってなんだろう」ということにも取り組み始めました。

非常にテクニカルに学術界に特化した話ではなく、もっと、ごく一般的なところからつっこみ、もっと広くの人をカバーするようなCUDのあり方のようなことを模索しています。

■貴重なお話をありがとうございました。
 
 


参考資料:
『Washington Post』紙のデジタル版ブログ記事(2015年2月27日)
http://knowmore.washingtonpost.com/2015/02/27/what-do-colors-really-look-like-to-colorblind-people/


第17回 9つの “色覚バリアフリーツール”

より多くの人に伝わりやすく・わかりやすい、色覚バリアフリーなスライドを作るために覚えておきたい「CUD: カラーユニバーサルデザイン」について迫る連載シリーズ。第17回目の今回は、カラーユニバーサルデザインの実践に役立つ9つのツールをご紹介します。


CUDの実践に役立つ9つのツールをまとめてご紹介します。このようなツールに触れてみるだけでも多様な色覚の世界を知る手がかりとなりますので、機会があればぜひ利用してみましょう。
 

  1. シミュレータ(ソフトウェア)
  2. ①「Illustrator 」、「Photoshop」
    世界的にシェアの高いアドビシステムズ株式会社のグラフィックソフトウェアならびに画像編集ソフトウェア。Illustrator 、Photoshopとも、CS4以降、CUDOが協力して開発したCUDチェックシステム機能を標準搭載しています。[校正メニュー]の中にP型、D型それぞれのCUD校正ビューが組み込まれており、オリジナルの作業スペースと別に開くことができるのでチェック画面を見ながら作業できます。

    ②「Vischeck」
    米国スタンフォード大学のBob Dougherty氏と Alex Wade氏が開発した、P型、D型、T型色覚のシミュレーションソフトウェア。画像処理ソフトウェアImageJのプラグインとして利用するのが一般的で、ImageJ、Vischeckともに無償でダウンロードできます。既存の画像ファイルを開いてチェックするとともに、色に改変を加えて保存することもできます。PowerPointなどのファイルをいったん画像として保存すれば、スライドの色の見分けやすさをチェックすることもできます。

    ImageJ http://imagej.nih.gov/ij/
    Vischeck ImageJ Plug-In http://www.vischeck.com

    ③「色のシミュレータ」、「色のめがね」
    http://asada.tukusi.ne.jp/cvsimulator/j/index.html
    http://asada.tukusi.ne.jp/chromaticglass/j/index.html
    浅田一憲氏(医学博士、メディアデザイン学博士)が開発したスマートフォン用のアプリケーションです。「色のシミュレータ」は、各色覚型の色の見分けにくさをチェックするためのツールで、「色のめがね」は、P型、D型、T型など色を見分けにくい人のための補助ツールです。上記サイトまたは各種配信チャンネルから無償でダウンロードできます。

    ④「UDing(ユーディング)」
    http://www.toyoink1050plus.com/color-solution/ucd//
    東洋インキ株式会社から無償提供されているCUD支援ツールのシリーズです。なかでも「UDingCFUD」は、色の組み合わせが適切であるかどうかを自動認識により知らせてくれる便利なツールです。UDingにはiPhoneアプリ版もあり、配信チャンネルから無償でダウンロードできます。
     

  3. シミュレータ(ハードウェア)
  4. ⑤色弱模擬フィルタ「バリアントール」
    http://www.variantor.com/jp/
    豊橋技術科学大学中内茂樹研究室、高知工科大学篠森敬三研究室、伊藤光学工業株式会社の産学連携により開発された、色弱者の色の見分けにくさを一般色覚者が体験するための色弱模擬フィルタのシリーズ。メガネ型およびルーペ型があり、色覚に関する啓発活動や研究、デザイン作業における配色チェックなどに活用されています。

    ⑥液晶ディスプレイ「Flex Scan」、「Color Edge」シリーズ
    http://www.eizo.co.jp/
    EIZO株式会社のスタンダードモニタ―「Flex Scan」、ならびにカラーマネジメントモニター「Color Edge」シリーズは、同社が無償で提供している色覚シミュレーションソフトウェア「UniColor Pro」と組み合わせることで、モニター表示の色変換を行うことができます。静止画のみならず動画をリアルタイムに扱えることが利点です。

    ⑦液晶ディスプレイ「MultiSync」シリーズ
    http://jpn.nec.com/products/ds/display/professional/
    NECのクリエイター向けカラーマネジメントディスプレイ「MultiSync」シリーズは、ディスプレイ単体で各色覚特性およびコントラスト確認用の表示をすることができます。静止画のみならず動画をリアルタイムに扱えることが利点です。
     

  5. 配色セット
  6. ⑧CUD推奨配色セット
    http://www.cudo.jp/resource/CUD_colorset
    CUDOおよび印刷・塗料企業により選定された、C型、P型、D型、T型、さらには白内障の人など、あらゆる色覚の人に見分けやすい約20色のセットです(詳細には下記参照)。

    伊藤啓氏(東京大学分子生物学研究所)によるCUD配色セットの詳細
    http://jfly.iam.u-tokyo.ac.jp/colorset/
     

  7. 緑色レーザーポインター
  8. ⑨コクヨ株式会社 レーザーポインター
    https://www.kokuyo-st.co.jp/stationery/lp/
    近年、さまざまなメーカーからさまざまな機能を備えた緑色のレーザーポインターが発売されています。なかでもコクヨ株式会社の緑色レーザーポインターはシンプルなものから多機能のものまでラインアップが豊富です。CUDマークのついたものを探してみましょう。
     
     



第16回 “魅”せるプレゼンテーション – チェックリスト!

より多くの人に伝わりやすく・わかりやすい、色覚バリアフリーなスライドを作るために覚えておきたい「CUD: カラーユニバーサルデザイン」について迫る連載シリーズ。第16回目の今回は、これまでにご紹介した色覚バリアフリーの資料作りのポイントを一挙ご紹介します。


ここでは、CUDOによる「CUDチェックリスト」から、学術発表に関係する項目をピックアップします。本連載で取り上げていない内容もありますので、 色覚バリアフリー の発表資料を作成するための参考資料として役立ててください。
 

  1. 色の選び方
  2. ・赤は濃い赤を使わず、朱色やオレンジを使う
    ・黄色と黄緑は色弱者には同じ色に見えるので、なるべく黄色を使い、黄緑は使わない
    ・濃い緑は赤や茶色と間違えられるので、青みの強い緑を使う
    ・青に近い紫は青と区別できないので、赤紫を使う
    ・細い線や小さい字には、黄色や水色を使わない
    ・明るい黄色は白内障では白と混同するので使わない
    白黒でコピーしても内容を識別できるか確認する
     

  3. 色の組み合わせ方
  4. ・暖色系と寒色系、明るい色と暗い色、を対比させる
    ・パステル調の色どうしを組み合わせない。はっきりした色どうしか、はっきりした色とパステル調を対比させる
     

  5. 文字に色をつけるとき
  6. ・背景と文字の間にはっきりした明度差をつける(色相の差では不可)
    ・線の細い明朝体でなく、線の太いゴシック体を使う
    ・色だけでなく、書体、太字、イタリック、傍点、下線、囲み枠など、形の変化を併用する
     

  7. グラフや概念図
  8. ・区別が必要な情報を、色だけで識別させない
    ・明度や形状の違いや文字・記号を併用して、色に頼らなくても情報が得られるように工夫する
    ・白黒でも意味が通じるように図をデザインし、色はその後で「装飾」としてつける
    ・シンボルは同じ形で色だけ変えるのではなく、形を変えて色は少なくする
    ・線は実線どうしで色だけを変えるのではなく、実線、点線、波線など様々な線種と色とを組み合わせる
    ・色情報を載せる線は太く、シンボルは大きくする
    ・塗り分けには、色だけでなくハッチング(地模様)等を併用する
    ・色相の差でなく明度の差を利用して塗り分ける
    ・輪郭線や境界線で、塗り分けの境界を強調する
    ・図の脇に凡例をつけず、図中に直接書き込む
     

  9. 図の解説の仕方
  10. 色名だけで対象物を指し示さない。位置や形態を描写したり、ポインターで直接指し示す
    ・凡例にはなるべく色名を記入するか、凡例を使わずに直接矢印で示す
    ・赤いレーザーポインターは見づらいので緑のレーザーポインターを使用する
     
     
    〜カラーユニバーサルデザイン機構(2009)『カラーユニバーサルデザイン』ハート出版 P.168より抜粋(一部補足)〜
     
     

    Article16_image_RE_色覚バリアフリー
     
     


    参考資料:
    カラーユニバーサルデザイン機構(2009)『カラーユニバーサルデザイン』ハート出版
    カラーユニバーサルデザイン機構『カラーユニバーサルデザインガイドブック』


第15回 色覚バリアフリーを示すCUD認証マークとは?

より多くの人に伝わりやすく・わかりやすい、色覚バリアフリーなスライドを作るために覚えておきたい「CUD: カラーユニバーサルデザイン」について迫る連載シリーズ。第15回目の今回は、色覚バリアフリーの検証に合格した製品に添付される、CUD認証マークについてご紹介します。


日本国内にCUD (カラーユニバーサルデザイン)検証に合格した製品が増えています。「CUD認証マーク」の認知度はまだまだ高くありませんが、見つけたときには色やデザインに注目してみましょう。
 

  1. エコマークのような認証マーク
  2. 環境保全に役立つ商品につけられるエコマークのように、CUDO (Color Universal Design Organization: カラーユニバーサルデザイン機構) によりCUDの要件を満たしていると認められた製品には「CUD認証マーク」(図15)をつけることができます。対象は、各種印刷物、機器類、公共物、ウェブサイト、その他文具・教材・調理器具など多岐にわたります。

    企業や自治体からCUDOに申し込みがあると、訓練を受けた各色覚型の検証員が検証を行います。パソコンのシミュレータは簡易なチェックには役立ちますが、色弱者が実際に感じている色を再現するものではないため、認定には当事者による検証が必須となっています。
     
    検証のポイントとなるのは、1: 多くの人に見分けやすい配色をしているか、2: 色のみに依存しないデザインの工夫をしているか、3: 色の名前を用いたコミュニケーションが可能か(色名を記載するなど)、の3点です。問題点が見つかれば改善案を提示して再検証を行い、合格すれば合格証が発行され、「CUD認証マーク」の表示許諾が得られます。

    CUD_CertificateLogo

    図15 CUD認証マーク(CUDOの許可を得て転載)

  3. 身の周りに増えるCUD対応製品
  4. 2004年のCUDO設立以来、企業の関心が高まり、CUD検証に合格した印刷物や製品が身の回りにどんどん増えています。CUDマークのついた学校教科書も増えました。CUD検証に合格した製品が必ずしも「 CUD認証マーク 」を表示しているとは限りませんので、一見そうとわからなくともCUDに対応しているケースもあります。

    CUDに配慮したウェブサイトも少しずつ増えてきました。インターネットへの依存度が極めて高い今日、ウェブアクセシビリティを高めるために、ウェブサイトのデザインにおけるCUDは大切です。
     
    Fig.15-2
     

  5. 広がるガイドラインの整備
  6. 近年は、CRS(Corporate Social Responsibility: 企業の社会的責任)事業の1つとしてCUDを取り入れる企業が増えています。その場合は、単品レベルではなく、すべての製品について企画開発段階から全行程にCUDが効率よく徹底されるように内部のガイドラインが作成されるのが一般的です。政府機関や自治体においても、個別の案件レベルにとどまらないCUDのガイドライン作成が着実に広がっています
     
     

  7. 知っていましたか?複合機のCUD機能
  8. コピー、プリンター、スキャナー、ファクシミリなどの機能を備えた複合機。これを製造するメーカーはCUDの先進企業です。世の中のカラー化を推進する企業の責務として、早くから機器のCUD化に着手してきました。

    機器の目立つ場所に「CUD認証マーク」がついているわけではないので、一般色覚型の人はほとんど意識していませんが、現在、身の回りにある複合機はほとんどがCUD検証に合格した製品です。操作性に関わるタッチパネル、製品メンテナンスに関わるレバー類の色使いなど、あらゆる色覚型のユーザーがスムーズかつ安全に操作できるように配慮されています。

    さらに、メーカーによって、色弱者に見にくい赤色の文字をプリンタドライバで見つけて下線や網かけで強調する機能や、カラー文書を色弱者に少しでも見やすく変換する機能を備えたラインナップがありますので、身近な複合機の機能をぜひ確認してみましょう。
     
    Fig.15-3
     
     


    参考資料:
    カラーユニバーサルデザイン機構(2009)『カラーユニバーサルデザイン』ハート出版
    カラーユニバーサルデザイン機構(2014)『Season in the CUDO 2014年夏号』


第14回 動物における色覚の多様性 – 光の受容と種の保存

より多くの人に伝わりやすく・わかりやすい、色覚バリアフリーなスライドを作るために覚えておきたい「カラーユニバーサルデザイン」について迫る連載シリーズ。第14回目の今回は、我々ヒトを含めた、動物における色覚の多様性についてご紹介します。


生物にとって「色」とは、物体を検出、認識する手がかりであるとともに、信号としての役割を持ちます。生物はそれぞれ一定の光の波長を 受容 することにより独自の色の世界を持っているようです。
 

  1. チョウにはお尻にも「目」が!
  2. 昆虫の眼は複眼でヒトの視覚とシステムが異なります。色覚についても、ミツバチの仲間は赤の光受容体がなく、紫外線、青、緑の3色型色覚を持つことが知られています。アゲハチョウやモンシロチョウは、ヒトより多い、紫外線、紫、青、黄、赤の5色型色覚に加え、さらに、お尻にもう1つの「目」(眼球外光受容器)を持つといいます。お尻の「目」では、交尾や産卵を確実に行えるように紫外線から青にかけての光を利用していることが確かめられています。

    Article14_image1
     

  3. 夜行性だったヒトの祖先
  4. 脊椎動物は魚類からヒトまで左右一対のカメラ眼を持ちますが、色覚は魚類、は虫類、鳥類の多くで4色型色覚を持っていたのが、ほ乳類で2色型に減少し、その中からヒトなどの霊長類が再び3色型色覚を持つようになりました。約2億年前、ほ乳類がは虫類から分岐した頃、地球は恐竜の全盛期で、ほ乳類の祖先は夜間行動をしていたために4種類のうち2種類の視細胞を失ったと考えられています。

    霊長類が今から約4〜3千万年前に再び3色型色覚を持つようになった理由については、恐竜の絶滅後に昼行性の樹上生活を始めたため視覚への依存度が高まったことによると考えられています。3色型は木の葉のなかから若葉や果実を見つけ出すのに適していたほか、仲間とのコミュニケーションにおける役割も果たしたことが指摘されています。

    Article14_image2
     

  5. 現代人において高い2色型色覚の頻度
  6. 3色型色覚を持つサルの世界にも2色型(P型、D型)のサルが共存していることが知られています。また、それら「色弱」のサルを遺伝子型で特定して追跡した研究において、色弱のサルにおいても食べ物が異なるということはなく、一方的に弱いということはないことが観察されています。

    ヒトは長い進化の過程を経て3色型色覚を持つようになりましたが(C型)、男性の5〜8%は2色型色覚を持ちます(P型、D型)。現代人における2色型色覚の頻度は、サルやチンパンジーにおけるその頻度と比べて極めて高いことがわかっています。

    その理由として、ヒトの現代社会においては樹上生活に適した3色型の優位性が失われたか、あるいは2色型のほうが有利な場合も生じたために3色型に対する選択圧が緩和されたという説があります。そのほかに、ヒトが狩猟採集生活をしていた時代には2色型は輝度コントラストから獲物を見つけるのが得意で、3色型は果実の採取などに適しているために、相互利益により維持されたという考え方もあります。遺伝子構造によるとの見方もあり、はっきりとした理由は明らかではありません。
     
     

  7. 多様性を担うオプシン遺伝子の多型
  8. このような色覚の多様性を担う視細胞は、364個のアミノ酸からなるタンパク質のオプシンに、ビタミンA誘導体であるレチナールが結合したものです。そして、ヒトにおいてC型、P型、D型を分けるのは、このオプシンのなかの15個のアミノ酸の違いです。

    オプシン遺伝子の多型による色覚の多様性は、種が環境変化に応じて生存していくために担保される遺伝的多様性と考えることができるかもしれません。
     
     


    参考資料:
    カラーユニバーサルデザイン機構(2009)『カラーユニバーサルデザイン』ハート出版
    (社)日本動物学会関東支部編『生き物はどのように世界を見ているか さまざまな視覚とそのメカニズム』(2001)学会出版センター
    種生物学会編『視覚の認知生態学 生物達が見る世界』(2014)文一総合出版
    三上章允編『視覚の進化と脳』(1993)朝倉書店
    ジェラルド H. ジェイコブス(三星宗雄訳)『動物は色が見えるか―色覚の進化的比較動物学―』(1994)晃洋書房
    京都大学霊長類研究所編著『新しい霊長類学 人を深く知るための100問100答』(2009)講談社
    岡部正隆、伊藤啓(2002)色覚の多様性と色覚バリアフリーなプレゼンテーション 第1回 色覚の原理と色盲のメカニズム. 細胞工学21(7)733-745


第13回 色弱者にもやさしい信号機の色

より多くの人に伝わりやすく・わかりやすい、色覚バリアフリーなスライドを作るために覚えておきたい「カラー ユニバーサル デザイン (CUD)」について迫る連載シリーズ。第13回の今回はプレゼンテーションから少し離れて、安全な社会構築に欠かせない「信号機」とCUDにまつわるエピソードをご紹介します。


色弱者と社会基盤の関係が話題になるとき、まず持ち上がるのが「信号機の色は見分けられるのか」という質問です。色と情報のシンボルともいえる信号機にまつわる歴史や、知らなかった工夫を紹介します。
 

  1. 「青信号」は見分けやすい「青みどり色」
  2. 信号機の色の見え方は個人差が大きいので一様には言えませんが、少数派であるP型、D型の当事者によれば、信号機の色は「見分けられます」。自動車運転免許の取得においても色覚型が欠格の理由になることもありません。

    「青信号」はかつて「緑色」で、赤信号や黄信号と見分けがつきにくかったのですが、1970年代以降、 色弱者 に見分けやすい「青みどり色」に変更されました。電球式信号機においては、赤色を黄色より暗くして見分けやすくするなどの工夫もなされていました。また、横型の車両用信号機は通常、左から青・黄・赤の順に並んでいるので、位置関係からも判断できます。
     
    Article13_色弱者_信号_1
     

  3. 進むLED化と新たな試み
  4. 平成25年の警察庁資料によれば、全国の車両用信号機の約40%、歩行者用信号機の35%がLED化されています。LED信号機には、コストパフォーマンスの良さや、太陽光の反射による疑似発光がないなどのメリットがあります。

    すべての色覚型の人に見やすいように「青信号」は電球式と同様に「青みどり色」にしてあります。また、LED信号機が小さなLED電球の集まりであることを利用して、赤の信号灯にP型、D型色覚者に見やすい×印を組み込んだ信号機が提案され、社会実験として実際に使用された例もあります。

    歩行者用の信号機は、従来から形状による表現が採用され、電球式の歩行者用信号機は色バックに人型の白抜きというデザインでした。LED化にあたり、学識者、色弱者、高齢者などにアンケート調査や視認試験を行った結果、黒バックに人型を光らせるタイプが高評価を得て採用されました。この変化に気づいていましたか?
     
    Article13_色弱者_信号_2
     

  5. 工事現場の信号も刷新!
  6. 従来、工事による片側通行の箇所に設置される2色の仮設信号機は、色弱者にとって非常に見分けにくいものでした。しかし、主要なメーカーが改善に乗り出し、今日ではすべての色覚型に見やすいモデル(CUD認証取得)が広く普及しています。
     
     

  7. もともとは「赤と白」や「黒と白」だった
  8. ほとんど知られていませんが、信号機の原型(鉄道用)の色はもともと「赤と白」や「黒と白」でした。しかし、白い電球を覆うカラーのガラスカバーが割れて落ちると「白と白」になってわからなくなってしまうので、一方がはずれてもわかるように「赤と緑」に変更されたということです。なお、青色にすると光が遠く見えるため緑色が選ばれました。今から約150年前、スウェーデンでの話です。

    ところが、「赤と緑」に変えたとたん列車事故が起こりました。鉄道会社では色弱者の関与を疑い、色覚検査を行って約260人中13人を解雇しました。これが世界初の色覚検査と言われています。そして、「赤と緑」の信号はその後も姿を消すことなく世界中で今日まで続いています。
     
     


    参考資料:
    カラーユニバーサルデザイン機構(2009)『カラーユニバーサルデザイン』ハート出版
    栗田正樹(2008)『色弱の子を持つすべての人へ 20人にひとりの遺伝子』北海道新聞社
    警察庁ウェブサイト内「LED式信号灯機に関するQ&A」
    九州産業大学芸術学部落合太郎研究室ウェブサイト
     


第12回 カラーユニバーサルデザイン・日本から世界へ

国際学会でのプレゼンを成功させるには、聞き手を引きこむ英語スピーチに加え、見やすいスライド作りも重要な鍵となります。より多くの人に伝わりやすく・わかりやすい色覚 バリアフリー なスライドを作るために覚えておきたい「カラー ユニバーサル デザイン」について迫る連載シリーズです。


世界に先駆ける日本の「カラーユニバーサルデザイン(CUD)」の取り組みはどのような背景から生まれてきたのか、CUDO副理事長の伊賀公一氏と同副理事長の田中陽介氏にお話を伺いました。
 

  1. 色が「使える」条件
  2. 色をなぜ使うのか?色が「使える」から使うのだ、と伊賀氏は言います。モノクロが当たり前だった状況からカラー化を進めるには一定のコストがかかりますが、日本にはその経済力がありました。

    また、日本には教育上の共通インフラのようなものがあり、色で情報を伝えることのできる素地がありました。色に意味を持たせる場合に必要な一定レベルの印刷技術や塗装技術もありました。つまり日本には、いろいろな意味で色を使える条件が(色弱者以外には)そろっていました。海外旅行に行くと、言語、文化、宗教の多様性を実感します。そのようななかで、公共のサインなどにはアイコンを使うのが最も確実であって、色分けしておけば情報が伝わるという認識はほとんどないといいます。

    color_universal_12_色弱_社会意識
     

  3. 「左利きと何が違うの?」
  4. 一方、日本の小学校では2002年まで全員に色覚検査を行っていました。これは世界に類をみないものです。また、色弱者にはかなりの職業の制限があり、身内からも黙っておくように言われることが普通でした。ひと昔前は左利きも修正されたことを考えれば、皆と同じであることがそれほどに重要だったということです。

    田中氏によれば、米国では鉄道・航空など交通系や警察官の就職試験時に色覚検査が行われるものの、消防では行われなかったり、学校での一斉検査もないため、問題意識は低いといいます。特に西洋の文化は個人主義で、色覚についても個人の問題と捉えられているようです。実際、伊賀氏は 色弱 のイギリス人科学者に「左利きと何が違うの?」と言われたことがあるそうです。
     
     

  5. 日本発の成功事例になれば
  6. 日本はよい意味でも悪い意味でも色に対してセンシティブであるがゆえに、CUD (Color Universal Design) という新たな概念が生まれたと言えそうです。CUDはより多くの色覚型に情報が正しく伝わるデザインを目指している点において画期的です。田中氏は、「個人主義もあいまって孤立した色弱者は世界中にいるはずだが、日本の取り組みを成功事例として、独りで悩まずにすむ社会になればよい」と述べています。

    color_universal-12-2_色弱_社会意識
     
     



第11回 デジタル画像 作成時のひと工夫

国際学会でのプレゼンを成功させるには、聞き手を引きこむ英語スピーチに加え、見やすいスライド作りも重要な鍵となります。より多くの人に伝わりやすく・わかりやすい色覚 バリアフリー なスライドを作るために覚えておきたい「カラー ユニバーサル デザイン」について迫る連載シリーズです。


学術発表におけるデジタルカラー画像の使用頻度が高まっています。第11回の今回は、医学生物学領域で使用頻度の高い蛍光多重染色画像を例にとり、多くの色覚型に伝わりやすい“ほんの一工夫”を紹介します。
 

  1. 単色画像はグレースケールで
  2. 今日、蛍光顕微鏡や共焦点レーザー顕微鏡の画像はデジタルカメラで撮影して、パソコン上で疑似カラーを用いて表現します。単色の画像を黒バックに赤や緑や青で提示しているものが多くありますが、この場合、色には意味がありません。むしろデメリットの方が多くなります。特にP型の人には黒い背景に赤い色は見にくく、一般型の人にとっても黒い背景に青色などは見にくいものです。

    また、ポスターや論文などの印刷物においてカラー画像は不鮮明になる欠点があります。特に緑色はトラブルが多いと言われます。これは、顕微鏡で取得された画像がRGB 形式であるのに対し、印刷は一般的にCMYK方式であるため、変換により階調が飛んでしまうためです。白黒画像であれば、細かいシグナル強度の差も鮮明に表現でき、印刷時のトラブルが少なくなります。単色画像はぜひ白黒のグレースケールで提示しましょう。
     

  3. 2重染色画像では「赤―緑」を「マゼンタ―緑」に
  4. 蛍光2重染色では、黒い背景に「赤」と「緑」で表現し、赤と緑が共存する部分が「黄色」で表現されるのが一般的です。ところが、この色の組み合わせは、P型、D型の人には非常に見づらいものです。P型色覚の見え方をシミュレーションしたものが図11-1下段の一番左の画像です。赤が暗く、緑と黄色が見分けにくいことがわかります。

    そこで、岡部正隆氏(東京慈恵会医科大学解剖学講座)は、P型、D型のみならず一般型のC型の人も含め、ほぼすべての人に理解できる蛍光二重染色画像の提示方法として、赤のシグナルをマゼンタ(赤と青を1対1で混ぜた赤紫色)に変更することを提唱しています。こうすれば、もともと赤かった部分は青寄りに見え、マゼンタと緑が共存する部分は「白色」で表現されるため、3つの色が明確に区別できます(図11-1下段の一番右の画像)。
     

  5. Photoshop上で赤チャンネルの絵を青チャンネルにコピーするだけ!
  6. では、「赤―緑」から「マゼンタ―緑」への変更はどのようにすればよいのでしょうか。多くの顕微鏡では疑似カラーとしてマゼンタを選択できますので、それを活用するのが最も簡単ですが、すでに撮影した赤緑画像についても、RGBモードの画像であればPhotoshopで簡単に変更できます。

    具体的な手順は図11の通りです。Photoshopで赤緑画像を開き、レイヤーウィンドウの中のチャンネルのタグを選択します。次に、赤チャンネルだけを表示させ(ショートカットは⌘+1またはctl+1)、赤チャンネルの画像のすべてを選択し(⌘+Aまたはctl+A),これをコピーします(⌘+Cまたはctl+C)。そして、青チャンネルだけを表示させます(⌘+3またはctl+3)。赤緑画像であれば青チャンネルには何も表示されませんので、先程コピーした赤チャンネル画像をペーストします(⌘+Vまたはctl+V)。そして全チャンネルを表示させると(⌘+^またはctl+^)、「マゼンダ―緑」の画像ができます。慣れれば数秒でできる操作です!
     
    Cyan_Magenta1

    Cyan_Magenta2

    図11 蛍光二重染色において「赤―緑」を「マゼンダ―緑」に変更する方法[岡部正隆氏の許可を得て次の文献より転載:岡部正隆、伊藤啓(2005)医学生物学者向き 色盲の人にもわかるバリアフリープレゼンテーション法(http://www.nig.ac.jp/color/bio/)。下段は上段画像に対するP型色覚のシミュレーション(Vischeck使用)]

  7. 各チャンネルの画像はグレースケールで提示
  8. 多重染色においては、各チャンネル単独の画像も並べて提示することが多く、それらをカラーで提示しているものが多く見られます。しかし先に述べた通り、カラー画像は印刷物においては階調が飛び不鮮明になってしまいます。したがって、各チャンネルの画像はぜひ白黒のグレースケールで提示しましょう。
     

  9. 3重染色画像では最も有効な提示方法を
  10. 3重染色画像には、赤緑青の各色に加え、2色の重なり部分、3色の重なり部分の合計7色が混在することとなります。このような画像はカラフルで一見情報豊富ですが、色弱の人のみならず一般色覚型の人にも伝えられる情報はむしろ少なくなります。

    3重染色では、2つのチャンネルで示す分布関係が重要で、残りの1チャンネルは位置情報を示すためのみに使用されている場合があります。そのような場合は、重要な2チャンネルを「マゼンタ―緑」で提示し、もう1つのチャンネルを別にグレースケールで提示する方法もあります。

    発表者が伝えたいことを多くの人に正確に伝えられるよう、撮影に利用した色にこだわらず、最も有効な デジタル画像 作成方法を選択しましょう。
     
     


    参考資料:
    岡部正隆(2010)蛍光顕微鏡画像におけるカラーユニバーサルデザイン. 顕微鏡 45(3)184-189
    岡部正隆、伊藤啓(2005)医学生物学者向き 色盲の人にもわかるバリアフリープレゼンテーション法
    Masataka Okabe, Kei Ito(modified 2008)Color Universal Design(CUD)- How to make figures and presentations that are friendly to Colorblined people
    岡部正隆、伊藤啓(2002)色覚の多様性と色覚バリアフリーなプレゼンテーション 第3回すべての人に見見やすくするためには、どのように配慮すればよいか. 細胞工学21(9)1080-1104
     


第10回 プレゼンに有効な色の組み合わせを知ろう

国際学会でのプレゼンを成功させるには、聞き手を引きこむ英語スピーチに加え、見やすいスライド作りも重要な鍵となります。より多くの人に伝わりやすく・わかりやすい色覚 バリアフリー なスライドを作るために覚えておきたい「カラー ユニバーサル デザイン」について迫る連載シリーズです。


12色や24色のクレヨンや色鉛筆のセットのように、CUD(カラーユニバーサルデザイン)に配慮した色のセットがあれば・・・そのような要望に応えて、CUD推奨配色セットができました。印刷業界や塗装業界では、導入に向けてすでに動き始めています。
 

  1. 多くの色覚型に対応
  2. 色弱の人にも見やすいオレンジ色寄りの赤色はRGB3原色の表現で(R:255, G:40, B:0)の色であると第7回で紹介しました。色の見え方や感じ方には個人差があるため、このような明確な指定はとても便利です。そこで、CUDO (カラーユニバーサルデザイン機構)では、赤色のみならず全部で20色(代替色を含めて22色)の「CUD推奨配色セット」を公開しています。

    CUD推奨配色セット
    http://www.cudo.jp/resource/CUD_colorset

    伊藤啓氏(東京大学分子生物学研究所)によるCUD配色セットの詳細
    http://jfly.iam.u-tokyo.ac.jp/colorset/

    推奨配色それぞれの色は、印刷用のCMYK値、画面用のsRGB値、塗装用の参考マンセル値と用途別に数値化されており、実用に即しています。この 配色 セットは伊藤啓氏(東京大学分子生物学研究所)をはじめとするCUDOメンバーと印刷・塗装業界の企業が、さまざまな色覚特性の当事者の協力のもと作成したものです。

    伊藤氏によれば、色の選定にあたっては、人数の多い一般色覚型のC型に違和感がなく、次に人数の多いP、D型に見やすく、T型に不利益にならず、白内障の人の見やすさも確保するなど、多くの色覚型の間の利害を調整しながら行ったと報告されています。逆に言えば、すべての人に最も見分けやすいものでもなく、皆が少しずつ譲り合う考え方の上に成り立っています。
     

  3. 一般パソコンユーザーへの広がりに期待
  4. 推奨配色セットの20色であっても、組み合わせによっては見分けにくい場合があります。そこで、見分けやすい/見分けにくい組み合わせの一覧が上記の伊藤氏のサイトには紹介されています。このようにたいへん便利な推奨配色セットですが、今のところ使いこなしているのは、主にプロのデザイナーということになります。

    一般のパソコンユーザーで色に興味がある人は、推奨配色セットのなかから好きな色をパレットで作って(RGBで指定して)、「CUD赤」「CUD空色」「CUD紫」などと名付けて保存してもよいでしょう。今後もっと簡単に、既成の色パレットからこのようなユニバーサルカラーを選べる日がくることに期待します!
     
     


    参考資料:
    カラーユニバーサルデザイン機構(2009)『カラーユニバーサルデザイン』ハート出版
    東京大学 分子細胞生物学研究所 脳神経回路研究分野研究室ウェブサイト内 色覚の多様性に配慮した案内・サイン・図表等のカラーユニバーサルデザイン推奨配色セット(バリアフリーに配慮した見分けやすい色の組み合わせ)
    岡部正隆、伊藤啓(2005)医学生物学者向き 色盲の人にもわかるバリアフリープレゼンテーション法
    カラーユニバーサルデザイン機構(2013)『カラーユニバーサルデザイン推奨配色セット ガイドブック』
     


第9回 正しく情報が伝わるグラフ作成のコツ

国際学会でのプレゼンを成功させるには、聞き手を引きこむ英語スピーチに加え、見やすいスライド作りも重要な鍵となります。より多くの人に伝わりやすく・わかりやすい色覚 バリアフリー なスライドを作るために覚えておきたい「カラー ユニバーサル デザイン」について迫る連載シリーズです。


情報を一目瞭然に伝えるためのグラフも、色の使い方によっては逆にわかりにくいものとなります。ほんの少し工夫するだけで、多様な色覚の人に見やすくなりますので、次の2点を是非取り入れましょう!
 

  1. 折れ線グラフ – 線の種類を変えましょう
  2. Excelなどの表計算ソフトを用いれば、表の形で入力した統計データをクリックひとつで グラフ に変換できます。表9-1左に最もシンプルな例を紹介します。線の太さや色はデフォルトで決まっており、何も考えないうちにこのようなカラフルな折れ線グラフが出来上がります。これをVischeckというシミュレーションソフト(第17回で紹介)を用いてP型色覚のシミュレーションとして写してみると、表9-1右のようになります。黄緑とオレンジ、あるいは青・紫・水色の区別が難しいことがわかります。

    Figure9-1_Vischeck_グラフ

    図9-1 折れ線グラフ例①[左:Excelのテンプレートからプレーンな折れ線グラフを選択、右:P型色覚のシミュレーション(Vischeck使用)]

    そこで、表をグラフに変換する際に、プレーンな折れ線グラフではなく、「マーク付き折れ線グラフ」を選ぶと、図9-2のようになります。少し煩雑になりますが、こうすれば、すこし時間をかければ凡例と線を照合することができます。ワンクリックで差をつけるためには、是非この「マーク付き折れ線グラフ」を選びましょう!

    Figure9-2_Vischeck_Marker_グラフ

    図9-2 折れ線グラフ例②[左:Excelのテンプレートから「マーカー付き折れ線グラフ」を選択、右:P型色覚のシミュレーション(Vischeck使用)]

    マーク付き折れ線グラフは有効ですが、線数が多い場合は照合に時間がかかります。もう一手間加える余裕がある場合は、データ系列ごとの書式設定で、線の種類(実線/点線)を選びましょう。さらに、凡例との照合をしなくてもいいように、凡例をなくし、テキストボックスを使って系列名を線の近くに直接記載しましょう。このようにすると、図9-3左のようになります。図9-3右のP型色覚のシミュレーションの通り、色の区別がつきにくくてもグラフの情報が一見してわかるようになります。

    Figure9-3_Vischeck_Marker_Dot_グラフ

    図9-3 折れ線グラフ例③[左:Excelのテンプレートから「マーカー付き折れ線グラフ」を選択後、適宜加工を追加、右:P型色覚のシミュレーション(Vischeck使用)]

  3. 棒グラフ・円グラフ – 塗りつぶしに「地模様」を入れましょう
  4. 棒グラフ、円グラフについても同様に、色の情報をなるべく形の情報に置き換え、凡例は使わず、直接指し示すことがポイントです。図9-4にExcelのワンクリックで選べるプレーンな横棒グラフを示します。系列データごとに、書式設定の[塗りつぶし]のなかの[パターン]から斜線、ドットなどの地模様を選んで入れ、凡例をなくして直接指し示すと、多様な色覚の人々に見やすい棒グラフができます(図9-5)。地模様を入れることを「ハッチング」と言います。

    Figure9-4_Hatching_グラフ

    図9-4 棒グラフ例① Excelのテンプレートからプレーンな横棒グラフを選択

    Figure9-5_Hatching_グラフ

    図9-5 棒グラフ例② Excelのテンプレートからプレーンな横棒グラフを選択後に適宜加工

    円グラフについても、プレーンなタイプ(図9-6)を選択した上で、「書式設定」で系列データの境目にフチ取りの線を入れ、凡例をなくして直接指し示すと多様な色覚の人々に見やすい棒グラフができます(図9-7)

    Figure9-6_Plane_グラフ

    図9-6 円グラフ例① Excelのテンプレートからプレーンな円グラフを選択

    Figure9-7_Divided_グラフ

    図9-7 円グラフ例② Excelのテンプレートからプレーンな円グラフを選択後に適宜加工

  5. 白黒コピーに耐えられることを目安に!
  6. このようにほんの一手間加えることで、一般色覚型の人にとっても、より見やすい グラフ ができます。また、色にのみ頼らない表現をするということは、白黒コピーに耐えるということです。PowerPointのスライドを配布資料用に印刷して白黒コピーをしたら、カラー部分の意味がわからなくなったという経験はありませんか?

    ここに紹介したような手法でグラフを作成すれば、そのような問題が生じません。今回紹介したグラフ作成のコツを、プレゼンテーションのみならず論文作成にも生かしましょう。論文審査において有利ですし、より多くの読者に情報が正しく伝わります。白黒コピーに耐えることを目安として、ユニバーサルな学術発表をめざしましょう。
     
     


    参考資料:
    カラーユニバーサルデザイン機構(2009)『カラーユニバーサルデザイン』ハート出版
    岡部正隆、伊藤啓(2005)医学生物学者向き 色盲の人にもわかるバリアフリープレゼンテーション法
    岡部正隆、伊藤啓(2002)色覚の多様性と色覚バリアフリーなプレゼンテーション 第3回すべての人に見やすくするためには、どのように配慮すればよいか. 細胞工学21(9)1080-1104