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学術コミュニケーションの変遷からジャーナル編集部との付き合い方まで、あらゆる角度から学術界の“今”をお届けします。

研究者に有益なオンラインツールと活用のメリット

突然ですが、この記事を読まれている方で「科学者・研究者のためのフェイスブック」と言われるResearch Gateを使用されている方は、少なくないのではないでしょうか。インターネットの急速な発達に伴い、こうした研究活動に役立つといわれるオンラインツールが数多く登場し、インターネット上で利用することができます。用途ごとのツールとメリットを見ていきましょう。

■ 使いこなせば役に立つ

オンラインツールの最大のメリットといえば、やはり手軽さと拡散性でしょう。研究者は、他の研究者と気軽にコミュニケーションできるようになっただけでなく、論文の投稿や掲載情報の共有までできるようになりました。例えば前述のResearch Gate。研究者は研究内容やプレゼンテーションをここで共有することで、研究成果を多くの人に目にしてもらうことができます。オンラインツールを活用すれば、自身の研究成果に注目を集め、広く引用してもらい、結果として研究が高く評価されることにもつながるのです。

米国環境保護庁(EPA)傘下のNCCT(National Center for Computational Toxicology)に所属するアントニー・ウィリアムズらがF1000Research(生命科学分野のオープンアクセス・ジャーナル)に発表した記事によれば、多くの研究者がオンラインツールの利用価値を認識してはいるものの、活用できているのは、ほんの一握りであるとのことです。同時に、オンラインツールを使いこなすには時間と労力がかかるけれども、研究者がこれによって情報を共有し、人脈を作り、より多くの人に自分の研究内容を知ってもらうことは、研究者の業績や学術研究の発展に大いに役立つとも述べています。オンラインツールを活用する研究者の数は、今後も増え続けることが予想されます。

■ 論文の影響度の新たな測り方

研究者がオンラインツールを活用することで、投稿論文の影響度の測り方に、新たな指標が加わりました。従来は、研究論文の被引用回数から影響力を評価する「インパクト・ファクター(IF)」が主流でしたが、Altmetric(オルトメトリクス)など、論文のオンライン上での影響力を測る新しい指標が近年、登場してきたのです。

オルトメトリクスは被引用回数を反映するだけでなく、論文の閲覧数、ダウンロード数、フェイスブックやツイッターなどのソーシャルメディアや報道機関でのコメント数など、論文が持つ影響力をさまざまな面から反映させる新しい評価手法です。特にAltmetric.comが提供するスコアが有名で、さまざまな学術ジャーナルで採用されています。

このような総合的な指標の最大の利点は、所属機関や助成団体などが研究者の個人の業績を評価する際、論文を掲載したジャーナルの影響度とは別の判断材料として利用できるという点です。評価結果は、研究者のキャリアに直接影響しますし、新しい共同研究の機会や研究助成金の確保、ひいては新しい学術的発見にまでつながる重要なものなのです。

■ 研究内容の影響を最大化するオンラインツール

ウィリアムズらは、オンラインツールの利用目的を4つに分類しています。これはメリットにもそのまま置き換えられます。複数のツールを紹介していますので、用途に沿って、最適なものを使われてみてはいかがでしょうか。

・ネットワーク構築
学術界で最も活用されているネットワーキングツールにLinkedInがあげられます。プライベートの情報は共有せず、あくまで仕事に関連する情報のみを共有するこのプラットフォームは、研究内容や最近の研究活動、興味のあるトピックなどを投稿するのに適しています。最新の発表へのリンクを掲載したり、PowerPointやPDFなどのファイルをアップロードしたりすることもできます。画像も付けて投稿すると、閲覧者からの反応がよくなります(「いいね!」をもらいやすくなります)。同様に、Research GateやAcademiaも優れたネットワーキングツールで、技術的な内容を質問・投稿し、閲覧者から回答を得るのに適切なプラットフォームといえます。

ただし、これらのプラットフォームに出版済みの論文や資料をアップするには、著作元の許可が必要なので注意が必要です。

・研究関連情報の共有
情報共有ができるプラットフォームはたくさんありますが、やはり最も利用者数が多いものといえば、FacebookInstagramでしょう。しかし、これらはプライベートで利用されることが多いので、ブログやTwitterGoogle Plusのほうが研究関連情報の共有には適しているといえます。プレゼンテーション資料を共有できるプラットフォームのSlideShareは、研究発表のスライドを公開するのに優れています。動画を共有したい場合にはYouTubeVimeoWeiboがおすすめです。これらの他にもデータを共有するためのMendeley DataFigshare、化学分子データベースのPubChem、主に物理や数学分野の論文投稿サイトのarXivなどさまざまなオンラインプラットフォームが多数存在しています。

・影響度のトラッキング
影響度をトラック(計測)する新たな指標としては、先述のオルトメトリクスがあります。ブログへの引用数やリツイート数などを収集し、独自のアルゴリズムによって、論文に対するネット上での反響を示すものです。よく使われているものには、Altmetricスコアの他、ImpactStoryPlumXなどがあります。ORCID(Open Researcher and Contributor:ID<科学者や論文著者に識別するためのIDを付ける取り組み>)やGoogle Scholar(Googleの提供する学術用途の検索サービス)が、論文発表の有効性や引用数を見るために利用されることもあります。

・影響度の向上
影響度、つまり研究論文のインパクトを上げるために有益な著者支援ツールとして、Kudosというプラットフォームが注目されています。これは、投稿した研究論文をより多くの人に利用(引用)されやすくするのを支援するツールです。Kudosのオンラインプラットフォーム上に自身の論文を掲載することで幅広い読者にもわかりやすい言葉で論文の要約や説明を編集することが可能になるほか、論文の閲覧数やダウンロード数、引用の回数やオルトメトリクスの指標を確認できるようになります。公開した論文の影響度を向上させるのに何が有効かを分析することができる優れものです。

■ デジタルツール普及の流れは止まらない

以上のように、研究内容の発表方法は、ここ数年で著しく変化してきています。課題はあるものの、研究活動におけるオンラインツールを使ったコミュニケーションや研究データの共有は拡大し続けることでしょう。もはや抗えない流れになってきている以上、これに乗り遅れないようツールの活用についてアンテナを張り巡らせておいてはいかがでしょうか。

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論文の盗用・剽窃を避けるコツ-後編

本記事の前編で、盗用・剽窃の定義や、他人の文献を引用する際のコツをご紹介しました。しかし、研究者が注意しなければならない盗用・剽窃は、単なる文字のコピーに限りません。後編では、盗用・剽窃と捉えられかねない、直接引用と間接引用、パッチライティングについて見てみます。

■ これも盗用・剽窃?-直接引用と間接引用

他人の文章を、それが他人の文章であることを示すことなく書き写すことさえしなければ問題にならないと思いがちですが、盗用・剽窃とは「テキスト」のコピーだけではありません。他人の発想や考え方、データをコピーすることも含まれます。そもそも文章とは発想や考えをまとめたものであるため、その「考え」自体を真似たり、それを記した文章を適切に引用することなく自分の文章に書き写したりすることは、許されません。

では文章や「考え」を引用するにあたって取るべき適切な対応とは、どのようなものでしょうか。引用の仕方である「直接引用」と「間接引用」のそれぞれで見てみましょう。

直接引用

直接引用とは、他人の文章を自分の論文中に、該当文章が引用であることが明確になるように引用符を付けて「原文どおりに」再現することです。引用により定義付けをしたり、明確化させたり、あるいは主張を裏付けたりする場合に有効です。

以下の例文のカッコの中の文章が、他人の文章から引用した部分です。

象は、地上で一番大きな哺乳類で、体重は8トンぐらいあります。象は、「巨大な体と、大きな耳と、長い鼻を持っていて、その鼻で、手のように物を掴んだり、ホルンのように警笛を鳴らしたり、腕のように上げて挨拶をしたり、ホースにして水を飲んだり、シャワーを浴びたりします。」(出典:https://www.worldwildlife.org/species/elephant

この引用部分は、象の外見を言葉で説明したものです。視覚的イメージを維持したまま書き換えるのは困難なので、カッコを付けて示すとともに、出典を書き添えることによって、外部からの引用であることを明確にしています。英文の場合はカッコの代わりに引用符(“”)を使って外部からの引用であることを示します。

間接引用

間接引用(言葉の書き換え)とは、他人が書いた文章を自分の言葉に書き換えて記述することです。言葉を置き換えるのだから盗用・剽窃にはあたらないと考えがちですが、直接引用と同様に、書き換えた場合も出典元を明示しなければなりません。また、元の文章の意味するところ、基本的な考え方を変えないように注意する必要があります。

例えば、以下のような表現です。

象は、地上で一番大きな哺乳類で、体重は8トンぐらいあります。その大きくて、ひらひらした耳は、体を冷やしたり、虫をよけたりするのに役立ちます。頭から地面まで伸びた長い鼻は、道具として使われるほか、水を飲んだり、シャワーを浴びたりするのに使われます。(参照:https://www.worldwildlife.org/species/elephant

ここでは、情報が別の言葉に書き換えられていますが、2つの例文を比較すると直接引用の文のほうが、象の描写がより明確に表現されていることがわかります。

これらの引用方法は一長一短です。直接引用は、考えを説明したり、明確にしたりするのに有効ですが、頻出すると、文章の独自性が薄れてしまいます。一方の間接引用は便利ですが、うまく書き換えなければ明確に内容を伝えることができません。間接引用をする際には、引用文の背景にあるメッセージをしっかりつかみ、引用文を参照せずに書き換え文を作ってみて、元文と書き換えた文の意味が同じ内容となっているか読み比べてみる――という手順を経ることで、よりわかりやすい文章となり、盗用・剽窃を防ぐことができるようになるでしょう。

ただし、他者の文章を自分の言葉で言い換える間接引用であっても、きちんと自分の言葉で言い換えられていなければ盗用・剽窃となります。よって、直接引用した場合にはカッコ(「」)または引用符(“”)でくくる、間接引用の場合でも注釈を付けるなどして出典を示すように注意する必要があります。

■ パッチライティング(つなぎ合わせ)もNG

では文章を組み立て直して「間接引用」になっていれば、他者の文章をつなぎ合わせてもよいのでしょうか?例えば、文芸作家が複数の作家の作品をつぎはぎにして「新作」として発表したら、それは「盗作」であり、剽窃行為と見なされます。語句を並び替えたり、別の言葉で置き換えたりしたとしても引用元の文と似すぎているものを「パッチライティング(はめ込み)」と言います。これはれっきとした盗用・剽窃にあたります。内容を十分理解せずに言い換えた場合、どうしても引用元の文章との類似性が高くなってしまいます。他者の文章を類似語に置き換えただけではダメなのです。

特に近年は、インターネットが普及し、情報の入手が簡単になりました。複数のサイトからテキストを「コピペ」し、不要な情報を取り除いて自分の言葉を付け加えるだけでは、パッチライティングとなってしまいます。例文で見てみましょう。

その皮膚の厚い動物は、地上で一番大きな哺乳類です。体重は200キロから8トンぐらいあります。とても大きな体と、大きな耳と、長い鼻を持っており、その鼻で物を拾ったり、警笛を鳴らしたり、挨拶をしたり、水を飲んだり、水浴びをしたりします。

前述の直接引用や間接引用とは表現を変えていますが、内容はほぼ元文のままですので、この文章にも引用を付けるべきです。間接引用をする時の注意と重複しますが、ただ言葉を類似語に置き換えるだけでは盗用・剽窃ととられることを免れません。言葉にとらわれず、元の文章の背景にある「考え」を書き表すことでのみ、盗用・剽窃の落とし穴に陥るのを避けることができます。

■ 盗用・剽窃は身を滅ぼす

2回にわたり、盗用・剽窃には、意図的なもの/意図的ではないもの、直接引用/間接引用、パッチライティングなどさまざまな落とし穴があることを紹介しました。盗用・剽窃は、重大な学術的倫理違反です。掲載論文の撤回から研究助成金の削減まで、さまざまな措置がとられ、研究者としてのキャリアに影響を及ぼす可能性もあります。研究を続ける上で必要な助成金を獲得するために論文を発表しても、不正が指摘されればすべて台無しになってしまうのです。

論文の執筆では研究知見を裏付けるために、たくさんの参考文献を用いる必要があるため、学術雑誌は、推奨するスタイルガイドに準拠した引用や参考文献の書き方を示したガイドラインを提供しています。こうしたものを参照して正しい引用の仕方を身に付けるとともに、盗用・剽窃をチェックするツールを使うなどして、間違いを犯すことのないよう努める必要があるのです。

 


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論文の盗用・剽窃を避けるコツ-前編

研究論文を書く時、文献を集め、自説を裏付けるエビデンスを揃えるのに苦心される方が多いのではないでしょうか。既存の考えや価値観を参考にしつつ、的確な所見を加えることは大切ですが、その時、盗用や剽窃(ひょうせつ)の間違いを犯さないように注意しなければなりません。

盗用・剽窃とは、他人の文章や考え方を許可なく使用あるいは部分的に使用し、自分のものとして発表することです。意図的かどうかを問わず、適切な手続きを取らずに引用されたことをいい、自分自身の過去の論文等の利用も含みます。盗用・剽窃は、学術的かつ倫理的に重大なルール違反です。発覚すれば、論文の撤回や執筆者の信用失墜を招きかねません。

近年の学術出版界では、この盗用・剽窃が大きな問題となっており、盗用・剽窃が原因で論文が撤回されることが多くなっています。論文の投稿・発表に際して思わぬ問題を起こさないために、研究者は盗用・剽窃について、よく理解しておかなければなりません。

■ 故意でなくとも…… 

国によっては、言葉の出所や考えのもとになった事実について、出典を明示することにこだわらないところもあります。しかし、学術界の世界的な倫理規範においては、適切な参考文献の表示は大前提です。すべての研究者は、この規範を順守しなければなりません。にも関わらず、盗用・剽窃が多数発生しているのはなぜなのでしょう。理由は「意図せぬ」盗用・剽窃です。特に、英語を母国語としない研究者が注意しなければいけないことがあります。自身の研究成果を英語で書き記す際、うまく表現できないと、ついつい参照論文の通りに書いてしまいがちではないでしょうか。剽窃の意図がなくとも、他の研究者が書いた文章をそのままコピーすれば剽窃にあたります。論文をチェックする編集者は、文法的に間違いの多い論文の中に、部分的に完璧な文章があると、それは剽窃である可能性が高いと見抜きます。

言語のハンディとは別の落とし穴もあります。IT技術の進歩により、情報入手が手軽になったことがあげられます。デジタル時代の今日、研究者はインターネット上で、他者の資料やデータを簡単に閲覧できるようになりました。オープンアクセスのプラットフォームをのぞけば、多種多様な研究論文にアクセスすることも可能です。これにより、デジタル化された文書から文章やデータをコピーすることが容易になり、検索した結果を「つい」借用することにつながりがちなのです。これも盗用・剽窃に当たります。

執筆した文章が「偶然」同じ表現となるような、偶発的な盗用・剽窃であったとしても、それが意図的でないことを証明することは困難です。研究者は疑いがかからないよう、初めから自衛手段を講じなければなりません。ここでは前後編にまたいで、いくつかの有効な手段と事例を紹介します。

■ 盗用・剽窃対策5つのポイント 

1 間接引用する

・参照文献を逐語的に引用せず、自分の言葉に置き換える。
・自分の言葉に言い換えるために、参照文献の内容を十分理解することが大切。
・参照文献の文章を部分的に切り抜き、それをつなぎ合わせるのも剽窃になるので、注意すること。

2 直接引用には引用符を

他者の論文から文章をそのまま使う時は、引用符を付けて引用すること。引用符の中の文章は、一言一句、元の文章そのままにする必要がある。

3 引用のルールを知る

・他者の論文から抽出したすべての言葉や発想は「引用」扱いとし、出典を明示する。
・過去に自分が書いた論文の一部を転載する際であっても「引用」扱いとすること。引用することなしに自分の過去の論文や資料を利用することを、自己剽窃と言う。
・自分自身が実験を行って得られた科学的エビデンスは、引用不要。
・事実や常識は引用不要。確定できない場合には参照を付けること。

4 引用元の記録を付けておく

・エンドノート(EndNote)やリファレンス・マネージャー(Reference Manager)などの引用ソフトを使用して、参照した文献の記録を残すこと。
・裏付けには複数の参照文献を付けること。例えば、書評を見るだけではなく、個々の論文を参照し、引用すること。

5 盗用・剽窃チェックツールを利用

iThenticateeTBLASTなどの盗用・剽窃チェックツール、または英文校正会社が提供する盗用・剽窃チェックサービスを利用する。広汎な文献を参照して、意図せぬ盗用・剽窃がないかを数分で知らせてくれるツール・サービスを論文提出前に利用する。

 

注意事項:ほとんどの剽窃は、論文の書評から文章を引き抜いています。自ら論文を記す時、他者の論文を参照する際には、書評だけでなく論文の全体を注意深く読み、文脈を理解し、自分の言葉で表現しなければなりません。そして、参照したら引用を忘れずに示すことが大切です。

上に記した対策は、あくまで文章の盗用・剽窃対策についてのものです。文章ではなく他者の研究結果を盗用することは、もってのほかです。

次回は、パッチライティングや、直接引用・間接引用について、さらに深く考えてみます。

 


参考:
THE WRITER’S HANDBOOK:Successful vs. unsuccessful paraphrases (英語リンク


#157_CrowdPeerReview

オンライン査読システムが査読を変える?

ドイツのシュツットガルトに本社を置く医学・薬学・化学関連学術出版社のThieme社。彼らは化学誌Synlettの中で、査読のプロセスを早め、公平性を向上させるための「新しい査読システム」の試験運用で、好結果が得られたことを公表しました。Synlettの編集長Benjamin List氏(マックス・プランク石炭研究所)と彼の研究生Denis Höflerは、この新しい方法を「インテリジェント・クラウド」査読システムと名付けています。研究論文の査読をオンライン上で行えるようにするという試みが始まっているのです。

■ 査読を速く、より信頼できるものに

2016年にSynlettが行った新システムの試験運用では、編集委員会からの推薦と自主的に参加する研究者から100人のレビュアーが選ばれ、全員が数日間で、提出された論文にオンライン上でコメントしたり、他のレビュアーのコメントに返答したりして議論を行いました。すべてのコメントは匿名で記されるため、レビュアーによるバイアスのない率直な意見や必要な批評が提出されることにより、編集者がより速く、より公正な判断を下すことができるようになったとのことです。

List氏は従来の査読システムについて、一つの論文あたりの査読者の数が2・3人に限定され、かつ時間がかかるという問題点を指摘しています。これらへの不満が、今回の新しいシステムのアイデアを生み出すことになりました。多数の査読者がオンライン上で短期間に論文にアクセスし、匿名でコメントすることで、査読をスピーディーかつ、より信頼性の高いものにすることが期待されています。

■ 今の査読システムは限界?

そもそも従来の査読には複数のタイプがあり、学術誌によって採用しているシステムが異なります。まず大きく分けて、主として学術誌の編集者が投稿論文の査読を行うエディトリアルレビューと、選ばれたレビュアーが査読を行うピアレビューがあります。さらにピアレビューには、論文著者に査読者が誰かを知らされないブラインドレビュー(盲査読)、査読者にも著者が誰だか知らされない、つまり著者と査読者の双方がお互い誰だかわからないダブルブラインドレビュー(二重盲査読)、著者と査読者の双方がお互いの名前をわかっているオープンレビューの3つがあります。いずれの場合も、増加し続ける投稿論文数への対応や、査読におけるバイアス問題、査読者の不足、詐称査読、研究不正への対応などの問題を抱え、査読システム自体が限界を迎えているとの意見すら出てきています。

学術論文の出版後に研究仲間がオンライン上で論文の内容を査読する「出版後査読」という方法もありますが、この場合は論文が公開されているので、どんな読者でも匿名でコメントを発せるため、批判的あるいは不適切なコメントを除外することはできません。その点、インテリジェント・クラウド査読システムは公開前に行われるレビューであり、かつ編集者がレビュアーを把握しているため、無意味なコメントをあらかじめ除外できるというメリットがあります。

■ どうなる査読の未来

今回の試験運用では10本の論文を取り上げ、そのうち9本が実際に出版されました。Synlettの編集チームは試験運用の結果を前向きに捉えており、レビュアーも著者も、その結果に満足しているそうです。今後、Synlettは取り扱うすべての論文に新しいクラウド査読システムを取り入れるだけでなく、助成金申請のように査読が必要な他のプロセスにも取り入れていくことを考えています。

List氏は、クラウド査読システムが機能することは明白になったので、今後も実験を重ねて高機能な オンライン査読システム を維持・管理すると共に、目新しさが薄れた後もどうやって査読者を確保し続けるかといった課題にも対処していく、と述べています。

この査読システムが果たして、実際に査読者の負担を軽減し、査読の質を保証できるのか。学術出版会に一石を投じることとなるでしょう。

 


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#152_social

ソーシャル・メディアは学術活動に役立つか?

ソーシャル・メディアの利用者は、スマートフォンの普及に伴い、爆発的に拡大しました。一般的には、LINEやTwitter、Facebook、Instagramなどを友人とのコミュニケーションに利用するケースが多いですが、より専門的な分野で利用できる便利なツールも増えています。学術分野のコミュニケーションでも、ソーシャル・メディアが欠かせなくなってきているのです。

■ 活用する研究者は増えている

BioMed Centralに2017年6月15日に掲載された、学術関係者のソーシャル・メディアの活用に関する調査について書かれた記事によると(調査は同年2月にSpringer Natureが実施。本調査は2014年にNatureが行ったものにさかのぼる)、回答者の95%が何らかのソーシャル・メディアを活用しており、最も普及しているプラットフォームはResearchGate(71%)で、そこにGoogle Scholar(66%)が続いていました。

2014年の調査では、最も選ばれていたのがResearchGateとAcademia.eduで、これらのプラットフォームの利用目的がプロファイルの更新だった(68%)のに対し、今回の調査では4分の3以上が「コンテンツ探し/閲読」と回答しています(前回調査では33%)。また、今回の調査ではソーシャル・メディアの利用目的として57%が「自己支援」か「研究促進」を挙げており、活用する研究者が増えていることが伺えます。

■ 多様な研究特化メディア

ソーシャル・メディアは情報収集や関心を集めるために有効な手段であると認識する向きが多いにも関わらず、中には倦厭(けんえん)される方もいます。その理由は「時間の無駄」と考えるからでしょう。テキストだけでなく写真や動画のアップロード、多様なプラットフォームの使い分け、さらには他者の発信内容のチェックなど、活用しようと思えば時間と労力を割く必要があります。重要なのは、自分にとって有効なソーシャル・メディアを見極めることです。前述の調査で名前が挙げられたプラットフォームのように、一般的なコミュニケーション・ツールとして使われているTwitter、Facebook、YouTubeなどとは用途や閲覧者層が異なる学術研究に特化したプラットフォームが登場し、研究成果の発信や他の研究者とのつながりを作るのに役立っています。いくつか例を挙げます。

LinkedIn
ビジネス特化型ソーシャル・ネットワーキング・サービス。自分のプロフィールを掲載することで自身と研究をアピールするとともに、研究内容や論文を特定のグループなどで共有、公表することができる。個人のブログ、論文記事、ウェブサイトなどへのリンクも掲載可能。人脈の構築や仕事探しに活用する人が多い。

ResearchGate
科学者・研究者向けのFacebookと呼ばれる。研究についての共有や情報交換が可能。他の研究者をフォローして、最新の研究成果を確認できる。プロフィール画面では論文リストを作成でき、論文の被引用回数も表示される。ResearchGate内で論文が何回クリックされたか、論文をアップロードした際には何回ダウンロードされたのかも把握可能。

Academia.edu
研究者の情報交換に特化したソーシャル・メディア。研究論文や講演などの情報を登録し、共有することができる。登録者数は5000万人を越え(2017年10月)、研究者は、自分の論文や著書・発表資料などをアップロードした後、論文がどのくらい読まれたかを分析できる。投稿前の論文や掲載済みの論文をアップロードすると、内容について閲読者からコメントがもらえるという機能がある。

researchmap
日本の科学技術振興機構知識基盤情報部が提供している研究者向けのプラットフォーム。国内で研究活動を行っている研究者および海外で研究活動を行っている日本人研究者を対象としており、平成27年4月時点で、3,383の研究機関、240,445名の研究者の情報が収録されている。日本語で問い合わせられる窓口やQ&Aがあるのは、海外プラットフォームにはない強み。

他にも、コミュニケーションより論文管理に重点を置いたプラットフォームもあります。

Google Scholar
Googleが提供する学術論文の検索プラットフォーム。検索だけでなく、論文の被引用回数の表示や、他の論文管理ソフトと連携して、参考文献として利用したいタイトルなどのコピー&ペーストや論文のエクスポートが可能。スマートフォンやタブレット端末でも操作可能。

ORCID(Open Research and Contributor Identifier)
研究者に固有のID(デジタルオブジェクト識別子)を付与することで、その研究者の成果を一貫して管理できるようにするプラットフォーム。世界中の研究者が登録しており、ORCIDのIDを持っていることが助成金申請の条件とされるケースが増えている。

Mendeley
学術論文の管理とオンライン上での情報共有を目的とした文献管理ツール。論文管理のほか論文閲覧ソフトとしても利用できるので、自身の論文の影響力を見るだけでなく、話題になっている他者の研究も探すことができる。共同研究者同士が執筆中の論文を校閲する場としても活用可能。自分の興味のあるグループ(人脈)とのネットワークを作るのにも役立つ。

これらのリストおよび機能は一例に過ぎません。学術活動をサポートするプラットフォームの選択肢は今も増えています。自身の研究分野や使いやすさなどを考慮し、最も有効だと考えられるソーシャル・メディアを選んではいかがでしょうか。

■ 可能性は無限!ただし……

ソーシャル・メディアを継続的に利用するなら、毎日5分でもログインし、興味を惹かれた投稿へのコメントや、自身も情報を発信することを日々の作業に取り込んでしまうのが得策です。自分の専門分野のキーパーソンや団体・機関をフォローしていれば新しい情報を入手できますし、査読のような正式な手続きを踏まずとも、自身の研究について、他の研究者からフィードバックを得ることもできます。また自分の研究についての情報を発信して、活動の宣伝をすることも。反響があれば論文評価指標「オルトメトリクス(Altmetrics)」にも有利に働きます。影響力のある発信をするための、ちょっとしたコツを紹介します。

・テキストは簡潔かつキャッチーに。画像や動画を付ければ視覚的なインパクトを与えられます。
・適切なハッシュタグ(#)付け。同分野に関心を持つ研究者とのネットワーク構築にもつながります。
・掲載するプロフィールに、自身のホームページや研究室のリンクを付ける。

研究室にいながら世界の最新情報を入手し、コミュニケーションまでできるのであれば、ソーシャル・メディアを活用するのも悪くありません。ただし、一度公開した場合、その情報を完全に消去することはできない、という特徴があることも忘れてはなりません。投稿内容に事実誤認はないか、数字は正確か、他者を傷つける表現は含まれていないか……。手軽で便利ゆえ、各自が責任を持って運営していくことが肝心です。

 


こんな記事もどうぞ:
エナゴ学術アカデミー エディターズ・アイ
いま話題の新しい論文評価指標「オルトメトリクス(Altmetrics)」

参考記事:
Harvard Business Review: How Academics and Researchers Can Get More Out of Social Media 
Run Run Shaw Library: Maximising the visibility of your research 
QUT Library Subject Guides: Social media and research impact
authors: Tips for Using Social Media to Promote Your Research


Citation_Metrics

研究論文の影響を評価する:引用数指標 – Citation Metrics

毎年、多数の研究が査読付きジャーナルで発表されており、その数は年々増加する一方です。従って、発表された論文が他の研究者に 引用 されることは、論文の著者にとって自分の研究の影響力を上げるためにとても重要になります。

引用数指標(Citation Metrics)は、出版された研究論文の影響力、品質、重要性を定量的に測定するための評価基準です。このような評価基準のほとんどはジャーナルの引用数によって算出されており、著者あるいは論文の功績を評価するものではありません。出版された研究成果の質や被引用数に影響を与える要素は多数存在しています。あくまでも引用数指標は、論文ごとの平均被引用数に基づいて、定められたパラメータを使って算出されたものであると理解しておくべきでしょう。

しかし、こういった引用数指標は、学術界における特定のジャーナルの読者数と人気を暗示していると考えられています。このことから、引用数を測ることはジャーナル、学術団体、ひいては研究者個人にとっても重要な評価尺度となるのです。学術界で一般的に使われている引用数指標を、下の図で簡単に示します。
 
引用
 


関連情報:いま話題の新しい論文評価指標「オルトメトリクス(Altmetrics)」
https://www.enago.jp/academy/altmetrics/
 
 


オーサーシップが論文撤回を引き起こす?

オーサーシップが論文撤回を引き起こす?-倫理規定遵守の重要性

論文を執筆し、発表することは研究者のキャリアにとって重要です。研究者としての業績は、学術論文の内容(質)と発表数(量)に左右されると言っても過言ではありません。同時に、著者および編集者が論文執筆や出版における倫理規範を守ることも大切です。

近年、急激なITやインターネットの普及によって、過去にはあり得なかった不正や倫理違反がはびこるようになってきました。論文出版における不正にはいろいろありますが、大きくは①研究捏造(図の不正操作も含む)、②剽窃(他社の論文のアイデアやデータなどの無許可掲載)、③利益相反(経済的な利益享受や客観性が損なわれる懸念)、④オーサーシップ(著者の責任と記載に関する問題)、⑤重複出版、⑥サラミ法(論文の不当な分割投稿、スライス)に分類されます。この中でも④オーサーシップが出版倫理における問題であることは、見過されがちではないでしょうか。

 不正行為と見なされる「オーサーシップ」とは

どのような場合に、「オーサーシップ(著者)」が出版倫理上の不正行為と見なされるのか疑問に思われるかもしれません。その理由は、研究論文には著者名と共著者名を明記することで研究の責任の所在を明確にする必要があり、この記載を意図的に偽ったり編集したり(故意の削除や追加)することが不正行為、つまり倫理違反ととられるからです。

論文における著者とは、論文を組み立て、データの取得・分析・解釈など研究に関する一連の作業を実施・監督し、ジャーナルへの投稿を行う研究者のことです。また、共著者とは、知的あるいは技術的な補佐作業、論文の見直しなどに貢献した研究者のことです。研究において役割と責任を課せられた研究者は論文に名前が記載されるべきですが、逆に記載すべき著者を外したり、何らかの「見返り」を期待して研究自体に関与または実質的な貢献をしていない研究者を著者として記載したりすることは不正に該当します。

学術論文の執筆には、発表論文の責任者であるPI(primary investigator)を筆頭に、大学院生・学生、技術担当者など多くの研究者が携わります。研究論文には、すべての著者と貢献した研究者の名前を明記しなければなりません。先に述べたように、個々の研究者の業績を大きく見せようとして著者名を故意に除いたり、反対に実際の研究に関わっていない研究者を著者リストに付け加えたりすることは不正です。

また、原稿に著者名を掲載する順番も重要です。最初に記載する著者は筆頭著者と呼ばれ、実験あるいは重要なデータ取得において中心的な役割を担った研究者になります。そして筆頭著者と共に研究を概念化し、成果の発見に貢献した研究者であるPIが最後に記載されるのが一般的です。最初と最後は比較的すぐに決まるものの、共著者の掲載順は混乱の原因であり、論文提出における倫理的問題に発展することもあるのです。

 著者の責務と著者名の表記方法

論文著者として記載できる研究者の責務(著者資格)および著者リストの表記方法については、医学雑誌編集者国際委員会(International Committee of Medical Journal Editors: ICMJE)がガイドラインを作成しており、ICMJEに登録している学術ジャーナルに論文を投稿する際には、これに準じていることが求められます。著者資格は以下の3つの基準をすべて満たす者と指定されています。
・論文の構想と企画、データ取得、データ分析、データ解釈において相当の貢献を行っている
・論文執筆または重要な知的内容に関する批判的な改訂(校閲)を行っている
・出版用の原稿の最終承認を行っている

研究の正確性および信頼性を明確にするため、著者はそれぞれに割り振られた業務に責任を持つ必要がありますが、共著者の貢献度や責任のレベルに差がある点は考慮されます。とはいえ、ガイドラインに違反した場合には役割と責任が何であれ、倫理に反するとして、大学などによる不正調査の対象にされる可能性があります。実際、著者に関するガイドラインを遵守していなかったという理由で出版された論文が撤回されたこともあるのです。

ここで著者とは区別される研究貢献者についても記しておきます。研究貢献者とは、①知識的な貢献(アイデア、文章作成)、②実質的な貢献(研究の実施、データ分析)、③資金的な貢献(ファンド、実験材料の提供)をする人とされています。ICMJEによる著者資格を満たさない関係研究者はすべて研究貢献者となるので、技術協力者や学生など実験準備のみに関わったような場合には、研究貢献者として「謝辞」の項に、その役割および貢献について記載されることになります。

 問題があると感じたら……

オーサーシップについて疑問がある、掲載された著者リストに同意できない、研究に貢献したにも関わらず論文著者から削除された――というような場合には、各自が所属する研究機関に相談するべきでしょう。著者や貢献者の記載についてわからなくなった場合や、筆頭著者の資格についてもっと知りたいという場合には、ジャーナルの編集チームに相談するのもよいと考えられます。ジャーナル編集者からは的確なアドバイスが得られるでしょうし、著者に関する問題が報告された場合には、編集長が問題解決に乗り出してくれることもあります。論文著者が倫理規範を守るのと同様に、編集者や査読者にも倫理違反に正しく対処することが求められているのです。

■ 違反撲滅のために

倫理違反は、研究者自身のキャリアや業績に傷を付けるだけでなく、研究そのもの、あるいは科学的見識にも悪影響を及ぼしかねません。この問題に対処するにあたり、ほとんどのジャーナルおよび出版社は出版規範委員会(Committee on Publication Ethics: COPE)*1に準じた調査を行います。日本では日本医学雑誌編集者会議 (Japanese Association of Medical Journal Editors: JAMJE)*2が、編集方針における基本的な倫理ガイドラインとして『医学雑誌編集ガイドライン』をまとめ、論文著者と編集者の権利と責任および遵守すべき倫理規範を明確にしています。

JAMJEガイドラインの目的
・医学雑誌編集者の責任と権利を定める
・医学雑誌の質向上のための編集者の役割を明確にする
・医学雑誌編集者のマニュアルとして利用できる内容とする

現時点では2015年3月に更新されたものが最新ですが、JAMJAは状況に応じて更新していくとしています。

経験豊かな研究者や査読者にとって基本的かつ常識的な内容を記したガイドラインは「釈迦に説法」かもしれませんが、学生や若手研究者にとって、論文の執筆・出版の際の研究倫理規範を理解し、違反することなくキャリアを重ねていくためには、このようなガイドラインの持つ意味は大きく、研究不正が多様化する現在では、その必要性が増していくことでしょう。


脚注:

*1 出版規範委員会(Committee on Publication Ethics: COPE)
出版規範委員会(COPE)は出版倫理に関わる問題について協議・勧告を行う団体。1997年に英国で医学系学術雑誌が出版規範の問題を検討する出版規範委員会が立ち上げられたのが始まり。現在では、1万名を超える学術ジャーナルの編集者(エディター)などの出版関係者が会員として登録している。2013年に「論文査読者のための倫理ガイドライン」を公開した。

*2 日本医学雑誌編集者会議(Japanese Association of Medical Journal Editors:JAMJE)
日本医学雑誌編集者会議(JAMJE)は、日本医学会分科会が発行する機関誌の編集者により構成される組織であり、平成20年8月1日に開催された設立総会において日本医学会の事業として発足した。1)医学雑誌と編集者の自由と権利の擁護、2)医学雑誌の質の向上への寄与、3)著者と医学雑誌・編集者の倫理規範の策定、4)海外の編集者会議との連携の4つを目的に活動を行っている。

参考
Enago academy掲載の英文はこちら:Authorship and Contributorship in Scientific Publications 


オープンアクセス急拡大中―今後の動きは!?

ほんの十数年前まで、学術研究論文の出版は紙媒体が主で、デジタル化されたコンテンツを読むことなど想像すらできませんでした。しかし、近年のICT(情報通信技術)の急激な進歩により、私たちは世界のどこからでも学術情報を入手することが可能となり、それに伴って、学術論文のオープンアクセス化も急速に進んできました。

■ 16年で世界に波及

オープンアクセス化とは、公開された学術研究論文をインターネット上で誰でも自由に、無料で閲覧できるようにすることです。オープンアクセスに向けた動きは、2001年にハンガリーで本格化しました。社会正義・教育・公衆衛生・メディアの独立を国際的に助成する組織であるオープン・ソサエティ財団(Open Society Foundations: OSF)が、ハンガリーで主催した会議でブダペスト・オープンアクセス・イニシアティヴ(Budapest Open Access Initiative: BOAI)を採択し、翌年にBOAIを文書化して公開したのです。これによりオープンアクセスの定義と方向性が示され、世界各国で拡大することとなりました。

ICT技術の進歩と利用者側の利便性向上とは別に、印刷費・運送費が増加して学術雑誌の価格も高騰するという出版業界側の事情もオープンアクセスの流れを加速させました。
学術界は基本的に、研究成果をオープンアクセス化することを推奨しています。学会や学術誌によってはオープンアクセスを義務化しているケースも見られるほどです。研究者は学会や所属する研究機関、投稿する学術誌の方針に従いつつオープンアクセスを検討し、適切な手段を選択することになります。オープンアクセス化によって情報伝達のスピードが格段に速くなり、世界中で研究成果の公開性が高まり、利便性も確実に向上しているのです。

■ 中南米でも新たな動き

世界中で拡大中と言いつつ、ネット環境に大きく依存するという性質上、発展途上の国におけるオープンアクセスはあまり進んでいないと思われがちです。しかしブラジルではBOAIの前から、研究成果を共有する方法を模索していました。1997年にはScientific Electronic Library Online(SciELO)が学術出版をウェブ上で連携させるプロジェクトを発足させ、学術誌の可視化に力を入れてきました。この動きにチリのNational Commission for Scientific and Technological Research (CONICYT)が追随し、さらに中南米の主要な国々に拡大したのです。

2012年11月には、中南米9か国(アルゼンチン、ブラジル、チリ、コロンビア、エクアドル、エルサルバドル、メキシコ、ペルー、ベネズエラ)がブエノスアイレスに集まり、中南米における学術研究成果のオープンアクセス化をめざすネットワーク組織LA Referenciaを正式に結成することで合意しました。LA Referenciaには今や、140万件以上の記事や学位論文などのデータが収録されています。

さらに、オープンアクセスジャーナルの包括的なデータベースを構築しているDirectory of Open Access Journals(DOAJ)の記事(2017年1月17日付)によれば、2014年3月にDOAJの基準が設定されて以来、中南米およびカリブ海地域から登録された学術誌は916誌。著者責任の明確化や著作権ポリシーに関する課題はあるものの、中南米における国際出版基準に準じたオープンアクセス化の促進と質の向上が進んでいるようです。

 国際機関も動きを推進

中南米のように、国家レベルでオープンアクセスを進めている国々もありますが、公的資金を使った研究成果も幅広く利用できるようにと、国際機関でもオープンアクセス化の動きが広がっています。ユネスコ(国際連合教育科学文化機関、United Nations Educational, Scientific and Cultural Organization: UNESCO)も2013年にオープンアクセス政策を発表し、その戦略的枠組みの一環として2013年3月、ジャマイカのキングストンで、第1回Regional Latin American and Caribbean Consultation on Open Access to Scientific Information and Researchを開催しました。この大会にはジャマイカ、西インド諸島およびカリブ海の国々を含む中南米諸国が参加しています。さらに同じ年、ユネスコの主要な研究報告書などを掲載したOpen Access Repositoryを公開し、オープンアクセス化を積極的に進めています。

■ よいこと尽くしに見えるが……

オープンアクセス化の推進という新しい流れは、研究者に大きなメリットをもたらしています。世界中の学術論文を含む情報が自由かつ無料で入手可能になることで、研究者の専門分野における研究の発展に貢献します。また、異なる分野の研究成果や興味のある学術情報も簡単に検索・入手できるようになることで、研究の幅を広げ、分野を超えた連携を可能にします。同時に、研究者が論文をオンラインに掲載することで自身の論文の被引用回数を把握できるようになると共に、論文の披検索数が増加することも期待されます。

よいこと尽くしのように見えるオープンアクセス化ですが、問題も発生しています。ICTの発展に伴うオープンアクセス化で利便性が向上する反面、混在する誤情報を含む膨大な情報に振り回されたり、出版倫理に触発する問題が発生したりと、諸刃の剣にもなり得ます。

著作権の扱いも課題の1つです。オープンアクセス化にあたり、出版社や個人が所有する著作権と折り合いをつけなければなりません。オープンアクセスジャーナルにおける著作権はクリエイティブ・コモンズに準拠していることが基本と考えられますが、研究者が他の研究者から使用許可を得るのを支援するツールなどが必要と考えられます。インターネットへのアクセスをいかに確保するかも大きな課題です。特に地方における接続の安定性とスピードの向上は必須です。デジタル環境の構築は、その国がインフラ整備にどれだけ力を入れるかに大きく影響されるため、一筋縄ではいきません。

■ さらなる普及に向けて

オープンアクセスモデルには、明確な方針や資金、インフラ構築、ICTが不可欠です。またコンテンツを充実させるには、査読も必要ですが、それ以前に世界に向けて研究成果を発信していく研究者がいなくては成り立ちません。登録する論文を増やすには、研究者がオープンアクセスのメリット、オープンアクセスリポジトリへの登載方法、SHERPA-RoMEO[1]によるオープンアクセスにおける出版社著作権ポリシーなどを理解する必要があります。そのための教育や支援も必要となるでしょう。

学術研究におけるオープンアクセスの重要性は世界中で認識されており、この流れが止まることはないでしょう。直面する課題にどう対処していくのか、今後の動きに注目です。

 


注釈[1]  SHERPA/RoMEO:英国のノッティンガム大学を中心に立ち上げられた、オープンアクセスの機関リポジトリプロジェクトSHERPA(Securing a Hybrid Environment for Research Preservation and Access)のうちの一プロジェクト。ジャーナル出版社の著作権ポリシーを集積し、データベース化している。2017年7月時点で2,393出版社が登録され、分析対象となっている。

参考
Enago academy掲載の英文はこちら:Open Access Movement in Latin America


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エルゼビア社、海賊版論文サイトに裁判で勝利したが…

2017年6月21日、アメリカのニューヨーク地方裁判所は、「サイハブ(Sci-Hub)」や「ライブラリー・ジェネシス(Library Genesis/LibGen)」といった、有料の学術論文を無料で入手できるウェブサイトに対して、著作権侵害による損害賠償として1500万ドルを支払うべきだと裁定しました。

本連載でも伝えた通り、ジャーナル(学術雑誌)の購読費が高騰していることにより、論文を入手しにくくなっていることに対して、多くの研究者が不満を抱いています。その1人であるカザフスタンの大学院生アレクサンドラ・エルバキャンは、2011年、購読費もパスワードも使うことなく学術論文のPDFファイルを簡単に入手できるウェブサイト「サイハブ」を開設しました。

サイハブは多くの研究者に重宝されていますが、当然のことながら学術出版社はこれに激怒しています。なかでも学術出版最大手のエルゼビア社はサイハブを訴え、2015年11月、ニューヨーク地方裁判所はサイハブに対しウェブサイトの閉鎖を命じました。しかしエルバキャンはサーバーを、アメリカの司法の力がおよばないロシアに移し、現在に至るまでサイハブを運営しています。

今年5月、エルゼビア社はサイハブや、やはり有料の論文を無料で入手できるサイト、ライブラリー・ジェネシスで不正に入手できる論文100件のリストを裁判所に提出し、恒久的な差し止め命令と総額1500万ドルの損害賠償を求めました。

『ネイチャー』(6月22日付)によれば、サイハブで入手可能な論文の版権のうち、最も多くのシェアを占めていたのは、エルゼビア社でした。それにネイチャー・シュプリンガー社やワイリー・ブラックウェル社が続きます。

エルゼビア社の訴えに対して、ニューヨーク地方裁判所のロバート・スウィート判事は、海賊版論文サイトの運営者も代理人もいない法廷で、エルゼビア社寄りの判決を下したのです。しかし、多くの学術ウォッチャーたちは、この判決がサイハブやライブラリー・ジェネシスの運営を止められるとは考えていないようです。実際のところ、7月現在、どちらも利用可能です。エルゼビア社の代理人や出版業界団体は、当然ながらこの判決を歓迎するコメントを各媒体で述べています。

興味深いのは、識者たちの見解です。たとえば2人の識者が別の媒体で、ほとんど同じことを話しています。インペリアル・カレッジ・ロンドンの生物学者スティーブン・カリーは『ネイチャー』で、セント・アンドリュース大学の歴史学者アイリーン・フィフェーは『タイムズ・ハイアー・エデュケーシション』で、それぞれこう述べています。サイハブが人気だということは、学術出版の現状に不満を抱えている研究者がそれだけたくさんいるのだ、と。

また、サイハブについて最初に書かれた学術論文の著者の1人、ゲーテ大学の生物情報学者バスティアン・グレシュアケは、この判決によって、サイハブやライブラリー・ジェネシスを使う人たちはむしろ増え、さらに彼らは同様の「法的に問題のある」サービスを開発するよう刺激されるだろう、と推測しています。実際、「オープンアクセスボタン(Open Access Button)」や「アンペイウォール(Unpaywall)」といった研究論文を入手するためのウェブサービスやアドオン(これらは合法)は、多かれ少なかれサイハブに触発されてできたものだ、と。

さらにスタンフォード大学の教育学者ジョン・ウィリンスキーは、今回の判決はエルゼビア社が公的な資金で行われた研究を「企業資産と私有財産」に変えてしまっていることを意味する、と厳しい評価を下しています。

学術出版社に対する批判は別の形でも現れています。「数学界のノーベル賞」と呼ばれるフィールズ賞を受賞した数学者を含む著名な科学者たちは、2012年、エルゼビア社が発行するジャーナルの購読料の高さなどに抗議して、同社への論文の寄稿・査読・編集をボイコットするという「学界の春(Academic Spring)」運動を始めました。この運動はオープンアクセスの推進にも広がり、同社を支持しないと表明する宣言への署名運動「知識の代償(The Cost of Knowledge)」となって広がっています。

確かに、サイハブは違法なのでしょう。しかしながら、エルゼビア社をはじめとする学術出版社がこうした研究者たちの不満に対する解決策を提供できていないのも事実なのです。


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ライター紹介:粥川準二(かゆかわじゅんじ)
1969年生まれ、愛知県出身。ライター・編集者・翻訳者。明治学院大学、日本大学、国士舘大学非常勤講師。著書『バイオ化する社会』(青土社)など、共訳書『逆襲するテクノロジー』(エドワード・テナー著、早川書房)など、監修書『曝された生』(アドリアナ・ペトリーナ著、森川麻衣子ほか訳、人文書院)。博士(社会学)。


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ジャーナル選択を支援する新たなツール誕生!

近年の出版界における紙から電子媒体への急速な移行は、学術ジャーナルの世界にも、かつてない変化をもたらしています。多くの大学関係者、特に若手研究者は、オンライン化で急拡大したジャーナルの選択肢に圧倒されがちです。「自分の論文をよく読んでもらうにはどのジャーナルに掲載すればいいのか」――。これは研究者にとって死活問題であり、オンライン化の進行が、問題の深刻さに拍車をかけています。

■ 捕食出版社の跳梁跋扈

研究者を悩ませるのはオンライン化だけではありません。最近では、とんでもない「インチキ出版社」の登場が、学術界で問題視されています。研究者は苦労して仕上げた論文を、できる限り近い専門分野の、かつ研究成果や努力の重要さを理解してくれる学術ジャーナルに掲載したいものです。掲載誌を選択するにあたって重要なのは、投稿すべきジャーナルの質です。しかし、価値ある新しいジャーナルが刊行される一方で、「捕食ジャーナル」と呼ばれる悪質なジャーナルが出現してきているのです。

利益のみを追求し、倫理違反など気にも留めない出版社とそれらが刊行するジャーナルは「捕食出版社」、「捕食ジャーナル」と称されます。捕食出版社は「タイムリーな刊行」などを誘い文句に大量のメールを送りつけ、論文投稿のプレッシャーに追われる無防備な研究者を釣り上げては、捕食ジャーナルへの論文掲載料を巻き上げるのです。この過程に、まともな査読プロセスや編集体制などは存在しません。

ある調査によると、捕食出版社による論文掲載は、抽出した613誌だけでも、2010年から2014年までの期間に6万本から42万本と7倍にも増加しました。「悪貨は良貨を駆逐する」とは、16世紀に英国のトーマス・グレシャムが指摘した経済学の法則です。「名目上の価値が等しく、事実上の価値が異なる貨幣が同時に流通すると、良貨はしまいこまれて市場から姿を消し、悪化だけが流通する」(出典:故事ことわざ辞典)ことから、悪がはびこると善が廃れるとの意味もあるそうです。捕食ジャーナルの出現と勢力拡大を放置しておいては、まともな論文の価値が損なわれ、適切な評価がされなくなってしまいます。学術研究の停滞にまで発展しかねない問題です。

■ 捕食ジャーナルに対抗する新たな動き

とはいえ、すべてのジャーナルをチェックし、その中に潜む捕食ジャーナルを見つけ出すのは困難と言わざるを得ません。ある算定によると、2014年には8000誌もの捕食ジャーナルが展開されていたと推測されており、研究者は自衛手段を講じる必要に迫られています。

このような状況下で生まれたのが、“Think.Check.Submit.”というツールです。主要出版社と業界団体によって2015年に立ち上げられたこのサイトは、研究者たちに論文掲載先に関する具体的な情報を提供して、ガイド役を務めることをめざしています。特に注力しているのが、研究者に簡便なツールを提供してジャーナル選択のプロセスの簡素化を図り、論文に適し、かつ十分に信頼できるジャーナルを選べるようにすることです。

Think.Check.Submitが提供するツールは無料な上、使いやすく設計されています。第1段階では、研究者に投稿先のジャーナルが信頼できるものであるか、自分の研究分野に即したものであるかを「Think(考え)」させます。第2段階では、研究者が確認すべき実質的な「Check(チェック)」リストに誘導します。ここでの設問は「あなた、あるいはあなたの同僚は、このジャーナルを知っていましたか?」あるいは「このジャーナルの編集委員会は正当だと思いますか?」など。有益な判断材料となる個々の設問に回答しながら考えることで、論文掲載候補から捕食ジャーナルを振るい落としていきます。チェックリストの各項目の確認が済んだ段階で、論文の「Submit(提出)」に進める仕組みになっています。

重要なのは、Think.Check.Submitは決して、特定のジャーナルや執筆者を推薦するものではないということです。このサイトは、研究者が成果のさらなる発展とキャリア形成に役立つ論文の掲載先を、自ら選別できるようになることをめざしているのです。

■ 適切なジャーナル選択がもたらすもの

Think.Check.Submitはジャーナル出版コンサルタント会社のTBI Communicationsによって運営されています。研究者は同社が集める膨大な情報を一か所で入手できることで、直接的な恩恵を受けられます。また、このツールがネット上で利用可能なことにより、英語を母語としていない若手研究者や、定評ある研究資料へのフルアクセスができない環境にいる研究者にも、大きな便益をもたらしているのです。しかし、その反面、このような研究者こそ捕食ジャーナルの格好の餌食となりがちなのも事実です。

時と共に学術界全体の意識が向上しており、捕食ジャーナルに対抗する取り組みへの関心が高まっています。こうした取り組みが浸透すれば、出版社やジャーナルを扱う図書館側も恩恵を得ることができるでしょう。捕食ジャーナルへの対抗という意味だけでなく、正当な出版社と研究者をつなぐ役割を果たすことも期待できます。

つまり研究者の意識が高まり、投稿先ジャーナルの選択において注意深くなることは、捕食ジャーナルを排除し、より真っ当なジャーナルおよび出版社を存続させることになり、結果として社会および長期的な政策決定における利益となるのです。

■ 現状と将来の見通し 

Think.Check.Submitの取り組みはオンライン上で認知度を高めつつあり、出版組織連合(ALPSPDOAJISSNSPARCなど)の賛同を得ていることも鑑みれば、長期的な成功が見通せる状況にあります。執筆者が論文の出版を競い合う中、その学識を確保しようとする学術ジャーナルの数は毎率3.5%で増加しており、特にオープンアクセス環境が拡大する中、良質な学識(=論文)を確保するのは、至難の業となっています。Think.Check.Submit の取り組みを補足するようなルールとともに、、研究者がDirectory of Open Access Scholarly Resources (ROAD)(オープンアクセスの学術情報データを公開するサービス)*1やQuality Open Access Market (QOAM)(ジャーナルの価格と品質に関する情報を提供するサービス)を通じてジャーナルのデータを自由にチェックできるような仕組みが必要です。

研究者は、捕食出版社・捕食ジャーナルによる不正・詐欺行為と戦うべき明白な責任があります。Think.Check.Submitは、学術出版における不正に対抗するために必要な手段を提供するもので、研究者側の意識向上は必須です。ITのグローバル化が進行する世界で、学術界における不正がさらに蔓延するのを防ぐためには、研究者個人の意識と、不正を許さないという社会規範に基づく対抗策が必要なのではないでしょうか。

注釈:
*1 ROADについて
ROAD(Directory of Open Access scholarly Resources)はISSN国際センターがユネスコの支援を受けて提供するサービスです。(国立国会図書館ウェブより抜粋

Enago academy掲載の英文はこちら:Think Check Submit: A New Approach to Journal Selection


こんな記事もどうぞ:
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クローズアップ学術界「捕食出版社、生涯教育にも進出

References

Carl Straumsheim (2015, October 1) ‘Predatory’ Publishing Up
Ruth Francis (2015, October 1) Think. Check. Submit. A helpful checklist for researchers
Kelly Neubeiser (2016, January 29) Think. Check. Submit your way to the right journal