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ソーシャル・メディアは学術活動に役立つか?

ソーシャル・メディアの利用者は、スマートフォンの普及に伴い、爆発的に拡大しました。一般的には、LINEやTwitter、Facebook、Instagramなどを友人とのコミュニケーションに利用するケースが多いですが、より専門的な分野で利用できる便利なツールも増えています。学術分野のコミュニケーションでも、ソーシャル・メディアが欠かせなくなってきているのです。

■ 活用する研究者は増えている

BioMed Centralに2017年6月15日に掲載された、学術関係者のソーシャル・メディアの活用に関する調査について書かれた記事によると(調査は同年2月にSpringer Natureが実施。本調査は2014年にNatureが行ったものにさかのぼる)、回答者の95%が何らかのソーシャル・メディアを活用しており、最も普及しているプラットフォームはResearchGate(71%)で、そこにGoogle Scholar(66%)が続いていました。

2014年の調査では、最も選ばれていたのがResearchGateとAcademia.eduで、これらのプラットフォームの利用目的がプロファイルの更新だった(68%)のに対し、今回の調査では4分の3以上が「コンテンツ探し/閲読」と回答しています(前回調査では33%)。また、今回の調査ではソーシャル・メディアの利用目的として57%が「自己支援」か「研究促進」を挙げており、活用する研究者が増えていることが伺えます。

■ 多様な研究特化メディア

ソーシャル・メディアは情報収集や関心を集めるために有効な手段であると認識する向きが多いにも関わらず、中には倦厭(けんえん)される方もいます。その理由は「時間の無駄」と考えるからでしょう。テキストだけでなく写真や動画のアップロード、多様なプラットフォームの使い分け、さらには他者の発信内容のチェックなど、活用しようと思えば時間と労力を割く必要があります。重要なのは、自分にとって有効なソーシャル・メディアを見極めることです。前述の調査で名前が挙げられたプラットフォームのように、一般的なコミュニケーション・ツールとして使われているTwitter、Facebook、YouTubeなどとは用途や閲覧者層が異なる学術研究に特化したプラットフォームが登場し、研究成果の発信や他の研究者とのつながりを作るのに役立っています。いくつか例を挙げます。

LinkedIn
ビジネス特化型ソーシャル・ネットワーキング・サービス。自分のプロフィールを掲載することで自身と研究をアピールするとともに、研究内容や論文を特定のグループなどで共有、公表することができる。個人のブログ、論文記事、ウェブサイトなどへのリンクも掲載可能。人脈の構築や仕事探しに活用する人が多い。

ResearchGate
科学者・研究者向けのFacebookと呼ばれる。研究についての共有や情報交換が可能。他の研究者をフォローして、最新の研究成果を確認できる。プロフィール画面では論文リストを作成でき、論文の被引用回数も表示される。ResearchGate内で論文が何回クリックされたか、論文をアップロードした際には何回ダウンロードされたのかも把握可能。

Academia.edu
研究者の情報交換に特化したソーシャル・メディア。研究論文や講演などの情報を登録し、共有することができる。登録者数は5000万人を越え(2017年10月)、研究者は、自分の論文や著書・発表資料などをアップロードした後、論文がどのくらい読まれたかを分析できる。投稿前の論文や掲載済みの論文をアップロードすると、内容について閲読者からコメントがもらえるという機能がある。

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日本の科学技術振興機構知識基盤情報部が提供している研究者向けのプラットフォーム。国内で研究活動を行っている研究者および海外で研究活動を行っている日本人研究者を対象としており、平成27年4月時点で、3,383の研究機関、240,445名の研究者の情報が収録されている。日本語で問い合わせられる窓口やQ&Aがあるのは、海外プラットフォームにはない強み。

他にも、コミュニケーションより論文管理に重点を置いたプラットフォームもあります。

Google Scholar
Googleが提供する学術論文の検索プラットフォーム。検索だけでなく、論文の被引用回数の表示や、他の論文管理ソフトと連携して、参考文献として利用したいタイトルなどのコピー&ペーストや論文のエクスポートが可能。スマートフォンやタブレット端末でも操作可能。

ORCID(Open Research and Contributor Identifier)
研究者に固有のID(デジタルオブジェクト識別子)を付与することで、その研究者の成果を一貫して管理できるようにするプラットフォーム。世界中の研究者が登録しており、ORCIDのIDを持っていることが助成金申請の条件とされるケースが増えている。

Mendeley
学術論文の管理とオンライン上での情報共有を目的とした文献管理ツール。論文管理のほか論文閲覧ソフトとしても利用できるので、自身の論文の影響力を見るだけでなく、話題になっている他者の研究も探すことができる。共同研究者同士が執筆中の論文を校閲する場としても活用可能。自分の興味のあるグループ(人脈)とのネットワークを作るのにも役立つ。

これらのリストおよび機能は一例に過ぎません。学術活動をサポートするプラットフォームの選択肢は今も増えています。自身の研究分野や使いやすさなどを考慮し、最も有効だと考えられるソーシャル・メディアを選んではいかがでしょうか。

■ 可能性は無限!ただし……

ソーシャル・メディアを継続的に利用するなら、毎日5分でもログインし、興味を惹かれた投稿へのコメントや、自身も情報を発信することを日々の作業に取り込んでしまうのが得策です。自分の専門分野のキーパーソンや団体・機関をフォローしていれば新しい情報を入手できますし、査読のような正式な手続きを踏まずとも、自身の研究について、他の研究者からフィードバックを得ることもできます。また自分の研究についての情報を発信して、活動の宣伝をすることも。反響があれば論文評価指標「オルトメトリクス(Altmetrics)」にも有利に働きます。影響力のある発信をするための、ちょっとしたコツを紹介します。

・テキストは簡潔かつキャッチーに。画像や動画を付ければ視覚的なインパクトを与えられます。
・適切なハッシュタグ(#)付け。同分野に関心を持つ研究者とのネットワーク構築にもつながります。
・掲載するプロフィールに、自身のホームページや研究室のリンクを付ける。

研究室にいながら世界の最新情報を入手し、コミュニケーションまでできるのであれば、ソーシャル・メディアを活用するのも悪くありません。ただし、一度公開した場合、その情報を完全に消去することはできない、という特徴があることも忘れてはなりません。投稿内容に事実誤認はないか、数字は正確か、他者を傷つける表現は含まれていないか……。手軽で便利ゆえ、各自が責任を持って運営していくことが肝心です。

 


こんな記事もどうぞ:
エナゴ学術アカデミー エディターズ・アイ
いま話題の新しい論文評価指標「オルトメトリクス(Altmetrics)」

参考記事:
Harvard Business Review: How Academics and Researchers Can Get More Out of Social Media 
Run Run Shaw Library: Maximising the visibility of your research 
QUT Library Subject Guides: Social media and research impact
authors: Tips for Using Social Media to Promote Your Research

medicalpaper-part2

「捕食ジャーナル」で誰が論文を発表しているのか?(後編)

前編では、カナダのオタワ病院研究所の疫学者デーヴィッド・モーハーらが捕食ジャーナルに掲載された論文の「責任著者(corresponding author)」の所属国を調査した結果、最も多かったのがインド、次がアメリカであったことなどをお伝えしました。後編では、論文著者たちの捕食ジャーナルに対する認識と、捕食ジャーナルの特徴について見てみましょう。

モーハーらは、捕食ジャーナルで論文を発表した著者たちが所属する研究機関の責任者16人を選んで問い合わせのメールを送りました。「著者たちに警告した」、「対策を検討している」などと返信してきた研究機関もあれば、返信がなかったところやメールが戻ってきてしまって届かなかったところもありました。

また、彼らは著者87人にも直接メールを送ったところ、18人から回答を得られました。そのうち2人は、投稿するジャーナルが捕食ジャーナルである可能性を認識していたと答えました。4人はビールズ・リストの存在を知っていました。そして、3人が捕食ジャーナルでの採択以前に、ほかのジャーナルに原稿を投稿したことがあると答え、7人が、どのジャーナルに投稿するかについて何らかのガイダンスを受けたことがあると答えています。自分たちの研究が引用されたことがあると答えた著者も7人いました。

モーハーらは、捕食ジャーナルに論文を掲載することは「非倫理的である」と主張し、それらの問題点を「貧弱な査読と貧弱なアクセス」とまとめています。本連載でも伝えたように、適当に言葉を並べただけの無意味な原稿を投稿しても、捕食ジャーナルの編集部はそれを論文として採択してしまうことが広く知られています。また、そうした論文はパブメド(PubMed)などの論文データベースに収載されないことがあるので、見つけにくいことも指摘されています。

彼らは、捕食ジャーナルを通常のジャーナルと区別することは難しい、と指摘します。しかし一方で、彼らは以前に『BMCメディスン(BMC Medicine)』に投稿した論文で捕食ジャーナルの特徴を分析し、以下の13点にまとめたことがあります(彼らの箇条書きに筆者が加筆)。

1. その対象範囲には、生物医学的なトピックと並んで非生物医学的なテーマが含まれる。
2. そのウェブサイトにはスペルや文法のエラーがある。
3. 画像が歪んでいたり、ぼやけていたりする。未許可のものである可能性もある。
4. そのホームページは読者ではなく著者らをターゲットにした言語で書かれている。
5. そのウェブサイト上で「インデックス・コペルニクス・ヴァリュー(ICV: The Index Copernicus Value)」が宣伝されている(ICVはジャーナルなどの価値を示す指標だが、その信頼性は疑問視されてきた)。
6. 原稿の取り扱いプロセスの説明が不足している。
7. 原稿は電子メールで投稿するよう要求されている。
8. 迅速な掲載が約束されている。
9. 撤回についてのポリシーが書かれてない。
10. ジャーナルの中身をデジタルで保存するかどうか、どのように保存するかについての情報が欠けている。
11. 論文加工掲載料は非常に安い(たとえば150ドル未満)。
12. オープンアクセスであると謳うジャーナルでは、掲載された研究の著作権を出版社が所持し続けることになるか、著作権に言及していないかのいずれかである(通常のオープンアクセス・ジャーナルでは、当然ながら著者に属することが保証されている)。
13. 連絡先にプロらしくなかったり、ジャーナルらしくないメールアドレス(たとえば@ gmail.comや@ yahoo.comなど)が使われている。

少なくとも、ある程度の参考にはなるでしょう。

今年8月29日、通信社のブルームバーグが、大手製薬企業の研究者たちが捕食ジャーナルで論文を発表していることを報道しました。信頼性の低い論文のデータが、医薬品の認可の根拠や宣伝材料になってしまうのだとしたら、私たちの生命にも関わってきます。

その一方で、捕食ジャーナル問題は、日本では一部の専門家以外にはほとんど知られていないのが実情でしょう。臨床医などのなかには、罪の意識がないままこうしたジャーナルで論文を発表してしまう人もいるようです。学術界の自浄作用だけでなく、ジャーナリズムの奮闘が望まれます。


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ライター紹介:粥川準二(かゆかわじゅんじ)
1969年生まれ、愛知県出身。ライター・編集者・翻訳者。明治学院大学、日本大学、国士舘大学非常勤講師。著書『バイオ化する社会』(青土社)など、共訳書『逆襲するテクノロジー』(エドワード・テナー著、早川書房)など、監修書『曝された生』(アドリアナ・ペトリーナ著、森川麻衣子ほか訳、人文書院)。博士(社会学)。

 

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【工学院大学】藤川 真樹 准教授インタビュー(後編)

各大学の研究室に訪問し、研究者たちにおける英語力向上の可能性を探るインタビューシリーズ。十七回目は、工学院大学情報学部コンピュータ科学科の藤川真樹先生にお話を伺いました。インタビュー後編は、英語への取り組み方法や、英語の指導方法、さらに工学院大学のユニークな英語学習についてのお話です。


■ 英語の学習方法について教えてください。

オンライン英会話のレッスンを毎日続けています。また、単語は使わないと忘れてしまいますので、毎朝必ず勉強しています。普段が日本語の環境ですので、どうにかして英語に触れる機会をつくらなくちゃと思って、Japan Times STなどを1日1ページ読むとか、英語のボキャブラリーを増やすために地道に取り組んでいます。講義で英語を使うことはないですし、海外のスタッフがいるわけでもないので、自分から触れにいくことを常々意識しています。

■ 論文を英語で書かれる機会は多いのですか?

日本語と合わせて年に2・3本でしょうか。論文を書く際は、まず日本語で書いて、それを英語に翻訳します。その後、御社に校正をお願いをするという段階を踏んでいます。

発表は3回か4回です。授業の合間に国際会議に行きますので、回数は限られます。まずは国内でやって、研究成果の上がったものを海外用の原稿に織り込み、国際会議に投稿する。そして無事に採択されたら、発表しに行くという。

事業化、実用化につながる可能性があるので、国際会議での発表は非常に有意義です。研究者の方々と話をしながらニーズを探ったり、オーディエンスからいろいろなご提案をいただけたりするのはありがたいです。

質疑応答には、答えられる範囲で答えます。発表の後のQ&Aは、たかだか5分くらい。受けられる質問の数も限られているので、そこで受けた質問にはその場で答えますが、どうしても答えられない、時間がないという場合には、セッションの後で個別に「あの時のご質問ですけど……」と内容を確認してから、図やイラストを描きながら説明することもあります。

■ 論文を書かれる際、専門用語や今までにない言葉などの英訳にご苦労されることはありませんか?

この分野には先達のフロンティアがいらっしゃるんです。横浜国立大学の松本勉先生が「人工物メトリクス」という概念を作られました。これは、人によって異なる指紋のような情報を、人工物にも付けてみようというものです。それは、製造過程において自然偶発的かつランダムにできる情報で、それを用いると一つひとつ識別できるようになるという考え方です。私はこのコンセプトに沿ってアプローチしているんです。今は陶磁器ですが、次は合成樹脂でやってみようとか、いろいろな人工物に適用しているだけなので、表現で困ることはないんです。

松本先生が「Artifact-metrics(人工物メトリクス)」という言葉を作られました。ただ世界での認知度はそれほど高くないようなので、「Anti-counterfeiting method」など別の表現を使う時もあります。私は、松本先生に敬意を表して「Artifact-metrics」と最初に使って、後で「This metrics is a kind of technique that is also called as an anti-counterfeiting metrics method」と言った形で表現しています。両方の表現を適宜使い分けて、盛り込むというような感じですね。

■ 発表や質疑応答以外に英語でご苦労されることはありますか?

会議の司会を引き受ける時ですね。私の拙い英語で進行を遅らせたり、妨げたりするのはよくないので、必ず最初にスピーチ原稿だけは用意します。頭が真っ白くならないようにとの意図もあって。事前練習まではしませんが、メモが一つあるだけで気持ちは落ち着きます。

■ 学生への英語指導方法についてもお聞かせいただけますか。

週1回のゼミでは、私も含めて英語だけでディスカッションする時間を作っています。研究室の学部生8名全員、英語のみで会話するんです。教材はインターネット上にあるニュース記事など。技術に関係する記事を一つ選んで、それについてどう思うかなどを学生に質問し、それに答えてもらっています。あとは、部屋にJapan Times STなどの週刊紙を置いておいて、興味があれば読めばよいと。

一般的な講義では毎回、講義の前半、冒頭の5分を使って英文記事をプロジェクターで見せています。トピック紹介ですね。Japan Today、Japan Times、Mainichiオンラインなどから技術関連のニュース記事を拾って生徒に見せて、日本語で解説します。紹介記事は英語のまま投影して、こんな技術が開発されているんだと紹介する。これは数学の講義でもセキュリティの講義でも、どれでも一緒です。1年生から4年生までいて英語のレベルも異なりますが、まったく同じ英文記事を使用しています。

■ まずは触れてみることが大事、という感じでしょうか。

そうですね。英語に親しむことが大前提です。そこからすべてが始まるんじゃないかと。本学の英語のカリキュラムは特徴的です。例えば海外留学プログラム。英語はしゃべれなくてもいいから、とにかく現地に行かせてしまうというものです。アメリカに行って、講義は日本語でやるけれど、学校以外の生活、ホームステイ先での会話などは英語でやるという「ハイブリッド留学」を取り入れています。文科省から「大学教育再生加速プログラム(AP)」にも採択されています。実学主義という校風が英語教育にも反映されています。

■ 最後に、論文の英文校正サービスに関して、あったらよいなというサービスがあればご意見をお聞かせください。

私は今のサービスで満足しています。納期も価格もクオリティも本当によいです。自分の元の原稿はどこに行った?と思うくらい添削をしていただけて、十分に満足しています。原稿評価カルテでしたか、自分の英語力をチェックしてくれるシートが出ますよね。それを見ると、私の成績も概ねよいかなと思えます(笑)。

■ ぜひ、今後ともご利用いただければ幸いです。国際学会での発表など、今後のご予定はいかがですか。

授業と授業の合間に行くため発表の数は限られますが、引き続きブルー・オーシャンを開拓しつつ、他の分野にも応用できるような研究成果を出していきたいと思っています。研究の醍醐味って、やはりクオリティの高い成果を出すことじゃないかなと思います。それが学生の励みになって、その研究成果を持って、どんどん発表に行ってくれれば。たとえ国内での発表だとしても、それが自信になって、セキュリティの分野って面白いなと思ってくれれば、それでよいと思います。

■ ありがとうございました。

 

【プロフィール】
藤川 真樹(ふじかわ まさき)

工学院大学情報学部コンピュータ科学科 准教授
1998年3月 徳島大学 工学研究科 知能情報工学専攻  博士前期修了
2004年8月 中央大学 理工学研究科 情報工学専攻 博士後期修了
1998年3月~2016年3月 綜合警備保障株式会社 勤務
2016年4月 東京工科大学 特別講師「セキュリティシステム」担当
2016年4月~ 工学院大学情報学部コンピュータ科学科 准教授
ご専門の研究分野は、社会システム工学・安全システム

 

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「捕食ジャーナル」で誰が論文を発表しているのか?(前編)

本連載では、どんなにひどい原稿でも、掲載料さえ払えば査読らしい査読なしで掲載してしまう「捕食ジャーナル(predatory journals)」について、何度も取り上げてきました。最近では、「フェイク・ジャーナル(fake journals)」と呼ばれることもあります。

捕食ジャーナルで研究成果を発表する者たちは、主としていわゆる開発途上国の医師や研究者だと思われてきました。実際のところ、そうした捕食ジャーナルに投稿される論文の著者がインドなどのアジアに集中することを明らかにした調査もあります。ただ筆者は「日本人も少なくないのではないか?」と思ってきました。

カナダのオタワ病院研究所の疫学者デーヴィッド・モーハーらは、そうした論文の共著者たちのなかでも、ジャーナル編集部や読者など外部との窓口役を果たす「責任著者(corresponding author)」の所属国に着目すると、インドの次に多かったのはアメリカであることなどを、『ネイチャー』への寄稿で明らかにしました。

この調査の対象となったのは、1907件の論文です。モーハーらは、捕食ジャーナルのリストとして知られ現在は閉鎖されている「ビールズ・リスト(Beall’s List)」などを参考にして、生物医学分野の捕食ジャーナルを発行している出版社の中から、1誌だけを発行している出版社41社と、複数誌を発行している51社を選びました。その上で、これらの出版社が発行するジャーナル計179誌に最近掲載された論文3702件から、純粋な生物医学研究と体系的レビュー(複数の論文のデータを統合して分析する研究)を抜き出したところ、1907件が残ったのです。

彼らの調査で、そうした論文では、主流のジャーナルに載った論文に比べて、ガイドラインが守られていない傾向があることが浮かび上がりました。たとえば、臨床試験を報告する論文では「登録情報」が書かれていないこと、体系的レビューでは「バイアス(偏り)」のある可能性が評価されていないこと、動物実験では「盲検化(ある動物が実験群であるか比較対照群であるかを実験者がわからないようにすること)」に関する情報が書かれていないこと、などが明らかになりました。

また、倫理委員会の承認を得ていることを明記した論文が、主流のジャーナルでは70%を上回る(ヒトを対象とした研究で70%以上、動物を対象とした研究で90%以上)のに対し、モーハーらが調査した捕食ジャーナルでは40%に留まりました。さらに、資金源を書いていない論文は、約4分の3に上りました。責任著者の所属国は、インド(27%)、アメリカ(15%)、ナイジェリア(5%)、イラン(4%)、日本(4%)など世界103カ国に広がることもわかりました。

モーハーの調査とは別に、シンクタンクである民主主義・経済学研究所(IDEA : Institute for Democracy and Economic Analysis)がまとめた調査では、インドやナイジェリアの論文の10%以上が捕食ジャーナルで発表されていたこと、それに対してアメリカや日本では1%以下であったと明らかになっていました。また、『情報科学技術協会ジャーナル(JASIST : Journal of the Association for Information Science and Technology))に掲載された別の研究では、捕食ジャーナルに載った論文の著者の75%が南アジア(主にインド)、14%はアフリカ(主にナイジェリア)にいたのに対し、アメリカにいた著者はわずか3%だとわかったこともあります。

それらとは対照的に、モーハーたちの調査では、著者たちの57%は「高所得国」または「中所得国」以上の国の研究者であることが判明しました。モーハーらは調査結果に違いが出た理由を、自分たちは共著者全員ではなく「責任著者」に絞って分析したこと、自分たちのサンプルに高所得国の著者たちが好むジャーナルが含まれている可能性、そして近年、捕食ジャーナルを発行する捕食出版社は高所得国や中所得国の医師や研究者たちに対して、メールによる論文投稿の勧誘をより積極的に行うようになっている可能性を挙げています。

モーハーたちの調査は続きます。後編では、捕食ジャーナルの特徴(見分け方)なども紹介します。

 


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ライター紹介:粥川準二(かゆかわじゅんじ)
1969年生まれ、愛知県出身。ライター・編集者・翻訳者。明治学院大学、日本大学、国士舘大学非常勤講師。著書『バイオ化する社会』(青土社)など、共訳書『逆襲するテクノロジー』(エドワード・テナー著、早川書房)など、監修書『曝された生』(アドリアナ・ペトリーナ著、森川麻衣子ほか訳、人文書院)。博士(社会学)。

 

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中国の臨床試験 80%に不正か規定違反あり

本シリーズでたびたび取り上げている中国学術界の不正問題。新薬申請の臨床試験に対する取り締まりも強化されています。

国家食品薬品監督管理総局(China Food and Drug Administration,CFDA)が2016年9月に公表した調査結果によると、2015年に調査を行った1622件の新薬申請のうち80%以上(1308件)の臨床試験において、試験自体が終了できていないか、追跡できない、あるいはその両方の理由で結果が出ていない状況にあり、またデータに不正があるため、臨床申請を取り下げるべきであると判断されたのです。実験結果の捏造や不正確なデータの使用など、臨床試験における不正行為には、臨床試験指令の責任者、製薬会社、医療関係者などが複合的に関わっていたものと見られています。

■ 違反者には極刑も辞さず

80%という数字に驚いた方は少なくないかもしれませんが、中国の創薬業界では「想定内」との声が聞かれます。中国国営新華社系の経済新聞「Economic Information Daily(経済参考報)」は、臨床試験の結果が、実際の医学研究が行われる前に執筆されることや、既に市場に出回っている薬と併用するような試験が行われることすらある、と報じています。

この事態を重く見た中国政府は、臨床検査の実施方法についての新しいルールを作成しました。2017年4月、CFDAは、健康に関わる臨床試験に不正データが使われた場合、不正を行った製薬会社からの新薬の許認可申請を、同様のカテゴリーの場合は3年間、他のカテゴリーからの場合も1年間受け付けないと表明したのです。このルールの対象は、臨床試験用に不正なデータを提供した機関にも及び、新規の臨床試験の実施や進行中の臨床試験への参画も禁止されます。さらに、該当機関が作成したデータを使った他の新薬申請も却下されることになります。

中国政府の対策はこれに留まりません。CFDAの発表の当日、臨床試験に不正データを使用した場合、刑法で裁かれる可能性もあるとの通達が、最高裁判所より出されました。不正データを使って臨床試験を行った製薬会社などに対し、3年以内の懲役と罰金が課せられるのです。それだけでなく、不正データが公衆衛生上、重篤な被害をもたらした場合には、死刑もあり得るとしています。過失により誤ったデータを提出した場合には刑を逃れるとしつつも、中国政府の本気度が垣間見える厳しい政策です。

■ 問題の根源は……

臨床試験の不正となると中国がやり玉に挙げられがちですが、日本でも、スイス製薬大手のノバルティスファーマ(日本法人)による高血圧症治療薬の臨床データ操作事件が、ニュースで大きく報道されました。この件では、同社が薬の効果を高く見せるようデータを改ざんしたとして薬事法違反に問われました(他にも、慢性骨髄性白血病治療薬を用いた臨床研究の不正でも世間を騒がせました)。残念ながら、臨床検査の実施を製薬会社に依存する「製薬会社主導」の構造が、この問題に拍車をかけているのが実態です。

製薬会社による臨床試験での不正は、試験自体や医薬品に関する学術論文の信頼性を損なうものです。それを防止するための法律や倫理指針は存在するものの、研究者や製薬会社が意識しなければ、臨床試験における不正を根絶することは難しいと言わざるをえません。規制によってそれの改革を促す中国の取り組みが、果たして功を奏するのか。注意深く見守る必要がありそうです。


こんな記事もどうぞ
学術ウォッチャーが斬る!「研究不正を行った研究者が死刑に!?」

Dr. Fujikawa-1

【工学院大学】藤川 真樹 准教授インタビュー(前編)

各大学の研究室に訪問し、研究者たちにおける英語力向上の可能性を探るインタビューシリーズ。十七回目は、工学院大学情報学部コンピュータ科学科の藤川真樹先生にお話を伺いました。インタビュー前編は、世界の最先端を走る先生の研究についてのお話です。


■ 先生の専門分野、研究テーマを教えてください。

主にセキュリティに関する研究を行っています。セキュリティといっても今日では非常に幅が広いですが、ここでフォーカスしているのは、物理的な物に関連するセキュリティです。例えば、世の中には偽造品がいろいろと出回っていますが、それが本物か偽物かを見分ける必要があります。そして、本物をどうやって守るか、偽物を作りにくくするにはどうすればよいか……。そういう研究をずっと続けています。特に私たちが今、注目しているのは、工芸品で、中でも陶磁器です。日本には多種多様な伝統工芸品がありますが、偽物が非常にたくさん作られています。例えば、有田焼などの有名な窯元の作品の偽造品が多数出回っている。それなのに、どうやって偽造品を作りにくくするかといった議論や技術開発は進んでいない。そこで、日本の伝統工芸品は日本人の手で守るべきという考えに立脚し、研究を進めています。

■ 先生がご参画されている「経済産業省・戦略的基盤技術高度化支援事業」での研究を拝見しました。陶磁器の中に情報を入れ込むという。

はい、平成23年度から継続しています。かつて、ディスプレイに表示されている機密情報をカメラで撮影して持ち出すという情報漏洩がありました。羽田空港の管制官がグローバルホークなどの飛行計画、機密情報を撮影して持ち出したのですが、あってはならないことです。その時、ディスプレイに表示される情報を撮影によって持ち出されるのを防ぐには、ディスプレイの表面に赤外線を発光するような透明なシートを貼ればよいのではないかと考えました。人間には見えませんが、カメラは赤外線を情報だと認識するので、撮影された画像に赤外線が写り込み、情報を読めなくするという仕組みです。

この材料となるのが赤外線を発光する蛍光体なのですが、これを他の分野にも応用できないかと。これを擦りつぶして粉状にして、釉薬や絵の具に入れて陶磁器に焼きつけたらどうか、となったのです。実際に焼きつけたものを赤外線カメラで撮影すると、指紋のようなまだら模様ができるんですね。人間の目には見えない。この模様により、本物であることを証明できるんじゃないか、ということで転用し始めました。

■ 盗品や偽物の市場への流入が、世界中で問題になっています。研究内容を公表することで、偽造品を作り出す人間が対策を立てやすくなるということはないのでしょうか。

お札の偽造防止技術やクレジットカードのホログラムの製造方法のように、公開しないことでセキュリティが保たれているものもありますが、われわれの研究は、そういうものではないんです。人工物の中に特徴的な情報を埋め込む技術を公開しても、意図通りには作れません。私たちの研究は、同じものを作るのをいかに難しくするかを競っているのです。

■ 材料の組み合わせや製造方法を公にしても、個々の陶磁器に付けられた指紋のような模様を再現するのは難しいということですか?

はい.QRコードに例えると、分かりやすいかもしれません。通常のQRコードは人間の目で見えますが、私たちは見えないQRコードを焼き込んでいる。赤外線や紫外線などの特殊な光を当てると、その時だけ情報が出てくるんです。さらに、このQRコードの模様が同じであっても、コードを形成する蛍光体の粒子の大きさや厚みなどを変えることで、一つひとつをまったく異なるコードにすることが可能になります。一見同じに見えても、世界にたった一つしかないQRコードが作れるので、個々の識別が可能になるんです。

私の研究は、先行する研究者がいない、いわば「ブルー・オーシャン」。誰もやっていない未開拓分野を走っていくようなものです。ライバル不在のニッチな分野の第一人者に、という野心的な思いもあるのですが(笑)、この技術をビジネスにも活かしてもらえるのではと思っています。

 ユニークかつ実用的な技術ゆえ、研究成果をご発表される機会が多いのではないでしょうか?

国内外の国際会議で、偽造防止技術の発表をさせてもらうことがよくあります。ただ、英語のスキルはないほうなので、英語で発表する時、十分な受け答えができているとは思えません。
言葉の壁を感じることはよくあります。特に、この技術の実用化に関する話が出た時には苦労しました。英語の発表とは別ですが、ドイツのメーカーに話を持っていこうとした時のことです。私がうまく伝えられないがために、話が進まない……。結局、交渉事はドイツ人に任せて、その結果だけ受け取ることにしました。

大変面白い研究のお話でした。後編では、英語への取り組みについてなどをお伺いします。


【プロフィール】
藤川 真樹(ふじかわ まさき)

工学院大学情報学部コンピュータ科学科 准教授
1998年3月 徳島大学 工学研究科 知能情報工学専攻  博士前期修了
2004年8月 中央大学 理工学研究科 情報工学専攻 博士後期修了
1998年3月~2016年3月 綜合警備保障株式会社 勤務
2016年4月 東京工科大学 特別講師「セキュリティシステム」担当
2016年4月~ 工学院大学情報学部コンピュータ科学科 准教授
ご専門の研究分野は、社会システム工学・安全システム

 

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300ドルであなたも論文の共著者に

本連載では、掲載料さえ払えば、どんなにいい加減な原稿でも論文として掲載してしまう「捕食ジャーナル(predatory journals)」やそれを発行する出版社「捕食出版社(predatory publisher)」のことをたびたび取り上げてきました。そうした出版社やジャーナル(学術雑誌)をまとめてリストアップした「ビールズ・リスト(Beall’s List)」もあったのですが、2017年1月に閉鎖されてしまったことも伝えました。

インドのIT企業に勤める研究者で、医療ライターでもあるプラヴィン・ボージートは、この捕食出版という問題に興味深い角度から疑問を投げかけました。研究に何も貢献していない者でもお金を払えば、論文の共著者になれるのか、ということです。

ボージートがビールズ・リストに載っていた出版社を以下の方法で調査したところ、約16%が論文の共著者に名前を加えることに同意したといいます。

ボージートは、2015年11月にビールズ・リストに載っていた出版社906社の中から、分野を生物医学分野に絞って調査を行いました。実際に稼動している706社のうち、2016年12月の時点で400社が生物医学分野のジャーナル4924誌を発行していることを確かめました。そのうち119社がインドの、94社がアメリカの出版社でした。

ボージートは架空の名前を使って、そうした出版社にメールしました。その文面の一部を学術情報ウェブサイト『リトラクション・ウォッチ』が紹介しています。

私は多忙な上、多くの患者を抱えているため論文を書いたり出版したりすることができないのですが、宣伝のために論文が必要です。同僚の1人から、貴社のジャーナルはこの件について手助けしてくれると聞きました。貴社が医学関連の論文の共著者に私を追加したり、あるいは誰かが私の代わりに論文を執筆してくれたり、発表を手助けしてくれたりできるならば、幸いです。

彼は返信を期待していなかったのですが、117 社(44.5%)から回答を得ました。共著者として名前を追加することを断ったのは44社(37.6%)、はっきりと答えなかったのが21社(17.9%)。しかし19社(16.2%)は、共著者として名前を加えることに同意しました。自分たちが論文を書いて出版する、と答えた出版社も10社(8.5%)ありました。

『リトラクション・ウォッチ』はその回答の一部を紹介しています。

以下は著者2名が掲載準備を整えた論文タイトルの一部です。(略)この著者たちは掲載のために支払うお金がないので、論文の掲載費を支払うことができて共著者に加えられる人を探しているのです。

 

私たちは、研究の共著者としてあなたの名前を追加するように、何人かの著者に依頼することができます。あなたは掲載料(論文2件に300 USドル)を支払うだけです。

ボージートは、「スタンドアローン・ジャーナル(stand-alone journal)」といってジャーナル1誌だけを発行している出版社についても調べているのですが、母数が少ないのでここでは省略します。彼によれば、捕食出版社の少なくとも半分は「非倫理的な」出版行為にかかわっていることになります。

彼は今年9月に開催された「査読と科学出版についての国際会議(Peer Review Congress)」でこの調査結果を発表しました。『リトラクション・ウォッチ』のインタビューでは、お金を払えば、ジャーナルの編集委員として迎える、と言ってきた出版社もあったことを明かしています。

研究に何も貢献していない者の名前を共著者に加えることは「ギフトオーサーシップ(gift authorship)」と呼ばれ、ずいぶん前から研究不正行為の一種として問題視されてきました。名前を貸すほうは業績を増やすことができること、名前を借りるほうは論文に“ハク”を付けることなど、双方にとってメリットがあるとされてきました。「オーサーシップ」はギフト(贈り物)としてやり取りされるだけなく、金銭でも取引されている可能性がありそうです。


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ライター紹介:粥川準二(かゆかわじゅんじ)
1969年生まれ、愛知県出身。ライター・編集者・翻訳者。明治学院大学、日本大学、国士舘大学非常勤講師。著書『バイオ化する社会』(青土社)など、共訳書『逆襲するテクノロジー』(エドワード・テナー著、早川書房)など、監修書『曝された生』(アドリアナ・ペトリーナ著、森川麻衣子ほか訳、人文書院)。博士(社会学)。

 

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アジアの革新的大学ランキングが発表!

2017年6月7日にロイターが「2017年 アジアの革新的大学ランキング」を発表しました。ランキングの評価は、研究論文の評価や特許数も含む、多面的な判断によって決定されます。今回は、韓国の大学が1位と2位を独占しただけでなく、上位20校に8校がランクインするという結果になりました。

■ 韓国勢が躍進

1位は韓国科学技術院(KAIST)。2年連続の首位獲得です。影響力の高い発明を数多く生み出したと評価されました。続く2位がソウル大学。3位に東京大学が入りましたが、昨年の2位の座をソウル大学に譲った形です。そして、4位と5位も韓国の大学に占められる結果となっています。

TOP5位中、4校が韓国の大学となったわけですが、TOP75まで広げても同じ傾向が見られ、75校のうち22校が韓国勢でした。経済発展が目覚ましい中国勢は、75校中21校です(ただし、香港の大学を含めると25校と最多)。日本は、東京大学が3位に入ったものの、トップ20まで見ると昨年の9校から7校に減少しています。東大以外の6校は、東北大学(7位)、京都大学(8位)、大阪大学(9位)、東京工業大学(12位)、慶應義塾大学(16位)、九州大学(17位)と、名だたる大学が並びますが、75校中では19校と韓国、中国より少なくなっています。

このランク付けにあたり、ロイターは世界的な情報サービス企業であるClarivate Analyticsのデータを利用しています。Clarivate Analyticsには学術誌を出版する600を超える企業や団体が登録されており、特許のデータベースも存在します。この学術論文と特許出願などの情報に基づいた分析を活用することで、どの大学が最も画期的な研究を行っているか、どのような特許を所持しているかなどの調査を行い、各大学の革新度を評価し、その結果から科学の進歩および新技術の発明に貢献している大学のランクを付けているのです。

■ 世界のランキング、そして日本は――

ロイターによるアジアの大学ランキングは今回が2度目の発表でしたが、昨年9月には、対象を世界の大学に広げた「世界の革新的な大学ランキング2016(Reuters Top 100: World’s Most Innovative Universities 2016)」も発表されています。TOP5は、1位がスタンフォード大学、2位がマサチューセッツ工科大学(MIT)、3位がハーバード大学と並び、4位がテキサス大学、5位がワシントン大学となっています(アメリカの大学は100校中46校と最多)。アメリカの大学が上位を独占していますが、それでも6位には、イギリスの名門校を押さえて韓国のKAISTが入っています。日本は最上位の東大でも16位という結果でした。

大学にとって、このような評価は重大な意味を持っています。研究者や学生がキャリア形成にあたってどの大学に行くかを決める際、このような客観的な評価を役立てることがあるだけでなく、ランキングは各校の学術界での存在感にも影響を及ぼします。

日本では、学生が大学を選ぶ際には、入試の難易度(偏差値)と就職しやすさが注目されがちです。日本の科学技術力や学力の低下に危機感を抱く、との意見も出る中、革新的な大学ランキングに見られる高等教育の状況はまさに、私たちに見過ごすことのできない事実を突きつけています。

 

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研究論文の影響を評価する:引用数指標 – Citation Metrics

毎年、多数の研究が査読付きジャーナルで発表されており、その数は年々増加する一方です。従って、発表された論文が他の研究者に 引用 されることは、論文の著者にとって自分の研究の影響力を上げるためにとても重要になります。

引用数指標(Citation Metrics)は、出版された研究論文の影響力、品質、重要性を定量的に測定するための評価基準です。このような評価基準のほとんどはジャーナルの引用数によって算出されており、著者あるいは論文の功績を評価するものではありません。出版された研究成果の質や被引用数に影響を与える要素は多数存在しています。あくまでも引用数指標は、論文ごとの平均被引用数に基づいて、定められたパラメータを使って算出されたものであると理解しておくべきでしょう。

しかし、こういった引用数指標は、学術界における特定のジャーナルの読者数と人気を暗示していると考えられています。このことから、引用数を測ることはジャーナル、学術団体、ひいては研究者個人にとっても重要な評価尺度となるのです。学術界で一般的に使われている引用数指標を、下の図で簡単に示します。
 
引用
 


関連情報:いま話題の新しい論文評価指標「オルトメトリクス(Altmetrics)」
https://www.enago.jp/academy/altmetrics/
 
 

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中国、学術研究のリーダーに?

1970年代後半に始まった「改革開放政策」以降、中国の経済成長には目を見張るものがあります。世界銀行によれば、中国は経済史の中でも記録的な速さで成長を遂げ、8億人以上が貧困から脱出し、今や名目GDPでは世界2位の経済大国となりました。13億の人民を抱える中国は、一人当たりの国民所得から見ればいまだに開発途上国に分類されるものの、経済的には高中所得国となっています。近年は経済成長率が鈍化しているとはいえ、その勢いは経済以外の分野にも波及しています。

■ 広がる各国とのコラボレーション

中国学術界も勢いを増すものの一つです。大手学術出版社のSpringer Natureが発行した”Nature Index 2017”には、2012年以降、中国の研究論文の総数が増え続けていることが示されました。国際的な共同研究の比率も年々、増え続けています。2016年には、Nature Indexに掲載された中国人研究者による論文の50%以上が、国際的な共同研究によるものでした。国内のみならず、国外在住の中国系の研究者も活躍の場を世界中に広げており、自国や他国の研究者とネットワークを広げていることがわかります。実際、米国の研究者の25%以上が外国から来ており、その多くが中国系となっています。

国の政策も一役買っています。中国政府は、さまざまなプログラムを通して、自国の研究者が国境を越えて研究をするための金銭的支援を行いつつ、外国に出ている中国生まれの研究者に、研究成果と共に戻ってくるよう強く働きかけています。政府間のぎくしゃくとは関係なく、米中間では多くの共同研究が進められているのです。

中国は「国家中長期科学技術発展計画綱要(2006年発表)」を掲げ、国を挙げて研究人材資源強化に乗り出し、Thousand Talents ProgramやWorld Class 2.0などの学術教育プログラムを実施しています。積極的に海外に優秀な人材を派遣する反面、海外の優秀な研究者を招聘する「海外人材呼び戻し政策」を設けて、研究者の囲い込みを図っています。

各国との研究協力を見ていきましょう。

  • 米国:
    共同研究が最も多い国。前述の通り、米国内で研究を行う科学者の25%以上が国外からの人材であり、多くを中国人が占めていることが影響している。
  • ドイツ:
    中国内で国際的2国間共同研究を進める団体/組織のトップ10のうち、5つがマックス・プランク学術振興協会(ドイツ最高の研究機関)の研究機関となっている。
  • 英国:
    オックスフォード大学のCTI(Centre for Translational Immunology)との研究協力や、中国医学科学院とオックスフォード大学間の共同研究、その他2つの中国の研究機関との共同研究などが進められている。
  • イタリア:
    2016年、イタリアの国立核物理研究所(National Institute for Nuclear Physics)と中国科学院 高能物理研究所(Institute of High Energy Physics, Chinese Academy of CAS)が協力関係を構築。
  • シンガポール:
    2012年以降、特に中国とシンガポールの共同研究および香港科技大学(HKUST)とシンガポール国立大学(NUS)間の協定により、Nature Indexに化学分野の研究論文掲載数が増加している。
  • ■ 課題はやはり……

    目覚ましい進歩を遂げる中国学術界ですが、世界を席巻する存在になれるかは不透明です。Nature Indexによれば、中国で行われるトップレベルの研究の多くは国際研究であるにも関わらず、それらの研究論文のすべてが中国で出版されているわけではないようです。オンライン学術データベースであるWeb of Scienceの中国版で共有される国際共同研究は、全体の25%に留まっています。国外での急速な進展に、国内における情報共有が追いついていない状況です。その理由として、言語の壁が挙げられます。急速な経済成長により中国の貧困率は改善されているものの、外国語の読み書きをできる人はまだ限られています。そのため、研究を進めるための人材の確保や資金の調達に頭を悩ませる研究機関が少なくないのも現状です。

    中国人研究者の知的所有権侵害、ネットモラルも問題になっています。功績と利益を追い求めた結果、米国内で農業技術や軍事技術に関する情報を中国人研究者が盗み、有罪判決が下されるという事例すら発生しています。世界の学術研究市場で競争に打ち勝ちたいとのプレッシャーが共同研究を促進するものの、モラルに反してでも国家に利益をもたらさなければ、とのプレッシャーは、マイナスに働きかねません。

    ■ ケンブリッジ大学出版局に見る中国市場の価値

    中国政府による情報統制、つまり「検閲」は有名ですが、2017年6月1日に「サイバーセキュリティ法」が施行されました。これは、情報ネットワークの利用に際し、本人の実名登録の義務づけや安全保障をはじめとする重要情報の流布の禁止を謳うもので、企業に対しても、個人情報や業務データの持ち出しの禁止や犯罪捜査に対する技術的支援を求めています。

    これには、言論と思想の統制を強化することが目的だ、との批判が出ていますが、そんな中、ケンブリッジ大学出版局(英国)が8月、中国内で問題視された論文や書評などのコンテンツについて中国からのアクセスをブロックしたことが話題になりました。名門大学の出版社が中国政府の圧力に屈したとされたこの処置。すぐに撤回されたものの、学問の自由を損なうとの批判が、世界中から殺到しました。ケンブリッジ大学は、この遮断が中国からの要求であったことを明確にしています。これは、中国の経済力が一段と強まったことを間接的に示しています。「検閲」への批判はあれど、出版社が中国政府の要求を無視できなくなるほど、中国市場が彼らにとって経営上、大きな存在になりつつあるのです。

    「自国こそがグローバル経済のリーダー」と自負する中国。経済活動だけでなく、学術分野においても、その存在感が高まっています。今後も国際共同研究は増え続けるのか。研究モラルや言論統制の問題は解決されるのか。急激な成長に課題の解決が追いつかない現状はどう変わるのか。中国の動向から目が離せません。

     


    参考
    Enago academy掲載の英文はこちら:Chinese Scientists Increase Global Research Collaboration