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「責任ある研究活動」のために諮問委員会を

「責任ある研究活動」のために諮問委員会を

英語圏では、研究不正の防止に向けた取り組みについて、深い議論が続いています。

2017年4月11日、アメリカの有力な学術団体「米国科学・工学・医学アカデミー(NASEM: The National Academy of Sciences Engineering Medicine)」は、研究不正防止に向けた提言をまとめた報告書『研究公正の育成(Fostering Integrity in Research)』を公表しました。

報告書をまとめたのは同アカデミーの「科学・工学・医学および公共政策・グローバル問題に関する委員会」の「責任ある科学に関する委員会」です。284項におよぶ報告書には、11項目の勧告がまとめられています。本文中には、2014年に日本で騒動になった「STAP細胞事件」も言及されており、「付録」には、米デューク大学のがん研究者アニル・ポッティによる捏造事件など、悪名高い研究不正の事例5件も紹介されています。

『サイエンス』は、11項目の勧告のなかでも4番目に述べられている「研究公正諮問委員会(RIAB : Research Integrity Advisory Board)」の設立に着目しています。

報告書はそのことを次のようにまとめています。

学問分野やセクターを問わず、研究公正を育成することを目的とする継続的かつ組織的な注意を促すために、独立した非営利団体として「研究公正諮問委員会(RIAB : Research Integrity Advisory Board)」を設立すべきである。このRIABは、研究者や研究機関、研究資金提供機関、規制当局、ジャーナル(学術雑誌)、学会など、研究におけるすべての利害関係者と協同して、研究不正や有害な影響をもたらす研究行為に対処するための専門知識やアプローチを共有する。またRIABは、研究環境を評価したり研究行為や基準を改善したりする努力を促すことによって、研究公正を育成する。
(勧告4、182頁より)

「研究公正(research integrity)」とは、以前の記事「研究不正の件数はもっと多い? 英BBCが調査」でも紹介したように「研究者が守るべき倫理や規範」のことです。

この「研究公正」とは反対、いわゆる「研究不正(research misconduct)」以外の「有害な影響をもたらす研究行為(detrimental research practices)」と呼ばれるものに着目していることも、この報告書の特徴です。「有害な影響をもたらす研究行為」とは、典型的な研究不正として知られる「捏造」や「改ざん」、「盗用」などにはあたらないものの、科学の公正さを踏みにじる行為のこと。たとえば「名誉オーサーシップ」といって、過去に集めたデータやサンプルの利用を認める見返りとして、著者としての資格を有さないにも関わらず、オーサーシップ、つまり論文の著者として名前を載せることを求めること、などが挙げられます。

また、本報告書には最近の有害事例の傾向として、本誌「捕食ジャーナルのリスト「ビールズ・リスト」閉鎖」で取り上げた「捕食ジャーナル」や、「フェイク・カンファレンス」にご用心」でお伝えした「フェイク・カンファレンス」についても記されています。

『サイエンス』は報告書の要約として、「昇進を勝ち取るための資金調達競争の激化や人目を惹く出版物の必要性」こそが、研究不正はもちろん「有害な影響をもたらす研究行為」といった研究公正を逸脱する問題を生み出していると指摘しています。

同アカデミーは1992年、『責任ある科学(Responsible Science)』という報告書を公表しており、その中ですでに同様の諮問委員会の必要性を勧告していました。しかし当時はあまり注目されませんでした。今回の報告書は『責任ある科学』を「更新」するために、2012年から「責任ある科学に関する委員会」が検討を重ねた結果です。

研究不正を監視する政府機関「米国研究公正局(ORI : Office of Research Integrity)」や、医学以外の幅広い分野の科学に資金提供する政府機関「米国国立科学財団(NSF : National Science Foundation)」は、毎年何百件もの研究不正の申し立てを受け取っており、何十件もの研究不正を認定しています。これらの政府機関に加え、別の役割を担う組織が必要だ、というのが本報告書の判断であり、RIABの役割を、研究不正に対する調査や規制ではなく、「責任ある研究活動(RCR : responsible conduct of research)」のためのトレーニングの提供などであると想定しています。

「責任ある科学に関する委員会」は調査と検討の結果、RIABは政府から独立した機関であるべきだとも述べています。『サイエンス』はその理由として、研究機関はすでに政府から厳しく管理されており、これ以上の政府による規制を避けたいと考えていること、また、これまでの政府による研究不正への対応に不満を持っていること、という専門家の意見を紹介しています。

RIABの予算は年間300万ドルが提案されており、政府機関や財団、研究機関、大学などがこれを負担することになります。

ジョージア工科大学の名誉教授であり「責任ある科学に関する委員会」の委員長ロバート・ネレムは『サイエンス』の取材に対して、前述のアニル・ポッティの事例におけるデューク大学の対応は、研究不正そのものと同じぐらいひどいものだった、とコメントしています。そのため、大学・研究機関はRCR教育を優先事項と認識することが重要で、RIABはRCRトレーニングの実施をサポートできる、といいます。

また『サイエンス』は同時に、『科学と工学の倫理学(Science and Engineering Ethics)』に発表された、この問題に関係深い研究を紹介しています。

2007年に米国議会はNSFに対して研究費を申請する研究機関すべてに学生および研究者向けのRCRトレーニングを行うように指示しました。しかし、テキサス・サウスウェスタン医療センターのエリザベス・ヘイトマンらの調査では、大部分の大学で行われているRCRトレーニングは、対面ではなくオンラインで、継続的ではなく1回限りで行われている上、専門分野や身分・職位(学生か教員かなど)に応じて細分化されたものではなく汎用的な内容であることが明らかになりました。NSFはRCRトレーニングが将来の研究者や技術者に必須だと考えたにもかかわらず、トレーニングがただの「チェックリスト」と化している実態を把握しておらず、同様に大学や研究機関をモニタリングする責任を十分に果たしていないことなどが指摘されています。

アカデミーの報告書は、このような政府の研究公正に関する方針を実現するための問題解決にRIABが貢献できることがあると記しています。

実は、本誌「「研究不正」を防ぐための倫理教育に効果はあるか?」でも紹介したように、倫理教育、つまりRCRトレーニングが研究不正を防ぐために有効であるという証拠は、いまのところ不十分です。今回の報告書やヘイトマンらの指摘などに促されることによって、RCRトレーニングの質が向上することも期待されます。

 


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ライター紹介:粥川準二(かゆかわじゅんじ)
1969年生まれ、愛知県出身。ライター・編集者・翻訳者。明治学院大学、日本大学、国士舘大学非常勤講師。著書『バイオ化する社会』(青土社)など、共訳書『逆襲するテクノロジー』(エドワード・テナー著、早川書房)など、監修書『曝された生』(アドリアナ・ペトリーナ著、森川麻衣子ほか訳、人文書院)。博士(社会学)。

間違いやすい用語や表現 - bigとlittle

形容詞「big」と「little」は、(例(3)、(4)、(5)で示す「little」の用法を除いて)口語的とされるため、原則として学術論文など、正式な書き言葉を必要とする文章では避けるべきです。

ここで、「big」と「little」に共通する一つの用法と「little」にしかない二つの用法を個別に考察します。

「big」と「little」に共通する用法は以下で例示されます。

[誤] (1) The value of this quantity in the present case is bigger/littler than in the case studied above.

ここでの「bigger/littler」の用法に関して注目すべき点が二つあります。その一つは、口語的な形容詞「bigger/littler」が文全体のスタイルと食い違っていることです。もう一つは、「bigger/littler」によって修飾される名詞「value」が可算名詞となっていることです。このような場合には「big」、「little」をそのまま(口語的でない)「large」、「small」に置き換えることができます。

次の文は「little」独特の用法を例示します。

[誤] (2) The value of this quantity in the present case is a little larger than in the case studied above.

ここでは、「little」は形容詞ではなく、「a」とセットで副詞として形容詞「larger」を修飾している、ということに注目してください。このような用法はかなり口語的です。学術論文では、一般に「a little」の意味を示すのに「slightly」が適切です。

下記の例文で示される用法も「little」独特のものです。

[正] (3) In this case, the perturbation has little effect on the result.
[正] (4) Such objections are of little concern here.
[正] (5) There is yet little information on the outcome of the election.

これらの例文では、「little」が具体的な意味で物事の大きさを意味しているのではなく、より抽象的な意味で用いられているということに注目してください。これは、いずれの場合においても「little」が修飾しているのは不可算名詞だということから明らかです*1 。 なぜなら、不可算名詞が表すものには「大きさ」という性質がないからです*2 。ここで例示されるように、形容詞「little」が抽象的な意味で用いられる場合(要は、可算名詞を修飾していない場合)には口語的ではないとされます。

最後に、「big」には(3)〜(5)で例示されるような用法がないということを考察します。そのために以下の口語的な用例を見てみましょう。

[誤] (6) There is big difference between our dogs.

ここでは、文全体が口語的なものですから、「big」自体の使用には問題がありません。ここでの問題は、「big」が必ず何らかの「大きさ」を表すため、それに修飾される名詞は可算名詞でなければならないということにあります。要するに、ここでの問題は文中の表現が食い違っているというスタイル的なものではなく、より深刻な文法的な誤りですので、会話としても間違っているのです。この文を修正するために「big」の前に「a」を置くべきです。

脚注:
*1 不可算名詞になっていることは冠詞が付いていないことから分かります。
*2 詳しくはグレン・パケット:『科学論文の英語用法百科〈第2編〉冠詞用法』(京都大学学術出版会,2016)をご参照下さい。

 


glenn

グレン・パケットGlenn Paquette

1993年イリノイ大学(University of Illinois at Urbana-Champaign)物理学博士課程修了。1992年に初来日し、1995年から、国際理論物理学誌Progress of Theoretical Physicsの校閲者を務める。京都大学基礎物理研究所に研究員、そして京都大学物理学GCOEに特定准教授として勤務し、京都大学の大学院生に学術英語指導を行う。著書に「科学論文の英語用法百科」。パケット先生のHPはこちらから。

【芝浦工業大学】松日楽 信人 教授インタビュー(前編)

各大学の研究室に訪問し、研究者たちにおける英語力向上の可能性を探るインタビューシリーズ。十一回目は、芝浦工業大学の松日楽信人教授にお話を伺いました。前編では、ご自身の研究と、英語で苦労された経験や勉強法についてお話くださいます。


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■先生の研究室で扱っている専門分野や研究テーマを教えていただけますか。

ロボティクス、つまりロボット工学です。人と共存するロボット技術の研究をしています。その1つがRTミドルウェアで、共通の標準化されたソフトウェアを使っていろいろな応用研究をしています。

カメラマンロボットという、写真を自動で撮ってくれるロボットがあります。そういうロボットの製作にRTミドルウェアを使いますが、要するにこれはロボットにおける要素です。要素としてソフトウェアのモジュールを組み合わせ、目的とするロボットを作っています。

目的としては工業や産業というより、ロボットと人が共存する社会や生活を目指してロボット作りに取り組んでいます。

具体的手順としては、まず最初に自動的に写真撮影をするロボットを作ろうと決めるわけです。それの目的を分解していき、移動を制御するモジュールや、音声を聞き分けるモジュール、そして画像処理で人を見つけるモジュール、もちろん写真を撮るモジュールを組み入れていき、印刷するモジュールまで全部組み合わせるわけです。でもただ組み合わせるだけだとうまくいかないので、そこに我々の研究の要素を加えていくのです。

こうしてできたロボットをいろいろなところでデモンストレーションしています。こういうロボットは役に立ちますかとか、こんなロボットがあるとお店にお客様がたくさん来ます、と。

2つ目のテーマとして遠隔操作ロボット研究をしています。こちらはインターネットで遠隔操作をするロボットです。もし災害の現場など通信のインフラがない場合でも、そこでスマホが使えるなら、この研究を使ってロボットのコントロールができます。つまりインターネットが使えるとどこからでもアクセスでき観察もできるわけです。この研究成果でロボットでどのようなことができるかを検証実験しようとしています。

インターネットの通信プロトコルも共通化が進んでいるところなのでそちらも少し使っていますね。

■確か東南アジアの国から遠隔操作で日本のロボットを動かしたということも聞きました。

特別な準備も要らないんです。福島などの災害現場にRSNPというプロトコルが乗ったロボットを用意しておくと、あとはインターネット経由でいろいろなところからそれぞれの専門家がアクセスして作業することができると思います。国内だけでなく国外からも可能で、そのような臨機応変な遠隔操作のシステムを研究しています。

今、テレプレゼンスという言葉が出てきて、スマホで運用された倒立型のロボットも会議に出席したりしますが、それをもう少し広げてみたいと思っています。

最後の3つ目としては福祉系のテーマです。人間の立ち上がり動作や、高齢者の生活を支援するようなロボット技術を研究開発したいと思っています。

遠隔操作と、応用研究、それに福祉用の機器としての研究という3本柱です。

■わかりました。先生ご自身、英語論文の執筆や学会の発表、または共同研究などの場において英語で苦労したご経験はありますか。

苦労はたくさんしています。英語で発表する機会は多いですが、まだ自分も 英語力 は不足していますので、ディベートや、ディスカッションになると少し苦しいです。学会発表では発言内容は決まっていますから、それなりに対応はできますが、議論や討論のようになってくるとさっと自由に言葉が出ませんから今でも苦労していますね。

■ディベートの場は日常的によくありますか。

学生や留学生がいるので、特に留学生の指導では英語は使わないといけませんが、上下関係がありますから、相手が一生懸命聞いてくれることになってしまう。それが対等の立場で議論しなければいけないとなると、苦しいです。学会発表だけでなく、ワーキングや、国際ワーキングなどが時々ありますが、そのような場面ではまだまだ力不足なところがあります。

■論文等、書くことはいかがですか。

書くことは書きます。英語そのものはそんなに苦手でもなく、好きなので自分で書きますが、やはり基本的な文法などはよく間違えるので、英文校正に出しています。

■先生ご自身が英語論文を書き始めた頃は、書くことに対してどのように慣れていきましたか。

自分で勉強するしかないですよね。英語の論文を読んで、書き方や、分野が同じだったらそのキーワードを使って書き続けました。

同じ分野ならではの表現方法がありますから、それを参考にしながら、自分流ながらも書いていました。

■自分自身で多くの論文を読み、まず書くことがあるのですね。恩師からご指導を受けたりしましたか。

僕自身は長く会社に勤務していました。大学に来て6年目ですが、会社では自分でちゃんと書いたものを英文校正に出して、外部に出します。だから文章はしっかり見てもらうのは自分にとって前提になっています。


後編では、学生や若い研究者の英語力向上方法と、それをサポートする大学の役割について言及されます。

【プロフィール】

松日楽 信人(まつひら のぶと)
芝浦工業大学 工学部 機械機能工学科 教授

 
1982年-2007年東京工業大学理工学研究科大学院修士課程修了
1982年-2007年東京芝浦電気株式会社(現 株式会社東芝)入社
2004-2007年 東京工業大学21世紀COE特任教授
2005‐2008年 総合科学技術会議科学技術連携施策群次世代ロボット連携群
2011年-2007年芝浦工業大学工学部機械機能工学科教授(~現在)

 

複数形の誤用

英語には、通常単数形でしか用いられない名詞がたくさんあります。それらの名詞は、通常の用法で不可算物あるいは一つの可算物とみなされるものを意味するわけです。英語を母語としない人がこのような名詞を誤って複数形で用いているのをしばしば見かけます。

以下はこのような誤りの典型例です。

[誤] (1) These data analysis studies have added many knowledges to our understanding of neuronal firing patterns.
[正] (1’) These data analysis studies have added much knowledge to our understanding of neuronal firing patterns.

[誤] (2) In the final section, we give concluding discussions.
[正] (2’) In the final section, we give concluding discussion.

[誤] (3) We report previously unobserved behaviors in the metallic superconductor Sr2RuO4.
[正] (3’) We report previously unobserved behavior in the metallic superconductor Sr2RuO4.
[正] (3’’) We report previously unobserved types of behavior in the metallic superconductor Sr2RuO4.

[誤] (4) We first introduce some notations.
[正] (4’) We first introduce some notation.

[誤] (5) There have been great progresses in the field of machine learning in recent years.
[正] (5’) There has been great progress in the field of machine learning in recent years.

[誤] (6) Here we study the time evolutions of protein corona formations.
[正] (6’) Here we study the dynamics of protein corona formation.

[誤] (7) Study of the present model provides many new informations.
[正] (7’) Study of the present model provides much new information.

[誤] (8) There are many researches on the causes and effects of climate change.
[正] (8’) There is a great deal of research on the causes and effects of climate change.
[正] (8’’) There is a great body of research on the causes and effects of climate change
[正] (8’’’) There are many studies on the causes and effects of climate change.

[誤] (9) We next study how the efficiency of the decision-making process can be increased by the introduction of random noises.
[正] (9’) We next study how the efficiency of the decision-making process can be increased by the introduction of random noise.

[誤] (10) There is a lack of evidences for the existence of gravitons.
[正] (10’) There is a lack of evidence for the existence of gravitons.

[誤] (11) The author is grateful to M. Stevens for her advices on the various methods of sample preparation.
[正] (11’) The author is grateful to M. Stevens for her advice on the various methods of sample preparation.

[誤] (12) There are few agreements among these sets of results.
[正] (12’) There is little agreement among these sets of results.

[誤] (13) The various energies in this system can be understood as follows.
[正] (13’) The various forms of energy in this system can be understood as follows.

[誤] (14) Such uncontrolled motions of the detector and the source can result in significant error in the measurement of the scattering angle.
[正] (14’) Such uncontrolled motion of the detector and the source can result in significant error in the measurement of the scattering angle.

 
関連した議論についてはグレン・パケット:『科学論文の英語用法百科〈第2編〉冠詞用法』(京都大学学術出版会,2016)をご参照下さい。

 


glenn

グレン・パケットGlenn Paquette

1993年イリノイ大学(University of Illinois at Urbana-Champaign)物理学博士課程修了。1992年に初来日し、1995年から、国際理論物理学誌Progress of Theoretical Physicsの校閲者を務める。京都大学基礎物理研究所に研究員、そして京都大学物理学GCOEに特定准教授として勤務し、京都大学の大学院生に学術英語指導を行う。著書に「科学論文の英語用法百科」。パケット先生のHPはこちらから。

研究不正の件数はもっと多い? 英BBCが調査

研究不正の件数はもっと多い? 英BBCが調査研究不正(research misconduct)の件数は、公式に認定されているよりもずっと多いかもしれません。イギリス放送協会(BBC : British Broadcasting Corporation)が独自調査の結果を3月27日に報じました

イギリス議会には上下両院に科学技術委員会(Science and Technology Committee)が設置されていますが、下院科学技術委員会は今年1月、同国の立法支援機関である議会科学技術室で研究不正が問題視された(POST note、2017年1月 No.544)ことを受け、研究不正に関する調査を開始しました。同委員会のスティーブン・メトカルフ委員長はBBCに「研究に不正があることがわかった場合、人々に大きな影響を与え、それが不信につながるのです」と、この問題の重要性を語っています。

研究不正についての公式なデータはあまりないのが実状です。

たとえば、領域別に区分された7つの科学者団体から構成される英国研究評議会(Research Councils UK)は、2012年から2015年までの間に33件の研究不正の「申し立て」があったと報告しています。これらのうち5件が正式に不正だと判断され、20件が却下され、8件が調査進行中だといいます。

また、大学の学長らで構成される「英国大学協会(Universities UK)」は、2013年から2014年までの間に19校が発表した研究不正についての声明を検討しました。29件の「申し立て」が報告されていたのですが、調査後、そのうち7件が不正と判断されたといいます。

「これらの件数が、重複するケースを含むのか、まったく異なるケースなのかは明らかではありません」とBBCは述べています。

2012年、イギリスでは国内の大学が「研究公正」を支援するための協定を締結しました。「研究公正(research integrity)」とは、研究者が守るべき倫理や規範のことで、「研究における公正性、誠実さ、高潔さ」と説明する研究者(研究者による「研究公正」の説明はこちら)もいます。「研究不正(研究における不正行為)」とは、研究公正に対する違反のことです。この協定は大学に対して、研究不正の申し立てを扱うための「透明性があり、断固として、公正なプロセス」を採用するよう奨励しています。しかしながら、研究公正に対する違反の件数を公表することは義務づけられていません。

BBCは、イングランド、ウェールズ、スコットランド、北アイルランドに点在する研究中心の教育を行う公立大学から構成される「ラッセル・グループ(Russell Group)」に所属する全24校に、2011年から2016年までの間にあった研究不正の申し立てについて尋ねました。1校を除くすべての大学から全面的または部分的な回答が得られました。その結果、教職員(staff)や研究学生(research student)から合計319件の申し立てがあったことが明らかになりました。
「実際の数は、一部の大学が完全な数字を提供していないため、この件数より多くなる可能性があります」とBBCは補足しています。そのうち103件が不正と判断され、173件が却下され、43件が調査進行中でした。

そのなかには、データの「改ざん」や「盗用」のほか、他人の研究成果を自分の研究成果と称していたケースなどもありました。

また、この調査は、少なくとも32件の研究論文と少なくとも3件の博士論文の撤回につながる結果となりました。BBCが英国大学協会にこの調査結果についてコメントを求めたところ、断られたとのことです。

日本では2014年、文部科学省が「捏造」「改ざん」「盗用」を「特定不正行為」と定義し、報告された事例をウェブサイトで公開しており(「文部科学省の予算の配分又は措置により行われる研究活動において特定不正行為が認定された事案一覧」)、現在では2015年以降の事例として15件がリストアップされています。しかし、研究不正が疑われて報道されたケースはもっとたくさんありますし、BBCの調査も踏まえれば、これらは氷山の一角と考えたほうがいいでしょう。

 


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ライター紹介:粥川準二(かゆかわじゅんじ)
1969年生まれ、愛知県出身。ライター・編集者・翻訳者。明治学院大学、日本大学、国士舘大学非常勤講師。著書『バイオ化する社会』(青土社)など、共訳書『逆襲するテクノロジー』(エドワード・テナー著、早川書房)など、監修書『曝された生』(アドリアナ・ペトリーナ著、森川麻衣子ほか訳、人文書院)。博士(社会学)。

冠詞用法I: 量を表す名詞はその値によって 一意に特定されない

私が読んできた論文からすると、日本人が書く英文における問題点は3〜5割が冠詞用法に関わるものです。誤った冠詞用法がよく見られる名詞の中でも量を表す名詞は特別です。量を表す名詞で見られる誤った冠詞用法は、誤りの多さおよび誤りが引き起こす意味上の問題の深刻さによって、特に顕著な誤用です。ここでは、その典型的な誤用の一つを考察します。

冠詞の誤用を引き起こす原因に、量を表す名詞独特の誤解が幾つか存在します。その一つは以下の誤用例で見られます。

[誤] (1) This circle has the radius 3 mm.

この文の書き手は、名詞「radius」がその修飾語である「3 mm」によって一意に特定されると勘違いしたようです。この勘違いは、ある量の可能な実現とその可能な実現値とが一対一の関係にあるという誤解に起因するものだと思われます。実際は、(英語に内在するロジックでは)ある量が考察される個別のケースにおいて、たとえそれぞれのケースにおける量の実現値が全く同じだとしても、それぞれのケースにおける量の実現は個別の存在として解釈されます。3 mmの値を持つ半径というものが様々存在するわけです。従って、上述の例文中の名詞「radius」が表すものは唯一ではありません。よって、「the」は削除すべきとなります。

[誤] (1)の訂正文としては、以下が挙げられます。

[正] (1’) This circle has a radius of 3 mm.
[正] (1’’) This circle has radius 3 mm.
[正] (1’’’) This circle is of radius 3 mm.
[正] (1’’’’) The radius of this circle is 3 mm.

以下に同様の誤りとその修正方法を示します。

[誤] (2) These particles emerge with the velocity 0.19 c.
[正] (2’) These particles emerge with a velocity of 0.19 c.
[正] (2’’) These particles emerge with velocity 0.19 c.

[誤] (3) These two events occur in the ratio 3 to 1.
[正] (3’) These two events occur in a ratio of 3 to 1.
[正] (3’’) These two events occur in a 3 to 1 ratio.

[誤] (4) The second term is larger by the factor 3.
[正] (4’) The second term is larger by a factor of 3.

詳しくはグレン・パケット:『科学論文の英語用法百科〈第2編〉冠詞用法』(京都大学学術出版会,2016)をご参照下さい。

 


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グレン・パケットGlenn Paquette

1993年イリノイ大学(University of Illinois at Urbana-Champaign)物理学博士課程修了。1992年に初来日し、1995年から、国際理論物理学誌Progress of Theoretical Physicsの校閲者を務める。京都大学基礎物理研究所に研究員、そして京都大学物理学GCOEに特定准教授として勤務し、京都大学の大学院生に学術英語指導を行う。著書に「科学論文の英語用法百科」。パケット先生のHPはこちらから。

ABEC2015

ABEC 30周年を祝う2015年の年次大会にスポンサーとして参加

英文校正エナゴと論文翻訳ユレイタスは、2015年12月にブラジルのサンタ・カタリナで開催された第15回ABEC(Associação Brasileira de Editores Científicos)の年次大会にスポンサーとして参加しました。

今回の開催はABECの30周年を祝う会合でもあり、講演などの内容は、ブラジルにおける出版物のコンテンツの品質と生産量向上に向けて最新の研究開発をキャッチアップする必要性を含め、業界にとって最新のビジネスチャンスと課題に重点を置いたものとなりました。

より詳しい情報はこちらから(英語)
Enago and Ulatus attend 15th Annual Meeting of Brazilian Association of Scientific Editors (ABEC)

 


英文校正エナゴについて

■ISO 9001:2008(品質マネジメント) 認証取得
■ISO 27001:2013(情報セキュリティ) 認証取得
英文校正の専門業者。これまで国内外58万稿の英語論文を校正してまいりました。「論文と同じ分野の博士号を持つ専門家」と「アカデミックライティングの専門家」の2名同時の重点チェックが最大の特徴。国際品質認証ISOを取得した管理システムの下、常に品質の維持向上と顧客満足度を追求しております。

ウェブサイト:www.enago.jp

CSE2015-report

CSE2015の報告書の要約をESE誌11月号に掲載

2015年5月17日にアメリカで開催されたCSE(Council of Science Editors)年次大会に参加した英文校正エナゴが報告書をまとめ、要約がESE(European Science Editing)誌の11月号に掲載されました。当大会ではエナゴ自身もパネルディスカッションの司会を担い、最近の出版モデルにおけるメリット、デメリットを含む様々な要素について議論を行いました。

より詳しい情報はこちらから(英語)
2015 CSE Annual Meeting: Enago Publishes CSE Conference Report in ESE


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CES2015

CSE2015の年次大会「動的変数 -校閲・出版の新しい方程式を解く」に参加

2015年5月17日、アメリカ合衆国のペンシルバニア州フィラデルフィアで開催されたCSE(Council of Science Editors) の年次大会に、英文校正エナゴが参加しました。

「動的変数 -校閲・出版の新しい方程式を解く」というテーマの下、世界各国から500人以上が集まる盛会でした。G.サイード・チャウドリー氏(ジョン・ホプキンス大学)による基調講演は「研究データ革命」という演題で行われ、増大するデータの共有・保存についての重要性が高まる中、出版社に期待される役割が示されました。他にも、STM(科学・技術・医学分野の)出版社にとって留意しておくべきデータ利用基準などについて多くの発表が行われ、実り多い大会となりました。

より詳しい情報はこちらから(英語)
2015 CSE Annual Meeting: Enago Conducts Session on Self-Publishing


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ALPSP2015

ALPSP 2015 年次大会に参加ー学術出版における最新技術情報を共有

04042015年9月13-15日の間、ロンドンで開催されたALPSP (Association of Learned & Professional Society Publisher)の第10回年次大会に、英文校正エナゴが参加しました。

ALPSPは非営利出版社および学術コミュニケーションに属する関係者のための世界最大の学術出版協会で、40カ国、400名以上の会員を有しています。2015年の年次大会では、学術資料検索「Google Scholar」の共同設立者の一人であるアヌラグ・アチャリア氏(GoogleInc)による基調講演をはじめとした、学術出版における最新技術や先端的な取り組み、ウェブ出版に関する情報などが共有され、今後の課題についての話し合いが行われました。

より詳しい情報はこちらから (英語)
Expand Your Global Reach! – Message from the 2015 ALPSP Conference


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