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研究不正が発覚した研究者でも、多額の助成金を獲得

Kayukawa_shot_ 2017-03-02一般的には、研究不正(データの捏造、改ざん、盗用など)が発覚した研究者は、研究の世界から追放されると思われているかもしれません。しかし、2017年1月に発表されたある調査では、研究不正が発覚し、何らかの制裁を受けた後であっても、研究を続けているだけでなく助成金を獲得し続けている研究者が少なくないことがわかりました。

米国イリノイ大学の研究公正官−−アメリカでは、研究機関には研究不正に対応する職員「研究公正官」を配置することが義務づけられています*¹−−カイル・ガルブレイス(Kyle L. Galbraith)は、1992年4月から2016年2月までの間、アメリカの政府機関「米国研究公正局(ORI : The Office of Research Integrity)」によって、研究予算の受領の一時停止など制裁措置を受けた研究者284人を特定しました。

彼はオンラインのデータベースなどを活用して、その284人のうち、何人が研究を続けているかを確認しようと試みました。該当する研究者が公表した論文を「PubMed」で検索したり、彼らが国立衛生研究所(NIH)から得た助成金や研究分野における地位を調べたりしたのです。

その結果、半数近くの134名(47.2%)が研究を続けていることがわかりました。113人は研究職に従事していることがオンライン上で確認され、118人はPubMedに論文が公表されていることも判明しました。

また、約8%にあたる23人は、ORIによる制裁を受けた後にもNIHから助成金を得ており、さらにこのうちの17人の研究者は、彼らが関与する61件の新規プロジェクトに対して1億100万ドル以上の助成金を獲得していることが見えてきました。

彼の調査結果は『人間研究倫理に関する実証的研究ジャーナル(Journal of Empirical Research on Human Research Ethics)』で2017年2月に公表されています。

ガルブレイスは職業上、研究不正が発覚した研究者でも研究を続けられる場合があることを知っていましたが、この割合の高さには驚きを隠せませんでした。また、彼の知見は「不正行為を行った科学者は、セカンドチャンスを与えるに値しないと考える研究者に不快感を与えるだろう」と、『サイエンス・インサイダー』は書いています。

彼の調査で気になる点は、不正発覚後でも研究を続けられるかどうかに、その研究者の職位と関係する傾向があると示唆されていることです。彼は論文の中で

……不正行為後にも研究活動を継続していた教職員の率は、大学院生の約2倍である。……言い換えれば、ジュニアの研究者のほとんどは、彼らの指導と訓練を担当するシニアの研究者よりも、不正行為後に(短いながらも築いてきた)研究キャリアを続行する可能性が非常に低い。

と指摘しています。

同じ研究不正が発覚しても、教授など職位や年齢の高い者は研究に復帰できる可能性が高く、大学院生や研究技術者など若手で研究歴が短く職位の低い者は復帰できない傾向がある、ということです。もし「セカンドチャンス」を与えるのだとしたら、一般的には、若い人を優先すべきと考えられそうですが、現実は逆のようです。

とはいっても、ガルブレイスは、 研究不正 が発覚した研究者に対し、厳しい制裁を下したり、学術界から追放したりすれば良い、と考えているわけではありません。本連載では以前に、研究不正などが発覚した研究者たちを「リハビリ」する「PIプログラム」を紹介したことがありますが、今後、こうしたプログラムの有効性がわかってくれば、研究不正を行った研究者に対する措置の選択肢としてあり得ると、彼は指摘しています。

アメリカでの研究不正に関する議論の加熱ぶりは目覚しいようです。日本には研究公正局に該当する組織がなく、ほとんどの研究機関に研究公正官がいないのが実態なのです。

*1 研究公正官
保健福祉省の公衆衛生庁(PHS)に設置された研究公正局(ORI)によって、国立衛生研究所(NIH : National Institute of Health)の研究費を申請・受給する大学・研究所には、最低1人の研究公正官(Research Integrity Officer)の設置(兼任可)が義務づけられている。ORIのウェブサイトには、ORIにおける研究不正に対する活動概要の紹介や、現在措置実施中の不正事案のリストなどが公開されている。


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ライター紹介:粥川準二(かゆかわじゅんじ)
1969年生まれ、愛知県出身。ライター・編集者・翻訳者。明治学院大学、日本大学、国士舘大学非常勤講師。著書『バイオ化する社会』(青土社)など、共訳書『逆襲するテクノロジー』(エドワード・テナー著、早川書房)など、監修書『曝された生』(アドリアナ・ペトリーナ著、森川麻衣子ほか訳、人文書院)。博士(社会学)。

【日本医科大学】荒木 尚 講師インタビュー(前編)

各大学の研究室に訪問し、研究者たちにおける英語力向上の可能性を探るインタビューシリーズ。十回目は、日本医科大学の荒木尚講師にお話を伺いました。前編では、ご自身の「英語は英語で学び、頭の中に独立した英語脳をつくる」英語学習法についてお話くださいます。


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■先生の専門分野、研究テーマを教えていただけますか。

僕は、基本的には臨床に従事していますから、基礎研究はやっていません。ほとんど臨床研究になります。患者さんを診る際の事柄をずっと自分で登録していき、それをデータとして解析して、という手法になりますから、多施設というよりも、今のところ単一施設だけで自分が面白いと思ったデータを集めて研究しています。

私はもともと脳外科の出身ですから、中枢神経の、特に外傷に興味を持っていました。その中でも子ども、つまり生まれてすぐから16、7歳ぐらいの思春期あたりまでの頭部の外傷がテーマです。
 

■その中の、特に救急救命センターの方ですか?

そうですね。救急疾患とか、あるいは集中治療とか、あと助けられない場合には脳死や臓器の提供、そういう段階に進みます。生命倫理にも興味を持っています。
 

■先生ご自身、英語の論文の執筆や学会発表、共同研究などの場で英語でご苦労された経験はありますか?

もうすべて苦労ですね。苦労以外ない。それを日本語で苦労と言ってしまうとかえってやりたくなくなります。漢字の字面も悪いでしょう。苦労って、いかにも苦しんでいる感じがしますよね。だけど、やっぱり英語圏以外の、母国語でない人間たちにとってこれは共通の感覚であって、もうしかたがないと思います。

ネイティブに伍すといっても、北米や、いわゆる英語圏で生まれた人たちのように、英語を使いこなすわけではないのです。ただ誤解を生じてしまわないように、また不当な差別を受けないようなレベルまではブラッシュアップしたいですね。

ただ苦労には結局自分が生きてきた文化が表現されてしまいます。これがたたって英語で書いた文章であっても、あとから読み直すと結局日本人の考え方の文章になっているわけです。

つまり英語を書くうえで一番難しい点とは、英語を話す人たちの物の考え方や論理を、ネイティブの人たちが書いた論文の中から何回も繰り返し学んで、それを自分のものにして、日本語の思考からは少し離れてしまうようにはなりますが、パターンとして文章として表していくことでしょう。その作業が一番大変なのではないでしょうか。
 

■単純に英語の文法や専門用語だけではなく、思考のところから変えていかないと、ネイティブの方に誤解を受けないような表現に書くのは難しいと言うことですか?

昔からよく言われていることは助動詞の選択とかですね。例えば、推測するという一言にしても様々な言い回しがあるわけで、腰の引けた言い回しをすると査読者からは低い点数を受けるという。

じゃあ、強すぎるとどうなのかというと本当は自分ではそこまで強調したくないのにというギャップが出てくるわけです。そういうところでとても労力を使います。

ですから、基本的には僕は自分が書いた英語の最初の原稿は、初めからこれはとんちんかんなものだ、と思って校正に出しています。それだからこそ、返ってきた時の表現を見て、このように表現するのだなと学べるわけです、日本人はまずは自分の英語はだめだと思い、間違いだらけだということを認識したうえで校正にかけるのが大切だと思います。
 

■まず、前提として自覚しないといくら文法力があり、知識として持っていても、なかなかうまくいかないということでしょうか?

そうですね。 英語 を軽く見る意味ではなくて、言葉、グラマーとか、ストラクチャーとかフレームとかそういう意味での英語というのは、自分がどう思い、何を感じているかを表すための道具であって、この道具を使いこなさないといけないのです。

しかし、人間の考え方が極めて日本人的だったり、例えば論理が整理されていなかったりするものではとても英語になりようがない。だから、翻訳される方も翻訳しようがない。読む方でも、いったいこの日本語は何を言い表そうとしているのか、あるいは、日本人が書いた英文のこの論文はいったいどこをポイントにしようとしているのかと非常に悩まれると思います。
 

■そういう難しさを踏まえ、先生ご自身、独自の勉強法やあるいは恩師から指導を受けた経験などがありましたら教えていただけますか。

僕は独学です。独学と言うと聞こえはいいですが、我流です。高校生頃、周囲の人はよく単語帳を作って暗記して、長文読解は動詞の上に日本語で意味を書き込んで、試験問題を解いたものですが、僕はそういう受験の英語がとても苦手でした。いい点数も全く取れませんでした。高校の授業では恩師から「辞書は英英辞書を使え」と言われていたので医学部に入ってからも英英辞書でずっとやってきました。意味を取るのには確かに時間はかかります。それに、独善的な解釈になる可能性もあって、当然間違いもあるし遠回りのやり方だと思います。でも英語で言葉の意味を理解してみよう、日本語を差し挟まないようにしよう、とする努力はしてきたつもりです。

あとは、リスニングです。リスニングは最後の最後まで苦労しました。今も非常に弱いですが、確か、リスニングの能力についてですが、英語学生は、自分自身が話す英語の速さの1.5倍程度まで聞き取ることが出来ると聞いたことがあります。僕はカナダに3年8カ月留学していたうちの最初の1年間は、病院でのデータ整理が終わると丸々、語学学校での修行でした。グラマー、スピーキング、ライテイング等全ての学習コースを取りました。大体10歳ぐらい年が下の大学留学生たちと勉強してました。中には、母国で科学者だった人、医師や教師などもおられました。それなりのお金も使いましたけど、日本の英語学校では学べないいろいろなことを教えてもらって、非英語圏の人達が英語を学ぶ時、どのようにして英語を獲得していくかということまで教わりました。

そこでは、そのためにはとにかく日本語を差し挟まずに英語の社会に行って英語の生活にまず連続450時間浸かることだ、と言われました。450時間というと大体1カ月ですよね。その間、まったく日本語を使ってはいけないわけです。インターネット上でヤフーJAPANを見たり、Eメールで自分の家族と日本語を使ったり、国際電話で話したりしてもだめです。日本語の音楽やテレビもダメです。全て、朝から晩まで日本語は一言も見ても触れてもいけないという生活を1カ月しなさいと言われました。それはつらかったですが今は非常に役に立っています。(週末にはよく映画を観に行きました。キャプションの無い中での2-3時間は結構きますが、好きな映画は何度も観ました。丁度その頃は、Last Samuraiとか、Lost in Translation, Kill Bill等が流行りました。テレビではER, Grey’s Anatomy, Friendsなどを見たり、SitcomのDVDを何回も見たりしました。多分DVDは滞在中500本は見たと思います。最初は趣味と言うより学習の意味が強かったように思いますが、完全に趣味になりました。)

そういう過程を経て初めてやっとイングリッシュのランゲージセンターが脳の中に獲得されるからと言われたものですから。それからですが、少しは進歩を実感しました。でないとなんなのと言う感じですよね。

テレビで英語のプレゼンテーションなどを聞く時は、今もよく副音声にしますが、その時にはきっと、自分のイングリッシュブレーンの方にスイッチをして一生懸命聞いている、つまり自分が毎日使っている脳とは別の部分で理解しているんでしょうね。たまにテレビの翻訳が適当だったりするのに気がつく事もあります。

そして、日本語の英語学習教材は買わない。TOEFLとかの勉強をする時もTOEFLの英語版の教材でした。しかし、日本で勉強していた際に、一カ所だけ素晴らしいTOEFL予備校に出会い、毎週通いました。AREという代々木にある学校です。独学ではTOEFLの点数がまず上がらないだろう、と悩んでいるときに門を叩きましたが、忘れられない多くの先生方と、志の高いクラスの仲間に出会い、TOEFLの点数も上がり、今でも本当に感謝しています。同窓生も各方面で活躍されているようで、年に数回ではありますがやり取りしています。AREで教わったことは今でも非常に身になっています。また、カナダのトロント大学の語学学校のグラマーも非常に良かったです。


後編では、英語でコミュニケーションを取る上での「人間性」の大切さについて言及いだたきます。
 

【プロフィール】

荒木 尚(あらき たかし)
日本医科大学 救急医学教室 講師

 
1977年-2005年佐賀医科大学卒業
1999年-2005年日本医科大学救急医学教室
2001-2005年 トロント小児病院脳神経外科へ留学
2009年-2005年国立成育医療研究センター脳神経外科
2011年-2005年日本医科大学救急医学教室(~現在)

 

臨床試験の結果をシェアしていないのは誰だ?

スクリーンショット 2017-01-23 3.12.53 PM以前、本誌「臨床試験の結果、いまだ半分以上が未公開」でも紹介したように、実施されたはずの臨床試験の結果のうち約半数ないし半数以上が公開されていないことが問題になり続けています。2016年8月には、子どもを対象にした臨床試験のうち半数近くが、途中で中止されたか、完了しても公表されていないことが新たに明らかになりました。

「臨床試験」とは、被験者、つまり生きている人間を使って、新薬や医療機器の有効性や安全性を検証することです。したがって、その結果が公開されていないということは、医師や患者が治療方法を決定する際に参考になる情報があるにもかかわらず、それらを参照できないことを意味します。

2016年11月、臨床試験のデータを開示するよう製薬業界を促している研究者や医学ジャーナルのグループ「オールトライアルズ(AllTrials)」は、「誰が臨床試験の結果をシェア(共有)しないのか?(Who’s not sharing their trial results?)」というウェブツールを制作・公開して、臨床試験の結果の公開状況を可視化しました。

オールトライアルズは、臨床試験のデータベース「ClinicalTrials.gov」に登録されている臨床試験すべての詳細を定期的にダウンロードし、臨床試験の結果がジャーナル(学術雑誌)に発表、または「ClinicalTrials.gov」に報告されているかを調べ、いずれにも公開されていない場合には、該当の臨床試験データが「欠落(missing)」しているものとしてカウントするよう、ツールを設計しました。

その集計によれば、2006年1月以降、臨床試験の主なスポンサーは、2万5927件の臨床試験を完了したのですが、そのうち1万1714件の結果が公開されていません。「このことは、臨床試験の45.2%の結果が欠落していることを意味します」とオールトライアルは記しています。

スポンサー別に見ると、「結果が欠落している臨床試験」が最も多かったのは、製薬大手サノフィ(Sanofi)です。同社は正式な臨床試験435件を実施しましたが、285件(65.5%)の結果は公開されていません。同社は生物医学のニュースサイト『STAT』の取材に対し、自分たちは「規制要件と自主的開示に関する業界の勧告」に従って、「ClinicalTrials.gov」や「EU-Clinical Trial Register」といったデータベースやジャーナル、学会などで結果を公表している、と反論しています。

2位以下には、ノバルティス ファーマ(Novartis Pharmaceticals)の201件(37.6%)、国立がんセンター(NCI)の194件(34.8%)が続きます。「この問題は製薬会社に限らない」という『STAT』の指摘は重要です。製薬企業だけでなく、公的な機関がスポンサーとなった臨床試験でも、「結果が欠落している臨床試験」が多いことが目立つのです。

また、件数ではなく非公開率で見ると、1位はインドの製薬企業ランバクシー・ラボラトリーズ(Ranbaxy Laboratories Limited)で、35件の臨床試験すべての結果を公開していません。一方、アイルランドの製薬企業シャイアー(Shire)は、96件すべての結果を公開していることもわかりました。

オールトライアルズは、このウェブツールで臨床試験のスポンサーたちにこう呼びかけています。

臨床試験のスポンサーのみなさま。 臨床試験公開ランキングのスコアを向上させたければ、要約結果を「ClinicalTrials.gov」に投稿するか、公表された結果を記したPubMedのエントリーに臨床試験のNCT IDを追加するよう出版社に依頼してください。直ちにデータを更新します。

2017年1月現在、上述の数字は変わっていないようです。臨床試験に参加した被験者や、社会に対する責任が果たされることを期待します。


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ライター紹介:粥川準二(かゆかわじゅんじ)
1969年生まれ、愛知県出身。ライター・編集者・翻訳者。明治学院大学、日本大学、国士舘大学非常勤講師。著書『バイオ化する社会』(青土社)など、共訳書『逆襲するテクノロジー』(エドワード・テナー著、早川書房)など、監修書『曝された生』(アドリアナ・ペトリーナ著、森川麻衣子ほか訳、人文書院)。博士(社会学)。

複数筆者の中で偉いのは?

学術論文には、通常複数名の著者がいます。近年、専門分野の境界線や国境を越えて新しい共同研究が行われ、複数の著者による共著の論文数が増加してきました。これにより、共同研究者の役割を適切に記載することが大きな課題となっています。

学術出版物において研究者が担う役割には、実験の設計・実施から、データの分析や論文の執筆まで、多岐にわたります。論文作成にあたり「最も貢献度の高い研究者」が筆頭著者となり、「最も高く評価される」というのが伝統的なあり方ですが、第二筆者以降の役割はあまり定義されていません。多くの研究分野では、最後に記載されている著者が、その研究の実施を管轄した人だと見なされ、筆頭著者と同程度に評価されています。しかし、これはあくまで非公式の慣習であり、最後に記載されている著者がその研究を「実現させた」人だという想定が常に正しいわけではありません。

実際、論文に記載する著者名の順序は、貢献度、アルファベット順、職位順など、状況に応じて様々な方法で決めることができます。このため、実際の貢献度を検討する際や、業績評価委員会による今後の評価の際に、部外者が論文に記載された著者一覧を適切に解釈することが難しくなっています。

そこで、研究者、編集者、研究機関、そして資金提供団体は、研究プロジェクトに対する個人の貢献について、より詳しい情報を知りたいと思うようになっています。2名の著者による論文の第一著者と第二著者であればわかりやすいのですが、著者の数が増えていくと、複雑になっていきます。この問題に対して、どのような解決策が図られているのでしょうか?

学術校正・翻訳業界の専門家の意見を紹介します。


「CRediTとOpenRIFは、著者の貢献度を判断する際の2つの解決策です。」

editor01通常、私たちは、ある研究の筆頭著者が最も評価されると考えますが、いつもそうだとは限りません。その研究の中の特定の部分については他の著者が大きく貢献したのかもしれません。しかし、著者リストに関する現在の規定では、他の著者の貢献度を測ることができません。学術誌が著者をアルファベット順に並べた場合、著者一覧を見ても、誰が何を担当したのかを見分ける方法はありません。

ほとんどの読者にとっては、どの研究者が何を担当しているかは問題にならないかもしれません。しかし、研究者の評価を仕事にしている人にとっては、どの著者がどのような貢献をしたかを正確に判断できないことが問題になることもあります。ある論文に対する各著者の具体的な貢献を区別することが重要な場合も多いのです。ある著者が、研究費や奨学金を申請する際や、大学院に出願する際には、研究に貢献したその他の著者の中で、特に自分の仕事を目立たせたいと思うことでしょう。

また、論文に実質的な貢献をしなかった人の名前が著者として記載される場合もあり、さらなる混乱が生じる原因にもなりかねません。こういった「名前だけの著者」が、論文に信頼性をもたらす場合もありますが、本来の著者がどのような貢献をしたかはさらに不明瞭になってしまいます。

これらの問題に対応するため、著者の貢献度を明瞭にするプログラムが開発されました。CRediT(Contributor Roles Taxonomy)OpenRIF(Open Research Information Framework)は、著者の貢献度を判断する際の2つの解決策として活用できます。CRediTは、貢献者に関する説明を学術誌に提示し、著者として公式に記載されている、いないに関わらず、研究に参加した貢献者を識別することができます。また、OpenRIFは、研究に対する具体的な貢献に関する情報を分類することで、著者についての透明性を高めています。

CRediTやOpenRIFといったツールによって、研究者が自らの貢献度を評価される可能性は高まりつつあります。

博士(認知科学)
米国にて7年以上の学術論文校正経験


「論文の著者になることはたいへん重要であり、複数の著者による論文が増加するにつれて著者になる機会が増える半面、著者としての立場を獲得することは難しくなっています。」

Editor3著者になることは、研究者にとって重要ですが、不正にさらされることもあります。経験ある研究者が肩書きだけの著者として記載されるにせよ、大きな貢献をした人が記載されないにせよ、論文の冒頭に書かれる筆者一覧から誰が何をしたかについて詳細を把握することはできません。この点について、各著者の貢献を記した部分がより明確な情報を与えてくれる場合もありますが、最終的には、筆頭著者と、最後に名前の書かれた著者が、その研究の主たる責任者として最も高い評価を受けると推定されます。

科学とは、情報交換や各種学会を通してすばらしいアイディアが生み出される「共同的な実践活動」だと考えれば、研究費を確保するために本当に重要なのは、著者として認められることだけです。そのために、この10年間、研究者の業績を定量化する指標として、「H指数」というものが導入されてきました。

この指数は、ある研究者が、筆者リストにおける名前の配置に関わらず、公刊した論文が何回引用されたかを算出したものです。H指数の数だけ引用された論文が少なくともH本以上あることを意味しています(H指数が10の場合、10回以上引用された論文を少なくとも10本以上公刊しているということです)。この指標により、公刊論文の数と引用された数(被引用数)との均衡が図られています。あまり論文を公刊していない若手研究者が影響力の大きな論文を1本発表すると、その若手研究者は研究者の間で一目おかれますが、著者としてのH指数がすぐに上がるわけではありません。一方、公刊論文数の多い、経験ある研究者が影響力の小さな論文を発表してもH指数には反映されません。ただし、研究者が被引用数よりもはるかに多くの論文を公刊している場合は、被引用数が時間の経過とともに積み重なることでH指数が上昇するかもしれません。

いずれにせよ、著者になることはたいへん重要ですが、複数の著者による論文が増加していることで、著者となる機会は増えています。著者としての立場を獲得することが難しくなってきているものの、研究の質あるいは量に関する基本は変わりません。著者として記載する際の基準の透明性を改善すれば、合議で決められていた論文における位置づけを利己的に利用するのを防ぐのに役立つかもしれませんが、この基準はかなり柔軟なものであり続けるでしょう。

修士(癌研究)
豪州にて12年以上の科学・医療文献執筆経験


「複数の著者による出版物は、筆者の名前の並べ方の他にも2つの大きな問題に直面しています。それは“幽霊著者(ゴーストライター)”と“名前だけの著者(ゲストライター)”という問題です。」

Editor2「著者として名前が出るか出ないか?」これは、現在科学者たちが直面している問題です。最近、複数の著者による出版物は、益々一般的なものになりつつあります。同じ分野の科学者たちによる共同研究から多くの論文が生まれているだけでなく、世界各地から様々な分野の科学者が集まってひとつの論文を作成することも増えてきました。

科学者たちがまず注目すべきは、「誰が何をやったか」です。実験に貢献するには多くの方法がありますが、典型的な場合、実験の責任者か、最も大きな貢献をした人が、論文の筆頭著者として論文に名を連ねます。しかし、筆頭著者以降の筆者の位置づけは曖昧であり、研究者の名前の並べ方には様々な方法があります。いくつか例をあげれば、貢献度順、アルファベット順、職位順といった方法が考えられます。貢献した人の数が増えるほど、著者順の決定はより難しくなります。

複数の著者による出版物は、名前の並べ方の他にも2つの大きな問題に直面しています。それは「幽霊著者(ゴーストライター)」と「名前だけの著者(ゲストライター)」という問題です。「幽霊著者」というのは、その出版に貢献したものの、何らかの理由で著者として記載されない人のことです。このことは、利益相反の可能性や、その他多くの理由から起こり得ます。「名前だけの著者」というのは、ほとんど正反対の問題であり、その出版に貢献しなかった人が貢献者として記載されることを指します。若手の研究者の論文に多く見受けられますが、その理由としては、より経験のある研究者を著者として記載することで、主要学術誌にその論文が掲載される可能性が高まると考えるためです。

このことは、出版物に関する大きな問題ですが、この問題の解決に向けた取り組みも進みつつあります。OpenRIF、ORCID(Open Researcher and Contributor ID)SHARE(SHared Access Research Ecosystem)などの団体が、論文において認められるべき貢献度をわかりやすくするしくみを創り出そうとしており、はるかに効率的で整理された過程を実現しようと試みています。

博士(情報技術)
日本にて11年以上の英日翻訳経験

 

【順天堂大学】西岡 健弥 准教授インタビュー(後編)

各大学の研究室に訪問し、研究者たちにおける英語力向上の可能性を探るインタビューシリーズ。九回目は、順天堂大学の西岡健弥准教授にお話を伺いました。後編では、英語力の鍛え方についてお話くださいます。


【順天堂大学】西岡 健弥 准教授

■英語力を鍛えるためにはどうするのが一番よいと思いますか。

日本人の研究者が英語力において、実際に必要とするのは読み書きですね。ヒアリングとスピーキングはそれほど現場では使わないので、読み書きを鍛えるにはまず単語量だと思います。
よく言われるのは、ジャパンタイムズだと10000ワードで、ニューヨークタイムズだと20000ワードぐらいの語彙がないと読みこなせないそうです。サイエンスの領域でそこまでの単語量の必要はないと思いますが、英文は単語を見たときに素早く理解できないと、相当に理解が落ちてしまいます。だから、最初は地道にひたすら黙々と単語量を広げ、同時に英文法も学んでいく。最初は、単語力を日々コンスタントに地道に増やしていくしかないのかなと思います。それを突き抜けていくと論文の読み書きができ、論文を読んだときにも深く理解ができます。その上で自分の関連の論文を読んでいく、その繰り返しです。僕の留学時代には英語の先生について頂いて、週に1回、英会話をやっていました。その先生が、外国語を習得するのはひたすらpatient、patientだと言っていたのが記憶に残っています。
きっと大学院生には1つのテーマを与えられると思いますが、まずそれに関連した論文を読んでいき、広げていきます。その中で、自分の領域のものは『ネイチャー』や『サイエンス』などの論文を全部暗記するぐらいまで覚える。何度も何度も繰り返し読んでいくのです。
一流誌に出るような英文は、非常にきれいで簡潔で理解しやすいので、こうして表現する力を頭の中にたたき込めます。
ただパーキンソン病に関する分子生物学の世界でも、遺伝子とタンパクの機能とでは、使っている言葉が全く違ってきます。同じ領域でも英文の単語の内容が変わってきますから、最初の頃は本当にその内容を1つ1つ地道に調べていき、一流誌でのその内容をたたき込む、その繰り返しです。
それはもう日々、自分でこつこつとやっていくしかないかなと思います。
原著で自分がおもしろいと思う本を読むこともおすすめです。サイエンス系のノンフィクションでは、Richard Dawkins、Jared Diamond、Nessa Carey等は、個人的に好きでよく読みますが、論文以外に、英文を一冊の本としてまとまって読むことも英文表現力を高めるには良い方法と思います。

■留学についてどのようにお考えですか。必ず行ったほうがよいとか。

機会があるなら、絶対に行ったほうがいいです。
僕の経験ですがアメリカに行って初めて、本当に本当に自分は英語ができないと実感しました。それまでは少しはできるかなと勝手に思っていました。それが同じ英語でも地域でアクセントは全然違うし、会話のスピードも速いし、表現も豊かだし、何を言っているかさっぱりわからない。レストランに入っても料理そのものの単語がわからないし、高いチップの欲しいウェイトレスが必死にしゃべればしゃべる程、もっと分からなくなる。ラボでも、世界中からいろいろ留学生が集まっていましたが、これまた国によって英語のアクセントがぜんぜん違う。指導して頂いた先生方も、ブリティッシュ、アイリッシュ、スペイン人で、本当に一人一人アクセントが違いました。これらを通して、本当にできないということを痛感して帰ってきたことが、実は最高にいい経験になりました。
ある日、留学していた町 JacksonvilleのHodges BLVDにあるスターバックスに入ってニューヨーク・タイムズをちらっと見た時、その当時の北朝鮮の問題が何か書いてありました。これが全然わからなかったのですが、この些細な経験がとても印象に残りました。それからは、科学英語だけでなく、政治、経済、時事問題、食材まで、がむしゃらになんでも単語を覚えていきました。
帰国後も英字新聞はコンスタントに読むようにしています。日本にいたらあんな体験はできなかったと思います。これらの経験もまた、今の原動力になっていると思います。
あとは、自分自身が海外で「外国人」の立場になることは、すごくいい経験になると思います。人種、言葉、宗教、社会システム・・・全然異なる世界に1人身を置くことで、日本ではスムーズにいくことがアメリカではそうはいかないことが経験できる。この大変な経験が、後々自分の人生の器を広げてくれたと思います。留学時代に知り合ったすべての方々に、今でも本当に感謝しています。これは日本に戻ってもきっと役立つ経験になると思います。
だからこそ学生さんには是非行ってきてと勧めています。お願いだから行ってきて!と(笑)
ネットで簡単に情報はいくらでも手に入ります。Google earthを見れば、世界中の多くの景色を見ることができます。しかし、実際に自分が生活して経験するということは、まるで別物です。

■大体何年ぐらい行きますか。その際、どのような形になるかお聞かせいただけますか。

だいたい皆さん2年間ぐらいです。原則大学院で学んだ内容で、奨学金を申請します。それを元にグラントが取れれば、自分の専攻分野のトップリーダーというべき先生の研究室に行くことになることになります。

■どのような英語サービスがあれば使ってみたいと思いますか。そしてよい英語論文を書いていくためにエナゴをどのように活用したらよいかをうかがえますか。

エナゴのよいところは、ウェブサイトが非常にわかりやすいのと、値段もそれほど高くないことです。高くないけど質の高い英文が返ってくるのと、そしてリプライが早いです。
だからすごくいいなといつも思って使っています。ネイティブでないとわからない表現はわからないので、こういうサポートは必ず必要になります。こういう努力をひたすら積んできて、ある程度は私なりの型が完成しました。何度も文章を推敲しこれでいいだろうと思って校正の依頼をかけると、ネイティブの視点からはまた「ああしろこうしろ」となります。そのニュアンスの違いというのは個々人の能力を超えるところがあるので、その壁を取り払ってもらうために僕はエナゴを使わせていただいています。冠詞の適切な使い方等は、なかなかsecond languageとして英語を使っている者には分かりづらいものがあります。
とはいえ論文のデータが悪いもの、文章構成そのものが悪いものをいくらエナゴに頼んでも、それはエナゴだってアクセプトレベルにするには無理だと思います。文法や単語、文章は変えられますけど、元の原石の部分は自分で磨かないといけません。レビュアーが見た時に、それはすぐに感づかれます。新規性やデータの重みは、経験を積んでいるサイエンティストなら一読しただけでわかります。なので、原石は自分でちゃんと作りそれを英文校正会社に依頼する。校正会社に依頼して助かる部分は、あくまでもネイティブの人でないとわからない言語のニュアンスなのです。

■ありがとうございます。今後、今の英文添削だけではなく他にどのようなサービスがあればよいかお聞かせいただけますか。

可能であれば、少しずつ値段を下げていっていただきそれでかつクオリティの高い校正サービスがあればいいなと思います。
利用回数が増えれば増えるほど、値段が下がっていく仕組みもよいですね。
ポイント制もいいかもしれないですし、グラントがなくて、例えば臨床の先生が変わった症例を見つけた時に、ぜひ書きたいと思ったとしましょう。その時、個人で支払える金額以上のものであれば、なかなか依頼したいとは思わないのではないでしょうか。
例えば1本のフルペーパーを10000円以内とか、個人の支払いでも気軽に使えるような金額設定があると、日本の臨床医や研究者が世界に論文をもっと出そうとする気持ちになると思います。グーグルに代表されるように、金額を全部フリーにし、一気に人を集めて、そこから広告代を取ったり、ビックデータを使ったりするとか。AIの技術が昨今はやりですが、これらを駆使して無料で英文翻訳をかなり高い精度で完成させるサービスとか。
そこまでにしなくても、金額についてはもうちょっと一工夫欲しいと思うところはあります。もちろんエナゴも企業なので、利益という問題もあると思います。そこの壁を個人ユーザーでも気軽に利用できるような何かがあれば、もっとよくなると思っています。

■今、1つの原稿を新聞の専門家と英語の専門家の2名でチェックをしています。それを1名だけにして金額を下げるのはいかがですか。

期日は少し長くてもよいので金額をもっと安くしたり、個人の方でも使えるものが出てくれば、もっともっと日本から発信できると思います。
例えばフルペーパー20000円ですと言われますと、自費ではちょっとどうしようかなと迷う金額ですね。出したいけれどお金の関係で出せずにあきらめている人たちも相当数いて、その人たちも使ってもらえるためには何かしらの別の方法があってもよいかもしれないですね。

■若手の研究者にこれだけは伝えたいことがあればお聞かせいただけますか。

若手の研究者の方は、日々本当に英語を勉強してほしい。僕が指導している若手の先生にも日々言っています。論文を書くためだけではなく、世界にどんどん出ていくという意味でも、英語の習得は必須です。
今アジアの国々の台頭が著しく、シンガポールや中国も日本を追い抜く勢いです。それ自体は時代の流れとしてよいと思いますが、その中で日本の研究者が埋没しては良くないかと。世界中の研究者が、お互いに切磋琢磨して上のレベルを目指している時代に、日本語だけではいけないと思います。世界の動き、流行りを敏感にキャッチアップする意味でも、まずは英語の読み書きだけでも良いので、ぱっと見た時にすぐに理解して、それをどう研究に持っていくかという判断力が大切です。そのようなことがサイエンスや医学の世界だと、アドバンテージになってきますから、英語は絶対必要ですね。一歩、外側に踏み出してみると、すごい競争社会ですから。その中で生き残るため、そして自分のサイエンスを大きく広げていくために、様々な研究者とリンクしないといけません。
日本に帰ってきた今でも、やはり世界中の研究所といろいろコラボレートしながら仕事を進めています。その協力体制を維持していくのも、もちろん当たり前ですが英語ができないと進められません。大変かもしれないけどそれを乗り越えていくと、またさらに多くの研究者と知り合いになれて、良い刺激が得られます。ぜひ若手の先生方にもこの大変さを乗り越えて、その後にある見晴らしの良い景色を眺めて欲しいと思いいます。
とにかくやらなければいけない(笑)。そういうことです(笑)。


 

【プロフィール】

西岡 健弥(にしおか けんや)
順天堂大学医学部 脳神経内科 准教授

 
1999年 東京医科大学医学部卒業
2000年 順天堂大学および関連施設にて臨床研修
2004年 順天堂大学大学院神経学教室
2007年 順天堂大学大学院神経学卒業(医学博士)
2008年 Mayo Clinic Jacksonville Department of Neuroscience,
2008年 Matthew Farrer lab.研究員
2010年 順天堂浦安病院脳神経内科助教
2013年 順天堂大学脳神経内科准教授(~現在)

 

論文の構成要素 – コンクルージョン

論文のコンクルージョンは本文の最後に位置し、論文をまとめる部分です。コンクルージョンは「Conclusion」という見出しの一つのセクションとするのが一般的ですが、「Discussion」と「Conclusion」、または「Summary」と「Discussion」、あるいは「Summary」と「Discussion」と「Conclusion」などといった複数のセクションに分割されることもあります。

論文のコンクルージョンは少なくとも以下の役割を果たします。
(i) 論文を要約し、結果を繰り返して述べます。
(ii) 研究結果の重要性とそれが影響を及ぼす範囲を明らかにします。
(iii) 研究の長所と短所を指摘します。
(iv) 既存研究との関係を述べます。
(v) 今後の研究の可能性について議論を行います。

これらの項目の記載順は、一般に上の通りになりますが、(iii)と(iv)の順番が逆になることもあります。以下でそれぞれの役割についてより細かく説明します。

(i) <論文の要約、結果の記述> 要約は、それだけを読んでも研究の内容の要点を把握でき、研究の出発点から結果・結論を得るまでの論理の筋がよく分かるように書くべきです。また、結果を徹底的に説明し、具体的に当研究で何を得たかを明らかにします。

(ii) <結果の重要性> 得られた結果が、当該分野および関連分野においてどのような意味を持つかを述べます。つまり、結果が、どのような問題を解決し、従来の知識にどのような知識を加えるか、また、今後どのような研究につながり、どのような新しい問題を提起するかを論じます。さらに、より大きな目標の観点からこの結果がどのような発展につながるかを説明します。

(iii) <研究の長所短所> これまでのアプローチと比較して、当研究で使用されるアプローチがどの点で優れているか、どの点で劣っているかを述べます。特に、今までのアプローチが成功に至らなかったことに対し、今回のアプローチが成功につながる理由を説明します。さらに、研究で用いた仮定、近似、単純化などを明らかにし、それらが結果に及ぼした影響について論じます。

(iv) <既存研究との関係> イントロダクションで述べた当研究の分野全体における位置付けを再記述します。また、研究の結果と従来の研究結果が互いに補足したり、裏付けたりすること、あるいは互いに食い違ったり、矛盾したりすることを指摘し、こうした関係の意味を論じます。

(v) <今後の研究> 研究で用いられたアプローチの改善、拡張など、また、研究の結果によって提起される新しい問題の研究についての可能性を議論します。最後に、今回の結果を踏まえて「大きな」目標の達成の見込みについて論じます。

※論文の構成要素として、今回の「コンクルージョン」の他に「イントロダクション」と「本論」も紹介しています。こちらもご参照ください。


glenn

グレン・パケットGlenn Paquette

1993年イリノイ大学(University of Illinois at Urbana-Champaign)物理学博士課程修了。1992年に初来日し、1995年から、国際理論物理学誌Progress of Theoretical Physicsの校閲者を務める。京都大学基礎物理研究所に研究員、そして京都大学物理学GCOEに特定准教授として勤務し、京都大学の大学院生に学術英語指導を行う。著書に「科学論文の英語用法百科」。パケット先生のHPはこちらから。

論文の構成要素 – 本論

論文の「本論」はイントロダクションとコンクルージョンに挟まれ、研究内容の徹底的な記述を行う部分です。分野やジャーナルによって、「Methods」と「Results」、または「Materials and Methods」と「Results and Discussion」、あるいは「Methods」と「Results」と「Discussion」などという決まったセクションから構成される形式もありますが、セクションの数、見出し、内容に関しては規定がないことがより一般的です。

研究は、やり方が様々ですが、いかなる場合でも基本的には何らかの研究過程を通して結果を入手する、というプロセスになります。論文の本論では、研究過程とそれによって得られる結果を詳細に報告します。

本論は、ターゲット・オーディエンス(読者)が研究過程の各部分を再現できるほど微細、正確、かつ明確な説明と議論から成るべきです。例えば、研究が理論的なものであれば、結論が明確な出発点から切れ目のない論理の連鎖によって導き出されていることが必要です。また、論文で報告される実験、調査、数値計算、臨床試験などは、読者が(少なくとも原理的には)同等の条件の下で同等のプロセスによってデータを集めることができるように説明されているべきです。さらに、収集されたデータを出発点とした議論が、論理的に研究結果に到達することを明確に示す必要があります。

日本人学者による英語論文の中では、議論の出発点と到達点をつなぐ論理が明確でないことがしばしば見受けられます。多くの場合、問題の原因は論文が日本語的な考え方で表現されたことだと思われます[1]

[1] 関連した議論についてはグレン・パケット:『科学論文の英語用法百科〈第2編〉 冠詞用法』(京都大学学術出版会,2016)の前書きをご参照下さい。

※ 次回は「コンクルージョン」の構成についてお伝えします。


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グレン・パケットGlenn Paquette

1993年イリノイ大学(University of Illinois at Urbana-Champaign)物理学博士課程修了。1992年に初来日し、1995年から、国際理論物理学誌Progress of Theoretical Physicsの校閲者を務める。京都大学基礎物理研究所に研究員、そして京都大学物理学GCOEに特定准教授として勤務し、京都大学の大学院生に学術英語指導を行う。著書に「科学論文の英語用法百科」。パケット先生のHPはこちらから。

論文の構成要素 – イントロダクション

論文のイントロダクションは、本文の最初の部分であり、論文全体の内容を理解するために必要とされる予備知識を提供する部分です。個別のセクションに区切られる論文であれば、イントロダクションは「Introduction」という見出しの一つのセクションになることが一般的です。

イントロダクションが果たす主な役割には以下の項目があります。

(i) 論文の背景を示します。つまり、当研究が、どの分野に分類されるのか、そしてその分野においてどこに位置付けられるかを明確にします。
(ii) 研究の動機を述べます。要するに、なぜこの研究を行う意味があるかを説明するのです。
(iii) 研究の目標を示します。つまり、今回の研究でどのような進展を目指しているかを明らかにします。
(iv) 研究法を簡潔に記述します。具体的には、目標を達成するためにどのような方法によって解を与えようとするかを概説します。
(v) 結果を簡潔に述べます。
(vi) 結果の重要性を手短に論じます。特に、この結果が研究分野の進展にどのように貢献するかを明らかにします。

概して、これらの項目の記載順は上の通りになります。以下にそれぞれの役割について、もう少し細かく説明します。

(i) <論文の背景> 論文の主題に関連する先行研究を要約し、当該研究分野の現状を記述します。そして、論文で報告される研究が、その分野においてどのような意味があるかを説明し、分野における研究の位置付けを明らかにします。こうした背景をどこまで詳細に記述するかは、ターゲット・オーディエンス(読者)によって異なります。論文が、専門分野に特化したジャーナルに掲載されるのであれば、その分野の知識を有する専門家に向けた説明で十分ですが、幅広い読者をターゲットにしたジャーナルであれば、背景をより細かく述べる必要があります。

(ii) <研究の動機付け> 一般的に、研究の動機となることは該当する研究分野における未解決の問題を解決しようとすることです。その問題を指摘することによって、それぞれの研究の背景と研究の動機についてのディスカッションをつなぐことができます。問題を指摘してから、問題の解決が研究分野においていかに重要なのかを説明(アピール)します。

(iii) <研究の目標> 研究分野における未解決問題を解くことが動機ではありますが、場合によってはその問題を完全に解決することが現実的に不可能なこともあります。その場合には、取りあえずの目標として動機付けとなっている問題の解決に向けて何らかの進展を目指すこともあります。動機付けとなる問題の解決を「大きな」目標とすれば、論文で目指すのはその目標への一歩となる「小さな」目標であることを明らかにします。この場合、特にその小さな目標に着目する理由も述べておくべきです。

(iv) <研究法> 研究法についての本来の議論は「本論」で行うものですが、イントロダクションでもその要点を述べる必要があります。まず、研究が理論、実験、観測、数値計算、データ解析、調査、臨床試験などのいずれの手法で進められるのかを明らかにし、それから個々の手法において具体的にどのようなアプローチをとっているかを述べます。また、当研究におけるアプローチと従来のアプローチを比較し、従来法が不十分だったのに対し、当研究の手法が成功につながる方法である理由を説明します。アプローチの比較では、今回の研究法の特徴や独創性を強調すべきです。

(v) <結果> 目標に対する結果を描写し、目標を達成したかどうかを明らかにします。また、その他の重要な結果を得た場合はそれも描写します。

(vi) <結果の重要性> 結果の重要性についての議論は、主にコンクルージョンで行いますが、イントロダクションでもその核心を示しておくべきです。イントロダクションでは、目標とする結果を得ることが、知識を拡充・深化させるためにどのように役立つか、大きな目標の達成に向けどのように寄与するかを簡潔に説明すればよいでしょう。

上述のように、イントロダクションは論文の背景および目標を明確にするとともに、読者の関心を引き付ける役割も果たします。

*次回は「本論」の構成についてお伝えします。


glenn

グレン・パケットGlenn Paquette

1993年イリノイ大学(University of Illinois at Urbana-Champaign)物理学博士課程修了。1992年に初来日し、1995年から、国際理論物理学誌Progress of Theoretical Physicsの校閲者を務める。京都大学基礎物理研究所に研究員、そして京都大学物理学GCOEに特定准教授として勤務し、京都大学の大学院生に学術英語指導を行う。著書に「科学論文の英語用法百科」。パケット先生のHPはこちらから。

【順天堂大学】西岡 健弥 准教授インタビュー(前編)

各大学の研究室に訪問し、研究者たちにおける英語力向上の可能性を探るインタビューシリーズ。九回目は、順天堂大学の西岡健弥准教授にお話を伺いました。前編では、ご自身の経験をもとに、英語論文の執筆力向上についてお話くださいます。


【順天堂大学】西岡 健弥 准教授

■先生の研究室で扱っている専門分野を教えていただけますか。

私の専門分野はパーキンソン病と、関連の遺伝子の研究です。16年間研究をしていて臨床遺伝学がバックグラウンドになっています。それ以外の臨床上の事柄も研究対象です。2008年から2年間、フロリダのメイヨークリニックに留学しており、パーキンソン病と遺伝子の研究をやっていました。

■英語論文の執筆や学会の発表の場等で、英語で苦労した経験をお聞かせいただけますか。

苦労は、もう日々、すべてです(笑)。最初の頃や留学中は先生たちに全部手直ししていただいたので自分の英語の学力の問題が表面に出ることはありませんでした。しかし、帰国して自分が論文を作る立場になった頃から壁を感じ始めました。それまでいかに先生方からサポートしていただいていたかを痛感しました。指導いただいた経験をもとに自分なりのものを出していくことに今なお日々奮闘しています。

■研究室の方々や共同研究者も苦労されていますか。

皆さん、あまり表面には出さない感じはします。

■若手の研究者や学生は英語の執筆力をどのようにして鍛えていくのでしょうか。

若い先生が英語論文を1本を書く。これは相当大変な作業になります。僕は今、3名の大学院生を指導していますが、なぜ自分がその研究をやるのか、論文を出していくのか、そういう動機が不明確のまま大学院に入る学生さんと、明確にできている学生さんとの間には差があると思います。モチベーションが全然違うとなると、論文を作る作業に耐えられるかどうかにも関わってきます。

まずこのモチベーションが第一だと思います。それはなんでもいいと思います。僕の場合ですが、もともとは医学生のころから病理やDNA、RNAといった世界観が単純に好きで、さらに研究がしたい、留学経験を通して世界中の研究者とつながりたいと思っていました。だからがんばってデータを出そう、 論文 を書こうと、大学院生のときはやっていました。やはり最初に明確な動機がないと、いろいろとうまくいかないのかなと思います。ただ箔を付けたいので、大学院に行ってみましただと、なかなか続かないかと思います。

次に英語の基礎学力の大切さはあると思います。TOEICで700点以上、あるいは英字新聞をある程度読める、それぐらいの英語力がないと、基本的なことが理解しにくいし、書くといってもいきなり書けない。そこの壁はあると思います。

医学部受験まではがんばってみんな英語を勉強しますが、いざ大学に入るとあまりやらなくなり、研修医になると余計やらなくなってしまう。結果としてやらない期間が10年ぐらいあった上で、この研究の世界に入って来ます。きっと昔はできていたはずですが、それができなくなって研究に入ってくる。ここでちょっと大きな壁が1つできます。

だから、英語の環境は維持しておかないといけないと思います。苦手だ、無理だと言ってばかりではだめで、英語のサイトを見たり英語のニュースを見たりするなどして、常日頃から英語にふれておく必要はあるかと思います。さあ、サイエンスの世界で英語をやろうとなったときに、実は相当な壁があり、四苦八苦することになります。

最近はヨーロッパやアジアからの留学生が増えていますし、彼ら彼女たちとも積極的に会話することによって、改善されていくとは思います。

■研究室では誰が、どのように英語指導のアドバイスを行っているか、教えていただけますか。

英語のアドバイスは原則、僕がしています。それに大学院生や若手の病棟の先生がついて、やり取りしながら進めていく形にしています。一度、まず自力で書いてもらい、それを添削します。そしてアドバイスや手直しをしてその原稿を返します。

論文を書く作業を、いつもスキーに例えています。スキーの道具を買う。買っただけでは滑れないですよね。道具を買って、滑って、最初は何回も転びますよね。でも転んで嫌だ、とそこでやめたら上達しません。そのうち、何回か滑っているうちに滑れるようになります。滑れるようになったら、そのあと試合などの現場があります。そこで勝つために専門的なトレーニングを積み、ようやく試合で上位に入れるという、その一連の流れと、論文をアクセプトする流れは全部一緒、と、いつも言っています。

何回も何回も繰り返し書いていくうちに、書き方、表現のしかた、文章の出し方を習得できるようになると思います。まず、下手でもいいからとにかく書いてみようと。フリースタイルでいいので、ダイレクトに英語を書くことを繰り返します。

僕の考えでは、ライティングとエディティングは、随分と違うと思います。ライティングはある程度できるようになりますが、その後エディティングの技術はまた必要になります。この2つの作業は別として捉えた方が良いと思います。

慣れてきたら、例えば、僕も使ったエイドリアン・ウォールワークという本を使いながら、実際のエディティングも意識するようにします。よりパブリッシングに向けての専門的な科学英文の書き方や表現の仕方、特殊記号、例えば、コロン、セミコロンの使い方等を詰めてもらう作業です。エディットとしては、だらだら長く書かない、言いたいことを段落内の一番先に書く、とにかく分かりやすく表現する等、いろいろなコツがあります。

ライティングとエディティングは全く別物だとまず伝えたうえで、初心者の方には下手でもいいからとにかくフリーで書いてもらいます。できあがりを少し添削してあげて、返して、また添削、この繰り返しです。

また、ネットで検索すると、いろいろ科学英文の記載の手法について情報が手に入ります。エナゴのサイト等も活用しながら、より専門的にエディティングする力をつけてもらいます。

■論文が何本も出る機会はなかなかない気がしますが何回も英語を書く機会はありますか。

僕は臨床遺伝、遺伝学の分野なので、純粋基礎の先生に比べるとデータは割と早く出せます。なので、比較的英文を記載する機会は多い方かと思います。

臨床の若手の先生には、ケースレポートを書いてもらうようにしています。ケースレポートだと、最初の研究資金もかかりません。ケースレポートを2本、3本と書いていくと、文章の構成の仕方、頻用する文章の書き方を習得できるようになると思います。サブミットした後は、レビュアーのコメントをもらって、それを手直しして・・・という流れの中で、アクセプトまでの流れを手短に経験できます。

オリジナルペーパーだと、大掛かりで予算も時間もかかりますが、ケースレポートであれば、比較的短時間で多くのことを経験できます。これを繰り返していくと、実は臨床能力も大幅に伸びていきます。

一つの症例を徹底的に調べて、考えて、英文にする。これを繰り返すことは、臨床医としての思考トレーニングに最適です。また、大学院に入った後、大きい基礎研究の大型論文をを書くとなった時にも、とても良い下地になると思います。こういう英文記載のトレーニング方法も、若い先生方にはおすすめです。
 


後編では、英語力の鍛え方について言及いだたきます。
 

【プロフィール】

西岡 健弥(にしおか けんや)
順天堂大学医学部 脳神経内科 准教授

 
1999年 東京医科大学医学部卒業
2000年 順天堂大学および関連施設にて臨床研修
2004年 順天堂大学大学院神経学教室
2007年 順天堂大学大学院神経学卒業(医学博士)
2008年 Mayo Clinic Jacksonville Department of Neuroscience,
2008年 Matthew Farrer lab.研究員
2010年 順天堂浦安病院脳神経内科助教
2013年 順天堂大学脳神経内科准教授(~現在)

 

捕食ジャーナルのリスト「ビールズ・リスト」閉鎖

捕食ジャーナルリスト閉鎖

いわゆる捕食ジャーナルや捕食出版社のリストとして知られる「ビールズ・リスト(Beall’s List)」が、予告なしに閉鎖されました。2017年1月15日のことだと推測されます。

本誌「捕食ジャーナル-倫理学分野にすら登場」でもお伝えしたように、学術界では「捕食ジャーナル(predatory journals)」や「捕食出版社(predatory publisher)」が問題になっています。捕食ジャーナルとは、掲載料さえ払えばきわめて甘い査読のみで、どんなひどい論文でも掲載してしまうオープンアクセスジャーナルのことで、捕食出版社とはそのジャーナルを発行する出版社のことです。そのいい加減さは、存在しない研究機関に所属する存在しない研究者の名前で、意味のないデタラメな文章を投稿しても、採択されてしまうことがあるほどです。そのため捕食ジャーナルは、疑うことを知らない若い研究者を掲載料目当てに食い物にしている、と批判されてきました。

コロラド大学デンバー校助教授で図書館員のジェフリー・ビール(Jeffrey Beall)は2010年、趣味で、捕食ジャーナルと捕食出版社のリストを作り始めました。ビールズ・リストは彼のウェブサイト「学術オープンアクセス(Scholarly Open Access)」の目玉コンテンツでした。

捕食ジャーナルの影響は大きく、フィンランドの研究者らが2015年に発表した調査結果によると、2010年から2014年の間に「捕食」出版が急増し、ビールズ・リストに挙げられているジャーナルに掲載された学術論文の数は、ほぼ10倍近くまで増加したといいます。ビールズ・リストは随時更新されており、今年1月の最新の更新では、1000誌以上の捕食ジャーナルと1000社以上の捕食出版社がリストアップされました。

当然ながら、出版社のなかには、このリストに載せられることに抵抗してきたところもあります。ビールに対して高額の損害賠償を求める訴訟をほのめかした出版社もあります。

ビールはいまのところ、リストの閉鎖に関してどのメディアの取材も拒否していますが、コロラド大学デンバー校の広報担当者は、ビールは訴訟やハッキングではなく、「個人的な決断」によりリストを閉鎖したと各メディアに説明しています。また、ビールはコロラド大学デンバー校の教員として継続勤務するとのことです。

『サイエンス』誌のブログ『サイエンス・インサイダー(ScienceInsider)』などによると、研究者と出版社などをつなぐ学術関係のサービス・プロバイダであるCabell’s Internationalという会社がビールをコンサルタントに迎えて 捕食ジャーナル のブラックリストを作成し、今年後半から運営しようとしていることと関係しているのではないかと推測する者もいます。しかし、同社の副社長はそのことを否定しています。

一方で、ビールズ・リストの閉鎖を前向きに考える人々もいるようです。生物医学のニュースサイト『STAT』によると、ビールズ・リスト以上に研究者にとって役立つものをつくろうという動きが(同リスト閉鎖前から)既に出てきているとのことです。たとえば、大手出版社も参加するキャンペーン「考えよう、チェックしよう、投稿しよう(Think. Check. Submit.)」では、研究者らが原稿を投稿するジャーナルを評価するための簡単なヒントを提供しています。

確かに、ビールズ・リストは、ジャーナルが信頼できるものかどうかを判断するのに重宝されてきました。しかし本来は、研究者1人ひとりが、投稿先として検討しているジャーナルの価値を自分自身で判断できるようになることが望ましいでしょう。

 


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ライター紹介:粥川準二(かゆかわじゅんじ)
1969年生まれ、愛知県出身。ライター・編集者・翻訳者。明治学院大学、日本大学、国士舘大学非常勤講師。著書『バイオ化する社会』(青土社)など、共訳書『逆襲するテクノロジー』(エドワード・テナー著、早川書房)など、監修書『曝された生』(アドリアナ・ペトリーナ著、森川麻衣子ほか訳、人文書院)。博士(社会学)。