作成者別アーカイブ: エナゴ学術英語アカデミー

accepted-rejected

査読結果や査読者名を公開すべきか?

ジャーナル(学術雑誌)における査読は、一般的には匿名で行われます。しかしながら本誌では以前、著者も査読者もお互いが誰であるかを明らかにして行う「オープン査読」でも、査読の質は下がらない、という研究結果を紹介したことがあります。

また現状の査読は不透明であり、バイアス(偏り)を伴いがちで、非効率であることも指摘され続けています。ある科学者が「査読を科学的なものにしよう」と提言したことを、本誌が紹介したこともあります。

査読の改善を図ろうとしばしば提言されることが「査読のオープン化」です。ただ査読のオープン化といっても、さまざまなものがあります。たとえば上述の「オープン査読」です。また、論文の公表と同時に、査読結果(査読レポート)も公表するという試みも始まっています。

ハワード・ヒューズ医療研究所などが主催し、今年2月にメリーランドで開催された「生命科学の査読における透明性・認識・改革」という会議では、100人ほどの出席者が査読のオープン化について活発に議論しました。その様子を『サイエンス』が伝えています。

それによると、出席者の多くは、査読結果を公開することに好意的なようです。しかしながら査読者の名前の公開については、コンセンサスが得られなかった、と伝えられています。

査読結果を公開することのメリットとしては、査読システムの理解につながること、特にキャリアの初期にいる若い研究者にとって役に立つことなどが指摘されています。また、査読結果に書かれている評価のなかには、研究者が自分の分野について新しい方法論で検討することに役立つ情報が含まれていることもある、という意見もあります。

デメリットも指摘されました。たとえば、訴訟や一般社会で起きている論争にかかわる臨床試験の結果をまとめた論文の査読結果に批判的なコメントが書かれていた場合などでは、誰かがそれをチェリー・ピッキング(自分の主張に都合の良い事実だけをつまみ食いすること)して、誤った認識を広めてしまうというリスクがあります。それについては、科学者の側が一般社会に対して査読の意義を説明する努力が必要だ、という意見も出ました。

会議で行われた非公式なアンケートでは、査読結果を公開し、それをオンラインで検索できるようにすることに、圧倒的な支持が集まりました。この結果は、2017年12月に『プロスワン』で公表された研究結果に一致します。この研究では、オーストリアの研究者らが、研究者ら3062人を対象にオープン査読に対する態度についてオンライン・アンケートを行ったところ、回答者の60.3%が「オープン査読は一般的な概念として、学術論文の査読方法の主流となるべき」とみなしていることなどがわかりました。

しかしながら査読結果を公表しているジャーナルはきわめて少ないのが現状です。非営利団体「RAND ヨーロッパ」が3700誌を対象に行った調査では、査読結果を公表することを認めているジャーナルは2.3%に留まりました。なお、査読結果を公開することを認めている『ネイチャー・コミュニケーションズ』では、著者の62%が公開に同意したことが、前述の「生命科学の査読における透明性・認識・改革」会議で明らかにされました。

一方、査読者の名前を公表することについては、根強い懸念があるようです。たとえば、査読者が若い研究者である場合、人事権などを握っている年長の研究者からの報復を恐れて、批判的なコメントを控えるようになってしまうかもしれません。査読への参加を完全にやめてしまう研究者もいるでしょう。

また、国立衛生研究所(NIH)はオープンアクセスになっている論文にコメントできるプラットフォーム「パブメドコモンズ(PubMed Commons)」を運営してきましたが、今月、閉鎖してしまいました。結局のところ、名前を明らかにした上でコメントする研究者はきわめて少なかったからだといいます(なお論文について匿名でコメントできる掲示板として「パブピア(PubPeer)」があります。悪名高いSTAP細胞論文の不正発覚はここから始まったといわれています)。

査読者の名前を公表することに賛成する意見もあります。査読者の名前を出すことで、たとえば、より慎重な査読を促したり、不当にネガティブなコメントを少なくしたりすることができる可能性があります。また、査読という仕事そのものが研究活動の一環として評価され、テニュア(終身在職権)や昇進などの審査対象になるようになるかもしれません。「えこひいきを排除するのにも役立つだろう」という意見もありました。ジャーナルの編集委員が、学会での有力者や知り合いなどが原稿を投稿してきた場合などに、査読を通りやすくするよう何らかの取り計らいをする、という話は筆者(粥川)も耳にしたことがあります。査読者を明らかにすることで、外部の者がそうしたバイアスを認識できるかもしれない、ということです。

しかしながら現状では、査読者の名前を明らかにすることを認めているジャーナルはごくわずかです。前述のRANDヨーロッパの調査では、3.5%でした。

ただ、変化の兆しも見えます。オープンアクセス論文のプラットフォーム『F1000Research』は、査読者に署名を求めていますが、そのマネージングディレクターは会議で、この方針によって査読者をリクルートすることが困難になってはいない、と発言しました。

なおこの会議では、Facebookの創設者として知られるマーク・ザッカーバーグとその妻が設立した「チャン・ザッカーバーグ・イニシアチブ」が、先進的な方法の査読を実験的に行う「リポジトリ」をつくることが同意されました。

査読システムに大改革が起こり、それが科学知識の普及を促進し、再現性を高め、研究不正を減らすのだとしたら、一般市民としても歓迎すべきことになるでしょう。今後も注視する必要があります。

 


kayukawa_profile2

ライター紹介:粥川準二(かゆかわじゅんじ)
1969年生まれ、愛知県出身。ライター・編集者・翻訳者。明治学院大学、日本大学、国士舘大学非常勤講師。著書『バイオ化する社会』(青土社)など、共訳書『逆襲するテクノロジー』(エドワード・テナー著、早川書房)など、監修書『曝された生』(アドリアナ・ペトリーナ著、森川麻衣子ほか訳、人文書院)。博士(社会学)。

人工知能(AI)は学術研究に益か害か?

今ではすっかり生活に溶け込んだ「人工知能」(Artificial Intelligence: AI)という言葉。この用語が初めて登場したのは、1956年。人工知能の基礎を築き「現代人工知能の父」とも呼ばれるジョン・マッカーシー博士が、ダートマス会議と呼ばれる、自身の主催した研究者のワークショップで初めて使用しました。人間の「知能」を機械に持たせる、つまり人間の脳が行っている知的な諸機能を機械に行わせることを目的に、ダートマス会議以降、研究が進められてきました。そして2016年12月、AppleがAI関連、具体的にはコンピューター生成画像を使い画像認識トレーニングを向上させる技術について記した論文を発表したことにより、AIの発展は転換期を迎えることになりました。それまで秘密主義を貫いていたAppleが同社による研究成果を学術機関で発表・共有したことで、IT業界へのAIの取り込みおよび情報のオープン化が加速したのです。AIが日々急速に進化している半面、本当に有益なのか、害となるか、どこまで信頼すべきなのか懸念も生じています。

■ 拡大するAIの利用

AIと聞くとSF映画を想像する方もいると思いますが、AIの利用は、IT業界をはじめ産業界で拡大しており、ビッグデータと言われる大量のデータの処理や自然言語処理(人が日常的に使っている言語をコンピューターに処理させる)を活用して顧客向けの広報や顧客サポートを行うようになっています。

AIの基本は、ニューラルネットワークと呼ばれる、人間の脳神経細胞をモデルとした情報処理システムですが、近年のITの発展により、このニューラルネットワークによる学習(機械学習)機能が飛躍的に向上しました。自分で学習し知能を蓄えることができるようになったことで、AI搭載の将棋・囲碁ソフトが人間のプロを打ち負かすといったニュースも聞こえてくるようになりました。

AIには、科学者たちが、AIはイノベーションや新たな発見、科学の発展に貢献すると考えるに足る特徴があります。例えば、人間の脳にとっては複雑すぎる処理を行えたり、高速で情報を処理したり、間違いを減らしたり、データから傾向や真意を検出したりできるのです。AIは、生活をよりシンプルに、簡便に、高度にできる可能性を秘めているのです。

■ 学術出版におけるAIの影響

AIの登場は、学術出版界にも影響を与えています。2014年、英語に限っても約250万本の学術論文が28の学術誌に掲載されましたが、これだけ多くの論文を掲載するのにAIが一役買っていることは言うまでもありません。一例として、AIを用いることによって不正データや盗用・剽窃を検出することが可能になるため、出版社は、投稿された論文が出版に値するかどうかの判断に役立てることができます。

また、AIは膨大な学術論文の内容を瞬時に処理することもできます。例えば、がん治療の標的とされている特定のp53タンパク質に関する論文だけでも、7万本以上が発表されており、研究者がどんなに努力しても、すべての論文に目を通すのは困難です。ところが、AIを使えば、自分が必要としている記述が含まれる公開論文を代わりに見つけてきてくれるのです。自分で研究活動を行えるとも言われるAI「Iris」は、研究者の代わりに論文を「読み」、論じている内容を判断し、結果を研究者に提示できるという特徴を持っています。他にも、AIが搭載された「Semantic Scholar」という研究者向けの検索エンジンは、論文を読み、キーワードなどを元にした分析を行い、影響力の大きな論文を検出・評価するなどの機能を備えています。このような機能も含め、AIの発展は学術界にも以下に挙げるような大きな利便性をもたらしているのです。

AIが学術界にもたらすであろうメリット

・研究のトレンドや重要な分野の明確化。論文のタイトルではなく、内容に基づいて抽出するので、研究者は各分野の傾向を特定できる。

・新しい査読者の選定。AIは、編集者が思いもつかない潜在能力を持った査読者をオンラインから探し出し、名簿を提供できる。

・盗用・剽窃の防止。AIは自然言語処理を用いて、書き換えられた文や段落を特定し、盗用・剽窃を探し出すことができる。

・研究助成先の検出。AIは、研究助成者(団体)が、援助している研究の成果を見つけ出すことを容易にする。

・報告内容の不足や不正な統計の特定。AIは、研究報告において不可欠な要素が欠けていないか、添付された統計に不正がないかを識別できる。

・研究者がデータを改ざんしていないかの判別。

■ 懸念はあるが……

AIには多くの利点があります。しかし一方で、スティーヴン・ホーキング博士やビル・ゲイツ氏、イーロン・マスク氏のような著名人が、AIが人類に与える影響に懸念を表明しているのも確かです。ホーキング博士は「AIは人類とって最高のものとも最悪のものともなりうる」と述べ、イーロン・マスク氏は「人工知能は核兵器よりも潜在的な危険をはらむため、我々は細心の注意を払う必要がある」とTwitterでつぶやくなど、AIの開発・使用への注意を喚起しています。学術界では、AIが人に行動を指図し、科学的に重要な事柄すら決定してしまうのではないかと不安視する声もあります。

世界経済フォーラムはAIに関する9つの倫理的懸念をリストアップしています。機械が人間の仕事を奪う可能性をはじめ、AIの発達と共に生じるであろう懸念点を列挙していますが、同時に、就業時間が減ることにより、家族との時間を重視するライフスタイルに移行することができる、とも述べています。機械学習が社会を刺激し、より有益な行動をするように向かわせるとも記しており、人間が使い方を誤らなければ、AIは人間にメリットをもたらしてくれると言えるでしょう。

AIは学術出版界に、より密度の濃い情報レポジトリ(学術情報を電子的形態で収集・保存・公開するアーカイブシステム)へのアクセスと、出版プロセスの最適化によるすべての掲載論文の質の担保をもたらすと予測されています。AIに対する思いは人によって異なります。しかしAIによる業界変革の時は、すぐそばに迫っているのかもしれません。

European Parliament Announces Plans For EU Research Funding

BREXITでEUの研究開発費削減か

十分な資金なくしては、革新的な研究は生まれない。これは研究に関わる人たちにとって確固たる事実でしょう。EUでは「Horizon 2020」とよばれる研究および技術革新を促進するためのプログラムを通して、巨額の公的資金を研究開発に投入しています。さらに、EUの立法機関である欧州議会は、今後7年間のEU予算における研究支援費の増額を検討していました。ところが、状況は経済大国イギリスのEU脱退、いわゆるBREXITにより一変しました。研究費申請の増加とBREXITによる深刻な財政問題の間で、EUが今、揺れています。

■ 高まる研究開発費の需要

Horizon 2020とは、2014年から2020年までの7年間にわたるEUでの革新的な研究および開発を促進するためのフレームワークプログラムで、770億ユーロ(約10.5兆円)の公的資金が投入されています。このプログラム内で行われる研究プロジェクトには、EU以外の国からも参加することができ、その応募は多数に上ります。中でもヘルスケアや宇宙に関する研究への助成金申請が今後も増加すると考えられ、現状の予算では十分ではないとの認識が持たれています。

そのため、欧州議会は後継プログラムである「フレームワーク9(2021年~2028年)」において、計1200億ユーロの投入を計画しました。このフレームワーク9では、環境に配慮したエネルギー利用、ナノテクノロジー、食の安全性といった分野にも注力することが支持されています。同時に欧州議会は、科学・技術分野におけるEU加盟国間の人材交流計画の一部であるエラスムス計画(The European Community Action Scheme for the Mobility of University Students : ERASMUS)の留学金助成予算を、現状の170億ユーロから3倍程度に増額するほか、貧困地域への資金援助や農家への農業政策補助金の交付も、併せて計画していました。

■ 巨額の拠出を担ってきたイギリスの脱退

ところが2016年6月、状況は一変します。イギリス国内での国民投票の結果、同国のEU脱退が決まったのです。イギリスは、EU加盟国の中でも研究開発への拠出金が多い国であり、年間120億ユーロもの拠出をしていたため、もしこの国が2019年3月に予定通り脱退すれば、大きな財源難を招きます。予算計画は暗礁に乗り上げてしまいました。

この事態を受け、欧州議会への発議権を持つ欧州委員会は、研究開発の重要性に関する大量の証言を収集し、研究開発およびエラスムス計画への予算は削減対象とすべきではない、という意見を全会一致で採択しました。また閣僚級会議でも、研究開発は最重要項目であり、十分な予算が割り当てられるべきであると承認されています。ただし、ここでは十分な予算がどの程度なのか、どの分野にどう割り当てられるのかなど、具体策までは言及されませんでした。

では財源はどうするのか?欧州委員会は、現状1%である各加盟国の拠出金を1.1%から1.2%程度に引き上げる案を欧州議会に提出しましたが、欧州議会は、1.3%まで引き上げる必要があると考えています。これに対し、西欧諸国は今以上の拠出負担に異議を表明、東欧諸国は受け取る支援金の削減に反発しており、EU内で折り合いのつかない状況が続いています。

2017年11月に2018年EU予算が発表され、Horizon2020には112億ユーロが割り当てられました。今後、欧州委員会は、2018年5月にHorizon 2020後の2021年から2028年におけるフレームワーク9の財政案をまとめる必要があります。研究開発の重要性が民間企業にも浸透してきており、主にヘルスケアやICT(情報通信技術)、自動車分野の研究への投資が増えてきていますが、商業利用に制限されない研究を継続するには、やはり政府による幅広い分野への支援は欠かせません。また、研究費を捻出できない財政の厳しい国にとって、Horizon2020のような公的な研究支援は不可欠です。BREXITの実現後、学術研究およびEUの経済発展の支えともなる研究開発に、どれだけの予算を確保できるのか……。動向が注目されます。

参考記事
Hrizon 2020とは(日欧産業協力センター)
Commissioners unanimously agree to protect research from cuts in 2021 – 27 budget
EU Parliament wants a substantially bigger research budget

 

Altmetric Top 100

オルトメトリクスが2017年の論文ランキング100を発表

 

オルトメトリクス社が、2017年に最も影響力のあった学術論文のランキング「Altmetric Top 100」を発表しました。オルトメトリクス(Altmetrics)とは、学術論文の影響を評価する新たな指標で、被引用回数だけでなく、オンライン上の引用数を考慮して算出される、近年利用が拡大している指標です。ソーシャルメディアの種類によって重みづけをし、計算がなされます。このシステムは発展途上にあり、計測方法と注目度合いの定量化方法に一部で疑問が呈されていることは確かですが、従来とは異なる指標が示す影響力のある論文とは果たしてどのようなものだったのか、チェックしていきましょう。

■ 影響力のある論文トップ10

まず、このリストで上位に選ばれた論文の内容を見ていきましょう。最も注目された論文は、『ランセット』誌に掲載された栄養学の研究に関するものです。低脂肪食品は脂肪の代わりに大量の糖分を含んでおり、結果として体重増加を招くという、今まで考えられてきた脂肪の考え方を否定する研究内容でした。オンライン注目度スコアは5876で、最も多くのメディアとソーシャルプラットフォームが、この論文を引用したことを示しています。その他のトップ10の論文とジャンルは以下の通りです。

■ 2017年 注目論文の特徴

2017年のリストには、臨床研究、心理分析、症例研究、後ろ向き調査、古生物学、疫学、バイオエンジニアリングなど、多岐にわたる分野が取り上げられています。その中でもオンラインメディアで取り上げられた回数が高かった分野は、以下の通りでした。

・ 医学(53)
・ 生物科学(17)
・ 地球環境科学(9)
・ 人文社会学(8)

医学および公衆衛生に関わる論文が多く取り上げられたと言えます。トップ100の上位3つは広く私たちの健康に関する論文で、全体でも実に半数は、薬と健康を取り上げたものでした。また、生物学に関するものも多く見られました。注目された論文の分野以外の特徴としては、以下の点が挙げられます。

・ イギリス、アメリカ、オーストラリアを含む国際的な共著への注目度が高い傾向が見られた
・ 高スコアの獲得に貢献したのはアメリカ、次にイギリスの研究者であった
・ 研究機関別で見ると、大半はハーバード大学、ケンブリッジ大学、ユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドンに属している機関が発表した論文だった
・ ジャーナル別で見ると、大半はネイチャー、ランセット、ブリティッシュ・メディカル・ジャーナルに掲載された論文だった

■ スコア算出に対する疑問

ここで一つの疑問が生じます。これだけ有名な大学による研究、しかも著名な学術ジャーナルに公開された論文が多くを占めているのに、なぜトップ100のリストに疑問を呈する声があがるのでしょうか。スコアは、WikipediaやTwitterなどのソーシャルメディア、その他学術サイトでの引用数をもとに作成されており、重みづけはオンラインメディアのタイプによって決められています。メディア別のスコアは以下の通りです。

参照されたオンラインメディアの種類と重みづけスコアの論拠が曖昧であること。これが、評価結果であるスコアが疑問視されている理由ではないかと考えられます。例えばTwitterは、学術領域で存在感が大きいという理由でFacebookに比べ4倍のポイントが付与されますが、一方で、あまり存在感があるとは言えないGoogle+のスコアが比較的高いことについての合理的な根拠は、提示されていません。また、ブログのスコアは高いにも関わらず、中国のブログであるSina Weiboのスコアが低いことの理由も示されていません。重みづけについては、利用者属性やアクセシビリティ、サイト閲覧分析によって計算されているとのことですが、確実な根拠は不明です。

さらに言えば、ソーシャルメディアを巡る環境はめまぐるしく変わっています。インスタントメッセージングサービスによる論文のシェアは考慮しなくてよいのか。LinkedInやReseachGate、特定の中国のソーシャルメディアは対象としなくてよいのか。もっと言えば、Journal WatchやRetraction Watchといった出版物も、算出の対象としたほうがよいのではないか――。こうしたスコア算出に関する提言をもとに、今後もオルトメトリクス社がアルゴリズムの改良を重ねていくと予測されます。

気は早いですが、2018年の「Altmetric Top 100」にどんな変化が加わるのか。算出の参考とされるサイトは増えるのか、重みづけスコアは変わるのか。楽しみにしたいところです。


参考:トップ10の論文
Dr. Mahshid Dehghan et. al (2017, August 29) Associations of fats and carbohydrate intake with cardiovascular disease and mortality in 18 countries from five continents (PURE): a prospective cohort study. Retrieved from: http://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(17)32252-3/abstract
KatiaLevecque, et. al (2017, February 8) Work organization and mental health problems in PhD students. Retrieved from: https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0048733317300422
Y Tsuqawa et. al (2017, February 1) Comparison of Hospital Mortality and Readmission Rates for Medicare Patients Treated by Male vs Female Physicians. Retrieved from: https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/27992617
Hong Ma et.al (2017, August 24) Correction of a pathogenic gene mutation in human embryos. Retrieved from: https://www.nature.com/articles/nature23305
Lin Bian et.al (2017, January 27) Gender stereotypes about intellectual ability emerge early and influence children’s interests. Retrieved from: http://science.sciencemag.org/content/355/6323/389
Caspar A. Hallmann et.al (2017, October 18) More than 75 percent decline over 27 years in total flying insect biomass in protected areas. Retrieved from: http://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0185809
NCD Risk Factor Collaboration (NCD-RisC) (2017, December 16) Worldwide trends in body-mass index, underweight, overweight, and obesity from 1975 to 2016: a pooled analysis of 2416 population-based measurement studies in 128·9 million children, adolescents, and adults. Retrieved from: https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/29029897
Lida Xing et.al (2016, December 19) A Feathered Dinosaur Tail with Primitive Plumage Trapped in Mid-Cretaceous Amber. Retrieved from: http://www.cell.com/current-biology/pdf/S0960-9822(16)31193-9.pdf
Dr. Ana Maria Henao-Restrepo et.al (2017, February 4) Efficacy and effectiveness of an rVSV-vectored vaccine in preventing Ebola virus disease: final results from the Guinea ring vaccination, open-label, cluster-randomised trial (Ebola Ça Suffit!). Retrieved from: http://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(16)32621-6/abstract
Emily A. Partridge et.al (2017, April 25) An extra-uterine system to physiologically support the extreme premature lamb. Retrieved from: https://www.nature.com/articles/ncomms15112

 

Twitterは研究者にも有益か-使用上の注意 (後編)

前編でツイートには3つのパターンがあることが調査から見えてきたことをお伝えしました。では、本当にツイート数の多さが論文閲覧数に影響するのでしょうか。3つのパターンと調査の結果を見てみます。

■ パターン1. 1つのアカウントから複数回発せられたツイート

ツイート数が最多となった論文は(アメリカで)264のツイートに登場し、高いAltmetricスコアを得ましたが、このツイートの73%(193)は、たった1つのアカウントから投稿されたものでした。しかも、このアカウントからの発信に書き込まれた該当論文へのリンクは65回、2番目に多くのツイートをしたアカウントからの発信に書き込まれたリンクは58回。この2つのアカウントはお互いにリツイートすることもあり、これらのアカウントからの発信を除くと、該当論文へのツイートは15と限られたものでした。ツイート数や書き込みリンクの数に違いはあっても、このように単独あるいは少数のアカウントから多数のツイートが発せられる傾向は他の論文にもあるようです。

■ パターン2. アカウント管理者によるツイート

一方、別のアカウントから同じ内容のツイートが多数発せられることがあることもわかりました。このパターンの例として、1982年に発表された論文が51回も次々に同じ内容でツイートされたことがあげられます(2016年)。Twitterがリリースされる前の古い論文がツイートされること自体が稀ですが、Twitterのアカウントを有する歯科医らが、アカウントの管理を同じ会社に委託していた結果、同じ内容のツイートが発せられたと考えられています。歯科医師らは患者とのコミュニケーションにTwitterを使用していましたが、委託を受けた管理者は、投稿にはオリジナルのテキストを使うと約束していたにもかかわらず、コピーしたテキストを繰り返し貼り付けて投稿していたのです。このようなパターンも散発的ではありますが、存在しています。

■ パターン3. 情報共有の広がりを示すツイート

もうひとつのパターンは、投稿を見た研究者が、実際に内容に興味を持ったことを示すツイートです。本来はこのパターンが多くなるべきなのですが、真摯に論文について書き込んだ投稿数がトップではないことは問題です。トップ10に入った1つの論文への59のツイートは、41の異なるアカウントからツイートされていました。これは、興味を持った研究者たちが、個別にツイートまたはリツイートしたことを示しています。

■ 調査結果から見えてくるのは――

トップ10本の論文へのツイートが、データ全体の8.4%を占めていること、それらのツイートには上述のパターンが見られることなどから、単独または少数による頻繁な投稿がツイッター上では大きな役割を果たしていることが見られました。また、データの中にはbotで作成されたツイート(設定された条件で自動発言をする機能を使ってツイートすること)も含まれることも踏まえ、この調査では機械的な発信か人による発信かの特徴に注意した分析も行っています。このような実態を踏まえると、ツイート数を論文の評価指標として組み込むには、不適切なフォロワーやbotによるツイートなどを除外するアルゴリズムの導入など、まだまだ課題は多そうです。この状況を理解した上で論文についてツイートするのであれば、専門知識などを駆使し、明らかに人(研究者)によるツイートとわかる内容を投稿することによって研究成果の拡散効果を上げる必要がありそうです。

■ Twitterは一長一短

学術研究についてツイートすることが有益か否かは、意見が分かれるところではないでしょうか。Twitterでなら新しい研究について意見を交換したり、以前の研究の価値について議論したりと、研究者仲間とオープンなコミュニケーションができると言う研究者もいます。一方で、発表した論文の影響力を強化するためにTwitterが有益であるかについて懐疑的な意見があるのも事実です。前述の調査結果を見ると、単純にツイート数が多いことが、該当記事への関心の高さを示すものではないことがわかります。また、ツイートの数を研究への関心の高さと見なすことも危険です。関心を引くためにわざと挑発的な内容や物議を醸すようなコメントを残すのはもってのほかですし、炎上したツイート数を評価に含めるようなことをすれば、いかなる研究分野であっても悪い影響を与えかねません。ツイート数の分析に注意が必要なことは明らかです。

Twitterの利用は一長一短です。コミュニケーションには便利なツールですが、研究論文を周知することや、影響度を向上させるために使おうとすれば、それなりの注意と方針が必要です。SNSの発展と利用拡大に伴い、オルトメトリクスのような新しい評価指標が登場したことで、研究者もSNSと無縁ではいられなくなってきています。しかし、TwitterなどのSNSを使いこなすには、時間と労力を要します。研究活動を広める目的で利用し始めたのに、ツイート数を増やすことが目的になってしまっては本末転倒です。SNSの利点をうまく活用するためのアドバイスは、さまざまな場所(インターネットや若手研究者からの口コミなど)で入手できるので、自分にあった活用法を探ってみてください。情報を役立てつつ、うまく活用することで、思わぬ成果が得られる可能性はあるのです。

※ Twitterは研究者にも有益か-使用上の注意 (前編)はこちら


こんな記事もどうぞ:
エナゴ学術アカデミー 『研究者に有益なオンラインツールと活用のメリット

Twitterは研究者にも有益か-使用上の注意 (前編)

Twitterといえば、トランプ米大統領の書き込みがたびたび話題をさらっています。このソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)の最大の威力は、発信された情報が、まさに瞬間的に世界中に拡散されること。このメリットを活用すべく、Twitterの利用は学術界にも波及しており、発信する文字数が制限(280文字、ただし日本語・中国語・韓国語は拡大対象外)されているにも関わらず、研究活動に役立てる研究者も増えているようです。

■ 研究活動にTwitter

Twitterに限らずSNSをコミュニケーション・ツールとして使いこなす研究者は少なくありません。多くの研究者が、「科学者・研究者のためのFacebook」と呼ばれるResearchGateAcademia.eduのようなプラットフォームで、研究の共有・情報交換を行っています。無論、FacebookやTwitterの利用者も多いことでしょう。

発信できる文字数に明確な限りがあるTwitterが本当に研究活動の助けになるのか?半信半疑な方もいると思います。しかも、フェイクニュースが話題になるように、発信される情報の信頼性の確保や、無遠慮なリツイートによる炎上といった、社会的な問題をも内包しているTwitterは本当に大丈夫なのか?信頼性が重要視される学術界において、Twitterを使うことで、研究の面白さや重要性を損なってしまうリスクは十分に考えられます。

■ Twitterの投稿は論文の評価に影響するか

2017年8月、研究論文をツイートすることで論文閲覧数に影響が出るかを調査した結果が、オープンアクセス・ジャーナル「PLOS ONE」に発表されました。これはTwitterへの投稿が、学術論文の影響度評価の新たな指標として注目される「オルトメトリクス(SNSでの拡散の度合いも評価対象に含めて論文の影響力を計る新しい指標)」に影響を及ぼすかを調べたものです。つまり、この調査で対象とした歯学分野の研究論文へのリンクを書き込んだツイートを調査することで、積極的なTwitter利用が、論文の周知や他の研究者の興味を引くことに貢献したかを見ようとしたのです。

調査の対象となった論文は、2016年に発表されたWeb of Science(WoS)に登録された84誌とPubMedに登録された47誌の中から抽出。2011年から2016年までの5年間に執筆された4,358本の論文について、2,200以上の米国内の個人アカウントから発信された8,206のツイートの分析が行われました。

■ 分析内容
・WoSの引用数とツイート数の比較
・論文あたりのツイートされた数
・論文あたりのツイートしたアカウントの数
・投稿されたテキストにおける変異
・「@」で始まるツイート数

この分析からツイートされた数の多かった論文トップ10を選び出したところ、ツイートには3つのパターンがあることが見えてきました。

ツイートに見られるパターン
パターン1.1つのアカウントから複数回発せられたツイート
パターン2.アカウント管理者によるツイート
パターン3.情報共有の広がりを示すツイート

これらのパターンそれぞれの特徴については後編に続きます。

こんな記事もどうぞ:
エナゴ学術アカデミー 『いま話題の新しい論文評価指標「オルトメトリクス(Altmetrics)」
エナゴ学術アカデミー 『ソーシャル・メディアは学術活動に役立つか?

 

2017年に学術界を揺るがした衝撃的事件(後編)

2017年に学術界を揺るがした衝撃的事件として、前編では海賊版論文サイト「サイハブ」訴訟と、ドイツの主要学術機関とエルゼビアとの契約交渉が決裂した件を紹介しました。後編では、研究者を食い物にする「捕食出版社」と研究論文の盗用・剽窃に関する話題を取り上げます。

■ 捕食出版社として訴えられたOMICSへの仮差止め

OMICSグループはインドに本社を置く、オープンアクセスジャーナル専門の出版社ですが、「捕食出版社」 (著者から掲載費用を得る目的で、適正な査読を行わずに論文を掲載する出版社)として知られています。「ハゲタカ出版社」とも呼ばれ、いわゆるジャンク・サイエンス(論理的根拠に乏しい科学)の流布をはじめ、たびたび問題となっています。米国の連邦取引委員会(FTC)  は2016年8月、OMICSグループのCEOであるSrinubabu Gedela氏を相手取り、詐欺的ビジネスを理由に提訴 しました。

OMICSは700の学術雑誌を出版し、3000の学術会議を運営する出版社です。FTCは、OMICSが研究者らに、論文を掲載する動機付けとなるインパクトファクター(学術雑誌の影響力の評価指標)を偽って伝えていると主張しています。その上、OMICSは論文の掲載料を著者らに公表せず、さらに著者が論文の掲載をやめたり、他社で発表したりすることを妨害していたということです。

OMICSへの疑惑はまだあります。FTCは、OMICSが開催する学術会議でも不正が行われていると指摘しています。例えば、OMICSは学術会議での研究発表に架空の論文「鳥-豚の生理における飛翔特性の進化」を採択し、手数料を払えば発表も可能としたとの報告があります。採択されるはずのないジャンク・サイエンスの論文にも関わらず、発表が許可されたのです。また、査読を行っているという偽りの発言をしていることも疑われています。OMICSの編集委員のリストには著名な科学者の名前が連なっていますが、証明するものはありません。このような申し立てが積もり、OMICSは捕食出版社だとの疑惑が高まっているのです。

2017年11月、ネバダ州の地方裁判所のGloria Navarro裁判官は、Gedela氏とOMICSグループ、関連会社のiMedPub、Conference Seriesの3社に、仮差止め命令を下しました。OMICSが研究者に虚偽の説明をして論文を掲載するように誘導していることや、著名な科学者の名を無断で用いて投稿を依頼するメールを送っていたことが、今回の命令の根拠とされています。

この仮差止め命令はOMICSグループに向けたものであるため、OMICSは、会議に出席する予定のない講演者の名を語って宣伝することや、ジャーナルの編集委員として虚偽の名前を連ねることは、無論できなくなります。裁判所はOMICSに対し、論文の投稿前に、掲載にかかる費用の総額を著者に伝えるよう要求しています。また、FTCは研究者らに、OMICSによる仮差止め命令への違反があればすぐに報告するよう伝えており、新たな不正が発覚した時点で、法廷侮辱罪として訴える考えです。

一方、OMICSのCEOであるGedela氏は、FTCの訴えの内容を否定しています。この告発は、市場シェアを失った従来の出版社が、オープンアクセス出版社に対して腹いせに起こしたものであり、仮差止め命令の後もOMICSの活動は制限されない、と反論しています。米国の裁判所命令ではインドの出版社の活動を効果的に止めることはできない、と主張する研究者もおり、出版投稿や国際会議での発表を行わないようにする以外、捕食出版社の活動を実際に抑制することは難しいと見られているようです。

このような捕食出版社が登場した背景には、一本でも多くの論文を出版し、学術会議で発表しさえすれば、研究者として評価されるという、学術界の悪しき習慣があるのかもしれません。仮差止め命令の影響とOMICSの今後の動きが注目されるところです。

■ 多数の編集者を辞任に追い込んだScientific Reportsの剽窃問題

2016年に発刊されたScientific Reportsに掲載された論文の剽窃疑惑が発端となり、2017年、同誌の多数の編集委員が辞任しました。

ジョンズ・ホプキンス大学の研究者Michael Beer氏は、同誌が、自身の過去の論文を盗用・剽窃して掲載したと主張しています。彼は同誌の編集委員の1人でもあったため、この不正に気付き、論文の撤回を求めました。しかしScientific Reports側は、撤回を拒否し、訂正表の発行のみに留めることを決定したのです。Beer氏は、この処置は不適切であると抗議し、編集委員を辞任しました。ジョンズ・ホプキンス大学の他の研究者らもBeer氏に賛同し、次々に編集者を辞任しています。

盗用・剽窃が疑われた論文は、ハルビン工科大学(中国)の深センキャンパスの研究者らにより発表されたものでした。この研究は、Beer氏と彼の研究チームが2014年7月の『PLOS Computational Biology』で発表したアルゴリズムを元にしており、元の論文にはBeer氏の論文を引用していることが示されていました。しかし、2016年のScientific Reportsに投稿された論文には、PLOSに掲載したBree氏の論文の内容を書き換えたものが数多く見られたにもかかわらず、参考文献にBeer氏の論文は見当たりませんでした。同誌の編集長は、著者らによる参考文献の書き漏れがあったことを認めましたが、論文の撤回ではなく、訂正表を発行することが適切であると判断し、事態の収拾を図りました。Beer氏は、これでは、研究者らは盗用・剽窃をしても後に訂正表を発行しさえすればよいと考え、結果的に剽窃を助長することになるとして、この決定に抗議・辞任したのです。

盗用・剽窃の問題が多発する今日、論文掲載にあたり厳しい審査を課すべきであると考える研究者はBeer氏の他にもおり、今後もこのような事態が発生する可能性は十分に考えられます。出版社側が明確な改善策や指針を打ち出さない限り、盗用・剽窃に関する問題は続きそうです。

以上、2017年に起きた衝撃的事件を2回に分けて紹介しました。2018年は学術界にとって、どのような1年になるのでしょう。

※ 2017年に学術界を揺るがした衝撃的事件(前編)はこちら


こんな記事もどうぞ

エナゴ学術英語アカデミー
米国の裁判所、“捕食出版社”に差し止め命令
編集委員を辞任に追い込む剽窃問題
参考記事

US Court Issues Injunction Against Open-Access Publisher OMICS
Junk science publisher ordered to stop ‘deceptive practices’
Retraction Watch: U.S. government agency sues publisher, charging it with deceiving researchers

2017年に学術界を揺るがした衝撃的事件(前編)

どんな年にも事件は発生しますが、中でも2017年は、学術界を揺るがす衝撃的な事件がいくつも起きた年でした。訴訟、ボイコット、辞任……。1年を通して、研究者と学術出版界の関係に大きな影響を与える事件が多数発生しました。2017年に学術界を騒がせた注目すべき事件を、前編・後編に分けて振り返ってみます。

■ 海賊版論文サイト「サイハブ」訴訟

「サイハブ(Sci-Hub)」は、公式出版社のサイト以外から学術論文を無料で閲覧できる、いわゆる「海賊版論文公開サイト」です。2017年6月、サイハブは、大手学術出版社エルゼビアが起こした訴訟に敗訴し、やはり論文を違法に無料で入手できるサイト「ライブラリー・ジェネシス(Library Genesis/LibGen)」などとともに、著作権侵害の損害賠償として1500万ドルの支払いとウェブサイトの閉鎖を、ニューヨーク州地方裁判所に命じられました。

同年11月3日には、米国化学会(ACS : American Chemical Society)がバージニア州の地方裁判所に起こした訴訟にも敗訴し、480万ドルの損害賠償の支払いを命じられました。また、この判決には、サイハブに協力する運営会社、ドメイン登録・検索エンジンやプロバイダーなどのインターネットサービスに対し、サイハブへのリンクやアクセスをブロックすることが可能となる差止め命令も含まれました。

もともと、ACSは、積極的にリンクを貼るなどユーザーをサイハブに結びつけることの禁止を求めていましたが、検索エンジンやプロバイダーへの措置までは求めていませんでした。実際、ISPが積極的にサイハブに協力していたわけではないことから、検索エンジンやプロバイダーにサイハブへのアクセスを禁止することまでは必要ないと考えられていたのです。しかし、バージニア州地方裁判所は、多くのインターネットサービスに影響を与える全面的差止めを命じました。

結果として、2017年11月、少なくともサイハブの4つのドメイン(sci-hub.cc, sci-hub.io, sci-hub.ac, aci-hub.bz)は恒久的に閉鎖されました。もっとも、ツイッター上では、サイハブのドメインがまだ使用されているようですし、サイハブ自体は、アメリカの司法の力が及ばないロシアのサーバーで今もサービスを提供し続けています。

この差止め命令に納得していないプロバイダーやユーザーもいます。日米欧の大手コンピューター企業/通信会社で組織する業界団体(CCIA: Computer&Communications Industry Association)が差止め命令への異議を唱えましたが、裁判所は応じませんでした。今後、この差止め命令に対して異議申し立てを行う団体がさらに出てくるかもしれません。グーグルなどのISPがサイハブへのアクセスを削除することへの懸念の1つとして、インターネット上で混乱が生じる恐れがあります。ユーザーがこの差止め命令を知らない場合があるからです。そして、インターネットの中立性が損なわれることも危惧されます。

このサイハブへの判決および差止め命令が今後、学術界にどのような影響をもたらすか、注目されます。

■ ドイツの主要学術機関、エルゼビアとの契約交渉決裂

ドイツの大学を含む学術機関が、大手学術出版社エルゼビアが発行する雑誌を購読できなくなったという出来事がありました。

大学などの教育機関による学術データベースへのアクセスを巡る議論は、今に始まったことではありません。学術機関は、論文を入手するために出版社に高額な購読費を払わなければならないことに抗議し続けてきました。年間1000ドル、あるいは必要なジャーナルが増えればそれ以上の購読費を何十年も支払い続けることは、学術機関にとって大きな負担です。抗議の末、多くの大学は、学術出版社エルゼビアとの購読契約の更新を見送る策を取り始めました。エルゼビアとドイツの大学との契約交渉は決裂し、約200の大学や研究機関が、エルゼビア発行のジャーナルに掲載された論文へのアクセスを、失ったのです。

ドイツの大学や研究機関が結成したコンソーシアムProjekt DEALは、2016年、大学や研究者らのために、全ての大手出版社とライセンス契約を全国規模で締結することをめざして、交渉を開始しました。しかし、いくつかの出版社との交渉は成立したものの、エルゼビアとの2年にわたる交渉は中断されました。この結果、交渉に関わったすべての学術機関が、エルゼビアのジャーナルへのアクセスを失ったのです。

エルゼビアにオープンアクセスを求める動きは、ドイツにとどまりません。何千人ものフィンランドの研究者らが、2016年11月以降、エルゼビアをボイコットしています。

エルゼビアとの交渉が成立しない限り、ドイツの学術機関は、ほとんどのジャーナルへアクセスすることができません。これは、世界の学術界にとっても痛手です。ドイツの問題を先延ばしにすることは、将来、他の国でも同様の問題が生じるかもしれないことを意味しています。論文を読むために高い購読料を支払わなければならない研究者にとっては、研究論文の購読が一層困難となり、科学あるいは学術上のイノベーションを減退させることにもなりかねません。ドイツの学術機関は、ジャーナル購読料の負担軽減を切望しています。しかし、そうなれば購読料が主な収入源である学術出版社は、行き詰まってしまいます。互いに譲れぬ局面にいることは確かです。

もっとも、この流れは、研究者が新しい出版システムを構築する動きにつながる可能性を有しています。研究者が特に興味を持っているジャーナルのオープンアクセス化は、研究活動のリテラシー向上の潜在性を秘めており、ビジネスモデルを根本から変えるかもしれません。
この事件がいかなる結末を迎えるとしても、学術出版界が岐路に立っていることは、疑いないと言えるでしょう。

 

こんな記事もどうぞ

エナゴ学術英語アカデミー:
米国化学会、海賊版論文サイト「サイハブ」に勝訴
エルゼビア社、海賊版論文サイトに裁判で勝利したが…
海賊版論文公開サイトは学術出版モデルを変えるのか

参考記事

enago academy:
More German Universities Cancel Elsevier Contracts
Elsevier’s Open Access Controversy: German Researchers Resign to Register Protest
completemusicupdateAmerican: web-blocking injunction unlikely to result in any web-blocking
torrentfreak: Sci-Hub Loses Domain Names, But Remains Resilient
sciencemag: Elsevier journals are back online at 60 German institutions that had lost access

 

【聖徳大学】北川 慶子 教授インタビュー(後編)

各大学の研究室に訪問し、研究者たちにおける英語力向上の可能性を探るインタビューシリーズ。十九回目は、聖徳大学 心理・福祉学部教授の北川慶子先生にお話を伺いました。インタビュー後編では、英語指導法や上達法についてお話しくださいました。


■ 佐賀大学にご在職中、学生の皆さんを海外に連れて行かれたそうですね。

佐賀大学が約10年前に環黄海地域の国々、つまり韓国と中国と日本で「環黄海教育プログラム」というものを作りました。言語専門の教員に対してプログラムへの参加を募ったのですが、手を挙げる人がいなかったので、私が立候補しました。

内容としては、環黄海の3カ国以上の国から教員を集めて行う授業に、各国の大学院生を参加させるという教育プログラムでした。選出された教員が、各大学院で持っている授業を一週間、オムニバス形式で行います。私の場合は社会学の授業でした。授業はすべて英語で、その後のグループディスカッションも、3カ国の学生が入り混じって全部英語。最後にはどんなことを話し合ったかをプレゼンし、その後に評価もする。それで2単位を取れるというプログラムでした。これは、長期休みの間にお互いを訪問し合うプログラムだったのですが、佐賀大学の院生は全員、韓国と中国と台湾に行きました。

■ プログラムに参加された学生の成長ぶりはいかがでしたか?

学生たちは飛躍的に成長しましたね。本当に全然しゃべれない学生もいましたが、一緒に夕食を食べて、お酒を飲んでいるうちに話し始めるのです。できる・できないは別にして、コミュニケーションを取ろうとしているのがわかって、すごくよかったですね。メールのやりとりでも、英語ができない中国人相手に漢字だけで書いていたり、韓国人相手に(ハングルは読めないので)英語で書いていたり。その中で国際カップルもできました。このプログラムを経験した学生たちは、私がそうだったように「今度は韓国に行きましょう」などと気軽に言うようになりました。

■ 先生の英語の指導方法についてお聞かせください。

学生にはできるだけ「機会」を与えるようにしています。カジュアルな国際会議に連れて行ったり、アブストラクトだけでも投稿させたり。私は英語の添削はいまだに苦手ですので最終的には、外国人共同研究者に見てもらいます。災害研究は外国でも進められており、ここ10年ほどで外国の研究者方との共同研究が増えました。そのおかげで、添削をお願いできる人脈も増えました。

おかげさまで、私のところで学んだ院生の多くが教員になっています。韓国で教員やポスドクになった学生もいれば、中国に帰国して教員になった院生もいます。

■ 卒業された皆さんは、韓国や中国でも英語を使われているのですか?

韓国でも中国でも、英語で学会の運営をすることが多くなっています。このよいところは、(英語)ネイティブではないことです。ESL(English as a second language)状態なので、若い人たちも気後れしないでしゃべるようになっています。英語が母国語でない人たちとの会話のほうが精神的に楽ですよね。若い人たちにとっては英語圏に行くのが一番かもしれませんが、英語を気軽に自分たちのものにするためには、アジアでもよいのではないかと思います。英語が通じない地域もありますが、Ph.Dを持っている台湾の人たちの9割はアメリカで学位を取得しているといいますし、国外でのPh.D.取得が韓国や中国でも多くなっています。私が台湾に2度ほど3か月と半年間、客員教授として迎えられましたが、英語だけで通じるので、まったく中国語ができない状態で行って、できないまま帰ってきました(笑)。

■ 先生が考える英語上達の秘訣、またはおすすめの勉強法を教えてください。

まだまだ勉強中の私が申し上げるのも難なのですが、とにかく触れる、使うことではないでしょうか。私の場合、共同研究で話したり、書いたりしながら実地で覚えたという感覚が強いです。仕方なく英語を使う状況に自分を追い込むんです。そうすると、向き合わざるを得ませんから。

あとは人の論文をレビューすることが、書くための勉強になります。文献を探して読むこと。あとは、自分で書くこと。私はパソコンでやっても身につかなくて、ノートに書いています。本当に必要なものは、書かないと入ってこないですから。スペルも覚えます。自分で書いて自分でチェックしていると、書くのが早くなります。年齢と共に筆記スピードだけでなく語学力も衰えていくと言われますが、筆記のスピードでそれをセルフチェックできるんです。

■ 自分で文献を探してレビューを読み、そして書くことが英語上達に結びつくということですね。

ええ。レビューを読むことは研究費などの調達にも必要です。資金を申請するには、必ず内外の研究動向を書かなければなりません。申請書を日本語で書くにしても内外の動向、特に外の動向を探るために外国の文献を読む必要がありますし、外国資金の申請をする時には、日本語の文献でもそれを読んで内容を書かなきゃなりません。

佐賀大学にいるころは、外部資金の獲得件数が多かったので「外部資金の女王」とか呼ばれていたんです(笑)。外部資金だけで35-36件でしょうか。申請書の書き方の本も書きましたし。

■ 研究費を確保するための申請書の書き方指南は、後身の指導にもなりますね。

実は、こつこつ集中して同じ作業をしたり研究をしたりするのは好きですけど、教えるのは苦手だと思っています。にもかかわらず指導のお声がけをいただき、本当にありがたく思っています。先日は申請書の作り方の指導に呼ばれて、沖縄の大学で8名の先生の申請書を朝9時から夕方5時まで休みなく、一人1時間ずつ。明日は佐賀に出張で大型資金の申請についての打ち合わせですし。結局、お世話するのが好きなんです。もう疲れて自分の申請書ができないかもしれません(笑)。

【プロフィール】
北川 慶子(きたがわ けいこ)
聖徳大学 心理・福祉学部 教授
1999-2014年 佐賀大学文化教育学部 教授
2009-2014年 佐賀大学女性研究者支援室副室長・佐賀大学男女共同参画室長
2014年-現在 聖徳大学 心理・福祉学部 教授(2014年~)/佐賀大学 名誉教授(2014年~)/佐賀大学 工学系研究科 客員研究員(2015年~)/韓国忠北大学国家危機管理研究所招聘研究員/ネパールルンビニ佛教大学客員研究員
2006年から国立台北大学 客座教授(台湾)、2007年から華東師範大学社会学研究所 併任研究員 (都市防災・福祉研究室)(中国上海市)、2008-2014年には輔仁カトリック大学特聘教授 国際交流諮問委員(台湾)など海外の役職にも就かれている。2015年モンゴル教育アカデミー優秀女性研究者賞、2016年には財団法人 日本女性科学者の会 功労賞と佐賀県 佐賀県政功労賞を受賞。
2016年9月には学文社より「科研費採択に向けた効果的なアプローチ」を出版。
ご専門分野:社会福祉学(高齢者福祉、地域福祉、児童福祉)

 

研究者に有益なオンラインツールと活用のメリット

突然ですが、この記事を読まれている方で「科学者・研究者のためのフェイスブック」と言われるResearch Gateを使用されている方は、少なくないのではないでしょうか。インターネットの急速な発達に伴い、こうした研究活動に役立つといわれるオンラインツールが数多く登場し、インターネット上で利用することができます。用途ごとのツールとメリットを見ていきましょう。

■ 使いこなせば役に立つ

オンラインツールの最大のメリットといえば、やはり手軽さと拡散性でしょう。研究者は、他の研究者と気軽にコミュニケーションできるようになっただけでなく、論文の投稿や掲載情報の共有までできるようになりました。例えば前述のResearch Gate。研究者は研究内容やプレゼンテーションをここで共有することで、研究成果を多くの人に目にしてもらうことができます。オンラインツールを活用すれば、自身の研究成果に注目を集め、広く引用してもらい、結果として研究が高く評価されることにもつながるのです。

米国環境保護庁(EPA)傘下のNCCT(National Center for Computational Toxicology)に所属するアントニー・ウィリアムズらがF1000Research(生命科学分野のオープンアクセス・ジャーナル)に発表した記事によれば、多くの研究者がオンラインツールの利用価値を認識してはいるものの、活用できているのは、ほんの一握りであるとのことです。同時に、オンラインツールを使いこなすには時間と労力がかかるけれども、研究者がこれによって情報を共有し、人脈を作り、より多くの人に自分の研究内容を知ってもらうことは、研究者の業績や学術研究の発展に大いに役立つとも述べています。オンラインツールを活用する研究者の数は、今後も増え続けることが予想されます。

■ 論文の影響度の新たな測り方

研究者がオンラインツールを活用することで、投稿論文の影響度の測り方に、新たな指標が加わりました。従来は、研究論文の被引用回数から影響力を評価する「インパクト・ファクター(IF)」が主流でしたが、Altmetric(オルトメトリクス)など、論文のオンライン上での影響力を測る新しい指標が近年、登場してきたのです。

オルトメトリクスは被引用回数を反映するだけでなく、論文の閲覧数、ダウンロード数、フェイスブックやツイッターなどのソーシャルメディアや報道機関でのコメント数など、論文が持つ影響力をさまざまな面から反映させる新しい評価手法です。特にAltmetric.comが提供するスコアが有名で、さまざまな学術ジャーナルで採用されています。

このような総合的な指標の最大の利点は、所属機関や助成団体などが研究者の個人の業績を評価する際、論文を掲載したジャーナルの影響度とは別の判断材料として利用できるという点です。評価結果は、研究者のキャリアに直接影響しますし、新しい共同研究の機会や研究助成金の確保、ひいては新しい学術的発見にまでつながる重要なものなのです。

■ 研究内容の影響を最大化するオンラインツール

ウィリアムズらは、オンラインツールの利用目的を4つに分類しています。これはメリットにもそのまま置き換えられます。複数のツールを紹介していますので、用途に沿って、最適なものを使われてみてはいかがでしょうか。

・ネットワーク構築
学術界で最も活用されているネットワーキングツールにLinkedInがあげられます。プライベートの情報は共有せず、あくまで仕事に関連する情報のみを共有するこのプラットフォームは、研究内容や最近の研究活動、興味のあるトピックなどを投稿するのに適しています。最新の発表へのリンクを掲載したり、PowerPointやPDFなどのファイルをアップロードしたりすることもできます。画像も付けて投稿すると、閲覧者からの反応がよくなります(「いいね!」をもらいやすくなります)。同様に、Research GateやAcademiaも優れたネットワーキングツールで、技術的な内容を質問・投稿し、閲覧者から回答を得るのに適切なプラットフォームといえます。

ただし、これらのプラットフォームに出版済みの論文や資料をアップするには、著作元の許可が必要なので注意が必要です。

・研究関連情報の共有
情報共有ができるプラットフォームはたくさんありますが、やはり最も利用者数が多いものといえば、FacebookInstagramでしょう。しかし、これらはプライベートで利用されることが多いので、ブログやTwitterGoogle Plusのほうが研究関連情報の共有には適しているといえます。プレゼンテーション資料を共有できるプラットフォームのSlideShareは、研究発表のスライドを公開するのに優れています。動画を共有したい場合にはYouTubeVimeoWeiboがおすすめです。これらの他にもデータを共有するためのMendeley DataFigshare、化学分子データベースのPubChem、主に物理や数学分野の論文投稿サイトのarXivなどさまざまなオンラインプラットフォームが多数存在しています。

・影響度のトラッキング
影響度をトラック(計測)する新たな指標としては、先述のオルトメトリクスがあります。ブログへの引用数やリツイート数などを収集し、独自のアルゴリズムによって、論文に対するネット上での反響を示すものです。よく使われているものには、Altmetricスコアの他、ImpactStoryPlumXなどがあります。ORCID(Open Researcher and Contributor:ID<科学者や論文著者に識別するためのIDを付ける取り組み>)やGoogle Scholar(Googleの提供する学術用途の検索サービス)が、論文発表の有効性や引用数を見るために利用されることもあります。

・影響度の向上
影響度、つまり研究論文のインパクトを上げるために有益な著者支援ツールとして、Kudosというプラットフォームが注目されています。これは、投稿した研究論文をより多くの人に利用(引用)されやすくするのを支援するツールです。Kudosのオンラインプラットフォーム上に自身の論文を掲載することで幅広い読者にもわかりやすい言葉で論文の要約や説明を編集することが可能になるほか、論文の閲覧数やダウンロード数、引用の回数やオルトメトリクスの指標を確認できるようになります。公開した論文の影響度を向上させるのに何が有効かを分析することができる優れものです。

■ デジタルツール普及の流れは止まらない

以上のように、研究内容の発表方法は、ここ数年で著しく変化してきています。課題はあるものの、研究活動におけるオンラインツールを使ったコミュニケーションや研究データの共有は拡大し続けることでしょう。もはや抗えない流れになってきている以上、これに乗り遅れないようツールの活用についてアンテナを張り巡らせておいてはいかがでしょうか。

こんな記事もどうぞ
ソーシャル・メディアは学術活動に役立つか?
いま話題の新しい論文評価指標「オルトメトリクス(Altmetrics)
Kudos協同創設者・チャーリー・ラップル氏へのインタビュー(第1部)