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【駒澤大学】日野 健太 教授インタビュー(後編)

各大学の研究室に訪問し、研究者たちにおける英語力向上の可能性を探るインタビューシリーズ。十二回目は、駒澤大学の日野健太教授にお話を伺いました。後編では、研究者を目指す若手の方に向けてのメッセージと英語力向上への秘訣をお伺いします。


■ 大学や大学院で英語論文の書き方や口頭発表の仕方を学ぶ機会は少ないと思いますが、研究者を目指す方は、それらをどのように鍛えていくのが良いのでしょうか?

博士課程の学生だと日本語で論文を書き、発表するだけで精いっぱいだと思いますが、少なくとも英語論文を読む機会はあると思います。そのとき、1回はきちんと声に出して読むことを薦めています。声に出して読むというのはシンプルなことですが、すごく役に立ちます。大学、大学院の両方で外書講読の授業を持っていますが、学生には必ず声に出して読んで来るよう強調しています。半年間やって上達する学生は、予習の際に真面目に声に出して読んでいます。やっているか、やっていないかで、明らかな差が出る。音読を継続することが、スキルアップにつながると思います。

■ 今後、口頭発表をする学生へ、アドバイスがあれば教えてください。

「とにかく、やってみろ。1回は恥をかけ。」でしょうか。恥ずかしい思いをし、もっと頑張らねば、と思うことがないとダメだと思います。最初からうまくいくわけがないから、とにかくやってみなさいということですね。

5月にメキシコで開催されたIFSAM(2016年のメキシコ大会)に行ってきましたが、メキシコ人の若手研究者が必死に英語で発表しているのを見て、昔の自分を思い出しました。一生懸命にやっているのは見てわかりますから、最初からうまくできる必要はないと思います。

■ 学会が終了した後などに研究者同士がネットワークを広げる機会があると思いますが、それも英語へのモチベーションにつながるのでは?

国際学会の懇親会などで海外研究者が積極的にネットワーキングしている中に日本人が飛び込んでいくと、なかなかの”アウェー”を感じます。世界の研究者は交流をけっこう大事にするらしく、コーヒーブレイクなどで気軽に話をしていますが、あのアウェー感はすごい。それでも、また行こうと思いますけど。

■ あきらめずに目の前の機会に向き合うことが大切なのですね。若い先生方へのメッセージをお願いします。

就職した後の目標をどこに置くかを考えておくべきだと思います。私の場合は、学位論文を書くのが自分で作った「30代の上り坂」でした。現在は経営学でも学位を取ってから就職する人が増えています。そんな中で若手の先生たちは、国際学会で発表をし、その後に英語で論文を発表するとか、「30代の上り坂」を意識して作ると良いのではないでしょうか。

■ 英語添削などのサービスを提供している会社に対して、「こんなサービスがあれば役に立つ」といったご要望はありますか?

書いて直してもらって、を繰り返せば論文執筆は絶対にうまくなると思います。自分はこう書いたけど、本当はこの書き方が正しいと示されることで、少しずつ言い回しが身に付いていきます。ただ、添削済みの原稿に英語の勉強法などをびっしり書かれても、人によっては消化しきれないかもしれません。少しで良いので、パーソナルなコメントが返ってくると、丁寧に見てくれているなとうれしくなります。例えば「あなたの英語はよくこういう表現を使っているけど、こういう表現のほうが良いんじゃないか」とか「これは、あまり学術論文では使わない表現です」といったように。そうしたコメントが付いていると、顔の見えない校正者の方への共感の念を抱くんです。

■ 最後に個人的な質問ですが、先生の分野(経営学)だと、平均年何本の論文投稿をするのでしょうか?

わかりません……。1本も書かない人もいるので、平均したら小数点の世界かもしれません。文系の研究者は本の執筆をしたり、翻訳をしたり、学術誌だけに寄稿しているわけでもないですしね。
今は洋書を日本で出版するための和訳を行っていますが、これは大学教授の伝統的な仕事の一つです。何人かで分担して作業を進めていますが、翻訳の質に個人差があるのは事実です。英語から日本語または日本語から英語の翻訳でも、文章を書いてみることで上手くなっていく、くらいのことは私の口からでも言うことができます。ただ、どのくらい書けば上達するかを正確に言うのは難しいです。年に2本仕上げられれば言うことないのではないかと思います。


【プロフィール】
日野 健太(ひの けんた)

駒澤大学 経営学部経営学科 教授
2003年 駒澤大学経営学部専任講師
2007年 同准教授
2009年 博士(商学)(早稲田大学)
2014年 経営戦略学会 理事
現在 駒澤大学経営学部 教授

近著:
・『Hatch組織論 -3つのパースペクティブ-』(共訳、同文舘出版)
・英語論文(共著)
Hino Kenta, Hidetaka Aoki, (2013) “Romance of leadership and evaluation of organizational failure“, Leadership & Organization Development Journal, Vol. 34 Issue: 4, pp.365-377, doi: 10.1108/LODJ-08-2011-0079

 

Chinese-publication-ethics

中国が学術不正防止に本腰

学術不正はどの国でも問題ですが、中国の研究者による学術不正は根が深く、中国国内には不正を補助するビジネスが成り立っているとの話や、査読欺瞞まで横行しているとの噂すら聞こえてきます。最近では、2016年3月に英国の出版社が撤回した論文43件のうち41件が中国からのものでした。さらに2017年4月には、学術出版大手のシュプリンガー・ネイチャーが107件もの中国の論文掲載を取り消し、話題となっています。これは数も多かったからか、中国国内でも問題視され、学術不正に関する記事が新聞やテレビで取り上げられました*1,2

このような事態に至り、中国の学術界や政府もようやく重い腰を上げて、対策に乗り出したようです。

5つの禁止事項を公表

中国の主要研究機関の一つである中国科学技術協会(CAST)が、学術上の不正に関わった学者に対する断固たる措置に乗り出しました。「健全な科学的精神を育む」ことと「科学上の倫理を強化する」ことを目的に、CASTや中国科学院、自然科学基金などの組織が共同で「学術論文公刊に当たっての5つの禁止事項」を公表しました*3

この新たな一連の規定は、学術出版を統治する倫理基準を明確化し、中国の研究者の意識を向上させ、中国学会の評価と利益を守るべく導入されました。最近よく見られる、でたらめな査読やゴーストライターの利用といった諸問題に対処するためのものです。これによると、研究者の禁止事項は以下の5つ。

学術論文公刊に当たっての5つの禁止事項」
1.第三者に論文を書かせること。
2.第三者に論文を提出させること。
3.第三者に自分の論文に何らかの内容を書き加えさせること。
(研究者が自分自身で書いた原稿に基づいて、文章の改善を誰かに委託することは許される)
4.虚偽の査読情報を用意すること。
5.学術論文提出にあたっての規則に違反すること。
(論文をいかなるジャーナルに提出する際も、全執筆者がレビューの上、承認しなければならない。いったん原稿が提出されたら、全執筆者はその内容に責任を有する)

論文取り下げ問題への対応

冒頭に記したように、ここ数年、中国人研究者が共同執筆した論文が、複数の国際的学術ジャーナルから学術上の不正あるいは「第三者機関の評価に不正」があるとの理由で取り下げられています。このような事態に際し、中国の複数の団体・機関が2015年12月、声明を発表。「中国の学界への評価を貶めかねないものである」と指摘し、「それぞれの団体・機関の責任として、わが国の学問の権威を守らねばならない」と述べました。

にもかかわらず中国人研究者の関わる不正の摘発は後を絶ちません。2016年8月、the European Journal of Medical Research誌に掲載されたある原稿が取り下げられたケースは、著者である中国人が所属する組織が、論文の執筆者名に誤りがあるとの懸念を表明したものでした。この撤回通知によると、著者とされる研究者の論文への関与を確認することはできず、また査読の過程でも明らかに手加減が加えられていた、とのことです。研究者たちは、原稿の編集と提出を第三者に依頼していたのでした。

こんな事例もあります。the International Journal of Neuroscience誌の編集者が、掲載された論文の提出から公刊に至る過程で著者リストに変更が加えられているのに気づき、原稿を撤回。論文の出自そのものに重大な疑念を持たれるケースとなりました。

明快なルールと管理の必要性

このような研究者による論文不正が続発する背景には「論文を出さなければ生き残れない」という風潮があります。これは何も中国だけではありません。学術界全体が憂慮すべき事態に陥っているのが現状なのです。

中国学術界が、自国研究者の間にはびこる腐敗をいかに根絶するか、「学術論文の5つの禁止事項」の実効性と効果の度合いが試されそうです。大病院や有名大学の識者にも広がっているネガティブな流れに対して断固とした姿勢を示し、非倫理的行動を認めない多くの誠実な執筆者への支援が広がってほしいものです。

この新ルールが適切に実施されることを確実にするため、中国の諸組織は連絡を取り合い、協力体制を築こうとしています。あらゆる倫理違反を記録し、不正に関わった学者をブラックリストにまとめる情報ネットワークが築かれようとしているのです。5つの禁止事項が、学者を学術上の不正から守り、よい研究環境を維持していくことにつながるのか、今後の動きに目が離せません。


<脚注>
*1 新唐人電視合(New Tang Dynasty Television)107本の中国医学論文が不正により取り消しに【禁聞】
*2  Searchina「中国の学術論文でまた大量の不正発覚、どうしてこんなことが起こるのか=中国メディア」
*3 Retraction Watch「Ever heard of China’s “five don’ts of academic publishing?”」

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【駒澤大学】日野 健太 教授インタビュー(前編)

各大学の研究室に訪問し、研究者たちにおける英語力向上の可能性を探るインタビューシリーズ。十二回目は、駒澤大学の日野健太教授にお話を伺いました。組織におけるリーダーシップというテーマで理論・実証研究を進める傍ら、ご自身で翻訳作業も行っている日野先生から、論文を声に出して読んでみることが大事とのアドバイスをいただきました。


■研究室で扱っている専門分野、研究テーマを教えてください。

経営学、特に経営組織論です。組織におけるモチベーションやリーダーシップが主要なテーマです。

組織と言っても、モノやサービスを生み出す企業やNGOなどの仕組みとしての組織を研究対象としていて、その中での人にまつわる問題を中心に研究しています。経営学と言いつつ心理学的な要素もあって、アンケート結果を統計分析することもあります。

■英語論文の執筆や学会の発表、共同研究などにおいて、英語で苦労したご経験はありますか?

英語は決して得意ではなく苦手意識があったので、苦労しなかった経験はないです。教員になってから、外国語で発表してやろう、という気になったのですが、そもそも書き方がわからない。英語論文の本を買ってきて、参考にしながら書き始めました。表現方法を増やすという意味では、中学のころの英語の勉強のように「よく使う表現辞典」のような例文集をせっせと覚えるのも意外に大事です。ただ、プルーフリードに出すと修正されることがあるので、本に書かれているものがベストの表現だとは思いません。

論文は書き出しが特有で難しく、This paper examinesなどの書き出しすらわからずに悩むこともあるので、例文を見て参考にできるのは役に立ちました。

■書き上げた英語論文は、英文校正業者やネイティブスピーカーに見てもらうのですか?

英語論文を長年執筆している同僚から薦められた英文校正会社に依頼したことはあります。知り合いのネイティブの先生に頼んだことはないですね。

■研究発表でご苦労されたご経験はありますか?

口頭発表は2006年のベルリンが最初でしたが、あれは本当にきつかった。運悪く同僚らが聞きに来ており、かっこ悪いところを見せてしまいました。

唯一胸を張れるのは、きつくてもその後もめげなかったことですね。日本人研究者も多く参加するIFSAM(The International Federation of Scholarly Associations of Management:国際経営学会連合)が継続して開かれていたので-これは世界中の経営学の研究者が集まる国際的な学会ですが-ベルリン以降の大会にも参加し続けました。

■口頭発表で苦労したのは具体的にどのような点でしょうか?

とにかく原稿を読むのに必死で……。質疑応答やディスカッションのレベルには程遠く、質問にほとんど答えられなかったんです。それでも、どこか鈍いのかもしれませんが、めげませんでしたね。

初回の口頭発表は散々でしたが、在外研究のイギリス滞在などを経て、外国人の議論の仕方にも慣れていきました。それに、外国人に対しての気後れがだいぶなくなったのが大きかったです。その点では、1年間、海外に滞在した効果は否定できないと思います。

イギリス内での行き先は自分で探しましたが、そのときの履歴書に英語で口頭発表した経験を書けたのは心強かったです。発表の経験がたとえ2-3回でも、多少はできるんだという安心につながりました。「やった」ということが大事なのだと思います。

 


後編では、研究者を目指す若手の方に向けてのメッセージと英語力向上への秘訣をお伺いします。

【プロフィール】

日野 健太(ひの けんた)

駒澤大学 経営学部経営学科 教授
2003年 駒澤大学経営学部専任講師
2007年 同准教授
2009年 博士(商学)(早稲田大学)
2014年 経営戦略学会 理事
現在 駒澤大学経営学部 教授

近著:
・『Hatch組織論 -3つのパースペクティブ-』(共訳、同文舘出版)
・英語論文(共著)
Hino Kenta, Hidetaka Aoki, (2013) “Romance of leadership and evaluation of organizational failure“, Leadership & Organization Development Journal, Vol. 34 Issue: 4, pp.365-377, doi: 10.1108/LODJ-08-2011-0079

 

Publons CEO アンドリュー・プレストン氏へのインタビュー

「専門家による論文査読を効果的に行うことで、科学を加速化する」をミッションに掲げて2012年に設立されたPublons(パブロン)社は、世界中の研究者や出版社などの学術関係者とともに、査読者の功績を評価する取り組みを進めています。今回お話を伺ったパブロン社の共同創設者兼CEOであるアンドリュー・プレストン( Andrew Preston)氏は、ヴィクトリア大学で物理学の博士号を取得し、ボストン大学でポスドク研究員をされていた経歴の持ち主。研究者から一転してパブロン社を設立された経緯や最近の取り組みを伺いました。


■まずはパブロン社を設立する前の話を聞かせてください。大学では物理学を専攻されたのですよね?

私は昔から、宇宙の仕組みに関心を持っていました。学びをもっと深めたいと思い、物理学を専攻したのです。宇宙の謎に向き合うことは素晴らしい経験であり、これからもずっと興味を持ち続けていくことでしょう。

ポスドクをやめる際は非常に悩みましたが、今振り返ってみても正しい決断でした。学問の世界から離れることは、ある意味で戻ることのできない一方通行の道を行くようなものです。しかし、決めるのが難しいということは、どちらの選択肢も同じぐらい良いものだということなので、自身の直感にしたがって行動してみるのが良いと思います。

■それがなぜ、パブロン社を設立するに至ったのでしょう?

査読の本来の意味を取り戻すためです。

研究者として経験を積み、素晴らしい出会いに恵まれ、世界のさまざまな場所でどのような研究がどのように行われているかを知ることができました。そこで論文査読が研究の要であることに気づいたのです。査読者の質によって、論文の質が変わってくるのを目の当たりにしたからです。それによって論文は信頼できるものになる。でも私たちはつい、査読者(レビュアー)の功績を無視して、研究者の出版実績だけを取り上げがちです。レビュアーこそが研究の発展に貢献している、と評価されるべきなのです。

■パブロン社設立にあたって苦労されたことはありますか?

設立当初、「レビュアーを評価する」という発想はかなり斬新なものだったので、出版業界がその重要性を認識し始めるまでには3年ほどを要しました。現在、出版業界大手7社中4社がパブロンを利用していますが、大学や助成金提供機関がその価値を認めるには、まだ時間がかかるでしょう。

■パブロン社の具体的なサービス内容を教えてください。

レビュアーがパブロンに登録すれば、論文査読の実績を履歴に登録できるようになります。私たちはレビュアーの実績を日々確認しており、レビュアーは査読作業中でも所定のボックス(1,000以上の学術誌が登録されている)をクリックするだけで、自動的に査読実績を追加できるようになります。

レビュアーは、蓄積された査読実績を公式の記録としてダウンロードできるので、履歴書の提出や実績評価、研究助成金への応募の際に利用することができます。

今や1,000以上の学術誌がわれわれパブロンのパートナーとなってレビュアーの評価を行っています。また9万人以上の研究者がパブロンに査読者として登録し、50万以上の査読履歴が記録されています。

■レビュアーとして評価を高めるのに必要な要素は何でしょう?レビュアーになるには何から始めればよいのでしょう?

重要なのは、査読は重要だと誰もが知っているのに、実際の査読の仕組みを理解している人は少ないということです。レビュアーになるための方法も明確ではありません。

そこで私たちは、パブロン・アカデミーという、研究者が査読方法を学ぶためのコースを設けています。アカデミーの修了者と主要学術誌の編集者を引き合わせることで、研究者がレビューのエキスパートとして専門分野で評価されるよう支援しています。

研究者がレビューについて学ぶ上では共通のリソースが不可欠だと考えています。特定分野のエキスパートでも、その研究者が優秀なレビュアーだと編集者に証明するのは非常に困難だからです。私は、エナゴのような会社がリソース、情報、サービスを提供することで貢献できると考えています。

レビュアーになることや、査読の仕組みを学ぶことに興味を持たれた方は、ぜひhttps://publons.com/academy/をチェックしてみてください。

■パブロン社の2016年の主な取り組みをお聞かせください。

査読の重要性についての認識を高めることと、世界的な大手出版社とのパートナーシップの構築によって研究者がさらにレビュー実績を積み上げやすくすることに重点を置いてきました。

認識を高めるということについては、 多くの出版社と協力して「査読週間」というイベントを開催し、国際学術誌が査読の最優秀者を表彰する第1回パブロン科学センティネル賞の授与を行いました。

■新たな賞を新設されたのですね。

いくつかの異なるカテゴリーにおいて最も優れた出版前査読を行ったレビュアーの表彰、全レビュアーの中で特に評価の高かった上位3名への賞の贈呈、さらに各研究分野の上位10%のレビュアーへの認定証の贈呈を行いました。

この賞のよいところは、出版社の垣根を越えて査読の評価ができることです。WileySAGESpringer などの大手出版社からも支援をいただけたことにより、レビュアーを評価する実質的な取り組みが行われているということを、社会に示すことができました。

私たちは、この賞を査読におけるノーベル賞だと考えています。画期的な研究の検証は専門的な査読にかかっている、つまりレビュアーの貢献は大きいと認識することが大切です。優れた査読によって画期的な研究の発表を実現させたエキスパートの功績を認めることが、この賞を創設した理由です。

このイベントを毎年開催するのはもちろん、レビュアーの功績に報いる方法をさらに検討していきたいと思います。

■御社のサービスのアジアにおける反響はいかがですか?

アジアでのパブロンのユーザー数は見込みを下回っています。出版社が、査読に興味を持つアジアの研究者を探し出すのに苦労しているのではと考えています。

■今後の意気込みをお聞かせください。

私たちパブロン社は何よりも、科学と研究に貢献したいと思っています。研究者をレビュアーとして評価することで、彼らが専門分野の見識を有することを示す手伝いをし、また彼らがさらに多くの査読を行うことで、結果としてプロセス全体を加速させることができると考えます。研究者にとって、レビュアーになることは自身のキャリアをスタートさせる最善の方法の一つだと思いますので、今後もサービスのさらなる活性化をめざして努力していきます。

■最後に、学術出版業界でビジネスを展開しようとしている若手起業家たちへアドバイスをお願いします。

とにかくやってみることです。重要なのは、自身が提供するサービスの利用者がどのような人たちであるかを考えることです。そして、やろうとしているビジネスについて、利用者とできるだけたくさん話すこと。誰かがみずからのサービスを利用するだろうと想定して何かを作るということは、避けなければいけません。

 


インタビューを終えて

アンドリュー・プレストン氏とお話しできたことは本当に貴重な経験でした。本インタビューのためにお時間をいただけたことに対し、プレストン氏に厚く御礼申し上げると共に、パブロン社の全メンバーのご健勝とご活躍をお祈りいたします。

間違いやすい用語や表現 -a lot

熟語「a lot」は副詞として、また前置詞「of」と合わさって形容詞として用いることができます。前者と後者の場合には「a lot (of)」は、それぞれ「a great deal」や「to a great degree/extent」そして「much」や「a great amount/degree of」の同義語になります。ただし、このような用法は極めて口語的なので、学術論文では避けるべきです。(*1)

以下は「a lot」の典型的な誤用を例示します。

I. 副詞

[誤] (1) These two sets of results differ a lot.
[正] (1) These two sets of results differ greatly.
[正] (1’) These two sets of results differ significantly.
[正] (1’’) The discrepancy between these two sets of results is large.

[誤] (2) When carrying out these measurements, it does not matter a lot whether the order of the two steps are reversed.
[正] (2) When carrying out these measurements, the order of the two steps is largely irrelevant.
[正] (2’) When carrying out these measurements, changing the order of the steps does not alter the results significantly.
[正] (2’’) When carrying out these measurements, the variation in the results introduced by changing the order of the steps is much smaller than the experimental uncertainty.

II. 形容詞

[誤] (3) Of course, languages evolve a lot over a period of 200 years.
[正] (3) Of course, languages evolve greatly over a period of 200 years.
[正] (3’) Of course, languages evolve significantly over a period of 200 years.

[誤] (4) A lot of efforts have been made to determine this value.
[正] (4) A great deal of effort has been made to determine this value.
[正] (4’) Many studies have been dedicated to determining this value.
[正] (4’’) Many studies have been carried out with the aim of determining this value.

[誤] (5) We have had a lot of successes using the complex scaling method in studies of resonant structures.
[正] (5) We have had a great deal of success using the complex scaling method in studies of resonant structures.
[正] (5’) We have obtained a number of important results using the complex scaling method in studies of resonant structures.

[誤] (6) A lot of unsolved problems remain with regard to the dynamics exhibited by such systems.
[正] (6) There are still many unsolved problems with regard to the dynamics exhibited by such systems.

(*1)「a lot of」と同様の意味を示す「lots of」という表現もあります。この表現も口語的であり、学術論文では用いるべきではありません。しかし、日本人が書いた論文では、「lots of」は何故か「a lot of」と比べると使用頻度が低いです。


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グレン・パケットGlenn Paquette

1993年イリノイ大学(University of Illinois at Urbana-Champaign)物理学博士課程修了。1992年に初来日し、1995年から、国際理論物理学誌Progress of Theoretical Physicsの校閲者を務める。京都大学基礎物理研究所に研究員、そして京都大学物理学GCOEに特定准教授として勤務し、京都大学の大学院生に学術英語指導を行う。著書に「科学論文の英語用法百科」。パケット先生のHPはこちらから。

編集者は同性の査読者を選びがち!?

学術界にも、残念ながら一般社会と同じく、あちこちにジェンダーバイアス(男女間の偏り)があります。もっといえば、女性差別があるといっても過言ではないでしょう。

たとえば、少し前の『ネイチャー・ニュース』(2016年10月3日付)によれば、全米科学財団の調査で、アメリカではSTEM(科学、技術、工学、数学)分野において、博士号すべてのうち41パーセントを女性が取得している一方、2012年から13年にかけて連邦予算を使う研究所や研究室にいたポスドク研究員のうち女性はわずか24パーセントであることがわかったといいます。

また、エルゼビア社が2017年に公表した報告書『世界の研究環境におけるジェンダー(原題:Gender in the Global Research Landscape)』では、女性は男性よりも論文発表が少ないこと、筆頭著者になりにくいことなどがわかりました。

最近の調査で、査読においてもジェンダーバイアスが生じていることが明らかになりました。

イェール大学の計算科学者マルクス・ヘルマーらは、オープンアクセス・ジャーナル『eLife』で公表した論文で、「査読(ピアレビュー)は学術出版の礎石であり、査読者はその専門知識のみに基づいて任命されることが不可欠である」と、査読者に求められる条件を確認しています。しかし、査読者は一般的に非公開なので、編集者による査読者の選択・任命にバイアスがないかどうかを調べることは困難でした。

興味深いことに、オープンアクセス・ジャーナルの出版社「フロンティアーズ(Frontiers)」社が発行する一連のジャーナル(学術雑誌)では、編集者と査読者の名前が公表されています。そこでヘルマーらは、同社のジャーナル142誌で、2007年から2015年にかけて公表された論文における編集者9000人以上と査読者4万3000人以上のデータを分析しました(この場合の「編集者(editor)」とは、原稿整理や校正などいわゆる編集作業のプロのことではなく、同分野の専門家としてその論文に責任を持つ立場の者のことです。日本語でいう「編集委員」に近いかもしれません)。

その結果、男性の編集者も女性の編集者も、同性の査読者を選ぶ傾向があることがわかりました。また、その傾向は男性の編集者ではより強く、その結果、女性は査読のプロセスにおいて過小評価されていることも指摘されました。著者らはそうした傾向を「同類性(homophily)」と名づけています。「類は友を呼ぶ」ということです。

ヘルマーは『ネイチャー・ニュース』(2017年3月21日付)の取材に、「科学研究の質は、性別によって決まるわけではありません」、「性別が査読者の選択に影響しているならば、それはジャーナルが最高レベルの査読者を得ていないことを意味します」とコメントしています。

ただし、この研究のデザインについては批判もあります。ヘルマーらがまとめたデータセットでは、査読を依頼された男性と女性の数ではなく、実際に論文を査読した男性と女性の数だけが示されています。以前に行われた、地球物理学分野におけるジャーナルを対象にした研究(『ネイチャー・ニュース』 2017年1月25日付)では、女性は男性よりも頻繁に、査読依頼を断っていることがわかりました。ヘルマーらの分析結果は実態を正確に反映していない可能性もあるのです。

編集者が同性の査読者を選ぶ傾向がある理由としては、社会的ネットワークの築き方が関連することが指摘されています。『サイエンス』の元編集長マルシア・マクナットは「私には、私が頼りにする科学者のネットワークがあり、そのほとんどは女性です」、「女性科学者は女子学生を指導する傾向があり、そのことがネットワークを拡大するのです」と『ネイチャー・ニュース』にコメントしています。

ヘルマーが指摘する通り、 査読者 の選択が専門知識以外の要素(ここでは性別)に少しでも影響を受けているのだとしたら、最善の査読が行われていない可能性があります。それは学術界にとって、好ましい状況ではないでしょう。

 


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ライター紹介:粥川準二(かゆかわじゅんじ)
1969年生まれ、愛知県出身。ライター・編集者・翻訳者。明治学院大学、日本大学、国士舘大学非常勤講師。著書『バイオ化する社会』(青土社)など、共訳書『逆襲するテクノロジー』(エドワード・テナー著、早川書房)など、監修書『曝された生』(アドリアナ・ペトリーナ著、森川麻衣子ほか訳、人文書院)。博士(社会学)。

【芝浦工業大学】松日楽 信人 教授インタビュー(後編)

各大学の研究室に訪問し、研究者たちにおける英語力向上の可能性を探るインタビューシリーズ。十一回目は、芝浦工業大学の松日楽信人教授にお話を伺いました。後編では、学生や若い研究者の英語力向上方法と、それをサポートする大学の役割についてお話くださいます。


 
■先生の研究室の学生さんや研究をされている方は英語で苦労されている様子はありますか。

芝浦工業大学はスーパーグローバル大学に選ばれたこともあって前から留学生が多かったのですが、さらに英語や国際的な人材育成に力を入れています。

学生は4年間のうち1回は必ず海外インターンシップ参加など、ぜひ参加しなさいという流れができています。TOEIC900点みたいな学生もいるのですが、ただもちろんみんながみんなそうではなくて、英語が苦手な学生もいますね。彼らは彼らなりにがんばっています。

僕の研究室にはブラジルからの留学生が3人いて、その人たちと英語で話しているようですね。いろんな意味で留学生がいるということはいいことだと思います。

大学全体の環境としても英語が学べる、英語を使ったり、書いたりする環境は増えていて充実しつつあるところです。
 
■このようにスーパーグローバルの大学に指定されている大学もありますが、通常の大学や大学院の中で学術英語に関する講義や授業を受けられる機会はなかなかないと思います。しかし研究して論文を投稿するには英語で書かなければならないという絶対的な条件がある中で、学生や若手の先生方は英語で論文を書く力をどのようにして鍛えていけばよいと思われますか。

難しい道ではあります。スーパーグローバルではなくても国際会議で発表させるというのは軸においています。予算にもよりますが、なるべく大学院生は1回海外に連れて行って発表させるという方針で進めています。

全学生がいきなり英語で提出論文を書けるとは限らないわけです、書ける人には全部頼みますし、書けない人にはある程度こちらでカバーして出します。その代わり、発表は必ず学生にやらせるので、内容を理解していないといけないし、発表のスライドも自分で作らないといけない。発表練習はしますし、受け答えは全部やらないといけないですから、そのような環境を作り上げることをサポートしています。海外に行って発表する前のプレゼン訓練もします。
 
■それは質疑応答などを含めてご指導されるのですか。

もちろんそうですね。大体発表の1カ月くらい前から週1、2回のペースで発表練習をします。話す練習と、スライドの内容、プレゼンの態度、そして指しながらの説明のしかたなど。

最後は質疑です。こういう質問が来たらどう答えるかなど。そういうところまで一応完結してやっておきます。そうしないと学生も不安ですから。

僕も様子を見ておかないといけないので、なるべく1カ月くらい前から訓練します。
 
■わかりました。国際会議に行った時によくパーティーがあり、海外の研究者とコミュニケーションをとったりネットワーキングをするという場もあるそうですがそういう場ではいかがですか。

国内の懇親会はあまり出ない学生も結構いますが、海外の懇親会は予算も一緒のこともあり、また夜の食事をどこでとらせるかもあるのでなるべく連れて行きます。

先月中国に連れて行った学生が、隣に中国の清華大のドクターの学生がいたので、少し話して情報交換をしていました。今度10月に日本に来ると言っていて、そしたら寄っていいよとか言っていました。学生もそういうところで少し話す機会があると、同じ学生同士で知り合えるので、友達になろうと思えばなれます。
 
■先生の場合、そのようなパーティーの場で積極的に声をかけたり、会話の輪に飛び込んでいくことはされますか。

バンケットという懇親会ですが、丸テーブルに着きますよね。大体知り合い同士で座るケースが多いのですが、同じテーブルに着いたその他の人たちとは挨拶します。どういう人が同じテーブルに着くかは全くわからないわけですが、着いたらその方々となるべく話します。

そのような場が大切です。研究仲間を作ったりすると面白いと思いますね。
 
■では日本人の研究者が英語力を鍛えるためにはどうするのが一番よいと思いますか。例えば英語塾に通ったり、留学するのが一番早いとか、研究室に外国人の学生を入れるとかいろいろあると思いますが、先生のご経験で一番効果があったことを教えていただきたいのですが。

英語に接する機会を増やしてあげるのが一番いいのではないかと思います。今までも海外発表に連れて行って帰って来ると、もっと英語をやらなければだめだと思ったとは言いますが、フォローしてみると、その後やっていないで終わってしまっているようです。(笑)。

とはいえその時は英語を勉強したいという気持ちが増しているのは確かなので、だから海外に行く機会をこうしてもう1回増やしてあげると、次の発表までは勉強しようという気持ちになるのではないかと思いますね。

1回きりでは、もう次には機会がないだろうと思ってしまうので、せっかくの勉強しなければという気持ちのが続かないのでしょう。

あとは、研究室に英語圏の学生を連れて来るのが若者同士だからスムーズですね。でもあまり勉強にはならないのかな。むしろ英語でゼミをやる方がいいのかもしれないです。

毎回英語でやると言ったらそれで来なくなる学生もいないとは言えないですよね。それも困るので、 英語 そのものを好きになってもらうような努力がいいと思います。

海外発表に1回行ったきりではなくて、2回目のチャンスをあげる環境づくりが大事だと思います。
 
■ちなみに芝浦工業大学では授業は英語でやるという方針はありますか。

英語でやる授業というのは決まっていて、僕も2つくらい英語でやっています。

留学生がいればいいのですが日本人の学生ばかりで英語でやっていると、教える内容のレベルが下がったりしますね。

留学生がいて、専門科目を全部きちんと教えるというよりは、今も試していますが、ゼミ形式の日や、いろいろなテーマを決めて討論する中で留学生と一緒にグループワークのようにするといいのかなと思います。

初めての海外発表に行く学生にとって、学会発表は未知の世界ですから、行く前はどうしても勝手がわからないようです。でもたいがい行くとすごく良かったということになります。

だからなるべくチャンスを与えてあげたいな。
 
■わかりました。では、私どものような英文添削やそのようなサービスを行っている会社が、今後どのような新しいサービスを作っていけば助かるか、お教えいただけますか。

Skypeのように話すことができたら、校正結果を確認できていいなと思います。

直接、校正内容をその場で確認して質問するというサービスが安くできると(笑)。

それがオプションで高くなっちゃうとなかなか難しいかもしれないですけどね。

文字だけだとわからない情報を口頭で聞けるというのは嬉しいな。

また、何回か利用すると少し安くなるとか、そういうサービスがあるとまたまた嬉しい(笑)。
 
■ありがとうございます。最後に、若手の研究者の方に、このようなチャレンジをした方がよいというアドバイスがありましたらお聞かせ下さい。

研究としては新しいことにどんどんチャレンジして欲しいし、海外の学会に積極的に参加して仲間を作り、自分の英語力をブラッシュアップして欲しいと思います。
 
■どうもありがとうございました。


 

【プロフィール】

松日楽 信人(まつひら のぶと)
芝浦工業大学 工学部 機械機能工学科 教授

 
1982年-2007年東京工業大学理工学研究科大学院修士課程修了
1982年-2007年東京芝浦電気株式会社(現 株式会社東芝)入社
2004-2007年 東京工業大学21世紀COE特任教授
2005‐2008年 総合科学技術会議科学技術連携施策群次世代ロボット連携群
2011年-2007年芝浦工業大学工学部機械機能工学科教授(~現在)

 

「責任ある研究活動」のために諮問委員会を

 

英語圏では、研究不正の防止に向けた取り組みについて、深い議論が続いています。

2017年4月11日、アメリカの有力な学術団体「米国科学・工学・医学アカデミー(NASEM: The National Academy of Sciences Engineering Medicine)」は、研究不正防止に向けた提言をまとめた報告書『研究公正の育成(Fostering Integrity in Research)』を公表しました。

報告書をまとめたのは同アカデミーの「科学・工学・医学および公共政策・グローバル問題に関する委員会」の「責任ある科学に関する委員会」です。284項におよぶ報告書には、11項目の勧告がまとめられています。本文中には、2014年に日本で騒動になった「STAP細胞事件」も言及されており、「付録」には、米デューク大学のがん研究者アニル・ポッティによる捏造事件など、悪名高い研究不正の事例5件も紹介されています。

『サイエンス』は、11項目の勧告のなかでも4番目に述べられている「研究公正諮問委員会(RIAB : Research Integrity Advisory Board)」の設立に着目しています。

報告書はそのことを次のようにまとめています。

学問分野やセクターを問わず、研究公正を育成することを目的とする継続的かつ組織的な注意を促すために、独立した非営利団体として「研究公正諮問委員会(RIAB : Research Integrity Advisory Board)」を設立すべきである。このRIABは、研究者や研究機関、研究資金提供機関、規制当局、ジャーナル(学術雑誌)、学会など、研究におけるすべての利害関係者と協同して、研究不正や有害な影響をもたらす研究行為に対処するための専門知識やアプローチを共有する。またRIABは、研究環境を評価したり研究行為や基準を改善したりする努力を促すことによって、研究公正を育成する。
(勧告4、182頁より)

「研究公正(research integrity)」とは、以前の記事「研究不正の件数はもっと多い? 英BBCが調査」でも紹介したように「研究者が守るべき倫理や規範」のことです。

この「研究公正」とは反対、いわゆる「研究不正(research misconduct)」以外の「有害な影響をもたらす研究行為(detrimental research practices)」と呼ばれるものに着目していることも、この報告書の特徴です。「有害な影響をもたらす研究行為」とは、典型的な研究不正として知られる「捏造」や「改ざん」、「盗用」などにはあたらないものの、科学の公正さを踏みにじる行為のこと。たとえば「名誉オーサーシップ」といって、過去に集めたデータやサンプルの利用を認める見返りとして、著者としての資格を有さないにも関わらず、オーサーシップ、つまり論文の著者として名前を載せることを求めること、などが挙げられます。

また、本報告書には最近の有害事例の傾向として、本誌「捕食ジャーナルのリスト「ビールズ・リスト」閉鎖」で取り上げた「捕食ジャーナル」や、「フェイク・カンファレンス」にご用心」でお伝えした「フェイク・カンファレンス」についても記されています。

『サイエンス』は報告書の要約として、「昇進を勝ち取るための資金調達競争の激化や人目を惹く出版物の必要性」こそが、研究不正はもちろん「有害な影響をもたらす研究行為」といった研究公正を逸脱する問題を生み出していると指摘しています。

同アカデミーは1992年、『責任ある科学(Responsible Science)』という報告書を公表しており、その中ですでに同様の諮問委員会の必要性を勧告していました。しかし当時はあまり注目されませんでした。今回の報告書は『責任ある科学』を「更新」するために、2012年から「責任ある科学に関する委員会」が検討を重ねた結果です。

研究不正を監視する政府機関「米国研究公正局(ORI : Office of Research Integrity)」や、医学以外の幅広い分野の科学に資金提供する政府機関「米国国立科学財団(NSF : National Science Foundation)」は、毎年何百件もの研究不正の申し立てを受け取っており、何十件もの研究不正を認定しています。これらの政府機関に加え、別の役割を担う組織が必要だ、というのが本報告書の判断であり、RIABの役割を、研究不正に対する調査や規制ではなく、「責任ある研究活動(RCR : responsible conduct of research)」のためのトレーニングの提供などであると想定しています。

「責任ある科学に関する委員会」は調査と検討の結果、RIABは政府から独立した機関であるべきだとも述べています。『サイエンス』はその理由として、研究機関はすでに政府から厳しく管理されており、これ以上の政府による規制を避けたいと考えていること、また、これまでの政府による研究不正への対応に不満を持っていること、という専門家の意見を紹介しています。

RIABの予算は年間300万ドルが提案されており、政府機関や財団、研究機関、大学などがこれを負担することになります。

ジョージア工科大学の名誉教授であり「責任ある科学に関する委員会」の委員長ロバート・ネレムは『サイエンス』の取材に対して、前述のアニル・ポッティの事例におけるデューク大学の対応は、研究不正そのものと同じぐらいひどいものだった、とコメントしています。そのため、大学・研究機関はRCR教育を優先事項と認識することが重要で、RIABはRCRトレーニングの実施をサポートできる、といいます。

また『サイエンス』は同時に、『科学と工学の倫理学(Science and Engineering Ethics)』に発表された、この問題に関係深い研究を紹介しています。

2007年に米国議会はNSFに対して研究費を申請する研究機関すべてに学生および研究者向けのRCRトレーニングを行うように指示しました。しかし、テキサス・サウスウェスタン医療センターのエリザベス・ヘイトマンらの調査では、大部分の大学で行われているRCRトレーニングは、対面ではなくオンラインで、継続的ではなく1回限りで行われている上、専門分野や身分・職位(学生か教員かなど)に応じて細分化されたものではなく汎用的な内容であることが明らかになりました。NSFはRCRトレーニングが将来の研究者や技術者に必須だと考えたにもかかわらず、トレーニングがただの「チェックリスト」と化している実態を把握しておらず、同様に大学や研究機関をモニタリングする責任を十分に果たしていないことなどが指摘されています。

アカデミーの報告書は、このような政府の研究公正に関する方針を実現するための問題解決にRIABが貢献できることがあると記しています。

実は、本誌「「研究不正」を防ぐための倫理教育に効果はあるか?」でも紹介したように、倫理教育、つまりRCRトレーニングが研究不正を防ぐために有効であるという証拠は、いまのところ不十分です。今回の報告書やヘイトマンらの指摘などに促されることによって、RCRトレーニングの質が向上することも期待されます。

 


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ライター紹介:粥川準二(かゆかわじゅんじ)
1969年生まれ、愛知県出身。ライター・編集者・翻訳者。明治学院大学、日本大学、国士舘大学非常勤講師。著書『バイオ化する社会』(青土社)など、共訳書『逆襲するテクノロジー』(エドワード・テナー著、早川書房)など、監修書『曝された生』(アドリアナ・ペトリーナ著、森川麻衣子ほか訳、人文書院)。博士(社会学)。

間違いやすい用語や表現 - bigとlittle

形容詞「big」と「little」は、(例(3)、(4)、(5)で示す「little」の用法を除いて)口語的とされるため、原則として学術論文など、正式な書き言葉を必要とする文章では避けるべきです。

ここで、「big」と「little」に共通する一つの用法と「little」にしかない二つの用法を個別に考察します。

「big」と「little」に共通する用法は以下で例示されます。

[誤] (1) The value of this quantity in the present case is bigger/littler than in the case studied above.

ここでの「bigger/littler」の用法に関して注目すべき点が二つあります。その一つは、口語的な形容詞「bigger/littler」が文全体のスタイルと食い違っていることです。もう一つは、「bigger/littler」によって修飾される名詞「value」が可算名詞となっていることです。このような場合には「big」、「little」をそのまま(口語的でない)「large」、「small」に置き換えることができます。

次の文は「little」独特の用法を例示します。

[誤] (2) The value of this quantity in the present case is a little larger than in the case studied above.

ここでは、「little」は形容詞ではなく、「a」とセットで副詞として形容詞「larger」を修飾している、ということに注目してください。このような用法はかなり口語的です。学術論文では、一般に「a little」の意味を示すのに「slightly」が適切です。

下記の例文で示される用法も「little」独特のものです。

[正] (3) In this case, the perturbation has little effect on the result.
[正] (4) Such objections are of little concern here.
[正] (5) There is yet little information on the outcome of the election.

これらの例文では、「little」が具体的な意味で物事の大きさを意味しているのではなく、より抽象的な意味で用いられているということに注目してください。これは、いずれの場合においても「little」が修飾しているのは不可算名詞だということから明らかです*1 。 なぜなら、不可算名詞が表すものには「大きさ」という性質がないからです*2 。ここで例示されるように、形容詞「little」が抽象的な意味で用いられる場合(要は、可算名詞を修飾していない場合)には口語的ではないとされます。

最後に、「big」には(3)〜(5)で例示されるような用法がないということを考察します。そのために以下の口語的な用例を見てみましょう。

[誤] (6) There is big difference between our dogs.

ここでは、文全体が口語的なものですから、「big」自体の使用には問題がありません。ここでの問題は、「big」が必ず何らかの「大きさ」を表すため、それに修飾される名詞は可算名詞でなければならないということにあります。要するに、ここでの問題は文中の表現が食い違っているというスタイル的なものではなく、より深刻な文法的な誤りですので、会話としても間違っているのです。この文を修正するために「big」の前に「a」を置くべきです。

脚注:
*1 不可算名詞になっていることは冠詞が付いていないことから分かります。
*2 詳しくはグレン・パケット:『科学論文の英語用法百科〈第2編〉冠詞用法』(京都大学学術出版会,2016)をご参照下さい。

 


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グレン・パケットGlenn Paquette

1993年イリノイ大学(University of Illinois at Urbana-Champaign)物理学博士課程修了。1992年に初来日し、1995年から、国際理論物理学誌Progress of Theoretical Physicsの校閲者を務める。京都大学基礎物理研究所に研究員、そして京都大学物理学GCOEに特定准教授として勤務し、京都大学の大学院生に学術英語指導を行う。著書に「科学論文の英語用法百科」。パケット先生のHPはこちらから。

【芝浦工業大学】松日楽 信人 教授インタビュー(前編)

各大学の研究室に訪問し、研究者たちにおける英語力向上の可能性を探るインタビューシリーズ。十一回目は、芝浦工業大学の松日楽信人教授にお話を伺いました。前編では、ご自身の研究と、英語で苦労された経験や勉強法についてお話くださいます。


 
■先生の研究室で扱っている専門分野や研究テーマを教えていただけますか。

ロボティクス、つまりロボット工学です。人と共存するロボット技術の研究をしています。その1つがRTミドルウェアで、共通の標準化されたソフトウェアを使っていろいろな応用研究をしています。

カメラマンロボットという、写真を自動で撮ってくれるロボットがあります。そういうロボットの製作にRTミドルウェアを使いますが、要するにこれはロボットにおける要素です。要素としてソフトウェアのモジュールを組み合わせ、目的とするロボットを作っています。

目的としては工業や産業というより、ロボットと人が共存する社会や生活を目指してロボット作りに取り組んでいます。

具体的手順としては、まず最初に自動的に写真撮影をするロボットを作ろうと決めるわけです。それの目的を分解していき、移動を制御するモジュールや、音声を聞き分けるモジュール、そして画像処理で人を見つけるモジュール、もちろん写真を撮るモジュールを組み入れていき、印刷するモジュールまで全部組み合わせるわけです。でもただ組み合わせるだけだとうまくいかないので、そこに我々の研究の要素を加えていくのです。

こうしてできたロボットをいろいろなところでデモンストレーションしています。こういうロボットは役に立ちますかとか、こんなロボットがあるとお店にお客様がたくさん来ます、と。

2つ目のテーマとして遠隔操作ロボット研究をしています。こちらはインターネットで遠隔操作をするロボットです。もし災害の現場など通信のインフラがない場合でも、そこでスマホが使えるなら、この研究を使ってロボットのコントロールができます。つまりインターネットが使えるとどこからでもアクセスでき観察もできるわけです。この研究成果でロボットでどのようなことができるかを検証実験しようとしています。

インターネットの通信プロトコルも共通化が進んでいるところなのでそちらも少し使っていますね。

■確か東南アジアの国から遠隔操作で日本のロボットを動かしたということも聞きました。

特別な準備も要らないんです。福島などの災害現場にRSNPというプロトコルが乗ったロボットを用意しておくと、あとはインターネット経由でいろいろなところからそれぞれの専門家がアクセスして作業することができると思います。国内だけでなく国外からも可能で、そのような臨機応変な遠隔操作のシステムを研究しています。

今、テレプレゼンスという言葉が出てきて、スマホで運用された倒立型のロボットも会議に出席したりしますが、それをもう少し広げてみたいと思っています。

最後の3つ目としては福祉系のテーマです。人間の立ち上がり動作や、高齢者の生活を支援するようなロボット技術を研究開発したいと思っています。

遠隔操作と、応用研究、それに福祉用の機器としての研究という3本柱です。

■わかりました。先生ご自身、英語論文の執筆や学会の発表、または共同研究などの場において英語で苦労したご経験はありますか。

苦労はたくさんしています。英語で発表する機会は多いですが、まだ自分も 英語力 は不足していますので、ディベートや、ディスカッションになると少し苦しいです。学会発表では発言内容は決まっていますから、それなりに対応はできますが、議論や討論のようになってくるとさっと自由に言葉が出ませんから今でも苦労していますね。

■ディベートの場は日常的によくありますか。

学生や留学生がいるので、特に留学生の指導では英語は使わないといけませんが、上下関係がありますから、相手が一生懸命聞いてくれることになってしまう。それが対等の立場で議論しなければいけないとなると、苦しいです。学会発表だけでなく、ワーキングや、国際ワーキングなどが時々ありますが、そのような場面ではまだまだ力不足なところがあります。

■論文等、書くことはいかがですか。

書くことは書きます。英語そのものはそんなに苦手でもなく、好きなので自分で書きますが、やはり基本的な文法などはよく間違えるので、英文校正に出しています。

■先生ご自身が英語論文を書き始めた頃は、書くことに対してどのように慣れていきましたか。

自分で勉強するしかないですよね。英語の論文を読んで、書き方や、分野が同じだったらそのキーワードを使って書き続けました。

同じ分野ならではの表現方法がありますから、それを参考にしながら、自分流ながらも書いていました。

■自分自身で多くの論文を読み、まず書くことがあるのですね。恩師からご指導を受けたりしましたか。

僕自身は長く会社に勤務していました。大学に来て6年目ですが、会社では自分でちゃんと書いたものを英文校正に出して、外部に出します。だから文章はしっかり見てもらうのは自分にとって前提になっています。


後編では、学生や若い研究者の英語力向上方法と、それをサポートする大学の役割について言及されます。
 

【プロフィール】

松日楽 信人(まつひら のぶと)
芝浦工業大学 工学部 機械機能工学科 教授

 
1982年-2007年東京工業大学理工学研究科大学院修士課程修了
1982年-2007年東京芝浦電気株式会社(現 株式会社東芝)入社
2004-2007年 東京工業大学21世紀COE特任教授
2005‐2008年 総合科学技術会議科学技術連携施策群次世代ロボット連携群
2011年-2007年芝浦工業大学工学部機械機能工学科教授(~現在)