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大学コンソーシアムVS出版社 オープンアクセス紛争

学術雑誌のオープンアクセス化に向けた利用者(研究者、大学など)と出版社との論争は、既に何度も記事にしている通りです。しかしここ数か月の間に、ヨーロッパの大学やコンソーシアムと出版社の紛争に、いくつかの進展が見られました。出版社と納得のいく契約を結べたコンソーシアムがある一方、交渉が膠着状態に陥っているところもあります。学術界の懸念事項である、オープンアクセスにまつわる紛争の状況について見ていきましょう。

■ アクセスを確保したフィンランドと韓国

2018年1月17日、フィンランドの大学・研究機関・公共図書館からなるコンソーシアムFinELibが大手出版社エルゼビアと、3年間にわたり1850誌へのアクセスを可能とする契約を締結したと発表しました。FinFLibに登録している13の大学、11の研究機関、11の応用大学が、世界最大の論文データベースScience Directに収録されている1850誌に、3年間アクセスできるとする内容です。さらに、この契約にはフィンランドの研究者が、エルゼビアの学術雑誌に研究成果をオープンアクセスで公表する際のAPC(論文処理加工料)を半額にすることも含まれています。

また、2日違いの1月15日、韓国の大学コンソーシアムも長期交渉の末、エルゼビアと契約を締結するに至ったと報道されました。韓国の大学コンソーシアムは、最終的に契約料金の値上げで合意したと書かれており、Science Directへのアクセスが遮断される直前に、かけこみ合意で難を逃れたようです。

■ オランダでの契約合意はオープンアクセスを加速させるか

2018年3月には、オランダの14の大学からなるコンソーシアム、オランダ大学協会(VSNU)とシュプリンガー・ネイチャーオックスフォード大学出版局(Oxford Universities Press,OUP)ワイリーなどの大手出版社との間で、購読およびオープンアクセス出版に関する契約の延長が合意されました。シュプリンガー・ネイチャーとの契約には、オランダの大学の研究者が研究成果をオープンアクセスで公表する際の出版費用(APC)を3年間(2018-2021年)無料(論文数で年間2080本分)とすることと、250誌以上の学術雑誌の購読を無料とすることが含まれています。年間発表数は、これまでの実績から割り出したとしていますが、この契約によって出版費用の負担が軽減されることから、オランダの研究者はより多くの論文をオープンアクセスで発表できるようになりました。

大手出版社によっては、コンソーシアムが支払う料金次第で、ジャーナルの100%のオープンアクセス化にも同意するとしています。VSUNが出版社と結んだ購読およびオープンアクセス出版に関する契約は、オープンアクセスの流れに一石を投じたとも言えそうです。

実際、シュプリンガー・ネイチャーとの契約は、2014年に結ばれたものの延長であり、2014年から2017年の間に同社の雑誌にオープンアクセスで公開されたオランダの論文の割合は、2014年の34%から2017年の84%に上昇したことも示されています。このことからも、今回の延長期間にも、オープンアクセスでの論文公開が増加することが期待できます。

■ フランスでは契約打ち切りで紛争継続

他方、フランスでは雲行きが怪しくなっています。3月30日、フランスの250の学術機関からなるコンソーシアムCouperin.orgは、シュプリンガー・ネイチャーとの同社の学術雑誌購読に関する2018年の契約を打ち切りました。Couperinは、オープンアクセス論文の増加にともなうAPCの支払いが増加したことから、購読料とAPCの二重支払の解消、および購読料の減額を13か月にわたって交渉してきましたが、合意に至りませんでした。Couperin.orgが算出したところによると、購読料の値上げを譲らなかったシュプリンガー・ネイチャーは、これによって600万ドルの損失を被るとのことです。

シュプリンガー・ネイチャーは、今回の契約打ち切りは、同社の総2900以上の雑誌のうちの1185雑誌に過ぎないことなどをあげ、交渉を続ける姿勢を表明しています。また、 Couperin.orgには250の大学・研究機関が登録しているものの、今回の同社との契約に関与しているのは100であるとも述べています。今のところ、フランスの大学の研究者たちは同社の記事にもアクセスすることができますが、今後、購読料の値上げが果たしてなされるのか、記事へのアクセスが遮断されるのか、それとも……。成り行きを見守る必要がありそうです。

■ 論争は続く

オープンアクセス出版が増加の一途をたどる一方、大手出版社のジャーナルの購読料も値上がりしていることが、学術機関の予算に大きく影響しており、各地で紛争が勃発する事態を招いています。学術界は、高額な出版費用および購読料に対して抗議していますが、出版社は経営上、不可避な決断であると述べており、両者の間には壁が立ちはだかっている状況です。

それでも、公的資金による研究の成果は誰でも無料で見ることができるようにするべき、との声は後を絶ちません。今後は他の国の大学や研究機関も、ヨーロッパなどの事例を見ながらオープンアクセス合意を目指し、交渉を始めることが予測されます。出版社が今後、どのような対応をしていくのか。引き続き注目していきます。

 

こんな記事もどうぞ
エナゴ学術英語アカデミー:エルゼビアが浮き彫りにした学術誌出版のコスト問題
エナゴ学術英語アカデミー:「エルゼビア紛争」は続く

参考記事
Enago academy: Elsevier and the Finnish Consortium Collaborate on the Open Access Agreement 
Enago academy: The Future of Open Access Publishing: An Interview with ScholarlyHub

Interview_Dr.Negishi-2

【日本医科大学】 根岸 靖幸 講師インタビュー(後編)

各大学の研究室に訪問し、研究者たちにおける英語力向上の可能性を探るインタビューシリーズ。20回目は、日本医科大学の微生物学免疫学教室で生殖免疫学の研究を進めている 根岸靖幸 先生です。

前編は、ご研究の内容と、英語への取り組み方についてのお話でした。後編は、学会での発表、後進の指導、研究のこれからに関するお話です。


■ 学会に参加される機会は多いのでしょうか?

海外は年に1回か2回です。毎年行われる米国生殖免疫学会と、3年に1度開催される国際免疫学会に参加しています。国内の学会の方が多いですね。僕の場合、産婦人科と免疫の両方の学会に参加する必要があるので、数が結構多くなります。日本生殖免疫学会、日本免疫学会、日本産婦人科学会、日本胎盤学会、米国生殖免疫学会。今出ているのは4-5つぐらいです。最近は国内の学会でも英語での抄録作成、発表が増えてきましたのでさらに英語のスキルが必要とされます。

■ 学会での英語発表で印象的な出来事はありますか?

米国生殖免疫学会で、口頭発表できたことでしょうか。口頭採択されない時期が長かったので。10分弱の短い時間ですが、つたない英語でしゃべって、質疑応答もぼろぼろでしたが、発表後、米国生殖免疫学会のご高名な先生に肩をぽーんと叩かれて、”Good presentation”と言ってもらえたのが嬉しかったですね。他に、国際生殖免疫学会でも、発表後に大御所の先生から評価をいただいたことがあって。そういう風に評価してもらえるのは嬉しいです。

ただ質疑応答にはいつも窮します。もう全然。リスニングが苦手なので、何となく単語を拾って、こうかな?と推測しながらにやっと笑う(笑)。学会に参加する外国人は、相手が日本人だと見ると「ああ、こいつは英語ができないな」って分かってくれて、ゆっくりしゃべってくれます。なので、あまり気にしないようにしています。プレッシャーはありますけど、楽しむ(笑)。

■ 質疑応答にご苦労される研究者の方は少なくありません。

質疑応答に限らず、英語ですべてを賄うのはネイティブでないので難しいです。それでも英語は不可欠になっている。日本で開催する学会でもプレゼンテーションを全部、英語で行うところがでてきました。でも、それが果たしていいのかどうか……。日本人同士が不十分な英語でしゃべらなければならない状況では、みんなが手を挙げなくなっているかもしれないし、理解できていないことがあるかもしれない。英語に慣れるのには役立つとしても、痛し痒しだと思います。

■ 若手の研究者への英語指導についてもお聞かせください。

研究室全体では、大学院生が4人います。スタッフは助教が3人、私を含め講師が3人。そこに准教授が1人、教授が1人。僕についている大学院生は現在この中にはいないのですが、産婦人科、整形外科で学位を取りたい先生がそれぞれ1名ずついて、一緒に研究をしています。

ただ英語の指導については本当に今、一番悩んでいることです。論文を読め、学会に行けというのは簡単ですが、具体的にはどう指導しようかと。この秋か冬ぐらいから、抄録を書いたり発表したり、論文を書いたりしてもらいながら、指導していこうと思っています。あとは、学会や発表に臨む姿勢は伝えたいなと。僕は学会に行ったら必ず、1日1回は英語でも日本語でも質問しようと自分に課しています。最初は何を聞いたり話したりしていいか分からなかったので、相手のプレゼンテーションをほめることから始めました。絶対質問しなきゃいけないっていうのを課すことで、抄録を読んであらかじめ質問を準備したりもしました。発表を聞いて質問内容をちょっと変えるとか、そうした努力はしてきました。その場で考えるのはハードルが高いので、抄録を読んで、自分の研究に近いものをピックアップして質問を考えておきます。絶対に質問すると追い込むことで、準備をして、じっくり聞いて考える。そうすることで発表の内容が、より入ってくるので、とにかく質問しようとすることは大切です。これについては、後進にぜひ伝えていこうと思っています。

■ 若手研究者へのメッセージをお願いできますか。

難しいですね……まだ自分が若手のつもりなので(笑)。

■ では研究に対する意気込みをお願いします(笑)。

去年は嬉しいことが重なりました。研究費取得や日本の中でいくつか賞もいただけて。すごく励みになりました。下積みが長かったし、新しい概念はなかなか受け入れてもらえなかったですから。この研究室で産婦人科は僕だけで、他のメンバーは腫瘍免疫、感染、粘膜免疫、漢方医学などをテーマにしています。様々な研究分野に携わる研究者が同じ教室にいるということは、それぞれの分野では思いもよらなかった考え方、最新の知見をただですぐに情報交換することが出来ます。メンバー達と刺激しあって研究を行っています。

免疫って面白いもので、今まで免疫の関与など知られていなかった多くの科の治療や研究に絡んでいることがあります。ごく最近、整形外科の先生と、整形外科学を免疫学的アプローチで解析するというコラボを始めたばかりです。他の科でも免疫学的な見地を探せばいくらでもあると思えるほど、未開拓なところが数多くあると思います。何とかその分野でもパイオニアになれたらと目論んでいます。

■ 最後に英語校正・添削などのサービスで「こんなサービスが役に立つ」といったご意見はありますか?

論文のリバイスをする際、サービス期間に幅(1年間)があるのが非常にありがたいです(あんしん保証 )。論文を投稿して膨大な追加実験を要求された時は最悪の気分でした。またマウスを購入(輸入)するところから始めなきゃいけないという指摘を受けたときに、本当にこれ、できんのかなと……。結局、半年ぐらいかかりました。その苦労を考えれば、文章を書くのって楽だな、って思ったぐらいです。この最近の論文では、論文の初回投稿から2ヶ月で返却・リバイスをうけ、追加実験に約半年間、さらに再審査に1-2ヶ月かかり全部で10ヶ月ほど受理まで時間がかかりました。1年という長い保証期間に助けられ、何とか安心保証のサービス期間内に終わることができました。最近では日本の学会でも英語抄録になってきたので、(英語の)ブラッシュアップをしてもらえるのが、時間の節約にもなるので助かります。

■ 今後も少しでも研究を進めるお手伝いができれば何よりです。ありがとうございました。

根岸靖幸先生のインタビュー(前編)はこちら

 


【プロフィール】
根岸 靖幸(ねぎし やすゆき)
日本医科大学 微生物学免疫学教室 講師
1995年3月:東京都立大学(現、首都大学東京)にて修士を取得(物理学)
1996年4月:日本医科大学医学部入学
2002年5月:日本医科大学医学部卒業、産婦人科学教室入局
2006年9月:日本医科大学大学院医学研究科入学(微生物学免疫学)
以降生殖免疫学の研究に従事
2012年3月:日本医科大学大学院医学研究科修了(微生物学免疫学)
2012年9月:日本医科大学助教 医学部 基礎医学微生物学免疫学
2018年4月:日本医科大学講師 医学部 基礎医学微生物学免疫学
受賞
2010年度:第25回日本生殖免疫学会学会賞
2012年度:American Society for Reproductive Immunology, European Society for Reproductive Immunology(米欧合同開催)、Best Poster Award
2012年度:第27回日本生殖免疫学会学会賞
2017年度:日本医科大学 同窓会医学研究助成金受賞
2017年度:第25回日本胎盤学会学会賞(相馬賞)
2017年度:第32回日本生殖免疫学会学会賞

 

オープンアクセスはフェイクニュースを打ち破れるか?

おそらく、誰もが一度は、フェイクニュース(偽りのニュース)の犠牲になったことがあるのではないでしょうか。たとえば、米大統領選挙戦の終盤3ヶ月、フェイスブックは、ニューヨークタイムズ、ハフィントンポスト、ワシントンポストなど他のニュースソースと比べて、かなり多くのフェイクニュース情報源となっていたといいます。この選挙の行方を決する重要な時期に、デマ情報サイトの選挙に関わる話が、8,711,000回もシェアされていたのです。

研究者にとっても、フェイクニュースは無関係ではありません。今、フェイクニュースは収束に向かうどころか、さらに読者の注目を集める方法を探ろうとしています。フェイクニュースは、たとえば新薬の開発や気候変動など、学術的な研究課題をも標的にし始め、すでに、膨大な回数、クリックされ、シェアされているのです。

また、偽りの情報を出版する捕食出版(著者から掲載費用を得る目的で、適正な査読を行わずに論文を掲載すること)が、近年増加しており、2016年の時点で学術ジャーナルの25%が捕食出版であったとみなされています。捕食ジャーナルも、一種のフェイクニュースです。

フェイクニュースとの戦い

フェイクニュースは単に厄介なだけでなく、科学に対する公共の信頼そのものを低下させます。これは、教育や科学リテラシーがいまだ低い発展途上国で、とくに顕著です。デジタル時代となり、ソーシャルメディアのプラットフォームを経て、ほとんどのニュースにアクセスできる今日、科学教育とメディアリテラシーが強く求められているといえます。

ツイッター、インスタグラム、フェイスブックなどの主要なソーシャルメディアにとって、フェイクニュースの蔓延に対処することは容易なことではありません。これらのプラットフォームを使ってニュースにアクセスする人は、とくに格別の注意を払い、情報の信憑性を疑ってかかる必要があります。

Inoculating the Public against Misinformation about Climate Change(仮訳:気候変動に関する誤情報に対する予防対策)」と題された研究では、フェイクニュースや誤情報の広がりが、ウイルスにたとえられました。この研究においては、2つの現象が強調されています。参加者に、フェイクニュースと科学的情報を提示した場合、参加者はフェイクニュースの方を信じる傾向があること。次に、そのフェイクニュースに警告を付した場合、こちらを信じる確率が大きく減少したことです。

オープンアクセスはフェイク対策の解決策

問題の1つの解決策は、真の科学へのオープンアクセスを普及させることです。たとえば、2016年8月、NASAは、NASA PubSpaceと呼ばれる一般人のための論文ライブラリーを開設すると発表しました。このデータベースを利用すれば、第三者の介入なく、研究論文にアクセスすることが可能です。

ScienceMattersという出版社も、一般の人々が研究論文にアクセスするためのプラットフォームを構築しています。また、大手出版社Natureは、ほぼすべてのテーマをカバーし、各分野の専門家が主催するニュースセクションを運営しています。

オープンアクセスをポリシーとするビル&メリンダ・ゲイツ財団も、オープンアクセス運動を支援しています。オープンアクセス運動は、科学的知識は誰でもアクセス可能なものであるべきという信念に基づき、人々が、コストをかけず、できる限り多く真の研究論文にアクセスできることを目指すものです。

科学とジャーナリズムは、事実とフィクションを区別するという、同じゴールを目指しています。世界各国が推進している開かれた科学研究、すなわち「オープンサイエンス」は、フェイクニュース問題の有力な解決策となる可能性があります。

研究者にできること

さらに、研究成果がオープンアクセスによってより広く公開されることを支援したいと望むなら、研究者個人としても、以下のようなことができます。

1.会話に積極的に参加し、オープンサイエンスを広める。
2.研究の再現性について基礎を固める。
実験データを公開することにより、科学への理解が広がり、信頼できる情報の普及が、より現実的なものとなる。
3.小さなことでもシェアする。
オープンアクセスは、大量のデータを公開することだけでなく、ツールや技術を共有することも含んでいる。
4.創造を促進する意識を持つ。
研究データは、人々や科学界に恩恵をもたらすはずであり、公費を投じて行われた研究結果であれば、一般の人に伝える必要がある。
5.常に最新の情報をキャッチアップしておく。
オープンデータの共有ツールとプラットフォームは日々進化しているので、常に最新情報を入手するよう努める。

フェイクニュースは、明らかに望ましくないものです。とはいえ、人々がフェイクニュースのわなに陥らないようにするのは、実際には容易ではありません。研究者も「私は大丈夫。だまされない」と思って何も行動しないでいるのではなく、オープンサイエンスの普及に積極的に関わり、一般の人が真の情報にアクセスしやすい環境づくりに貢献していきたいものです。

こんな記事もどうぞ
エナゴアカデミー:ビル&メリンダ・ゲイツ財団、オープンアクセス促進に注力

参考記事
OpenLearn: How can scientists fight the tide of “fake news”?
Future Society: Free Science Could Be the Answer to Our “Fake News” Epidemic
naturejobs: Five things you can do today to make tomorrow’s research open

Megajournals vs Regular Journals

オープンアクセス・メガジャーナルの魅力とリスク

インターネットを介してだれもが自由にアクセスすることのできる学術誌(ジャーナル)であるオープンアクセスジャーナルは、伝統的な購読型の学術ジャーナルに比較して、読み手には無料で研究成果にアクセスできるというメリットがあります。また、著者側にも、幅広い読者に研究成果に触れてもらうことができるというメリットがあることから、オープンアクセスジャーナルの果たす役割は大きいと考えられています。

このオープンアクセスジャーナルは、オンラインという特徴から、掲載論文数や刊行頻度に決まりがなく、掲載論文数が増大した結果、大量の論文を掲載する「オープンアクセス・メガジャーナル」の出現につながりました。このメガジャーナルとは、論文掲載においてどのような特徴があるのでしょうか。

■ オープンアクセス・メガジャーナルの特徴

メガジャーナルの特徴としては、主に以下の4点があげられます。
・査読の対象範囲が限定的
多くの場合、メガジャーナルでは科学的な妥当性の確認など最低限の査読を行います。研究内容が新しいか、重要か、といった評価は行いません。
・扱う分野が広範囲
メガジャーナルでは、伝統的な学術ジャーナルと異なり、特定の学問分野や領域に特化せず、広く掲載します。
・比較的安価なAPC
伝統的な学術雑誌と比べて、大量の論文を扱うため、論文掲載料(Article Processing Charges:APC)を低く抑えることができます。
・短期間での出版
査読範囲が限定的であることから、掲載までに必要な時間が短いとされています。

メガジャーナルに掲載されることは、著者にとって投稿してから短期間で掲載でき、かつ、多数の幅広い読者に見てもらえる可能性が広がるという点で魅力的といえるでしょう。

■ 投稿する前に留意すべき点

Nature社によるScientific Reports、BMJ社によるBMJ Open、米国化学会(American Chemical Society: ACS)によるJournal of the American Chemical Societyなど、特段の問題なく運営されているメガジャーナルはもちろんあります。一方で、メガジャーナルの元祖とされるPLOS ONEは、論文の多さからその質が玉石混交になり、徐々にインパクトファクターが下落し、投稿論文数自体も減少しつつあります。さらに、中には要件を満たさずにメガジャーナルを名乗っているだけの捕食ジャーナルもあるため、投稿する際には、投稿を検討しているメガジャーナルが実際どのようなものなのか、内部的な問題を抱えていないか、ねつ造されたデータを利用した論文を掲載後に取り消しているといった問題を起こしていないか、自身の論文の領域を専門としている査読者がいるかなどを確認する必要があります。

メガジャーナルに投稿することは、魅力もある反面、信頼性の低い学術雑誌に誤って投稿してしまうリスクもあります。詳しく知らない学術雑誌への投稿を検討している場合には、自身で十分に調べることが重要です。

最後に、補足になりますが、自身の論文に合ったオープンアクセスジャーナルを探す手段として、英文校正・校閲エナゴでは、「オープンアクセス・ジャーナルファインダー」という無料のツールを提供しています。このツールを利用すると、論文のアブストラクトをもとに、信頼性の高い、学術論文のオープンアクセスジャーナル・ディレクトリ(Directory of Open Access Journals: DOAJ)が提供する学術雑誌のリストから、最適なオンラインジャーナルの候補を選出することができます。候補として表示される学術雑誌の信頼度や論文掲載料を確認することも可能です。

こんな記事もどうぞ:
エナゴ学術英語アカデミー:
ジャーナル選択を支援する新たなツール誕生!
今、人気のオープンアクセスジャーナルは

E40_LinkedIn Tips for PhDs

就活に役立つ!LinkedIn活用法

世界中に5億人ものユーザーがいるビジネス特化型SNSのLinkedIn――このサービスが就職活動に活用できるのをご存じですか?LinkedInに自分のプロフィールを載せておくことで人脈が広がるだけでなく、仕事を見つけるのにも役立つかもしれないのです。今回は就職活動を念頭に、ネットワークを広げるLinkedInの効果的な活用法を見ていきましょう。

■ プロフィールで自分を売り込む

LinkedInのプロフィールにはたくさんの情報を掲載することができます。自身の顔写真や経歴、研究内容のスライド、自己PRの動画、さらには研究論文やソーシャルメディアへのリンクも掲載できるため、通常の応募書類に記載できる情報よりもはるかに細かく、自分をアピールすることができます。研究分野での功績を掲載するのと合わせて、同僚からの評価や、専門分野におけるスキルを保証する推薦文を追加することもできます。

また、LinkedInはSNSなので、多少カジュアルな書き方もOKです。提出用書類では使わないような流行語(buzzword)や、研究者同士で使うようなくだけた用語などを使って、読み手の興味を引き付けるのもよいでしょう。

プロフィールを作成する際、研究分野での実績を強調することはもちろんですが、特技やスキルなどのプライベートな一面を載せておくことも有効です。自分の研究分野には直接関係しなくても、他の分野や仕事につながる可能性があるからです。また、多様なスキルや趣味を持っていることはその人自身の魅力にもつながるでしょう。研究実績だけでなく、個性や魅力を最大限に引き出すために工夫してみましょう。

ただし、ダラダラと書き込み過ぎるのはNGです。あれもこれもと欲張りたくなりますが、長々と仔細に書かれたプロフィールを隅々まで読んでくれる人はそういません。LinkedInのプロフィールは、相手に自分のことをもっと知りたいと思ってもらうためのマーケティングツールです。パラグラフを短めに整えて見出しをつけたり、文章を補足する画像を数点入れ込んだりすれば、読み手は内容をぐっと理解しやすくなります。
LinkedInなら書式にこだわらず、プロフィール項目の順番を入れ替えることも可能です。研究成果、目立たせたい経験やスキルなどを効果的に配置し、戦略的に自分を売り込んでみましょう。

■ ネットワークをつなげて人脈を作る

プロフィールができたら、LinkedInでの本来の目的である人脈作りを進めていきます。ネットワークを作るために、まずは知っている人たちとつながることから始めるのは、他のSNSと同じです。同じ研究機関に勤める人たち、出身校が同じ人たち、さらには家族や親せきなどともつながっておくのもいいでしょう。

LinkedInには、知り合いの可能性があるユーザーを表示してくれる「もしかして知り合い?」という機能もあります。これまで自分がつながってきた人や他のユーザーとの共通点をもとに自動で表示されるので、ネットワークを広げたければ、学術的な実績だけでなく趣味なども登録しておくとよいでしょう。また既につながっているユーザーに対しては、自身の推薦を依頼したり、推薦文を書いてあげたりすることも可能です(その内容はプロフィールページに表示されます)。

LinkedInのユーザーは、世界中で5億人。思いがけないところから、自分のキャリアに重要な影響を持つ人と出会える可能性があります。自分の研究分野の人の集まりや特定のテーマに興味を持った人の集まりなど、たくさんのグループがあります。積極的に参加するところから始めて、ネットワークを拡大していきましょう。議論に参加すれば、新しい知見が得られるかもしれません。

■ LinkedInはビジネスツールとして利用する

LinkedInは多くのユーザーとつながることを可能にしますが、見ず知らずの人たちとつながることに不安を覚える方もいるでしょう。確かにFacebookのように、個人情報の取り扱いが問題になっているSNSもあります。しかし、FacebookやTwitterのような情報収集や拡散を目的としたSNSとは違い、LinkedInはあくまでもビジネスの人脈形成を目的としたSNSです。海外ではビジネスパートナーを探すことや、優秀な人材をスカウトすることなどに活用されており、ネットワークを広げることで新たなチャンスを得られるメリットのほうが、何らかのトラブルに巻き込まれるリスクよりも大きいと考えられています。もちろんプロフィールやネットワークを見て相手がどのような人かを判断するのは比較的に容易ですので、忘れずに行いたいところです。

明確な目的を持った場であるゆえ、利用する側のマナーもある程度、担保されています。仕事のエキスパートであり、かつビジネスマナーを踏まえていることが前提なので、安易な冗談や政治、宗教に関する自身の思想を投稿することは控えるべきでしょう。発言は、あくまでもプロフェッショナルとして、中立的な立場で行うべきです。

SNSが普及した近年では、就職したい先にレジュメを送るだけでは埋もれてしまい、興味を持ってもらえないことも多々あります。他の応募者と同じことをしているのでは、希望する職に就くことは容易ではありません。そこで重要になるのが、個人的なつながりです。前もって少しでも接点があれば、人はそれだけで親近感を覚え、興味を持ちやすくなるものです。LinkedInが一役買ってくれる可能性は、大いにあります。

関連記事:
naturejobs: LinkedIn tips for scientists
CAREER NETWORK FOR STUDENT SCIENTISTS AND POSTDOCS AT YALE:
LinkedIn: The Basics – Part 1
LinkedIn: The Basics – Part 2
LinkedIn: The Basics – Part 3

Interview_Dr.Negishi-1

【日本医科大学】 根岸 靖幸 講師インタビュー(前編)

各大学の研究室に訪問し、研究者たちにおける英語力向上の可能性を探るインタビューシリーズ。20回目は、日本医科大学の微生物学免疫学教室で生殖免疫学の研究を進めている 根岸靖幸 先生です。

物理学の修士を取得後、大胆な方向転換で医学の道に入られたという異色のご経歴を持つ根岸先生。生殖免疫学研究における第一人者として、日本医科大学で教鞭を執られる傍ら、産婦人科医として診療にもあたられています。多忙な日々を過ごされながらも「研究環境に非常に恵まれている」と笑顔でおっしゃる根岸先生に、研究の概要と英語でのご苦労話を伺いました。


■ 物理学から医学へ転向されたとのことですが、きっかけは何だったのですか?

子どもの頃から宇宙やアインシュタインなどに興味があり、大学で物理学を専攻したのですが、研究者になるのは天才的なひらめきを持った人たちで、努力だけではなれないなと……。おまけにポストも少ない。そこで医学に移りました。実は、子どもの頃に大病をして、当時ご高名なある小児外科の先生に手術をしていただきました。以来、その先生とプライベートも含めて長年お付き合いさせて頂くようになり、そのなかで様々な影響を受け医学にも興味を持っていました。高校を卒業して大学に進学する際、物理学か医学かで悩んで、ロマンを追い求めて物理学に進んだのですが、結局は医学に転向したという経緯です。

■ 宇宙というマクロから「微生物学・免疫学」というミクロの世界への大転換ですね。ご専門について教えてください。

生殖免疫学という分野で、産婦人科学を免疫学の視点でとらえる研究をしています。早産や流産、妊娠高血圧症候群や胎児発育遅延など、生殖に関わる問題を免疫というアプローチで解決していこうとの試みで、特に今、注目しているのは早産の発症です。

早産の原因は感染が多いといわれていたのですが、僕が見ているのは感染を伴わないような、自然免疫を中心としたものです。無菌性炎症というもので、菌がない炎症。無菌性炎症に起因する何かが、早産の原因になる可能性を検証しているところです。赤ちゃんにはお父さんの遺伝子が半分入っているので、お母さんにとっては異物です。お母さんは生物学的な異物を妊娠期間中にお腹の中に保っておいて、時期がきたら分娩の形で、体から出さなければならない。この一連の流れの中で、母体への外からの刺激だけでなく、母体自体の免疫が早産や流産を起こすのではないか、という見解を持っています。10年前ぐらいにこの研究を始めましたが、国外でも同じような考えをしているグループが研究を進めていることが分かって、この概念が徐々に議論にあがるようになってきました。それでも、まだ一般的ではないし、確固たる証拠はない状況。道半ばです。

■ この分野の研究をしている研究者は少ないのですか?

少ないと思います。事実国内では産婦人科医不足が叫ばれていますし、多忙な産婦人科業務の中、なかなか研究の為に自分の手を動かして実験するのは難しいと思います。しかしながら免疫学的アプローチで流早産を研究している国内、国外グループはみな頑張っており、お互い切磋琢磨しているところです。ありがたいことに、私は産婦人科医としてヒトの検体を得やすい環境におり、さらに病棟で患者さんを受け持っている訳ではないので得られたサンプルを研究室ですぐに解析することが出来ます。現在は、ヒトとマウスの両面からアプローチできているので、本当にバランスよく仕事ができる環境にいます。何とかこの分野を引っ張っていける立場になろうと、今頑張っているところです。

■ それではここからは、英語についてお伺いしたいのですが。

僕は留学経験もないし、英語に関しては全然前向きじゃないんです(笑)。うまくなってやろうという意気込みがないというか……。何とか学会を乗り切ろうとか、何とかこの論文を出そうとか、目前のやらなければならないことで精いっぱいです。

最初の頃は、同じ研究分野の英語論文でも業界用語が分からないので、本当に一字一句辞書を引いていました。最初の1年ぐらいは、1本の論文を読むにもすごい時間がかかりましたが、最近はだんだんポイントが分かってきて、アブストラクトを読んで図を見ると、大体イメージがつかめるようになりました。そして結果を見て、後は必要なところを自分でピックアップする。徐々にそういった要領のいい論文の読み方ができるようになったのかなと思います。

書く時は、本当にエナゴさんにお世話になっています(笑)。最初のうちは、なかなか筆が進みませんでした。なので、読んだ論文で使われていた単語やフレーズなどをノートに書き溜めて、少しずつ自分のボキャブラリーを増やすようにしました。僕は同じ単語ばかり使ってしまいがちなので、他の人が使っている言い方やフレーズとかを書き溜めておくしかないんです。添削してもらって自分が思いもしなかった使い方をしているものなどを見つけると、それも書き留めておきます。「この表現もらった!」と(笑)。ネイティブになれないのは分かっているので、いろんな言い回しを手に入れるしかないかと。

他には、教授がいろいろな先生と英語でやり取りをされた際の記録を見せてもらい、ストックしておいて、抜き出して使う。出身が外科系なので基本、技術は盗むっていう立場なので(笑)。手紙の書き方やリバイスになった際の投稿期限の延長交渉とかを含め、そういった方法で書き方を習得しました。

■ 添削サービスがお役に立てて何よりです。

はい。おかげで論文を書くスピードがすごく速くなりました。あれこれ考えるよりもとりあえず書けば、直してもらえるので。直ってきた文章を見て、あ、こういう言い回しをすればよかったのか――と勉強すればいいと割り切って考えています。

■ 論文の(英語での)発表についてはいかがでしょう?

発表は結構慣れてきたので、割と楽しみになってきています。最初は発表の内容より、どういう風に挨拶するのか、どうやってプレゼンを始めればいいのか、イントロダクションから分からなかったので、いろいろ教えてもらいながらやってきました。

■ レビューを書かれることもありますか?

最近はレビューの執筆に苦戦しています。レビューを書くには全部読まなければならないから大変(笑)。期限は迫っているし……。批判めいたことも書かなきゃいけないのは難しいです。ネガティブな表現は結構苦手です。こんなこと書いちゃって失礼になるんじゃないかなとか考えますし。外国の方が書いたレビューには、こんな辛辣なこと言っていいの(?)みたいなものもあります。でも甘いことを書いてしまったら、何回もやり取りをしなきゃいけなくなるので、指摘すべきことはちゃんと指摘しないといけないと反省することも。ネガティブなことも含めてちゃんと書くようにしないとと思っています。

 

【プロフィール】
根岸 靖幸(ねぎし やすゆき)
日本医科大学 微生物学免疫学教室 講師
1995年3月:東京都立大学(現、首都大学東京)にて修士を取得(物理学)
1996年4月:日本医科大学医学部入学
2002年5月:日本医科大学医学部卒業、産婦人科学教室入局
2006年9月:日本医科大学大学院医学研究科入学(微生物学免疫学)
以降生殖免疫学の研究に従事
2012年3月:日本医科大学大学院医学研究科修了(微生物学免疫学)
2012年9月 日本医科大学助教 医学部 基礎医学微生物学免疫学、
2018年4月 日本医科大学講師 医学部 基礎医学微生物学免疫学
受賞
2010年度:第25回日本生殖免疫学会学会賞
2012年度:American Society for Reproductive Immunology, European Society for Reproductive Immunology(米欧合同開催)、Best Poster Award
2012年度:第27回日本生殖免疫学会学会賞
2017年度:日本医科大学 同窓会医学研究助成金受賞
2017年度:第25回日本胎盤学会学会賞(相馬賞)
2017年度:第32回日本生殖免疫学会学会賞

 

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論文をわかりやすくする 画像作成 の10のポイント

学術研究論文に画像や図表を掲載することは、研究成果を簡潔かつ視覚的な方法で伝えるためにたいへん有用です。ほとんどの学術ジャーナルは、画像や図表の掲載方法について投稿規定内で指定しています。論文を作成する際には、その指示に従う必要があります。

例えば、画像や図表を挿入するときには、本文中で必ずその図表を言及しておく必要があります。そのために図表に番号を付けておくのですが、この番号も論文全体の通し番号にするか、章ごとにするか、統一しておかなければなりません。また、自分で作成した図表とは別に、必要に応じて他の文献から図表を引用する場合には、その出典情報(論文名、著者名、出版年、掲載されているページなど)を記載しておかなければなりません。最近の論文ではデジタル画像を挿入することも増えていますが、画像の解像度やファイル形式などにも注意が必要です。

このように、論文に掲載する画像や図表を準備するには細かいルールがあり、かつ研究内容をわかりやすく伝えるためにはコツが必要です。論文に掲載する画像を作る時に覚えておくべき重要なポイントをご紹介しましょう。

6について補足を。時間をかけて作成した画像をいざ印刷してみたら「あれ?」となってしまったことはありませんか。画面で見るのと紙面で見るのとでは印象が異なるはずです。図の大きさや配置、解像度、画素数など細かいところに注意しないと、期待するような効果が得られないことになってしまいます。最近はオンラインで読める学術ジャーナルが増えていますので、画像をよりきれいに作ることが求められつつあります。

各ジャーナルによって画像に関する投稿規定は多少異なりますが、共通する主な項目を記します。

・サイズ:幅の指定
・解像度:写真などの画像は300dpi以上だが、模式図などや文字を含む場合の解像度は異なる場合があるので規定を確認すること
・色:RGB形式、または、CMYK形式
・文字(フォント):キャプションやタイトルに付ける文字のフォントやサイズ
・ファイル形式:TIFF、PDF、EPSなど

デジタル画像の処理が簡単にできるようになったことで、画像に関する不正なども取りざたされるようになりました。必要な修正を加える場合でも、誇張やごまかし、実験結果の理解に誤解を与えるような作為的な編集を行うことは許されません。不適切に処理された画像によって実験結果や結論に誤った印象を与えることは、避けるべきです。

図表はどのような形であれ、わかりやすく、確実に正しいメッセージを伝えるように作成しましょう。

The Importance of Culture in Translation

日米豪中を比較!研究開発予算から見える各国の思惑

今年2月にアメリカのトランプ政権が、科学研究費を大幅に削減した予算教書を提出し研究者を失望させたことを以前の記事で紹介しました。今回は、その後の米国議会の動きと他の国の科学研究費を見てみました。

■ 予想に反して潤沢な予算がついたアメリカ

2018年3月23日、米国の2018年度(2017年10月~2018年9月)歳出法が成立し、予想に反して高額な研究開発予算が確保されることとなりました。国防費を大きく増やし、科学関連省庁の予算を大幅に削減するとしたトランプ大統領の予算教書が議会で却下され、ほぼすべての科学関連省庁で予算が増額されたのです。研究予算の削減がアメリカの科学界におよぼす影響を懸念していた研究者にとっては、喜ばしい結果でした。国立衛生研究所(NIH)は2017年レベルから30億米ドル以上アップの370億米ドル、全米科学財団(NSF)は昨年から2億9500万米ドル増の78億ドル、そして米国航空宇宙局(NASA)は11億米ドル増の207億米ドル、米国海洋大気局(NOAA)は2億3400万米ドル増の59億米ドルの予算を獲得しました。また、トランプ政権の温暖化対策軽視により2017年度から31%減の57億米ドルになると見られていた環境保護局(EPA)の予算は、2017年度レベルの81億米ドルを確保できました。ただし、来年も同様に潤沢な予算が確保できる保証はないと警告する動きもあり、研究者にとって一安心と言いつつ、心配な状況は続きそうです。

■ 科学と医療への予算配分を増やしたオーストラリア

その一方で、長期的な研究費が確保できそうなのがオーストラリア。オーストラリア政府は5月17日、2018-2019年の国家予算で科学インフラと医療分野の配分を大きく増やし、科学インフラ(顕微鏡、スーパーコンピュータ、海洋観測システム、天体望遠鏡など多種多様な分野で利用する関連機器などへの投資)に今後12年間で19億豪ドル、医療分野(健康および医薬産業の促進)に今後10年間で13億豪ドルを費やすと発表しました。その他、技術インフラ分野でも、人工衛星の位置補正精度を向上させるため、4年間で1億6100万豪ドルを含む予算を確保。宇宙インフラへの投資は、経済全般における産業生産性を促進することにもつながると期待されています。科学研究費が年度ごとに決められる以上、長期的に安定して研究を行える環境が整いにくいというのは世界共通です。予算案は最終的に議会によって承認される必要がありますが、数年来、研究インフラへの長期的な投資を求めてきたオーストラリアの研究者たちは、このような大きな予算が将来的に確保される動きを歓迎しています。

科学インフラと医療分野ほど長期ではありませんが、環境保護にも大きな予算がつきました。オーストラリアの観光収入を支えるグレートバリアリーフは、現在危機的な状況に陥っており、さまざまな調査研究が急務とされています。オーストラリア政府は、このことを踏まえ、2017-2018年に4億4400万豪ドルをグレートリーフ・ファンデーションへ提供することを含め、5億豪ドルをグレートバリアリーフの研究に費やすと発表しました。政府は、2009-2016年の間にグレートバリアリーフの水質管理に5億豪ドルを費やしてきましたが、2017年、グレートバリアリーフの水質は政府が目指しているレベルに到達できていないと研究チームが結論付けています。これに対し、今回は1年間で同規模の予算を立てたことになります。この新たな予算を喜ぶ研究者もいれば、グレートバリアリーフを脅かす大きな問題-気候変動問題-を解決するには不十分だと述べている研究者もいます。

研究分野が細分化する一方で、研究規模が拡大する中、どの国の研究者にとっても資金確保は頭の痛い課題となっているようです。

■ 長期ビジョンの下で科学技術研究を進める中国

科学技術研究の躍進目覚ましい中国は、2016年3月に全国人民代表大会で採択された2020年までの第13次5カ年計画で、科学技術を重視する姿勢を鮮明に打ち出しています。この計画の中で中国政府は、科学技術による革新は国の発展の原動力であるとの方針を示し、2020年までに研究費への支出をGDPの2.5%まで増やすことを目標としています。実際、2017年に研究開発費として合計で1.76兆元(約2790億米ドル)、GDPの2.1%が支出されたと推定されています。特に、基礎研究への予算は、2011年の411億元から、2016年の820億元と5年間で倍増しています。

第13次5カ年計画では、海洋学、脳科学、幹細胞研究、環境保護、汚染対策の5分野が、特に成長が見込まれる分野とされており、すでに成果が表れています。2018年1月、中国科学院神経科学研究所が世界を驚かす研究成果を発表しました。体細胞クローンサルの誕生を成功させたと報道したのです。この研究成果は、1月24日付の米科学ジャーナル「Cell」に発表されました。世界で初めて霊長類のクローン誕生に成功したことが倫理的な議論を巻き起こすのは確実ですが、中国は体細胞クローンの研究分野において世界を牽引することになりそうです。

■ 一見すると増額となった日本

日本の2018年度の科学技術関係予算案は、17年度比較で2504億円(7.0%)増の3となっています。15年以上の間、横ばい状態でしたが、今回、予算の集計方法が変更となり、科学技術イノベーション転換による公共事業予算(1915億円)を科学技術関係予算に含めたことで増額となりました。この付け替え分を差し引いた実質的な増分は589億円です。政府は、第5期科学基本計画と科学技術イノベーション総合戦略2017の一体的な運用を目指しています。第5期科学技術基本計画では、2016-2020年度の5年間の科学技術関係予算を合計で26兆円にすることを目標に掲げていますが、現状のままではこの目標が達成できるかは難しい状況にあります。

基礎研究レベルの低下が懸念される中、応用研究でも厳しい見解が出ています。一例としてあげられるのは、近年各国が官民をあげて取り組んでいる人工知能(AI)研究。このAI研究に対し日本が2018年度予算案に計上したのは総額770億4000万円。アメリカの5000億円、中国の4500億円と比較すると大きく離されています。この分野においては過去最大の予算を投じてはいるものの、生活や産業構造に多大な影響を与えるとされるAIの開発競争で取り残されることが懸念されます。

米中の予算規模の大きさが目立ってはいますが、他の国も科学研究への投資を増やすことも含め、さまざまな推進策を講じているようです。残念ながら、日本の科学研究力の低迷ぶりはNature Index Japan 2018でも指摘されており、研究費確保、研究推進ともに厳しい状況が続きそうです。

 

「フェイク・カンファレンス」を見極める9のポイント

Eメールアドレスを持つ研究者であれば誰もが、さまざまなカンファレンス(会議)への招待状を受け取っていることでしょう。しかし、すべてのカンファレンスがきちんとした組織によって運営されているとは限りません。招待状の多くは、掲載料さえ払えば査読なしで論文を掲載する捕食出版社(predatory publishers)などが主催する、いわゆる「フェイク・カンファレンス」への誘いかもしれないのです。

■ フェイク・カンファレンスはいかにして成り立っているのか

フェイク・カンファレンスとは、通常、「営利目的」で開催される会議を指します。自身をアピールしたい、研究を発表する機会を得たいという研究者の要望に付け込み、開催数を増やしています。最近のデータによると、今やフェイク・カンファレンスの数は、いわゆる正式なカンファレンスの数を凌いでいることがわかっています。

フェイク・カンファレンスの主な収入源は、研究者からの参加費です。研究者が高額な費用を払う見返りに自身をアピールする機会を与えられる、巧妙に仕組まれたイベントです。できるだけ多くの発表者・参加者を動員するため、内容や分野すら異なるテーマの会議を一度に詰め込んで開催することもあります(フェイク・カンファレンスの有名な運営会社の一つであるBIT Life Sciencesは、さまざまな分野の研究者宛に招待Eメールを一斉配信しています)。科学研究のための実績を積みたい、論文を発表したいという研究者、とりわけ発展途上国の若手研究者の純粋な野心を食い物にして、大きな収益を得ていると言えます。

■ フェイク・カンファレンスを見分けるポイント

研究や学術出版に従事する者にとって、フェイク・カンファレンスを見分けることは重要です。着目すべきポイントを紹介します。

1. 参加を検討している会議の運営者が、捕食出版社リスト(後述)に含まれていないか。
2. 専門団体や信頼できる組織が会議を運営しているか。
あまりにも一般的な名前を冠する組織によって運営される会議や、さまざまな分野を一つの会場にまとめた極端に大規模な会議への参加は避ける。
3. 主催者と連絡をとる手段が複数あるか。
ほとんどの正当な組織は、無料のEメールアカウントを使用せず、「.edu」を含むアドレスを有する。
4. 論文のアクセプトまでに要する日数。
ほとんどのフェイク・カンファレンスは、疑うことを知らない研究者を誘いこむため、短期間で論文をアクセプトすると約束する。
5. カンファレンスで研究者や論文への賞を出すことが企画されているか。
多くの褒賞が約束されている会議は注意。
6. 主催者が論文の出版を約束しているか。
正当な会議主催者が出版の保証をすることはない。
7. 編集委員会の委員たちに地域的多様性があるか。
編集委員の全員が同じ場所から来ている場合、フェイク・カンファレンスの可能性がある。
8. 編集委員は、自身の学術的情報を公開しているか。
9. 査読者や編集委員は、査読を行うにあたり学術的に適任か
どのような人物が査読をするかを事前に調べ、適任ではないことを示す根拠があれば注意。

■ 対策の方法は他にも

フェイク・カンファレンスを避けるための対策は、他にもあります。
研究者が信頼できる会議へ参加することをサポートするウェブサイト「Think Check Attend」は、がフェイク・カンファレンスを見分けるためのガイドラインを提供しています。フェイク・カンファレンスは、捕食ジャーナルを出版する捕食出版社によって開催されることが多いため、チェックポイントで記したように捕食ジャーナルのリストを確認することも役に立ちます。コロラド大学の図書館員で研究者でもあるJeffrey Beallが発表した捕食ジャーナル・捕食出版社リスト*が最もよく知られています(Beallは捕食ジャーナル判別の先駆者であり、詳細なリストを作成するために多大な時間と努力を費やしてきました)。

*Beallが作成したオリジナルのリスト(Beall’s List)」は2017年1月以降に閉鎖されており、Beallの趣旨を引き継いだ別サイトにリストが掲載されています。

参照:
Beall’s List of Predatory Journals and Publishers
Exploring the Evidence Base, Beall’s List of Predatory Publishers

■ 学術界への悪影響

フェイク・カンファレンスが学術界に与える影響は計り知れません。根本的に虚偽であるとの問題を横に置いたとしても、ほとんどのフェイク・カンファレンスの主催者や捕食出版社は、査読を行っていません。さらに悪いことに、標準レベル以下の研究論文であってもリジェクトしません。学術的価値がないジャーナルが出回ることによって、正当に評価されるべき研究を見つけ出すことが困難になってしまうのです。

研究者はフェイク・カンファレンスを避けるべきですが、多くの研究者が、甘い言葉と魅力的なパッケージの罠にかかっているのが現状です。経験を積んだ研究者ですら参加していることがあるので、侮れません。フェイク・カンファレンスや捕食ジャーナルの手口が巧妙化する中、より強固な対策が必要です。まずは研究者一人ひとりがフェイク・カンファレンスを見分ける力を持ち、参加しないことが重要です。


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「再現性の危機」に対応するための「チェックリスト」

以前、本誌では、『ネイチャー』誌が2016年に研究者たちをアンケート調査したところ、回答者1576人のうち70%以上が、ほかの研究者の実験を再現しようとしたが失敗した経験がある、と答えたことを紹介しました。このように、論文に書かれている通りの方法で実験を行っても、結果を再現できないことがしばしばあるという現状は「再現性の危機(reproducibility crisis)」と呼ばれています。

今年4月18日付『ネイチャー』誌の社説は、同誌が論文原稿を投稿する著者たちに、すべての項目を満たすよう求めている「 チェックリスト (Statistical parameters)」が「正しい方向への第一歩」ではあるものの、再現性の危機に対応するためには、まだほかに行なうべきことがある、と主張しました。

また同誌は再現性とチェックリストの効果について調べるために、2016年7月から2017年3月にかけ、『ネイチャー』に投稿したことのある研究者5375人に調査票を送り、その結果のデータをそのまま公開しました。それによると、回答した研究者480人のうち49%は、チェックリストが『ネイチャー』に掲載される研究の質の改善につながっている、と答えたそうです。15%はチェックリストの有効性に同意しませんでした。

回答者の86%は、再現性が低いことを自分たちの研究分野における危機である、と認識していることもわかりました。この割合は2016年の調査と同様です。また2016年の調査では、回答者の約60%が「再現性の危機」の原因として、「選択的報告(selective reporting)」を挙げていたのですが、今回の調査でも、約3分の2が同じように「選択的報告」を指摘していました。

「選択的報告」とは、しっかりとした定義はありませんが、たくさんあるデータのなかで自分の仮説に最も都合のよい結果だけを選んで論文に書くことをいいます。いいとこ取りをするという意味で「チェリーピッキング(cherry picking)」と呼ばれることもあります。研究結果をわかりやすく見せるために多くの研究者が行なっていることであり、これを「悪いこと」とみなすかどうかは微妙なところです。しかし、選択的報告が再現性を低めていると認識している研究者が多いことは確かなようです。『ネイチャー』のチェックリストは、この選択的報告をより透明化するようにも設計されているといいます。

ではこのチェックリストは、再現性の低さという問題に対応できているのでしょうか? 「部分的にはそうであろう」と『ネイチャー』の社説は評価しています。ただしアンケート調査の回答からは、再現性の低さをもたらす要因として、著者へのトレーニングや報告の透明性、そして「研究発表せよというプレッシャー(publishing pressure)」といった微妙な問題があることも浮かび上がる、といいます。

好ましい兆候もあります。2012年、アメリカにある国立衛生研究所(NIH)のストーリー・ランディスらは、医学・生命科学分野における前臨床研究(動物実験)の透明性を高めるために、論文の著者は「無作為化(ランダム化)」、「盲検化(ブラインド化)」、「サンプルサイズの推計」、「データの調整」という4つの基準について報告すべきだと提案しました。これは「ランディス4基準(Landis 4 criteria)」と呼ばれています。

ある研究者らはチェックリストの効果を検証するために、チェックリストを導入している『ネイチャー』に掲載されている論文と、導入していない『セル』に掲載されている論文の実験方法に関する記載と分析情報を、2013年(チェックリスト公開前)と2015年(チェックリスト公開後)の変化で比較しました。その結果、ランディス4基準のうち「無作為化」と「盲検化」、「サンプルサイズの推計」という3項目については、『ネイチャー』の論文は『セル』の論文よりも3倍改善している、ということが明らかになりました。この調査結果は昨年9月、『プロスワン』で公表されました。別の研究グループも同様の調査結果をまとめ、査読中の原稿がプレプリントサーバー「バイオアーカイブ(bioRxiv)」で公開されています。

また『ネイチャー』の調査では、回答者のほとんどは複数の論文原稿を投稿した際、このチェックリストを使って確認を行ったといいます。さらに78%は、『ネイチャー』に投稿するかどうかと関係なく、このチェックリストをある程度活用している、といいます。

総じていえば、このチェックリストは論文における実験過程などの透明性を高めることに役立っているといえそうです。ただし現在のところ、再現性そのものが高まっていることは確証できないようです。「再現性の危機」への警戒や対策は今度も継続されるでしょう。

 


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ライター紹介:粥川準二(かゆかわじゅんじ)
1969年生まれ、愛知県出身。ライター・編集者・翻訳者。明治学院大学、日本大学、国士舘大学非常勤講師。著書『バイオ化する社会』(青土社)など、共訳書『逆襲するテクノロジー』(エドワード・テナー著、早川書房)など、監修書『曝された生』(アドリアナ・ペトリーナ著、森川麻衣子ほか訳、人文書院)。博士(社会学)。