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ACSスタイルガイドの概要

ACSスタイルガイドとは

ACS Style Guide(日本語版のタイトルは『ACSスタイルガイド アメリカ化学会 論文作成の手引き』KS化学専門書)は、アメリカ化学会(ACS)が論文作成の手引き書としてまとめたもので、学術雑誌(ジャーナル)や出版物に投稿する原稿を執筆する際だけでなく、化学系全般の英語論文を執筆する際に順守すべきスタイルが書かれています。化学分野の研究を支援する学術団体として1876年にニューヨーク大学で設立されたACSには、化学工学や関連分野で活躍する約165,000名(2022年1月時点)の会員が所属しています。『ACS Style Guide: Effective Communication of Scientific Information(3rd edition)』(以下、ACSスタイルガイド)は2006年に出版されたもので、オンラインと印刷版の両方で入手可能です。ACSスタイルガイドは科学論文の執筆に焦点を当てている点が特徴です。他のガイドラインとしては、学術書やジャーナルに焦点が置かれたシカゴ大学出版局による『The Chicago Manual of Style』や、学術論文の中でも社会科学に焦点を置いた『APA Style』、AP通信によって発行され、ジャーナリズムと法律などメディア関連で利用されている記事執筆のスタイルと用語法のガイドブックとして広く使われている『AP Stylebook』などが挙げられます。

ACSスタイルガイドは、化学分野の論文著者が論文執筆の際に準拠すべきものですが、他のSTEM分野でも参考にされています。また、研究倫理や投稿基準といった科学論文を執筆する際の問題について専門的な指導が記載されていることから、科学的情報の効果的なコミュニケーションについて学生に教える際の資料としても使用されています。

ACSスタイルと他のスタイルとの違い

ACSと他のガイドラインとの主な違いは、化学に重点を置いていることです。化学分野では、たくさんの略語が使用されており、ジャーナルに掲載される論文のタイトルやプロシーディング (講演要旨集)にも分野共通の略語が記載されることが多々あります。ACSスタイルガイドには、化学分野で頻繁に使われている1,000以上の略語が一覧で記載されているほか、以下の情報も含まれています。(日本語は、中山裕木子訳による日本語版より

  • Chapter 1:Ethics in Scientific Communication(科学出版における倫理規範)
  • Chapter 5: Electronic Submission of Manuscripts Using Web-Based Systems (Webシステムによる投稿)
  • Chapter 11: Numbers, Mathematics, and Units of Measure(数量表記、数学的表記、測定単位)
  • Chapter 12: Names and Numbers for Chemical Compounds(化合物の名称と番号)
  • Chapter 13: Conventions in Chemistry(化学の通則)
  • Chapter 17: Chemical Structures(化学構造式)

現在、科学出版における文書とは、データを含めた情報を読者に届ける媒体と考えられています。そのため、ACSスタイルガイドでは、文書の作成方法よりもデータに焦点を当てたコンテンツ(データおよび関連する情報)とそれを作成する方法を”datument“と称して、書き方を指南しています(Chapter8:Markup Languages and the Datument)。

ACSによる一般的な書式ガイドライン

ACSスタイルガイドには、論文や報告書のテキストやフォーマットについて、フォント、余白、およびその他の構成要素に関する具体的なガイドラインは示されていないものの、指導教員、教授、またはジャーナルのガイドラインから具体的な規範が示されていない場合は、一般的なガイドラインに準じて書式を整えるのが良いとされています。幾つか例を挙げておきます。

  1. 余白(マージン)は、ページの全てで1インチに設定する。
  2. フォントは全体で一貫性を持たせる。Times New Romanの12pt推奨。
  3. 引用、注釈、参考文献リストも含めた研究論文はダブル・スペース(1行おきの行間)で書く。指導教員からピリオドの後は2スペースとするように指示されない限り、ピリオドあるいは句読点の後は1スペースとする。
  4. 参考文献リストのページでは、突き出しインデントを使っ左側の余白から0.5インチの適切な空白を設ける。

ACSの引用に関するガイドライン

ACSスタイルガイドの重要項目のひとつであり、研究論文の執筆者にとって不可欠なことは、ウェブ上の情報の引用の仕方です。ACSスタイルガイドには、「文中の引用」と「参考文献リストの書き方」についてそれぞれ書式が示されています。

文中の引用

上付きの数字で書く場合

• 引用した情報の最後に参考文献リストに記す出典番号を上付き数字として句読点の後に付ける。

例:A thin layer of trimethylhydroxysilane makes sand hydrophobic.1

• 引用文の途中に参考文献リストに記す出典番号を著者の名前の後に上付き数字として付ける。

例:Samuel1states that a thin layer of trimethylhydroxysilane make sand hydrophobic.

イタリック体の数字で書く場合

• 引用した情報の最後に参考文献リストに記す出典番号を、引用文の最後に、句読点の後ろに括弧で囲んだ数字として付ける。このときの数字をイタリック体で書く。

例: A thin layer of trimethylhydroxysilane makes sand hydrophobic. (1)

• 引用文の途中に参考文献リストに記す出典番号を著者の名前の後に括弧で囲んだ数字として付ける。このときの数字をイタリック体で書く。

例:Samuel (1) states that a thin layer of trimethylhydroxysilane make sand hydrophobic.

著者の氏名と出版年を括弧書きする場合

• 引用した情報の最後に括弧書きで著者の氏名と出版年を記載する。

例:A thin layer of trimethylhydroxysilane makes sand hydrophobic. (Samuel, 2004).

• 引用した情報の途中に、文の末尾に出版年を括弧書きで記載する。

例:Samuel states that a thin layer of trimethylhydroxysilane make sand hydrophobic. (2004).

注意:著者が2名の場合は、andを使ってつなげます。2名以上の著者がいる場合は、「et al.」を使います。
連名の場合は、Samuel and Greg、2名以上の場合はSamuel et al.と記載します。

参考文献リストの書き方

参考文献リストには、本文で引用した情報源に関する詳しい情報を記載します。
各項目には、次の情報を入れます。

  • 著者または編集者の名前
  • 出版日
  • 出版情報

参考文献リストの書式に関する一般的なガイドライン

  • 参考文献リストは、各ページに掲載する。
  • テキストは、ページの左揃えにすることが推奨される。
  • 参考文献リストの書式を整えるために、突き出しインデントを使用し、最初の項目を除くすべての行の配置を揃える。

参考文献リストの順序付け

参考文献リストを並べるの順序は、文中の引用の書き方(括弧書きまたは上付きで番号を付けたか、著者名と日付を書き込んだか)により異なります。

  • 本文中の引用文献に番号(括弧書きまたは上付き)を付けた場合は、その番号順にリストに記載する。
  • 本文中の引用文献に著者名‐日付を付けた場合は、筆頭著者の名字をアルファベット順に記載する。

さまざまな引用元の記載方法

学術書籍からの引用の場合

印刷書籍の引用書式

Author 1; Author 2; etc. Title of Book, Edition Number; Series Information If Applicable; Publisher, Year.
著者名1; 著者名2; etc. 書名, 版情報; 該当する場合はシリーズの情報; 出版社, 出版年.

電子書籍の引用書式

Author 1; Author 2; Author 3; etc. Book Title, edition information; Series Information If Applicable; Publisher, Year. DOI or URL
著者名1; 著者名2; 著者名3; etc. 書名, 版情報; 該当する場合はシリーズ情報; 出版社, 出版年. DOIまたはURL

特定章の引用書式

Author 1; Author 2; etc. Title of Chapter. In Title of Book, Edition Number; Series Information, Volume Number; Publisher, Year; pp Pages Used. DOI or URL
著者名1; 著者名2; etc. 章タイトル. In 掲載紙誌名, 版情報; シリーズ情報, 巻数; 出版社, 出版年; pp 引用箇所のページ. DOIまたはURL

編集書籍の引用書式

Book Title, Edition Number; Editor 1, Editor 2, etc., Eds.; Series Information (if any); Publisher, Year. DOI or URL
書名, 版情報; 編集者名 1, 編集者名 2, etc., Eds.; シリーズ情報 (該当する場合); 出版社, 出版年. DOIまたはURL

シリーズ書籍の引用書式

Author 1; Author 2; etc. Title of Chapter. In Title of Book; Editor 1, Editor 2, etc., Eds.; Series Information, Volume Number; Publisher, Year; pp Pages Used. DOI or URL
著者名1; 著者名2; etc. 章タイトル. In 書名; 編集者名 1, 編集者名 2, etc., Eds.; シリーズ情報, 巻数; 出版社, 出版年; pp引用箇所のページ. DOIまたはURL

ジャーナル掲載論文からの引用の場合

印刷ジャーナル掲載論文の引用書式

Author 1; Author 2; Author 3; etc. Title of Article. Journal Abbreviation Year, Volume, Inclusive Pagination.
著者名1; 著者名2; 著者名3; etc. 論文タイトル. 掲載紙誌名(省略表記)発行年, 巻・号,ページ数.
Author 1; Author 2; Author 3; etc. Journal Abbreviation Year, Volume, Inclusive Pagination.
著者名1; 著者名2; 著者名3; etc. 掲載紙誌名(省略表記)発行年, 巻・号,ページ数.

オンラインジャーナル掲載論文の引用書式

• オンラインジャーナルに掲載されている論文については、次の書式を使用します:

Author 1; Author 2; Author 3; etc. Title of Article. Journal Abbreviation [Online] Year, Issue, Inclusive Pagination. Complete URL (accessed Date).
著者名1; 著者名2; 著者名3; etc. 論文タイトル. 掲載紙誌名(省略表記) [オンライン] 発行年, 版情報, ページ数. URL(アクセス日).

• データベースに収録されている論文については、引用にデータベース名を含めます。論文のURLの代わりにデータベースのURLを記入します。

Author 1; Author 2; Author 3; etc. Title of Article. Journal Abbreviation [Online], Date, Inclusive Pagination. Database Name. Complete URL of database (accessed Date).
著者名1; 著者名2; 著者名3; etc. 論文タイトル. 掲載紙誌名(省略表記) [オンライン], 発行日付,ページ数. データベース名. データベースのURL(アクセス日).

• 印刷版の出版に先駆けてオンラインで発表された論文については、次の書式を使用します。

Author 1; Author 2; Author 3; etc. Title of Article. Journal Abbreviation [Online early access]. DOI. Published Online: Date. Complete URL (accessed Date).
著者名1; 著者名2; 著者名3; etc. 論文タイトル. 掲載紙誌名(省略表記) [オンライン早期アクセス]. DOI. 発行オンライン名: 発行日. URL(アクセス日).

ACSスタイルガイドに従って書いてみる

ACSスタイルに慣れていない人は、このガイドに従って論文を執筆するにはどうしたら良いのかと悩むかもしれませんが、スタイルガイドの見ておけば掴みやすいでしょう。ACSスタイルガイドは以下の2部で構成されています。

1. 第1部– Scientific Communication(科学分野の表現技法)
2. 第2部– Style Guidelines(表記の指針)

1部には論文投稿プロセスに関する情報が、2部には論文の執筆に必要な記載方法などの詳細が書かれています。比較のために補足しておくと、冒頭にあげた複数のスタイルガイドはそれぞれ構成が異なっています。The Chicago Manual of Style(シカゴスタイル)は、The Publishing Process(出版プロセス)、Style and Usage(スタイルと記載方法)、そしてSource Citations and Indexes (引用と索引)の3つから構成されており、『The Associated Press Stylebook(APスタイルブック)』は、題材(ビジネス、スポーツ、メディア関連の法律など)別に整理されています。APスタイルブックは隔年に更新されています。

学術論文を書くにあたってACSスタイルガイドを使用する場合、ガイドラインに書かれた項目を踏まえて、自分が知りたいことに対する回答を探す必要があります。科学論文の執筆に関することであれば第1部を参照し、言葉、書式、スタイルに関することであれば第2部を参照してみてください。
ガイドラインの特徴と構成を把握しておけば、探したい情報は簡単に見つかるはずです。

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