「AとBはまったく違いがない」という研究結果は、「AほうがBより効果(影響)がある」という研究結果と同様に重要な発見のはずです。ではどうして、学術雑誌には「AほうがBより効果(影響)がある!」という論文のみで溢れているのでしょうか。
人間は、物事を比較することによって世界を把握する生き物です。例えば、空間を仕切る壁に穴を開け、私達が簡単に出入りできる場合は「ドア」と呼び、そうではない場合は「窓」と呼ぶ。同じ四足動物でも、「ミャ~」と鳴けば「猫」と呼び、「ワンワン」と鳴けば「犬」と呼ぶ。つまり人間は、五感を駆使して物事を比較し、それらを区別・区分することによって始めて、自分達の回りの真実を理解することができるのです。そのため、ハッキリした違いを心地よく感じ、重要視する傾向が発生します。
そしてその人間性は、私達研究者の中にも息づいています。ある研究でAとBを比較し、「まったく違いがない」という結論に到達すると、「何かが違うのではないか?」と執拗に比較を続てしまう。そんな経験はありませんか?
2009年に学術雑誌Natureで発表された研究結果によると、その傾向はどんなに経験を積んだ査読者にも根深く存在するようです。
この実験では、まったく同じ論文の結果だけを「AよりBが優れている」としたバージョンと「AとBは同じだ」としたバージョンの二種類を作成し、複数の人に査読してもらいました。ここで注目したいのが、その論文の実験方法には、いくつかの小さな課題やミスが含まれていたということです。査読者は、このミスに気がついたでしょうか?
「AとBは同じだ」という結果の論文を読んだ人達は、期待通りに実験方法の小さなミスや課題に気がつき、色々な改正案を提案しました。ところが、同等に優れた査読者であるはずなのに、「AよりBが優れている」という結果の論文を読んだ人達は、これらのミスや課題にまったく気がつかなかったのです。つまり、査読者も人間。「物事の違い」をよしとし、鵜呑みにする傾向があるということになります。
人(査読者)を騙す必要はありません。しかしここでご紹介した先行研究者の実験結果を無視する必要もないでしょう。この研究結果を踏まえ、論文投稿者としてできることは、「比較対象を明確に表現すること」ではないでしょうか。
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