一研究者として何よりも大切なことの一つとして、客観性の高い研究を行うことがあげられるでしょう。そのためにも、自分の研究方法や分析方法に影響を与えかねない要素には、常日頃から注意を払う必要があります。この「自分の研究に何らかの影響を与えかねない事項」のことは、英語ではよくconflicts of interestと表現されます。「利害の対立 (conflicts of interest)」というと、賄賂をもらったり買収されたりすることがまず頭に浮かびますが、研究を長く続ければ続けるほど、思わぬところに落とし穴があるものです。ここではよく遭遇する利害の対立 (conflicts of interest)を4つ挙げてみました。このような場面に遭遇することのないよう、また予期せず遭遇してしまったら、関係者に相談したり利害の対立があることを即座に公表するなど、早急に対応をするよう努めましょう。

1. 金銭
前述の賄賂や買収がこれに当たります。お金のために自ら買収される研究者に関して、私からアドバイスできることといえば、「よい弁護士とお友達になっておいたほうがいいですよ」といったところでしょうか。しかし実際には、買収されたり賄賂をもらったつもりがないのに、気がついたらそういう肩書きをつけられてしまった、というケースのほうが多いのではないでしょうか。
研究の規模が大きくなればなるほど、いろいろな所から資金が調達されてきます。その中には、あなたの研究において特定の結果が出た場合、直接的または間接的に何らかの得をする個人や会社や機関があるかもしれません。研究に没頭したい気持ちは分かりますが、自分の研究の信頼性を揺るがさないためにも、資金がどこから出ているのか、いつも注意して確認することが必要です。
多くの学術雑誌では、論文の一部として研究資金がどこから出ているかを明記するよう規定しているところがあります。この場合は、金銭に限らず、物品の貸し出しなどどのような形にしろ、そしてどんなに小額でも申告することをお勧めします。もし学術雑誌の書式規定として要求されていなくても、「アクナリッジメント(acknowledgement)」という形で論文の最後に出資元を書いておくほうがよいでしょう。問題は資金を受け取ったことではなく、それを隠したり、それによって影響を受けたりすることだということをお忘れなく。

2. キャリア
自分のキャリアのために、研究者としての行動に客観性を失ってしまうこともあります。 特に査読者に選ばれたときや、大小に関わらず学術雑誌の編集者になった場合は、この点に十分注意を払うことが必要です。通常、査読者は論文を書いた研究者の個人情報を知らされません。しかし論文の書き方や索引物件から、書き手のことがある程度分かってしまうことがあるものです。自分と同じ分野の同じような研究をしている人の論文を読むときも、違う分野の研究をしている人の論文を読むときも、同等のきびしい目で審査をするよう心がけてください。とはいっても、「ライバルの論文を読んでべた褒めする気には…」と思ったら、 編集局に簡単に事情を説明して指示を仰いだり、「客観的に読むことができないので」と査読を辞退することも可能です。編集局が一番避けたいのは、学術雑誌の編集に何らかの形で関わった人たちが、自分のキャリアへの利害関係を隠すことです。

3. 人間関係
たまたま選ばれた査読者が学生時代からの大親友だった、ということも多々あることです。また、結婚相手の叔父が、自分の研究結果によっては利益を得かねないとある製薬会社の重役になった、ということもないことはないでしょう。また反対に、自分の親友を首にした上司の研究論文を査読することになるなど、好意的とはいいがたい状況に陥ることもあるかもしれません。編集局としても、同じ大学を卒業した人や同じ機関で働いている人には査読をお願いしないなど、できるだけ先入観をもたない査読者を探しますが、いつも成功する訳ではありません。自分の論文を査読した人、自分が査読した論文を書いた人など、いろいろな場面で交錯する人間関係です。自分が客観的でいられないと感じたら、周りの人に状況を説明し、より適切な対応方法を早急に考えたいものです。

4. 差別
競争する研究機関の出身者、対立するセオリーの信望者、性別、年齢、信仰、国籍、方言など、自分でも気がつかないうちに研究仲間または部下に対し先入観を持って接してしまうことがあります。同様に、査読をする際、このような先入観が邪魔になって主観的になってしまうケースもあるでしょう。常日頃から、自分が客観的な視点を維持できているか気をつけると共に、何でも話し合える友人を作り、時には自分の言動をモニターしてもらうのもよいでしょう。より客観的な研究者の奥底には、より客観的で他人からの指摘を真摯な気持ちで受け止められる、大きな器の人間があることをお忘れなく。

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