「反物質」とは? 通常の「物質」の鏡像のようなもの、とでも言えばよいでしょうか。物質を構成している素粒子には必ず、それに対応している「反粒子」というものが存在します。この「半粒子」仮説が最初に世に出たのは、今から80年近くも前のことでした。以来、世界各地の実験施設で、多数の半粒子の人工的な発生や同定に成功しています。たとえば、電子の半粒子である陽電子、陽子の反粒子である反陽子、その他多数が特定されてきました。
その「反物質」と「物質」が接触すると、必ずその両者の質量合計に匹敵するだけのエネルギーを放出し、崩壊・消滅します。そのため、反物質を研究・利用するためには、充分な時間だけ反物質が消えずに残るよう、物質から隔離する必要があります。

エナゴブログ: 「反物質」と「物質」

出典: NSF/kdw 水素とその「鏡像」となる「反水素」の例示 (National Science Foundationのご好意により掲載)

こうして反物質の素粒子の発生や捕獲には成功してきたのですが、反物質の原子を発生させ、そのまま捉えるとなると、大変困難な課題です。反物質の素粒子には、ほとんどの場合何らかの電荷があります。なので、電場や磁場を使えば閉じ込めることが可能です。ところが反物質の原子となると、電気的に中性なのです。つまり、構成している各素粒子の正電荷と負電荷が釣り合っているので、原子全体としては電荷がないことになります。このため、反物質の原子を閉じ込めるのは大変困難な作業になるのです。ただ、反原子にも弱い磁気特性があります。そこで、特殊な構成の磁場を使って、反原子を特定の場所に閉じ込めることが可能です。こうした磁場のことを、「磁気瓶」と呼んでいます。

CERN (欧州原子核共同研究機構、European Organization for Nuclear Research) の研究者たちが先日、この困難な課題をやり遂げました。低エネルギーの反水素原子を発生させ、それを見事に捕獲したのです。ALPHA experiment (ALPHA実験)と呼ばれるプロジェクトの成果の1つです。この手法では反水素原子38個を、平均で2/10秒間閉じ込めることが可能です。少し前、科学雑誌Natureに、この実験結果が紹介されました。(results were published in Nature

この成果をきっかけに、基礎科学と応用の両面で、想像を超える発見がなされる可能性があります。その例を、2つだけ挙げておきましょう。

  • 現在、我々の住むこの宇宙では、物質の量と反物質の量がまったく非対称です。つまり、反物質よりも物質の量が圧倒的に多いのです。これは今も、未解明の謎です。その原因は、宇宙の発生時に遡る何かだと見られています。今回の成果により、この謎に近づく道が広がるかもしれません。
  • 物質と反物質を接触させると、膨大なエネルギーを発して消滅します。反原子と反物質を発生させ、管理下で物質と反応させれば、膨大なエネルギー源ができます。これに比べれば、既存のエネルギー源はいずれも些細なものに過ぎません。

この記事の著者は、エナゴの米国出身の英語担当エディターによるものです。

このエントリーを含むはてなブックマーク Yahoo!ブックマークに登録 このエントリをつぶやく newsing it! この記事をChoix!

タグ: , , , ,

前の記事
世紀の迷訳? 大誤訳?(4) : 誤訳を防ぐためには?
次の記事
スタイルガイドのガイド


コメントをどうぞ



英文校正・ネイティブチェック